JP2018119082A - 芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品 - Google Patents

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Abstract

【課題】無機フィラーを配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解に起因する滞留熱安定性の低下等の問題をより一層効果的に改善し、滞留熱安定性等の熱安定性、各種の機械的物性、成形品外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜100質量部と、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)とで構成される熱可塑性樹脂(B)0〜50質量部とからなる樹脂主成分100質量部に対して、ナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化された顆粒状無機フィラー(C)を1〜30質量部含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に係り、詳しくは、剛性、耐熱性、寸法安定性等の改善のために無機フィラーを配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解に起因する滞留熱安定性等の低下の問題を改善した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
ポリカーボネート樹脂、特に、芳香族ポリカーボネート樹脂は、汎用エンジニアリングプラスチックとして透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れ、その優れた特性から、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品等の幅広い分野で使用されている。また、芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性を高めて成形性を改善すると共に、耐衝撃性を改善するために、芳香族ポリカーボネート樹脂にスチレン系樹脂を配合した樹脂組成物も広く用いられている。更に、剛性や、耐熱性、寸法安定性(低収縮・低線膨張化)の改善のために、タルク等の無機フィラーを配合することも行われている(例えば、特許文献1〜3)。
タルク等の珪酸塩化合物系の無機フィラーは、無機フィラーとして一般的に用いられるガラス繊維と比較して、1)良外観が得られる、2)剛性と衝撃のバランスが良い、3)成形機スクリューや金型の摩耗が少ない、といった利点がある。
しかし、タルク等の珪酸塩化合物はそれ自体強アルカリ性の性質を持つため、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合した場合、樹脂の分解に伴う滞留熱安定性等の熱安定性及び機械的物性の低下や、シルバーストリーク等の外観上の問題があった。
従来、タルクによる上記の問題を解決するために、オルガノポリシロキサンで表面処理したタルクを用いる方法(特許文献4)や、水溶性ポリエステル樹脂バインダによりタルク等の無機フィラーを顆粒状に造粒して配合すること(特許文献5)が提案されている。
特許文献4,5の方法によれば、タルクによる芳香族ポリカーボネート樹脂へのアタック性が低減され、芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を抑制し、滞留熱安定性等を向上させることができるが、より高温・長時間の環境下では、表面処理剤やバインダ樹脂自体が分解してガスが発生したり劣化したりすることで、成形品の外観悪化(シルバーストリーク発生)、物性の低下が起きる問題がある。
なお、特許文献5には、水溶性ポリエステル樹脂バインダの原料ジカルボン酸として、数多くの芳香族ジカルボン酸の例示物中に、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレン骨格を有するものも例示されているが、ナフタレン骨格を有するものが特に好ましいとの認識はなく、特許文献5の実施例では、ナフタレン骨格のない水溶性ポリエステル樹脂バインダである互応化学工業(株)製「プラスコートZ−221」や「プラスコートZ−561」が使用されている。しかし、これらの水溶性ポリエステル樹脂バインダでは、後掲の比較例2〜5や比較例9〜12に示されるように、より高温・長時間の環境下では、十分な滞留熱安定性の改善効果を得ることはできない。
特開平7−126510号公報 特開平7−316411号公報 特開平10−338805号公報 特許第5108550号公報 特許第5168812号公報
本発明は、無機フィラーを配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解に起因する滞留熱安定性の低下等の問題を効果的に改善し、滞留熱安定性等の熱安定性に更に優れ、各種の機械的物性、成形品外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、無機フィラーを顆粒化するための水溶性ポリエステル樹脂バインダとして、ナフタレン骨格を有する高耐熱性のものを用いることにより、無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解が抑制されると共に、水溶性ポリエステル樹脂バインダ自体の分解によるガス発生や劣化も防止され、滞留熱安定性等の熱安定性や、各種の機械的物性、成形品外観により一層優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供されることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜100質量部と、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)とで構成される熱可塑性樹脂(B)0〜50質量部とからなる樹脂主成分100質量部に対して、ナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化された顆粒状無機フィラー(C)を1〜30質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[2] 前記熱可塑性樹脂(B)を含み、該熱可塑性樹脂(B)がスチレン系樹脂(B−2)よりなることを特徴とする[1]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[3] 前記無機フィラーが珪酸塩化合物よりなることを特徴とする[1]又は[2]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[4] 前記無機フィラーがタルクであることを特徴とする[3]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[5] 前記顆粒状無機フィラー(C)における前記水溶性ポリエステル樹脂バインダの含有量が0.1〜3質量%であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[6] [1]ないし[5]のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
本発明によれば、無機フィラーを配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解に起因する滞留熱安定性の低下等の問題を、無機フィラーを水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒状とすることにより抑制すると共に、水溶性ポリエステル樹脂バインダ自体の分解によるガス発生や劣化の問題も引き起こすことなく、滞留熱安定性等の熱安定性、各種の機械的物性、成形品外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
このように優れた特性を有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品は、幅広い分野に使用することが可能であり、電気・電子機器部品、OA機器、機械部品、自動車等の車輌部品、建築部材、各種容器、レジャ−用品・雑貨類、携帯電話などの情報端末機器部品などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器部品、OA機器部品、情報端末機器部品、自動車部品、鉄道車輌・航空機用部品、電機部品、建材部材に適している。
電気・電子機器部品やOA機器部品、情報端末機器部品としては、パソコン、ゲ−ム機、テレビ等のディスプレイ装置、プリンタ−、コピ−機、スキャナ−、ファックス、電子手帳やPDA、バッテリーパック、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、記録媒体のドライブや読取装置等の筐体部材や内部部品が挙げられる。
また、自動車部品としては、グレージング、アウターハンドル、ドアミラースティ、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ルーフレール、ワイパーアームなどの自動車外装部品や、インナーハンドル、センターコンソール、インパネ、アシストグリップ、シートベルトストッパーなどの自動車内装部品が挙げられる。
また、鉄道車両部品としては、テーブルアーム、吊り手、アシストグリップなどがあり、電気部品としては、シェーバー枠、ドライヤー、冷蔵庫用ハンドル及び引き手、電子レンジ用扉、ヘッドホーンアーム、電動ドライバー用ハウジングなどが挙げられ、建材部品としては、ドアハンドル、クレセント、フランス落としなどを例示できる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特にその優れた滞留熱安定性により、自動車用パネル等の、成形サイクルの長い、即ち、成形機内での滞留時間の長い薄肉大型の成形品用途に好ましく用いられるが、何らこの用途に限定されるものではない。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜100質量部と、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)とで構成される熱可塑性樹脂(B)0〜50質量部とからなる樹脂主成分100質量部に対して、ナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化された顆粒状無機フィラー(C)を1〜30質量部含有することを特徴とする。
本発明の成形品は、このような本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)とを「樹脂主成分」と称す。
即ち、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B−1)、及びスチレン系樹脂(B−2)以外の他の樹脂が含まれていてもよいが、本明細書において、「熱可塑性樹脂(B)」は「ポリエステル樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)」であり、「樹脂主成分」は芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計をさし、この樹脂主成分と必要に応じて用いられるその他の樹脂とをまとめて「樹脂成分」と称す。
[メカニズム]
本発明における滞留熱安定性等の改善のメカニズムについては以下のように考えられる。
水溶性ポリエステル樹脂バインダにより顆粒化された顆粒状無機フィラー(C)は、樹脂主成分が芳香族ポリカーボネート樹脂よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のマトリックス中に、樹脂主成分が芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の海相と熱可塑性樹脂(B)の島相中に、特にポリエステル系樹脂(B−1)を含む場合は、主としてポリエステル系樹脂(B−1)の島相中に存在し、無機フィラー表面の少なくとも一部が水溶性ポリエステル樹脂バインダで覆われていることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と無機フィラーとが直接接触する面が少なく、この結果、無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂の分解が抑制される。
また、ナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダは、それ自体耐熱性に優れ、高温・長時間の環境下でも分解され難いため、水溶性ポリエステル樹脂バインダ自体の分解によるガスの発生や劣化も防止される。
このため、前述の特許文献5に記載の技術に比べて更なる滞留熱安定性等の改善を図ることができる。
[芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる、分岐していてもよい芳香族ポリカーボネート重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。また、溶融法で製造され、末端基のOH基量を調整して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとして、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
さらに、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を分岐化剤として少量併用することもできる。
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物のなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、その使用量は、該ヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用されるが、中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記重合触媒をp−トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)として好ましいものは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が挙げられる。また、難燃性等を付与する目的で、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、原料の異なる2種以上の重合体及び/又は共重合体の混合物であってもよく、分岐構造を0.5モル%まで有していてもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシル基含有量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす。実用的な物性を持たせるためには、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシル基含有量は、通常30〜2000ppm、好ましくは100〜1500ppm、さらに好ましくは200〜1000ppmであり、末端ヒドロキシル基含有量を調節する封止末端剤としてはp−tert−ブチルフェノール、フェノール、クミルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等を使用することができる。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)中の残存モノマー量としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が150ppm以下、好ましくは100ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。エステル交換法により合成された場合には、さらに炭酸ジエステル残存量が300ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下である。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、20℃の温度で測定した溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは10,000〜50,000の範囲のものであり、より好ましくは10,000〜40,000のものであり、特に好ましくは12,000〜30,000の範囲のものである。粘度平均分子量を10,000以上とすることにより、機械的特性がより効果的に発揮され、50,000以下とすることにより、成形加工がより容易になる。また、粘度平均分子量の異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して、上記分子量の範囲内としてもよい。
[ポリエステル樹脂(B−1)]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐薬品性の向上、熱安定性の向上のためにポリエステル樹脂(B−1)を含有してもよい。この場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に配合された顆粒状無機フィラー(C)は、ポリエステル系樹脂(B−1)の共存下では、結晶性樹脂であるポリエステル系樹脂(B−1)中に存在するようになり、ポリエステル樹脂(B−1)の配合で、無機フィラーの芳香族ポリカーボネート樹脂(A)へのアタック性をより一層抑制し、熱安定性を高めることができる。
ポリエステル樹脂(B−1)としては、従来公知の任意のポリエステル樹脂を使用できるが、中でも芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。ここで芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステル樹脂を示し、例えば、芳香族ジカルボン酸成分と、ジオール(及び/又はそのエステルやハロゲン化物)成分とを主成分とし、これらを重縮合して得られる重合体又は共重合体である。
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4'−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4'−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
これら芳香族ジカルボン酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。これら芳香族ジカルボン酸の中では、テレフタル酸が好ましい。尚、本発明の効果を損なわない範囲で、これら芳香族ジカルボン酸と共に、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸を併用してもよい。
ジオール成分としては、脂肪族グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール類、脂環式ジオール類、芳香族ジオール類等が挙げられる。脂肪族グリコール類としては、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等の炭素数2〜20のものが挙げられ、中でも炭素数2〜12、特に炭素数2〜10の脂肪族グリコール類が好ましい。
ポリオキシアルキレングリコール類としては、アルキレン基の炭素数が2〜4で、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール類、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
脂環式ジオール類としては、例えば1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、水素化ビスフェノールA等が挙げられる。また芳香族ジオール類としては、2,2−ビス−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、キシリレングリコール等が挙げられる。
その他のジオール成分としては上述したジオール類のエステルや、ハロゲン化物、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなど)付加物などのハロゲン化ジオール類が挙げられる。これらのジオール成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。また少量であれば、分子量400〜6000の長鎖ジオール類、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いてもよい。
本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリアルキレンテレフタレートが好ましい。ここで、ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンテレフタレート構成単位を含む樹脂をいい、アルキレンテレフタレート構成単位と他の構成単位との共重合体であってもよい。
本発明に用いるポリアルキレンテレフタレートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメチレン−テレフタレート)、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
また、本発明に用いるポリアルキレンテレフタレートとして、上記の他、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレート共重合体や、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物が挙げられる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものも用いることができる。
アルキレンテレフタレートコポリエステルとしては、2種以上のジオール成分とテレフタル酸からなるコポリエステルや、ジオール成分とテレフタル酸、及びテレフタル酸以外のジカルボン酸からなるコポリエステルが挙げられる。ジオール成分を2種以上用いる場合には、上述したジオール成分から適宜選択して決定すればよいが、主構成単位であるアルキレンテレフタレートに共重合されるモノマー単位を、25質量%以下とすることで、耐熱性が良好となるので好ましい。
例えば、エチレングリコール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)や、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート)等の、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とする、アルキレンテレフタレートコポリエステルの他に、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/デカンジカルボン酸共重合体等が挙げられ、中でもアルキレンテレフタレートコポリエステルが好ましい。
本発明に用いるポリエステル樹脂(B−1)としては、アルキレンテレフタレートのコポリエステルを用いる場合には、上述のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートや、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートなどが好ましく、特にこれらの内、耐熱性の観点から、イソフタル酸成分が25質量%以下のものが好ましい。
<ポリエチレンテレフタレート>
ポリエステル樹脂(B−1)としては、特にポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートとは、全構成繰り返し単位に対するテレフタル酸及びエチレングリコールからなるオキシエチレンオキシテレフタロイル単位(以下「ET単位」と称す場合がある。)の比率(以下「ET比率」と称す場合がある。)が好ましくは90当量%以上であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、本発明におけるポリエチレンテレフタレートはET単位以外の構成繰り返し単位を10当量%未満の範囲で含んでいてもよい。本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとを主たる原料として製造されるが、他の酸成分及び/又は他のグリコール成分を併せて原料として用いてもよい。
テレフタル酸以外の酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸及びこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体、p−ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸又はその誘導体が挙げられる。
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
上記の様なテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとを含む原料は、エステル化触媒又はエステル交換触媒の存在下におけるエステル化反応又はエステル交換反応により、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及び/又はそのオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行ってポリマーとされる。
エステル化触媒は、テレフタル酸がエステル化反応の自己触媒となるため特に使用する必要はない。また、エステル化反応は、エステル化触媒と後述する重縮合触媒の共存下に実施することも可能であり、また、少量の無機酸等の存在下に実施することができる。エステル交換触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛、マンガン等の金属化合物が好ましく使用されるが、中でも得られるポリエチレンテレフタレートの外観上、マンガン化合物が特に好ましい。
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物等の反応系に可溶な化合物が単独又は組み合わせて使用される。重縮合触媒としては、色調及び透明性等の観点から二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。これらの重縮合触媒には重合中の分解反応を抑制するために安定剤を併用してもよく、安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸等のリン化合物の1種又は2種以上が好ましい。
上記の触媒の使用割合は、全重合原料中、触媒中の金属の重量として、通常1〜2000ppm、好ましくは3〜500ppmの範囲とされ、安定剤の使用割合は、全重合原料中、安定剤中のリン原子の重量として、通常10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmの範囲とされる。触媒及び安定剤の供給は、原料スラリー調製時の他、エステル化反応又はエステル交換反応の任意の段階において行うことができる。更に、重縮合反応工程の初期に供給することもできる。
エステル化反応又はエステル交換反応時の反応温度は、通常240〜280℃であり、反応圧力は通常、大気に対する相対圧力として0.2〜3kg/cmG(20〜300kPa)である。また、重縮合時の反応温度は、通常250〜300℃であり、反応圧力は通常、絶対圧力として500〜0.1mmHg(67〜0.013kPa)である。この様なエステル化又はエステル交換反応及び重縮合反応は、一段で行っても、複数段階に分けて行ってもよい。この様にして得られるポリエチレンテレフタレートは、極限粘度が通常0.45〜0.70dl/gであり、常法によりチップ化される。このチップの平均粒径は、通常2.0〜5.5mm、好ましくは2.2〜4.0mmの範囲とされる。
次に、上記の様に溶融重縮合により得られたポリマーは、通常固相重合に供される。固相重合に供されるポリマーチップは、予め固相重合を行う温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行った後、固相重合に供されてもよい。この様な予備結晶化は、(a)乾燥状態のポリマーチップを、通常120〜200℃、好ましくは130〜180℃の温度で1分間〜4時間加熱する方法、(b)乾燥状態のポリマーチップを、水蒸気又は水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で、通常120〜200℃の温度で1分間以上加熱する方法、(c)水、水蒸気又は水蒸気含有不活性ガス雰囲気下で吸湿させ調湿したポリマーチップを、通常120〜200℃の温度で1分間以上加熱する方法等によって行うことができる。ポリマーチップの調湿は、その含水分が通常100〜10000ppm、好ましくは1000〜5000ppmの範囲となる様に実施される。調湿したポリマーチップを結晶化や固相重合に供することにより、PETに含まれるアセトアルデヒドや微量に含まれる不純物の量を一層低減化することが可能である。
固相重合工程は、少なくとも一段からなり、通常190〜230℃、好ましくは195〜225℃の重合温度、通常1kg/cmG〜10mmHg(絶対圧力として200〜1.3kPa)、好ましくは0.5kg/cmG〜100mmHg(絶対圧力として150〜13kPa)の重合圧力の条件下、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス流通下で実施される。固相重合時間は、温度が高いほど短時間でよいが、通常1〜50時間、好ましくは5〜30時間、更に好ましくは10〜25時間である。固相重合により得られたポリマーの極限粘度は、通常0.70〜0.90dl/gの範囲である。
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/g、中でも0.6〜1.5dl/g、特には0.7〜1.0dl/gであることが好ましい。固有粘度を0.5dl/g以上、特には0.7dl/g以上とすることで、機械的特性や、滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性が向上する傾向にあり好ましい。逆に固有粘度を2dl/g以下、特には1.0dl/g以下とすることで加工性が向上する傾向にあり好ましい。
本発明において、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、フェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基の濃度は、通常1〜60μeq/gであり、中でも3〜50μeq/g、更には5〜40μeq/gであることが好ましい。末端カルボキシル基濃度を60μeq/g以下とすることで、耐熱性、滞留熱安定性や色相が向上する傾向にあり、逆に末端カルボキシル基濃度を1μeq/g以上とすることで、加工性が向上する傾向にあり、好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより求めることができる。
ところで、一般に、ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を複合化して得られる樹脂組成物は熱安定性が悪く、成形工程においてシリンダー内で高温に保持されることにより、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とでエステル交換反応を起こし、反応による分解ガスの発生で泡、シルバーと称される成形品の外観不良の原因となる;ポリカーボネート樹脂の分子量低下によりポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱変形性等が損なわれる;更には、高温下での滞留により樹脂組成物の粘度変化が生じることにより射出成形時の成形安定性が損なわれ、成形品のショートショットやバリが発生する;といった問題が起こる。
この滞留熱劣化の問題は、ポリエチレンテレフタレートの製造工程で使用され、製品として提供されるポリエチレンテレフタレート中に含有される重縮合触媒に起因するものである。
この重縮合触媒に起因する問題が比較的少ない点において、本発明で用いるポリエチレンテレフタレートは、重縮合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて製造されたポリエチレンテレフタレートであって、ポリエチレンテレフタレート中のゲルマニウム化合物含有量がゲルマニウム原子として1〜50ppm、特に1〜30ppm程度であるものが好ましい。即ち、ゲルマニウム化合物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に対する悪影響が少なく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を劣化させ難い点において好ましい。また、重縮合触媒としてゲルマニウム化合物を用いたポリエチレンテレフタレートでは、溶融混練工程において、得られる組成物の色相が良好である点においても好ましい。
同様の理由から、本発明で用いるポリエチレンテレフタレートは、重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いて製造されたポリエチレンテレフタレートであって、ポリエチレンテレフタレート中のアンチモン化合物含有量がアンチモン原子として100〜300ppm、特に150〜250ppm程度であるものが好ましい。
また、本発明で用いるポリエチレンテレフタレートは、重縮合触媒の失活処理を施したものであることが、重縮合触媒に起因する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の滞留熱劣化をより一層確実に抑制し得る点において好ましい。
また、重縮合触媒の失活処理を施したポリエチレンテレフタレートは、溶融混練過程において、加工時の耐熱性に優れ、色相が良好である点においても好ましい。
ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒の失活処理方法としては、特に制限はなく、用いた重縮合触媒に応じて従来公知の失活処理を施すことができる。この失活処理方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
重縮合触媒の失活処理方法1:ゲルマニウム触媒の熱水(蒸気)処理
ポリエチレンテレフタレートを熱水(蒸気)処理してポリエチレンテレフタレート中のゲルマニウム触媒を失活させる方法。
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを容器に充填し、70〜150℃、例えば約100℃の水蒸気をポリエチレンテレフタレートに対して毎時1〜100質量%の量で5〜6000分間通蒸して、蒸気処理を行った後乾燥する。
ポリエチレンテレフタレートを容器内でポリエチレンテレフタレートの0.3〜10質量倍の蒸留水に浸漬させ、次に、ポリエチレンテレフタレート及び蒸留水が入った容器を外部より加熱し、内温を70〜110℃にコントロールし、3〜3000分間保持して熱水処理を行なった後、脱水し、乾燥する。
上記乾燥は、通常、窒素等の不活性ガス中、120〜180℃で3〜8時間行われる。
重縮合触媒の失活処理方法2:チタニウム触媒へのリン化合物添加
ポリエチレンテレフタレートにリン化合物を添加して、ポリエチレンテレフタレート中のチタニウム触媒を失活させる。この場合、リン原子の添加量は、ポリエチレンテレフタレートの質量を基準として7〜145ppmの範囲であることが好ましい。リン化合物の添加量が7ppm以上であると、触媒の失活を十分に行って、目的とする効果を得ることができ、リン原子の添加量が145ppm以下であると、リン化合物自体が粗大凝集粒子となって、外観不良や耐衝撃性の低下といった問題が生じることが防止される。
なお、添加するリン化合物としては、従来公知のリン酸エステル化合物類や亜リン酸エステル化合物類、ホスホネート化合物類等が挙げられる。中でも下記式(1)で表されるホスホネート化合物が好適である。
OC(O)XP(O)(OR …(1)
(式中、R及びRは炭素数1〜4のアルキル基、Xは−CH−又は−CH(Y)−(Yはフェニル基を示す。)であり、R及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
上記式(1)で表されるホスホネート化合物の中でも、アルキルホスホネート化合物が好ましく例示され、これらの中でも特にトリエチルホスホノ酢酸が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒の失活処理方法は、本発明で採用し得る失活処理の一例であって、本発明に係る失活処理は何ら上記の方法に限定されるものではない。
以下において、重縮合触媒の失活処理を施したポリエチレンテレフタレートを「失活PET」と称し、未処理のポリエチレンテレフタレートを「未処理PET」と称す。
本発明で用いる失活PETは、上述のようなポリエチレンテレフタレート中の重縮合触媒の失活処理がなされることによって、下記式(2)で算出される固相重合速度Ksが0.006(dl/g・hr)以下、特に0.005(dl/g・hr)以下、とりわけ0.001〜0.004(dl/g・hr)程度となったものが好ましい。
固相重合速度Ks=([η]s−[η]m)/T …(2)
ここで、[η]sは、当該ポリエチレンテレフタレートを窒素気流下210℃で3時間保持した後の該ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(dl/g)であり、[η]mは、当該ポリエチレンテレフタレートを窒素気流下210℃で2時間保持した後の該ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(dl/g)である。Tは1(時間)である。即ち、本発明では、窒素気流下210℃にて3時間保持した後の固有粘度を[η]s、そして同条件下で2時間保持した後の固有粘度を[η]mとし、これらの値を用いて、上述した(2)式により算出した固相重合速度Ksを、固相重合速度Ksとした。そしてTは1時間となる。
失活PETの固相重合速度Ksが0.006(dl/g・hr)以下であると、重縮合触媒の失活処理が十分であり、滞留熱劣化の抑制効果を十分に得ることができる。ただし、固相重合速度Ksを過度に小さくすることは困難であり、通常0.001(dl/g・hr)以上である。
<ポリブチレンテレフタレート>
ポリエステル樹脂(B−1)としては、ポリブチレンテレフタレートを用いてもよい。ここで、ポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有する樹脂をいう。本発明では、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位であるポリブチレンテレフタレートを用いるのが好ましい。全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98モル%以上である。全ジオール単位中の1,4−ブタンジオール単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98モル%以上である。テレフタル酸単位又は1,4−ブタンジオール単位が上記範囲であると、結晶化速度が適切な範囲であるので、成形性が良好となる。
上記した通り、ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸については特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;などを挙げることができる。これらのジカルボン酸単位は、ジカルボン酸、又は、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として用いることで、ポリマー骨格に導入できる。
上記した通り、ポリブチレンテレフタレートは、1,4−ブタンジオール以外のジオール単位を含んでいてもよい。1,4−ブタンジオール以外のジオールについては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;等を挙げることができる。
ポリブチレンテレフタレートは、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能化合物;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能化合物;などから誘導される単位を含んでいてもよい。
本発明に用いるポリブチレンテレフタレートの固有粘度については特に制限はないが、機械的性質の観点から下限値が、成形加工性の観点から上限値が決定されてもよい。ポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、0.70〜3.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.80〜1.5dl/g、特に好ましくは0.80〜1.2dl/gである。固有粘度が、前記範囲であると、良好な機械的性質を発揮できるとともに、良好な成形加工性が得られる。なお、上記固有粘度の値は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値である。
本発明では、固有粘度の異なる2種以上のポリブチレンテレフタレートを併用してもよい。
本発明に用いるポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、120μeq/g以下であることが好ましく、更に好ましくは2〜80μeq/g、特に好ましくは5〜60μeq/gである。末端カルボキシル基濃度が120μeq/g以下であると、耐加水分解性及び流動性が良好になり、また2μeq/g以上であるのが、生産性の観点から好ましい。末端カルボキシル基濃度は、ポリブチレンテレフタレートをベンジルアルコールに溶解し、0.1N(mol/L)の水酸化ナトリウムの水溶液にて滴定して求めることができ、上記値は、1g当たりのカルボキシル基当量である。
ポリエステル樹脂(B−1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、ポリエステル樹脂(B−1)を含有する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂主成分100質量部中に後述のスチレン系樹脂(B−2)との合計で0〜50質量部であるが、好ましくは、樹脂主成分100質量部中に0〜45質量部、更に好ましくは0〜40質量部、特に好ましくは0〜30質量部である。
ポリエステル樹脂(B−1)を配合することにより耐薬品性の向上、無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の更なる分解防止を図ることができるが、その配合量が多過ぎると、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)本来の特性が損なわれ、特に耐衝撃性、耐熱性や熱安定性等の物性を損なう恐れがあるため、ポリエステル系樹脂(B−1)の配合割合は上記上限以下とすることが好ましい。
[スチレン系樹脂(B−2)]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、成形品外観及び耐衝撃性の改善のために、スチレン系樹脂(B−2)を含有してもよい。スチレン系樹脂(B−2)とは、スチレン系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。
スチレン系樹脂(B−2)に用いられるスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのスチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;フェニルアクリレートベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルである。
これらのビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、スチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムが適当である。このようなゴム質重合体の具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有しているIPN(interpenetrating polymer network)型複合ゴム等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体及びブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、ブタジエン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン−スチレン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
上記の(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
ブタジエン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体又はブタジエン−スチレン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム重量の30質量%以下であることが好ましい。
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、ここで、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、エチレン性不飽和単量体が用いられていてもよい。そのような化合物の具体例としては、ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
これらのゴム質重合体についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いるスチレン系樹脂(B−2)は、ゴム成分を含有していないか、或いは、ゴム成分の含有量が50質量%未満のものであり、スチレン系樹脂(B−2)中のゴム成分含有量はより好ましくは0〜30質量%である。スチレン系樹脂(B−2)中のゴム成分含有量が50質量%以上であると、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物としての耐熱性や流動性が低下する恐れがある。
本発明で用いられるスチレン系樹脂(B−2)としては、例えば、スチレンの単独重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体、ゴムの存在下スチレンを重合してなるグラフト共重合体、ゴムの存在下スチレンと(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体等が挙げられる。さらに、具体的には、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS樹脂)、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)及びスチレン−IPN型ゴム共重合体等の樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。また、さらにシンジオタクティックポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。また、上記のスチレンに代えて、広く芳香族ビニル系モノマーを用いることができる。
これらの中でも、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)が好ましく、特にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましい。
これらスチレン系樹脂(B−2)の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
これらのスチレン系樹脂(B−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、スチレン系樹脂(B−2)を含有する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂主成分100質量部中に前記のポリエステル樹脂(B−1)との合計で0〜50質量部であるが、好ましくは、樹脂主成分100質量部中に45質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。特に本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)としてスチレン系樹脂(B−2)を含むことが好ましく、その場合、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B−2)との合計100質量部中に、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を60〜90質量部、スチレン系樹脂(B−2)を40〜10質量部含むことが好ましく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を70〜80質量部、スチレン系樹脂(B−2)を30〜20質量部含むことがより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の含有割合が上記下限よりも少なく、スチレン系樹脂(B−2)の含有割合が上記上限より多いと、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)本来の耐衝撃性、耐熱性等の優れた特性を十分に得ることができず、スチレン系樹脂(B−2)の含有割合が上記下限よりも少なく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が上記上限より多いと、スチレン系樹脂(B−2)を配合したことによる流動性、成形性、成形品外観及び耐衝撃性の改善効果を十分に得ることができない。
なお、スチレン系樹脂(B)は安価であることから、スチレン系樹脂(B)の配合で低コスト化を図ることができるという利点もある。
[顆粒状無機フィラー(C)]
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)は、無機フィラーをナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで造粒して顆粒状としたものである。
顆粒状無機フィラー(C)に用いる無機フィラーとしては、タルク、ワラストナイト、マイカ、カオリン、ゾノトライト、セピオライト、アタバルジャイトなどの珪酸塩化合物;チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化アルミナ、酸化亜鉛などの複合酸化物;炭酸カルシウムなどの炭酸塩化合物;硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩化合物;黒鉛、カーボンブラックなどの炭素系フィラー;シリカ;ガラスフレーク、ガラスビーズなどのガラス系フィラー;硼酸アルミニウム等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
本発明に用いる顆粒状無機フィラーの中でも、剛性、流動性、耐衝撃性、製品外観のバランスの点から、タルク、ワラストナイト、マイカ、カオリン、ゾノトライト、セピオライト、アタバルジャイトが好ましく、特に、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に対するアタック性の低減効果の面で、タルク、ワラストナイト、マイカ、カオリンなどの珪酸塩化合物が好ましく、とりわけタルクを用いることが好ましい。
無機フィラーとして好適なタルクは、層状構造を持つ含水ケイ酸マグネシウムであって、化学式は4SiO・3MgO・HOで表され、通常SiOを58〜66質量%、MgOを28〜35質量%、HOを約5質量%含むものである。その他少量成分としてFeが0.03〜1.2質量%、Alが0.05〜1.5質量%、CaOが0.05〜1.2質量%、KOが0.2質量%以下、NaOが0.2質量%以下等を含有しており、比重は約2.7である。
これらの無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.01〜100μmであり、より好ましくは0.05〜50μm、更に好ましくは0.1〜25μmである。平均粒子径が小さすぎると補強効果が不充分となり易く、逆に大きすぎても成形品外観に悪影響を与えやすく、更に耐衝撃性も不十分となる場合がある。よって無機フィラーの平均粒子径は、中でも0.2〜15μm、特に0.3〜10μmであることが好ましい。ここで平均粒子径とは、X線透過による液相沈降方式で測定されたD50をいう。このような測定ができる装置としては、Sedigraph粒子径分析器(Micromeritics Instruments社製「モデル5100」)が挙げられる。
また、顆粒状無機フィラー(C)に用いる無機フィラーは、樹脂主成分との親和性を高めるために、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコール類、トリエチルアミン等のアルカノールアミン、オルガノポリシロキサン等の有機シリコーン系化合物、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等の炭化水素系滑剤、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸、ポリグリセリン及びそれらの誘導体、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニュウム系カップリング剤等のカップリング剤等が挙げられる。
このような無機フィラーを顆粒状に造粒するために用いる水溶性ポリエステル樹脂バインダの水溶性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸類またはその反応性誘導体からなるジカルボン酸成分と、ジオ−ル類またはそのエステル誘導体からなるジオ−ル成分と、水溶性付与成分とを原料主成分とし、これらを縮合反応させることにより得られる共重合体であり、水に対する溶解度を有するものを言う。水に対する溶解度は、適宜選択して決定すれば良く、水溶性付与成分の含有量で調整することができる。
本発明で用いるナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダは、以下に記載するポリエステル系樹脂の原料ジカルボン酸成分及び/又は水溶性付与成分の少なくとも一部に、ナフタレン骨格を有するものを用いることにより製造されたものである。
ナフタレン骨格を原料ジカルボン酸成分により導入する場合、原料ジカルボン酸類としては、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、或いはこれらのアルキル置換体やアルキルエステル誘導体等の反応性誘導体といった、ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分を必須成分として含むものであれば、その他、芳香族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸類を含んでいてもよい。その他のジカルボン酸類は、得られる樹脂組成物の耐熱性等の点から、芳香族ジカルボン酸類が好ましい。芳香族ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエ−テルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−p−タ−フェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸等が挙げられ、これらの置換体(例えば、5−メチルイソフタル酸などのアルキル基置換体など)や反応性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチルなどのアルキルエステル誘導体など)等を用いることもできる。
ナフタレン骨格を有するジカルボン酸類以外の他のジカルボン酸成分としては、中でもテレフタル酸、イソフタル酸、及びこれらのアルキルエステル誘導体がより好ましい。
ナフタレン骨格を有するジカルボン酸類やその他のジカルボン酸成分はそれぞれ1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類等の1種以上併用してもよい。
水溶性ポリエステル樹脂の原料ジオ−ル成分としては、エチレングリコ−ル、1,2−プロピレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、デカメチレングリコ−ル、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオ−ル等の脂肪族ジオ−ル類;1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,3−シクロヘキサンジメタノ−ル、シクロヘキサンジオ−ル、トランス−またはシス−2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオ−ル等の脂環族ジオ−ル類;p−キシレンジオ−ル、ビスフェノ−ルA、テトラブロモビスフェノ−ルA、テトラブロモビスフェノ−ルA−ビス(2−ヒドロキシエチルエ−テル)等の芳香族ジオ−ル類等を挙げることができ、これらの置換体も使用することができる。
中でも、得られる樹脂組成物の耐熱性の点から、エチレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、更にはエチレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ルが好ましく、特にエチレングリコ−ルが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。またジオ−ル成分として、分子量400〜6000の長鎖ジオ−ル類、例えば、ポリエチレングリコ−ル、ポリ−1,3−プロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル等の1種以上をジオ−ル類と併用して共重合させてもよい。
水溶性付与成分としては、例えば金属スルホネート基を有するジカルボン酸類、ポリエチレングリコール等が挙げられ、中でも耐熱性の点から金属スルホネート基を有するジカルボン酸類が好ましい。
金属スルホネート基を有するジカルボン酸類としては、例えば5−スルホイソフタル酸、2−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホナフタレン−2,6−ジカルボン酸等のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩又はこれらのエステル形成性誘導体が挙げられ、水溶性の点から5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのエステル誘導体が好ましい。
ナフタレン骨格を水溶性付与成分により導入する場合、水溶性付与成分としては、少なくとも4−スルホナフタレン−2,6−ジカルボン酸等のナフタレン骨格を有するものを用いる。
金属スルホネート基を有するジカルボン類の含有量としては、少なすぎると得られるポリエステル樹脂の水溶性が不十分となり、逆に多すぎても、水溶性ポリエステル樹脂の耐熱性が不十分となることがあるので、この含有量は、水溶性ポリエステル樹脂の原料である全カルボン酸成分に対して、1〜40モル%であることが好ましく、中でも5〜35モル%であることが好ましい。
本発明で水溶性ポリエステル樹脂バインダとして用いるナフタレン骨格を有するポリエステル系樹脂は、ナフタレン骨格に起因して、熱重量分析(TGA)における5%加熱重量減少温度が360℃以上、特に375℃以上の耐熱性を有するものであることが、本発明の効果をより一層確実に得る上で好ましい。
このようなナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂としては、好ましくはテレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、及びナフタレン骨格を有する成分(ナフタレン骨格を有するジカルボン酸成分及び/又はナフタレン骨格を有する水溶性付与成分)からなる共重合体が挙げられ、具体的には、互応化学工業(株)製「プラスコートZ−690」等が挙げられる。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)における水溶性ポリエステル樹脂バインダの含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、顆粒状無機フィラー(C)100質量%中、0.1〜3質量%であることが好ましい。バインダ含有量を0.1質量%以上とすることで、顆粒状無機フィラー(C)が崩れ難くなり、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中での無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)へのアタック性をより確実に低減して滞留熱安定性を高めることができる傾向にあり、一方、バインダ含有量を3質量%以下とすることで、顆粒状無機フィラー(C)の分散性がより良好になり、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形品外観や耐衝撃性がより向上する傾向にある。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)における水溶性ポリエステル樹脂バインダの含有量は、中でも0.5〜2.5質量%、特に1.0〜2.0質量%であることが好ましい。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の嵩密度は、0.4〜1.5g/mlであることが好ましい。嵩密度を0.4g/ml以上とすることで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の物性、具体的には押出加工性、剛性、耐衝撃性、熱安定性等が、より向上する傾向にあり、一方、嵩密度を1.5g/ml以下とすることで芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形品外観や耐衝撃性がより向上する傾向にある。顆粒状無機フィラー(C)の嵩密度は、中でも0.5〜1.3g/ml、特に0.6〜1.1g/mlであることが好ましい。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の嵩密度は、以下の(1)〜(3)の方法により求めた値である。
(1)顆粒状無機フィラー(C)を目開き1.4mmの篩上に載せ、ハケで均等に軽く掃きながら篩を通す。
(2)篩に通した顆粒状無機フィラー(C)をJIS K5101に規定された嵩密度測定装置に付属する受器に山盛りになるまで投入する。
(3)受器の投入口から上部の山盛りになった顆粒状無機フィラー(C)をヘラで削り取り、受器内の顆粒状無機フィラー(C)の重量を測定し、下式(3)にて嵩密度を算出する。
嵩密度(g/ml)=
受器内の顆粒状無機フィラー(C)の質量(g)/受器の容量(ml) …(3)
また、本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の粒度は、目開き500μm篩上の割合が55質量%以上であることが好ましく、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、特に90質量%以上であることが好ましい。顆粒状無機フィラー(C)の粒度において、目開き500μm篩上の割合が55質量%以上であると、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性、熱安定性がより向上する傾向にある。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の粒度は、JIS Z8801に準拠し、以下の(1’)〜(3’)の方法により求めた値である。
(1’)顆粒状無機フィラー(C)を目開き2mmの篩上に載せ、ハケで均等に軽く掃きながら篩を通す。
(2’)篩に通した上記顆粒状無機フィラー(C)を200mlのビーカー一杯に入れ、吉田製作所製試料縮分器「1305 6号」(溝幅6mm)を用いて、30ml程度になるまで縮分を行う。
(3’)目開き500μmの篩を用いて、縮分した上記顆粒状無機フィラー(C)の篩分けを行い、500μmの篩を通過しないもの(篩上)の質量を求め、全体量からの割合を求める。
なお、篩分けは、筒井理化学器機製「電磁式振動篩い器M−100形」を用い、振動数120回/秒で10分間行う。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の大きさや形状は任意であり、棒状、円柱状、針状、球状、粒状、フレーク状、不定形等、その用途に応じて成形条件や整粒条件により種々の大きさ、形状を適宜選択して決定すればよく、またその製造方法も任意である。
例えば、棒状又は円柱状の顆粒状無機フィラー(C)を製造する場合には、スクリーン式押出成形機のスクリーン目開きの大きさを変えることで軸径を適宜設定でき、成形後整粒して所望の軸長に裁断することができる。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の大きさについては特に制限はないが、溶融混練や成形に用いる樹脂ペレットより小さい方が溶融混練機や成形機で分散する際に有利である。例えば、棒状や円柱状の顆粒状無機フィラー(C)では、平均軸径0.2〜6mm、平均軸長2〜6mmであることが好ましく、平均軸径:平均軸長の比が1:0.5〜2であることが好ましい。
本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)の製造方法(造粒方法)は任意であり、従来公知の任意の造粒方法を使用できるが、原料である無機フィラーとバインダであるナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂との混練性を高めるとともに、顆粒製造時における混練物に可塑性を与え、製造を容易にし、かつ、造粒機の摩耗を低減し、さらに顆粒状物の硬さを調整するために湿潤剤を加え、以下の手順で行うことが好ましい。
通常、無機フィラーと水溶性ポリエステル樹脂とに潤滑剤を加え、また必要に応じて分散剤やその他の添加剤を加えて、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で撹拌しながら混合物とする。この混合物を一軸や二軸等のスクリュー式押出機等で混練後、ストランド状に押出し、カッティングして造粒し、流動式乾燥機やバンドヒーター等を用いて乾燥して、顆粒状無機フィラー(C)を製造する。乾燥後は分級を行ってもよい。
顆粒状無機フィラー(C)の製造に用いる潤滑剤としては、水や有機溶媒等が挙げられるが、中でも価格や作業性の点から、水が好ましい。水を用いる際には、水にアルコール類を混合したものや、また水に予め水溶性ポリエステル樹脂を溶解または懸濁させて用いてもよい。更には必要に応じて、各種添加剤等、例えば分散剤、界面活性剤、各種合成樹脂用添加剤、染顔料等を、溶解又は懸濁させて用いることにより、より均一性を高めてもよい。
潤滑剤として水を用いた場合には、得られた顆粒状無機フィラー(C)を流動式乾燥機等を用いて水分を乾燥し、含水率を1%以下、中でも0.5%以下とすることが好ましい。乾燥温度は適宜選択して決定すればよいが、通常80〜150℃であり、中でも80〜110℃であることが好ましい。
潤滑剤の使用量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎてもその効果が小さく、逆に多すぎても潤滑剤の除去に時間とエネルギーがかかり過ぎる場合がある。よってその使用量は、顆粒状無機フィラー(C)の原料である、無機フィラーと水溶性ポリエステル樹脂の合計100質量部に対して10〜150質量部、中でも15〜100質量部、特に20〜60質量部であることが好ましい。
更に本発明においては、顆粒状無機フィラー(C)に分散剤を含有させ、樹脂組成物や樹脂成形品中での分散性を向上させることができる。分散剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、通常、顆粒状無機フィラー(C)中、0.05〜2.0質量%であり、中でも0.1〜0.5質量%であることが好ましい。
本発明に用いる分散剤は従来公知の任意のものを使用できる。分散剤としては、表面処理剤として前述したアルコール類、アルカノールアミン、有機シリコーン系化合物、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、炭化水素系滑剤、塩基性アミノ酸、ポリグリセリン及びそれらの誘導体が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。無機フィラーとして前述のように表面処理を行ったものを用い、さらに分散剤を加えて造粒して顆粒状無機フィラー(C)としてもよい。
更に、本発明で用いる顆粒状無機フィラー(C)には、上述した分散剤の他、必要に応じて、本発明の特徴を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有させてもよい。この様な添加剤として、例えば、ヒンダードフェノール系等の各種酸化防止剤、ホスファイト系等の各種熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の各種紫外線吸収剤、リン酸エステル系、シリコーン系、金属塩系等の各種難燃剤、オレフィンワックス系、脂肪酸エステル系等の各種離型剤、フェノール系等の抗菌・抗カビ剤、アニオン系、カチオン系、非イオン系等の帯電防止剤、着色剤、光安定剤、可塑剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、複数種を含有させてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、樹脂主成分、即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対する顆粒状無機フィラー(C)の含有割合は1〜30質量部である。顆粒状無機フィラー(C)の含有割合が1質量部未満では剛性、熱安定性、寸法安定性等の無機フィラーによる改善効果が十分でなく、逆に30質量部を超えると耐衝撃性や熱安定性が低下する。よって樹脂主成分100質量部に対する顆粒状無機フィラー(C)の含有割合は、中でも5〜25質量部、特に10〜20質量部であることが好ましい。
[その他の樹脂成分]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)以外の他の樹脂成分やゴム成分が含まれていてもよい。この場合、他の樹脂ないしゴム成分としては、例えば、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらの他の樹脂ないしゴム成分の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)本来の特性、更には、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)を併用することによる効果を十分に確保する上で、樹脂主成分である芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の合計100質量部に対して10質量部以下とすることが好ましい。
上記のその他の樹脂成分のうち、熱可塑性エラストマーは、成形品の耐衝撃性改良剤として機能し、熱可塑性エラストマーを配合することにより、耐衝撃性を付与させることが可能となり、予期せぬ外部応力による成形品の割れや損傷を防止することが可能となる。
熱可塑性エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分をグラフト共重合した共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
上記ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−20℃以下のものが好ましく、更には−30℃以下のものが好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−αオレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
本発明に用いる熱可塑性エラストマーは、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。中でもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸成分は、10質量%以上含有するものが好ましい。
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。この様なゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
このようなコア/シェル型グラフト共重合体の市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製のパラロイドEXL2315、EXL2603などのEXLシリーズ、KM330、KM336PなどのKMシリーズ、KCZ201などのKCZシリーズ、三菱レイヨン社製のメタブレンS−2001、SRK−200、アイカ工業(株)社のスタフィロイドMG−1011、カネカ社製のカネエースM721、M711などが挙げられる。
[その他の添加剤]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)、顆粒状無機フィラー(C)の他、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含有される他の種々の添加剤を含有していてもよい。
含有し得る各種添加剤としては、リン系熱安定剤、フェノール系酸化防止剤、有機リン酸エステル化合物、着色剤(染顔料)、強化剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に好適な添加剤の一例について具体的に説明する。
<リン系熱安定剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系熱安定剤を含有していてもよく、リン系熱安定剤は一般的に、樹脂成分を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形品使用時の耐熱安定性の向上に有効である。
本発明で用いるリン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル(ただし、後述の有機リン酸エステル化合物を除く。)等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
リン系熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物がリン系熱安定剤を含有する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して通常0.02〜3質量部、特に0.03〜1質量部、とりわけ0.04〜0.5質量部であることが好ましい。リン系熱安定剤の配合量が上記下限値以上であることにより、リン系熱安定剤を配合することによる熱安定性の向上効果を十分に得ることができる。ただし、リン系熱安定剤の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
<フェノール系酸化防止剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望により更にフェノール系酸化防止剤を含有していてもよく、フェノール系酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下を抑制することができる。
フェノール系酸化防止剤しては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−60」、「アデカスタブAO−50」等が挙げられる。
これらのフェノール系酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物がフェノール系酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して通常0.02〜3質量部、特に0.03〜1質量部、とりわけ0.04〜0.5質量部であることが好ましい。フェノール系酸化防止剤の配合量が上記下限値以上であることにより、フェノール系酸化防止剤を配合することによる上記の効果を有効に得ることができる。ただし、フェノール系酸化防止剤の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、リン系熱安定剤とフェノール系酸化防止剤とを共に含有することが好ましく、この場合、リン系熱安定剤とフェノール系酸化防止剤とを、リン系熱安定剤:フェノール系酸化防止剤=1:0.2〜3の質量比で、合計量として芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部中に対して0.04〜2質量部含有することが好ましい。
<有機リン酸エステル化合物>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更なる熱安定性の向上のために下記式(4)で表される有機リン酸エステル化合物を含有していてもよい。
(RO)P(O)(OH)3−n …(4)
(式中、Rは総炭素数が2〜25の、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、nは1又は2を表す。但しnが2の場合に2つのRは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。)
Rが表す非置換のアルキル基としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基及びステアリル基などが挙げられる。置換基を有するアルキル基としては、ブチル基やアリル基、メタリル基などの鎖状炭化水素基がエーテル結合やエステル結合によりアルキル基に結合したものが挙げられる。Rとしてはこれらの置換基を有するアルキル基を用いることが好ましい。また置換基の炭素も含めたRにおける総炭素数は5以上であることが好ましい。
有機リン酸エステル化合物は式(4)におけるRやnが異なる化合物の混合物であってもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が有機リン酸エステル化合物を含有する場合、その含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して通常0.02〜3質量部、特に0.03〜1質量部、とりわけ0.04〜0.5質量部であることが好ましい。有機リン酸エステル化合物の配合量が上記下限値以上であることにより、有機リン酸エステル化合物を配合することによる熱安定性の向上効果を十分に得ることができる。ただし、有機リン酸エステル化合物の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
<離型剤>
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。係るアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
離型剤を用いる場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のその含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。離型剤の含有量が上記下限値以上であると離型性改善の効果を十分に得ることができ、上記上限値以下であると離型剤の過剰配合による耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などの問題を防止することができる。
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤の具体例としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]、[メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。
紫外線吸収剤を用いる場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のその含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。紫外線吸収剤の含有量が上記下限値以上であることにより、耐候性の改良効果を十分に得ることができ、上記上限値以下であることにより、モールドデボジット等の問題を確実に防止することができる。
<着色剤(染顔料)>
着色剤(染顔料)としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、酸化チタン、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が着色剤(染顔料)を含有する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の着色剤(染顔料)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。着色剤(染顔料)の含有量が5質量部を超える場合は耐衝撃性が十分でない場合がある。
<難燃剤>
難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム等の有機金属塩系難燃剤、ポリオルガノシロキサン系難燃剤などが挙げられるが、リン酸エステル系難燃剤が特に好ましい。
リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
難燃剤を用いる場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のその含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、通常0.05〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは0.3〜15質量部である。難燃剤の含有量が上記下限値以上であることにより十分な難燃性を得ることができ、上記上限値以下であることにより、難燃剤の過剰配合による耐熱性の低下を確実に防止することができる。
<滴下防止剤>
滴下防止剤としては、例えば、ポリフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィンが挙げられ、特にフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好ましい。これは、重合体中に容易に分散し、且つ、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示す。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。ポリテトラフルオロエチレンは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル社より、「テフロン(登録商標)6J」又は「テフロン(登録商標)30J」として、ダイキン工業社より「ポリフロン(商品名)」として市販されている。
滴下防止剤を用いる場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のその含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対し、通常0.1〜2質量部、好ましくは0.2〜1質量部である。滴下防止剤の配合量が多過ぎると成形品外観の低下が生じる場合がある。
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)、顆粒状無機フィラー(C)、更に必要に応じて用いられるリン系熱安定剤、フェノール系酸化防止剤、その他の添加剤や他の樹脂成分を用いて、従来公知の任意の方法を適宜選択して製造することができる。
具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、必要に応じて用いられるポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)の熱可塑性樹脂(B)の樹脂主成分、顆粒状無機フィラー(C)、更に必要に応じて用いられるリン系熱安定剤、フェノール系酸化防止剤等の添加剤や他の樹脂成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどで溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。また、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみ予め混合してフィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して樹脂組成物を製造することもできる。
[芳香族ポリカーボネート樹脂成形品]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形品を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法、すなわち一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、ガスアシスト射出成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱冷却金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などを採用することができる。また、各種射出成形法においてはホットランナー方式を用いた成形法を選択することもできる。
また本発明においては、廃棄物低減などの環境負荷低減やコスト低減の観点から、樹脂組成物から樹脂成形品を製造する際に、製品の不適合品、スプルー、ランナー、使用済みの製品などのリサイクル原料をバージン材料と混合してリサイクル化(所謂マテリアルリサイクル化)することができる。この際、リサイクル原料は、粉砕して使用することが成形品を製造する際に不具合を少なくできるので好ましい。リサイクル原料の含有比率は、リサイクル原料とバージン原料の合計量に対し、通常70質量%以下、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を他の熱可塑性樹脂組成物と多色複合成形して複合成形品とすることもできる。
[滞留熱安定性]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、無機フィラーをナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化した顆粒状無機フィラー(C)として配合することにより、無機フィラーによる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分解に起因する滞留熱安定性等の低下の問題を解決するものであり、特に滞留熱安定性の改善において、大きな特徴を有する。
本発明による滞留熱安定性の改善効果は、後掲の実施例の項に記載される20分滞留後の衝撃強度保持率として、好ましくは70%以上であり、このような優れた滞留熱安定性から、本発明によれば、その成形工程において、ポリカーボネート/スチレン系樹脂組成物の場合は、成形機の高温のシリンダー内に15分程度保持する必要がある場合においても、耐衝撃性等の特性や成形品外観を損なうことなく、良好な成形品を得ることができる。また、ポリカーボネート樹脂単独系あるいは、ポリカーボネート/ポリエステル系樹脂組成物の場合は、成形機のシリンダー内に20分程度保持する必要がある場合においても、耐衝撃性等の特性や成形品外観を損なうことなく、良好な成形品を得ることができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[使用原料]
以下の実施例及び比較例において用いた原料成分は次のとおりである。
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000」
(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:21,500)
<ポリエステル系樹脂(B−1)>
PET樹脂:三菱化学(株)製「ノバペックス(登録商標)GG501H」(固有粘度[η]:0.75dl/g、末端カルボキシル基濃度:30μeq/g、ET比率:97.8当量%)
PBT樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバデュラン(登録商標)5008」(固有粘度:0.85dl/g、末端カルボキシル基濃度:20μeq/g)
<スチレン系樹脂(B−2)>
ABS樹脂:テクノポリマー(株)製「テクノABS DP611」(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体:ゴム成分の含有量:40質量%)
AS樹脂:テクノポリマー(株)製「SANREX 290FF」(アクリロニトリル−スチレン共重合体、ゴム成分の含有量:0質量%)
<その他の添加剤>
フェノール系酸化防止剤:(株)ADEKA製「アデカスタブ AO−50」(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
リン系熱安定剤:(株)ADEKA製「アデカスタブ2112」(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)
有機リン酸エステル化合物:城北化学工業(株)製「JP−518Zn」(ステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩)
着色剤:越谷化成工業(株)製「ロイヤルブラック948G」(カーボンブラック40質量%とポリスチレン樹脂60質量%のマスターバッチ)
<無機フィラー>
タルク:松村産業(株)製「ハイフィラー#5000PJ」(平均粒子径1.8μm、嵩密度:0.12g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合0質量%)
[顆粒状無機フィラー(C)の製造]
<製造例1:顆粒状タルク(C−1)の製造>
平均粒子径1.8μmのタルク(松村産業(株)製「ハイフィラー#5000PJ」)4000gを20リットルヘンシェルミキサーに入れ、攪拌羽根を1500rpmの高速回転で攪拌しながら、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびナフタレン骨格を有する原料成分からなる水溶性ポリエステル樹脂を25質量%含有する水溶性ポリエステル水溶液(互応化学工業(株)製「プラスコートZ−690」、水溶性ポリエステル樹脂のTGAにおける5%加熱重量減少温度:382℃)160gと上水1500gを2分間で添加した。更に、水溶液添加後3分間攪拌し、粘土状の混練物を得た。
次に、この混練物を目開き1.2mmのスクリーンを装着したロールバスケット型造粒機で押出し造粒し、熱風温度100℃の流動層乾燥機で約60分乾燥して顆粒状タルクを得た。更に、整粒機で粒度を揃え、平均軸径1.2mm、平均軸長1.5mmの円柱状顆粒物(以下、顆粒状タルク(C−1)と略す)を得た。
得られた顆粒状タルク(C−1)は、水溶性ポリエステル樹脂含有量:1.0質量%、嵩密度:0.68g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合94質量%、含水率:0.3%であった。
<製造例2:顆粒状タルク(C−2)の製造>
製造例1において、水溶性ポリエステル水溶液(Z−690)の添加量を80gとした以外は製造例1と同様にして造粒を行い、顆粒状タルク(C−2)を得た。
得られた顆粒状タルク(C−2)は、水溶性ポリエステル樹脂含有量:0.5質量%、嵩密度:0.68g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合94質量%、含水率:0.3%であった。
<製造例3:顆粒状タルク(C−3)の製造>
製造例1において、水溶性ポリエステル水溶液(Z−690)の添加量を320gとした以外は製造例1と同様にして造粒を行い、顆粒状タルク(C−3)を得た。
得られた顆粒状タルク(C−3)は、水溶性ポリエステル樹脂含有量:2.0質量%、嵩密度:0.70g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合95質量%、含水率:0.3%であった。
<製造例4:顆粒状タルク(C−4)の製造>
製造例1において、水溶性ポリエステル水溶液(Z−690)の代りに、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸からなる水溶性ポリエステル樹脂を20質量%含有する水溶性ポリエステル水溶液(互応化学工業(株)製「プラスコートZ−221」、水溶性ポリエステル樹脂のTGAにおける5%加熱重量減少温度:326℃)を200g用いたこと以外は、製造例1と同様にして造粒を行い、顆粒状タルク(C−4)を得た。
得られた顆粒状タルク(C−4)は、水溶性ポリエステル樹脂含有量:1.0質量%、嵩密度:0.70g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合98質量%、含水率:0.4%であった。
<製造例5:顆粒状タルク(C−5)の製造>
製造例1において、水溶性ポリエステル水溶液(Z−690)の代りに、テレフタル酸、エチレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸からなる水溶性ポリエステル樹脂を25質量%含有する水溶性ポリエステル水溶液(互応化学工業(株)製「プラスコートZ−561」、水溶性ポリエステル樹脂のTGAにおける5%加熱重量減少温度:358℃)を160g用いたこと以外は製造例1と同様にして造粒を行い、顆粒状タルク(C−5)を得た。
得られた顆粒状タルク(C−5)は、水溶性ポリエステル樹脂含有量:1.0質量%、嵩密度:0.68g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合95質量%、含水率:0.3%であった。
[実施例1〜8、比較例1〜12]
表1〜3に示す各成分を同表に示す割合にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」、L/D=52.5、バレル数12)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量25kg/hrにてバレルより押出機にフィードし、溶融混練することにより樹脂組成物のペレットを作製した。
上記の方法で得られた樹脂組成物のペレットを、110℃で6時間以上乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業製「NEX80III−9EG」)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で、シリンダー内に樹脂を滞留させない通常成形、つまりシリンダー内に溶融樹脂組成物を注入し、射出成形に十分な充填量となった後、直ちに射出成形を行った(保持時間無しの)場合、およびシリンダー内に10分間、15分間、20分間それぞれ保持した後に成形を行った場合の、各々の条件下で試験片を作製した(それぞれ「保持時間無しの試験片」、「10分保持後の試験片」、「15分保持後の試験片」、「20分保持後の試験片」と称す。)。試験片形状はISO3167多目的試験片TypeA(厚さ4mm)に準拠した。
各実施例及び比較例における樹脂組成物及び試験片について、以下の評価を行って結果を表1〜3に示した。
<MVR>
各樹脂組成物のペレットを110℃で6時間以上乾燥した後、ISO1133に準拠して測定温度280℃、荷重2.16kgfの条件でMVR(メルトボリュームレイト)を測定した。
<曲げ強度・曲げ弾性率>
上記ISO多目的試験片(保持時間無しの試験片)を、ISO規定の方法で加工し、曲げ試験用の試験片を作成した。得られた試験片を用い、ISO178規格に準じて、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
<引張伸び>
上記ISO多目的試験片(保持時間無しの試験片)を用い、ISO527規格に準拠して、引張伸びを測定した。
<衝撃強度保持率>
上記ISO多目的試験片(20分保持後の試験片)についてISO179規格に準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強度Ipxを測定し、保持時間無しの試験片のシャルピー衝撃強度Ipoと20分保持後の試験片のシャルピー衝撃強度Ipxとから、20分滞留後の衝撃強度保持率を、下記式で算出した。
20分滞留後の衝撃強度保持率=(Ipx/Ipo)×100
<熱変形温度>
上記ISO多目的試験片(保持時間無しの試験片)を、ISO規定の方法で加工し、熱変形温度(荷重たわみ温度)測定用の試験片を作成した。得られた試験片を用い、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重1.80MPaで測定した。
<成形収縮率>
各樹脂組成物のペレットを110℃で6時間以上乾燥した後、日精樹脂工業社製「NEX80−9E」を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒、保圧として射出ピーク圧の50%を10秒かけた条件で、100mm×100mm×3mm厚の成形品を作成した。その後、用いた金型キャビティ―寸法から成形品の寸法を差し引いた値の金型キャビティ―に対する百分率(%)として、MD方向とTD方向の成形収縮率を求め、その平均値を算出した。
<滞留熱安定性(成形品外観)>
上記ISO多目的試験片(10分、15分、20分保持後の試験片)について、それぞれシルバー発生の有無を目視にて確認し、下記基準で評価した。
○:シルバー発生なし
△:試験片の一部にわずかにシルバー発生あり
×:試験片の全体にシルバー発生あり
Figure 2018119082
Figure 2018119082
Figure 2018119082
表1〜3より次のことが分かる。
無機フィラーを顆粒化せずに配合した比較例1,6〜8では、滞留熱安定性が非常に悪い。
比較例2〜5,9〜12のように、無機フィラーを顆粒化しても、バインダとして用いた水溶性ポリエステル樹脂がナフタレン骨格を有さず、TGAにおける5%加熱重量減少温度の低いものでは、滞留熱安定性の改善効果は十分ではなく、衝撃強度保持率が低く、特に保持時間の長い試験片において、外観不良の問題がある。
これに対して、無機フィラーをナフタレン骨格を有する高耐熱性の水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化した顆粒状タルク(C−1)〜(C−3)を用いた実施例1〜8では、保持時間の長い場合でも滞留熱安定性が良好であり、いずれの特性にも優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。

Claims (6)

  1. 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜100質量部と、ポリエステル系樹脂(B−1)及び/又はスチレン系樹脂(B−2)とで構成される熱可塑性樹脂(B)0〜50質量部とからなる樹脂主成分100質量部に対して、ナフタレン骨格を有する水溶性ポリエステル樹脂バインダで顆粒化された顆粒状無機フィラー(C)を1〜30質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
  2. 前記熱可塑性樹脂(B)を含み、該熱可塑性樹脂(B)がスチレン系樹脂(B−2)よりなることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
  3. 前記無機フィラーが珪酸塩化合物よりなることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
  4. 前記無機フィラーがタルクであることを特徴とする請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
  5. 前記顆粒状無機フィラー(C)における前記水溶性ポリエステル樹脂バインダの含有量が0.1〜3質量%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
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