JP2018117537A - 培養容器、及び細胞培養方法 - Google Patents

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貴彦 戸谷
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洋佑 松岡
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Abstract

【課題】 細胞を培養容器で接着培養した後、培養容器から細胞を剥離する際に、容易に剥離可能な培養容器を提供する。
【解決手段】 細胞を接着培養する培養容器であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足する培養容器とする。
34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
【選択図】 図3

Description

本発明は、細胞の培養技術に関し、特に細胞を接着培養するための培養容器、及び細胞培養方法に関する。
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、培養容器に細胞と培地を注入して、細胞を大量培養することが行われている。
ここで、多能性幹細胞(iPS細胞など)又は胚性幹細胞(ES細胞)を培養容器で接着培養する場合、プラズマ処理などを施して親水化したポリスチレン製の培養容器の培養面にラミニンなどの細胞接着因子をコートし、その培養面に細胞を接着させて培養するのが、現在主流の培養方法である。そして、培養終了後、培養容器から細胞を剥離して回収し、上記の様々な分野において使用されている。
培養容器から細胞を剥離する方法は、具体的には、図4に示すように、まず培養容器から培地を排出して、細胞を剥離液に一定時間浸漬させた後、次いで培地を培養容器に入れてピペッティングにより培地を攪拌して、細胞の剥離が行われていた。また、培養容器から剥がれない細胞は、スクレーパーなどで掻き取ることによって、剥離されていた。
特開2014−183752号公報
しかしながら、ポリスチレンやポリオレフィンなどからなる一般的な培養容器を使用した場合、実際には、細胞を剥離液に短時間浸漬させることでは剥がしにくく、剥離剤に長時間浸漬するか、又はスクレーパーで物理的に剥離する必要があり、細胞へのダメージが懸念されるという問題があった。
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、一定の処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて培養容器を製造し、この培養容器を用いて接着培養を行うことで、細胞を剥離液に短時間浸漬させるだけで、容易に剥離できることを見いだした。
ここで、ポリエチレンテレフタレートを用いて接着細胞用の培養容器を製造することは、特許文献1に記載されている。この文献において、細胞の接着性を向上させるために、プラズマ放電などの電荷処理を施して親水化したフィルムを配置した培養容器が開示されている。
しかしながら、特許文献1は、細胞を培養容器から剥離することについて工夫がされたものではなく、細胞の剥離に適した培養容器の物性について記載や示唆がされたものではなかった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、細胞を培養容器で接着培養した後、培養容器から細胞を容易に剥離することが可能な培養容器、及び細胞培養方法の提供を目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の培養容器は、細胞を接着培養する培養容器であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足することを特徴とする培養容器。
34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
また、本発明の細胞培養方法は、細胞を培養容器で接着培養する細胞培養方法であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足する前記培養容器を用いて接着培養を行い、前記細胞の剥離時、前記培養容器から培地を排出して、前記培養容器における前記細胞を剥離液に浸漬し、前記培養容器に培地を添加し、前記細胞に一定の外力を与えて前記細胞を選択的に剥離する工程を含む細胞培養方法。
34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
本発明によれば、細胞を培養容器で接着培養した後、培養容器から細胞を剥離する際に、容易に剥離することが可能となる。
接触角及びヒステリシスの測定についての説明図である。 試験1における実施例及び比較例の細胞剥離結果を示す図である。 試験2における実施例及び比較例の培養容器の接触角、ヒステリシス、及び細胞剥離率を示す図である。 従来の細胞剥離工程を示す図である。
以下、本発明の培養容器、及び細胞培養方法の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の培養容器は、細胞を接着培養する培養容器であって、その培養面の少なくとも一部が、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。この培養面とは、細胞を接着する表面であり、培養容器がディッシュ形状の場合、そのディッシュ内の底面が培養面となる。また、培養容器全体をポリエチレンテレフタレートからなるものとすることも好ましい。
また、本実施形態の培養容器は、培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が、次の式(1)を満足する。
34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
ここで、接触角とヒステリシスについて、図1を参照して説明する。
接触角とは、静止した液体の表面が固体壁に接するところで液面と固体面がなす角であり(図1のθs)、静的水接触角を意味する。接触角が大きい場合には表面の疎水性が強く、接触角が小さい場合には表面の親水性が強いという関係がある。
一般に、接着細胞の培養に適する培養面の接触角は、60°〜80°程度と言われており(Jurnal of Biomedical Materials Research, Vol.28, 783-789(1994))、接触角がこの範囲内であれば培養面の親水性は高く、接着細胞が培養面に好適に接着することが知られている。
ヒステリシスとは、接触角ヒステリシスであり、水滴が培養面を滑落するときの前進接触角(θa)と、後退接触角(θr)との差(滑落時ヒステリシス(θa−θr))を示している。すなわち、水平に支持した表面に水滴を摘下し、表面を徐々に傾け、液滴が転落を開始したときの前進接触角と後退接触角にもとづき算出される。このヒステリシスは、表面の動的な濡れ性を示す指標として用いられる。
本実施形態の培養容器における培養面のヒステリシス(前進接触角−後退接触角)は、34.7°より大きく、80.3°未満であることが好ましい。ヒステリシスが34.7°以下の場合、細胞が培養面に十分に接着できず、培養途中で培養面から剥離する場合があり、ヒステリシスが80.3°以上の場合には、細胞が培養面に強く接着し過ぎて剥離が困難になるためである。
このような観点から、ヒステリシスは、34.7°より大きく、55.9°以下であることがより好ましく、43.6°以上、55.9°以下であることがさらに好ましい。
後述する実施例から明らかなように、ヒステリシスをこのような範囲にすれば、細胞を培養面に適切に接着できると共に、細胞を培養面から容易に剥離することが可能となる。
培養面のヒステリシスがこのような範囲である本実施形態の培養容器は、その材料であるポリエチレンテレフタレートを放射線処理(例えば電子線処理)することによって、得ることができる。
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを容器として形成した後、電子線処理することで得ることができる。また、ポリエチレンテレフタレートを電子線処理した後、これを容器として形成することによって得ることも可能である。
本実施形態の培養容器における培養面の静的接触角は、細胞の剥離のし易さの観点から、55.8°より大きいことが好ましく、66.9°以上であることがより好ましく、70°より大きいことがさらに好ましい。
この電子線処理の吸収線量としては、10〜50kGyとすることが好ましく、15〜45kGyとすることがより好ましい。このような電子線処理を行うことで、ヒステリシスを上記範囲とすることが可能であり、これによって、接着細胞を培養面に適切に接着させて培養でき、かつ、接着細胞を培養面から容易に剥離可能にすることができる。
このような電子線処理によれば、培養面の接触角には大きな変化は見られず、従って培養面の親水化は行われない。
一方、このような電子線処理によって、培養面のヒステリシスが一定の程度で増大する。その結果、培養容器に培地を封入したときに、培養面の親水性が高くなり、細胞接着率が向上するようになっている。
なお、本実施形態の培養容器は、培養面を親水化するものではないため、培養面を露出させることなく製造することが可能である。
これに対して、従来の培養容器の親水化において使用される、高周波電源装置を用いて行われるコロナ放電やプラズマ放電等の電荷処理では、高エネルギーの電子が、培養容器を構成する樹脂の表面層に達し、基材における高分子結合の主鎖や側鎖が切断されて、気相中の酸素ラジカルなどが主鎖や側鎖と再結合し、水酸基、カルボニル基等の極性官能基が導入されて、培養面が親水化される。
したがって、このような培養面の改質が行われる電荷処理(表面処理、親水化処理ともいう)と、本実施形態の培養容器で行われる電子線処理とは、大きく相違する。
本実施形態の培養容器は、培養面がポリエチレンテレフタレートからなるものであればよく、二層以上の多層からなるものであってもよい。この場合、ポリエチレンテレフタレートの下層に、他の樹脂などを備えてもよい。
なお、本明細書及び特許請求の範囲に記載のポリエチレンテレフタレートは、一般的に「PET」として市販されているものを用いることができ、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、CHDM(シクロヘキサンジメタノール)などの補助成分を含むものも含まれる。
また、本実施形態の培養容器は、その培養面に細胞接着因子がコーティングされたものとすることが好ましい。また、細胞接着因子としては、ラミニンやフィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン等の接着タンパクを用いることが好ましく、特にラミニンを用いることが好ましい。
このように培養容器の培養面に細胞接着因子をコーティングすることによって、接着細胞をより安定的に培養容器に接着させて培養することが可能となる。
なお、細胞接着因子を培養面にコーティングすることなく、培地に細胞接着因子を含有させて培養容器に注入することによって、細胞接着因子を培養面に吸着させ、接着細胞の表面にあるインテグリン等が細胞接着因子と相互作用して結合し、接着細胞を培養面に接着させることもできる。
本実施形態の培養容器の形状は、特に限定されるものではなく、一般的なディッシュやフラスコの形状、あるいはバッグやボトル等の形状とすることができる。
本実施形態の培養容器を用いて培養する細胞は、接着細胞であれば特に限定されないが、多能性幹細胞(iPS細胞など)や胚性幹細胞(ES細胞)等を挙げることができる。
本実施形態の培養容器によれば、これらの細胞を培養面に接着して好適に培養することができ、かつ、培養したこれらの細胞を培養面から容易に剥離して、回収することが可能である。
また、本発明の細胞培養方法は、細胞を培養容器で接着培養する細胞培養方法であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足する前記培養容器を用いて接着培養を行い、前記細胞の剥離時、前記培養容器から培地を排出して、前記培養容器における前記細胞を剥離液に浸漬し、前記培養容器に培地を添加し、前記細胞に一定の外力を与えて前記細胞を選択的に剥離する工程を含む細胞培養方法。
34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
本実施形態の細胞培養方法によれば、このような培養容器を用いることによって、接着細胞を培養容器の培養面に適切に接着させて培養でき、かつ、剥離液に浸漬した後に培地を添加して撹拌することによって、スクレーパーで細胞を培養面から掻き取る必要なく剥離することが可能である。また、培養面を撓ませる、水流を与える等の一定の外力を細胞に付与することで、一定の接着性を有する細胞のみを選択的に剥離することが可能である。
以上説明したように、本実施形態の培養容器、及び細胞培養方法によれば、接着細胞を培養容器で培養でき、かつ、剥離液を用いることで、培養した接着細胞を培養容器から容易に剥離することが可能である。これにより、細胞を剥離液に長時間浸漬したり、強い剥離液を用いたり、あるいはスクレーパーを用いて細胞を剥離する場合等に比べて、剥離による細胞のダメージを低減でき、また細胞の回収に必要な作業時間を短縮することも可能となる。
以下、本実施形態の培養容器の性能を評価するために行った試験について、図2及び図3を参照して説明する。
(試験1)
培養容器として、電荷処理によって親水化処理が予め施されて市販されているポリスチレン(PS)からなる細胞培養用6ウェルプレート(品番3810-006,AGCテクノグラス社製,比較例1)と、ポリエチレンテレフタレート(PET,SKケミカル製,品名BR8040)を射出成形しディッシュ型に形成し、電子線処理(吸収線量18kGy)を施したもの(実施例1)を準備した。
実施例1における電子線処理は、ラジエ工業株式会社に依頼して行った。
使用した接着細胞は、iPS細胞(1231A3株)である。
使用した培地は、StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素社製)である。
実施例1及び比較例1における培養容器に、PBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)を1.5 ml、0.5 mg/mlラミニン511E8(品番892012,ニッピ社製)を各容器に0.5 μg/cm2となるように加え、37℃で1時間コーティングを行った。余剰のコーティング溶液を排出した後、10 mM Y-27632(品番253-00511,和光純薬工業社製)を含む上記培地を注入すると共に、iPS細胞を含む細胞懸濁液を注入して、37℃で7日間培養を行った。このとき、培地は1.5 ml、細胞懸濁液5 μlであった。播種した細胞数は、およそ1.3×10cellsであった。また、培養開始から1日経過後に培地をY-27632不含有の培地へ交換し、その後毎日培地交換を行った。
培養開始1週間後に、それぞれの培養容器の培地を排出し、PBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)で洗浄した。剥離液300 μlを添加して、培養した細胞を剥離液に37℃で実施例1では2分間、比較例1においては5分間浸漬した。剥離液は0.5 mM EDTA(品番0689414,ナカライテスク社製)を含むPBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)とTrypLE select(品番A1285901,Thermo Fisher Scientific社製)の1:1混合液を用いた。 その結果を図2に示す。
図2の比較例1は、培養容器に剥離液を注入してから5分後の培養面を撮影した写真であり、その下の囲み部分に拡大写真が示されている。
また、図2の実施例1は、培養容器に剥離液を注入してから2分後の培養面を撮影した写真であり、その下の囲み部分に拡大写真が示されている。
図2に示されるように、比較例1ではコロニーから離脱している細胞はほとんどなく、スクレーパーを使用しなければ細胞を剥離することができなかった。これに対して、実施例1ではコロニーから細胞が少しずつ剥離している様子が見られ、ピペッティングのみで細胞を回収することが可能であった。
また、実施例1における剥離された細胞の方が、比較例1における剥離された細胞よりも正常な形態が保たれており、また未分化細胞率も高く維持できていた。
(試験2)
培養容器として、ポリエチレンテレフタレート(PET,SKケミカル製、品名BR8040)を射出成形しディッシュ型に形成したもので放射線処理や電荷処理を施していないもの(比較例2)、PETを射出成形しディッシュ型に形成したもので電子線処理(吸収線量18kGy)が行われたもの(実施例2)、PETを射出成形しディッシュ型に形成したもので電子線処理(吸収線量43kGy)が行われたもの(実施例3)、PETを射出成形しディッシュ型に形成したもので電荷処理によって親水化処理が施されたもの(比較例3)、及び、電荷処理によって親水化処理が予め施されて市販されているポリスチレン(PS)からなる細胞培養6ウェルプレート(品番3810-006,AGCテクノグラス社製,比較例4)を準備した。
実施例2、3における電子線処理はラジエ工業株式会社に依頼して行った。また、比較例3における電荷処理は、バッチ式コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて行った。
次に、これらの培養容器の接触角及びヒステリシスを測定した。接触角及びヒステリシスの測定には、固液界面解析システムDropMaster 700(協和界面科学株式会社製)を使用した。
接触角(θs)は、フィルム上に純水3μlを滴下して測定した。また、滑落時ヒステリシス(θa−θr)は、フィルム上に純水30μlを滴下し、1秒毎に1°ずつ測定台を傾け、滑落時の前進接触角(θa)と後退接触角(θr)を接線法により算出して得た。
使用した接着細胞は、iPS細胞(1231A3株)である。
使用した培地は、StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素社製)である。
実施例2、3及び比較例2、3、4における培養容器に、この培地を注入すると共に、iPS細胞を含む細胞懸濁液を注入して、37℃で4日間、スポット培養を行った。このとき、培地は300μl、細胞懸濁液5μl(液の総量:305μl)であった。播種した細胞数は、およそ13000cellsであった。
また、培養面積は、2cmであった。
次に、培養容器をPBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)200μlで洗浄し、次いで剥離液50μlを添加して、培養した細胞を剥離液に37℃で3分間浸漬した。剥離液は0.5 mM EDTA(品番0689414,ナカライテスク社製)を含むPBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)とTrypLE select(品番A1285901,Thermo Fisher Scientific社製)の1:1混合液を用いた。その後、培地を200μl添加し、ピペットを使用して、20回ピペッティングを行った。そして、剥離した細胞数を計測した。細胞数の計測は、ワンセルカウンター(品番OC-C-S02,FPI社製)を用いて行った。以下においても同様である。
また、培養容器における残存細胞数を計測するために、培養容器から培地を排出し、培養容器をPBS(品番14249-24,ナカライテスク社製)200μlで洗浄した。次いで、0.25%トリプシン(品番25200-056,Thermo Fisher Scientific社製)200μlを添加して37℃で5分間浸漬し、全ての細胞を培養容器から剥離した。そして、残存細胞数を計測した。さらに、剥離細胞数と残存細胞数の合計に対する剥離細胞数の百分率を細胞剥離率として算出した。その結果を図3に示す。
なお、培養した細胞を剥離して回収するための剥離液としてEDTA,PBS,TrypLEからなる剥離液を使用し、残存細胞数を数えるために剥離する剥離液として0.25%トリプシンを使用した理由は、0.25%トリプシンは相対的に強い剥離剤であることから、iPS細胞を回収するための剥離に用いると、細胞が傷むためである。
比較例2の培養容器は、接触角が70.8°でヒステリシスが34.7°であり、細胞が十分に接着できず、培養途中で細胞が培養面から剥離した。
実施例2の培養容器は、接触角が72.8°でヒステリシスが43.6°であり、細胞は培養面に接着して適切に培養することができた。また、20回のピペッティングによる細胞剥離率は42.1%であり、優れた細胞剥離率が得られた。
実施例3の培養容器は、接触角が66.9°でヒステリシスが55.9°であり、細胞は培養面に接着して適切に培養することができた。また、20回のピペッティングによる細胞剥離率は34.5%であり、比較的優れた細胞剥離率が得られた。
比較例3の培養容器は、接触角が55.8°でヒステリシスが80.3°であり、細胞は培養面に接着して適切に培養することができたが、20回のピペッティングによる細胞剥離率は23.5%であり、比較的低い細胞剥離率であった。
比較例4の培養容器は、接触角が75.8°でヒステリシスが35.4°であり、細胞は培養面に接着して適切に培養することができたが、20回のピペッティングによる細胞剥離率は15.8%であり、低い細胞剥離率であった。
以上のことから、電子線処理が行われたポリエチレンテレフタレート(PET)からなる培養容器によれば、細胞を培養容器に接着して適切に培養することができ、かつ、容易に剥離可能なものとすることが可能であることが明らかとなった。
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例では接着細胞としてiPS細胞を用いているが、これに限定されるものではなく、接着細胞であればその他の細胞を用いることができる。また、培地の種類等も適宜変更することが可能である。
本発明は、培養容器を用いて、接着細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。

Claims (8)

  1. 細胞を接着培養する培養容器であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足することを特徴とする培養容器。
    34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
  2. 前記細胞が、接着細胞であることを特徴とする請求項1記載の培養容器
  3. 前記接着細胞が、多能性幹細胞、胚性幹細胞、又はそれらの分化細胞であることを特徴とする請求項2記載の培養容器。
  4. 前記培養面に、細胞接着因子がコーティングされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の培養容器。
  5. 前記培養容器の全体が、ポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の培養容器。
  6. 前記培養容器の培養面に、電荷処理が施されていないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の培養容器。
  7. 前記培養容器の培養面に、放射線処理が施されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の培養容器。
  8. 細胞を培養容器で接着培養する細胞培養方法であって、前記培養容器の培養面の少なくとも一部がポリエチレンテレフタレートからなり、前記培養面における水滑落時の前進接触角及び後退接触角が式(1)を満足する前記培養容器を用いて接着培養を行い、前記細胞の剥離時、前記培養容器から培地を排出して、前記培養容器における前記細胞を剥離液に浸漬し、前記培養容器に培地を添加し、前記細胞に一定の外力を与えて前記細胞を選択的に剥離する工程を含む細胞培養方法。
    34.7°< 前進接触角−後退接触角 <80.3° ・・・式(1)
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