以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の第1実施形態による動力装置1は、車両(図示せず)の左右の車輪WL、WRを駆動するためのものであり、動力源としての回転電機3と、回転電機3の駆動力を車輪WL、WRに伝達するための遊星歯車装置4、減速ギヤ機構5、第1クラッチ6及び第2クラッチ7を備えている。この車両は、例えば4輪車両であり、動力装置1に加え、動力源としての内燃機関(図示せず)が搭載されている。上記の車輪WL、WRは、車両の前輪及び後輪の一方であり、前輪及び後輪の他方は、内燃機関で駆動される。
回転電機3は、例えばACモータであり、複数の鉄芯やコイルなどで構成されたステータと、複数の磁石などで構成されたロータ(いずれも図示せず)と、ロータに同軸状に一体に設けられた回転軸3aを有している。回転軸3aには、ギヤ3bが同軸状に一体に設けられている。回転電機3では、ステータに電力が供給されると、供給された電力は、回転動力に変換され、ロータから回転軸3aに出力される。この場合、回転軸3aの回転方向は、正転方向と逆転方向に変更可能である。また、回転軸3aに回転動力が入力されると、この回転動力は、電力に変換され(発電)、ステータに出力される。
また、回転電機3のステータは、パワードライブユニット(以下「PDU」という)15を介して、充電・放電可能なバッテリ16に電気的に接続されており、バッテリ16との間で電気エネルギを授受可能である。このPDU15は、インバータなどの電気回路で構成されている。図2に示すように、PDU15には、後述するECU2が電気的に接続されており、ECU2は、PDU15を制御することによって、回転電機3に供給する電力と、回転電機3で発電する電力と、回転電機3の回転数(回転軸3aの回転数)を制御する。以下、バッテリ16から回転電機3に電力を供給し、回転電機3から回転動力を出力することを「力行」といい、回転電機3に入力された動力を用いて発電した電力をバッテリ16に充電したり、他の電気機器に供給したりすることを「回生」という。
遊星歯車装置4は、左右の車輪WL、WRの間に同軸状に配置されており、軸線方向に互いに並んだ第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2と、複数の2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤP(それぞれ2つのみ図示)と、両ピニオンギヤDP、Pを自転自在かつ公転自在に支持するキャリヤCと、第1リングギヤR1を有している。第1サンギヤS1は中実の第1回転軸11の一端部に、第2サンギヤS2は中空の第2回転軸12の一端部に、それぞれ一体に設けられており、第1サンギヤS1は、第2サンギヤS2よりも左車輪WL側に配置されている。第1回転軸11は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されるとともに、第2回転軸12の内側に相対的に回転自在に配置されており、第1サンギヤS1と一体に回転自在である。第2回転軸12は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第2サンギヤS2と一体に回転自在である。
2連ピニオンギヤDPは、互いに同軸状に一体に形成された第1ピニオンギヤP1及び第2ピニオンギヤP2で構成されている。ピニオンギヤP及び第1ピニオンギヤP1は、第1サンギヤS1の外周に配置されており、ピニオンギヤPは、第1サンギヤS1及び第1ピニオンギヤP1に噛み合っている。第1リングギヤR1は、いわゆる内歯ギヤで構成されており、ピニオンギヤP及び第1ピニオンギヤP1の外周に配置されるとともに、第1ピニオンギヤP1に噛み合っている。また、第1リングギヤR1の外周面には、外歯ギヤであるギヤ13が形成されており、ギヤ13は、回転電機3のギヤ3bに噛み合っている。
第2ピニオンギヤP2は、第2サンギヤS2の外周に配置され、第2サンギヤS2に噛み合っている。上記のキャリヤCは、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPを回転自在にそれぞれ支持する複数の第1ピニオン軸及び第2ピニオン軸と、円板状のフランジを互いに一体に組み合わせたものであって、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されるとともに、左駆動軸SLを介して左車輪WLに連結されており、左車輪WLと一体に回転自在である。第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数、ならびに第1リングギヤR1の歯数の設定については、後述する。
前記減速ギヤ機構5は、第2サンギヤS2からの回転動力を、その回転方向を変更せずに減速した状態で出力するものであり、いわゆる平行軸ギヤ機構で構成され、遊星歯車装置4と右車輪WRとの間に配置されている。減速ギヤ機構5は、前記第2回転軸12の他端部に一体に設けられた第1ギヤ5aと、第1ギヤ5aに噛み合う第2ギヤ5bと、第2ギヤ5bと一体の第3ギヤ5cと、第3ギヤ5cに噛み合う第4ギヤ5dを有している。
第2及び第3ギヤ5b、5cは、支軸5eに回転自在に支持されており、支軸5eは、ケースCAに取り付けられるとともに、第1及び第2回転軸11、12と平行に延びている。ケースCAは、車両のシャーシ(図示せず)に固定されている。また、第4ギヤ5dは、軸受け(図示せず)に回転自在に支持された中空の回転軸5fの一端部に、一体に設けられており、回転軸5fと一体に回転自在である。回転軸5fの内側には、右駆動軸SRが回転自在に同軸状に配置されており、右駆動軸SRの一端部は右車輪WRに連結されている。以上の構成の減速ギヤ機構5では、第2サンギヤS2の回転動力は、第2回転軸12、第1〜第4ギヤ5a〜5dを介して、その回転方向が変更されずに減速した状態で回転軸5fに伝達される。第1〜第4ギヤ5a〜5dの歯数の設定については、後述する。
第1クラッチ6は第1回転軸11と右駆動軸SRとの間を、第2クラッチ7は回転軸5fと右駆動軸SRとの間を、それぞれ接続/遮断するためのものであって、両クラッチ6、7は、例えば周知のドグクラッチである。このため、以下、それらの構成及び動作について簡単に説明する。第1及び第2クラッチ6、7は、ハブ8や、スリーブ9、電磁式のアクチュエータ10(図2参照)、複数のドグ歯6a、7aなどで構成され、互いに同軸状に配置されており、ハブ8、スリーブ9、及びアクチュエータ10は、第1及び第2クラッチ6、7に対して兼用されており、ハブ8及びスリーブ9は、第1ギヤ5aと第4ギヤ5dとの間に配置されている。
ハブ8は、円環状に形成され、その外周にスプライン歯(図示せず)を有しており、右駆動軸SRの他端部に一体に設けられている。スリーブ9は、ハブ8と同様、円環状に形成されるとともに、軸線方向の両側に設けられたドグ歯(図示せず)を有し、ハブ8にスプライン嵌合しており、ハブ8に対して回転不能かつ軸線方向に移動自在である。また、第1クラッチ6のドグ歯6aは第1回転軸11の他端部に、第2クラッチ7のドグ歯7aは減速ギヤ機構5の回転軸5fの他端部に、それぞれ一体に設けられており、ハブ8は、ドグ歯6aとドグ歯7aとの間に配置されている。アクチュエータ10は、スリーブ9を駆動するためのものであり、ECU2に接続されている。
以上の構成の第1及び第2クラッチ6、7では、スリーブ9が図1に示す中立位置に位置しているときには、スリーブ9のドグ歯が第1及び第2クラッチ6、7のドグ歯6a、7aのいずれにも係合せず(噛み合わず)、それにより、第1回転軸11及び回転軸5fと右駆動軸SRとの間が遮断される。また、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第1クラッチ6のドグ歯6a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がこのドグ歯6aに係合することによって、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、回転軸5fと右駆動軸SRとの間が遮断される。一方、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第2クラッチ7のドグ歯7a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がこのドグ歯7aに係合することによって、回転軸5fと右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が遮断される。
以上のように、第1及び第2クラッチ6、7では、アクチュエータ10によりスリーブ9を駆動することによって、第1回転軸11及び回転軸5fが右駆動軸SRに選択的に接続されたり、両回転軸11、5fと右駆動軸SRとの間が遮断されたりする。すなわち、第1サンギヤS1及び第4ギヤ5dが右車輪WRに選択的に接続されたり、第1サンギヤS1及び第4ギヤ5dと右車輪WRとの間が遮断されたりする。ECU2は、アクチュエータ10の動作を制御することによって、第1及び第2クラッチ6、7の接続/遮断を制御する。
また、図2に示すように、ECU2には、操舵角センサ21から車両のハンドル(図示せず)の操舵角θを表す検出信号が、車速センサ22から車両の車速VPを表す検出信号が、アクセル開度センサ23から車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、入力される。ECU2にはさらに、電流電圧センサ24から、バッテリ16に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が入力される。ECU2は、電流電圧センサ24からの検出信号に基づいて、バッテリ16の充電状態を算出する。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、上述した各種のセンサ21〜24からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を制御する。これにより、動力装置1の各種の動作が行われ、動力装置1では、その動作モードとして、例えば4WDモード及びTV(Torque vectoring)モードが設定されている。以下、図3〜図8を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。これらの4WDモード及びTVモードは、本発明における第1及び第2動作モードにそれぞれ相当する。
図3は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1の各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、第1サンギヤS1とともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸5fと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、第1サンギヤS1の回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、キャリヤCの回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2サンギヤS2の回転数は、第1ギヤ5aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ5aの回転動力は、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して、その回転方向が変更されずに減速した状態で第4ギヤ5dに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置4における各種のギヤの噛み合いにより、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2サンギヤS2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
ここで、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数をそれぞれZS1、ZS2とし、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数をそれぞれZP1、ZP2、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第1〜第4ギヤ5a、5b、5c、5dの歯数をそれぞれZ5a、Z5b、Z5c、Z5dとして、これらのギヤの歯数は、例えば次式(1)及び(2)が成立するように設定されている。
ZR1/ZS1=2 ……(1)
Z5b×ZP1/(Z5a×ZR1)
=(ZP2/ZS2+ZP1/ZR1)Z5c/Z5d ……(2)
以上より、4WDモード中、動力装置1における各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図3の共線図のように表される。また、上述した各種のギヤの歯数の設定によって、図3のa1、b1、c1、d1及びe1の間に、次式(3)及び(4)で示す関係が成立する。
a1=b1 ……(3)
a1:c1=d1:e1 ……(4)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。図3及び後述する他の共線図において、TMは回転電機3のトルクであり、RWL及びRWRはそれぞれ、左右の車輪WL、WRの反力トルクである。上記式(3)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離a1と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第1サンギヤS1の回転数を表すための縦線との間の距離b1は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。
さらに、図4及び図5はそれぞれ、4WDモード中で、かつ車両の左旋回中及び右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。図3〜図5に示すように、遊星歯車装置4はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、図3〜図5は、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示しており、この場合には、これらの図に示すように、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動され、それにより車両が前進する。一方、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、左右の車輪WL、WRは逆転方向に回転するように駆動され、それにより車両が後退する。また、図3〜図5から明らかなように、例えば、車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図6は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。TVモード中(車両の直進時及び後述する旋回時を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及び第1サンギヤS1と右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸5fが、第4ギヤ5dとともに右駆動軸SRに接続される。これにより、第4ギヤ5dの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(4)と図6から明らかなように、キャリヤC及び第1リングギヤR1の回転数差と、第2サンギヤS2及びキャリヤCの回転数差との比(a1:c1)が、第4ギヤ5d及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ5dの回転数)と、第2サンギヤS2及び第4ギヤ5dの回転数差との比(d1:e1)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、キャリヤCの回転数及び第4ギヤ5dの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中、第1リングギヤR1及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図7は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数が旋回内輪である左車輪WLの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中には、上述した直進中(図6)の場合と異なり、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。図7及び後述する共線図において、RS2は、第2サンギヤS2の反力トルクであり、TS2は、第1ギヤ5aに伝達されたトルクであり、両者の絶対値|RS2|、|TS2|は互いに等しい。また、RCAは、ケースCAの反力トルクである。
図7から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2サンギヤS2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ5aに伝達されたトルクTS2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して第4ギヤ5dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回外輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、図8は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数が旋回内輪である右車輪WRの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。
図8から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2サンギヤS2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ5aに伝達されたトルクTS2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して第4ギヤ5dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回外輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図7及び図8に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態における回転電機3、左車輪WL及び右車輪WRが、本発明における動力源、第1及び第2被駆動部にそれぞれ相当する。また、第1実施形態における遊星歯車装置4が本発明における差動装置に相当するとともに、第1実施形態における第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、キャリヤC及び第2サンギヤS2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。さらに、第1実施形態における減速ギヤ機構5及び第4ギヤ5dが、本発明における変速機構及び出力部にそれぞれ相当するとともに、第1実施形態における第1及び第2クラッチ6、7が、本発明における第1及び第2接断機構にそれぞれ相当する。
以上のように、第1実施形態によれば、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2サンギヤS2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置4が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、キャリヤCが左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第2サンギヤS2からの回転動力が、減速ギヤ機構5によって、その回転方向を変更せずに減速した状態で第4ギヤ5dに出力される。さらに、第1サンギヤS1と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ5dと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ5dを介した第2サンギヤS2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図3〜図5を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置4を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
さらに、前記式(1)を参照して説明したように、第1リングギヤR1の歯数ZR1を第1サンギヤS1の歯数ZS1の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は少なくとも、サンギヤとピニオンギヤの噛合い、及び、ピニオンギヤとリングギヤの噛合いの計2つであり、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は少なくとも、サンギヤとピニオンギヤの噛合い、第1ギヤとアイドラギヤの噛合い、アイドラギヤと第2ギヤの噛合い、及び、第3ギヤと第4ギヤの噛合いの計4つであって、その差は2である。
これに対して、第1実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1と第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第1ピニオンギヤP1とピニオンギヤPの噛合いの計2つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1と第1ピニオンギヤP1の噛合い、第1ピニオンギヤP1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1サンギヤS1の噛合いの計3つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図7及び図8を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置4及び減速ギヤ機構5を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図6を参照して説明したように、前記式(2)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。
また、図7及び図8から明らかなように、TVモード中、回転電機3のトルクTMを、遊星歯車装置4及び減速ギヤ機構5を介して増大させた状態で左右の車輪WL、WRに伝達できるので、両者WL、WRの間により大きなトルク差を発生させることができるとともに、発生させるトルク差に対して、回転電機3のトルクTMを低減することができる。さらに、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、両者の関係によって定まる回転電機3の回転数は比較的高くなる。以上から、TVモード中、回転電機3を低トルク・高回転数状態で運転できるので、回転電機3の効率を高めることができる。
さらに、特開平11−091524号公報と異なり、本発明における差動装置として、ベベルギヤタイプのディファレンシャルギヤではなく、遊星歯車装置4を用いるので、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置4の適正な動作を確保することができる。
また、第1及び第2クラッチ6、7が互いに同軸状に配置されているので、両クラッチ6、7のアクチュエータ10の構成や動作を単純化することができる。
次に、図9〜図13を参照しながら、本発明の第2実施形態による動力装置1Aについて説明する。この動力装置1Aは、第1実施形態と同様、動力源としての回転電機3や、遊星歯車装置31、減速ギヤ機構5、第1クラッチ6、第2クラッチ7を備えており、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置31の構成が主に異なっている。図9〜図13において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置31及び減速ギヤ機構5の各種のギヤの歯数の設定については、後述するように第1実施形態と異なっているものの、説明の便宜上、各種のギヤに対して、第1実施形態の対応する各種のギヤと同じ符号を付している。
第1実施形態と同様、回転電機3のステータは、PDU15を介してバッテリ16に電気的に接続されており、バッテリ16との間で電気エネルギを授受可能である。また、ECU2(図2参照)によるPDU15の制御によって、回転電機3に供給する電力と、回転電機3で発電する電力と、回転電機3の回転数(回転軸3aの回転数)が制御される。
遊星歯車装置31は、第1実施形態の遊星歯車装置4と同様に左右の車輪WL、WRの間に同軸状に配置されており、第1サンギヤS1と、複数の2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤP(それぞれ2つのみ図示)と、両ピニオンギヤDP、Pを自転自在かつ公転自在に支持するキャリヤCと、軸線方向に互いに並んだ第1リングギヤR1及び第2リングギヤR2を有している。第1サンギヤS1は、第1実施形態と同様、第1回転軸11の一端部に一体に設けられている。
2連ピニオンギヤDPは、第1実施形態と同様に第1ピニオンギヤP1及び第2ピニオンギヤP2で構成されている。第1ピニオンギヤP1及びピニオンギヤPは、第1サンギヤS1の外周に配置されており、第1ピニオンギヤP1は、第1サンギヤS1及びピニオンギヤPに噛み合っている。第1リングギヤR1は、ピニオンギヤP及び第1ピニオンギヤP1の外周に配置されるとともに、ピニオンギヤPに噛み合っている。また、第1実施形態と同様、第1リングギヤR1の外周面には、回転電機3のギヤ3bに噛み合うギヤ13が形成されている。
第2リングギヤR2は、いわゆる内歯ギヤで構成され、第2ピニオンギヤP2の外周に配置されるとともに、第2ピニオンギヤP2に噛み合っており、フランジなどを介して、前記第2回転軸12の一端部に連結されている。第2回転軸12の内側には、第1実施形態と同様、第1回転軸11が相対的に回転自在に配置されており、第2リングギヤR2及び第2回転軸12は、互いに一体に回転自在である。キャリヤCは、第1実施形態と同様、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPを回転自在に支持するための複数の第1及び第2ピニオン軸と、円板状のフランジを互いに一体に組み合わせたものであって、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されるとともに、左駆動軸SLを介して左車輪WLに連結されており、左車輪WLと一体に回転自在である。
前記減速ギヤ機構5は、第1実施形態と同様、前述した第1〜第4ギヤ5a〜5dを有しており、第1実施形態と比較して、第2リングギヤR2からの回転動力を、その回転方向を変更せずに減速した状態で出力するように構成されていることと、第1〜第4ギヤ5a〜5dの歯数の設定のみが異なっている。
ここで、第2リングギヤR2の歯数をZR2として、第1サンギヤS1の歯数ZS1、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2、ならびに、第1〜第4ギヤ5a〜5dの歯数Z5a〜Z5dは、例えば前記式(1)及び次式(5)が成立するように、設定されている。
Z5c×ZP2/(Z5d×ZR2)
=(Z5b/Z5a−Z5c/Z5d)ZP1/ZR1 ……(5)
第1及び第2クラッチ6、7は、第1実施形態と同様、前述したハブ8や、スリーブ9、アクチュエータ10(図2参照)、複数のドグ歯6a、7aなどで構成されており、スリーブ9が図9に示す中立位置に位置しているときには、スリーブ9のドグ歯が第1及び第2クラッチ6、7のドグ歯6a、7aのいずれにも係合せず、それにより、第1回転軸11及び回転軸5fと右駆動軸SRすなわち右車輪WRとの間が遮断される。また、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第1クラッチ6のドグ歯6a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がドグ歯6aに係合することによって、第1回転軸11と右車輪WRとの間が接続されるとともに、回転軸5fと右車輪WRとの間が遮断される。一方、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第2クラッチ7のドグ歯7a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がこのドグ歯7aに係合することによって、回転軸5fと右車輪WRとの間が接続されるとともに、第1回転軸11と右車輪WRとの間が遮断される。
以上のように、第1及び第2クラッチ6、7では、アクチュエータ10によりスリーブ9を駆動することによって、第1サンギヤS1及び第4ギヤ5dが右車輪WRに選択的に接続されたり、第1サンギヤS1及び第4ギヤ5dと右車輪WRとの間が遮断されたりする。アクチュエータ10の動作は、ECU2(図2参照)で制御され、それにより、第1及び第2クラッチ6、7の接続/遮断が制御される。
また、第1実施形態と同様、ECU2は、前述した各種のセンサ21〜24(図2参照)からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を制御する。これにより、動力装置1Aの各種の動作が行われ、動力装置1Aでは、その動作モードとして、例えば4WDモード及びTVモードが設定されている。以下、図10〜図13を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図10は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Aの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、第1サンギヤS1とともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸5fと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、第1サンギヤS1の回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、キャリヤCの回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2リングギヤR2の回転数は、第1ギヤ5aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ5aの回転動力は、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して、その回転方向が変更されずに減速した状態で第4ギヤ5dに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置31における各種のギヤの噛み合いにより、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2リングギヤR2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上により、4WDモード中、動力装置1Aにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図10の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図10のa2、b2、c2、d2及びe2の間に、次式(6)及び(7)で示す関係が成立する。
a2=b2 ……(6)
a2:c2=d2:e2 ……(7)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(6)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離a2と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第1サンギヤS1の回転数を表すための縦線との間の距離b2は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。この場合、図10から明らかなように、遊星歯車装置31はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、図10は、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示しており、この場合には、図10に示すように、左右の車輪WL、WRは正転方向に回転するように駆動され、それにより車両が前進する。一方、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、左右の車輪WL、WRは逆転方向に回転するように駆動され、それにより車両が後退する。また、図10から明らかなように、例えば、車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図11は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。TVモード中(車両の直進時及び後述する旋回時を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及び第1サンギヤS1と右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸5fが、第4ギヤ5dとともに右駆動軸SRに接続される。これにより、第4ギヤ5dの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(7)と図11から明らかなように、キャリヤC及び第1リングギヤR1の回転数差と、第2リングギヤR2及びキャリヤCの回転数差との比(a2:c2)が、第4ギヤ5d及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ5dの回転数)と、第2リングギヤR2及び第4ギヤ5dの回転数差との比(d2:e2)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、キャリヤCの回転数及び第4ギヤ5dの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中、第1リングギヤR1及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図12は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数が旋回内輪である左車輪WLの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の左旋回中には、上述した直進中(図11)の場合と異なり、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。図12及び後述する共線図において、RR2は、第2リングギヤR2の反力トルクであり、TR2は、第1ギヤ5aに伝達されたトルクであり、両者の絶対値|RR2|、|TR2|は互いに等しい。
図12から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2リングギヤR2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ5aに伝達されたトルクTR2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して第4ギヤ5dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回外輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、図13は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数が旋回内輪である右車輪WRの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。
図13から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2リングギヤR2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ5aに伝達されたトルクTR2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ5b、5cを介して第4ギヤ5dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回外輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図12及び図13に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第2実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第2実施形態における遊星歯車装置31が本発明における差動装置に相当するとともに、第2実施形態における第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、キャリヤC及び第2リングギヤR2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第2実施形態によれば、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2リングギヤR2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置31が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、キャリヤCが左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第2リングギヤR2からの回転動力が、減速ギヤ機構5によって、その回転方向を変更せずに減速した状態で第4ギヤ5dに出力される。さらに、第1サンギヤS1と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ5dと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ5dを介した第2リングギヤR2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図10を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置31を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
また、前記式(1)を参照して説明したように、第1リングギヤR1の歯数ZR1を第1サンギヤS1の歯数ZS1の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数と、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数との差は、2である。
これに対して、第2実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合いの計2つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、ピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第1ピニオンギヤP1と第1サンギヤS1の噛合いの計3つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図12及び図13を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置31及び減速ギヤ機構5を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図11を参照して説明したように、前記式(5)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。
また、図12及び図13から明らかなように、TVモード中、回転電機3のトルクTMを、遊星歯車装置31及び減速ギヤ機構5を介して増大させた状態で左右の車輪WL、WRに伝達できるので、両者WL、WRの間により大きなトルク差を発生させることができるとともに、発生させるトルク差に対して、回転電機3のトルクTMを低減することができる。さらに、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、両者の関係によって定まる回転電機3の回転数は比較的高くなる。以上から、TVモード中、回転電機3を低トルク・高回転数状態で運転できるので、回転電機3の効率を高めることができる。
さらに、第1実施形態と同様、本発明における差動装置として、ベベルギヤタイプのディファレンシャルギヤではなく、遊星歯車装置31を用いるので、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置31の適正な動作を確保することができる。
次に、図14〜図22を参照しながら、本発明の第3実施形態による動力装置1Bについて説明する。この動力装置1Bは、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置41の構成と、各種の回転要素の間の連結関係と、減速ギヤ機構5に代えて、増速ギヤ機構42を備えることとが主に異なっている。図14〜図22において、第1実施形態と同様の構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置41の各種のギヤの歯数の設定や、キャリヤCの構成については、後述するように第1実施形態と異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置41の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第1実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・第1及び第2サンギヤS1、S2の位置関係、ならびに、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の位置関係が、それぞれ左右逆になっていること
・第1サンギヤS1が、ピニオンギヤPに代えて、第1ピニオンギヤP1に噛み合っており、第1リングギヤR1が、第1ピニオンギヤP1に代えて、ピニオンギヤPに噛み合っていること
・第1サンギヤS1が、第1回転軸11に代えて、第2回転軸12に一体に回転自在に設けられていること
・第2サンギヤS2が、第2回転軸12に代えて、左駆動軸SLに一体に回転自在に設けられていること
・キャリヤCが、左駆動軸SLに代えて、第1回転軸11に一体に回転自在に設けられていること
また、第3実施形態によるキャリヤCは、第1実施形態と異なり、図15及び図16に示すように構成されている。なお、これらの図15及び図16では、便宜上、断面を示すハッチングと、各種のギヤの歯の図示を省略している。具体的には、キャリヤCは、軸線方向に互いに対向した状態で配置されたドーナツ板状の一対の側板51、51と、両側板51、51を互いに一体に連結する複数の柱部52と、柱部52と一体の円板状の連結部53と、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPを自転自在かつ公転自在にそれぞれ支持するための複数の第1ピニオン軸54及び第2ピニオン軸55を有している。柱部52、第1及び第2ピニオン軸54、55の数は、互いに同じであり、例えば3つである。
上記の側板51、51の各々には、第1及び第2ピニオン軸54、55をそれぞれ取り付けるための複数の第1取付孔51a及び第2取付孔51bが形成されており、第1及び第2取付孔51a、51bは、側板51の周方向に交互に配置されている。複数の柱部52は、第1及び第2取付孔51a、51bと重ならないように、側板51、51の周方向に互いに等間隔に並んで配置されている。また、各柱部52は、連結部53の周縁部から側板51、51に向かって、軸線方向の両側に延びており、第1リングギヤR1の内側に位置している。連結部53は、一対の側板51、51の間に、両者51、51と同軸状に配置されるとともに、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2との間に位置しており、その中央部には、第1回転軸11が同軸状に一体に設けられている。
第1及び第2ピニオン軸54、55は、一対の側板51、51の第1及び第2取付孔51a、51a、51b、51bにそれぞれ取り付けられ、固定されており、両側板51、51の間に延びている。また、第1及び第2ピニオン軸54、55は、軸受けを介して、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPを回転自在にそれぞれ支持しており、両ピニオン軸54、55には、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPの軸線方向への移動を規制するためのスペーサが設けられている。
増速ギヤ機構42は、第1サンギヤS1からの回転動力を、その回転方向を変更せずに増速した状態で出力するものであり、減速ギヤ機構5と同様に平行軸ギヤ機構で構成され、遊星歯車装置41と右車輪WRとの間に配置されている。増速ギヤ機構42は、第2回転軸12の他端部に一体に設けられた第1ギヤ42aと、第1ギヤ42aに噛み合う第2ギヤ42bと、第2ギヤ42bと一体の第3ギヤ42cと、第3ギヤ42cに噛み合う第4ギヤ42dを有している。
第2及び第3ギヤ42b、42cは、支軸42eに回転自在に支持されており、支軸42eは、ケースCAに取り付けられるとともに、第1及び第2回転軸11、12と平行に延びている。また、第4ギヤ42dは、軸受け(図示せず)に回転自在に支持された中空の回転軸42fの一端部に、一体に設けられており、回転軸42fと一体に回転自在である。回転軸42fの内側には、右駆動軸SRが回転自在に同軸状に配置されている。以上の構成の増速ギヤ機構42では、第1サンギヤS1の回転動力は、第2回転軸12、第1〜第4ギヤ42a〜42dを介して、その回転方向が変更されずに増速した状態で回転軸42fに伝達される。
また、動力装置1Bの第2クラッチ7は、回転軸42fと右駆動軸SRとの間を接続/遮断するように構成されている。第1及び第2クラッチ6、7では、スリーブ9が図14に示す中立位置に位置しているときには、スリーブ9のドグ歯が第1及び第2クラッチ6、7のドグ歯6a、7aのいずれにも係合せず、それにより、第1回転軸11及び回転軸42fと右駆動軸SRとの間が遮断される。また、アクチュエータ10(図2参照)によりスリーブ9が中立位置から第1クラッチ6のドグ歯6a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がドグ歯6aに係合することによって、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、回転軸42fと右駆動軸SRとの間が遮断される。一方、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第2クラッチ7のドグ歯7a側に駆動されると、スリーブ9のドグ歯がドグ歯7aに係合することによって、回転軸42fと右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が遮断される。
ここで、第1〜第4ギヤ42a〜42dの歯数をそれぞれ、Z42a、Z42b、Z42c、及びZ42dとすると、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1リングギヤR1の歯数ZR1、ならびに第1〜第4ギヤ42a〜42dの歯数Z42a〜Z42dは、例えば次式(8)及び式(9)が成立するように、設定されている。
ZP2/ZS2=2(ZP1/ZR1) ……(8)
(ZP2/ZS2−ZP1/ZS1)Z42c/Z42d
=(ZP2/ZS2−ZP1/ZR1)Z42b/Z42a ……(9)
また、動力装置1Bでは、第1実施形態と同様、ECU2が、前述した各種のセンサ21〜24(図2参照)からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を制御する。これにより、動力装置1Bの各種の動作が行われ、動力装置1Bでは、その動作モードとして、例えば4WDモード及びTVモードが設定されている。以下、図17〜図22を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図17は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Bの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、キャリヤCとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸42fと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、キャリヤCの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、第2サンギヤS2の回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第1サンギヤS1の回転数は、第1ギヤ42aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ42aの回転動力は、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して、その回転方向が変更されずに増速した状態で第4ギヤ42dに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置41における各種のギヤの噛み合いと、前述した各種のギヤの歯数の設定とにより、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上により、4WDモード中、動力装置1Bにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図17の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図17のa3、b3、c3、d3及びe3の間に、次式(10)及び(11)で示す関係が成立する。
a3=b3 ……(10)
a3:c3=d3:e3 ……(11)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(10)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第2サンギヤS2の回転数を表すための縦線との間の距離a3と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離b3は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、第2サンギヤS2及びキャリヤCを介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。
さらに、図18及び図19はそれぞれ、4WDモード中で、かつ車両の左旋回中及び右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。図17〜図19に示すように、遊星歯車装置41はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、図17〜図19は、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示しており、この場合には、第1実施形態の場合と同様、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動され、それにより車両が前進するが、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動され、それにより車両が後退する。また、図17〜図19から明らかなように、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図20は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。TVモード中(車両の直進時及び後述する旋回時を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及びキャリヤCと右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸42fが、第4ギヤ42dとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ42dの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中には、第1実施形態と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(11)と図20から明らかなように、第2サンギヤS2及び第1リングギヤR1の回転数差と、第2サンギヤS2及び第1サンギヤS1の回転数差との比(a3:c3)が、第4ギヤ42d及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ42dの回転数)と、第4ギヤ42d及び第1サンギヤS1の回転数差との比(d3:e3)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、第2サンギヤS2の回転数及び第4ギヤ42dの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の直進中、第1リングギヤR1の回転数及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図21は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数が旋回内輪である左車輪WLの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中には、上述した直進中(図20)の場合と異なり、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。図21及び後述する共線図において、RS1は、第1サンギヤS1の反力トルクであり、TS1は、第1ギヤ42aに伝達されたトルクであり、両者の絶対値|RS1|、|TS1|は互いに等しい。
図21から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、第2サンギヤS2と第1サンギヤS1に反力が生じ、第2サンギヤS1(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ42aに伝達されたトルクTS1は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して第4ギヤ42dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回外輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、図22は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数が旋回内輪である右車輪WRの回転数よりも高くなり、両者の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。
図22から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、第2サンギヤS2と第1サンギヤS1に反力が生じ、第2サンギヤS2(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ42aに伝達された逆転方向のトルクTS1は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して第4ギヤ42dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回外輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図21及び図22に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第3実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第3実施形態における遊星歯車装置41が本発明における差動装置に相当するとともに、第3実施形態におけるキャリヤC、第1リングギヤR1、第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。また、第3実施形態における増速ギヤ機構42及び第4ギヤ42dが、本発明における変速機構及び出力部にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第3実施形態によれば、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置41が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、第2サンギヤS2が左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第1サンギヤS1からの回転動力が、増速ギヤ機構42によって、その回転方向を変更せずに増速した状態で第4ギヤ42dに出力される。さらに、キャリヤCと右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ42dと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ42dを介した第1サンギヤS1と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図17〜図19を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置41を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
また、前記式(8)を参照して説明したように、第2サンギヤS2の歯数ZS2に対する第2ピニオンギヤP2の歯数ZP2の比を、第1リングギヤR1の歯数ZR1に対する第1ピニオンギヤP1の歯数ZP1の比の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、第2サンギヤS2及びキャリヤCを介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数と、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数との差は、2である。
これに対して、第3実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、ピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第2ピニオンギヤP2と第2サンギヤS2の噛合いの計3つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合いの計2つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図21及び図22を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置41及び増速ギヤ機構42を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図20を参照して説明したように、前記式(9)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。
また、図21及び図22から明らかなように、TVモード中、回転電機3のトルクTMを、遊星歯車装置41及び増速ギヤ機構42を介して増大させた状態で左右の車輪WL、WRに伝達できるので、両者WL、WRの間により大きなトルク差を発生させることができるとともに、発生させるトルク差に対して、回転電機3のトルクTMを低減することができる。さらに、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、両者の関係によって定まる回転電機3の回転数は比較的高くなる。以上から、TVモード中、回転電機3を低トルク・高回転数状態で運転できるので、回転電機3の効率を高めることができる。
さらに、第1実施形態と同様、本発明における差動装置として、ベベルギヤタイプのディファレンシャルギヤではなく、遊星歯車装置41を用いるので、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置41の適正な動作を確保することができる。
次に、図23〜図27を参照しながら、本発明の第4実施形態による動力装置1Cについて説明する。この動力装置1Cは、第3実施形態(図14)と比較して、遊星歯車装置61の構成及び各種の回転要素の間の連結関係が主に異なっている。図23において、第1及び第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置61及び増速ギヤ機構42の各種のギヤの歯数の設定などについては、後述するように第1及び第3実施形態のそれらとそれぞれ異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1及び第3実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1及び第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置61の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第1実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・キャリヤCが、ドーナツ板状の第1側板、第1側板と軸線方向に対向する円板状の第2側板、及び両者の間に設けられた第1及び第2ピニオン軸を一体に有し、第1及び第2ピニオン軸に、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPがそれぞれ自転自在かつ公転自在に支持されていること
・第1サンギヤS1が、第1回転軸11に代えて、左駆動軸SLに一体に回転自在に設けられていること
・キャリヤCが、左駆動軸SLに代えて、第1回転軸11に一体に回転自在に設けられていること
・第2サンギヤS2に代えて、第2リングギヤR2を有しており、第2リングギヤR2が、第2ピニオンギヤP2に噛み合うとともに、第2回転軸12を介して第1ギヤ42aに連結されていること
また、第1サンギヤS1の歯数ZS1、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2、ならびに、第1〜第4ギヤ42a〜42dの歯数Z42a〜Z42dは、例えば、前記式(1)と次式(12)が成立するように、設定されている。
(ZP1/ZS1−ZP2/ZR2)Z42c/Z42d
=(ZP1/ZS1−ZP1/ZR1)(Z42c/Z42d
−Z42b/Z42a) ……(12)
また、動力装置1Cでは、第1実施形態と同様、ECU2が、前述した各種のセンサ21〜24からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を制御する。これにより、動力装置1Cの各種の動作が行われ、動力装置1Cでは、その動作モードとして、例えば4WDモード及びTVモードが設定されている。以下、図24〜図27を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図24は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Cの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、キャリヤCとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸42fと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、キャリヤCの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、第1サンギヤS1の回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2リングギヤR2の回転数は、第1ギヤ42aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ42aの回転動力は、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して、その回転方向が変更されずに増速した状態で第4ギヤ42dに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置61における各種のギヤの噛み合いと、前述した各種のギヤの歯数の設定とにより、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第2リングギヤR2の回転数、及び第1サンギヤS1の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上により、4WDモード中、動力装置1Cにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図24の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図24のa4、b4、c4、d4及びe4の間に、次式(13)及び(14)で示す関係が成立する。
a4=b4 ……(13)
a4:c4=d4:e4 ……(14)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(13)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第1サンギヤS1の回転数を表すための縦線との間の距離a4と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離b4は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、第1サンギヤS1及びキャリヤCを介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。この場合、図24から明らかなように、遊星歯車装置61はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、図24は、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示しており、この場合には、第1実施形態の場合と同様、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動され、それにより車両が前進するが、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動され、それにより車両が後退する。また、図24から明らかなように、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図25は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。TVモード中(車両の直進時及び後述する旋回時を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及びキャリヤCと右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸42fが、第4ギヤ42dとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ42dの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、第1実施形態と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(14)と図25から明らかなように、第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の回転数差と、第1サンギヤS1及び第2リングギヤR2の回転数差との比(a4:c4)が、第4ギヤ42d及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ42dの回転数)と、第4ギヤ42d及び第2リングギヤR2の回転数差との比(d4:e4)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、第1サンギヤS1の回転数及び第4ギヤ42dの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中、第1リングギヤR1及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図26は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数と旋回内輪である左車輪WLの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中には、上述した直進中(図25)の場合と異なり、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。
図26から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、第1サンギヤS1と第2リングギヤR2に反力が発生し、第1サンギヤS1(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ42aに伝達されたトルクTR2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して第4ギヤ42dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回外輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、図27は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数と旋回内輪である右車輪WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は、逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。
図27から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、第1サンギヤS1と第2リングギヤR2に反力が生じ、第1サンギヤS1(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ42aに伝達されたトルクTR2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2及び第3ギヤ42b、42cを介して第4ギヤ42dに反力を発生させ、その回転方向が変更されずに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回外輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図26及び図27に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第4実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第4実施形態における遊星歯車装置61が本発明における差動装置に相当するとともに、第4実施形態におけるキャリヤC、第1リングギヤR1、第2リングギヤR2及び第1サンギヤS1が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1及び第3実施形態と同様である。
以上のように、第4実施形態によれば、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第2リングギヤR2の回転数及び第1サンギヤS1の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置61が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、第1サンギヤS1が左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第2リングギヤR2からの回転動力が、増速ギヤ機構42によって、その回転方向を変更せずに増速した状態で第4ギヤ42dに出力される。さらに、キャリヤCと右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ42dと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ42dを介した第2リングギヤR2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図24を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置61を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
また、前記式(1)を参照して説明したように、第1リングギヤR1の歯数ZR1を第1サンギヤS1の歯数ZS1の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、第1サンギヤS1及びキャリヤCを介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数と、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数との差は、2である。
これに対して、第4実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1と第1ピニオンギヤP1の噛合い、第1ピニオンギヤP1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1サンギヤS1の噛合いの計3つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1と第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第1ピニオンギヤP1とピニオンギヤPの噛合いの計2つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図26及び図27を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置61及び増速ギヤ機構42を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図25を参照して説明したように、前記式(12)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。
また、図26及び図27から明らかなように、TVモード中、回転電機3のトルクTMを、遊星歯車装置61及び増速ギヤ機構42を介して増大させた状態で左右の車輪WL、WRに伝達できるので、両者WL、WRの間により大きなトルク差を発生させることができるとともに、発生させるトルク差に対して、回転電機3のトルクTMを低減することができる。さらに、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、両者の関係によって定まる回転電機3の回転数は比較的高くなる。以上から、TVモード中、回転電機3を低トルク・高回転数状態で運転できるので、回転電機3の効率を高めることができる。
さらに、第1実施形態と同様、遊星歯車装置61の2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置61の適正な動作を確保することができる。
次に、図28〜図32を参照しながら、本発明の第5実施形態による動力装置1Dについて説明する。この動力装置1Dは、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置71及び減速ギヤ機構72の構成ならびに各種の回転要素の間の連結関係が主に異なっている。図28において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置71の各種のギヤの歯数の設定などについては、後述するように第1実施形態と異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置71の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第1実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・ピニオンギヤPが、第1サンギヤS1に代えて、第1リングギヤR1に噛み合っていること
また、上記の減速ギヤ機構72は、第2サンギヤS2からの回転動力を、その回転方向を逆方向に変更するとともに減速した状態で出力するものであり、平行ギヤ機構で構成されている。減速ギヤ機構72は、第2サンギヤS2と一体の第2回転軸12の他端部に一体に設けられた第1ギヤ72aと、第1ギヤ72aに噛み合う第2ギヤ72bと、第2ギヤ72bと一体の第3ギヤ72cと、第3ギヤ72cに噛み合うアイドラギヤ72dと、アイドラギヤ72dに噛み合う第4ギヤ72eを有している。
第2及び第3ギヤ72b、72cは支軸72fに、アイドラギヤ72dは支軸72gに、それぞれ回転自在に支持されており、これらの支軸72f、72gは、ケースCAに取り付けられている。また、第4ギヤ72eは、軸受け(図示せず)に回転自在に支持された中空の回転軸72hの一端部に一体に設けられ、回転軸72hと一体に回転自在であり、回転軸72hの内側には、右駆動軸SRが回転自在に同軸状に配置されている。以上の構成の減速ギヤ機構72では、第2サンギヤS2の回転動力は、第2回転軸12、第1〜第3ギヤ72a〜72c、アイドラギヤ72d及び第4ギヤ72eを介して、その回転方向が逆方向に変更されるとともに減速した状態で回転軸72hに伝達される。
また、動力装置1Dの第2クラッチ7は、回転軸72hと右駆動軸SRとの間を接続/遮断するように構成されている。第1及び第2クラッチ6、7では、スリーブ9が図28に示す中立位置に位置しているときには、第1回転軸11及び回転軸72hと右駆動軸SRとの間が遮断される。また、アクチュエータ10(図2参照)によりスリーブ9がドグ歯6a側に駆動されると、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、回転軸72hと右駆動軸SRとの間が遮断される。一方、アクチュエータ10によりスリーブ9がドグ歯7a側に駆動されると、回転軸72hと右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が遮断される。
ここで、第1〜第4ギヤ72a〜72c、72eの歯数をそれぞれ、Z72a、Z72b、Z72c、Z72eとすると、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1リングギヤR1の歯数ZR1、ならびに第1〜第4ギヤ72a〜72c、72eの歯数Z72a〜Z72c、Z72eは、例えば、前記式(1)及び次式(15)が成立するように、設定されている。
Z72b×ZP1/(Z72a×ZR1)
=(ZP2/ZS2−ZP1/ZR1)Z72c/Z72e ……(15)
また、動力装置1Dでは、第1実施形態と同様、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7がECU2により制御されることによって、例えば4WDモード及びTVモードによる動作が実行される。以下、図29〜図32を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図29は、車両の直進中で、かつ、4WDモード中における動力装置1Dの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、第1サンギヤS1とともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸72hと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、第1サンギヤS1の回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、キャリヤCの回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2サンギヤS2の回転数は、第1ギヤ72aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ72aの回転動力は、第2及び第3ギヤ72b、72cならびにアイドラギヤ72dを介して、その回転方向が逆方向に変更されるとともに減速した状態で第4ギヤ72eに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置71における各種のギヤの噛み合いと、前述した各種のギヤの歯数の設定とにより、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上により、4WDモード中、動力装置1Dにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図29の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図29のa5、b5、c5、d5及びe5の間に、次式(16)及び(17)で示す関係が成立する。
a5=b5 ……(16)
a5:c5=d5:e5 ……(17)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(16)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離a5と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第1サンギヤS1の回転数を表すための縦線との間の距離b5は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。さらに、図29から明らかなように、遊星歯車装置71はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、第1実施形態の場合と同様、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合には、図29に示すように、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動される一方、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動される。また、図29から明らかなように、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図30は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数を示している。TVモード中(車両の直進中及び後述する旋回中を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及び第1サンギヤS1と右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸72hが、第4ギヤ72eとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ72eの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、第1実施形態と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(17)と図30から明らかなように、キャリヤC及び第1リングギヤR1の回転数差と、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2の回転数差との比(a5:c5)が、第4ギヤ72e及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ72eの回転数)と、ケースCA及び第2サンギヤS2の回転数差(=第2サンギヤS2の回転数)との比(d5:e5)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、キャリヤCの回転数及び第4ギヤ72eの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中、第1リングギヤR1の回転数及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図31は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数と旋回内輪である左車輪WLの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は、逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中には、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。
図31から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2サンギヤS2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ72aに伝達されたトルクTS2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2、第3ギヤ72b、72c及びアイドラギヤ72dを介して第4ギヤ72eに反力を発生させ、その回転方向が逆方向に変更されるとともに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
また、図32は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数と旋回内輪である右車輪WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は、正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。
図32から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第2サンギヤS2に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ72aに伝達されたトルクTS2は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2、第3ギヤ72b、72c及びアイドラギヤ72dを介して第4ギヤ72eに反力を発生させ、その回転方向が逆方向に変更されるとともに減速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左右の旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪に正転方向のトルクが、旋回外輪に逆転方向のトルクが、それぞれ伝達されることによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図31及び図32に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第5実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第5実施形態における遊星歯車装置71が本発明における差動装置に相当するとともに、第5実施形態におけるキャリヤC、第1リングギヤR1、第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。また、第5実施形態における減速ギヤ機構72及び第4ギヤ72eが、本発明における変速機構及び出力部にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第5実施形態によれば、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置71が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、キャリヤCが左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第2サンギヤS2からの回転動力が、減速ギヤ機構72によって、その回転方向を逆方向に変更するとともに減速した状態で第4ギヤ72eに出力される。さらに、第1サンギヤS1と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ72eと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ72eを介した第2サンギヤS2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図29を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置71を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
また、前記式(1)を参照して説明したように、第1リングギヤR1の歯数ZR1を第1サンギヤS1の歯数ZS1の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数と、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数との差は、2である。
これに対して、第5実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合いの計2つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、ピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第1ピニオンギヤP1と第1サンギヤS1の噛合いの計3つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図31及び図32を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置71及び減速ギヤ機構72を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図30を参照して説明したように、前記式(15)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。また、図31及び図32から明らかなように、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、回転電機3の回転数を比較的低く抑えることができる。
さらに、第1実施形態と同様、遊星歯車装置71の2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置71の適正な動作を確保することができる。
次に、図33〜図37を参照しながら、本発明の第6実施形態による動力装置1Eについて説明する。この動力装置1Eは、第5実施形態(図28)と比較して、遊星歯車装置81の構成及び各種の回転要素の間の連結関係が主に異なっている。図33において、第1及び第5実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置81及び減速ギヤ機構72の各種のギヤの歯数の設定などについては、後述するように第1及び第5実施形態のそれらとそれぞれ異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1及び第5実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1及び第5実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置81の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第5実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・キャリヤCが、ドーナツ板状の第1側板、第1側板と軸線方向に並んだ円板状の第2側板、及び両者の間に設けられた第1及び第2ピニオン軸を一体に有し、第1及び第2ピニオン軸に、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPがそれぞれ自転自在かつ公転自在に支持されていること
・第1サンギヤS1が、第1回転軸11に代えて、左駆動軸SLに一体に回転自在に設けられていること
・キャリヤCが、左駆動軸SLに代えて、第1回転軸11に一体に回転自在に設けられていること
・第2サンギヤS2に代えて、第2リングギヤR2を有しており、第2リングギヤR2が、第2ピニオンギヤP2に噛み合うとともに、第2回転軸12を介して第1ギヤ72aに連結されていること
また、第1サンギヤS1の歯数ZS1、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2、ならびに、第1〜第4ギヤ72a〜72c、72eの歯数Z72a〜Z72c、Z72eは、例えば、前記式(1)と次式(18)が成立するように、設定されている。
(ZP2/ZR2+ZP1/ZR1)Z72c/Z72e
=(ZP1/ZS1−ZP1/ZR1)Z72b/Z72a ……(18)
さらに、動力装置1Eでは、第1実施形態と同様、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7がECU2により制御されることによって、例えば4WDモード及びTVモードによる動作が実行される。以下、図34〜図37を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図34は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Eの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、キャリヤCとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸72hと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、キャリヤCの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、第1サンギヤS1の回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2リングギヤR2の回転数は、第1ギヤ72aの回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置81における各種のギヤの噛み合いにより、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2リングギヤR2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。その他の各種の回転要素の回転数の関係は、第5実施形態(図29参照)と同様である。
以上により、4WDモード中、動力装置1Eにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図34の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図34のa6、b6、c6、d6及びe6の間に、次式(19)及び(20)で示す関係が成立する。
a6=b6 ……(19)
a6:c6=d6:e6 ……(20)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(19)と、図29と図34との比較から明らかなように、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、第1サンギヤS1及びキャリヤCを介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。また、遊星歯車装置81はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。さらに、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合には、図34に示すように、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動され、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動される。また、第5実施形態と同様、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図35は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。TVモード中(車両の直進中及び後述する旋回中を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及びキャリヤCと右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸72hが、第4ギヤ72eとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ72eの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。
また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、第1実施形態の場合と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。前記式(20)と図35から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の直進中、第1リングギヤR1の回転数及び回転電機3の回転数は値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図36は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、左右の車輪WL、WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は逆転方向になり、車両の左旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。図36と、第5実施形態で説明した図31との比較から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
また、図37は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、左右の車輪WL、WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になり、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。図37と、第5実施形態で説明した図32との比較から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左右の旋回中、第1及び第5実施形態の場合と同様、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪に正転方向のトルクが、旋回外輪に逆転方向のトルクが、それぞれ伝達されることによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図36及び図37に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第6実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第6実施形態における遊星歯車装置81が本発明における差動装置に相当するとともに、第6実施形態における第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、キャリヤC及び第2リングギヤR2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1及び第5実施形態と同様である。
以上のように、第6実施形態によれば、第1サンギヤS1の回転数、第1リングギヤR1の回転数、キャリヤCの回転数及び第2リングギヤR2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置81が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、第1サンギヤS1が左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第2リングギヤR2からの回転動力が、減速ギヤ機構72によって、その回転方向を逆方向に変更するとともに減速した状態で第4ギヤ72eに出力される。さらに、キャリヤCと右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ72eと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ72eを介した第2リングギヤR2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。さらに、第6実施形態によれば、これまでの説明から明らかなように、第5実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
次に、図38〜図42を参照しながら、本発明の第7実施形態による動力装置1Fについて説明する。この動力装置1Fは、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置91の構成と、各種の回転要素の間の連結関係と、減速ギヤ機構5に代えて、増速ギヤ機構92を備えることとが主に異なっている。図38〜図42において、第1実施形態と同様の構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置91の各種のギヤの歯数の設定や、キャリヤCの構成については、後述するように第1実施形態と異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置91の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第1実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・キャリヤCが、円板状の第1側板、第1側板と軸線方向に並んだドーナツ板状の第2側板、及び両者の間に設けられた第1及び第2ピニオン軸を一体に有し、第1及び第2ピニオン軸に、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPがそれぞれ自転自在かつ公転自在に支持されていること
・第1及び第2サンギヤS1、S2の位置関係、ならびに、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の位置関係が、それぞれ左右逆になっていること
・第1サンギヤS1が、ピニオンギヤPに代えて、第1ピニオンギヤP1に噛み合っており、第1リングギヤR1が、第1ピニオンギヤP1に代えて、ピニオンギヤPに噛み合っていること
・第1サンギヤS1が、第1回転軸11に代えて、第2回転軸12に一体に回転自在に設けられていること
・第2サンギヤS2が、第2回転軸12に代えて、第1回転軸11に一体に回転自在に設けられていること
また、上記の増速ギヤ機構92は、第1サンギヤS1からの回転動力を、その回転方向を逆方向に変更するとともに増速した状態で出力するものであり、平行ギヤ機構で構成されている。増速ギヤ機構92は、第1サンギヤS1と一体の第2回転軸12の他端部に一体に設けられた第1ギヤ92aと、第1ギヤ92aに噛み合う第2ギヤ92bと、第2ギヤ92bと一体の第3ギヤ92cと、第3ギヤ92cに噛み合うアイドラギヤ92dと、アイドラギヤ92dに噛み合う第4ギヤ92eを有している。
第2及び第3ギヤ92b、92cは支軸92fに、アイドラギヤ92dは支軸92gに、それぞれ回転自在に支持されており、これらの支軸92f、92gは、ケースCAに取り付けられるとともに、第1及び第2回転軸11、12と平行に延びている。また、第4ギヤ92eは、軸受け(図示せず)に回転自在に支持された中空の回転軸92hの一端部に、一体に設けられており、回転軸92hと一体に回転自在である。回転軸92hの内側には、右駆動軸SRが回転自在に同軸状に配置されている。以上の構成の増速ギヤ機構92では、第1サンギヤS1の回転動力は、第2回転軸12、第1〜第3ギヤ92a〜92c、アイドラギヤ92d及び第4ギヤ92eを介して、その回転方向が逆方向に変更されるとともに増速した状態で回転軸92hに伝達される。
また、動力装置1Fの第2クラッチ7は、回転軸92hと右駆動軸SRとの間を接続/遮断するように構成されている。第1及び第2クラッチ6、7では、スリーブ9が図38に示す中立位置に位置しているときには、第1回転軸11及び回転軸92hと右駆動軸SRとの間が遮断される。また、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第1クラッチ6のドグ歯6a側に駆動されると、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、回転軸92hと右駆動軸SRとの間が遮断される。一方、アクチュエータ10によりスリーブ9が中立位置から第2クラッチ7のドグ歯7a側に駆動されると、回転軸92hと右駆動軸SRとの間が接続されるとともに、第1回転軸11と右駆動軸SRとの間が遮断される。
ここで、第1〜第4ギヤ92a〜92c及び92eの歯数をそれぞれ、Z92a、Z92b、Z92c、及びZ92eとすると、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1リングギヤR1の歯数ZR1、ならびに第1〜第4ギヤ92a〜92c、92eの歯数Z92a〜Z92c、Z92eは、例えば、次式(21)及び(22)が成立するように、設定されている。
ZP2/ZS2=2(ZP1/ZR1) ……(21)
Z92b×ZP1/(Z92a×ZR1)
=(Z92b/Z92a−ZP1/ZR1)Z92c/Z92e ……(22)
また、動力装置1Fでは、第1実施形態と同様、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7がECU2により制御されることによって、例えば4WDモード及びTVモードによる動作が実行される。以下、図39〜図42を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図39は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Fの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、第2サンギヤS2とともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸92hと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、第2サンギヤS2の回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、キャリヤCの回転数は、左車輪WLの回転数と等しく、第1サンギヤS1の回転数は、第1ギヤ92aの回転数と等しい。
さらに、第1ギヤ92aの回転動力は、第2及び第3ギヤ92b、92cならびにアイドラギヤ92dを介して、その回転方向が逆方向に変更されるとともに増速した状態で第4ギヤ92eに伝達される。また、ギヤ3b及びギヤ13による変速を無視すれば、回転電機3の回転数は、第1リングギヤR1の回転数と等しい。さらに、遊星歯車装置91における各種のギヤの噛み合いと、前述した各種のギヤの歯数の設定とにより、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。
以上により、4WDモード中、動力装置1Fにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図39の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図39のa7、b7、c7、d7及びe7の間に、次式(23)及び(24)で示す関係が成立する。
a7=b7 ……(23)
a7:c7=d7:e7 ……(24)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(23)に示すように、共線図における第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線とキャリヤCの回転数を表すための縦線との間の距離a7と、第1リングギヤR1の回転数を表すための縦線と第2サンギヤS2の回転数を表すための縦線との間の距離b7は、互いに等しい。このため、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、キャリヤC及び第2サンギヤS2を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。さらに、図39から明らかなように、遊星歯車装置91はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。
なお、第1実施形態の場合と同様、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合には、図39に示すように、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動される一方、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動される。また、図39から明らかなように、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図40は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数を示している。TVモード中(車両の直進中及び後述する旋回中を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及び第2サンギヤS2と右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸92hが、第4ギヤ92eとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ92eの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中には、第1実施形態と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。
前記式(24)と図40から明らかなように、キャリヤC及び第1リングギヤR1の回転数差と、第1リングギヤR1及び第1サンギヤS1の回転数差との比(a7:c7)が、第4ギヤ92e及びケースCAの回転数差(=第4ギヤ92eの回転数)と、ケースCA及び第1サンギヤS1の回転数差(=第1サンギヤS1の回転数)との比(d7:e7)と等しい。また、車両の直進中には、左右の車輪WL、WRの回転数は互いに等しくなり、キャリヤCの回転数及び第4ギヤ92eの回転数は互いに等しくなる。以上により、TVモード中で、かつ車両の直進中、第1リングギヤR1の回転数及び回転電機3の回転数は、不動のケースCAと同じく値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図41は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である右車輪WRの回転数と旋回内輪である左車輪WLの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は、逆転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中には、車両の左旋回をアシストすべく、左右の車輪WL、WRの間にトルク差を発生させるために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。
図41から明らかなように、第1リングギヤR1に対して逆転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第1サンギヤS1に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、逆転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ92aに伝達されたTS1は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2、第3ギヤ92b、92c及びアイドラギヤ92dを介して第4ギヤ92eに反力を発生させ、その回転方向が逆方向に変更されるとともに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
また、図42は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、旋回外輪である左車輪WLの回転数と旋回内輪である右車輪WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は、正転方向になる。また、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中には、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。
図42から明らかなように、第1リングギヤR1に対して正転方向に作用する回転電機3のトルクTMにより、キャリヤCと第1サンギヤS1に反力が生じ、キャリヤC(左車輪WL)に、正転方向に回転させるようなトルクが作用する。また、第1ギヤ92aに伝達されたトルクTS1は、ケースCAに反力を発生させるとともに、第2、第3ギヤ92b、92c及びアイドラギヤ92dを介して第4ギヤ92eに反力を発生させ、その回転方向が逆方向に変更されるとともに増速された状態で、右車輪WRに伝達される。以上により、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左右の旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪に正転方向のトルクが、旋回外輪に逆転方向のトルクが、それぞれ伝達されることによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図41及び図42に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第7実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第7実施形態における遊星歯車装置91が本発明における差動装置に相当するとともに、第7実施形態におけるキャリヤC、第1リングギヤR1、第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。また、第7実施形態における増速ギヤ機構92及び第4ギヤ92eが、本発明における変速機構及び出力部にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第7実施形態によれば、キャリヤCの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第1サンギヤS1の回転数及び第2サンギヤS2の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように、遊星歯車装置91が構成されており、第1リングギヤR1が回転電機3に、キャリヤCが左車輪WLに、それぞれ機械的に連結されている。また、第1サンギヤS1からの回転動力が、増速ギヤ機構92によって、その回転方向を逆方向に変更するとともに増速した状態で第4ギヤ92eに出力される。さらに、第2サンギヤS2と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第1クラッチ6によって接続/遮断される。また、第4ギヤ92eと右車輪WRとの間が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。すなわち、第4ギヤ92eを介した第1サンギヤS1と右車輪WRとの間の回転動力の伝達が、第2クラッチ7によって接続/遮断される。
また、図39を参照して説明したように、4WDモード中、回転電機3から遊星歯車装置91を介して左右の車輪WL、WRに、互いに同じ方向のトルクを伝達することができる。この場合、前述した従来の動力装置と異なり、トルクの方向を逆方向に変更するための第1伝達機構を用いずに、回転電機3のトルクを左右の車輪WL、WRに伝達できるため、その分、効率を高めることができる。
また、前記式(21)を参照して説明したように、第2サンギヤS2の歯数ZS2に対する第2ピニオンギヤP2の歯数ZP2の比を、第1リングギヤR1の歯数ZR1に対する第1ピニオンギヤP1の歯数ZP1の比の2倍に設定するだけで、4WDモード中、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクを、キャリヤC及び第2サンギヤS2を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達することができる。
一方、前述した従来の動力装置では、本発明の4WDモードに対比されるドライブモード中、回転電機から右車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数と、左車輪へのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数との差は、2である。
これに対して、第7実施形態によれば、4WDモード中、回転電機3から左車輪WLへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、ギヤ3bとギヤ13の噛合いを無視すると、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、及びピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合いの計2つである。また、右車輪WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数は、第1リングギヤR1とピニオンギヤPの噛合い、ピニオンギヤPと第1ピニオンギヤP1の噛合い、及び第2ピニオンギヤP2と第2サンギヤS2の噛合いの計3つであって、その差は1である。このように、回転電機3から左右の車輪WL、WRへのトルクの伝達経路におけるギヤの噛合い数の差が、従来の動力装置のそれよりも小さいので、回転電機3からのトルクを左右の車輪WL、WRに、より均等に伝達することができる。
さらに、図41及び図42を参照して説明したように、TVモード中で、かつ車両の旋回中、回転電機3から遊星歯車装置91及び増速ギヤ機構92を介して左右の車輪WL、WRに、互いに逆方向のトルクを伝達することができる。また、TVモード中で、かつ車両の直進中、図40を参照して説明したように、前記式(22)による各種のギヤの歯数の設定によって、回転電機3の回転数を値0にすることができるので、車両の直進中で左右の車輪WL、WRの間にトルク差を積極的に発生させる必要がないときに、回転電機3の引きずりによる損失を抑制することができる。また、図41及び図42から明らかなように、TVモード中、左右の車輪WL、WRの回転数が互いに異なっているときに、回転電機3の回転数を比較的低く抑えることができる。
さらに、第1実施形態と同様、遊星歯車装置91の2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPに潤滑油を適切に供給でき、それにより遊星歯車装置91の適正な動作を確保することができる。
次に、図43〜図47を参照しながら、本発明の第8実施形態による動力装置1Gについて説明する。この動力装置1Gは、第7実施形態(図38)と比較して、遊星歯車装置101の構成及び各種の回転要素の間の連結関係が主に異なっている。図43において、第1及び第7実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。なお、遊星歯車装置101及び増速ギヤ機構92の各種のギヤの歯数の設定などについては、後述するように第1及び第7実施形態のそれらとそれぞれ異なっているものの、説明の便宜上、各種の構成要素に対して、第1及び第7実施形態の対応する構成要素と同じ符号を付している。以下、第1及び第7実施形態と異なる点を中心に説明する。
遊星歯車装置101の構成及び各種の回転要素の間の連結関係は、第7実施形態と比較して、次の事項が異なっている。
・キャリヤCが、円板状のフランジ、第1及び第2ピニオン軸を一体に有しており、第1及び第2ピニオン軸に、2連ピニオンギヤDP及びピニオンギヤPがそれぞれ自転自在かつ公転自在に支持されていること
・第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の位置関係が、左右逆になっており、ピニオンギヤPが、第1リングギヤR1に代えて、第1サンギヤS1に噛み合っていること
・第2サンギヤS2に代えて、第2ピニオンギヤP2に噛み合う第2リングギヤR2を有していること
・第1サンギヤS1が、第2回転軸12に代えて、第1回転軸11に一体に回転自在に設けられており、第2リングギヤR2が、第2回転軸12に一体に回転自在に設けられていること
また、第1サンギヤS1の歯数ZS1、第1及び第2ピニオンギヤP1、P2の歯数ZP1、ZP2、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2、ならびに、第1〜第4ギヤ92a〜92c、92eの歯数Z92a〜Z92c、Z92eは、例えば、前記式(1)と次式(25)が成立するように、設定されている。
Z92b×ZP1/(Z92a×ZR1)
=(ZP2/ZR2−ZP1/ZR1)Z92c/Z92e ……(25)
さらに、動力装置1Gでは、第1実施形態と同様、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7がECU2により制御されることによって、例えば4WDモード及びTVモードによる動作が実行される。以下、図44〜図47を参照しながら、これらの動作モードについて説明する。
図44は、4WDモード中で、かつ車両の直進中における動力装置1Gの各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。4WDモード中、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11が、第1サンギヤS1とともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続されるとともに、回転軸92hと右駆動軸SRとの間が遮断される。これにより、第1サンギヤS1の回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。また、前述した連結関係から明らかなように、キャリヤCの回転数は、左駆動軸SL(左車輪WL)の回転数と等しく、第2リングギヤR2の回転数は、第1ギヤ92aの回転数と等しい。
さらに、遊星歯車装置101における各種のギヤの噛み合いと、前述した各種のギヤの歯数の設定とにより、キャリヤの回転数、第1リングギヤR1の回転数、第2リングギヤR2の回転数、及び第1サンギヤS1の回転数は、それらの関係を表す共線図において、単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係にある。その他の各種の回転要素の回転数の関係は、第7実施形態(図39参照)と同様である。
以上により、4WDモード中、動力装置1Gにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図44の共線図のように表される。また、前述した各種のギヤの歯数の設定によって、図44のa8、b8、c8、d8及びe8の間に、次式(26)及び(27)で示す関係が成立する。
a8=b8 ……(26)
a8:c8=d8:e8 ……(27)
また、4WDモード中、回転電機3で力行が行われる。上記式(26)と、図39と図44との比較から明らかなように、回転電機3から第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、キャリヤC及び第1サンギヤS1を介して、1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達され、それにより左右の車輪WL、WRが駆動される。また、遊星歯車装置101はディファレンシャルギヤとして機能し、左右の車輪WL、WRは差回転可能である。さらに、4WDモード中、回転電機3から正転方向の回転動力を出力した場合には、図44に示すように、左右の車輪WL、WRは、正転方向に回転するように駆動され、回転電機3から逆転方向の回転動力を出力した場合には、逆転方向に回転するように駆動される。また、第7実施形態と同様、例えば車両の減速走行中に、左右の車輪WL、WRの回転動力を用いて、回転電機3で回生を行うことができる。
また、図45は、前記TVモード中で、かつ車両の前方への直進中における各種の回転要素の間の回転数を示している。TVモード中(車両の直進中及び後述する旋回中を含む)、第1及び第2クラッチ6、7によって、第1回転軸11及び第1サンギヤS1と右車輪WRとの間が遮断されるとともに、回転軸92hが、第4ギヤ92eとともに右駆動軸SR(右車輪WR)に接続される。これにより、第4ギヤ92eの回転数は、右車輪WRの回転数と等しくなる。
また、TVモード中で、かつ車両の直進中には、第1実施形態の場合と同様、バッテリ16と回転電機3との間の電力の授受が停止される。前記式(27)と図45から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の前方への直進中、第1リングギヤR1の回転数及び回転電機3の回転数は値0になり、左右の車輪WL、WRから回転電機3に回転動力が伝達されない。なお、TVモード中で、かつ車両の後方への直進中においても、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前方への直進中の場合と同様に制御することによって、上述した動作が同様に得られる。
さらに、図46は、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、左右の車輪WL、WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は逆転方向になり、車両の左旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から逆転方向の回転動力が出力される。図46と、第7実施形態で説明した図41との比較から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の前進時の左旋回中、回転電機3から、旋回外輪である右車輪WRに正転方向のトルクが、旋回内輪である左車輪WLに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に左回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の左旋回がアシストされる。
また、図47は、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。この場合、左右の車輪WL、WRの回転数の関係によって定まる第1リングギヤR1及び回転電機3の回転方向は正転方向になり、車両の右旋回をアシストするために、回転電機3で力行が行われるとともに、回転電機3から正転方向の回転動力が出力される。図47と、第7実施形態で説明した図42との比較から明らかなように、TVモード中で、かつ車両の前進時の右旋回中、回転電機3から、旋回外輪である左車輪WLに正転方向のトルクが、旋回内輪である右車輪WRに逆転方向のトルクが、それぞれ伝達され、それにより車両に右回りのヨーモーメントが発生することによって、車両の右旋回がアシストされる。
なお、TVモード中で、かつ車両の前進時の左右の旋回中、回転電機3で回生を行ってもよく、その場合には、旋回内輪に正転方向のトルクが、旋回外輪に逆転方向のトルクが、それぞれ伝達されることによって、車両のオーバーステアが抑制される。
また、TVモード中で、かつ車両の後退時の左右の旋回中には、各種の回転要素の回転方向は図46及び図47に示す回転方向と逆方向になり、回転電機3、第1及び第2クラッチ6、7を上述した前進時の左右の旋回中の場合と同様に制御することによって、車両の旋回アシストや、車両のオーバーステアの抑制が行われる。
また、第8実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第8実施形態における遊星歯車装置101が本発明における差動装置に相当するとともに、第8実施形態におけるキャリヤC、第1リングギヤR1、第2リングギヤR2及び第1サンギヤS1が、本発明における第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1及び第7実施形態と同様である。
以上により、第8実施形態によれば、第7実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
なお、本発明は、説明した第1〜第8実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明における差動装置としての遊星歯車装置4、31、41、61、71、81、91、101の構成として、前述した説明から明らかなように、シングルピニオンタイプ及びダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を一体化し、両遊星歯車装置のキャリヤを共通化するとともに、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成を採用しているが、他の適当な構成、例えば次のような構成を採用してもよい。
・2つのシングルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を一体化し、キャリヤを共通化するとともに、いずれかの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・2つのシングルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を噛み合わせ、キャリヤを共通化するとともに、いずれかの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・シングルピニオンタイプ及びダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を一体化し、キャリヤを共通化するとともに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・シングルピニオンタイプ及びダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を噛み合わせ、キャリヤを共通化するとともに、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・シングルピニオンタイプ及びダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々のピニオンギヤ同士を噛み合わせ、キャリヤを共通化するとともに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・2つのダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々の1つのピニオンギヤ同士を一体化し、キャリヤを共通化するとともに、いずれかの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
・2つのダブルピニオンタイプの遊星歯車装置の各々の1つのピニオンギヤ同士を噛み合わせ、キャリヤを共通化するとともに、いずれかの遊星歯車装置のサンギヤ及びリングギヤの一方を削除した構成
なお、4WDモード中、回転電機3からのトルクを1:1の分配比で左右の車輪WL、WRに伝達する上では、遊星歯車装置の構成として、実施形態で説明した構成を採用するのが好ましい。また、第5及び第6実施形態に関し、上述したような遊星歯車装置の構成を採用することによって、図30及び図35のa5及びa6がそれぞれc5及びc6よりも大きくなるような場合には、本発明における変速機構として、減速ギヤ機構72ではなく、第4回転要素からの回転動力を、その回転方向を逆方向に変更するとともに増速した状態で出力部に出力する変速機構が用いられる。さらに、第7及び第8実施形態に関し、上述したような遊星歯車装置の構成を採用することによって、図40及び図45のa7及びa8がそれぞれc7及びc8よりも小さくなるような場合には、本発明における変速機構として、増速ギヤ機構92ではなく、第3回転要素からの回転動力を、その回転方向を逆方向に変更するとともに減速した状態で出力部に出力する変速機構が用いられる。
さらに、本発明における差動装置として、上述したように構成された遊星歯車装置のみならず、例えば、ベベルギヤタイプのディファレンシャルギヤのデフケースと、シングルピニオンタイプ又はダブルピニオンタイプの遊星歯車装置のサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤのいずれか1つを互いに一体化するとともに、ディファレンシャルギヤのサイドギヤと、サンギヤ、キャリヤ及びリングギヤの他の1つを互いに一体化した差動装置を用いてもよい。
また、実施形態では、本発明における変速機構として、平行軸ギヤタイプの減速ギヤ機構5、72及び増速ギヤ機構42、92を用いているが、他の適当な変速機構、例えば、遊星歯車装置で構成されたものなどを用いてもよい。さらに、実施形態では、各種のギヤの歯数を、TVモード中で、かつ車両の直進中に、回転電機3の回転数が値0になるように設定しているが、必ずしも値0にならなくてもよく、回転電機3の回転数が比較的低くなるように設定してもよい。また、実施形態では、本発明における第1及び第2接断機構として、ドグクラッチである第1及び第2クラッチ6、7を用いているが、他の適当な接断機構、例えば、摩擦式のクラッチや、磁性粉体を用いた電磁式のクラッチなどを用いてもよい。
さらに、第1〜第4実施形態では、第2クラッチ7を、本発明における出力部に相当する第4ギヤ5d、42dと、本発明における第2被駆動部に相当する右車輪WRに連結された右駆動軸SRとの間に設けているが、出力部を介した第3及び第4回転要素の他方と第2被駆動部との間の回転動力の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。例えば、これらの実施形態を代表して第1実施形態について説明すると、第3及び第4回転要素の他方に相当する第2サンギヤS2と第1ギヤ5a、42aとの間や、第2ギヤ5b、42bと第3ギヤ5c、42cとの間に設けてもよい。
また、第5〜第8実施形態では、第2クラッチ7を、本発明における出力部に相当する第4ギヤ72e、92eと、本発明における第2被駆動部に相当する右車輪WRに連結された右駆動軸SRとの間に設けているが、出力部を介した第3及び第4回転要素の一方と第2被駆動部との間の回転動力の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。例えば、これらの実施形態を代表して第5実施形態について説明すると、第3及び第4回転要素の一方に相当する第2サンギヤS2と第1ギヤ72aとの間や、第2ギヤ72bと第3ギヤ72cとの間に設けてもよい。
さらに、実施形態では、本発明における動力源として、回転電機3を用いているが、他の適当な動力源、例えば油圧モータなどを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における第1及び第2被駆動部はそれぞれ、左右の車輪であるが、これとは逆に右車輪及び左車輪でもよく、あるいは、例えば、前後輪駆動式の車両における前輪及び後輪にそれぞれ駆動力を伝達するための前後の駆動軸や、船舶の2つのスクリューなどでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。