図1は、本発明の実施において好適な超音波医用装置の全体構成図である。図1の超音波医用装置(本超音波医用装置)は、複合型の超音波振動子10を有しており、超音波振動子10は、HIFU用振動子10Hと診断用振動子10Dを備えている。
HIFU用振動子10Hは、強力集束超音波(HIFU)を送波する振動子であり、例えば二次元的に配列された複数の振動素子を備えている。HIFU用振動子10Hは、例えば癌や腫瘍などの治療部位Pに向けて治療用超音波ビームTBを形成して強力集束超音波を送波し、その治療部位Pを加熱して治療するために利用される。
また、HIFU用振動子10Hは、治療部位Pに向けて変位用超音波ビームEBを形成して変位発生用の超音波を送波し、治療部位Pにおいて放射力を発生させ組織を変位させる。変位用超音波ビームEBは、治療部位Pにおいて有効な放射力を発生させる程度の強度で形成されるビームであり、例えば、治療用超音波ビームTBを変位用超音波ビームEBとして利用してもよい。もちろん、治療用超音波ビームTBとは異なる変位用超音波ビームEBが利用されてもよい。
一方、診断用振動子10Dは、例えば二次元的に配列された複数の振動素子を備えており、例えば治療部位Pを有する被検体(患者)に対して、超音波画像を形成するための比較的弱い超音波を送受する。つまり、公知の一般的な超音波診断装置と同じ程度の強度(エネルギー)の超音波を送受する。
また、診断用振動子10Dは、治療部位Pに向けて測定用超音波ビームMBを形成して測定用の超音波を送受し、測定用超音波ビームMBに沿って受信信号を得る。測定用超音波ビームMBに沿って得られる受信信号は、変位用超音波ビームEBの放射力による治療部位Pにおける変位の測定に利用される。
なお、超音波振動子10は、例えば、お椀(どんぶり)状に凹ませた内部の表面を振動子面とする。そして、例えば、お椀状に凹んだ内部の中央に位置する底の部分に診断用振動子10Dが設けられ、診断用振動子10Dを取り囲むようにHIFU用振動子10Hが設けられる。なお、超音波振動子10の振動子面の形状は、お椀状に限定されず、例えば治療の用途等に応じた形状とされることが望ましい。また、全ての振動素子またはいくつかの振動素子が、HIFU用と診断用の両用途に併用されてもよい。
測定診断ブロック20は、診断用振動子10Dの送受信を制御する送受信部21を備えている。送受信部21は、診断用振動子10Dを構成する複数の振動素子の各々に対応した送信信号を出力することにより、診断用振動子10Dを制御して送信ビームを形成し、さらに、それら複数の振動素子の各々から得られる受信信号に対して整相加算処理などを施すことにより、受信ビームに沿って受信信号を得る。つまり、送受信部21は、送信部(送信ビームフォーマ)の機能と、受信部(受信ビームフォーマ)の機能を備えている。
送受信部21は、治療部位Pを含んだ三次元空間内または断面内で診断用の超音波ビームを走査させて画像用の受信信号を収集する。そして、収集された受信信号に基づいて、超音波画像形成部28が三次元の超音波画像または二次元の断層画像の画像データを形成し、その画像データに対応した超音波画像が表示部50に表示される。
医師や検査技師などのユーザは、表示部50に表示される超音波画像から、治療部位Pの位置等を確認し、図示しない操作デバイス等を利用して治療部位Pの位置情報を本超音波医用装置に入力する。もちろん、本超音波医用装置が、超音波画像に対する画像解析処理等により治療部位Pの位置を確認して位置情報を得るようにしてもよい。
また、送受信部21は、診断用振動子10Dを制御して測定用超音波ビームMBを形成し、測定用超音波ビームMBに沿って受信信号を得る。そして、変位測定部22は、測定用超音波ビームMBに沿って得られる受信信号に基づいて、治療部位Pにおける変位を測定する。また、変位成分抽出部23は、変位測定部22において測定された変位に含まれる基本波成分と各高調波成分を抽出する。さらに、変位データ処理部25は、変位成分抽出部23から得られる変位成分に基づいて変位データ(有効変位データ)を生成する。そして、凝固診断処理部26は、変位データに基づいて、被検体内の治療部位Pにおける組織の凝固状態を示す診断データを生成する。変位測定部22と変位成分抽出部23と変位データ処理部25と凝固診断処理部26により実現される具体的な処理については後に詳述する。
一方、治療放射ブロック30は、送信部32を備えており、送信部32はHIFU用振動子10Hを構成する複数の振動素子の各々に対応した送信信号を出力することにより、HIFU用振動子10Hを制御して治療用超音波ビームTBを形成する。送信部32は、制御部40によって制御され、例えば治療部位P内に焦点を設定した治療用超音波ビームTBが形成される。
また、送信部32はHIFU用振動子10Hを構成する複数の振動素子の各々に対応した送信信号を出力することにより、HIFU用振動子10Hを制御して変位用超音波ビームEBを形成する。変位用超音波ビームEBは矩形状に変調処理を施される。つまり、矩形変調処理部36において矩形波を用いて変調処理された送信信号に基づいて変位用超音波ビームEBが形成される。なお、矩形変調処理部36は制御部40により制御される。
治療用超音波ビームTBに沿って強力集束超音波(HIFU)が送波されて治療部位Pが加熱されると治療部位Pの組織が凝固する。その凝固の前後において、組織の弾性率(ヤング率)が増大することが知られている。そして、組織の弾性率の変化を知るために、本超音波医用装置は、変位用超音波ビームEBに沿って超音波を送波して放射力を発生させ、その放射力による治療部位Pにおける組織の変位を測定する。例えば、治療用超音波ビームTBが矩形状に変調処理されて変位用超音波ビームEBとして利用される。変位の測定は、測定用超音波ビームMBに沿って得られる受信信号に基づいて行われる。
なお、測定診断ブロック20内の各部と治療放射ブロック30内の各部は、それぞれ、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェアを利用して実現することができる。制御部40は、例えば、演算機能を備えたハードウェアとその動作を規定するソフトウェア(プログラム)によって構成される。表示部50は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ等により実現することができる。
また、測定診断ブロック20は、一般的な超音波診断装置により実現されてもよい。そして、治療放射ブロック30に対応した超音波治療装置と、測定診断ブロック20に対応した超音波診断装置とを組み合わせたシステムにより、本超音波医用装置が具現化されてもよい。
本超音波医用装置の全体構成は以上のとおりである。次に、本超音波医用装置により実現される機能等について説明する。なお、図1に示した構成(符号を付した各部)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
図2は、矩形状のHIFU信号による組織変位の具体例を示す図である。HIFU(強力集束超音波)信号は、変位用超音波ビームEBとして利用される治療用超音波ビームTBの送信信号であり、照射パワーが出力される振幅ON(オン)の期間と照射パワーが出力されない振幅OFF(オフ)の期間を繰り返す。HIFU信号は、矩形変調処理部36において矩形波を用いて変調処理された送信信号である。例えば周波数2MHz(メガヘルツ)程度の連続波を矩形波の変調信号で振幅変調処理することにより、図2のHIFU信号が得られる。矩形波の変調信号の基本周波数f0は、例えば30〜200Hz(ヘルツ)程度であり、望ましくは100Hz以下である。
組織変位は、HIFU信号の照射に伴う組織の変位の具体例を示している。図2のHIFU信号に基づく治療用超音波ビームTB(変位用超音波ビームEB)が超音波振動子10から治療部位Pに向けて送波されると、治療用超音波ビームTB(変位用超音波ビームEB)の放射力により、例えば図2の組織変位に従って治療部位Pの組織が変位する。
つまり、照射パワーが出力される振幅ONの期間において、HIFU(治療用超音波ビームTB=変位用超音波ビームEB)の放射力により、超音波振動子10から遠ざかる方向である+方向(正方向)に組織が押され、また照射パワーが出力されない振幅OFFの期間において超音波振動子10に近づく方向である−方向(負方向)に組織が戻される。
これにより、図2に示すように、HIFU信号の振幅ONの期間に対応して+方向(深い側)に変位し、HIFU信号の振幅OFFの期間に対応して組織が−方向(浅い側)に変位する組織変位が得られる。なお、HIFU信号の振幅ON/OFFの変化タイミングから、例えば超音波の伝播時間等による遅延(ディレイ)を伴って、組織変位が+方向と−方向に変化する場合もある。
図1の超音波医用装置(本超音波医用装置)は、変位用超音波の振幅がオフの期間に対応した組織の変位から有効変位データ(有効な変位データ)を得る。つまり、図2において、HIFU信号の振幅OFFの期間における組織変位から有効変位データが得られる。図1の超音波医用装置は、例えば、以下に説明する動作例により、HIFU信号の振幅OFFの期間における組織変位から有効変位データを得る。
図3から図5は、本超音波医用装置の動作例1(パターン1からパターン3)を示すタイミングチャートである。図3から図5の各図において、メイントリガは、強力集束超音波(HIFU)による治療の開始タイミングを示す信号であり、例えば、医師等のユーザによる治療開始の操作に応じて、制御部40から超音波医用装置内の各部へ出力される。
フレームトリガは、測定用超音波ビームMBのフレーム(測定用フレーム)開始を示す信号である。送受信部21は、例えばフレームトリガの立ち下がりごとに開始される各フレーム期間において、治療部位Pに向けて複数本の測定用超音波ビームMBを順に形成する。例えば、各フレーム期間ごとに(フレームトリガの立下がりごとに)、治療部位Pに向けて、位置をずらしつつ10本程度〜100本程度の測定用超音波ビームMBが次々に形成されて1つのフレームが形成される。なお、測定用超音波ビームMB(送信ビームと受信ビームの組)を形成する際に1本の送信ビームに対して複数(例えば2本)の受信ビームが形成されてもよい。
加熱期間信号は、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理期間を示す信号であり、加熱期間信号の立ち上がりから立下りまでの期間において、例えば治療部位Pを焦点として治療用超音波ビームTBが形成される。
変調信号は、治療用超音波ビームTB(=変位用超音波ビームEB)の変調処理に利用される矩形波の変調信号である。また、HIFU信号は、治療用超音波ビームTB(=変位用超音波ビームEB)の送信信号であり、矩形変調処理部36が例えば周波数2MHz程度の連続波を矩形波の変調信号に従って振幅変調することにより得られる。そして、組織変位は、HIFU信号の照射に伴う組織の変位の具体例(図2参照)を示している。
図3に示す動作例1のパターン1では、HIFU信号の振幅がOFFとなる各期間ごとに複数フレームで変位が計測される。また、HIFU信号の振幅がOFFとなる複数の期間において、同じ位相に対応した変位が繰り返し計測される。例えば図3に示すように、HIFU信号の振幅がOFFとなる期間1〜4の各期間ごとに、複数のフレームトリガが発生して複数フレームで変位が計測される。そして、複数の期間1〜4において、位相θ1,θ2,θ3,θ4,θ5の各々に対応した変位が繰り返し計測される。
これに対し、図4に示す動作例1のパターン2は、HIFU信号の振幅がOFFとなる各期間ごとに複数フレームで変位が計測される点はパターン1(図3)と同じであるが、図4のパターン2では、HIFU信号の振幅がOFFとなる複数の期間において、位相をずらしながら変位が繰り返し計測される。例えば、図4に示すように、HIFU信号の振幅がOFFとなる期間1〜3の各期間ごとに、フレームトリガの発生タイミングをずらしながら複数のフレームトリガが発生し、複数の期間1〜3において各期間ごとに位相をずらしながら変位が計測される。そして、例えば、複数の期間1〜3において計測された変位を位相順に並べ替えて合算処理することにより、1つの期間内の複数の位相に対応した変位の計測結果が得られる。
図5に示す動作例1のパターン3では、HIFU信号の振幅がOFFとなる各期間ごとに1フレームのみで変位が計測される。また、HIFU信号の振幅がOFFとなる複数の期間において、位相をずらしながら変位が繰り返し計測される。例えば、図5に示すように、HIFU信号の振幅がOFFとなる期間1〜4の各期間ごとに、フレームトリガの発生タイミングをずらしながら1つのフレームトリガのみが発生し、複数の期間1〜4において各期間ごとに位相をずらしながら変位が計測される。そして、例えば、複数の期間1〜4において計測された変位を位相順に並べ替えて合算処理することにより、1つの期間内の複数の位相に対応した変位の計測結果が得られる。
こうして、例えば、図3から図5に示す動作例1(パターン1からパターン3)のいずれかにより、HIFU信号の振幅がOFFとなる期間において変位が計測される。変位の計測は、各フレーム(各測定用フレーム)を構成する複数ビームの各ビームごとに実行される。つまり、各フレーム内において位置をずらしつつ10本程度〜100本程度の測定用超音波ビームMBが次々に形成され、変位測定部22は、測定用超音波ビームMBに沿って得られる受信信号に基づいて、治療部位Pにおける変位を測定する。これにより、各フレーム内において2次元的に変位が測定される。
変位測定部22は、例えば測定用超音波ビームMBの深さ方向に並ぶ複数のサンプリング点について、各サンプリング点(各深さ)ごとに変位を測定する。例えば、各サンプリング点ごとに、互いに隣り合う時相(位相)に対応したデータ同士が相互相関演算等により比較され、各サンプリング点(各深さ)ごとに変位が算出される。例えば図3の具体例であれば、位相θ1と位相θ2に対応したデータが比較され、位相θ2と位相θ3に対応したデータが比較され、位相θ3と位相θ4に対応したデータが比較され、位相θ4と位相θ5に対応したデータが比較される。また、例えば、深さ方向に並ぶ1024個のサンプリング点について、相関演算の相関窓を64サンプリング点として、各サンプリング点ごとに変位が算出される。
また、例えば加熱治療前の基準となる時相と最新時相との比較により変位が算出されてもよい。例えば、HIFUが照射される前の基準時相における組織の位置を定常位置(変位ゼロの基準位置)とし、基準時相と各時相(各位相)に対応したデータ同士が相互相関演算等により比較され、各時相(各位相)に対応した変位が算出されてもよい。なお、変位の算出に先立って、必要に応じて、ベースバンド除去処理やノイズ除去処理などが行われてもよい。
そして、変位測定部22は、各深さ(各サンプリング点)ごとに測定された複数時相(複数位相)の変位から、各深さごとにその深さに対応した変位量を導出する。例えば、各深さごとに変調信号(矩形波)の1周期以上に亘って得られた変位の変化から、その変位の二乗平均平方根(RMS)つまり実効値を算出し、その実効値をその深さの変位量とする。
図3から図5を利用して説明した動作例1では、HIFU信号の振幅OFFの期間に対応して組織が負方向側(浅い側)に変位する組織変位のみを計測しているが、次式を利用することにより、負方向側の変位のみでも変位の二乗平均平方根(RMS)である変位量を算出することができる。
数1式において、Xiはi番目(iは自然数)の位相における変位であり、自然数Nは二乗平均平方根(RMS)を得るために利用される変位のサンプル総数である。例えば数1式を利用することにより、負方向側(半周期)の変位Xiのみでも、組織の変位量を算出することができる。なお、HIFU信号の振幅ON/OFFの変化タイミングから遅延を伴って組織変位が正方向側と負方向側に変化する場合もあるが、数1式を利用した組織の変位量の算出に問題はない。
ちなみに、正弦波に関するRMS振幅は次式により算出される。次式(数2式)では、T=2π/ωであり、正弦波の1周期(0〜T)を積分区間としてRMS振幅(Xrms)を算出しているが、正弦波の半周期(0〜T/2またはT/2〜T)を積分区間としてRMS振幅(Xrms)を算出しても1周期(0〜T)の場合と同じ値となる。
変位測定部22により組織の変位が測定されると、変位データ処理部25により、HIFU信号の振幅OFFの期間に対応した組織の変位である有効変位が得られる。なお、図3から図5を利用して説明した動作例1では、HIFU信号の振幅OFFの期間のみで組織の変位が測定されるため、変位測定部22により測定された組織の変位がそのまま有効変位となる。
変位成分抽出部23は、変位測定部22において測定された変位に含まれる基本波成分と各高調波成分を抽出する。変位成分抽出部23は、変位量(RMS)を算出する前の変位、つまり、各深さ(各サンプリング点)ごとに測定された複数時相(複数位相)の変位から、例えば各深さごとに基本波成分(1次成分),2次高調波成分,3次高調波成分,4次高調波成分,5次高調波成分などを抽出する。
変位成分抽出部23は、例えば、各深さごとに測定された複数時相の変位をFFT変換して各振動成分(基本波成分,2次高調波成分,3次高調波成分,・・・)を分別し、これにより得られた各振動成分に対して逆FFT変換処理を施すことにより、各振動成分の変位信号(時間変化信号)を得る。さらに、各振動成分の変位信号から、各振動成分ごとに変位の二乗平均平方根(RMS)である変位量が算出されてもよい。
また、変位成分抽出部23は、例えば、各深さごとに測定された複数時相の変位をFFT変換して各振動成分を分別し、これにより得られた各振動成分の絶対値、つまり各振動成分の振幅スペクトルを算出し、各振動成分の振幅スペクトルから各振動成分の変位量(例えばRMS)を算出してもよい。
図1の超音波医用装置は、矩形状に変調処理されたHIFU信号を利用して組織を変位させている(図2等参照)。矩形波には、基本周波数に対応した基本波成分の他に各高調波成分も含まれている。そのため、矩形状に変調処理されたHIFU信号を利用して組織を変位させることにより、組織の変位にも、基本周波数に対応した基本波成分の他に各高調波成分が生じやすい。つまり、矩形状に変調処理されたHIFU信号を利用する図1の超音波医用装置は、組織変位に含まれる各振動成分(基本波成分,2次高調波成分,3次高調波成分,・・・)の抽出に適している。そして、矩形波のデューティ比を制御することにより、その矩形波に含まれる各振動成分の大きさを調整することができる。
図6から図9は、矩形波のデューティ比ごとにその矩形波に含まれる各振動成分の大きさを示している。なお、図6から図9におけるデューティ比(50,60,70,80パーセント)は、矩形波であるHIFU信号の1周期内における振幅オン期間(図2参照)の割合である。
図6から図9において、基本周波数に対応した基本波成分(1次成分)は、矩形波のデューティ比が50パーセントで最大となり、デューティ比が大きくなるに従って小さくなる。また、3次高調波成分(3次成分)と5次高調波成分(5次成分)もデューティ比が50パーセントで最大となる。したがって、例えば、組織変位に含まれる基本波成分と3次高調波成分と5次高調波成分に注目した診断を行いたい場合には、つまり変位成分抽出部23により組織変位に含まれる基本波成分と3次高調波成分と5次高調波成分の少なくとも一つを抽出する場合には、矩形変調処理部36において変調処理に利用される矩形波のデューティ比を50パーセントに設定することが望ましい。
これに対し、2次高調波成分(2次成分)と4次高調波成分(4次成分)と6次高調波成分(6次成分)は、矩形波のデューティ比が50パーセントの場合にゼロとなる。したがって、例えば、組織変位に含まれる偶数次成分に注目した診断を行いたい場合には、矩形変調処理部36において変調処理に利用される矩形波のデューティ比を50パーセントから変化させることが望ましい。ちなみに、図6から図9において、2次高調波成分(2次成分)はデューティ比が80パーセントと70パーセントで最大となり、4次高調波成分(4次成分)はデューティ比が60パーセントと70パーセントと80パーセントで最大となり、6次高調波成分(6次成分)はデューティ比が60パーセントで最大となる。
このように、変位成分抽出部23により抽出される周波数成分に応じて、矩形状に振幅のオンとオフを周期的に繰り返すHIFU信号の1周期内におけるオン期間とオフ期間の比率(デューティ比)を決定することが望ましい。次に、図1の超音波医用装置の動作例2について説明する。
図10は、本超音波医用装置の動作例2を示すタイミングチャートである。メイントリガは、強力集束超音波(HIFU)による治療の開始タイミングを示す信号であり、例えば、医師等のユーザによる治療開始の操作に応じて、制御部40から本超音波医用装置内の各部へ出力される。
フレームトリガは、測定用超音波ビームMBのフレーム(測定用フレーム)開始を示す信号である。送受信部21は、例えばフレームトリガの立ち下がりのタイミングから次のフレームトリガの立ち上がりのタイミングまでの測定期間において、治療部位Pに向けて複数本の測定用超音波ビームMBを順に形成する。例えば、時間的に隣接する2つのフレームトリガ間において、治療部位Pに向けて、位置をずらしつつ10本程度〜100本程度の測定用超音波ビームMBが次々に形成される。なお、測定用超音波ビームMB(送信ビームと受信ビームの組)を形成する際に1本の送信ビームに対して複数(例えば2本)の受信ビームが形成されてもよい。
加熱期間信号は、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理期間を示す信号であり、加熱期間信号の立ち上がりから立下りまでの期間において、例えば治療部位Pを焦点として治療用超音波ビームTBが形成される。
変調信号は、治療用超音波ビームTB(=変位用超音波ビームEB)の変調処理に利用される矩形波の変調信号である。また、HIFU信号は、治療用超音波ビームTB(=変位用超音波ビームEB)の送信信号であり、矩形変調処理部36が例えば周波数2MHz程度の連続波を矩形波の変調信号に従って振幅変調することにより得られる。
図10の動作例2においても、変位測定部22は、例えば隣接する測定用フレーム間における相互相関演算により変位を測定する。変位測定部22は、測定用フレームを構成する複数の測定用超音波ビームMBについて、各測定用超音波ビームMBごとに、その測定用超音波ビームMBから得られる受信信号データに基づいて変位を測定する。変位は、例えば各測定用超音波ビームMBの深さ方向に並ぶ複数のサンプリング点について、各サンプリング点(各深さ)ごとに測定される。例えば、各サンプリング点ごとに、隣接する測定用フレーム間における相互相関演算により、深さ方向の変位量が算出される。例えば、深さ方向に並ぶ1024個のサンプリング点について、相関演算の相関窓を64サンプリング点として、各サンプリング点ごとに変位量が算出される。なお、例えば加熱治療前の基準となる時相と最新時相(変位測定の対象となる時相)との比較により変位が測定されてもよい。また、変位の算出に先立って、必要に応じて、ベースバンド除去処理やノイズ除去処理などが行われてもよい。
図10の動作例2では、メイントリガの直後から、例えば測定期間T1,T2,T3,・・・の順に複数の測定期間(例えば複数に亘って一定)が繰り返される。そのため、測定期間によっては、HIFUが照射されている期間(HIFU有)を含むものがある。例えば図10に示す例において、測定期間T1,T4,T5は期間内の全てにおいてHIFUが照射されており、測定期間T2は期間内の一部においてHIFUが照射されている。なお、測定期間T3,T6期間内の全てにおいてHIFUが照射されていない(HIFU無)。
図11は、動作例2(図10)で得られる測定用フレームの具体例を示す図である。図11(A)は、期間内の全てにおいてHIFUが照射された測定期間の測定用フレームを示している。図11(A)では、測定用フレームを構成する全てのビーム(測定用超音波ビームMB)に対応した全ラインがHIFU有の期間に得られている。
図11(B)は、期間内の一部においてHIFUが照射された測定期間の測定用フレームを示している。図11(B)では、測定用フレームを構成する全てのビームに対応した全ラインのうちの一部がHIFU有の期間に得られており、他の一部がHIFU無の期間に得られている。
そして、図11(C)は、期間内の全てにおいてHIFUが照射されていない測定期間の測定用フレームを示している。図11(C)では、測定用フレームを構成する全てのビームに対応した全ラインがHIFU無の期間に得られている。
HIFUが照射されているHIFU有の期間では、測定用超音波ビームMBの受信信号データがHIFU(強力集束超音波)の強い影響を受けてしまい、その受信信号データに基づいて測定される変位の信頼性が低い。そこで、変位データ処理部25は、HIFUの治療用超音波ビームTB(=変位用超音波ビームEB)の振幅がオフとなる期間(振幅が実質的にゼロとなる期間)に対応した組織の変位に基づいて有効変位データを生成する。
図12は、有効変位データを生成する処理の具体例を示す図である。図12は、1本の測定用超音波ビームMBに対応したラインに対する処理の具体例を示している。なお、図12に示す処理は、測定用フレーム(図11)を構成する全てのビーム(測定用超音波ビームMB)に対応した全ラインを対象として各ラインごとに実行される。
図12(A)は、1本の測定用超音波ビームMBから得られる受信データマップの具体例である。図12(A)の縦軸は1本の測定用超音波ビームMBに沿った深さを示しており、横軸は1本の測定用超音波ビームMBから得られる受信信号データのデータ数を示している。つまり、1本の(同一の)測定用超音波ビームMBから複数の測定用フレームに亘って得られる複数の受信信号データを横軸方向に並べたものが図12(A)の受信データマップである。図12(A)に示す具体例において、受信データマップは、連続的に得られる27枚の測定用フレームから得られる。
動作例2(図10)で得られる測定用フレームにはHIFUが照射されている期間(HIFU有)に得られる受信信号データが含まれる場合がある(図11参照)。そのため、1本の測定用超音波ビームMBから得られる受信データマップ内にも、HIFUが照射されている期間に得られる受信信号データが含まれる場合がある。例えば、図10に示す測定期間T3の測定用フレームから得られる受信信号データはHIFUが照射されていない期間に得られたものであるが、図10に示す測定期間T4,T5の測定用フレームから得られる受信信号データはHIFUが照射されている期間に得られたものとなる。
図12(A)に示す受信データマップの具体例において、HIFU有と示される期間の測定用フレームに対応した受信信号データは、HIFUが照射されている期間に得られたものである。
そして、図12(A)の受信データマップに基づいて変位が測定される。変位測定部22は、図12(A)の受信データマップ内で互いに隣接する2つの受信信号データ間、つまり互いに隣接する測定用フレームから得られる2つの受信信号データ間において、相互相関演算を実行して組織の変位を計測する。例えば、深さ方向に並ぶ複数のサンプリング点について、各サンプリング点(各深さ)ごとに変位量が算出される。
図12(B1)は、図12(A)の受信データマップから得られる変位量を示した変位データマップの具体例である。図12(B1)の縦軸と横軸は図12(A)の縦軸と横軸に対応している。また、図12(B2)は、図12(A)の受信データマップから変位量を得る際に演算された相関値を示す相関値データマップである。図12(B2)の縦軸と横軸も図12(A)の縦軸と横軸に対応している。さらに、図12(B1)の変位データマップにおけるHIFU有の期間も、図12(A)におけるHIFU有の期間と同じであり、図12(B2)の相関値データマップにもHIFU有の期間が存在する。
変位データ処理部25は、変位データマップと相関値データマップから、閾値処理により無効なデータを除去することにより、有効変位データマップと有効相関値データマップを得る。これにより、主にHIFU有りの期間に対応したデータが無効なデータとして除去される。
変位データマップと相関値データマップは、共に、縦軸方向と横軸方向に2次元的に並ぶ複数のサンプル点で構成されている。そして、各サンプル点ごとに、変位データマップにはそのサンプル点の変位量が示されており、相関値データマップにはそのサンプル点の相関値が示されている。
変位データ処理部25は、各サンプル点における相関値が相関閾値より大きく(相関閾値以上)、且つ、そのサンプル点における変位量が変位閾値より小さい(変位閾値以下)場合に、そのサンプル点が有効であると判定する。
例えば、HIFUが照射されていないHIFU無の期間において得られた受信信号データ間において変位が測定されていれば、変位測定の信頼性が高く、比較的大きな相関値(類似度が大きい)が得られる傾向にある。これに対し、HIFUが照射されているHIFU有の期間において得られた受信信号データが変位測定の対象に含まれていると、変位測定の信頼性が低く、比較的小さな相関値(類似度が小さい)が得られる傾向にある。
そこで、まず、相関値の閾値処理によりデータの有効性が判定される。つまり、各サンプル点における相関値が相関閾値より大きい場合に(又は相関閾値以上の場合に)、そのサンプル点が有効な候補とされる。但し、変位測定の信頼性が低い場合であっても、例えば、互いに異なる組織同士から偶然に酷似したデータが得られてしまい、比較的大きな相関値が得られる場合もある。そのため、さらに、変位量の閾値処理によりデータの有効性が判定される。つまり、各サンプル点における変位量が変位閾値より小さい場合に(又は変位閾値以下の場合に)、そのサンプル点が有効とされる。なお、相関閾値は、例えば相互相関演算の種類等に応じて適宜に設定されることが望ましい。相関閾値を微調整できる構成が採用されてもよい。また、変位閾値は、例えば生体内において現実的に起こり得る組織変位の上限値などに基づいて設定されることが望ましい。
変位データ処理部25は、縦軸方向と横軸方向に2次元的に並ぶ複数のサンプル点について、各サンプル点ごとにそのサンプル点が有効であるか否かを判定し、有効変位データマップと有効相関値データマップを生成する。
図12(C1)は、有効変位データマップの具体例である。図12(C1)の有効変位データマップは、図12(B1)の変位データマップから有効であると判定された複数のサンプル点における変位量で構成される。図12(C1)の縦軸と横軸は図12(B1)の縦軸と横軸に対応している。但し、図12(B1)の変位データマップに比べて、図12(C1)の有効変位データマップは、横軸に示すデータ数が少ない。これは閾値処理により、主にHIFU有りの期間に対応したデータが無効なデータとして除去されたためである。
図12(C2)は、有効相関値データマップの具体例である。図12(C2)の有効相関値データマップは、図12(B2)の相関値データマップから有効であると判定された複数のサンプル点における相関値で構成される。図12(C2)の縦軸と横軸は図12(B2)の縦軸と横軸に対応している。但し、図12(B2)の相関値データマップに比べて、図12(C2)の有効相関値データマップは、横軸のデータ数が少ない。これは閾値処理により、主にHIFU有りの期間に対応したデータが無効なデータとして除去されたためである。
変位データ処理部25は、測定用フレームを構成する全ラインについて、各ラインごとに(各ライン番号ごとに)図12に示す処理を実行し、各ラインごとに有効変位データマップを生成する。
そして、測定用フレームを構成する全ラインについて、各ラインごとに有効変位データマップが生成されると、各ラインごとに有効変位データマップに基づいて、変位の二乗平均平方根(RMS)である変位量が算出される。
変位測定部22は、例えば、各ラインごとに生成された図12(C1)の有効変位データマップに基づいて、各深さ(各サンプリング点)ごとに変位の二乗平均平方根(RMS)である変位量を算出する。変位測定部22は、有効変位データマップ内において、各深さごとに横軸方向に並ぶ複数の変位データから、例えば前述の数1式を利用して、各深さごとに組織の変位量(RMS振幅)を算出する。
変位測定部22は、測定用フレームを構成する全ラインについて、各ラインごとに各深さにおける組織の変位量(RMS振幅)を算出する。そして、凝固診断処理部26は、算出された組織の変位量に基づいて、測定用フレームに対応した2次元的な変位量マップを形成する。
図13は、2次元的な変位量マップの具体例を示す図である。図13には、任意の診断時刻(After0s)の測定用フレームに対応した変位量(RMS振幅)マップの具体例が図示されている。
図13に示す具体例において、変位量マップの縦軸は深さ(Depth)方向である。また、変位量マップの横軸は、測定用フレームを構成する複数ラインの配列方向(方位方向=lateral方向)である。そして、変位量マップ内において縦軸方向と横軸方向に2次元的に並ぶ複数位置の各位置における変位量(RMS振幅)が、例えばカラーの相違で表現される。図13において、カラーバーは、変位量(RMS振幅)の大きさとカラー(色)との対応関係を示している。なお、カラーによる表現に代えて又はカラーによる表現と共に、例えば輝度の相違により各位置における変位量(RMS振幅)が表現されてもよい。
図13に示す具体例により、例えば、測定用フレームが治療部位P(図1参照)を含む断面に設定されていれば、治療部位Pを含む断面に対応した2次元的な変位量マップが得られる。凝固診断処理部26により形成された2次元的な変位量マップは、表示部50に表示される。
また、2次元的な変位量マップは、複数の診断時刻に亘って各診断時刻ごとに形成されることが望ましい。例えば、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理が開始される直前または直後から、定期的に(例えば1〜2秒程度の間隔)、治療部位Pを含む断面に対応した2次元的な変位量マップが形成される。
図14は、複数の診断時刻に亘って形成される変位量マップの具体例を示す図である。図14には、診断時刻0秒から診断時刻26秒まで、2秒間隔で複数の診断時刻に亘って次々に形成される変位量マップが図示されている。例えば、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理の開始時刻が診断時刻0秒に対応しており、診断時刻N秒が治療開始からN秒後に対応している。
凝固診断処理部26は、例えば図14に示す具体例にように、複数の診断時刻に亘って変位量マップを形成する。形成された変位量マップは表示部50に表示される。複数の診断時刻に亘って得られた2次元的な変位量マップは動的に表示されることが望ましい。
例えば、表示部50に表示される表示画面内に変位量マップの表示領域が設けられ、その表示領域内において、図14に示す診断時刻0秒から診断時刻26秒までの変位量マップが次々に表示される。これにより、表示部50に、2次元的な変位量マップの動画が表示される。もちろん、複数の診断時刻に対応した2次元的な変位量マップがコマ送り状に表示されてもよいし、医師や検査技師等のユーザが指定した診断時刻の2次元的な変位量マップが静止画として表示されてもよい。
また、凝固診断処理部26は、変位測定部22により算出された組織の変位量に基づいて、基準となる変位量との比率である変位変化率を算出し、測定用フレームに対応した2次元的な変位変化率マップを形成する。
図15は、2次元的な変位変化率マップの具体例を示す図である。図15には、ある診断時刻(After7s)の測定用フレームに対応した変位変化率マップの具体例が図示されている。
図15に示す具体例において、変位変化率マップの縦軸は深さ(Depth)方向である。また、変位変化率マップの横軸は、測定用フレームを構成する複数ラインの配列方向(方位方向=lateral方向)である。そして、変位変化率マップ内において縦軸方向と横軸方向に2次元的に並ぶ複数位置の各位置における変位変化率が、例えばカラーの相違で表現される。図15において、カラーバーは、変位変化率(DRratio)の大きさとカラー(色)との対応関係を示している。なお、カラーによる表現に代えて又はカラーによる表現と共に、例えば輝度の相違により各位置における変位変化率が表現されてもよい。
変位変化率マップ内の各位置における変位変化率は、例えば基準(リファレンス)となる診断時刻における変位量(RMS振幅)に対する比率である。凝固診断処理部26は、例えば、基準(リファレンス)となる診断時刻の変位量マップと任意の診断時刻(図15の具体例ではAfter7s)の変位量マップに基づいて、測定用フレーム内の各位置ごとに、任意の診断時刻における変位量(Dm)と基準(リファレンス)となる診断時刻の変位量(Dr)との比率(Dm/Dr)を算出し、各位置の変位変化率とする。
そして、例えば、任意の診断時刻(図15の具体例ではAfter7s)における測定用フレーム内の複数位置の変位変化率をカラーの相違で表現することにより、図15に示す2次元的な変位変化率マップが形成される。凝固診断処理部26により形成された2次元的な変位変化率は、表示部50に表示される。
また、2次元的な変位変化率マップも、複数の診断時刻に亘って各診断時刻ごとに形成されることが望ましい。例えば、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理が開始される直前または直後から定期的に形成される変位量マップ(図14参照)に基づいて、複数の診断時刻に亘って変位変化率マップが形成される。
図16は、複数の診断時刻に亘って形成される変位変化率マップの具体例を示す図である。図16には、診断時刻8秒から診断時刻26秒まで、2秒間隔で複数の診断時刻に亘って次々に形成される変位変化率マップが図示されている。
図16に示す具体例では、最大の変位量が得られた診断時刻が変位変化率の基準(リファレンス)とされている。そのため、最大の変位量が得られた後の診断時刻8秒から変位変化率マップが形成される。なお、例えば、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理の開始時刻である診断時刻0秒を変位変化率の基準(リファレンス)とし、診断時刻0秒から複数の診断時刻に亘って次々に変位変化率マップが形成されてもよい。
凝固診断処理部26は、例えば図16に示す具体例にように、複数の診断時刻に亘って変位変化率マップを形成する。形成された変位変化率マップは表示部50に表示される。複数の診断時刻に亘って得られた2次元的な変位変化率マップは動的に表示されることが望ましい。
例えば、表示部50に表示される表示画面内に変位変化率マップの表示領域が設けられて、その表示領域内において、図16に示す診断時刻8秒から診断時刻26秒までの変位変化率マップが次々に表示される。これにより、表示部50に、2次元的な変位変化率マップの動画が表示される。もちろん、複数の診断時刻に対応した2次元的な変位変化率マップがコマ送り状に表示されてもよいし、医師や検査技師等のユーザが指定した診断時刻の2次元的な変位変化率マップが静止画として表示されてもよい。
図1の超音波医用装置を利用した加熱治療において、例えば、治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理の開始時刻から、複数の診断時刻に亘って、各診断時刻ごとに測定用フレームに対応した2次元的な変位量マップ(図13,14)と変位変化率マップ(図15,16)が形成されて表示される。
治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理により、治療部位P内において組織の凝固が進行すると組織が硬くなり変位量が減少する。したがって、2次元的な変位量マップ内において、変位量が小さい箇所においては組織が凝固していると考えられる。同様に、2次元的な変位変化率マップ内において、変位変化率が小さい箇所においては組織が凝固していると考えられる。
そのため、医師や検査技師等のユーザは、表示部50に表示される2次元的な変位量マップまたは変位変化率マップを見ることにより、組織が凝固している領域を2次元的に把握することができる。特に、加熱処理による治療中に、2次元的な変位量マップまたは変位変化率マップを動的に表示させることにより、ユーザは、組織の凝固が進行する状況を2次元的に且つ動的に確認しつつ治療を行うことが可能になる。また、各診断時刻ごとに測定用フレームに対応したBモード画像が形成されて表示されてもよい。
図17は、測定用フレームに対応したBモード画像の具体例を示す図である。図17には、ある診断時刻の測定用フレームに対応したBモード画像の具体例が図示されている。図17に示す具体例において、Bモード画像の縦軸は深さ(Depth)方向である。またBモード画像の横軸は、測定用フレームを構成する複数ラインの配列方向(方位方向=lateral方向)である。
図17に示すBモード画像は、測定用フレームを構成する複数ラインの受信信号に基づいて超音波画像形成部28により形成されて表示部50に表示される。また、図17に示すBモード画像も複数の診断時刻に亘って各診断時刻ごとに形成されることが望ましい。
例えば、表示部50に表示される表示画面内にBモード画像の表示領域が設けられ、その表示領域内において、複数の診断時刻に対応した測定用フレームのBモード画像の動画が表示される。もちろん、複数の診断時刻に対応した測定用フレームのBモード画像がコマ送り状に表示されてもよいし。医師や検査技師等のユーザが指定した診断時刻のBモード画像が静止画として表示されてもよい。
また、凝固診断処理部26は、2次元的な変位変化率マップに基づいて、2次元的な凝固サイズArを計測してもよい。変位変化率マップ(図15,16)は、基準(リファレンス)となる診断時刻における変位量(RMS振幅)との比率である。例えば、最大の変位量が得られた診断時刻が変位変化率の基準とされる。したがって、各診断時刻ごとに得られる変位変化率マップ内において、基準となる最大変位量からの減少が小さいほど、つまり最大変位量に近いほど、変位変化率は大きくなる(1に近い値となる)。一方、基準となる最大変位量からの減少が大きいほど、つまり最大変位量よりも小さいほど、変位変化率は小さくなる(0に近い値となる)。
治療用超音波ビームTBによる治療部位Pの加熱処理により、治療部位P内において組織の凝固が進行すると組織が硬くなり変位量が減少する。したがって、変位変化率マップ内において変位変化率が小さい箇所においては組織が凝固していると考えられる。
そこで、凝固診断処理部26は、2次元的な変位変化率マップ内において、例えば変位変化率が閾値以下となる位置の組織部分が凝固したと判定する。これにより、深さ方向(縦軸)と方位方向(横軸)の2次元的な変位変化率マップ内において、2次元的に凝固領域(凝固と判定された組織部分)を得ることができる。さらに、凝固診断処理部26は、変位変化率マップ内において2次元的に得られた凝固領域について、深さ方向(縦軸)と方位方向(横軸)のそれぞれの凝固サイズAr(深さ方向の長さと方位方向の長さ)を計測する。例えば、複数の診断時刻に亘って各診断時刻ごとに2次元的な凝固サイズArが計測されて表示部50に表示される。
また、凝固診断処理部26は、2次元的な変位量マップに基づいて、2次元的な凝固サイズVsを計測してもよい。凝固サイズVsの計測には、例えば、特許文献2(特開2016−42944号公報)に説明される測定例が利用される。特許文献2には、1本のライン(測定用超音波ビームの1本分の受信データ)に基づいて深さ方向の凝固サイズVsを導出する具体例が説明されている(特許文献2の図8参照)。
凝固診断処理部26は、例えば、2次元的な変位量マップ(図13,14)内の複数ラインについて、各ラインごとに深さ方向の凝固サイズVsを導出する。これにより、2次元的な変位量マップ内において、2次元的な凝固サイズVsとして、複数ラインに対応した深さ方向の凝固サイズVsが測定される。例えば、複数の診断時刻に亘って各診断時刻ごとに2次元的な凝固サイズVsが計測されて表示部50に表示される。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。なお、本発明に係る超音波医用装置を利用した治療等は、医師等の専門家の指導の下で十分に慎重に行われるべきことは言うまでもない。