本発明の非水電解液系電気化学素子用負極(以下、単に「負極」という)は、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシタなとの、非水電解液を有し、充放電が繰り返される電気化学素子の負極に使用されるものである。そして、本発明の負極は、Liを含まない負極活物質およびバインダを含有する負極合剤層を有し、例えばこの負極合剤層が集電体の片面または両面に形成された構造を有しており、更に、負極合剤層に系外プレドープによってLiイオンがドープされてなるものである。
前記の通り、系外プレドープによって負極の負極合剤層にLiイオンをドープする場合には、短時間で、負極合剤層の全体にわたって、表面でのLiの析出などを引き起こすことなく、高い均一性でLiイオンをドープすることが容易ではない。
そこで、本発明では、負極活物質(Liを含まない負極活物質)に、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1のピーク強度に対する1360cm−1のピーク強度比であるR値が0.2以上1.5以下である炭素材料を使用することとした。
このような炭素材料は、不可逆容量が大きい一方でLiイオンの受け入れスピードが速い。よって、本発明の負極であれば、短時間の系外プレドープで、負極合剤層の全体にわたって、表面でのLiの析出などを引く起こすことなく、高い均一性でLiをドープすることができるため、その生産性を高めることができる。
特に、負極の系外プレドープに際しては、その生産性を考慮すると、Liイオンをドープする前の負極をロール状に巻き取り、そのロールから引き出した負極を搬送する途中にLiイオンのドープを行い、その後再度ロール状に巻き取る、いわゆるロール・トゥ・ロール法で連続的にLiイオンのドープを行うことが好ましい。このような手法の場合、負極合剤層にLiイオンをドープする時間は、かなり短い時間となるが、本発明の負極であれば、このロール・トゥ・ロール法で系外プレドープを行っても、高い均一性で負極合剤層にLiイオンをドープすることができるため、負極の生産性をより高めることができる。
そして、本発明の負極は、前記の通り、系外プレドープによって負極合剤層にLiイオンがドープされているため、これを用いてリチウムイオン二次電池(本発明のリチウムイオン二次電池)などの電気化学素子を構成することで、その充放電サイクル特性を高めることができる。
負極合剤層に使用する負極活物質は、Liを含まないものであり、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1のピーク強度に対する1360cm−1のピーク強度比であるR値が0.2以上1.5以下である炭素材料(以下、「炭素材料(a)という」である。
本明細書でいう炭素材料のR値は、極微量の炭素材料を曇ガラスに付着させたものをターゲットとし、各サンプルフォルダーをレーザーラマン測定装置(例えば、Jovan Yvon社製「U−1000」)に設置し、1μmに集光させたアルゴンイオンレーザー(波長514.5nm、出力250mW)を照射し、後方散乱によりラマン散乱を集光し、集光時間1sec、送りステップ1cm−1で1200〜1800cm−1の範囲を3回積算させて得られたラマンスペクトルから、1580cm−1のピークのピーク強度と、1360cm−1のピークのピーク強度とを求め、これらの比から算出した値である。
このような炭素材料(a)としては、黒鉛粒子の表面が非晶質炭素で被覆されている黒鉛A、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが挙げられる。
黒鉛Aは、母粒子となる黒鉛粒子と、その表面を被覆する非晶質炭素とで構成されている。黒鉛AのR値は、0.2以上であるが、非晶質炭素の十分な被覆量を確保するため、0.3以上であることが好ましい。また、黒鉛AのR値は、1.5以下であるが、非晶質炭素の被覆量が多すぎると不可逆容量がより増大する虞があるので、0.6以下であることが好ましい。
このような黒鉛Aは、例えばd002が0.338nm以下である天然黒鉛または人造黒鉛を球状に賦形した黒鉛を母材(母粒子)とし、その表面を有機化合物で被覆し、800〜1500℃で焼成した後、解砕し、篩を通して整粒することによって得ることができる。前記母材を被覆する有機化合物としては、芳香族炭化水素;芳香族炭化水素を加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ類;芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチまたはアスファルト類;などが挙げられる。前記母材を前記有機化合物で被覆するには、前記有機化合物に前記母材を含浸・混捏する方法が採用できる。また、プロパンやアセチレンなどの炭化水素ガスを熱分解により炭素化し、これをd002が0.338nm以下の黒鉛の表面に堆積させる気相法によっても、黒鉛Aを作製することができる。
黒鉛Aは、粒径が小さすぎると、表面を被覆する非晶質炭素の被覆量などがばらつき、黒鉛Aの特長が十分に発揮できなくなるなどの理由があることから、その粒径が、あまり小さくないことが好ましい。よって、黒鉛Aとしては、平均粒子径が8μm以上のものを使用することが好ましい。また、黒鉛Aの平均粒子径は、15μm以下であることが好ましい。
ハードカーボンとしては、フルフリルアルコール樹脂(PFA)やポリパラフェニレン(PPP)およびフェノール樹脂を低温焼成して得られる非晶質炭素などが挙げられる。
炭素材料(a)として前記黒鉛Aを使用する場合、通常のリチウムイオン二次電池の負極活物質として汎用されている黒鉛(天然黒鉛または人造黒鉛。以下、「黒鉛B」という。)をともに使用することが好ましい。黒鉛Aと黒鉛Bとを併用することで負極合剤層のLiイオンの受容性が更に向上するため、系外プレドープ時に、より高い均一性で、負極合剤層の全体にわたってLiイオンをドープすることができる。
黒鉛Bは、粒径が小さすぎると、比表面積が過度に高まって不可逆容量が増大することから、その粒径が、あまり小さくないことが好ましい。よって、黒鉛Bとしては、平均粒子径が15μm超のものを使用することが好ましい。また、黒鉛Bの平均粒子径は、25μm以下であることが好ましい。
負極活物質には、黒鉛Aとハードカーボンとを併用してもよい。また、ハードカーボンを使用する場合、黒鉛Bを併用してもよい。更に、黒鉛Aと黒鉛Bとハードカーボンとを共に使用してもよい。
更に、負極活物質には、炭素材料(a)および黒鉛B以外の材料を、炭素材料(a)と共に使用してもよい。このような材料としては、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料;SiまたはSnの単体;SiまたはSnを含む合金;SiまたはSnを含む酸化物;などが挙げられる。
前記の材料の中でも、Liイオンの受け入れ量が大きくかつ不可逆容量が大きいものが望ましく、例えば、SiとOとを構成元素に含む材料(ただし、Siに対するOの原子比xは、0.5≦x≦1.5。以下、この材料を「材料S」という場合がある。)を使用することが好ましい。
前記材料Sとしては、SiとOとを構成元素に含む一方でLiを構成元素に含まない材料、例えば、組成式SiOx(0.5≦x≦1.5)で表されるものなどが挙げられる。
SiOxは、Siの微結晶または非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶または非晶質相のSiを含めた比率となる。すなわち、SiOxには、非晶質のSiO2マトリックス中にSi(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO2と、その中に分散しているSiを合わせて、前記の原子比xが0.5≦x≦1.5を満足していればよい。例えば、非晶質のSiO2マトリックス中にSiが分散した構造で、SiO2とSiのモル比が1:1の材料の場合、x=1であるので、構造式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
材料Sは、炭素材料と複合化した複合体を構成していることが好ましく、例えば、材料Sの表面が炭素材料で被覆されていることが望ましい。通常、材料Sは導電性が乏しいため、これを負極活物質として用いる際には、良好な電池特性確保の観点から、導電性材料(導電助剤)を使用し、負極内における材料Sと導電性材料との混合・分散を良好にして、優れた導電ネットワークを形成する必要がある。材料Sを炭素材料と複合化した複合体であれば、例えば、単に材料Sと炭素材料などの導電性材料とを混合して得られた材料を用いた場合よりも、負極における導電ネットワークが良好に形成される。
材料Sと炭素材料との複合体としては、前記のように、材料Sの表面を炭素材料で被覆したものの他、材料Sと炭素材料との造粒体などが挙げられる。
材料Sとの複合体の形成に用い得る炭素材料としては、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などが好ましいものとして挙げられる。
炭素材料の詳細としては、繊維状またはコイル状の炭素材料、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む。)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。繊維状またはコイル状の炭素材料は、導電ネットワークを形成しやすく、かつ表面積の大きい点において好ましい。カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む。)、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素は、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、電池の充放電によって材料Sの粒子が膨張・収縮しても、その粒子との接触を保持しやすい性質を有している点において好ましい。
前記例示の炭素材料の中でも、材料Sとの複合体が造粒体である場合に用いるものとしては、繊維状の炭素材料が特に好ましい。繊維状の炭素材料は、その形状が細い糸状であり柔軟性が高いために電池の充放電に伴う材料Sの膨張・収縮に追従でき、また、嵩密度が大きいために、材料Sの粒子と多くの接合点を持つことができるからである。繊維状の炭素としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどが挙げられ、これらの何れを用いてもよい。
材料Sと炭素材料との複合体において、材料Sと炭素材料との比率は、材料S:100質量部に対して、炭素材料が、5質量部以上であり、7質量部以上であることがより好ましく、また、20質量部以下であり、17質量部以下であることが好ましい。理由は定かではないが、Liイオンをドープした場合には、前記複合体における材料Sと炭素材料との比率を前記のように調整することで、電池の充放電サイクル特性を更に高めることが可能となる。
材料Sと炭素材料との複合体は、例えば下記の方法によって得ることができる。
材料Sの表面を炭素材料で被覆して複合体とする場合には、例えば、材料Sの粒子と炭化水素系ガスとを気相中にて加熱して、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、粒子の表面上に堆積させる。このように、気相成長(CVD)法によれば、炭化水素系ガスが材料Sの粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面に導電性を有する炭素材料を含む薄くて均一な皮膜(炭素材料被覆層)を形成できることから、少量の炭素材料によって材料Sの粒子に均一性よく導電性を付与できる。
炭素材料で被覆された材料Sの製造において、CVD法の処理温度(雰囲気温度)については、炭化水素系ガスの種類によっても異なるが、通常、600〜1200℃が適当であり、中でも、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、かつ導電性の高い炭素を含む被覆層を形成できるからである。
炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどを用いることができるが、取り扱いやすいトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。また、メタンガスやアセチレンガスなどを用いることもできる。
また、材料Sと炭素材料との造粒体を作製する場合には、材料Sが分散媒に分散した分散液を用意し、それを噴霧し乾燥して、複数の粒子を含む造粒体を作製する。分散媒としては、例えば、エタノールなどを用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。前記の方法以外にも、振動型や遊星型のボールミルやロッドミルなどを用いた機械的な方法による造粒方法においても、材料Sと炭素材料との造粒体を作製することができる。
材料Sの平均粒子径は、小さすぎると材料Sの分散性が低下して本発明の効果が十分に得られなくなる虞があることや、材料Sは電池の充放電に伴う体積変化が大きいため、平均粒子径が大きすぎると膨張・収縮による材料Sの崩壊が生じやすくなる(この現象は材料Sの容量劣化につながる)ことから、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
材料Sを炭素材料(a)と共に使用することによって、材料Sのみを負極活物質として使用した場合よりも、負極合剤層におけるLiイオンの受容性が高まるため、系外プレドープ工程をよりスムーズに進めることができることから、負極の生産性が向上する。特に、黒鉛Aと黒鉛Bとを、材料Sと共に使用した場合には、負極合剤層におけるLiイオンの受容性向上効果、ひいては負極の生産性向上効果がより顕著となる。
負極活物質全量中における炭素材料(a)の含有量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。なお、負極活物質には炭素材料(a)のみを使用してもよいため、負極活物質全量中における炭素材料(a)の好適含有量の上限値は100質量%である。
また、黒鉛Aと黒鉛Bとを併用する場合、負極合剤層のLiイオンの受容性をより高めるには、黒鉛Aに対する黒鉛Bの質量割合(B/A)を、0.5以上4.5以下とすることが好ましい。
更に、材料Sを使用する場合には、負極活物質全量中の炭素材料(a)の含有量が前記好適値を満たす範囲内で使用することが好ましいが、電池の高容量化効果をより良好に確保する観点からは、負極活物質全量中における材料Sの含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上とすることが特に好ましい。
負極合剤層における負極活物質の含有量(全負極活物質の合計含有量)は、80〜99.5質量%であることが好ましい。
負極合剤層に係るバインダには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどを用いることができるが、下記式(1)で表わされるユニットと下記式(2)で表わされるユニットとを有する共重合体〔以下、「共重合体(A)」という〕を使用することが好ましい。
前記式(2)中、Rは水素またはメチル基であり、M’はアルカリ金属元素である。
系外プレドープによって負極の負極合剤層にLiイオンをドープすると、通常、負極合剤層の硬度が増大して脆くなるため、系外プレドープの際に負極合剤層の欠陥が生じやすい。ところが、共重合体(A)をバインダに用いた負極合剤層は、可撓性が高くなり、また、負極集電体との剥離強度も向上するため、系外プレドープによってLiイオンをドープしても、負極合剤層の欠陥が生じ難く、その取扱い性が向上する。よって、負極合剤層のバインダに共重合体(A)を使用した場合には負極の生産性がより向上し、負極を製造するにあたり、ロール・トゥ・ロール法によって系外プレドープを行った場合でも、欠陥部分が発生し難いため、これにより負極合剤層へLiイオンをドープする場合には更に負極の生産性を高めることができる。
また、負極合剤層のバインダに共重合体(A)を用いた場合には、この負極を用いて構成したリチウムイオン二次電池(本発明のリチウムイオン二次電池)などの電気化学素子においても、充放電の繰り返しによる負極合剤層の劣化を抑制できるため、充放電サイクル特性が更に向上する。
更に、共重合体(A)を負極合剤層のバインダに使用することで、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子の負荷特性も向上する。これは、共重合体(A)をバインダに使用した負極合剤層では、内部に非水電解液が良好に浸透するような構造が形成されているためではないかと考えている。また、共重合体(A)をバインダに使用することで、電気化学素子の使用に伴って生じる虞がある負極表面でのLiの析出も、より高度に抑制できる。
前記式(1)で表わされるユニットと前記式(2)で表わされるユニットとを有する共重合体(A)は、ビニルエステルと、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方とをモノマーとして重合して得られる共重合体を、ケン化することにより得ることができる。
共重合体(A)を得るための前記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらのビニルエステルの中でも酢酸ビニルがより好ましい。
また、共重合体(A)を得るためのビニルエステルとアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方との共重合体は、ビニルエステル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル以外のモノマー由来のユニットを有していてもよい。
ビニルエステルとアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方との共重合体は、例えば、重合触媒と分散剤とを含む水溶液中に、これらのモノマーを懸濁させた状態で重合を行う懸濁重合法によって重合することができる。この際の重合触媒には、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;などを使用することができる。また、懸濁重合の際の分散剤には、水溶性高分子〔ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸またはその塩、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど〕、無機化合物(リン酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなど)などを用いることができる。
懸濁重合を行う際の温度は、重合触媒の10時間半減期温度に対して−20〜+20℃程度とすればよく、重合時間は数時間〜数十時間とすればよい。
ビニルエステルとアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方との共重合体のケン化は、アルカリ金属を含有するアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)を使用し、水性有機溶媒と水との混合溶媒中で行うことができる。このケン化によって、ビニルエステル由来のユニットが、共重合体の主鎖に水酸基が直接結合したユニット〔すなわち、前記式(1)で表わされるユニット〕となり、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方のモノマー由来のユニットが、共重合体の主鎖にカルボキシル基のアルカリ金属塩(基)が直接結合したユニット〔すなわち、前記式(2)で表わされるユニット〕となる。よって、前記式(2)におけるM’は、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられる。
ケン化に使用する水性有機溶媒としては、低級アルコール(メタノール、エタノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)などが挙げられる。水性有機溶媒と水との使用比率は、質量比で、3/7〜8/2であることが好ましい。
ケン化の際の温度は20〜60℃とすればよく、その際の時間は数時間程度とすればよい。
ケン化後の共重合体は、反応液から取り出し、洗浄した後に乾燥すればよい。
前記のケン化を経て得られる共重合体(A)の有する前記式(1)で表されるユニットは、ビニルアルコールの不飽和結合が開いて重合したような構造を有しており、また、前記(2)で表されるユニットは、アクリル酸塩やメタクリル酸塩〔以下、両者を纏めて「(メタ)アクリル酸塩」といい、アクリル酸とメタアクリル酸とを纏めて「(メタ)アクリル酸」という〕の不飽和結合が開いて重合したような構造を有している。よって、共重合体(A)は、ビニルアルコールや(メタ)アクリル酸塩をモノマーに使用し、これらを共重合することで得られたものではなくても、便宜上、「ビニルアルコールと(メタ)アクリル酸塩〔(メタ)アクリル酸のアルカリ金属中和物〕との共重合体」と称される場合もある。
共重合体(A)において、前記式(1)で表わされるユニットと前記式(2)で表わされるユニットとの組成比は、これらのユニットの合計を100mol%としたとき、前記式(1)で表わされるユニットの割合が、5mol%以上であることが好ましく、50mol%以上であることがより好ましく、60mol%以上であることが更に好ましく、また、95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがより好ましい。すなわち、前記式(1)で表わされるユニットと前記式(2)で表わされるユニットとの合計を100mol%としたとき、前記式(2)で表わされるユニットの割合が、5mol%以上であることが好ましく、10mol%以上であることがより好ましく、また、95mol%以下であることが好ましく、50mol%以下であることがより好ましく、40mol%以下であることが更に好ましい。
負極合剤層における共重合体(A)の含有量は、その使用による効果(電池の負荷特性を高める効果、および負極活物質の脱落や負極合剤層と集電体との剥離を抑制する効果)を良好に確保する観点から、2質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましい。ただし、負極合剤層中の共重合体(A)の量が多すぎると、負極合剤層の密度を後述する値に調整することが困難となり、また、電池の容量や負荷特性が低下する虞がある。よって、負極合剤層における共重合体(A)の含有量は、15質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましい。
負極合剤層には、共重合体(A)と共に、通常のリチウムイオン二次電池の負極に係る負極合剤層で使用されているバインダ、例えば、SBR、CMC、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)なども使用することができる。ただし、負極合剤層が含有するバインダ全量中の、共重合体(A)以外のバインダの含有量は、50質量%以下とすることが好ましい。
負極合剤層には、必要に応じて導電助剤を含有させることもできる。負極合剤層に含有させる導電助剤としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料を用いることが好ましく、また、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることもできる。導電助剤には、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
負極合剤層に導電助剤を含有させる場合には、負極合剤層における導電助剤の含有量を10質量%以下とすることが好ましい。
系外プレドープに供する負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させてペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。ただし、系外プレドープに供する負極は、前記の方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は5μmであることが望ましい。
負極合剤層の厚み(集電体の両面に負極合剤層を有する場合には、片面あたりの厚み)は、10〜100μmであることが好ましい。
負極の系外プレドープは、例えば、負極(作用極)とリチウム金属極(対極。リチウム金属箔やリチウム合金箔が使用される。)とを非水電解液中に浸漬し、これらの間に通電する方法により行うことができる。非水電解液には、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子用の非水電解液(詳しくは後述する)と同じものが使用できる。このときのLiイオンのドープ量は、負極(負極合剤層)の面積当たりの電流密度や、通電する電気量の調整によって制御することができる。
前記の通り、負極の系外プレドープは、ロールに巻回した負極を引き出して、非水電解液およびリチウム金属極を備えた電解液槽内に導入し、前記電解液槽内で前記負極と前記リチウム金属極との間に通電することで負極合剤層にLiイオンをドープし、その後の負極をロール状に巻き取るロール・トゥ・ロール法で実施することが好ましい。本発明の負極であれば、負極合剤層のLiイオン受容性が高いため、ロール・トゥ・ロール法を採用することで負極合剤層へLiイオンをドープする時間が短くなっても、このドープを良好に進めることができる。よって、ロール・トゥ・ロール法の適用によって負極の生産性をより高めることができる。
図1に、ロール・トゥ・ロール法によって負極の負極合剤層にLiイオンをドープする工程の説明図を示す。まず、Liイオンのドープに供するための負極2aを巻き取ったロール20aから負極2aを引き出し、Liイオンをドープするための電解液槽101内へ導入する。電解液槽101は非水電解液(図示しない)とリチウム金属極102とを有しており、電解液槽101内を通過する負極2aとリチウム金属極102との間に、電源103によって通電できるように構成されている。そして、電解液槽101内を負極2aがリチウム金属層202と対向しつつ通過する際に、電源103によって負極2aとリチウム金属極102との間に通電することで、負極2aの負極合剤層にLiイオンをドープする。
負極合剤層にLiイオンをドープし、電解液槽101内を通過させた後の負極2は、好ましくは洗浄した後、ロール20に巻き取る。負極2の洗浄は、例えば、図1に示すように、洗浄用の有機溶媒を満たした洗浄槽104に負極2を通過させることにより行うことができる。また、洗浄槽104を通過させた後の負極2は、乾燥手段105を通過させて乾燥させてからロール20に巻き取ることが好ましい。乾燥手段105での乾燥方法については、特に制限はなく、洗浄槽104で負極2に付着した有機溶媒を除去できればよいが、例えば、温風や赤外線ヒーターによる乾燥、乾燥状態の不活性ガス内を通過させる乾燥などの各種方法を適用することができる。
なお、図1に示す電解液槽101は、負極集電体の両面に負極合剤層が形成されている負極について、その両面の負極合剤層に同時にLiイオンをドープできるように、リチウム金属極102を2つ備えているが、負極集電体の片面のみに負極合剤層を有する負極の負極合剤層へLiイオンをドープのみに使用される電解液槽の場合には、その負極合剤層と対向する箇所にだけ1つのリチウム金属極を備えていればよい。
このようにして負極合剤層にLiイオンをドープした後の負極は、必要なサイズに切断するなどして、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子の製造に供される。また、負極には、必要に応じて、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
本発明の負極は、前記の通り、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシタなどの、非水電解液を有し、かつ充放電が繰り返し行われる電気化学素子の負極として使用されるが、特に主要な用途は、リチウムイオン二次電池である。
本発明の負極を用いたリチウムイオン二次電池(本発明のリチウムイオン二次電池)は、前記負極と、正極と、セパレータと、非水電解液とが、外装体内に収容されてなるものである。
リチウムイオン二次電池に係る正極は、正極活物質およびバインダを含有する正極合剤層を有するものであり、例えば、この正極合剤層が集電体の片面または両面に形成された構造を有するものや、正極合剤層で構成されたもの(正極合剤成形体)が挙げられる。
正極活物質には、LiとLi以外の金属M(Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Alなど)とで構成される金属酸化物(リチウム含有複合酸化物)が使用される。このようなリチウム含有複合酸化物としては、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、Li2MnO3などのリチウムマンガン酸化物;LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物;LiCo1−xNiO2などの層状構造のリチウム含有複合酸化物;LiMn2O4、Li4/3Ti5/3O4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO4などのオリビン構造のリチウム含有複合酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などが挙げられる。
このような正極活物質の中でも、Coと、Mg、Zr、Ni、Mn、TiおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素M1とを少なくとも含有するリチウムコバルト酸化物(コバルト酸リチウム)が好ましい。そして、正極合剤層は、このようなコバルト酸リチウムの粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されてなる正極材料を含有していることがより好ましい。前記の正極材料を使用した場合には、電池の充電時の正極での抵抗を大きくすることができるため、負極でのLiの析出が起こり難くなることから、負極合剤層中での前記複合体の割合を大きくしても、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性をより高めることができる。
前記コバルト酸リチウムは、Coと、Mg、Zr、Ni、Mn、TiおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素M1と、更に含有してもよい他の元素とを纏めて元素群Maとしたときに、組成式LiMaO2で表されるものである。
前記コバルト酸リチウムにおいて、元素M1は、前記コバルト酸リチウムの高電圧領域での安定性を高め、Coイオンの溶出を抑制する作用を有しており、また、前記コバルト酸リチウムの熱安定性を高める作用も有している。
前記コバルト酸リチウムにおいて、元素M1の量は、前記の作用をより有効に発揮させる観点から、Coとの原子比M1/Coが、0.003以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましい。
ただし、前記コバルト酸リチウム中の元素M1の量が多すぎると、Coの量が少なくなりすぎて、これらによる作用を十分に確保できない虞がある。よって、前記コバルト酸リチウムにおいて、元素M1の量は、Coとの原子比M1/Coが、0.06以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。
前記コバルト酸リチウムにおいて、Zrは、非水電解液中に含まれるフッ素含有リチウム塩(LiPF6など)が原因となって発生し得るフッ化水素を吸着し、コバルト酸リチウムの劣化を抑制する作用を有している。
リチウムイオン二次電池に使用される非水電解液中に若干の水分が不可避的に混入していたり、他の電池材料に水分が吸着していたりすると、非水電解液が含有するフッ素含有リチウム塩と反応してフッ化水素が生成する。電池内でフッ化水素が生成すると、その作用で正極活物質の劣化を引き起こしてしまう。
ところが、Zrも含有するように前記コバルト酸リチウムを合成すると、その粒子の表面にZr酸化物が析出し、このZr酸化物がフッ化水素を吸着する。そのため、フッ化水素による前記コバルト酸リチウムの劣化を抑制することができる。
なお、正極活物質にZrを含有させると、電池の負荷特性が向上する。正極材料が含有する前記コバルト酸リチウムが、平均粒子径の異なる2つの材料である場合、平均粒子径が大きい方をコバルト酸リチウム(A)、平均粒子径が小さい方をコバルト酸リチウム(B)とする。一般に、粒子径が大きい正極活物質を使用すると電池の負荷特性が低下する傾向にある。よって、前記正極材料を構成する正極活物質のうち、より平均粒子径が大きいコバルト酸リチウム(A)にはZrを含有させることが好ましい。他方、コバルト酸リチウム(B)は、Zrを含有していてもよく、含有していなくてもよい。
前記コバルト酸リチウムにおいて、Zrの量は、前記の作用をより良好に発揮させる観点から、Coとの原子比Zr/Coが、0.0002以上であることが好ましく、0.0003以上であることがより好ましい。ただし、前記コバルト酸リチウム中のZrの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる作用を十分に確保できない虞がある。よって、前記コバルト酸リチウムにおけるZrの量は、Coとの原子比Zr/Coが、0.005以下であることが好ましく、0.001以下であることがより好ましい。
前記コバルト酸リチウムは、Li含有化合物(水酸化リチウム、炭酸リチウムなど)、Co含有化合物(酸化コバルト、硫酸コバルトなど)、Mg含有化合物(硫酸マグネシウムなど)、Zr含有化合物(酸化ジルコニウムなど)および元素M1を含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして合成することができる。なお、より高い純度で前記コバルト酸リチウムを合成するには、Coおよび元素M1を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)とLi含有化合物などとを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
前記コバルト酸リチウムを合成するための原料混合物の焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
前記正極材料においては、前記コバルト酸リチウムの粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されている(例えば、前記コバルト酸リチウムの粒子の表面の全面積中の90〜100%以上に、Al含有酸化物が存在している)。前記コバルト酸リチウムの粒子の表面を被覆するAl含有酸化物としては、Al2O3、AlOOH、LiAlO2、LiCo1−wAlwO2(ただし、0.5<w<1)などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、例えば後述する方法で前記コバルト酸リチウムの表面をAl2O3で被覆した場合、Al2O3中に、前記コバルト酸リチウムから移行するCoやLi、Alなどの元素を含むAl含有酸化物が一部混在する被膜が形成されるが、前記正極材料を構成する前記コバルト酸リチウムの表面を覆うAl含有酸化物で形成された被膜は、このような成分を含む被膜であってもよい。
前記正極材料に係るAl含有酸化物の平均被覆厚みは、前記正極材料に係る電池の充放電時における正極活物質でのリチウムイオンの出入りをAl含有酸化物が阻害することによる抵抗を増加させ、負極でのLi析出を抑制することによる電池の充放電サイクル特性をより向上させる観点と、前記正極材料に係る正極活物質と非水電解液との反応を良好に抑制する観点から、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。また、電池の充放電時における正極活物質でのリチウムイオンの出入りをAl含有酸化物が阻害することによる電池の負荷特性低下を抑制する観点から、前記正極材料に係るAl含有酸化物の平均被覆厚みは、50nm以下であることが好ましく、35nm以下であることがより好ましい。
本明細書でいう「Al含有酸化物の平均被覆厚み」は、集束イオンビーム法により加工して得られた正極材料の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて40万倍の倍率で観察し、500×500nmの視野に存在する正極材料粒子のうち、断面の大きさが正極材料の平均粒子径(d50)±5μm以内の粒子を10視野分だけ任意に選択し、各視野ごとに、Al含有酸化物の被膜の厚みを任意の10か所で測定し、全視野で得られた全ての厚み(100箇所の厚み)について算出した平均値(数平均値)を意味している。
前記正極材料の比表面積は、0.1m2/g以上であることが好ましく、0.2m2/g以上であることがより好ましく、また、0.4m2/g以下であることが好ましく、0.3m2/g以下であることがより好ましい。正極材料の比表面積が前記の値にある場合には、電池の充放電時における抵抗をより増加させるため、電池の充放電サイクル特性が更に良好となる。
なお、前記正極材料を構成する前記コバルト酸リチウムの表面をAl含有酸化物で被覆したり、前記コバルト酸リチウム粒子の表面にZr酸化物が析出するようにしたりした場合には、通常、正極材料の表面が粗くなって比表面積が増大する。そのため前記正極材料は、比較的大きな粒径とすることに加えて、前記コバルト酸リチウム粒子の表面を被覆するAl含有酸化物の被膜の性状が良好であると、前記のような小さな比表面積となりやすいことから、好ましい。
前記正極材料が含有する前記コバルト酸リチウムについては、1種類であってもよいし、上述したように平均粒子径が異なる2つの材料であってもよいし、平均粒子径が異なる3つ以上の材料であってもよい。
前記正極材料の比表面積を前記の値に調整するには、1種類の前記コバルト酸リチウムを使用する場合、前記正極材料の平均粒子径を10〜35μmとすることが好ましい。
前記正極材料が含有する前記コバルト酸リチウムに平均粒子径が異なる2つの材料を使用する場合、コバルト酸リチウム(A)の粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されてなり、平均粒子径が1〜40μmである正極材料(a)と、コバルト酸リチウム(B)の粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されてなり、平均粒子径が1〜40μmであり、かつ正極材料(a)よりも平均粒子径が小さい正極材料(b)とを少なくとも含んでいると好ましい。更に好ましくは、平均粒子径が24〜30μmの大粒子〔正極材料(a)〕と、平均粒子径が4〜8μmの小粒子〔正極材料(b)〕とで構成されている態様である。そして、正極材料が、正極材料(a)と正極材料(b)とを含んでいる場合、正極材料全量中での正極材料(a)の割合は、75〜90質量%であることが好ましい。これによって比表面積の調整ができるだけではなく、正極合剤層のプレス処理において、大粒径の正極材料の隙間に小粒径の正極材料が入り込むことで、正極合剤層にかかる応力が全体に分散し、正極材料粒子の割れが良好に抑制されてAl含有酸化物での被覆による作用をより良好に発揮することができる。
本明細書でいう正極材料の粒度分布は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」を用いて、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める方法により得られる粒度分布を意味している。また、本明細書における正極材料や、その他の粒子〔炭素材料(a)や材料Sなど〕の平均粒子径は、前記の装置を用いて、粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(d50)を意味している。
前記コバルト酸リチウム粒子の表面をAl含有酸化物で被覆して前記正極材料とするには、例えば下記の方法が採用できる。pHを9〜11とし、温度を60〜80℃とした水酸化リチウム水溶液中に、前記コバルト酸リチウム粒子を投入し攪拌して分散させ、ここにAl(NO3)3・9H2Oと、pHの変動を抑えるためのアンモニア水とを滴下して、Al(OH)3共沈物を生成させ、前記コバルト酸リチウム粒子の表面に付着させる。その後、この反応液からAl(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム粒子を取り出し、洗浄後、乾燥させた後に、熱処理して、前記コバルト酸リチウム粒子の表面にAl含有酸化物の被膜を形成して、前記正極材料とする。Al(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム粒子の熱処理は大気雰囲気中で行うことが好ましく、また、熱処理温度を200〜800℃とし、熱処理時間を5〜15時間とすることが好ましい。この方法で前記コバルト酸リチウム粒子の表面をAl含有酸化物で被覆する場合、前記の熱処理温度の調整によって、被膜を構成する主成分となるAl含有酸化物を、Al2O3としたり、AlOOHとしたり、LiAlO2としたり、LiCo1−wAlwO2(ただし、0.5<w<1)としたりすることができる。
前記正極材料と、他の正極活物質とを使用する場合には、電池の連続充電特性がより向上すると共に、前記正極材料によるリチウムイオン二次電池の高温下での充放電サイクル特性や貯蔵特性を損なわないことから、前記他の正極活物質として、NiおよびCoと、Mg、Mn、Ba、W、Ti、Zr、MoおよびAlよりなる群から選択される元素M2とを含有するニッケル酸リチウムを用いることが好ましい。
前記ニッケル酸リチウムは、Ni、Coおよび元素M2、並びに、更に含有してもよい他の元素を纏めて元素群Mbとしたときに、化学式LiMbO2で表されるものであり、元素群M2の全原子数100mol%中のNi、Coおよび元素M2の量を、それぞれ、s(mol%)、t(mol%)およびu(mol%)で表したとき、30≦s≦97、0.5≦t≦40、0.5≦u≦40であることが好ましく、70≦s≦97、0.5≦t≦30、0.5≦u≦5であることがより好ましい。
前記ニッケル酸リチウムは、Li含有化合物(水酸化リチウム、炭酸リチウムなど)、Ni含有化合物(硫酸ニッケルなど)、Co含有化合物(硫酸コバルト、酸化コバルトなど)、および必要に応じて元素Mbを含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして製造することができる。なお、より高い純度で前記ニッケル酸リチウムを合成するには、Ni、Coおよび必要に応じて含有させる元素Mbのうちの複数の元素を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)と、他の原料化合物(Li含有化合物など)とを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
前記ニッケル酸リチウムを合成するための原料混合物の焼成条件も、前記コバルト酸リチウムの場合と同様に、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
正極活物質に前記正極材料と他の正極活物質(例えば前記ニッケル酸リチウム)とを使用する場合には、前記正極材料と他の正極活物質との合計100質量%中の前記正極材料の量が、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい(すなわち、前記正極材料と共に使用される他の正極活物質の量が、前記正極材料と他の正極活物質との合計100質量%中、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい)。なお、正極活物質には前記正極材料のみを用いてもよいため、前記正極材料と他の正極活物質との合計100質量%中の前記正極材料の量の好適上限値は、100質量%である。ただし、前記ニッケル酸リチウムの使用による電池の連続充電特性向上効果をより良好に確保するためには、前記正極材料と前記ニッケル酸リチウムとの合計100質量%中の前記ニッケル酸リチウムの量が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
正極合剤層に係る導電助剤としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛(黒鉛質炭素材料);アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック;炭素繊維;などの炭素材料などが挙げられる。また、正極合剤層に係るバインダには、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体〔P(VDF−CTFE)〕、SBR、CMCなどが好適に用いられる。
正極は、例えば、正極活物質(前記正極材料など)、導電助剤およびバインダなどを、NMPなどの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理などのプレス処理を施す工程を経て製造される。
ただし、正極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。例えば、正極をペレット状の正極合剤成形体とする場合には、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤をプレス処理してペレット状に成形する方法で、正極を製造することができる。
集電体は、従来から知られているリチウムイオン二次電池の正極に使用されているものと同様のものが使用でき、例えば、アルミニウム製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどがあげられ、厚みは5〜30μmが好ましい。
正極合剤層や正極合剤成形体の組成としては、正極活物質(前記正極材料を含む)の量が60〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。また、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合、正極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、30〜150μmであることが好ましい。他方、正極合剤成形体からなる正極の場合、その厚みは、0.15〜1mmであることが好ましい。
リチウムイオン二次電池において、負極(系外プレドープを施した後の負極)と正極とは、セパレータを介して積層した積層体(積層電極体)や、この積層体を更に渦巻状に巻回した巻回体(巻回電極体)などの形態で使用される。
セパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステルなどのポリエステル;などで構成された多孔質膜であることが好ましい。なお、セパレータは、100〜140℃において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。そのため、セパレータは、融点、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、100〜140℃の熱可塑性樹脂を成分とするものがより好ましく、ポリエチレンを主成分とする単層の多孔質膜であるか、ポリエチレンとポリプロピレンとを2〜5層積層した積層多孔質膜などの多孔質膜を構成要素とする積層多孔質膜であることが好ましい。ポリエチレンとポリプロピレンなどのポリエチレンより融点の高い樹脂を混合または積層して用いる場合には、多孔質膜を構成する樹脂としてポリエチレンが30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
このような樹脂多孔質膜としては、例えば、従来から知られているリチウムイオン二次電池などで使用されている前記例示の熱可塑性樹脂で構成された多孔質膜、すなわち、溶剤抽出法、乾式または湿式延伸法などにより作製されたイオン透過性の多孔質膜を用いることができる。
セパレータの平均孔径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、また、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
前記セパレータとして、熱可塑性樹脂を主体とする多孔質膜(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用してもよい。前記セパレータは、シャットダウン特性と耐熱性(耐熱収縮性)および高い機械的強度とを兼ね備えている。また、積層型セパレータを用いることで、電池の充放電サイクル特性が更に向上する。その理由は定かではないが、積層型セパレータが有する高い機械的強度が、電池の充放電サイクルに伴う負極の膨張・収縮に対して高い耐性を示し、セパレータのよれを抑制して負極−セパレータ−正極間の密着性を保つことができることが理由であると推測される。
本明細書において、「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化などの変形が見られないことを意味している。
セパレータに係る多孔質膜(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものであり、電池が多孔質膜(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂の融点以上に達したときには、多孔質膜(I)に係る熱可塑性樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
多孔質膜(I)の主体となる熱可塑性樹脂としては、融点が140℃以下の樹脂が好ましく、具体的には、例えばポリエチレンが挙げられる。また、多孔質膜(I)の形態としては、電池用のセパレータとして通常用いられている微多孔膜や、不織布などの基材にポリエチレンの粒子を含む分散液を塗布し、乾燥するなどして得られるものなどのシート状物が挙げられる。ここで、多孔質膜(I)の構成成分の全体積中〔空孔部分を除く全体積。セパレータに係る多孔質膜(I)および多孔質層(II)の構成成分の体積含有率に関して、以下同じ。〕において、主体となる融点が140℃以下の樹脂の体積含有率は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましい。なお、例えば多孔質膜(I)を前記ポリエチレンの微多孔膜で形成する場合は、融点が140℃以下の樹脂の体積含有率が100体積%となる。
セパレータに係る多孔質層(II)は、電池の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、耐熱温度が150℃以上のフィラーによって、その機能を確保している。すなわち、電池が高温となった場合には、たとえ多孔質膜(I)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(II)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止することができる。また、この耐熱性の多孔質層(II)がセパレータの骨格として作用するため、多孔質膜(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮自体も抑制できる。
多孔質層(II)に係るフィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電池の有する非水電解液に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元され難い電気化学的に安定なものであれば無機粒子でも有機粒子でもよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、また、無機酸化物粒子、より具体的には、アルミナ、シリカ、ベーマイトが好ましい。アルミナ、シリカ、ベーマイトは、耐酸化性が高く、粒径や形状を所望の数値などに調整することが可能であるため、多孔質層(II)の空孔率を精度よく制御することが容易となる。なお、耐熱温度が150℃以上のフィラーは、例えば前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多孔質層(II)の「耐熱温度が150℃以上のフィラーを主成分として含む」とは、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、前記フィラーを70体積%以上含むことを意味している。多孔質層(II)における前記フィラーの量は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。多孔質層(II)中の前記フィラーを前記のように高含有量とすることで、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制して、高い耐熱性を付与することができる。
また、多孔質層(II)には、前記フィラー同士を結着したり多孔質層(II)と多孔質膜(I)とを結着したりするために有機バインダを含有させることが好ましく、このような観点から、多孔質層(II)におけるフィラー(B)量の好適上限値は、例えば、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99体積%である。なお、多孔質層(II)におけるフィラー(B)の量を70体積%未満とすると、例えば、多孔質層(II)中の有機バインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には多孔質層(II)の空孔が有機バインダによって埋められてしまい、例えばセパレータとしての機能を喪失する虞がある。
多孔質層(II)に用いる有機バインダとしては、前記フィラー同士や多孔質層(II)と多孔質膜(I)とを良好に接着でき、電気化学的に安定で、かつ電気化学素子用の非水電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、フッ素樹脂(PVDFなど)、フッ素系ゴム、SBR、CMC、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの有機バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
前記積層型セパレータは、例えば、多孔質膜(I)に、前記フィラーや有機バインダなどと溶剤(水やケトン類などの有機溶剤など)とを含有する多孔質層(II)形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を塗布した後、所定の温度で乾燥して多孔質層(II)を形成することによって製造することができる。
前記積層型セパレータは、多孔質膜(I)と多孔質層(II)とを、それぞれ1層ずつ有していてもよく、複数有していてもよい。具体的には、多孔質膜(I)の片面にのみ多孔質層(II)を配置して前記積層型セパレータとする他、例えば、多孔質膜(I)の両面に多孔質層(II)を配置して前記積層型セパレータとしてもよい。ただし、前記積層型セパレータの有する層数が多くなりすぎると、セパレータの厚みを増やして電池の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので好ましくなく、前記積層型セパレータ中の層数は5層以下であることが好ましい。
セパレータ(前記積層型セパレータおよびそれ以外のセパレータ)の厚みは、正極と負極とをより確実に隔離する観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。他方、セパレータが厚すぎると、電池のエネルギー密度が低下してしまうことがあるため、その厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
また、多孔質膜(I)の厚み〔多孔質膜(I)が複数存在する場合には、その総厚み〕は、5〜30μmであることが好ましい。更に、多孔質層(II)の厚み〔多孔質層(II)が複数存在する場合には、その総厚み〕は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。
セパレータ(前記積層型セパレータおよびそれ以外のセパレータ)の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
また、セパレータ(前記積層型セパレータおよびそれ以外のセパレータ)は、その片面または両面に接着層を有していることが好ましい。積層電極体や巻回電極体の形成時に、セパレータの接着層によってセパレータと電極とを一体化させた場合には、このような電極体を用いた電池において充放電を繰り返しても、電極体の形状変化を抑制できるため、電池の充放電サイクル特性が更に向上する。横断面を扁平状に成形した扁平状巻回電極体を用いた電池の場合には、前記接着層による充放電サイクル特性の向上効果が特に顕著となる。
セパレータの接着層は、加熱することで接着性が発現する接着性樹脂を含有していることが好ましい。接着性樹脂を含有する接着層の場合は、電極体を加熱しながら押圧する工程(加熱プレス)を経ることでセパレータと電極とを一体化させることができる。接着性樹脂の接着性が発現する最低温度は、セパレータにおける接着層以外の層で、シャットダウンが発現する温度よりも低い温度である必要があるが、具体的には、60℃以上120℃以下であることが好ましい。また、セパレータが前記積層型セパレータである場合、接着性樹脂の接着性が発現する最低温度は、多孔質膜(I)の主成分である熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度である必要がある。
このような接着性樹脂を使用することで、セパレータと正極および/または負極とを加熱プレスして一体化する際に、セパレータの劣化を良好に抑制することができる。
接着性樹脂は、その存在によって、電極体を構成する電極(例えば負極)とセパレータとの間の180°での剥離試験を実施した際に得られる剥離強度が、加熱プレス前の状態では、好ましくは0.05N/20mm以下、特に好ましくは0N/20mm(全く接着力のない状態)であり、60〜120℃の温度で加熱プレスした後の状態では0.2N/20mm以上となるディレードタック性を有していることが好ましい。
ただし、前記剥離強度が強すぎると、電極の合剤層(正極合剤層および負極合剤層)が電極の集電体から剥離して、導電性が低下する虞があることから、前記180°での剥離試験による剥離強度は、60〜120℃の温度で加熱プレスした後の状態で10N/20mm以下であることが好ましい。
なお、本明細書でいう電極とセパレータとの間の180°での剥離強度は、以下の方法により測定される値である。セパレータおよび電極を、それぞれ長さ5cm×幅2cmのサイズに切り出し、切り出したセパレータと電極と重ねる。加熱プレスした後の状態の剥離強度を求める場合には、片端から2cm×2cmの領域を加熱プレスして試験片を作製する。この試験片のセパレータと電極とを加熱プレスしていない側の端部を開き、セパレータと負極とを、これらの角度が180°になるように折り曲げる。その後、引張試験機を用い、試験片の180°に開いたセパレータの片端側と電極の片端側とを把持して、引張速度10mm/minで引っ張り、セパレータと電極とを加熱プレスした領域で両者が剥離したときの強度を測定する。また、セパレータと電極との加熱プレス前の状態での剥離強度は、前記のように切り出した各セパレータと電極とを重ね、加熱をせずにプレスする以外は前記と同様に試験片を作製し、前記と同じ方法で剥離試験を行う。
よって、接着性樹脂は、室温(例えば25℃)では接着性(粘着性)が殆どなく、かつ接着性の発現する最低温度がセパレータのシャットダウンする温度未満、好ましくは60℃以上120℃以下といったディレードタック性を有するものが望ましい。なお、セパレータと電極とを一体化する際の加熱プレスの温度は、セパレータの熱収縮があまり顕著に生じない80℃以上100℃以下であることがより好ましく、接着性樹脂の接着性が発現する最低温度も、80℃以上100℃以下であることがより好ましい。
ディレードタック性を有する接着性樹脂としては、室温では流動性が殆どなく、加熱時に流動性を発揮し、プレスによって密着する特性を有する樹脂が好ましい。また、室温で固体であり、加熱することによって溶融し、化学反応によって接着性が発揮されるタイプの樹脂を接着性樹脂として用いることもできる。
接着性樹脂は、融点、ガラス転移点などを指標とする軟化点が60℃以上120℃以下の範囲内にあるものが好ましい。接着性樹脂の融点およびガラス転移点は、例えば、JIS K 7121に規定の方法によって、また、接着性樹脂の軟化点は、例えば、JIS K 7206に規定の方法によって、それぞれ測定することができる。
このような接着性樹脂の具体例としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ−α−オレフィン〔ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1など〕、ポリアクリル酸エステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂などが挙げられる。
また、前記の各樹脂や、SBR、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴムなどの室温で粘着性を示す樹脂をコアとし、融点や軟化点が60℃以上120℃以下の範囲内にある樹脂をシェルとしたコアシェル構造の樹脂を接着性樹脂として用いることもできる。この場合、シェルには、各種アクリル樹脂やポリウレタンなどを用いることができる。更に、接着性樹脂には、一液型のポリウレタンやエポキシ樹脂などで、60℃以上120℃以下の範囲内に接着性を示すものも用いることができる。
接着性樹脂には、前記例示の樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、接着性樹脂で構成される実質的に空孔を含有しない接着層を形成した場合には、セパレータと一体化した電極の表面に、電池の有する非水電解液が接触し難くなる虞があることから、正極、負極およびセパレータにおける接着性樹脂の存在面においては、接着性樹脂の存在する箇所と、存在しない箇所とが形成されていることが好ましい。具体的には、例えば、接着性樹脂の存在箇所と、存在しない箇所とが、溝状に交互に形成されていてもよく、また、平面視で円形などの接着性樹脂の存在箇所が、不連続に複数形成されていてもよい。これらの場合、接着性樹脂の存在箇所は、規則的に配置されていてもランダムに配置されていてもよい。
なお、正極、負極およびセパレータにおける接着性樹脂の存在面においては、接着性樹脂の存在する箇所と、存在しない箇所とを形成する場合、接着性樹脂の存在面における接着性樹脂の存在する箇所の面積(総面積)は、例えば、セパレータと電極とを加熱圧着した後のこれらの180°での剥離強度が、前記の値となるようにすればよく、使用する接着性樹脂の種類に応じて変動し得るが、具体的には、平面視で、接着性樹脂の存在面の面積のうち、10〜60%に、接着性樹脂が存在していることが好ましい。
また、接着性樹脂の存在面において、接着性樹脂の目付けは、電極との接着を良好にして、例えば、セパレータと電極とを加圧接着した後のこれらの180°での剥離強度を前記の値に調整するには、0.05g/m2以上とすることが好ましく、0.1g/m2以上とすることがより好ましい。ただし、接着性樹脂の存在面において、接着性樹脂の目付けが大きすぎると、電極体が厚くなりすぎたり、接着性樹脂がセパレータの空孔を塞ぎ、電池内部でのイオンの移動が阻害されたりする虞がある。よって、接着性樹脂の存在面において、接着性樹脂の目付けは、1g/m2以下であることが好ましく、0.5g/m2以下であることがより好ましい。
接着層は、接着性樹脂および溶剤などを含む接着層形成用組成物(接着性樹脂の溶液またはエマルション)を、セパレータに使用する多孔質膜や、多孔質膜(I)と多孔質層(II)との積層体の片面または両面に塗布する工程を経て形成することができる。
リチウムイオン二次電池に係る非水電解液には、例えば、下記の非水系溶媒中に、リチウム塩を溶解させることで調製した溶液を用いることできる。
非水系溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒を1種単独で、または2種以上を混合した混合溶媒として用いることができる。
非水電解液に係るリチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.6〜1.8mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.6mol/lとすることがより好ましい。
また、非水電解液には、電池の充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
更に、非水電解液には、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
リチウムイオン二次電池の形態については、特に制限はない。例えば、小型の円筒型、コイン形、ボタン形、扁平形、角形、電気自動車などに用いる大型のものなど、いずれであってもよい。
負極合剤層にLiイオンをドープした負極を有するリチウムイオン二次電池には、負極合剤層へのLiイオンのドープを系内プレドープによって行うものもあり、この場合、例えば、正極および負極とは別にLi供給源を有する電極(第3電極)を使用して電池を組み立て、この第3電極に通電することで、電池内で前記Li供給源から負極合剤層にLiイオンをドープするものがある。よって、この種の電池では、Liイオンのドープが終了した時点においても、Li供給源の一部が残存するかまたは全部が消失した第3電極が電池内に残存しているが、本発明のリチウムイオン二次電池は、系外プレドープによってあらかじめ負極合剤層にLiイオンをドープした負極を用いて組み立てるため、Liイオンのドープに利用される(または利用された)第3電極を内部に有しない。
なお、リチウムイオン二次電池において、負極の負極合剤層にLiイオンをドープしたものであることは、電池を0.1Cの放電電流レートで電圧が2.0Vに達するまで放電したときに、正極活物質に含まれるLiとLi以外の金属Mとのモル比(Li/M)によって把握することができる。リチウムイオン二次電池においては、モル比Li/Mが0.8以上1.05以下となるように負極合剤層のLiイオンドープ量を調整した負極を用いることが好ましい。ちなみに、Liを含まない負極活物質を含有する負極合剤層にLiイオンを系外プレドープ(および系内プレドープ)していない負極を有する電池においては、通常、モル比Li/Mが前記下限値よりも小さくなる。
0.1Cの放電電流レートで電圧が2.0Vに達するまで放電した時の正極活物質の組成分析は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法を用いて以下のように行うことができる。まず、測定対象となる正極活物質を0.2g採取して100mL容器に入れる。その後、純水5mL、王水2mL、純水10mLを順に加えて加熱溶解し、冷却後に更に純水で25倍に希釈し、JARRELASH社製のICP分析装置「ICP−757」を用いて、検量線法により組成を分析する。得られた結果から、組成量を導くことができる。後述する実施例に記載のモル比Li/Mは、この方法によって求めた値である。
なお、本明細書でいうモル比Li/Mを求める正極活物質には、前記の正極活物質粒子の表面を特定の材料(Al含有酸化物など)で被覆した正極材料も含まれ、この場合、前記正極材料の表面に存在する前記特定の材料に含まれる金属の量も、モル比Li/Mを求めるための金属Mの量に含める。
ちなみに、モル比Li/Mについて、後述する実施例1を例にとって説明すると、実施例1ではLiCo0.9795Mg0.011Zr0.0005Al0.009O2のコバルト酸リチウム(A1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成した正極材料(a1)と、LiCo0.97Mg0.012Al0.009O2のコバルト酸リチウム(B1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成した正極材料(b1)とを用いているが、その際のLi以外の金属Mとは、Co、Mg、Zr、Alのことを指す。つまり、リチウムイオン二次電池作製後、所定の充放電後の電池を分解し、正極合剤層から正極材料(この実施例1では混合物)を採取・分析し、モル比Li/Mを導き出す。
系外プレドープによって負極合剤層にLiイオンをドープした負極を有し、かつそのLiイオンのドープの程度を、正極活物質における前記モル比Li/Mが前記の範囲内となるように調整した負極を用いて組み立てた電池であれば、負極活物質の不可逆容量の低減に適正な量のLiイオンがドープされているため、例えばLiデンドライトの発生を抑制でき、この発生によって電池の微短絡が生じることを良好に抑えることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来から知られているリチウムイオン二次電池の用途と同じ用途に適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<負極の作製>
SiO表面を炭素材料で被覆した複合体Si−1(平均粒子径が5μm、比表面積が8.8m2/gで、複合体における炭素材料の量が、SiO:100質量部に対して10質量部):90質量部と、黒鉛A−1(天然黒鉛からなる母粒子の表面を、ピッチを炭素源とした非晶質炭素で被覆した黒鉛であり、平均粒子径が10μm、d002が0.336nm、BET法による比表面積が3.9m2/gで、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるR値が0.40):10質量%とを、V型ブレンダーで12時間混合して、負極活物質を得た。
前記式(1)で表わされるユニットおよび前記(2)式で表わされるユニットのみを有し、前記式(2)におけるRが水素でM’がカリウムであり、前記式(1)で表わされるユニットと前記式(2)で表わされるユニットとのモル比が6/4である共重合体(A)をイオン交換水に溶解し、共重合体(A)の濃度が8質量%である水溶液を調製した。この水溶液に、前記負極活物質とカーボンブラックとを加え、攪拌混合することで負極合剤含有ペーストを得た。なお、このペーストにおける負極活物質:カーボンブラック:共重合体(A)の組成比(質量比)は、90:2:8とした。
前記負極合剤含有ペーストを、厚みが10μmである銅箔を巻回したロールを巻き出して銅箔の片面に連続塗布し乾燥を行って、銅箔の片面に負極合剤層を形成し、プレス処理を行って負極合剤層の密度を1.2g/cm3に調整した後にロール状に巻き取って負極ロールを得た。
前記負極ロールから引き出した負極について、図1に示す方法(ロール・トゥ・ロール法)で負極合剤層にLiイオンをドープした。前記負極ロール20aから負極2aを引き出して、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比30:70の混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、ビニレンカーボネート:4質量%、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:5質量%となる量で添加した溶液)およびリチウム金属極102を備えた電解液槽101内を通過させた。そして、この電解液槽101内で負極2aとリチウム金属極102との間に、負極の面積当たりにして0.2mA/cm2の電流密度で、負極活物質質量当たり450mAh/gに相当する電気量を通電して負極合剤層にLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。
Liイオンドープ後の負極2は、電解液槽101の通過後にジエチルカーボネートを備えた洗浄槽104内で洗浄し、更にアルゴンガスを充填した乾燥槽105内で乾燥させた後に、ロール20に巻き取った。
<正極の作製>
Li含有化合物であるLi2CO3と、Co含有化合物であるCo3O4と、Mg含有化合物であるMg(OH)2と、Zr化合物であるZrO2と、Al含有化合物であるAl(OH)3とを適正な混合割合で乳鉢に入れて混合した後、ペレット状に固め、マッフル炉を用いて、大気雰囲気中(大気圧下)で、950℃で24時間焼成し、ICP(Inductive Coupled Plasma)法で求めた組成式がLiCo0.9795Mg0.011Zr0.0005Al0.009O2のコバルト酸リチウム(A1)を合成した。
次に、pHを10とし、温度を70℃とした水酸化リチウム水溶液:200g中に、前記コバルト酸リチウム(A1):10gを投入し、攪拌して分散させた後、ここにAl(NO3)3・9H2O:0.0154gと、pHの変動を抑えるためのアンモニア水とを、5時間かけて滴下して、Al(OH)3共沈物を生成させ、前記コバルト酸リチウム(A1)の表面に付着させた。その後、この反応液からAl(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム(A1)を取り出し、洗浄後、乾燥させた後に、大気雰囲気中で、400℃の温度で10時間熱処理することで、前記コバルト酸リチウム(A1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成して、正極材料(a1)を得た。
得られた正極材料(a1)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、27μmであった。
Li含有化合物であるLi2CO3と、Co含有化合物であるCo3O4と、Mg含有化合物であるMg(OH)2と、Al含有化合物であるAl(OH)3とを適正な混合割合で乳鉢に入れて混合した後、ペレット状に固め、マッフル炉を用いて、大気雰囲気中(大気圧下)で、950℃で4時間焼成し、ICP法で求めた組成式がLiCo0.97Mg0.012Al0.009O2のコバルト酸リチウム(B1)を合成した。
次に、pHを10とし、温度を70℃とした水酸化リチウム水溶液:200中gに、前記コバルト酸リチウム(B1):10gを投入し、攪拌して分散させた後、ここにAl(NO3)3・9H2O:0.077gと、pHの変動を抑えるためのアンモニア水とを、5時間かけて滴下して、Al(OH)3共沈物を生成させ、前記コバルト酸リチウム(B1)の表面に付着させた。その後、この反応液からAl(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム(B1)を取り出し、洗浄後、乾燥させた後に、大気雰囲気中で、400℃の温度で10時間熱処理することで、前記コバルト酸リチウム(B1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成して、正極材料(b1)を得た。
得られた正極材料(b1)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、7μmであった。
そして、正極材料(a1)と正極材料(b1)とを、質量比で85:15の割合で混合して、電池作製用の正極材料(1)を得た。得られた正極材料(1)の表面のAl含有酸化物の平均被覆厚みを前記の方法で測定したところ、30nmであった。また、平均被覆厚みの測定の際に元素マッピングによって被膜の組成を確認したところ、主成分がAl2O3であった。更に、正極材料(1)の体積基準の粒度分布を前記の方法で確認したところ、平均粒子径は25μmで、正極材料(a1)および正極材料(b1)の各平均粒子径の箇所にピークトップを有する2つのピークが認められた。また、正極材料(1)のBET比表面積を、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いて測定したところ、0.25m2/gであった。
正極材料(1):96.5質量部と、バインダであるP(VDF−CTFE)を10質量%の濃度で含むNMP溶液:20質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.5質量部とを、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、厚みが15μmであるアルミニウム箔の片面に塗布し、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の片面に正極合剤層を形成し、プレス処理を行って正極を得た。
<セパレータの作製>
変性ポリブチルアクリレートの樹脂バインダ:3質量部と、ベーマイト粉末(平均粒子径1μm):97質量部と、水:100質量部とを混合し、多孔質層(II)形成用スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ12μmのリチウムイオン電池用ポリエチレン製微多孔膜〔多孔質層(I)〕の片面に塗布、乾燥をした。多孔質層(I)の片面にベーマイトを主体とした多孔質層(II)を形成したセパレータを得た。なお、多孔質層(II)の厚みは3μmであった。
<コイン形リチウムイオン二次電池の組み立て>
Liドープ後の前記負極、前記正極および前記セパレータを、それぞれの直径が17mm、16mmおよび18mmとなるように打ち抜いた。打ち抜いた負極、正極およびセパレータを、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比30:70の混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、ビニレンカーボネート:4質量%、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:5質量%、アジポニトリル:0.5質量%、および1,3−ジオキサン:0.5質量%となる量で添加した溶液)と共に電池容器内に封入して、直径20mm、厚み1.6mmで、図2に示す構造のコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
ここで、図2について説明すると、図2は、実施例1のコイン形リチウムイオン二次電池を模式的に表す縦断面図である。リチウムイオン二次電池10においては、正極1が金属製の外装缶4の内側に収容され、その上にセパレータ3を介して負極2が配置されている。また、負極2は金属製の封口板5の内面と接触している。なお、図2では、正極1、負極2およびセパレータ3の各層を区別して示していないが、正極1と負極2とは、正極合剤層と負極合剤層とがセパレータ3を介して対向するように、かつセパレータ3は、その多孔質層(II)が正極1側となるように配置されている。更に、リチウムイオン二次電池10の内部には非水電解液(図示しない)が注入されている。
リチウムイオン二次電池10において、外装缶4は正極端子を兼ねており、封口板5は負極端子を兼ねている。そして、外装缶4の開口部は、外装缶4の開口端部の内方への締め付けにより、封口板5の周縁部に配設した樹脂製で環状のパッキング6を押圧して封口板5の周縁部と外装缶4の開口端部の内周面とに圧接させて封口されている。すなわち、コイン形リチウムイオン電池10は、正極端子(外装缶4)と負極端子(封口板5)との間に樹脂製のパッキング6が介在しており、このパッキング6によって封止されている。
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じ黒鉛A−1:25質量部、人造黒鉛(平均粒子径が22μm、d002が0.338nm、BET法による比表面積が3.8m2/gで、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるR値が0.12である黒鉛。黒鉛B−1。):25質量部、および実施例1で用いたものと同じ複合体Si−1:50質量%を、V型ブレンダーで12時間混合して負極活物質を得た。
この負極活物質を用いた以外は実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、通電電気量を負極活物質質量当たり250mAh/gとした以外は、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例3)
黒鉛A−1と黒鉛B−1と複合体Si−1との比率を、50:45:5(質量比)に変更した以外は実施例2と同様にして負極活物質を得、この負極活物質を用いた以外は実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、通電電気量を負極活物質質量当たり50mAh/gとした以外は、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例4)
黒鉛A−1に代えて黒鉛A−2(天然黒鉛からなる母粒子の表面を、ピッチを炭素源とした非晶質炭素で被覆した黒鉛であり、平均粒子径が20μm、d002が0.336nm、BET法による比表面積が3.1m2/gで、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるR値が0.30)を用いた以外は、実施例1と同様にして負極活物質を得、この負極活物質を用いた以外は実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例5)
黒鉛A−1に代えて難黒鉛化炭素(平均粒子径が20μm、d002が0.380nm、BET法による比表面積が3.5m2/gで、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおけるR値が1.0)を用いた以外は、実施例1と同様にして負極活物質を得、この負極活物質を用いた以外は実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例6)
SiO表面を炭素材料で被覆していないSi−2(平均粒径が5μm、比表面積が6.8m2/g):90質量部と、黒鉛A−1:10質量部とをV型ブレンダーで12時間混合して、負極活物質を得た。この負極活物質を使用し、かつ負極活物質:カーボンブラック:共重合体(A)の組成比(質量比)を86:4:8とした以外は、実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例7)
鱗片状黒鉛粉末:97質量部とケイ素粉末:3質量部とを、圧縮力とせん断力とを伴う混合方法によって混合して混合物Aを得た。この混合物A:100質量部と非黒鉛質炭素材料:3質量部とを、圧縮力とせん断力とを伴う混合方法によって混合して混合物Bを調製した。前記の混合物Bを、非活性雰囲気下、1000℃で1時間加熱した後、解砕処理を施し、鱗片状黒鉛粒子間に挟み込まれたケイ素が非晶質炭素によって固定化された複合化粒子を得た。この複合化粒子:95質量部と、実施例1で用いたものと同じ黒鉛A−1:5質量部とを、V型ブレンダーで12時間混合して負極活物質を得た。
この負極活物質を使用し、また、共重合体(A)に代えてSBRとCMCとを用いた以外は、実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製した。なお、このペーストにおける負極活物質:SBR:CMCの組成比(質量比)は、91:8:1とした。
前記負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、通電電気量を負極活物質質量当たり90mAh/gとした以外は、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例1)
黒鉛A−1に代えて実施例2で用いたものと同じ黒鉛B−1を使用した以外は、実施例1と同様にして負極合剤含有ペーストを調製し、この負極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極ロールを得た。この負極ロールに係る負極の負極合剤層に、実施例1と同様にしてLiイオンをドープし、ドープ後の負極合剤層の表面におけるLiの析出の有無を目視で観察した。そして、この負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例2)
実施例1で作製したものと同じ負極(負極合剤層へのLiイオンのドープ前の負極)を、そのまま負極として用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形リチウムイオン二次電池を作製した。
実施例および比較例のリチウムイオン二次電池およびこれらに係る負極について、下記の各評価を行った。
<充放電サイクル特性評価>
実施例および比較例のリチウムイオン二次電池の各5個を、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの一定電圧で電流値が0.02Cに到達するまで充電した。その後、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電を行って、初回放電容量を求めた。
初回放電容量測定後のリチウムイオン二次電池(各5個)を、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの一定電圧で電流値が0.02Cに到達するまで充電した。その後、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電を行って、初回放電容量を求めた。次に、各電池について、1Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した後に、1Cの電流値で2.0Vまで放電する一連の操作を1サイクルとして、これを500回サイクル実施した。そして、各電池について、初回放電容量測定時と同じ条件で定電流−定電圧充電および定電流放電を行って、放電容量を求めた。そして、これらの放電容量を初回放電容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、それぞれ5個の平均値を算出した。
実施例および比較例のリチウムイオン二次電池の構成を表1に示し、前記の評価結果およびLiイオンドープ後の負極合剤層表面でのLiの析出の有無の観察結果を、表2に示す。なお、表1の負極活物質の欄に記載の「複合化粒子」とは、実施例7で使用した「鱗片状黒鉛粒子間に挟み込まれたケイ素が非晶質炭素によって固定化された複合化粒子」を意味している。
表1に示す通り、負極活物質に特定のR値を有する炭素材料(a)を使用した実施例1〜7のリチウムイオン二次電池に係る負極は、負極合剤層へのLiイオンのドープ後に、負極合剤層の表面においてLiの析出が生じておらず、負極合剤層の全体にわたって高い均一性でLiをドープできていた。よって、これらの負極は生産性が優れているといえる。また、実施例1〜7のリチウムイオン二次電池は、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が高く、優れた充放電サイクル特性を有していた。
これに対し、負極活物質に、通常のリチウムイオン二次電池で汎用されている人造黒鉛を用いた比較例1の電池に係る負極は、負極合剤層へのLiイオンのドープ後に、負極合剤層の表面にLiの析出が認められた。このような箇所は電池に供することができないため、製造した負極は、電池の製造に使用可能な部分の割合が小さくなることから、その生産性が劣っているといえる。また、この負極を用いた比較例1の電池、および負極合剤層へのLiイオンのドープを行わなかった負極を用いた比較例2の電池は、充放電サイクル特性評価時の容量維持率が低く、充放電サイクル特性が劣っていた。