JP2018078762A - 埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システム - Google Patents
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Abstract
【課題】インバータの電圧飽和を回避して指令通りのトルクを実現し、正しい加振を行うことができるIPMSMを用いた加振制御システムを提供する。【解決手段】直流トルクτ0を持ち、振幅Aτ、角周波数ωτで振動するトルク指令τ*(=Aτsinωτt+τ0)に基づいて電流指令(id*,iq*)を演算し、該電流指令によりIPMSM10に接続されたインバータ20を運転するシステムであり、トルク制御部30では、電圧飽和を回避するため、電流指令は直流トルクτ0の定トルク曲線上を遷移させる。そして、定常的な銅損やモータの発熱を抑えるため、電圧が飽和していない時の制御は、電流値を最小にして銅損を低減できるMTPAの電流ベクトル特性に近い電流指令を算出し、電圧飽和が発生した場合の制御は、電流ベクトル内の定トルク曲線上を遷移し、IPMSM10の誘起電圧を最小にするMTPVの電流ベクトル特性に近い電流指令を算出する。【選択図】 図1
Description
本発明は、埋込磁石同期電動機(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor:以下、IPMSMと称することもある)のトルク制御に関し、特に電圧飽和回避手段に関する。
IPMSMを用いた高応答ダイナモシミュレータでは、振動を模擬した加振トルクを発生させることが求められている。加振トルクは常に電流が変化するため高速な電流応答が求められており、高応答な電流応答を実現するためには高い電圧が必要である。
以下に、IPMSMのトルク制御の方法について、IPMSMを用いたトルク加振システムの構成の一例を示す図1とともに説明する。図1において、10は、例えば高応答ダイナモシミュレータにおける制御対象のIPMSM(埋込磁石同期電動機)である。
20は、例えば3相ブリッジ接続されたIGBTなどの半導体スイッチング素子を備え、該半導体スイッチング素子がPWM制御されることによって直流電源21の直流電力を交流電力に変換してIPMSM10に供給するインバータである。
22は、IPMSM10に接続され、一定回転速度(ω)で回転する負荷モータである。
23は、IPMSM10の回転軸に取り付けられ、IPMSM10の磁極位置θを検出するロータリーエンコーダ(磁極位置検出器)である。
24は、ロータリーエンコーダ23で検出された磁極位置θから回転子速度を演算して電気角周波数ω(速度検出信号)を出力する速度演算部である。
25は、IPMSM10とインバータ20を結ぶ電路に介挿された電流センサ26で検出した3相交流電流iu,iv,iwを、ロータリーエンコーダ23で検出された磁極位置θに基づいて、2相直流であるd軸,q軸電流id,iqに変換する3相/2相変換部である。
30は、前記速度検出信号(ω)と、前記3相/2相変換されたd軸,q軸電流id,iqを入力とし、与えられたトルク指令τ*に基づいてインバータ20の電流指令id*,iq*を演算するトルク制御部である。
27は、前記3相/2相変換されたd軸,q軸電流id,iqを、トルク制御部30から入力されるd軸,q軸の電流指令id*,iq*に一致させるためのd軸,q軸電圧指令値vd*,vq*を、前記速度検出信号(ω)に基づいて演算する電流制御部である。
この電流制御部27には、d軸電流idとd軸の電流指令id*との差分を比例積分(PI)演算する構成が含まれている。この構成の出力を、d軸PI演算出力と称する。同様に、q軸電流iqとq軸の電流指令iq*との差分を比例積分(PI)演算する構成が含まれている。この構成の出力を、q軸PI演算出力と称する。
28は、ロータリーエンコーダ23で検出された磁極位置θに基づいて、前記d軸,q軸電圧指令値vd*,vq*を3相交流電圧指令値vu*,vv*,vw*に変換する2相/3相変換部である。
前記速度演算部24、3相/2相変換部25、電流制御部27、2相/3相変換部28およびトルク制御部30によってコントローラ100を構成している。
前記インバータ20は、前記3相交流電圧指令値vu*,vv*,vw*およびキャリア信号により作成されたPWM制御信号によってPWM制御される。
上記のように構成されたシステムにおいて、制御対象のIPMSM10は負荷モータ22によって一定回転速度(ω)で制御されており、インバータ20を用いて電流制御が行われる。
IPMSM10のd軸,q軸電圧vd,vqの電圧方程式、およびトルクτの式は次式で与えられる。
ここで、Ldはd軸インダクタンス、Raは電気子巻線抵抗、Lqはq軸インダクタンス、v0d、v0qはvd、vqの定常電圧、KEは誘起電圧係数、Pnは極対数である。
図1の電流制御部27では、前記d軸PI演算出力と(1)、(2)式に基づいて演算したd軸電圧vdを加算した値を、d軸電圧指令値vd*として出力する。同様に、前記q軸PI演算出力と(1)、(2)式に基づいて演算したq軸電圧vqを加算した値を、q軸電圧指令値vq*として出力する。
図2に加振トルク指令の一例を示す。加振トルク指令は図2のように直流トルクτ0を持ち、振幅Aτ、角周波数ωτで振動するトルク指令τ*として、次の(4)式で表される。
従来のIPMSMのトルク制御の例として、最大トルク/電流(Maximum Torque per Ampere;以下、MTPAと称することもある)制御方式と、最大トルク/誘起電圧(Maximum Torque per Voltage;以下、MTPVと称することもある)制御方式がある。
MTPAは同じ大きさの電流に対して発生トルクを最大にできる電流ベクトル(id,iq)が存在することを利用する。これは電流に対して最もトルクを効率的に発生させ、常にこの条件を満たすように電流ベクトル選択する方式である。
MTPVは同一トルク発生時にIPMSMの誘起電圧値が最小になることを利用する。誘起電圧が最小になると鉄損も小さくすることができる。この方式は電圧に対して最もトルクを効率的に発生させ、この条件を満たすようにベクトルを制御する方式である。
これらMTPA制御方式、MTPV制御方式については、例えば非特許文献1に記載されている。
武田洋次、松井信行、森本茂雄、本田幸夫、「埋込磁石同期モータの設計と制御」、オーム社、2001年、pp.16〜36
IPMSMの制御では一般的にインバータが用いられているが、インバータの入力電圧は電源電圧によって決定するため、高速回転時、及び高い周波数指令の加振トルクに対してはインバータの出力電圧に電圧飽和が発生し、指令トルクを実現できない場合がある。
インバータの出力電圧には必ず上限があり、トルク加振時には大きな電圧を必要とするため、インバータ出力電圧が電圧飽和状態となり、所望の電圧をインバータが出力できなくなり、所望のトルクを出力できなくなることがある。
図3に、トルク指令τ*に加振指令を入れた場合のd−q軸座標上における電圧ベクトルと電流ベクトルの軌跡図を示す。加振トルク発生時、トルク指令τ*はτ0−Aτからτ0+Aτの範囲で移動するため、電流ベクトルは図3(a)の破線で示す曲線を描いて振動し、電圧ベクトルは図3(b)の実線で示す楕円上を動く。
図3において、MTPA方式では電流値は最小で実現しているが、電圧指令が電圧飽和領域(図3(b)のインバータ出力限界Vmaxを超えた領域)にいるため、指令通りの電圧が出力不能のためトルクを指令通りに制御できず、正しい加振ができない。これはインバータの最大出力Vmaxを超えているためである。そのため、いくら大きなトルク指令を出してもインバータの出力限界を超えることはできない。
また、MTPV方式の場合、電圧飽和は発生していないが、MTPA方式と比較して電流値が過大であり、IPMSMの銅損が大きく発生することがわかる。実際には銅損によってIPMSMが発熱し、磁石の劣化を誘発する可能性が高い。磁石は発熱によって劣化した場合、IPMSMはその性能を保証できなくなる。
このようにMTPA、MTPV二つの方式はそれぞれ長所と短所が存在する。そこで、加振トルク指令に対して銅損を低減しつつ、電圧飽和を発生させない電流指令が必要になる。
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、インバータの出力電圧の電圧飽和を回避して指令通りのトルクを実現し、正しい加振を行うことができる埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムを提供することにある。
上記課題を解決するための請求項1に記載の埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムは、直流トルクτ0を持ち、振幅Aτ、角周波数ωτで振動するトルク指令τ*(=Aτsinωτt+τ0)に基づいて電流指令(id*,iq*)を演算し、該電流指令によって、埋込磁石同期電動機に接続されたインバータを運転する、埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムにおいて、
前記埋込磁石同期電動機の回転速度を検出した速度検出信号(ω)と、埋込磁石同期電動機の3相電流を検出してd軸、q軸に各々変換したd軸電流id、q軸電流iqを入力とし、前記トルク指令τ*に基づいてインバータの電流指令(id*,iq*)を演算するトルク制御部であって、
d軸−q軸電流座標における、前記直流トルクτ0を出力可能な条件を満たす定トルク曲線と最大トルク/電流(Maximum Torque per Ampere)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/電流制御の制御点とし、前記定トルク曲線と最大トルク/誘起電圧(Maximum Torque per Voltage)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/誘起電圧制御の制御点とし、最大トルク/電流制御の制御点から最大トルク/誘起電圧制御の制御点の間の定トルク曲線を、指定した分割数xで等間隔に分割した点を電流動作点候補(id0(n),iq0(n))(0≦n<x;nおよびxは正数)として求め、
前記電流動作点候補(id0(n),iq0(n))におけるトルク時間微分dτ(n)/dtを示す(7)式、(8)式とインバータの最大電圧Vmaxを示す(9)式を用いて、インバータの最大電圧Vmaxを与えたときのトルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtが得られる電圧vdmax(n),vqmax(n)を、(10)式によって求め、
前記埋込磁石同期電動機の回転速度を検出した速度検出信号(ω)と、埋込磁石同期電動機の3相電流を検出してd軸、q軸に各々変換したd軸電流id、q軸電流iqを入力とし、前記トルク指令τ*に基づいてインバータの電流指令(id*,iq*)を演算するトルク制御部であって、
d軸−q軸電流座標における、前記直流トルクτ0を出力可能な条件を満たす定トルク曲線と最大トルク/電流(Maximum Torque per Ampere)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/電流制御の制御点とし、前記定トルク曲線と最大トルク/誘起電圧(Maximum Torque per Voltage)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/誘起電圧制御の制御点とし、最大トルク/電流制御の制御点から最大トルク/誘起電圧制御の制御点の間の定トルク曲線を、指定した分割数xで等間隔に分割した点を電流動作点候補(id0(n),iq0(n))(0≦n<x;nおよびxは正数)として求め、
前記電流動作点候補(id0(n),iq0(n))におけるトルク時間微分dτ(n)/dtを示す(7)式、(8)式とインバータの最大電圧Vmaxを示す(9)式を用いて、インバータの最大電圧Vmaxを与えたときのトルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtが得られる電圧vdmax(n),vqmax(n)を、(10)式によって求め、
(但し、vd、vqは埋込磁石同期電動機のd軸電圧、q軸電圧、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Raは電機子巻線抵抗、KEは誘起電圧係数、Pnは埋込磁石同期電動機の極対数)
d軸−q軸電流座標上の、トルク指令τ*を実現する電流指令直線を、前記電流動作点候補のうちいずれか1つに決定した定常電流動作点を用いて、トルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtを得る第一近似式である(13)式によって求め、
d軸−q軸電流座標上の、トルク指令τ*を実現する電流指令直線を、前記電流動作点候補のうちいずれか1つに決定した定常電流動作点を用いて、トルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtを得る第一近似式である(13)式によって求め、
(但しAdq(n)は定常電流動作点においてdτmax(n)/dtを得る傾き)
前記(13)式の電流指令iq*を時間微分した後(6)式を代入することにより、前記傾きAdq(n)を(14)式のように求め、
前記(13)式の電流指令iq*を時間微分した後(6)式を代入することにより、前記傾きAdq(n)を(14)式のように求め、
前記傾きAdq(n)を用いて(16)式、(17)式を演算することによって、
電流指令(id*,iq*)を求めるトルク制御部を備えたことを特徴としている。
上記構成によれば、インバータの出力電圧が飽和する前は最大トルク/電流制御方式と同等に最小電流となる電流指令が得られ、電圧飽和回避時には最大トルク/誘起電圧制御方式と同等に誘起電圧を最小にする電流指令が得られる。
これによって、インバータの電圧飽和を回避することができ、トルク指令通りのトルクを出力することが可能となり、トルク応答とトルク精度が向上する。
また同時に、埋込磁石同期電動機の銅損の発生を抑制することができ、最大トルク/誘起電圧制御方式と比較して、電動機の効率を向上させることができる。
また、請求項2に記載の埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムは、請求項1において、前記トルク制御部は、前記(10)式のvdmax(n),vqmax(n)、前記(14)式の傾きAdq(n)および前記(16)式の電流指令id*,iq*を各々演算するとき、n=1とすることを特徴としている。
上記構成によれば、定常電流動作点は、直流トルクτ0を出力可能な条件を満たす定トルク曲線上の電流動作点候補(n)のうち、最大トルク/電流制御の制御点に最も近い電流動作点に決定される。このため、銅損発生を抑制することができる小さい電流値となる電流指令(id*,iq*)を求めることができる。
また、請求項3に記載の埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムは、請求項1又は2において、前記トルク制御部は、(18)式で示される電圧飽和をしない埋込磁石同期電動機の電圧理論値の候補(vdth,vqth)に、
d軸、q軸PI演算出力を加算したd軸、q軸電圧指令値vd*,vq*を、トルク指令値の1周期Tτ=2π/ωτにて(20)式のように演算することでトルク1周期の電圧軌跡の大きさVrを求め、
前記Vrにおける1周期中の最大値をVrmax、電圧の最大値の目標値をV* rmax、任意のゲインをKとし、前記定常電流動作点の移動量Δnを床関数を用いた(21)式によって求め、
前記求められた定常電流動作点の移動量Δnを、トルク1周期毎に前回の動作点n(a−1)に加えて今回の動作点n(a)を求め、
前記n(a)の値が変更される都度、前記(16)式、(17)式を再計算して電流指令(id*,iq*)を求めることを特徴としている。
前記n(a)の値が変更される都度、前記(16)式、(17)式を再計算して電流指令(id*,iq*)を求めることを特徴としている。
上記構成によれば、トルク指令が変化した場合でもその変化に応じて電圧飽和を自動的に回避することができ、詳細なパラメータ調整をしなくても、トルク指令通りのトルクが出力可能になる。
(1)請求項1〜3に記載の発明によれば、インバータの電圧飽和を回避することができ、トルク指令通りのトルクを出力することが可能となり、トルク応答とトルク精度が向上する。これによって正しい加振を行うことができる。
また同時に、埋込磁石同期電動機の銅損の発生を抑制することができ、最大トルク/誘起電圧制御方式と比較して、電動機の効率を向上させることができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、埋込磁石同期電動機の銅損発生抑制効果が高められる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、トルク指令が変化した場合でもその変化に応じて電圧飽和を自動的に回避することができ、詳細なパラメータ調整をしなくても、トルク指令通りのトルクが出力可能になる。したがって加振制御システムの操作が容易となる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、埋込磁石同期電動機の銅損発生抑制効果が高められる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、トルク指令が変化した場合でもその変化に応じて電圧飽和を自動的に回避することができ、詳細なパラメータ調整をしなくても、トルク指令通りのトルクが出力可能になる。したがって加振制御システムの操作が容易となる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
本実施形態例では、本発明を図1のトルク加振システムに適用し、インバータ出力電圧の電圧飽和を回避しつつトルク応答を実現したものである。
図1において、本実施形態例のトルク制御部30は、速度演算部24で算出された速度検出信号(ω)と、3相/2相変換部25で変換されたd軸,q軸電流id,iqを入力とし、与えられたトルク指令τ*に基づいて、以下の説明のとおりインバータ20の電流指令id*,iq*を演算する。尚、本実施形態例において、図1の、トルク制御部30以外の構成部分は前記と同様の動作となる。
IPMSMで直流トルクτ0を出力する電圧電流の条件は一点ではなく、複数存在することを利用する。直流トルクτ0を出力可能な条件を、図4(a)の電流ベクトル図および図4(b)の電圧ベクトル図に示す。この条件を満たす曲線を定トルク曲線(τ0)と称する。
本実施例では、前記課題を解決するために、電圧指令を監視し、電圧飽和を回避するように電流指令はトルク曲線上を遷移させる。そして、定常的な銅損やモータの発熱を抑えるため、電圧が飽和していない時の制御は、電流値を最小にして銅損を低減できるMTPAの電流ベクトル特性に近い電流指令とし、電圧飽和が発生した場合の制御は、電流ベクトル内の定トルク曲線上を遷移し、IPMSMの誘起電圧を最小にするMTPVの電流ベクトル特性に近い電流指令とした。
まず、図4のd−q軸座標において、トルク指令τ*における直流トルクτ0の定常電流動作点候補を求める。直流トルクτ0を出力可能な条件を満たす定トルク曲線(τ0)とMTPA制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点をMTPA制御点(id0(0),iq0(0))とし、定トルク曲線(τ0)とMTPV制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点をMTPV制御点(id0(x),iq0(x))とする。
そして、MTPA制御点(id0(0),iq0(0))とMTPV制御点(id0(x),iq0(x))間の長さlを、指定した分割数xで等間隔に分割した定トルク曲線上の点(id0(n),iq0(n))(0≦n<x;nおよびxは正数)を、電流動作点候補とする。
図4では、IPMSMの電圧方程式(前記(1)式、(2)式)を適用して、図4(a)の各電流動作点候補(id0(n),iq0(n))に対する定常電圧候補(v0d0(n),v0q0(n))が図4(b)のように得られる。ここでxは任意の正数ある。
次に、動作点候補におけるトルク時間微分最大値を求める。定常トルクτ0の電流動作点候補(id0(n),iq0(n))において、インバータ出力限界Vmaxの元、トルク時間微分dτ/dtの最大値dτmax(n)/dtを導出する。前記(3)式によりトルク時間微分dτ/dtは次式で得られる。
ここで、d,q軸電流時間微分did/dt,diq/dtは、前記(1)式より、電圧vd、vqを用いて次式で与えられる。
上記(5)式、(6)式を用いて電流動作点(id0(n),iq0(n))におけるトルク時間微分dτ(n)/dtを計算すると電圧(vd、vq)を用いて次式で表される。
ここで、各電流動作点候補nにおいて、トルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtを得る電圧(vdmax(n),vqmax(n))を求める。
図5は、d軸−q軸電圧座標上でn=1とした定常電圧候補(v0d0(1),v0q0(1))において、下記(9)式に示すインバータの最大電圧(インバータ出力限界)Vmaxを与えた時のトルク微分の最大値dτmax(n)/dtが得られる電圧(vdmax(1),vqmax(1))を示している。
これは、(7)式、(9)式においてラグランジュ未定係数法を適用して、次式で得られる。
次に、前記(10)式を(7)式に代入してトルク時間微分最大値dτmax(n)/dtが次式で得られる。
(11)式は、nにおける最大トルク微分dτmax(n)/dtを示している。nが大きくなると共にdτmax(n)/dtも増加する。
続いて定常電流動作点(id0(n),iq0(n))を決定する。ここでは、前記各電流動作点候補のうち、いずれか1つを定常電流動作点に決定する。
また、トルク指令τ*の時間微分dτ*/dtは次式で表される。
ここで、図6(a)にトルク指令τ*を実現する電流座標上の電流指令直線を示す。図6(a)はd軸−q軸電流座標上における、トルク指令曲線(τ0+Aτ,τ0,τ0−Aτ)、電流動作点候補のnをn=1とした定常電流動作点(id0(1),iq0(1))および電流指令直線(破線)の関係を示し、図6(b)はd軸−q軸電圧座標上における、図6(a)の電流指令に対応した定常電圧(v0d0(1),v0q0(1))を示している。
前記(3)式では、トルクτはiqと比例関係であることを示している。したがって、前記(12)式は電流座標上においてトルク加振指令1周期における電流の変動量と比例する。すなわち、図6(a)における電流指令直線(破線)およびトルク曲線τ0+Aτの交差点Aと、電流指令直線(破線)およびトルク曲線τ0−Aτの交差点Bとの間の電流変化量に相当する。
最後にトルク指令τ*を実現する電流座標上の電流指令直線を求める。本実施例による、トルク指令τ*に対応した電流指令直線は図6(a)の破線となり、トルク指令τ*に対応した電流指令を前記(2)式に代入すると図6(b)のように電圧座標が求められる。
電流指令直線は電流動作点(id0(n),iq0(n))においてトルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtを得る第一近似式として、次式で与える。
(13)式のAdq(n)は、定常電流動作点(id0(n),iq0(n))において最大トルク微分dτmax(n)/dtを得る傾きと定義する。(13)式の電流指令を時間微分した後、前記(6)式を代入することで傾きAdq(n)は次式のように求められる。
前記(3)式、(13)式、(14)式において、id*,iq*について解くと、電圧飽和を発生させず、電圧飽和を回避するトルク指令τ*を実現するための電流指令id*,iq*が次式((16)式、(17)式)で得られる((3)式は、変形した下記(15)式を用いる)。
尚、(10)式、(14)式、(16)式に適用する動作点nは、1≦n<xの範囲内の任意の正数でよい。ただし、IPMSMの銅損の低減効果を考えると、n=1であることが望ましい。
すなわち、前記n=1とした場合、図4(a)に示す、定トルク曲線上の電流動作点候補(n)のうち、MTPAの制御点(id0(0),iq0(0))に最も近い(id0(1),iq0(1))に決定されるので、銅損発生を抑制できる小さい電流値となる電流指令id*,iq*が求められることになる。
以上のように本実施例1によれば、インバータ出力電圧の電圧飽和を回避することができるので、トルク指令通りのトルクが出力可能になる。したがってトルク応答とトルク精度が向上する。
また、電圧飽和前はMTPA制御と同等の制御を行い電圧飽和回避時のみMTPVの制御に近づけるため、IPMSMの銅損の発生を抑制しつつ電圧飽和を回避できる。
また、銅損の発生を抑制しているため、MTPV制御方式と比較してモータ効率向上が可能である。
実施例1では、前記(4)式に示すトルク指令値τ*が変化した場合に、動作点(図6(a)の(id0(1),iq0(1)))を変更することができないため、電圧飽和を回避できない場合がある。したがって、トルク指令値τ*が変化する度に、詳細なパラメータ調整が必要となるため、加振制御システムの操作が容易でなくなる問題がある。
そこで実施例2では、トルク指令値τ*や回転速度(ω)が途中で変化した場合にも電圧飽和を発生させず、動作点を変更することができるように構成した。
IPMSMの電圧方程式((1)式、(2)式)を変形すると、電圧飽和をしないIPMSMの電圧理論値の候補vdth,vqthが次式のように得られる。
この電圧にd軸、q軸PI演算出力を加算したd軸、q軸電圧指令値vd*,vq*をトルク指令値の1周期
にて演算することで、図7の楕円に示す加振トルク1周期の電圧軌跡を得ることができる。図7は、d軸−q軸電圧座標上の定トルク曲線τ0、加振トルク1周期での電圧Vr、インバータの最大電圧(インバータ出力限界)Vmaxの関係を示している。
電圧の大きさVrは次式で表現できる。
図7において、電圧VrのうちVmaxを超えて電圧飽和を発生させる電圧がΔVであり、Vrにおける1周期中の最大値をVrmaxとする。また、電圧の最大値Vmax(インバータが出力可能な電圧)の目標値をV* rmaxとする。Vrmaxがこの目標値V* rmaxに到達するよう、任意のゲインをKとして次のように動作点の移動量Δnを決める。
(21)式は床関数を用いて、K(Vrmax−V* rmax)を整数に変換している。
前記VrmaxがV* rmaxを超えている場合は、動作点の移動量Δnは正となり、動作点が増加(例えば図4(b)の(v0d0(1),v0q0(1))から(v0d0(2),v0q0(2))の方向へ移動)し、電圧飽和を回避する。
一方、VrmaxがV* rmaxより小さい場合は、動作点の移動量Δnは負となり、動作点が減少(例えば図4(a)の(id0(2),iq0(2))から(id0(1),iq0(1))の方向へ移動)し、銅損を低減する。
この移動量Δnを次式に示すように1周期ごとに以前の動作点n(a−1)に加えていくことで、今回の動作点n(a)が求められる(aは任意の自然数である)。
さらに、n(a)の値が変わるたびに、(13)〜(15)式に従って(16)式のように電流指令id*,iq*を再計算する。
この動作によって、やがてΔn=0となってn(a)の値は収束する。
したがって、トルク指令値τ*が変化しても電圧飽和が回避される。
なお、トルク指定値τ*の変化では、直流トルクτ0が変化する場合もある。直流トルクτ0が変化する場合は、変化したτ0の値に適合した定トルク曲線上の定常電流動作点(id0(n),iq0(n))を求めておく必要がある。これらの定常電流動作点(id0(n),iq0(n))に基づいて、前記(16)式により電流指令値(id*,iq*)を演算する。
以上のように本実施例2によれば、トルク指令が変化した場合でもその変化に応じて電圧飽和を自動的に回避するため、詳細なパラメータ調整をしなくても、トルク指令通りのトルクが出力可能になる。したがって、加振制御システムの操作が容易となる。
10…IPMSM
20…インバータ
21…直流電源
22…負荷モータ
23…ロータリーエンコーダ
24…速度演算部
25…3相/2相変換部
26…電流センサ
27…電流制御部
28…2相/3相変換部
30…トルク制御部
20…インバータ
21…直流電源
22…負荷モータ
23…ロータリーエンコーダ
24…速度演算部
25…3相/2相変換部
26…電流センサ
27…電流制御部
28…2相/3相変換部
30…トルク制御部
Claims (3)
- 直流トルクτ0を持ち、振幅Aτ、角周波数ωτで振動するトルク指令τ*(=Aτsinωτt+τ0)に基づいて電流指令(id*,iq*)を演算し、該電流指令によって、埋込磁石同期電動機に接続されたインバータを運転する、埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システムにおいて、
前記埋込磁石同期電動機の回転速度を検出した速度検出信号(ω)と、埋込磁石同期電動機の3相電流を検出してd軸、q軸に各々変換したd軸電流id、q軸電流iqを入力とし、前記トルク指令τ*に基づいてインバータの電流指令(id*,iq*)を演算するトルク制御部であって、
d軸−q軸電流座標における、前記直流トルクτ0を出力可能な条件を満たす定トルク曲線と最大トルク/電流(Maximum Torque per Ampere)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/電流制御の制御点とし、前記定トルク曲線と最大トルク/誘起電圧(Maximum Torque per Voltage)制御方式の電流ベクトル軌跡が示す曲線との交点を最大トルク/誘起電圧制御の制御点とし、最大トルク/電流制御の制御点から最大トルク/誘起電圧制御の制御点の間の定トルク曲線を、指定した分割数xで等間隔に分割した点を電流動作点候補(id0(n),iq0(n))(0≦n<x;nおよびxは正数)として求め、
前記電流動作点候補(id0(n),iq0(n))におけるトルク時間微分dτ(n)/dtを示す(7)式、(8)式とインバータの最大電圧Vmaxを示す(9)式を用いて、インバータの最大電圧Vmaxを与えたときのトルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtが得られる電圧vdmax(n),vqmax(n)を、(10)式によって求め、
d軸−q軸電流座標上の、トルク指令τ*を実現する電流指令直線を、前記電流動作点候補のうちいずれか1つに決定した定常電流動作点を用いて、トルク時間微分の最大値dτmax(n)/dtを得る第一近似式である(13)式によって求め、
前記(13)式の電流指令iq*を時間微分した後(6)式を代入することにより、前記傾きAdq(n)を(14)式のように求め、
- 前記トルク制御部は、前記(10)式のvdmax(n),vqmax(n)、前記(14)式の傾きAdq(n)および前記(16)式の電流指令id*,iq*を各々演算するとき、n=1とすることを特徴とする請求項1に記載の埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システム。
- 前記トルク制御部は、(18)式で示される電圧飽和をしない埋込磁石同期電動機の電圧理論値の候補(vdth,vqth)に、
前記n(a)の値が変更される都度、前記(16)式、(17)式を再計算して電流指令(id*,iq*)を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の埋込磁石同期電動機を用いた加振制御システム。
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