以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
(面発光レーザ素子の概要)
図1は、第1の実施の形態に係る面発光レーザ素子を例示する平面図である。図2は、第1の実施の形態に係る面発光レーザ素子を例示する部分断面図であり、図1のA−A線に沿う断面を示している。なお、図1は本実施の形態の説明のため簡略化されており、便宜上コンタクト層等の記載は省略されている。
図1及び図2に示すように、面発光レーザ素子10は、1つの面発光レーザ11を備えている。面発光レーザ11はメサ構造となっている。面発光レーザ素子10の上部から視たメサ構造の形状は、円形であってもよく、楕円形、正方形、長方形等であってもよい。面発光レーザ素子10では、基板101と反対側(図2の矢印L方向)にレーザ光が出射される。
面発光レーザ素子10は、例えば、約300μm角の半導体チップ上に形成されており、この半導体チップ上に形成された面発光レーザ11は電極パッド12に接続されている。面発光レーザ11より出射されるレーザ光の波長(発振波長)はλである。
面発光レーザ素子10において、基板101上には、下部ブラッグ反射鏡102(以下、下部DBR102とする)が形成されている。なお、DBRとは、Distributed Bragg Reflectorの略である。
基板101としては、例えば、n−GaAs基板を用いることができる。下部DBR102は、屈折率の異なる半導体材料を交互に積層形成したものである。具体的には、下部DBR102は、例えば、n−Al0.16Ga0.84As高屈折率層とn−AlAs低屈折率層とを各々の層の光学的膜厚がλ/4となるように33.5ペア積層することにより形成することができる。
下部DBR102上には、AlGaInPからなる下部スペーサ層103を介し、GaInAs量子井戸層/AlGaAs障壁層からなる活性層104が形成されている。活性層104上には、AlGaInPからなる上部スペーサ層105が形成されている。なお、下部スペーサ層103、活性層104、上部スペーサ層105により1波長の光学的膜厚となる共振器領域が形成されている。
上部スペーサ層105上には、上部ブラッグ反射鏡160(以下、上部DBR160とする)が形成されている。上部DBR160は、第1の上部ブラッグ反射鏡106(以下、第1の上部DBR106とする)、第2の上部ブラッグ反射鏡107(以下、第2の上部DBR107とする)を含むものである。
第1の上部DBR106は、屈折率の異なる半導体材料を交互に積層形成したものである。具体的には、第1の上部DBR106は、例えば、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層とn−Al0.9Ga0.1As低屈折率層とを各々の層の光学的膜厚がλ/4となるように6ペア積層することにより形成することができる。
第1の上部DBR106の低屈折率層の一つは、AlAsからなる電流狭窄層108により形成されている。電流狭窄層108の周辺部分は選択酸化されて選択酸化領域108aが形成されており、中心部分は酸化されていない電流狭窄領域108bが形成されている。
第1の上部DBR106上には、第2の上部DBR107が形成されている。第2の上部DBR107は、例えば、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層とp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層とを各々の層の光学的膜厚がλ/4とは異なる値となるように18ペア積層することにより形成することができる。第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚をλ/4とは異なる値とする技術的意義については、後述する。
第2の上部DBR107上には、コンタクト層109が形成されている。コンタクト層109は、例えば、p−GaAsから形成することができる。
コンタクト層109上には、p側電極となる上部電極111が形成されている。上部電極111は、電極パッド12と接続されている。また、基板101の裏面にはn側電極となる下部電極112が形成されている。
ここで、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚をλ/4とは異なる値とする技術的意義について説明する。
面発光レーザ素子10において、結晶成長時のウェハ面内での膜厚分布で決定される共振波長が、所望の共振波長から外れていたり、所望の共振波長を達成する領域が少なかったりする場合がある。このような場合には、所望の共振波長を有するウェハ面内領域を拡大することが、歩留まり向上の点から好ましい。
そこで、面発光レーザ素子10では、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚をλ/4とは異なる値に変更することにより、所望の共振波長を有するウェハ面内領域を拡大している。すなわち、面発光レーザ素子10では、第2の上部DBR107が波長調整領域となる。
図3は、第1の実施の形態においてウェハ面内での共振波長の分布を変更する概念を示す図である。図3において、横軸のrはウェハ面内の所定の半径方向を示し、縦軸のλは波長を示している。ウェハ面内での共振波長の分布D1が、所望の波長範囲Rから外れている場合に、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpをλ/4とは異なる値に変更することで、ウェハ面内での共振波長の分布D2に変更することができる。これにより、所望の共振波長を有するウェハ面内領域Eを拡大することができる。
例えば、第1の上部DBR106まで結晶成長後の共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して短波長であった場合、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpをλ/4よりも厚くすることで、所望の共振波長を有するウェハ面内領域Eを拡大することができる。
又、第1の上部DBR106まで結晶成長後の共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して長波長であった場合、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpをλ/4より薄くすることで、所望の共振波長を有するウェハ面内領域Eを拡大することができる。
但し、光学的膜厚Dpを大きく変更すると、面発光レーザ11の発振しきい値電流値が大きく変化し、設計値に対するレーザ特性に大きな変化を与えるため、光学的膜厚Dpを変更する範囲を規定する必要がある。これに関して、図4を参照して説明する。
図4は、第1の実施の形態において調整可能な波長範囲を説明する図であり、共振Dip波長λdipと所望の発振波長λとの差である調整波長Δλと発振しきい値電流Ithの光学的膜厚Dp依存性を例示している。図4において、三角は発振しきい値電流Ith、黒丸は調整波長Δλである。
図4に示すように、縦の2本の2点鎖線で示す0.247λ<光学的膜厚Dp<0.255λの間では、発振しきい電流Ithの変化量は約0.1mA程度であり、この電流値に対する波長シフト量は0.05nm程度と見積もられる。
すなわち、0.247λ<光学的膜厚Dp<0.255λの間では、光学的膜厚Dpの変更による発振波長λの変化に対して、電流による波長シフトの影響は十分に小さく、発振波長に大きく影響しない。
そのため、0.247λ<光学的膜厚Dp<0.255λの間ならば、設計値に対するレーザ特性に大きな変化を与えずに、±0.75nmで共振波長を調整することが可能である。
すなわち、第1の上部DBR106における高屈折率層と低屈折率層とのペア数が6の場合は、0.247λ<光学的膜厚Dp<0.25λ、又は、0.25λ<光学的膜厚Dp<0.255λを満たすように光学的膜厚Dpを調整することで、特性に大きな影響を与えることなく所望の発振波長λを得ることができる。
(面発光レーザ素子の製造方法)
次に、波長調整工程(波長調整領域の各層の光学的膜厚を調整する工程)を含めた、面発光レーザ素子10の製造方法について説明する。
まず、図5のステップS100に示すように、基板101上に波長調整領域(第2の上部DBR107)の下層までを積層する。具体的には、n−GaAsからなる基板101上に、半導体材料からなる下部DBR102、下部スペーサ層103、活性層104、上部スペーサ層105、第1の上部DBR106を積層形成する。
このように基板101上に複数の層が積層されたものを、以下では、便宜上「積層体」と称する場合がある。積層体の形成は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD)法で行うことができる。又、分子線エピタキシャル成長(MBE)法等を用いて行ってもよい。
次に、図5のステップS110に示すように、ウェハ面内の反射分光測定を行い、所望の波長と共振波長とのずれを算出する。そして、図5のステップS120に示すように、波長調整領域である第2の上部DBR107の膜厚を決定し、第2の上部DBR107及びコンタクト層109の再結晶成長を行う。
具体的には、第1の上部DBR106まで結晶成長後の共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して短波長であった場合、第2の上部DBR107の光学的膜厚をλ/4から厚くするように、再結晶成長時の成長時間にフィードバックする。
一方、第1の上部DBR106まで結晶成長後の共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して長波長であった場合、第2の上部DBR107の光学的膜厚をλ/4より薄くなるように、再結晶成長時の成長時間にフィードバックする。
例えば、図4に示した調整波長Δλと、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpとの関係に基づいて、0.247λ<光学的膜厚Dp<0.25λ、又は、0.25λ<光学的膜厚Dp<0.255λの範囲内で光学的膜厚Dpを決定することができる。
次に、図5のステップS130に示すように、波長調整領域の作製以降の工程を実行する。具体的には、第2の上部DBR107を形成した後、面発光レーザ11となる領域の周囲の半導体層を、少なくとも電流狭窄層108の側面が現れる深さまでエッチングにより除去し、メサ構造を形成する。メサ構造を形成する際のエッチングには、ドライエッチング法を用いることができる。なお、メサ構造は、上部より見た形状が円形となるように形成してもよく、楕円形、正方形、長方形等の形状となるように形成してもよい。
メサ構造を形成した後、水蒸気中で熱処理を行うことにより、電流狭窄層108をメサ構造の周囲より酸化し、周辺部分の選択酸化領域108a(酸化されている領域)と中心部分の酸化されていない電流狭窄領域108bとを形成する。つまり、電流狭窄層108は、酸化された選択酸化領域108aと、酸化されていない電流狭窄領域108bとから構成されており、電流狭窄構造となっている。
その後、面発光レーザ11のメサ構造の外側に、SiN等からなる保護膜170を形成する。そして、コンタクト層109上の保護膜170を除去し、コンタクト層109上のコンタクトを取る部分にp側電極となる上部電極111を形成する。そして、基板101の裏面にn側電極となる下部電極112を形成する。以上の工程により、面発光レーザ素子10が完成する。
以上は、第1の上部DBR106を高屈折率層と低屈折率層とを各々の層の光学的膜厚がλ/4となるように6ペア積層した場合に、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpを調整して所望の発振波長λを得る例である。しかしながら、第1の上部DBR106における高屈折率層と低屈折率層とのペア数は6とは限らないため、第1の上部DBR106における高屈折率層と低屈折率層とのペア数を一般化した場合について以下に述べる。
第1の上部DBR106における高屈折率層と低屈折率層とのペア数がmの場合については、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpを、下記の式(1)又は式(2)の範囲内で調整することにより、所望の発振波長λが得られる。なお、式(1)及び式(2)は、発振しきい電流値の変化量が0.1mA以下となる第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpの範囲を、第1の上部DBR106のペア数を変数mとして求めたものである。
但し、式(1)及び式(2)において、λは面発光レーザ素子の発振波長、mは5+0.5(p−1)を満たす値(p:自然数)である。ここで、mが整数でない場合(m=5.5、6.5、・・・)を含むのは、高屈折率層の数と低屈折率層の数が異なる場合があるからである。
式(1)及び式(2)に示すように、第1の上部DBR106と第2の上部DBR107を5ペアより上の任意の位置に動かしても、変数mを第1の上部DBR106のペア数として、波長調整できる第2の上部DBR107の各層の光学的膜厚Dpを記述することができる。
図6は、第2の上部DBR107の各層の光学的膜厚の調整可能な範囲を示している。図6において、縦軸は第2の上部DBR107の各層の光学的膜厚Dp、横軸は第1の上部DBR106と第2の上部DBR107の界面の上部DBR160内での位置(第1の上部DBR106のペア数m)である。
図6に示すように、第1の上部DBR106と第2の上部DBR107の境界をどこにおくかによって制限する膜厚の範囲が変化する。基板101側(共振器領域)に近い方が少ない膜厚の変化量で大きく波長を動かすことができる。但し、大きく波長を調整しようとして、各層の光学的膜厚をλ/4からずらせばずらすほど、特性が低下(しきい電流値の増大)する。式(1)又は式(2)を満たす膜厚範囲(すなわち、図6において破線で示す調整可能な膜厚範囲)では、図4と同様に特性を大きく低下させずに、波長調整が可能である。図6の場合、特性を大きく低下させずに、±0.75nmの範囲で共振波長を調整することができる。
なお、式(1)及び式(2)において、m=5(5ペア)以上しか対象としていない理由は以下の通りである。本発明の目的は、面発光レーザ素子を作製する際の結晶成長の段階で、第1の上部DBR106まで一度成長させて、共振Dip波長λdipのずれを算出し、算出したずれを修正するように波長調整層の光学的膜厚を調整することである。この際、第1の上部DBR106が5ペア程度は積層されていないと、第1の上部DBR106として寄与が小さくなってしまう。そこで、式(1)及び式(2)において、m=5(5ペア)以上に限定している。
このように、第1の実施の形態に係る面発光レーザ素子10では、第1の上部DBR106上に第2の上部DBR107を設け、所望の発振波長λが得られるように、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpを、式(1)又は式(2)の範囲内で調整している。
これにより、結晶成長時にウェハ面内での膜厚変動が生じ、所望の発振波長λと共振波長とがずれた場合であっても、所望の発振波長λに調整することができる。その結果、面発光レーザ素子の発振波長λに対する歩留まりが向上し(すなわち、ウェハ面内で所望の発振波長λを達成できる領域を最大化することが可能となり)、面発光レーザ素子10の低コスト化を実現できる。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる方法により、発振波長λを調整する例を示す。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
(面発光レーザ素子の概要)
図7は、第2の実施の形態に係る面発光レーザ素子を例示する平面図である。図8は、第2の実施の形態に係る面発光レーザ素子を例示する部分断面図であり、図7のB−B線に沿う断面を示している。なお、図7は本実施の形態の説明のため簡略化されており、便宜上コンタクト層等の記載は省略されている。
図7及び図8に示すように、面発光レーザ素子20は、1つの面発光レーザ21を備えている。面発光レーザ21は電極パッド22に接続されている。面発光レーザ21より出射されるレーザ光の波長(発振波長)はλである。
面発光レーザ素子20は、第1の上部DBR106上に、波長調整領域150を介して、第2の上部DBR107が形成されている点が、面発光レーザ素子10(図2等参照)と相違する。又、面発光レーザ素子20では、第2の上部DBR107は波長調整領域ではなく、第2の上部DBR107は、例えば、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層とp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層とを各々の層の光学的膜厚がλ/4となるように18ペア積層されて形成されている。
図9は、第2の実施の形態に係る波長調整領域の層構造と、定在波の縦モードの概略図である。
図9に示すように、波長調整領域150は、第1の上部DBR106側から、第1の位相調整層151、波長調整層153、及び第2の位相調整層152が積層されて構成されている。又、波長調整層153は、第1の位相調整層151側から、第1の調整層153a、第2の調整層153b、及び第3の調整層153cが積層されて構成されている。
面発光レーザ素子20では、一例として、第1の位相調整層151と第2の位相調整層152は、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層で形成されている。第1の位相調整層151と第2の位相調整層152は、AlGaAs以外の半導体材料で形成してもよい。
第2の上部DBR107において、第2の位相調整層152に接する層はp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層である。つまり、第2の位相調整層152は、第2の位相調整層152に接する第2の上部DBR107の最下層の材料よりも高い屈折率の材料により形成されている。
波長調整層153は、屈折率の異なる半導体材料膜が交互に3層積層された形態であり、基板101側から、第1の調整層153a、第2の調整層153b、第3の調整層153cである。但し、後述のように、結晶成長時の波長によっては、面発光レーザ素子20が波長調整層153を有していない場合もあり得る。
第1の調整層153a及び第3の調整層153cは、一例として、GaInPで形成されており、第2の調整層153bは、一例として、GaAsPで形成されている。なお、第1の調整層153a及び第3の調整層153cと第2の調整層153bとを形成している材料は、この逆であってもよい。又、第1の調整層153a及び第3の調整層153cと第2の調整層153bは、他の半導体材料で形成してもよい。
波長調整領域150の膜厚は3λ/4であり、第1の上部DBR106と波長調整領域150との界面の定在波は節になっており、波長調整層153の中心付近も節になっている。
本実施の形態では、所望の発振波長を達成するために、波長調整層153の層数を1層ずつ変えることにより1nmずつ共振波長を変えられるように設計されており、波長調整層153の層数を変えることにより3nm共振波長を調整することができる。
具体的には、結晶成長時に所望の共振波長のウェハ面内領域では、波長調整領域150は、第1の位相調整層151、第1の調整層153a、第2の調整層153b、第3の調整層153c、及び第2の位相調整層152からなり、所望の波長の光が出射される。
結晶成長時に所望の波長から1nm長波長の共振波長のウェハ面内領域では、波長調整領域150は、第1の位相調整層151、第1の調整層153a、第2の調整層153b、及び第2の位相調整層152からなり、所望の波長の光が出射される。
結晶成長時に所望の波長から2nm長波長の共振波長のウェハ面内領域では、波長調整領域150は、第1の位相調整層151、第1の調整層153a、及び第2の位相調整層152からなり、所望の波長の光が出射される。
結晶成長時に所望の波長から3nm長波長の共振波長のウェハ面内領域では、波長調整領域150は、第1の位相調整層151及び第2の位相調整層152からなり、所望の波長の光が出射される。
このようにして、波長調整層153の層数を変えることにより、3nm分のウェハ面内膜厚分布を打ち消し、所望の波長に近い共振Dip波長を有するウェハ面内領域を拡大することができる。
なお、本実施の形態では、波長調整層153が3層の調整層を有しているが、これには限定されず、調整層の数は3層より多くても少なくても良い。又、本実施の形態では、波長調整層153において、調整層1層あたり1nmずつ波長調整できるように膜厚が設計されているが、調整層の膜厚は、これよりも薄くしても厚くしてもよく、要求される波長精度に応じて調整層の膜厚を適宜決定することができる。
本実施の形態では、波長調整層153の層数を任意に変更することで、3nmの範囲で波長調整ができるように設計されている。しかし、波長調整層153までの結晶成長の段階で、波長調整層153の層数で調整できる3nmの波長範囲から所望の波長が外れている場合や、波長調整したとしてもウェハ面内で所望の波長を達成できる領域が少ない場合もあり得る。そのため、以下のように、第2の位相調整層の膜厚を任意に変更することにより、ウェハ面内全体の共振波長を調整可能としている。
この方法では、第2の位相調整層152のみの膜厚変更で波長調整ができるため、膜厚の制御がしやすい。又、本来の層構造全体の膜厚設計値からの変化量も少ないため、所望のレーザ特性を得やすい。
図10は、第2の実施の形態においてウェハ面内での共振波長の分布を変更する概念を示す図である。図10において、横軸のrはウェハ面内の所定の半径方向を示し、縦軸のλは波長を示している。図10に示すように、波長調整層153の調整により3nm分のウェハ面内膜厚分布D1を打ち消し均一になったウェハ面内での共振波長の分布D2が、所望の波長範囲Rから外れている場合に、第2の位相調整層152の膜厚を任意に変更することで、ウェハ面内での共振波長の分布D3に変更することができる。これにより、所望の共振波長を有するウェハ面内領域Eを拡大することができる。
(面発光レーザ素子の製造方法)
まず、n−GaAsからなる基板101上に、半導体材料からなる下部DBR102、下部スペーサ層103、活性層104、上部スペーサ層105、第1の上部DBR106、並びに波長調整領域150の一部である第1の位相調整層151及び波長調整層153を積層形成する。
次に、ウェハ面内の反射分光測定を行い、共振Dip波長と所望の波長のずれを算出し、波長調整層153において変更する調整層の層数を決定する。
以下に、波長調整領域150に、第1の調整層153a、第2の調整層153b、及び第3の調整層153cが形成されている面発光レーザ201、及び第1の調整層153a及び第2の調整層153bが形成されている面発光レーザ202、第1の調整層153aのみが形成されている面発光レーザ203、何れの調整層も形成されていない面発光レーザ204をウェハ面内に形成する場合を例として、それぞれの波長調整領域150の形成方法を説明する。又、ここでは、一例として、第1の調整層153aがGaInPにより形成され、第2の調整層153bがGaAsPにより形成され、第3の調整層153cがGaInPにより形成されているものとする。
まず、面発光レーザ201が形成される領域にレジストパターンを形成する。具体的には、波長調整領域150における第3の調整層153c上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、面発光レーザ201が形成される領域のみにレジストパターンを形成する。
次に、レジストパターンの形成されていない領域の第3の調整層153cをウエットエッチングにより除去する。 具体的には、第3の調整層153cはGaInPにより形成されているため、塩酸と水の混合液(以降、第1のエッチング液と称する場合がある)によりウエットエッチングを行う。
これにより、レジストパターンが形成されていない面発光レーザ202、203、及び204が形成される領域において第3の調整層153cのみを除去し、第2の調整層153bの表面を露出させることができる。
なお、第1のエッチング液は、第3の調整層153cを形成しているGaInPをエッチングすることはできるが、第2の調整層153bを形成しているGaAsPは殆どエッチングすることができない。この後、有機溶剤等によりレジストパターンを除去する。
次に、第3の調整層153c及び第2の調整層153b上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、面発光レーザ201及び202が形成される領域のみにレジストパターンを形成する。
次に、レジストパターンの形成されていない領域の第2の調整層153bをウエットエッチングにより除去する。具体的には、第2の調整層153bは、GaAsPにより形成されているため、硫酸と過酸化水素と水の混合液(以降、第2のエッチング液と称する場合がある)によりウエットエッチングを行う。
これにより、レジストパターンが形成されていない面発光レーザ203及び204が形成される領域において第2の調整層153bのみを除去し、第1の調整層153aの表面を露出させることができる。
なお、第2のエッチング液は、第2の調整層153bを形成しているGaAsPをエッチングすることはできるが、第1の調整層153aを形成しているGaInPは殆どエッチングすることができない。この後、有機溶剤等によりレジストパターンを除去する。
次に、第3の調整層153c、第2の調整層153b、及び第1の調整層153a上にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、面発光レーザ201、202、及び203が形成される領域のみにレジストパターンを形成する。
次に、レジストパターンの形成されていない領域の第1の調整層153aをウエットエッチングにより除去する。 具体的には、第1の調整層153aはGaInPにより形成されているため、第1のエッチング液によりウエットエッチングを行う。
これにより、レジストパターンが形成されていない面発光レーザ204の第1の調整層153aのみを除去し、第1の位相調整層151の表面を露出させることができる。この後、有機溶剤等によりレジストパターンを除去する。
次に、第2の位相調整層152及び第2の上部DBR107、コンタクト層109を再結晶成長する。これにより、本実施の形態に係る面発光レーザにおける波長調整領域150及び第2の上部DBR107を形成することができる。その後、面発光レーザ201〜面発光レーザ204を個片化することにより、共振Dip波長と所望の波長のずれを考慮して波長調整層153の層数が調整された複数の面発光レーザ素子20が形成される。
本実施の形態においては、波長調整層153を形成している第1の調整層153a、第2の調整層153b、第3の調整層153cはAlを含んでいないため、エッチング後に酸化等がされにくく、エッチング後もきれいな表面状態を維持することができる。
すなわち、Alは極めて腐食されやすいため、Alを含んだ材料により第1の調整層153a、第2の調整層153b、第3の調整層153cの何れかを形成した場合、ウエットエッチング等を行った後の表面状態は劣悪なものとなる。そのため、この上に第2の上部DBR107を形成しても、剥がれてしまう場合や、厚さが不均一となる場合等がある。
しかしながら、面発光レーザ素子20では、波長調整層153はAlを含まない材料により形成されているため、Alの腐食等が生じることはなく、このような問題は発生しない。
又、本実施の形態においては、波長調整領域150における波長調整層153は、GaAsPとGaInPとを交互に形成したものである。そして、ウエットエッチングを行う際には、相互に一方はエッチングをすることができるが他方はエッチングすることができない2種類のエッチング液を用いてエッチングを行っている。
このような2種類のエッチング液を用いてエッチングを行うことにより、エッチング後の表面は平坦になり、オーバーエッチングされることなく所定の厚さで形成することができる。これにより、特性の安定した面発光レーザ素子20を得ることができる。
以上の例では、波長調整層153を構成する調整層がGaAsPとGaInPとの組み合わせの場合について説明した。しかし、波長調整層153を構成する調整層は、Alを含まない材料であって、更にエッチング液が異なり、発振波長よりもバンドギャップエネルギーの大きい他の半導体材料の組み合わせでもよい。
例えば、発振波長が894.6nmの場合、このような半導体材料の組み合わせとしては、GaInAsP/GaInP、GaAs/GaInP、GaAs/GaInAsP、GaAsP/GaInAsP等が挙げられる。又、GaAsN/GaInP、GaInNAs/GaInP、GaAsSb/GaInP等のようにN、Sbが添加されていてもよい。
次に、面発光レーザ素子20における第2の位相調整層152の光学的膜厚について詳しく説明する。前述のように、波長調整層153の層数を変えることにより、ウェハ面内での膜厚分布を打ち消し、均一な波長を得ることは可能であるが、調整可能な波長範囲は波長調整層153の層数に依存し、本実施の形態では3nmまでの膜厚分布である。よって、波長調整層153までの結晶成長で、波長調整層153で調整できる波長範囲から、所望の波長が外れていたり、調整したとしても、要求仕様を達成するウェハ面内領域が少ない場合がある。
そこで、波長調整層153まで形成後、ウェハ面内の反射分光測定を行い、共振Dip波長と所望の波長のずれを算出する。そして、算出したずれを補償するように第2の位相調整層152の膜厚を変えることにより、共振波長を所望の波長に調整することができる。
具体的には、波長調整層153の調整層の数を調整後の均一な共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して短波長であった場合、第2の位相調整層152の膜厚を厚くするように、再結晶成長時の成長時間にフィードバックする。
一方、波長調整層153を形成後の均一な共振Dip波長λdipが、所望の発振波長λに対して長波長であった場合、第2の位相調整層152の膜厚を薄くするように、再結晶成長時の成長時間にフィードバックする。
ところで、第2の位相調整層152の膜厚を変えることによる波長の調整では、第2の位相調整層152の1層分の膜厚だけ変更することにより波長調整できる。そのため、第2の上部DBR107の各層の光学的膜厚をλ/4から変える場合と比べて、膜厚を変える層数が少なくて済む。これは当初の設計値から得られるレーザ特性からの変動も少ないことを意味し、第2の位相調整層152の光学的膜厚を変えることのみで波長調整することは有効である。
図11は、第2の実施の形態において調整可能な波長範囲を説明する図であり、第1の位相調整層151及び第2の位相調整層152がp−Al0.16Ga0.84As高屈折率層の場合の、共振Dip波長と所望の発振波長λとの差である調整波長Δλと発振しきい値電流Ithの第2の位相調整層152の光学的膜厚dの依存性を例示している。図11において、三角は発振しきい値電流Ith、黒丸は調整波長Δλである。
図11に示すように、波長調整層153の調整層1層あたりの光学的膜厚d'、波長調整層153の層数n(正の整数)、波長調整領域150の膜厚Dとすると、第2の位相調整層152の光学的膜厚dは、式(3)で表される範囲(縦の2本の2点鎖線で示す範囲)では、発振しきい電流Ithの変化量は約0.1mA程度であり、この電流値に対する波長シフト量は0.05nm程度と見積もられる。
なお、図11において、横軸は第2の位相調整層152の光学的膜厚d(λ)であるが、横軸の『0』は『1/2(D−nd')』を示している。例えば、図11において、0.05の部分は、d=0.05λ+1/2(D−nd')を意味している。
第2の位相調整層152の光学的膜厚dが式(3)で表される範囲では、第2の位相調整層の膜厚dの変更による発振波長λの変化に対して、電流による波長シフトの影響は十分に小さく、発振波長に大きく影響しない。
そのため、第2の位相調整層152の光学的膜厚dが式(3)で表される範囲ならば、設計値に対するレーザ特性に大きな変化を与えずに、±2.4nmで共振波長を調整することが可能である。
このことを一般化するならば、調整可能な第2の位相調整層152の光学的膜厚dの範囲は、式(4)で表すことができる。式(4)において、Nは正の整数であるが、光吸収の影響を受け、発振しきい電流値の増加等の弊害を考慮した場合には、Nは小さい方が望ましい。
ところで、波長調整領域150を共振器内に形成することも可能である。その場合、共振器に近いことから、波長調整層153の膜厚が本実施の形態より薄くても、大きく波長範囲を変えることが可能である。層構造に対して大きな変化を与えずに、発振波長を大きく変える必要がある場合は、波長調整領域150を共振器に近づけていくことで、対応可能である。
このように、第2の実施の形態に係る面発光レーザ素子20では、波長調整層153の調整層の数を調整後の均一な共振Dip波長λdipについて、所望の発振波長λが得られるように、第2の位相調整層152の光学的膜厚dを式(4)の範囲内で調整する。
これにより、所望の発振波長λと共振波長とがずれた場合であっても、所望の発振波長λに調整することができる。その結果、面発光レーザ素子の発振波長λに対する歩留まりが向上し(すなわち、ウェハ面内で所望の発振波長λを達成できる領域を最大化することが可能となり)、面発光レーザ素子20の低コスト化を実現できる。
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる方法により、発振波長λを調整する他の例を示す。なお、第3の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第3の実施の形態に係る面発光レーザ素子の層構造は、第1の上部DBR106のペア数、第1の位相調整層151及び第2の位相調整層152の組成と膜厚、第2の上部DBR107のペア数以外は、第2の実施の形態に係る面発光レーザ素子20と同じである。
第3の実施の形態に係る面発光レーザ素子では、第1の上部DBR106は、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層とp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層とを各々の層がλ/4となるように6.5ペア積層することにより形成されている。又、第1の位相調整層151に接する第1の上部DBR106の層は、p−Al0.16Ga0.84As高屈折率層となっている。
図12は、第3の実施の形態に係る波長調整領域の層構造と、定在波の縦モードの概略図である。第3の実施の形態に係る面発光レーザ素子では、第1の上部DBR106の上には、波長調整領域150が形成されている。波長調整領域150はp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層からなる第1の位相調整層151、第1の調整層153a、第2の調整層153b、第3の調整層153c、p−Al0.9Ga0.1As低屈折率層からなる第2の位相調整層152が形成されている。つまり、第2の位相調整層152は、第2の位相調整層152に接する第2の上部DBR107の最下層の材料よりも低い屈折率の材料により形成されている。
波長調整領域150の膜厚は3λ/4であり、第1の上部DBR106と波長調整領域150との界面の定在波は腹になっており、波長調整層153の中心付近は節になっている。なお、第2の実施の形態と同様に、形成されている面発光レーザ素子は、ウェハ面内の膜厚分布を打ち消し、所望の共振波長を得られるように、ウェハ面内の位置ごとに波長調整領域150の一部が除去されている。
本実施の形態では、第2の実施の形態と同様に、波長調整層153の層数を変更することにより、3nm分のウェハ面内膜厚分布を打ち消し、所望の発振波長に近い共振Dip波長を有するウェハ面内領域を拡大する。その後、反射分光測定を行い、共振Dip波長と所望の発振波長とのずれを補償するような第2の位相調整層152の膜厚を任意に変更する。
本実施の形態でも、第2の実施の形態と同様に、波長調整層153の層数を変えることにより拡大された均一な共振Dip波長を有するウェハ面内領域を、第2の位相調整層152の膜厚を変えることにより、所望の共振Dip波長を有するウェハ面内領域が最大となるように調整する。
図13は、第3の実施の形態において調整可能な波長範囲を説明する図であり、第1の位相調整層151及び第2の位相調整層152がp−Al0.9Ga0.1As低屈折率層の場合の、共振Dip波長と所望の発振波長λとの差である調整波長Δλと発振しきい値電流Ithの第2の位相調整層152の光学的膜厚dの依存性を例示している。図13において、三角は発振しきい値電流Ith、黒丸は調整波長Δλである。
図13に示すように、波長調整層153の調整層1層あたりの光学的膜厚d'、波長調整層153の層数n(正の整数)、波長調整領域150の膜厚Dとすると、第2の位相調整層152の光学的膜厚dは、式(5)で表される範囲(縦の2本の2点鎖線で示す範囲)では、発振しきい電流Ithの変化量は約0.1mA程度であり、この電流値に対する波長シフト量は0.05nm程度と見積もられる。
なお、図13において、横軸は第2の位相調整層152の光学的膜厚d(λ)であるが、横軸の『0』は『1/2(D−nd')』を示している。例えば、図13において、0.05の部分は、d=0.05λ+1/2(D−nd')を意味している。
第2の位相調整層152の光学的膜厚dが式(5)で表される範囲では、第2の位相調整層の膜厚dの変更による発振波長λの変化に対して、電流による波長シフトの影響は十分に小さく、発振波長に大きく影響しない。
そのため、第2の位相調整層152の光学的膜厚dが式(5)で表される範囲ならば、設計値に対するレーザ特性に大きな変化を与えずに、±2.2nmで共振波長を調整することが可能である。
このことを一般化するならば、調整可能な第2の位相調整層152の光学的膜厚dの範囲は、式(6)で表すことができる。式(6)において、Nは正の整数であるが、光吸収の影響を受け、発振しきい電流値の増加等の弊害を考慮した場合には、Nは小さい方が望ましい。
このように、第3の実施の形態に係る面発光レーザ素子では、波長調整層153の調整層の数を調整後の均一な共振Dip波長λdipについて、所望の発振波長λが得られるように、第2の位相調整層152の光学的膜厚dを式(6)の範囲内で調整する。
これにより、所望の発振波長λと共振波長とがずれた場合であっても、所望の発振波長λに調整することができる。その結果、面発光レーザ素子の発振波長λに対する歩留まりが向上し(すなわち、ウェハ面内で所望の発振波長λを達成できる領域を最大化することが可能となり)、面発光レーザ素子の低コスト化を実現できる。
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる方法により、発振波長λを調整する他の例を示す。なお、第4の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第4の実施の形態に係る面発光レーザ素子の層構造は、第2の上部DBR107の各層の膜厚以外は、第2の実施の形態と同じである。つまり、第4の実施の形態に係る面発光レーザ素子では、上部DBR160中に、波長調整領域である第2の上部DBR107が形成され、更に、波長調整層及び位相調整層を備えた波長調整領域150が形成されている。
ウェハ面内の膜厚分布が、波長調整層153の層数、及び第2の位相調整層152の膜厚の任意の変更により、調整できる波長範囲から外れている場合、第1の実施の形態と同様に、第2の上部DBRの各層の膜厚を任意に変更することにより、波長調整することができる。
図14は、第4の実施の形態においてウェハ面内での共振波長の分布を変更する概念を示す図である。図14において、横軸のrはウェハ面内の所定の半径方向を示し、縦軸のλは波長を示している。図14に示すように、波長調整層153の調整により3nm分のウェハ面内膜厚分布D1を打ち消し均一になったウェハ面内での共振波長の分布D2が、所望の波長範囲Rから外れている場合に、第2の位相調整層152の膜厚を式(4)の範囲内で任意に変更することで、ウェハ面内での共振波長の分布D3に変更することができる(調整範囲:±2.4nm)。
更に、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpを式(1)又は式(2)の範囲内で調整することで、ウェハ面内での共振波長の分布D4に変更することができる(調整範囲:±0.75nm)。すなわち、発振しきい値電流を大きく変化させることなく、発振波長を所望の波長に、±3.15nmの間で調整することができる。
〈第5の実施の形態〉
第5の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる方法により、発振波長λを調整する他の例を示す。なお、第5の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
第5の実施の形態に係る面発光レーザ素子の層構造は、第2の上部DBR107の各層の膜厚以外は、第3の実施の形態と同じである。つまり、第5の実施の形態に係る面発光レーザ素子では、上部DBR160中に、波長調整領域である第2の上部DBR107が形成され、更に、波長調整層及び位相調整層を備えた波長調整領域150が形成されている。
ウェハ面内の膜厚分布が、波長調整層153の層数、及び第2の位相調整層152の膜厚の任意の変更により、調整できる波長範囲から外れている場合、第1の実施の形態と同様に、第2の上部DBRの各層の膜厚を任意に変更することにより、波長調整することができる。
図14と同様に、波長調整層153の調整により3nm分のウェハ面内膜厚分布D1を打ち消し均一になったウェハ面内での共振波長の分布D2が、所望の波長範囲Rから外れている場合に、第2の位相調整層152の膜厚を式(6)の範囲内で任意に変更することで、ウェハ面内での共振波長の分布D3に変更することができる(調整範囲:±2.2nm)。
更に、第2の上部DBR107を構成する各々の層の光学的膜厚Dpを式(1)又は式(2)の範囲内で調整することで、ウェハ面内での共振波長の分布D4に変更することができる(調整範囲:±0.75nm)。すなわち、発振しきい値電流を大きく変化させることなく、発振波長を所望の波長に、±2.95nmの間で調整することができる。
〈第6の実施の形態〉
第6の実施の形態では、第1の実施の形態に係る面発光レーザ素子を用いた原子発振器を示す。なお、第6の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図15は、第6の実施の形態に係る原子発振器を例示する模式図である。図15に示す原子発振器400は、CPT方式の小型原子発振器であり、光源410、コリメートレンズ420、λ/4波長板430、アルカリ金属セル440、光検出器450、変調器460を有している。
原子発振器400は、面発光レーザより出射したサイドバンドを含む光のうち、2つの異なる波長の光をアルカリ金属セル440に入射させることにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により発振周波数を制御する原子発振器である。
光源410には、第1の形態に係る面発光レーザ素子10が用いられている。但し、以下の説明では面発光レーザ素子10を用いる例を説明するが、第1の形態に係る面発光レーザ素子10に代えて第2〜第5の形態に係る面発光レーザ素子を用いてもよい。
アルカリ金属セル440には、アルカリ金属としてCs(セシウム)原子ガスが封入されており、D1ラインの遷移を用いるものである。光検出器450は、フォトダイオードが用いられている。
原子発振器400では、光源410より出射された光をセシウム原子ガスが封入されたアルカリ金属セル440に照射し、セシウム原子における電子を励起する。アルカリ金属セル440を透過した光は光検出器450において検出され、光検出器450において検出された信号は変調器460にフィードバックされ、変調器460により光源410における面発光レーザ素子10を変調する。
図16に、CPTに関連する原子エネルギー準位の構造を示す。2つの基底準位から励起準位に電子が同時に励起されると光の吸収率が低下することを利用する。面発光レーザ素子10を構成する面発光レーザには、搬送波波長が894.6nmに近い素子を用いている。搬送波の波長は面発光レーザの温度、もしくは出力を変化させてチューニングすることができる。具体的には、波長の温度依存性は0.05nm/℃程度で調整できる。
図17に示すように、変調をかけることで搬送波の両側にサイドバンドが発生し、その周波数差がCs原子の固有振動数である9.2GHzに一致するように4.6GHzで変調させている。
図18に示すように、励起されたCsガスを通過するレーザ光はサイドバンド周波数差がCs原子の固有周波数差に一致した時に最大となる。そこで、光検出器450の出力が最大値を保持するように変調器460においてフィードバックして、光源410における面発光レーザ素子10の変調周波数を調整する。
原子の固有振動数が極めて安定なので変調周波数は安定した値となり、この情報がアウトプットとして取り出される。 なお、波長が894.6nmの場合では、±1nmの範囲の波長の光源が必要となる。すなわち、893.6nm〜895.6nmの範囲の波長の光源が必要となる。
原子発振器400では、発振波長に対する歩留まりが高い面発光レーザ素子10を用いているため、原子発振器400を低コストで作製し提供することができる。又、第3の実施の形態及び第4の実施の形態における面発光レーザ素子を用いる場合には、より長寿命の原子発振器400を提供することができる。これは、第3及び第4の実施の形態の面発光レーザ素子ならば、第1の実施の形態の面発光レーザ素子よりも、層構造に与える変化が小さく、かつ細かく波長調整ができるためであり、このことを言い換えれば、所望波長への調整精度が高いため、発振しきい値電流が最も小さく、原子発振器400としての動作が最も負荷の少ない低消費電力で実現できるためである。
なお、本実施の形態ではアルカリ金属としてCsを用い、そのD1ラインの遷移を用いるために波長が894.6nmの面発光レーザを用いたが、CsのD2ラインを利用する場合は852.3nmの面発光レーザを用いることができる。
又、アルカリ金属としてRb(ルビジウム)を用いることもでき、D1ラインを利用する場合は795.0nmの面発光レーザ、D2ラインを利用する場合は780.2nmの面発光レーザを用いることができる。
活性層の材料組成等は波長に応じて設計することができる。又、Rbを用いる場合の変調周波数は、87Rbでは3.4GHz、85Rbでは1.5GHzで変調させる。なお、これらの波長においても、±1nmの範囲の波長の光源が必要となる。すなわち、CsのD2ラインを利用する場合は851.3nm〜853.3nmの範囲の波長の光源が必要となる。又、RbのD1ラインを利用する場合は794.0nm〜796.0nmの範囲の波長の光源が必要となる。又、RbのD2ラインを利用する場合は779.2nm〜781.2nmの範囲の波長の光源が必要となる。
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、第6の実施に係る形態では、面発光レーザ素子を原子発振器に用いた場合について説明したが、第1〜第5の実施の形態に係る面発光レーザ素子は、ガスセンサー等の所定の波長の光が必要な他の装置等に用いることができる。この場合、これらの装置等においても、用途に応じた所定の波長の面発光レーザ光を用いることにより、同様の効果を得ることができる。