以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
[粗化硬化体]
本発明の粗化硬化体は、無機充填材含有量が50質量%以上である熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体を粗化処理して得られたものであり、X線光電子分光法により測定した、表面のSi量が25atom%以下であり、かつ表面のO量が25atom%以上であることを特徴とする。
表面が低粗度であっても導体層に対して優れた剥離強度を呈する粗化硬化体を得る観点から、X線光電子分光法により測定した、本発明の粗化硬化体の表面のSi量は、好ましくは24atom%以下、より好ましくは22atom%以下、さらに好ましくは20atom%以下、さらにより好ましくは18atom%以下、特に好ましくは16atom%以下、14atom%以下、12atom%以下、10atom%以下、又は8atom%以下である。斯かるSi量の下限は特に制限されず、通常、0atom%以上であり、好ましくは0.01atom%以上、より好ましくは0.5atom%以上、更に好ましくは1atom%以上である。
なお、粗化硬化体の表面のSi原子は、後述する無機充填材及びその表面処理剤に由来するものである。Si原子は、導体層(金属層)との密着性に寄与しない非極性原子であることから、導体層に対して優れた剥離強度を呈する粗化硬化体を得る観点からは、本発明の粗化硬化体の表面のSi量は少ないほど好ましい。
また、X線光電子分光法により測定した、本発明の粗化硬化体の表面のO量は、好ましくは26atom%以上、より好ましくは27atom%以上、さらに好ましくは28atom%以上、さらにより好ましくは29atom%以上、特に好ましくは30atom%以上である。斯かるO量の上限は、通常、65atom%以下であり、好ましくは60atom%以下、より好ましくは55atom%以下、さらに好ましくは50atom%以下、さらにより好ましくは45atom%以下、特に好ましくは40atom%以下、38atom%以下、36atom%以下、34atom%以下、又は32atom%以下である。
なお、粗化硬化体の表面のO原子は、後述する無機充填材、その表面処理剤、熱硬化性樹脂、硬化剤等のO原子含有成分に由来するものである。O原子は、導体層(金属層)との密着性に寄与する極性原子であることから、導体層に対して優れた剥離強度を呈する粗化硬化体を得る観点から、本発明の粗化硬化体の表面のO量は上記の下限値の条件を満たすことが好ましい。
X線光電子分光法による粗化硬化体の表面組成分析は、例えば、下記の測定装置を用いて下記の測定条件により実施することができる。
〔測定装置〕
装置型式:QUANTERA SXM(アルバックファイ社製 全自動走査型X線光電子分光分析装置)
到達真空度:7.0×10−10Torr
X線源:単色化 Al Kα(1486.6eV)
分光器:静電同心半球型分析器
検出器:多チャンネル式(32 Multi−Channel Detector)
中和銃設定 電子:1.0 V (20μA)、イオン:10.0V(7mA)
〔測定条件〕
[サーベイスペクトル(ワイドスキャン)]
X線ビーム径:100μmΦ(HPモード、100.6W、20kV)
測定領域:1400μm×100μm
信号の取り込み角:45.0°
パスエネルギー:280.0eV
表面が低粗度であっても導体層に対して優れた剥離強度を呈する粗化硬化体を得る観点から、粗化硬化体の表面におけるSi量に対するO量の比(O/Si)が2.1以上であることが好ましく、2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましく、2.6以上であることがさらにより好ましく、2.8以上、3.0以上、3.2以上、3.4以上、3.6以上、又は3.7以上であることが特に好ましい。
表面のSi原子とO原子の割合を上記範囲とすることにより、本発明の粗化硬化体は、表面が低粗度であっても導体層に対して優れた剥離強度を呈することができる。一実施形態において、本発明の粗化硬化体の表面の算術平均粗さRaは、微細配線形成能向上の観点から、好ましくは350nm未満、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは250nm以下、さらにより好ましくは200nm以下、特に好ましくは180nm以下、160nm以下、140nm以下、120nm以下、100nm以下、又は80nm以下である。算術平均粗さRaの下限値は特に限定されず、20nm、40nmなどとなる。本発明の粗化硬化体と導体層との剥離強度に関しては後述する。
なお、粗化硬化体の表面の算術平均粗さRaは、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。非接触型表面粗さ計の具体例としては、ビーコインスツルメンツ製の「WYKO NT3300」が挙げられる。
本発明の粗化硬化体は、無機充填材含有量が50質量%以上である熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体を粗化処理して得られる。
表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を得る観点から、本発明の粗化硬化体を形成するために使用する熱硬化体は、JIS K5600−5−4(ISO 15184)に準拠して測定された、表面の引っかき硬度がH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが特に好ましい。斯かる引っかき硬度の上限は、8Hであり、好ましくは5H以下である。
熱硬化体はまた、X線光電子分光法により測定した、表面のSi量が、2atom%未満であることが好ましく、1.5atom%以下であることがより好ましく、1.0atom%以下であることがさらに好ましく、0.8atom%以下、0.6atom%以下、0.4atom%以下、又は0.2atom%以下であることが特に好ましい。斯かるSi量の下限は特に制限されず、0atom%であってもよい。
熱硬化体を粗化処理して粗化硬化体を得るに際して、粗化処理における熱硬化体単位表面積当たりのエッチング量は、表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を得る観点から、2g/m2以下であることが好ましく、1.8g/m2以下であることがより好ましく、1.6g/m2以下であることがさらに好ましく、1.4g/m2以下であることが特に好ましい。斯かるエッチング量の下限は特に制限されないが、好ましくは0.01g/m2以上であり、より好ましくは0.5g/m2以上である。
本発明の粗化硬化体の厚さは、絶縁性向上の観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、さらにより好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上である。また本発明の粗化硬化体の厚さは、薄膜化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下、さらに好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは70μm以下、特に好ましくは60μm以下である。
本発明の粗化硬化体は、二層以上からなる複層構造であってもよい。複層構造の粗化硬化体の場合、全体の厚さが上記範囲にあることが好ましい。
以下、本発明の粗化硬化体を形成するために使用する熱硬化性樹脂組成物について説明する。
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の粗化硬化体は、無機充填材含有量が50質量%以上である熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体を粗化処理して得られる。得られる粗化硬化体(絶縁層)の熱膨張率を十分に低下させる観点から、熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上である。
なお、本発明において、熱硬化性樹脂組成物を構成する各成分の含有量は、熱硬化性樹脂組成物中の不揮発成分の合計を100質量%としたときの値である。
表面のSi原子とO原子の割合が特定範囲にある本発明の粗化硬化体においては、導体層に対する剥離強度を低下させることなく、無機充填材の含有量を更に高めることができる。例えば、熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、66質量%以上、68質量%以上、70質量%以上、72質量%以上、74質量%以上、76質量%以上、又は78質量%以上にまで高めてよい。
熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量の上限は、該熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体の機械強度低下防止の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
無機充填材としては、例えば、シリカ、窒化ケイ素、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、及びジルコン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等のシリカが特に好適である。またシリカとしては球状シリカが好ましい。無機充填材は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。市販されている球状溶融シリカとして、(株)アドマテックス製「SOC2」、「SOC1」が挙げられる。
無機充填材の平均粒径は0.01μm〜2μmの範囲が好ましく、0.05μm〜1.5μmの範囲がより好ましく、0.07μm〜1μmの範囲が更に好ましく、0.1μm〜0.8μmが更により好ましい。無機充填材の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、無機充填材の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、株式会社堀場製作所製LA−500等を使用することができる。
無機充填材は、耐湿性向上のため、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤などの1種以上の表面処理剤で処理されていることが好ましい。表面処理剤の市販品としては、例えば、信越化学工業(株)製「KBM403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業(株)製「KBM803」(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業(株)製「KBE903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業(株)製「KBM573」(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業(株)製「SZ−31」(ヘキサメチルジシラザン)等が挙げられる。
また、表面処理剤で表面処理された無機充填材は、溶剤(例えば、メチルエチルケトン(MEK))により洗浄処理した後に、無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。具体的には、溶剤として十分な量のMEKを表面処理剤で表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所製「EMIA−320V」等を使用することができる。
無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量は、無機充填材の分散性向上の観点から、0.02mg/m2以上が好ましく、0.1mg/m2以上がより好ましく、0.2mg/m2以上が更に好ましい。一方、樹脂ワニスの溶融粘度やフィルム形態での溶融粘度の上昇を防止する観点から、1mg/m2以下が好ましく、0.8mg/m2以下がより好ましく、0.5mg/m2以下が更に好ましい。
一実施形態において、熱硬化性樹脂組成物は、上記無機充填材と熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂としては、プリント配線板の絶縁層を形成する際に使用される従来公知の熱硬化性樹脂を用いることができ、中でもエポキシ樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂組成物はまた、硬化剤を含んでいてもよい。一実施形態において、熱硬化性樹脂組成物は、無機充填材、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む。熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、さらに熱可塑性樹脂、硬化促進剤、難燃剤及びゴム粒子等の添加剤を含んでいてもよい。
以下、樹脂組成物の材料として使用し得るエポキシ樹脂、硬化剤、及び添加剤について説明する。
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、ナフトールノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂及びトリメチロール型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂の不揮発成分を100質量%とした場合に、少なくとも50質量%以上は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であるのが好ましい。中でも、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、温度20℃で液状のエポキシ樹脂(以下、「液状エポキシ樹脂」という。)と、1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、温度20℃で固体状のエポキシ樹脂(以下、「固体状エポキシ樹脂」という。)とを含むことが好ましい。エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを併用することで、優れた可撓性を有する熱硬化性樹脂組成物が得られる。また、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化して形成される熱硬化体の破断強度も向上する。
液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、又はナフタレン型エポキシ樹脂が好ましく、ナフタレン型エポキシ樹脂がより好ましい。液状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC(株)製の「HP4032」、「HP4032D」、「EXA4032SS」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、三菱化学(株)製の「jER828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER807」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
固体状エポキシ樹脂としては、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、ナフトールノボラックエポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、又はナフチレンエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、又はナフチレンエーテル型エポキシ樹脂がより好ましい。固体状エポキシ樹脂の具体例としては、DIC(株)製の「HP−4700」、「HP−4710」(4官能ナフタレン型エポキシ樹脂)、「N−690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「N−695」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「HP−7200」(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、「EXA7311」、「EXA7311−G3」、「HP6000」(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂)、日本化薬(株)製の「EPPN−502H」(トリスフェノールエポキシ樹脂)、「NC7000L」(ナフトールノボラックエポキシ樹脂)、「NC3000H」、「NC3000」、「NC3000L」、「NC3100」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、新日鐵化学(株)製の「ESN475」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、三菱化学(株)製の「YX4000H」、「YX4000HK」、「YL6121」(ビフェニル型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを併用する場合、それらの量比(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂)は、質量比で、1:0.1〜1:4の範囲が好ましい。液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂との量比を斯かる範囲とすることにより、i)後述する接着フィルムの形態で使用する場合に適度な粘着性がもたらされる、ii)接着フィルムの形態で使用する場合に十分な可撓性が得られ、取り扱い性が向上する、並びにiii)十分な破断強度を有する硬化体を得ることができるなどの効果が得られる。上記i)〜iii)の効果の観点から、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂の量比(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂)は、質量比で、1:0.3〜1:3.5の範囲がより好ましく、1:0.6〜1:3の範囲がさらに好ましく、1:0.8〜1:2.6の範囲が特に好ましい。
熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、3質量%〜50質量%が好ましく、5質量%〜45質量%がより好ましく、5質量%〜40質量%が更に好ましく、7質量%〜35質量%が特に好ましい。
(硬化剤)
硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化する機能を有する限り特に限定されないが、例えば、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、及びシアネートエステル系硬化剤が挙げられる。硬化剤は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤としては、耐熱性及び耐水性の観点から、ノボラック構造を有するフェノール系硬化剤、又はノボラック構造を有するナフトール系硬化剤が好ましい。また、導体層との密着性(剥離強度)の観点から、含窒素フェノール系硬化剤が好ましく、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤がより好ましい。中でも、耐熱性、耐水性、及び導体層との密着性(剥離強度)を高度に満足させる観点から、トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として用いることが好ましい。
フェノール系硬化剤及びナフトール系硬化剤の具体例としては、例えば、明和化成(株)製の「MEH−7700」、「MEH−7810」、「MEH−7851」、日本化薬(株)製の「NHN」、「CBN」、「GPH」、東都化成(株)製の「SN170」、「SN180」、「SN190」、「SN475」、「SN485」、「SN495」、「SN375」、「SN395」、DIC(株)製の「LA7052」、「LA7054」、「LA3018」、群栄化学工業(株)製の「GDP−6140」等が挙げられる。
導体層との密着性(剥離強度)の観点から、活性エステル系硬化剤も好ましい。詳細は後述することとするが、活性エステル系硬化剤を使用することにより、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる際の温度条件が「ノンステップ」条件や「ステップ」条件であっても、所望の引っかき硬度を有する熱硬化体を容易に得ることができ、表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を簡便に実現できる。
活性エステル系硬化剤としては、特に制限はないが、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。当該活性エステル系硬化剤は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性向上の観点から、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物とから得られる活性エステル系硬化剤が好ましく、カルボン酸化合物とフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とから得られる活性エステル系硬化剤がより好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール化合物又はナフトール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、カテコール、α−ナフトール、β−ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラック等が挙げられる。
活性エステル系硬化剤としては、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物が好ましく、中でもナフタレン構造を含む活性エステル化合物、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含む活性エステル化合物がより好ましい。
活性エステル系硬化剤の市販品としては、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含む活性エステル化合物として、「EXB9451」、「EXB9460」、「EXB9460S」、「HPC−8000−65T」(DIC(株)製)、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物として「EXB9416−70BK」(DIC(株)製)、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物として「DC808」(三菱化学(株)製)、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物として「YLH1026」(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
ベンゾオキサジン系硬化剤の具体例としては、昭和高分子(株)製の「HFB2006M」、四国化成工業(株)製の「P−d」、「F−a」が挙げられる。
シアネートエステル系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3−メチレン−1,5−フェニレンシアネート)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェニルシアネート)、4,4’−エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2−ビス(4−シアネート)フェニルプロパン、1,1−ビス(4−シアネートフェニルメタン)、ビス(4−シアネート−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,3−ビス(4−シアネートフェニル−1−(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテル、及びビス(4−シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。シアネートエステル系硬化剤の具体例としては、ロンザジャパン(株)製の「PT30」及び「PT60」(いずれもフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂)、「BA230」(ビスフェノールAジシアネートの一部又は全部がトリアジン化され三量体となったプレポリマー)等が挙げられる。
エポキシ樹脂と硬化剤との量比は、[エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数]:[硬化剤の反応基の合計数]の比率で、1:0.2〜1:2の範囲が好ましく、1:0.3〜1:1.5がより好ましく、1:0.4〜1:1が更に好ましい。ここで、硬化剤の反応基とは、活性水酸基、活性エステル基等であり、硬化剤の種類によって異なる。また、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数とは、各エポキシ樹脂の固形分質量をエポキシ当量で除した値をすべてのエポキシ樹脂について合計した値であり、硬化剤の反応基の合計数とは、各硬化剤の固形分質量を反応基当量で除した値をすべての硬化剤について合計した値である。エポキシ樹脂と硬化剤との量比を斯かる範囲とすることにより、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体の耐熱性がより向上する。
一実施形態において、本発明の粗化硬化体を形成するために使用する熱硬化性樹脂組成物は、上述の無機充填材、エポキシ樹脂、及び硬化剤を含む。熱硬化性樹脂組成物は、無機充填材としてシリカを、エポキシ樹脂として液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂との混合物(液状エポキシ樹脂:固体状エポキシ樹脂の質量比は1:0.1〜1:4の範囲が好ましく、1:0.3〜1:3.5の範囲がより好ましく、1:0.6〜1:3の範囲がさらに好ましく、1:0.8〜1:2.6の範囲が特に好ましい)を、硬化剤としてフェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤及び活性エステル系硬化剤からなる群から選択される1種以上を、それぞれ含むことが好ましい。斯かる特定の成分を組み合わせて含む熱硬化性樹脂組成物層に関しても、無機充填材、エポキシ樹脂、及び硬化剤の好適な含有量は上述のとおりであるが、中でも、無機充填材の含有量が50質量%〜95質量%、エポキシ樹脂の含有量が3質量%〜50質量%であることが好ましく、無機充填材の含有量が50質量%〜90質量%、エポキシ樹脂の含有量が5質量%〜45質量%であることがより好ましい。硬化剤の含有量に関しては、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数と、硬化剤の反応基の合計数との比が、好ましくは1:0.2〜1:2の範囲、より好ましくは1:0.3〜1:1.5の範囲、さらに好ましくは1:0.4〜1:1の範囲となるように含有させる。
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、さらに熱可塑性樹脂、硬化促進剤、難燃剤及びゴム粒子等の添加剤を含んでいてもよい。
(熱可塑性樹脂)
表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリスルホン樹脂等が挙げられ、中でも、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は8,000〜70,000の範囲が好ましく、10,000〜60,000の範囲がより好ましく、20,000〜60,000の範囲が更に好ましい。熱可塑性樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される。具体的には、熱可塑性樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、測定装置として(株)島津製作所製LC−9A/RID−6Aを、カラムとして昭和電工(株)製Shodex K−800P/K−804L/K−804Lを、移動相としてクロロホルム等を用いて、カラム温度40℃にて測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて算出することができる。
フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ノボラック骨格、ビフェニル骨格、フルオレン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、ノルボルネン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、アダマンタン骨格、テルペン骨格、及びトリメチルシクロヘキサン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を有するフェノキシ樹脂が挙げられる。フェノキシ樹脂の末端は、フェノール性水酸基、エポキシ基等のいずれの官能基でもよい。フェノキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。フェノキシ樹脂の具体例としては、三菱化学(株)製の「1256」及び「4250」(いずれもビスフェノールA骨格含有フェノキシ樹脂)、「YX8100」(ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂)、及び「YX6954」(ビスフェノールアセトフェノン骨格含有フェノキシ樹脂)が挙げられ、その他にも、東都化成(株)製の「FX280」及び「FX293」、三菱化学(株)製の「YL7553」、「YL6794」、「YL7213」、「YL7290」及び「YL7482」等が挙げられる。
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が好ましく、その具体例としては、電気化学工業(株)製の電化ブチラール4000−2、5000−A、6000−C、6000−EP、積水化学工業(株)製のエスレックBHシリーズ、BXシリーズ、KSシリーズ、BLシリーズ、BMシリーズ等が挙げられる。
ポリイミド樹脂の具体例としては、新日本理化(株)製の「リカコートSN20」及び「リカコートPN20」が挙げられる。ポリイミド樹脂の具体例としてはまた、2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状ポリイミド(特開2006−37083号公報記載のもの)、ポリシロキサン骨格含有ポリイミド(特開2002−12667号公報及び特開2000−319386号公報等に記載のもの)等の変性ポリイミドが挙げられる。
ポリアミドイミド樹脂の具体例としては、東洋紡績(株)製の「バイロマックスHR11NN」及び「バイロマックスHR16NN」が挙げられる。ポリアミドイミド樹脂の具体例としてはまた、日立化成工業(株)製のポリシロキサン骨格含有ポリアミドイミド「KS9100」、「KS9300」等の変性ポリアミドイミドが挙げられる。
ポリエーテルスルホン樹脂の具体例としては、住友化学(株)製の「PES5003P」等が挙げられる。
ポリスルホン樹脂の具体例としては、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製のポリスルホン「P1700」、「P3500」等が挙げられる。
表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、熱硬化性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜10質量%であることがより好ましい。
硬化促進剤としては、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤等が挙げられる。表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、硬化促進剤としては、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤がより好ましい。
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ホスホニウムボレート化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、(4−メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート等が挙げられる。
アミン系硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン等が挙げられ、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセンが好ましい。
イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、 1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン等のイミダゾール化合物及びイミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体が挙げられ、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが好ましい。
グアニジン系硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、1−メチルグアニジン、1−エチルグアニジン、1−シクロヘキシルグアニジン、1−フェニルグアニジン、1−(o−トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、1−メチルビグアニド、1−エチルビグアニド、1−n−ブチルビグアニド、1−n−オクタデシルビグアニド、1,1−ジメチルビグアニド、1,1−ジエチルビグアニド、1−シクロヘキシルビグアニド、1−アリルビグアニド、1−フェニルビグアニド、1−(o−トリル)ビグアニド等が挙げられる。
硬化促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好適な一実施形態において、熱効果性樹脂組成物に含有される硬化促進剤は、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤からなる群から選択される1種以上である。熱硬化性樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂と硬化剤の不揮発成分合計量を100質量%としたとき、0.05質量%〜3質量%の範囲で使用することが好ましい。
難燃剤としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。熱硬化性樹脂組成物層中の難燃剤の含有量は特に限定はされないが、0.5質量%〜10質量%が好ましく、1質量%〜9質量%がより好ましく、1.5質量%〜8質量%が更に好ましい。
ゴム粒子としては、例えば、後述する有機溶剤に溶解せず、上述のエポキシ樹脂、硬化剤、及び熱可塑性樹脂などとも相溶しないものが使用される。このようなゴム粒子は、一般には、ゴム成分の分子量を有機溶剤や樹脂に溶解しないレベルまで大きくし、粒子状とすることで調製される。
ゴム粒子としては、例えば、コアシェル型ゴム粒子、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、架橋スチレンブタジエンゴム粒子、アクリルゴム粒子などが挙げられる。コアシェル型ゴム粒子は、コア層とシェル層とを有するゴム粒子であり、例えば、外層のシェル層がガラス状ポリマーで構成され、内層のコア層がゴム状ポリマーで構成される2層構造、又は外層のシェル層がガラス状ポリマーで構成され、中間層がゴム状ポリマーで構成され、コア層がガラス状ポリマーで構成される3層構造のものなどが挙げられる。ガラス状ポリマー層は、例えば、メチルメタクリレート重合物などで構成され、ゴム状ポリマー層は、例えば、ブチルアクリレート重合物(ブチルゴム)などで構成される。ゴム粒子は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
ゴム粒子の平均粒径は、好ましくは0.005μm〜1μmの範囲であり、より好ましくは0.2μm〜0.6μmの範囲である。ゴム粒子の平均粒径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。例えば、適当な有機溶剤にゴム粒子を超音波などにより均一に分散させ、濃厚系粒径アナライザー(FPAR−1000;大塚電子(株)製)を用いて、ゴム粒子の粒度分布を質量基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。熱硬化性樹脂組成物中のゴム粒子の含有量は、好ましくは1質量%〜10質量%であり、より好ましくは2質量%〜5質量%である。
本発明の粗化硬化体を形成するために使用する熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよく、斯かる他の添加剤としては、例えば、有機銅化合物、有機亜鉛化合物及び有機コバルト化合物等の有機金属化合物、並びに有機フィラー、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、着色剤及び硬化性樹脂等の樹脂添加剤等が挙げられる。
本発明の粗化硬化体は、プリント配線板の絶縁層を形成するための粗化硬化体(プリント配線板の絶縁層用粗化硬化体)として使用することができる。中でも、ビルドアップ方式によるプリント配線板の製造において、絶縁層を形成するための粗化硬化体(プリント配線板のビルドアップ絶縁層用粗化硬化体)として好適に使用することができ、メッキにより導体層を形成するための硬化体(メッキにより導体層を形成するプリント配線板のビルドアップ絶縁層用粗化硬化体)としてさらに好適に使用することができる。
プリント配線板に本発明の粗化硬化体を使用する場合、本発明の粗化硬化体を形成するために使用する熱硬化性樹脂組成物は、回路基板への積層を簡便かつ効率よく実施できる観点から、該熱硬化性樹脂組成物からなる層を含む接着フィルムの形態で用いることが好適である。
一実施形態において、接着フィルムは、支持体と、該支持体と接合している熱硬化性樹脂組成物層(接着層)とを含んでなる。
なお、複層構造の粗化硬化体を形成するために、複層構造の熱硬化性樹脂組成物層を使用してよい。この場合、熱硬化性樹脂組成物層全体として無機充填材含有量が50質量%以上であればよい。
支持体としては、プラスチック材料からなるフィルムが好適に用いられる。プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下、「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下、「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミドなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。好適な一実施形態において、支持体は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
支持体は、熱硬化性樹脂組成物層と接合する側の表面にマット処理、コロナ処理を施してあってもよい。また、支持体としては、熱硬化性樹脂組成物層と接合する側の表面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。
支持体の厚さは、特に限定されないが、5μm〜75μmの範囲が好ましく、10μm〜60μmの範囲がより好ましい。なお、支持体が離型層付き支持体である場合、離型層付き支持体全体の厚みが上記範囲であることが好ましい。
接着フィルムは、例えば、有機溶剤に熱硬化性樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコーターなどを用いて支持体上に塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥させて熱硬化性樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(以下「MEK」ともいう。)及びシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びカルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ及びブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等のアミド系溶媒等を挙げることができる。有機溶剤は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
乾燥条件は特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂ワニス中の有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30質量%〜60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスを用いる場合、50℃〜150℃で3〜10分乾燥させることにより、熱硬化性樹脂組成物層を形成することができる。
接着フィルムにおいて、熱硬化性樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)には、支持体に準じた保護フィルムをさらに積層することができる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm〜40μmである。保護フィルムを積層することにより、熱硬化性樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。接着フィルムは、ロール状に巻きとって保存することが可能であり、本発明の粗化硬化体を製造する際には、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
本発明の粗化硬化体は、無機充填材含有量が50質量%以上である上記熱硬化性樹脂組成物の熱硬化体を粗化処理して得られる。例えば、本発明の粗化硬化体は、下記工程(A)及び(B)を含む方法により製造される。
(A)無機充填材含有量が50質量%以上である熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて熱硬化体を形成する工程
(B)熱硬化体を粗化処理して粗化硬化体を形成する工程
工程(A)において使用する熱硬化性樹脂組成物の構成は上述のとおりである。表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、無機充填材(好ましくはシリカ)、エポキシ樹脂、硬化剤及び熱可塑性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を用いることが好ましく、無機充填材(好ましくはシリカ)、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂及び硬化促進剤を含む熱硬化性樹脂組成物を用いることがより好ましい。表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、硬化剤としてはフェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤及び活性エステル系硬化剤からなる群から選択される1種以上を、熱可塑性樹脂としてはフェノキシ樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群から選択される1種以上を、硬化促進剤としてはアミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤からなる群から選択される1種以上を、それぞれ用いることが好ましい。
工程(A)における熱硬化性樹脂組成物の熱硬化は、熱硬化性樹脂組成物を、所定の温度にて所定の時間加熱する条件(以下「ノンステップ条件」という。)にて実施してもよく、あるいは温度T1にて所定の時間加熱した後、温度T1よりも高い温度T2にて所定の時間加熱する条件(以下「ステップ条件」という。)で実施してもよい。なお、ステップ条件にて熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合、2段階の加熱(T1→T2)に限られず、3段階(T1→T2→T3)あるいはより多段階の加熱としてもよい。
表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体をより容易に実現できる観点から、ステップ条件にて熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させることが好ましい。硬化剤として活性エステル系硬化剤を使用する場合には、ノンステップ条件やステップ条件にて熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合にも表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる。
ノンステップ条件にて熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合、熱硬化性樹脂組成物の組成によっても異なるが、硬化温度は、好ましくは150℃〜240℃の範囲、より好ましくは150℃〜210℃の範囲、さらに好ましくは170℃〜190℃の範囲であり、硬化時間は、好ましくは5分間〜90分間の範囲、より好ましくは10分間〜75分間の範囲、さらに好ましくは15分間〜60分間の範囲である。室温から上記硬化温度までの昇温速度は特に制限されないが、好ましくは1.5℃/分〜30℃/分、より好ましくは2℃/分〜30℃/分である。
ステップ条件にて熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合、例えば、温度T1(但し50℃≦T1<150℃)にて10分間以上加熱した後、温度T2(但し150℃≦T2≦240℃)にて5分間以上加熱してよい。
ステップ条件において、温度T1は、熱硬化性樹脂組成物の組成にもよるが、好ましくは60℃≦T1≦130℃、より好ましくは70℃≦T1≦120℃、さらに好ましくは80℃≦T1≦110℃を満たす。
ステップ条件において、温度T1にて加熱する時間は、温度T1の値にもよるが、好ましくは10分間〜150分間、より好ましくは15分間〜120分間である。
ステップ条件において、温度T2は、熱硬化性樹脂組成物の組成にもよるが、好ましくは155℃≦T2≦230℃、より好ましくは160℃≦T2≦220℃、さらに好ましくは170℃≦T2≦210℃を満たす。
なお、温度T1と温度T2は、好ましくは20℃≦T2−T1≦150℃、より好ましくは30℃≦T2−T1≦140℃、さらに好ましくは40℃≦T2−T1≦130℃、特に好ましくは50℃≦T2−T1≦120℃の関係を満たす。
ステップ条件において、温度T2にて加熱する時間は、温度T2の値にもよるが、好ましくは5分間〜100分間、より好ましくは10分間〜80分間、さらに好ましくは10分間〜50分間である。
ステップ条件において、室温から温度T1までの昇温速度は特に制限されないが、好ましくは1.5℃/分〜30℃/分、より好ましくは2℃/分〜30℃/分である。また、温度T1から温度T2への昇温速度は、好ましくは1.5℃/分〜30℃/分、より好ましくは2℃/分〜30℃/分、さらに好ましくは4℃/分〜20℃/分、さらにより好ましくは4℃/分〜10℃/分である。
熱硬化性樹脂組成物の熱硬化は、常圧下で実施しても減圧下で実施してもよいが、表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現できる観点から、好ましくは0.075mmHg〜3751mmHg(0.1hPa〜5000hPa)の範囲、より好ましくは1mmHg〜1875mmHg(1.3hPa〜2500hPa)の範囲の空気圧にて実施することが好ましい。
こうして形成される熱硬化体は、上述のとおり、JIS K5600−5−4(ISO 15184)に準拠して測定された、表面の引っかき硬度が高く、また、X線光電子分光法により測定した、表面のSi量が低い傾向にある。斯かる熱硬化体は、後述する工程(B)の粗化処理において、表面が適度に粗化されるため、表面粗度の過度の上昇を抑えることができる。また、粗化処理後に表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲となることから、表面が低粗度であっても導体層に対して高い剥離強度を呈する粗化硬化体を実現することができる。
工程(B)における粗化処理の手順、条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常使用される公知の手順、条件を採用することができる。
例えば、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、中和液による中和処理をこの順に実施して硬化体表面を粗化処理することができる。膨潤液としては特に限定されないが、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液であり、該アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液がより好ましい。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン(株)製のスウェリング・ディップ・セキュリガンスP、スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU等が挙げられる。膨潤液による膨潤処理は、特に限定されないが、例えば、30〜90℃の膨潤液に硬化体を1分間〜20分間浸漬することにより行うことができる。硬化体の樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40〜80℃の膨潤液に硬化体を5秒間〜15分間浸漬させることが好ましい。酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。アルカリ性過マンガン酸溶液等の酸化剤による粗化処理は、60℃〜80℃に加熱した酸化剤溶液に硬化体を10分間〜30分間浸漬させて行うことが好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は5質量%〜10質量%が好ましい。市販されている酸化剤としては、例えば、アトテックジャパン(株)製のコンセントレート・コンパクトP、ドージングソリューション・セキュリガンスP等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。また、中和液としては、酸性の水溶液が好ましく、市販品としては、例えば、アトテックジャパン(株)製のリダクションショリューシン・セキュリガントPが挙げられる。中和液による処理は、酸化剤溶液による粗化処理がなされた処理面を30〜80℃の中和液に5分間〜30分間浸漬させることにより行うことができる。作業性等の点から、酸化剤溶液による粗化処理がなされた対象物を、40〜70℃の中和液に5分間〜20分間浸漬する方法が好ましい。
こうして得られた本発明の粗化硬化体は、無機充填材含有量が高いという特性を保持しつつ、表面の粗度が低く且つ導体層に対して優れた剥離強度を呈することから、プリント配線板の微細配線化に著しく寄与するものである。
[積層体]
本発明の積層体は、本発明の粗化硬化体と、該粗化硬化体の表面に形成された導体層とを備える。
導体層は金属層からなり、導体層に使用する金属は特に限定されないが、好適な一実施形態では、導体層は、金、白金、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムからなる群から選択される1種以上の金属を含む。導体層は、単金属層であっても合金層であってもよく、合金層としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金及び銅・チタン合金)から形成された層が挙げられる。中でも、金属層形成の汎用性、コスト、エッチングによる除去の容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金、銅・チタン合金の合金層が好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層がより好ましく、銅の単金属層が更に好ましい。
導体層は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。導体層が複層構造である場合、粗化硬化体と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層であることが好ましい。
導体層の厚さは、プリント配線板の微細配線化の観点から、40μm以下が好ましく、1〜35μmがより好ましく、3〜20μmが更に好ましい。金属層が複層構造である場合も、金属層全体の厚みは上記範囲であることが好ましい。
導体層は、乾式メッキ又は湿式メッキにより形成することができる。乾式メッキとしては、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知の方法が挙げられる。湿式メッキの場合は、例えば、無電解メッキと電解メッキとを組み合わせて金属層を形成する。あるいは、金属層(導体層)とは逆パターンのメッキレジストを形成し、無電解メッキのみで金属層を形成することもできる。配線パターン形成の方法としては、例えば、当業者に公知のサブトラクティブ法、セミアディティブ法などを用いることができる。
導体層の厚さは、プリント配線板の微細配線化の観点から、40μm以下が好ましく、1〜35μmがより好ましく、3〜20μmが更に好ましい。導体層が複層構造である場合も、導体層全体の厚みは上記範囲であることが好ましい。
本発明の積層体において、粗化硬化体と導体層との剥離強度は、好ましくは0.3kgf/cm以上、より好ましくは0.4kgf/cm以上、さらに好ましくは0.5kgf/cm以上、さらにより好ましくは0.55kgf/cm以上、特に好ましくは0.6kgf/cm以上である。一方、剥離強度の上限は特に制限されないが、1.2kgf/cm以下、0.9kgf/cm以下などとなる。
本発明の積層体は、粗化硬化体の表面の算術平均粗さRaが350nm未満と小さいにもかかわらず、このように高い剥離強度を呈することから、プリント配線板の微細配線化に著しく寄与するものである。
なお本発明において、粗化硬化体と導体層との剥離強度とは、導体層を粗化硬化体に対して垂直方向(90度方向)に引き剥がしたときの剥離強度(90度ピール強度)をいい、導体層を粗化硬化体に対して垂直方向(90度方向)に引き剥がしたときの剥離強度を引っ張り試験機で測定することにより求めることができる。引っ張り試験機としては、例えば、(株)TSE製の「AC−50C−SL」等が挙げられる。
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、本発明の硬化体により絶縁層が形成されることを特徴とする。
一実施形態において、本発明のプリント配線板は、上述の接着フィルムを用いて製造することができる。斯かる実施形態においては、接着フィルムの熱硬化性樹脂組成物層が回路基板と接合するようにラミネート処理した後、上述の「工程(A)」及び「工程(B)」を実施して本発明の粗化硬化体を回路基板上に形成することができる。接着シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを除去した後に製造に供することができる。なお、支持体の剥離は、ラミネート処理と工程(A)の間に実施してもよく、工程(A)の後に実施してもよいが、表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にある粗化硬化体を容易に実現する観点から、ラミネート処理と工程(A)の間に実施することが好ましい。
ラミネート処理の条件は特に限定されず、接着フィルムを用いてプリント配線板の絶縁層を形成するにあたり使用される公知の条件を採用することができる。例えば、加熱されたSUS鏡板等の金属板を接着フィルムの支持体側からプレスすることにより行うことができる。この場合、金属板を直接プレスするのではなく、回路基板の回路凹凸に接着フィルムが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスを行うのが好ましい。プレス温度は、好ましくは70℃〜140℃の範囲であり、プレス圧力は好ましくは1kgf/cm2〜11kgf/cm2(0.098MPa〜1.079MPa)の範囲で行われ、プレス時間は好ましくは5秒間〜3分間の範囲である。また、ラミネート処理は、好ましくは20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下で実施する。ラミネート処理は、市販されている真空ラミネーターを用いて実施することができる。市販されている真空ラミネーターとしては、例えば、(株)名機製作所製の真空加圧式ラミネーター、ニチゴー・モートン(株)製のバキュームアップリケーター等が挙げられる。
なお、本発明において、「回路基板」とは、主として、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の基板の片面又は両面にパターン加工された導体層(回路)が形成されたものをいう。またプリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層及び/又は導体層が形成されるべき中間製造物の内層回路基板も本発明でいう「回路基板」に含まれる。
他の実施形態において、本発明のプリント配線板は、上述の樹脂ワニスを用いて製造することができる。斯かる実施形態においては、樹脂ワニスをダイコーター等により回路基板上に均一に塗布し、加熱、乾燥させることにより回路基板上に熱硬化性樹脂組成物層を形成した後、上述の「工程(A)」及び「工程(B)」を実施して本発明の粗化硬化体を回路基板上に形成することができる。樹脂ワニスに使用する有機溶剤並びに加熱、乾燥の条件は、接着フィルムの製造について説明したものと同様とし得る。
次いで、回路基板上に形成された粗化硬化体の表面に導体層を形成する。なお、プリント配線板の製造においては、絶縁層にビアを形成する工程、ビア内部の樹脂残渣(スミア)を除去する工程等をさらに含んでもよい。これらの工程は、当業者に公知である、プリント配線板の製造に用いられている各種方法に従って行うことができる。
本発明のプリント配線板は、クラックや回路歪みの発生なしに回路の微細配線化を有利に実現するものである。
[半導体装置]
上記のプリント配線板を用いて、半導体装置を製造することができる。
かかる半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ及びテレビ等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
まず各種測定方法・評価方法について説明する。
〔測定・評価用サンプルの調製〕
(1)回路基板の下地処理
内層回路の形成されたガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔厚さ18μm、基板厚さ0.3mm、松下電工(株)製「R5715ES」)の両面を、メック(株)製「CZ8100」に浸漬し1μmエッチングして銅表面の粗化処理を行った。
(2)接着フィルムのラミネート処理
実施例及び比較例で作製した接着フィルムを、バッチ式真空加圧ラミネーター(名機(株)製「MVLP-500」)を用いて、熱硬化性樹脂組成物層が内層回路基板と接合するように、内層回路基板の両面にラミネート処理した。ラミネート処理は、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とした後、100℃、圧力0.74MPaで30秒間プレスすることにより行った。
(3)熱硬化性樹脂組成物層の熱硬化
熱硬化性樹脂組成物層のラミネート処理後、熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化させて、内層回路基板の両面上に熱硬化体を形成した。その際、実施例1〜4及び比較例1、2に関しては、支持体であるPETフィルムを剥離した後に熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化させた。実施例5に関しては、支持体であるPETフィルムが付着した状態で熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化させた。
熱硬化性樹脂組成物層の熱硬化は、実施例1、2、4及び5に関しては下記ステップ条件にて、実施例3及び比較例1、2に関しては下記ノンステップ条件にて、それぞれ実施した。
ステップ条件:室温(20℃)から10℃/分にて昇温し100℃で30分間保持した後、10℃/分にて昇温し180℃で30分間保持
ノンステップ条件:室温(20℃)から10℃/分にて昇温し180℃で30分間保持
得られた熱硬化体について、引っかき硬度、表面Si量及び表面O量を測定すると共に、単位表面積当たりのエッチング量を評価した。
(4)粗化処理
両面上に熱硬化体が形成された内層回路基板を、膨潤液(アトテックジャパン(株)「スエリングディップ・セキュリガントP」、ジエチレングリコールモノブチルエーテル含有の水酸化ナトリウム水溶液)に60℃で5分間浸漬し、次いで酸化剤(アトテックジャパン(株)「コンセントレート・コンパクトP」、過マンガン酸カリウム濃度約6質量%、水酸化ナトリウム濃度約4質量%の水溶液)に80℃で20分間浸漬した。その後、1分間水洗した後、中和液(アトテックジャパン(株)「リダクションショリューシン・セキュリガントP」、硫酸ヒドロキシルアミン水溶液)に40℃で5分間浸漬し、内層回路基板の両面上に粗化硬化体を形成した。
得られた粗化硬化体について、表面のSi量、表面O量、表面の算術平均粗さRaを測定した。
(5)導体層の形成
セミアディティブ法に従って、粗化硬化体の表面に導体層を形成した。
すなわち、両面上に粗化硬化体が形成された内層回路基板を、パラジウム化合物(Pd)を含む無電解銅めっき液に浸漬し、粗化硬化体表面にめっきシード層を形成した。その後、150℃にて30分間加熱してアニール処理を行った後に、めっきシード層上にエッチングレジストを形成し、エッチングによりめっきシード層をパターン形成した。次いで、硫酸銅電解めっきを行い、30±5μmの厚さの銅層を形成した後、180℃にて60分間アニール処理し、粗化硬化体の表面に導体層を形成した。
<引っかき硬度の測定>
熱硬化体の表面の引っかき硬度は、JIS K5600−5−4に準拠して測定した。測定に使用した鉛筆は三菱鉛筆(株)製「uni」であった。
<熱硬化体の単位表面積当たりのエッチング量の評価>
熱硬化体の単位表面積当たりのエッチング量は、下記に従って評価した。
すなわち、実施例及び比較例で調製した樹脂ワニスを、アルキド樹脂系離型層付きPETフィルム((株)リンテック製「AL-5」が塗布されたPETフィルム、以下「離型層付きPET」という)上に、ダイコータにて均一に塗布し、75℃で3分間乾燥させて、厚さ10μmの熱硬化性樹脂組成物層を形成した。次いで、実施例1、2、4及び5に関しては上記「ステップ条件」にて、また実施例3及び比較例1、2に関しては上記「ノンステップ条件」にて、それぞれ加熱して熱硬化体を得た。その後、離型層付きPETを剥離して、130℃で15分間乾燥させた。得られた試料の乾燥直後の質量(初期の質量(X1))を測定した。次いで、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕欄の「(4)粗化処理」と同一条件にて熱硬化体の表面を粗化処理した。粗化処理の後、水洗し、130℃で15分間乾燥させた。得られた粗化試料の乾燥直後の質量(粗化処理後の質量(X2))を測定した。そして、下記式により、各熱硬化体の単位表面積当たりのエッチング量を求めた。
単位表面積当たりのエッチング量(g/m2)=(X1−X2)/硬化物の表面積
<表面Si量及び表面O量の測定>
熱硬化体の表面Si量及び表面O量は、下記の測定装置および測定条件を用いて、X線光電子分光法により測定した。粗化硬化体の表面Si量及び表面O量も同様にして測定した。
〔測定装置〕
装置型式:QUANTERA SXM(アルバックファイ社製 全自動走査型X線光電子分光分析装置)
到達真空度:7.0×10−10Torr
X線源:単色化 Al Kα(1486.6eV)
分光器:静電同心半球型分析器
検出器:多チャンネル式(32 Multi−Channel Detector)
中和銃設定 電子:1.0 V (20μA)、イオン:10.0V(7mA)
〔測定条件〕
[サーベイスペクトル(ワイドスキャン)]
X線ビーム径:100μmΦ(HPモード、100.6W、20kV)
測定領域:1400μm×100μm
信号の取り込み角:45.0°
パスエネルギー:280.0eV
<算術平均粗さRaの測定>
粗化硬化体の表面の算術平均粗さRaは、非接触型表面粗さ計(ビーコインスツルメンツ社製「WYKO NT3300」)を用いて、VSIコンタクトモード、50倍レンズにより測定範囲を121μm×92μmとして得られる数値により求めた。各粗化硬化体について、10点の平均値を求めた。
<剥離強度の測定>
粗化硬化体と導体層との剥離強度は、下記に従って測定した。
すなわち、得られた積層体の導体層に、幅10mm、長さ100mmの部分の切込みをいれ、この一端を剥がしてつかみ具で掴み、室温中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mmを引き剥がした時の荷重(kgf/cm)を測定し、剥離強度を求めた。測定には、引っ張り試験機((株)TSE製、「AC−50C−SL」)を使用した。
〔作製例1〕
(1)樹脂ワニス1の調製
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)10部、ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量269、日本化薬(株)製「NC3000L」)20部、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂(エポキシ当量163、DIC(株)製「HP4700」)6部、及びフェノキシ樹脂(三菱化学(株)製「YL7553BH30」、固形分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液、重量平均分子量35000)10部を、MEK5部、シクロヘキサノン5部及びソルベントナフサ15部の混合溶媒に撹拌しながら加熱溶解させた。室温まで冷却した後、そこへ、トリアジン含有フェノールノボラック系硬化剤(水酸基当量125、DIC(株)製「LA7054」、固形分60質量%のMEK溶液)15部、ナフトール系硬化剤(水酸基当量215、東都化成(株)製「SN−485」、固形分60%のMEK溶液)15部、アミン系硬化促進剤(4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、固形分5質量%のMEK溶液)1部、イミダゾール系硬化促進剤(1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、四国化成工業(株)製「1B2PZ」、固形分5質量%のMEK溶液)0.3部、難燃剤(三光(株)製「HCA−HQ」、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10-ヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナンスレン-10-オキサイド、平均粒径2μm)5部、アミノシラン系カップリング剤(信越化学工業(株)製「KBM573」)で表面処理された球形シリカ(平均粒径0.5μm、(株)アドマテックス製「SOC2」、単位面積当たりのカーボン量0.39mg/m2)140部、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製「KS−1」、固形分15重量%のエタノールとトルエンの1:1溶液)15部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニス1を調製した。
(2)接着フィルム1の作製
支持体として、厚さ38μmのPETフィルムを用意した。該支持体の表面に、上記(1)で得られた樹脂ワニス1を、乾燥後の熱硬化性樹脂組成物層の厚さが40μmとなるようにダイコーターにて均一に塗布し、80〜120℃(平均100℃)で6分間乾燥させることにより、接着フィルム1を作製した。
〔作製例2〕
ナフトール系硬化剤(水酸基当量215、東都化成(株)製「SN−485」、固形分60%のMEK溶液)15部に代えて、ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック型硬化剤(水酸基当量192、群栄化学工業(株)製「GDP−6140」、固形分50%のMEK溶液)16部を使用した以外は、作製例1と同様にして樹脂ワニス2を調製した。
得られた樹脂ワニス2を使用して、作製例1と同様にして接着フィルム2を作製した。
〔作製例3〕
(1)樹脂ワニス3の調製
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)15部、及びビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量291、日本化薬(株)製「NC3000H」)15部を、MEK15部とシクロヘキサノン15部の混合溶媒に撹拌しながら加熱溶解させた。室温まで冷却した後、そこへ、活性エステル系硬化剤(活性エステル当量223、DIC(株)製「HPC−8000−65T」、固形分65%のトルエン溶液)20部、トリアジン含有クレゾールノボラック樹脂(フェノール当量151、DIC(株)製「LA3018−50P」、固形分50%の2-メトキシプロパノール溶液)6部、アミン系硬化促進剤(4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、固形分5質量%のMEK溶液)1部、アミノシラン系カップリング剤(信越化学工業(株)製「KBM573」)で表面処理された球形シリカ(平均粒径0.5μm、(株)アドマテックス製「SOC2」、単位面積当たりのカーボン量0.39mg/m2)110部、フェノキシ樹脂(三菱化学(株)製「YL7553BH30」、固形分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液、重量平均分子量35000)7部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニス3を調製した。
(2)接着フィルム3の作製
上記(1)で得た樹脂ワニス3を用いて、作製例1と同様にして接着フィルム3を作製した。
〔作製例4〕
アミノシラン系カップリング剤(信越化学工業(株)製「KBM573」)で表面処理された球形シリカ(平均粒径0.5μm、(株)アドマテックス製「SOC2」、単位面積当たりのカーボン量0.39mg/m2)の配合量を、140部から200部へと変更した以外は、作製例1と同様にして樹脂ワニス4を調製した。
得られた樹脂ワニス4を使用して、作製例1と同様にして接着フィルム4を作製した。
〔作製例5〕
アミン系硬化促進剤(4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、固形分5質量%のMEK溶液)1部及びイミダゾール系硬化促進剤(1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、四国化成工業(株)製「1B2PZ」、固形分5質量%のMEK溶液)0.3部に代えて、リン系硬化促進剤(テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリルボレート、北興産業(株)製「TPP−MK」)2部を使用した以外は、作製例1と同様にして樹脂ワニス5を調製した。
得られた樹脂ワニス5を使用して、作製例1と同様にして接着フィルム5を作製した。
〔作製例6〕
フェノキシ樹脂(三菱化学(株)製「YL7553BH30」、固形分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液、重量平均分子量35000)10部を使用しなかった以外は、作製例1と同様にして樹脂ワニス6を調製した。
得られた樹脂ワニス6を使用して、作製例1と同様にして接着フィルム6を作製した。
作製した接着フィルム1〜6について、熱硬化性樹脂組成物層の組成を表1にまとめて示す。
<実施例1>
接着フィルム1を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<実施例2>
接着フィルム2を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<実施例3>
接着フィルム3を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<実施例4>
接着フィルム4を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<実施例5>
接着フィルム2を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<比較例1>
接着フィルム5を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
<比較例2>
接着フィルム6を用いて、上記〔測定・評価用サンプルの調製〕の手順に従って、プリント配線板を製造した。各評価結果を表2に示す。
表2より、X線光電子分光法により測定した、表面のSi量が25atom%以下であり、かつO量が25atom%以上である実施例1〜5の粗化硬化体は、表面の粗度が低く且つ導体層に対して優れた剥離強度を呈することが確認される。一方、表面のSi原子とO原子の割合が所望の範囲にない比較例1及び2の粗化硬化体は、表面粗度が高いにもかかわらず、導体層に対して十分な剥離強度を呈しないことが確認される。