JP2018058990A - セルロース誘導体の製造方法 - Google Patents

セルロース誘導体の製造方法

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寛人 高麗
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【課題】立体障害の大きい嵩高い置換基であるトリアルキルシリル置換基を有するシリルセルロースに、アシル基を導入したセルロース誘導体の製造方法の提供。【解決手段】反応助剤の存在下で、シリルエーテルセルロースに芳香族アシル基を導入するセルロース誘導体の製造方法。反応助剤の例には、p−トルエンスルホニルクロリド等のスルホン酸誘導体が挙げられる。【選択図】なし

Description

本発明は、立体障害の大きい嵩高い置換基であるトリアルキルシリル置換基を有するシリルセルロースに、アシル基を導入したセルロース誘導体の製造方法に関する。
近年の電子材料関連市場の中で、フレキシブルディスプレイ市場またはタッチパネル市場において、耐熱性と透明性を兼ね備えた基板のニーズが高まっている。特に透明耐熱プラスチックフィルムは、従来のガラス基板と異なりその形状の高い自由度、薄型・計量化が容易であることなどの特徴を持ち、透明性の維持及び製造工程で要求される高い耐熱性の両立が可能であるため、ガラス代為材料として薄型太陽電池、電子ペーパー、有機ELディスプレイなどのフレキシブル電子デバイスアプリケーションへの展開を中心に活発な開発が進められている。
また、高耐熱透明フィルムの中でも、各種ディスプレイ機器に代表される画像表示機器に使用される透明光学フィルムは次世代のモデルを含めた各種電子デバイス機器の構成要素として重要であり、各表示デバイスの設計上で要求される様々な光学特性に応じて、様々な材料設計思想に基づき多くの透明光学フィルムが開発されている。以上の観点から、高耐熱性、高透明性、および光学特性を兼ね備えたプラスチックフィルム及びそれを構成する高耐熱ポリマー材料の開発は、次世代の電子デバイスアプリケーション材料市場規模拡大の観点から意義が高い。
樹脂の耐熱性を向上するには、一般的には樹脂骨格の剛直性を高めるような設計が必要であり、多官能性架橋剤等を用いた化学的架橋、分子間相互作用等を用いた物理的架橋、立体的に嵩高い置換基を導入する方法等が挙げられる。
特許文献1には、特定のアルキルエーテルセルロースの残ヒドロキシル基に特定の芳香族アシル基を導入したセルロースアシレート誘導体が開示されている。
特許文献2には、トリメチルシリルエーテルセルロースの残ヒドロキシル基と、アセチル化剤をはじめとするアシル化剤との反応により、アシル基を導入したセルロース誘導体の合成に関する技術が開示されている。
WO2015/060241号公報 特開平6−340687号公報
しかしながら、特許文献1はアルキルエーテルセルロースへのナフトイル基等の嵩高いアシル基の導入については記載されているものの、アルキルエーテルセルロースのアルキル基はエトキシ基であり、立体障害が大きいセルロース誘導体への嵩高いアシル化の導入は開示されていないため、改善の余地がある。特許文献2はセルロースアシレート誘導体を用いてアセチル化剤と反応させ得るとの記載はあるものの、アシル基の種類やその製造方法等は何ら開示されていない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性や逆波長分散性、低光弾性係数を発現することが可能な嵩高い置換を有するセルロース誘導体を製造するに際して、立体障害の大きいシリルエーテルセルロースに芳香族アシル基等の嵩高い置換基を導入して得られる置換セルロースの反応率が低く、アシル基の置換度が低く、効率良く製造することが困難であるという問題点に鑑みなされたものである。つまり、嵩高い置換基を有するセルロース誘導体を高収率で得られる製造方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、反応助剤の存在下で、シリルエーテルセルロースに嵩高い芳香族アシル基を効率良く導入する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
<1>
反応助剤存在下で、シリルエーテルセルロースに芳香族アシル基を導入するセルロース誘導体の製造方法に関する。
<2>
前記反応助剤がスルホン酸誘導体であることを特徴とする、<1>に記載のセルロース誘導体の製造方法に関する。
<3>
前記スルホン酸誘導体がp−トルエンスルホン酸クロライドであることを特徴とする、<1>または<2>に記載のセルロース誘導体の製造方法に関する。
<4>
前記シリルエーテルセルロースのシリル基が有する置換基が、三級ブチル基、三級ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、フェニル基、ナフチル基からなる群から選ばれる少なくも一つであることを特徴とする、<1>〜<3>のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
本発明によれば、すでに水酸基に置換基が導入された立体障害が大きいエーテルセルロースに、さらに嵩高い置換基を有する置換セルロースへアシル基を導入する際に反応助剤を共存させて、したセルロース誘導体を収率高く製造することが可能となる。
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
本明細書中、数値範囲に関して「A〜B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
以下、各成分について説明する。
(A)セルロース誘導体
本明細書において、セルロース誘導体とは、セルロースにシリルエーテル基および芳香族アシル基を導入するセルロース誘導体のことを言う。例えば、下記一般式(1)に記載のように、セルロースを構成する単量体であるβ-グルコース骨格が有する3つのヒドロキシル基を、公知の各種変換反応によりアルコール誘導体(ORn)に変換したものである。
Figure 2018058990
[一般式(1)中、
1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)、アシル基及び第2の脂肪族基からなる群より選択され、
かつ、前記セルロース誘導体中には、(a)前記有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)、及び(b)前記アシル基又は前記第2の脂肪族基が含まれ、
nは正の整数である]
なお、本明細書において、前記一般式(1)において括弧内に描かれている、セルロース誘導体の重合単位のことを「セルロースユニット」とも称する。
前記セルロース誘導体を効果的に選定することで、従来のセルロース誘導体では困難であったポリマー材料の高耐熱性と製膜フィルムの透明性の両立が可能となる。また当該製膜フィルムを延伸して作製される延伸フィルムに、高い透明性及び光学特性(高い面内レタデーション発現性、適切な逆波長分散性及び低い光弾性係数)を付与することが可能となる。
前記セルロース誘導体は、置換基の形態により、各種脂肪族及び芳香族のエステル、アルコキシル、アミド、ウレタン、カーボネート、カーバメート等であり得る。前述した各種置換基が同一分子内に混在していてもよい。延伸フィルムの高い耐熱性、良好な面内レタデーションと逆波長分散性との両立、及び低い光弾性係数を達成する観点から、一般式(1)に示すR1〜R3は、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)、アシル基又は第2の脂肪族基であることが好ましい。更に、前記セルロース誘導体は、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)と、アシル基又は第2の脂肪族基とを同一のセルロース分子内に含むことがより好ましい。
延伸フィルムに逆波長分散性Re(450)/Re(550)を付与する観点からは、一般式(1)に示すR1〜R3は、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)、又はアシル基であることが好ましい。更に、前記セルロース誘導体は、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)と、アシル基とを同一のセルロース分子内に含むことがより好ましい。
なお、前記有機シリル基が有している脂肪族基と、セルロースユニットの酸素原子に結合している脂肪族基とを明確に区別するために、前者を「第1の脂肪族基」、後者を「第2の脂肪族基」と称する場合がある。
前記セルロース誘導体が、有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)を有することは、フィルム化した際に透明性を維持した状態で耐熱性が大幅に向上し、かつ延伸フィルムの位相差発現性が著しく向上するため好ましい。
なお、本明細書においては、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)をポリマー材料及びそれによって構成されるフィルムの耐熱性の指標とする。既存のセルロース誘導体を主成分とするフィルムの場合、ガラス転移温度は通常130℃〜180℃の範囲にある。本明細書においては、フィルムのガラス転移温度が180℃より大きい場合、当該フィルムは「耐熱性が高い」と評する。なお、本明細書においては、ポリマー材料のガラス転移温度は、当該ポリマー材料を原料とするフィルムのガラス転移温度と同一であるとする。したがって、「耐熱性が高い」フィルムの原料であるポリマー材料もまた、「耐熱性が高い」と評することができる。
有機シリル基(当該有機シリル基は、第1の脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族基を有する)は、特には限定されないが、セルロース誘導体の有機溶剤に対する可溶性付与の観点から脂肪族基又は芳香族基を有していることが好ましく、更に嵩高い置換基を少なくとも1つ有していることが好ましい。このため、有機シリル基の中でも、2級又は3級の置換基を少なくとも1つ有する3置換有機シリル基が好ましい。
前記有機シリル基が有している前記嵩高い置換基としては、三級ブチル基、三級ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、フェニル基、ナフチル基等が該当し、特には限定されないが、三級ブチル基、三級ヘキシル基又はイソプロピル基を有していることが特に好ましい。
前述した好ましい置換基を有することにより、通常では加水分解性を有し、水分及び吸湿に対して耐久性が低い、有機シリル基を有するアルコキシル基(又はアルコキシシリル基ともいう)の耐水性が向上する。加えて、予想外の効果として、樹脂の母体骨格となるセルロース誘導体の耐熱性が樹脂の非晶性を維持したまま、例えば、ガラス転移温度(Tg)が180℃以上にまで大幅に向上する。
また、セルロースユニット内に嵩高い有機シリル置換基を有する場合、後述するように、同一のセルロースユニット内及び隣接するセルロースユニット内に導入された芳香族アシル基との高い立体障害が発生し、芳香族アシル基の芳香環の自由回転を阻害する。これにより、延伸フィルムにおいて、光弾性係数の増加を抑制する効果も合わせて発現することが可能となる。前述したように、3置換有機シリル基が、例えば三級ブチル基、三級ヘキシル基、イソプロピル基等に代表される嵩高い置換基を少なくとも1個有していることが好ましい。セルロース骨格への導入を管理しやすい点から、前記有機シリル基は、三級ブチルジメチルシリル基(以下、TBDMS基と記載することがある)、三級ブチルジフェニルシリル基(以下、TBDPS基と記載することがある)、三級ヘキシルジメチルシリル基(以下、THDMS基と記載することがある)、トリイソプロピルシリル基(以下TIPS基と記載することがある)のいずれかであることが好ましい。
有機シリル基全体の嵩高さの観点からは、TBDMS基及びTHDMS基が好ましい。TBDMS基は三級ブチル基以外の置換基がメチル基であるために、またTHDMS基は三級ヘキシル基以外の置換基がメチル基であるために、前記観点から適切な嵩高さを有する。一方、例えば、前記有機シリル基が三級ブチル基又は三級ヘキシル基に加えて更に同様に嵩高い置換基を有する場合、有機シリル基全体として過剰に嵩高い置換基となる。このため、セルロース骨格に対する有機シリル基の置換度を、適切な範囲に制御することが難しくなる。更に工業的に原料の入手が容易である点から、前記有機シリル基は、TBDMS基であることがより好ましい。有機シリル基としてTBDMS基を採用することにより、セルロース誘導体における目標の置換度を容易に達成することが可能である。
アシル基は、アシル構造(RCO−)を有していれば特に限定されない。アシル基は、前式のR部分の構造により、複数の種類に分類され、その中には、脂肪族アシル基及び芳香族アシル基が含まれる。
脂肪族アシル基としては、Rがアルキル基で構成された構造が挙げられる。この場合、アルキル基の長さにより種々の直鎖状、枝分かれ状、環状構造などが挙げられるが、特に限定されない。また、不飽和アルキル基を有していても良い。具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、シクロヘキシル基などがある。
芳香族アシル基としては、Rが置換又は無置換である芳香環又は多環式芳香環、置換又は無置換である複素環又は多環式複素環等で構成された構造が挙げられる。ここで、多環式とは、少なくとも2つ以上の芳香環又は複素環が、それぞれの芳香環又は複素環が有するsp2炭素を少なくとも2つ以上共有する化合物を示す。また、前記置換基は特に限定されず、その具体例として例えば、脂肪族置換基、不飽和脂肪族置換基、芳香族置換基、アルコキシル基、カルボニル基、エステル基、ハロゲン、イミド、及びカーバメート等が挙げられる。
前述した置換基のうち、好適な逆波長分散性の発現させることができるとの観点に基づくと、芳香族アシル基をセルロース誘導体へ導入することが好ましく、1−ナフトイル基又は2−ナフトイル基であることがより好ましい。少ない置換度においても高い逆波長分散性を発現する点から、2−ナフトイル基であることが更に好ましい。2−ナフトイル基は、ナフタレン環に置換基を有していても良い。置換基としては特に限定されず、アルコキシル基、エステル基、アミド基、ニトリル基、ハロゲン等が適用可能である。
前記一般式(1)で表されるセルロース誘導体において、R1〜R3は、脂肪族基であってもよい。脂肪族基とは、アルキル基により構成される任意の置換基である。この場合、アルキル基の長さにより種々の直鎖状、枝分かれ状、環状構造などが挙げられるが、特に限定されない。また、不飽和アルキル基を有していても良い。脂肪族基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、三級ブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
なお、上に説明したセルロースユニットの水酸基の酸素原子に直接結合している脂肪族基と、同じくセルロースユニットの水酸基の酸素原子に直接結合している有機シリル基が有する脂肪族基とを明確に区別するために、前者を「第2の脂肪族基」、後者を「第1の脂肪族基」と称する場合がある。
前記セルロース誘導体から得られるフィルムを熱延伸することにより、その他のセルロース誘導体では通常トレードオフである良好な面内レタデーションと逆波長分散性との両立に加え、先行技術では困難であった低い光弾性係数を達成しているフィルムを製造することが可能である。このため、良好な逆波長分散性と面内レタデーションとを保持した状態にて大幅な薄膜化が可能であり、更に低い光弾性係数を有することにより、フィルムに外部応力が加わった際の色むらの防止が可能となる。また、セルロース誘導体は、単一の誘導体に限定されず、相溶化が可能であれば2種以上の誘導体の混合物であっても良い。
なお、本明細書では、フィルムに含まれる、一般式(1)で表されるセルロース誘導体のことを「ポリマー材料」とも呼ぶ。当該「ポリマー材料」は、1種類のセルロース誘導体からなるものである場合もあるし、複数種類のセルロース誘導体の混合物からなる場合もある。また、本発明の一実施形態に係るフィルムは、耐熱性を損なわない範囲で前述した「ポリマー材料」以外の構成を含んでいてもよい。
(B)セルロース誘導体の変換反応
前述のセルロース誘導体を作製するための変換反応としては、公知の合成法を適時用いることができる。以下に特に簡便な方法の一例を記載するが、これに限定されるものではない。まず、市販の粉末セルロースを、N,N−ジメチルアセトアミドに例示される極性有機溶媒及び塩化リチウムに例示されるハロゲン化リチウム共存下において加熱及び冷却処理を行うことにより、セルロースが錯体を形成し均一に溶解した溶液を調製する。続いて、N,N−ジメチルアミノピリジンに例示される求核触媒及びトリエチルアミンに例示される有機アミンを添加し、三級ブチルジメチルクロロシランに例示される有機シリルクロリドを滴下し反応させる。その後、反応物を水及び有機溶剤にて洗浄することにより所定の有機シリル基の置換度を有するセルロースシリルエーテルを合成する。続いて前記セルロースシリルエーテルとアシルクロリド(例:2−ナフトイルクロリド)とをピリジン存在下で共存させた状態にて加熱する。その後、反応物を水及び有機溶剤にて洗浄することにより、セルロースシリルエーテル中の残ヒドロキシル基が芳香族エステル化された、目的のセルロース誘導体を得ることができる。
以下に、前述のセルロース誘導体の合成方法を、より具体的に例示する。しかしながら、当該セルロース誘導体の合成方法は、下記の例には限られない。また、より具体的な合成方法については、後述の合成例において開示されている。
本方法は、(1)セルロース骨格に有機シリル基又は第2の脂肪族基を導入し(エーテル化)、セルロースエーテルを得る工程、及び(2)前記セルロースエーテルにアシル基を導入し(エステル化)、セルロースエーテルエステルを得る工程を含んでいる。本例では、有機シリル基としてTBDMS基、アシル基として2−ナフトイル基を用いるので、前述の工程は、セルロース骨格をシリルエーテル化してセルロースシリルエーテルを得、次いで前記セルロースシリルエーテルをナフトイル化してセルロースシリルエーテル芳香族エステルを得る、というものになる。
以下に、前述のセルロース誘導体の合成方法を、より具体的に例示する。
(エーテル化工程)
セルロースにシリル基またはアルキル基を導入し(エーテル化)、セルロースエーテルを得る工程について詳説する。
セルロースにシリル基またはアルキル基を導入する方法は公知の種々の方法を利用することができる。
(セルロース)
本発明に用いるセルロースについては特に制限がなく、種々のセルロースを使用することができる。例えば、綿リンタ、コーンスターチ、デンプン等を原料とするセルロースを挙げることができる。
(セルロースの分子量)
本発明に用いるセルロースの分子量も特に制限がないが、フィルム等に成形した後の特性、特に機械強度や耐熱性等に影響を及ぼすことがある。例えば、数平均分子量であれば、10,000〜400,000が好ましく、20,000〜300,000がより好ましい。
(シリル化剤)
エーテル化工程に使用することができるシリル化剤は、セルロース骨格にシリル基を導入できれば特に制限されない。例えば、前記有機シリル基を含む有機シリルクロリドを挙げることができる。具体的には、三級ブチルジメチルクロロシラン、三級ブチルジフェニルクロロシラン、三級ヘキシルジメチルクロロシラン、トリイソプロピルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン等が挙げられる。また、ヘキサメチルジシラザン等のジシラザンを用いることも可能である。
(求核触媒)
エーテル化工程に使用することができる求核触媒は、前記有機シリルクロリドを活性化することができれば特に制限されない。例えば、N,N−ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジンなどが例示される。
(有機アミン)
エーテル化工程に使用することができる有機アミンは、副生する塩化水素を中和することができれば特に制限されない。例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなどが例示される。
(溶媒)
エーテル化工程に使用することができる溶媒は、前記セルロースを溶解することができれば特に制限されない。例えば、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミドなどが例示される。
(エーテル化の反応条件)
反応温度は、20〜100℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。
反応時間は、0.5〜5時間であることが好ましい。
反応時の圧力は大気圧が好ましいが、窒素ガス等の不活性ガスを注入して加圧しても良い。
(エステル化工程)
エーテル化工程により得られたセルロースエーテルへ、さらにアシル化剤を用いて、アシル基を導入し(エステル化)、セルロースエーテルエステルを得る工程を詳説する。
(アシル化剤)
本発明で用いられるアシル化剤は、セルロースエーテルへアシル基を導入することができれば特に制限されない。例えば、各種カルボン酸、カルボン酸無水物等が挙げられる。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸(飽和脂肪族カルボン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸(不飽和脂肪族カルボン酸)、安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、アントラセンカルボン酸、ピレンカルボン酸(芳香族カルボン酸)、無水酢酸、無水安息香酸(カルボン酸無水物)等が挙げられる。これらの中でも、嵩高さの付与や、逆波長分散性性、低光弾性係数の観点から、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸が好ましい。
(反応助剤)
本発明で用いられる反応助剤は、アシル基を導入するエステル化工程を促進させることができれば特に制限されない。例えば、触媒、縮合剤、活性化剤等が挙げられる。
本発明で用いられる縮合剤も公知のものを使用することができる。例えば、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド等のカルボジイミド系縮合剤、N,N’−カルボニルジイミダゾール、1,1’−カルボニルジ(1,2,4−トリアゾール)等のイミダゾール系縮合剤、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルホルモリニウムクロリド等のトリアジン系縮合剤、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩等のホスホニウム系縮合剤、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O−(N−スクシンイミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩等のウロニウム系縮合剤、2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩、2−フルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩等のハロウロニウム系縮合剤が挙げられる。
本発明で用いられる活性化剤も公知のものを使用することができる。例えば、メタンスルホニルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド等のスルホン酸誘導体が挙げられる。これらの中でも、本反応においては、コスト、取扱の容易さの観点から、p−トルエンスルホニルクロリドがより好ましい。
(溶媒)
エステル化工程に使用することができる溶媒は、前記セルロースエーテルを溶解することができれば特に制限されない。例えば、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン等が例示される。
(エステル化の反応温度)
前記セルロースエーテルは反応溶媒とともに加熱、撹拌することにより溶解する。セルロースエーテルの溶解および反応温度は、50〜100℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。
(エステル化の反応時間)
反応時間は、長いほど反応率が向上するため好ましいが、生産性向上、低エネルギー化の観点から、36時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
(エステル化の圧力)
本発明の反応は、大気圧下での反応が好ましいが、窒素ガス等の不活性ガスを注入して加圧しても良い。
(反応時の環境)
本発明の反応は空気雰囲気下でも進行するが、酸化による樹脂への着色抑制の観点から不活性ガス雰囲気下が好ましい。不活性ガスとしては特に制限されないが、コスト、取扱の容易さから、窒素が好ましい。
(水分量の制御)
本発明の反応は水分が混入しても進行するが、活性化剤の失活を避け、アシル化剤の反応率の向上、アシル化剤および活性化剤の使用量低減の観点から、反応系中の水分量は低い方が好ましい。具体的には1,500ppm以下が好ましく、1,000ppm以下がより好ましい。
(反応機構)
本発明の反応は、以下の反応機構にて進行すると考えられる。まず、カルボン酸とp−トルエンスルホニルクロリドがピリジン中で反応し、反応活性なN−アシルピリジニウム塩と、副生成物であるピリジンp−トルエンスルホン酸塩が生成する(化2)。続いて、活性なN−アシルピリジニウム塩とセルロースのヒドロキシル基とが反応し、セルロースエステルが生成する(化3)。
Figure 2018058990
Figure 2018058990
(上記化2および化3におけるRは、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、芳香族基等、任意の炭化水素基である。化3におけるCellはセルロースユニットである。)
もしくは、カルボン酸とp−トルエンスルホニルクロリドとの反応によりカルボン酸無水物が生成し(化4)、カルボン酸無水物がセルロースのヒドロキシル基と反応することで、セルロースエステルが生成する(化5)。このとき、カルボン酸が副生するが、再度p−トルエンスルホニルクロリドと反応し酸無水物が生成するため、定量的に反応を行うことができる。
Figure 2018058990
Figure 2018058990

(上記化4および化5におけるRは、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、芳香族基等、任意の炭化水素基である。化5におけるCellはセルロースユニットである。)
アシル化剤として、一般的にはカルボン酸塩化物を用いることが多い。カルボン酸塩化物を用い、ピリジン中で反応を行っても、活性なN−アシルピリジニウム塩が生成し、類似の反応機構にてエステル化することができるが、カルボン酸塩化物は空気中や溶媒中の水分で加水分解し、カルボン酸となって失活しやすい。したがって、カルボン酸塩化物を用いて所望の置換度を達成するためには、長い反応時間やカルボン酸塩化物の追添加が必要となり、反応率を制御するのは困難である。一方、上記のカルボン酸/p−トルエンスルホニルクロリド系では、水分が混入していても、p−トルエンスルホニルクロリドの添加量を調整することによりアシル化剤の活性を保持することができるため、反応率を制御することが容易である。したがって、コストや生産性の観点から、本発明によるカルボン酸とp−トルエンスルホニルクロリドを用いた反応系の方が好ましい。
(反応率の定量)
エステル化の反応率(反応の進行度、後述のD2と同じ)は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー、1H−NMR(核磁気共鳴分光法)や13C−NMR、紫外可視吸光度測定法(UVスペクトル)等を用いて定量することができる。
(後処理工程)
<反応生成物の回収>
エステル化反応終了後の反応混合溶液から樹脂を回収する一つの方法として適用することができる再沈殿は、反応混合溶液に生成物であるセルロースエーテルエステルを反応混合溶液から析出することができる溶媒であれば特に制限されないが、溶剤は、反応溶液と混和し、極性の高いものが好ましい。例えば、水、炭素原子数が1〜3のアルコールが好ましい。炭素原子数が1〜3のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。特に、コスト、取扱の容易さの観点から、メタノールがより好ましい。
得られる樹脂の純度およびモル収率向上の観点から、水およびアルコールの混合溶剤を用いることがより好ましい。前記混合溶剤の水/アルコールの重量比率は、樹脂の回収率および純度向上の観点から水:アルコール=90:10〜10:90が好ましく、50:50〜30:70がより好ましい。
再沈殿に用いる前記混合溶剤の量は、反応に用いた溶媒の80〜200重量部が好ましく、100〜150重量部がより好ましい。
再沈殿以外の方法としては、遠心分離等の他の公知の方法を適用することも可能である。
<樹脂の洗浄>
前記再沈殿操作により得られた再沈殿後の樹脂には微量の未反応物質および副生成物が残存することがあり、これらを除去するために、再沈殿後の樹脂をさらに洗浄することが好ましい。洗浄に用いる溶剤は、セルロースエーテルエステルを溶解せず、副原料を溶解することができれば特に制限されない。未反応物質および副生成物の除去効率向上の観点から、炭素原子数1〜3のアルコールのみを用い、3〜5回洗浄操作を繰り返すことが好ましい。洗浄に用いるアルコールの量は、反応に用いた溶媒の80〜200重量部が好ましく、100〜150重量部がより好ましい。
炭素原子数が1〜3のアルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。特に、コスト、取扱の容易さ、沸点の観点から、メタノールがより好ましい。
<樹脂の乾燥>
洗浄に用いた溶剤を除去するためにセルロースエーテルエステルを乾燥することも好ましい。セルロースエーテルエステルの乾燥は加熱のみの乾燥でもよく、真空乾燥の方法も用いることができる。
(純度)
セルロースエーテルエステルの純度は、1H−NMRを用いて定量することができる。その他の分析方法としては、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等も活用することができる。
(反応率)
反応率とは、置換度に対する副原料(アシル化剤)の仕込み当量の程度を示し、後述のアシル基の置換度D2をアシル化剤の当量で割った値で求められる。具体的には、得られたセルロース誘導体の1H−NMR測定にて決定したアシル基の置換度と、反応に使用したアシル化剤当量との比較により、式1を用いて反応率を算出することができる。
Figure 2018058990
(モル収率)
モル収率とは、セルロース誘導体の精製後の実収量と分子量により求まる数値であり、理論収量に対する実収量の程度を示す。本発明においては、1H−NMRを用いて定量することができる。その他の分析方法としては、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等も活用することができる。 本発明においては、得られたセルロース誘導体の1H−NMR測定にて決定したシリル基およびアシル基の置換度より分子量及び理論収量を算出し、実際に回収したセルロース誘導体の重量との比較により、式2を用いてモル収率を算出した。
Figure 2018058990
(C)セルロース置換度
セルロース置換度D(具体的には、D1およびD2およびD3)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、平均してどれだけ置換されているかを表し、最大値は3である。この場合、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基の各々について、略同一の個数が置換されていてもよい。一方、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基のうち、何れかの位置にある水酸基がより多く置換されており、その他の水酸基がより少なく置換されていてもよい。
置換度(D1)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、フィルムに含まれる各種類のセルロース誘導体において、平均してどれだけ有機シリル基又は第2の脂肪族基によって置換されているかを表し、最大値は3である。この場合、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基の各々について、略同一の個数が置換されていてもよい。一方、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基のうち、何れかの位置にある水酸基がより多く置換されており、その他の水酸基がより少なく置換されていてもよい。
有機シリル基による置換度(D1)を、特に「有機シリル基の置換度」と呼称する場合がある。同様に、第2の脂肪族基による置換度(D1)を、特に「第2の脂肪族基の置換度」と呼称する場合がある。一般に、置換度(D1)を、「RO基の置換度」又は「R基の置換度」(RO基及びR基は、それぞれRO及びRの構造を有する官能基である)と言い換える場合がある(例えば、Rがエチル基の場合、置換度(D1)のことを「エチル基の置換度」又は「エトキシ基の置換度」と呼称する場合がある)。
セルロース誘導体が第2の脂肪族基によって置換されていない場合、置換度(D1)は、有機シリル基による置換度を意味する。一方、セルロース誘導体が第2の脂肪族基によって置換されている場合、置換度(D1)は、有機シリル基による置換度及び第2の脂肪族基による置換度の合計である。
置換度(D2)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、フィルムに含まれる各種類のセルロース誘導体において、平均してどれだけアシル化されているかを表し、最大値は3である。この場合、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基の各々について、略同一の個数が置換されていてもよい。一方、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基のうち、何れかの位置にある水酸基がより多く置換されており、その他の水酸基がより少なく置換されていてもよい。
総置換度(D3)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、フィルムに含まれるポリマー材料において、平均してどれだけアシル化されているかを表し、最大値は3である。例えば、ポリマー材料が、1種類のセルロース誘導体からなるものである場合、総置換度(D3)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、当該1種類のセルロース誘導体において、平均してどれだけアシル化されているかを表し、最大値は3になる。一方、ポリマー材料が、複数種類のセルロース誘導体の混合物からなるものである場合、総置換度(D3)は、セルロース分子中の2、3、6位に存在する3個の水酸基が、当該複数種類のセルロース誘導体の混合物全体において、平均してどれだけアシル化されているかを表し、最大値は3になる。
なお、アシル基(RCO−)は、Rの構造によって種々の形態を取り得る。特定の構造を有するRCOに注目する場合、置換度(D2)及び総置換度(D3)は、「RCO基の置換度」「RCO基の総置換度」(RCO基は、RCOの構造を有する官能基である)と言い換える場合がある(例えば、セルロース分子が2−ナフトイル基によって置換されている場合、置換度(D2)のことを「2−ナフトイル基の置換度」と呼称する場合がある。置換度(D3)についても同様に、「2−ナフトイル基の総置換度」と呼称する場合がある)。
Dの値は、周知の方法によって計算することができる。例えば、有機シリル基がTBDMS基である場合、有機シリル基の置換度(D1)は、「Cellulose Communications 6, 73-79(1999)」に記載の方法(核磁気共鳴分光法:NMR)にて定量することができる。なお、当該文献は、参考として本明細書中に援用される。
前述したように、置換度(D1)及び置換度(D2)は、ポリマー材料を構成する各種類のセルロース誘導体における置換度を意図しており、一方、総置換度(D3)は、ポリマー材料全体におけるアシル基の置換度を意図している。具体的に、ポリマー材料が1種類のセルロース誘導体からなるものである場合、当該ポリマー材料における総置換度(D3)の値は、1種類のセルロース誘導体における置換度(D2)の値と同じになる。一方、ポリマー材料が複数種類のセルロース誘導体の混合物からなるものである場合、当該ポリマー材料における総置換度(D3)の値は、各種類のセルロース誘導体の置換度(D2)の各々の値に基づいて決定される。
次いで、アシル置換度(D2)について説明する。
本発明の一実施形態おいては、前記の範囲の有機シリル基又は第2の脂肪族基の置換度(D1)を有するセルロースシリルエーテル骨格中に残されたOH基に、アシル基が導入される。この場合、残されたOH基の略全てにアシル基が導入されてもよいし、残されたOH基の一部にアシル基が導入されてもよい。
置換度(D2)は、0.10〜2.00であり、好ましくは0.15〜1.00である。
前述したように、ポリマー材料は、1種類のセルロース誘導体からなるものである場合と、複数種類のセルロース誘導体の混合物からなるものである場合と、に大別することができる。
(D)第三成分
本発明の一実施形態に係るフィルムは、ポリマー材料からフィルムを製造する際に、必要に応じて可塑剤や熱安定剤、紫外線安定剤、面内レタデーション上昇剤、フィラー等の添加剤を第三成分として加えてもよい。特に、得られたフィルムの脆さを補う目的、又は延伸等の加工特性を改善する目的で、可塑剤を加えることは有効である。これら第三成分の配合量は、所望の光学特性を損なわない範囲で任意である。
(E)セルロース誘導体の分子量
本発明で使用されるセルロース誘導体(樹脂)の分子量は、フィルム成形が可能な限り特に限定されるものではない。例えば、靱性に優れたフィルムを得るためには、樹脂の数平均分子量が、10,000〜400,000であることが好ましい。天然樹脂を原料とした樹脂を用いる場合、入手容易性の観点から、樹脂の数平均分子量が、20,000〜200,000であることが更に好ましい。数平均分子量が10,000以上である場合、フィルムに十分な靱性が与えられる。一方、数平均分子量が400,000以下である場合、溶媒に樹脂が十分に溶解し、樹脂溶液の固形分濃度が低くなることによる溶液キャスト時の溶剤使用量の増加を防げるため、製造上好ましい。
(F)製膜方法
本発明のフィルムは、未延伸である製膜フィルム(未延伸フィルムとも呼ぶ)を延伸することにより製造されることが好ましい。未延伸である製膜フィルムは、周知の方法にしたがって作製することができる。
未延伸フィルムの代表的な成形方法としては、溶融した樹脂をTダイ等から押出してフィルム化する溶融押出法、及び、樹脂を溶解した有機溶剤を支持体上にキャストし加熱により有機溶剤を乾燥してフィルム化するソルベントキャスト法を挙げることができる。厚み精度の良いフィルムが比較的容易に得られるという理由から、ソルベントキャスト法を用いることが好ましい。
(G)延伸
本発明の一実施形態に係るフィルムは、前記で得られた未延伸フィルムを公知の延伸方法にしたがって、少なくとも1軸に延伸して配向処理を行うことにより得られるフィルム(延伸フィルムとも呼ぶ)であることが好ましい。延伸方法としては、1軸又は2軸の熱延伸法を採用することができる。本発明のフィルムを得るためには、縦1軸延伸を採用することが好ましい。また、反射防止層として本発明の一実施形態に係るフィルムを使用する場合には、1軸性が重要となるため、自由端1軸延伸が好ましい。
<1.測定方法>
本明細書に記載の特性値等は、以下の評価法によって得られたものである。
(1)置換度
ブルカー製400MHz−1H−NMRを使用し、シリルエーテルセルロースのシリル基およびアシル基の置換度を算出した。具体的には、セルロース骨格に由来する内部プロトンの積分値と、シリル基またはアシル基の積分値との比をとり、単量体当りに含まれるシリル基およびアシル基の個数を算出した。
ブルカー製400MHz−1H−NMRを用いて、各置換基に帰属されるスペクトルの積分強度を用いて定量した。具体的には、置換度(D1)における、有機シリル基の導入率は、それぞれ有機シリル基が有する第1の脂肪族基に帰属されるプロトンの−0.3〜1.2ppmの積分強度、第2の脂肪族基に帰属されるプロトンの積分強度0.5〜4.0ppmの積分強度に対し、セルロースの環上のプロトンに帰属される3.1〜5.2ppmの積分強度との比から求めた。置換度(D2)におけるアシル基についても同様の手法を用い、芳香族アシル基の場合は、アシル基が有する芳香環上のプロトンに帰属される6.8〜9.0ppmの積分強度を、セルロースの環上のプロトンに帰属される3.1〜5.2ppmの積分強度との比から求めた。
(2)反応率
得られたセルロース誘導体の1H−NMR測定にて決定したアシル基の置換度と、反応に使用したアシル化剤当量との比較により、反応率を算出した。
(3)モル収率
得られたセルロース誘導体の1H−NMR測定にて決定したシリル基およびアシル基の置換度より分子量及び理論収量を算出し、実際に回収したセルロース誘導体の重量との比較により、モル収率を算出した。
(4)水分測定
カールフィッシャー
京都電子工業社製カールフィッシャー水分計を使用し、セルロース誘導体のピリジン溶液の水分量を算出した。具体的には、所定濃度に調製したセルロース誘導体のピリジン溶液を所定量採取し、専用の脱水溶剤(三菱化学社製アクアミクロン脱水溶剤PE、ピリジン81%/エチレングリコール19%)にて希釈したものに、滴定剤(アクアミクロン滴定剤SS1mg、クロロホルム83%/ピリジン12%/ヨウ素1−5%/二酸化硫黄1−5%)を徐々に添加していき、消費された滴定剤の量から水分量を換算して算出した。
<2.セルロース誘導体の製造方法>
(合成例1)(TBDMSセルロースの製造)
粉末セルロース(15.0g:92.5mmol、数平均分子量24,300)を4つ口リアクターに計量した後に三日月ヘラ付き撹拌棒を設置し、4つ口リアクターにジムロート冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗、熱電対を取り付けた。続いてN,N’−ジメチルアセトアミド(250mL)を投入し、130℃にて2時間加熱撹拌を実施した後に80℃まで自然冷却させたところで塩化リチウム(23.5g:555.1mmol)をリアクターに加え、さらに室温まで自然冷却させ、セルロースの均一溶液を得た。この均一溶液に、続いて、トリエチルアミン(20.6g:203.6mmol)を加え、80℃に加熱し、撹拌下において滴下漏斗からN,N’−ジメチルアセトアミド(50mL)に溶解した三級ブチルジメチルクロロシラン(TBDMSCl)(30.7g:203.6mmol)を滴下し、5時間撹拌した。メタノール(300mL)を加えて反応を停止し、白色沈殿を発生させ、当該白色沈殿をろ過後、メタノール(300mL)中で5回撹拌洗浄を繰り返し、真空オーブンを用いて80℃にて5時間乾燥させた。得られたセルロース誘導体1の1H−NMR測定を行い、目的のセルロース誘導体であることを確認するとともに、シリル基置換度を算出した結果、D1=1.52であった(収量25.9g、モル収率83%)。
(合成例2)(ThexylDMSセルロースの製造)
テキシルジメチルクロロシラン(ThexylDMSCl)(41.4g:231.3mmol)を使用した以外は、合成例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体2を得た(シリル基置換度D1=1.62、収量33.5g、モル収率92%)。
(実施例1)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
TBDMSセルロース(4g:12.0mmol)を4つ口リアクターに計量した後に三日月ヘラ付き撹拌棒を設置し、4つ口リアクターにジムロート冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗、熱電対を取り付け、続いてピリジン(70mL)を投入した後、80℃加熱下において、TBDMSセルロースが溶解するまで撹拌した。溶液が透明になったのを確認した後、p−トルエンスルホニルクロリド(以下、p−TsClとも記載する、2.3g:12.0mmol)および2−ナフトエ酸(0.3g:1.8mmol)をリアクターに投入した。投入後、16時間撹拌した後、反応溶液にメタノール(70mL)および純水(35mL)を加えて白色沈殿を発生させ、当該白色沈殿をろ過後、メタノール(100mL)中で5回撹拌洗浄を繰り返し、真空オーブンを用いて80℃にて5時間乾燥させた。得られた樹脂の1H−NMR測定を行い、目的のセルロース誘導体であることを確認するとともに、シリル基置換度およびナフトイル基置換度をそれぞれ算出した結果、D1=1.50およびD2=0.15であった(収量4.1g、モル収率94%)。
(実施例2)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(0.7g:3.6mmol)および2−ナフトエ酸(0.6g:3.6mmol)を使用し、反応時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.09、収量4.0g、モル収率95%)。
(実施例3)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(1.4g:7.2mmol)および2−ナフトエ酸(0.6g:3.6mmol)を使用し、再沈殿溶剤にメタノール(40mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.55、D2=0.30、収量4.5g、モル収率96%)。なお、反応途中にサンプリングを実施し、反応開始より5時間後のD2=0.12、8時間後のD2=0.18であった。
(実施例4)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(0.6g:3.0mmol)および2−ナフトエ酸(1.0g:6.0mmol)を使用し、再沈殿溶剤にメタノール(40mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.07、収量3.8g、モル収率91%)。
(実施例5)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(2.3g:12.0mmol)および2−ナフトエ酸(1.0g:6.0mmol)を使用し、再沈殿溶剤にメタノール(50mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.49、収量4.6g、モル収率91%)。なお、反応途中にサンプリングを実施し、反応開始より5時間後のD2=0.34、10時間後のD2=0.44であった。
(実施例6)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(2.3g:12.0mmol)および2−ナフトエ酸(1.0g:6.0mmol)を使用し、純水(0.05g、3.0mmol)を添加し、再沈殿溶剤にメタノール(50mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.48、収量4.5g、モル収率90%)。
(実施例7)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
p−TsCl(2.3g:12.0mmol)および2−ナフトエ酸(1.0g:6.0mmol)を使用し、純水(0.11g、6.0mmol)を添加し、再沈殿溶剤にメタノール(50mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.28、収量4.2g、モル収率91%)。
(実施例8)(TBDMSセルロース−2−ベンゾエートの製造)
安息香酸(0.7g:6.0mmol)を使用し、再沈殿溶剤にメタノール(40mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.49、収量4.5g、モル収率96%)。
(実施例9)(ThexylBDMSセルロース−2−ナフトエートの合成)
ThexylDMSセルロース(4g、10.2mmol)、p−TsCl(1.9g:10.2mmol)および2−ナフトエ酸(0.9g:5.1mmol)を使用し、反応時間を24時間とし、再沈殿溶剤にメタノール(40mL)および純水(30mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.62、D2=0.46、収量4.3g、モル収率90%)。なお、反応途中にサンプリングを実施し、反応開始より16時間後のD2=0.38であった。
(比較例1)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
2−ナフトイルクロリド(0.5g:2.8mmol)を使用し、反応時間を5時間とし、再沈殿溶剤にメタノール(44mL)および純水(36mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.13、収量4.2g、モル収率99%)。
(比較例2)(TBDMSセルロース−2−ナフトエートの製造)
2−ナフトイルクロリド(0.9g:4.6mmol)を使用し反応時間を5時間とし、再沈殿溶剤にメタノール(44mL)および純水(36mL)を使用した以外は、実施例1と同様の手法を適用し、目的のセルロース誘導体を得た(D1=1.50、D2=0.26、収量4.4g、モル収率99%)。
Figure 2018058990

Claims (4)

  1. 反応助剤存在下で、シリルエーテルセルロースに芳香族アシル基を導入するセルロース誘導体の製造方法。
  2. 前記反応助剤がスルホン酸誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
  3. 前記スルホン酸誘導体がp−トルエンスルホニルクロリドであることを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロース誘導体の製造方法。
  4. 前記シリルエーテルセルロースのシリル基が有する置換基が、三級ブチル基、三級ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、フェニル基、ナフチル基からなる群から選ばれる少なくも一つであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
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