以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
まず、実施形態に係るモータ1の構成について、図1、2を参照しつつ説明する。
図1、2は、直流機であるモータ1の概略構造を示す図である。図1に示すように、モータ1は、主に、ハウジング2と、回転子5と、一対の焼結磁石10とを備えて構成されている。
ハウジング2は、図2に示すように、有底円筒状部材3と、有底円筒状部材3の開口を塞ぐ蓋部材4とで構成されている。ハウジング2は、珪素鋼や軟鉄等の強磁性体で構成されている。ハウジング2は、筐体としての機能以外に、ヨークとしての機能も有する。有底円筒状部材3の断面形状は、図1に示すように、本実施形態では真円環状となっている。有底円筒状部材3の断面形状は、必ずしも真円環状に限らず、わずかに扁平した楕円環状や一部に平坦な部分を有する円環状等であってもよい。
一対の焼結磁石10は、ハウジング2の内側面2aに、周方向に沿って取り付けられている。一対の焼結磁石10を構成する焼結磁石10Aと焼結磁石10Bとは、後述するとおりに、N極およびS極を形成するように着磁されており、同一の断面形状および断面寸法を有している。一対の焼結磁石10は、回転子5を挟んで対向し、回転子5に対して対称となるように配置されている。一対の焼結磁石10は、図1に示す一対のU字状ピン8A、8Bにより、互いに離れる方向(図1における上下方向)に付勢されて位置が固定されている。
焼結磁石10は、フェライト焼結磁石であり、たとえば六方晶M型フェライトを主相とする焼結磁石である。焼結磁石10の組成は、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、主成分は式A1−xRx(Fe12−yMy)zO19で表される。
回転子5は、ハウジング2内において、一対の焼結磁石10に挟まれている。回転子5は、回転軸6と複数(図1では5つ)のT字状のティース7とを有し、その他に、ティース7の周囲に巻き付けられたコイルや整流子(図示せず)を有する。各ティース7は、先端部7aとアーム部7bとを有し、回転軸6の回転中心軸Oに関して径方向に延びるアーム部7bの先端に円周方向に沿って延びる先端部7aが設けられて構成されている。ティース7は、回転軸6の回転中心軸Oの周りに等間隔に形成されている。本実施形態では、隣り合うティース7は、その中心線のなす角が72°(=360°/5)となるように形成されている。
続いて、焼結磁石10の形状について、図3および図4を参照しつつ説明する。なお、一対の焼結磁石10の断面はいずれも同じ寸法形状を有するため、一方の焼結磁石10(たとえば焼結磁石10A)についてのみ説明し、他方の焼結磁石の説明は省略する。
図3および図4に示すように、焼結磁石10はアーチ形状の断面形状を有している。より詳しくは、焼結磁石10は、外弧11、内弧12、および、外弧11の端点P1と内弧12の端点P2とを結ぶ一対の端辺13で画成されるアーチ形状断面を有する。焼結磁石10の断面形状は、アーチ形状以外に、扇状、円弧状、弓状、C字状、またはU字状と説明することもできる。
ここで、焼結磁石10を作製する際におこなわれる成型工程について、図5を参照しつつ説明する。以下では、一例として乾式での成型工程について説明する。
図5に示す装置では、型枠20に上部パンチ21および下部パンチ22が嵌め込まれており、キャビティ23内に原料粉が充填された後、上部パンチ21でプレスすることで、成型体が得られる。
成型工程では、焼結磁石10の径方向が磁化容易軸となるように配向される。焼結磁石10では、内弧12側の表面磁束密度が強くなるよう径方向に均一に配向される。内弧12側の表面磁束密度が周方向において一定であることが要求されるため、上部パンチ21は非磁性体で構成され、下部パンチ22は磁性体で構成されている。上部パンチ21を非磁性体とすることで、磁界印加時のキャビティ23内の磁界方向は下部パンチ22から放散することになる。つまり、焼結磁石10の配向が外周面に集束する事態や部分的な配向方向の偏りが生じる事態が生じず、径方向に均一に配向することができる。ただし、上部パンチ21を非磁性体とすると、上部パンチ21と下部パンチ22との間の磁界強度が低下するため、上部パンチ21を磁性体とするときよりも高めにする必要がある。しかし、成型体の面積、厚さ等により必要磁界が異なるため、印加磁界は成型体に応じて都度適宜選択すればよい。
得られた成型体は、所定の焼成温度(たとえば、1240℃)で焼成され、その後に表面加工が施されることで、上述した焼結磁石10となる。なお、表面加工後の成型体の表面は、その一部または全部において、3.5z〜10zの範囲の表面粗さ(十点平均粗さ(Rz))を有する。
続いて、焼結磁石10を作製する際におこなわれる着磁工程について、図6を参照しつつ説明する。
図6に示すように、焼結磁石10は、ハウジング2内に組み付けられた状態で着磁される。着磁の際、ハウジング2内には、未着磁の焼結磁石10以外に、回転子5と同程度の外形寸法を有する鉄心30が収容される。
図6に示す装置では、極性の異なる一対の着磁ヨーク31、32が互いに対向するように配置されており、それらの間に、ハウジング2内に組み付けられた未着磁の焼結磁石10が配置される。このとき、一対の着磁ヨーク31、32の対向方向(すなわち、図6における上下方向)に一対の焼結磁石10が並ぶように、すなわち、対応する着磁ヨーク31、32の側に各焼結磁石10が位置するように、配置される。着磁の際には、各着磁ヨーク31、32に図示しないコイルを巻き付けて、それぞれのコイルに所定の向きの電流を流して磁束を発生させる。
次に、焼結磁石10の図3および図4に示した断面における形状、寸法および角度について説明する。
以下では、説明の便宜上、図3の断面において、内弧12の開き角(中心角)をαとし、内弧12の開き角αの二等分線方向をY方向とし、内弧12の開き角αの二等分線方向に直交する方向をX方向とし、焼結磁石10のX方向長さ(幅寸法)をAとし、焼結磁石10のY方向長さ(高さ寸法)をDとし、外弧11と内弧12との距離(焼結磁石10の厚さ寸法)をCとして説明する。また、外弧11の径(外径)をORとし、内弧12の径(内径)をIRとする。
なお、本実施形態における焼結磁石10では、外弧11の曲率中心と内弧12の曲率中心とは一致しており、焼結磁石10の厚さCは外径ORと内径IRの差に等しい。なお、外弧11の曲率中心と内弧12の曲率中心とは実用上問題のない範囲で多少のずれは許容され得る。
焼結磁石10においては、内弧12の開き角αの範囲が145°≦α≦180°であり、一例として内弧12の開き角αは160°である。
発明者らは、内弧12の開き角αを複数の異なる角度に設定したサンプル11〜16を準備し、各サンプルについて焼結磁石10の磁束量および着磁率を測定したところ、以下の表1に示すとおりの結果を得た。なお、磁束量としてトータルフラックスを測定し、着磁率として通常の着磁方法を採用したときと完全に着磁したときとの割合を求めた。
なお、表1に示した各サンプルの各種寸法は、表2に示すとおりである。
また、測定の際に用いたモータ1に関する寸法および条件については、ハウジング2の長さ25mm、ハウジング2の厚さ2mm、回転子5の直径15mm、回転子5の長さ18mm、スロット数5、開口幅1.5mm、ティース7の高さ4.69mm、ティース7の幅2mm、ティース7の厚さ1mm、極数2、残留磁束密度(Br)415mT、固有保持力(HcJ)263kA/mであった。なお、ティース7の高さとは、回転軸6の回転中心軸Oの径方向に関する先端部7aの長さとアーム部7bの長さとの和であり、ティース7の幅とは回転軸6の回転中心軸Oの径方向に直交する方向に関するアーム部7bの長さであり、ティース7の厚さとは回転軸6の回転中心軸Oの径方向に関する先端部7aの長さである。ハウジング2および回転子5として、珪素鋼で構成されたハウジングおよび回転子を用いた。
上記表1に示すとおり、上記測定の結果から、内弧12の開き角αが145°未満であるサンプル11、12では、実用上十分な磁束が得られないことが明らかとなった。内弧12の開き角αが160°以上であるサンプル14〜16において、磁束量が同一の値となるのは焼結磁石10において磁束が飽和しているためであると考えられる。一方、内弧12の開き角αが180°を超える場合には、一対の焼結磁石の内弧12の開き角αの和が360°を超えるため、図1に示すように一対の焼結磁石10をハウジング2内に収容することができなくなる。
図3に示した焼結磁石10のように、内弧12の開き角αの範囲が145°≦α≦180°のサンプル13〜16であれば、ハウジング2内に収容された一対の焼結磁石10において、実用上十分に高い磁束量を実現することができる。それにより、モータ1の特性を向上させることができる。モータ1は、焼結磁石10の磁束量が高い場合に、モータトルクを向上させたり、電流または回転数を抑制させたりすることができる。
なお、表1に示すとおり、焼結磁石10の着磁率の観点から、内弧12の開き角αの範囲を145°≦α≦175°とすることができる。
すなわち、サンプル16のように内弧12の開き角αが175°を超える場合には、特に焼結磁石10の端部10a付近の着磁が困難になり着磁率が低下するため、焼結磁石10の着磁率の観点から、内弧12の開き角αを175°以下とすることができる。
焼結磁石10の端部10aは、図3および図4に示すように、端辺13が第1の端辺14と第2の端辺15とで構成されている。
第1の端辺14は、外弧11の端点P1から直線状に延びており、Y方向(すなわち、内弧12の開き角αの二等分線方向)に平行に延びている。第1の端辺14がY方向に対して平行に延びている場合には、第1の端辺14がY方向に対して傾いている場合に比べて、上述した成型工程において焼結磁石10の端部10aの密度を高めることができ、端部10aにクラックが入る事態が効果的に抑制される。以下、第1の端辺14のY方向長さをδで示す。
第2の端辺15は、内弧12の端点P2から直線状に外弧11側に延びており、第1の端辺14と交点P3において交わる。また、第2の端辺15は、内弧12の端点P2を通りかつX方向に平行な基準線L1(第1の基準線)に関して、内弧12側(図3におけるY方向の上側)に傾斜している。なお、第2の端辺15が内弧12側に傾斜しているとは、第2の端辺15が、内弧12が存在している焼結磁石10の中央部分のほうに傾斜していることをいう。以下、第2の端辺15のX方向長さをγで示し、第2の端辺15と基準線L1とのなす角をβで示す。
そして、焼結磁石10においては、第2の端辺15のX方向長さγに対する第1の端辺14のY方向長さδの割合(δ/γ)の範囲が0.5≦δ/γ≦5.0であり、一例としてδ/γは1.8である。
発明者らは、第2の端辺15のX方向長さγに対する第1の端辺14のY方向長さδの割合(δ/γ)を複数の異なる値に設定したサンプル21〜26を準備し、各サンプルについて焼結磁石10の磁束量、成型体密度および歩留を測定したところ、以下の表3に示すとおりの結果を得た。なお、磁束量としてトータルフラックスを測定し、成型体密度として焼結磁石10の端部10aに対応する部分の成型後における密度を求め、歩留として焼結後にクラックが生じなかった焼結磁石の割合を求めた。
なお、表3に示した各サンプルの各種寸法は、表4に示すとおりである。
また、測定の際に用いたモータ1に関する寸法および条件については、ハウジング2の長さ25mm、ハウジング2の厚さ2mm、回転子5の直径15mm、回転子5の長さ18mm、スロット数5、開口幅1.5mm、ティース7の高さ4.69mm、ティース7の幅2mm、ティース7の厚さ1mm、極数2、残留磁束密度(Br)415mT、固有保持力(HcJ)263kA/mであった。ハウジング2および回転子5として、珪素鋼で構成されたハウジングおよび回転子を用いた。
上記表3に示すとおり、上記測定の結果から、δ/γの値が0.5未満であるサンプル21では、実用上十分な成型体密度および歩留が得られないことが明らかとなった。δ/γの値が極めて0に近いと、焼結磁石10の端部10aに対応する部分における密度が低くなり、その部分にクラックが生じやすくなるためであると考えられる。焼結磁石10の端部10aは、たとえば、内弧12の端点P2を通りかつY方向に平行な基準線L2よりも端辺13側の部分として定めることができる。
一方、δ/γの値が5を超えるサンプル26では、実用上十分な磁束が得られないことが明らかとなった。
図3および図4に示した焼結磁石10のように、δ/γの値が0.5≦δ/γ≦5.0の範囲のサンプル22〜25であれば、成型時に高い成型体密度が得られることで高い歩留が実現される上、実用上十分に高い磁束量を有する焼結磁石10を得ることができる。それにより、モータ1の特性を向上させることができる。
なお、焼結磁石10において、第1の端辺14のY方向長さδがあまりにも短いと、焼結磁石10の端部10aに対応する部分における密度が低くなり、その部分においてクラックが生じやすくなると考えられる。また、第1の端辺14のY方向長さδが短くなると、上述した成型装置の上部パンチ21と下部パンチ22とが干渉しやすくなるという不具合も生じ得る。一方、第1の端辺14のY方向長さδがあまりにも長いと、第2の端辺15のX方向長さγを確保することが難しくなり、磁束量が減少する。また、成型時において、成型体の密度差が大きくなってしまう。さらに、モータ1への組込みも困難になってしまう。
また、焼結磁石10においては、第2の端辺15と基準線L1とのなす角βの範囲が、0°<β<90°であり、好ましくは2°〜20°である。一例としてβは10°である。
第2の端辺15と基準線L1とのなす角βが90°である場合には、一対の焼結磁石10の間にU字状ピン8A、8B(図1参照)を挟み込むことができない。第2の端辺15と基準線L1とのなす角βを90°未満とすることで、U字状ピンを用いて、焼結磁石10を容易にモータ1のハウジング2内に配置することができる。
なお、焼結磁石10の端部10aにおいて端辺13を構成する第2の端辺15は、図7に示すように、内側端辺15aと外側端辺15bとからなる2つの端辺で構成されていてもよい。すなわち、第2の端辺15は、第2の端辺15上に存在する中継点P4において、内側端辺15aと外側端辺15bとに分けられている。
内側端辺15aは、内弧12の端点P2から直線状に外弧11側に中継点P4まで延び、外側端辺15bは、中継点P4から第1の端辺14と第2の端辺15との交点P3まで直線状に延びている。内側端辺15aは、内弧12の端点P2を通りかつX方向に平行な基準線L1に関して内弧12側に傾斜しており、外側端辺15bは、中継点P4を通りかつX方向に平行な基準線L3(第2の基準線)に関して内弧12側に傾斜している。
内側端辺15aと基準線L1とのなす角をβとし、外側端辺15bと基準線L3とのなす角をεとすると、角度εのほうが角度βよりも大きい(ε>β)。角度εが角度βより小さい場合には、端部10aの密度が低くなる傾向があるため、十分な成型性を得ることが困難である。したがって、角度εが角度βより大きくなるように設計することで、良好な成型性が得られる。角度εと角度βとの差は、45°以下であることが好ましく(ε−β≦45°)、30°以下であることがより好ましい(ε−β≦30°)。また、角度εと角度βとの差が大きい場合には、端部10aにおける密度差が大きくなってしまうため、クラックが生じやすくなる。したがって、角度εと角度βとの差を45°以下(好ましくは30°以下)にすることで、クラックが生じる事態が抑制され得る。さらに、角度εと角度βとの差は15°以上であることが好ましい(ε−β≧15°)。たとえば、角度εと角度βとの差は15°以上30°以下であることが好ましい(15°≦ε−β≦30°)。