以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、WB(Whole Body)コイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体に近接して配設されるアレイコイル20を有している。
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(患者)の撮像領域であるボア(静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示せず)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
WBコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、また、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号を受信する。
アレイコイル20はRFコイルであり、被検体から放出される磁気共鳴信号を被検体に近い位置で受信する。アレイコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。アレイコイル20は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、図1では胸部用のアレイコイル20を例示している。
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、WBコイル12にRFパルスを送信する。一方、RF受信器32は、WBコイル12やアレイコイル20によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、入力デバイス42、及びディスプレイ43を有するコンピュータとして構成されている。
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGA(field programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス42)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ43に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
さらに、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、後述する所定のパルスシーケンスによるスキャンの実行によって得られるMR信号から複素画像を再構成し、この複素画像から、流体振幅画像及び流速画像を生成する。さらに、流体振幅画像に含まれる流体の動態情報、及び流速画像に含まれる速度情報を融合して解析画像を生成する。
図2は、上述した流体振幅画像及び流速画像の生成、及び解析画像の生成に関する磁気共鳴イメージング装置1のブロック図である。図2に示すように、磁気共鳴イメージング装置1の処理回路40は、撮像条件設定機能410、複素画像生成機能421、流体振幅画像生成機能422、流体位相画像生成機能423、流速画像生成機能424、解析機能426、及び表示制御機能427の各機能を実現する。ここで、複素画像生成機能421、流体振幅画像生成機能422、流体位相画像生成機能423、及び流速画像生成機能424で、画像生成機能420を構成する。上述したように、これらの各機能は、例えば、処理回路40が具備するプロセッサが所定のプログラムを実行することによって実現される。
また、図1に示す磁気共鳴イメージング装置1の構成のうち、コンソール40以外の構成品(制御キャビネット300、磁石架台100及び寝台500)で、収集部600を構成している。
上記各構成のうち、撮像条件設定機能401は、撮像で使用するパルスシーケンスの種類や、パルスシーケンス内の各種のパラメータ等の撮像条件をシーケンスコントローラ34に設定する。これらの撮像条件は、例えば、入力デバイス42を介して操作者によって入力される。或いは、既に記憶されている撮像条件に対して、入力デバイス42を介した操作によって、操作者が変更することもできる。
図3は、第1の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の処理例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートと、図4乃至図10を用いて、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の具体的な処理を順次説明していく。
図3のステップST100で、ASL法とPC法とが複合されたパルスシーケンスを設定する。ステップST100は、図2の撮像条件設定機能410が行う処理である。
図4は、第1の実施形態で設定するパルスシーケンスを例示する図である。第1の実施形態では、図4に示すように、パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の2種類のパルスシーケンスを使用して、それぞれ独立にMR信号を収集する。このため、第1の実施形態でのMR信号の収集方法を独立2点法と呼ぶものとする。
パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)は、夫々、標識化シーケンスと、収集シーケンスとを有している。図4に示すパルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の夫々の1段目は、RFパルスの印加タイミングとMR信号の収集タイミングを示している。また、パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の夫々の2段目はZ方向傾斜磁場Gzの印加タイミングを示し、3段目はY方向傾斜磁場Gyの印加タイミングを示し、4段目はX方向傾斜磁場Gxの印加タイミングを示している。
図4に示す例では、スライス方向傾斜磁場Gs、位相エンコード方向傾斜磁場Gp、及びリードアウト方向傾斜磁場Grを、夫々、Gz、Gy、及びGxに対応させているが、Gs、Gp、及びGrは、Gz、Gy、及びGxと独立して設定することもできる。
標識化シーケンスは、流体のスピンの縦磁化の大きさを変えるASL(Arterial Spin Labeling)パルスを含んでいる。ASLパルスには、タグパルスとコントロールパルスの2種類がある。以下、タグパルスとコントロールパルスとを総称して、ASLパルスと呼ぶ。図4に示す例では、パルスシーケンス(A)は、ASLパルスとしてコントロールパルスを有しており、パルスシーケンス(B)は、ASLパルスとしてタグパルスを有している。なお、コントロールパルスとタグパルスは、同じフリップ角を有するものの、その印加領域が互いに異なっている。
標識化シーケンスのASLパルスの印加から所定の待ち時間TI後に、収集シーケンスが印加される。収集シーケンスは、横磁化の位相を流体の速度に応じて変化させる傾斜磁場パルスである速度エンコード(velocity enocode: VENC)パルスを有している。以下、速度エンコードパルスを、VENCパルスと呼ぶ。VENCパルスはFE(Field Echo)法の場合は、図4等に示すように双極性(bipolar)型である。また図示してないが、SE(Spin Echo)法の場合は、同極性(unipolar)の傾斜磁場パルスが、リフォーカスパルス(180°パルス)を挟んで2つ設けられており、この2つの同極性パルスがVENCパルスとなる。以下FE法の場合のVENCパルスで説明する。VENCパルスは、励起パルスとリードアウト傾斜磁場の間に印加される。
VENCパルスも2つの種類を持っている。第1の種類は、正極の傾斜磁場パルスの後に負極の傾斜磁場パルスが続くものであり、以下、このVENCパルスを正のVENCパルスと呼び、「VENC(+)パルス」と略称する。第2の種類は、負極の傾斜磁場パルスの後に正極の傾斜磁場パルスが続くものであり、以下、このVENCパルスを負のVENCパルスと呼び、「VENC(−)パルス」と略称する。図4に示す例では、パルスシーケンス(A)の収集シーケンスはVENC(+)パルスを有しており、パルスシーケンス(B)の収集シーケンスはVENC(−)パルスを有している。
ASLパルスの種類とVENCパルスの種類の組み合わせは、図4の例に限定されない。2つのパルスシーケンス(A)、(B)のうち、一方のパルスシーケンスが有するASLパルスの種類と、他方のパルスシーケンスが有するASLパルスの種類とが異なればよく、同様に、一方のパルスシーケンスが有するVENCパルスの種類と、他方のパルスシーケンスが有するVENCパルスの種類とが異なればよい。
2つのパルスシーケンス(A)、(B)の収集シーケンスでは、上述したように、VENCパルスの種類が異なるものの、それ以外の傾斜磁場(即ち、スライス選択傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場)及び励起パルスは、パルスシーケンス(A)、(B)の間で同じである。
なお、図4では、図の複雑化を避けるために、1つの位相エンコードに対応する1つの収集シーケンスのみを示しているが、画像を形成するためには複数の位相エンコードが必要となる。
図5は、複数の位相エンコード(PE1、PE2、PE3、PE4・・・)に対応する複数の収集シーケンス(即ち、収集シーケンス群)と、標識化シーケンスとの関係を例示した図である。図5の収集シーケンス群の中の1つのハッチング領域が、図4の収集シーケンスに対応する。
1つの画像を生成するために必要な位相エンコードの数が、例えば128の場合には、収集シーケンス群は128の収集シーケンスを有することになる。この場合、パルスシーケンス(A)、(B)の夫々の待ち時間TIは、ASLパルスの印加から、位相エンコード量がゼロ(即ち、ky=0)に対応する収集シーケンスの印加までの時間となる。
パルスシーケンス(A)及び(B)を複数回繰り返して、1つの画像を生成するためのMR信号を収集してもよい。例えば、パルスシーケンス(A)及び(B)の夫々の収集シーケンス群に32の収集シーケンスを持たせた場合、パルスシーケンス(A)及び(B)を4回繰り返すことによって、画像生成に必要な128の位相エンコード量に対応するMR信号を収集することができる。
図6は、コントロールパルスの印加領域、タグパルスの印加領域、及び撮像領域の印加領域の関係を説明する図である。従来のASL法と同様に、本実施形態のパルスシーケンス(A)、(B)においても、コントロールパルスの印加領域、タグパルスの印加領域、及び撮像領域の印加領域は、EPISTARやASTAR等のSTAR(signal targeting with alternating radiofrequency)系の撮像法と、FAIR(flow-sensitive alternating inversion recovery)系の撮像法とで異なる。
STAR系では、図6(a)に示すように、タグパルスは、撮像領域よりも上流側の領域に印加される。タグパルスの印加によって、撮像領域に流入する血液等の流体の縦磁化の大きさが変化する。即ち、撮像領域に流入する流体が標識される。一方、コントロールパルスは、撮像領域よりも下流側の領域に印加される。コントロールパルスは、MT(magnetic transfer )効果を抑制するためのものであり、流入流体の縦磁化には変化を与えないように印加するのが望ましい。
他方、FAIR系では、図6(b)に示すように、タグパルスは、撮像領域、撮像領域よりも上流側の領域、及び撮像領域よりも下流側の領域を含む領域に印加される。一方、コントロールパルスは、撮像領域とほぼ同じ領域に印加される。
なお、パルスシーケンス(A)、(B)の励起パルスは、STAR系、FAIR系のどちらにおいても、撮像領域に印加される。
図7は、図3のフローチャートのステップST101からステップST105までの処理の概念を示す図である。
図7の左側1列目の処理は図3のステップST101に対応する処理である。ステップST101では、上述した2つのパルスシーケンス(A)、(B)を被検体に印加して、夫々のパルスシーケンスに対応するMR信号を収集する。ステップST101の処理は、図2の収集部600が行う。
図7の左から2列目の処理は図3のステップST102に対応する処理である。ステップST102では、パルスシーケンス(A)、(B)で収集したMR信号を逆フーリエ変換等の処理によって再構成して、それぞれ複素画像を生成する。ステップST102の処理は、図2の複素画像生成機能421が行う。
標識化シーケンスにコントロールパルスを含むパルスシーケンス(A)に対応する複素画像をコントロール画像と呼び、標識化シーケンスにタグパルスを含むパルスシーケンス(B)に対応する複素画像をタグ画像と呼ぶものとする。
今、コントロール画像の画素値の振幅をA
contとし、位相をΦ
contとすると、画素値(複素数)S
contは、次の(式1)で表される。
同様に、タグ画像の画素値の振幅をA
tagとし、位相をΦ
tagとすると、画素値(複素数)S
tagは、次の(式2)で表される。
図7の上段3列目の処理は図3のステップST103に対応する処理である。ステップST103では、コントロール画像とタグ画像の夫々の振幅の差分を行って、流体振幅画像を生成する。ステップST103の処理は、図2の流体振幅画像生成機能422が行う。具体的には、コントロール画像とタグ画像の夫々の対応画素の振幅A
contとA
tagとを加減算することによって、以下の(式3)で示すように、流体振幅画像の画素値A
flowを算出する。(式3)の加減算処理を全ての画素に対して行うことにより、流体振幅画像を生成する。
ここで、(式3)におけるパラメータpは、タグパルスのフリップ角が90度よりも大きい場合は、タグ画像の収集シーケンスの印加時における縦磁化の符号によって、「+1」又は「−1」のいずれかの値をとる。より詳しくは、後述の(式12)〜(式14)を用いて説明する。
なお、タグパルスのフリップ角が90度以下の場合は、図8(c)の実線に示すように、タグパルスで倒された縦磁化は、常に正の領域で回復していく。したがって、この場合には、待ち時間TIの値に因らず、(式3)のパラメータpの値を常に+1とする。
流体振幅画像の生成の概念を、図8(a)〜図8(c)、及び図9(a)を用いてさらに説明する。なお、本実施形態が対象とする流体は、血液の他、CSF等も含むものであるが、以下では、流体が血液であるものとして説明する。
図8(a)及び図8(b)の上段は、ASLパルス(タグパルス又はコントロールパルス)の印加タイミングと、励起パルスの印加タイミング及びMR信号の収集タイミングを示す。励起パルスの後にVENC(−)パルス又はVENC(+)パルスが印加されるが、図8(a)では図示を省略している。
図8(a)の下段は、タグパルスのフリップ角が90度よりも大きい場合の縦磁化の変化を実線で示している。タグパルスのフリップ角が90度よりも大きい場合(例えば、フリップ角が180度で、縦磁化を反転させる場合)、上述したように、タグパルスが印加された領域の血液の縦磁化は、タグパルスの印加直後に負となり、その後縦磁化の回復に伴って正の値に回復していく。
STAR系の撮像法及びFAIR系の撮像法のいずれにおいても、図6に示したようにタグパルスは撮像領域の上流側の領域に印加される。タグパルスが印加された血液、即ち、タグパルスで標識された血液は、撮像領域の上流側の領域から撮像領域に流入してくる。そして、流入血液(inflow blood)の回復途中の縦磁化は、励起パルスによって横磁化に倒されてMR信号となる。したがって、タグパルスで標識された流入血液のMR信号の大きさは、実線で示した縦磁化の大きさに比例したものとなり、タグパルスから励起パルスまでの待ち時間TIに応じて異なる値を示す。
一方、STAR系の撮像法では、タグパルスは撮像領域には印加されない。したがって、タグパルス印加時に撮像領域内に存在する血液、及び撮像領域内の血液以外の実質部(以下、この実質部を背景と呼ぶ)は、タグパルスの印加の影響を受けない。したがって、タグパルスを有するパルスシーケンス(B)で収集されるMR信号から生成されるタグ画像は、タグパルスの印加から待ち時間TI後に撮像領域に流入してくる血液だけが、図8(a)の実線Stagで示すように、タグパルスによる縦磁化の変化を受けたものとなる。
他方、パルスシーケンス(A)に含まれるコントロールパルスは、撮像領域の下流側の領域に印加される。したがって、コントロールパルスの印加時に撮像領域に存在していた血液、及びコントロールパルス印加後に撮像領域に流入してくる血液は、いずれもコントトロールパルスによる縦磁化の変化を受けず、図8(b)に破線Scontで示すように一定の値となる。また、撮像領域内の背景もコントロールパルスの影響を受けない。したがって、コントロール画像とタグ画像とでは、撮像領域内の背景及びコントロールパルスの印加時において撮像領域内に存在する血液は、基本的には同じ振幅を示すことになる。
結果として、コントロール画像の各画素値の振幅と、タグ画像の各画素値の振幅の加減算処理によって得られる画像は、タグパルスの印加から待ち時間TI後に撮像領域に流入した血液のみが強調された流体振幅画像となる。即ち、図9(a)に示すように、流体振幅画像では、血液の移動速度をVとした場合、標識された血液が待ち時間TIの間に移動した距離(Z=V*TI)の位置に、標識化(タギング)された流入血液の塊(bolus)が描出されることになる。
図8(c)は、タグパルスのフリップ角が90度の場合の縦磁化の変化を示している。タグパルスのフリップ角が90度の場合、タグパルスが印加された領域の血液の縦磁化はゼロとなり、その後縦磁化の回復に伴って正の値に回復していく。この場合であっても、実線で示すタグ画像の流入血液の縦磁化Stagと、破線で示すコントロール画像の血液或いは背景の縦磁化Scontとの間に差を生じさせることが可能である。したがって、図9(a)に示すように、標識化(タギング)された流入血液の塊が描出された流体振幅画像を生成することが可能である。
また、タグパルス(或いはコントロールパルス)のフリップ角は、必ずしも180°パルスや、90°パルスである必要はなく、縦磁化の大きさを変化させることができればよく、その意味において、任意のフリップ角に設定することができる。
図7及び図3に戻り、図7の下段3列目の処理は図3のステップST104に対応する処理である。ステップST104では、コントロール画像とタグ画像の夫々の位相の差分を行って、流体位相画像を生成する。ステップST104の処理は、図2の流体位相画像生成機能423が行う。
図4で示したように、第1の実施形態で使用するパルスシーケンスでは(他の実施形態も同様であるが)、収集シーケンスにおいて、励起パルスの後にVENCパルスを有している。このVENCパルス(VENC(+)パルス又はVENC(−)パルス)により、励起パルスで生じた横磁化の位相は血流の速度に応じて変化する。
VENCパルスの傾斜磁場をG(t)、VENCパルスの印加方向(正方向)への血流速度をV(t)、励起パルスからMR信号のピークまでの時間(即ち、エコー時間)をTEとすると、VENCパルスがVENC(−)パルスの場合、横磁化の位相変化量は負方向(時計まわり、数学的には負方向)となり、以下の(式4)で表される。
ここで、γは磁気回転比である。
通常、生体での血流などの速度変化に対してTEは十分短いため、t=TI(n)における計測時の速度がTEの間は維持されると仮定できる。そこで、V(t)=V[TI(n)](nは自然数)とおくと、(式4)は次の(式5)となる。
ここで、
とおくと、(式5)は、さらに(式6)となる。
(式6)は、待ち時間TIが複数の場合の式であるが、図4に示すように、待ち時間TIが1つの場合は、(式6)は、以下の(式7)となる。
一方、VENCパルスがVENC(+)パルスの場合、位相の回転は逆方向(即ち、正方向)となり、この場合の位相変化量は、以下の(式8)で表される。
図8(d)は、VENC(+)パルスに対応するパルスシーケンス(A)で収集される信号から生成したコントロール画像(複素画像)の画素値(複素数)Scontと、VENC(−)パルスに対応するパルスシーケンス(B)で収集される信号から生成したタグ画像(複素画像)の画素値(複素数)Stagの位相関係を示す図である。
ここで、図8(d)の左側の図は、待ち時間がTInull以上の場合に対応し、図8(d)の右側の図は、待ち時間がTInull未満の場合に対応する。
ステップST104では、コントロール画像の画素値の位相と、タグ画像の画素値の位相との差分処理を行って流体位相画像を生成する。コントロール画像の画素値の位相をΦcontとし、タグ画像の画素値の位相をΦtagとすると、流体位相画像の位相Φflowは、次の(式9)で表される。
Φflow=(Φcont−Φtag)
=(Φm−(−Φm)=2Φm (式9)
ただし待ち時間TIがTInull未満の場合には、縦磁化が負となるため、タグ画像の画素値の位相Φtagを、πだけシフトさせる。より詳しくは、後述の(式15)〜(式17)を用いて説明する。
再び図7及び図3に戻り、図7の下段4列目の処理は図3のステップST105に対応する処理である。ステップST105では、上記のように生成した流体位相画像から、流速画像を生成する。具体的には、(式7)〜(式9)から、以下の(式10)、(式10−1)によって流速V[TI]を画素毎に算出する。
2V[TI]=2Φm/M=Φflow/M (式10)
V[TI]=Φm/M=(Φflow/M)/2 (式10−1)
図9(b)は、流速画像の一例を示す図である。(式10)で算出した画素毎の速度を、例えばベクトルの長さに対応させ、そのベクトルを画素毎に配置することで流速画像を生成する。或いは、所定の範囲の画素をグループ化し、グループ内の画素の平均速度に対応するベクトルをグループ毎に配置してもよい。
なお、後述するように、複数の待ち時間TIに対応して複数の複素画像が得られる場合には、TIの番号をnとするとき、(式10)は以下の(式11)となる。
V[TI(n)]=2Φm(n)/M=Φflow(n)/M (式11)
また、図4で示した独立2点法のパルスシーケンスでは、VENC(−)パルス及びVENC(+)パルスの印加はZ方向のみになっている。したがって、(式10)、(式11)で得られる血流の速度はZ方向成分のみとなる。
速度情報を3軸方向のベクトルとして得るためには、VENC(−)パルス及びVENC(+)パルスを、X方向、Y方向、Z方向の各軸に印加する必要があり、そのようなパルスシーケンスは、独立6点法或いはアダマール4点法として、後述する。
上述した独立2点法は、独立6点法或いはアダマール4点法に比べて撮像時間が短いという利点がある。また、人体での主要な血管に走行方向は、基本的に頭足方向(即ち、Z方向)であるため、上述した独立2点法でも有用な場合が多い。
図3のステップST106では、流体振幅画像と流速画像に基づく解析を行う。ST106の処理は解析機能426が行う。解析機能426は、例えば、流体振幅画像と流速画像とを合成したフュージョン画像を解析画像として生成する。
図10は、フュージョン画像の概念を示す図である。図10(a)、(b)は、図9(a)、(b)と同じ図であるが、これらを合成することによって、図10(c)に示されるフュージョン画像が生成される。図10(c)に示すフュージョン画像は、流速方向がZ方向のみであり、また、待ち時間TIが1つ(即ち、タギングされた血液の位置が1つ)である。以下、X、Y、Zの3方向の流速成分や、複数の待ち時間TI(n)に対応した流体振幅画像及び流速画像を生成する実施形態について、順次説明していく。
(第2の実施形態)
第1の実施形態は、2つのパルスシーケンス(A)及び(B)を使用するため、「独立2点法」と呼んでいる。これに対して、第2の実施形態は、6つのパルスシーケンス(A)〜(F)を夫々使用するものであり、「独立6点法」と呼ぶものとする。
第2の実施形態、及びこれ以降に説明する実施形態では、使用するパルスシーケンスの種類が増えるため、パルスシーケンスの表記や演算が煩雑となる。そこで、パルスシーケンスの表記や演算を簡略化して説明する。図11は、前述した独立2点法を例にとって、これらの略記方法を説明する図である。
独立2点法におけるパルスシーケンス(A)では、標識化シーケンスのASLパルスの種別として「コントロール」パルスを有し、また、収集シーケンスのVENCパルスの種別として、VENC(+)パルスをZ方向にのみ有している。そこで、パルスシーケンス(A)の表記として、図16に示すように、コントロールパルスに対応するラベリング種別(即ち、ASLパルスの種別)として「1」と略記する。また、VENCパルスの方向毎の有無と種類として、X方向及びY方向は「0」、Z方向は「1」と略記する。
同様に、独立2点法におけるパルスシーケンス(B)では、標識化シーケンスのASLパルスの種別として「タグ」パルスを有し、また、収集シーケンスのVENCパルスの種別として、VENC(−)パルスをZ方向にのみ有している。そこで、パルスシーケンス(B)の表記として、図11に示すように、タグパルスに対応するラベリング種別として「−1」と略記する。また、VENCパルスの方向毎の有無と種類として、X方向及びY方向は「0」、Z方向は「−1」と略記する。
また、独立2点法において、コントロール画像(パルスシーケンス(A)に基づいて生成される画像)と、タグ画像(パルスシーケンス(A)に基づいて生成される画像)とから、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する演算は、差分処理であるため、この演算を「A−B」と表記する。
なお、タグパルスのフリップ角が90°よりも大きい場合は、図8(a)及び図8(b)から判るように、縦磁化は負から正に回復していく。今、縦磁化がゼロを通過するときの待ち時間をTInullと記載するものとする。
そうすると、この演算は、待ち時間TIがTInullよりも短い場合は、コントロール画像の振幅とタグ画像の振幅を加算して流体振幅画像の振幅Aflowを算出することになる。一方、待ち時間TIがTInull以上の場合はコントロール画像の振幅からタグ画像の振幅を減算して、流体振幅画像の振幅Aflowを算出することになる。即ち、以下の演算を行うことになる。
Aflow=|Scont|+|Stag|=Acont+Atag (TI<TInull) (式12)
Aflow=|Scont|−|Stag|=Acont−Atag (TI≧TInull) (式13)
(式12)、(式13)は、次の(式14)として表記することもできる。
Aflow=|Scont|−p|Stag| (式14)
p=−1 (TI<TInull)
p=+1 (TI≧TInull)
ここで、タグパルスのフリップ角が180°の場合であって、待ち時間TIがゼロに近い場合、(式27)で算出される流体振幅画像の振幅値は、コントロール画像及びタグ画像の夫々の振幅値の2倍となる。そこで、上記の演算で得られる振幅を「2」と略記するものとする。
一方、位相の差分処理に関しては、待ち時間がTInullよりも短い場合は、図8(d)に示すように、タグ画像の位相に180°加算して補正した後、コントロール画像の位相と補正後のタグ画像の位相を差分して、流体位相画像の位相Φflowを算出する。一方、待ち時間がTInull以上の場合は、180°加算の補正を行うことなく、コントロール画像の位相とタグ画像の位相をそのまま差分して、流体位相画像の振幅位相Φflowを算出する。即ち、タグ画像の位相Φに対して以下の演算を行って補正後のΦtagを求める。
Φtag=−Φm+π (TI<TInull) (式15)
Φtag=−Φm (TI≧TInull) (式16)
Φflow=(Φcont−Φtag)=2Φm (式17)
(式15)〜(式17)の演算により、血液の縦磁化の符号がTInullを境に変化しても、流体画像の位相Φflowを定量的に正しく求めることができる。
一方、式(17)から判るように、コントロール画像の位相Φcontと、タグ画像の位相Φtagの差分は、「2Φm」となる。そこで、演算(A−B)後の位相を「2」と略記するものとする。
図12は、第2の実施形態に係る独立6点法の各パルスシーケンスと演算を略記したものである。独立6点法では、パルスシーケンス(A)、(C)、(E)の標識化シーケンスのASLパルスではコントロールパルスを使用し(図12の略記では「1」)、パルスシーケンス(B)、(D)、(F)の標識化シーケンスのASLパルスではタグパルスを使用する(図12の略記では「−1」)。一方、収集シーケンスに関して、パルスシーケンス(A)及び(B)では、X方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加し、パルスシーケンス(C)及び(D)では、Y方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加し、パルスシーケンス(E)及び(F)では、Z方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加する。
そして、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Fに対して、図12の下段に示すように、P=A−B、Q=C−D、及びR=E−Fの演算を行って、流体振幅画像P、Q、及びR、並びに、及び流体位相画像P、Q、及びRを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られる。これにより、流速の3方向成分が得られることになり、流速画像を3次元空間での速度ベクトル分布として表現することが可能となる。
また、S=A+B+C+D+E+F、の演算により、ASLパルスやVENCパルスの影響が相殺されたベース画像を得ることができる。
さらに、P+Q+R(=2+2+2)の演算を行うことにより、独立2点法の流体振幅画像に対して振幅が3倍の流体振幅画像を得ることができる。つまり、独立6点法では、独立2点法の流体振幅画像よりもSNRが√3倍高い流体振幅画像を得ることができる。
(第3の実施形態)
上記のように、独立6点法では、X、Y、及びZの3方向速度成分を得ることができるが、6つのパルスシーケンスを使用するため、撮像時間は独立2点法の3倍となる。第3の実施形態は、VENC(+)パルスとVENC(−)パルスの組み合わせに関してアダマールエンコード(Hadamard Encode)と呼ばれる手法を用いることにより、4つのパルスシーケンスによって、X、Y、及びZの3方向速度成分を得る方法を提供するものである。この手法を、アダマール4点法と呼ぶものとする。
図13は、アダマール4点法による4つのパルスシーケンス(A)〜(D)、及び4つのパルスシーケンス(A)〜(D)で得られた画像A〜Dに対する演算を、前述した略記法で示した図である。
アダマール4点法では、夫々の収集シーケンスにおいて、X、Y、及びZの3方向に同時にVENC(−)パルス又はVENC(+)パルスを有する。
図14及び図15は、アダマール4点法のパルスシーケンスの具体例として、パルスシーケンス(A)とパルスシーケンス(B)を夫々例示する図である。
パルスシーケンス(A)は、図14に示すように、標識化シーケンスはコントロールパルスを有しており(図13の略記では、ラベリング種別が「1」となっていることに相当する)、収集シーケンスは、X、Y、Z方向にそれぞれVENC(+)パルスを有している(図13の略記では、X、Y、Z方向のvenc有無/種別が、「1」、「1」、「1」となっていることに相当する)。
ちなみに、「アダマールエンコード」の名称は、「アダマール行列」に由来する。アダマール行列は、要素が「1」または「−1」のいずれかであり、かつ各行が互いに直交であるような正方行列である。図18上段の表の右側を、X〜Z方向を行とし、A〜D方向を列とする3×4の行列とした場合、この行列はアダマール行列の一部となっている。
一方、パルスシーケンス(B)は、図19に示すように、標識化シーケンスはタグパルスを有しており(図13の略記では、ラベリング種別が「−1」となっていることに相当する)、収集シーケンスは、X方向とZ方向にそれぞれVENC(−)パルスを有しており、Y方向にVENC(+)パルスを有している(図13の略記では、X、Z方向のvenc有無/種別が「−1」、Y方向のvenc有無/種別が「1」となっていることに相当する)。
アダマール4点法では、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Dに対して加減算の演算を行って、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する。例えば、図13の下段に示すように、P=A−B+C−D、Q=A+B−C−D、及びR=A−B−C+D演算を行って、流体振幅画像P、Q、及びR、並びに、及び流体位相画像P、Q、及びRを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られる。これにより、独立6点法と同様に、流速の3方向成分が得られることになり、流速画像を3次元空間での速度ベクトル分布として表現することが可能となる。また、流体振幅画像Pから、標識された血液の振幅画像が生成される。
アダマール4点法は独立6点法に比べて、撮像時間が(4/6倍)に短縮される。それにもかかわらず、アダマール4点法における演算後の流速画像におけるX方向、Y方向、及びZ方向の速度成分は、独立6点法に比べてSNRが√2倍に向上する。また、アダマール4点法における演算後の流体振幅画像PのSNRも、独立6点法に比べて√2倍に向上する。
また、S=A+B+C+Dの演算により、ASLパルスやVENCパルスの影響が相殺されたベース画像を得ることができる。
(第4の実施形態)
ここまで説明してきた独立2点法、独立6点法、及びアダマール4点法は、1つの待ち時間TI(ASLパルスから収集シーケンスまでの時間)に対応する流体振幅画像、及び流速画像を生成する方法である。これに対して、以下で説明する各実施形態では、複数の待ち時間に対応した流体振幅画像及び流速画像を生成する手法を提供する。
第4の実施形態の一例は、前述したアダマール4点法の標識化シーケンス内に、複数のASLパルスを設定し、複数の待ち時間TIに対応する流体振幅画像及び流速画像を生成する。この手法を、マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法と呼ぶものとする。
図16は、マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法の4つのパルスシーケンス(A)〜(D)と、各パルスシーケンスで得られた画像A〜Dに対する演算方法を略記したものである。前述した第5の実施形態では、収集シーケンス内のVENC(+)パルスとVENC(−)パルスの組み合わせに関してアダマールエンコード(Hadamard Encode)と呼ばれる手法を用いているが、第4の実施形態では、標識化シーケンス内のコントロールパルス(「1」で略記)とタグパルス(「−1」で略記)の組み合わせに関しても、アダマールエンコードの手法が用いられる。
図17及び図18は、第4の実施形態に係るマルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法のパルスシーケンスの具体例として、パルスシーケンス(A)とパルスシーケンス(B)を夫々例示する図である。
例えば、図17に示すパルスシーケンス(A)では、標識化シーケンス内に4つのコントロールパルスが、夫々異なる待ち時間TI4〜TI1に対応して印加される。
また、図18に示すパルスシーケンス(B)では、標識化シーケンス内において、異なる待ち時間TI4〜TI1に対して、コントロールパルスとタグパルスが交互に4つ印加されている。
マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法でも、第3の実施形態のアダマール4点法と同様に、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Dに対して加減算の演算を行って、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する。例えば、図16の下段に示すように、P=A−B+C−D、Q=A+B−C−D、R=A−B−C+D、及びS=A+B+C+Dの演算を行って、流体振幅画像P、Q、R、及びS、並びに、流体位相画像P、Q、R、及びSを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られ、流速の3方向成分が得られることは、第3の実施形態と同様である。
一方、第4の実施形態では、4つの流体振幅画像のうち、流体振幅画像Pは、待ち時間TI4に対応する流体振幅画像となる。即ち、流体振幅画像Pでは、撮像領域の上流側の領域で標識された血液が、待ち時間TI4の間に撮像領域内に移動し、その移動した位置における標識化血液が強調されて描出される。
同様に、流体振幅画像Q、R、及びSは、待ち時間TI3、TI2,及びTI1に夫々対応する流体振幅画像となる。
図19は、演算後の流体振幅画像P、Q、R、及びSに対応する等価的なパルスシーケンスと、実際に印加されるパルスシーケンスA〜Dの関係を示した図である。
第4の実施形態では、夫々の収集シーケンスに4個のASLパルスを設け、4つの異なる持ち時間TIに対応する流体振幅画像を生成している。収集シーケンスに設けるASLパルスの数、及び待ち時間の数は、上述した例に限定されるものではなく、8、16、32等の2のべき乗の数に増加させることができる。
(第5の実施形態)
図20は、第5の実施形態のパルスシーケンスと、そのパルスシーケンスによる血液の縦磁化の変化、及び位相の変化を示すものである。
第5の実施形態のパルスシーケンスは、図20の一段目に示すように、標識化シーケンスに1つのASLパルス(コントロールパルス又はタグパルス)を設ける一方、標識化シーケンスの後に、複数の収集シーケンスが時系列に設けられている。
ASLパルスに最も近い収集シーケンスが最も短い待ち時間TI1に対応し、ASLパルスから最も遠い収集シーケンスが最も長い待ち時間TI(N)に対応する。図20に示す例では、それぞれの収集シーケンスによって、待ち時間TI1〜TI(N)のそれぞれに対応するN個の流体振幅画像を生成するためのMR信号が収集される。
また、各収集シーケンスは、VENC(+)パルス又はVENC(−)パルスを有しており、各収集シーケンスで収集したMR信号から流体位相画像を生成することができる。また、各収集シーケンスは、それぞれが、図5に示した収集シーケンス群であるとしてもよい。この場合、異なる待ち時間TI1〜TI(N)に対応して収集シーケンス群が設けられることになる。そして、それぞれの収集シーケンス群には、画像の全部又は一部を生成するための複数の位相エンコードにそれぞれ対応する複数の収集シーケンスが設けられている。
図20の二段目は、第7の実施形態のパルスシーケンスのタグパルスによって変化する、血液の縦磁化の変化を示す図である。前述したように、タグパルスのフリップ角が90°よりも大きい場合は、流体振幅画像を生成する際に、(式14)の処理が行われる。
具体的には、待ち時間TI1〜TI(N)の夫々に対応する収集シーケンスで収集されたコントロール画像の信号Scont、及びStagに対して(式14)の演算を行うことによって、待ち時間TI1〜TI(N)に対応するN個の流体振幅画像Aflowを生成することができる。
図20の三段目は、第7の実施形態のパルスシーケンスのVENC(−)パルス又はVENC(−)パルスによって変化する、位相の動きを示したものである。血流の速度が一定の場合は、流体位相画像の相Φmの値は待ち時間の値に関わらず一定となる。
図21の三段目、及び四段目の図は、血流の速度が非定常の場合における血流速度、及び位相変化を例示する図である。なお、図21の一段目及び二段目の図は、図20の一段目及び二段目と同じである。
血流速度が非定常の場合、例えば、R波に同期して血流速度が変化する場合、ASLパルスをR波に同期して印加してもよい。この場合、待ち時間TIの長さに応じて流速が変化するため、流体位相画像の相Φmの値、待ち時間の値に応じて異なる値を示すことになる。
(第6の実施形態)
ここまでは、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で使用する各種のパルスシーケンスと、これらのパルスシーケンスで収集されるMR信号から、流体振幅画像と流速画像とを生成する手法について説明してきた。
第6の実施形態、及びこれ以降の実施形態では、生成した流体振幅画像及び流速画像を融合した解析を行い、解析画像を生成する。
図22は、第6の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で生成する解析画像の一例として、流体振幅画像と流速画像とを融合したフュージョン画像を生成する概念を説明する図である。
図22(a)は、複数の待ち時間TI(n)(n=1〜N)に対応する流体振幅画像を示す図である。図22(a)に示す流体振幅画像は、例えば、第4の実施形態のパルスシーケンス(図16乃至図19)の演算後の画像P〜Sから生成することができる。図16乃至図19では、4つの待ち時間TI1〜TI4に対応するパルスシーケンスを例示したが、前述したように、待ち時間の数Nは、8、16、32等のように2のべき乗で任意に増やすことが可能である。
また、図22(a)に示す流体振幅画像は、第5の実施形態のパルスシーケンス(図20及び図21)で収集されたMR信号の演算後の画像からも生成することができる。図22(a)において、複数のハッチングで示した領域は、タグパルスで標識された血液が、待ち時間TI1〜TI(N)の間に移動し、その移動後の標識流体の領域に対応する。この流体振幅画像は、撮像領域外で標識された血液が、撮像領域に流入し、その後、血管内を移動していく様子を正確に描出するものである。なお、標識された血液画像の重心を求め、例えば、図22(a)のハッチング領域中に黒丸で図示することもできる。このように、流体振幅画像から、標識された血液の正確な位置を含む動きに関する情報を、流体振幅画像から得ることができる。
ただし、図22(a)に示す流体振幅画像では、血管内を移動する標識流体の位置が、待ち時間TI1〜TI(N)に対応した離散的な位置として描出される。この離散的な位置と、待ち時間TI1〜TI(N)とから、標識流体の速度を推定することも可能である。しかしながら、このようにして推定した標識流体の速度は、空間的に離散した位置に限定されるため、高い空間分解能で血管領域全体の血流速度を得ることはできない。
一方、図22(b)は、VENC(+)パルス又はVENC(−)パルスによって変化する位相情報を反映した流速位相画像から算出した流速画像を示す。VENC(+)パルス又はVENC(−)パルスを、X、Y、Zの3方向に印加することにより、3次元の速度ベクトルとして速度情報を得ることができる。また、流速位相画像では、位相の情報が画素ごとに得られるため、流速位相画像から算出した流速画像では、高い空間分解能で血管領域全体の血流速度を取得することが可能となる。
また、流速画像の速度ベクトルを、血管の上流側から順次積分していくことによって、血液の移動位置を推定することもできる。しかしながら、このようにして推定した血液の位置は、あくまでも、ある時刻における速度ベクトルの分布から推定したものであり、標識された血液の実際の移動位置を表わすものではない。
また、速度ベクトルがノイズ等によって変動している場合には、ノイズも積分処理によって積み重ねられるため、推定した血液の流路は大きな誤差をもつ可能性もある。この結果、推定した血液の流路が、血管の外にはみ出してしまう可能性もある。
このように、流体振幅画像と流速画像は、それぞれが単独では、利点もあり、また、欠点もある。そこで、第6の実施形態では、夫々の利点を得るべく、流体振幅画像と流速画像とを融合させてフュージョン画像を生成している。図22(c)は、第6の実施形態で生成するフュージョン画像を例示する図である。
このフュージョン画像は、例えば、ディスプレイ42に表示される。このフュージョン画像により、標識された血液が、血管を実際にどのように動いているのかを知ることができる。また、血管内の血液の速度情報を、速度ベクトルとして、高い分解能で知ることもできる。
図22(c)に示すフュージョン画像では、複数の待ち時間TI1〜TI(N)に対応した標識化血液を1つの画像内に同時に図示しているが、待ち時間TI1〜TI(N)にそれぞれ対応する標識化血液を、1つずつ時間的に切り換えながら、動画として表示させることもできる。また、この際、待ち時間TI1〜TI(N)に対応して得られる速度ベクトルも、順次切り替えながら、待ち時間TI1〜TI(N)に対応するそれぞれの標識流体の画像と重ねて表示させても良い。
また、フュージョン画像に、T1強調画像やT2強調画像等の形態画像をさらに重畳させた画像を生成し、この重畳画像をディスプレイ42にてもよい。或いは、フュージョン画像と形態画像とを、ディスプレイ42に並べて表示してもよい。
(第7の実施形態)
図23は、第7の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で生成する解析画像の一例を示す図である。図23に示す黒丸の位置は、流体振幅画像から得られる、待ち時間TI1〜TI(N)に対応する標識流体の重心位置を示している。
流体振幅画像における流入血液の振幅Aflowは、図20、又は図21の2段目に示すように、待ち時間TIがTInull以上の場合、コントロール画像の振幅|Scont|と、タグ画像の振幅|Stag|との差分となる。
一方、タグ画像では、タグパルスによって標識された流入血液の縦磁化は、経時的に回復していき、タグ画像の流入血液の振幅|Stag|は、標識されていないコントロール画像の血液の振幅|Scont|に近づいていく。つまり、待ち時間が、血液の縦緩和時間と同程度にまで長くなると、コントロール画像とタグ画像との間でのコントラストが小さくなり、流体振幅画像において流入血液を描出することができなくなる。このため、流体振幅画像において流入血液を描出することができる待ち時間TI、即ち、タグパルスの印加からの経過時間は、2秒から3秒程度である。
そこで、第7の実施形態では、流体振幅画像において流入血液を描出することができる最大の待ち時間をTI(N)とするとき、最大待ち時間TI(N)以上に対応する標識流体の位置を、最大待ち時間TI(N)のときの標識流体の位置を始点として、流速位相画像から得られる速度ベクトルを用いて(例えば、最大待ち時間TI(N)の時の流速ベクトルV[TI(N)]を用いて)推定するものとしている。図23に示す解析画像では、速度ベクトルから推定した標識流体の位置(R[x, y, z, TI(N+1)]、R[x, y, z, TI(N+2)]等を、ハッチングした丸印で示している。
第7の実施形態によれば、縦緩和時間の制約によって、流体振幅画像だけでは実際には描出困難な長い待ち時間TIに対応する標識流体の位置(或いは動き)を、流速画像の速度情報を用いて推定し、表示することが可能となる。
(第8の実施形態)
第8の実施形態では、動脈と静脈の双方が描出されたフュージョン画像を解析画像として生成する。図24(a)は、フュージョン画像を生成する前段階として、流体振幅画像から描出した動脈を示す図である。図24(a)では、動脈を斜線のハッチングで図示している。
図24(b)は、同じくフュージョン画像を生成する前段階として、流速画像から描出した末梢動脈と静脈を示す図である。図24(b)では、末梢動脈を濃いハッチングで図示し、静脈を薄いハッチングで図示している。
前述したように、流体振幅画像では、標識された血液(この場合、撮像領域の上流側の領域で標識された動脈の血液)を、所定の待ち時間TIの範囲まで描出することが可能である。このようにして描出された動脈が図24(a)である。ただし、流体振幅画像からは、所定の待ち時間TI以上に対応する末梢動脈までは描出できない。
一方、VENC(+)パルス又はVENC(+)パルスの大きさを、低速度に設定することにより、流速の小さな末梢動脈や静脈を、流速画像或いは流体位相画像から抽出することができる。図24(b)では、末梢動脈と静脈とを便宜上異なる種類のハッチングで区別して表示しているが、図24(b)の画像は、所定の範囲の低速度の流速を描出することで得ているため、実際には、この段階の処理では、末梢動脈と静脈とが区別できるわけではない。つまり、図24(b)では、実際には、低速血流に対応する血管が、末梢動脈と静脈との区別なく、描出される
図25(a)は、流体振幅画像から得られる動脈の画像(図24(a))と、流速画像から得られる末梢動脈と静脈との画像(図24(b))とをそのまま合成したフュージョン画像である。
図25(b)は、血管の空間的な連続性から、動脈と静脈とを分離する処理を行って、動脈と静脈とが分識別されたフュージョン画像である。具体的には、図24(a)に描出された血管(即ち、動脈)と、図24(b)に描出された血管との空間的な連続性を判定する。そして、図24(b)に描出された血管のうち、図24(a)に描出された動脈と空間的に連続する血管は、動脈(即ち、末梢動脈)であると判定し、図24(a)に描出された動脈と空間的に連続しない血管は、静脈であると判定する。
このようにして、動脈(図25(b)において斜線のハッチングで示す血管)と、静脈(図25(b)において薄いハッチングで示す血管)とが区別されたフュージョン画像を生成することができる。
(第9の実施形態)
図26は、第9の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1で生成する画像解析の一例を示す図である。
一般に、血液は、主幹動脈から細動脈を経て毛細血管床に流入する。毛細血管床から流出した血液は細い静脈を経て静脈へと流れていく。
一般に、空間分解能上の制約や、低SNR等のMRI装置のデータ収集上の制約によって、通常の撮像条件では、毛細血管を描出するのは困難である。また、毛細血管床を通過する時間、すなわち血液が細動脈から毛細血管に流入し細静脈に流出するまでの時間(以下、この通過時間をTT(Transit Time)と呼ぶものとする)を測定するのも困難である。なお、TTは、通常、5秒〜10秒程度であるが、閉塞や狭窄などの疾患時は、TTはさらに長くなる。TTを測定するのが困難な理由は、以下による。
前述したように、タグパルスによって標識化された血液の縦磁化は、タグパルスの印加後、縦緩和によって回復していくため、ASL法をベースとする流体振幅画像において流入血液を描出することができる待ち時間TI、即ち、タグパルスの印加からの経過時間は、2秒から3秒程度である。したがって、タグパルスが印加されてから、毛細血管床の流入部までの到達時間が2秒から3秒程度であれば、流体振幅画像から、毛細血管床の流入部までの動脈の速度情報を得ることができる。しかしながら、毛細血管床の内部の血液の速度情報は、空間分解能上の制約やSNR等の制約により、流体振幅画像からは得ることが難しく、TTを算出することは困難である。
一方、PC法をベースとする流体位相画像は、前述したように、縦緩和による回復時間の制約を受けない。このため、毛細血管床の流出部よりも下流側にある静脈の血液の速度情報を流体位相画像から得ることが可能である。但し、流体位相画像においても、空間分解能上の制約や、低SNR等の制約により、毛細血管床の内部の速度情報を得ることが難しいため、流体振幅画像の情報のみからTTを算出することも困難である。
このように、ASL法単独、或いはPC法単独では、毛細血管床の通過時間TTを測定するのは困難である。
これに対して、第9の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、ASL法をベースとする流体振幅画像から得られる速度情報と、PC法をベースとする流体位相画像から得られる速度情報とを組み合わせることにより、毛細血管床の流入部から流出部までを血液が通過する平均的なTT(以下、この平均的なTTを、MTT(Mean Transit Time)と呼ぶ)を推定することを可能とするものである。以下、MTTの推定方法について、図26を用いて説明する。
図26(a)は図25(b)と同じ図であり、図26(b)は、図26(a)の破線楕円部分を拡大した図である。
前述したように、毛細血管床自体を描出することは難しいものの、タグパルスを毛細血管床の下流側(即ち、動脈側)に印加した場合、印加位置から毛細血管床の流入端までの動脈は、ASL法をベースとして得られる流体振幅画像によって描出できる。
また、図17乃至図21に示すような、待ち時間TIを複数に設定可能なパルスシーケンスを使用することにより、複数の待ち時間TI(n)(n=1〜N)に対応する、標識化された血液の位置R(n)(n=1〜N)を求めることができる。そして、標識化された血液の位置R(n)から、複数の待ち時間TI(n)に対応する血液の速度Va(n)(n=1〜N)を算出することができる。例えば、隣り合う標識化された血液の2つの位置、R(n−1)及びR(n)、の差分に基づいて血液の速度Va(n)を算出することができる。
一方、PC法をベースとして得られる流速画像(或いは、流体位相画像)から、毛細血管床の流出部から流出する静脈血液の速度Vb(k)(k=1〜K)を、静脈の位置kごとに得ることができる。流速画像は、複数の待ち時間TI(n)毎に生成することができる。ただし、静脈流は概ね定常流とみなすことができるため、速度Vb(k)は、夫々の位置kにおいて、時相間で(即ち、待ち時間TI(n)の間で)、ほぼ一定と見なすことができる。そこで、夫々の位置kにおける速度Vb(k)を、複数の待ち時間TI(n)に対して平均した速度<Vb(k)>を、静脈血液の速度(Vb(k)=<Vb(k)>)としてもよい。平均することによって、SNRを高めることができる。
次に、毛細血管床の長さLを推定する。例えば、図26(c)に示すように、毛細血管床の流入点であるA点の位置を流体振幅画像から求め、毛細血管床の流出点であるB点の位置を流速画像から求める。そして、A点とB点の位置の差から、毛細血管床の長さLを推定することができる。
ここで、毛細血管床を通過する血液は、ほぼ定常流であると仮定することができる。つまり、A点の速度Va(N)とB点の速度Vb(K)は、大きさも向きもほぼ同じであると仮定することができる。
そうすると、毛細血管床を通過する血液の平均通過時間MTTを、
MTT=L/Va(N)、又は、
MTT=L/Vb(K)、又は、
MTT=L/((Va(N)+Vb(K))/2)
のいずれかの式によって推定することができる。
たとえば、L=4mm、Va(N)=Vb(K)=1mm/sec、とすると、MTT=4sec、となる。
上述したように、第9の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1によれば、従来のASL法のみから得られる情報、或いは、従来のPC法のみから得られる情報からは算出することができなかった、毛細血管床の平均通過時間MTTを推定することが可能となる。
さらに、第9の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1によれば、図26(c)に示すように、毛細血管床の内部に擬似的な速度ベクトルが描出されたフュージョン画像を提供することもできる。
例えば、毛細血管床の内部を、静脈側のB点から動脈側のA点に向かって探索して、速度ベクトルVb(K)を用いて描出することができる。或いは、逆に、動脈側のA点から静脈側のB点に向かって探索して、速度ベクトルVa(N)を用いて描出することができる。なお、静脈を流れる標識化血液を擬似的に描出する際には、静脈の流速に合わせた強度のVENC(−)パルス又はVENC(+)パルスを使用するのが良い。
(第10の実施形態)
第10の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、流速画像から得られる流速ベクトル情報(或いは、流路情報)を、流体振幅画像から得られる標識流体の位置情報を用いて補正する手法を提供する。図27は、この手法の概念を説明する図である。
図27(a)の中の黒丸は、流体振幅画像から得られる標識流体の位置(Pa(1)、Pa(2)、Pa(3)等)を表わしている。一方、図27(b)は補正前の流速ベクトル(或いは、流路)を表わし、図27(c)は補正後の流速ベクトル(或いは、流路)を表わしている。
前述したように、流体振幅画像から得られる標識流体の位置は、比較的精度良く求めることができる。したがって、隣接する標識流体置の変位の方向は、空間分解能は粗いものの、高い精度で得られる。一方、流速画像から得られる補正前の流速ベクトルは、空間分解能は高いものの、ノイズ等の影響を受けやすく、方向や大きさが真値から揺らぐ。
そこで、以下に説明する速度ベクトルの補正方法では、定性的には、速度ベクトルを、標識流体位置の変位の方向に強く引っ張られるように補正するものである。以下、より具体的な補正方法を、2次元の場合で説明する。
今、速度ベクトルが測定されている画素位置(i, j)に最も近い標識流体位置Pa(n(n=1〜N))の変位の方向をRa(i, j)とする。ここで、Ra(i, j)はベクトル量である。また、実空間フィルターでm×nサイズカーネルでの、中心画素からの方向をRh(m, n)とする。ここで、Rh(m, n)もベクトル量である。
ここで、Ra(i, j)とRh(m, n)の内積から、次の(式18)で表されるノルムN(m, n, I, j)を求める。
ノルムN(m, n, i, j)は、標識流体位置の変位方向に平行な方向で最大値1を示し、変位方向に垂直な方向でゼロとなる。
次に、等方的なスムージングフィルタ用カーネルH
0(m, n)と、ノルムN(m, n, i, j)の積をとって、方向性をもったフィルタカーネルH
0(m, n, i, j)を、 次の(式19)より算出する。
この方向性をもったフィルタカーネルH
0(m, n, i, j)は、速度ベクトルが測定されている画素位置(i, j)毎に求められる。
次に、補正前の速度ベクトルV(i, j)と、上記の方向性をもったフィルタカーネルH
0(m, n, i, j)とで、以下の(式20)によるコンボルーションをとることによって、補正後の速度ベクトルVcor(i, j)を算出する。
(式20)によって、画素位置ごとの速度ベクトルを補正することによって、補正された速度ベクトルの分布を得る。その後、補正後の速度ベクトルVcor(i, j)を用いて、速度ベクトルの追跡処理を行うことにより、図27(c)に示すように、滑らかに連続した速度ベクトル(即ち、滑らかな流路情報)を得ることができる。
図28は、上述した、等方的なスムージングフィルタ用カーネルH0(m, n)、ノルムN(m, n, i, j)、及び方向性をもったフィルタカーネルH0(m, n, i, j)を、3×3のサイズで例示したものである。ここで、ノルムN(m, n, i, j)は、ケース1のように標識流体位置の変位の方向Ra(i, j)が45°の場合には、右斜め方向(45°方向)の要素が「1」となり、これに伴って、方向性をもったフィルタカーネルH0(m, n, i, j)の成分も右斜め方向(45°方向)が強調されたものとなる。また、ケース2のように、標識流体位置の変位の方向Ra(i, j)が90°の場合には、垂直方向(90°方向)の要素が「1」となり、これに伴って、方向性をもったフィルタカーネルH0(m, n, i, j)の成分も垂直方向(90°方向)が強調されたものとなる。
このように、上記の補正方法は、標識流体位置の変位の方向に近い程強くスムージングされ、逆に標識流体位置の変位の方向と直交する方向に対しては、スムージング効果が弱くなる。等方的なスムージングの場合、全方向にぼけてしまう可能性が有るが、上述した方向性をもつフィルタカーネルによるスムージングによれば、高い精度を示す標識流体位置の変位の方向に速度ベクトルが向く確率が高くなる。
また、速度成分は、静止組織部分ではノイズが支配的となるため、流体振幅画像から血管領域のみを抽出し、抽出した血管領域に対してのみ上記の補正処理を行うことによって、計算時間を短縮することができる。
(第11の実施形態)
第11の実施形態は、上述した各実施形態の磁気共鳴イメージング装置1からデータを入力して画像解析を行う画像解析装置400aとして構成される。
図29は、第11の実施形態の画像解析装置400aの構成例を示すブロック図である。画像解析装置400aは、処理回路40a、記憶回路41a、ディスプレイ42a、及び入力デバイス43aを有するコンピュータとして構成されている。
処理回路40a、記憶回路41a、ディスプレイ42a、及び入力デバイス43aは、図2に示す磁気共鳴イメージング装置1のコンソール400の各構成、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43とほぼ同等の構成と機能を有するため、説明を省略する。
処理回路40aは、入力機能430、流体振幅画像生成機能422a、流体位相画像生成機能423a、流速画像生成機能424a、解析機能426a、及び表示制御機能427aの各機能を実現する。
上記各機能のうち、入力機能430以外は、図2に示した流体振幅画像生成機能422、流体位相画像生成機能423、流速画像生成機能424、解析機能426、及び表示制御機能427と同じ機能であるため、説明を省略する。
入力機能430は、磁気共鳴イメージング装置1で生成された複素画像である、タグ画像及びコントロール画像のデータを入力し、流体振幅画像生成機能422a及び流体位相画像生成機能423aに提供する。流体振幅画像生成機能422a、流体位相画像生成機能423a、流速画像生成機能424a、解析機能426a、及び表示制御機能427aの各機能は、図3に示す処理のうち、ステップST103〜ステップST107の処理を行う。各処理は、既に説明済みであるため、説明を省略する。
なお、磁気共鳴イメージング装置1において、流体振幅画像、及び流体位相画像(或いは流速画像)が生成されている場合は、入力機能430は、これらの画像データを入力して、解析機能426aに提供してもよい。
以上説明してきたように、各実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、ASL法とPC法の両方の利点を、短い撮像時間で、且つ、同一撮像対象に対して得ることができる。
なお、各実施形態の記載における撮像条件設定機能は、特許請求の範囲の記載における設定部の一例である。また、各実施形態の記載における画像生成機能は、特許請求の範囲の記載における生成部の一例である。また、各実施形態における解析機能は、特許請求の範囲の記載における解析部の一例である。また、各実施形態における流体位相画像、或いは流速画像は、特許請求の範囲の記載における位相画像の一例である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。