以下、図面を参照しながら、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、適宜「MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置」)を説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。また、各実施形態において説明する内容は、原則として、他の実施形態においても同様に適用することができる。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成を示す機能ブロック図である。図1に示すように、MRI装置100は、静磁場磁石101と、静磁場電源102と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源104と、寝台105と、寝台制御部106と、送信コイル107と、送信部108と、受信コイル109と、受信部110と、シーケンス制御部120と、計算機130とを備える。なお、MRI装置100に、被検体P(例えば、人体)は含まれない。また、図1に示す構成は一例に過ぎない。例えば、シーケンス制御部120及び計算機130内の各部は、適宜統合若しくは分離して構成されてもよい。
静磁場磁石101は、中空の円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に静磁場を発生する。静磁場磁石101は、例えば、超伝導磁石等であり、静磁場電源102から電流の供給を受けて励磁する。静磁場電源102は、静磁場磁石101に電流を供給する。なお、静磁場磁石101は、永久磁石でもよく、この場合、MRI装置100は、静磁場電源102を備えなくてもよい。また、静磁場電源102は、MRI装置100とは別に備えられてもよい。
傾斜磁場コイル103は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、及びZの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、傾斜磁場電源104から個別に電流の供給を受けて、X、Y、及びZの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向である。ここで、傾斜磁場コイル103によって発生するX、Y、及びZの各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge、及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応している。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。傾斜磁場電源104は、傾斜磁場コイル103に電流を供給する。
寝台105は、被検体Pが載置される天板105aを備え、寝台制御部106による制御の下、天板105aを、被検体Pが載置された状態で、傾斜磁場コイル103の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、寝台105は、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御部106は、計算機130による制御の下、寝台105を駆動して天板105aを長手方向及び上下方向へ移動する。
送信コイル107は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、送信部108からRF(Radio Frequency)パルスの供給を受けて、高周波磁場を発生する。送信部108は、対象とする原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア周波数に対応するRFパルスを送信コイル107に供給する。例えば、送信部108は、発振部、位相選択部、周波数変換部、振幅変調部、高周波電力増幅部等を有する。発振部は、静磁場中における対象原子核に固有の共鳴周波数の高周波信号を発生する。位相選択部は、高周波信号の位相を選択する。周波数変換部は、位相選択部から出力された高周波信号の周波数を変換する。振幅変調部は、周波数変調部から出力された高周波信号の振幅を例えばsinc関数に従って変調する。高周波電力増幅部は、振幅変調部から出力された高周波信号を増幅する。これらの各部の動作の結果として、送信部108は、ラーモア周波数に対応するRFパルスを送信コイル107に供給する。
受信コイル109は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられる磁気共鳴信号(以下、適宜「MR(Magnetic Resonance)信号」)を受信する。受信コイル109は、MR信号を受信すると、受信したMR信号を受信部110へ出力する。
なお、上述した送信コイル107及び受信コイル109は一例に過ぎない。送信機能のみを備えたコイル、受信機能のみを備えたコイル、若しくは送受信機能を備えたコイルのうち、1つ若しくは複数を組み合わせることによって構成されればよい。
受信部110は、受信コイル109から出力されるMR信号を検出し、検出したMR信号に基づいてMRデータを生成する。具体的には、受信部110は、受信コイル109から出力されるMR信号をデジタル変換することによってMRデータを生成する。また、受信部110は、生成したMRデータをシーケンス制御部120へ送信する。なお、受信部110は、静磁場磁石101や傾斜磁場コイル103等を備える架台装置側に備えられてもよい。
シーケンス制御部120は、計算機130から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源104、送信部108及び受信部110を駆動することによって、被検体Pの撮像を行う。ここで、シーケンス情報は、撮像を行うための手順を定義した情報である。シーケンス情報には、傾斜磁場電源104が傾斜磁場コイル103に供給する電流の強さや電流を供給するタイミング、送信部108が送信コイル107に供給するRFパルスの強さやRFパルスを印加するタイミング、受信部110がMR信号を検出するタイミング等が定義される。例えば、シーケンス制御部120は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路である。
なお、シーケンス制御部120は、傾斜磁場電源104、送信部108及び受信部110を駆動して被検体Pを撮像した結果、受信部110からMRデータを受信すると、受信したMRデータを計算機130へ転送する。
計算機130は、MRI装置100の全体制御や、画像の生成等を行う。計算機130は、インタフェース部131、記憶部132、制御部133、入力部134、表示部135、及び画像生成部136を備える。
インタフェース部131は、シーケンス情報をシーケンス制御部120へ送信し、シーケンス制御部120からMRデータを受信する。また、インタフェース部131は、MRデータを受信すると、受信したMRデータを記憶部132に格納する。記憶部132に格納されたMRデータは、制御部133によってk空間に配置される。この結果、記憶部132は、k空間データを記憶する。
記憶部132は、インタフェース部131によって受信されたMRデータや、制御部133によってk空間に配置されたk空間データ、画像生成部136によって生成された画像データ等を記憶する。例えば、記憶部132は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等である。
入力部134は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。入力部134は、例えば、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス、キーボード等の入力デバイスである。表示部135は、制御部133による制御の下、撮像条件の入力を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、画像生成部136によって生成された画像等を表示する。表示部135は、例えば、液晶モニタ等の表示デバイスである。
制御部133は、MRI装置100の全体制御を行い、撮像や画像の生成、画像の表示等を制御する。また、制御部133は、図1に示すように、撮像条件設定部133aを有する。撮像条件設定部133aは、撮像条件の入力をGUI上で受け付け、受け付けた撮像条件に従ってシーケンス情報を生成する。また、撮像条件設定部133aは、生成したシーケンス情報をシーケンス制御部120へ送信する。例えば、制御部133は、ASIC、FPGA等の集積回路、CPU、MPU等の電子回路である。
画像生成部136は、k空間データを記憶部132から読み出し、読み出したk空間データにフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、画像を生成する。
続いて、第1の実施形態に係るMRI装置100が解決しようとする課題を説明する。造影剤を用いずに血管や臓器への血液の供給状態を観察する手法として、血液中の磁化を、反転パルス(以下、適宜「IR(Inversion Recovery)パルス」)等を用いて磁気的にラベリング(標識化)する撮像法があり、「ASL(Arterial Spin Labeling)」等と呼ばれている。このような撮像法のひとつでは、反転パルスを印加することで関心領域の上流に存在する血液の磁化を選択的に反転させ、反転パルスにより標識化された血液が関心領域に流入する時間である一定の待ち時間後に収集した画像と、反転パルスを印加せずに収集した画像との差分画像が生成される。差分により静止部の信号が抑制されるので、関心領域内において、血管又は血液が流入した組織と、背景組織(血管又は血液が流入した組織以外の組織)とのコントラストを得ることが可能である。
図2及び図3は、第1の実施形態が解決しようとする課題を説明するための図である。図2の(A)は、反転パルスを印加する収集を示し、(B)は、反転パルスを印加しない収集を示す。また、図2においては、各収集で実行されるパルスシーケンスと、このパルスシーケンスが実行された場合の血液の信号及び背景組織の信号それぞれの磁化の変化を示すグラフと、関心領域及びその上流領域における信号の変化を概念的に説明するための図とを並べて示す。なお、図2においては、関心領域を通過する血管の中を、上から下に血液が流れているものとする。また、図2においては、点線の領域を、関心領域及び撮像領域として示している。他の図も同様である。
例えば、シーケンス制御部120は、図2の(A)に示すように、初期状態の時刻t0に、一定の周波数帯域を有するRFパルスsIRと、図示しない傾斜磁場パルスとを印加することで、関心領域の上流領域に存在する組織の磁化のみを空間選択的に励起する。なお、「sIR」は、selectiveIRの略であり、空間選択的に反転パルスが印加されることを示す。
関心領域の上流領域に存在する血液は、この反転パルスの印加を受けて、その磁化を+Mzから−Mz方向に180°回転させる。図2の(A)において時刻t0−及び時刻t0+の概念図に示されるように、関心領域の上流領域では、その信号が、正値から負値に変化する。
続いて、シーケンス制御部120は、図2の(A)に示すように、RFパルスsIRを印加後、一定の待ち時間TI(Inversion Time)が経過した時刻t1に、画像の再構成に必要なMR信号のデータ(以下、単に「データ」と呼ぶ)を、少なくとも関心領域の一部を含む範囲の撮像領域から収集する。時刻t0において磁化を反転させた血液は、待ち時間TIの間に、関心領域に流入する。また、待ち時間TIの間、関心領域の上流領域で反転した磁化は、血液及び組織の縦緩和時間T1の時定数で、元の状態+Mz方向に向かって回復する。待ち時間TIは、血液の信号の絶対値が小さい状態でデータが収集されるように設定される。例えば、血液の信号がゼロ近くになる時刻に画像コントラストに最も影響を与える低周波成分のデータが収集されると、血液の信号と背景組織の信号とのコントラストが良好になる。この結果、図2の(A)における時刻t1の概念図に示されるように、関心領域内では、血管のみが低信号になる。
なお、シーケンス制御部120は、データ収集については、撮像の目的に応じて、2次元又は3次元のスピンエコー法、グラディエントエコー法、SSFP(Steady State Free Precession)法、FSE(Fast Spin Echo)法、EPI(Echo Planar Imaging)法等、既知の撮像法を利用することが可能である。また、シーケンス制御部120は、図2に示す1回の励起で画像の再構成に必要な全てのデータを収集できない場合には、同様のデータ収集を複数回に分割して、全てのデータを収集できるまで、この過程を複数回繰り返す。
また、シーケンス制御部120は、図2の(B)に示すように、反転パルスを印加せずに、図2の(A)と同一の撮像領域からデータを収集する。この場合、関心領域の上流領域に存在する血液は反転パルスの印加を受けないため、図2の(A)とは異なり、その磁化は、関心領域内の背景組織と同様に、+Mzのままである。
このように収集されたデータを、画像生成部136が、それぞれ再構成し、図3に示すように、反転パルスを印加しないで収集したデータから得られた画像(B)から、反転パルスを印加して収集したデータから得られた画像(A)を減算する。この減算によって、関心領域内で静止している背景組織の信号はほぼゼロとなり、画像生成部136は、関心領域に流入してきた血液の信号が正の値を持ち、血管が白く描出される画像を得る。
なお、上述したように、シーケンス制御部120は、一度の励起で画像の再構成に必要な全てのデータを収集できない場合には、同様のデータ収集を複数回に分割して行うが、差分する2つのデータ収集の間の被検体の動きの影響をできるだけ減らすために、(A)のパルスシーケンスと、(B)のパルスシーケンスとを、交互に、分割した回数実行することがある。
上述してきた撮像法は、画像間の差分を使用するため、仮に(A)のデータと(B)のデータとを交互に収集する手法を用いたとしても、被検体の動きの影響を受け易いという欠点がある。一方で、背景組織の信号の抑制の程度は、組織の緩和時間や待ち時間TIに依存しないという利点がある。特に、背景組織の信号抑制の程度が待ち時間TIに依存しないという利点は、待ち時間TIを変化させた複数の画像により関心領域への血液の流入過程を観察する場合に適している。
もっとも、この撮像法においてより広い範囲の血管又は血液の流入した組織を描出するためには、血液が関心領域に流入するための待ち時間TIをできるだけ長く設定する必要がある。しかしながら、反転した血液の磁化は、反転パルスの印加からデータ収集までの待ち時間TIの間に縦緩和により回復するため、待ち時間TIを長く設定すると、血液の信号と背景組織の信号との信号差が減少し、血管又は血液の流入した組織と背景組織とのコントラストが低下してしまう。
そこで、第1の実施形態では、反転パルスの印加からデータ収集までの待ち時間を延長することで、血液が関心領域に流入する時間を延長し、結果として、より広い範囲の血管又は血液の流入した組織を描出することが可能になり、非造影撮像における描出能を向上することができる。以下では、この点について詳細に説明する。
図4は、第1の実施形態におけるデータ収集を説明するための図である。図4の(A)及び(B)は、画像差分される2つの画像それぞれに対応するデータ収集を示す。また、図4においては、各収集で実行されるパルスシーケンスと、このパルスシーケンスが実行された場合の信号の磁化の変化を示すグラフと、関心領域及びその上流領域における信号の変化を概念的に説明するための図とを並べて示す。なお、図4においては、関心領域を通過する血管の中を、上から下に血液が流れているものとする。
例えば、シーケンス制御部120は、図4の(A)に示すように、時刻t0に、一定の周波数帯域を有するRFパルスsIRと、図示しない傾斜磁場パルスとを印加することで、関心領域に存在する組織の磁化のみを空間選択的に励起する。関心領域に存在する組織は、この反転パルスの印加を受けて、その磁化を+Mzから−Mz方向に180°回転させる。図4の(A)において時刻t0−及び時刻t0+の概念図に示されるように、関心領域では、その信号が、正値から負値に変化する。
時刻t0にRFパルスsIRが印加された後、反転パルスの印加を受けていない上流領域の血液は、RFパルスsIRの印加後、次に反転パルスが印加されるまでの待ち時間TD(Delay Time)1の間に、関心領域に流入する。すると、図4の(A)において時刻t1−の概念図に示されるように、関心領域では、流入した血液の信号が、高信号となる。
続いて、シーケンス制御部120は、図4の(B)に示すように、時刻t1に、広い周波数帯域を有するRFパルスnsIRを印加することで、関心領域及びその上流領域を含む全領域を、非選択的に励起する。シーケンス制御部120は、このRFパルスnsIRを印加する際には、空間選択的な励起を行うための傾斜磁場パルスを印加しない。なお、「nsIR」は、non-selectiveIRの略であり、非選択的に反転パルスが印加されることを示す。
すると、時刻t0でRFパルスsIRの印加を受けていない関心領域外の組織の磁化、及び、関心領域外から流入してきた血液の磁化は、+Mzから−Mz方向に向き、時刻t0でRFパルスsIRの印加を受けた関心領域内の静止部の磁化は、−Mzから+Mz方向に向く。即ち、関心領域の上流領域の磁化、及び、関心領域に流入した血液の磁化は、この反転パルスの印加を受けて、+Mzから−Mz方向に180°回転する。一方、関心領域に流入した血液を除く、関心領域の磁化は、−Mzから+Mz方向に180°回転する。図4の(A)において時刻t1−及び時刻t1+の概念図に示されるように、関心領域では、流入した血液の信号が、低信号となる。
続いて、シーケンス制御部120は、図4の(A)に示すように、RFパルスnsIRを印加後、一定の待ち時間TD2が経過した時刻t2に、画像の再構成に必要なデータを、少なくとも関心領域の一部を含む範囲の撮像領域から収集する。上流領域の血液は、この待ち時間TD2の間にも、上流から下流に向かって更に関心領域内に流入し続ける。また、待ち時間TD2の間、関心領域の上流領域で反転した磁化は、血液及び組織の縦緩和時間T1の時定数で、元の状態+Mz方向に向かって回復する。待ち時間TD2は、血液の信号の絶対値が小さい状態でデータが収集されるように設定される。例えば、血液の信号がゼロ近くになる時刻に画像コントラストに最も影響を与える低周波成分のデータが収集されると、血液の信号と背景組織の信号とのコントラストが良好になる。この結果、図4の(A)における時刻t2の概念図に示されるように、関心領域内では、血管のみが低信号になる。
また、ここで、図2の(A)と図4の(A)とを比較すると、関心領域に流入する血液の範囲が、図4の(A)の方が広く(長く)なっていることが分かる。これは、血液の信号の絶対値が小さい状態でデータが収集されるように設定された待ち時間TD2に加えて、図4の(A)では、その前段階の待ち時間TD1の分、血液が関心領域に流入する時間が、延長されているからである。即ち、第1の実施形態においては、血液が関心領域に流入する時間を延長すべく、まず、関心領域に反転パルスを印加して、関心領域の静止部の信号と、関心領域に流入する血液の信号との間にコントラストをつける。この段階では、関心領域に流入する血液の信号の磁化は維持されるので、その後、待ち時間TD1経過後に、血液の信号を180°反転すれば、待ち時間TD2は、図2の(A)の場合と同じ時間だけ、確保することができる。
即ち、第1の実施形態において、血液の信号が縦緩和で回復する時間は待ち時間TD2に相当する。よって、待ち時間TD2は、図2の待ち時間TIで示した時間と同じ値に設定されればよい。一方、第1の実施形態では、血液が関心領域に流入する時間は、関心領域に対する選択的なRFパルスsIRの印加から、それに続く非選択的なRFパルスnsIRの印加までの待ち時間TD1と、非選択的なRFパルスnsIRの印加からデータ収集までの待ち時間TD2との合計の時間「TD1+TD2」となる。図2で示した撮像法と比べると、待ち時間TD1の分だけ血液が関心領域に流入する時間を長く設定できるため、その分広い範囲の血管を描出することが可能となる。
なお、シーケンス制御部120は、図2の場合と同様、データ収集については、撮像の目的に応じて、2次元又は3次元のスピンエコー法、グラディエントエコー法、SSFP法、FSE法、EPI法等、既知の撮像法を利用することが可能である。また、シーケンス制御部120は、図2の場合と同様、一度の励起で画像の再構成に必要な全てのデータを収集できない場合には、同様のデータ収集を複数回に分割して、全てのデータを収集できるまで、この過程を複数回繰り返す。
また、シーケンス制御部120は、図4の(B)に示すように、背景組織の信号を抑制するための差分用のデータを収集する。図4の(A)と(B)とを比較すると分かるように、両者において、RFパルス及びデータ収集のタイミングは同じであるが、(B)では、時刻t0におけるRFパルスが、広い周波数帯域を有するRFパルスnsIR1であり、傾斜磁場パルスの印加を伴わない点だけが異なる。時刻t1に印加されるRFパルスnsIR2は、(A)において時刻t1に印加されるRFパルスnsIRと同じである。
図4の(B)において各概念図に示されるように、RFパルスnsIRの印加を受ける全ての組織の磁化は、血液、静止部にかかわらず、時刻t0と時刻t1とに2回反転する。
図5は、第1の実施形態における画像差分を説明するための図である。このように収集されたデータを、画像生成部136が、それぞれ再構成し、図5に示すように、非選択的な反転パルスを2回印加して収集したデータから得られた画像(B)から、選択的な反転パルスと非選択的な反転パルスとを組み合わせて印加して収集したデータから得られた画像(A)を減算する。この減算によって、関心領域内で静止している背景組織の信号はほぼゼロとなり、(A)において1回の反転パルスの印加しか受けていない関心領域に流入する血液の信号は正の値を持つため、画像生成部136は、血管が白く描出される画像を得る。
なお、第1の実施形態においても、シーケンス制御部120は、一度の励起で画像の再構成に必要な全てのデータを収集できない場合には、同様のデータ収集を複数回に分割して行うが、差分する2つのデータ収集の間の被検体の動きの影響をできるだけ減らすために、(A)のパルスシーケンスと、(B)のパルスシーケンスとを、交互に、分割した回数実行することができる。
図6は、第1の実施形態における撮像の処理手順を示すフローチャートである。なお、一般的には、図6に示す処理の前に、操作者は、撮像条件入力用のGUI上で、撮像対象部位の血管像を得るための一連のプロトコル群(例えば、位置決め画像収集用のプロトコル、感度マップ撮像用のプロトコル、シミング撮像用のプロトコル、イメージングスキャン用のプロトコル等)を選択済みである。シーケンス制御部120は、選択された一連のプロトコル群に従って、図6に示す各種処理を実行する。
図6に示すように、シーケンス制御部120は、まず、位置決め画像の収集や、感度マップ撮像、シミング撮像等の各種準備スキャンを実行する(ステップS1)。
続いて、撮像条件設定部133aが、反転パルスを選択的に印加する場合の印加領域や、関心領域を含む撮像領域、待ち時間TD1や、待ち時間TD2等の撮像条件の設定を受け付ける(ステップS2)。第1の実施形態において、RFパルスsIRの印加領域は、関心領域を含むように設定される。
例えば、撮像条件設定部133aは、ステップS1で収集された位置決め画像をGUI上に表示し、操作者から、RFパルスsIRの印加領域及び撮像領域の設定を受け付ける。例えば、撮像対象部位が「腎臓」の場合、操作者は、関心対象の腎臓を含むようにRFパルスsIRの印加領域を設定し、また、そのRFパルスsIRの印加領域を含むように撮像領域を設定する。なお、RFパルスsIRの印加領域は、例えば、腎臓の上流に位置付けられる動脈を含まない位置に設定される。また、例えば、撮像対象部位が「肝臓」の場合、操作者は、関心対象の肝臓を含むようにRFパルスsIRの印加領域を設定し、また、そのRFパルスsIRの印加領域を含むように撮像領域を設定する。なお、RFパルスsIRの印加領域は、例えば、肝臓の上辺に位置付けられる大動脈を含まない位置に設定される。
また、例えば、撮像条件設定部133aは、操作者から、待ち時間TD1や待ち時間TD2の設定を受け付ける。例えば、操作者は、待ち時間TD1については、どの程度、血管の描出範囲を広げたいかに応じて設定する。また、例えば、操作者は、待ち時間TD2については、血液の信号が縦緩和で回復する時間に基づいて、設定する。なお、これらの設定値は、操作者からの設定を受け付けることなく、イメージングスキャン用のプロトコルの初期値として予め組み込まれていてもよい。あるいは、待ち時間TD1を変えながら、複数の待ち時間TD1についてデータを収集する準備スキャンを実行し、その結果の画像や、信号の解析結果をGUI上に表示して、操作者に、適切な待ち時間TD1を選択させてもよい。
こうして、撮像条件の設定が終わると、シーケンス制御部120は、イメージングスキャンを実行する(ステップS3)。図7は、第1の実施形態におけるイメージングスキャンを説明するための図である。図7に示すように、例えば、シーケンス制御部120は、心電信号をトリガ信号として同期しながら、図4に示した(A)のパルスシーケンスと(B)のパルスシーケンスとを交互に繰り返す。なお、図7では、3次元のデータを収集することを想定して、1スライスエンコード毎に、(A)のパルスシーケンスと(B)のパルスシーケンスとの組み合わせを繰り返す例を示す。
図6に戻り、こうして、イメージングスキャンが実行され、撮像対象部位のボリュームデータが収集されると、画像生成部136は、収集されたボリュームデータから血管像を生成し、これを表示部135に表示する(ステップS4)。例えば、(A)のパルスシーケンスに対応するボリュームデータと、(B)のパルスシーケンスに対応するボリュームデータとが収集されると、画像生成部136は、収集されたボリュームデータそれぞれを再構成する。そして、画像生成部136は、再構成された3次元画像同士の差分画像を算出することで目的の血管像を得て、これを表示部135に表示する。
上述してきたように、第1の実施形態に係るMRI装置100は、関心領域を選択的に反転させる選択反転パルスsIRを印加し、第1の待ち時間TD1後に、領域を選択しない非選択反転パルスnsIRを印加し、第2の待ち時間TD2後に、磁気共鳴信号を収集する、第1のパルスシーケンスと、第1のパルスシーケンスにおける選択反転パルスsIRを非選択反転パルスnsIRに置き換えた第2のパルスシーケンスとを実行する。また、MRI装置100は、第1のパルスシーケンスで収集された磁気共鳴信号から再構成された第1の画像と、第2のパルスシーケンスで収集された磁気共鳴信号から再構成された第2の画像とを差分することで、関心領域に血液が流入した画像を生成する。このように、選択反転パルスの印加からデータ収集までの待ち時間を延長することで、血液が関心領域に流入する時間を延長し、結果として、より広い範囲の血管又は血液の流入した組織を描出することが可能になり、非造影撮像における描出能を向上することができる。
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、ひとつの待ち時間を設定してひとつの画像を得る手法を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。第2の実施形態では、複数の待ち時間を設定し、同じ撮像領域の画像を複数得る手法を説明する。なお、第2の実施形態に係るMRI装置100は、第1の実施形態に係るMRI装置100と同様の構成を備える。
例えば、待ち時間TD1(k);1≦k≦nにて、kが大きくなるにしたがって待ち時間TD1(k)が長くなるような設定でn回の収集を行い、n個の画像を得ると、kの増加、即ち待ち時間TD1(k)の延長に伴って関心領域のより広い領域の血管を描出することになり、これらの画像を連続的に観察することにより、関心領域へ血液が流入する過程を、時系列的に把握することが可能になる。
図8は、第2の実施形態におけるイメージングスキャンを説明するための図である。例えば、シーケンス制御部120は、図8に示すように、待ち時間TD1の長さを変更しながら、複数の待ち時間TD1についてそれぞれ、(A)のパルスシーケンスと(B)のパルスシーケンスとを実行し、その差分画像を得る。なお、シーケンス制御部120は、待ち時間TD1が異なる複数のパルスシーケンスを、例えば中断なく連続して実行してもよいし、あるいは、適宜中断しつつ実行してもよい。
図8に示すように、例えば、待ち時間TD1-1、待ち時間TD1-2、待ち時間TD1-3、待ち時間TD1-4を比較すると、徐々に待ち時間が長くなっていることが分かる。一方、待ち時間TD2は一定であるが、血液が関心領域に流入する時間は、待ち時間TD1と待ち時間TD2との合計の時間「TD1+TD2」となるので、待ち時間TD1が長くなればなるほど、関心領域に流入する血液の長さも徐々に長くなる。なお、図8においては、k=1の場合及びk=2の場合では、3RRの間隔でデータを収集し、k=3及びk=4の場合では、4RRの間隔でデータを収集するといったように、待ち時間の延長に応じてRR間隔も変える例を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、k=1からk=4の収集まで、いずれの場合も4RRの間隔でデータを収集してもよい。
その後、このように収集されたデータを用いて画像生成部136が差分画像を生成し、待ち時間が異なる複数の画像群を連続再生する。例えば、画像生成部136は、図8に示す画像I1からI4を連続再生する。すると、観察者は、あたかも、動画再生を観察するように、関心領域へ血液が流入する過程を時系列的に把握することが可能になる。
なお、待ち時間が異なる複数のデータを収集する手法は、上述した手法に限られるものではない。上述では、待ち時間TD1(k);1≦k≦nにてkが大きくなるにしたがって待ち時間TD1(k)が長くなるような設定でn回の収集を行う例を説明したが、実施形態はこれに限られるものではない。シーケンス制御部120は、待ち時間TD2(k);1≦k≦nにてkが大きくなるにしたがって待ち時間TD2(k)が長くなるような設定でn回の収集を行ってもよい。あるいは、シーケンス制御部120は、待ち時間TD1(k)及び待ち時間TD2(k)の両方について、kが大きくなるにしたがって長くなるような設定でn回の収集を行ってもよい。
また、例えば、シーケンス制御部120は、1TR(Repetition Time)の間に、待ち時間TD2が異なる1セグメント分のデータを複数収集し、複数のTRに分散して収集された各セグメント分のデータを集約することで、待ち時間TD2が異なる全体のデータを複数収集してもよい。
上述してきたように、第2の実施形態に係るMRI装置100は、第1の待ち時間TD1及び第2の待ち時間TD2の内少なくとも一方を変えながら、複数回、少なくとも(A)のパルスシーケンスを実行し、複数回分のパルスシーケンスで収集された磁気共鳴信号それぞれから再構成された複数の画像を用いて、関心領域における流体の流入状態を反映する時系列的な画像群を生成する。よって、このような画像群を観察する者は、関心領域へ血液が流入する過程を、時系列的に把握することが可能になる。
(その他の実施形態)
なお、実施形態は、上述した実施形態に限られるものではない。
上述した実施形態においては、(A)のパルスシーケンスにおいて、関心領域に対して選択反転パルスsIRを印加する例を説明したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、シーケンス制御部120は、(A)のパルスシーケンスにおいて、関心領域の上流領域に対して、選択反転パルスsIRを印加することもできる。
また、上述した実施形態においては、流体として血液を想定し、造影剤を用いずに血管又は組織への血液の供給状態を描出する撮像を想定したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、流体として、脳脊髄液(CSF(Cerebrospinal Fluid))、リンパ液等を想定した場合にも、上述した実施形態を同様に適用することができる。
(具体的な数値、処理の順序)
また、上述した実施形態において例示した具体的な数値(例えば、心電同期のRR間隔等)や処理の順序(例えば、図6に示す処理手順)は、一例に過ぎない。パルスシーケンスについても、任意に変更することができる。
(プログラム)
また、上述した実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。上述した実施形態で記述された指示は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態のMRI装置100と同様の動作を実現することができる。また、コンピュータがプログラムを取得する場合又は読み込む場合は、ネットワークを通じて取得又は読み込んでもよい。
以上述べた少なくとも1つの実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置によれば、非造影撮像における描出能を向上することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。