以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、WB(Whole Body)コイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体に近接して配設されるアレイコイル20を有している。
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(患者)の撮像領域であるボア(静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示せず)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
WBコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、また、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号を受信する。
アレイコイル20はRFコイルであり、被検体から放出される磁気共鳴信号を被検体に近い位置で受信する。アレイコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。アレイコイル20は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、図1では胸部用のアレイコイル20を例示している。
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、WBコイル12にRFパルスを送信する。一方、RF受信器32は、WBコイル12やアレイコイル20によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、入力デバイス42、及びディスプレイ43を有するコンピュータとして構成されている。
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGA(field programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス42)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ43に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
さらに、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、後述する所定のパルスシーケンスによるスキャンの実行によって得られるMR信号から複素画像を再構成し、この複素画像から、流体振幅画像及び流速画像を生成する。
図2は、上述した流体振幅画像及び流速画像の生成に関する磁気共鳴イメージング装置1のブロック図である。図2に示すように、磁気共鳴イメージング装置1の処理回路40は、撮像条件設定機能410、複素画像生成機能421、流体振幅画像生成機能422、流体位相画像生成機能423、流速画像生成機能424、及び補正機能425の各機能を実現する。ここで、複素画像生成機能421、流体振幅画像生成機能422、流体位相画像生成機能423、流速画像生成機能424、及び補正機能425で、画像生成機能420を構成する。上述したように、これらの各機能は、例えば、処理回路40が具備するプロセッサが所定のプログラムを実行することによって実現される。
また、図1に示す磁気共鳴イメージング装置1の構成のうち、コンソール40以外の構成品(制御キャビネット300、磁石架台100及び寝台500)で、収集部600を構成している。
上記各構成のうち、撮像条件設定機能401は、撮像で使用するパルスシーケンスの種類や、パルスシーケンス内の各種のパラメータ等の撮像条件をシーケンスコントローラ34に設定する。これらの撮像条件は、例えば、入力デバイス42を介して操作者によって入力される。或いは、既に記憶されている撮像条件に対して、入力デバイス42を介した操作によって、操作者が変更することもできる。
図3は、第1の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の処理例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートと、図4乃至図9を用いて、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の具体的な処理を順次説明していく。
図3のステップST100で、ASL法とPC法とが複合されたパルスシーケンスを設定する。ステップST100は、図2の撮像条件設定機能410が行う処理である。
図4は、第1の実施形態で設定するパルスシーケンスを例示する図である。第1の実施形態では、図4に示すように、パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の2種類のパルスシーケンスを使用して、それぞれ独立にMR信号を収集する。このため、第1の実施形態でのMR信号の収集方法を独立2点法と呼ぶものとする。
パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)は、夫々、標識化シーケンスと、収集シーケンスとを有している。図4に示すパルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の夫々の1段目は、RFパルスの印加タイミングとMR信号の収集タイミングを示している。また、パルスシーケンス(A)及びパルスシーケンス(B)の夫々の2段目はZ方向傾斜磁場Gzの印加タイミングを示し、3段目はY方向傾斜磁場Gyの印加タイミングを示し、4段目はX方向傾斜磁場Gxの印加タイミングを示している。
図4に示す例では、スライス方向傾斜磁場Gs、位相エンコード方向傾斜磁場Gp、及びリードアウト方向傾斜磁場Grを、夫々、Gz、Gy、及びGxに対応させているが、Gs、Gp、及びGrは、Gz、Gy、及びGxと独立して設定することもできる。
標識化シーケンスは、流体のスピンの縦磁化の大きさを変えるASL(Arterial Spin Labeling)パルスを含んでいる。ASLパルスには、タグパルスとコントロールパルスの2種類がある。以下、タグパルスとコントロールパルスとを総称して、ASLパルスと呼ぶ。図4に示す例では、パルスシーケンス(A)は、ASLパルスとしてコントロールパルスを有しており、パルスシーケンス(B)は、ASLパルスとしてタグパルスを有している。なお、コントロールパルスとタグパルスは、同じフリップ角を有するものの、その印加領域が互いに異なっている。
標識化シーケンスのASLパルスの印加から所定の待ち時間TI後に、収集シーケンスが印加される。収集シーケンスは、横磁化の位相を流体の速度に応じて変化させる傾斜磁場パルスである速度エンコード(velocity enocode: VENC)パルスを有している。以下、速度エンコードパルスを、VENCパルスと呼ぶ。VENCパルスはFE(Field Echo)法の場合は、図4等に示すように双極性(bipolar)型である。また図示してないが、SE(Spin Echo)法の場合は、同極性(unipolar)の傾斜磁場パルスが、リフォーカスパルス(180°パルス)を挟んで2つ設けられており、この2つの同極性パルスがVENCパルスとなる。VENCパルスは、励起パルスとリードアウト傾斜磁場の間に印加される。
VENCパルスも2つの種類を持っている。第1の種類は、正極の傾斜磁場パルスの後に負極の傾斜磁場パルスが続くものであり、以下、このVENCパルスを正のVENCパルスと呼び、「VENC(+)パルス」と略称する。第2の種類は、負極の傾斜磁場パルスの後に正極の傾斜磁場パルスが続くものであり、以下、このVENCパルスを負のVENCパルスと呼び、「VENC(−)パルス」と略称する。図4に示す例では、パルスシーケンス(A)の収集シーケンスはVENC(+)パルスを有しており、パルスシーケンス(B)の収集シーケンスはVENC(−)パルスを有している。
ASLパルスの種類とVENCパルスの種類の組み合わせは、図4の例に限定されない。2つのパルスシーケンス(A)、(B)のうち、一方のパルスシーケンスが有するASLパルスの種類と、他方のパルスシーケンスが有するASLパルスの種類とが異なればよく、同様に、一方のパルスシーケンスが有するVENCパルスの種類と、他方のパルスシーケンスが有するVENCパルスの種類とが異なればよい。
2つのパルスシーケンス(A)、(B)の収集シーケンスでは、上述したように、VENCパルスの種類が異なるものの、それ以外の傾斜磁場(即ち、スライス選択傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場)及び励起パルスは、パルスシーケンス(A)、(B)の間で同じである。
なお、図4では、図の複雑化を避けるために、1つの位相エンコードに対応する1つの収集シーケンスのみを示しているが、画像を形成するためには複数の位相エンコードが必要となる。
図5は、複数の位相エンコード(PE1、PE2、PE3、PE4・・・)に対応する複数の収集シーケンス(即ち、収集シーケンス群)と、標識化シーケンスとの関係を例示した図である。図5の収集シーケンス群の中の1つのハッチング領域が、図4の収集シーケンスに対応する。
1つの画像を生成するために必要な位相エンコードの数が、例えば128の場合には、収集シーケンス群は128の収集シーケンスを有することになる。この場合、パルスシーケンス(A)、(B)の夫々の待ち時間TIは、ASLパルスの印加から、位相エンコード量がゼロ(即ち、ky=0)に対応する収集シーケンスの印加までの時間となる。
パルスシーケンス(A)及び(B)を複数回繰り返して、1つの画像を生成するためのMR信号を収集してもよい。例えば、パルスシーケンス(A)及び(B)の夫々の収集シーケンス群に32の収集シーケンスを持たせた場合、パルスシーケンス(A)及び(B)を4回繰り返すことによって、画像生成に必要な128の位相エンコード量に対応するMR信号を収集することができる。
図6は、コントロールパルスの印加領域、タグパルスの印加領域、及び撮像領域の印加領域の関係を説明する図である。従来のASL法と同様に、本実施形態のパルスシーケンス(A)、(B)においても、コントロールパルスの印加領域、タグパルスの印加領域、及び撮像領域の印加領域は、EPISTARやASTAR等のSTAR(signal targeting with alternating radiofrequency)系の撮像法と、FAIR(flow-sensitive alternating inversion recovery)系の撮像法とで異なる。
STAR系では、図6(a)に示すように、タグパルスは、撮像領域よりも上流側の領域に印加される。タグパルスの印加によって、撮像領域に流入する血液等の流体の縦磁化の大きさが変化する。即ち、撮像領域に流入する流体が標識される。一方、コントロールパルスは、撮像領域よりも下流側の領域に印加される。コントロールパルスは、MT(magnetic transfer )効果を抑制するためのものであり、流入流体の縦磁化には変化を与えないように印加するのが望ましい。
他方、FAIR系では、図6(b)に示すように、タグパルスは、撮像領域、撮像領域よりも上流側の領域、及び撮像領域よりも下流側の領域を含む領域に印加される。一方、コントロールパルスは、撮像領域とほぼ同じ領域に印加される。
なお、パルスシーケンス(A)、(B)の励起パルスは、STAR系、FAIR系のどちらにおいても、撮像領域に印加される。
図7は、図3のフローチャートのステップST101からステップST105までの処理の概念を示す図である。
図7の左側1列目の処理は図3のステップST101に対応する処理である。ステップST101では、上述した2つのパルスシーケンス(A)、(B)を被検体に印加して、夫々のパルスシーケンスに対応するMR信号を収集する。ステップST101の処理は、図2の収集部600が行う。
図7の左から2列目の処理は図3のステップST102に対応する処理である。ステップST102では、パルスシーケンス(A)、(B)で収集したMR信号を逆フーリエ変換処理等によって再構成して、それぞれ複素画像を生成する。ステップST102の処理は、図2の複素画像生成機能421が行う。
標識化シーケンスにコントロールパルスを含むパルスシーケンス(A)に対応する複素画像をコントロール画像と呼び、標識化シーケンスにタグパルスを含むパルスシーケンス(B)に対応する複素画像をタグ画像と呼ぶものとする。
今、コントロール画像の画素値の振幅をA
contとし、位相をΦ
contとすると、画素値(複素数)S
contは、次の(式1)で表される。
同様に、タグ画像の画素値の振幅をA
tagとし、位相をΦ
tagとすると、画素値(複素数)S
tagは、次の(式2)で表される。
図7の上段3列目の処理は図3のステップST103に対応する処理である。ステップST103では、コントロール画像とタグ画像の夫々の振幅の差分を行って、流体振幅画像を生成する。ステップST103の処理は、図2の流体振幅画像生成機能422が行う。具体的には、コントロール画像とタグ画像の夫々の対応画素の振幅A
contとA
tagとを差分することによって、以下の(式3)で示すように、流体振幅画像の画素値A
flowを算出する。(式3)の差分処理を全ての画素に対して行うことにより、流体振幅画像を生成する。
なお、(式3)は、図8(a)及び(b)タグパルスによって倒された(或いは反転された)縦磁化が正の領域で収集シーケンスが印加される場合に成立する式である。縦磁化が負の領域で収集シーケンスが印加される場合には、(式3)を若干修正する必要がある。詳しくは、図13を用いて後述する。
流体振幅画像の生成の概念を、図8(a)及び(b)、並びに図9(a)を用いてさらに説明する。なお、本実施形態が対象とする流体は、血液の他、CSF等も含むものであるが、以下では、流体が血液であるものとして説明する。
図8(a)の上段は、ASLパルス(タグパルス又はコントロールパルス)の印加タイミングと、励起パルスの印加タイミング及びMR信号の収集タイミングを示す。励起パルスの後にVENC(−)パルス又はVENC(+)パルスが印加されるが、図8(a)では図示を省略している。
図8(a)の下段は、タグパルスのフリップ角が90度よりも大きい場合の縦磁化の変化を実線で示している。タグパルスのフリップ角が90度よりも大きい場合(例えば、フリップ角が180度で、縦磁化を反転させる場合)、タグパルスが印加された領域の血液の縦磁化は、タグパルスの印加直後に負となり、その後縦磁化の回復に伴って正の値に回復していく。
STAR系の撮像法及びFAIR系の撮像法のいずれにおいても、図6に示したようにタグパルスは撮像領域の上流側の領域に印加される。タグパルスが印加された血液、即ち、タグパルスで標識された血液は、撮像領域の上流側の領域から撮像領域に流入してくる。そして、流入血液(inflow blood)の回復途中の縦磁化は、励起パルスによって横磁化に倒されてMR信号となる。したがって、タグパルスで標識された流入血液のMR信号の大きさは、実線で示した縦磁化の大きさに比例したものとなり、タグパルスから励起パルスまでの待ち時間TIに応じて異なる値を示す。
一方、STAR系の撮像法では、タグパルスは撮像領域には印加されない。したがって、タグパルス印加時に撮像領域内に存在する血液、及び撮像領域内の血液以外の実質部(以下、この実質部を背景と呼ぶ)は、タグパルスの印加の影響を受けない。したがって、タグパルスを有するパルスシーケンス(B)で収集されるMR信号から生成されるタグ画像は、タグパルスの印加から待ち時間TI後に撮像領域に流入してくる血液だけが、図8(a)の実線Stagで示すように、タグパルスによる縦磁化の変化を受けたものとなる。
他方、パルスシーケンス(A)に含まれるコントロールパルスは、撮像領域の下流側の領域に印加される。したがって、コントロールパルスの印加時に撮像領域に存在していた血液、及びコントロールパルス印加後に撮像領域に流入してくる血液は、いずれもコントトロールパルスによる縦磁化の変化を受けず、図8(a)に破線Scontで示すように一定の値となる。また、撮像領域内の背景もコントロールパルスの影響を受けない。したがって、コントロール画像とタグ画像とでは、撮像領域内の背景及びコントロールパルスの印加時において撮像領域内に存在する血液は、基本的には同じ振幅を示すことになる。
結果として、コントロール画像の各画素値の振幅と、タグ画像の各画素値の振幅の差分処理によって得られる画像は、タグパルスの印加から待ち時間TI後に撮像領域に流入した血液のみが強調された流体振幅画像となる。即ち、図9(a)に示すように、流体振幅画像では、血液の移動速度をVとした場合、標識された血液が待ち時間TIの間に移動した距離(Z=V*TI)の位置に、標識(タギング)された流入血液の塊(bolus)が描出されることになる。
図8(b)は、タグパルスのフリップ角が90度の場合の縦磁化の変化を示している。タグパルスのフリップ角が90度の場合、タグパルスが印加された領域の血液の縦磁化はゼロとなり、その後縦磁化の回復に伴って正の値に回復していく。この場合であっても、実線で示すタグ画像の流入血液の縦磁化Stagと、破線で示すコントロール画像の血液或いは背景の縦磁化Scontとの間に差を生じさせることが可能である。したがって、図9(a)に示すように、標識(タギング)された流入血液の塊が描出された流体振幅画像を生成することが可能である。
また、タグパルス(或いはコントロールパルス)のフリップ角は、必ずしも180°パルスや、90°パルスである必要はなく、縦磁化の大きさを変化させることができればよく、その意味において、任意のフリップ角に設定することができる。
図7及び図3に戻り、図7の下段3列目の処理は図3のステップST104に対応する処理である。ステップST104では、コントロール画像とタグ画像の夫々の位相の差分を行って、流体位相画像を生成する。ステップST104の処理は、図2の流体位相画像生成機能423が行う。
図4で示したように、第1の実施形態で使用するパルスシーケンスでは(他の実施形態も同様であるが)、収集シーケンスにおいて、励起パルスの後にVENCを有している。このVENCパルス(VENC(+)パルス又はVENC(−)パルス)により、励起パルスで生じた横磁化の位相は血流の速度に応じて変化する。
VENCパルスの傾斜磁場をG(t)、VENCパルスの印加方向(正方向)への血流速度をV(t)、励起パルスからMR信号のピークまでの時間(即ち、エコー時間)をTEとすると、VENCパルスがVENC(−)パルスの場合、横磁化の位相変化量は負方向(時計まわり、数学的には負方向)となり、以下の(式4)で表される。
ここで、γは磁気回転比である。
通常、生体での血流などの速度変化に対してTEは十分短いため、t=TI(n)における計測時の速度がTEの間は維持されると仮定できる。そこで、V(t)=V[TI(n)](nは自然数)とおくと、(式4)は次の(式5)となる。
ここで、
とおくと、(式5)は、さらに(式6)となる。
(式6)は、待ち時間TIが複数の場合の式であるが、図4に示すように、待ち時間TIが1つの場合は、(式6)は、以下の(式7)となる。
一方、VENCパルスがVENC(+)パルスの場合、位相の回転は逆方向(即ち、正方向)となり、この場合の位相変化量は、以下の(式8)で表される。
図8(b)は、VENC(+)パルスに対応するパルスシーケンス(A)で収集される信号から生成したコントロール画像(複素画像)の画素値(複素数)Scontと、VENC(−)パルスに対応するパルスシーケンス(B)で収集される信号から生成したタグ画像(複素画像)の画素値(複素数)Stagの位相関係を示す図である。
ステップST104では、コントロール画像の画素値の位相と、タグ画像の画素値の位相との差分処理を行って流体位相画像を生成する。コントロール画像の画素値の位相をΦcontとし、タグ画像の画素値の位相をΦtagとすると、流体位相画像の位相Φflowは、次の(式9)で表される。
Φflow=(Φcont−Φtag)
=(Φm−(−Φm)=2Φm (式9)
なお、(式9)は、図8(a)及び(b)タグパルスによって倒された(或いは反転された)縦磁化が正の領域で収集シーケンスが印加される場合に成立する式である。縦磁化が負の領域で収集シーケンスが印加される場合には、(式9)を若干修正する必要がある。詳しくは、図13を用いて後述する。
再び図7及び図3に戻り、図7の下段4列目の処理は図3のステップST105に対応する処理である。ステップST105では、上記のように生成した流体位相画像から、流速画像を生成する。具体的には、(式7)〜(式9)から、以下の(式10)、(式10−1)によって流速V[TI]を画素毎に算出する。
2V[TI]=2Φm/M=Φflow/M (式10)
V[TI]=Φm/M=(Φflow/M)/2 (式10−1)
図9(b)は、流速画像の一例を示す図である。(式10)で算出した画素毎の速度を、例えばベクトルの長さに対応させ、そのベクトルを画素毎に配置することで流速画像を生成する。或いは、所定の範囲の画素をグループ化し、グループ内の画素の平均速度に対応するベクトルをグループ毎に配置してもよい。
なお、後述するように、複数の待ち時間TIに対応して複数の複素画像が得られる場合には、TIの番号をnとするとき、(式10)は以下の(式11)となる。
V[TI(n)]=2Φm(n)/M=Φflow(n)/M (式11)
また、図4で示した独立2点法のパルスシーケンスでは、VENC(−)パルス及びVENC(+)パルスの印加はZ方向のみになっている。したがって、(式10)、(式11)で得られる血流の速度はZ方向成分のみとなる。
速度情報を3軸方向のベクトルとして得るためには、VENC(−)パルス及びVENC(+)パルスを、X方向、Y方向、Z方向の各軸に印加する必要があり、そのようなパルスシーケンスは、独立6点法或いはアダマール4点法として、後述する。
上述した独立2点法は、独立6点法或いはアダマール4点法に比べて撮像時間が短いという利点がある。また、人体での主要な血管に走行方向は、基本的に頭足方向(即ち、Z方向)であるため、上述した独立2点法でも有用な場合が多い。
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の処理例を示すフローチャートである。第2の実施形態では、第1の実施形態の処理(図3)に対して、背景位相補正処理(ステップST200)、背景信号抑制処理(ステップST202)、及びベクトル方向補正処理(ステップST203)を追加している。これらの処理は、図2の補正機能425が行う。なお、第2の実施形態の構成は、第1の実施形態の構成(図1及び図2)と同じである。
図11は、ステップST200の背景位相補正処理の概念を示す図である。背景位相補正処理は、静磁場不均一性やMaxwell項に起因する背景位相を求め、この背景位相を、コントロール画像やタグ画像の位相から除去する処理である。具体的には、以下の式でコントロール画像及びタグ画像の背景位相Φbackを算出する。
Φback=arg[Hlow[Scont]] (式12)
Φback=arg[Hlow[Stag]] (式13)
ここで、Hlow[・]は、ローパスフィルタで[・]内の複素数の低周波をカットする、ホモダインフィルタ法等の演算を表わす。また、arg[・]は、[・]内の複素数の位相を求める演算を表わす。
なお、後述する独立6点法や4点法の場合、演算によってベース画像を算出することができる。この場合、算出したベース画像の信号Sbaseを用いて、以下のように背景位相を算出しても良い。
Φback=arg[Hlow[Sbase]] (式14)
算出した背景位相Φbackを用いて、コントロール画像及びタグ画像の夫々の補正後の位相Φcont,cor及びΦtag,cor、を以下の(式15)、(式16)から算出する。
Φcont,cor=Φcont−Φback (式15)
Φtag,cor=Φtag−Φback (式16)
次に、背景信号抑制処理(ステップST202)、及びベクトル方向補正処理(ステップST203)について説明する。
図8に示したように、タグパルスのフリップ角が90°よりも大きい場合、標識された血液のスピンの縦磁化は、負の値から正の値に回復していく。このため、縦磁化がゼロとなる待ち時間(この待ち時間を、TInullと表記する)を境に、血液の縦磁化は負から正に変化する。背景信号抑制処理(ステップST202)、及びベクトル方向補正処理(ステップST203)は、タグパルスのフリップ角が90°よりも大きい場合に適用する処理である。したがって、タグパルスのフリップ角が90°以下の場合には、背景信号抑制処理及びベクトル方向補正処理は不要である。
背景信号抑制処理は、信号振幅のうち、血流部分はあまり変化させずに静止組織部分をゼロ近くに抑制するための処理である。
図12は、背景信号抑制処理の概念を説明する図である。コントロール画像及びタグ画像の複素信号を、それぞれ(式1)、(式2)で表記した場合、背景信号抑制処理は、以下の演算を、コントロール画像及びタグ画像の夫々に対して行う。
Acont,cor=Acont・Hbs(Φ) (式17)
Atag,cor=Atag・Hbs(Φ) (式18)
ここで、Acont,cor及びAtag,corは、背景信号抑制処理後の、コントロール画像及びタグ画像の夫々の振幅である。また、フィルタ関数Hbs(Φ)は、位相がゼロから離れる程ゲインを1に近づけ、位相がゼロに近づくほどゲインを0に近づけるフィルタ関数であり、例えば、以下の(式19)で表される関数である。
Hbs(Φ)=1−Mn (式19)
M=(cosΦ+1)/2
−π<Φ≦+π
n:enhancement factor
図12に、フィルタ関数Hbs(Φ)のグラフを示す。このグラフから判るように、フィルタ関数Hbs(Φ)は、n(enhancement factor)が大きい程、Φ=0の近傍で急峻に減衰する特性となる。
静止組織を減衰させないとすると、縦磁化がゼロとなる待ち時間TInullの近傍で信号振幅の差分処理の符号を反転させるため、差分処理の際に静止組織が強く残る。上記の背景信号抑制処理は、この現象を抑制するためのものである。
他方、ステップST203のベクトル方向補正処理は、待ち時間TInullの前後において、振幅の差分処理の符号、及び位相差分処理の符号を変える処理である。
図13は、ベクトル方向補正処理の概念を説明する図である。振幅の差分処理に関しては、図13(a)に示すように、待ち時間がTInullよりも短い場合は、コントロール画像の振幅とタグ画像の振幅を加算して流体振幅画像の振幅Aflowを算出する。一方、待ち時間がTInull以上の場合はコントロール画像の振幅からタグ画像の振幅を減算して、流体振幅画像の振幅Aflowを算出する。即ち、以下の演算を行う。
Aflow=|Scont|+|Stag|=Acont+Atag (TI<TInull) (式20)
Aflow=|Scont|−|Stag|=Acont−Atag (TI≧TInull) (式21)
一方、位相の差分処理に関しては、図13(b)及び(c)に示すように、待ち時間がTInullよりも短い場合は、タグ画像の位相Φに180°加算して補正した後、コントロール画像の位相と補正後のタグ画像の位相を差分して、流体位相画像の位相Φflowを算出する。一方、待ち時間がTInull以上の場合は、180°加算の補正を行うことなく、コントロール画像の位相とタグ画像の位相をそのまま差分して、流体位相画像の振幅位相Φflowを算出する。即ち、タグ画像の位相Φに対して以下の演算を行って補正後のΦtagを求める。
Φtag=−Φm+π (TI<TInull) (式22)
Φtag=−Φm (TI≧TInull) (式23)
Φflow=(Φcont−Φtag)=2Φm (式24)
(式22)〜(式24)の演算により、血液の縦磁化の符号がTInullを境に変化しても、流体画像の位相Φflowを定量的に正しく求めることができる。
なお、(式20)、(式21)の振幅補正は、正しい定量化を目的とするものではなく、血流と背景のCNR(Contrast to Noise Ratio)を高めることを目的とするものである。したがって、CNRが許容される範囲であれば、(式20)、(式21)の振幅補正を省略することも可能である。この場合、振幅差分処理の符号の反転(加算か減算かによる符号の反転)は、待ち時間TInullの近傍で発生しないため、前述した背景信号抑制処理を省略するも可能である。
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1の実施形態のパルスシーケンスのうち、収集シーケンスの一部を修正したものである。
図14は、第3の実施形態のパルスシーケンスを例示するものである。第3の実施形態においても、収集シーケンスにVENC(+)パルスを有するパルスシーケンス(A)と、VENC(−)パルスを有するパルスシーケンス(B)を用いる。図14では、このうちパルスシーケンス(A)のみを図示している。
第3の実施形態と第1の実施形態との相違点は、第3の実施形態のパルスシーケンスの収集シーケンスでは、第1エコーと第2エコーの2つのMR信号を収集する点にある。第1の実施形態では、収集シーケンスで収集する1つのエコー(即ち、1つのMR信号)から、流体振幅画像と流体位相画像の両方を生成している。これに対して、第3の実施形態では、第1エコーから流体振幅画像を生成し、第2エコーから流体位相画像を生成する。
図14に示すように、第1エコーは、励起パルスの印加後に、VENC(+)パルス(又はVENC(−)パルス)を加えることなく、リフェーズ(rephase)用の傾斜磁場を印加し、その後リードアウト傾斜磁場を印加して収集する。或いは、リフェーズ用傾斜磁場の印加を省略して、励起パルスの印加後に第1エコーを収集してもよい。
いずれの場合にも、第1エコーは、VENC(+)パルス(又はVENC(−)パルス)を印加することなく収集されるため、流体の振幅がVENC(+)パルス(又はVENC(−)パルス)による減衰を受けない。このため、第1エコーから生成した流体振幅画像のSNR(Signal to Noise Ratio)を高めることができる。また、リフェーズ用の傾斜磁場を印加することにより、流体の位相を揃えることが可能となり、SNRをより一層高めることができる。
一方、第2エコーは、第1エコーの収集の後、VENC(+)パルス(又はVENC(−)パルス)を印加し、その後リードアウト傾斜磁場を印加して収集する。第2エコーは、VENC(+)パルス(又はVENC(−)パルス)によって流速に応じた位相変化を受け、第2エコーから流速画像が生成される。
図15は、第3の実施形態の動作概念を説明する図である。流速に応じたリフェーズ用傾斜磁場を付加することにより、図15(a)に示すように、第1エコーから生成されるコントロール画像及びタグ画像の位相を0°又は180°に設定することができる。この結果、コントロール画像及びタグ画像の複素信号は、Rcont、及びRtagで表される実部成分のみとなり、以下のように、流体振幅を得る処理が簡略化される。
Aflow=Re(Scont)+Re(Stag)
=Rcont+Rtag (TI<TInull) (式25)
Aflow=Re(Scont)−Re(Stag)
=Rcont−Rtag (TI≧TInull) (式26)
一方、第2エコーから生成されるコントロール画像及びタグ画像は第1の実施形態と同じであり、図15(b)に示すように、コントロール画像及びタグ画像の夫々の位相から、流速画像の位相を算出する処理も、第1の実施形態と同じである。
(第4の実施形態)
第1の実施形態は、2つのパルスシーケンス(A)及び(B)を使用するため、「独立2点法」と呼んでいる。これに対して、第4の実施形態は、6つのパルスシーケンス(A)〜(F)を使用するものであり、「独立6点法」と呼ぶものとする。
第4の実施形態、及びこれ以降に説明する実施形態では、使用するパルスシーケンスの種類が増えるため、パルスシーケンスの表記や演算が煩雑となる。そこで、パルスシーケンスの表記や演算を簡略化して説明する。図16は、前述した独立2点法を例にとって、これらの略記方法を説明する図である。
独立2点法におけるパルスシーケンス(A)では、標識化シーケンスのASLパルスの種別として「コントロール」パルスを有し、また、収集シーケンスのVENCパルスの種別として、VENC(+)パルスをZ方向にのみ有している。そこで、パルスシーケンス(A)の表記として、図16に示すように、コントロールパルスに対応するラベリング種別(即ち、ASLパルスの種別)として「1」と略記する。また、VENCパルスの方向毎の有無と種類として、X方向及びY方向は「0」、Z方向は「1」と略記する。
同様に、独立2点法におけるパルスシーケンス(B)では、標識化シーケンスのラベリングパルスの種別として「タグ」パルスを有し、また、収集シーケンスのVENCパルスの種別として、VENC(−)パルスをZ方向にのみ有している。そこで、パルスシーケンス(B)の表記として、図16に示すように、タグパルスに対応するラベリング種別として「−1」と略記する。また、VENCパルスの方向毎の有無と種類として、X方向及びY方向は「0」、Z方向は「−1」と略記する。
また、独立2点法において、コントロール画像(パルスシーケンス(A)に基づいて生成される画像)と、タグ画像(パルスシーケンス(A)に基づいて生成される画像)とから、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する演算は、差分処理であるため、この演算を「A−B」と表記する。
そして、この演算によって生成される流体振幅画像の振幅Aflowは、(式20)及び(式21)とから、
Aflow=|Scont|−p|Stag| (式27)
p=−1 (TI<TInull)
p=+1 (TI≧TInull)
である。タグパルスのフリップ角が180°の場合であって、待ち時間TIがゼロに近い場合、(式27)で算出される流体振幅画像の振幅値は、コントロール画像及びタグ画像の夫々の振幅値の2倍となる。そこで、上記の演算で得られる振幅を「2」と略記する。
一方、図13(b)、(c)に示されるように、コントロール画像の位相「Φm」と、タグ画像の位相「−Φm」の差分は、「2Φm」となる。そこで、演算(A−B)後の位相を「2」と略記する。
図17は、第4の実施形態に係る独立6点法の各パルスシーケンスと演算を略記したものである。独立6点法では、パルスシーケンス(A)、(C)、(E)の標識化シーケンスのASLパルスとしてコントロールパルスを使用し(図17の略記では「1」)、パルスシーケンス(B)、(D)、(F)の標識化シーケンスのASLパルスとしてタグパルスを使用する(図17の略記では「−1」)。一方、収集シーケンスに関して、パルスシーケンス(A)及び(B)では、X方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加し、パルスシーケンス(C)及び(D)では、Y方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加し、パルスシーケンス(E)及び(F)では、Z方向にVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを夫々印加する。
そして、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Fに対して、図17の下段に示すように、P=A−B、Q=C−D、及びR=E−Fの演算を行って、流体振幅画像P、Q、及びR、並びに、及び流体位相画像P、Q、及びRを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られる。これにより、流速の3方向成分が得られることになり、流速画像を3次元空間での速度ベクトル分布として表現することが可能となる。
また、S=A+B+C+D+E+F、の演算により、ASLパルスやVENCパルスの影響が相殺されたベース画像を得ることができる。
さらに、P+Q+R(=2+2+2)の演算を行うことにより、独立2点法の流体振幅画像に対して振幅が3倍の流体振幅画像を得ることができる。つまり、独立6点法では、独立2点法の流体振幅画像よりもSNRが√3倍高い流体振幅画像を得ることができる。
(第5の実施形態)
上記のように、独立6点法では、X、Y、及びZの3方向速度成分を得ることができるが、6つのパルスシーケンスを使用するため、撮像時間は独立2点法の3倍となる。第5の実施形態は、VENC(+)パルスとVENC(−)パルスの組み合わせに関してアダマールエンコード(Hadamard Encode)と呼ばれる手法を用いることにより、4つのパルスシーケンスによって、X、Y、及びZの3方向速度成分を得る方法を提供するものである。この手法を、アダマール4点法と呼ぶものとする。
図18は、アダマール4点法による4つのパルスシーケンス(A)〜(D)、及び4つのパルスシーケンス(A)〜(D)で得られた画像A〜Dに対する演算を、前述した略記法で示した図である。
アダマール4点法では、夫々の収集シーケンスにおいて、X、Y、及びZの3方向に同時にVENC(−)パルス又はVENC(+)パルスを有する。
図19及び図20は、アダマール4点法のパルスシーケンスの具体例として、パルスシーケンス(A)とパルスシーケンス(B)を夫々例示する図である。
パルスシーケンス(A)は、図19に示すように、標識化シーケンスはコントロールパルスを有しており(図18の略記では、ラベリング種別が「1」となっていることに相当する)、収集シーケンスは、X、Y、Z方向にそれぞれVENC(+)パルスを有している(図18の略記では、X、Y、Z方向のvenc有無/種別が「1」、「1」、「1」となっていることに相当する)。
ちなみに、「アダマールエンコード」の名称は、「アダマール行列」に由来する。アダマール行列は、要素が「1」または「−1」のいずれかであり、かつ各行が互いに直交であるような正方行列である。図18上段の表の右側を、X〜Z方向を行とし、A〜D方向を列とする3×4の行列とした場合、この行列はアダマール行列の一部となっている。
一方、パルスシーケンス(B)は、図20に示すように、標識化シーケンスはタグパルスを有しており(図18の略記では、ラベリング種別が「−1」となっていることに相当する)、収集シーケンスは、X方向とZ方向にそれぞれVENC(−)パルスを有しており、Y方向にVENC(+)パルスを有している(図18の略記では、X、Z方向のvenc有無/種別が「−1」、Y方向のvenc有無/種別が「1」となっていることに相当する)。
アダマール4点法では、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Dに対して加減算の演算を行って、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する。例えば、図18の下段に示すように、P=A−B+C−D、Q=A+B−C−D、及びR=A−B−C+D演算を行って、流体振幅画像P、Q、及びR、並びに、及び流体位相画像P、Q、及びRを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られる。これにより、独立6点法と同様に、流速の3方向成分が得られることになり、流速画像を3次元空間での速度ベクトル分布として表現することが可能となる。また、流体振幅画像Pから、標識された血液の振幅画像が生成される。
アダマール4点法は独立6点法に比べて、撮像時間が(4/6倍)に短縮される。それにもかかわらず、アダマール4点法における演算後の流速画像におけるX方向、Y方向、及びZ方向の速度成分は、独立6点法に比べてSNRが√2倍に向上する。また、アダマール4点法における演算後の流体振幅画像PのSNRも、独立6点法に比べて√2倍に向上する。
また、S=A+B+C+Dの演算により、ASLパルスやVENCパルスの影響が相殺されたベース画像を得ることができる。
(第6の実施形態)
ここまで説明してきた独立2点法、独立6点法、及びアダマール4点法は、1つの待ち時間TI(ASLパルスから収集シーケンスまでの時間)に対応する流体振幅画像、及び流速画像を生成する方法である。これに対して、以下で説明する各実施形態では、複数の待ち時間に対応した流体振幅画像及び流速画像を生成する手法を提供する。
第6の実施形態の一例は、前述したアダマール4点法の標識化シーケンス内に、複数のASLパルスを設定し、複数の待ち時間TIに対応する流体振幅画像及び流速画像を生成する。この手法を、マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法と呼ぶものとする。
図21は、マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法の4つのパルスシーケンス(A)〜(D)と、各パルスシーケンスで得られた画像A〜Dに対する演算方法を略記したものである。前述した第5の実施形態では、収集シーケンス内のVENC(+)パルスとVENC(−)パルスの組み合わせに関してアダマールエンコード(Hadamard Encode)と呼ばれる手法を用いているが、第6の実施形態では、標識化シーケンス内のコントロールパルス(「1」で略記)とタグパルス(「−1」で略記)の組み合わせに関しても、アダマールエンコードの手法が用いられる。
図22及び図23は、第6の実施形態に係るマルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法のパルスシーケンスの具体例として、パルスシーケンス(A)とパルスシーケンス(B)を夫々例示する図である。
例えば、図22に示すパルスシーケンス(A)では、標識化シーケンス内に4つのコントロールパルスが、夫々異なる待ち時間TI4〜TI1に対応して印加される。
また、図23に示すパルスシーケンス(B)では、標識化シーケンス内において、異なる待ち時間TI4〜TI1に対して、コントロールパルスとタグパルスが交互に4つ印加されている。
マルチラベリング/マルチTI/アダマール4点法でも、第5の実施形態のアダマール4点法と同様に、各パルスシーケンスで収集した画像A〜Dに対して加減算の演算を行って、流体振幅画像及び流体位相画像を生成する。例えば、図21の下段に示すように、P=A−B+C−D、Q=A+B−C−D、R=A−B−C+D、及びS=A+B+C+Dの演算を行って、4つの流体振幅画像P、Q、R、及びS、並びに、4つの流体位相画像P、Q、R、及びSを生成する。
流体位相画像P、Q、及びRから、X方向、Y方向、及びZ方向の速度成分が夫々画素毎に得られ、流速の3方向成分が得られることは、第5の実施形態と同様である。
一方、第6の実施形態では、4つの流体振幅画像のうち、流体振幅画像Pは、待ち時間TI4に対応する流体振幅画像となる。即ち、流体振幅画像Pでは、撮像領域の上流側の領域で標識された血液が、待ち時間TI4の間に撮像領域内に移動し、その移動した位置における標識された血液が強調されて描出される。
同様に、流体振幅画像Q、R、及びSは、待ち時間TI3、TI2,及びTI1に夫々対応する流体振幅画像となる。
図24は、演算後の流体振幅画像P、Q、R、及びSに対応する等価的なパルスシーケンスと、実際に印加されるパルスシーケンスA〜Dの関係を示した図である。
(第6の実施形態の第1の変形例)
上述した各実施形態は、血液のラベリング信号として、所定のフリップ角を有するRFパルスを用いるものとしている。このラベリング方法は、所謂、PASL法と呼ばれる手法である。一方、ラベリング信号として、連続波(CW)を使用する方法もあり、このラベリング方法は、CASL法と呼ばれている。
第6の実施形態の第1の変形例は、上述した第6の実施形態におけるラベリング信号にCASL法を適用したものであり、マルチラベリング/マルチTI/アダマール/CW/4点法と呼ぶものとする。図25は、このマルチラベリング/マルチTI/アダマール/CW/4点法のパルスシーケンス(A)〜(D)と、演算後の流体振幅画像P、Q、R、及びSに対応する等価的なパルスシーケンスとを、図24と同様の対応関係で示したものである。
第6の実施形態の第1の変形例も、第6の実施形態と同様に、4つの待ち時間TI1〜TI4に対応する流体振幅画像と、X方向、Y方向、及びZ方向の流速の3方向成分が得られる。なお、一般に、CASL法は、PASL法に比べて高いSNRが得られるものの、SARの観点からはPASL法よりも不利である。
(第6の実施形態の第2の変形例)
第6の実施形態の第2の変形例では、標識化シーケンス内に設けるASLパルスをさらに8つに増やし、8つの異なる待ち時間TI1〜TI8に対応する流体振幅画像と、X方向、Y方向、及びZ方向の流速の3方向成分を得る手法を提供する。この手法を、マルチラベリング/マルチTI/アダマール8点法と呼ぶ。
図26は、マルチラベリング/マルチTI/アダマール8法の8つのパルスシーケンス(A)〜(H)と、各パルスシーケンスで得られた画像A〜Hに対する演算方法を略記したものである。
図26の下段に示すように、画像A〜Hを加減算することにより、8つの流体振幅画像P〜Wが生成される。8つの流体振幅画像のうち、流体振幅画像Pは、待ち時間TI8に対応する流体振幅画像となる。即ち、流体振幅画像Pでは、撮像領域の上流側の領域で標識された血液が、待ち時間TI8の間に撮像領域内に移動し、その移動した位置における標識化された血液が強調されて描出される。同様に、流体振幅画像Q〜Wは、待ち時間TI7〜TI1に夫々対応する流体振幅画像となる。
それぞれの流体振幅画像における標識された血液の振幅は、演算前の8つの画像の振幅が加算されることなるため、標識された血液のSNRは、独立2点法(第1の実施形態)に比べると、√(8/2)だけ高くなる。
一方、3つの流体位相画像P、Q、Rから、X方向、Y方向、及びZ方向の流速の3方向成分が得られる。流体位相画像P、Q、Rは、待ち時間TIに関してはTI8〜TI6に対応し、長い待ち時間(即ち、遅い時相)に対応する。つまり、図26の枠内に示す「venc有無/種別」のアダマールエンコードは、「遅い時相(late phase)」に対応するものである。
一方、図26の枠外に示す「venc有無/種別」のアダマールエンコードを用いると、3つの流体位相画像T、U、Vから、X方向、Y方向、及びZ方向の流速の3方向成分が得られる。流体位相画像T、U、Vは、待ち時間TIに関してはTI4〜TI2に対応し、短い待ち時間(即ち、早い時相)に対応する。つまり、図26の枠外に示す「venc有無/種別」のアダマールエンコードは「早い時相(early phase)」に対応するものである。
(第6の実施形態の第3の変形例)
図27は、第6の実施形態の第3の変形例の8つのパルスシーケンス(A)〜(H)と、各パルスシーケンスで得られた画像A〜Hに対する演算方法を略記したものである。
図27の下段に示すように、第3の変形例では、8つの画像A〜Hのうち、4つの画像A〜Dを加減算して演算後の画像P〜Sを生成し、4つの画像E〜Hを加減算して演算後の画像T〜Wを生成する。
第3の変形例では、X方向、Y方向、及びZ方向の流速の3方向成分を、流体位相画像P、Q、Rの第1グループと、流体位相画像T、U、Vの第2グループの2つのグループから得ることができる。そこで、第1グループに対応するパルスシーケンス(A)〜(D)におけるVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを、動脈等の速い流速に対応させ、その一方で、第2グループに対応するパルスシーケンス(E)〜(H)におけるVENC(+)パルス及びVENC(−)パルスを、静脈等の遅い流速に対応させるといった設定が可能となる。
第6の実施形態、及びその各変形例では、収集シーケンスにN個(Nは4又は8)のASLパルスを設け、N種の異なる持ち時間TIに対応する流体振幅画像を生成している。収集シーケンスに設けるラベリングパルスの数、及び待ち時間の数は、上述した例に限定されるものではなく、16、32等の2のべき乗の数に増加させることができる。
(第7の実施形態)
図28は、第7の実施形態のパルスシーケンスと、そのパルスシーケンスによる血液の縦磁化の変化、及び位相の変化を示すものである。
第7の実施形態のパルスシーケンスは、図28の一段目に示すように、標識化シーケンスに1つのASLパルス(コントロールパルス又はタグパルス)を設ける一方、標識化シーケンスの後に、複数の収集シーケンスが時系列に設けられている。
ASLパルスに最も近い収集シーケンスが最も短い待ち時間TI1に対応し、ASLパルスから最も遠い収集シーケンスが最も長い待ち時間TI(N)に対応する。図28に示す例では、それぞれの収集シーケンスによって、待ち時間TI1〜TI(N)のそれぞれに対応するN個の流体振幅画像を生成するためのMR信号が収集される。
また、各収集シーケンスは、VENC(+)パルス又はVENC(−)パルスを有しており、各収集シーケンスで収集したMR信号から流体位相画像を生成することができる。また、各収集シーケンスは、それぞれが、図5に示した収集シーケンス群であるとしてもよい。この場合、異なる待ち時間TI1〜TI(N)に対応して収集シーケンス群が設けられることになる。そして、それぞれの収集シーケンス群には、画像の全部又は一部を生成するための複数の位相エンコードにそれぞれ対応する複数の収集シーケンスが設けられている。
図28の二段目は、第7の実施形態のパルスシーケンスのタグパルスによって変化する、血液の縦磁化の変化を示す図である。前述したように、タグパルスのフリップ角が90°よりも大きい場合は、流体振幅画像を生成する際に、(式27)の処理が行われる。
待ち時間TI1〜TI8に対応するそれぞれの流体振幅画像では、撮像領域の上流側の領域で標識された血液が、待ち時間TI1〜TI8の間に撮像領域内に移動し、その移動した各位置において標識血液が強調されて描出される。
図28の三段目は、第7の実施形態のパルスシーケンスのVENC(−)パルス又はVENC(−)パルスによって変化する、位相の動きを示したものである。血流の速度が一定の場合は、流体位相画像の相Φmの値は待ち時間の値に関わらず一定となる。
図29の三段目、及び四段目の図は、血流の速度が非定常の場合における血流速度、及び位相変化を例示する図である。なお、図29の一段目及び二段目の図は、図28の一段目及び二段目と同じである。
血流速度が非定常の場合、例えば、R波に同期して血流速度が変化する場合、ASLパルスをR波に同期して印加してもよい。この場合、待ち時間TIの長さに応じて流速が変化するため、流体位相画像の相Φmの値、待ち時間の値に応じて異なる値を示すことになる。
(第8の実施形態)
第1乃至第7の実施形態は、コントロールパルスを含むパルスシーケンスから生成したコントロール画像と、タグパルスを含むパルスシーケンスから生成したタグ画像の2種類の画像を差分演算して、或いは加減算の演算をして、流体振幅画像と流体位相画像とを生成している。これに対して、第8の実施形態では、タグ画像、又は、コントロール画像の一方のみの画像から流体振幅画像と流体位相画像とを生成する。この意味で、第8の実施形態は、1点法に該当する。
図30は、STAR系の撮像法において、タグパルスを有する1つのパルスシーケンス(A)のみから流体振幅画像と流体位相画像とを生成する処理の概念を示す図である。図30(a)に示すように、タグパルスは、撮像領域の上流側の領域に印加される。また、図30(b)に示すように、パルスシーケンス(A)は、1つのタグパルスに続いて、複数の異なる待ち時間TIに対応する複数の収集シーケンスを有する。
コントロール画像が存在しないため、標識流体の振幅画像は、タグ画像の静止部とのコントラスト差として描出されることになる。
ところで、待ち時間が長い収集シーケンスでは、血液の縦磁化が十分に回復すると考えられる。今、待ち時間が最大の収集シーケンスに対応する画像の信号をStag(TImax)と表記すると、このStag(TImax)を、コントロール画像の信号の代わりに使用することができる。そこで、1点法では、以下の(式28)から、流体振幅Aflowを算出することができる。
Aflow=|Stag(TImax)|−p|Stag(TI)| (式28)
p=−1 (TI<TInull)
p=+1 (TI≧TInull)
一方、流体位相Φmは、図30(b)に示すように、背景位相補正後の背景位相(位相がゼロに補正される)との差分から求めることができる。
また、1点法の場合のVENCパルスは、図30(d)に略記するように、Z方向にVENC(−)パルスを有する。
図31は、FAIR系の撮像法において、コントロールパルスを有する1つのパルスシーケンス(A)のみから流体振幅画像と流体位相画像とを生成する処理の概念を示す図である。図31(a)に示すように、コントロールパルスは、撮像領域とほぼ同じ領域に印加される。また、図30(b)に示すように、パルスシーケンス(A)は、1つのコントロールパルスに続いて、複数の異なる待ち時間TIに対応する複数の収集シーケンスを有する。
コントロールパルスの印加時に撮像領域内に存在していた血液の信号Scont(TI)は、図30(b)下段に実線で示すような縦磁化の変化を示す。また、撮像領域内の背景静止部の信号Sbackも、図30(b)下段に一点鎖線で示すような縦磁化の変化を示す。
一方、撮像領域内に流入してくる血液の信号Sinflowは、コントロールパルスが印加されてないため、図30(b)下段に点線で示すように、一定値となり、時間的に変化しない。
そこで、FAIR法の点法では、以下の(式29)から、流体振幅Aflowを算出することができる。
Aflow=|Sinflow|−p|Scont(TI)| (式29)
p=−1 (TI<TInull)
p=+1 (TI≧TInull)
一方、流体位相Φmは、図31(c)に示すように、背景位相補正後の背景位相(位相がゼロに補正される)との差分から求めることができる。
また、FAIR法の1点法の場合のVENCパルスは、図31(d)に略記するように、Z方向にVENC(+)パルスを有する。
以上説明してきたように、各実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、ASL法とPC法の両方の利点を、短い撮像時間で、且つ、同一撮像対象に対して得ることができる。
なお、各実施形態の記載における撮像条件設定機能は、特許請求の範囲の記載における設定部の一例である。また、各実施形態の記載における画像生成機能は、特許請求の範囲の記載における生成部の一例である。また、各実施形態の記載における、流体位相画像、或いは流速画像は、特許請求の範囲の記載における位相画像の一例である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。