JP2018040482A - スラスト型球軸受の軌道面作製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】鍛造時に転動溝の表面近傍に圧縮の静水圧応力場を形成し、転動溝底の表面近傍に存在する介在物周りの空隙を減少させ、短時間で転動軌道表面近傍の介在物周りの空隙を減少させる、スラスト型玉軸受の軌道面作製方法を提示すること。【解決手段】オーステナイトを主相とする円環状のワークを用いる。鍛造時の加熱温度T1(℃)と円環状の凸型を有する金型の押し込み量D(mm)とが特定の関係を満足するように、ワークに対して前記金型を押し付けることにより、転動溝を形成する。次いで、上記転動溝が形成されたワークの組織をマルテンサイト主体の組織とする。【選択図】図5

Description

本発明は、鉄鋼、製紙、風力発電及び鉱山等で用いられる各種機械及び各種工作機械、並びに自動車及び鉄道車両等、の部品として、高負荷での過酷な条件下で好適に使用可能なスラスト型球軸受の軌道面作製方法に関する。
鉄鋼、製紙、風力発電及び鉱山等の各分野で用いられる各種機械等、並びに、自動車及び鉄道車両には、各種の玉軸受が利用されている。これらの玉軸受は、高負荷での過酷な条件下で使用されることから、局所的に亀裂が発生するおそれがある。
通常、軸受の破壊は、表面直下50〜200μmに存在する硬質介在物を起点として疲労亀裂が進展して表面に至り、鋼材表面が剥離するという現象によることが多い。この現象は、軸受の素材となる棒鋼を圧延する際に、母相である鋼の変形量と硬質介在物の変形量が異なるために硬質介在物周りに空隙が生じ、この空隙が転動時に応力集中を呼び、疲労亀裂発生の起点となることが原因である。
亀裂発生の抑制による転動疲労寿命向上のためには、大きく分けて2つの方法、即ち硬質介在物の数を減らす方法と、硬質介在物周りの空隙を減らす方法と、が有効である。特に、後者の硬質介在物周りの空隙を減らす方法としては、硬質介在物の径を小さくし棒鋼圧延時に生成する空隙自体を小さくする方法や、静水圧応力を掛けて硬質介在物周りに生じた空隙を押し潰す方法が知られている。
静水圧応力により介在物周りの空隙を減らす方法は、特許文献1及び特許文献2に開示されている。特許文献1は、HIPにより硬質介在物周りの空隙を減少させる技術である。これに対し、特許文献2は、転動部を有する機械部品を冷鍛成形し、冷鍛時に発生する静水圧応力により介在物と母材と間の空隙を減少させる技術である。
特許第5403945号公報 特許第5669128号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、空隙を押し潰すのに要する時間が鉄原子の自己拡散律速であるため高温で長時間保持する必要がある。また、特許文献2に記載の技術は、冷間での鍛造を採用しているため、母相の変形抵抗が高く弾性限も高いことから、空隙を押し潰すことは困難で、更に冷鍛時に割れが発生するおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高温で長時間保持する必要がないスラスト型玉軸受の軌道面作製方法であって、高負荷で使用されるような過酷な条件下でも好適に使用可能なスラスト型玉軸受の軌道面作製方法を提示することを目的とする。
軸受の疲労亀裂は、転動球と接触する母相表面から母相内のヘルツ応力が最大となる表面下200μm以下の表面近傍位置までの極めて狭い領域で発生する。この領域において介在物と母相との密着性が高まれば、転動寿命は向上する。逆に言えば、上記領域外で介在物と母相との間に空隙があったとしても、転動寿命に影響はない。
図1は、厚さ5mmのワーク(金属平板)に円環状の凸部(該金属平板との接触部の断面形状は円弧状)を備える金型を押し付けた際に生ずる静水圧応力の分布を示す模式図である。同図から明らかなように、スラスト型軸受の転動溝を熱間鍛造により作製した場合を模擬して、平板に円環状の凸部を有する金型を押し付けると、金型が下死点にある時に、金型によって形成された母材凹みの部分近傍に、強い圧縮の静水圧場が形成される。この圧縮の静水圧場は、通常の熱間静水圧プレスによって得られる静水圧応力200MPaに比べ大きく、また軸受疲労亀裂発生領域(金属平板の表面直下50〜200μmの領域)を十分にカバーしている。
このような事実を前提に、本発明者らは、熱間鍛造時の静水圧応力を利用し、介在物と母相界面との間に存在する空隙を押し潰すことができないか検討した。
熱間鍛造時に母相に形成される圧縮静水圧応力場は、母相表面からの距離、円環状凸部を有する金型の圧下量、及び鍛造温度に依存する。図2は、3/8inch転動球に対応する軌道面を作製するにあたり、840℃に加熱したワークに金型を0.5mm押し込んだ際の静水圧応力と、ワークに形成される凹溝中心表面からの距離と、の関係を示すグラフである。なお、図2におけるワークは、内径φ25mm、外径φ52mm、及び厚さ5mmの穴空き円盤状である。また、同図における金型は、曲率半径が4.76mmであって、円環状凸部芯の半径が19.25mmである凸部を備える。図2から明らかなように、ワーク表面に近い方が圧縮の静水圧応力は大きい。図3は、図2において使用したワーク及び金型について、図2における条件と同じ鍛造温度条件で、圧下量を変えた場合の、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力と圧下量との関係を示すグラフである。図4は、図2において使用したワーク及び金型について、図2における条件と同じ圧下量で、鍛造温度条件を変えた場合の、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力と鍛造温度との関係を示すグラフである。図3から明らかなように、静水圧応力は圧下量にほぼ比例して増加する。また、図4から明らかなように、鍛造温度が高くなると静水圧応力は減少する。
本発明者らは、図3及び図4の結果を基に、熱間鍛造時の静水圧応力を利用し、介在物と母相界面との間に存在する空隙を押し潰すことができる条件を、さらに詳細に検討した。鍛造による静水圧応力の上昇は一瞬であるため、介在物と母相が密着するためには200MPa以上の圧縮静水圧応力が必要となる。しかしながら、図3における押し込み量が0.28mm以上で、かつ、図4における鍛造温度が940℃以下の場合であっても、ワーク表面から200μm位置での圧縮静水圧応力が200MPa未満となる場合があることを確認した。
図5は、鍛造温度(鍛造時の加熱温度)と押し込み量とをそれぞれ変動させた場合に、ワーク表面から200μm位置での圧縮静水圧応力が200MPa以上となる領域を示す図である。同図中、色付き部分が、当該圧縮静水圧応力が200MPa以上となる領域である。同図によれば、押し込み量が0.28mm以上で、かつ、鍛造温度が940℃以下の場合であっても、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力が200MPa未満となる領域がある。このため、当該圧縮静水圧応力が200MPa以上となるように、鍛造温度と押し込み量とを設定するにあたり、図3及び図4の結果を単に加算して条件設定するよりも、図5の結果を用いる方が好ましいことが判る。
本発明は、上記知見に基づいでなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
[1]オーステナイトを主相とする円環状のワークを用いた、スラスト型玉軸受の軌道面作製方法であって、
鍛造時の鍛造温度T(℃)と円環状の凸型を有する金型の押し込み量D(mm)とが下記式を満足するように、ワークに対して前記金型を押し付けて、転動溝を形成する鍛造工程と、
上記転動溝が形成されたワークの組織をマルテンサイト主体の組織とするマルテンサイト生成工程と、
を含むことを特徴とする、スラスト型球軸受の軌道面作製方法。
<−400D+752D+664 (1)
[2]上記マルテンサイト生成工程が、ダイレクトクエンチである、上記[1]に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
[3]上記マルテンサイト生成工程が、徐冷と焼き入れ焼き戻しとからなる、上記[1]に記載の軌道面作製方法。
[4]上記マルテンサイト生成工程が、ダイクエンチである、上記[1]に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
[5]鍛造時の加熱温度T(℃)とダイクエンチ終了温度T(℃)と鍛造時の加熱時間t(hr)が下記式を満足するように、ダイクエンチを行う、上記[4]に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
<4.17×10−3 −8.18T−15.7log10(t)−2.98×10/t/T+4142 (2)
[6]ワークの温度を840℃以下として、転動溝を形成する、上記[1]から[5]のいずれか1つに記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
[7]圧下量が0.4mm以上となるように、上記転動溝を形成する、上記[1]から[6]のいずれか1つに記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
本発明に係るスラスト型玉軸受の軌道面作製方法では、金型の圧下量と鍛造温度との関係に改良を加えている。その結果、本発明によれば、高温で長時間保持する必要がなくスラスト型玉軸受の軌道面を作製することができる。また、本発明によれば、軌道面直下において介在物と母材間との間の空隙を押し潰して、介在物と母相とを密着させることができるため、玉軸受を高負荷条件下でも好適に使用することができ、ひいてはその長寿命化を図ることができる。
図1は、厚さ5mmのワーク(金属平板)に円環状の凸部(該金属平板との接触部の断面形状は円弧状)を備える金型を押し付けた際に生ずる静水圧応力の分布を示す模式図である。 図2は、3/8inch転動球に対応する軌道面を作製するにあたり、840℃に加熱したワークに金型を押し付けた際の静水圧応力と、ワーク表面からの距離と、の関係を示すグラフである。 図3は、図2において使用したワーク及び金型について、図2における条件と同じ鍛造温度条件で、圧下量を変えた場合の、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力と圧下量(押し込み量)との関係を示すグラフである。 図4は、図2において使用したワーク及び金型について、図2における条件と同じ圧下量で、鍛造温度条件を変えた場合の、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力と鍛造温度との関係を示すグラフである。 図5は、鍛造温度と押し込み量とをそれぞれ変動させた場合に、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力が200MPa以上となる領域を示す図である。 図6は、転動疲労試験の結果(累積破損確率(%)と寿命(繰り返し数)との関係)を示すグラフである。
以下に、本発明に係るスラスト型玉軸受の軌道面作製方法の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)を説明する。なお、本実施形態は、本発明を限定するものではない。また、本実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、本実施形態に含まれる各種形態(例えば、好ましい形態)は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
本実施形態に係るスラスト型球軸受の軌道面作製方法は、オーステナイトを主相とする円環状のワークを用いた、軌道面作製方法である。なお、本実施形態に係る軌道面作製方法は、スラスト型玉軸受を念頭に置いているため、スラスト玉軸受の一般的な構成要素のうち、内輪に相当する軸軌道盤、及び外輪に相当するハウジング軌道盤、に対して、軌道面を作製する方法である。ここで、オーステナイトを主相とするとは、ワークの組織のうちオーステナイトが最も多く含まれることを意味する。
ワークは、一般的な鋼に含まれる成分であればいかなる成分をも含むことができる。即ち、ワークは、例えば、Fe、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Al、O、及び不可避的不純物を含むことができ、これら元素の成分組成範囲は特に限定されない。ここで、不可避的不純物とは、ワークを工業的に製造する際に、原料としての鉱石又はスクラップに含まれ得る成分、或いは、製造環境などに起因して混入され得る成分であって、意図的に加えられていない成分を意味する。これに対し、ワークの組織は、オーステナイトが最も多く、残部がフェライト及び各種炭化物(介在物)からなる。
また、ワークは、スラスト型玉軸受の軸軌道盤或いはハウジング軌道盤に加工されるものであるため、円環状をなす。なお、軸軌道盤についてもハウジング軌道盤についても、以下の説明においては同じ操作で軌道面が形成される。
このような前提の下、本実施形態のスラスト玉軸受の軌道面作製方法においては、以下に示す(A)鍛造工程と、(B)マルテンサイト生成工程とを含む。
(A)鍛造工程
鍛造工程では、鍛造温度T(℃)と円環状の凸型を有する金型の押し込み量D(mm)とが下記式を満足するように、ワークに対して前記金型を押し付けて、転動溝を形成する。
<−400D+752D+664 (3)
金型は、スラスト型玉軸受の軸軌道盤及びハウジング軌道盤のそれぞれに、軌道面を形成するために好適な形状となっていればよい。具体的には、金型の構成要素である凸部が、上記両軌道盤の幅方向中央部において両軌道盤の周方向に連続的に当接できるような形状となっていればその他の形状はとくに限定されない。
上記式は図5に示す色付き部を示し、この領域においては、ワーク表面から200μm位置での静水圧応力が200MPa以上となり、介在物と母相との密着性が高まり、転動寿命が向上する。
ワークの加熱温度については、後述するマルテンサイト生成工程を考慮すれば、鋼のA変態温度以上の温度であることが、マルテンサイト生成工程において鍛造後にワークの温度を上昇させることなくマルテンサイト工程を実施することができる点で好ましい。なお、本実施形態における鍛造は、ホットプレス、温間鍛造、熱間鍛造、及び亜熱間鍛造のいずれをも含む概念であり、幅広い鍛造分野において適用され得る技術である。
これに対し、鍛造温度が940℃を超えると鋼材であるワークの変形抵抗が過度に小さくなり、鍛造時に発生する圧縮静水圧応力も過度に小さくなる。具体的には、鍛造温度を940℃超とすると、圧縮静水圧応力が200MPa未満となる場合があり、硬質介在物周りの空隙が十分に潰れず、硬質介在物が母相に密着しない場合がある。このため、鍛造温度は940℃以下とすることが好ましい。なお、鍛造温度を840℃以下とすると、硬質介在物周りの空隙がさらに潰れて、硬質介在物が母相にさらに高度に密着するため、さらに好ましい。
また、ワークに対して金型を押し付ける際の圧下量については、大きいほど静水圧応力が高まり、空隙を潰すことで介在物を母相と確実に密着させることができる。具体的には、0.27mm未満の圧下量では圧縮静水圧応力が200MPa未満となる場合があり、空隙が残存して介在物を母相に密着しない場合がある。このため、圧下量は0.27mm以上とすることが好ましい。なお、圧下量を0.4mm以上とすると、介在物が母相にさらに高度に密着するため、さらに好ましい。
このように、鍛造工程では、鍛造温度と圧下量との関係を好適な範囲に限定することで、硬質介在物周りの空隙を確実に潰し、さらには当該介在物を母相に密着させることができる。
(B)マルテンサイト生成工程
次に、マルテンサイト生成工程では、上記のように転動溝が形成されたワークの組織をマルテンサイト主体の組織とする。ここで、マルテンサイト主体の組織とは、ワークの組織のうちマルテンサイトが最も多く含まれる組織を意味する。
マルテンサイト生成工程としては、(1)ダイレクトクエンチ、(2)徐冷及び焼き入れ焼き戻し、並びに(3)ダイクエンチ等を採用することができる。なお、徐冷後の焼き入れ焼き戻しにより、ワークの強度確保及び焼割れ防止を図ることができる。
ここで、徐冷とは、鍛造後のワークを例えば空冷することが含まれる。また、ダイレクトクエンチとは、鍛造後のワークが熱いうち(変態が始まる前)に水や油で焼き入れる熱処理方法であれば、いかなる熱処理方法も含む概念である。また、ダイクエンチとは、鍛造後、ワークに金型を押し当てたままワークを抜熱する熱処理方法であれば、いかなる熱処理方法も含む概念である。
特にダイクエンチを採用した場合には、以下の利点がある。即ち、鍛造後、金型を下死点で停止させ、ワークに押し付けたまま冷却すると、ワークの金型と接触した面は金型により抜熱急冷され、ワークに形成された軌道面付近は80%以上がマルテンサイトとなる。このようなダイクエンチにより、熱処理歪が軽減され、母相は静水圧応力が掛けられたままの状態で、オーステナイトからマルテンサイトに変態する。従って、変態時に変態塑性が生じ、硬質介在物周りの空隙がより高いレベルで減少し、母相と硬質介在物との間の密着性が極めて向上する。
ここで、鍛造時の加熱温度T(℃)とダイクエンチ終了温度T(℃)と鍛造時の加熱時間t(hr)が下記式を満足するように、ダイクエンチを行うことが好ましい。
<4.17×10−3 −8.18T−15.7log10(t)−2.98×10/t/T+4142 (4)
上記式を満たすようにダイクエンチを行うことで、マルテンサイト変態開始温度以下の温度にまでワークが急冷されることにより、ワークに形成された軌道面付近は85%以上がマルテンサイトとなる。これにより、変態時に変態塑性がさらに生じ、硬質介在物周りの空隙が著しく高いレベルで減少し、母相と硬質介在物との間の密着性がさらに向上する。
なお、ワークとして高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)を用いた場合、鍛造時のワークが930℃で1時間の加熱であればマルテンサイト変態開始温度(Ms点)は150℃程度であり、840℃で1時間の加熱であればMs点は230℃程度となる。これは加熱温度が高いほど球状化セメンタイトが固溶して母相の炭素濃度が増加し、マルテンサイト変態温度が低下することが原因である。このため、耐摩耗性の観点からワークの加熱温度を840℃以下として、球状化セメンタイトの固溶が少ない状態で転動溝を形成することが好ましい。特に、ダイクエンチを採用する場合には、金型温度を100℃以下に保持する必要があり、鍛造、ダイクエンチを繰り返す場合には、金型を水冷する必要がある。
また、ダイレクトクエンチを採用する場合、徐冷と焼き入れ焼き戻しを採用する場合、及びダイクエンチを採用する場合のいずれについても、ワークの組織がマルテンサイト主体の組織となった後に、鍛造加工部位の表面に対してラッピング加工を施すことで、当該表面の粗度を調整することが好ましい。
以上に示した本実施形態のスラスト型玉軸受の軌道面作製方法では、鍛造という圧縮静水圧応力の上昇が一瞬にして実現される状況下において、玉軸受の軌道面を作製することができる。従って、本実施形態の方法によれば、従来のように鋼材を高温で長時間保持する必要がないため、当該軌道面を迅速に作製することができる。
また、本実施形態のスラスト型玉軸受の軌道面作製方法では、鍛造温度と圧下量との関係に関する限定に起因して、硬質介在物周りの空隙を確実に潰し、さらには当該介在物を母相に密着させることができる。従って、本実施形態の方法によれば、玉軸受を高負荷条件下でも好適に使用することができ、ひいてはその長寿命化を図ることができる。
以下に、実施例によって本発明の効果を実証する。
表1の化学成分(単位は質量%)を有し、残部がFe及び不可避的不純物であるφ60のSUJ2丸棒圧延材を、球状化焼鈍し、外径52mm、内径72.2mm、厚さ5.5mmの試験片(ワーク)を切り出した。
次に、このようにして得られたワークを鍛造した。鍛造は、鍛造試験機(負荷能力6000kN:AIDA製)を用い、凸部(曲率半径Rが4.76mmの円弧断面を有し、かつ環状である)を備える超硬(材質RF06)の上金型と、平板状の下金型とを用いて、ワークに軌道面(転動溝)を成形した。その後、ワークを室温まで冷却した。ワークの鍛造条件及び冷却条件を表2に示す。
水準1、2、4〜10は、鍛造時に上金型を下死点で保持し、ワークをダイクエンチ終了温度まで冷却した(ダイクエンチ)後、160℃で1.5時間の焼戻し熱処理を行った。なお、水準6、9については、0.3mmの溝を切削加工により作製し、鍛造時の圧下量を0.3mmとすることにより、最終形状の溝深さを他の水準と同じ0.6mmとなるようにした。同様に水準7、8については、0.15mmの溝を切削加工により作成し、鍛造時の圧下量を0.45mmとすることにより、最終形状の溝深さを他の水準と同じ0.6mmとなるようにした。
水準3は、鍛造後ワークを空冷により室温まで冷却した後、840℃で30分加熱して60℃の油で焼入れ熱処理をし、さらに160℃で1.5時間の焼戻し熱処理を行った。水準4は、鍛造後ワークを60℃の油に浸漬して冷却した後、160℃で1.5時間の焼戻し熱処理を行った。
いずれのワークも各々10枚ずつ作製し、仕上げ加工として転動溝をラッピング加工し、スラスト型転動疲労試験を行った。
水準4については、10枚中2枚に反りが生じたていたため、水準4の転動疲労試験は8枚で行った。
転動疲労試験の条件は、3/8inch径のSi製転動球を3球用い、荷重8.5kNで行った。転動疲労試験は1.5×10サイクルを耐久とした。その結果を図6に示す。
図6から明らかなように、鍛造温度と圧下量の関係を本願所定の範囲とした水準1〜7のワークについては、いわゆるワイブル値(例えば、L50寿命及びL10寿命)が優れた値を示している。これは、水準1〜7については、軌道面直下において介在物と母材間とを密着させることができ、玉軸受を高負荷条件下でも好適に使用することができるためである。
これに対し、鍛造温度又は圧下量が本願所定の範囲内にない水準8、9については、上記ワイブル値が優れた値を示していない。これは、水準8、9については、軌道面直下において介在物と母材間とを密着させることが不十分で、玉軸受を高負荷条件下で好適に使用するには至っていないためである。
一方、水準10ではダイクエンチ終了温度が高く、ワークに形成された軌道面付近のマルテンサイト分率が不十分であったため、疲労寿命が低下している。

Claims (7)

  1. オーステナイトを主相とする円環状のワークを用いた、スラスト型玉軸受の軌道面作製方法であって、
    鍛造時の鍛造温度T(℃)と円環状の凸型を有する金型の押し込み量D(mm)とが下記式を満足するように、ワークに対して前記金型を押し付けて、転動溝を形成する鍛造工程と、
    前記転動溝が形成されたワークの組織をマルテンサイト主体の組織とするマルテンサイト生成工程と、
    を含むことを特徴とする、スラスト型球軸受の軌道面作製方法。
    <−400D+752D+664 (1)
  2. 前記マルテンサイト生成工程が、ダイレクトクエンチである、請求項1に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
  3. 前記マルテンサイト生成工程が、徐冷と焼き入れ焼き戻しとからなる、請求項1に記載の軌道面作製方法。
  4. 前記マルテンサイト生成工程が、ダイクエンチである、請求項1に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
  5. 鍛造時の加熱温度T(℃)とダイクエンチ終了温度T(℃)と鍛造時の加熱時間t(hr)が下記式を満足するように、ダイクエンチを行う、請求項4に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
    <4.17×10−3 −8.18T−15.7log10(t)−2.98×10/t/T+4142 (2)
  6. ワークの温度を840℃以下として、転動溝を形成する、請求項1から5のいずれか1項に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
  7. 圧下量が0.4mm以上となるように、前記転動溝を形成する、請求項1から6のいずれか1項に記載のスラスト型球軸受の軌道面作製方法。
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