JP2018038256A - ゲルアクチュエータ - Google Patents

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Abstract

【課題】 柔軟性に優れるとともに、小型・軽量化が可能なソフトアクチュエータとして利用することができるゲルシート素子及びゲルアクチュエータを提供する。
【解決手段】 誘電材料からなるゲルシート10と、該ゲルシート10の両面に、ゲルシート10を厚さ方向に挟む配置に設けられた柔軟電極20a、20bとを備え、前記ゲルシート10が、前記一対の柔軟電極20a、20b間に電圧を印加した際にクリープ変形する誘電材料からなり、前記ゲルシート10が厚さ方向に積層され、ゲルシート10を厚さ方向に挟む配置に前記柔軟電極20a、20bが設けられた積層構造に形成されていることを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明はゲルアクチュエータに関し、より詳細には柔軟性を有する電極を備えるゲルアクチュエータに関する。
本発明者は、ポリ塩化ビニル(PVC)等の誘電材料を利用したゲルアクチュエータについて提案してきた(特許文献1、2、3等)。図12に示すゲルアクチュエータは、メッシュ状の陽極5と平板状の陰極6とでゲルシート7を厚さ方向に挟む構造としたものである。電極間に電圧を印加すると陽極5のメッシュの網目内にゲルが引き込まれて厚さ方向に収縮し、電圧の印加を解除するとゲルシート7が元の状態に復帰する。電圧の印加をON-OFFすることにより厚さ方向に変位する作用は、ゲルのクリープ現象によるものである。
特開2012−130201号公報 特開2012−161221号公報 特開2015−115992号公報 特開2011−103713号公報
PVCゲルを用いたアクチュエータは、大気中での安定的な駆動が可能であり、高出力と良い応答性を備え、低消費電力であるという利点を有し、ソフトアクチュエータとして利用することができる。
しかしながら、従来のゲルアクチュエータは陽極に用いるメッシュが金属メッシュであり、陰極が金属膜であることから、積層構造としたゲルアクチュエータは厚さ方向には収縮するものの、平面方向には拡縮せず、柔軟性と小型、軽量化の点での課題を有する。
本発明は、柔軟性に優れるとともに、小型・軽量化が可能なソフトアクチュエータとして利用することができる新規な構成を備えるゲルアクチュエータを提供することを目的とする。
本発明に係るゲルアクチュエータは、誘電材料からなるゲルシートと、該ゲルシートの両面に、ゲルシートを厚さ方向に挟む配置に設けられた柔軟電極とを備え、前記ゲルシートが、前記一対の柔軟電極間に電圧を印加した際にクリープ変形する誘電材料からなり、前記ゲルシートが厚さ方向に積層され、ゲルシートを厚さ方向に挟む配置に前記柔軟電極が設けられた積層構造に形成されていることを特徴とする。
ゲルシートに用いる誘電材料には、電圧を印加した際にクリープ変形する特性を有するものを使用する。クリープ変形とは、ゲルに電圧を印加した際にゲルが陽極側に引き寄せられる作用である。
クリープ作用を生じる誘電体材料には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン6、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等がある。これらの誘電材料のうち、ポリ塩化ビニルは比較的クリープ作用が強く、低廉で、耐久性が高いことから、ゲルアクチュエータのゲルシートに好適に用いることができる。
ゲルシートは、これらの誘電材料と可塑剤とをテトラヒドロフラン(THF)等の溶媒を用いて混合し、混合液をシャーレにキャストし、溶媒を蒸発させて作製することができる。
可塑剤としては、ジメチルアセトアミド(DMA)、セバシン酸ジエステル(DESuc)、ジエタノールアミン(DEA)、アジピン酸ジブチル(DBA)、セバシン酸ビス(DOS)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ビス(DEHP)、コハク酸ジエチル(DESuc)、アジピン酸ジメチル(DMA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジブチル(DBSeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)等を用いることができる。これら可塑剤のうちアジピン酸ジブチル(DBA)が好適に用いられ、可塑剤の組成比を調節することによりゲルシートを柔らかさを調節することができる。
ゲルシートの表面に設ける柔軟電極には、伸縮性と導電性を有する電極材料(導電材料)を使用する。柔軟電極を形成する導電材料はとくには限定されないが、柔軟性を有する導電材料として、たとえば導電グリース、導電ゲル、導電エラストマー(エラストマー中に金属微粒子等の導電材料を分散させたもの等)、導電性高分子等が用いられる。
ゲルアクチュエータは、前記ゲルシートが厚さ方向に積層され、ゲルシートを厚さ方向に挟む配置に前記柔軟電極が設けられた積層構造に形成する。前記柔軟電極は、厚さ方向に交互に陽極と陰極になるように電源に接続される。
ゲルアクチュエータには、陽極となる一方の柔軟電極を一括して電気的に接続する第1の接続配線と、陰極となる他方の柔軟電極を一括して電気的に接続する第2の接続配線を備えることにより、ゲルアクチュエータを構成する柔軟電極を一括して陽極あるいは陰極として電源に接続して駆動することができる。
本発明に係るゲルアクチュエータは、ゲルシートの両面に柔軟電極を設けて構成されることから、十分な柔軟性を備えるソフトアクチュエータとして構成され、ゲルシートを積層した積層構造としたことにより、従来の誘電アクチュエータと比べて、より低電圧で駆動することができ、より大きな変位量及び発生力を備えるアクチュエータとして提供される。
ゲルシートの両面に電極を配置して電極間に電圧を印加したときのゲルアクチュエータの電場応答性を示す説明図である。 単層のゲルシートを備えるゲルアクチュエータの構成例(a)、と複数層に積層したゲルアクチュエータの構成例(b)を示す説明図である。 実際に作製したゲルアクチュエータの外観写真である。 ゲルアクチュエータの変位と印加電圧とについて測定した結果を示すグラフである。 ゲルアクチュエータに電圧を印加・除去した際の発生力について測定した結果を示すグラフである。 ゲルアクチュエータに電圧を印加したときの変位についての周波数特性を測定した結果を示すグラフである。 ゲルアクチュエータに電圧を印加したときの電流値について測定した結果を示すグラフである。 ゲルシートの厚さを変えたときのゲルアクチュエータの変位量を測定した結果を示すグラフである。 ゲルアクチュエータの収縮率を示すグラフである。 ゲルシートの厚さを変えたときの電流値を測定した結果を示すグラフである。 ゲルアクチュエータの変位量(収縮率)の測定値と理論値とを示すグラフである。 従来のゲルアクチュエータの作用を示す説明図である。
(ゲルシートの電場応答性)
図1はゲルシート10の両面に伸縮性を有しない平板状の電極12a、12bを接触させ、電極12a、12bに電圧を印加したときのゲルシートの電場応答性を示す。
電極12a、12b間に電圧を印加すると、陰極12bからゲルシート10に電荷が注入され、陽極12aへ向けて電荷が移動し陽極12a側に電荷が蓄積する。これにより、陽極表面で静電気的な吸着作用が生じ、ゲルが陽極近傍でクリープ変形を起こす。図1に示すように、電極12aと電極12b間に電圧を印加すると、クリープ変形により、ゲルシート10が陽極12aに接する側で裾をひくような形態になる。
印加していた電圧を除去すると静電気力は消失し、ゲルの弾性によりゲルシート10は元の状態に復帰する。
電極12a、12b間に電圧を印加するとゲルシート10の厚さが若干薄くなる。したがって、電圧印加のON-OFFを繰り返すと、ゲルシート10厚さ方向に収縮する(変位する)動作を繰り返す。
図1のゲルアクチュエータは、電極12a、12bとして伸縮性を有しない電極を使用した場合で、電極12a、12bが伸縮しないから、電極12a、12b間に電圧を印加すると、厚さ方向にのみ変形する。
ゲルシート10は誘電体材料に可塑剤を加えて柔らかいゲル状にしたものである。誘電体材料によってクリープ作用の特性が異なるから、ゲルシート10には適宜誘電体材料を選択して使用すればよい。
本実施形態では誘電体材料としてポリ塩化ビニル(PVC)を使用している。ポリ塩化ビニルは高価でないことと、クリープ作用が大きいことからゲルアクチュエータを構成するゲルシートの材料として好適に使用することができる。
PVCゲルシートは、ポリ塩化ビニル(PVC)と可塑剤のアジピン酸ジブチル(DBA)を、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として混合し、その混合液をシャーレにキャストし、溶媒を蒸発させることで作製することができる。
PVCゲルシートはPVCとDBAの重合比を変えることで、柔らかさ等の特性を調節することができる。PVCとDBAの重合比は、10:40(DBA40)、10:30、10:20といったように適宜調節することができ、可塑剤の分量を多くするとゲルシートは柔らかくなる。
(ゲルアクチュエータの構成例)
図2は本発明に係るゲルアクチュエータの構成例を示す。図2(a)はゲルシート10を単層として構成した例、図2(b)はゲルシートを複数層に積層して構成した例である。
本発明に係るゲルアクチュエータでは、ゲルシートを単層で使用する場合も、複数層に積層して使用する場合も、ゲルシート10を積層する面(積層面)に設ける電極として、従来のゲルアクチュエータとは異なり、伸縮可能な柔軟性を有する柔軟電極20a、20bを用いる。
図2では、陽極とする電極を柔軟電極20a、陰極とする電極を柔軟電極20bとしている。
本実施形態のゲルアクチュエータに設ける柔軟電極は、平面的な膜状(層状)に形成した電極であり、従来のゲルアクチュエータでは陽極としてメッシュ体(金属メッシュ)を使用していたのに対し、本実施形態のゲルアクチュエータではいずれの柔軟電極20a、20bも、陽極または陰極として使用することができる。
従来のゲルアクチュエータにおいて陽極をメッシュ状としていた理由は、陽極と陰極との間に電圧を印加した際に、クリープ作用によりメッシュ状の電極(陽極)の隙間にゲルが入り込む空隙を設けるためである。メッシュ状の電極の空隙にゲルが入り込むことにより、厚さ方向に収縮する作用が生じる。
本発明に係るゲルアクチュエータでは、陽極と陰極とを伸縮性のある柔軟電極とし、陽極と陰極との間に電圧を印加することで厚さ方向に収縮する変形作用が生じる。
図2では、柔軟電極20a(陽極)と柔軟電極20b(陰極)との間に電圧を印加することにより、ゲルアクチュエータが厚さ方向に収縮し、同時にゲルアクチュエータが平面方向に伸びる作用が生じることを示している。
陽極と陰極に伸縮性を有する柔軟な電極を使用し、陽極と陰極との間に電圧を印加すると、ゲルシートの陽極の近傍にマイナス電荷が集中した高電荷密度層が生成され、ゲルシートが陽極に沿ってクリープ変形を起こし、伸縮性を有する陽極とともに平面方向に広がり、厚さ方向に収縮する。この厚さ方向にゲルシートが変形する作用は、クリープ変形による作用と、陽極と陰極の電極間に作用するマックスウェル応力による作用を重畳したものである。
陽極と陰極に印加する電圧を解除すると、ゲルシートと柔軟電極との弾性作用によりゲルアクチュエータは元の状態(元の厚さ)に復帰する。
図2に示すように、ゲルシート10に柔軟電極20a、20bを設けたゲルアクチュエータは、厚さ方向にも平面方向にも伸縮する作用をなすものであり、3次元的に伸縮する作用をなす。このような、いわばx-y-z方向に可動なアクチュエータは、ソフトアクチュエータとして種々の用途へ利用することができる。
また、本発明に係るゲルアクチュエータは、ゲルシート間に離間間隔(空隙)を設けるための金属メッシュを電極に使用しないから、電極の厚さを薄くすることができ、ゲルアクチュエータの小型化を図ることができるとともに、軽量化を図ることができる。ゲルアクチュエータを多層の積層構造とする場合には、薄型化、軽量化はきわめて有効に作用する。
図2(b)に示す積層型のゲルアクチュエータでは、ゲルシートを積層する方向に交互に陽極と陰極を配置するため、ゲルシートと電極の積層体の側面に、陽極となる柔軟電極20aに接続される第1の接続配線22aと、陰極となる柔軟電極20bに接続される第2の接続配線22bを設けている。
柔軟電極20aと柔軟電極20bをそれぞれまとめて接続する方法には、陽極同士、陰極同士をビア接続する方法や、電極の端縁から外方に接続片を延出させ、陽極と陰極の接続片同士をワイヤ接続するといった方法を利用することができる。
第1の接続配線22aと第2の接続配線22bにより陽極側の柔軟電極20aと陰極側の柔軟電極20bをそれぞれまとめて接続することにより、積層型のゲルアクチュエータを構成するすべてのゲルシートに一括して電圧を印加することができる。
図2(b)に示すようにゲルシートを積層した積層型のゲルアクチュエータは、それぞれの柔軟電極20a、20b間に電圧を印加した際の変位量が、それぞれのゲルシートの厚さ方向の変位を加え合わせたものとなるから、同じ厚さのゲルシートを使用する場合には、積層構造とすることでより大きな変位量が得られる利点がある。
もちろん、ゲルアクチュエータを構成するゲルシートの組成や厚さ、大きさ、ゲルシートの積層数は適宜調節することができ、用途に応じて、所要のアクチュエータ機能を有するゲルアクチュエータとして提供することができる。
(ゲルアクチュエータの作製例)
図3は柔軟電極を用いた積層型のゲルアクチュエータの評価試験に使用したアクチュエータの外観図である。
このゲルアクチュエータはゲルシートとしてPVCゲルシート、可塑剤としてアジピン酸ジブチル(DBA)を使用し、PVCとDBAの重合比を10:40(DBA40)としたものである。PVCゲルシートの平面サイズは約15mm×15mmであり、平均の厚さは0.185mmである。
柔軟電極はゲルシートの表面に導電性グリース(Carbon greese)を塗布して形成した。柔軟電極の平面サイズは約11mm×11mmであり、平均の厚さは0.025mmである。アクチュエータの積層数は20層、アクチュエータの全体サイズは15mm×15mm×4.2mm(厚さ)である。アクチュエータの全体の重量は約0.91gであり、1層あたりの単位面積の重量は約20mg/cm2・layerである。陽極にステンレスメッシュを使用した従来のゲルアクチュエータの単位面積あたりの重量は約50mg/cm2・layerであり、図3に示すゲルアクチュエータでは従来の40%程度の重量に抑えられている。
(評価実験:1)
柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの作用について測定した結果について以下に説明する。
測定に使用したゲルアクチュエータは、図3に示す積層数20の柔軟電極を用いたゲルアクチュエータである。比較例として、陽極に金属メッシュを使用した従来型のゲルアクチュエータを使用した。このゲルアクチュエータは、厚さ0.18mmのPVCゲルシート、陽極として、線径0.09mm、厚さ0.185mm、100メッシュの金属メッシュ、陰極として厚さ0.01mmのステンレス箔を使用した。ゲルシートの積層数は20枚である。
図4は変位と印加電圧との関係について測定した結果を示す。図4では、厚さ方向の変位量(mm)と伸縮率(%)を示す。測定は印加電圧80V〜2500Vの範囲で行い、厚さ方向の変位量の測定はレーザ変位計を使用して行った。
図4は、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータについては、印加電圧の増大とともにほぼリニアに変位量が増大することを示す。印加電圧が2.5kV(約13.5V/μm)で、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの変位量は約0.26mmであり、収縮率は約6.1%である。
この柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの収縮率は、従来の金属メッシュを用いたゲルアクチュエータの収縮率を下回っている。しかしながら、従来のゲルアクチュエータでは金属メッシュの間隔に限界があり、400V以上の印加電圧を加えても変位量が飽和してしまい、10%以上の大きな収縮率を得ることが困難である。これに対し、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータでは、電極とともにゲルシートが変形(収縮)するから、電極のパラメータ(種類と厚さ等)やゲルシートのパラメータ(可塑剤DBAの組成比、膜厚等)を調整することにより、より高い収縮率を得ることが期待できる。また、印加電圧についてもより低電圧で駆動できる可能性がある。
図5は、電圧印加・除去時に発生する力(発生力)について測定した結果を示す。
発生力の測定は、ゲルアクチュエータの上に100gと200gの重りをのせ、電圧印加・除去時の発生力−変位との関係を測定することによって行った。
図5でCarbon greesee electrodeとある実験値は、導電性グリースを用いた上記評価用のゲルアクチュエータについての実験結果である。実験結果は、印加電圧を2.5kVとしたときの発生力と変位の関係を示す。図5に示すように、ゲルアクチュエータの発生力と変位とは反比例する。ゲルアクチュエータに加える負荷を増大させると、電圧印加をON-OFFしたときの変位量は減少する。
200gの負荷(17kPa)を作用させたときの柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの変位量は約4.66%(約0.17mm)である。この実験結果は、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータは、自重の約220倍以上の発生力を備えることを示す。
また、ひずみが0.046のときの発生力について、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータと比較例のゲルアクチュエータとを比較すると、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの発生力が比較例の約2倍になっている。
柔軟電極を用いるゲルアクチュエータの方が金属メッシュを用いる従来のゲルアクチュエータとくらべて発生力が大きくなる理由は、単位面積当たりのゲルシートと電極との接触面積を比較すると、従来のゲルアクチュエータと比較して柔軟電極を用いるゲルアクチュエータの方が大きくなるためであると考えられる。ゲルシートと電極との接触面積が相異する理由は、従来のゲルアクチュエータでは電極に金属メッシュを使用しているから、ゲルシートと金属メッシュとの接触部分に空域が生じるのに対し、柔軟電極を用いる場合はゲルシートの全面に電極を設けることができるからである。
図6は周波数特性を測定した結果を示す。
陽極と陰極との間に印加する入力電圧を、0〜1.2kVの矩形波とし、周波数を0.1Hzから10Hzの範囲で変えて、入力電圧に対する厚さ方向の変位量を測定した。図6は測定により得られたゲイン線図を示す。
図6に示す測定結果は、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの応答性は約5Hz(-3dB時)である。この応答特性は、従来のゲルアクチュエータの応答性約9Hz(-3dB時)より低く、周波数による変位の減衰が大きくなっている。この原因として、柔軟電極に使用したカーボングリース電極の粘弾性による影響が考えられる。
図7は電圧印加時の電流値について測定した結果を示す。図7の測定結果は、ゲルアクチュエータの電流値は印加電圧の増大とともに増大することを示す。
印加電圧が1.2kV時の柔軟電極を用いるゲルアクチュエータの電流値は、一層あたり約1.5μA/cm2であり、消費電力は約1.8mW/cm2である。400V以下の領域について、従来のゲルアクチュエータと電流値を比較すると、柔軟電極を用いたゲルアクチュエータの方が電流値が大きくなっており、従来のゲルアクチュエータと比較して消費電力がやや大きくなっている。
(評価試験:2)
上述した評価試験では、厚さ0.185mm(185μm)のゲルシートを使用した。次に、ゲルシートの厚さを変えたときにゲルアクチュエータの変位量や収縮率がどのようになるかを評価する実験を行った。実験では厚さ100μm、200μmの2種のゲルシートを新たに作製し、評価試験1と同様にゲルシートの積層数を20層とした積層型のゲルアクチュエータを製作して実験した。
使用したゲルシートのサイズや作製方法、柔軟電極の素材、サイズは評価試験1と同様である。ゲルシートはPVCとDBAの重合比を10:40(DBA40)としたPVCゲルシートであり、平面サイズは15mm×15mmである。柔軟電極には導電性グリース(Carbon greese)を使用し、柔軟電極の平面サイズは、厚さ100μmのものは13mm×13mm、厚さ200μmのものは14mm×14mmである。また、厚さ100μm、200μmのゲルアクチュエータ全体の厚さは、それぞれ2.5mm、4.5mmである。
図8は3種の積層型のゲルアクチュエータのサンプルについて、陽極と陰極との間に印加したときの変位量(厚さ方向の変位量)を測定した結果を示す。印加電圧は0〜500Vの範囲に設定した。厚さ185μmのデータについては前述したデータを表示している。
図8に示す実験結果は、ゲルシートの厚さが異なっても、ゲルアクチュエータの変位量はほとんど変わらないことを示す。
図9は、3種のゲルアクチュエータについて、電極間に電圧を印加したときの収縮率を示す。図8に示したように、ゲルシートの厚さが異なる場合でもゲルアクチュエータ全体としての変位量がほとんど変わらないということは、ゲルアクチュエータの収縮率でみると、ゲルシートの厚さが薄いほど収縮率が大きくなることを意味する。
表1に、3種のゲルアクチュエータについて、印加電圧を400Vとしたときの収縮率を示した。
厚さ100μmのゲルシートを使用したゲルアクチュエータと、厚さ185μm、200μmのゲルアクチュエータとの収縮率を比較すると、それぞれ約1.7倍、2.4倍となる。このように柔軟電極を用いたゲルアクチュエータでは、使用するゲルシートの厚さを薄くすることで収縮率を効果的に増大させることができる。
図10は、3種のゲルアクチュエータについて、電極間に電圧を印加したときの電流値を測定した結果を示す。図10に示すように、印加電圧を大きくするとともに電流値は大きくなり、ゲルシートの厚さが薄くなると、電流値が高くなる。したがって、印加電圧を基準とすると、ゲルシートの厚さが薄い方が消費電力が大きくなる。
前述したように、厚さが薄いゲルシートを使用した場合も厚いゲルシートを使用した場合も、積層数が同一であれば同程度の変位量を得ることができる。したがって、変位量を確保する目的からは、厚さの薄いゲルシートを使用する方がゲルアクチュエータの薄型化を図る点で有利である。また、厚さの薄いゲルシートを使用すれば積層数を増やしても、薄型化を図ることができるから、大きな変位量を確保する上では薄いゲルシートを利用することが有効である。
変位量と発生力(復元力)とは正の相関関係があるから、ゲルアクチュエータを多層の積層構造として構成することにより、大きな変位量と大きな発生力を得ることができる。
また、ゲルシートを薄型化することにより、電極間に印加する電圧を低減させて所望の変位量を得ることが可能になり、低電圧化を図ることにより、より安全性を高めたゲルアクチュエータとして提供することができる。
(ゲルアクチュエータの作用)
図11は、厚さ0.185mmのPVCゲルシートを使用し、積層数を20層とし、柔軟電極として導電性シリコングリースを用いたゲルアクチュエータについて、電極間に電圧を印加したときの変位量(収縮率)を測定した別の実験結果を示す。この実験では、図4に示した実験結果とくらべて、収縮率が大きく表れている(印加電圧2.5kV:収縮率が8.3%)。
図11には、PVCゲルシートを一般的な誘電体とみなし、シートの両面に柔軟性(伸縮性)のある電極を膜状に設けて電極間に電圧を印加したときに発生する変位量を計算により求めた値(Simulated strain)を併せて示す。
図11に示した計算値はゲルシートの誘電率εrを8.5、ヤング率を350kPaとして計算したものである。
図11に示すように、実験で得られたゲルアクチュエータの変位量は、ゲルシートを誘電体とみなしてマックスウェル応力により厚さ方向に収縮するとして得られる変位量の理論値を大きく上回っている。とくに500ボルト以下の低電圧の領域で理論値と実験値が大きく異なっていることから、ゲルシートを用いたゲルアクチュエータは低電圧領域で変位を得るものとして効果的に利用することが可能である。
上述したように誘電体としてゲルシートを使用したゲルアクチュエータは、電極間に電圧を印加することにより、誘電エラストマーを用いたアクチュエータ(たとえば特許文献4)とは異なり、誘電体の誘電作用を利用する変位とは異なる(もしくは誘電作用に加えて)、ゲルシートが備えるクリープ作用により変位するものと考えられる。ゲルシートに電圧を印加されるとゲルシートが陽極側に引き込まれるように変形し、これによってゲルアクチュエータが厚さ方向に収縮する。ゲルシートには伸縮性を備える柔軟電極を設けているからゲルシートは電圧を印加することにより平面方向にも伸縮する。
本発明に係るゲルアクチュエータは、柔軟性を有するゲルシートと、柔軟性(伸縮性)を有する柔軟電極を備えることから、ゲルアクチュエータ全体が柔軟体として構成される。従来のゲルアクチュエータが陽極に金属メッシュを使用していたために、柔軟性に欠ける問題があったのに対して、本発明に係るゲルアクチュエータは完全なソフトアクチュエータとして構成されるという特徴がある。
また、ゲルシートの厚さを薄くすることで百ボルト以下程度での印加電圧により駆動することが可能であり、低電圧駆動と柔軟性を備えることから、ヒトに適用するアクチュエータとして好適に使用することが可能である。
10 ゲルシート
12a、12b 電極
20a、20b 柔軟電極
22a 第1の接続配線
22b 第2の接続配線


Claims (5)

  1. 誘電材料からなるゲルシートと、
    該ゲルシートの両面に、ゲルシートを厚さ方向に挟む配置に設けられた柔軟電極とを備え、
    前記ゲルシートが、前記一対の柔軟電極間に電圧を印加した際にクリープ変形する誘電材料からなり、
    前記ゲルシートが厚さ方向に積層され、ゲルシートを厚さ方向に挟む配置に前記柔軟電極が設けられた積層構造に形成されていることを特徴とするゲルアクチュエータ。
  2. 前記柔軟電極は、厚さ方向に交互に陽極と陰極になるように電源に接続されることを特徴とする請求項1記載のゲルアクチュエータ。
  3. 前記陽極となる一方の柔軟電極を一括して電気的に接続する第1の接続配線と、前記陰極となる他方の柔軟電極を一括して電気的に接続する第2の接続配線を備えることを特徴とする請求項2記載のゲルアクチュエータ。
  4. 前記ゲルシートが、可塑剤を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のゲルアクチュエータ。
  5. 前記ゲルシートが、誘電材料としてポリ塩化ビニルを用いたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のゲルアクチュエータ。



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