以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
図1に示すように、単結晶製造装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたメインヒータ15と、メインヒータ15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された単結晶引き上げ用のワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19と、装置内の各部を制御する制御部20とを備えている。
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、メインヒータ15及び熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓10eから観察可能である。
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。黒鉛ルツボ12、回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は石英ルツボ11の回転機構及び昇降機構を構成している。
メインヒータ15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。メインヒータ15はカーボン製の抵抗加熱式ヒータであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。さらにメインヒータ15の外側には断熱材16がメインヒータ15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
メインヒータ15は単一の部材で構成されていてもよく、独立に制御可能な複数の部材を組み合わせて構成されたものであってもよい。したがって、例えば図示のようなルツボの側部に配置されたサイドヒータとルツボの底部に配置されたボトムヒータとの組み合わせからなるものであってもよい。さらにサイドヒータが複数個に分割されていてもよい。メインヒータ15の出力は制御部20によって制御される。
熱遮蔽体17は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成するとともに、メインヒータ15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体17は略円筒状の黒鉛製の部材であり、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うように設けられている。
熱遮蔽体17の下端の開口17aの直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。また熱遮蔽体17の下端部の外径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体17の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体17の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体17が石英ルツボ11と干渉することはない。
ボディ部3cの直径が約450mmとなる450mmウェーハ用シリコン単結晶(以下、「450mm結晶」(他のサイズの結晶についても同様)という)を引き上げる場合、熱遮蔽体17の開口17aの直径は引き上げ品種によって多少異なるが、500mm以上600mm以下であることが好ましい。
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽体17との間隔(ギャップ)が一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、シリコン単結晶3の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19は制御部20によって制御される。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引き上げ時には石英ルツボ11とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。
熱遮蔽体17の内側であって当該熱遮蔽体17の下端よりも上方にはシリコン単結晶3の引き上げ経路の周囲を取り囲むように水冷体21が設けられている。例えば直径約450mmの大口径シリコン単結晶の場合、直径約300mmの小口径シリコン単結晶に比べて冷却に時間がかかり、引き上げ軸方向の結晶内温度勾配Gが小さいため、水冷体21を設けずに所望のV/Gを得るためには結晶引き上げ速度Vを小さくしなければならない。しかし、水冷体21を設けて引き上げ直後のシリコン単結晶3を強制的に冷却する場合には、結晶内温度勾配Gを大きくすることができるので、結晶引き上げ速度Vを大きくして生産性を向上させることができる。
水冷体21の上方にはサブヒータ22が設けられている。サブヒータ22も水冷体21と同様にシリコン単結晶3の引き上げ経路の周囲を取り囲むように設けられている。サブヒータ22は、シリコン単結晶3の600±200℃(すなわち、800〜400℃)の温度域を結晶トップ側に持ち上げるために設けられている。シリコン単結晶3を800℃以上に加熱するためには、サブヒータ22が800℃以上で発熱する必要があり、1000℃以上で発熱することが好ましい。サブヒータ22はメインヒータ15と共に制御部20によって制御される。
サブヒータ22の上方にはドローチューブ23が設けられている。ドローチューブ23も水冷体の一種であり、シリコン単結晶3の冷却を促進させるために設けられている。ドローチューブ23は円筒状の部材であり、プルチャンバー10bから下方に延びてシリコン単結晶3の引き上げ経路の周囲を取り囲むように設けられている。
このように、サブヒータ22は、ドローチューブ23と水冷体21との間にあって、サブヒータ22を配置しない場合における600℃の結晶温度の位置付近に設置され、これにより800℃の結晶温度の位置がより上方に持ち上げられる。また水冷体21は、ドローチューブ23と熱遮蔽体17の底部との間にあって、サブヒータ22を設置する場合にはサブヒータ22と熱遮蔽体17との間に設置される。
図2は、本実施形態によるシリコン単結晶3の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
図2に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶3の製造工程は、石英ルツボ11内のシリコン原料をメインヒータ15で加熱して融解することによりシリコン融液2を生成する原料融解工程S11と、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる着液工程S12と、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する結晶育成工程(S13〜S16)を有している。
結晶育成工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程S13と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程S14と、450mm以上の規定の結晶直径に維持されたボディ部3cを形成するボディ部育成工程S15と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に減少したテール部3dを形成するテール部育成工程S16とが順に実施される。
その後、シリコン単結晶3が融液面から切り離され、結晶育成工程(特に、ボディ部育成工程S15)中の引き上げ速度(第1の引き上げ速度)よりも速い引き上げ速度(第2の引き上げ速度)でシリコン単結晶3を引き上げることにより冷却する冷却工程S17が実施される。このとき、サブヒータ22やメインヒータ15の出力を停止又は低下させることで冷却効果を高めることができる。以上により、図3に示すようなネック部3a、ショルダー部3b、ボディ部3c及びテール部3dを有するシリコン単結晶インゴットが完成する。
上記のように、シリコン単結晶3に含まれる結晶欠陥の種類や分布は、結晶引き上げ速度Vと結晶内温度勾配Gとの比V/Gに依存するため、シリコン単結晶3中の結晶品質を制御するためにはV/Gを制御する必要がある。
図4は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
図4に示すように、V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、空孔の凝集体であるボイド欠陥(COP)が発生する。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。さらに、COPが発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。シリコン単結晶が無欠陥結晶であると言うためには、引き上げ軸方向と直交するシリコン単結晶の断面内の全面が無欠陥領域であることが必要である。ここで「無欠陥領域」とは、COPや転位クラスターなどのGrown−in欠陥を含まず、且つ、評価熱処理後にOSFリングが発生しない領域のことを言い、Pv領域又はPi領域であることを言う。
結晶引き上げ速度Vを制御してPv領域又はPi領域からなる無欠陥結晶を高い歩留まりで育成するためには、PvPiマージンができるだけ広いことが好ましい。ここでPvPiマージンとは、広義には、シリコン単結晶3中の任意の領域をPv領域又はPi領域とすることができる結晶引き上げ速度Vの許容幅のことを言うが、狭義には、引き上げ軸方向と直交するシリコン単結晶の断面内のPvPiマージンの最小値(PvPi面内マージン)のことを言う。通常、結晶内温度勾配Gは一定であるため、PvPiマージンは図4におけるPv−OSF境界からPi−転位クラスター境界までのV/Gの幅の広さである。
シリコン単結晶3の直径制御は主に引き上げ速度Vを調整することにより行われ、直径変動を抑えるために結晶引き上げ速度Vを適宜変化させており、結晶引き上げ工程中は0.015mm/min程度の速度変動が生じている。すなわち、引き上げ速度Vの変動を完全になくすことはできないため、0.015mm/min程度の速度変動を許容するPvPiマージンが必要となる。
例えば300mmウェーハ用シリコン単結晶(以下、単に「300mm結晶」(他のサイズの結晶についても以下同様)という。)の場合、0.02mm/min以上のPvPi面内マージンを確保することができた。しかし、450mm結晶の場合、大口径化に伴い固液界面近傍での結晶内温度勾配が小さくなるため、300mm結晶と比べてPvPiマージンは小さくなり、現状の450mm結晶のPvPi面内マージンは0.012mm/min以下である。そのため、全面が無欠陥領域となるシリコン単結晶を引き上げることが極めて困難な状況である。
一方、PvPiマージンの広さは、融点近傍の温度勾配以外にも、600±200℃の温度域の滞在時間の影響を受け、当該温度域の滞在時間が短いほどPvPiマージンは広くなる。そこで本実施形態においては、シリコン単結晶3を急冷して600±200℃の温度域の滞在時間を短くすることにより、PvPi面内マージンを拡大させて、無欠陥結晶の製造歩留まりの向上を図っている。
シリコン融液2から引き上げられたシリコン単結晶3は、融液面から遠ざかるほど温度が低下して冷却され、その冷却過程で600±200℃の温度域を通過するが、このときシリコン単結晶3が600±200℃の温度域を素早く通過することにより、空孔の凝集を抑えてPvPiマージンを広げることができる。600±200℃の温度域の滞在時間がどのくらい短ければPvPiマージンがどのくらい広くなるかは、空孔及び格子間シリコンの拡散・対消滅を解析する点欠陥数値解析から求めることができる。このように、PvPiマージンが広くなればPvPiマージン内に収まる結晶引き上げ速度Vの制御も容易となることから、無欠陥結晶を安定的に育成することが可能となる。
本実施形態においては、冷却工程S17の開始直前におけるシリコン単結晶の600±200℃の温度域を広げ、冷却工程S17を利用してシリコン単結晶3を急冷することにより、600±200℃の温度域の滞在時間を短くする。このように、冷却工程S17を利用してシリコン単結晶3の冷却効果を高めることにより、PvPiマージンを拡大させることができ、無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
冷却工程S17を利用してシリコン単結晶3の600±200℃の温度域の滞在時間を短くする方法において、当該温度域の滞在時間が短い結晶領域を広げて無欠陥結晶の製造歩留まりを高める方法は2つある。一つは、ホットゾーンを変更する方法である。冷却工程S17の開始直前におけるシリコン単結晶の800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げることにより、無欠陥結晶の取得領域を拡大することができる。冷却工程S17の開始直前まで結晶を温めて800℃以上の領域が広くなるホットゾーンであれば、冷却工程S17での急冷効果を利用して結晶領域を広げることができる。図1におけるサブヒータ22は、冷却工程S17の開始直前における800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げるためのホットゾーン変更手段を構成している。
もう一つは、ホットゾーンを変更することなく無欠陥結晶となる領域を拡大する方法であり、テール部育成工程S16による熱履歴の影響を改善する方法である。テール部育成時は結晶形状の影響によりボディ部育成時とは異なる熱履歴となるため、製品取得領域(ボディ部)の600±200℃の滞在時間に影響を及ぼす。しかし、テール部の省略又は短尺化することができればテール部育成工程S16の影響を抑えて結晶品質を向上させることができる。
図5は、シリコン単結晶インゴットの熱履歴と冷却工程の影響を効果的に受ける領域との関係を説明するための図であって、(a)は冷却工程直前における800℃の温度位置が相対的に低いシリコン単結晶インゴットの模式図、(b)は800℃の温度位置が相対的に高いシリコン単結晶インゴットの模式図、(c)は(a)及び(b)に示すシリコン単結晶インゴットの中心軸上のP点及びQ点それぞれの位置の温度変化を示すグラフである。
図5(a)に示すシリコン単結晶インゴット3Aでは、冷却工程直前における800℃の温度位置がQ点と同じ高さにあり、Q点よりも上方に位置するP点の温度は冷却がさらに進んで800℃よりも低い。そのため、Q点は冷却工程S17の影響を受けて急冷され、800〜400℃の滞在時間T1は短い。P点も冷却工程S17の影響を受けるが、ボディ部育成工程S15及びテール部育成工程S16の影響を受けて既に徐冷されているため、P点の800〜400℃の滞在時間T2は長い。
一方、図5(b)に示すシリコン単結晶インゴット3Bでは、冷却工程直前における800℃の温度位置がP点と同じ高さにあり、P点よりも下方に位置するQ点の温度は800℃以上である。そのため、Q点のみならずP点も冷却工程S17の影響を受けて急冷され、P点の800〜400℃の滞在時間T1はQ点の滞在時間T3と同様に短い。
このように、図5(b)のシリコン単結晶インゴット3Bは、図5(a)のシリコン単結晶インゴット3Aと比較して冷却工程直前における800℃の温度位置が結晶トップ側に持ち上げられているため、800℃以上となる結晶領域が図5(a)よりも広くなる。したがって、冷却工程S17による急冷効果の影響を受けるシリコン単結晶3の800℃以上の温度域の範囲を広げることができ、無欠陥結晶の取得領域の拡大につなげることができる。
次に、サブヒータ22を用いて冷却工程直前の800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げる方法についてより詳細に説明する。
図6は、水冷体21のみが設けられ、サブヒータ22が設けられていないホットゾーン内で引き上げられたシリコン単結晶3の熱履歴を示す模式図である。
図6に示すように、サブヒータ22が設けられていないホットゾーン内でシリコン融液2から引き上げたシリコン単結晶3は冷却され、冷却工程直前におけるシリコン単結晶3中の800℃の温度位置は例えば図示の位置P1になり、位置P1よりも上方のボディ部3cの結晶領域A1の温度は800℃未満となり、位置P1よりも下方のボディ部3cの結晶領域B1の温度は800℃以上となる。
ボディ部3cの800℃未満の結晶領域A1は、ボディ部育成工程S15又はテール部育成工程S16中の引き上げ速度(第1の引き上げ速度)で800〜400℃の温度域をすでに通過しているか、あるいは通過途中であるため、800〜400℃の滞在時間が長くなる。そのためPvPiマージンが狭くなり、引き上げ速度VをPvPiマージン内に収めることができず、引き上げ速度Vの変動の影響を受けて結晶欠陥(COP又はOSF核の少なくとも一方)を含む単結晶が育成されてしまう。
一方、800℃以上の結晶領域B1は、冷却工程S17によって急冷されて800〜400℃の滞在時間が短くなる。すなわち、結晶領域B1の800〜400℃の温度域の冷却速度(第2の冷却速度)は、結晶領域A1の800〜400℃の温度域の冷却速度(第1の冷却速度)よりも速い。具体的には、第1の冷却速度が0.165〜0.295℃/minであるのに対し、第2の冷却速度は第1の冷却速度の2.5倍以上、つまり0.4125℃/min以上であることが好ましい。そのため、PvPiマージンを広くすることができ、引き上げ速度VをPvPiマージン内に収めることができ、結晶領域B1を無欠陥結晶として育成することができる。
しかしながら、結晶領域A1と比較して結晶領域B1の長さは非常に短いため、無欠陥結晶の製造歩留まりが非常に悪い。そこで本実施形態では、サブヒータ22を用いて冷却工程直前におけるシリコン単結晶3中の800℃以上の温度域を広げることにより、冷却工程による急冷効果を受ける範囲を広げ、これにより無欠陥結晶の取得領域の拡大を図っている。
図7は、サブヒータ22が設けられたホットゾーン内で引き上げられたシリコン単結晶3の熱履歴を示す模式図である。
図7に示すように、サブヒータ22が設けられたホットゾーン内でシリコン融液2から引き上げられたシリコン単結晶3はサブヒータ22によって再加熱され、冷却工程直前におけるシリコン単結晶3中の800℃の温度位置は図示の位置P2になり、位置P1よりも上方の結晶領域A2は800℃未満となり、位置P2よりも下方の結晶領域B2は800℃以上となる。
このように、800℃の温度位置がサブヒータ22によって図7の位置P1よりも結晶トップ側に持ち上げられることにより、図7の結晶領域B2は図6の結晶領域B1よりも長くなり、逆に図7の結晶領域A2は図6の結晶領域A1よりも短くなるので、結晶品質が悪い部分の取得を少なくすることができる。すなわち、無欠陥結晶の取得領域を増やすと共に結晶欠陥含有領域を減らして無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
図8は、サブヒータ22及び水冷体21が設けられたホットゾーン内で引き上げられたシリコン単結晶3の熱履歴を示す模式図であって、図7のシリコン単結晶3の結晶長を短くした場合を示すものである。
図8に示すように、冷却工程直前におけるシリコン単結晶3中の800℃の温度位置がボディ部3cの上端近傍の位置P3にある場合には、800℃以上の温度域が位置P3よりも下方の結晶領域B3となり、ボディ部3cのほぼ全部が800℃以上の温度となる。
図7のシリコン単結晶3のように結晶長を十分に長くする場合には、800℃の温度位置P2よりもトップ側に位置する結晶領域A2が結晶欠陥を含むようになるため、当該結晶領域A2の製造は無駄になる。しかし、図8に示すようにシリコン単結晶3のボディ部3cの上端近傍が800℃の温度位置まで到達したときに冷却工程S17を開始する場合には、結晶欠陥含有領域を無くして無欠陥結晶の製造歩留まりを大幅に高めることができる。
図9は、シリコン単結晶3の製品取得領域について説明するための図である。
図9(a)に示すように、シリコン単結晶3のボディ部3cの全体を製品取得領域とする場合には、800℃の温度位置がボディ部3cの上端近傍P3に到達したときに冷却工程を開始すればよい。また、図9(b)に示すように、シリコン単結晶3のボディ部の一部を製品取得領域とする場合には、800℃の温度位置が製品取得領域の上端P3'に到達したときに冷却工程を開始すればよい。例えば、格子間酸素濃度やドーパント濃度の面内分布などの結晶欠陥以外の条件が所定の基準を満たしている領域がボディ部の一部である場合には、当該ボディ部の一部を製品取得領域とし、製品取得領域に対してのみ無欠陥結晶が形成されるように制御することにより、無欠陥結晶の製造効率を高めることができる。
シリコン単結晶3の製品取得領域の上端P3'は、ボディ部3cの結晶成長方向の中央よりも結晶トップ側に位置することが好ましく、ボディ部3cの上端近傍に位置することが好ましい。製品取得領域がボディ部3cの大半を占めることにより無欠陥シリコンウェーハの製造歩留まりを高めることができる。なお、ボディ部3cの上端近傍としたのは、シリコン単結晶のボディ部の上端は、酸素濃度やドーパント濃度の面内分布などの結晶欠陥以外の他の品質が安定せず、製品対象領域とされないことが多いからである。なおボディ部3cの上端近傍とは、例えばボディ部の上端0〜50mmの範囲であると定義することができる。
図10は、サブヒータ22及び水冷体21が設けられたホットゾーン内で引き上げられたシリコン単結晶3の熱履歴を示す模式図であって、図8のシリコン単結晶3のテール部3dを短尺化した場合を示すものである。
図10に示すように、本実施形態においてはシリコン単結晶3のテール部3dの長さを短くするか、或いはテール部3dを完全に省略し、さらにその分だけボディ部3cの長さを長くすることにより、無欠陥結晶の取得領域の拡大を図っている。
テール部3dは、シリコン単結晶3をシリコン融液2から切り離す際に熱衝撃等による転位の発生を防止するために形成されるものであるが、結晶直径が小さいため製品化することができず、本来必要ない部分である。また、テール部育成工程S16中は、結晶直径の減少により熱遮蔽体17の開口17aとシリコン単結晶3との間の隙間が広くなり、これによりシリコン単結晶3がシリコン融液2からの輻射熱の影響を受けて冷却されにくくなり、600±200℃の滞在時間がボディ部育成工程S15中よりも長くなる。すなわちテール部育成工程S16は冷却工程S17のようにシリコン単結晶3の急冷にも寄与しないばかりか、むしろ600±200℃の滞在時間に悪影響を与える。
しかし、本実施形態においては、テール部3dの短尺化又は省略によりテール部育成工程S16をできるだけ短くしているので、800℃以上の温度域が位置P3よりも下方のボディ部3cの結晶領域B3を拡大することができ、テール部育成工程S16の影響をできるだけ抑えて無欠陥結晶の製造歩留まりをさらに高めることができる。
テール部3dの長さは400mm以下であることが好ましい。従来長500mm程度に対しテール部3dの長さが400mm以下に短尺化されたものであれば、テール部3dの短尺化による十分な効果を得ることができる。
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン融液2からシリコン単結晶3を引き上げる結晶育成工程(S13〜S16)と、シリコン単結晶3をシリコン融液2から切り離した後、シリコン単結晶の冷却を促進させる冷却工程S17とを備え、当該冷却工程S17を利用して、冷却工程S17の開始直前におけるシリコン単結晶3中の600±200℃の温度域を結晶育成工程中の冷却速度(第1の冷却速度)よりも速い冷却速度(第2の冷却速度)で冷却するので、シリコン単結晶3の600±200℃の温度域を急冷することがで、これによりPvPiマージンを広げて無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
また、本実施形態においては、サブヒータ22を用いてシリコン単結晶3を加熱することにより当該シリコン単結晶3中の800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げるので、シリコン単結晶3のできるだけ広い結晶領域を急冷の対象とすることができる。したがって、無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができ、無欠陥シリコンウェーハの生産性を向上させることができる。
さらに、本実施形態においては、シリコン単結晶3のボディ部3cの製品取得領域の上端が800℃の温度位置まで到達したときに冷却工程S17を開始するので、冷却工程S17によって急冷されない結晶領域を極力少なくすることができる。したがって、シリコン単結晶の断面内の全面が無欠陥領域となるシリコン単結晶の製造歩留まりを高めることができる。
図11は、サブヒータ22及び水冷体21が設けられていないホットゾーン内で引き上げられたシリコン単結晶3の熱履歴を示す模式図であって、図6のシリコン単結晶3の結晶長を短くし、さらにテール部3dを短尺化した場合を示すものである。
図11に示すように、本実施形態においては、サブヒータ22及び水冷体21を設けずシリコン単結晶3を引き上げて自然に冷却したときにそのボディ部3cの上端が800℃の温度位置となるタイミングでシリコン単結晶3をシリコン融液2から切り離すようにしている。冷却工程直前におけるシリコン単結晶3中の800℃の温度位置がボディ部3cの上端近傍の位置P4にある場合には、800℃以上の温度域が位置P4よりも下方の結晶領域B4となり、ボディ部3cのほぼ全部が800℃以上の温度となるので、結晶欠陥含有領域を無くして無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
しかし、図7のように800℃の温度位置を持ち上げない場合には無欠陥結晶の長さが非常に短くなる。そこで、これを改善するために結晶ボトム側においてテール部3dの短尺化あるいは完全な省略を図り、無欠陥結晶の取得領域の拡大を図るものである。
本実施形態においては、無欠陥結晶の取得領域を長くすることができるが、従来に比べるとシリコン単結晶インゴットが短く、一回の結晶育成工程で引き上げられるシリコン単結晶の量が少なく、残りのシリコン融液が無駄になってしまう。シリコン融液の無駄を防ぎ、無欠陥結晶の製造歩留まりをさらに高めるためには、いわゆるマルチプリング法によって短尺なシリコン単結晶インゴットを何本も引き上げることが好ましい。
マルチプリング法では、石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げた後、同一の石英ルツボ内のシリコン残液にシリコン原料を追加供給して融解し、得られたシリコン融液からシリコン単結晶の引き上げを行い、このような結晶育成工程と原料追加工程とを交互に繰り返すことにより、一つの石英ルツボから複数本のシリコン単結晶を製造する。上記のように短尺なインゴットを引き上げる場合には、石英ルツボ内に多くのシリコン融液が残っていることから、これを利用して新たなシリコン単結晶インゴットを引き上げることが可能である。シリコン融液の残量が次の一本のシリコン単結晶インゴットの引き上げに必要な量に満たない場合には、多結晶シリコン原料を石英ルツボ11内に追加してから次の結晶育成工程を開始すればよい。マルチプリング法によれば、シリコン単結晶一本当たりの石英ルツボの原価コストを低減することが可能である。またチャンバーを解体して石英ルツボを交換する頻度を低減できるため、操業効率を向上させることが可能である。
マルチプリング法においては、シリコン単結晶の最後の一本を除き、メインヒータ15の出力はそのまま維持し、サブヒータ22の出力だけを停止又は低下させることにより、シリコン融液2の固化や石英ルツボ11の破損を防止して結晶引き上げを継続することができる。シリコン単結晶の最後の一本の結晶育成工程では、メインヒータ15とサブヒータ22の出力の両方を停止又は低下させることができ、冷却工程S17の冷却効果をさらに高めることができる。
また、1回の結晶製造工程で一本のシリコン単結晶3のみを引き上げるいわゆるシングルプリング法においては、一本のシリコン単結晶3をシリコン融液2から切り離した後の冷却工程S17の開始時にメインヒータ15とサブヒータ22の両方の出力を停止又は低下させることができ、冷却工程S17の冷却効果をさらに高めることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態においては、サブヒータ22及び水冷体21を追加してPvPiマージンを拡大させるホットゾーンを変更しているが、本発明はそのような構成に限定されるものではなく、既存の炉内構造物の変更又は新たな炉内構造物の追加によりホットゾーンを変更してもよい。さらに上述のようにホットゾーンを変更することなく冷却工程S17だけを利用してPvPiマージンを拡大させることも可能である。
シリコン融液から引き上げられたシリコン単結晶の冷却過程における600±200℃の温度域の滞在時間がPvPiセンターマージンに与える影響について考察した。COP、OSF、Pv、Pi、L/DL(転位クラスター)といった各欠陥の境界は、点欠陥数値解析より得られる1000℃での相対空孔過飽和度により決定され、従来は表1に示すような固定値が用いられていた。
しかしながら、Pv−OSF境界を決定する相対空孔過飽和度は、600±200℃の滞在時間によって変化する可変値であるため、600±200℃の滞在時間によって変化する変数として点欠陥数値解析に導入することができれば、PvPiセンターマージンを正確に計算することが可能となり、PvPiセンターマージンを考慮した無欠陥結晶の引き上げ条件の制御も可能となる。そこで、結晶直径やホットゾーンなどの結晶引き上げ条件が異なる複数の引き上げ試験の結果に基づいて、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度と600±200℃の滞在時間との関係を調査した。
表2は、結晶直径やホットゾーンなどの結晶引き上げ条件が異なる5つの引き上げ試験結果に基づいて、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度と600±200℃の滞在時間との関係を調査した結果を示す表であり、G1cは融点近傍(1412〜1350℃)の結晶中心温度勾配、RT600±200℃は600±200℃の滞在時間である。
またPvPiセンターマージンは、結晶中心のPvPiマージンである。PvPiセンターマージンは挙動が単純であり、PvPi面内マージンにも展開しやすいため、点欠陥数値解析ではPvPiセンターマージンを計算することが好ましい。通常、PvPi面内マージンはPvPiセンターマージンよりも狭い。PvPi面内マージンがPvPiセンターマージンの8割程度になると仮定すると、0.015mm/minのPvPi面内マージンを確保するためには0.019mm/minのPvPiセンターマージンを確保する必要がある。
表2に示すように、5つの結晶引き上げ条件のうち、条件#1は200mm結晶を水冷式のホットゾーン内で引き上げた場合、条件#2は300mm結晶を非水冷式のホットゾーン内で引き上げた場合、条件#3は300mm結晶を水冷式のホットゾーン内で引き上げた場合、条件#4,#5は450mm結晶を水冷式の同じホットゾーン内で引き上げた場合であり、両者の違いは結晶育成条件だけである。なお水冷式とは、図1における水冷体21が有ることを意味し、非水冷式とは水冷体21が無いことを意味する。
次に、これら5つの結晶引き上げ条件下で育成されるシリコン単結晶の温度分布を伝熱解析により求めると共に、応力効果を導入した点欠陥数値解析を行って、図12(a)に示すような結晶内の1000℃での相対空孔過飽和度の分布を求めた。伝熱解析はシミュレーションソフトCGSimを用いて行った。また点欠陥数値解析はKozo Nakamura et al., "Experimental Study of the Impact of Stress on the Point Defect Incorporation during Silicon Growth" ECS Solid State Letters, 3(3) N5-N7(2014) に記載される手法を用いて行った。
一方、図12(b)に示すように、実際に引き上げたシリコン単結晶の欠陥分布を評価し、この評価結果から結晶中心のPv−OSF境界を読み取ると共に、その位置に対応する相対空孔過飽和度を図12(a)から読み取った。例えば、図12(a)及び(b)の場合、結晶中心のPv−OSF境界は矢印で示す位置となり、相対空孔過飽和度は約2.2×1012cm−3となる。
図13は、上述した5つの結晶引き上げ条件(条件#1〜#5)の600±200℃の滞在時間と結晶中心のPv−OSF境界の相対空孔過飽和度との関係を示す散布図であり、横軸は600±200℃の滞在時間RT−1(×10−3/min−1)、縦軸はPv−OSF境界の相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSF(×1012/cm3)をそれぞれ示している。なお横軸のRT−1は逆数であるため、値が大きい右側ほど滞在時間が短くなり、逆に値が小さい左側ほど滞在時間が長くなることを示している。
図13に示すように、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFは600±200℃の滞在時間RTに反比例することが分かる。滞在時間RT−1が例えば1/1.3であれば、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度は6となるが、滞在時間RT−1が例えば1/1のように長くなると、相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFが小さくなり、これによりPvPiセンターマージンも狭くなる。逆に、滞在時間RT−1が1/2.5のように短くなると、相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFが大きくなり、これによりPvPiセンターマージンも広くなる。
さらに、図13に示した5つのプロット値の回帰直線から以下の関係式を導き出すことができた。
ΔCV_Pv-OSF=6.194×1015(RT)−1−2.818×1012 (1)
このように、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFは600±200℃の滞在時間RTの影響を受けており、滞在時間RTが短ければPv−OSF境界の相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFが大きくなることが分かった。結晶中心のPv−OSF境界の相対空孔過飽和度ΔCV_Pv-OSFが大きくなればPvPiセンターマージンも広がり、さらにPvPi面内マージンも広がるので、無欠陥結晶の引き上げが可能となる。さらに、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度となる600±200℃の滞在時間よりも短い滞在時間となるように結晶引き上げ速度Vやホットゾーンなどの結晶引き上げ条件を制御することにより、Pv領域又はPi領域からなる無欠陥結晶を育成することが可能となる。
上記関係式を用いて冷却条件を制御する方法は以下のとおりである。まず、育成結晶の温度分布を伝熱解析により求め、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度とシリコン単結晶の600±200℃の温度域の滞在時間との関係式を用いた点欠陥数値解析を行うことにより、目標とするPvPiマージン(例えば0.015mm/min)が得られるシリコン単結晶の600±200℃の温度域の基準滞在時間を決定する。その後、前記結晶育成条件下で結晶育成工程を行い、さらに冷却工程を行う。冷却工程では、シリコン単結晶の600±200℃の温度域の実際の滞在時間が基準滞在時間以下となるように、シリコン単結晶の冷却速度を制御する。特に、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度をΔCV_Pv-OSF(×1012/cm3)とし、シリコン単結晶の600±200℃の温度域の実際の滞在時間をRT(×10−3/min−1)とするとき、
ΔCV_Pv-OSF≦6.194×1015(RT)−1−2.818×1012
を満たすようにシリコン単結晶の冷却条件を制御すればよい。このような条件でシリコン単結晶を冷却することにより、PvPiマージンを拡大して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
図14は、450mm結晶を水冷式のホットゾーンで引き上げた条件#5の解析結果であって、(a)は実際に引き上げたシリコン単結晶中の欠陥分布、(b)はPv−OSF境界の相対空孔過飽和度の従来の指標(固定値)を用いて点欠陥数値解析した場合に得られる欠陥分布、(c)は新たな指標(600±200℃の滞在時間の関数)を用いて点欠陥数値解析した場合に得られる欠陥分布をそれぞれ示している。
図14(b)に示す従来の指標を用いて計算した欠陥分布は、図14(a)に示す実際の評価結果と大きく異なり、PvPiセンターマージンの広さも大きく異なった。図14(b)に示した従来の指標を用いた点欠陥数値解析結果から引き上げ条件を決定する場合には、OSFが結晶中心部にディスク状に発生すると想定されるので、ギャップ(熱遮蔽体から融液表面までの距離)を大きくすべきと判断されることになる。
一方、図14(c)に示す新たな指標を用いて計算した欠陥分布は、図14(a)に示す実際の評価結果とほぼ一致しており、OSFの位置やPvPiセンターマージンの広さを正しく表現していることが分かった。図14(c)に示した新たな指標を用いた点欠陥数値解析結果から引き上げ条件を決定する場合には、結晶中心と外周側に発生するOSFがほぼ同じ位置(速度)で発生すると予想されるので、最適なギャップであると判断されることになる。
図15は、200mm結晶を水冷式のホットゾーンで引き上げた条件#1の解析結果であって、(a)は実際に引き上げたシリコン単結晶中の欠陥分布、(b)はPv−OSF境界の相対空孔過飽和度の従来の指標(固定値)を用いて点欠陥数値解析した場合に得られる欠陥分布、(c)は新たな指標(600±200℃の滞在時間の関数)を用いて点欠陥数値解析した場合に得られる欠陥分布をそれぞれ示している。
450mm結晶の解析結果と同様、図15(b)に示す従来の指標を用いて計算した欠陥分布は、図15(a)に示す実際の評価結果と大きく異なった。これに対し、図15(c)に示す新たな指標を用いて計算した200mm結晶の欠陥分布は、図15(a)に示した実際の評価結果とほぼ一致しており、OSFの位置やPvPiセンターマージンの広さを正しく表現していることが分かった。
このように、Pv−OSF境界の相対空孔過飽和度が600±200℃の滞在時間により変化するという効果を点欠陥数値解析に導入し、PvPi面内マージンの計算に利用することにより、点欠陥数値解析の精度が向上するので、ホットゾーンの設計や結晶引き上げ条件の設定に役立てることができる。また、600±200℃の滞在時間をどのくらい短くすればPv領域又はPi領域からなる無欠陥結晶を育成できるかを判断することが可能となる。
次に、450mmウェーハ用シリコン単結晶の製造において、シリコン融液から引き上げられた後の600±200℃の温度域の滞在時間を短くするため、冷却工程(S17)を利用したシリコン単結晶3の急冷を行った。その際、石英ルツボ11へのシリコン原料の充填量を500kgとし、シリコン単結晶3のボディ部3cの長さを1000mmとした。
冷却工程直前の800〜400℃の温度域を結晶トップ側へ持って行くためには、結晶全体を温めるホットゾーンになっていなければならない。ホットゾーン条件としては、図16に示すように、水冷体21のみを設けた従来構造(比較例)、サブヒータ22のみを設けた構造(実施例1)、水冷体21とサブヒータ22の両方を設けた構造(実施例2)の3通りとした。サブヒータ22の温度は約1000℃に設定した。
図17は、シリコン単結晶の結晶成長方向の位置と800〜400℃の滞在時間との関係を示すグラフであり、横軸はシリコン単結晶の結晶成長方向の位置L(mm)、縦軸は800〜400℃の滞在時間(min)をそれぞれ示している。
図17に示すように、水冷体21のみを設置した比較例において、ボディ部育成工程S15中の800〜400℃の滞在時間はほぼ一定であり、テール部育成工程S16中の前記滞在時間は結晶ボトム側でわずかに増加し、冷却工程S17の開始直前にピークを形成した。その後、800〜400℃の滞在時間は冷却工程S17の急冷効果により急激に低下した。800〜400℃の滞在時間が短くなる結晶領域は、結晶トップ側から約300mm以降(300〜1000mmの範囲)であった。
これに対し、サブヒータ22のみを設置して800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げた実施例1において、800〜400℃の滞在時間が短くなる結晶領域は、結晶トップ側から約0mm以降(0〜1000mmの範囲)であった。すなわち、結晶の800〜400℃の滞在時間が低下し始める位置が結晶トップ側にシフトし、これにより800℃の温度位置が結晶トップ側に持ち上がった。さらに、サブヒータ22と水冷体21の両方を設置した実施例2において、800〜400℃の滞在時間が短くなる結晶領域は、結晶トップ側から約100mm以降(100〜1000mmの範囲)であった。
図18は、シリコン単結晶の結晶成長方向の位置とPvPiセンターマージンとの関係を示すグラフであり、横軸はシリコン単結晶の結晶成長方向の位置L(mm)、縦軸はPvPiセンターマージンΔV(mm/min)をそれぞれ示している。
図18に示すように、水冷体21のみを設置した比較例において、結晶トップ側から約800mm以下の結晶領域でPvPiセンターマージンが0.02mm/min以上となった。これに対し、サブヒータ22のみを設置して800℃の温度位置を結晶トップ側に持ち上げた実施例1では、結晶トップ側から約400mm以下の結晶領域でPvPiセンターマージンが0.02mm/min以上となった。さらにサブヒータ22と水冷体21の両方を設置した実施例2では、結晶トップ側から約500mm以下の結晶領域でPvPiセンターマージンが0.02mm/min以上となった。
比較例及び実施例1、2によるシリコン単結晶のボディ部の結晶引き上げ速度及び無欠陥結晶領域の長さを表3に示す。
表3に示すように、まず水冷体21のみを設けた比較例によるホットゾーン内でシリコン単結晶3を引き上げたときのボディ部3cの引き上げ速度Vは0.35mm/minとなり、またPv領域又はPi領域となる無欠陥結晶領域(第1の結晶領域)の長さは220mmとなった。
また、サブヒータ22のみを設けた実施例1によるホットゾーン内でシリコン単結晶3を引き上げたときのボディ部3cの引き上げ速度Vは0.26mm/minとなり、また無欠陥結晶領域の長さは620mmとなった。比較例と比べると、実施例1の引き上げ速度Vは低下したが、無欠陥結晶領域は約2.8倍増加した。すなわちサブヒータ22のみを設けたことにより、無欠陥結晶の製造歩留まりは向上したが、引き上げ速度の低下により生産性が低下した。
さらに、サブヒータ22の下方に水冷体21を設けた実施例2によるホットゾーン内でシリコン単結晶3を引き上げたときのボディ部3cの引き上げ速度Vは0.33mm/minとなり、また無欠陥結晶領域の長さは490mmとなった。比較例と比べると、引き上げ速度Vが大きく低下することなく、無欠陥結晶領域は約2.2倍増加した。すなわちサブヒータ22と水冷体21の両方を設けたことにより、無欠陥結晶の製造歩留まりの向上と引き上げ速度のアップによる生産性の向上を図ることができた。