JP2018026306A - 蓄電装置 - Google Patents

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晶 小島
剛志 牧
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剛志 牧
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智之 河合
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Abstract

【課題】電流遮断装置を具備する長寿命の蓄電装置を提供すること【解決手段】 正極と、負極と、電解液と、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置とを具備する蓄電装置であって、前記電解液の25℃での蒸気圧Pが5.6kPa以下であること、及び/又は前記電解液の25℃での蒸気圧Pと、前記電解液に含まれる有機溶媒のみの25℃での蒸気圧Psolventとの関係が、P≦0.75×Psolventであること、を特徴とする蓄電装置。【選択図】図3

Description

本発明は、蓄電装置に関する。
一般に、二次電池等の蓄電装置は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。そして、電解液には、適切な電解質が適切な濃度範囲で添加されている。例えば、リチウムイオン二次電池の電解液には、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、CFSOLi、(CFSONLi等のリチウム塩が電解質として添加されるのが一般的であり、ここで、電解液におけるリチウム塩の濃度は、概ね1mol/Lとされるのが一般的である。
電解液に用いられる有機溶媒には、電解質を好適に溶解させるために、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネートを約30体積%以上で混合して用いるのが一般的である。
実際に、特許文献1には、エチレンカーボネートを33体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
また、二次電池の性能を向上させる目的で、リチウム塩を含む電解液に種々の添加剤を加える研究が盛んに行われている。
例えば、特許文献2には、エチレンカーボネートを30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液に対し、特定の添加剤を少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
また、特許文献3にも、エチレンカーボネートを30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む溶液に対し、フェニルグリシジルエーテルを少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
特許文献1〜3に記載のとおり、従来、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液においては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネートを約30体積%程度で含有する混合有機溶媒を用い、かつ、リチウム塩を概ね1mol/Lの濃度で含むことが技術常識となっていた。そして、特許文献2〜3に記載のとおり、電解液の改善検討においては、リチウム塩とは別個の添加剤に着目して行われるのが一般的であった。
特許文献4には、従来の当業者の着目点とは異なり、金属塩を高濃度で含み、金属塩と有機溶媒が新たな状態で存在する電解液が記載されている。
また、蓄電装置の安全面についての対策も検討されている。例えば、過充電時に発生するガスに因る内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置(Current Interrupt Device)を具備する蓄電装置が検討されている。実際に、特許文献5及び特許文献6には、電池内の圧力が上昇したときに、端子と電極に電気的に接続されている導電経路を破断することにより、電流を遮断する技術が開示されている。
特開2013−149477号公報 特開2013−145724号公報 特開2013−137873号公報 国際公開第2015/045389号 特開2013−131402号公報 特開2014−10967号公報
本発明者は、電流遮断装置を具備する蓄電装置についての検討を行ったところ、以下の課題を見出した。蓄電装置を充放電させると、電解液の一部が分解して、ガスが発生する。そして、充放電を繰り返すとガス発生量は増加して、いずれは蓄電装置の容器内の圧力が電流遮断装置の作動圧に達することとなる。蓄電装置の容器内の圧力が電流遮断装置の作動圧に達すると、過充電状態でなくても、電流遮断装置が作動するので、仮に、蓄電装置の正極、負極及び電解液が正常に動作可能であったとしても、蓄電装置の寿命はその時点で終了する。
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、電流遮断装置を具備する長寿命の蓄電装置を提供することを目的とする。
本発明者は、蓄電装置に具備される電解液の蒸気圧に着目した。そして、蒸気圧の低い電解液を採用すれば、蓄電装置の初期段階の容器内圧が低減されるため、蓄電装置が充放電を繰り返してガスを発生した場合でも、蓄電装置の容器内の圧力が電流遮断装置の作動圧に達するために要する期間(以下、実用期間ということがある。)を延長できることを想起した。かかる知見に基づき、本発明者は、本発明を完成した。
本発明の蓄電装置は、
正極と、負極と、電解液と、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置とを具備する蓄電装置であって、
前記電解液の25℃での蒸気圧Pが5.6kPa以下であること、
及び/又は
前記電解液の25℃での蒸気圧Pと、前記電解液に含まれる有機溶媒のみの25℃での蒸気圧Psolventとの関係が、P≦0.75×Psolventであること、
を特徴とする。
本発明の蓄電装置は容器内の初期圧力が低いため、容器内の初期圧力が高い蓄電装置と比較して、実用期間が長い。
鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比とイオン伝導度との関係を表すグラフである。 評価例Cの各リチウムイオン二次電池における、経過日数と容器内圧力との関係を示すグラフである。 実施例1のリチウムイオン二次電池を示す断面模式図である。
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の蓄電装置は、電解液の25℃での蒸気圧Pが5.6kPa以下であること、及び/又は、電解液の25℃での蒸気圧Pと、電解液に含まれる有機溶媒のみの25℃での蒸気圧Psolventとの関係が、P≦0.75×Psolventであること、を特徴とする。そのため、電解質を1mol/L程度の濃度で含有する従来の一般的な電解液を具備する蓄電装置と比べて、本発明の蓄電装置は容器内の初期圧力が低い。
蒸気圧Pは、0.05〜5.6kPaの範囲内が好ましく、0.1〜4kPaの範囲内がより好ましく、0.15〜2kPaの範囲内がさらに好ましい。蒸気圧Pが低すぎる場合には、電解液の性質が固体に近づくことになるため、電荷担体として機能する金属イオンの伝導度が低下し過ぎるおそれがある。蒸気圧Pが高すぎると、従来の電解液と同等の蒸気圧となり、蓄電装置の長寿命化が為されないおそれがある。
PとPsolventとの関係は、0.01×Psolvent≦P≦0.75×Psolventを満足するのが好ましく、0.05×Psolvent≦P≦0.6×Psolventを満足するのがより好ましく、0.1×Psolvent≦P≦0.4×Psolventを満足するのがさらに好ましく、0.15×Psolvent≦P≦0.3×Psolventを満足するのが特に好ましい。
ラウールの法則によれば、気液平衡に達した溶液の蒸気圧低下は、溶媒と溶質のモル分率及びそれらの蒸気圧に依存する。電解液は、25℃で揮発性の有機溶媒と25℃で不揮発性の電解質を含有するため、25℃での電解液の蒸気圧は、有機溶媒の蒸気圧にそのモル分率を乗じた値に近似される。したがって、本発明の蓄電装置が具備する電解液(以下、単に「本発明の電解液」ということがある。)は、上述した蒸気圧の条件を満足するものであれば、いかなる種類の電解質及び有機溶媒を含有する電解液であってもよい。
電解質としては、蓄電装置の電解液に用いられるものであれば、制限されない。電解質として、単独の種類のものを採用してもよいし、複数種を併用してもよい。
電解質の具体例として、以下の一般式(1)で表されるリチウム塩、LiXO、LiAsX、LiPX、LiBX、LiB(Cを例示できる(ただし、Xはそれぞれ独立にF、Cl、Br、I又はCNを意味する。)。LiXO、LiAsX、LiPX、LiBXの好適な一態様として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiBF(CN)(ただし、yは0〜3の整数、zは1〜4の整数であり、y+z=4を満たす。)をそれぞれ例示できる。
(R)(RSO)NLi 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、下記一般式(1−1)で表されるものが好ましい。
(R)(RSO)NLi 一般式(1−1)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選
択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)で説明したのと同義である。
上記一般式(1−1)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−1)で表される化学構造の、RとRが結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、下記一般式(1−2)で表されるものがさらに好ましい。
(RSO)(RSO)NLi 一般式(1−2)
(R、Rは、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(1−2)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−2)で表される化学構造の、RとRが結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(1−2)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、(CFSONLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSONLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、又はFSO(CSO)NLiが特に好ましい。
蓄電装置の充放電時に、正極及び/又は負極の表面に好適な被膜を形成し得る点から、電解質としては、一般式(1)で表されるリチウム塩が好ましい。上記被膜の形成に因り、電極と電解液との直接接触を抑制できるため、電解液の分解を一定程度抑制することができる。そのため、蓄電装置の容器内の圧力上昇を抑制することができる。また、上記被膜は一般式(1)の化学構造に由来するS及びOを含有し、そして、S及びOはリチウムイオンと配位結合し得る非結合電子対を有するため、電解液と電極の界面におけるリチウムイオンの移動が円滑に為されると推定される。
一般式(1)で表されるリチウム塩の中でも、有機溶媒への溶解性、イオン伝導度などの観点から、LiFSAが特に好ましい。
好適な本発明の電解液には、電解液に含まれる全電解質に対し、LiFSAが70質量%以上若しくは70モル%以上で含まれるのが好ましく、80質量%以上若しくは80モル%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上若しくは90モル%以上で含まれるのがさらに好ましく、95質量%以上若しくは95モル%以上で含まれるのが特に好ましい。本発明の電解液に含まれる電解質すべてがLiFSAであってもよい。
有機溶媒としては、蓄電装置の電解液に用いられるものであれば、制限されない。有機溶媒として、単独の種類のものを採用してもよいし、複数種を併用してもよい。
有機溶媒の具体例として、以下の一般式(A)で表される鎖状カーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
20OCOOR21 一般式(A)
(R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
有機溶媒としては、一般式(A)で表される鎖状カーボネート(以下、単に「鎖状カーボネート」という場合がある。)が好ましい。その理由は以下のとおりである。
一般式(A)で表される鎖状カーボネートは、従来の電解液に用いられてきたエチレンカーボネート等の環状カーボネートと比較して、極性が低い。それゆえに、鎖状カーボネートと金属イオンとの親和性は、環状カーボネートと金属イオンとの親和性と比較して、劣ると考えられる。そうすると、主に鎖状カーボネートを含む電解液が蓄電装置の電解液として用いられた際には、蓄電装置の電極を構成するアルミニウムや遷移金属は、当該電解液にイオンとして溶解するのが困難であるといえる。
ここで、従来の一般的な電解液を用いた蓄電装置においては、正極を構成するアルミニウムや遷移金属は、特に高電圧充電環境下において高酸化状態となり、陽イオンである金属イオンとして電解液に溶解し(アノード溶出)、そして、電解液中に溶出した金属イオンは静電気的引力に因り電子リッチな負極に引き寄せられて、負極上で電子と結合することで還元され、金属として析出する場合があることが知られている。このような反応が起こると、正極の容量低下や負極上での電解液分解などが生じ得るため、電池性能が低下することが知られている。しかし、主に鎖状カーボネートを含む電解液には前段落に記載の特徴があるため、主に鎖状カーボネートを含む電解液を用いた蓄電装置においては、正極からの金属イオン溶出及び負極上の金属析出が抑制される。
しかも、一般式(A)で表される鎖状カーボネートは、酸化及び還元に対する安定性に優れている。加えて、一般式(A)で表される鎖状カーボネートは、自由回転可能な結合が多く存在し、柔軟な化学構造であるため、当該鎖状カーボネートを用いた本発明の電解液が高濃度のリチウム塩を含む場合であっても、その粘度の著しい上昇は抑えられ、高いイオン伝導度を得ることができる。
好適な本発明の電解液には、電解液に含まれる全有機溶媒に対し、上記鎖状カーボネートが、70質量%以上若しくは70モル%以上で含まれるのが好ましく、80質量%以上若しくは80モル%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上若しくは90モル%以上で含まれるのがさらに好ましく、95質量%以上若しくは95モル%以上で含まれるのが特に好ましい。本発明の電解液に含まれる有機溶媒すべてが上記鎖状カーボネートであってもよい。
なお、上記鎖状カーボネート以外に他の有機溶媒を含む本発明の電解液は、他の有機溶媒を含まない本発明の電解液と比較して、粘度が上昇する場合や、イオン伝導度が低下する場合がある。さらに、上記鎖状カーボネート以外に他の有機溶媒を含む本発明の電解液を用いた蓄電装置は、その反応抵抗が増大する場合がある。
一般式(A)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
一般式(A)で表される鎖状カーボネートのうち、下記一般式(A−1)で表されるものが特に好ましい。
22OCOOR23 一般式(A−1)
(R22、R23は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC、又は、環状アルキルを化学構造に含むCのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m−1=f+gを満たす。)
上記一般式(A−1)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
上記一般式(A−1)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
以上で説明した鎖状カーボネートは1種類を電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。鎖状カーボネートの複数を併用することで、電解液の低温流動性や低温でのリチウムイオン輸送性などを好適に確保することができる。特に、鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選択される2種又は3種を選択するのが好ましい。
鎖状カーボネートを複数選択する場合において、イオン伝導度及び低温流動性の観点から、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートのモル比をそれぞれX、Y、Z(ただし、X+Y+Z=100)とした場合、50≦X≦95、5≦Y+Z≦50を満足するモル比が好ましく、70≦X≦95、5≦Y+Z≦30を満足するモル比がより好ましく、85≦X≦95、5≦Y+Z≦15を満足するモル比がさらに好ましい。
蒸気圧の測定方法は、公知の方法を採用すればよい。公知の蒸気圧測定方法として、静止法、沸点測定法、気体流通法(気体流動法)を例示できる。公知の蒸気圧測定方法にて、25℃に調温した電解液や有機溶媒の蒸気圧を測定してもよいし、また、アントワン式を利用して、他の温度における蒸気圧の値から25℃の蒸気圧の値を算出してもよい。参考までに、ジメチルカーボネートの25℃での蒸気圧は7.4kPaである。
以上のとおり、本発明の電解液の電解質としては、一般式(1)で表されるリチウム塩が好ましく、本発明の電解液の有機溶媒としては、一般式(A)で表される鎖状カーボネートが好ましい。そして、本発明の電解液の蒸気圧の条件を満足するために、本発明の電解液には、一般式(1)で表されるリチウム塩に対する一般式(A)で表される鎖状カーボネートがモル比6以下で含まれるのが好ましい。なお、従来の電解質を1mol/Lで含有する電解液において、電解質に対する有機溶媒のモル比は10程度である。
蒸気圧とイオン伝導度の観点を併せて考慮すると、モル比は2〜6の範囲内が好ましく、モル比は3〜5.5の範囲内がより好ましく、モル比は4〜5の範囲内がさらに好ましい。
ここで、本発明の電解液の一態様として、電解質として(FSONLi、有機溶媒としてDMCを含み、かつ、(FSONLiに対しDMCがモル比6で含まれているモル比6の電解液について考察する。
モル比6の電解液中で、(FSONLiがLiと(FSOとに解離していると仮定する。そうすると、モル比6の電解液の構成成分のモル分率は、DMCが6/8、Liが1/8、(FSOが1/8となる。そして、25℃において、Liと(FSOは不揮発性である。ここで、DMCのみの25℃での蒸気圧をPDMCとすれば、ファントホッフの因子を考慮に入れたラウールの法則から、モル比6の電解液の蒸気圧Pは、P=PDMC×6/8=0.75×PDMCで算出される。
ただし、ラウールの法則は、溶液が理想溶液であることを前提条件とする。しかし、本発明の電解液において、電解質と有機溶媒とは、互いに分子間力を及ぼしていると考えられるため、本発明の電解液は理想溶液ではない。しかも、分子間力の程度は、モル比が小さいほど顕著に大きくなると予測される。そうすると、本発明の電解液において有機溶媒の気液平衡は液体側に向かうことが予測されるため、モル比6の電解液の蒸気圧Pは前段落の計算値よりも著しく小さくなると考えられる。
さて、好適な本発明の電解液中において、隣り合うリチウムイオン間の距離は極めて近い。そして、二次電池の充放電時にリチウムイオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のリチウムイオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該リチウムイオンがあった場所には、当該リチウムイオンに隣り合う他のリチウムイオンが移動する。つまり、好適な本発明の電解液中においては、隣り合うリチウムイオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のリチウムイオンの移動距離は短く、その分だけリチウムイオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、好適な本発明の電解液を有する二次電池の反応速度は高いと考えられる。
また、本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。公知の添加剤の一例として、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)に代表される不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネートに代表されるカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物に代表されるカルボン酸無水物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4−ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィドに代表される含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミドに代表される含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩に代表されるリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタンに代表される飽和炭化水素化合物;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランに代表される不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
本発明の蓄電装置には、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置(Current Interrupt Device)が具備される。電流遮断装置を効果的に作動させるために、本発明の電解液には、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランに代表される不飽和炭化水素化合物などの、過充電時にガスを放出する化合物(以下、ガス放出化合物という。)を添加するのが好ましい。
ガス放出化合物としては、過充電状態、例えば概ね4.2Vを超える電圧が存在する状態で、分解される化合物が採用される。ガス放出化合物としては、単独の化合物を採用してもよいし、複数の化合物を併用してもよい。
本発明の電解液におけるガス放出化合物の配合量は、電解液全体の質量に対し、ガス放出化合物が0.1〜10質量%で含まれるのが好ましく、1〜7質量%で含まれるのがより好ましく、2〜6質量%で含まれるのがさらに好ましい。
ガス放出化合物のうち、芳香族基、電子供与基及び/又は電子吸引基に結合する炭素(以下、α炭素ということがある。)に水素が結合している化合物は、過充電状態において、電子が失われると共にα炭素に結合していた水素がプロトンとして離脱して、α炭素上にラジカルを有するラジカル中間体を生成すると推定される。そして、当該ラジカル中間体は、芳香族基などの隣接基の関与により、安定化される。当該ラジカル中間体が比較的安定であることは、過充電状態におけるガス放出化合物の分解の推進力となる。上記ラジカル中間体は、以下の段落で述べる重合反応に寄与することができる。また、離脱したプロトンは負極側に移動して、電子を受け取り、水素ガスになると考えられる。
ガス放出化合物としては、過充電に因る分解により、重合反応を引き起こすものが好ましい。かかる重合反応は、ガス放出化合物をモノマー若しくはモノマー前駆体として進行する反応でもよいし、電解液に含まれる他の成分をモノマー若しくはモノマー前駆体として進行する反応でもよい。重合反応により生成した重合体は主に正極表面に存在する。そして、通常、重合体は高抵抗体であるため、重合体の存在により、過充電の進行が抑制される。
例えば、ビフェニルをガス放出化合物として用いると、ポリ(p−フェニレン)タイプの重合体が正極表面に生成すると共に水素ガスが発生することが知られている(Electrochimca Acta,49,24,4189−4196,2004)。ビフェニルの酸化に引き続いて起こる2量化又は重合体化にて、化学構造の安定化のために、プロトンが離脱し、当該プロトンが負極で還元されることで、水素ガスが発生すると考えられる。
ガス放出化合物としては、過充電に因る分解により、電解液に含まれるカーボネートなどの分解を促進する分解促進剤として機能し得る化合物でもよい。そして、カーボネートは、分解により、二酸化炭素を発生し、かつ、重合体を生成すると考えられる。したがって、鎖状カーボネートを含む本発明の電解液は、ガス発生による内部圧力の上昇及び重合体の生成の両者により、効果的な過電流抑制が為されると考えられる。例えば、tert−ブチルベンゼンをガス放出化合物として用いると、カーボネートが分解して二酸化炭素が発生することが報告されている(Electrochemistry,71,1231,2003)。
ガス放出化合物のうち、α炭素に水素が結合し、かつ、α炭素に結合するβ炭素にも水素が結合している化合物は、過充電に因る分解により、まず、α炭素に結合した水素が離脱することでラジカルが生じ、次いで、β炭素に結合した水素が離脱するとともに、α炭素及びβ炭素間に二重結合を形成して、分解反応が進行すると推定される。分解反応によって生成した二重結合は、重合反応に寄与すると考えられる。
以下に、α炭素及びβ炭素の両者に水素が結合している化合物であるエチルベンゼンの推定される分解機構の一例を記述する。
<正極側反応>
CH−CH → CCH・−CH + e + H
CH・−CH → CCH=CH + e + H
<負極側反応>
2H + 2e → H(gas)
また、複数のガス放出化合物を併用した場合、比較的低い電圧で分解するガス放出化合物は、他のガス放出化合物の分解促進剤として機能し得る。例えば、シクロヘキシルベンゼンとビフェニルを併用した本発明の電解液の場合、まず、低電圧で分解するビフェニルが分解してラジカル中間体となり、次に、当該ラジカル中間体がシクロヘキシルベンゼンのベンジル位の水素を引き抜き、そして、水素を引き抜かれたシクロヘキシルベンゼンからさらに一水素が離脱して、1−シクロヘキセニルベンゼンが生成する。1−シクロヘキセニルベンゼンは重合体のモノマーとして作用して重合体となるか、又は、さらなる水素離脱によりビフェニルとなり、分解すると考えられる。
ガス放出化合物の具体例として、下記一般式(2−1)〜(2−5)で表される有機化合物を例示できる。
Ar30−(CR303132 一般式(2−1)
(Ar30は置換基を有していてもよい芳香族基である。
nは0以上の整数である。
30、R31、R32は、それぞれ独立に、水素、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。R30、R31及び/又はR32はこれらが結合する炭素と共に環構造を形成してもよい。また、Ar30はR30及び/又はR31と結合して環構造を形成してもよい。)
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、芳香族基としては、炭素骨格のアリール基と、骨格にヘテロ元素が存在するヘテロアリール基がある。
アリール基としては、フェニル基、インデニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基を例示できる。
ヘテロアリール基としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、チオフェニル基、フラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基を例示できる。
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、アルキル基の形状としては、直鎖型、分岐型又は環状のいずれのものでもよい。アルキル基の炭素数には特に制限がないが、入手若しくは製造の容易性から炭素数1〜18のアルキルが好ましく、炭素数1〜12のアルキルがより好ましく、炭素数1〜6のアルキルが特に好ましい。環状アルキルの場合には、炭素数3〜8のものが好ましい。
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、アルケニル基又はアルキニル基の形状としては、直鎖型、分岐型又は環状のいずれのものでもよい。アルケニル基又はアルキニル基の炭素数には特に制限がないが、入手若しくは製造の容易性から炭素数2〜18のアルケニル又はアルキニルが好ましく、炭素数2〜12のアルケニル又はアルキニルがより好ましく、炭素数2〜6のアルケニル又はアルキニルが特に好ましい。環状アルケニル又は環状アルキニルの場合には、炭素数5〜8のものが好ましい。
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば、「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基で置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
上記置換基としては、ガス放出化合物の分解により生じるラジカル中間体を安定化するものが好ましい。例えば、ラジカルが生じ得る炭素には、複数の電子供与基や電子吸引基が置換基として存在して、ラジカルを安定化することが好ましい。また、上記置換基としては、特定の電圧で分解を引き起こすものが好ましい。
好ましい置換基として、フルオロ基、メトキシ基、2−プロピル基、tert−ブチル基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、2−メトキシ−2−プロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−tert−ブトキシ−2−プロピル基、−SOR、−OCOOR、−OSOR、−SONRR、−OCOR(ただし、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。各基などの定義は、上記一般式(2−1)で表される化学構造で述べた説明のとおりである。)を挙げることができる。
上記一般式(2−1)で表される化学構造におけるnとしては、具体的に、0、1、2、3、4、5、6を例示できる。
上記一般式(2−1)で表される化学構造において、R30、R31、R32のいずれかが水素のものは、分解に因り、好適に水素ガスを発生し得る。
一般式(2−1)の一態様として、一般式(2−1−1)で表される化合物を例示できる。一般式(2−1−1)で表される化合物は、分解に因り、より好適に水素ガスを発生し得る。
Ar30−(CHR30CHR3132 一般式(2−1−1)
(Ar30、n、R30、R31、R32は、上記一般式(2−1)で述べた説明のとおりである。)
nが0である具体的な一般式(2−1)で表される化合物として、チオフェン、3−フルオロチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ブロモチオフェン、フラン、ヘキサフルオロベンゼン、1,3−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−tert−ブトキシ−2−プロピル)ベンゼンを例示できる。
nが1以上である具体的な一般式(2−1)で表される化合物として、トルエン、エチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン、1−クロロ−4−tert−ブチルベンゼン、1−ブロモ−4−tert−ブチルベンゼン、1−ヨード−4−tert−ブチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチルベンゼン、1−メチル−4−tert−ペンチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ペンチルベンゼン、1,4−ジ−tert−ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、4−tert−ブチルトルエン、3,5−ジ−tert−ブチルトルエン、1,4−ジクロロ−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−p−キシレン、1,4−ビス(メトキシメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン、2,2−ジフェニルプロパン、(3−メチル−ペンタ−3−イル)ベンゼン、(3−エチル−ペンタ−3−イル)ベンゼン、2−(1−アダマンチル)−4−ブロモアニソール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ビス(3,4−ジメチルフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ビス(4−メトキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ビス(4−tert−ブトキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ビス(4−(メトキシメトキシ)フェニル)プロパン、2,5−ジーシクロヘキシル−ベンゼンスルホン酸フェニル、2,4,6−トリ−シクロヘキシル−フェニル ベンジル カーボネート、メタンスルホン酸2,4,6−トリ−シクロヘキシル−フェニル、N,N−ジブチル−2,4,6−トリ−シクロヘキシルベンゼンスルホン酸アミド、1,2−エタンジスルホン酸ジ−5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル、N,N’−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチルスルホニル)−N,N’−ジメチル−エチレンジアミン、1,9−ノナン二酸ビス(2−シクロヘキシルフェニル)、1,4−ブタン二酸ジ−5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−アセトキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−エトキシカルボニルオキシ−フェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(2,4,6−トリ(2−プロピル)フェニルスルホニルオキシ)ベンゼン、1,4−ブタン二酸ビス(4−(2−プロピル)−フェニル)、ターフェニルの部分水素化体を例示できる。
Ar31−(Ar32 一般式(2−2)
(Ar31、Ar32は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。nは1以上の整数である。)
一般式(2−2)における各基などの定義は、上記一般式(2−1)で表される化学構造で述べた説明のとおりである。
上記一般式(2−2)で表される化学構造におけるnとしては、具体的に、1、2、3を例示できる。
具体的な一般式(2−2)で表される化合物として、ビフェニル、4−メチルビフェニル、3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジメトキシビフェニル、o−ターフェニル、m−ターフェニル、p−ターフェニル、メタンスルホン酸(2,6−ジフェニル)フェニルを例示できる。
Ar33−(Y−R33 一般式(2−3)
(Ar33は置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。
YはO、S、Nから選択され、YがO若しくはSの場合、mは1であり、YがNの場合、mは2である。
nは1以上の整数である。
33は、それぞれ独立に、水素、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。R33はY及びAr33と共に環構造を形成してもよい。YがNの場合に2つのR33はこれらが結合するNと共に環構造を形成してもよい。また、nが2以上の場合、複数のR33が共同して環構造を形成してもよい。)
一般式(2−3)における各基などの定義は、上記一般式(2−1)で表される化学構造で述べた説明のとおりである。
上記一般式(2−3)で表される化学構造におけるnとしては、具体的に、1、2、3、4、5、6を例示できる。
具体的な一般式(2−3)で表される化合物として、アニソール、1,2−ジメトキシベンゼン、4−メチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、2,6−ジメチルアニソール、3,4−ジメチルアニソール、1,3,5−トリメトキシベンゼン、2,6−ジメトキシトルエン、3,4,5−トリメトキシトルエン、2,4,6−トリメトキシトルエン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリメトキシベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタメチルアニソール、2,3,4,5,6−ペンタフルオロアニソール、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン、1,3,5−トリフルオロ−2,4,6−トリメトキシベンゼン、4−フェニルモルフォリン、1,3−ベンゾジオキソール、3,4,5,6−テトラメチル−1,2−(メチレンジオキシ)ベンゼン、1,4−ベンゾジオキソラン、インドリン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、ジュロリジン、テトラメチルジュロリジン、トリス(4−ブロモフェニル)アニリン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランを例示できる。
Cy−(Y−R34 一般式(2−4)
(Cyは置換基を有していてもよい飽和炭素環基、置換基を有していてもよい飽和複素環基から選択される。
nは1以上の整数である。
YはO、S、Nから選択され、YがO若しくはSの場合、mは1であり、YがNの場合、mは2である。
34は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基から選択される。R34はY及びCyと共に環構造を形成してもよい。YがNの場合に2つのR34はこれらが結合するNと共に環構造を形成してもよい。また、nが2以上の場合、複数のR34が共同して環構造を形成してもよい。)
一般式(2−4)におけるCy及び/又はR34に関し、Yに結合する炭素に水素が結合しているものが好ましく、また、その炭素に結合する炭素にも水素が結合しているものがより好ましい。
飽和炭素環としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、デカヒドロナフタレン、テトラデカヒドロアントラセン、ヘキサデカヒドロピレンを例示できる。
飽和複素環としては、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オキセパン、チエタン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン、チエパン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、モルホリンを例示できる。
一般式(2−4)における、他の基などの定義は、上記一般式(2−1)で表される化学構造で述べた説明のとおりである。
上記一般式(2−4)で表される化学構造におけるnとしては、具体的に、1、2、3、4、5、6を例示できる。
具体的な一般式(2−4)で表される化合物として、メトキシシクロヘキサン、エトキシシクロヘキサン、1−プロピルオキシシクロヘキサン、プロパン−2−イルオキシシクロヘキサン、1−ブチルオキシシクロヘキサン、1−ペンチルオキシシクロヘキサン、1−メトキシ−3−メチルシクロヘキサン、1−メトキシ−2,3−ジメチルシクロヘキサン、1−メトキシ−4−(2−メトキシエチル)シクロヘキサン、1−メトキシ−3−メチル−6−(2−プロピル)シクロヘキサン、1−シクロへキシル−4−メトキシ−シクロヘキサン、2−メトキシ−デカヒドロナフタレン、1−メトキシカルボニル−2−メトキシシクロヘキサン、N,N−ジメチル−1−アミノ−4−メトキシシクロヘキサン、1,4−ジメトキシシクロヘキサン、ジシクロヘキシルエーテル、4−メトキシ−ヘキサデカヒドロピレンを例示できる。
353637C−COOR38 一般式(2−5)
(R35、R36、R37はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよい芳香族基、置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、NR3940(R39、R40はそれぞれ独立にアルキル基、芳香族基、飽和複素環基から選択される。)から選択される。
35、R36及び/又はR37は、これらが結合する炭素と共に環構造を形成してもよい。
38は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケン基、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよい芳香族基から選択される。)
一般式(2−5)において、R35、R36、R37のいずれかが芳香族基のものが好ましく、また、R38に関し、Oに結合する炭素に水素が一つ結合しているものが好ましい。
一般式(2−5)における各基などの定義は、上記一般式(2−1)及び一般式(2−4)で表される化学構造で述べた説明のとおりである。
具体的な一般式(2−5)で表される化合物として、2−メチル−2−フェニルプロパン酸2−プロピル、2−メチル−2−フェニルプロパン酸シクロヘキシル、1−(4−メチルフェニル)−1−(2−プロピルオキシカルボニル)シクロヘキサン、2−メチル−2−フェニルプロパン酸シクロヘキセン−2−イル、2,2−ジフェニルプロパン酸2−プロピル、N,N,2−トリメチル−2−アミノプロパン酸2−プロピル、2−メトキシ−2−メチルプロパン酸2−プロピル、2−(4−(2−メチルプロパン−1−イル)−フェニル)−プロパン酸2−プロピル、2,2−ジフェニルエタン酸2−プロピルを例示できる。
本発明の電解液の密度d(g/cm)について述べる。なお、本明細書において、密度とは20℃での密度を意味する。本発明の電解液の密度d(g/cm)は好ましくは1.0≦dであり、1.1≦dがより好ましい。
参考までに、代表的な有機溶媒の密度(g/cm)を表1に列挙する。
Figure 2018026306
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、3<η<50の範囲が好ましく、4<η<40の範囲がより好ましく、5<η<30の範囲がさらに好ましい。
また、電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、電解液中でイオンが移動し易い。このため、このような電解液は優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2≦σ<100の範囲が好ましく、3≦σ<50の範囲がより好ましく、4≦σ<30の範囲がさらに好ましい。
上述したように、好適な本発明の電解液を具備する本発明の蓄電装置は、充放電時において、電極の表面に好適な被膜を形成するため、電解液の過剰な分解を抑制することができる。そのため、好適な本発明の蓄電装置は、電解液の分解に因るガス発生量を抑制することができるため、実用期間が長くなる。
また、一般に、長寿命の蓄電装置を提供するには、電解液の経時的な分解や、蓄電装置の容器外への電解液の離脱を考慮する必要がある。具体的には、蓄電装置に具備される電解液の量を、経時的な分解や蓄電装置の容器外への離脱を考慮して、多くの余剰量を含む量とする必要があった。ここで、蓄電装置の容器内に、余剰の電解液を大量に添加すると、容器内を気体が占める空間Vgasが相対的に小さくなる。そうすると、電解液のわずかな分解に因ってわずかな気体が生じた場合であっても、蓄電装置の容器内の圧力上昇が顕著となることが想定される。
しかしながら、本発明の電解液は一般的な電解液と比較して蒸気圧が低いと解され、さらに、好適な本発明の電解液を具備する本発明の蓄電装置は、電解液の過剰な分解を抑制することができる。そのため、本発明の蓄電装置においては、電解液の余剰量を低減することが可能となる。
そうすると、本発明の蓄電装置が、正極と、負極と、セパレータとを具備する二次電池の場合は、以下の発明を把握することができる。
本発明の電解液と、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、セパレータとを具備する二次電池であって、
前記電解液の体積が、前記正極活物質層の空隙体積、前記負極活物質層の空隙体積及び前記セパレータの空隙体積の合計である必須電解液体積Vessentialと、余剰電解液体積Vspareとの合計からなり、
必須電解液体積Vessentialに対する余剰電解液体積Vspareの比(Vspare/Vessential)が0.15以下である二次電池。
上記二次電池に含まれる電解液の体積について説明する。電解液の体積は、正極活物質層の空隙体積、負極活物質層の空隙体積及びセパレータの空隙体積の合計である必須電解液体積Vessential(以下、Vと略す場合がある。)と、余剰電解液体積Vspare(以下、Vと略す場合がある。)との合計からなる。
は、二次電池を設計された容量で稼働させるために必要な電解液の体積である。Vは、二次電池の構成要素により、一義的に決定される。他方、Vは、製造直後の二次電池の稼働には必要のない、余剰な電解液の体積である。Vは、電解液の経時的な分解や二次電池の容器外への電解液の離脱が生じたときに、電解液の体積がVを下回ることを回避する目的で、予め二次電池の容器内に添加される電解液の体積である。
好適な本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、経時的な分解や稼働時の分解が抑制されることを、本発明者は見出した。また、上述のとおり、本発明の電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低いため、従来の電解液と比較して、有機溶媒の揮発量を低減できることを期待できる。以上の事情から、本発明の二次電池に含まれる電解液におけるVは、従来の電解液を具備する二次電池におけるVよりも、小さい値で足りる。
上記二次電池において、必須電解液体積Vに対する余剰電解液体積Vの比(V/V)は0.15以下である。V/Vの範囲を例示すると、0.01〜0.15、0.02〜0.10、0.03〜0.09、0.04〜0.08、0.01〜0.06を挙げることができる。
上記二次電池において、必須電解液体積Vに対する余剰電解液体積Vの比(V/V)を0.15以下とすることで、二次電池の容器内の圧力上昇を好適に抑制することができる。例えば、特定の内部体積の容器に収容される二次電池において、余剰電解液体積Vを過剰、すなわち(V/V)が0.15を超える値にした場合であれば、容器内を気体が占める空間Vgasが小さくなる。そうすると、電解液が分解して気体を発生した場合には、容器内の気体圧力全体に及ぼす影響が大きくなる。他方、特定の内部体積の容器に収容される二次電池において、(V/V)が0.15以下であれば、容器内を気体が占める空間Vgasが比較的大きくなる。したがって、電解液が分解して気体を発生した場合であっても、容器内の気体圧力全体に及ぼす影響が小さくなる。
なお、従来の電解液よりは分解速度が遅いものの、本発明の電解液が経時的に徐々に分解されることを鑑みると、上記二次電池は、ユーザーが使用する前の状態、すなわち、二次電池製造メーカーによって製造された状態を表現したものといえる。
本発明の蓄電装置は、正極と、負極と、電解液と、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置とを具備する。蓄電装置としては、二次電池、一次電池、キャパシタを例示できる。そして、二次電池としては、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池を例示でき、キャパシタとしては、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタを例示できる。以下、蓄電装置の代表として、リチウムイオン二次電池についての構成要素について、主に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置とを具備する。以下、正極、負極、及び、必要に応じて用いられるセパレータについて説明する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、メッシュなどの面を把握できる形状が好ましい。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。例えば、正極活物質として、層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn等のスピネル構造の金属酸化物、及びスピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極及び/又は負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
具体的な正極活物質として、層状岩塩構造をもつLiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiMnO、LiNiO、及びLiCoOを例示できる。他の具体的な正極活物質として、LiMnO−LiCoOを例示できる。
具体的な正極活物質として、スピネル構造のLixyMn2-y4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素及び/又は遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。より具体的には、LiMn、LiNi0.5Mn1.5を例示できる。
具体的な正極活物質として、LiFePO、LiFeSiO、LiCoPO、LiCoPO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOFを例示できる。
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Zr、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<90/100、10/100<c<90/100、5/100<d<70/100の範囲であることが好ましく、20/100<b<80/100、12/100<c<70/100、10/100<d<60/100の範囲であることがより好ましく、30/100<b<70/100、15/100<c<50/100、12/100<d<50/100の範囲であることがさらに好ましい。
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
また、正極活物質の平均粒子径は、1〜20μmの範囲内が好ましく、2〜15μmの範囲内がより好ましく、3〜10μmの範囲内がさらに好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
正極活物質は、BET比表面積が0.1〜5m/gの範囲のものが好ましく、0.2〜3m/gの範囲のものがより好ましく、0.3〜2m/gの範囲のものがより好ましい。
正極活物質層中に、正極活物質は70〜100質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、80〜99質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、88〜98質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましく、92〜97質量%の範囲内で含まれるのが特に好ましい。
以下、正極及び負極の両者についての結着剤及び導電助剤の説明をする。
結着剤は、活物質や導電助剤などを集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーを負極の結着剤として具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、より好適に容量を維持できる場合がある。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
また、例えば特開2013―065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ本発明のリチウムイオン二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると負極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
また、繊維状、鱗片状、板状などの形状(以下、これらの形状をまとめて「非球状」ということがある。)の導電助剤を用いること、又は、非球状の導電助剤を他の導電助剤と併用することが好ましい。非球状の導電助剤であれば、球状の導電助剤と比較して、長い導電経路を確保できる。そのため、活物質層の厚みが厚いことを規定する本発明のリチウムイオン二次電池の一態様においては、非球状の導電助剤を採用することで、より好適な充放電が可能となる。
非球状の導電助剤の平均粒子径としては、1〜30μmの範囲内が好ましく、2〜20μmの範囲内がより好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。また、非球状とは、導電助剤をX軸、Y軸、Z軸の3次元で表したときに、各軸方向の長さa、b、cにおいて、最小の長さに対する最長の長さの比が2以上であることを意味する。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
負極の集電体は、正極で説明したもののうち適切なものを採用すればよい。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
高容量化の可能性の点から、好ましい負極活物質として、黒鉛、ケイ素系材料、錫系材料を挙げることができる。
より具体的な負極活物質として、G/D比が3.5以上の黒鉛を例示できる。G/D比とは、ラマンスペクトルにおけるG−bandとD−bandのピークの比である。黒鉛のラマンスペクトルにおいては、G−bandが1590cm−1付近に、D−bandが1350cm−1付近にそれぞれピークとして観察される。G−bandはグラファイト構造に由来し、D−bandは欠陥に由来する。したがって、G−bandとD−bandの比であるG/D比が高いほど欠陥が少なく結晶性の高い黒鉛であることを意味する。以下、G/D比が3.5以上の黒鉛を高結晶性黒鉛、G/D比が3.5未満の黒鉛を低結晶性黒鉛と呼ぶことがある。
高結晶性黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも採用できる。形状による分類法では、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などを採用できる。また黒鉛の表面を炭素材料などで被覆したコート付き黒鉛も採用できる。
具体的な負極活物質として、結晶子サイズが20nm以下、好ましくは5nm以下の炭素材料を例示できる。結晶子サイズが大きいほど、原子がある規則に従い周期的かつ正確に配列している炭素材料であることを意味する。一方、結晶子サイズが20nm以下の炭素材料は、原子の周期性、及び配列の正確性に乏しい状態にあるといえる。例えば炭素材料が黒鉛であれば、黒鉛結晶の大きさが20nm以下であるか、歪み、欠陥、不純物等の影響によって黒鉛を構成する原子の配列の規則性が乏しい状態となることで、結晶子サイズは20nm以下になる。
結晶子サイズが20nm以下の炭素材料としては、いわゆるハードカーボンである難黒鉛化性炭素や、いわゆるソフトカーボンである易黒鉛化性炭素が代表的である。
炭素材料の結晶子サイズを測定するには、CuKα線をX線源とするX線回折法を用いればよい。当該X線回折法により、回折角2θ=20度〜30度に検出される回折ピークの半値幅と回折角を基に、次のシェラーの式を用いて、結晶子サイズを算出できる。
L=0.94 λ /(βcosθ)
ここで、
L:結晶子の大きさ
λ:入射X線波長(1.54Å)
β:ピークの半値幅(ラジアン)
θ:回折角
具体的な負極活物質として、ケイ素を含む材料を例示できる。より具体的には、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOにおけるSi相は、リチウムイオンを吸蔵及び放出でき、二次電池の充放電に伴って体積変化する。ケイ素酸化物相はSi相に比べて充放電に伴う体積変化が少ない。つまり、負極活物質としてのSiOは、Si相により高容量を実現するとともに、ケイ素酸化物相を有することにより負極活物質全体の体積変化を抑制する。なお、xが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎて二次電池のサイクル特性が低下する。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
なお、上記したSiOにおいては、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムとSi相のケイ素とによる合金化反応が生じると考えられている。そして、この合金化反応がリチウムイオン二次電池の充放電に寄与すると考えられている。後述するスズを含む負極活物質についても、同様に、スズとリチウムとの合金化反応によって充放電できると考えられている。
具体的な負極活物質として、スズを含む材料を例示できる。より具体的には、Sn単体、Cu−SnやCo−Snなどのスズ合金、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物を例示できる。アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1を例示でき、スズケイ素酸化物としてはSnSiOを例示できる。
上記したケイ素を含む材料、及び、スズを含む材料は、炭素材料と複合化して負極活物質とすることが好ましい。複合化に因り、特にケイ素及び/又はスズの構造が安定し、負極の耐久性が向上する。上記複合化は、既知の方法で行なえば良い。複合化に用いられる炭素材料としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等を採用すればよい。黒鉛は、天然黒鉛でもよく、人造黒鉛でもよい。
具体的な負極活物質として、Li4+xTi5+y12(−1≦x≦4、−1≦y≦
1))などのスピネル構造のチタン酸リチウム、LiTiなどのラムスデライト構造のチタン酸リチウムが例示できる。
具体的な負極活物質として、長軸/短軸の値が1〜5、好ましくは1〜3である黒鉛を例示できる。ここで、長軸とは、黒鉛の粒子の最も長い箇所の長さを意味する。短軸とは、前記長軸に対する直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。当該黒鉛には、球状黒鉛やメソカーボンマイクロビーズが該当する。球状黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素などの炭素材料であって、形状が球状又はほぼ球状であるものをいう。
球状黒鉛は、黒鉛を比較的破砕力の小さい衝撃式粉砕機で粉砕して薄片とし、当該薄片を圧縮球状化して得られる。衝撃式粉砕機としては、例えばハンマーミルやピンミルを例示できる。上記ミルのハンマー又はピンの外周線速度を50〜200m/秒程度として、上記作業を行うことが好ましい。上記ミルに対する黒鉛の供給や排出は、空気等の気流に同伴させて行うことが好ましい。
黒鉛は、BET比表面積が0.5〜15m/gの範囲のものが好ましく、2〜12m/gの範囲のものがより好ましい。BET比表面積が大きすぎると黒鉛と電解液との副反応が加速する場合があり、BET比表面積が小さすぎると黒鉛の反応抵抗が大きくなる場合がある。
また、黒鉛の平均粒子径は、2〜30μmの範囲内が好ましく、5〜20μmの範囲内がより好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
負極活物質層中に、負極活物質は90〜100質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、95〜99.5質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、96〜99質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましく、97〜98.5質量%の範囲内で含まれるのが特に好ましい。
特に、正極活物質として層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)を具備し、負極活物質として黒鉛を具備する本発明のリチウムイオン二次電池の一態様において、高容量型とするため、すなわち高容量及び高入出力との特性を両立させるためには、本発明のリチウムイオン二次電池は下記(A)〜(H)のいずれかの規定を満足することが好ましい。
(A)正極が有する正極活物質層の空隙率が50%以下
(B)正極が有する正極活物質層の密度が2.5g/cm以上
(C)正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の量が5mg/cm以上
(D)正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の厚みが50μm以上
(E)負極が有する負極活物質層の空隙率が50%以下
(F)負極が有する負極活物質層の密度が1.1g/cm以上
(G)負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の量が7mg/cm以上
(H)負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の厚みが50μm以上
正極と負極の双方を高容量とするためには、正極の集電体上に存在する正極活物質層が前記(A)〜(D)のいずれかを満足し、かつ、負極の集電体上に存在する負極活物質層が前記(E)〜(H)のいずれかを満足すればよい。
正極に関して、正極活物質層は前記(A)〜(D)のいずれかを満足すればよいが、前記(A)〜(D)のうち2つを満足するのが好ましく、前記(A)〜(D)のうち3つを満足するのがより好ましく、前記(A)〜(D)のすべてを満足するのがさらに好ましい。
(A)で規定する空隙率は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。(A)で規定する空隙率が小さいほど、正極活物質層に成分が密に充填されていることになる。敢えて(A)で規定する空隙率の下限値を例示すると、10%、15%、20%を挙げることができる。
(A)で規定する空隙率は、正極活物質層に含まれる成分の質量比及び真密度、並びに、正極活物質層の質量及び体積から算出することができる。なお、本明細書で説明する他の空隙率についても同様である。
(B)で規定する密度は、2.6g/cm以上が好ましく、2.7g/cm以上がより好ましく、2.8g/cm以上がさらに好ましい。敢えて(B)で規定する密度の上限値を例示すると、3.5g/cm、4.0g/cm、4.5g/cmを挙げることができる。なお、例えば、正極活物質の1種であるLiNi5/10Co2/10Mn3/10の真密度は4.8g/cmである。
(C)の「正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の量」とは、正極の集電体に接して存在する一つの正極活物質層に関する規定であり、正極の集電体の片面1平方センチメートルの面積上に存在する正極活物質層の質量を意味する(以下、「正極の目付け量」ということがある。)。正極の目付け量は、10mg/cm以上が好ましく、15mg/cm以上がより好ましい。敢えて、正極の目付け量の上限を例示すると、30mg/cm、40mg/cm、50mg/cmを挙げることができる。
(D)の「正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の厚み」とは、正極の集電体に接して存在する一つの正極活物質層に関する規定であり、正極の集電体の片面上に存在する正極活物質層の厚みを意味する(以下、単に「正極活物質層の厚み」ということがある。)。正極活物質層の厚みは、60μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。敢えて、正極活物質層の厚みの上限を例示すると、150μm、300μm、500μmを挙げることができる。
負極に関して、負極活物質層は前記(E)〜(H)のいずれかを満足すればよいが、前記(E)〜(H)のうち2つを満足するのが好ましく、前記(E)〜(H)のうち3つを満足するのがより好ましく、前記(E)〜(H)のすべてを満足するのがさらに好ましい。
(E)で規定する空隙率は、45%以下が好ましい。(E)で規定する空隙率が小さいほど、負極活物質層に成分が密に充填されていることになる。敢えて(E)で規定する空隙率の下限値を例示すると、20%、25%、30%を挙げることができる。
(F)で規定する密度は、1.2g/cm以上が好ましく、1.3g/cm以上がより好ましい。敢えて(F)で規定する密度の上限値を例示すると、1.6g/cm、1.8g/cm、2.0g/cmを挙げることができる。なお、例えば、負極活物質の1種である黒鉛の真密度は2.25g/cmである。
(G)の「負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の量」とは、負極の集電体に接して存在する一つの負極活物質層に関する規定であり、負極の集電体の片面1平方センチメートルの面積上に存在する負極活物質層の質量を意味する(以下、「負極の目付け量」ということがある。)。負極の目付け量は、8mg/cm以上が好ましく、10mg/cm以上がより好ましい。敢えて、負極の目付け量の上限を例示すると、15mg/cm、20mg/cm、30mg/cmを挙げることができる。
(H)の「負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の厚み」とは、負極の集電体に接して存在する一つの負極活物質層に関する規定であり、負極の集電体の片面上に存在する負極活物質層の厚みを意味する(以下、単に「負極活物質層の厚み」ということがある。)。負極活物質層の厚みは、70μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。敢えて、負極活物質層の厚みの上限を例示すると、150μm、300μm、500μmを挙げることができる。
高容量型の本発明のリチウムイオン二次電池は、上記(A)〜(H)の複数を満足するのが好ましく、そのすべてを満足するのがより好ましい。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含むスラリー状の組成物を調製し、これを集電体の表面に塗布後、乾燥して電極とする。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。また、上記スラリー状の組成物には、分散剤を添加してもよい。活物質層は集電体の片面に形成させてもよいが、集電体の両面に形成させるのが好ましい。電極密度を高めるべく、乾燥後の電極を圧縮するのが好ましい。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
セパレータは適切な空隙を有するものが良く、その空隙率は20〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。また、セパレータの厚みは、10〜40μmが好ましく、15〜30μmがより好ましい。
次に、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置について説明する。
電流遮断装置は、過充電時に発生するガスに因る内圧上昇に応じて、充電経路又は電流経路を遮断することにより、過充電の進行を停止させるための装置である。電流遮断装置は、蓄電装置内部における正極又は負極の集電体と外部に通ずる電極端子との間に配置される。電流遮断時には、電流遮断装置が正極又は負極の集電体と電極端子との間の電気的な接続を遮断する。電流遮断時以外の時は、正極又は負極の集電体と電極端子は、電流遮断装置を介して、電気的に接続されている。
電流遮断装置には、一定の圧力以上で電流遮断装置の導電部を流れる電流を遮断する電流遮断部が具備される。電流遮断部としては、通常時は導電部として作用するものの、一定の圧力以上で破断される破断予定部を具備する金属箔、金属板又は金属線を例示できる。破断予定部は、金属箔、金属板又は金属線において引張強度が低い箇所を意味する。引張強度が低い箇所としては、例えば、切欠けが形成された箇所を例示できる。また、電流遮断部としては、一定の圧力で導電と非導電を切り替えるスイッチ部を具備するものでもよいし、一定の圧力下で導電部を強制的に切断する切断部を具備するものでもよい。
具体的な電流遮断装置としては、特開2014−10967号公報、特開2016−066599号公報、特開平2−112151号公報、特開平10−208726号公報、特開2013−186954号公報、特開2013−229156号公報、特開2014−86176号公報などに記載された電流遮断装置を例示できる。
電流遮断装置の作動圧PCIDと、電解液の25℃での蒸気圧Pとの関係は、P<PCID/50を満たすことが好ましく、P<PCID/100を満たすことがより好ましく、P<PCID/200を満たすことがさらに好ましい。
本発明の蓄電装置の製造方法としては、Pが5.6kPa以下であること、及び/又は、PとPsolventとの関係がP≦0.75×Psolventであることを確認する工程、を含む製造方法を例示できる。さらに、PとPCIDとの関係を確認する工程を含むのが好ましく、具体的にはP<PCID/50を満足することを確認する工程を含む製造方法が好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。
正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体をリチウムイオン二次電池の容器に収容して、正極の集電体と電流遮断装置とを電気的に接続する。電流遮断装置から外部に通ずる正極端子までの間、及び、負極の集電体から外部に通ずる負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続する。そして、本発明の電解液を、本発明のリチウムイオン二次電池の容器に供給する。好適には、電極体の空隙体積から必須電解液体積Vを算出し、V/Vが0.15以下となるように、余剰電解液体積Vを決定する。そして、VとVとの合計量に該当する体積の本発明の電解液を、リチウムイオン二次電池の容器に供給する。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
上記の記載から、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法として、以下の製造方法も把握できる。
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法の一態様は、
正極活物質層の空隙体積、負極活物質層の空隙体積及びセパレータの空隙体積を合計して、必須電解液体積Vessentialを算出する工程、
spare/Vessentialが0.15以下となるように、余剰電解液体積Vspareを演算により決定する工程、を含むことを特徴とする。
一般に、リチウムイオン二次電池における正極、セパレータ及び負極の状態としては、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型と、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型とが存在する。捲回型のリチウムイオン二次電池では、電極の活物質層に対して曲げる力が加わり、活物質層には曲げ応力が生じる。ここで、上記(A)〜(H)の規定を満足する、高容量型の本発明のリチウムイオン二次電池の活物質層は、捲回型にて生じる曲げる力に耐久できる曲げ応力を十分に確保できるとはいえない。
一般に、積層型のリチウムイオン二次電池であれば、捲回型のリチウムイオン二次電池よりも、角型タイプのリチウムイオン二次電池の容器におけるデッドスペースが小さくなる。本発明のリチウムイオン二次電池が奏する、容器内の経時的な圧力上昇を一定程度抑制できるとの効果は、デッドスペースが小さいリチウムイオン二次電池に対して、特に有効に発揮される。デッドスペースが小さいリチウムイオン二次電池は、圧力上昇の緩衝となり得る空間が少ないため、わずかな圧力上昇に対しても過敏にならざるを得ないからである。
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型であるのが好ましい。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電体の両面に活物質層が形成された正極、セパレータ及び集電体の両面に活物質層が形成された負極を、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極との順に繰り返して、多数層が積層されたものが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の容器の形状は特に限定されるものでないが、角型、円筒型等、容器の内圧が上昇しても形状が一定程度に保持されるものを採用することができる。容器の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレスなどの金属、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドなどの樹脂、又はセラミックを例示できる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの具体例によって限定されるものではない。
(製造例1−1)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.91mol/Lである製造例1−1の電解液を製造した。製造例1−1の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比2で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、2/4=0.5である。
(製造例1−2)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.08mol/Lである製造例1−2の電解液を製造した。製造例1−2の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比3で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、3/5=0.6である。
(製造例1−3)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.37mol/Lである製造例1−3の電解液を製造した。製造例1−3の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例1−4)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.04mol/Lである製造例1−4の電解液を製造した。製造例1−4の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5/7=0.71である。
(製造例1−5)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.76mol/Lである製造例1−5の電解液を製造した。製造例1−5の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5.5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5.5/7.5=0.73である。
(製造例1−6)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.65mol/Lである製造例1−6の電解液を製造した。製造例1−6の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比6で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、6/8=0.75である。
(製造例1−7)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.32mol/Lである製造例1−7の電解液を製造した。製造例1−7の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比8で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、8/10=0.8である。
(製造例1−8)
ジメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.10mol/Lである製造例1−8の電解液を製造した。製造例1−8の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比10で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、10/12=0.83である。
(製造例2−1)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が3.41mol/Lである製造例2−1の電解液を製造した。製造例2−1の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比2で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、2/4=0.5である。
(製造例2−2)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.03mol/Lである製造例2−2の電解液を製造した。製造例2−2の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例2−3)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.68mol/Lである製造例2−3の電解液を製造した。製造例2−3の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5/7=0.71である。
(製造例2−4)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.55mol/Lである製造例2−4の電解液を製造した。製造例2−4の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5.5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5.5/7.5=0.73である。
(製造例2−5)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.43mol/Lである製造例2−5の電解液を製造した。製造例2−5の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比6で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、6/8=0.75である。
(製造例2−6)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.10mol/Lである製造例2−6の電解液を製造した。製造例2−6の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比8で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、8/10=0.8である。
(製造例2−7)
エチルメチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が0.90mol/Lである製造例2−7の電解液を製造した。製造例2−7の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比10で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、10/12=0.83である。
(製造例3−1)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.82mol/Lである製造例3−1の電解液を製造した。製造例3−1の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例3−2)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.54mol/Lである製造例3−2の電解液を製造した。製造例3−2の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5/7=0.71である。
(製造例3−3)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.43mol/Lである製造例3−3の電解液を製造した。製造例3−3の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比5.5で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、5.5/7.5=0.73である。
(製造例3−4)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.34mol/Lである製造例3−4の電解液を製造した。製造例3−4の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比6で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、6/8=0.75である。
(製造例3−5)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が1.06mol/Lである製造例3−5の電解液を製造した。製造例3−5の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比8で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、8/10=0.8である。
(製造例3−6)
ジエチルカーボネートに(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が0.88mol/Lである製造例3−6の電解液を製造した。製造例3−6の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比10で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、10/12=0.83である。
(製造例4−1)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである製造例4−1の電解液を製造した。製造例4−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、3/5=0.6である。
(製造例4−2)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.6mol/Lである製造例4−2の電解液を製造した。製造例4−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3.6で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、3.6/5.6=0.64である。
(製造例4−3)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.4mol/Lである製造例4−3の電解液を製造した。製造例4−3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例5−1)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである製造例5−1の電解液を製造した。製造例5−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、3/5=0.6である。
(製造例5−2)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.3mol/Lである製造例5−2の電解液を製造した。製造例5−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例6)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを7:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.9mol/Lである製造例6の電解液を製造した。製造例6の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、3/5=0.6である。
(製造例7)
鎖状カーボネートであるジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、不飽和環状カーボネートであるビニレンカーボネート及びリチウム塩である(FSONLiを溶解させて、(FSONLiの濃度が2.4mol/Lであり、ビニレンカーボネートが1質量%で含まれる製造例7の電解液を製造した。製造例7の電解液においては、鎖状カーボネートが(FSONLiに対し、モル比4で含まれる。また、(FSONLiが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、4/6=0.67である。
(製造例8)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPFを溶解させて、LiPFの濃度が1.0mol/Lである製造例8の電解液を製造した。製造例8の電解液においては、有機溶媒が電解質に対し、モル比が概ね10で含まれる。また、LiPFが完全電離していると仮定した場合、電解液全体に対する鎖状カーボネートのモル分率は、10/12=0.83である。
表2に製造した電解液の一覧を示す。
Figure 2018026306
表2及び以下の表における略号の意味は以下のとおりである。
DMC:ジメチルカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
(評価例1:蒸気圧)
圧力計、熱電対及び恒温槽を備えた静止法蒸気圧測定装置を用いて、製造例1−1の電解液の蒸気圧を直接測定した。また、測定値に基づき、アントワン式:log10P=A−(B/(T+C))の定数A、定数B、定数Cを算出した上で、25℃での蒸気圧を算出した。結果を表3に示す。なお、ジメチルカーボネートの25℃での蒸気圧は7.4kPaであり、また、ジメチルカーボネートの蒸気圧が1気圧(101kPa)となる温度(沸点)は90℃である。
Figure 2018026306
25℃における製造例1−1の電解液の蒸気圧は、ジメチルカーボネートの25℃における蒸気圧と比較して、著しく低いことがわかる。また、製造例1−1の電解液の沸点は138℃であり、ジメチルカーボネートの沸点よりも著しく上昇したことがわかる。つまり、同じ温度においては、製造例1−1の電解液の蒸気圧は、有機溶媒であるジメチルカーボネートと比較して、低いことがわかる。
(評価例2:イオン伝導度)
製造例1−1〜製造例3−6の電解液のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表4及び図1に示す。
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
Figure 2018026306
図1のLiFSAに対する鎖状カーボネートのモル比とイオン伝導度との関係から、鎖状カーボネート/(FSONLiのモル比が4〜7の範囲内の電解液は好適なイオン伝導度を示し、上記モル比が5〜6の範囲内の電解液はより好適なイオン伝導度を示すといえる。また、同じモル比の電解液を比較すると、イオン伝導度は、(鎖状カーボネートがジメチルカーボネートである電解液)>(鎖状カーボネートがエチルメチルカーボネートである電解液)>(鎖状カーボネートがジエチルカーボネートである電解液)であることがわかる。
(評価例3:気化温度の測定)
製造例1−1の電解液をアルミラミネート袋に入れ、アルミラミネート袋を密閉した。当該アルミラミネート袋を加熱することにより、有機溶媒が気化してアルミラミネート袋が膨張する温度を測定した。製造例1−2の電解液、製造例1−3の電解液、製造例8の電解液、及びジメチルカーボネート自体についても、同様に測定を行った。結果を表5に示す。
Figure 2018026306
ジメチルカーボネートに添加する電解質の量が増加するほど、気化温度が上昇することがわかる。製造例8の電解液と比較して、製造例1−1及び製造例1−2の電解液は、気化温度が高かった。つまり、同じ温度においては、製造例1−1の電解液と製造例1−2の電解液の蒸気圧は、一般的な従来の電解液と比較して、低いことがわかる。
(製造例A)
以下のとおり、製造例4−2の電解液を用いた製造例Aのリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質であるLiNi0.5Co0.35Mn0.15で表されるリチウム含有金属酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック5質量部、黒鉛3質量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある。)に分散させて、スラリーを作製した。正極用集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面の片面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでNMPを揮発により除去し、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。この正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を正極とした。正極活物質層の密度は2.7g/cmであった。正極活物質層の空隙率は38%であった。正極の目付け量は5.6mg/cmであり、正極活物質層の厚みは20μmであった。
負極活物質である球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極用集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面の片面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。負極活物質層の密度は1.1g/cmであった。負極活物質層の空隙率は49%であった。負極の目付け量は4.2mg/cmであり、負極活物質層の厚みは37μmであった。
セパレータとして、厚さ20μm、空隙率45%のセラミックコート付きのポリオレフィン製多孔質膜を準備した。
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに製造例4−2の電解液を注入した。残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を製造例Aのリチウムイオン二次電池とした。
(製造例B)
製造例8の電解液を用いた以外は、製造例Aと同様の方法で、製造例Bのリチウムイオン二次電池を製造した。なお、製造例Aと製造例Bにおける電解液の注液量は同一とした。
(評価例A)
製造例Aと製造例Bのリチウムイオン二次電池につき、60℃の恒温条件下、1Cレートで4.1Vまで充電を行い、その後、電圧3Vまで放電を行うことを1サイクルとする充放電サイクルを200回繰り返し実施した。初回の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合を容量維持率として算出した。結果を表6に示す。
Figure 2018026306
電解液の違いに因り、容量維持率に差が生じたことがわかる。製造例4−2の電解液は、電解質として高濃度の(FSONLiが含まれている。そして、充放電サイクル中に(FSONLiの一部が分解することにより、製造例Aの電極には(FSONLiに由来する好適な被膜が形成されたと考えられる。そのため、製造例Aの容量維持率は、製造例Bよりも優れていたと考えられる。
(製造例C)
以下のとおり、製造例4−3の電解液を用いた製造例Cのリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質であるLiNi0.5Co0.2Mn0.3で表されるリチウム含有金属酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック5質量部、黒鉛3質量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。正極用集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでNMPを揮発により除去し、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。この正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を正極とした。正極活物質層の密度は2.7g/cmであった。正極活物質層の空隙率は38%であった。正極の目付け量は片面で5.6mg/cm、両面で11.2mg/cmであり、そして、正極活物質層の厚みは片面20μmであった。
負極活物質である球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極用集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面の表面に、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。負極活物質層の密度は1.1g/cmであった。負極活物質層の空隙率は49%であった。負極の目付け量は片面で4.2mg/cm、両面で8.4mg/cmであり、負極活物質層の厚みは片面37μmであった。
セパレータとして、厚さ20μm、空隙率45%のセラミックコート付きのポリオレフィン製多孔質膜を準備した。
正極4枚と負極5枚を用い、間にセパレータを介在させて積層した極板群を製造した。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに製造例4−3の電解液を注入した。残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉された積層型のリチウムイオン二次電池を得た。この電池を製造例Cのリチウムイオン二次電池とした。
(製造例D)
極板群の製造方法を以下のとおりとした以外は、製造例Cと同様の方法で、製造例Dのリチウムイオン二次電池を製造した。但し、製造例Cと製造例Dの容量を同じにするため、両者の正極面積を一致させた。
正極と負極との間にセパレータを挟み、2回捲回して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに製造例4−3の電解液を注入した。残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉された捲回型のリチウムイオン二次電池を得た。この電池を製造例Dのリチウムイオン二次電池とした。
(評価例B)
製造例Cと製造例Dのリチウムイオン二次電池につき、60℃の恒温条件下、1Cレートで4.1Vまで充電を行い、その後、電圧3Vまで放電を行うことを1サイクルとする充放電サイクルを200回繰り返し実施した。初回の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合を容量維持率として算出した。結果を表7に示す。
Figure 2018026306
二次電池の型の違いに因り、容量維持率に差が生じたことがわかる。積層型の二次電池においては、充放電に伴う電極の膨張収縮によって、電解液が板状の層の4辺方向に押し出され、かつ、4辺方向から供給される。他方、捲回型の二次電池においては、充放電に伴う電極の膨張収縮によって、電解液が捲回された柱状の上下2方向に押し出され、かつ、上下2方向から供給される。したがって、積層型の二次電池の方が、電解液のより円滑な供給が可能であると考えられる。電解液の円滑な供給の差が、表7の結果となって反映されたと考えられる。
(製造例E)
正極活物質であるLiNi50/100Co35/100Mn15/100を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック2質量部、導電助剤である鱗片状黒鉛1質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、及び若干量の分散剤を混合して混合物とした。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを製造した。正極用集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。アルミニウム箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体の両面に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
なお、正極板において、正極活物質層の空隙率は27%であり、密度は3.0g/cmであった。正極の目付け量は18.64mg/cmであり、正極活物質層の厚みは62μmであった。また、正極活物質の平均粒子径(D50)は6.0μmであり、BET比表面積は0.7m/gであった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合し混合物とした。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを製造した。負極用集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。銅箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体の両面に形成された銅箔を得た。これを負極板とした。
なお、負極板において、負極活物質層の空隙率は37%であり、密度は1.4g/cmであった。負極の目付け量は9.90mg/cmであり、負極活物質層の厚みは71μmであった。また、負極活物質の平均粒子径(D50)は11μmであり、BET比表面積は3.9m/gであった。
セパレータとして、厚さ25μm、空隙率40%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板、セパレータ、負極板、セパレータ、正極板、セパレータ、負極板との順に繰り返し積層して、数十層の積層体とした。積層体に具備される正極活物質層の空隙体積、負極活物質層の空隙体積及びセパレータの空隙体積の合計は、122mLであった。122mLは、必須電解液体積Vessentialに該当する。上記積層体と製造例7の電解液を角型の電池容器に収容して、電池容器を密閉し、製造例Eのリチウムイオン二次電池を製造した。製造例Eのリチウムイオン二次電池に使用された電解液の体積は135mLであって、そのうち必須電解液体積Vessentialは122mLであり、余剰電解液体積Vspareは13mLである。(Vspare/Vessential)の値は
0.11であった。なお、製造例Eのリチウムイオン二次電池の容器内を気体が占める空間Vgasは、30mLであった。
(製造例F)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPF並びにシクロヘキシルベンゼン及びビニレンカーボネートなどの添加剤を添加して、LiPFの濃度が1.0mol/Lであり、添加剤が合計で6質量%で含まれる比較製造例1の電解液を製造した。
比較製造例1の電解液を用いた以外は、製造例Eと同様の方法で、製造例Fのリチウムイオン二次電池を製造した。製造例Fのリチウムイオン二次電池においても、使用された電解液の体積は135mLであって、そのうち必須電解液体積Vessentialは122mLであり、余剰電解液体積Vspareは13mLである。(Vspare/Vessential)の値は0.11であった。なお、製造例Fのリチウムイオン二次電池の容器内を気体が占める空間Vgasは、30mLであった。
(評価例C:サイクル試験時の圧力変化)
製造例E及び製造例Fのリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、リチウムイオン二次電池の容器内部の圧力変化を評価した。
各リチウムイオン二次電池の容器に、圧力計を接続した。各リチウムイオン二次電池に対して、60℃、1Cにて、電圧3.9Vまで充電を行い、その後、電圧2.9Vまで放電を行うことを1サイクルとする充放電サイクルを繰り返し実施した。経過日数の平方根を横軸とし、容器内圧力を縦軸としたグラフを図2に示す。
図2から、製造例Eのリチウムイオン二次電池の容器内圧力の上昇が、製造例Fのリチウムイオン二次電池と比較して、低く抑制されていることがわかる。リチウムイオン二次電池の容器内圧力の上昇は、電解液の分解に因る気体の発生に由来する。そうすると、図2で示された容器内圧力の差異は、電解液の分解量に比例するといえる。
好適な本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、充放電時における分解が抑制されるため、好適な本発明の電解液を具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、余剰電解液体積Vspareの量が少なくても、好適な性能を持続できるといえる。他方、従来の電解液は経時的に分解されやすいので、好適な性能を持続させるためには、余剰電解液体積Vspareの量を多くする必要がある。好適な本発明のリチウムイオン二次電池は、容器内の圧力上昇を一定程度抑制しつつ、所望の性能を好適に維持できるといえる。
(実施例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池について、図3を用いて説明する。実施例1のリチウムイオン二次電池1は、容器10と、正極20と、負極30と、本発明の電解液40と、電流遮断装置50を具備する。容器10はアルミニウム製の角型形状であり、アルミニウム製の蓋11で密閉されている。
正極20と負極30は板状であり、そして、正極20と負極30との間には樹脂製のセパレータ(図示せず。)が存在する。正極20は、正極集電体21を具備し、さらに該集電体の表面に正極活物質層22を具備する。そして、正極20の上部には、正極集電体21のうち正極活物質層22が形成されていない部分である正極活物質層未配置部23が存在する。正極活物質層未配置部23から、蓋11に向かって、第1正極導電部24、電流遮断装置50、第2正極導電部25との順に接続されている。そして、第2正極導電部25は、蓋11に配置された正極端子26と接続している。
電流遮断装置50は、過充電時に発生するガスに因る内圧上昇に応じて、充電経路を遮断することにより、過充電の進行を停止させる。電流遮断装置50には、通常時は導電部として作用するものの、450kPa以上の圧力で破断される破断予定部を具備する金属板を具備している。
負極30は、負極集電体31を具備し、該集電体の表面に負極活物質層(図示せず。)を具備する。そして、負極30の上部には、負極集電体31のうち負極活物質層が形成されていない部分である負極活物質層未配置部33が存在する。負極活物質層未配置部33は、負極導電部34を介して、蓋11に配置された負極端子36と接続している。
実施例1のリチウムイオン二次電池1は、低い蒸気圧を示す本発明の電解液40を具備するため、電流遮断装置50の作動圧である450kPaまで、十分な圧力の余裕がある。そのため、不都合な電流遮断装置50の誤作動が生じにくくなる。また、実施例1のリチウムイオン二次電池は、充放電に伴う電解液の分解に因るガス発生量が低い本発明の電解液40を具備するため、この点でも、不都合な電流遮断装置50の誤作動が生じにくくなる。また、本発明の電解液40は、従来の電解液と比較して、充放電に伴う分解量が小さいので、リチウムイオン二次電池1に具備する余剰電解液の量を低減できる。電解液の量の低減により、リチウムイオン二次電池1の容器10内における気体空間を拡大できるので、電流遮断装置50の作動圧に達するまでのガス発生量が拡大できると考えられる。これらの事情により、本発明の電解液40を具備するリチウムイオン二次電池1の実用期間は、従来の電解液を具備するリチウムイオン二次電池と比較して、大幅に延長される。
1 リチウムイオン二次電池
10 容器
11 蓋
20 正極
21 正極集電体
22 正極活物質層
23 正極活物質層未配置部
24 第1正極導電部
25 第2正極導電部
26 正極端子
30 負極
31 負極集電体
33 負極活物質層未配置部
34 負極導電部
36 負極端子
40 本発明の電解液
50 電流遮断装置

Claims (11)

  1. 正極と、負極と、電解液と、内圧上昇によって充電経路又は電流経路を遮断する電流遮断装置とを具備する蓄電装置であって、
    前記電解液の25℃での蒸気圧Pが5.6kPa以下であること、
    及び/又は
    前記電解液の25℃での蒸気圧Pと、前記電解液に含まれる有機溶媒のみの25℃での蒸気圧Psolventとの関係が、P≦0.75×Psolventであること、
    を特徴とする蓄電装置。
  2. 前記電解液が(FSONLiと下記一般式(A)で表される鎖状カーボネートを含む有機溶媒とを含有し、かつ、前記電解液には(FSONLiに対し鎖状カーボネートがモル比6以下で含まれている請求項1に記載の蓄電装置。
    20OCOOR21 一般式(A)
    (R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m=f+g+h+i+jを満たす。)
  3. 上記モル比が2〜6の範囲内である請求項2に記載の蓄電装置。
  4. 前記鎖状カーボネートは、前記電解液に含まれる全有機溶媒に対して、80体積%以上又は80モル%以上で含まれる請求項2又は3に記載の蓄電装置。
  5. 前記鎖状カーボネートが、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選択される1種、2種又は3種である請求項2〜4のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  6. 前記電解液が過充電時にガスを放出する化合物を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  7. P<((電流遮断装置の作動圧PCID)/50)を満足する請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  8. 前記蓄電装置が、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、セパレータとを具備する二次電池であり、
    前記電解液の体積が、前記正極活物質層の空隙体積、前記負極活物質層の空隙体積及び前記セパレータの空隙体積の合計である必須電解液体積Vessentialと、余剰電解液体積Vspareとの合計からなり、
    必須電解液体積Vessentialに対する余剰電解液体積Vspareの比(Vspare/Vessential)が0.15以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  9. 前記二次電池は、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型である請求項8に記載の蓄電装置。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の蓄電装置の製造方法であって、
    Pが5.6kPa以下であること、及び/又は、PとPsolventとの関係がP≦0.75×Psolventであることを確認する工程、
    を含むことを特徴とする蓄電装置の製造方法。
  11. P<((電流遮断装置の作動圧作動圧PCID)/50)を満足することを確認する工程を含む、請求項10に記載の蓄電装置の製造方法。
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