JP2018021135A - ポリエチレン樹脂組成物並びにこれを含む配管材料、配管及び継手 - Google Patents

ポリエチレン樹脂組成物並びにこれを含む配管材料、配管及び継手 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリエチレンの持つ本質的な欠点である脆性破壊割れ及び応力亀裂を防止する。【解決手段】ポリエチレンを主成分とする基材と、添加剤と、を含み、添加剤は、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルを含む、ポリエチレン樹脂組成物を用いる。【選択図】図2

Description

本発明は、ポリエチレン樹脂組成物並びにこれを含む配管材料、配管及び継手に関する。
様々な流体の輸送にポリエチレン製の配管が使用されている。例えば、上下水道配管、ガス配管、給水管、給湯管、薬液配管、オイル配管などが挙げられる。各配管に対する安全性の要求は年々高まってきており、ガス管としてはPE80、上下水道管としてはPE100を取得した配管材料が使用されている。また、給湯管には、耐熱性に優れる架橋ポリエチレンが配管材料として使用されている。さらに、ポリエチレン製の配管には、ポリエチレン製の継手も使用されている。これは、エレクトロフュージョンと呼ばれる溶着継手によりポリエチレン製の配管とポリエチレン製の継手が一体化できる特徴を有する。
ポリエチレン製の配管材料には、配管内部からの圧力や埋設時の外部からの土圧などにより応力が加わるため、配管内に微小な欠陥があると、そこに応力が集中し、脆性的な破壊が起こることが知られている。とりわけ、長期間にわたり、応力が加わる厳しい条件下において脆性破壊割れを起こさない材料の開発が必要となっている。
従来は、例えば、特許文献1や特許文献2のように、ポリエチレンの長期にわたる機械特性を改善するために、分子量分布の広幅化や側鎖の導入など、ポリエチレン自体の改良が実施されている。
さらには、例えば、特許文献3のように、2つの分子量分布からなるメルトマスフローレートが低いポリエチレンなども提案されている。
また、特許文献4では、低分子量、高密度のポリエチレンと、高分子量、低密度のポリエチレンの2成分からなる組成物を成形したポリエチレン管及び管継手についても開示されている。
特公昭61‐42736号公報 特公昭61‐43378号公報 特開平10‐17619号公報 特開平8‐301933号公報
上記従来技術におけるポリマ自体の改良は、ポリエチレンが持つ本質的な欠点である脆性破壊割れや応力亀裂の問題を改善するものではない。
本発明は、ポリエチレンの持つ本質的な欠点である脆性破壊割れ及び応力亀裂を防止することを目的とする。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレンを主成分とする基材と、添加剤と、を含み、添加剤は、原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルである。
本発明によれば、目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力集中して脆性破壊割れや応力亀裂を引き起こすことがなく、十分な伸びを有するポリエチレン樹脂組成物を提供することができる。
吸収線量が破断時の伸びに及ぼす影響を示すグラフである。 オイルの%CNに対するアイゾット衝撃試験の結果(−10℃の衝撃値)を示すグラフである。 ポリエチレンの密度に対する破断時の伸びを示すグラフである。 オイルの添加量に対する環境応力き裂試験のき裂発生までの時間を示すグラフである。
本発明は、脆性破壊割れや環境応力亀裂を起こさない長寿命のポリエチレン樹脂組成物並びにこれを含む配管材料、配管及び継手に関する。
本発明は、ポリエチレンの持つ本質的な欠点である脆性破壊割れや応力亀裂の問題を抜本的に改善することを目的とする。目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力集中して脆性破壊割れや応力亀裂を引き起こすことがなく、十分な伸びを有するポリエチレン樹脂組成物並びにこれを含む配管材料、配管及び継手を提供する。一般に、配管、継手といった硬質の製品においては、長期間にわたる強度が要求される。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、次の特徴を備えている。
(1)ポリエチレンを主成分とする基材に添加剤を混合したものであり、添加剤は、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルである。ナフテンとは、環状炭化水素のことをいう。環分析(n−d−M法)は、ベースオイルの組成分析として一般的な分析方法であり、屈折率、密度、分子量等を用いてパラフィン炭素数、ナフテン炭素数、芳香族炭素数をそれぞれ、%CP、%CN、%CAとして全炭素に対する割合で表示することができる。なお、ポリエチレンを主成分とする基材は、一般に流通しているポリエチレン樹脂のペレットでよく、ポリプロピレン等を質量基準で50%未満含むものであってもよい。また、ポリエチレンを主成分とするものであれば、ポリエチレンとポリプロピレンとを含む混合材又は再生材であってもよい。
(2)上記の添加剤はポリエチレン100質量部に対して0.1〜7質量部含むことが望ましい。なお、本明細書においては、「〜」(乃至)は、数値範囲を表し、下限値及び上限値を含むものとする。よって、数値A、Bについて「A〜B」と記載した場合は、AとBとの間の数値を含む範囲を表し、かつ、A及びBもこの範囲に含まれる。言い換えると、「A以上B以下」と同じ意味である。
(3)さらに、ポリエチレンはその密度が0.94g/cm以上0.97g/cm以下(0.94〜0.97g/cm)の高密度ポリエチレンを主成分とするものが好ましい。
(4)上記のポリエチレン樹脂組成物は、放射性物質を内包した流体輸送に主として使用する原子力設備用冷却水輸送用の配管材料、配管及び継手に用いるのが望ましい。
以下、本発明の一実施形態について更に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で様々な改良および変更を加えることができる。
本発明に係るポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレンを主成分とし、必須の添加剤として、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有する。これをポリエチレン100質量部に対して0.1〜7質量部含む。また、ポリエチレンはその密度が0.945g/cm以上0.965g/cm以下の高密度ポリエチレンを主成分とする。
以上の構成を有する本発明のポリエチレン樹脂組成物の作用効果について説明する。
ポリエチレン製の配管は、鋼管に比べて軽量で、移動や加工が容易であることから、水道用配管などの長距離配管としても用いられている。しかしながら、ポリエチレンは、鋼管のような金属材料とは異なり、炭素と水素からなる高分子である。高分子材料の中でもポリエチレンは、様々な環境下での外的因子、例えば、紫外線、放射線、熱、内圧、外圧、落下、衝撃、きず、化学物質などによって、脆性破壊割れや応力亀裂を起こしやすい欠点を有している。ポリエチレンにおいては、紫外線、放射線、熱などが作用することによって、非常に反応性の高い水素ラジカルや炭化水素ラジカルが発生し、このラジカルによる再結合や付加反応による架橋と呼ばれる分子量の増大や、不均化反応による崩壊と呼ばれる分子量の減少などによって、弾性、耐応力環境き裂性及び衝撃特性が低下してしまう。
一般に、高分子材料は、紫外線、放射線、熱などが作用すると、分子が励起され、結合が切断して分解することが知られている。紫外線、放射線、熱などがポリエチレンに作用すると、水素ラジカルや炭化水素ラジカルが生成する。このラジカルは反応性が高く、ラジカル同士が結合したり(再結合)、ラジカルが元素を引き抜いて別のラジカルを生成させたり(引き抜き反応)、ラジカルが二重結合の隣に付加したり(付加反応)、ラジカル同士が結合すると同時に分子鎖が切断されたり(不均化反応)することが知られている。再結合や付加反応は架橋と呼ばれる分子量の増大をもたらすが、不均化反応は崩壊と呼ばれる分子量の減少をもたらす。
崩壊も架橋も弾性が低下して、衝撃や屈曲に対する抵抗性が低下する、脆くなるなどの物性の変化が生じるため、配管として使用する場合、亀裂が入る、あるいは破裂するなどの不具合を生じる懸念がある。
配水管用ポリエチレンもまた、同様である。配水管用ポリエチレンは、高分子量領域を増加、結晶構造を繋ぐタイ分子を増やすことで、長期静水圧強度と耐環境応力き裂性を向上させている。一般に、紫外線、放射線、熱などによる過酷環境下では、結晶領域の分子鎖はあまり影響を受けないが、非晶部(非結晶部)の増加、即ち、タイ分子鎖の酸化切断が進行することが知られている。タイ分子鎖の切断が進むと、外部応力が加えられた際に樹脂内で応力集中が起こり、長期静水圧強度や耐環境応力き裂性、衝撃特性が低下すると考えられている。
また、酸素が存在する大気中では、紫外線、放射線、熱などがポリエチレンに作用すると、ラジカルが酸素に対して強い反応性をもつので、ラジカルと酸素が反応する。酸素は、水素との親和性が高いので、これを引き抜いて過酸化ラジカル(ROO・)を生成し、酸化の伝播反応(連鎖反応)を開始する下記化学式(1)のような反応が進行することが知られている。
Figure 2018021135
この過酸化ラジカルは、反応性に富み、他の分子から水素を引き抜いて、過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)に変化する(下記化学式(2)参照)。
Figure 2018021135
新たに発生したラジカル(R・)は、酸素存在下で、上記化学式(1)によりまた新たなパーオキシラジカルに変化する。過酸化物(ROOH)も、不安定であるため、分解して結果的にパーオキシラジカル(ROO・)、オキシラジカル(RO・)、ラジカル(R・)等に変化する(下記化学式(3)〜(5)参照)。
Figure 2018021135
Figure 2018021135
Figure 2018021135
このように、最初に発生した一つのラジカル(R・)がパーオキシラジカル(ROO・)を経て、新たなラジカルを多数増殖させることとなり、連鎖的に酸化の伝播反応(連鎖反応)が進行する。これにより、ますます、分子構造の分解(架橋や崩壊)が促進される。
さらに、大気中や放射線環境下では、オゾンが生成することが知られている。オゾンは、分子鎖に二重結合を持つポリエチレンに対して強く作用する。例えば、二重結合部にオゾンが攻撃するとオゾナイドが形成され、これが不安定であるため、O−O結合が切断されてアルデヒドやケトン、エステル、ラクトン、過酸化物等を形成する。オゾンによる分子構造の分解は、微小のクラック(オゾンクラック)を形成させることが知られている。特に、1MPaの配管圧力がかかる場合、常に伸長された状態となっており、これがオゾンの浸透率を高めるとともに応力集中によってオゾンクラックが成長し、破裂につながる懸念がある。
ポリエチレン製の配管を用いて、高温の流体を移送する場合もある。この場合、前述した分子構造の分解をもたらす様々な素反応は、分子運動、即ち、振動や衝突確率と関係する。分子運動は、高温になるほど激しくなるため、分解反応が加速され、劣化は著しい。特に、酸化反応を伴う系では、温度は試料中の酸化層厚さ、酸素の拡散速度、酸化分解の反応速度に影響を及ぼすことが分かっており、酸化による分解が益々加速される。一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になる。したがって、高温の流体を移送すると、酸化劣化が加速され、分子構造が容易に分解する。このような分子構造の変化は、弾性率の低下、引張強さの低下、伸びの低下など種々な特性の低下に繋がる。これらの特性が低下すると、配管に亀裂や微小なクラックが入る、あるいは破裂するなどの不具合を生じるおそれがある。
ポリエチレン製の配管材料は、様々な外的要因(外的ストレス)により亀裂や割れを生じることが分かっている。外的ストレスの種類に依らず、ポリエチレン樹脂組成物の試験片の破壊モードは、いずれも伸びが低下し、破面に白化が現れるのが特徴である。とりわけ、ポリエチレンの密度が高い高密度ポリエチレンほど、衝撃に対する耐性に劣っている。
ポリエチレン樹脂組成物の試験片の破面は、白化の他にもクラックが発生しており、破面には、ボイドとフィブリルが存在する。白化は、ボイド形成による光のミー散乱によって起こる。このように、白化は、ボイドとフィブリルで構成された損傷形態であるクレイズ破壊の発生を示すものである。
ポリエチレン樹脂組成物の引張による破断機構は、次のように進むことが知られている。
(A)引張降伏直後に発生するひずみの局所化領域の伝播
(B)クレイズ破壊領域の伝播
(C)クレイズ破壊の集中部で分子鎖切断やクラックが発生
(D)ポリマ破断
さらに、結晶レベルでは、引張により、次のような変形がおこることが知られている。
(a)分子レベルの結晶の破壊(分子鎖剥離)
(b)結晶のブロック状破壊(分子鎖剥離)
(c)結晶内での分子のすべり回転(変化小)
ここで、(a)及び(b)では、結晶が破壊して非結晶部が増加する。分子鎖は剥離し、ボイドやフィブリルが形成され、クレイズ破壊が起こる。しかし、(c)では、結晶のダメージは少なく、非結晶部はほとんど増加しない。
このようなポリエチレンの本質的な問題点に対して、本実施形態においては、結晶レベルでの引張による変形を結晶内でのすべり回転を起こすことで、非結晶部の増加を抑える。そして、分子鎖剥離を抑制してボイドやフィブリルの形成を阻止し、クレイズ破壊を起こさせない。ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンとの溶解性や相溶性が高く、SP値が近いことを特徴としている。そのため、結晶内の分子の細部にまで本発明のオイルは浸透し、これにより、結晶内の分子のすべり性を大きく向上させて、すべり回転を起こしやすくさせる効果を有する。
さらに、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルは粘度指数が低い特徴を有する。粘度指数が低いということは低温での流動性が高いことを意味している。一般に高分子材料は低温脆化を起こしやすい欠点を有する。とりわけ、高密度ポリエチレンは衝撃に対する耐性が低い材料であり、低温における耐衝撃性に劣る欠点を有している。これを解決するにはポリエチレンの結晶内やタイ分子、あるいはその周囲に存在してすべり回転を起こしやすくすることが重要である。結晶内やタイ分子、あるいはその周囲に存在するオイル自身が低温で流動性を失ってしまっては、すべり回転の効果が得られない。しかし、本発明のオイルであれば、低温でも流動性を有するため、すべり回転の効果が得られる。低温においてもすべり回転が容易に起こるようになれば、低温脆化は抑制でき、高密度ポリエチレンの低温における耐衝撃性も大幅に向上するからである。
加えて、放射線環境下ではポリエチレンは硬くなり、容易に脆化してしまうことが分かっている。これに対しても、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンを軟化させる効果がある。そのため放射線による脆化を引き起こすことがない。
本発明者は、試行錯誤の結果、すべり性の向上には、ポリエチレンの結晶内やタイ分子、あるいはその周囲に存在してすべりを良くする、室温で液体のオイルの添加が有効であることを突き止めた。とりわけ、n−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルは、室温はもとより、低温におけるすべり性の向上効果が高く、結晶内の分子のすべり性に対して、その向上作用が極めて大きいことが分かった。さらに、本発明のオイルはポリエチレンとの親和性が高いため、ポリエチレンの結晶内やタイ分子、あるいはその周囲に十分に浸透してポリエチレンの素材そのものを軟化させる効果が得られることから、放射線による硬化を防ぎ、脆化を阻止することができることが分かった。
ポリエチレン配管材料の結晶内やタイ分子あるいはその周囲に本発明のオイルを添加した結果、本オイルの添加量は、0.1〜7質量部が好ましいことが分かった。0.1質量部未満では、十分な効果が認められず、添加無のものと大差はなかった。一方、7質量部を超えると、ポリエチレン配管材料の表面からオイルがにじみ出てくることから、添加量が過剰であることが分かった。
ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルは、あらゆる材料の潤滑剤として使用されてきている実績を有している。本発明者は、試行錯誤の結果、ポリエチレン、特に、密度が0.94g/cm以上、0.97g/cm以下の高密度ポリエチレンの結晶内やタイ分子あるいはその周囲にオイルを入れることに成功した。その結果、オイルは、結晶レベルでの引張による変形を結晶内でのすべり回転を起こすことで非結晶部の増加を抑え、分子鎖剥離を抑制してボイドやフィブリルの形成を阻止してクレイズ破壊を起こさせないことが分かった。
非結晶部の増加は、示差走査熱量計(DSC)を用いて調べることができる。本発明のオイルを添加していないポリエチレン樹脂組成物は、結晶融解発熱量が大きく減少する。これに対し、本発明のオイルを含むポリエチレン樹脂組成物では、結晶融解発熱量の変化がほとんどない。引張試験後の伸び部を確認したところ、本発明のオイルを含むものは、透明であり、白化が起こっていなかった。本発明のオイルを添加していないものは、白化が起こっている。
この結果から、本発明のオイルを含むポリエチレン樹脂組成物は、引張による変形後でも非結晶部の増加がなく、結晶のダメージがないことがわかる。これは、結晶内においてすべり回転が起きているためであると考える。その結果として、非結晶部の増加を抑え、分子鎖の剥離を抑制することができ、ボイドやフィブリルの形成を阻止し、クレイズ破壊を防止していると考える。
本発明のオイルを0.1〜7質量部の範囲で含むように構成したポリエチレン樹脂組成物を用いることにより、クレイズ破壊を阻止して、応力亀裂や脆性破断割れを抑制することができる。特に、本発明のオイルは、ポリエチレンとの相溶性が特に高く、潤滑剤としての機能が高いため、効果は絶大である。添加量は多ければ多いほどよいが、ポリエチレンに添加できる量は最大でも7質量部である。7質量部より多いと、染み出しが起こり、成形品の適用範囲が限定されてしまう。また、0.1質量部未満では、添加量が少なく、特に、0℃以下の低温での耐衝撃性が損なわれ、十分な結晶のすべり回転の効果が得られない。また、放射線によりポリエチレンは容易に硬化して脆性破壊を引き起こすため、放射線に対する耐性も損なわれる。
まとめると、本発明のポリエチレン樹脂組成物においては、様々な外的要因によるクレイズ破壊が抑制されるため、長期静水圧強度、弾性、耐環境応力き裂性及び衝撃特性の低下が抑制される。すなわち、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、高い外気温や、紫外線、オゾン、放射線等の環境、大気中の酸素や酸性雨、高温の流体の輸送など、様々な過酷な条件下によって、引張応力が発生した際に生じる結晶のダメージを最小限に抑制することができる。そして、これにより、亀裂、破裂などの不具合を長期間抑制することができる。これは、冬場の低温環境において流体が凍結した場合にも、衝撃による流体輸送配管のクラックの発生確率抑制にも繋がる。
以下、流体輸送配管(以下、「パイプ」と称する。)を作製する方法について説明する。
基材としては、高密度ポリエチレンを用いる場合について説明する。なお、ポリエチレンは、中密度でも低密度でもよいが、とりわけ、高密度ポリエチレンにおける効果が高いことから、高密度ポリエチレンにより説明する。
混練機としては、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダー等が使用できるが、特に限定されるものではない。本明細書においては、基材に添加剤を混合する際は、バンバリーミキサーを用いる例を挙げている。混練温度は、120〜250℃が望ましい。添加剤は、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルを含むことが望ましい。
パイプの押出成形において、ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂100%質量部に対して酸化チタンを0.1〜5質量部の範囲で含有していてもよい。パイプ製造装置のホッパーには、ポリエチレン樹脂ペレットをドライブレンドしながら供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押出し、冷却することにより、パイプとする。
なお、別の方法としては、事前に、マスターバッチペレットとポリエチレン樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、溶融混練し、溶融樹脂組成物を多数の孔(直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤を通過させ、水中にうどん状に押出し、円盤面に平行に設置されている回転するナイフによって長さ3mm程度に切断し、ポリエチレン樹脂組成物ペレットとして貯蔵し、高密度ポリエチレンパイプを製造するときに貯蔵しておいたポリエチレン樹脂組成物ペレットをパイプ製造装置のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押出し、冷却することにより、パイプとしてもよい。
ポリエチレン樹脂組成物ペレットからパイプに成形するには、該組成物を例えば120〜250℃の温度で押出機からダイスを通して押出し、サイジングを行った後、冷却水槽で冷却し、引取り機を通して切断または巻取る方法が挙げられる。パイプは、単層パイプまたは2層パイプとすることができる。押出機としては、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等が挙げられる。ダイスは、ストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイスなどいずれのタイプのものも利用できる。サイジング方法は、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法も利用できる。
バンバリーミキサーにより基材に添加剤を混合する際は、温度180℃、10分間混練し、その後、造粒してポリエチレン樹脂組成物のペレットとした。
別の方法としては、事前に、マスターバッチペレット、又はポリエチレン樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、ここに一定の滴下速度でオイルを加えることができるマイクロチューブポンプを用いて溶融混練中に滴下し、溶融樹脂組成物を多数の孔(直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤を通過させ、水中にうどん状に押出し、円盤面に平行に設置されている回転するナイフによって長さ3mm程度に切断し、ポリエチレン樹脂組成物ペレットとしてもよい。なお、滴下時に、オイルは190℃以上の温度になるように加熱している。このポリエチレン樹脂組成物のペレットを用いてパイプを成形した。
以下、実施例に基づき、本発明について更に詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例においては、添加材の種類を変えて試験片を作製し、引張破断伸びを評価した。以下に、本実施例の試験片の作製方法について説明する。
本実施例においては、基材として高密度ポリエチレンを用いた。この基材は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して0.5質量部の酸化チタンを含有している。ここで、高密度ポリエチレンは、チーグラー触媒を使用して製造されたものであり、密度が0.94g/cm以上、0.97g/cmの範囲のものである。
そして、基材にナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルを混合した。この際、バンバリーミキサーを用いて温度180℃で10分間混練してから造粒し、ポリエチレン樹脂組成物ペレットとした。
ポリエチレン樹脂組成物ペレットを射出成形機に供給し、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)JIS K 7162に記載されている1B形のダンベル形状の試験片を作製した。
<引張試験>
引張試験は、試験片を100℃で500時間加熱し、熱劣化させた後、実施した。
引張試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠する。試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B 7721に記載の装置を使用した。ダンベル試験片の厚さと平行部の幅を測定し、さらに伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、500mm/minで引張試験機を用いて室温で引張試験を行う。標線間距離は50mmである。引張試験では、破断時の伸びを測定する。破断時の伸びは、試験片が破断に至るまでの標線間の長さを測定する。試験片の破断時の伸びは、下記計算式(1)によって算出される。
Figure 2018021135
上記計算式(1)において、EBは破断時の伸び(%)、L0は標線間距離(mm)、L1は破断時の標線間距離(mm)をそれぞれ示している。
<DSC測定>
DSC測定は、JIS規格「プラスチックの転移温度測定方法」JIS K 7121に準拠して行った。DSC測定によりポリエチレン結晶の融解ピーク面積(J)を求め、これをサンプリング質量(g)で割った値である融解エネルギー(J/g)を算出した。試料は、引張試験の伸び応力が掛かっていない箇所(変形なし)と伸び応力が掛かり、変形が起こった箇所(変形あり)で比較した。
融解エネルギー(J/g)の変化量が大きいほど、結晶のダメージが大きく、非結晶部が増加し、分子鎖剥離が発生していることを示す。
<放射線照射>
放射線照射では、Co60線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で試験片に照射する。照射時間は、110hから521hであり、吸収線量は、50kGyから500kGyである。
<環境応力き裂試験>
環境応力き裂試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠する。試験片は長さ38mm、幅13mm、厚み2mmの短冊状で、深さ0.3mm、長さ19.1mmのノッチを設けている。硬質ガラス製試験管(栓付)に50℃のノニル・フェニル・ポリオキシエチレン・エタノール10mass%水溶液を入れる。ステンレス鋼で作製された試験片固定具に試験片5個を固定して浸漬し、浸漬後の試験片の外観を目視によって観察し、き裂の発生した時間を調べる。
<アイゾット衝撃試験>
プラスチック−アイゾット衝撃強さの試験方法(JIS K 7110)に準拠する。但し、試験片の温度については−10℃の低温側を測定する。試験片のサイズは80mm×10mm×4mmで、半径0.25mmのタイプAノッチを設ける。オーブンで一定温度に保持した試験片を 試験支持台に固定する。振り子はノッチの付いた面を打撃する。試験温度は−10℃である。アイゾット衝撃値はkJ/mの単位で示す。
図1は、吸収線量が破断時の伸びに及ぼす影響を示すグラフである。添加剤としては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが50%のナフテンを含有するオイルを用いた。基材としては、密度が0.95g/cmのポリエチレンを用いた。添加量は5phrである。横軸が吸収線量(kGy)、縦軸が引張試験の破断時の伸びを示す。比較例は、添加剤を加えなかったこと以外は実施例と同様にして試験片を作製したものであり、これについて評価を行った。
本図に示すように、破断時の伸びについては、実施例の方が比較例よりも大きい。
引張試験前後の試験片のDSC測定を行った。その結果、融解エネルギーは、実施例の方が比較例よりも引張試験前後での変化が小さく、試験後も融解エネルギーが大きいことが分かった。このことから、引張応力による結晶のダメージは、実施例においては非常に小さいことが立証された。
図2は、オイルの%CNに対するアイゾット衝撃試験の結果(−10℃の衝撃値)を示すグラフである。添加剤としては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが0%から100%のオイルを用いた。基材としては、密度が0.95g/cmのポリエチレンを用いた。添加量は5phrである。横軸がオイルのうちn−d−M法による環分析の%CN、縦軸がアイゾット衝撃試験における−10℃の衝撃値を示す。
本図から、−10℃の衝撃値については、n−d−M法による環分析の%CNが20%から100%のオイルで大きいことがわかる。
図3は、ポリエチレンの密度に対する破断時の伸びを示すグラフである。添加剤としては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが50%のオイルを用いた。基材としては、密度が0.91から0.97g/cmのポリエチレンを用いた。添加量は5phrである。横軸はポリエチレンの密度、縦軸は吸収線量が402kGyの場合における引張試験の破断時の伸びを示す。
本図に示すように、破断時の伸びは、ポリエチレンの密度が0.94g/cmから0.97g/cmまでの範囲で340%以上である。このことから、ポリエチレンの密度は、0.94g/cm以上0.97g/cm以下の範囲が望ましいことがわかる。
図4は、オイルの添加量に対する環境応力き裂試験のき裂発生までの時間を示すグラフである。添加剤としては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが50%のオイルを用いた。基材としては、密度が0.95g/cmのポリエチレンを用いた。添加剤の添加量は、0phrから15phrまでの範囲である。横軸が添加量、縦軸が環境応力き裂試験のき裂発生までの時間を示す。
本図に示すように、環境応力き裂試験のき裂発生までの時間は、添加量が0.1phrから7phrまでの範囲で1500時間以上である。このことから、添加剤(オイル)の添加量は、0.1phr以上7phr以下の範囲が望ましいことがわかる。
以上説明したように、本発明によれば、脆性破壊割れや環境応力亀裂、低温における脆性破壊を起こさない長寿命のポリエチレン樹脂組成物を提供することができることが実証された。
本発明によれば、目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力集中して脆性破壊割れや応力亀裂を引き起こすことがなく、十分な伸びや衝撃強度を有する配管材料、配管、継手を提供することができる。更に詳しく言えば、ポリエチレンに紫外線や高温、放射線などが作用することによって、非常に反応性の高い水素ラジカルや炭化水素ラジカルが発生し、このラジカルによる再結合や付加反応による架橋と呼ばれる分子量の増大や、不均化反応による崩壊と呼ばれる分子量の減少などによって、弾性、伸び、耐環境応力き裂性、衝撃特性等が低下する問題を解決することができる。したがって、長期にわたって配管、継手等に使用する場合における脆性破壊割れや応力亀裂に対する耐性を高めることができる。
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。

Claims (9)

  1. ポリエチレンを主成分とする基材と、
    添加剤と、を含み、
    前記添加剤は、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルを含む、ポリエチレン樹脂組成物。
  2. 前記添加剤の割合は、前記ポリエチレン100質量部に対して0.1〜7質量部である、請求項1記載のポリエチレン樹脂組成物。
  3. 前記ポリエチレンは、密度が0.94g/cm以上0.97g/cm以下の高密度ポリエチレンを主成分とする、請求項1又は2に記載のポリエチレン樹脂組成物。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物を含む、配管材料。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物を含む、配管。
  6. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物を含む、継手。
  7. 原子力関連施設を構成する部材である、請求項4記載の配管材料。
  8. 原子力関連施設を構成する部材である、請求項5記載の配管。
  9. 原子力関連施設を構成する部材である、請求項6記載の継手。
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