以下、本発明の一実施形態に係るポリエチレン樹脂組成物、並びに、これを含む配管材料、配管及び継手について、図を参照しながら説明する。
本実施形態に係るポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレンを主成分とする基材と、所定の添加剤とを含む。ポリエチレン樹脂組成物は、例えば、配管や継手(管継手)を形成するための配管材料や、その他の樹脂成形体の材料として、ペレット、ビーズ、フレーク、粉末、溶融物等の適宜の形態で用いることができる。また、ポリエチレン樹脂組成物は、配管、継手等の各種の樹脂成形体に成形して用いることができる。
ポリエチレン樹脂組成物の基材は、密度が0.94g/cm3以上0.97g/cm3以下の高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene:HDPE)、密度が0.93g/cm3以上0.94g/cm3未満の中密度ポリエチレン(Medium Density Polyethylene:MDPE)、及び、密度が0.91g/cm3以上0.93g/cm3未満の低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene:LDPE)のうち、いずれを主成分とするものであってもよい。
ポリエチレン樹脂組成物の基材は、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、及び、低密度ポリエチレンのうち、いずれか一種のポリエチレンで構成されてもよいし、二種以上のポリエチレンの混合物で構成されてもよい。また、密度が0.910g/cm3以上0.925g/cm3以下であり、分枝を有する単量体の含有率が数%である直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene:LLDPE)を成分として含んでもよい。
高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、及び、低密度ポリエチレンは、密度等の物性が損なわれない限り、単量体として、エチレンの他に、1-ブテン、1-ヘキセン等を含むことができる。また、直鎖状低密度ポリエチレンは、単量体として、エチレンの他に、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を含むことができる。
ポリエチレン樹脂組成物の基材は、ポリエチレン以外の樹脂とブレンドされた混合材や、ポリエチレン製品を原料として再利用した再生材であってもよい。例えば、ポリエチレン樹脂組成物の基材は、質量基準で50%未満の範囲であれば、ポリプロピレン等のその他の樹脂を含んでいてもよい。また、エチレン以外の重合単位を含む共重合体を含んでいていもよいし、側鎖や末端が変性基で置換された変性体を含んでいてもよい。
ポリエチレン樹脂組成物の基材は、特に、密度が0.94g/cm3以上0.97g/cm3以下の高密度ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。高密度ポリエチレンによると、機械的強度や耐久性に優れ、過酷環境下であっても比較的劣化し難い配管、継手等の樹脂成形体が得られる。高密度ポリエチレンの密度は、より好ましくは0.945g/cm3以上0.965g/cm3以下である。高密度ポリエチレンは、チーグラー触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等のいずれの触媒で重合したものでもよい。
添加剤としては、少なくとも、酸化防止剤とナフテンを含有するオイルとがポリエチレン樹脂組成物に配合される。添加剤としては、更に、光安定化剤や、シリコーンオイルが配合されてもよい。また、更に、その他の添加剤が配合されてもよい。但し、放射線環境等の過酷環境下における応力環境き裂を低減する観点からは、凝集作用等によって破壊の起点となり得る点で、常温で固体の添加剤を含まないことが好ましい。特に、酸化防止剤、ナフテンを含有するオイル、光安定化剤、シリコーンオイル以外の他の添加剤を含まないことが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール性水酸基のオルト位の両方に嵩高い置換基を有するヒンダードフェノール、オルト位の一方に嵩高い置換基を有し、他方に普通の置換基を有するセミヒンダードフェノール、オルト位の一方に嵩高い置換基を有し、他方に置換基を有しないレスヒンダードフェノール等のフェノール系酸化防止剤や、亜りん酸エステル等のりん系酸化防止剤や、チオエーテル等の硫黄系酸化防止剤等を用いることができる。酸化防止剤としては、一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
ヒンダードフェノールとしては、例えば、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N’-ジ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヘキサメチレンジアミン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)エタン、N,N’-ジ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヒドラジン等が挙げられる。ヒンダードフェノールとしては、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N’-ジ(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヘキサメチレンジアミンがより好ましい。商業的に利用可能な製品としては、例えば、SEENOX 326M(シプロ化成社製)、SONGNOX 1098(SONGWON社製)等が挙げられる。
セミヒンダードフェノールとしては、例えば、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、3,9-ビス(2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。商業的に利用可能な製品としては、例えば、SONGNOX 1790(SONGWON社製)等が挙げられる。
レスヒンダードフェノールとしては、例えば、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。レスヒンダードフェノールとしては、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタンがより好ましい。商業的に利用可能な製品としては、例えば、アデカスタブ AO-30(ADEKA社製)等が挙げられる。
りん系酸化防止剤としては、例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニルジホスホニト等が挙げられる。商業的に利用可能な製品としては、例えば、アデカスタブ 2112(ADEKA社製)、アデカスタブ HP-10(ADEKA社製)等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ラジカルを捕捉してラジカル連鎖反応を禁止する一次酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤を含むことが好ましい。放射線等の作用で樹脂から炭化水素ラジカルが生じると、炭化水素ラジカルが大気中の酸素と反応して過酸化ラジカルを生じる。しかし、フェノール系酸化防止剤が配合されていると、生成した過酸化ラジカルが速やかに捕捉されるため、自動酸化を初期の段階で停止して、樹脂の劣化を抑制することができる。
フェノール系酸化防止剤としては、少なくともヒンダードフェノールを含むことが好ましく、ヒンダードフェノールのみ、又は、ヒンダードフェノールとレスヒンダードフェノールとの組み合わせが好ましい。ヒンダードフェノールは、レスヒンダードフェノール等と比較して反応速度が遅い一方、生成するフェノキシラジカルが二量化し難いので、ラジカルの捕捉数が多くなる。そのため、ヒンダードフェノールを用いると、樹脂の劣化を持続的に抑制することができる。また、ラジカルを捕捉する効率が高くなるため、効率を維持しつつ酸化防止剤の配合量を削減できる。
酸化防止剤としては、一次酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤を含み、ラジカル連鎖反応で生成する過酸化物を分解する二次酸化防止剤として、りん系酸化防止剤を含むことがより好ましい。りん系酸化防止剤が配合されていると、過酸化ラジカルが樹脂等から水素を引き抜いて生成する過酸化物が分解される。また、りん系酸化防止剤自体の酸化がフェノール系酸化防止剤で抑制される等の相乗効果が得られる。そのため、樹脂の劣化をより確実に抑制することができる。
光安定化剤としては、N-H型ヒンダードアミン、N-アルキル型ヒンダードアミン、N-アルコキシ型ヒンダードアミン等のヒンダードアミン系光安定化剤や、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン等の紫外線吸収剤等が挙げられる。光安定化剤としては、一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
N-H型ヒンダードアミンとしては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピぺリジル)セバケート、1,2,3,4-テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピぺリジニル)エステル、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)エステル等が挙げられる。また、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールと3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-3-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)プロパナールとの縮合体等が挙げられる。商業的に利用可能な製品としては、アデカスタブ LA-77Y(ADEKA社製)等が挙げられる。
N-アルキル型ヒンダードアミンとしては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピぺリジル)セバケート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)エステル等が挙げられる。また、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールと3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-3-(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)プロパナールとの縮合体等が挙げられる。商業的に利用可能な製品としては、アデカスタブ LA-63P(ADEKA社製)等が挙げられる。
N-アルコキシ型ヒンダードアミンとしては、例えば、ビス(1-ウンデカンオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート等が挙げられる。商業的に利用可能な製品としては、アデカスタブ LA-81(ADEKA社製)等が挙げられる。
光安定化剤としては、ヒンダードアミン系光安定化剤のみを用いることが好ましく、酸化防止剤との拮抗作用を生じず相溶性が高い種類を用いることが好ましい。ヒンダードアミン系光安定化剤によると、紫外線等の作用で発生する炭化水素ラジカルや、過酸化ラジカルが捕捉される。また、過酸化ラジカルが樹脂等から水素を引き抜いて生成する過酸化物が分解される。また、光安定化剤自体の酸化が酸化防止剤で抑制される等の相乗効果が得られる。そのため、屋外の紫外線環境下等であっても、樹脂の劣化をより確実に抑制することができる。
シリコーンオイルとしては、重合度が約2500以下のジメチルポリシロキサンや、その変性体を用いることができる。シリコーンオイルによると、樹脂の流動性、離型性、成形体の耐摩耗性等を向上させることができる。変性体としては、相溶性、潤滑性、離型性等を改良したシリコーンオイル、例えば、フェノール変性、アミノ変性、アルキル変性、エステル変性等の各種の変性シリコーンオイルが挙げられる。
シリコーンオイルとしては、潤滑性を有し、樹脂に対する混合性や保留性が良好であれば、適宜の重合度や分子量のものを用いることができるが、ポリエチレンの溶融温度(120~140℃)よりも高い140℃以上の引火点を示し、樹脂の加熱溶融時に揮発し難いものが好ましい。商業的に利用可能な製品としては、例えば、KF-96-10cs(信越化学工業社製)、KF-96-20cs(信越化学工業社製)、KF-96-30cs(信越化学工業社製)等が挙げられる。
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を原料とし、これを精製して得られるオイルを配合することができる。例えば、ナフテン系原油を減圧蒸留し、溶剤抽出によって芳香族成分を含むオイルを取り除いたものを添加剤として用いることができる。また、溶剤抽出の他に、吸着処理、白土処理、脱酸処理等を施して精製したオイルを用いてもよい。なお、ナフテンとは、一般式:CnH2nで表される環状炭化水素を意味する。
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のオイルを用いることが好ましい。このようなオイルは、ポリエチレンとの相溶性や溶解性が高く、粘度指数が低い特徴がある。また、-10℃程度を含む広い温度域でポリエチレンの分子のすべり性を向上させる作用を示すため、低温を含む広い温度域でポリエチレンの脆性破壊を低減することができる。
n-d-M法は、ASTM D 3238-85に準拠した油(オイル)の構造基分析の一方法(環分析法)であり、ベースオイルの組成分析に一般的に利用されている。n-d-M法によれば、20℃におけるオイルの密度d20、20℃におけるオイルの屈折率nD
20、及び、オイルの平均分子量のデータに基づいて、全炭素量に対するパラフィン炭素の質量割合(%CP)、全炭素量に対するナフテン炭素の質量割合(%CN)、全炭素量に対する芳香族炭素の質量割合(%CA)、一分子当たりのナフテン環の平均環数(RN)、及び、一分子当たりの芳香族環の平均環数(RA)が求められる。
ここで、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、を含むポリエチレン樹脂組成物の作用効果について具体的に説明する。
ポリエチレン管は、鋼管に比べて軽量であり、移動や加工が容易であることから、水道用の長距離配管等として広く用いられている。しかしながら、ポリエチレン管は、鋼管とは異なり、主として炭素と水素で構成される有機高分子で形成されている。ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の外的因子によって劣化が進行し、弾性、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等が低下するため、配管に内圧、外圧、衝撃等が加わったり、配管が化学物質に暴露されたりした場合に、脆性破壊し易い欠点を有している。
有機高分子は、放射線、紫外線、熱等で分子が励起され、分子中の結合が切断して分解することが知られている。例えば、ポリエチレンに放射線等が作用すると、水素ラジカル(H・)や炭化水素ラジカル(R・)が生成する。ラジカルは、反応性が高く、ラジカル同士が結合したり(再結合)、ラジカルが元素を引き抜いて別のラジカルを生成させたり(引き抜き反応)、ラジカルが二重結合に付加したり(付加反応)、ラジカル同士が結合すると同時に分子鎖が切断されたりする(不均化反応)。
ラジカルによる再結合や付加反応は、架橋と呼ばれる分子量の増大をもたらし、不均化反応は、崩壊と呼ばれる分子量の減少をもたらす。ポリエチレン管において、分子鎖の架橋や崩壊が進行すると、衝撃や屈曲に対する抵抗性が低くなり、管体が脆くなる等の物性の変化を生じる。そして、管体の脆化が進むと、内圧、外圧、衝撃、荷重等が加わった場合に、き裂、割れ等の応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなり、管壁にき裂や脆性割れを生じたり、管体が破裂したりする等の不具合を生じる。
配水用ポリエチレン管等の配管材料としては、多段重合や改良触媒を用いて高性能化した高密度ポリエチレンも使用されている。この種の高密度ポリエチレンでは、高分子量の領域を増加させて、結晶構造同士を繋ぐタイ分子を増やすことで、長期静水圧強度と耐環境応力き裂性を向上させている。
一般に、過酷環境下であっても、結晶領域は影響を受け難いが、タイ分子の切断による非晶領域の増加は、進行することが知られている。タイ分子の切断が進むと、外力が加わったとき、樹脂の内部で応力集中が起こり易くなり、長期静水圧強度や、耐環境応力き裂性や、耐衝撃性が低下すると考えられている。
特に、酸素が存在する大気中では、ラジカルにより酸化の伝播反応(連鎖反応)が進行することが知られている。はじめに、反応式(1)のように、炭化水素ラジカル(R・)と酸素(O2)とが反応して、過酸化ラジカル(ROO・)が生成する。
過酸化ラジカル(ROO・)は、反応性に富み、反応式(2)のように、他の分子(RH)から水素(H)を引き抜いて、過酸化物(ROOH)と新たな炭化水素ラジカル(R・)を生じる。
そして、新たに生成した炭化水素ラジカル(R・)は、反応式(1)にしたがって、別の過酸化ラジカル(ROO・)を生成し、過酸化ラジカル(ROO・)は、反応式(2)にしたがって、別の過酸化物(ROOH)を生成する。過酸化物(ROOH)も、不安定であるため、反応式(3)~(5)のように、新たなオキシラジカル(RO・)、過酸化ラジカル(ROO・)等を生成する。
酸素が存在する大気中では、このような酸化の伝播反応によって、最初に発生した炭化水素ラジカル(R・)が新たなラジカルを多数増殖させて、分子鎖の架橋や崩壊を進行させる。そのため、樹脂の劣化が加速的に進み、応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなる。
また、酸素が存在する大気中では、放射線や紫外線によって、オゾンが生成されることがある。オゾンは、二重結合を持つポリエチレンに対する反応性が高く、ポリエチレンとの反応によってオゾナイドを生成する。オゾナイドは不安定であるため、O-O結合が切断して、アルデヒド、ケトン、エステル、ラクトン、過酸化物等が生成される。このような反応で起こる分子の分解は、樹脂に微小なクラック(オゾンクラック)を形成することが知られている。
特に、ポリエチレン管に1MPa程度以上の流体圧力、土圧等がかかる場合、分子鎖が伸長した状態となり易いため、オゾンの浸透率が高まると共に、特定の部位に応力が集中し易くなる。このような場合、オゾンクラックの発生の可能性や、オゾンクラックを起点とする破壊の可能性が高まる。
また、ポリエチレン管は、高温の流体の輸送に用いられることもある。分子の分解をもたらす様々な素反応は、分子運動、すなわち、分子の振動や衝突確率とも関係している。分子運動は、高温になるほど激しくなるため、ポリエチレンが高温に晒されると、分子鎖の架橋や崩壊が加速し、樹脂の劣化が著しく進行する。
特に、酸化反応を伴う系では、温度が、酸化層の厚さや、酸素の拡散速度や、酸化分解の反応速度に影響を及ぼすため、分子の酸化分解が益々加速される。一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になる。そのため、ポリエチレン管を高温の流体の輸送に用いる場合等に、ポリエチレンが高温に晒されると、酸化劣化が加速して分子鎖の架橋や崩壊が進み、樹脂の劣化が著しくなる。
このような放射線、紫外線、熱等によるポリエチレンの劣化は、弾性率、引張強さ、伸び等の種々の特性を低下させて、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等を悪化させる。放射線環境、紫外線環境、高温環境等の過酷環境下でポリエチレン製の配管、継手等の使用が続けられると、内圧、外圧、衝撃等が加わったり、化学物質に晒されたりした場合に、応力破壊やクリープ破壊が起こり、き裂、割れ、管体の破裂等の不具合が生じて流体の漏洩、流出等の問題を生じる。
一般には、配管材料として高密度ポリエチレン等を用いる場合、加熱溶融後の樹脂成形体の劣化を抑制する目的で、酸化防止剤等の添加剤が配合されることは少ない。耐候性を向上させるために添加したカーボンブラックや、重合時に混入した触媒をはじめとして、樹脂中の成分が樹脂の劣化の要因となることがあることも、従来から知られている。
これに対し、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、を含むポリエチレン樹脂組成物を用いると、酸化防止剤によって、タイ分子の切断による非晶領域の増加を防ぎ、樹脂の酸化劣化を大きく抑制することができるし、ナフテンを含有するオイルによっても、ラジカルを捕捉する作用で樹脂の酸化劣化を抑制することができる。
ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の様々な外的因子によって、き裂、割れ等を生じるが、外的因子の種類によらず、いずれの破壊モードであっても、伸びが低下し、破面に白化が現れる特徴がある。脆性破壊により現れる破面には、白化やクラックが発生しており、ボイドとフィブリルが存在している。白化は、ボイドの形成による光のミー散乱によって起こる現象である。白化は、ボイドとフィブリルで構成された損傷形態であるクレイズ破壊が生じたことを示している。
一般に、ポリエチレンの引張による破断は、次の(A)~(D)の順に進行することが知られている。
(A)引張降伏直後に発生するひずみの局所化領域の伝播
(B)クレイズ破壊領域の伝播
(C)クレイズ破壊の集中部で分子鎖切断やクラックが発生
(D)ポリマ破断
また、結晶レベルでは、引張により次のような変形が起こることが知られている。
(a)分子レベルの結晶の破壊(分子鎖剥離)
(b)結晶のブロック状破壊(分子鎖剥離)
(c)結晶内での分子のすべり回転(変化小)
これらのうち、(a)及び(b)では、結晶領域が破壊され、非晶領域が増加する。また、分子鎖が結晶領域から剥離し、ボイドやフィブリルが形成されて、クレイズ破壊が起こる。しかし、(c)では、結晶領域のダメージは少なく、非晶領域は殆ど増加しない。
このような機構で増加する非晶領域は、応力割れをはじめとする破壊の起点となる。そのため、ボイドやフィブリルの形成や、クレイズ破壊の発生をできるだけ阻止し、配管の内部の流体からの圧力や、配管の外部からの土圧等が加わったとき、脆性破壊やクリープ破壊を生じないようにすることが望ましい。
これに対し、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、を含むポリエチレン樹脂組成物を用いると、ナフテンを含有するオイルによって、ポリエチレンの結晶内に存在する分子のすべり性を大きく向上させることができる。結晶レベルの変形を結晶内での分子のすべり回転に転換することにより、ボイドやフィブリルの形成や、クレイズ破壊を低減し、非晶領域を拡大し難くすることができるため、樹脂の劣化による脆性破壊やクリープ破壊を低減することができる。
また、ナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンとSP値が近く、相溶性が良好である。ポリエチレンを主成分とする基材にナフテンを含有するオイルを添加すると、オイルを結晶内の分子の細部にまで浸透させて、結晶内での分子のすべり性を大きく向上させることができる。そのため、分子レベルの結晶の破壊や、結晶のブロック状破壊を顕著に生じさせることなく、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くすることができる。
また、ナフテンを含有するオイルは、粘度指数が低く、低温においても常温に近い流動性を示す。一般に、高分子材料は低温脆化を起こし易く、高密度ポリエチレンは低温における耐衝撃性が低い欠点を持つので、結晶内やタイ分子の周辺において分子のすべり回転を生じ易くすることが重要である。ポリエチレンを主成分とする基材にナフテンを含有するオイルを添加すると、結晶内やタイ分子の周辺に浸透したオイルが、低温においても高い流動性を保ち、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くするため、低温脆化に対する耐性や、低温における耐衝撃性を向上させることができる。
また、ナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンを軟化させる作用を示す。一般に、ポリエチレンは、放射線環境下で使用を続けた場合、硬くなり容易に脆化することが知られている。しかし、ポリエチレンを主成分とする基材にナフテンを含有するオイルを添加すると、ポリエチレンを主成分とする基材そのものを軟化させることができる。樹脂自体の軟化によって樹脂成形体の硬化や脆化を防ぐことができるため、樹脂の劣化による脆性破壊やクリープ破壊を低減することができる。
ナフテンを含有するオイルは、非極性物質を主成分とすることが好ましい。このようなオイルは、ポリエチレン樹脂組成物の作製時に、ポリエチレンと相溶し易く、ポリエチレンの分子間に浸透し易いので、分子のすべり性を向上させる高い効果が得られる。また、極性物質とは異なり、空気中の水分や配管内を輸送される水に対して溶解し難く、ポリエチレンの分子間から外部に漏出しなくなるため、添加による効果を持続的に得ることができる。
ナフテンを含有するオイルとしては、室温で液体のオイルが好ましい。ナフテンを含有するオイルは、パラフィンを主成分とするパラフィン系オイルとは異なり、ナフテンを主成分としているため、アニリン点は通常低くなる。但し、ナフテンを含有するオイルのアニリン点は、樹脂との相溶性を確保する観点等からは、100℃以下であることが好ましい。
ナフテンを含有するオイルは、n-d-M法による環分析の%CNが30%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。このような%CNであると、分子のすべり性を向上させる高い効果が得られる。また、%CNが70%以下であることがより好ましく、%CAで0.1%程度の極微量であっても芳香族成分が含まれていることが好ましい。芳香族成分は、ラジカルと反応して共鳴安定化するため、酸化の伝播反応を良好に抑制する作用を示す。また、炭化水素ラジカルの生成自体を抑制する作用を示す。そのため、このようなオイルによると、酸化劣化による分子鎖の架橋や崩壊を効果的に抑制することができる。
ナフテンを含有するオイル及び酸化防止剤の添加量は、基材100質量部に対して、0.1質量部以上7質量部以下とすることが好ましく、1質量部以上7質量部以下とすることがより好ましい。添加量が7質量部を超えると、酸化防止剤がブルームを生じたり、オイルがにじみ出たりするため、ポリエチレン樹脂組成物の利用に支障をきたす。一方、添加量が0.1質量部未満であると、添加による十分な効果を得ることができない。これに対し、前記の添加量の範囲で添加量が多いほど、樹脂の酸化劣化を抑制する高い効果や、ポリエチレンの分子のすべり性を向上させる高い効果が得られる。
酸化防止剤の添加量は、基材100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。一次酸化防止剤の添加量は、基材100質量部に対して、0.1質量部以上2質量部以下とすることが好ましい。二次酸化防止剤を添加する場合、二次酸化防止剤の添加量は、基材100質量部に対して、0.2質量部以上4質量部以下とすることが好ましい。添加量が多すぎると、酸化防止剤がブルームを生じる。一方、添加量が0.1質量部未満であると、添加による十分な効果を得ることができず、放射線に対する耐性が得難くなる。
光安定化剤を添加する場合、光安定化剤の添加量は、基材100質量部に対して、0.05質量部以上1.5質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上1.2質量部以下とすることがより好ましい。また、シリコーンオイルを添加する場合、シリコーンオイルの添加量は、基材100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下とすることが好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下とすることがより好ましい。
ポリエチレン樹脂組成物に含まれるオイルの含有量は、例えば、赤外分光分析によって測定することができる。また、ポリエチレン樹脂組成物における結晶領域及び非晶領域の増減は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry:DSC)を用いて調べることができる。一般的なポリエチレンでは、樹脂の劣化により結晶融解発熱量が大きく減少する。しかし、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、を含むポリエチレン樹脂組成物では、結晶融解発熱量が殆ど減少しなくなる。
また、ポリエチレン樹脂組成物における非晶領域の酸化状態は、FT-IR(Fourier transform - infrared spectrometer)によって確認することができる。酸化防止剤を添加していないポリエチレン樹脂組成物は、C=O結合に帰属される1710~1750cm-1付近のピークが、樹脂の酸化劣化によって増大し易く、放射線環境のような過酷環境下で使用を続けたとき、吸収シグナルが顕著に増える。しかし、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、を含むポリエチレン樹脂組成物では、1710~1750cm-1付近のピークが殆ど増大しなくなる。
次に、ポリエチレン樹脂組成物や、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管及び継手の製造方法について説明する。
ポリエチレン樹脂組成物は、ペレット等として用意されるポリエチレンを加熱溶融し、酸化防止剤とナフテンを含有するオイルと共に混練することにより得ることができる。また、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手は、このようにして得られるポリエチレン樹脂組成物を材料とし、押出成形、射出成形、二次加工等を行うことにより製造することができる。
ポリエチレン樹脂組成物の製造時や、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手の製造時において、添加剤は、ドライブレンドしてもよいし、樹脂に直接混合してもよい。但し、固体の酸化防止剤は、混練が不十分であると、凝集して破壊の起点となり得る。そのため、添加剤は、予めマスターバッチとしてから混合することが好ましく、特に、ナフテンを含有するオイルと混合した状態でマスターバッチとしてから混合することが好ましい。
例えば、ポリエチレン樹脂組成物の製造時、添加剤をドライブレンドする場合、酸化防止剤とナフテンを含有するオイルとを配合して作製したマスターバッチペレットと、ポリエチレン樹脂ペレットとを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を、多数の孔(例えば、直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤に通して水中に押し出し、円盤面に平行に設置されているナイフで所定長さ(例えば、長さ3mm程度)に切断することによって、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットを得ることができる。
或いは、ポリエチレン樹脂組成物の製造時、ナフテンを含有するオイルは、溶融混練中の溶融樹脂組成物に単独で直接混合してもよい。例えば、酸化防止剤を配合して作製したマスターバッチペレットや、ポリエチレン樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入すると共に、マイクロチューブポンプ等を用いてオイルを一定の滴下速度で滴下し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を水中に押し出し、所定長さに切断することによって、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットを得ることもできる。
また、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手の製造時、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットのみを配管材料として用いてもよいし、マスターバッチペレットとポリエチレン樹脂ペレットとを配管材料として用いてもよい。例えば、これらのペレットを押出機(パイプ製造装置)のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押し出し、引取機で引き取りながら必要に応じてサイジングを行い、冷却水槽等に通して冷却することによって、添加剤が配合されたポリエチレン管を製造することができる。
混練機としては、バンバリーミキサ等の回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダ等の各種の混練機を用いることができる。また、押出機としては、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等を用いることができる。ダイスは、ストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイス等のいずれのタイプであってもよい。また、サイジングは、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法で行ってもよい。
ポリエチレン樹脂組成物の製造時や、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手の製造時において、樹脂の混練温度は、120℃以上250℃以下とすることが好ましい。バンバリーミキサを用いる場合、例えば、180℃で10分間の混練等で溶融樹脂組成物が得られるが、オイルを添加する場合は、190℃以上になるように加熱することが好ましい。なお、ポリエチレン樹脂組成物は、他の添加剤を含まないことが好ましいが、ポリエチレン樹脂100%質量部に対して0.1~5質量部の範囲であれば、酸化チタンを含有していてもよい。
ポリエチレン樹脂組成物を配管材料として製造する配管は、単層管や二層管等の管構造及び被覆の形態、直管や曲管や分岐管等の形状、内外径や長さ、使用圧力等が、特に制限されるものではない。また、ポリエチレン樹脂組成物を配管材料として製造する継手は、寸法、形状、チーズ等の接続数、エレクトロフュージョンやメカニカル等の接続法等が、特に制限されるものではない。
以上の本実施形態に係るポリエチレン樹脂組成物や、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管材料、配管及び継手によると、添加剤として、酸化防止剤と、ナフテンを含有するオイルと、が含まれているため、酸化防止剤によって、樹脂の酸化劣化が抑制されると共に、オイル自体の酸化劣化も防止される。また、ナフテンを含有するオイルによって、樹脂の酸化劣化を抑制する効果や、クレイズ破壊を抑制する効果が得られる。酸化防止剤とナフテンを含有するオイルとは、相溶性が高いため、固体の添加剤のように樹脂に破壊の起点が導入されることが少ないし、オイル自体の酸化も防止されるので、樹脂の劣化を抑制する相乗効果が得られる。
そのため、ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手に、流体圧力、土圧、その他、衝撃、荷重等の外力が加わった場合にも、環境応力き裂やクリープ破壊が生じ難くなり、管壁にき裂、脆性割れ等が発生したり、管体が破裂したりするのが防止される。すなわち、ポリエチレンが持つ脆性破壊割れを起こし易いという本質的な欠点を、抜本的に改善することができる。目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力が集中して脆性破壊や応力き裂を起こし難く、低温を含む広い温度域で十分な伸び、弾性が得られるため、広い温度域で耐応力環境き裂性や耐衝撃性を向上させることができる。
特に、通常環境だけでなく、高線量の放射線環境、夏場の屋外等の紫外線環境、夏場等の高温環境、或いは、冬場等の低温環境、高濃度の酸素や酸性雨に晒される環境等、種々の過酷環境下においても、樹脂の劣化による脆性破壊やクリープ破壊が低減するポリエチレン樹脂組成物や、配管、継手等の樹脂成形体を提供することができる。また、このようなポリエチレン樹脂組成物を含む配管材料により、長期静水圧強度、弾性、耐環境応力き裂性、耐衝撃性等が長期間にわたって低下し難く、冬場等の低温環境で流体が凍結しても脆性破壊割れや破裂に至り難い配管、継手等を提供することができる。
なお、本実施形態に係るポリエチレン樹脂組成物、配管材料、配管及び継手は、用途が特に制限されるものではない。ポリエチレン樹脂組成物を含む配管や継手は、適宜の敷設環境で用いることができる。また、水、海水等の適宜の流体の輸送に用いることができる。これらは、原子力関連施設における流体の輸送に有効であり、冷却水輸送用等の原子力設備用配管として特に好適に用いることができる。このような原子力設備用配管や継手、これらを形成するための原子力設備用配管材料を用いると、放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下ないし屋外での流体の輸送を、長期間にわたって健全且つ確実に行うことができる。
以上、本発明に係るポリエチレン樹脂組成物、並びに、これを含む配管材料、配管及び継手の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
添加剤の種類を変えてポリエチレン樹脂組成物からなる試験片を作製し、引張破断伸びを評価した。
基材としては、チーグラー触媒を用いて製造された高密度ポリエチレンを用いた。高密度ポリエチレンは、ポリエチレン100質量部に対し、0.5質量部の酸化チタンを含有している。ポリエチレン樹脂組成物の試験片は、添加剤として、表1に示す酸化防止剤と、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが20%以上100%以下のナフテンを含有するオイルと、を配合して作製した。表1に、添加剤の組み合わせ、表2に、添加剤の構造を示す。
はじめに、ポリエチレンと酸化防止剤とナフテンを含有するオイルとを、バンバリーミキサを用いて180℃で10分間混練し、溶融樹脂組成物を造粒してポリエチレン樹脂組成物のペレットとした。そして、ポリエチレン樹脂組成物のペレットを射出成形機に供給して、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)JIS K 7162に記載されている1B形のダンベル形状の試験片を作製した。
<引張試験>
引張試験は、試験片を100℃で500時間加熱して熱劣化させた後、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル形状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B 7721に記載の装置を使用した。試験片の厚さと平行部の幅を測定し、伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、試験速度500mm/min、室温で引張試験を行った。標線間距離は50mmとした。引張試験を行って試験片の破断時の標線間距離を測定し、下記式(I)によって、破断時の伸びを算出した。なお、式(I)において、EBは破断時の伸び(%)、L0は標線間距離(mm)、L1は破断時の標線間距離(mm)をそれぞれ示している。
<DSC測定>
DSC測定は、日本工業規格「プラスチックの転移温度測定方法」JIS K 7121に準拠して行った。DSC測定によりポリエチレン結晶の融解ピーク面積(J)を求め、融解ピーク面積をサンプリング質量(g)で割った値である融解エネルギー(J/g)を算出した。試料は、引張試験の伸び応力が掛かっていない箇所(変形なし)と伸び応力が掛かり、変形が起こった箇所(変形あり)で比較した。融解エネルギー(J/g)の変化量が大きいほど、結晶のダメージが大きく、非結晶部が増加し、分子鎖剥離が発生していることを示す。
<放射線照射>
放射線照射は、Co60線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で試験片に照射することにより行った。照射時間は、110hから521hとした。吸収線量は、50kGyから500kGyである。
<環境応力き裂試験>
環境応力き裂試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験片は、長さ38mm、幅13mm、厚み2mmの短冊状で、深さ0.3mm、長さ19.1mmのノッチを設けた。硬質ガラス製試験管(栓付)に50℃のノニル・フェニル・ポリオキシエチレン・エタノール10mass%水溶液を入れ、ステンレス鋼製の試験片固定具に試験片5個を固定して浸漬し、浸漬後の試験片の外観を目視によって観察し、き裂が発生するまでの時間を調べた。
<アイゾット衝撃試験>
アイゾット衝撃試験は、日本工業規格「プラスチック-アイゾット衝撃強さの試験方法」JIS K 7110に準拠して行った。但し、試験温度は、-10℃とした。試験片は、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmで、半径0.25mmのタイプAノッチを設けた。オーブンで一定温度に保持した試験片を試験片固定台に固定し、持ち上げて固定した振り子を落下させてノッチを付けた面を打撃した。
図1は、吸収線量が破断時の伸びに及ぼす影響を示すグラフである。
図1において、横軸は、吸収線量(kGy)、縦軸は、引張試験の破断時の伸び(%)を示す。基材としては、密度が0.95g/cm3のポリエチレンを用いた。添加剤としては、表1に示す「A」の組み合わせと、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが50%のオイルを用いた。添加剤の添加量の合計は、5phrである。実施例は、添加剤を添加した試験片、比較例は、添加剤を添加しなかったこと以外は実施例と同様にして作製した試験片である。
図1に示すように、破断時の伸びについては、実施例の方が比較例よりも大きい結果が得られた。比較例では、吸収線量が約300kGyで伸びが得られなくなったが、実施例では、より高い吸収線量まで高い伸びが維持された。
図2は、オイルの%CNに対するアイゾット衝撃試験の結果(-10℃の衝撃値)を示すグラフである。
図2において、横軸は、ナフテンを含有するオイルのn-d-M法による環分析の%CN(%)、縦軸は、アイゾット衝撃試験における-10℃の衝撃値(kJ/m2)を示す。基材としては、密度が0.95g/cm3のポリエチレンを用いた。添加剤としては、表1に示す「B」の組み合わせと、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが0%から100%のオイルを用いた。添加剤の添加量の合計は、5phrである。
図2に示すように、-10℃の衝撃値については、n-d-M法による環分析の%CNが20%から100%のオイルで大きい結果が得られた。衝撃値は、%CNが10%から30%にかけて急激に増加したが、%CNが40%以上で増加が略飽和した。
図3は、ポリエチレンの密度に対する破断時の伸びを示すグラフである。
図3において、横軸は、ポリエチレンの密度(g/cm3)、縦軸は、吸収線量が445kGyの場合における引張試験の破断時の伸び(%)を示す。基材としては、密度が0.91g/cm3から0.97g/cm3のポリエチレンを用いた。添加剤としては、表1に示す「C」の組み合わせと、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが50%のオイルを用いた。添加剤の添加量の合計は、5phrである。
図3に示すように、破断時の伸びについては、ポリエチレンの密度が0.94g/cm3から0.97g/cm3までの範囲で大きい結果が得られた。この結果から、ポリエチレンの密度は、0.94g/cm3以上0.97g/cm3以下の範囲が好ましいといえる。
図4は、添加剤の添加量に対する環境応力き裂試験のき裂発生までの時間を示すグラフである。
図4において、横軸は、基材に対する添加剤の添加量(phr)、縦軸は、環境応力き裂試験でき裂が発生するまでの時間(h)を示す。基材としては、密度が0.95g/cm3のポリエチレンを用いた。添加剤としては、表1に示す「D」の組み合わせと、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが50%のオイルを用いた。添加剤の添加量は、0phrから15phrまでの範囲である。
図4に示すように、環境応力き裂試験のき裂発生までの時間については、添加量が0.1phrから7phrまでの範囲で長い結果が得られた。この結果から、添加剤の添加量は、0.1phr以上7phr以下の範囲が好ましいといえる。
添加剤を添加したポリエチレン樹脂組成物の試験片と、添加剤を添加していないポリエチレン樹脂組成物の試験片とを比較すると、DSC測定において、添加剤を添加した場合、結晶融解発熱量が大きく減少し、添加剤を添加していない場合、結晶融解発熱量が殆ど変化しなかった。この結果は、引張応力による結晶のダメージが、添加剤を添加した場合に非常に小さくなることを示している。酸化防止剤等によって、非晶領域をはじめとする分子の酸化切断が防止されたと考えられる。
また、引張試験後の伸び部を確認したところ、添加剤を添加した場合、白化が起こってなく、樹脂が透明なままであったのに対し、添加剤を添加していない場合、白化が起こっていた。ナフテンを含有するオイル等によって、クレイズ破壊が低減されることが確認された。結晶レベルでの引張による変形を結晶内でのすべり回転に変え、非晶領域の増加を抑えて分子鎖の剥離を抑制することで、ボイドやフィブリルの形成が阻止されたと考えられる。