JP6895844B2 - 高密度ポリエチレン配管 - Google Patents
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Description
また、特許文献2では、外層にカーボンブラックが配合されているため太陽光の紫外線などによる樹脂の劣化を抑制することはできるものの、内層および外層ともに放射性の環境に暴露されることは想定されておらず、高い線量の放射線に対する耐性は備えていない。
なお、本明細書においては、「〜」(乃至)は、数値範囲を表し、下限値および上限値を含むものとする。よって、例えば、数値A、Bについて「A〜B」と記載した場合は、AとBとの間の数値を含む範囲を表し、かつ、AおよびBもこの範囲に含まれる。言い換えると、「A〜B」は「A以上B以下」と同じ意味である。
図1に示すように、高密度ポリエチレン配管1は、内部を流体が通流する内層2、およびこの内層2の外側を覆うとともにカーボンブラックを1〜3質量%含有する外層3の少なくとも2層を有している。
なお、内層2と外層3は互いに接していてもよく、離間していてもよい。内層2と外層3が互いに接している場合、融着や接着などにより互いに固定させることができる。内層2と外層3とを離間させる場合、内層2と外層3との間の空間(当該空間を「空間層」と呼称する。ただし、空間層については図示せず。)に漏れ検知機能を持たせることができる。漏れ検知機能は、例えば、2つの電極の間に媒体が介在するときの電気抵抗を測定する電気抵抗式センサを用いる方式や、前記空間層を真空に保持しておき、流体が流れ込んだときの真空度の低下を検知する方式などを採用することができる。
また、内層2と外層3との間に、内層2の内側からの衝撃や、外層3の外側からの衝撃を相互に緩衝できる緩衝層を中間層として設けることができる。当該緩衝層は、例えば、高密度ポリエチレンよりも軟らかいポリエチレン(密度が0.940g/cm3未満のポリエチレン)で形成することができる。
さらに、内層2の内側表面に流体中の砂利や石等の固形物による破損を防ぐため、ライニング層や保護層を設けてもよい(いずれも図示せず)。
なお、本明細書では、密度が0.940g/cm3以上のポリエチレンを高密度ポリエチレンと呼称する。本実施形態で用いるポリエチレンの密度は0.942g/cm3以上とするのが好ましく、0.945g/cm3以上とするのがより好ましく、0.950g/cm3以上とするのがさらに好ましい。ポリエチレンの密度を高くするほど破断し難い高密度ポリエチレン配管1が得られるが、密度が0.980g/cm3を超えたあたりからその効果は飽和する傾向にある。また、密度が0.980g/cm3を超えると高密度ポリエチレン配管1が脆くなるおそれもある。そのため、内層2および外層3はともに密度を0.980g/cm3以下とする。他方、内層2および外層3の密度が0.940g/cm3未満であると、硬さが十分とは言えないので、管が破断し易くなったり、長期間の使用に耐えられなくなったりするおそれがある。そのため、内層2および外層3はともに密度を0.940g/cm3以上とする。破断し難い高密度ポリエチレン配管1とする観点からも、密度は前記したように0.942g/cm3以上とするのが好ましく、0.945g/cm3以上とするのがより好ましく、0.950g/cm3以上とするのがさらに好ましい。
なお、ナフテンとは環状炭化水素のことをいい、一般式CnH2nで表される。アロマティクスとは芳香族系炭化水素、即ち、共役二重結合を有する不飽和で環状の炭化水素のことをいい、一般式CnH2n−6で表される。
所定のアロマティクスを含有するオイルは、例えば、パラフィン系ベースオイルやナフテン系ベースオイルの精製過程で、高比重、高粘度の芳香族系炭化水素を多く含む残油が生成するが、こうしたオイルをブレンドして得たものであってもよい。
所定のナフテンを含有するオイルや所定のアロマティクスを含有するオイルを添加剤として含んでいるか否か、また、その含有量は、例えば、赤外分光分析(IR分析)などを行うことによって判断することができる。
外層3に含まれるカーボンブラックは、一般に市販されているファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどを用いることができる。
はじめに、一般的な高密度ポリエチレン配管の本質的な問題点などについて説明する。
そこで、一般的な配水管用高密度ポリエチレンは、高分子量領域を増加させたり、結晶構造を繋ぐタイ分子を増やしたりすることで長期静水圧強度や耐環境応力き裂性、衝撃特性などを向上させている。一般的な配水管用高密度ポリエチレンは、紫外線、放射線、熱などによる過酷な環境下であっても結晶領域のタイ分子はあまり影響を受けないが、非晶部(非結晶部)の増加、すなわち、非晶部におけるタイ分子の酸化切断が進行することが知られている。非晶部におけるタイ分子の酸化切断が進むと、外部応力が加えられた際に樹脂内で応力集中が起こり、長期静水圧強度や耐環境応力き裂性、衝撃特性などが低下する。そのため、配管として使用した場合にき裂が入ったり、破裂したりするなどの不具合を生じる懸念がある。
この過酸化ラジカル(ROO・)は反応性に富むので、他の分子(RH)から水素(H)を引き抜いて過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)とを生成する(下記化学式(2)参照)。つまり、生成された過酸化ラジカル(ROO・)は、下記化学式(2)以降に示す酸化の伝播反応(連鎖反応)を開始させる。
新たに発生したラジカル(R・)は、酸素存在下で前記化学式(1)によりまた新たな過酸化ラジカル(ROO・)を生成する。
なお、過酸化物(ROOH)も不安定であるため、分解して結果的に過酸化ラジカル(ROO・)、オキシラジカル(RO・)、ラジカル(R・)などを生成する(下記化学式(3)〜(5)参照)。
2ROOH→ROO・+RO・+H2O …(4)
RO・+RH→ROH+R・ …(5)
(A)引張降伏直後に発生するひずみの局所化領域の伝播
(B)クレイズ破壊領域の伝播
(C)クレイズ破壊の集中部で分子鎖切断やクラックが発生
(D)ポリマ破断
(a)分子レベルの結晶の破壊(分子鎖剥離)
(b)結晶のブロック状破壊(分子鎖剥離)
(c)結晶内での分子のすべり回転(変化小)
さらに、所定のアロマティクスを含有するオイルは、酸価が高いという特性を有している。酸価とは、油脂1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数である。パーム油、ヤシ油、こめ油の原油(未精製の油脂)が一般に酸価が高い(7〜20程度)のは、これらの原料に含まれる加水分解酵素の力が強いからである。精製された油でも、自動酸化してアルデヒドやカルボン酸となる場合には、酸価が上昇する。そのため、酸価は、油脂の変質の指標ともなる。所定のアロマティクスを含有するオイルは、酸価が高いことから、オイルのアルデヒドやカルボン酸などの生成量が多い。このため、当該オイルは、酸価が低いオイルと比べて、オイル自体が熱や放射線環境下で劣化し易いという特性を有している。
内層2は、添加剤として所定のナフテンを含有するオイルおよび所定のアロマティクスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を前記した範囲で含んでいるので黄色を呈している。
また、外層3は、カーボンブラックを所定量含んでいるので黒色を呈している。なお、外層3は、添加剤として所定のナフテンを含有するオイルおよび所定のアロマティクスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を含んでいても、カーボンブラックを所定量含んでいるので黒色を呈する。
外層3が前記した添加剤を含有する場合も同様の理由でポリエチレンの含有量を100質量部としたときに1〜8質量部の範囲で添加剤を含有させることが好ましい。
前記したように、高密度ポリエチレン配管1の原料となる高密度ポリエチレンは、一般に市販されているものを用いることができる。高密度ポリエチレンと前記した添加剤との混練は、混練機を用いて行うのが好ましい。
混練機としては、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダーなどが使用できるが、これらに限定されるものではない。混練温度は、例えば、120〜250℃が好ましい。なお、外層3用の高密度ポリエチレンにはカーボンブラックを所定量添加して混錬機で混錬する。
例えば、チーグラー触媒を使用して高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm3、メルトフローレート0.5g/10分)を製造し、100質量部秤量する。これに、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(サンド社−テトラキス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバガイギー社製、商品名:Irganox 1010)0.05質量部を配合する。これをバンバリーミキサーで温度150℃、10分間混練してから造粒してペレットとする。このとき、前記した添加剤を添加したマスターバッチペレットと、カーボンブラックを添加したマスターバッチペレットとの2種類を作製する。添加剤を添加したマスターバッチペレットは高密度ポリエチレン配管1の内層2に使用し、カーボンブラックを添加したマスターバッチペレットを高密度ポリエチレン配管1の外層3に使用して、パイプ製造装置で高密度ポリエチレン配管1を製造する。
本実施例においては、添加剤を変えた試験片を作製し、引張破断伸びを評価した。以下に、本実施例の試験片の作製方法について説明する。なお、添加剤は、ナフテンを含有するオイルとアロマティクスを含有するオイルとを用いた。
そして、原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが0〜100の間の任意の濃度(当該濃度について、例えば、図2など参照)でナフテンを含有するオイルを前記基材に混合した。混合する際、バンバリーミキサーを用いて温度180℃で10分間混練してから造粒し、高密度ポリエチレン配管ペレットとした。
同様に、原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CAが0〜100の間の任意の濃度(当該濃度について、例えば、図3など参照)でアロマティクスを含有するオイルを前記基材に混合した。この際、バンバリーミキサーを用いて温度180℃で10分間混練してから造粒し、高密度ポリエチレン配管ペレットとした。
さらに外層用には、基材にカーボンブラックを混合した。この際、バンバリーミキサーを用いて温度180℃で10分間混練してから造粒し、高密度ポリエチレン配管ペレットとした。
(1)JIS K 6761に記載されている耐候性試験に従い、暴露期間が積算放射照度3.5GJ/m2である照射を行った。なお、JIS K 6761に記載されている通り、ISO16871に従って行った。
(2)次いで、60Co線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で試験片に照射した。吸収線量は500kGyとした。
引張試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B 7721に記載の装置を使用した。ダンベル試験片の厚さと平行部の幅を測定し、さらに伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、500mm/minで引張試験機を用いて室温で引張試験を行った。標線間距離は50mmとした。引張試験では、破断時の伸びを測定した。破断時の伸びは、試験片が破断に至るまでの標線間の長さを測定した。試験片の破断時の伸びは、下記計算式(1)によって算出した。
前記計算式(1)において、EBは破断時の伸び(%)、L0は標線間距離(mm)、L1は破断時の標線間距離(mm)をそれぞれ示している。
環境応力き裂試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験片は、前記(1)、(2)の処理を行った製造した高密度ポリエチレン配管から、長さ38mm、幅13mm、厚み2mmの短冊状で、深さ0.3mm、長さ19.1mmのノッチを設けたものを作製した。そして、硬質ガラス製試験管(栓付)に50℃のノニル・フェニル・ポリオキシエチレン・エタノール10質量%水溶液を入れ、ステンレス鋼で作製された試験片固定具に試験片5個を固定して浸漬した。そして、浸漬後の試験片の外観を目視によって観察し、き裂の発生した時間を調べた。
図2に示すように、添加剤として、n−d−M法による環分析の%CNが20〜60のオイルを添加すると、破断時の伸びが大きくなり、良好な結果が得られることが確認された。
図3に示すように、添加剤として、n−d−M法による環分析の%CAが5〜40のオイルを添加すると、破断時の伸びが大きくなり、良好な結果が得られることが確認された。
図4に示すように、添加剤として、n−d−M法による環分析の%CNが20〜60のオイルを添加すると、き裂までの時間が長くなり、良好な結果が得られることが確認された。
図5に示すように、添加剤として、n−d−M法による環分析の%CAが5〜40のオイルを添加すると、き裂までの時間が長くなり、良好な結果が得られることが確認された。
図6に示すように、高密度ポリエチレンの密度が0.940〜0.970g/cm3であると、破断時の伸びが大きくなり、良好な結果が得られることが確認された。
図7に示すように、添加剤の含有量が、ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合に1〜8質量部の範囲にあると、き裂までの時間が長くなり、良好な結果が得られることが確認された。なお、添加剤の含有量が、ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合に1〜7質量部の範囲にあると、き裂までの時間がより長くなり、より良好な結果が得られることが確認された。
また、低温における耐衝撃性を調べるため、原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CAが0〜100の間の任意の濃度のオイルを用いた試験片を用いてアイゾット衝撃試験を行った。なお、内層の基材として、密度が0.950g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤であるオイルの添加量は5質量部であり、外層にはカーボンブラックを2質量%添加した。内層の厚みと外層厚みの比率は5:1とした。積算放射照度3.5GJ/m2およびγ線吸収線量500kGyの処理を行った後にアイゾット衝撃試験を行った。
図8に示すように、添加剤として、n−d−M法による環分析の%CAが5〜40のオイルを添加すると、−10℃衝撃値が大きくなり、良好な結果が得られることが確認された。
また、本発明によれば、紫外線と放射線の複合作用によって過度に劣化することなく、目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力が集中して脆性破壊割れや応力き裂を引き起こすことがなく、また、十分な伸びや衝撃強度を有する配管を提供できる。さらに詳しく言えば、高密度ポリエチレン配管に紫外線や放射線がともに作用する屋外敷設環境においても、破断伸び、耐環境応力き裂性、衝撃特性等が低下する問題を解決することができる。したがって、屋外の放射性物質を含む流体輸送に主として使用する配管に使用する場合において、脆性破壊割れや応力き裂に対する耐性を高めることができる。
2 内層
3 外層
Claims (4)
- 内部を流体が通流する内層、および前記内層の外側を覆うとともにカーボンブラックを1〜3質量%含有する外層の少なくとも2層を有し、
前記内層および前記外層はともに密度が0.940g/cm3以上0.980g/cm3以下のポリエチレンを含む基材で形成されており、
少なくとも前記内層は、原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CNが20以上60以下のナフテンを含有するオイル、および原油を精製した際に生じるオイルのうちn−d−M法による環分析の%CAが5以上40以下のアロマティクスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を添加剤として含んでおり、
前記添加剤の含有量が、前記ポリエチレンの含有量を100質量部としたときに1〜8質量部である
ことを特徴とする高密度ポリエチレン配管。 - 前記内層が黄色、前記外層が黒色であることを特徴とする請求項1に記載の高密度ポリエチレン配管。
- 前記内層の厚みと前記外層の厚みとの比率が、1:1〜15:1であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高密度ポリエチレン配管。
- 放射性物質を含む流体を輸送するために一部または全部が屋外で使用されることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の高密度ポリエチレン配管。
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