JP2018014379A - 半導体材料、基体、基体の製造方法および半導体レーザ - Google Patents

半導体材料、基体、基体の製造方法および半導体レーザ Download PDF

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浩之 西中
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昌広 吉本
英樹 来馬
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英樹 来馬
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Abstract

【課題】半導体レーザの出力光の波長の温度変化の影響を低減する半導体材料、基体、基体の製造方法および半導体レーザを提供する。【解決手段】半導体材料は、組成式GaAs1−xBix(0.075≦x≦0.107)で表される。また、この半導体材料は、As4分子を主成分とする原料から作製される。更に、この半導体材料を光励起したときに得られるPL強度が、組成式GaAs0.975Bi0.025で表される半導体材料を同じ励起光強度で光励起したときに得られるPL強度よりも大きい。【選択図】図4

Description

本発明は、半導体材料、基体、基体の製造方法および半導体レーザに関する。
光通信では光ファイバの伝送損失が低い4種類の波長(850nm、1310nm、1550nm、1625nm)の光が用いられる。波長が1.31μmから1.55μmの帯域の光は、光ファイバの伝送損失が特に小さく光通信に適している。この波長帯域の半導体材料としてInGaAsP系半導体が開発されており、光通信用のレーザ装置用の半導体材料として多く使用されている。
また、光通信において、情報量の増大に伴い波長多重通信方式が主流になりつつある。この波長多重通信では、互いに波長が異なる複数の光信号を同時に伝送させるので、各光信号の波長の経時的な変化が小さいことが必要である。
ところで、InGaAsP系半導体を用いたレーザ装置は、材料であるInGaAsP系半導体のバンドギャップの大きさがその周囲の温度変化に影響され易く、周囲の温度変化に応じてその発振波長または光出力が大きく変動してしまう。また、この種のレーザ装置では、発光時の電流損失が比較的大きく、それによりレーザ装置自体の温度が上昇してしまう。そして、この電流損失による温度上昇が、レーザ装置に用いられる材料のバンドギャップの温度による変化を助長してしまう。従って、InGaAsP系半導体を用いたレーザ装置の場合、その使用時において、ペルチェ素子のような温度制御素子を用いてレーザ装置の温度を一定に維持する必要がある。このように、InGaAsP系半導体を用いたレーザ装置の場合、温度制御素子を用いる必要があるため、レーザ装置を含むシステム全体の規模が大きくなってしまう。また、温度制御素子を備える分だけ、部品点数が増大しシステム実現のためのコストが増大してしまう。
また、InGaAsP系半導体を用いたレーザ装置の発光時の電流損失の一要因としては、オージェ再結合のような半導体内に存在するキャリアの非発光性再結合が挙げられる。このような非発光再結合は、特に、前述のような波長1.31μmから1.55μmの帯域の比較的長波長の帯域の光を発するレーザ装置において顕著である。
この種のレーザ装置として、n型InP基板上に、n型InGaAsPからなる光導波路層、歪量子井戸構造を有する活性層、InGaAsPからなる光導波路層、p型InPからなるクラッド層、が順に積層されたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。ここで、活性層は、互いに組成が異なり格子定数およびバンドギャップが互いに異なる2つの薄層(InGaAsPの層とInGaAsの層)が交互に積層された量子井戸構造を有する。この活性層では、電子・正孔がバンドギャップの小さい層に閉じ込められる。
この種のレーザ装置において、活性層における井戸層とバリア層との間でのバンドオフセットを増大させることにより、温度特性が改善されたものが提案されている(例えば特許文献2参照)。特許文献2に記載されたレーザ装置では、格子定数がGaAsおよびInPの格子定数とは一致せず、GaAsの格子定数とInPの格子定数との間の値を持つInAlAsからクラッド層を形成し、活性層がInGaAsBiから形成されている。このレーザ装置では、前述のバンドオフセットが比較的大きくなっているため、その利得への温度変化の影響が低減されている。
ところが、InGaAsBiを含む活性層を有するレーザ装置では、InGaAsを含む活性層を有するレーザ装置と同様に、波長1.31μmから1.55μmの比較的長波長の波長帯域において、オージェ再結合のような非発光性再結合による電流損失が増大してしまう。そうすると、前述のように、電流損失に起因したレーザ装置自体に温度上昇により、レーザ装置の発振波長または光出力が大きく変動してしまう虞がある。
また、III族元素、V族元素およびBiを含む活性層を有するレーザ装置が提案されている(例えば特許文献3参照)。そして、III族元素、V族元素およびBiを含む材料から形成された多重量子井戸構造について、その発光波長の温度変化による影響が低減されていることも報告されている(非特許文献1参照)。
特開平5−29715号公報 特開2001−68790号公報 特開2007−145643号公報
吉本 昌広、外1名、"Present status and future prospects of Bi-containing semiconductors"、[online]、2010年7月14日、京都工芸繊維大学、[2016年2月24日検索]、インターネット<URL:http://www.umich.edu/~mctp/SciPrgPgs/events/2011/BCS/talk%20files/yoshimoto.pdf>
しかしながら、III族元素、V族元素および半金属であるBiを含むいわゆる半導体半金属混晶は、非常に大きな非混和性を有する。従って、特許文献3に記載されたレーザ装置では、通常、III族元素、V族元素およびBiを含む活性層の欠陥濃度が高く、動作時において非発光再結合に起因した電流損失によりレーザ装置自体の温度が上昇してしまうと考えられる。従って、特許文献3に記載されたレーザ装置では、所望の量子効率が得られない虞がある。
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、半導体レーザの出力光の波長の温度変化の影響を低減する半導体材料、基体、基体の製造方法および半導体レーザを提供する。
上記目的を達成するために、本発明に係る半導体材料は、
組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される。
他の観点から見た本発明に係る基体は、
GaAs基板と、
前記GaAs基板上に形成された、GaAsからなるバッファ層と、
前記バッファ層上に形成された、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料からなる半導体材料層と、を備える。
他の観点から見た本発明に係る基体の製造方法は、
GaAs基板と、GaAsからなるバッファ層と、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料からなる半導体材料層と、を備える基体の製造方法であって、
結晶方位(001)のGaAs基板を準備する工程と、
前記GaAs基板の表面に形成された自然酸化膜を除去する工程と、
前記GaAs基板上に前記バッファ層を成長させる工程と、
As4分子を主成分とする原料を用いて、前記バッファ層上に前記半導体材料層を成長させる工程と、を含む。
他の観点から見た本発明に係る半導体レーザは、
基板と、
前記基板上に形成された第1クラッド層と、
前記基板の上方に形成され、少なくとも組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成された半導体材料層を含む活性層と、
前記活性層上に形成された第2クラッド層と、を備える。
本発明に係る半導体材料は、Biの含有率が0.075未満または0.107超であるGaAsBiの結晶に比べて、発光波長、発光強度の温度依存性が少なく、発光効率も高いという利点を有する。従って、本発明に係る半導体材料を用いて半導体レーザの活性層を形成することにより、出力光の波長および発光強度の温度特性が良好であり量子効率の高い半導体レーザを提供することができる。つまり、本発明に係る半導体材料によれば、半導体レーザの出力光の波長の温度変化の影響が低減される。
発光素子に使用される各種半導体材料の結晶について、格子定数とバンドギャップエネルギとの関係を表す図である。 GaAsBiの結晶とGaAsの結晶とについて、バンドギャップエネルギの温度依存性を示した図である。 GaAsBiの結晶について、図2に示す温度依存性から求めた温度依存性係数と、Biの含有率との関係を示した図である。 GaAsBiの結晶のPLスペクトルを示す図である。 GaAsBiの結晶中のBiの含有率と、GaAsBiの結晶のPLピークエネルギとの関係を示す図である。 Biの含有率が4.4%のGaAsBiの結晶の積分PL強度の励起光強度依存性を示す図である。 GaAsBiの結晶の積分PL強度の励起光強度依存性を示し、(A)はBiの含有率が2.5%の場合、(B)はBiの含有率が4.4%の場合、(C)はBiの含有率が9.5%の場合を示す図である。 図7(A)乃至(C)において実線で示された、積分PL強度の励起光強度依存性を示す近似直線の傾きの温度依存性を示す図である。 励起光強度を一定にした場合の積分PL強度の温度依存性を示す図である。 実施の形態2に係る半導体レーザの断面図である。 実施の形態2に係る半導体レーザのバンドギャップ構造を示す図である。 実施の形態2に係る半導体レーザについて、図11に示すバンドオフセット△Ecと温度特性係数T0との関係を示す図である。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態に係る半導体材料、基体および基体の製造方法について図面を参照しながら説明する。
本実施の形態に係る半導体材料は、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)(以下、適宜「GaAsBi」と称する。)で表される半導体材料である。そして、本実施の形態に係る基体は、GaAs基板と、GaAs基板上に形成された、GaAsからなるバッファ層と、バッファ層上に形成された、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料からなる半導体材料層と、を備える。
本実施の形態に係る基体の製造方法について説明する。この基体の製造方法では、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法が採用される。初めに、結晶方位が(001)であるGaAs基板を準備する工程を実施する。
次に、GaAs基板の表面に形成された自然酸化膜を除去する工程を実施する。具体的には、大気圧よりも低い圧力の環境下で、GaAs基板の表面にAs2分子またはAs4分子を含む分子線をGaAs基板の表面に照射しながらGaAs基板の温度を600℃近傍で15分乃至25分程度維持する。これにより、GaAs基板の表面に存在する自然酸化膜が蒸発し除去される。
続いて、GaAs基板上にバッファ層を成長させる工程を実施する。具体的には、GaAs基板の温度を570℃近傍に低下させた状態で、MBE法によりバッファ層を成長させる。これにより、バッファ層の表面は、原子層レベルで平坦化されたものとなる。
その後、As4分子あるいはAs4分子を主成分とするAs原料を用いて、MBE法により、バッファ層上に半導体材料層を成長させる工程を実施する。
この工程において、Bi原子は、成長中の半導体材料層中に取り込まれたり、成長中の半導体材料層の表面に偏析してその表面にBi吸着層を形成したり、成長中の半導体材料層の表面から再脱離したりする。即ち、この工程では、成長中の半導体材料層内に取り込まれるBi原子と、成長中の半導体材料層の表面に吸着するBi原子と、成長中の半導体材料層の表面近傍で浮遊するBi原子と、が共存している。
成長中の半導体材料層中に取り込まれるBi原子は、GaAs結晶におけるAsサイトを置換してなる置換型原子として成長中の半導体材料層内に存在する。一方、成長中の半導体材料層の表面に吸着したBi原子は、擬似的なサーファクタント効果(Surfactant-like effect)に寄与する。この半導体材料層の表面に吸着したBi原子の存在により、成長中の半導体材料層の表面でのBi原子のマイグレーションが促進されるので、半導体材料層の結晶性が向上する。
また、半導体材料層におけるGa原子とBi原子との結合エネルギは159kJ/molであり、半導体材料層におけるGa原子とAs原子との結合エネルギはそれよりも高く209.6kJ/molである。そして、半導体材料層を成長させる工程における成長温度が、例えば約400℃以上の場合、結合エネルギの高いGa原子とAs原子との結合は維持できるが、Ga原子とBi原子との結合は維持できなくなる確率が高まる。そうすると、成長中の半導体材料層の表面においてGa原子と結合していたBi原子は、Ga原子との結合を維持できず、半導体材料層の表面から脱離する確率が高くなる。従って、それよりも成長温度が低くなると、それに伴い、成長中の半導体材料層の表面から脱離するBi原子の量が低下する。そして、半導体材料層内に取り込まれるBi原子の量が増加する。
また、半導体材料層を成長させる工程において、成長環境におけるAs4分子およびAs2分子の分圧が過度に大きいと、Bi原子が半導体材料層内に取り込まれず、半導体材料層中のBiの含有率を増加させることが難しくなる。一方、成長環境におけるAs4分子およびAs2分子の分圧が過度に小さいと、半導体材料層の結晶性が低下してしまう。即ち、半導体材料層を成長させる工程において、As4分子およびAs2分子の分圧について最適範囲が存在する。特に、このAs4分子およびAs2分子の分圧は、成長中の半導体材料層の表面において必要最低限のAs原子の数が確保できる程度の分圧に設定されることが好ましい。なお、このときのAs4分子またはAs2分子の分子線の強度とGa分子線の強度との強度比(BEP)は5程度になる。例えば、成長環境におけるGa分子の分圧を3×10−7Torrに設定し、成長環境におけるBi分子の分圧を2×10−8Torrに設定したとする。この場合、As分子の分圧は、8×10−6Torr、即ち、Bi分子の分圧の200倍乃至500倍の範囲に設定したときに結晶性の良好な半導体材料層が形成されることが確認されている。また、この場合、半導体材料層の成長温度が400℃以下のとき、半導体材料層の成長速度は、0.2乃至0.5μm/hr程度となる。なお、半導体材料層の成長速度0.3乃至0.4μm/hr程度となるように成長温度を設定することが好ましい。このように、半導体材料層を成長させる工程では、Ga分子、As分子およびBi分子それぞれの成長環境における分圧(フラックス量)と、成長温度と、が重要なパラメータとなる。
また、半導体材料層を成長させる工程では、As4分子を原料として用いることができるが、As4分子を主成分とする原料を用いることもできる。このAs4分子を主成分とする原料とは、As4分子とAs2分子とが混在する原料であって、As4分子の割合が70%以上である原料である。なお、As4の割合は、半導体材料層の結晶性向上の観点から、90%以上であることが好ましい。
ところで、As2分子の付着係数は、成長中の半導体材料層の表面に十分な数のGa原子が存在する場合大凡1になる。一方、As4分子の付着係数は、成長中の半導体材料層の表面に十分な数のGa原子が存在する場合でも0.5未満である。これは、As4分子の場合、As2分子と異なり、As4分子が直接As原子に分解されて半導体材料層の結晶中に取り込まれず、2つのAs4分子が半導体材料層の表面に存在するGa原子と反応して4つのAs原子と1つのAs4分子を形成する過程を経てから半導体材料層の結晶中に取り込まれるためと考えられる。このように、付着係数の大きさの観点からすれば、半導体材料層を成長させる工程において、As2分子を主成分とする原料を用いるほうがよいように見える。また、As2分子は、アルシン(AsH3)を高温環境で分解することにより得られるため、MBE法に比べて生産性の高いMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法での基体の作製を考慮した場合もAs2分子を主成分とする原料を採用したほうがよいと思われがちである。しかしながら、この工程において、As2分子を用いた場合、半導体材料層のBi含有率の増加とともに、半導体材料層中に存在する非発光再結合中心となる結晶欠陥の数が増加してしまう。そうすると、半導体材料層の発光効率が低下してしまう。
これに対して、本実施の形態に係る基体の製造方法では、半導体材料層を成長させる工程では、As4分子あるいはAs4分子を主成分とする原料が用いられる。これにより、半導体材料層中に存在する非発光再結合中心となる結晶欠陥の数を低減することができるので、半導体材料層の発光効率を向上させることができる。
次に、GaAsBiの結晶の温度依存性について説明する。発光素子に使用されるGaAsBiを含む各種半導体材料の結晶について、格子定数とバンドギャップエネルギとの関係を表すと図1に示すようになる。光通信に適した波長帯域、即ち、一般的な光ファイバでの光損失が小さい波長帯域は、波長1.31μmから1.55μmの間の波長帯域である。そして、バンドギャップエネルギが波長1.3μm、1.55μmに対応するエネルギとなるように、格子定数を設定することができる材料として、図1の丸印で示すように、InGaAs、GaAsSb、GaAsBiが挙げられる。但し、これらの材料のうち、InGaAs、GaAsSbは、バンドギャップエネルギの温度依存性が比較的大きい。従って、半導体レーザの活性層を、InGaAs、GaAsSbを含む材料から形成すると、その出力光の波長が温度変化の影響を大きく受けてしまう。
一方、GaAsBiの結晶は、InGaAs、GaAsSbの結晶に比べて、バンドギャップエネルギの温度依存性が比較的小さい。図2は、GaAsBi、GaAsの結晶について、バンドギャップエネルギの温度依存性を示した図である。このGaBiAsの結晶は、前述の基体の製造方法により製造される基体の半導体材料層を構成する半導体材料である。図2に示すように、GaAsBiの結晶は、Biの含有率が高くなると、そのバンドギャップエネルギの温度依存性が小さくなる。また、GaAsBiの結晶のバンドギャップエネルギの温度依存性は、GaAs結晶のバンドギャップエネルギの温度依存性よりも小さい。
また、GaAsBiの結晶は、Biの含有率によって温度依存性が異なる。図3は、図2に示す温度依存性から求めた温度依存性係数と、Biの含有率との関係を示した図である。この温度依存性係数が小さいほどバンドギャップエネルギの温度依存性が小さく、半導体レーザの活性層に使用する材料として好ましいことを示している。図3に示すように、Biの含有率が0乃至4.5%の間では、Biの含有率の増加に伴って温度依存性係数が小さくなっていく。そして、Biの含有率が4.5%乃至11%の範囲で、温度依存性係数が最小値をとる。従って、バンドギャップエネルギの温度依存性の観点からすれば、Biの含有率は、4.5%乃至11%(0.045≦x≦0.11)の範囲が好ましい。
次に、GaAsBiの結晶の光学的特性について説明する。まず、GaAsBiの結晶中のBiの含有率と、GaAsBiの結晶が光励起されたときに得られるGaAsBiの結晶のフォトルミネッセンス(以下、「PL」と称する。)スペクトルとの関係について説明する。
図4は、GaAsBiの結晶が光励起されたときに得られるGaAsBiの結晶のPLスペクトルを示す図である。PLとは、GaAsBiの結晶に光が照射されたときに励起された電子が基底状態に戻る際に発する光である。図4に示すように、GaAsBiの結晶中のBiの含有率が2.5%乃至5.8%(0.025≦x≦0.058)の間の場合、GaAsBiの結晶のPL強度は、Biの含有率の増加とともに低下していく。そして、GaAsBiの結晶中のBiの含有率が7.0%(x=0.07)を超える場合、GaAsBiの結晶のPL強度は、Biの含有率の増加とともに急激に上昇する。GaAsBiの結晶中のBiの含有率が9.5%(x=0.095)の場合、GaAsBiの結晶のPL強度がほぼ最大になる。そして、GaAsBiの結晶中のBiの含有率が11.0%(x=0.11)を超えると、GaAsBiの結晶のPL強度は、Biの含有率の増加とともに急激に減少していく。これらの結果から、Biの含有率が互いに異なる複数種類のGaAsBiの結晶それぞれについて得られるPLスペクトルのピーク(図4中の丸印参照)は、それらの包絡線S1上に位置すると考えられる。
PLスペクトルが図4に示すようなBiの含有率への依存性を示す理由は、以下のように考えられる。本実施の形態に係る半導体材料層を成長させる工程では、As4分子を用いる。このため、Biの含有率が比較的低い範囲(x=0.025≦x≦0.058)では、Bi原子が(2×4)表面に多く取り込まれる。すると、Bi原子によるサーファクタント効果が抑制され、Biの含有率の上昇とともに、半導体材料層中のAsサイトに非発光再結合中心となる欠陥が生じ易くなる。そして、Biの含有率の上昇とともにPL強度が低下していく傾向が見られる。
一方、Biの含有率が7%乃至10.7%の範囲(0.07≦x≦0.107)では、Bi原子が(2×1)表面に多く取り込まれる。すると、Bi原子によるサーファクタント効果が増強され、Bi原子はAsサイトに整然と取り込まれ易くなり、GaAsBiの結晶中の欠陥の数が低下する。実際、GaAsBiの結晶において、Biの含有率が10%以下(x≦0.1)の場合、Biの含有率の増加に伴う転位や転位ループ、凝集、組成変調構造等の欠陥の大幅な増大は計測により確認されなかった。そして、GaAsBiの結晶中の欠陥数の低下により、GaAsBiの結晶中のキャリア寿命が長くなるので、PL強度が上昇すると考えられる。そして、Biの含有率が11.5%(或いは11%)を超えると、格子歪が1.2乃至1.3%に増大し、成長中のGaAsBiの結晶の表面でのBi原子のマイグレーションが抑制される。その結果、半導体材料層中の非発光再結合中心となる欠陥が増大する。これにより、PL強度が低下してしまうと考えられる。より詳細な解析は今後の研究に委ねられる。
GaAsBiの結晶のPLスペクトルのピークの波長(以下、「PLピーク波長」と称する。)が、図4に示すλ1乃至λ2の間にあるとする。この場合、図4に示すように、GaAsBiの結晶のPL強度は、組成式GaAs0.975Bi0.025で表されるGaAsBiの結晶を同じ光強度で光励起したときに得られるPL強度よりも大きくなる。従って、PL強度の観点からすれば、GaAsBiの結晶のPLピーク波長は、λ1乃至λ2の間にあることが好ましい。
ここで、GaAsBiの結晶のBiの含有率と、GaAsBiの結晶のPLピーク波長に対応するエネルギ(以下、「PLピークエネルギ」と称する。つまり「PLピークエネルギ」は波長を表している。)との関係を図5に示す。図5では、測定値と、測定値についてBACモデルに基づく理論曲線でフィッティングして得られる曲線と、を示している。図5に示すように、GaAsBiの結晶のPLピークエネルギは、Biの含有率が大きくなるに伴い低下する依存性を示す。言い換えると、GaAsBiの結晶のPLスペクトルのピーク波長は、Biの含有率が大きくなるに伴い長くなる依存性を示す。図5から、図4の波長λ1乃至λ2の範囲に対応するBiの含有率の範囲は、7.5%乃至10.7%(0.075≦x≦0.107)となる。即ち、PL強度の観点からすれば、Biの含有率は、7.5%乃至10.7%の範囲が好ましい。
そして、本実施の形態に係る半導体材料のBiの含有率は、前述のバンドギャップエネルギの温度依存性の観点とPL強度の観点との両方を考慮して好ましい範囲である7.5%乃至10.7%の範囲(0.075≦x≦0.107)に設定されている。
次に、GaAsBiの結晶中のBiの含有率と、GaAsBiの結晶を光励起する励起光強度と、の関係について説明する。GaAsBiの結晶中のBiの含有率が4.4%のGaAsBiの結晶について、積分PL強度の励起光強度依存性を図6に示す。図6に示すように、Bi含有率が4.4%のGaAsBiの結晶において、温度が11K、95Kの場合、積分PL強度の励起光強度依存性を示す近似曲線の傾きmが1.0近傍となる(図6中の一点鎖線で囲んだ部分A1参照)。一方、温度が200Kまたは室温(RT:300K近傍)の場合、積分PL強度の励起光強度依存性を示す近似曲線の傾きmが2.0近傍となる(図6中の二点鎖線で囲んだ部分A2参照)。傾きが1.0近傍はキャリアの再結合が発光再結合が支配的であることを、そして、傾きが2.0近傍はキャリアの再結合が非発光再結合が支配的であることを意味している。すなわち、この結果は、温度が11K、95Kでは、GaAsBiの結晶中のキャリアの再結合は発光再結合が支配的であり、温度200K、RTでは、GaAsBiの結晶中のキャリアの再結合は非発光再結合が支配的であることを示している。
GaAsBiの結晶中のBiの含有率が2.5%、4.4%、9.5%の場合それぞれについて、積分PL強度の励起光強度依存性を図7に示す。ここで、(A)はBiの含有率が2.5%の結晶、(B)はBiの含有率が4.4%の結晶、(C)はBiの含有率が9.5%の結晶についてのPL強度の励起光強度依存性を示している。また、Biの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶は、本実施の形態に係る半導体材料の一例に相当する。図7(A)乃至(C)において実線で示された、積分PL強度の励起光強度依存性を示す近似直線の傾きmの温度依存性を図8に示す。図8に示すように、Biの含有率が2.5%、4.4%の結晶の場合、温度0K、100Kでの近似直線の傾きは1.0近傍であるが、温度200K、300Kでの近似直線の傾きは2.0近傍となる。この結果は、Biの含有率が2.5%、4.4%の結晶の場合、室温において、GaAsBiの結晶中のキャリアの非発光再結合が支配的であることを示している。一方、Biの含有率が9.5%の結晶の場合、温度0K、100K、200K、300Kでの近似直線の傾きはいずれも1.0近傍となる。この結果は、Biの含有率が9.5%の結晶の場合、室温において、GaAsBiの結晶中のキャリアの発光再結合が支配的であることを示している。つまり、本実施の形態に係る半導体材料の一例であるBiの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶の場合、室温における発光効率が比較的高いので、半導体レーザの活性層を形成する材料として好適であることを示している。
次に、GaAsBiの結晶中のBiの含有率と、GaAsBiの結晶のPL強度と、の関係について説明する。励起光強度を一定にした場合の積分PL強度の温度依存性を図9に示す。図9に示すように、Biの含有率が2.5%、4.4%の結晶の場合、温度が上昇するにつれて積分PL強度が減少していき、常温付近(300K付近)では積分PL強度は低くなる。一方、Biの含有率が9.5%の結晶の場合、温度が上昇しても積分PL強度がほとんど変化せず、常温付近(300K付近)でも積分PL強度は低下しない。つまり、Biの含有率が9.5%の結晶の場合、温度変化に対するPL強度の変化が小さい。従って、Biの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶を用いて、例えば半導体レーザの活性層を形成した場合、半導体レーザでの発熱による出力光の強度変動が比較的小さく、強度も高いという利点がある。つまり、本実施の形態に係る半導体材料の一例であるBiの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶は、PL強度が高く温度依存性が小さいという観点から、半導体レーザの活性層を形成する材料として好適であると言える。
また、本実施の形態に係る半導体材料の一例であるAs4分子を原料とするBiの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶と、As2分子を主成分とする原料から作製されたBiの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶と、で、温度の上昇に伴うPL強度の変化量を比較した。すると、本実施の形態に係る半導体材料の一例であるGaAsBiの結晶のPL強度の温度依存性は、As2を主成分とする原料から作製されたGaAsBiの結晶のPL強度の温度依存性に比べて小さいことが判った。また、PL強度はAs4分子を原料とするBiの含有率が9.5%のGaAsBiの結晶の方が高いことが判った。
以上説明したように、本実施の形態に係る半導体材料は、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料、即ち、Biの含有率が7.5%乃至10.7%のGaAsBiの結晶である。そして、図3、図4、図8、図9に示すように、Biの含有率が0.075未満または0.107超であるGaAsBiの結晶に比べて、発光波長、発光強度の温度依存性が少なく、発光効率も高いという利点を有するものである。従って、本実施の形態に係る半導体材料を用いて半導体レーザの活性層を形成することにより、出力光の波長および発光強度の温度特性が良好であり量子効率の高い半導体レーザを提供することができる。
また、本実施の形態に係る半導体材料は、図4に示すように、光励起したときに得られるPL強度が、組成式GaAs0.975Bi0.025で表される半導体材料を同じ励起光強度で光励起したときに得られるPL強度よりも大きい。これにより、本実施の形態に係る半導体材料を用いて半導体レーザの活性層を形成することにより、組成式GaAs0.975Bi0.025で表される半導体材料を用いた場合に比べて、量子効率の高い半導体レーザを提供することができる。
ところで、GaAsBiの結晶は、非常に大きな非混和性を有しており、GaAsの結晶において、その結晶歪が小さい状態を維持しつつ、その結晶中にBiを比較的高い含有率で含有させることが難しいとされてきた。具体的には、Biの含有率が比較的低い(x<0.025)の場合、Bi原子のサーファクタント効果によりGaAsBiの結晶中の欠陥も少なくそのPL強度は高くなる。しかし、Biの含有率が2.5%よりも高く(0.025≦x)なると、結晶歪が大きくなるので、Biの含有率の増加に伴い非発光再結合中心となる欠陥が増加し、PL強度が低下していくことが常識とされていた。従って、GaAsBiの結晶が前述のようにバンドギャップエネルギの温度依存性が比較的小さい材料であるにも関わらず、Biの含有率の比較的高いGaAsBiを半導体レーザの活性層へ積極的に適用を検討することはなされてこなかった。
これに対して、本実施の形態に係る半導体材料は、As4分子あるいはAs4分子を主成分とする原料を用いてMBE法により作製される。これにより、この半導体材料は、Biの含有率が2.5%よりも高い(0.075≦x≦0.107)にも関わらず、非発光再結合中心となる欠陥の数が少ないことを本発明で初めて明らかにした。そして、この半導体材料は、PL強度が高く、温度依存性が小さく、且つ発光効率も高いという従来では予想し得なかった効果を奏する。
(実施の形態2)
本実施の形態に係る半導体レーザは、少なくとも組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成された半導体材料層を含む活性層を有する。図10に示すように、この半導体レーザ100は、基板101と、クラッド層102、104と、活性層103と、電極105と、を備える。基板101は、GaAsの結晶から形成されている。クラッド層(第1クラッド層)102は、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成され、基板101上に積層されている。活性層103は、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成された複数の井戸層と、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成された複数のバリア層と、が交互に積層された構造を有する。活性層103は、クラッド層102上に形成されている。クラッド層(第2クラッド層)104は、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成され、活性層103上に形成されている。電極105は、金属から形成されている。
活性層103は、図11に示すように、複数の井戸層Wと複数のバリア層Bとが交互に積層された多重量子井戸構造を有する。伝導体側の井戸層Wとバリア層Bのエネルギ差であるバンドオフセット△Ecと温度特性係数T0との関係を図12に示す。この温度特性係数T0は、半導体レーザ100の発振閾値の温度依存を示す係数であり、温度特性係数T0が大きいほど、半導体レーザ100の閾値の温度変化による影響が少ない。図12に示すように、バンドオフセット△Ecが大きいほど温度特性係数T0を大きくすることができるので、半導体レーザ100の温度特性が向上する。本実施の形態に係る半導体レーザ100では、バンドオフセット△Ecの大きさが150meV以上に設定されている。
また、井戸層Wおよびバリア層Bは、それぞれ組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成されている。従って、活性層103の温度が変化したときの、井戸層Wおよびバリア層Bのバンドギャップの大きさの変化は比較的小さい。
以上説明したように、本実施の形態に係る半導体レーザ100は、井戸層Wおよびバリア層Bが組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成されている。これにより、活性層103の温度変化に起因した井戸層Wおよびバリア層Bのバンドギャップの大きさの変化が低減されるので、半導体レーザ100の出力光の波長やその強度がその周囲の温度変化の影響を受けにくくなるという利点がある。
(変形例)
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、実施の形態1で説明した半導体材料層を成長させる工程において、CVD法を採用してもよい。
本発明は、通信用の半導体レーザに好適である。
100:半導体レーザ、101:基板、102,104:クラッド層、103:活性層、105:電極

Claims (8)

  1. 組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される、
    半導体材料。
  2. As4分子あるいはAs4分子を主成分とする原料を用いて作製される、
    請求項1に記載の半導体材料。
  3. As4分子とAs2分子の混合であり、As4分子が70%以上の原料を用いて作製される、
    請求項1に記載の半導体材料。
  4. 光励起したときに得られるフォトルミネッセンス強度が、組成式GaAs0.975Bi0.025で表される半導体材料を同じ励起光強度で光励起したときに得られるフォトルミネッセンス強度よりも大きい、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体材料。
  5. MBE法により作製される、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体材料。
  6. GaAs基板と、
    前記GaAs基板上に形成された、GaAsからなるバッファ層と、
    前記バッファ層上に形成された、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料からなる半導体材料層と、を備える、
    基体。
  7. GaAs基板と、GaAsからなるバッファ層と、組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料からなる半導体材料層と、を備える基体の製造方法であって、
    結晶方位(001)の前記GaAs基板を準備する工程と、
    前記GaAs基板の表面に形成された自然酸化膜を除去する工程と、
    前記GaAs基板上に前記バッファ層を成長させる工程と、
    As4分子を主成分とする原料を用いて、前記バッファ層上に前記半導体材料層を成長させる工程と、を含む、
    基体の製造方法。
  8. 基板と、
    前記基板上に形成された第1クラッド層と、
    前記基板の上方に形成され、少なくとも組成式GaAs1−xBi(0.075≦x≦0.107)で表される半導体材料から形成された半導体材料層を含む活性層と、
    前記活性層上に形成された第2クラッド層と、を備える、
    半導体レーザ。
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