JP2018009983A - センサおよび腐食検知方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】カード状のRFIDタグを用いて、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理するセンサおよび腐食検知方法を提供する。【解決手段】金属材で形成された検知部13の電気的特性を示す無線信号を出力するセンサ1であって、板状に形成され、いずれか一方の面に前記検知部13が実装された基板11と、前記基板11のいずれか他方の面に前記検知部13と電気的に接続されるように実装され、前記検知部13の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部15と、前記特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナ17と、前記制御部15を被覆するように前記基板11の他方の面上に設けられた磁性シートと、を備え、前記制御部15は、前記誘導アンテナ17に対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動する。【選択図】図1

Description

本発明は、金属材で形成された検知部の電気的特性を示す無線信号を出力するセンサおよび腐食検知方法の技術に関する。
従来から、構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等の情報を非破壊的に監視するにあたっては、各種検出装置を構造物内に設置し、構造物の内部状況を確認する必要がある。近距離無線通信において、RFID(Radio Frequency Identification)システムが開発されている。このようなシステムでは、微小な無線チップを埋め込んだRFIDタグが、電波や電磁波で読み取り装置を交信し、RFIDタグのデータを読取装置に送信することが可能となっており、構造物の内部状況を確認することができる。また、特許文献1から特許文献3では、薄膜化された非接触ICカードに関する技術が開示されている。
特開2007−220016号公報 特開2004−364199号公報 国際公開2013−187473号
鋼構造物の耐久性、維持管理等では、鋼材の発錆を防止するために合成塗料の塗布が非常に重要であるが、合成塗料の塗膜の状態管理は、目視で行なっているのが現状である。目視による点検は、広範囲にわたって塗膜の状態を見回る上で効率的で良い点検方法である一方、目視による見逃しや、塗膜下面の内部の状態、または錆・腐食が始まる直前の状態等は、目視では確認できず、鋼材の腐食による発錆で、塗膜に剥がれた浮きが生じた後の対応となるため、事後保全となってしまう。また、従来の腐食センサ等を用いて耐久性等を管理することもできるが、腐食センサのケーブルが塗膜の厚さよりも太いため、腐食センサのケーブルが塗膜の外側に出てしまうことによって耐久性が低下してしまう場合もある。
また、従来から用いられている無線通信機器を用いたセンサは、無線通信を行なうために電池等の電源が必要であり、モニタリングできる期間が電池の寿命に依存してしまう。また、電源の寸法上の制約から、センサを鋼材に塗られている塗膜より薄く設計することは難しい。
一方、電磁波を電源として使用することが可能な近接無線技術(RFID)は、外部から供給される電磁波を電源として駆動するため、ケーブルや電源部分の寸法に関する制約は少ない。しかし、近接無線技術であることから、電波が届かない環境では駆動せず、また、発電可能な電流に制約があることから、周辺環境の影響を受けやすい。さらに、センサを駆動させるために計測回路を付加したRFIDタグでは、市販のRFIDタグと比較して、必要電力が大きく、金属上に貼付して使用することが困難であった。そのため、使用の際には、金属表面から距離をとるか、製品自体にフェライトコアを取り付けたり、透磁性シートを貼る等の対策が必要であった。そのため、極薄いカード状のセンサタグを金属上面に貼付して使用することは、非常に困難であった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、カード状のRFIDタグを用いて、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理するセンサおよび腐食検知方法を提供することを目的とする。
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のセンサは、金属材で形成された検知部の電気的特性を示す無線信号を出力するセンサであって、板状に形成され、いずれか一方の面に前記検知部が実装された基板と、前記基板のいずれか他方の面に前記検知部と電気的に接続されるように実装され、前記検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、前記特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、前記制御部を被覆するように前記基板の他方の面上に設けられた磁性シートと、を備え、前記制御部は、前記誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動することを特徴とする。
このように、センサは、金属材で形成された検知部の電気的特性を示す無線信号を出力するセンサであって、板状に形成され、いずれか一方の面に検知部が実装された基板と、基板のいずれか他方の面に検知部と電気的に接続されるように実装され、検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、制御部を被覆するように基板の他方の面上に設けられた磁性シートと、を備え、制御部は、誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動するので、金属上であっても、周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を磁性シートで遮り無線通信を行なうことができる。また、センサは板状であって、検知部と制御部が基板上の異なる面に実装されているため、鋼構造物内に設置することができ、その結果、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理することができる。
(2)また、本発明のセンサにおいて、前記誘導アンテナは、前記検知部が実装されている面または前記制御部が実装されている面のいずれか一方の外延近傍に備えていることを特徴とする。このように、誘導アンテナは、検知部が実装されている面または制御部が実装されている面のいずれか一方の外延近傍に備えているので、基板の共振周波数を調整し、センサとリーダライタとの間でデータの送受信を行なうことができる。また、リーダライタから放射される電磁波から起電力を生成するため、電池を内蔵しなくても動作させることが可能となる。
(3)また、本発明のセンサにおいて、前記誘導アンテナは、前記制御部が実装されている面に設けられていることを特徴とする。このように、誘導アンテナは、制御部が実装されている面に設けられているので、誘導アンテナの腐食劣化を防ぐことができる。
(4)また、本発明のセンサにおいて、前記誘導アンテナは、前記磁性シートから0.2mm以上1.5mm以下離れた位置に設けられていることを特徴とする。このように、誘導アンテナは、磁性シートから0.2mm以上1.5mm以下離れた位置に設けられているので、誘導アンテナと磁性シートとの間に適切な距離を設けることで、密着時に生じる誘導アンテナの共振周波数への干渉を防止し、また、離間させすぎないことでセンサ全体の厚みを小さくすることが可能となるため、センサとリーダライタとの間の通信距離および応答性を向上させるとともに、製品の厚みを薄くして、鋼材と塗膜の間に設置することができる。
(5)また、本発明のセンサにおいて、前記磁性シートは、前記無線信号の周波数帯域に基づいて、実部透磁率および虚部透磁率の変化特性に応じて選定されたことを特徴とする。このように、磁性シートは、無線信号の周波数帯に基づいて、実部透磁率および虚部透磁率の変化特性に応じて選定されるので、透磁率特性が適したシートを選定することができる。
(6)また、本発明のセンサにおいて、前記磁性シートの厚さは、0.2mm以上1.0mm以下であることを特徴とする。このように、磁性シートの厚さは、0.2mm以上1.0mm以下であるので、周辺金属の影響を適切に遮り、センサとリーダライタとの間の通信距離応答性をさらに向上させることができる。
(7)本発明の腐食検知方法は、上記記載のセンサを鋼構造物へ貼付するステップと、リーダライタを用いて前記センサに対して磁界を照射するステップと、前記センサから出力された無線信号を前記リーダライタで受信するステップと、前記無線信号から前記検知部の電気的特性を示す特性信号を取得するステップと、を含むことを特徴とする。
このように、本発明の腐食検知方法は、上記記載のセンサを鋼構造物へ貼付し、リーダライタを用いてセンサに対して磁界を照射し、センサから出力された無線信号をリーダライタで受信し、無線信号から検知部の電気的特性を示す特性信号を取得するので、鋼構造物内へのセンサの貼付が可能となり、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理することができる。
本発明によれば、カード状のRFIDタグを用いて、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理するセンサおよび腐食検知方法を提供することができる。
RFIDタグの概略構成を示す図である。 RFIDタグの製造方法を示すフローチャートである。 本製造方法によって作製したRFIDタグの概要を示す図である。 本実施形態で用いる無線通信機器の概略図である。 フェライト材料の透磁率と周波数の関係を示したイメージ図である。 RFIDタグの周波数領域における磁性シートの透磁率特性を示した図である。 樹脂被覆したRFIDタグの概略構成を示す図である。 磁性シート種類ごとの透磁率特性を示した図である。 通信距離試験の概略を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 間隙の樹脂の厚みと通信距離の計測結果を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 本実施形態に係るRFIDタグを海岸部の鋼橋の鋼製柱や橋桁に適用した場合の実施例である。 プラントの鋼製燃料タンクの補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態に係るRFIDタグを適用した実施例である。 送電線を支える鉄塔の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態に係るRFIDタグを適用した実施例である。
[1.RFIDタグの構成]
図1は、RFIDタグの概略構成を示す図である。RFIDタグ1は、基板11、腐食検知部(以下、単に検知部ともいう)13、集積回路を有する制御部15、誘導アンテナ17および磁性シートを備え、金属材で形成された検知部13の電気的特定を示す無線信号を出力する。基板11は、板状に形成された両面基板であって、いずれか一方の面に検知部13が実装されている。制御部15は、基板11のいずれか他方の面に検知部13と電気的に接続されるように実装され、誘導アンテナに照射された磁界によって生ずる起電力で駆動する。
誘導アンテナ17は、制御部15の実装面側にプリントされており、RFIDタグ1と無線通信機器(リーダライタ)との間でデータの送受信を行なう。なお、本実施形態では、誘導アンテナ17は、腐食劣化防止のため、制御部15の実装面側に設けられていることが好ましいが、検知部13の実装面側に設けられていても良い。また、基板の共振周波数(本実施形態では、13.65MHz)は、誘導アンテナ17によって調整されている。図示しないが、磁性シートは、制御部15を被覆するように制御部15の実装面の直上に、基板11と離間して設けられている。磁性シートと基板11と間には、樹脂が設けられている。表1に本実施形態のRFIDタグ1の仕様を示す。
本実施形態のRFIDタグ1は、汎用の近接無線式のIDカード(ICカード)と同じ13.56MHz帯の無線周波数で通信を行ない、LSI(Large-Scale Integration)内部に固有のID番号を記憶している。計測回路は、内部サーミスタによる温度計測用に1チャンネル、抵抗(または電圧)の計測用に1チャンネルの計2チャンネルを有しており、それぞれのアナログ出力をデジタル値に変換(16bit)して、無線通信を行なう。
センサ機能を有するLSIは、一般のIDカード(ICカード)と異なり、センサインターフェースを有しており、センサに電流を流して計測を行なうため、情報のやり取りのみを行なうIDカードと比較して、消費電力は大きくなる。また、センサから得られる電圧や抵抗等のアナログデータを、16bit(65536分割)の分解能でデジタルデータに変換可能である。変換における分解能は、特に限定されないが、分解能が高いほど情報量が大きくなり、また、必要となる電力量も増加する。また、LSI内部にサーミスタを内蔵しており、温度計測が可能であり、これも所定の分解能でデジタルデータに変換できる(本実施形態のRFIDタグでは16bitを有する)。加えて、電気信号を増幅するアンプ回路を内蔵しており、微小な電気信号を増幅して取得することが可能であり、電気信号を増幅する過程で電力を消費する。
以上のことから、センサ機能を有するRFIDでは、通常のICカードと比較して、通信量と消費電力量が多く、近接無線で発生させた電磁界を効率良く電力に変換し、計測および通信の電源とすることが必要不可欠である。
本実施形態のRFIDタグ1の基板11の寸法は、54mm×86mm×t0.5mmであるが、これに限らない。基板11の片面に、LSIや回路を構成する電子部品を有する制御部15を実装しており、もう一方の片面には、検知部13を配置して、計測回路と検知部をスルーホールで接続している。このようにLSIの実装面と検知面を分離する構造を採ることによって、外部からの劣化因子の侵入リスクを低下させることが可能となる。なお、本実施形態のRFIDタグ1の基板11には、ガラスコンポジット製を用いているが、これに限らない。
[2.RFIDタグの製造方法]
図2Aは、本実施形態に係る防錆塗膜下の鋼材の腐食環境を把握するためのRFIDタグの製造方法を示すフローチャートである。図2Bは、本製造方法によって作製したRFIDタグの概要を示す図である。
基板11は、寸法54mm×86mm×t0.5mmとして作製する(ステップS101)。基板11の寸法は、用途に応じた寸法に形成できれば、当該の寸法に限定されない。基板11は両面基板とし、一方の面には誘導アンテナや制御IC、計測回路を実装した実装面を形成し、もう一方の面には、RFIDタグの検知部13を配置する。誘導アンテナは、通信周波数に対応した形状としており、基板11は13.56MHz帯の周波数に対応した形状としており、共振周波数をコンデンサで微調整できるように、アンテナ回路として構成している。RFIDタグの検知部13と実装面の計測回路は、スルーホールによって連結されている。防錆塗料下の鋼材の腐食環境を検知する場合、RFIDタグ全体の厚みは、塗料の厚みに応じた厚さとすることが好ましく、本実施形態のRFIDタグでは全体の厚みを3mm以下として作製した。RFIDタグが厚すぎると、防錆塗膜の下面にRFIDタグを配置した際に、防錆塗膜上にRFIDタグが露出したり、検知部13が露出する恐れがあるためである。基板11の材料には、ガラスコンポジットを用いているが、これに限定されるわけではなく、絶縁性を有する基板材料を使用できる。
腐食検知部材は、極薄い鉄箔を樹脂フィルム上につづら折り状の線材として形成したものを作製する(ステップS102)。検知部13に用いた鉄箔は、3μm以上0.1mm以下の厚さを有するものを選定する。ここで、鉄箔は、蒸着やメッキにより形成される薄膜であっても良いし、板状に形成されていても良い。鉄箔の厚さを3μm以上0.1mm以下としたのは、薄すぎるとセンサの取り扱い時に検知部にひび割れが生じやすく、厚すぎるとセンサの感度が低下する恐れがあるためである。検知部13の鉄箔の線幅は0.1mm以上2.0mm以下とした。これは、腐食反応時に、鉄の断面欠損が生じた際の電気特性の変化を捉える上で、感度を向上させるためである。線幅が0.1mmより細いと線材を形成することが難しく、2.0mmより太いと腐食反応時の感度が低下する。基材として用いた樹脂フィルムは、ポリイミド材やPET材等の樹脂が好ましいが、電気絶縁性および耐水性を有しており、薄くフィルム状に形成できる樹脂材料であれば特に限定されない。本実施形態のRFIDタグで使用する検知部13の基材は、ポリイミド材を0.05mmの厚さに形成したフィルムを使用する。
次に、実装面側に電子部品を実装した両面基板の検知部面側に、ステップS102で作製した腐食検知部材を、基板に密着するように配置して接合する(ステップS103)。
次に、基板の実装面側に、乾燥硬化型の液体状の樹脂を塗布する。樹脂の厚みは、0.2mmから1.0mmの範囲とし、0.5mmの厚みとなるように塗布し、塗布後24時間乾燥させて樹脂被膜を形成する(ステップS104)。
次に、樹脂を塗布した基板の実装面側に、磁性シートを貼付する。磁性シートは、基板の平面寸法と同一寸法で裁断し、樹脂被膜の直上に、基板寸法に合わせて貼付する。磁性シートの厚みは、例えば、0.5mmのものを使用する(ステップS105)。
次に、磁性シートを貼付した基板の検知部面側に配置された腐食検知部に、マスキング処理を施し、磁性シートを含めた基板全体を液体樹脂に浸漬して、保護用樹脂を形成する(ステップS106)。液体樹脂は、脱気性が高い材料が好ましい。これは、空気を巻き込みやすい樹脂を用いた場合、硬化後に気泡として残る場合があり、気泡が残ってしまうことで製品の耐久性を損なう場合があるからである。また、硬化後に防水性と耐油生、および伸縮性を有する樹脂を選定する。本実施形態のRFIDタグは、鋼材に貼付した後に防錆塗料の効果の確認が目的であるため、塗布した際に防錆塗料の成分に侵食されない樹脂材料である必要がある。また、鋼材に貼付して使用するので、鋼材とRFIDタグとの密着性を確保するために、伸縮性を有する樹脂材料であることが好ましい。
次に、基板の検知部面側に貼付したマスキング材をはがし、腐食検知部を露出させる。マスキング材は、腐食検知部上に糊等の残渣が少ない材料であれば、特に限定するものではない(ステップS107)。
[3.センサの計測方法]
本実施形態に係るRFIDタグの計測は、専用の無線通信機器(以下、単にリーダライタともいう)を用いて実施する。通信機器および通信周波数は、使用する基板に対応した周波数のものを使用する必要がある。本実施形態のRFIDタグでは、13.56MHz帯に対応したリーダライタを使用している。当該のリーダライタを、センサの直上近傍に位置させ、電磁界を励起してセンサの駆動電力とし、通信および計測を実施する。計測は、腐食検知部の電気抵抗を、デジタルデータに変換し、デジタルデータをリーダライタで読み込み、読み込んだデジタルデータをリーダライタでアナログ値(電気抵抗値)に換算して、当該の数値変化から、防錆塗料下の鋼材の腐食環境を判定する。一例として、初期値が5Ωの腐食検知部が、腐食環境に至った場合、電気抵抗が5kΩに変化し、この電気抵抗の変化をリーダライタで計測した場合に、腐食環境と判定する。
[3.1.リーダライタ]
ここで、計測で用いる無線通信機器について説明する。図3は、本実施形態で用いる無線通信機器(リーダライタ)の概略図である。図3Aは、PCを接続して使用する据置型(出力:1W)リーダライタ3である。図3Bは、ハンディ型(出力:0.25W)リーダライタ5である。表2に各リーダライタの仕様を示す。
据置型リーダライタ3は、アンテナ部(内寸410mm×300mm)31および制御部33を備える。ハンディ型リーダライタ5は、リーダライタ本体51および取り外し可能な丸型アンテナ部(φ160mm)53を備え、図示しないがリーダライタ本体内にもアンテナ(45mm×30mm(推定値))を内蔵している。
[4.磁性シート]
次に、本実施形態のRFIDタグに用いる磁性シートについて説明する。磁性シートは、ノイズ抑制シートや電波吸収シートとも呼ばれ、薄く偏平なフェライト系材料を高密度に配した複合材料シートである。磁性シートは、一般に高い電気抵抗と磁気損失性(磁気共鳴性)を備えるため、高周波ノイズ等を熱に変換して抑制することができる。
一方、RFID基板のような電磁誘導で起電するコイルアンテナを、金属のような導電材料に貼付し、交流電界を与えると、導電体表面に渦電流が発生して逆向きの磁界が励起する。このため、一般には金属のような導電体にRFIDを添付して使用すると誘導磁界が打ち消されるため、無線通信が難しくなる。
このことから、導電体で生じた逆向きの磁界を遮るために、磁性シートが活用されている。磁性シートを用いて、想定される周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を磁性シートで遮ることができれば、無線通信が可能となる。
ここで、磁束密度Bと磁界の強さHは、式(1)で表される。アンペールの法則により誘導される電流は、磁束密度Bに比例し、透磁率μに反比例する。
ここで、フェライトの透磁率について説明する。実際のアンテナコイルでは、コイルに電流電界を与えて励磁すると、磁芯損失(コアロス)が生じるため、式(2)に示す虚部透磁率を考える必要がある。
実部透磁率と虚部透磁率は、式(3)および式(4)で示される。
図4は、フェライト材料の透磁率と周波数の関係を示したイメージ図である。フェライト材料(材料A、材料B)の透磁率は、ある周波数まで一定の値をとるものの、周波数が高くなると磁界Hの変化に磁束密度Bが追随できなくなる。そのため、位相の遅れが生じて、インダクタンス成分(μ´)が減少し、抵抗成分(μ´´)が増加する。一般に、この特性は、snoek限界と呼ばれ、高い透磁率を持つ材質ほど低い周波数でμ´の減少が生じ始める。
磁性シートの実部透磁率と虚部透磁率の変化特性(snoek限界)は、材料固有の値であり、例えば、様々な材料を組み合わせることで、所望のノイズ成分や周波数成分を遮蔽したり、吸収したりすることが可能となる。つまり、高周波のノイズの抑制には、式(2)の磁気損失項である虚部透磁率(μ´´)が大きい領域を利用し、一方、RFIDの受送信距離の改善に求められる磁界の遮蔽(導電体からの輻射磁界の遮蔽)には、実部透磁率(μ´)が大きく、虚部透磁率(μ´´)が小さい領域を利用することで実現可能となる。
図5は、本実施形態のRFIDタグの周波数領域(13.56MHz帯)近傍において、通信距離の改善に適すると考えられる磁性シートの透磁率特性を示した図である。図5に示すような、13.56MHz帯近傍で実部透磁率(μ´)が大きく、虚部透磁率(μ´´)が小さい透磁率特性を有する磁性シートを用いることで、想定される周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を遮ることができ、無線通信が可能になると考えられる。
[5.通信距離試験]
13.56MHz帯のRFIDの通信距離と磁性シートの透磁率特性との関係を確認するため、リーダライタの種類、磁性シートの種類によるRFIDタグの基板とリーダライタのアンテナ間の通信可能距離を測定した。測定に用いた各機器は、以下の通りである。
(1)RFIDタグ
RFIDタグは、同一ロットで作製したRFIDタグを2台用意し、1台は樹脂被覆しないRFIDタグ(図1)、もう1台は検知部13を除く部分を浸漬被覆法によって保護用樹脂25で外装成形したRFIDタグ(図6)を用いた。
(2)無線通信機器(リーダライタ)
表2および図3に示した据置型およびハンディ型の2種類を用意した。ハンディ型においては、丸型アンテナの脱着を行ない、丸型アンテナ有無による場合を測定した。
(3)磁性シート
磁性シートは、透磁率特性の異なる4種類の磁性シートを用意した。表3に使用した磁性シートの詳細を示す。図7は、磁性シート種類ごとの透磁率特性を示した図である。
金属貼付時の通信距離の改善効果は、前述した磁界の遮蔽の原理から、RFB>MM−SD>HU>SUの順番に高いと推定される。例えば、RFBシートは、図7(a)に示すように、透磁率μ´が高く、そしてsnoek限界の周波数も相対的に高いことから、図7(d)に示したSUシートの透磁率特性と比較すると、周辺からの磁界遮蔽効果が高いと考えられる。なお、以下記載のシートの表記記号は、例えば、RFBシートで厚みが0.1mmの場合、「RFB−010」のように表記する。また、表3に中に示したRFBシートおよびHuシートの0.7mm厚の水準は、市販の0.2mm品と0.5mm品を重ねて使用することで、合計の厚みを0.7mmとした。
(4)測定方法
図8は、通信距離試験の概略を示した図である。磁性シート19は、基板11と同一寸法(54mm×86mm)に裁断して使用した。図1に示した基板11の制御部15実装面(検知部13の裏面)に、樹脂23を形成し、さらに重なるよう磁性シート19を貼付する。基板11の制御部15実装面に形成した樹脂23の厚さは、0.2mmから1.0mmが好ましい。また、磁性シート19の厚さは、0.05mmから1.0mmである。磁性シート19の2つの主要面のうち、樹脂と接していない主要面を鋼材27に接するように、RFIDタグを設置した。図8では、基板、樹脂、磁性シートをさらに保護用樹脂25(厚さ:最大2.0mm)で外装成形されたRFIDタグが鋼材に設置された状態を示している。RFIDタグは、保護用樹脂25で外装成形されていることが好ましいが、保護用樹脂25がなくても良い。
RFIDタグを設置した後、基板11とリーダライタ61のアンテナ(外部アンテナ)63との間の通信可能距離を測定した。通信方法は、ID通信モード(低消費電力)と計測モードの2種類とした。また、磁性シートの効果を確認するために、RFIDタグの基本通信可能距離として、鋼材無しの状態、および鋼材有り且つ磁性シート無しの状態についても、通信可能距離等を確認した。さらに、基板と磁性シートとの間の樹脂の効果を確認するため、樹脂被覆の有無の状態についても、通信可能距離等を確認した。
[6.通信距離試験結果]
(1)鋼材貼付による通信距離の変化
図9は、磁性シート無しで、基板を鋼材に貼付した場合の通信距離の変化を示した図である。背面鋼材が無い場合の計測可能距離は、リーダライタごとに、据置型で16cm、ハンディ型の丸型アンテナ有りで14cm、丸型アンテナ無しで5cmであった。一方、基板を直接鋼材に貼付した場合、いずれのリーダライタを用いても、基板との通信はできず、背面鋼材の影響によって無線通信が阻害されることが確認できた。
(2)リーダライタ種類ごとの鋼材貼付による通信距離の変化
次に、磁性シートを基板背面に設置した場合の、背面鋼材の有無による通信距離をリーダライタごとに測定した。図10は、磁性シート(MM−SD−005)を用いた場合の通信距離の変化を示した図である。磁性シートを配したことにより、基板の計測可能距離に著しい低下が認められた。また、基板を鋼板に貼付した場合には、据置型リーダライタと、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ有りでは、無線通信ができなかった。MM−SD以外の磁性シート(RFB、Hu、Su)を貼付した場合であっても無線通信ができなかった。一方、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ無しの場合では、無線通信ができた。
さらに、図9および図10を比較すると、リーダライタの種類ごとに通信距離への影響が異なり、絶対的な通信距離は短いものの、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ無しの場合にのみ、鋼材上での無線通信および計測が可能であることがわかった。
リーダライタの種類による出力について説明する。据置型の出力の大きさは、ハンディ型の出力の大きさの4倍であるが、鋼材上で通信を行なうことはできなかった。ハンディ型の丸型アンテナ有無においては、リーダライタの出力の大きさは同じであるものの、丸型アンテナの有無によりアンテナ面積が異なり、丸型アンテナを装着しない場合には、基板の面積よりもアンテナ面積が小さくなっている。このように、ハンディ型リーダライタで丸型アンテナ無しの場合は、基板の面積よりもアンテナ面積が小さいため、鋼材に発生する逆向きの磁界が磁性シートによって遮蔽され、ハンディ型リーダライタが鋼材に貼付した基板と通信できたものと考えられる。
以上の測定結果により、丸型アンテナを装着していないハンディ型リーダライタを用いることが好ましいと考えられるため、以降の測定は、丸型アンテナを装着していないハンディ型リーダライタを用いて、各種測定を行なう。
(3)磁性シートの厚みと基板の樹脂被覆の有無の影響
次に、基板とハンディ型リーダライタとの間の通信距離や応答性の阻害要因について検討する。基板とハンディ型リーダライタとの間の通信距離や応答性の阻害要因として、基板に磁性シートを直接貼付していることが考えられる。そこで、磁性シートの厚み、基板と磁性シートとの間の樹脂の有無による影響について検討した。
図11は、同一の磁性シート(RFBシート)の厚みの違いと樹脂被覆の有無による通信距離の変化を示した図である。同一の磁性シートにおいて厚みが異なる場合、0.05mmでは通信ができず、厚みの増加にともない通信距離の延伸が確認された。しかし、0.5mmを超えた場合には、その効果は認められず、漸減する場合もあり、対象の基板に対して適した厚みがあることが確認できた。
さらに、樹脂被覆の有無を比較すると、基板と磁性シートとの間に樹脂被覆を施した場合には、全体的に通信距離が大きくなった。これは、樹脂被膜が無い場合、磁性シートとアンテナ基板とが接することで、基板の共振周波数が影響を受けたり、RFIDタグ側の磁界が遮蔽されてしまうが、磁性シートとアンテナ基板との間に樹脂被膜を設けることで、樹脂による間隙効果が得られたためである。
そこで、樹脂の間隙効果を確認するため、磁性シートと基板との間の樹脂の厚みを変化させて通信距離を確認した。間隙の樹脂の厚みを0.1mmから2.0mmまで変化させて、通信距離を計測した。
図12は、間隙の樹脂の厚みと通信距離の計測結果を示した図である。計測の結果、間隙樹脂の厚みが0.2mmから2.0mmの範囲で通信距離の改善効果が確認された。一方、間隙樹脂の厚みが0.1mm以下では通信距離の改善効果はなく、間隙樹脂の厚みが1.5mm以上では、厚み1.0mmと比較して通信距離の改善効果に変化がないことが確認できた。塗膜の内部に設置する上で、製品の厚みを薄くするために、磁性シートと基板の間の樹脂の厚みは、0.2mmから1.5mmの範囲が好ましいと考えられる。より好ましい範囲は、0.5mmから1.0mmの範囲である。
(4)磁性シートの違いによる通信距離の変化
図11に示す通り、基板と磁性シートとの間に樹脂を設けた方が良いことが確認できた。そこで、次に、磁性シートの違いによる通信距離について検討した。図13、図14は、樹脂被覆基板における樹脂シートの種類と厚みの違いにおける通信距離の変化を示した図である。なお、各図に参考値として、背面鋼材および磁性シート無しの基板の通信距離を示す。図13、図14に示す通り、磁性シートの厚みによって通信距離が変化し、使用した4種類の磁性シート(RFB、MM−SD、Hu、Su)に最適な厚みが存在することが確認できた。これは、同一の透磁性を有するシートでも、厚みによって電波吸収特性が異なることに起因するものと考えられる。
磁性シートの種類を比較すると、通信距離が長いシートは、RFBシートおよびMM−SDシートであり、HuシートおよびSuシートは相対的に通信距離が短くなった。これは、前述した透磁率特性の原理に合致する結果であった。
一方、RFBシートとMM−SDシートでは、通信距離はほぼ同等であったが、通信しやすさ(計測までの応答性)では、MM−SDシートが優れていることが確認できた。また、磁性シートを用いる場合、厚みとして好ましい範囲は0.2mmから1.0mmであり、より好ましい範囲は0.3mmから0.7mm、さらに好ましい範囲は0.4mmから0.6mmである。
[7.RFIDタグの設置方法]
RFIDタグは、新設の鋼構造物では、防錆塗料を塗布していない状態で、鋼材に表面に接着する。接着剤は、耐水性や対環境性が高く、RFIDタグを固定できるものであれば種類は問わない。ただし、金属粉末のように、電波や磁界に影響を及ぼす材料は、接着材料として好ましくない。接着剤は、例えばエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
また、鋼構造物では、鋼製円柱のように、形状として局面で構成される部材もある。カード状のRFIDタグでは、接着した際に、鋼構造物の曲率に応じた隙間ができるが、この隙間は、耐水性や対環境性が高い樹脂材料で充填、固定することで、RFIDタグを固定することができる。隙間を充填してRFIDタグを固定する材料として、金属粉末のように、電波や磁界に影響を及ぼす材料は好ましくない。隙間を充填してセンサを固定する材料として、例えばエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
[実施例]
図15は、本実施形態のRFIDタグ100を海岸部の鋼橋201の鋼製柱や橋桁に適用した場合の実施例である。新設の鋼構造物では、鋼材の塗装の前に本実施形態のRFIDタグ100を貼付し、貼付後に鋼材の防錆塗装を施して設置する。鋼構造物の塗装の点検の際に、RFID用の無線通信機器(リーダライタ)を用いて、リーダライタをRFIDタグ100の直上にかざして、電磁界を与えて計測を実施する。RFIDタグ100の計測情報をデジタルデータとして読み込み、当該のデジタルデータを用いて防錆塗料下の鋼材の腐食環境を判定した。
図16は、プラントの鋼製燃料タンク203の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態のRFIDタグ100を適用した実施例を図示している。
図17は、送電線を支える鉄塔205の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態のRFIDタグ100を適用した実施例を図示している。
以上説明したように、本実施形態によれば、金属上であっても、周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を磁性シートで遮り無線通信を行なうことができる。また、RFIDタグは板状であって、検知部と制御部が基板上の異なる面に実装されているため、鋼構造物内に設置することができ、その結果、鋼構造物の歪量、充填状況、鋼材の腐食状況、ひび割れ状況等を非破壊的に管理することができる。
1、100 RFIDタグ
3 据置型リーダライタ
5 ハンディ型リーダライタ
11 基板
13 腐食検知部、検知部
15 制御部
17 誘導アンテナ
19 磁性シート
23 樹脂
25 保護用樹脂
27 鋼材
31 アンテナ部
33 制御部
51 リーダライタ本体
53 丸型アンテナ部
61 リーダライタ
63 アンテナ(外部アンテナ)
201 鋼橋
203 プラントの鋼製燃料タンク
205 鉄塔

Claims (7)

  1. 金属材で形成された検知部の電気的特性を示す無線信号を出力するセンサであって、
    板状に形成され、いずれか一方の面に前記検知部が実装された基板と、
    前記基板のいずれか他方の面に前記検知部と電気的に接続されるように実装され、前記検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、
    前記特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、
    前記制御部を被覆するように前記基板の他方の面上に設けられた磁性シートと、を備え、
    前記制御部は、前記誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動することを特徴とするセンサ。
  2. 前記誘導アンテナは、前記検知部が実装されている面または前記制御部が実装されている面のいずれか一方の外延近傍に備えていることを特徴とする請求項1記載のセンサ。
  3. 前記誘導アンテナは、前記制御部が実装されている面に設けられていることを特徴とする請求項2記載のセンサ。
  4. 前記誘導アンテナは、前記磁性シートから0.2mm以上1.5mm以下離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のセンサ。
  5. 前記磁性シートは、前記無線信号の周波数帯域に基づいて、実部透磁率および虚部透磁率の変化特性に応じて選定されたことを特徴とする請求項1から請求項4記載のいずれかに記載のセンサ。
  6. 前記磁性シートの厚さは、0.2mm以上1.0mm以下
    であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のセンサ。
  7. 請求項1から請求項6のいずれかに記載のセンサを鋼構造物へ貼付するステップと、
    リーダライタを用いて前記センサに対して磁界を照射するステップと、
    前記センサから出力された無線信号を前記リーダライタで受信するステップと、
    前記無線信号から前記検知部の電気的特性を示す特性信号を取得するステップと、を含むことを特徴とする腐食検知方法。
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