JP2018071986A - 管理用部材、鋼構造物、劣化検出方法および劣化推定方法 - Google Patents

管理用部材、鋼構造物、劣化検出方法および劣化推定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼構造物に装着される管理用部材、管理用部材が装着された鋼構造物、および鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法を提供する。【解決手段】鋼構造物5を管理する目的で前記鋼構造物5に装着される管理用部材1であって、前記鋼構造物5に向けられる面の反対側の面に貼付されたカードセンサ100と、前記鋼構造物5に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料によって、前記カードセンサ100が被覆されるように形成された塗膜部3と、を備え、前記カードセンサ100は、電気的特性を示す信号を出力する。【選択図】図1A

Description

本発明は、鋼構造物に装着される管理用部材、管理用部材が装着された鋼構造物、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する劣化検出方法、および鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法に関する。
従来から、道路照明器材、街路照明器材、公園照明器材の一部として、鋼製照明柱等が用いられてきた。鋼製照明柱等には、内部空洞の配線や漏電を管理するための、鋼製蓋が設置されている。当該蓋の開け閉めを行い、定期的に内部配線の点検が義務付けられている。このように、内部配線や内部空洞がある鋼製照明柱等のような鋼構造物では、管理用の鋼製蓋が必須となる。
一方、鋼構造物の劣化は、外的荷重に起因するものを除けば、鋼材の腐食が主要因といえる。また、鋼構造物、特に鋼製照明柱等の鋼製柱は、地際部分に腐食が集中しやすい傾向がある。これは、地際部分は、地表面側の乾燥した環境で酸素が供給されると共に、地中側の湿度が高い環境で水分が供給され易いことから、腐食が進行し易いと考えられる。このように、地際部分での腐食が進行すると、鋼製柱の倒壊事故が起こりやすくなってしまう。また、鋼製柱に設けられている溶接箇所や鋼製蓋周辺においても、腐食が集中する傾向が強い。
このような鋼材での腐食の発生を抑制するために、これらの鋼製柱は、防錆塗膜が施されている。このように、鋼構造物の腐食抑制は、防錆用塗料によって担保されていることから、防錆塗膜の定期的な塗り替えが、直接的に構造物の腐食劣化の防止につながる。
金属柱の腐食を検出する技術として、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、超音波を用いて地表面下数cm付近における金属柱の腐食損傷の程度を検出し、土中部分に存在する金属柱の腐食による欠陥の程度を評価する技術が開示されている。
特許第5815921号公報
鋼構造物の耐久性、維持管理等では、鋼材の発錆を防止するために合成塗料の塗布が非常に重要である。しかしながら、塗布された合成塗料の劣化状況は、目視や打音で行っているのが現状である。目視による点検は、広範囲にわたって塗膜の状態を見回る上で効率的で良い点検方法である一方、目視による見逃しや、塗膜下面の内部の状態、または錆・腐食が始まる直前の状態等は、目視では確認できず、鋼材の腐食による発錆で、塗膜に剥がれた浮きが生じた後の対応となるため、事後保全となってしまい、錆び汁等の腐食状況が進行した状態で発見されることも多い。特に、目視で判別しにくい場所では、腐食が想像以上に進行し、鋼材が断面欠損したり破断したりすることもある。
また、特許文献1では、超音波を用いて地表面下数cm付近における金属柱の腐食損傷の程度を検出しているが、超音波の反射波で腐食損傷の程度を判断しているため、軽微な変化に対する状況把握が難しく、錆・腐食が始まる直前の状況等は確認できない。このため、腐食が相当程度進行した状態となって、ようやく腐食が検出されることとなり、事後保全とならざるを得ない。塗膜の劣化の状況把握についても同様である。
また、鋼製柱を設置する際に、鋼製柱を設置する地際のコンクリートに傾斜をつけ、排水性をもたせた形状とすることで、地際における鋼製柱の腐食の発生を抑制する対策がとられているが、塗膜の劣化の状況を把握することはできない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鋼構造物に装着される管理用部材、管理用部材が装着された鋼構造物、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する劣化検出方法、および鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法を提供することを目的とする。
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の管理用部材は、鋼構造物を管理する目的で前記鋼構造物に装着される管理用部材であって、管理用部材本体と、前記管理用部材本体の表面に貼付され、金属材で形成された検知部を有するカードセンサと、前記鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料によって、前記カードセンサが被覆されるように前記管理用部材本体の表面に形成された塗膜部と、を備え、前記カードセンサは、前記検知部の電気的特性を示す信号を出力することを特徴とする。
このように、管理用部材は、鋼構造物を管理する目的で鋼構造物に装着される管理用部材であって、管理用部材本体と、管理用部材本体の表面(露出側、大気側等金属腐食が生じる面)に貼付され、金属材で形成された検知部を有するカードセンサと、鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料によって、カードセンサが被覆されるように管理用部材本体の表面に形成された塗膜部と、を備え、カードセンサは、検知部の電気的特性を示す信号を出力するので、電気的特性によって防錆塗膜の劣化状況を把握することができ、管理用部材に塗布されている防錆塗料の健全性を確認することができる。その結果、同一の防錆塗料が塗布され、管理用部材が装着されている鋼構造物の防錆用塗膜の適切な塗り替え時期を判断することができ、塗膜劣化の発見が遅れることによる鋼構造物の断面欠損や破断を防ぐことができる。さらに、管理用部材であって、構造的な荷重は加わらないことを前提としているため、鋼構造物本体と異なる仕様とすることもでき、また取り換えが容易である。
(2)また、本発明の管理用部材において、前記カードセンサは、板状に形成され、いずれか一方の面に前記検知部が実装された基板と、前記基板のいずれか他方の面に前記検知部と電気的に接続されるように実装され、前記検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、前記特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、を備え、前記制御部は、前記誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動することを特徴とする。
このように、カードセンサは、板状に形成され、いずれか一方の面に検知部が実装された基板と、基板のいずれか他方の面に検知部と電気的に接続されるように実装され、検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、を備え、制御部は、誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動するので、リード線を表面に引き出す必要がなく、防錆塗膜内に完全に埋め込む形で設置することができる。これにより、塗膜の劣化状況を非破壊的に把握することができる。また、基板の共振周波数を調整し、センサとリーダライタとの間でデータの送受信を行うことができる。また、リーダライタから放射される電磁波から起電力を生成するため、電池を内蔵しなくても動作させることが可能となる。
(3)また、本発明のカードセンサは、前記制御部を被覆するように、前記基板の他方の面上に設けられた磁性シートをさらに備えることを特徴とする。
このように、カードセンサは、制御部を被覆するように基板の他方の面上に設けられた磁性シートをさらに備えるので、鉄等の金属上にカードセンサを貼付する場合であっても、周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を磁性シートで遮ることができるため、無線通信を行うことができる。これにより、塗膜の劣化状況を非破壊的に把握することができる。
(4)また本発明の鋼構造物は、前記カードセンサを有する面が外気と接触する側に向くように、上記(1)から(3)のいずれかに記載の管理用部材が装着された鋼構造物である。
このように、防錆塗膜の劣化状況を検出する管理用部材が装着されるので、同一の防錆塗料が塗布され、管理用部材が装着されている鋼構造物の防錆用塗膜の適切な塗り替え時期を判断することができ、塗膜劣化の発見が遅れることによる鋼構造物の断面欠損や破断を防ぐことができる。
(5)また、本発明の劣化検出方法は、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する劣化検出方法であって、上記(1)から(3)のいずれかに記載の管理用部材を、前記鋼構造物に取り付ける工程と、前記カードセンサが出力する信号に基づいて、前記管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出し、前記鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する工程と、を含むことを特徴とする。
このように、管理用部材を鋼構造物に取り付け、カードセンサが出力する信号に基づいて、鋼構造物と同じ厚さの塗料を塗布した管理用部材の防錆塗膜の劣化を検出することができ、鋼構造物に塗布されている防錆塗料の健全性を確認することができる。また、管理用部材に塗布する塗料の厚さを鋼構造物に塗布する塗料の厚さよりも薄くし、早期に劣化を検出することができる。
(6)また、本発明の劣化推定方法は、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法であって、前記鋼構造物を管理する目的で前記鋼構造物に装着される管理用部材の表面にカードセンサを貼付する工程と、前記カードセンサが貼付された管理用部材に対し、前記鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料を用いて、前記カードセンサが被覆されるように防錆塗膜を形成する工程と、前記カードセンサが貼付され、前記防錆塗膜が形成された管理用部材を、前記鋼構造物に取り付ける工程と、前記カードセンサが出力する信号に基づいて、前記管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出し、前記鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する工程と、を含むことを特徴とする。
このように、鋼構造物を管理する目的で鋼構造物に装着される管理用部材の表面にカードセンサを貼付し、カードセンサが貼付された管理用部材に対し、鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料を用いて、カードセンサが被覆されるように防錆塗膜を形成し、カードセンサが貼付され、防錆塗膜が形成された管理用部材を、鋼構造物に取り付け、カードセンサが出力する信号に基づいて、管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出し、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定するので、カードセンサが検知する電気的特性によって防錆塗膜の劣化状況を把握することができ、鋼構造物に塗布されている防錆塗料の健全性を確認することができる。そして、管理用部材に塗布する塗料を薄くし、早期に劣化を検出することで、鋼構造物の劣化時期を予測することができる。
本発明によれば、カードセンサが検知する電気的特性によって防錆塗膜の劣化状況を把握することができ、管理用部材に塗布されている防錆塗料の健全性を確認することができる。その結果、管理用部材と同一の防錆塗料が塗布され、管理用部材が装着されている鋼構造物の防錆用塗膜の適切な塗り替え時期を判断することができ、塗膜劣化の発見が遅れることによる鋼構造物の断面欠損や破断を防ぐことができる。
本実施形態に係る管理用部材および鋼構造物の一例を示す図である。 本実施形態に係る管理用部材の一例を示す図である。 防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法を示すフローチャートである。 本実施形態に係る管理用部材の変形例を示す図である。 RFIDカードセンサの概略構成を示す図である。 RFIDカードセンサの製造方法を示すフローチャートである。 本製造方法によって作製したRFIDタグの概要を示す図である。 本実施形態で用いる無線通信機器の概略図である。 フェライト材料の透磁率と周波数の関係を示したイメージ図である。 RFIDカードセンサの周波数領域における磁性シートの透磁率特性を示した図である。 樹脂被覆したRFIDカードセンサの概略構成を示す図である。 磁性シート種類ごとの透磁率特性を示した図である。 通信距離試験の概略を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 間隙の樹脂の厚みと通信距離の計測結果を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 通信距離の変化を示した図である。 本実施形態に係るRFIDカードセンサを海岸部の鋼橋の鋼製柱や橋桁に適用した場合の実施例である。 プラントの鋼製燃料タンクの補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態に係るRFIDカードセンサを適用した実施例である。 送電線を支える鉄塔の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態に係るRFIDカードセンサを適用した実施例である。
[1.管理用部材の構成]
本実施形態に係る管理用部材として、鋼構造物の一つである鋼製照明柱に設けられた管理用部材を例示する。図1Aおよび図1Bは、鋼製照明柱5、および鋼製照明柱5に形成された内部空洞の配線や漏電を管理するための開口部7の蓋(以下、管理用部材1ともいう)を示した図である。図1Bに示すように、本実施形態に係る管理用部材1は、鋼構造物を管理する目的で鋼構造物に装着される管理用部材1であって、管理用部材本体と、管理用部材本体の表面(露出側、大気側等金属腐食が生じる面)に貼付されたカードセンサ100と、鋼製照明柱5に用いられる防錆塗料と同一の塗料によってカードセンサ100が被覆されるように形成された塗膜部3と、を少なくとも備える。
カードセンサ100は、金属材で形成された検知部と、板状に形成され、いずれか一方の面に検知部が実装された基板と、基板のいずれか他方の面に検知部と電気的に接続されるように実装され、検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、を備える。また、制御部は、誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動する。
また、誘電性材料で形成された管理用部材1には、制御部を被覆するように、基板の他方の面上に磁性シートを設けたカードセンサを用いることができる。
[2.劣化検出および推定方法]
本実施形態に係る劣化検出および推定方法として、鋼製照明柱にカードセンサを貼付して防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化検出および推定方法を例示する。図2は、防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化検出および推定方法を示すフローチャートである。本実施形態に係る劣化検出および推定方法は、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出および推定する劣化検出および推定方法であって、管理用部材の表面に検知部が腐食が危惧される側となるようにカードセンサを貼付し(ステップS101)、カードセンサを貼付した管理用部材に対し、鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の塗料を用いて、カードセンサが被覆されるように防錆塗膜を形成する(ステップS102)。管理用部材に防錆塗料によって形成される塗膜部の厚さは、鋼製照明柱に防錆塗料によって形成される塗膜の厚さと同等か、もしくは薄いことが好ましい。また、管理用部材にカードセンサをそのまま貼り付けても良いが、管理用部材に予め凹部を設けて貼り付けても良い。
次に、カードセンサを貼付し防錆塗膜が形成された管理用部材を鋼構造物に取り付ける(ステップS103)。カードセンサが出力する信号に基づいて、管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出する。塗膜の厚さを鋼構造物本体と同等とした場合は、センサが腐食を検知した場合、防錆塗膜が劣化したとわかるので、塗装を補修する等の維持管理を行う。塗膜の厚さを鋼構造物本体より薄くとした場合は、センサが鋼構造物本体の塗装劣化より早く検出するので、早期に点検補修することもできるし、後述する劣化状況の推定を行って維持管理に利用することもできる。なお、図3に示すように、管理用部材は、カバー2であっても良い。カードセンサ100を設けたカバー2を鋼製照明柱に設置することで、防錆塗膜の劣化状況を検出することができる。
さらには、鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定することもできる。塗膜の劣化反応は、塗膜と外部環境との間で、変質した塗膜の厚み(反応層)を介して進行する。そのため、反応層の厚みにともない反応速度が減少することから、単位面積当たりの反応速度は、次の微分式で表される。
dv/dt=A×(W−W) ・・・(1)
v:反応速度、t:時間、W:塗膜の全厚み、W:劣化反応した塗膜の厚み、A:速度定数
式(1)より、劣化反応した塗膜の厚みは、次式に展開される。
W=W{1−exp(−At)} ・・・(2)
ここで、塗膜の厚みが95%劣化した時点を、鋼材保護における限界厚みと規定する。また、限界厚みに到達した時間を劣化到達時間(ta)と規定する。
lim=0.95×W ・・・(3)
また、式(2)よりWlimは下式で表される。
lim=W{1−exp(−A(ta))} ・・・(4)
ここで、カードセンサの検知部に塗布した塗膜の厚みをWsとし、検知部が反応するまでの時間をTsとすると、
lim=0.95×Ws ・・・(5)
lim=Ws{1−exp(−A(Ts))} ・・・(6)
となり、式(6)の変数は、塗膜の劣化反応の速度定数Aのみとなるため、これを算出することができる。
カードセンサの検知部の塗膜厚さWsが、構造物の塗膜厚さWcと同等、もしくは薄い場合、カードセンサの反応によって塗膜劣化の速度定数Aがわかれば、式(2)および式(3)より、構造物の塗膜の劣化進行予測と、塗膜劣化時期を推定することが可能となる。
なお、構造物の塗膜の劣化時期の推定においては、式(2)は対数関数で収束に時間を要するため、計算上の厚みは実際の厚みの99%として計算することが好ましい。これは対数関数の収束区間で誤差が大きくなる可能性を排除し、かつ工学的に99%で十分な精度を有しているためである。
We=W×0.99
We:施工厚みの99%の厚み
速度定数の算出には95%厚みを用い、劣化時期の推定では、工学的に99%厚みを用いて計算することが望ましい。
カードセンサの検知部の塗膜厚さWsが、構造物の塗膜厚さWcと同等、もしくは薄い場合、カードセンサの反応によって塗膜劣化の速度定数Aがわかれば、式(2)にWeとW、および速度定数Aを代入し、構造物の塗膜の劣化時期を推定することが可能となる。
カードセンサの検知部の塗膜の厚みは、構造物本体の塗膜の厚みに対して、40%〜95%の厚みが好ましい。構造物の塗膜厚みに対して、40%未満の厚みでは、早期に反応するものの、構造物本体の塗膜の半分未満であるため、その後の劣化進行の推定精度が低下するため好ましくない。構造物本体の塗膜厚みに対して、95%を超える厚みでは、構造物とほぼ同時期の反応となる。単に構造物の塗膜の劣化を把握する場合にはこれでも良いが、その後の対策や構造物本体の劣化を防ぐためには、95%以下の厚みとすることが好ましい。
塗膜劣化の具体的な計算例を以下に記載する。構造物本体の塗膜の厚みは3mmで、カードセンサの検知部の塗膜厚みは2mmである。劣化試験によって、カードセンサが3年で反応したとき、式(6)より、
1.9=2×{1−exp(−A×3)}
A=0.9985
したがって、構造物本体の塗膜の劣化時期は、We=99%厚みとして計算すると、塗膜厚み(3mm)と速度定数Aを代入し、式(2)より以下のとおり計算される。
3×0.99=3.0×(1−exp(−0.9985×t))
t=4.61(年)
したがって、構造物本体の塗膜は、4.61年で防錆機能が消失すると推定され、計画的な維持管理を行う上で、有用な情報を得ることができる。
上記のように、カードセンサの検知部の塗膜厚みを、構造物本体の塗膜の厚みと同等、もしくは薄くすることによって、カードセンサの検知部の反応時期から、構造物の塗膜の劣化時期を予測することができる。また、このことによって、構造物の塗膜を合理的かつ計画的に実施できる。
[3.RFIDカードセンサの構成]
以下、カードセンサ100の一例として、磁性シートを設けたRFIDカードセンサについて説明する。図4は、RFIDカードセンサ100の概略構成を示す図である。RFIDカードセンサ100は、基板111、腐食検知部(以下、単に検知部ともいう)113、集積回路を有する制御部115、誘導アンテナ117および磁性シートを備え、金属材で形成された検知部113の電気的特定を示す無線信号を出力する。基板111は、板状に形成された両面基板であって、いずれか一方の面に検知部113が実装されている。制御部115は、基板111のいずれか他方の面に検知部113と電気的に接続されるように実装され、誘導アンテナ117に照射された磁界によって生ずる起電力で駆動する。
誘導アンテナ117は、制御部115の実装面側にプリントされており、RFIDカードセンサ100と無線通信機器(リーダライタ)との間でデータの送受信を行う。なお、本実施形態では、誘導アンテナ117は、腐食劣化防止のため、制御部115の実装面側に設けられていることが好ましいが、検知部113の実装面側に設けられていても良い。また、基板111の共振周波数(本実施形態では、13.65MHz)は、誘導アンテナ117によって調整されている。図示しないが、磁性シートは、制御部115を被覆するように制御部115の実装面の直上に、基板111と離間して設けられている。磁性シートと基板111と間には、樹脂が設けられている。表1に本実施形態に係るRFIDカードセンサの仕様を示す。
本実施形態に係るRFIDカードセンサ100は、汎用の近接無線式のIDカード(ICカード)と同じ13.56MHz帯の無線周波数で通信を行い、LSI(Large-Scale Integration)内部に固有のID番号を記憶している。計測回路は、内部サーミスタによる温度計測用に1チャンネル、抵抗(または電圧)の計測用に1チャンネルの計2チャンネルを有しており、それぞれのアナログ出力をデジタル値に変換(16bit)して、無線通信を行う。
センサ機能を有するLSIは、一般のIDカード(ICカード)と異なり、センサーインターフェースを有しており、センサに電流を流して計測を行うため、情報のやり取りのみを行うIDカードと比較して、消費電力は大きくなる。また、センサから得られる電圧や抵抗等のアナログデータを、16bit(65536分割)の分解能でデジタルデータに変換可能である。変換における分解能は、特に限定されないが、分解能が高いほど情報量が大きくなり、また、必要となる電力量も増加する。また、LSI内部にサーミスタを内蔵しており、温度計測が可能であり、これも所定の分解能でデジタルデータに変換できる(本実施形態のRFIDカードセンサでは、16bitを有する)。加えて、電気信号を増幅するアンプ回路を内蔵しており、微小な電気信号を増幅して取得することが可能であり、電気信号を増幅する過程で電力を消費する。
以上のことから、センサ機能を有するRFIDでは、通常のICカードと比較して、通信量と消費電力量が多く、近接無線で発生させた電磁界を効率良く電力に変換し、計測および通信の電源とすることが必要不可欠である。
本実施形態に係るRFIDカードセンサ100の基板111の寸法は、54mm×86mm×t0.5mmであるが、これに限らない。基板111の片面に、LSIや回路を構成する電子部品を有する制御部115を実装しており、もう一方の片面には、検知部113を配置して、計測回路と検知部113をスルーホールで接続している。このように、LSIの実装面と検知面を分離する構造を採ることによって、外部からの劣化因子の侵入リスクを低下させることが可能となる。なお、本実施形態に係るRFIDカードセンサ100の基板には、ガラスコンポジット製を用いているが、これに限らない。
[4.RFIDカードセンサの製造方法]
図5Aは、本実施形態に係る防錆塗膜下の鋼材の腐食環境を把握するためのRFIDカードセンサの製造方法を示すフローチャートである。図5Bは、本製造方法によって作製したRFIDカードセンサ100の概要を示す図である。
基板111は、寸法54mm×86mm×t0.5mmとして作製する(ステップS201)。基板111の寸法は、用途に応じた寸法に形成できれば、当該の寸法に限定されない。基板111は両面基板とし、一方の面には誘導アンテナや制御IC、計測回路を実装した実装面を形成し、もう一方の面には、RFIDカードセンサ100の検知部113を配置する。誘導アンテナは、通信周波数に対応した形状としており、基板111は13.56MHz帯の周波数に対応した形状としており、共振周波数をコンデンサで微調整できるように、アンテナ回路として構成している。RFIDカードセンサ100の検知部113と実装面の計測回路は、スルーホールによって連結されている。防錆塗料下の鋼材の腐食環境を検知する場合、RFIDカードセンサ全体の厚みは、塗料の厚みに応じた厚さとすることが好ましく、本実施形態に係るRFIDカードセンサ100では全体の厚みを3mm以下として作製した。RFIDカードセンサの厚みが厚すぎると、防錆塗膜の下面にRFIDカードセンサを配置した際に、防錆塗膜上にRFIDカードセンサが露出したり、検知部が露出する恐れがあるためである。基板111の材料には、ガラスコンポジットを用いているが、これに限定されるわけではなく、絶縁性を有する基板材料を使用できる。
腐食検知部材は、極薄い鉄箔を樹脂フィルム上につづら折り状の線材として形成したものを作製する(ステップS202)。検知部113に用いた鉄箔は、3μm以上0.1mm以下の厚さを有するものを選定する。ここで、鉄箔は、蒸着やメッキにより形成される薄膜であっても良いし、板状に形成されていても良い。鉄箔の厚さを3μm以上0.1mm以下としたのは、薄すぎるとセンサの取り扱い時に検知部113にひび割れが生じやすく、厚すぎるとセンサの感度が低下する恐れがあるためである。検知部113の鉄箔の線幅は0.1mm以上2.0mm以下とした。これは、腐食反応時に、鉄の断面欠損が生じた際の電気特性の変化を捉える上で、感度を向上させるためである。線幅が0.1mmより細いと線材を形成することが難しく、2.0mmより太いと腐食反応時の感度が低下する。基材として用いた樹脂フィルムは、ポリイミド材やPET材等の樹脂が好ましいが、電気絶縁性および耐水性を有しており、薄くフィルム状に形成できる樹脂材料であれば特に限定されない。本実施形態のRFIDカードセンサ100で使用する検知部113の基材は、ポリイミド材を0.05mmの厚さに形成したフィルムを使用する。
次に、実装面側に電子部品を実装した両面基板の検知部面側に、ステップS202で作製した腐食検知部材を、基板に密着するように配置して接合する(ステップS203)。
次に、基板の実装面側に、乾燥硬化型の液体状の樹脂を塗布する。樹脂の厚みは、0.2mmから1.0mmの範囲とし、0.5mmの厚みとなるように塗布し、塗布後24時間乾燥させて樹脂被膜を形成する(ステップS204)。
次に、樹脂を塗布した基板の実装面側に、磁性シートを貼付する。磁性シートは、基板の平面寸法と同一寸法で裁断し、樹脂被膜の直上に、基板寸法に合わせて貼付する。磁性シートの厚みは、例えば、0.5mmのものを使用する(ステップS205)。
次に、磁性シートを貼付した基板の検知部面側に配置された腐食検知部に、マスキング処理を施し、磁性シートを含めた基板全体を液体樹脂に浸漬して、保護用樹脂を形成する(ステップS206)。液体樹脂は、脱気性が高い材料が好ましい。これは、空気を巻き込みやすい樹脂を用いた場合、硬化後に気泡として残る場合があり、気泡が残ってしまうことで製品の耐久性を損なう場合があるからである。また、硬化後に防水性と耐油性、および伸縮性を有する樹脂を選定する。本実施形態に係るRFIDカードセンサは、鋼材に貼付した後に防錆塗料の効果の確認が目的であるため、塗布した際に防錆塗料の成分に侵食されない樹脂材料である必要がある。また、鋼材に貼付して使用するので、鋼材とRFIDカードセンサとの密着性を確保するために、伸縮性を有する樹脂材料であることが好ましい。
次に、基板の検知部面側に貼付したマスキング材をはがし、腐食検知部を露出させる。マスキング材は、腐食検知部上に糊等の残渣が少ない材料であれば、特に限定するものではない(ステップS207)。
[5.センサの計測方法]
本実施形態に係るRFIDカードセンサの計測は、専用の無線通信機器(以下、単にリーダライタともいう。)を用いて実施する。通信機器および通信周波数は、使用する基板に対応した周波数のものを使用する必要がある。本実施形態に係るRFIDカードセンサでは、13.56MHz帯に対応したリーダライタを使用している。当該のリーダライタを、センサの直上近傍に位置させ、電磁界を励起してセンサの駆動電力とし、通信および計測を実施する。計測は、腐食検知部の電気抵抗を、デジタルデータに変換し、デジタルデータをリーダライタで読み込み、読み込んだデジタルデータをリーダライタでアナログ値(電気抵抗値)に換算して、当該の数値変化から、防錆塗料下の鋼材の腐食環境を判定する。一例として、初期値が5Ωの腐食検知部が、腐食環境に至った場合、電気抵抗が5kΩに変化し、この電気抵抗の変化をリーダライタで計測した場合に、腐食環境と判定する。
[5.1.リーダライタ]
ここで、計測で用いる無線通信機器について説明する。図6は、本実施形態で用いる無線通信機器(リーダライタ)の概略図である。図6(a)は、PCを接続して使用する据置型(出力:1W)リーダライタ300である。図6(b)は、ハンディ型(出力:0.25W)リーダライタ500である。表2に各リーダライタの仕様を示す。
据置型リーダライタ300は、アンテナ部(内寸410mm×300mm)131および制御部133を備える。ハンディ型リーダライタ500は、リーダライタ本体151および取り外し可能な丸型アンテナ部(φ160mm)153を備え、図示しないがリーダライタ本体内にもアンテナ(45mm×30mm(推定値))を内蔵している。
[6.磁性シート]
次に、本実施形態に係るRFIDカードセンサに用いる磁性シートについて説明する。磁性シートは、ノイズ抑制シートや電波吸収シートとも呼ばれ、薄く偏平なフェライト系材料を高密度に配した複合材料シートである。磁性シートは、一般に高い電気抵抗と磁気損失性(磁気共鳴性)を備えるため、高周波ノイズ等を熱に変換して抑制することができる。
一方、RFID基板のような電磁誘導で起電するコイルアンテナを、金属のような導電材料に貼付し、交流電界を与えると、導電体表面に渦電流が発生して逆向きの磁界が励起する。このため、一般には金属のような導電体にRFIDを貼付して使用すると誘導磁界が打ち消されるため、無線通信が難しくなる。
このことから、導電体で生じた逆向きの磁界を遮るために、磁性シートが活用されている。磁性シートを用いて、想定される周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を磁性シートで遮ることができれば、無線通信が可能となる。
ここで、磁束密度Bと磁界の強さHは、式(7)で表される。アンペールの法則により誘導される電流は、磁束密度Bに比例し、透磁率μに反比例する。
B=μH ・・・(7)
B:磁束密度(Wb/m)、H:磁界の強さ(A/m)、μ:透磁率(H/m)
ここで、フェライトの透磁率について説明する。実際のアンテナコイルでは、コイルに電流電界を与えて励磁すると、磁芯損失(コアロス)が生じるため、式(8)に示す虚部透磁率を考える必要がある。
μr=μ´−jμ´´ ・・・(8)
μ´:実部透磁率、μ´´:虚部透磁率
実部透磁率と虚部透磁率は、式(9)および式(10)で示される。
μ´=(l/μ)×Lm ・・・(9)
μ´´=(l/μ)×(Rm/2πf) ・・・(10)
:実効磁路長(m)、μ:真空の透磁率=4π×10−7(H/m)、
:実行断面積(m)、N:測定用コイルの巻き数、
:測定インダクタンス(H)、R:測定抵抗(Ω)
図7は、フェライト材料の透磁率と周波数の関係を示したイメージ図である。フェライト材料(材料A、材料B)の透磁率は、ある周波数まで一定の値をとるものの、周波数が高くなると磁界Hの変化に磁束密度Bが追随できなくなる。そのため、位相の遅れが生じて、インダクタンス成分(μ´)が減少し、抵抗成分(μ´´)が増加する。一般に、この特性は、snoek限界と呼ばれ、高い透磁率を持つ材質ほど低い周波数でμ´の減少が生じ始める。
磁性シートの実部透磁率と虚部透磁率の変化特性(snoek限界)は、材料固有の値であり、例えば、様々な材料を組み合わせることで、所望のノイズ成分や周波数成分を遮蔽したり、吸収したりすることが可能となる。つまり、高周波のノイズの抑制には、式(8)の磁気損失項である虚部透磁率(μ´´)が大きい領域を利用し、一方、RFIDの受送信距離の改善に求められる磁界の遮蔽(導電体からの輻射磁界の遮蔽)には、実部透磁率(μ´)が大きく、虚部透磁率(μ´´)が小さい領域を利用することで実現可能となる。
図8は、本実施形態に係るRFIDカードセンサの周波数領域(13.56MHz帯)近傍において、通信距離の改善に適すると考えられる磁性シートの透磁率特性を示した図である。図6に示すような、13.56MHz帯近傍で実部透磁率(μ´)が大きく、虚部透磁率(μ´´)が小さい透磁率特性を有する磁性シートを用いることで、想定される周波数帯の電磁ノイズや輻射磁界を遮ることができ、無線通信が可能になると考えられる。
[7.通信距離試験]
13.56MHz帯のRFIDの通信距離と磁性シートの透磁率特性との関係を確認するため、リーダライタの種類、磁性シートの種類によるRFIDカードセンサの基板とリーダライタのアンテナ間の通信可能距離を測定した。測定に用いた各機器は、以下の通りである。
(1)RFIDカードセンサ
RFIDカードセンサは、同一ロットで作製したRFIDカードセンサを2台用意し、1台は樹脂被覆しないRFIDカードセンサ(図4)、もう1台は検知部113を除く部分を浸漬被覆法によって保護用樹脂125で外装成形したRFIDカードセンサ(図9)を用いた。
(2)無線通信機器(リーダライタ)
表2および図6に示した据置型およびハンディ型の2種類を用意した。ハンディ型においては、丸型アンテナの脱着を行い、丸型アンテナ有無による場合を測定した。
(3)磁性シート
磁性シートは、透磁率特性の異なる4種類の磁性シートを用意した。表3に使用した磁性シートの詳細を示す。図10は、磁性シート種類ごとの透磁率特性を示した図である。
金属貼付時の通信距離の改善効果は、前述した磁界の遮蔽の原理から、RFB>MM−SD>HU>SUの順番に高いと推定される。例えば、RFBシートは、図10(a)に示すように、透磁率μ´が高く、そしてsnoek限界の周波数も相対的に高いことから、図10(d)に示したSUシートの透磁率特性と比較すると、周辺からの磁界遮蔽効果が高いと考えられる。なお、以下記載のシートの表記記号は、例えば、RFBシートで厚みが0.1mmの場合、「RFB−010」のように表記する。また、表3に中に示したRFBシートおよびHuシートの0.7mm厚の水準は、市販の0.2mm品と0.5mm品を重ねて使用することで、合計の厚みを0.7mmとした。
(4)測定方法
図11は、通信距離試験の概略を示した図である。磁性シート119は、基板111と同一寸法(54mm×86mm)に裁断して使用した。図4に示した基板111の制御部115の実装面(検知部113の裏面)に、樹脂123を形成し、さらに重なるよう磁性シート119を貼付する。基板111の制御部の実装面に形成した樹脂123の厚さは、0.2mmから1.0mmが好ましい。また、磁性シート119の厚さは、0.05mmから1.0mmである。磁性シート119の2つの主要面のうち、樹脂と接していない主要面を鋼材127に接するように、RFIDカードセンサを設置した。図11では、基板、樹脂、磁性シートをさらに保護用樹脂125(厚さ:最大2.0mm)で外装成形されたRFIDカードセンサが鋼材に設置された状態を示している。RFIDカードセンサは、保護用樹脂125で外装成形されていることが好ましいが、保護用樹脂がなくても良い。
RFIDカードセンサを設置した後、基板とリーダライタのアンテナ(外部アンテナ)との間の通信可能距離を測定した。通信方法は、ID通信モード(低消費電力)と計測モードの2種類とした。また、磁性シートの効果を確認するために、RFIDカードセンサの基本通信可能距離として、鋼材無しの状態、および鋼材有りかつ磁性シート無しの状態についても、通信可能距離等を確認した。さらに、基板と磁性シートとの間の樹脂の効果を確認するため、樹脂被覆の有無の状態についても、通信可能距離等を確認した。
[8.通信距離試験結果]
(1)鋼材貼付による通信距離の変化
図12は、磁性シート無しで、基板を鋼材に貼付した場合の通信距離の変化を示した図である。背面鋼材が無い場合の計測可能距離は、リーダライタごとに、据置型で16cm、ハンディ型の丸型アンテナ有りで14cm、丸型アンテナ無しで5cmであった。一方、基板を直接鋼材に貼付した場合、いずれのリーダライタを用いても、基板との通信はできず、背面鋼材の影響によって無線通信が阻害されることが確認できた。
(2)リーダライタ種類ごとの鋼材貼付による通信距離の変化
次に、磁性シートを基板背面に設置した場合の、背面鋼材の有無による通信距離をリーダライタごとに測定した。図13は、磁性シート(MM−SD−005)を用いた場合の通信距離の変化を示した図である。磁性シートを配したことにより、基板の計測可能距離に著しい低下が認められた。また、基板を鋼板に貼付した場合には、据置型リーダライタと、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ有りでは、無線通信ができなかった。MM−SD以外の磁性シート(RFB、Hu、Su)を貼付した場合であっても無線通信ができなかった。一方、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ無しの場合では、無線通信ができた。
さらに、図12および図13を比較すると、リーダライタの種類ごとに通信距離への影響が異なり、絶対的な通信距離は短いものの、ハンディ型リーダライタの丸型アンテナ無しの場合にのみ、鋼材上での無線通信および計測が可能であることがわかった。
リーダライタの種類による出力について説明する。据置型の出力の大きさは、ハンディ型の出力の大きさの4倍であるが、鋼材上で通信を行うことはできなかった。ハンディ型の丸型アンテナ有無においては、リーダライタの出力の大きさは同じであるものの、丸型アンテナの有無によりアンテナ面積が異なり、丸型アンテナを装着しない場合には、基板の面積よりもアンテナ面積が小さくなっている。このように、ハンディ型リーダライタで丸型アンテナ無しの場合は、基板の面積よりもアンテナ面積が小さいため、鋼材に発生する逆向きの磁界が磁性シートによって遮蔽され、ハンディ型リーダライタが鋼材に貼付した基板と通信できたものと考えられる。
以上の測定結果により、丸型アンテナを装着していないハンディ型リーダライタを用いることが好ましいと考えられるため、以降の測定は、丸型アンテナを装着していないハンディ型リーダライタを用いて、各種測定を行う。
(3)磁性シートの厚みと基板の樹脂被覆の有無の影響
次に、基板とハンディ型リーダライタとの間の通信距離や応答性の阻害要因について検討する。基板とハンディ型リーダライタとの間の通信距離や応答性の阻害要因として、基板に磁性シートを直接貼付していることが考えられる。そこで、磁性シートの厚み、基板と磁性シートとの間の樹脂の有無による影響について検討した。
図14は、同一の磁性シート(RFBシート)の厚みの違いと樹脂被覆の有無による通信距離の変化を示した図である。同一の磁性シートにおいて厚みが異なる場合、0.05mmでは通信ができず、厚みの増加にともない通信距離の延伸が確認された。しかし、0.5mmを超えた場合には、その効果は認められず、漸減する場合もあり、対象の基板に対して適した厚みがあることが確認できた。
さらに、樹脂被覆の有無を比較すると、基板と磁性シートとの間に樹脂被覆を施した場合には、全体的に通信距離が大きくなった。これは、樹脂被膜が無い場合、磁性シートとアンテナ基板とが接することで、基板の共振周波数が影響を受けたり、RFIDタグ側の磁界が遮蔽されてしまうが、磁性シートとアンテナ基板との間に樹脂被膜を設けることで、樹脂による間隙効果が得られたためである。
そこで、樹脂の間隙効果を確認するため、磁性シートと基板との間の樹脂の厚みを変化させて通信距離を確認した。間隙の樹脂の厚みを0.1mmから2.0mmまで変化させて、通信距離を計測した。
図15は、間隙の樹脂の厚みと通信距離の計測結果を示した図である。計測の結果、間隙樹脂の厚みが0.2mmから2.0mmの範囲で通信距離の改善効果が確認された。一方、間隙樹脂の厚みが0.1mm以下では通信距離の改善効果はなく、間隙樹脂の厚みが1.5mm以上では、厚み1.0mmと比較して通信距離の改善効果に変化がないことが確認できた。塗膜の内部に設置する上で、製品の厚みを薄くするために、磁性シートと基板の間の樹脂の厚みは、0.2mmから1.5mmの範囲が好ましいと考えられる。より好ましい範囲は、0.5mmから1.0mmの範囲である。
(4)磁性シートの違いによる通信距離の変化
図14に示す通り、基板と磁性シートとの間に樹脂を設けた方が良いことが確認できた。そこで、次に、磁性シートの違いによる通信距離について検討した。図16および図17は、樹脂被覆基板における樹脂シートの種類と厚みの違いにおける通信距離の変化を示した図である。なお、各図に参考値として、背面鋼材および磁性シート無しの基板の通信距離を示す。図16および図17に示す通り、磁性シートの厚みによって通信距離が変化し、使用した4種類の磁性シート(RFB、MM−SD、Hu、Su)に最適な厚みが存在することが確認できた。これは、同一の透磁性を有するシートでも、厚みによって電波吸収特性が異なることに起因するものと考えられる。
磁性シートの種類を比較すると、通信距離が長いシートは、RFBシートおよびMM−SDシートであり、HuシートおよびSuシートは相対的に通信距離が短くなった。これは、前述した透磁率特性の原理に合致する結果であった。
一方、RFBシートとMM−SDシートでは、通信距離はほぼ同等であったが、通信しやすさ(計測までの応答性)では、MM−SDが優れていることが確認できた。また、磁性シートを用いる場合、厚みとして好ましい範囲は0.2mmから1.0mmであり、より好ましい範囲は0.3mmから0.7mm、さらに好ましい範囲は0.4mmから0.6mmである。
[9.RFIDカードセンサの設置方法]
RFIDカードセンサは、新設の鋼構造物では、防錆塗料を塗布していない状態で、鋼材に表面に接着する。接着剤は、耐水性や対環境性が高く、RFIDカードセンサを固定できるものであれば種類は問わない。ただし、金属粉末のように、電波や磁界に影響を及ぼす材料は、接着材料として好ましくない。接着剤は、例えばエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
また、鋼構造物では、鋼製円柱のように、形状として局面で構成される部材もある。本実施形態に係るRFIDカードセンサのように形状がカード状である場合、接着した際に、鋼構造物の曲率に応じた隙間ができるが、この隙間は、耐水性や対環境性が高い樹脂材料で充填、固定することで、RFIDカードセンサを固定することができる。隙間を充填してRFIDカードセンサを固定する材料として、金属粉末のように、電波や磁界に影響を及ぼす材料は好ましくない。隙間を充填してセンサを固定する材料として、例えばエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
[10.その他の使用例]
本実施形態では、カードセンサを鋼構造物に装着される管理用部材に貼付し、鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料でカードセンサを覆い、カードセンサから出力される電気的特性を示す無線信号から防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定する方法を説明したが、その他の鋼構造物へも適用することができる。
例えば、図18は、本実施形態に係るRFIDカードセンサ100を海岸部の鋼橋201の鋼製柱や橋桁に適用した場合の実施例である。新設の鋼構造物では、鋼材の塗装の前に本実施形態に係るRFIDカードセンサ100を貼付し、貼付後に鋼材の防錆塗装を施して設置する。鋼構造物の塗装の点検の際に、RFID用の無線通信機器(リーダライタ)を用いて、リーダライタをRFIDカードセンサ100の直上にかざして、電磁界を与えて計測を実施する。RFIDカードセンサ100の計測情報をデジタルデータとして読み込み、当該のデジタルデータを用いて防錆塗料下の鋼材の腐食環境を判定することができる。
例えば、図19は、プラントの鋼製燃料タンク203の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態に係るRFIDカードセンサ100を適用した実施例を示す図である。
例えば、図20は、送電線を支える鉄塔205の補修(塗装の塗り直し)の際に、本実施形態のRFIDカードセンサを適用した実施例を示す図である。
その他の使用例においては、管理用部材として点検口や通路ドアとしたり、カバーや補強鋼板に取り付けても良い。
以上説明したように、本実施形態によればカードセンサが検知する電気的特性によって防錆塗膜の劣化状況を把握することができ、管理用部材に塗布されている防錆塗料の健全性を確認することができる。その結果、管理用部材と同一の防錆塗料が塗布され、管理用部材が装着されている鋼構造物の防錆用塗膜の適切な塗り替え時期を判断することができ、塗膜劣化の発見が遅れることによる鋼構造物の断面欠損や破断を防ぐことができる。
1 管理用部材
2 カバー
3 塗膜部
5 鋼構造物、鋼製照明柱
7 開口部
10 地表
100 RFIDカードセンサ
111 基板
113 腐食検知部、検知部
115 制御部
117 誘導アンテナ
119 磁性シート
123 樹脂
125 保護用樹脂
127 鋼材
131 アンテナ部
133 制御部
151 リーダライタ本体
153 丸型アンテナ部
161 リーダライタ
163 アンテナ(外部アンテナ)
201 鋼橋
203 プラントの鋼製燃料タンク
205 鉄塔
300 据置型リーダライタ
500 ハンディ型リーダライタ

Claims (6)

  1. 鋼構造物を管理する目的で前記鋼構造物に装着される管理用部材であって、
    管理用部材本体と、
    前記管理用部材本体の表面に貼付され、金属材で形成された検知部を有するカードセンサと、
    前記鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料によって、前記カードセンサが被覆されるように前記管理用部材本体の表面に形成された塗膜部と、を備え、
    前記カードセンサは、前記検知部の電気的特性を示す信号を出力することを特徴とする管理用部材。
  2. 前記カードセンサは、
    板状に形成され、いずれか一方の面に前記検知部が実装された基板と、
    前記基板のいずれか他方の面に前記検知部と電気的に接続されるように実装され、前記検知部の電気的特性を示す特性信号を出力する制御部と、
    前記特性信号を無線信号として出力する誘導アンテナと、を備え、
    前記制御部は、前記誘導アンテナに対して照射された磁界によって生ずる起電力で駆動することを特徴とする請求項1記載の管理用部材。
  3. 前記カードセンサは、前記制御部を被覆するように前記基板の他方の面上に設けられた磁性シートをさらに備えることを特徴とする請求項2記載の管理用部材。
  4. 前記カードセンサを有する面が外気と対向する側に向くように、請求項1から請求項3のいずれかに記載の管理用部材が装着された鋼構造物。
  5. 鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する劣化検出方法であって、
    請求項1から請求項3のいずれかに記載の管理用部材を、前記鋼構造物に取り付ける工程と、
    前記カードセンサが出力する信号に基づいて、前記管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出し、前記鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を検出する工程と、を含むことを特徴とする劣化検出方法。
  6. 鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する劣化推定方法であって、
    前記鋼構造物を管理する目的で前記鋼構造物に装着される管理用部材の表面にカードセンサを貼付する工程と、
    前記カードセンサが貼付された管理用部材に対し、前記鋼構造物に用いられる防錆塗料と同一の防錆塗料を用いて、前記カードセンサが被覆されるように防錆塗膜を形成する工程と、
    前記カードセンサが貼付され、前記防錆塗膜が形成された管理用部材を、前記鋼構造物に取り付ける工程と、
    前記カードセンサが出力する信号に基づいて、前記管理用部材の防錆塗膜の劣化状況を検出し、前記鋼構造物に塗布された防錆塗膜の劣化状況を推定する工程と、を含むことを特徴とする劣化推定方法。
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