上記のように樹脂成形品の表面を加工した場合でも、木目柄が形成されていない部分の表面は、樹脂成形によって加工されたままの平坦面となっている。かかる平坦面がいかにも樹脂成形によって形成された素材であるかのような印象を与えてしまうため、天然木の外観に近づけるための改良が求められていた。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、天然木と同等の外観を有する樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明の樹脂成形品は、エンボス加工されたエンボス部と、エンボス加工されていない非エンボス部とが交互に表面に形成され、前記非エンボス部に粗し加工による筋模様が形成され、前記非エンボス部の算術平均粗さRaが2μm以上30μm以下に設定されている(請求項1)。
本発明の樹脂成形品は、その表面に交互に形成されたエンボス部と非エンボス部とによって外観が天然木の木目柄のように見える。また、非エンボス部においては粗し加工による筋模様が形成されているので、非エンボス部においても樹脂成形特有のプラスチック調の平坦面がなくなって木質感を醸し出すことができる。しかも、上記筋模様が形成された部分の算術平均粗さRaを上記範囲とすることで、樹脂成形品の表面に形成された筋模様が天然木の筋のように見える。これらのエンボス部と非エンボス部の筋模様とが相俟って天然木のような外観の樹脂成形品を得ることができる。
上記構成において、好ましくは、エンボス部及び非エンボス部にコーティング材が塗布されている(請求項2)。
上記構成によれば、粗し加工を施した樹脂成形品の表面にコーティング材を塗布することにより、粗し加工によって樹脂成形品の表面に生じた毛羽立ちを抑えることができ、樹脂成形品の表面を肌触りが良く滑らかに仕上げることができる。このように表面にコーティング材が塗布されることで、樹脂成形品の表面に手垢などがついて汚れることを防ぐこともできる。
上記コーティング材は、顔料を含まない透明塗料である(請求項3)。
上記構成によれば、筋模様の表面上に塗布された透明塗料が筋模様に入り込んで独特の木質感を得ることができる。また透明塗料によって粗し加工によって生じた毛羽立ちを抑えることができるので、表面の手触りをよくすることができる。このようにして表面を加飾した樹脂成形品は、人の手が振れやすい内装用途に好適に用いられる。
上記コーティング材は、天然木の色味を作り出すための顔料又は漆の色調を作り出すための顔料を含む(請求項4)。
上記構成によれば、筋模様と天然木の模様とが相俟ってまるで天然木のような木質感を出すことができるし、天然木に漆塗りしたかのような漆器の高級感を出すことができる。
上記構成において、好ましくは、エンボス部には前記非エンボス部に形成された筋模様よりも粗い凹凸が形成されている(請求項5)。
上記構成のように、非エンボス部に形成された筋模様よりも粗い凹凸をエンボス部に形成することにより、エンボス部が天然木を上下方向に切断した断面に現れる年輪模様のように見えるので、樹脂成形品を天然木の質感により近づけることができる。
本発明の樹脂成形品は、木材を模したもので、エンボス加工されたエンボス部と、エンボス加工されていない非エンボス部とが交互に表面に形成され、前記エンボス部及び前記非エンボス部に、漆の色調を作り出すための顔料を含むコーティング材が塗布されたものである(請求項6)。
上記構成によれば、樹脂成形品の表面にエンボス部と非エンボス部とを交互に形成することによって外観が天然木の木目柄のように見える。しかも、エンボス部及び非エンボス部に対して漆の色調を作り出すための顔料を含むコーティング材を塗布することにより、非エンボス部においても樹脂成形特有のプラスチック調の表面を隠すことができ、天然木を漆塗りしたような高級感を出すことができる。
上記構成において、好ましくは、前記エンボス部には、複数の凹部と、各凹部を両側から挟むように各凹部に隣接する凸部とが形成されている(請求項7)。
上記構成のように、複数の凹部を両側から挟むように各凹部に隣接して凸部が設けられていることで、天然木の質感と同様の質感を再現することができるので、樹脂成形品の手触り感を天然木の質感により近づけることができる。また樹脂成形品の表面よりも上側に盛り上がった凸部が形成されていることで、樹脂成形品の防滑性を向上させることができる。しかも、凹部を挟んで凹部の両側に凸部が設けられていることで、例えば樹脂成形品の表面に多量の水が付着したとしても、この付着した水が凸部から凹部へと流れ込んで凹部に水が集中し、凹部を通じて外部に排水され易くなる。これにより、樹脂成形品の上面が乾燥しやすくなり、屋外に設置するのに適した水はけ性のよい樹脂成形品を得ることができる。
上記構成において、好ましくは、前記凹部の深さは、50μm以上1000μm以下であり、前記凸部の高さは、40μm以上800μm以下であり、かつ前記凹部の深さ未満である(請求項8)。
上記エンボス部における凹部の深さが上記数値範囲内であることにより、エンボス部が天然木を上下方向に切断した断面に現れる年輪模様のように見えるので、樹脂成形品を天然木の質感により近づけることができる。またエンボス部における凸部の高さが凹部の深さ未満であることにより、各凸部によって凹部の深さがほどよく強調されて天然木の質感を高めることができる。しかも、上記凸部の高さが上記数値範囲内であることにより樹脂成形品の防滑性を高めることができるので、屋外のデッキフロアの上面に適用可能な樹脂成形品とすることができる。
上記構成において、好ましくは前記非エンボス部に粗し加工による筋模様が形成され、前記非エンボス部の算術平均粗さRaが2μm以上30μm以下に設定されている(請求項9)。
上記構成によれば、非エンボス部においては粗し加工による筋模様が形成されているので、非エンボス部においても樹脂成形特有のプラスチック調の平坦面がなくなって木質感を醸し出すことができる。しかも、上記筋模様が形成された部分の算術平均粗さRaを上記範囲とすることで、樹脂成形品の表面に形成された筋模様が天然木の筋のように見える。これらのエンボス部と非エンボス部の筋模様とが相俟って天然木のような外観の樹脂成形品を得ることができる。
上記構成において、好ましくは、前記樹脂成形品は、ベース部材と、当該ベース部材の表面に形成された表層とを有し、前記ベース部材及び前記表層はそれぞれ、合成樹脂に木粉を配合した木粉配合樹脂によって構成されており、前記ベース部材は、前記表層よりも木粉の含有量が多くなっている(請求項10)。
上記構成のようにベース部材中の木粉の含有量を表層よりも多くすることにより、ベース部材に含まれる合成樹脂の含有量が相対的に少なくなるので、ベース部材を変形しにくくすることができる。一方、表層に含まれる合成樹脂の含有量は、ベース部材と比べて相対的に多くなっているので表層を変形しやすくすることができる。このように変形しにくいベース部材の表面に、変形しやすい表層が形成されることで、樹脂成形品に対してエンボス加工を施す時にエンボスロールによる押圧で樹脂成形品全体が変形することなく、表層にエンボス部(凹凸)を形成することができる。
上記構成において、好ましくは、前記コーティング材の塗布量が200g/m2以下に設定されている(請求項11)。
上記塗布量でコーティング剤を塗布することにより、塗布後にも非エンボス部に形成された筋模様が消えることなく、筋模様に丁度よい具合に塗膜を載せることができ、樹脂成形品の木質感を高めることができる。
上記構成において、前記樹脂成形品の表面に占める前記エンボス部の面積率は20%以上80%以下である(請求項12)。
上記構成によれば、樹脂成形品の表面に占めるエンボス部の面積割合を天然木に占める木目模様のそれとほぼ同等とすることができる。
本発明の樹脂成形品の製造方法は、樹脂成形品の表面に粗し加工による筋模様を形成する工程と、樹脂成形品の表面を部分的にエンボス加工することにより、前記樹脂成形品の表面にエンボス加工されたエンボス部と、エンボス加工されていない非エンボス部とを交互に形成する工程と、を含み、前記非エンボス部の算術平均粗さRaが2μm以上30μm以下である(請求項13)。
本発明の製造方法によれば、エンボス部と非エンボス部とが交互に形成されることによって外観が天然木の木目柄のように見える樹脂成形品を得ることができる。また、非エンボス部においては粗し加工による筋模様が形成されているので、樹脂成形特有のプラスチック調の平坦面を消して木質感を出すことができる。しかも、上記筋模様が形成された部分の算術平均粗さRaを上記範囲とすることで、樹脂成形品の表面に形成された筋模様が天然木の筋のように見える。これらの非エンボス部の筋模様とエンボス部の木目柄とが相俟って天然木のような質感を有する樹脂成形品を作製することができる。
上記構成において、好ましくは、前記非エンボス部及び前記エンボス部にコーティング材を塗布する工程をさらに含む(請求項14)。
上記構成によれば、コーティング材を塗布することで、粗し加工によって樹脂成形品の表面に生じた毛羽立ちを抑えることができる。これにより樹脂成形品の表面を肌触りが良く滑らかに仕上げることができる。またコーティング材を塗布することによって樹脂成形品の表面が手垢等で汚れることを防ぐこともできる。
上記構成において、好ましくは、前記樹脂成形品に対し、前記エンボス加工と、前記粗し加工とをこの順に行う(請求項15)。
上記構成によれば、エンボス加工によってエンボス部に凹凸を形成した後に、粗し加工によって筋模様を形成することにより、粗し加工によって形成した筋模様がエンボス加工によって潰されてしまうことを防ぐことができる。
上記構成において、好ましくは、前記樹脂成形品に対し、前記粗し加工と、前記エンボス加工とをこの順に行う(請求項16)。
上記構成によれば、粗し加工を行った後にエンボス加工によってエンボス部を形成することにより、エンボス加工を施していない部分(非エンボス部)に筋模様を形成することができる。
本発明の樹脂成形品の製造方法は、樹脂成形品の表面を部分的にエンボス加工することにより、前記樹脂成形品の表面にエンボス加工されたエンボス部と、エンボス加工されていない非エンボス部とを交互に形成する工程と、前記非エンボス部及び前記エンボス部に漆の色調を作り出すための顔料を含むコーティング材を塗布する工程とを含む(請求項17)。
上記構成によれば、エンボス部と非エンボス部とが交互に形成されることによって外観が天然木のように見える樹脂成形品を得ることができる。しかも、エンボス部及び非エンボス部に対して漆の色調を作り出すための顔料を含むコーティング材が塗布されることにより、非エンボス部における樹脂成形特有のプラスチック調の表面を隠すことができ、天然木に漆塗りしたような高級感を出すことができる。このようにして漆器の代用品として使用可能な樹脂成形品を作製することができる。
上記構成において、好ましくは前記エンボス部には、複数の凹部と、各凹部を両側から挟むように各凹部に隣接する凸部とが形成される(請求項18)。
上記構成によれば、各凹部を両側から挟むように凸部が設けられるので、凸部によって凹部の深さが際立たせることができ、樹脂成形品の外観を天然木の質感により近づけることができる。また樹脂成形品の表面よりも上側に盛り上がった凸部が形成されることで、樹脂成形品の防滑性を向上させることができる。しかも、凹部を挟んで両側に凸部が設けられていることで、例えば樹脂成形品の表面に多量の水が付着したとしても、この付着した水が凸部から凹部へと流れ込んで凹部に水が集中し、凹部を通じて外部に排水され易くなる。これにより、樹脂成形品の表面に凹凸が形成されていない場合に比べて樹脂成形品の上面が乾燥しやすくなり、屋外に設置するのに適した水はけ性のよい樹脂成形品を得ることができる。
上記構成において、好ましくは、前記凹部の深さは、50μm以上1000μm以下であり、前記凸部の高さは、40μm以上800μm以下であり、かつ前記凹部の深さ未満である(請求項19)。
上記構成を満たすエンボス部を形成することにより、エンボス部が天然木を上下方向に切断した断面に現れる年輪模様のように見えるので、樹脂成形品を天然木の質感により近づけることができる。またエンボス部における凸部の高さが凹部の深さ未満であることにより、凸部によって凹部の深さがほどよく強調されるので天然木の質感を醸し出すことができる。しかも、上記凸部の高さとすることにより樹脂成形品の防滑性を高めることができるので、屋外のデッキフロアの上面に適用可能な樹脂成形品を得ることができる。
本発明によれば、天然木と同等の外観を有する樹脂成形品及びその製造方法を提供することができる。
以下図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した例であって本発明の技術的範囲を限定するものではない。
<実施形態1>
図1は、本実施形態の樹脂成形品の斜視図である。本実施形態の樹脂成形品1は、テラス、遊歩道(ボードウォーク)、化粧ばり用の板、壁材、フローリング材、天然木化粧板、家具材料、建築材料、自動車の内装部品等に使用されるものであり、図1に示すように、長手方向に貫通する複数の空洞を内部に有する中空状の部材である。本実施形態の樹脂成形品1は、図1に示すように、長手方向に延びる直方体形状を呈し、その表面にエンボス加工されたエンボス部3と、エンボス加工されていない非エンボス部4とを交互に有している。非エンボス部4には、粗し加工による筋模様4aが形成されており、この非エンボス部4の算術平均粗さRaは2μm以上30μm以下とされている。
エンボス部3は、図1に示すように、天然木を上下に切断した時の切断面に表れる年輪模様となっており、かかるエンボス部3には、非エンボス部4に形成された筋模様4aよりも粗い凹凸が形成されている。図2は、図1の樹脂成形品を上下に切断した切断面のうちのエンボス部3を拡大した断面図であり、図3は、図2のエンボス部3の凹凸を拡大した断面図である。このエンボス部3には、複数の凹部3aと、各凹部3aを両側から挟むように各凹部3aに隣接する凸部3bとがそれぞれ形成されている。この凹部3aは、筋模様4aの長手方向と略同一方向に延びる溝のように樹脂成形品1の表面に形成されており、この凹部3aに沿って凹部3aの両側に盛り上げた凸部3bが形成されている。この凸部3bは、エンボスロールにより凹部3aの内側に存在していた材料が凹部3aの両側に押しのけられて形成される。このため、凸部3bの高さyは凹部3aの深さ未満である。
上記凹部3aの深さは50μm以上1000μm以下である。かかる凹部3aの深さxは、図3に示すように樹脂成形品の表面3cから凹部3aの最も深い位置までの長さを意味する。凹部3aの深さxは100μm以上1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは150μm以上500μm以下である。ここでのエンボス部3に形成される凹部3aのうちの全ての凹部3aが上述の数値範囲を満たす必要はなく、部分的に上記数値範囲を外れる深さの凹部3aが形成されていてもよい。
上記凸部3bの高さyは40μm以上800μm以下である。ここで、凸部3bの高さyは、樹脂成形品1の表面3cから凸部3bの最も高い位置までの長さを意味する。凸部3bの高さyは80μm以上800μm以下であることが好ましく、より好ましくは120μm以上400μm以下である。なお、エンボス部3に形成される凸部3bのうちの全ての凸部3bの高さyが上述の数値範囲を満たす必要はなく、部分的に上記数値範囲を外れる高さの凸部3bが形成されていてもよい。このようなエンボス部3において、凸部3bの最も高い位置から凹部3aの最も深い位置までの長さ(x+y)は、100μm以上1500μm以下であることが好ましく、200μm以上1000μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは300μm以上600μm以下である。
樹脂成形品1は、図1に示すように、ベース部材1aとベース部材1aの長手方向の両端面を除く全表面(つまり上下左右の4面)を覆う表層1bとを一体に有する2層構造とされている。ベース部材1a及び表層1bはいずれも、合成樹脂に木粉を配合した木粉配合樹脂により構成されている。例えば、表層1bとして、ASA樹脂に木粉を配合したものを好適に使用可能であり、ベース部材1aとして、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂又はABS樹脂のいずれか一方若しくは両方に木粉を配合したものを好適に使用可能である。
木粉と合成樹脂との配合比率は特に限定されないが、木粉の配合比率を高めるほど剛性を高めることができる一方で、木粉の配合比率を高めるほど合成樹脂の配合比率が低下するため成形性が低下する。このため、ベース部材1aは、表層1bよりも木粉の含有量が多いことが好ましい。これにより表層1bの成形性を高くすることができ、かつベース部材1aの剛性を高くすることができる。よって、表層1bに対してエンボス加工を通じて凹凸を容易に形成することができるし、エンボス加工時に樹脂成形品1の表面1cに対してエンボスロールの凸部を押し付けてもベース部材1aが存在することで樹脂成形品が全体として変形しにくい。ベース部材1a中の木粉の含有量は、表層1b中の木粉の含有量よりも10%以上高いことが好ましく、より好ましくは15%以上高いことである。例えば表層1bにおける木粉の配合比率を10%、ベース部材1aにおける木粉の配合比率を30%とするとよい。
ここで挙げた合成樹脂の種類は好ましい例示に過ぎず、これ以外の各種合成樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA樹脂、ポリスチレンなどを使用することができる。木粉についても、木材を細かくしたものであれば特に種類を問わず使用可能である。なお、ベース部材1a及び表層1bには、木粉が必須成分として含まれていなくてもよいし、木粉以外に木質感を演出するための着色顔料を配合してもよいし、発泡剤や紫外線吸収剤、難燃剤、もしくは帯電防止剤等の種々の添加剤を配合してもよい。
以上のような構造の樹脂成形品1は、例えば共押出成形することによって製造することができる。すなわち、ベース部材1aの原料と表層1bの原料とを溶融したものを別々の押出ヘッドから1つの金型内に押出すことにより、ベース部材1aと表層1bとを一体に有する二層構造の樹脂成形品1を製造することができる。このときの押出方向は、樹脂成形品1の長手方向に一致する。また、押出成形後の表層1bの厚み(粗し加工前の厚み)は、0.5〜5mmに設定される。
上記のような押出成形の後、表層1bの全面に対して粗し加工を施すことにより、表層1bの表面全体(上下面及び側面)に筋模様4aを形成する。本明細書でいう筋模様4aとは、特定の方向に沿った粗し加工に伴って生じる微細な多数の筋状の凹凸により現れる模様である。このような筋模様4aが形成された樹脂成形品1の表面は、その算術平均粗さRaが2μm以上30μm以下の粗面となる。この粗し加工は、例えば、高速で巻回駆動される無端状のサンディングベルト(研磨シート)を備えたベルトサンダーを用いて、表層1bの上下左右の面に対して行なう。このとき、ベルトサンダーは、サンディングベルトが表層1bに対し長手方向と平行に摺接するような姿勢で使用される。
なお、上記粗し加工に用いられる工具はベルトサンダーに限られない。例えば、バフ研磨機やディスクグラインダー等を用いて粗し加工を行ってもよい。特に、樹脂成形品1の幅方向の両端面は、上面に比べて面積が小さいため、回転工具の先端に金属ブラシを取り付けたものを用いて両端面を粗し加工したり、サンドペーパを用いて手作業で両端面を粗し加工してもよい。サンドペーパを用いる場合はサンドペーパの番手を♯40〜♯80とすることが好ましい。
次に、上記粗し加工の後に、図4に示すエンボス加工装置10を用いて樹脂成形品1の表層1bに対して部分的にエンボス加工を施すことにより、図1に示すように樹脂成形品1の表面にエンボス部3と非エンボス部4とを交互に形成する。このようなエンボス加工は、図4に示すエンボス加工装置10を用いて行われる。
具体的には、まず、図4に示すエンボス加工装置10における2つのエンボスロール11を、樹脂成形品1の厚みよりもやや離して上下に各1つ配置する。これらの各エンボスロール11はいずれも、円柱形状のエンボスロール本体部11aと、エンボスロール本体部11aの外周面よりも外側に盛り上がったエンボス加工部11bと、エンボスロール本体部11aを回転可能に軸支する軸支部11cとを備えている。エンボス加工部11bは、図4に示すように、エンボスロール本体部11aの外周面に複数本の筋状の模様が離間して木目柄に見えるように設けられており、このエンボス加工部11bには、天然木を上下に切断した時の切断面に見える年輪模様を演出するために、粗し加工による筋模様4aよりも粗い凹凸が形成されている。かかるエンボス加工部11bの面積は、エンボスロール本体部11aの外周面のうちの20%〜80%の領域を占めている。またエンボスロール本体部11aの表面に対して、エンボス加工部11bに形成される凹凸の凸部の高さは100μm以上2mm以下であることが好ましく、より好ましくは150μm以上1.5mm以下であり、さらに好ましくは200μm以上1mm以下である。ここで、上記凸部の高さとは、エンボスロール本体部11aの表面から凸部の上端までの長さを意味している。
そして、各エンボスロール11を表層1bを構成する樹脂の熱変形温度以上に加熱する。ここでの熱変形温度は90℃〜200℃が好ましい。この加熱した上下のエンボスロール11のエンボス加工部11bを樹脂成形品1の上下面にそれぞれ押し付けながら、上下のエンボスロール11間に樹脂成形品1を通過させる。このようにして樹脂成形品1の表面のうちのエンボス加工部11bが押し付けられた部分に木目状のエンボス部3が形成される。このエンボス部3には、上記粗し加工による筋模様に代えてエンボス加工部11bに形成された凹凸が転写される。具体的には、加熱したエンボス加工部11bが樹脂成形品1の表面から内側に入り込むことで樹脂成形品1の表面に凹部3aが形成されるとともに、当該凹部3aの内側に存在していた材料が凹部3aの両側に押しのけられることで上記凹部3aの両側に沿って凸部3bが形成される。一方、エンボス部3以外の樹脂成形品1の表面の部分が非エンボス部4となる。上記エンボス加工時には、エンボスロール本体部11aの外周面が樹脂成形品1の表面に接しないように樹脂成形品1を上下のエンボスロール11間に通過させることで、非エンボス部4に粗し加工による筋模様が残るようにしている。
上記エンボス加工においては、樹脂成形品1の表層1bの表面全体のうちの20%以上80%以下の面積に対してエンボス部3が形成されるようにエンボス加工が施されることが好ましく、より好ましくは25%以上75%以下であり、さらに好ましくは30%以上70%以下である。このような面積率で樹脂成形品1の表面にエンボス部3を形成することによりエンボス部3全体が天然木を上下に切断したときの切断面に現れる年輪模様のように見え、樹脂成形品1を天然木の外観に近づけることができる。以上のようにして本実施形態の樹脂成形品1を作製することができる。
上記のようにして作製された樹脂成形品1に対し、各種のコーティング材を塗布してもよい。コーティング材としては、顔料を含まない透明塗料、天然木の模様を作り出すための顔料を含む木目塗料、又は漆の色調を作り出すための顔料を含む漆様塗料を挙げることができる。上記コーティング材は、アクリルシリコン系樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、樹脂成形品1の表面に滑り性が必要とされる用途ではアクリル系樹脂を含むことが好ましい。
上記透明塗料及び木目塗料の塗布は、図5に示すようにエンボス加工装置10の後に設けられたロールコーター20により行うことが好ましい。このロールコーター20は、図5において、樹脂成形品1が左側から右側に搬送される過程の中で、樹脂成形品1の表層1bの表面にコーティング材が塗布されるものであり、樹脂成形品1を上下に所定の圧力で挟み込む加飾ロール21を上下に各1つ有している。
上下の加飾ロール21は、図略の軸支部によって回転可能に軸支されており、これらの加飾ロール21間に樹脂成形品1が左側から差し込まれて右側に引き抜かれると、樹脂成形品1の上方及び下方がそれぞれ上側及び下側の加飾ロール21にそれぞれ押圧されながらそれらの間を通過する。加飾ロール21の表面にはコーティング材が付着しているので、加飾ロール21が樹脂成形品1の表面上を転がることで、加飾ロール21に付着したコーティング材が樹脂成形品1の上面及び下面に転写されて、樹脂成形品1の上面及び下面にコーティング材が形成される。なお、コーティング材が揮発性の溶媒を含む場合には、コーティング材を塗布した後にコーティング材を乾燥させることによって塗膜が形成される。これらのコーティング材は、ロールコーター20によって塗布する塗布方式のみに限られず、例えば作業者がハケを用いて塗布してもよいし、スプレー塗装によって塗布してもよい。コーティング材として漆様塗料を用いる場合、作業者がハケ塗りで2回以上重ね塗りすることが好ましい。このように塗布することによって樹脂成形品1に漆器の質感を出すことができる。
上記コーティング材の塗布量は200g/m2以下に設定されることが好ましく、より好ましくは0.1g/m2以上100g/m2以下であり、さらに好ましくは0.2g/m2以上50g/m2以下、特に好ましくは0.3g/m2以上10g/m2以下である。ここでの塗布量は、コーティング材に含まれる固形分の重量を意味し、粘度を調整するためにコーティング材を溶媒で希釈する場合にはその溶媒の重量を除く固形分の重量を意味する。上記コーティング材の塗布量は、樹脂成形品1に塗膜を形成する前後の重量変化に基づいて算出される。このような塗布量で塗膜を形成することにより、樹脂成形品1の表面に形成された筋模様4a(凹凸)が塗膜によって完全に覆い隠されることなく塗膜上からも筋模様4aが見え、この筋模様4aが天然木を長手方向に切断した時に見える筋と同様に見える。
しかも、塗膜を形成することにより上記粗し加工によって生じた毛羽立ちを抑えることができるので、表面の手触りがよくて滑らかな質感の樹脂成形品1を得ることができる。さらに、上記塗布量で塗膜を形成することによりコーティング材が筋模様4aの上にほどよく載って独特の木質感の樹脂成形品とすることができる。
上記塗布量に関し、漆様塗料を塗布する場合、透明塗料及び木目塗料を塗布する場合よりも塗布量が高めに設定される。すなわち、上記漆様塗料の塗布量は200g/m2以下に設定されることが好ましく、より好ましくは50g/m2以上200g/m2以下であり、さらに好ましくは80g/m2以上195g/m2以下、特に好ましくは100g/m2以上190g/m2以下である。
上記コーティング材が塗布された後の樹脂成形品1の表面の算術平均粗さRaは2μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下である。このように表面に適度な凹凸を残す厚みでコーティング材を塗布することによりプラスチック調の平坦面のテカりが抑えられ、樹脂成形品の表面に独特の木質感を付与することができる。
また、塗膜を形成する前の樹脂成形品1の表面の算術平均粗さRaと、塗膜を形成した後の樹脂成形品1の表面の算術平均粗さRaとの差が10μm以下であることが好ましく、この差は8μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5μm以下である。通常、凹凸を有する面にコーティング材を塗布すると、コーティング材が凹凸の凹部に流れて凹凸が滑らかになるが、上記条件は、樹脂成形品1の表面に形成された凹凸の凹部にコーティング材が流れ込みすぎないようにすべきことを定めたものである。
上記コーティング材が樹脂成形品1の表面の凹部に流れ込みすぎないようにするための条件としては、コーティング材の粘度及び温度の好適数値範囲を設定すべきとも考えられるが、コーティング材に配合される各種成分によってその好適粘度や好適温度が異なるためその好適数値範囲を一律に設定することが困難であった。そこで、本発明者らは種々検討した結果、上記塗膜を塗布する前後の算術平均粗さの変化こそが、独特の木質感を再現し得るパラメータとなり得ると考え、その好適数値範囲について検討を重ねることにより、上述の算術平均粗さの変化の上限を見出した。つまり、上記算術平均粗さRaの差を満たすように温度及び粘度等の各種パラメータを調整したコーティング材を樹脂成形品1の表面に塗布することにより、コーティング材が樹脂成形品1の表面の凹凸に追随するように塗膜を形成することができ、天然木の表面によって独特の木質感を再現することが可能となる。逆に、コーティング材を塗布した後の算術平均粗さが上記数値範囲を満たさない場合には、コーティング材が筋模様の筋部分(凹部)に流れて粗し加工で形成した樹脂成形品1の表面の凹凸が埋まって平滑面となって独特の木質感が損なわれる。
また上記樹脂成形品の外観をより天然木に近づけるという観点からは、樹脂成形品1の表面における最大高さRyを所定の範囲内とすることが好ましい。ここで、最大高さRyは、樹脂成形品の表面における所定区間の粗さ曲線の最大値と最小値の差であり、この値が大きい場合には、表面粗さの測定領域において局所的に盛り上がっている凸部又は局所的に深く入り込んだ凹部が形成されていることを意味する。例えば算術平均粗さRaが低いにもかかわらず、最大高さRyが大きい場合には、表面粗さの測定領域において局所的に盛り上がっている凸部又は局所的に深く入り込んだ凹部が形成されているので、それらの部位(つまり局所的凹凸部)によって天然木の質感が著しく損なわれることがある。このような観点からコーティング材が塗布された後の樹脂成形品1の表面は、上記算術平均粗さRaを満たすことに加え、さらに最大高さRyが30μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは60μm以上95μm以下であり、さらに好ましくは80μm以上92μm以下である。このような最大高さRyの範囲とすることにより表面に過剰に大きな突起や溝ができることが抑制され、天然木に似た外観とすることができ、かつ天然木同等の適度な深さの筋模様が形成されて手触り感が良好なものとなる。
また、塗膜を形成する前の樹脂成形品1の表面の最大高さRyと、塗膜を形成した後の樹脂成形品1の表面の最大高さRyとの差が1μm以上50μm以下であることが好ましい。ここでの塗膜の形成前後で最大高さRyの差は、塗膜によって樹脂成形品1の表面の凹凸が均されている度合いを示し、当該最大高さRyの差が大きいほど塗膜によって樹脂成形品1の表面の凹凸が滑らかになっていることを意味する。上記塗膜形成前後の最大高さRyの差が3μm以上40μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは8μm以上35μm以下である。上述のような差の範囲となるように塗膜を形成することにより、塗膜を形成した後においても樹脂成形品1の表面における最高高さと最低高さとが維持されて天然木のような木質感を残すことができる。
上記天然木の外観をさらに演出するために、樹脂成形品1の表面における十点平均粗さRzの値を調整することが好ましい。ここでの十点平均粗さRzは、所定区間における樹脂成形品の表面の凹凸のうちの上位5つの凸部の高さの平均値と、上位5つの凹部の深さの平均値との和によって算出される値であり、十点平均粗さRzが小さいほど突出した凸部又は凹部が存在しなくなることを意味する。突出した凹部又は凸部の存在は、樹脂成形品1の手触り感を損ねるだけでなく、塗膜の均一性をも損なう要因となり得るので、外観を損ねる要因となり得る。このような観点から塗膜を塗布する前の樹脂成形品1の表面の十点平均粗さRzは30μm以上80μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以上70μm以下であり、さらに好ましくは45μm以上65μm以下である。十点平均粗さRzの値が小さすぎると表面が滑らか過ぎて木質感を得られなくなり得る。
また塗膜を形成する前の樹脂成形品1の表面の十点平均粗さRzと、塗膜を形成した後の樹脂成形品1の表面の十点平均粗さRzとの差が1μm以上40μm以下であることが好ましく、より好ましくはその差が3μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは4μm以上22μm以下である。
本実施形態は、算術平均粗さRaの好適数値範囲のみならず、最大高さRyや十点平均粗さRzの好適数値範囲にも着目し、それら全条件を満たす凹凸を表面に形成することで、樹脂成形品1の表面に滑らか過ぎない適度な筋模様4aを形成することができる。これらの表面粗さの全条件を満たす筋模様こそが天然木のそれに限りなく近いと考えられ、このような筋模様の上にコーティング材を塗布することで、コーティング材によって筋模様4aが消えてしまうことなく筋模様が適度に樹脂成形品1の表面に残り、天然木の質感を得ることができる。
本実施形態の樹脂成形品1は、エンボス部3には、複数の凹部3aと、各凹部3aを両側から挟むように各凹部3aに隣接する凸部3bとが形成されている(請求項7)。
上記構成のように、複数の凹部3aそれぞれに隣接して凸部3bが設けられていることで、樹脂成形品1の手触り感を天然木の質感により近づけることができる。また樹脂成形品1の表面よりも上側に盛り上がった凸部3bが形成されていることで、樹脂成形品1の防滑性を向上させることができる。しかも、凹部3aを挟んで両側に凸部3bが設けられることで、例えば樹脂成形品1の表面に多量の水が付着したとしても、この付着した水が凸部3bから凹部3aへと流れ込んで凹部3aに水が集中し、凹部3aを通じて外部に排水され易くなる。これにより、樹脂成形品1の上面が乾燥しやすくなり、屋外に設置するのに適した水はけ性のよい樹脂成形品1を得ることができる。
本実施形態の樹脂成形品1は、ベース部材1aと、当該ベース部材1aの表面に形成された表層1bとを有し、ベース部材1a及び表層1bはそれぞれ、合成樹脂に木粉を配合した木粉配合樹脂によって構成されており、ベース部材1aは、表層1bよりも木粉の含有量が多くなっているので、ベース部材1aを変形しにくくすることができ、かつ表層1bは変形しやすくすることができる。このように変形しにくいベース部材1aの表面に、変形しやすい表層1bが形成されることで、樹脂成形品1に対してエンボス加工を施す時にエンボスロールによる押圧で樹脂成形品全体が変形することなく、表層1bにエンボス部3(凹凸)を形成することができる。
<実施形態2>
本実施形態の樹脂成形品31は、図6に示すように実施形態1の粗し加工に代えて漆様塗料を塗布したことが異なる他は実施形態1と同様のものである。すなわち、本実施形態では、粗し加工を施すことなくエンボス加工を施した後に、漆様塗料を塗布することによって樹脂成形品31を作製している。
本実施形態の樹脂成形品31は、粗し加工が施されていないことにより非エンボス部4において筋模様4aが形成されていないため、樹脂成形特有のプラスチック感が表面に残っているが、かかる非エンボス部4に対して漆様塗料を重ね塗りすることによりプラスチック感を隠すことができる。これにより天然木に対して漆塗りしたかのような外観の樹脂成形品を得ることができる。漆様塗料の塗布量は、上記実施形態1で述べた量と同等することが好ましい。
<実施形態3>
本実施形態の樹脂成形品は、実施形態1に対して、粗し加工とエンボス加工の順序を変更したことが異なる他は実施形態1と同様の樹脂成形品である。すなわち、実施形態1では、粗し加工を行った後にエンボス加工を行うことによって樹脂成形品の表面に筋模様及びエンボス部を形成しているが、本実施形態のように、エンボス加工を行った後に粗し加工を行ってもよい。先に樹脂成形品にエンボス加工を施してから、粗し加工による筋模様を形成することにより、粗し加工による筋模様がエンボス加工によって潰されることを防ぐことができる。このようにエンボス加工を施してから粗し加工を施すことによっても上記実施形態1の樹脂成形品と同様のものを得ることができる。
本実施形態のようにエンボス部を形成した後に粗し加工を行う場合、粗し加工によってエンボス部に形成された凹凸が目立たなくなることを避ける観点からエンボス部に形成される凹部の深さは100μm以上であることが好ましい。このような深さの凹部は、粗し加工による筋模様よりも一回り大きいので、粗し加工によってエンボス部の凹部が消えずに目立って見えるものとなる。
次に、上記実施形態の樹脂成形品1による外観の改善効果を確認するために行った実験について説明する。以下の実施例1〜6及び比較例1〜3においては、粗し加工の有無並びにエンボス加工の有無及びエンボス部の面積率を変更して樹脂成形品1を作製した。
(実施例1)
実施例1として、図1に示したような二層構造の樹脂成形品1を、幅145mmで長さ1mのテストピースに加工したものを用意した。表層1bにおける木粉の配合比率を10%、ベース部材1aにおける木粉の配合比率を30%とした。そして、サンドペーパ♯40を用いて樹脂成形品1の側面及び上下面に対して粗し加工を施した。
次に、図4に示すエンボス加工装置を用いて、上記粗し加工後の樹脂成形品1の表面にエンボス加工を施すことにより実施例1の樹脂成形品1を作製した。エンボス加工は、図4に示すエンボス加工装置10の上下のエンボスロール11を110℃に加熱した上で、当該上下のエンボスロール11の間に樹脂成形品1を通すことにより行った。
ここでのエンボスロール11としては、エンボスロール本体部11aの外周面のうちの20%の領域にエンボス加工部11bが設けられたものを用いた。エンボス加工部11bには、エンボスロール本体部11aの外周面に対して複数の凸部が盛り上がった凹凸が形成されており、かかる凹凸における凸部は、エンボスロール本体部11aの外周面に対して200μm以上400μm以下の高さを有していた。
上記エンボス加工部11bに形成された凸部の上側部分のみを樹脂成形品の表面に押し付けるようにして、つまりエンボスロール本体部11aの外周面が樹脂成形品に接しないようにして樹脂成形品1の表面のうちの20%の面積に対してエンボス部3を形成した。このエンボス部3では、粗し加工による筋模様が消え、粗し加工による筋模様よりも凹凸の粗さが粗い凹凸が形成された。この粗い凹凸は、凹部と、当該凹部を両側から挟むように各凹部に隣接する凸部とを有していた。一方、樹脂成形品1の表面のうちのエンボス部3以外の領域(面積率80%の領域)が非エンボス部4となった。かかる非エンボス部4には、粗し加工による筋模様4aが残っていた。
このようにして実施例1の樹脂成形品1の表面にエンボス部3と非エンボス部4を形成し、当該非エンボス部4における表面粗さを株式会社東京精密製の「handysurf E−35A」という機種のモバイル型表面粗さ測定器を使用して測定した。測定条件としては、カットオフ値を2.5mm、評価長さを12.5mmとし、樹脂成形品1に形成された筋模様の長手方向に直交する方向に沿って測定器のピックアップを移動させるという操作を、樹脂成形品1の非エンボス部4における異なる5箇所で行うことで、その5箇所における非エンボス部4の算術平均粗さRa、最大高さRy及び十点平均粗さRzをそれぞれ測定した。これらの測定値のうちの最大値及び最小値を除く3つの測定値の平均を算出したところ、実施例1では、粗し加工後の非エンボス部4の算術平均粗さRaは16.5μmであり、最大高さRyは91.1μmであり、十点平均粗さRzは64.0μmであった。
次に、樹脂成形品1を長手方向に対して垂直な面で切断し、当該切断面における樹脂成形品1の表面近傍を顕微鏡にて拡大観察してその拡大画像を取得した。当該画像に基づいて樹脂成形品1のエンボス部に形成された凹部の深さと凸部の高さを算出した。この凹凸における凹部は、樹脂成形品1の表面に対して50μm以上250μm以下の深さであり、凸部は、樹脂成形品1の表面に対して40μm以上200μm以下の高さであった。また、この凹部の深さxの最大値は250μmであり、凸部の高さyの最大値は200μmであった。この結果を表1の「エンボス」の欄に示す。
(実施例2)
図5に示すロールコーター20を用いて、実施例1で作製した樹脂成形品の表面にアクリル樹脂系の透明塗料を塗布することによって実施例2の樹脂成形品を作製した。ここでの透明塗料の塗布は、ロールコーター20の上下の加飾ロール21の間に樹脂成形品を通すことにより行った。このようにして塗布した透明塗料中の溶媒を揮発させることにより樹脂成形品1の表面に透明塗膜を形成した。
また樹脂成形品1の表面に透明塗料を塗布する前後の重量変化を測定することにより樹脂成形品1に形成した透明塗膜の塗布量を算出し、それを樹脂成形品の外表面の面積で除することにより1m2当たりの透明塗膜の重量を算出した。透明塗膜の塗布量は表1の「膜厚」の欄に示すように20g/m2であった。
実施例2の樹脂成形品1の表面に対し、上記実施例1と同様の測定方法で非エンボス部の表面粗さを測定した。透明塗膜を形成した後の樹脂成形品1の算術平均粗さRaは15.4μmであり、最大高さRyは81.8μmであり、十点平均粗さRzは59.8μmであった。また、上記実施例1と同様の測定方法でエンボス部における凹部の深さxの最大値及び凸部の高さyの最大値をそれぞれ算出した。なお、以下の実施例3、4及び6においても同様に塗膜を形成した後の樹脂成形品の表面粗さ及び塗膜量並びに凹部の深さxの最大値及び凸部の高さyの最大値を測定した。それらの結果は表1の各欄に示している。
(実施例3)
図5に示すロールコーターを用いて、実施例1で作製した樹脂成形品の表面にアクリルシリコン樹脂系の木質塗料を塗布することによって実施例3の樹脂成形品を作製した。ここでの木質塗料の塗布は、上記実施例2の透明塗料の塗布と同様にして行った。上記木質塗料は、天然木の模様を作り出すための顔料を含むものを用い、当該木質塗料をロールコーター20によって樹脂成形品1の表面が木目調となるように塗布し、木質塗料中の溶媒を揮発させることにより樹脂成形品1の表面に木目調の塗膜を形成した。
(実施例4)
実施例1で作製した樹脂成形品の表面にウレタン樹脂系の漆様塗料を塗布することによって樹脂成形品を作製した。ここでの漆様塗料は、漆の色調を作り出すための顔料を含むものを用い、当該漆様塗料を樹脂成形品の表面にハケを用いて3回重ね塗りすることで、漆塗りの質感を醸し出す表面とした。
(実施例5)
実施例5では、実施例1に対し、エンボスロール本体部11aの外周面のうちの80%の領域にエンボス加工部11bが設けられたエンボスロール11を用いてエンボス加工したことが異なる他は実施例1と同様にして実施例5の樹脂成形品を作製した。
(実施例6)
実施例6では、実施例4の樹脂成形品を作製する工程のうちの粗し加工を省略したことが異なる他は実施例4と同様にして樹脂成形品を作製した。
(比較例1)
実施例1に対し、粗し加工を行った後にエンボス加工を施さなかったことが異なる他は実施例1と同様にして比較例1の樹脂成形品を作製した。つまり、比較例1は、表面に粗し加工を施したのみの樹脂成形品1である。
(比較例2)
実施例1に対し、粗し加工を施さずにエンボス加工のみを施したことが異なる他は実施例1と同様にして比較例2の樹脂成形品を作製した。つまり、比較例2は、表面にエンボス加工を施したのみの樹脂成形品1である。
(比較例3)
比較例3では、エンボスロール本体部11aの外周面全面にエンボス加工部11bが設けられたエンボスロール11を用いてエンボス加工を行ったことが異なる他は実施例1と同様にして比較例3の樹脂成形品を作製した。比較例3では、このようなエンボスロール11を用いることによって、表面全体にエンボス部3が形成された樹脂成形品が作製された。
(評価)
このようにして作製した各実施例及び各比較例の樹脂成形品の外観及び水捌け性を評価した。それらの結果を下記の表1の「外観」及び「水捌け性」の欄に示す。なお、水捌け性は、樹脂成形品を人が歩行あるいは腰掛けるデッキ材として用いる場合に、樹脂成形品の表面を早期に乾燥させたいというニーズを受けて評価したものであり、水捌け性が良好な樹脂成形品ほどデッキ材用途への使用に適していることを意味する。上記表1における「外観」に記載した「◎」「〇」「△」「×」は、樹脂成形品1の外観の評価結果である。外観の評価は、樹脂成形品の外観が天然木と同等である場合を「◎」、注視すると天然木ではないことがわかる場合を「○」、天然木と比べて見劣りする場合を「△」、天然木とは明らかに異なっていてプラスチック感が残る場合を「×」と評価した。また表1における「水捌け性」の欄に記載した「〇」「×」は、水捌け性の良し悪しを表している。当該水捌け性の評価は、樹脂成形品の上面に30分間にわたって散水し、散水完了後1時間が経過した時点での上面の乾き度合を観察することにより行った。そして、1時間経過後に上面からほとんど水がなくなった(乾いた)場合の水捌け性を「〇」(良)、多くの水が残った場合の水捌け性を「×」(不可)と評価した。
(考察)
上記表1の評価結果が得られた理由について考察する。まず、実施例1〜5と比較例1〜2とを対比すると、同じ材質及び構造を持った樹脂成形品を用いているにもかかわらず、粗し加工及びエンボス加工のいずれ一方が欠けるだけで外観が顕著に低下することがわかる。
例えば、粗し加工及びエンボス加工の両方を施した実施例1〜5の樹脂成形品の外観は「◎」又は「○」になっているのに対し、エンボス加工を施していない比較例1の樹脂成形品も、粗し加工を施していない比較例2の樹脂成形品もいずれも外観が「×」である。このことから、天然木と同等の外観を有する樹脂成形品を作製するためには、粗し加工及びエンボス加工の両方をこの順に実行することが必須であることがわかる。ただし、実施例6のように漆様塗料を塗布する場合には、例外的に粗し加工を施さなくても天然木と同等の外観を得ることができている。この理由は、おそらく漆様塗料が他のコーティング材に比べて厚膜に塗布されるので、当該漆様塗膜によって樹脂成形特有のプラスチック感のある平らな面が隠されることによるものと考えられる。
また比較例3の結果から、たとえ粗し加工及びエンボス加工の両方を実行したとしても樹脂成形品の表面全体に対してエンボス加工を施す場合には、外観において良好な評価結果が得られないことがわかった。この理由は、樹脂成形品1の全面に対してエンボス加工を施した場合には、粗し加工による筋模様4aがエンボス加工によって全て押し潰されてなくなってしまうことによるものと考えられる。このため、外観が良好な樹脂成形品を得るためには粗し加工による筋模様4aが僅かでも残るようにエンボス加工を施す必要があると言える。そして、実施例1及び5と比較例1及び3とを対比する限りでは、良好な外観を得るためには、エンボス加工を施す部分(すなわちエンボス部3)の面積を20%以上80%以下にすべきことが導き出される。
また粗し加工とエンボス加工の両方を行った実施例1〜5及び比較例3の樹脂成形品においては、水捌け性が「○」であったのに対し、粗し加工のみの比較例1やエンボス加工のみの実施例6及び比較例2の樹脂成形品では、水捌け性が「×」となっている。この理由は、粗し加工によって形成された筋模様によって樹脂成形品の表面に付着した水がその表面に馴染んで広がりやすくなったことと、エンボス加工によって形成された凹凸によって水が外側に排出されやすくなったこととが相俟って樹脂成形品の表面に水分が残りにくくなったことによるものと考えられる。このことから水捌け性が良好な樹脂成形品を得るためには、上記粗し加工とエンボス加工の両方が必須であることが明らかとなった。
(変形例)
上記実施形態では、ロールコーターによって樹脂成形品の表面に塗料を塗布する場合を説明したが、塗料の塗布方法は上記ロールコーターに限られず、ハケ塗り、グラビアコーター、スピンコーター、スプレー塗装等の各種のコーティング法を用いることができる。
上記各実施形態では、梯子状の中空断面を有する樹脂成形品1を例示したが、本発明の樹脂成形品1は種々の断面形状を有することが可能であり、例えば中実断面を有した樹脂成形品1であってもよい。
上記各実施形態では、ベース部材1aと表層1bとを有する二層構造の樹脂成形品1を例示したが、本発明の樹脂成形品1は二層構造に限られず、例えば単層構造であってもよい。
上記各実施形態では、長手方向に真っ直ぐ延びる樹脂成形品1を例示したが、本発明の樹脂成形品は直線状に延びるものに限られず、例えば曲線に沿って湾曲しつつ延びる形状であってもよい。また、樹脂成形品1の幅寸法は一定である必要はなく、場所によって異なる幅を有するものであってもよい。
上記実施形態では、エンボスロール11を加熱することによって樹脂成形品1の表面にエンボス部を形成したが、このようなエンボス部の形成方法に限られず、樹脂成形品1の表層1bを加熱して表層1bの表面を変形しやすい状態とした上で、当該表層1bに、木目柄が表面に施されたエンボスロールを押し付けながら、当該エンボスロールを転がすことによってエンボス部を形成してもよい。