以下に図面を用いて本実施の形態につき詳細に説明する。以下に述べる形状、材質、孔部の個数、磁極数等は、説明のための例示であって、ロータコア及びロータコアを用いる回転電機の仕様等により、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、車両に搭載される回転電機10の部分組立図である。回転電機10は、車両が力行するときは電動機として機能し、車両が制動時にあるときは発電機として機能するモータ・ジェネレータで、三相同期型回転電機である。回転電機10は、巻線コイルが巻回される円環状のステータ12と、ステータ12の内周側に所定の隙間を隔てて配置されるロータ14とを含む。斜視図である図1(a)では、ステータ12として、ステータコア16と、ステータコア16の外周側のヨーク部から内周側に延びる複数の窪みであるスロット18とが示され、ロータ14として、ロータコア20と永久磁石22と中心穴24とが示される。ステータコア16の各スロット18には、図示しないステータ巻線が挿通される。ロータコア20の中心穴24には、回転電機10の出力軸であるロータ軸が固定される。
ステータコア16とロータコア20は、それぞれ、所定枚数の磁性体薄板を積層した積層体である。ステータコア16の積層体に用いられる磁性体薄板15は、ロータコア20の外周に向かい合う内周孔と、内周孔に向かって開口する複数のスロット18とを含んで、磁性体の薄板シートを打ち抜き加工等で所定の形状に成形した円環状形状を有する。ロータコア20の積層体に用いられる磁性体薄板19は、ロータ軸を通す中心穴24、永久磁石22を挿入するための磁石挿入孔を含む複数の孔部を含んで、磁性体の薄板シートを打ち抜き加工等で所定の形状に成形された円環状形状を有する。ステータコア16のための磁性体薄板15と、ロータコア20のための磁性体薄板19とは、1枚の磁性体の薄板シート50からそれぞれ打ち抜いて得ることができる(図3、図9参照)。かかる磁性体の薄板シートとしては、電磁鋼板のシートを用いることができる。
ロータコア20を磁性体薄板19の積層体とするのは、ロータコア20に生じ得る渦電流を抑制するためで、所定の形状に成形される前の磁性体の薄板シートの両面には、絶縁コート等の絶縁処理が施される。これによって、積層された各磁性体薄板19の間が電気的に絶縁されて、外部変動磁界により発生し得る渦電流を小さなループが分割され、渦電流損失を抑制することができる。
ロータ14は8つの磁極Pを有する。磁極数8は説明のための例示であって、回転電機10の仕様等によって適宜変更される。図1(b)は、そのうちの1つの磁極についての拡大平面図である。ロータコア20の積層体に用いられる磁性体薄板19は、1つの磁極について、4つの孔部30,32,34,36を有する。この内の3つの孔部30,32,34は、永久磁石22が配置される磁石挿入孔で、他の1つの孔部36は、ロータ14を軽量化し、磁気抵抗の高い磁路を形成するための孔部で、以下では軽量化孔と呼ぶ。
磁石挿入孔となる3つの孔部30,32,34は、永久磁石22を収容するために、永久磁石22の形状に基づく略矩形形状を有する。孔部30,32,34は、平面図において、永久磁石22の短辺寸法よりやや大きめの孔幅を有し、長辺方向には永久磁石22の両端部からさらに延びた端部を有する。永久磁石22の長辺の両端部からさらに延びた端部は、ロータコア20において磁束の流れを規制するための形状に設定され、また、永久磁石22の固定のために充填される樹脂の注入口として用いられる。
磁石挿入孔となる3つの孔部30,32,34は、平面図上で略三角形に配置される。孔部30は、長辺方向が周方向に沿って延び、ロータコア20の外周側に設けられる。孔部32,34は、それぞれほぼ径方向に沿って延び、磁極において径方向に延びる中心線に対し対称形に所定の傾斜角度をなして略V字形に配置される。軽量化孔となる孔部36は、孔部32,34の内径側の端部に隣接して設けられる。孔部36の孔面積は、軽量化のために好ましい孔面積に設定することができる。図1では、孔部36はほぼ台形形状で、その孔面積は孔部32,34の孔面積とほぼ同じであるが、これは一例であり、他の形状、孔面積であっても構わない。
ロータ14の1つの磁極は、磁極を形成する永久磁石22として、3つの永久磁石22a,22b,22cを含む。永久磁石22a,22b,22cは、ロータコア20の軸方向に沿って貫通する孔部30,32,34にそれぞれ挿入される。1つの磁極では、3つの磁石挿入孔である孔部30,32,34が略三角形に配置されているので、これに対応して、3つの永久磁石22a,22b,22cも略三角形に配置される。永久磁石22a,22b,22cは、略矩形形状の断面を有する細長い棒状の磁石である。永久磁石22b,22cの断面形状は同じに設定されるが、永久磁石22aの断面形状とは異なってもよい。永久磁石22a,22b,22cの棒状の長さは、それぞれロータコア20の軸方向の全長よりやや短く設定される。軸方向は、磁性体薄板15,19が積層される方向で、中心穴24の延びる方向である。
図1(a)では、3つの永久磁石22を黒塗りで示したが、(b)では、各永久磁石22a,22b,22cの極性をN,Sで示すため黒塗りを省略した。3つの永久磁石22a,22b,22cは、ステータ12に向かい合う外周側の面の極性が共にN極またはS極である。隣接する磁極の間ではその極性が互いに逆になる。例えば、図1(b)の磁極は、ロータコア20の外周側を向く面の極性がN極であるので、これに隣接する磁極の3つの磁石は、ロータコア20の外周側を向く面の極性がS極となるように配置される。
かかる永久磁石22a,22b,22cの材質としては、ネオジムと鉄とホウ素を主成分とするネオジム磁石、サマリウムとコバルトを主成分とするサマリウムコバルト磁石等の希土類磁石が用いられる。これ以外にフェライト磁石、アルニコ磁石等を用いてもよい。孔部30,32,34にそれぞれ挿入された永久磁石22a,22b,22cを固定する樹脂としては、成形性と耐熱性に優れた熱硬化樹脂が用いられる。熱硬化樹脂としては、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂等が用いられる。
図1に示されるように、磁性体薄板19には、磁石挿入孔を含む孔部30,32,34,36が設けられるので、各孔部30,32,34,36の間、孔部30,32,34とロータコア20の外周との間は、それぞれ磁性体の細い部分であるブリッジ部となる。ブリッジ部においては、磁気抵抗を高くできるが、磁性体部分が細いために強度が低下する。そこで、強度を高めるために、ブリッジ部に圧縮成形を施して加工硬化させることが行われる。なお、圧縮成形によって磁気抵抗の向上も図れる。図1(b)では、孔部32と孔部36との間のブリッジ部40、及び孔部34と孔部36との間のブリッジ部42にそれぞれ圧縮成形が施されることを太い斜線で示す。ブリッジ部40,42は、孔部30,32,34とロータコア20の外周との間のブリッジ部と異なり、開放自由端を有しないので、圧縮成形箇所からの材料の流動性が制限される。以下では、圧縮成形箇所からの材料の流動性自由度が制限されるブリッジ部に圧縮成形を施すものとする。
図2は、本実施の形態に係るロータコア20の製造方法の手順を示すフローチャートである。この手順は、まず予備孔抜き工程を行い(S10)、次に圧縮成形工程を行い(S12)、その後に孔部30,32,34,36を抜く形状抜き工程を行う(S14)。その次に円環状の外形を抜く外形抜き工程を行い(S16)、得られる磁性体薄板19を積層する積層工程を行って(S18)積層体のロータコア20が得られる。さらに、積層体の磁石挿入孔に対応する孔部30,32,34のそれぞれに永久磁石22a,22b,22cを配置し、中心穴24にロータ軸を固定してロータ14が形成される。
図3は、長尺の磁性体の薄板シート50から磁性体薄板19を形成する手順を示す図である。製造装置としては、複数の成形ステーションを有する順送プレス成形装置を用いる。長尺の磁性体の薄板シート50には、長手方向に沿って所定ピッチで複数の送り穴52が配置され、その送り穴52を用いて、長尺の磁性体の薄板シート50が送り方向54に順次送られ、各成形ステーションにおいて、所定の成形が行われる。各成形ステーションは、図2の各工程に対応して、予備孔抜きステーション、圧縮成形ステーション、形状抜きステーション、外形抜きステーションである。図3では、送り方向54の上流側を紙面の左側、下流側を紙面の右側として、上流側から下流側に沿って、予備孔抜き後の成形状態、圧縮成形後の成形状態、形状抜き後の成形状態、外形抜き後の成形状態を示す。図3(a)は、全部の磁極について示す図で、(b)は、1つの磁極についての拡大図である。以下では、特に断らない限り、1つの磁極についての成形内容を述べる。
予備孔抜き工程(S10)は、圧縮成形工程(S12)に先立って、孔部32,34,36が形成される孔予定領域33,35,37に、孔部32,34,36の孔面積よりも小さい孔面積の予備孔62,64,66を形成する工程である。予備孔抜き工程は、長尺の磁性体の薄板シート50を順送プレス成形装置の予備孔抜きステーションの位置に送り込み、その位置で予備孔抜きが行われる。予備孔抜きは、圧縮成形によって生じ得る孔部の形状変化や磁性体薄板19における反りを抑制するために行われる。
圧縮成形を行うことで、圧縮成形された材料は他の場所へ流動することになるが、予備孔抜きをすることで、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度を高めることができ、磁性体薄板19の反りを抑制することができる。圧縮成形箇所からの材料の流動自由度を効果的に高めるには、圧縮成形が行われる箇所に近くて対向する位置に予備孔62,64,66を配置することがよい。圧縮成形は全てのブリッジ部について行われるわけではない。圧縮成形が行われるのはブリッジ部40,42の2つであるので、予備孔抜きは、ブリッジ部40,42の近傍で行われる。
圧縮成形によって予備孔62,64,66も孔形状が変化する。圧縮成形が終わった後で4つの孔部30,32,34,36を抜く際に、圧縮成形によって孔形状が変化した部分も一緒に抜き落としてしまえば、磁性体薄板19に圧縮成形の影響はほとんど残らないようにできる。図3(b)に、1つの磁極における4つの孔部30,32,34,36が形成される予定領域を、破線の孔予定領域31,33,35,37で示す。この4つの孔予定領域31,33,35,37の内で、ブリッジ部40,42の近傍の3つの孔予定領域33,35,37の領域範囲内において、予備孔抜きが行われる。図3(b)において、孔予定領域33,35,37の領域範囲内において形成される予備孔62,64,66を示す。予備孔62,64,66は、孔予定領域33,35,37の面積よりも小さい孔面積を有し、板厚方向に貫通する孔である。予備孔62,64,66の配置位置は、孔予定領域33,35,37の領域範囲内においてブリッジ部40,42にできるだけ近くする。ブリッジ部40,42に近いほど、次の圧縮成形工程において、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度がより向上する。
予備孔抜きが終わると、長尺の磁性体の薄板シート50は送り穴52の1ピッチ分下流側に送られ、順送プレス成形装置の圧縮成形ステーションの位置で、圧縮成形工程(S12)が行われる。圧縮成形は、隣接する予備孔の間の領域の内のブリッジ部予定領域について行われる。ブリッジ部予定領域は、隣接する孔部の間のブリッジ部の領域に対応する。図3(b)に、圧縮成形が行われるブリッジ部40,42に対応するブリッジ部予定領域41,43を示す。圧縮成形によって、ブリッジ部40,42の板厚が薄く圧縮され、これに伴う加工硬化によってブリッジ部40,42の強度が向上し、磁気抵抗が向上する。
この圧縮成形に伴って、予備孔62,64,66の形状が変化し、圧縮成形後の孔形状を有する予備孔63,65,67となる。圧縮成形後の孔形状を有する予備孔63,65,67は、孔予定領域33,35,37の領域範囲内に依然として留まるように、予備孔抜きされる予備孔62,64,66の大きさが設定される。換言すれば、予備孔抜き工程(S10)において、予備孔62,64,66の形状と面積と配置位置とは、圧縮成形における孔形状の変化を見込み、圧縮成形後の予備孔63,65,67が孔予定領域33,35,37の領域範囲内に留まるように設定される。
また、圧縮成形箇所からの材料の流動によって磁性体薄板19に反りが生じる。ブリッジ部予定領域41,43の近傍に設けられる予備孔62,64,66は、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度を高めるので、予備孔62,64,66を設けない場合に比し、磁性体薄板19の反りが少なくなる。
上記では、1つの磁極について複数あるブリッジ部の内で2つのブリッジ部40,42について圧縮成形が行われるとしたが、回転電機10の仕様等に応じて、圧縮成形が行われるブリッジの数は変更できる。また、圧縮成形は、ブリッジ部40,42の全体について板厚を薄く圧縮加工することで行うことができるが、これに代えて、ブリッジ部40,42の一部の板厚を薄く圧縮加工してもよい(図4(b)参照)。
圧縮成形が終わると、長尺の磁性体の薄板シート50は、送り穴52の1ピッチ分下流側に送られ、順送プレス成形装置の形状抜きステーションの位置で、形状抜き工程(S14)が行われる。形状抜きは、磁性体の薄板シート50について、板厚方向に貫通する4つの孔部30,32,34,36を形成する工程である。圧縮成形後の予備孔63,65,67は、孔予定領域33,35,37の領域範囲内に留まっているので、4つの孔部30,32,34,36の形状抜きによって、圧縮成形後の孔形状を有する予備孔63,65,67は、その周辺部を含んで抜き落とされる。孔部32,34の間には、圧縮成形されたブリッジ部40が残され、孔部34,36の間には、圧縮成形されたブリッジ部42が残される。このように、形状抜きによって、圧縮成形されたブリッジ部40,42を残したまま、圧縮成形後の予備孔63,65,67の周辺部が抜き落とされるので、形状抜き後の4つの孔部30,32,34,36の孔形状には、圧縮成形の影響がほとんど残らない。
すなわち、本実施の形態のロータコアの製造方法は、磁石挿入孔を含む複数の孔部を有し隣接する孔部の間のブリッジ部を圧縮成形して得られる磁性体薄板19を複数枚積層して形成されるロータコア20の製造方法である。この製造方法は、各磁性体薄板19の形成について、以下の工程を含む。複数の孔部30,32,34,36の内で圧縮成形されるブリッジ部40,42の両側の孔部32,34,36について、当該孔部32,34,36が形成される予定領域を孔予定領域33,35,37とする。孔予定領域33,35,37のそれぞれに、孔予定領域の面積よりも小さい孔面積の予備孔62,64,66を形成する予備孔抜き工程(S10)を含む。また、予備孔抜き工程(S10)の次に、隣接する予備孔62,64,66の間のブリッジ部予定領域41,43について磁性体薄板19の板厚方向に圧縮する圧縮成形工程(S12)を含む。そして、圧縮成形工程(S12)の後に、複数の孔部30,32,34,36を形成する形状抜き工程(S14)を含む。得られた磁性体薄板19を複数枚積層する積層工程(S18)によって、積層体のロータコア20が得られる。
上記のように、本実施の形態のロータコア製造方法によれば、予備孔抜き工程(S10)を最初に行い、予備孔62,64,66は、圧縮成形を受けるブリッジ部40,42の近傍に配置される。これによって、圧縮成形工程(S12)における磁性体薄板19の材料の流動自由度が高まり、圧縮成形による磁性体薄板19の反りが抑制される。また、予備孔62,64,66は、ブリッジ部40,42の近傍の孔予定領域33,35,37の領域範囲内に配置される。さらに、圧縮成形後の孔形状を有する予備孔63,65,67がこの孔予定領域33,35,37の領域範囲内に留まるように、予備孔62,64,66の形状、孔面積、配置位置が設定される。そして、形状抜き工程(S14)では、圧縮成形後の孔形状を有する予備孔63,65,67の周辺部を含んで、孔部30,32,34,36を抜き落とす。これによって、圧縮成形によって変化した孔形状を有する予備孔63,65,67とその周辺部が消失し、孔部30,32,34,36の孔形状には圧縮成形の影響がほとんど残らない。
上記製造方法の作用と効果について、予備孔抜きを行わない従来技術と比較しながら、図4から図8を用いてさらに説明する。
図4は、複数の孔部と、板厚方向に圧縮されたブリッジ部とを有する磁性体薄板21を積層した従来技術のモータコアにおいて、板厚方向の圧縮によって発生した孔部の形状変化と磁性体薄板の反りとを示す図である。図4(a)は、磁性体薄板21の平面図である。本実施の形態の磁性体薄板19の平面図と同様に見えるが、後述するように、孔部の形状変化と磁性体薄板21の反りとが許容範囲を超えていることが相違する。
図4(b)は、(a)のB部の拡大図であり、孔部34,36のブリッジ部45についての圧縮成形を示す平面図であり、(c)は(b)のC−C線に沿った断面図である。ブリッジ部45は、磁性体薄板21のもともとの板厚t0のままの部分46と、その両側で圧縮加工を受けてt0よりも薄い板厚の部分47,48で構成される。圧縮量をt1とすると、圧縮率={(圧縮量t1)/(板厚t0)}である。薄い板厚の部分47,48の板厚は(t0−t1)である。
図4(d)は、圧縮成形による孔部の形状変化を示す図である。ここでは、圧縮成形前の孔部の形状を、本実施の形態における孔部30,32,34の形状と同じとして二点鎖線で示し、図4(b)の圧縮成形を受けた後の孔部の形状を実線で示す。二点鎖線と実線との差が、各孔部における形状変化である。図4(e)は(a)のE−E線に沿った断面図で、二点鎖線で示す孔部30の周辺の磁性体薄板21について圧縮成形で生じる反りを示す図である。
図5は、図4に基づいて、形状変化及び反りと、圧縮率との関係を示す図である。図5の横軸は、圧縮率={(圧縮量t1)/(板厚t0)}であり、縦軸は形状変化及び反りの大きさを規格化して示す値である。磁性体薄板21の(形状変化・反り−圧縮率)に関する特性線70は、圧縮率が大きくなるほど、形状変化・反りが大きくなる。圧縮率が小さすぎると圧縮成形によるブリッジ部45の強度向上や磁気抵抗の向上が不十分となり、圧縮率が大きすぎると、材料破壊が生じる。このように、ブリッジ部45の機能上の観点から、圧縮率の許容範囲が定められる。一方、形状変化・反りが大きすぎると、磁性体薄板21を積層したときに積層の間に隙間が生じ、積層体の全体が大型化し、また磁石挿入孔への永久磁石22の配置等に支障が生じる。このように、ロータ14の組立性から、形状変化・反りの許容範囲が定められる。
図5に示すように、磁性体薄板21をロータコア20に用いるときに良品とされるのは、特性線70において、圧縮率の許容範囲の下限値以上の範囲で、かつ、形状変化及び反りの許容範囲の上限値以下の範囲である。この例における良品は、圧縮率が許容範囲内の低い範囲に留まり、ブリッジ部45の機能上必要な圧縮率を満たさないことがある。ブリッジ部45の機能上必要な圧縮率まで圧縮率を大きくすると、形状変化及び反りが許容範囲を超えて不良品となる。
図6は、形状抜き工程の後に圧縮成形工程を行う従来技術の製造方法について、各工程における形状変化と反りの推移を示す図である。図6(a)は、図3(a)に対応する図で、磁性体の薄板シート50が、形状抜き工程、圧縮成形工程、外形抜き工程の順に加工されることが示される。形状抜き工程では、図3で述べた複数の孔部30,32,34,36の抜き加工が行われ、圧縮成形工程では、図3で述べたブリッジ部40,42に圧縮加工が行われる。外形抜き工程が終わると、磁性体薄板80が得られる。図6(b)は、横軸に、各工程を製造工程の進展の順に取り、縦軸に、反りと形状変化とを分けて示す。
最初に形状抜きを行う製造方法においては、圧縮成形の前に既に孔部30,32,34,36が形成されているので、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度が高まる。これによって、磁性体薄板80の反りをかなり抑制することができる。一方で、既に形成された孔部30,32,34,36の内、特にブリッジ部40,42の近傍の孔部32,34,36は、圧縮成形の影響を受けて、その孔形状が変化する。図6(b)では、圧縮成形において、反りは許容範囲内であるが、形状変化が許容範囲を超えることが示される。許容範囲を超える形状変化は、磁石挿入孔への永久磁石挿入等に支障が生じる。
図7は、図6と逆に、圧縮成形工程の後に形状抜き工程を行う従来技術の製造方法について、各工程における形状変化と反りの推移を示す図である。図7(a)は、図3(a)に対応する図で、磁性体の薄板シート50が、圧縮成形工程、形状抜き工程、外形抜き工程の順に加工されることが示される。圧縮成形工程では、図3で述べたブリッジ部予定領域41,43について圧縮成形が行われ、形状抜き工程では、図3で述べた複数の孔部30,32,34,36の抜き加工が行われる。その後、外形抜き工程が終わると、磁性体薄板81が得られる。図7(b)は、図6(b)と同様に、横軸が各工程、縦軸が反りと形状変化である。
最初に圧縮成形を行う製造方法においては、圧縮成形の段階で、磁性体薄板81の反りが大きく発生し、許容範囲を超える。その後に形状抜き、外形抜きを行うと反りはやや減少するが、外形抜きされた磁性体薄板81においても、反りは許容範囲を超える。許容範囲を超える反りは、複数の磁性体薄板81の積層において隙間が生じる等の支障が生じる。一方、孔部30,32,34,36の形状抜きは、圧縮成形後に行われるため、孔部30,32,34,36の孔形状は圧縮成形の影響をほとんど受けない。
図6に示す形状抜きを先に行う製造方法においては、反りを許容範囲に入れることが可能だが、孔部の形状変化が許容範囲を超え、図7に示す圧縮成形を先に行う製造方法においてはほとんど形状変化が生じないが、反りは許容範囲を大幅に超える。反りが抑制可能な図6の製造方法と、形状変化が抑制可能な図7の製造方法とは、工程順序が互いに相反し、両立させることができない。
図8は、本実施の形態のロータコアの製造方法について、各工程における形状変化と反りの推移を示す図である。図8は、図6(b)、図7(b)に対応する図であり、横軸に、本実施の形態の製造方法の各工程を製造工程の進展の順に取り、縦軸に、反りと形状変化とを分けて示す。なお、反りは、黒三角マークと白三角マークとあるが、白三角マークは、後述する図9の製造方法を用いたときのデータを示す。
図3で述べた本実施の形態の製造方法において、予備孔抜き工程(S10)では、予備孔62,64,66の孔形状の変化や磁性体薄板19の反りは生じない。圧縮成形工程(S12)で、磁性体薄板19に反りが生じる。圧縮成形の前に既に予備孔62,64,66が形成されているので、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度が向上するので、予備孔62,64,66を設けない場合に比して磁性体薄板19の反りが抑制され、許容範囲内となる。また、圧縮成形によって予備孔62,64,66の孔形状が変化し、圧縮成形後の孔形状が変化した予備孔63,65,67となる。図8の圧縮成形における「形状変化」は、予備孔62,64,66から予備孔63,65,67への孔形状の変化を示すが、この「形状変化」は、許容範囲を超える。
その後に形状抜き工程(S14)を行うと、圧縮成形で孔形状が変化した予備孔63,65,67は、その周辺部も含んで、孔部32,34,36の形状抜きと共に抜き落とされる。これによって、孔部30,32,34,36の孔形状は、圧縮成形による影響をほとんど受けない。図8の形状抜きにおける「形状変化」は、孔部30,32,34,36の孔形状についてのデータである。反りは、孔部30,32,34,36の形状抜きによりやや改善する。したがって、外形抜きによって得られた磁性体薄板19は、反りも孔部の形状変化も許容範囲内となり、複数の磁性体薄板19を積層する工程に支障が生じない。
このように、予備孔抜き工程(S10)を最初に行うことで、従来技術では解決が困難であった孔部32,34,36の形状変化の抑制と、磁性体薄板19の反りの抑制とを両立させることができる。
予備孔抜き工程(S10)を圧縮成形工程(S12)に先立って設けるのは、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度を上げるためである。そこで、予備孔抜き工程(S10)において、予備孔62,64,66の他に、さらにスリット17を設けることで、圧縮成形箇所からの材料の流動自由度がさらに向上する。図9は、磁性体薄板88の反りを図3に比較してさらに抑制することができるロータコアの製造方法を示す図である。図9は、図3(a)と同様に、長尺の磁性体の薄板シート50から磁性体薄板88を形成する手順を示す図である。
図9は、図3(a)と同様に、予備孔抜き後の成形状態、圧縮成形後の成形状態、形状抜き後の成形状態、外形抜き後の成形状態を示す。図3(a)と相違するのは、予備孔抜きにおいて、予備孔62,64,66の形成と同時に、複数のスリット17が形成される点である。図9において、30個のスリット17を示すが、スリット17の個数は例示であって、回転電機10及びステータ12の仕様等に応じ適宜変更が可能である。
圧縮成形において、磁性体薄板88の反りが発生するが、複数のスリット17の効果によって、図3の場合の反りよりも少なくなる。図8において、図9における反りを白三角マークで示す。このように、図9の製造方法によれば、磁性体薄板88の反りは、図3の磁性体薄板19の反りよりも抑制される。また、圧縮成形においては、予備孔62,64,66の孔形状が圧縮成形後で変化するが、複数のスリット17の効果として、孔形状の変化の程度が図3の場合と相違する。図3の圧縮成形後の予備孔62,64,66と区別して、図9の圧縮成形後の成形状態では、圧縮成形後の予備孔82,84,86と示す。
形状抜きにおいては、圧縮成形後の予備孔82,84,86が孔部30,32,34,36の形成と共に抜き落とされる。このように、図9の製造方法によれば、図3の製造方法と同様に、孔部32,34,36の形状変化を許容範囲とでき、磁性体薄板88の反りを許容範囲内においてさらに抑制できる。その後の外形抜きにおいて磁性体薄板19を抜いた後の磁性体の薄板シート50は、引き続きステータコア形成のための加工が行われる。
図3の本実施の形態のロータコアの製造方法は、図6、図7で示す従来技術の製造方法に比べて、予備孔抜き工程(S10)があるので、工程数が1つ多い。図9の製造方法では、予備孔抜き工程(S10)がステータコア形成のためのスリット形成工程を兼ねるので、ロータコア形成とステータコア形成とを合わせて考えると、従来技術の工程数と同じにできる。