上述のように、従来の技術では、溶融アルミニウム、溶融亜鉛等の溶融金属の各種の処理に用いた場合に優れた耐湯溶浸食性および耐高温酸化性を得ることができる保護皮膜は実現されていない。
さらに、本発明者らが独自に行った研究によれば、溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存する領域(以下、「メニスカス領域」と言うこともある。)に金属基材が晒される状態、金属基材に対して溶融金属が揺動・流動する状態、金属基材に対してノロ等の付着・剥離が繰り返し生じる環境下等では、金属基材が過酷な減肉を受けることが明らかとなった。このため、このような場合でも金属基材の減肉を防止することができる保護皮膜が望まれる。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、溶融アルミニウム、溶融亜鉛等の溶融金属の各種の処理に用いた場合、特に、溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域で、あるいは溶融金属が揺動・流動する状態で、あるいはノロ等の付着・剥離が繰り返し生じる環境下等で、優れた耐湯溶浸食性および耐高温酸化性を得ることができる溶融金属処理機器およびその製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、溶融金属によって生じる湯溶浸食の機構とその防止法について鋭意検討を行った。一例として、金属基材が鉄(Fe)基材であり、このFe基材に溶融金属として溶融アルミニウム(Al)が接触する場合の湯溶浸食の進行過程を図1に模式的に示す。図1に示すように、Fe基材を溶融Al浴に浸漬すると、AlはFe基材と化合してFe−Al合金層を形成し、このFe−Al合金層が成長する。一方、Fe−Al合金層は、溶融Al浴側ではAl濃度の最も高い合金層、すなわちFeAl3 層となり、このFeAl3 層のFeが溶融Al浴に溶出する結果として、Fe−Al合金層の厚さは減少し、溶融Al浴のAlはFeを含むAl(Fe)となる。
以上の湯溶浸食の機構は、Fe基材と溶融Alとの組み合わせ以外の他の金属基材と溶融金属との組み合わせについても同様に成立する。すなわち、溶融金属による金属基材の減肉は、合金層の形成・成長と溶融金属浴に接する合金層の基材成分が溶融金属中へ溶解することにより合金層の厚さが減少する結果として進行するのである。さらに、その溶出した基材金属成分は溶融金属を汚染させる。湯溶浸食による合金層厚さの減少は、合金層中の溶融金属原子の拡散を助長し、合金層の成長を促進する、すなわち、金属基材の減肉速度を増大させる。
上述のように、溶融金属による金属基材の減肉を抑制するためには、合金層の成長抑制と基材元素の溶出抑制とが重要であり、さらに、溶融浴外の高温雰囲気では、部材を高温酸化から保護することもまた重要な課題である。
また、上述のように、溶融金属による金属基材の減肉を抑制する目的でセラミックスを被覆する際、セラミックスと金属との接合に有効な金属・合金を開発することが重要であり、特に、この接合に有効な金属・合金は溶融金属に対しても優れた耐性を有することが望ましい。さらに、セラミックスと金属基材との熱膨張係数は、一般に、互いに大きく異なることから、両者の接合時には接合応力が発生し、また、セラミックス被覆した金属基材が高温の溶融金属に浸漬したり、抜き出したりする場合の温度変化によって熱応力が発生し、これらの接合応力および熱応力はセラミックスを破壊するほど大きいことから、それらを軽減する方策の開発もまた重要な課題である。さらに、例えば、熱電対保護管では、測温点近傍の迅速な温度応答性を確保するため、熱伝導に優れた金属部材を採用し、この金属部材はまた溶融金属に対して優れた耐性を有することが望ましい。
さらに、本発明者らは、金属基材が溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に晒される環境、溶融金属の湯面が上下および水平方向に揺動する環境、流動する溶融金属に浸漬されている環境、あるいは、ノロ等の付着・剥離が繰り返し生じる環境下等で生じる金属基材の減肉に対して優れた耐性を有する保護皮膜の開発を目的に、溶融金属と高温酸化とに対して優れた耐性を有するセラミックスを金属基材の表面に被覆する方策について、セラミックスと金属との接合、接合時の接合応力によるセラミックスの破壊および接合応力の軽減、等に関する考察と実験による検証とを行い、これに基づいて鋭意検討を行った結果、この発明を案出した。
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
金属基材と、
上記金属基材の、少なくとも処理しようとする溶融金属と接触する側の表面の少なくとも一部に設けられた保護層とを有し、
上記保護層は、
上記溶融金属の溶融温度での耐酸化性および上記溶融金属に対する耐性を有するセラミックス体と、
上記金属基材と上記セラミックス体との間に設けられた、チタン(Ti)およびニッケル(Ni)を含む中間層と、
を有する溶融金属処理機器である。
この発明において、保護層は、金属基材の、少なくとも処理しようとする溶融金属と接触する側の表面の少なくとも一部に設けられていればよいが、典型的には、溶融金属の処理時に溶融金属と接触する可能性のある部位、取り分け、溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に晒される部位、金属基材に対して溶融金属が揺動・流動する部分、ノロ等の付着・剥離が繰り返し起きる部位、等に設けられる。また、保護層は、溶融金属処理機器の用途等によっては、必要に応じて、金属基材の、溶融金属と接触する側と反対側の表面の少なくとも一部にも設けられる。こうすることで、溶融金属と接触する部分だけでなく、溶融金属と接触しない部分を含めて金属基材を保護することができる。
金属基材は、例えば、鉄鋼材料(Fe基合金)、非鉄金属材料、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群より選択された少なくとも一種の元素とタングステン(W)とクロム(Cr)とを含有し、あるいはさらにモリブデン(Mo)、タンタル(Ta)およびレニウム(Re)からなる群より選択された少なくとも一種の元素を含有する合金等であるが、これに限定されるものではない。鉄鋼材料は、例えば、軟鋼、炭素鋼、鋳鉄、鋳鋼、ステンレス鋼等であるが、これに限定されるものではない。非鉄金属材料は、例えば、チタン、耐熱チタン合金(チタン−アルミニウム合金等)等であるが、これに限定されるものではない。Fe、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも一種の元素とWとCrとを含有し、あるいはさらにMo、TaおよびReからなる群より選択された少なくとも一種の元素を含有する合金は、優れた拡散バリア能を有しているだけでなく、W、Ta、MoまたはReの添加は、強度を高める効果もある。このFe、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも一種の元素とWとCrとを含有する合金は、例えば、Cr−W系合金層、Cr−W−Ta(タンタル)系合金層、Cr−W−Mo(モリブデン)系合金層、Cr−W−Ta−Mo系合金層、Cr−W−Ta−Mo−Re(レニウム)系合金層等であるが、これに限定されるものではない。より具体的には、Fe、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも一種の元素とWとCrとを含有し、あるいはさらにMo、TaおよびReからなる群より選択された少なくとも一種の元素を含有する合金は、Fe−Cr−W系合金では、Wを10原子%以上21原子%以下、Crを23原子%以上53%原子以下、Feを25原子%以上66原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを30原子%以上45原子%以下、Crを10原子%以上40原子%以下、Feを30原子%以上59原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを35原子%以上45原子%以下、Crを0.1原子%以上50原子%以下、Feを15原子%以上64原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを0.1原子%以上20原子%以下、Crを70原子%以上99原子%以下、Feを0.1原子%以上29原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを77原子%以上99原子%以下、Crを0.1原子%以上20原子%以下、Feを0.1原子%以上2原子%以下含有するもの(総和で100原子%)等であり、Co−Cr−W系合金では、Wを0.1原子%以上3原子%以下、Crを52原子%以上65原子%以下、Coを30原子%以上54原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを3原子%以上25原子%以下、Crを30原子%以上65原子%以下、Coを25原子%以上55原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを25原子%以上35原子%以下、Crを20原子%以上40原子%以下、Coを30原子%以上50原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを30原子%以上55原子%以下、Crを0.1原子%以上50原子%以下、Coを20原子%以上60原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを0.1原子%以上25原子%以下、Crを65原子%以上99原子%以下、Coを0.1原子%以上25原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを75原子%以上99原子%以下、Crを0.1原子%以上25原子%以下、Coを0.1原子%以上3原子%以下含有するもの(総和で100原子%)等であり、Ni−Cr−W系合金では、Wを2原子%以上20原子%以下、Crを40原子%以上65原子%以下、Niを30原子%以上40原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを0.1原子%以上20原子%以下、Crを70原子%以上99原子%以下、Niを0.1原子%以上30原子%以下含有するもの(総和で100原子%)、Wを80原子%以上99原子%以下、Crを0.1原子%以上20原子%以下、Niを0.1原子%以上3原子%以下含有するもの(総和で100原子%)等である。
セラミックス体は、溶融金属の溶融温度での耐酸化性および溶融金属に対する耐性を有するものであれば、基本的にはどのような材質、形状、サイズ等であってもよく、溶融金属処理機器の用途、機能等に応じて適宜選ばれる。セラミックス体の形状は、例えば、層状、板状、筒状、曲面を有する形状、等である。より具体的には、例えば、セラミックス体は、熱電対保護管では目的の部位に被せるセラミックス管、ノロ掻きでは目的の部位に張り付けるセラミックス板、等である。セラミックス体の材質は、例えば、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、炭化物系セラミックス等であり、これらのセラミックスを2種類以上混合して用いてもよい。酸化物系セラミックスとしては例えばアルミナ(Al2 O3 )系セラミックス、窒化物系セラミックスとしては例えば窒化ケイ素(Si3 N4 )系セラミックス、炭化物系セラミックスとしては例えば炭化ケイ素(SiC)系セラミックスが望ましい。セラミックス層としては、Al2 O3 系セラミックスとSiC系セラミックスとを混合して用いたものがより望ましい。セラミックス体の厚さは、溶融金属処理機器の用途、機能等に応じて選ばれるが、一般的には0.05mm以上5mm以下である。
中間層は、TiおよびNiを含むものであれば、基本的にはどのようなものであってもよく、金属基材の材質、セラミックス体の材質、溶融金属処理機器の用途、機能等に応じて適宜選ばれる。中間層は、セラミックス体との接合性に優れていることが重要であり、さらに、金属基材とセラミックス体とは熱膨張係数が互いに大きく異なることから、高温で接合後冷却する過程で接合応力が発生し、また、加熱・冷却に際しても熱応力を誘起してセラミックス体の破壊を誘引することがあるため、これらの接合応力および熱応力を軽減することができることが望まれる。従って、中間層には、以下のような特性が望まれる。
(1)セラミックス体と金属基材との接合性に優れていること。
(2)接合温度では、少なくとも一部は溶融していること。
(3)接合応力および熱応力を効果的に軽減できること。
(4)耐湯溶浸食性に優れていること。
中間層に含まれるTiおよびNiの少なくとも一部、一般的には大部分は、典型的には、Ti濃度範囲が50重量%以上95重量%以下のTi−Ni合金として存在する。中間層は、好適には、TiおよびNiに加えて、典型的にはTi−Ni合金に加えて、高融点金属であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、酸化物であるAl2 O3 および炭化物であるSiCからなる群から選択される一種以上を含み、望ましくは、Ti−Ni合金、W、Mo(あるいはW、Mo、Cr)およびAl2 O3 を含む。中間層に含まれるTiはセラミックス体との接合性および耐湯溶浸食に優れており、さらに、Niは中間層の融点を低下させることができる。非特許文献2によると、1150℃〜1250℃の温度領域で溶融または一部溶融しているTi−Ni合金のTi濃度範囲は50重量%以上95重量%以下、および、25重量%以上35重量%以下であるから、中間層に含まれるTi−Ni合金のTi濃度範囲も同様な範囲であるが、望ましくは50重量%以上95重量%以下である。中間層に含まれるTi−Ni合金のTi濃度範囲の最も好適な例を挙げると、90重量%Ti−10重量%Ni合金あるいは72重量%Ti−28重量%Ni合金である。中間層に上記の高融点金属と酸化物とを含ませると、中間層の熱膨張係数をセラミックス体の熱膨張係数と金属基材の熱膨張係数との間になるように制御することができ、セラミックス体と金属基材との接合応力および熱応力を軽減することができる。さらに、上記の高融点金属および酸化物は耐湯溶浸食性にも優れている。中間層が、TiおよびNiに加えて、W、Mo、Nb、Ta、Cr、Re、Fe、Al2 O3 およびSiCからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む場合、W、Mo、Nb、Ta、Cr、Re、Fe、Al2 O3 およびSiCからなる群より選ばれた少なくとも一種を総和で30重量%以上80重量%以下、好適には40重量%以上70重量%以下含む。中間層中の高融点金属と酸化物の和の重量%が30重量%未満では接合応力(熱応力も含む)の軽減効果が少なく、80重量%を超えると中間層の内層が多孔質となり脆弱となるためである。
溶融金属は、例えば、溶融アルミニウム、溶融亜鉛等であるが、これに限定されるものではない。
溶融金属処理機器は、何らかの形で溶融金属を処理するものであれば、特に限定されない。ここで、処理は、最も広義に解し、金属を溶融すること、溶融金属を用いてめっきすること、溶融金属を貯留すること、溶融金属を搬送すること、溶融金属の表面の浮遊物を除去すること、溶融金属から保護すること、溶融金属の温度を測定すること等、あらゆるものが含まれる。また、機器には、機械、器械、器具等、あらゆるものが含まれる。溶融金属処理機器は、具体的には、例えば、金属溶解槽、金属溶融鍋、金属めっき槽、熱電対保護管、溶融金属掻き混ぜ棒、溶融金属を搬送するためのラドル、溶融金属の表面に浮かぶノロを除去するためのノロ掻き、溶融金属を掬うための湯掬い鍋、溶融金属を掬うための柄杓等であるが、これに限定されるものではない。
典型的には、金属基材は容器(例えば、溶融金属を収容する容器、熱電対を挿入する保護管、等)を構成し、保護層はこの容器の外周面の全部または一部を覆うように設けられる。典型的には、中間層はこの容器の外周面および底部の表面を覆うように設けられ、外周面を覆う中間層上にこの中間層を覆うようにセラミックス体が設けられ、底部の表面を覆う中間層上にセラミックス体の一端を塞ぐように、好適にはチタンまたはチタン合金からなる栓部材が設けられる。ただし、この栓部材は、他の高融点金属、例えばW、Mo、Nb、Ta、Cr、Reまたはそれらの合金により形成してもよい。あるいは、中間層は容器の外周面および底部の表面を覆うように設けられ、外周面を覆う中間層上にこの中間層を覆うようにセラミックス体が設けられ、底部の表面を覆う中間層上にセラミックス体の一端を塞ぐように、好適にはタングステンまたはタングステン合金からなる第1栓部材が設けられ、さらにこの第1栓部材上にセラミックス体の一端に跨がるように、好適にはチタンまたはチタン合金からなる第2栓部材が設けられる。ただし、第1栓部材は、他の高融点金属、例えばMo、Nb、Ta、Cr、Re、Tiまたはそれらの合金により形成してもよい。また、第2栓部材は、他の高融点金属、例えばW、Mo、Nb、Ta、Cr、Reまたはそれらの合金により形成してもよい。あるいは、別の例では、中間層は容器の外周面を覆うように設けられ、容器の底部の表面およびこの表面に連なる外周面の一部を覆うようにチタンおよびニッケルを含む第1接合層が設けられ、外周面を覆う中間層上にこの中間層を覆うようにセラミックス体が設けられ、第1接合層を介して底部にチタンまたはチタン合金からなるキャップ状栓部材が被せられ、セラミックス体の一端とキャップ状栓部材の一端とは第1接合層と連なる、チタンおよびニッケルを含む第2接合層を介して接合される。ただし、キャップ状栓部材は、他の高融点金属、例えばW、Mo、Nb、Ta、Cr、Reまたはそれらの合金により形成してもよい。あるいは、別の例では、セラミックス体は金属基材上に中間層を介して敷き詰められた複数のセラミックス板からなり、これらのセラミックス板の間の間隙がチタンまたはチタン合金からなる目地部材により埋められ、この目地部材とこれらのセラミックス板とはチタンおよびニッケルを含む接合層を介して互いに接合される。目地部材のサイズおよび形状に特に制限はないが、線材、板材等であって、セラミックス板の厚さと同等の線径、板厚等を有することが望ましく、小さすぎると耐湯溶浸食性に劣り、大きすぎるとセラミックス板の間の間隙を埋めることができない。ただし、目地部材は、他の高融点金属、例えばW、Mo、Nb、Ta、Cr、Reまたはそれらの合金により形成してもよい。
金属基材としては、予め特殊な保護層(以下「下層保護層」と言う。)が形成されたものを用いることもできる。この場合、この下層保護層上に上記の中間層およびセラミックス層が順次形成され、これらが上層の保護層を構成する。この下層保護層は、具体的には、金属基材上の、金属基材を構成する元素の外部への拡散を抑制するための内層と、この内層上の、溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含む外層とからなるもの、あるいは、これらの内層および外層に加えてこの外層上の、溶融金属の溶融温度での耐酸化性および溶融金属に対する耐性を有する酸化物層とからなるものが用いられる。内層は、例えば、素地金属中に、金属炭化物が分散し、または、金属炭化物からなる連続層を含むものである。内層が連続層を含む場合、この連続層の厚さは1μm以上20μm以下である。金属炭化物は、例えば、チタン炭化物、ニオブ炭化物、タングステン炭化物およびアルミニウム炭化物からなる群より選ばれた少なくとも一種であるが、これに限定されるものではない。外層を、溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含むもの、とした理由は下記の通りである。すなわち、外層を構成する元素の溶融金属浴への溶出を抑制するためには、これらの元素の溶融金属への溶解度が小さいことが望まれる。また、図1に関連して説明した合金層の成長速度を抑制するためには、合金層の元素の拡散が遅いこと、すなわち、融点の高い化合物が望まれる。例えば、一例として溶融金属が溶融アルミニウムである場合を考える。非特許文献2に基づいて、各種Al系合金の各種元素の溶融Alへの溶解度(800℃)、溶融Alと隣接する合金相とその融点をまとめた結果を表2に示す。表2にはさらに、溶解度と融点から予想される「溶融Alへの耐性」を、優れている(◎)、良好(○)、劣る(×)の三段階で表した。
表2より、金属元素では、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、非金属元素では、炭素(C)、燐(P)、硼素(B)、窒素(N)が溶融アルミニウムに対する耐湯溶浸食性に優れている、と予想される。例えば、溶融アルミニウム用部材への適用を指向するとき、基材は鉄基合金とチタン合金が候補となることから、チタン、ニオブ、タンタルおよびそれらの炭化物が望ましく、より望ましくは、チタンとチタン炭化物(TiC)である。
例えば、溶融亜鉛に対する耐湯溶浸食性に優れている金属元素としては、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステンおよびそれらの炭化物が望ましく、より望ましくは、モリブデンとモリブデン炭化物である。
一般的には、外層が含む金属またはその化合物は、チタン、ニオブ、タンタル、モリブデンおよびそれらの炭化物からなる群より選ばれた少なくとも一種である。特に溶融金属が溶融アルミニウムである場合には、外層は、好適には、チタンおよびアルミニウムのうちの少なくとも一種を含有し、これらのチタンおよびアルミニウムの総和は好適には50原子%以上95原子%以下、より好適には60原子%以上90原子%以下である。あるいは、特に溶融金属が溶融亜鉛である場合には、外層は、少なくともモリブデンを含有し、モリブデンの総和は好適には60原子%以上、より好適には60原子%以上90原子%以下である。
酸化物層は、例えば、チタン酸化物およびアルミニウム酸化物のうちの少なくとも一種を含むが、これに限定されるものではない。酸化物層は、必要に応じて、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガン、ニオブ、タンタル、タングステン、ホウ素およびケイ素(シリコン)からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素の酸化物をさらに含む。
また、この発明は、
金属基材に対し、処理しようとする溶融金属の溶融温度での耐酸化性および上記溶融金属に対する耐性を有するセラミックス体を隙間を空けて保持した状態でこの隙間を埋めるようにチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末を含むスラリーを流し込んだ後、乾燥させることにより上記チタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成する工程と、
上記チタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末が溶融する温度で加熱することにより、上記金属基材と上記セラミックス体との間に上記中間層形成用粉末層によりチタンおよびニッケルを含む中間層を形成する工程と、
を有する溶融金属処理機器の製造方法である。
この溶融金属処理機器の製造方法を実施することにより、上記の溶融金属処理機器を容易に製造することができる。この溶融金属処理機器の製造方法の発明においては、その性質に反しない限り、上記の溶融金属処理機器の発明に関連して説明したことが成立する。
例えば、金属基材は容器を構成し、セラミックス体はこの容器を内部に挿入することができる大きさを有する管状の形状を有する場合において、セラミックス体の一端を塞ぐように、好適にはチタンまたはチタン合金からなる栓部材を設け、容器を栓部材が設けられたセラミックス体の内部に挿入し、容器に対し、セラミックス体および栓部材を隙間を空けて保持した状態でこの隙間を埋めるように中間層形成用粉末層を形成する。あるいは、金属基材は容器を構成し、セラミックス体は容器を内部に挿入することができる大きさを有する管状の形状を有する場合において、セラミックス体の一端を塞ぐように、好適にはタングステンまたはタングステン合金からなる第1栓部材を設け、さらにこの第1栓部材上にセラミックス体の一端に跨がるように、好適にはチタンまたはチタン合金からなる第2栓部材を設け、容器を第1栓部材および第2栓部材が設けられたセラミックス体の内部に挿入し、容器に対し、セラミックス体、第1栓部材および第2栓部材を隙間を空けて保持した状態でこの隙間を埋めるように中間層形成用粉末層を形成する。あるいは、金属基材は容器を構成し、セラミックス体は容器を内部に挿入することができる大きさを有する管状の形状を有する場合において、キャップ状栓部材を容器の底部側の一端に隙間を空けて被せ、この隙間を埋めるようにチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末を含むスラリーを流し込んだ後、乾燥させることによりチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末からなる第1接合層形成用粉末層を形成し、キャップ状栓部材が一端に被せられた容器をセラミックス体の内部に容器の他端から挿入し、この他端を第1接合層形成用粉末層に連なる第2接合層形成用粉末層を介してキャップ状栓部材と接触させ、容器に対し、セラミックス体を隙間を空けて保持した状態でこの隙間を埋めるように中間層形成用粉末層を形成する。この溶融金属処理機器の製造方法は、例えば、金属溶解槽、金属溶融鍋、金属めっき槽、熱電対保護管、溶融金属掻き混ぜ棒、溶融金属を搬送するためのラドル、溶融金属を掬うための湯掬い鍋、溶融金属を掬うための柄杓、等の製造に適用して好適なものである。
この溶融金属処理機器の製造方法においては、スラリーにTiおよびNiに加えて高融点金属、酸化物であるAl2 O3 、炭化物であるSiC等を含ませる場合は、例えば、1075℃以上1225℃以下の温度で加熱した後、1175℃以上1270℃以下の温度で加熱することにより金属基材と中間層の高融点金属、酸化物および炭化物との接合を確保することができる。一段目の加熱および二段目の加熱とも、好適には、減圧雰囲気で、電気炉による加熱方法を用いる。加熱時間は、一段目の加熱は例えば30分から2時間、二段目の加熱は例えば30分から4時間である。加熱時の雰囲気は、減圧雰囲気または真空雰囲気である。
また、この発明は、
金属基材の片面にチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末からなる第1中間層形成用粉末層を形成したものに対し、処理しようとする溶融金属の溶融温度での耐酸化性および上記溶融金属に対する耐性を有するセラミックス板の片面にチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末からなる第2中間層形成用粉末層を形成したものを複数敷き詰め、これらのセラミックス板の間の間隙に、チタンまたはチタン合金からなる目地部材の少なくとも互いに対向する一対の側面にチタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末からなる接合層形成用粉末層を形成したものを埋める工程と、
上記チタン−ニッケル合金粉末および/またはチタン粉末とニッケル粉末との混合粉末が溶融する温度で加熱することにより、上記金属基材と上記セラミックス板との間に上記第1中間層形成用粉末層および上記第2中間層形成用粉末層によりチタンおよびニッケルを含む中間層を形成するとともに、少なくとも上記セラミックス板と上記目地部材との間に上記接合層形成用粉末層によりチタンおよびニッケルを含む接合層を形成する工程と、
を有する溶融金属処理機器の製造方法である。
この溶融金属処理機器の製造方法を実施することにより、上記の溶融金属処理機器を容易に製造することができる。この溶融金属処理機器の製造方法は、例えば、ノロ掻き等の製造に適用して好適なものである。この溶融金属処理機器の製造方法においては、その性質に反しない限り、上記の溶融金属処理機器の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
金属基材として、予め上記の下層保護層を形成したものを用いる場合、その下層保護層は次のようにして形成することができる。すなわち、金属基材の表面に金属炭化物を含むスラリー状粉末を塗布した後、第1の温度で加熱溶融することにより、素地金属中に、金属炭化物が分散し、または、金属炭化物からなる連続層を含む内層を形成する。また、内層上にチタン、ニオブ、タンタルおよびモリブデンからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むスラリー状粉末を塗布した後、上記第1の温度より低い第2の温度で加熱溶融することにより、処理しようとする溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含む外層を形成する。外層上にさらに酸化物層を形成する場合には、外層上に、溶融金属の溶融温度での耐酸化性および溶融金属に対する耐性を有する酸化物層を第1の温度および上記第2の温度以下の第3の温度で形成する。ここで、酸化物層の形成方法は特に限定されず、外層の表面を第3の温度で酸化処理することにより酸化物層を形成してもよいし、外層上に化学気相成長(CVD)法、真空蒸着法、スパッタリング法等により酸化物層を形成してもよい。酸化物層は、外層の形成と同時に形成することもできる。第1の温度、第2の温度および第3の温度、これらの温度での加熱時間、加熱時の雰囲気等は、使用する金属基材、金属炭化物等に応じて適宜選択される。例えば、第1の温度は1000℃以上1300℃以下、第2の温度は900℃以上1200℃以下である。第3の温度は、酸化物層の形成方法により異なるが、外層の表面を酸化処理する場合には例えば850℃以上1150℃以下、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法等により形成する場合には例えば室温以上400℃以下である。あるいは、金属基材として0.1重量%以上の炭素を含有する金属基材を用いる場合は、次のようにして内層、外層および酸化物層を形成する。すなわち、0.1重量%以上の炭素を含有する金属基材の表面に金属を含むスラリー状粉末を塗布した後、第1の温度で加熱溶融することにより、素地金属中に、金属炭化物が分散し、または、金属炭化物からなる連続層を含む内層を形成する。また、内層上にチタン、ニオブ、タンタルおよびモリブデンからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むスラリー状粉末を塗布した後、上記第1の温度より低い第2の温度で加熱溶融することにより、処理しようとする溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含む外層を形成する。さらに、外層上に、上記溶融金属の溶融温度での耐酸化性および上記溶融金属に対する耐性を有する酸化物層を上記第1の温度および上記第2の温度以下の第3の温度で形成する。ここで、0.1重量%以上の炭素を含有する金属基材としたのは、0.1重量%以上、より望ましくは0.2重量%以上の炭素を含有する金属基材であれば、その上に金属を含むスラリー状粉末を塗布した後、第1の温度で加熱溶融することにより、その金属と金属基材中の炭素とが反応して金属が炭化される結果、金属炭化物が形成されるためである。これに対して、先に説明した溶融金属処理機器の製造方法においては、金属基材の表面に金属炭化物を含むスラリー状粉末を塗布するため、金属基材中の炭素の有無あるいは炭素濃度は特に問題にならず、0.1重量%以上の炭素を含有する金属基材は勿論、0.1重量%未満の炭素しか含有しない金属基材であっても使用することができる。
この発明によれば、溶融金属処理機器を構成する金属基材の、少なくとも処理しようとする溶融金属と接触する側の表面の少なくとも一部に設けられた保護層が、溶融金属の溶融温度での耐酸化性および溶融金属に対する耐性を有するセラミックス体と、金属基材とセラミックス体との間に設けられた、チタンおよびニッケルを含む中間層とを有することにより、この溶融金属処理機器を溶融アルミニウム、溶融亜鉛等の溶融金属の各種の処理に用いた場合、特に、溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に晒される環境で、あるいは溶融金属が揺動・流動する環境で、あるいはノロ等の付着・剥離が繰り返し生じる環境下等で、優れた耐湯溶浸食性および耐高温酸化性を得ることができる。また、金属基材上に予め下層保護層が設けられている場合には、内層により、金属基材から外層への基材構成元素の拡散や外層から金属基材への元素の拡散を抑制することができ、外層により、外層自身の構成元素の溶融金属への溶出を抑制することができる結果、基材構成元素の溶出を防止することができ、さらに、外層上に酸化物層が設けられる場合には、この酸化物層により、高温酸化に対する保護性および溶融金属に対する耐性(安定性)を得ることができる。このため、溶融アルミニウム、溶融亜鉛等の溶融金属の各種の処理に用いた場合により優れた耐高温酸化性および耐湯溶浸食性を兼備した各種の溶融金属処理機器を実現することができる。
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」と言う。)について説明する。
〈第1の実施の形態〉
[熱電対保護管]
第1の実施の形態においては、溶融金属処理機器が熱電対保護管である場合について説明する。
図2はこの熱電対保護管を示す。図2に示すように、この熱電対保護管においては、一端が閉じられた円管状の金属基材100の外周面にこの金属基材100の全周にわたって中間層200およびセラミックス体300が順次設けられ、これらの中間層200およびセラミックス体300により保護層が形成されている。この保護層は、金属基材100の外周面のうち、この熱電対保護管の使用時に金属基材100が溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に接触する部位を少なくとも含む所定の部位、金属基材に対して溶融金属が揺動・流動する部分、ノロ等の付着・剥離が繰り返し起きる部位等に設けられる。図2においては、一例として、円管状の金属基材100の長手方向の所定の長さの範囲の外周面に保護層が設けられている場合が示されている。この熱電対保護管の金属基材100の内部に熱電対400がその接合部がこの金属基材100の閉じられた底部付近に位置するように挿入される。
金属基材100は、例えば、先に例示したものの中から、熱電対保護管の用途、要求される機能、中間層200の形成方法等に応じて適宜選択することができ、鉄鋼材料、非鉄金属材料のいずれからなるものであってもよく、炭素の含有の有無あるいは含有濃度も特に限定されない。具体的には、例えば、金属基材100の材料は、費用対効果の観点から、一般的には鉄鋼材料であり、望ましくは、軟鋼、炭素鋼、鋳鋼、ステンレス鋼等である。
中間層200は、金属基材100とセラミックス体300との接合を確保し、金属基材100とセラミックス体300との接合体に発生する接合応力や熱応力を軽減するためのものである。さらに、中間層200は、熱電対保護管の稼働中に仮に、セラミックス体300がその保護性を喪失するとき、溶融金属が金属基材100側に侵入するのを阻止するためのものである。中間層200はTiおよびNiを含み、典型的には、Tiの濃度範囲が50重量%以上95重量%以下のTi−Ni合金を含む。このTi−Ni合金は、典型的には、例えば、90重量%Ti−10重量%Ni合金または72重量%Ti−28重量%Ni合金である。中間層200は、好適には、Ti−Ni合金に加えて、W、Mo、Nb、Ta、Cr、Re、Fe、Al2 O3 およびSiCからなる群から選択される一種以上を含み、特に望ましくは、W、Mo(あるいはW、Mo、Cr)およびAl2 O3 を含み、好適には、W、Mo、Nb、Ta、Cr、Re、Fe、Al2 O3 およびSiCからなる群から選択される一種を総和で30重量%以上80重量%以下、好適には、40重量%以上70重量%以下含む。
セラミックス体300は、この熱電対保護管で温度を測定しようとする溶融金属の溶融温度での耐酸化性(高温酸化に対する保護性と言い換えることもできる)および溶融金属に対する耐性を有するものであり、先に例示したものの中から必要に応じて選択されるが、望ましくは、アルミナ(Al2 O3 )または炭化ケイ素(SiC)からなる。Al2 O3 およびSiCは高温雰囲気での耐酸化性および溶融アルミニウムに対する優れた安定性を有し、廉価であり費用対効果にも優れている。セラミックス体300としては、例えば、円管状の金属基材100の外径より大きい内径を有する管を用いることができる。セラミックス体300の厚さは、特に制限はないが、一般的には0.05mm以上5mm以下、好適には0.1mm以上3mm以下である。セラミックス体300の厚さが0.05mmより小さい場合には耐湯溶浸食性に劣り、5mmより大きい場合には接合応力および熱応力によってセラミックス体300の亀裂や剥離を生じやすい。
[熱電対保護管の製造方法]
図3Aに示すように、まず、一端が閉じられた円管状の金属基材100を用意する。金属基材100の形状、長さ、厚さ等は、製造しようとする熱電対保護管に応じて決められる。次に、この金属基材100を円筒状のセラミックス体300の内部に挿入し、この金属基材100の外周面のうち保護層を形成しようとする部位に対応する位置にセラミックス体300が金属基材100に対して同軸に配置するようにする。そして、金属基材100とセラミックス体300とを隙間を介して互いに対向した状態で保持する。
次に、図3Bに示すように、金属基材100とセラミックス体300との間の隙間に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Re粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを流し込み、乾燥させる。スラリーの液としては、例えば、有機溶剤、エタノールなどが用いられる。スラリーの乾燥方法は、特に問わないが、減圧雰囲気(例えば、油回転ポンプにより真空排気を行うことにより得られる)あるいは不活性ガス雰囲気の電気炉による加熱を用いるのが望ましい。こうして、金属基材100とセラミックス体300との間の隙間が中間層形成用粉末層500により埋められる。
次に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融する温度に加熱することにより、中間層形成用粉末層500により、TiおよびNiを含む中間層200を形成する。この加熱は、好適には、二段階で行う。すなわち、第1段目の加熱は1075℃以上1225℃以下の温度で30分から2時間、第2段目の加熱は1175℃以上1270℃以下の温度で30分から4時間行う。加熱方法としては、例えば、減圧雰囲気および不活性ガス(Ar)雰囲気で、電気炉による加熱方法を用いることができる。第1段目の加熱は、好適には、1200℃で1時間である。第2段目の加熱は、好適には、1250℃で2時間である。第1段目の加熱により、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融してセラミックス体300との接合を確実なものとし、第2段目の加熱により、金属基材100と中間層形成用粉末層500に含まれる高融点金属、Al2 O3 等の酸化物、SiC等の炭化物との接合を確保することができる。第1段目の加熱温度が1075℃未満、加熱時間が30分未満の場合は、スラリーの溶融・焼結が不十分のためセラミックス体300との密着性に劣る。第2段目の加熱温度が1270℃を超え、加熱時間が4時間を超えると、金属基材100も過大に溶融されてしまうおそれがある。
この第1の実施の形態によれば、溶融アルミニウム、溶融亜鉛等の溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に晒される環境で、あるいは溶融金属が揺動・流動する状態で、あるいはノロ等の付着・剥離が繰り返し生じる環境下等で、優れた耐湯溶浸食性および耐高温酸化性を得ることができる熱電対保護管を実現することができる。すなわち、図4に示すように、この熱電対保護管に熱電対400を挿入し、この熱電対保護管を溶融金属、例えば溶融Alに入れて温度を測定する場合、中間層200およびセラミック体300からなる保護層を設けていない熱電対保護管であれば、溶融金属と高温酸化雰囲気とが共存するメニスカス領域に接した部分がメニスカス領域の液面の揺動により一点鎖線で示すように局所的に減肉が生じてしまうのに対し、この外周面に中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が設けられた熱電対保護管では、この保護層によりそのような問題が生じることがなく、減肉を有効に防止することができる。また、図5に示すように、この熱電対保護管に熱電対400を挿入し、この熱電対保護管を溶融金属、例えば溶融Alに入れて温度を測定する場合、この保護層を設けていない熱電対保護管であれば、溶融金属の液面にノロが浮遊している場合、そのノロ等の付着・剥離が繰り返し起きることにより摩擦および摩耗が生じて一点鎖線で示すように局所的に減肉が生じてしまうのに対し、この外周面にこの保護層が設けられた熱電対保護管では、この保護層によりそのような問題が生じることがなく、減肉を有効に防止することができる。
〈第2の実施の形態〉
[熱電対保護管]
第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、溶融金属処理機器が熱電対保護管である場合について説明する。
図6はこの熱電対保護管を示す。図6に示すように、この熱電対保護管においては、一端が閉じられた円管状の金属基材100の底部およびこの底部に連なる外周面の所定の高さの領域の全周にわたって中間層200が設けられている。そして、金属基材100の外周面の中間層200上にセラミックス体300が設けられ、これらの中間層200およびセラミックス体300により保護層が形成されている。図6においては、一例として、円管状の金属基材100の長手方向の所定の長さの範囲の外周面に保護層が設けられている場合が示されている。これらの金属基材100、中間層200およびセラミックス体300については第1の実施の形態と同様である。金属基材100の底部に設けられた中間層200上には円形の栓部材600がセラミックス体300の一端にこの一端を塞ぐように嵌め込まれている。栓部材600は、熱伝導性、耐湯溶浸食性およびセラミックス体300との接合性のそれぞれに対して優れた特性を有するチタンまたはチタン合金からなる。ここで、チタンの純度は高い方が望ましいが、例えば、純度99.5原子%以下の廉価なもので足りる。チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4V合金が用いられる。栓部材600の厚さは、特に限定されないが、好適には、0.1mm以上5mm以下、より好適には、0.5mm以上3mm以下である。栓部材600の厚さが5mmを超えると温度の応答性に劣り、0.1mm未満であると耐湯溶浸食性に劣る。この熱電対保護管の金属基材100の内部に熱電対400がその接合部がこの金属基材100の閉じられた底部付近に位置するように挿入される。
[熱電対保護管の製造方法]
図7Aに示すように、まず、円筒状のセラミックス体300の一端に栓部材600を嵌め込む。
次に、図7Bに示すように、一端が閉じられた円管状の金属基材100を円筒状のセラミックス体300の内部に挿入し、この金属基材100の外周面のうち保護層を形成しようとする部位に対応する位置にセラミックス体300が金属基材100に対して同軸に配置するようにする。そして、金属基材100とセラミックス体300および栓部材600とを隙間を介して互いに対向した状態で保持する。
次に、図7Cに示すように、金属基材100とセラミックス体300および栓部材600との間の隙間に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Re粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを流し込み、乾燥させる。こうして、金属基材100とセラミックス体300および栓部材600との間の隙間が中間層形成用粉末層500により埋められる。
次に、第1の実施の形態の製造方法と同様に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融する温度に加熱することにより、中間層形成用粉末層500により、図6に示すように、TiおよびNiを含む中間層200を形成する。
この第2の実施の形態によれば、金属基材100の外周面に中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が形成されていることにより、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。これに加えて、この第2の実施の形態によれば、セラミックス体300の一端にチタンまたはチタン合金からなる栓部材600がこの一端を塞ぐように設けられていることにより、熱電対保護管の底部で減肉が生じるのを有効に防止することができる。特に、図7に示すように、この熱電対保護管に熱電対400を挿入し、この熱電対保護管を溶融金属、例えば溶融Alに入れて温度を測定する場合、この保護層を設けていない熱電対保護管であれば、溶融金属の湯流れがある場合、熱電対保護管がその湯流れに晒されて一点鎖線で示すように局所的に減肉が生じてしまうのに対し、外周面にこの保護層が設けられた熱電対保護管では、この保護層によりそのような問題が生じることがなく、減肉を有効に防止することができる。
〈第3の実施の形態〉
[熱電対保護管]
第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、溶融金属処理機器が熱電対保護管である場合について説明する。
図9はこの熱電対保護管を示す。図9に示すように、この熱電対保護管においては、一端が閉じられた円管状の金属基材100の底部およびこの底部に連なる外周面の所定の高さの領域の全周にわたって中間層200が設けられている。そして、金属基材100の外周面の中間層200上にセラミックス体300が設けられ、これらの中間層200およびセラミックス体300により保護層が形成されている。図9においては、一例として、円管状の金属基材100の長手方向の所定の長さの範囲の外周面に保護層が設けられている場合が示されている。これらの金属基材100、中間層200およびセラミックス体300については第1の実施の形態と同様である。金属基材100の底部に設けられた中間層200上には円形の第1栓部材600aがセラミックス体300の一端にこの一端を塞ぐように嵌め込まれている。第1栓部材600aは、タングステンまたはタングステン合金からなる。この第1栓部材600aの外側にはさらに、セラミックス体300の一端面およびこの第1栓部材600aを覆うように第2栓部材600bが設けられている。第2栓部材600bは、チタンまたはチタン合金からなる。この熱電対保護管の金属基材100の内部に熱電対400がその接合部がこの金属基材100の閉じられた底部付近に位置するように挿入される。
[熱電対保護管の製造方法]
図10Aに示すように、円筒状のセラミックス体300の一端に第1栓部材600aを嵌め込み、続いてこの第1栓部材600a上にセラミックス体300の一端面に跨がるように第2栓部材600bを設ける。
次に、図10Bに示すように、第1の実施の形態の製造方法と同様に、金属基材100をセラミックス体300の内部に挿入し、この金属基材100の外周面のうち保護層を形成しようとする部位に対応する位置にセラミックス体300が金属基材100に対して同軸に配置するようにする。そして、金属基材100とセラミックス体300および第1栓部材600aとを隙間を介して互いに対向した状態で保持する。
次に、図10Cに示すように、金属基材100とセラミックス体300および第1栓部材600aとの間の隙間に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを流し込み、乾燥させることにより、中間層形成用粉末層500を形成する。こうして、金属基材100とセラミックス体300および第1栓部材600aとの間の隙間が中間層形成用粉末層500により埋められる。
次に、第1の実施の形態の製造方法と同様に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融する温度に加熱することにより、中間層形成用粉末層500により、TiおよびNiを含む中間層200を形成する。
以上により、図9に示すように、金属基材100上に中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が形成される。
この第3の実施の形態によれば、金属基材100の外周面に中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が形成されていることにより、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。これに加えて、セラミックス体300の一端面および第1栓部材600aを覆うようにチタンまたはチタン合金からなる第2栓部材600bが設けられていることにより、第2の実施の形態と同様に、熱電対保護管の底部で減肉が生じるのを有効に防止することができる。さらに、セラミックス体300の一端に熱膨張係数がセラミックス体300に近いタングステンまたはタングステン合金からなる第1栓部材600aがこの一端を塞ぐように設けられていることにより、この熱電対保護管を溶融金属から取り出した後の冷却時にセラミックス体300に亀裂や剥離等が生じるのを有効に防止することができる。
〈第4の実施の形態〉
[熱電対保護管]
第4の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、溶融金属処理機器が熱電対保護管である場合について説明する。
図11はこの熱電対保護管を示す。図11に示すように、この熱電対保護管においては、一端が閉じられた円管状の金属基材100の外周面の所定の高さの領域の全周にわたって中間層200およびセラミックス体300が順次設けられている。そして、これらの中間層200およびセラミックス体300により保護層が形成されている。金属基材100、中間層200およびセラミックス体300については第1の実施の形態と同様である。金属基材100の底部から外周面に掛けて接合層700が中間層200と接触して設けられている。そして、金属基材100の底部には、この接合層700を介してキャップ状栓部材800が被せられている。このキャップ状栓部材800はチタンまたはチタン合金からなる。このキャップ状栓部材800の外径はセラミックス体300の外径とほぼ同じである。このキャップ状栓部材800の高さは必要に応じて選ばれ、例えば、図11中一点鎖線(キャップ状栓部材800の上端面およびセラミックス体300の下端面を示す)で示すように、より大きな高さにしてもよい。接合層700は、セラミックス体300の一端面と栓部材800との間に延在している。この熱電対保護管の金属基材100の内部に熱電対400がその接合部がこの金属基材100の閉じられた底部付近に位置するように挿入される。
[熱電対保護管の製造方法]
図12Aに示すように、キャップ状栓部材800を用意する。このキャップ状栓部材800は、一体に形成されたものであっても、例えば、管の一端に、中間層形成用粉末層と同様なTi−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末からなる粉末層を挟んで円板を張り合わせたものであってもよい。
次に、図12Bに示すように、金属基材100の底部に対してキャップ状栓部材800をこの底部に被せるようにして隙間を空けて保持し、この状態でこの隙間にTi−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末を含むスラリーを流し込み、さらに栓部材800の上端面までスラリーが形成されるようにし、乾燥させる。こうして、接合層形成用粉末層900が形成される。
次に、図12Cに示すように、第1の実施の形態の製造方法と同様に、金属基材100をセラミックス体300の内部に挿入し、このセラミックス体300の一端面が接合層形成用粉末層900を介してキャップ状栓部材800と接触するようにし、金属基材100とセラミックス体300とを隙間を介して互いに対向した状態で保持する。
次に、図12Dに示すように、金属基材100とセラミックス体300との間の隙間に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Re粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを流し込み、乾燥させることにより、中間層形成用粉末層500を形成する。こうして、金属基材100とセラミックス体300との間の隙間が中間層形成用粉末層500により埋められる。
次に、第1の実施の形態の製造方法と同様に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融する温度に加熱することにより、中間層形成用粉末層500によりTiおよびNiを含む中間層200を形成し、接合層形成用粉末層900によりTiおよびNiを含む接合層700を形成する。
以上により、図11に示すように、金属基材100の外周面に中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が形成され、金属基材100の底部に接合層700を介してキャップ状栓部材800が被せられた熱電対保護管が製造される。
この第4の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
〈第5の実施の形態〉
[ノロ掻き]
第5の実施の形態においては、溶融金属処理機器がノロ掻きである場合について説明する。
図13はこのノロ掻きを示す。図13に示すように、このノロ掻きは、柄910とこの柄910の先端に設けられたL字型の形状を有する掻き板920とからなる。掻き板920の平面形状は等脚台形状である。掻き板920は金属基材100からなり、柄910も一般的には掻き板920と同じ材料により形成されている。図14は掻き板920の先端部の一部の断面図である。図14に示すように、掻き板920の表面のうち、少なくとも使用時に溶融金属と接触する可能性のある部位の金属基材100上に中間層200が設けられ、その上にセラミックス板921が複数、敷き詰められている。中間層200およびセラミックス板921により保護層が形成されている。セラミックス板921と隣のセラミックス板921との間の隙間は目地部材922により埋められている。目地部材922はTiまたはTi合金からなる。セラミックス板921と目地部材922との間にはTiおよびNiを含む接合層923が形成されている。掻き板920を構成する金属基材100、中間層200およびセラミックス板921については第1の実施の形態と同様である。
[ノロ掻きの製造方法]
図15Aに示すように、保護層が形成されていない状態の柄910および掻き板920からなるノロ掻きを用意し、このノロ掻きの掻き板920を構成する金属基材100の表面のうち保護層を形成しようとする部位に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Re粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを塗布し、乾燥させる。こうして、掻き板920の必要な部位の表面に中間層形成用粉末層500aが形成される。また、セラミックス板921の片面にTi−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末、あるいは必要に応じてさらに、W粉末、Mo粉末、Nb粉末、Ta粉末、Cr粉末、Re粉末、Fe粉末、Al2 O3 粉末、SiC粉末等を含むスラリーを塗布し、乾燥させることにより、中間層形成用粉末層500bを形成する。また、目地部材922の表面にTi−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させることにより、接合層形成用粉末層900を形成する。
次に、図15Bに示すように、金属基材100上の中間層形成用粉末層500a上に中間層形成用粉末層500bが形成されたセラミックス板921を複数敷き詰める。次に、セラミックス板921の間の隙間を、予め表面に接着層形成用粉末層900を形成した目地部材922により埋める。
次に、第1の実施の形態の製造方法と同様に、Ti−Ni合金粉末あるいはTi粉末とNi粉末との混合粉末が溶融する温度に加熱することにより、中間層形成用粉末層500a、500bにより、TiおよびNiを含む中間層200を形成する。また、接着層形成用粉末層900により接合層923が形成される。
以上により、図14に示すように、掻き板920の表面に中間層200およびセラミックス板300からなる保護層が形成され、セラミックス板921の間の隙間が目地部材922により埋められた図13および図14に示すようなノロ掻きが製造される。
この第5の実施の形態によれば、ノロ掻きの掻き板920の表面に中間層200およびセラミックス板300からなる保護層が形成されていることにより、このノロ掻きにより溶融金属、例えば溶融Alの表面に浮いているノロを除去する時にノロ等の付着・剥離が繰り返し起きることによる、摩耗・溶損による減肉を有効に防止することができる。すなわち、図16に示すように、このノロ掻きにより溶融金属、例えば溶融Alの表面に浮いているノロを除去する時、掻き板920の表面に保護層を設けていないノロ掻きであれば、ノロ等の付着・剥離が繰り返し起きる部位が摩耗・溶損により一点鎖線で示すように局所的に減肉が生じてしまうのに対し、この掻き板920の表面に保護層が設けられたノロ掻きでは、保護層によりそのような問題が生じることがなく、減肉を有効に防止することができる。
〈第6の実施の形態〉
[熱電対保護管]
第6の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、溶融金属処理機器が熱電対保護管である場合について説明する。
図17はこの熱電対保護管を示す。図17に示すように、この熱電対保護管においては、円筒状の金属基材100上に内層1200、外層1300および酸化物層1400が順次積層され、さらに酸化物層1400上に第1の実施の形態と同様な中間層200およびセラミックス体300が順次積層されている。そして、これらの内層1200、外層1300、酸化物層1400、中間層200およびセラミックス体300により保護層が形成されている。
金属基材100、中間層200およびセラミックス体300については第1の実施の形態と同様である。
内層1200は、金属基材100を構成する元素の外層1300への拡散および外層1300を構成する元素の金属基材100への拡散を抑制するためのものであり、素地金属中に、金属炭化物が分散し、または、金属炭化物からなる連続層を含むものである。素地金属中に金属炭化物が分散した形態では、内層1200の厚さに特に制限はないが、一般的には厚さを1μm以上とするのが望ましい。これに対して、内層1200が金属炭化物からなる連続層を含む場合、この連続層の厚さは1μm以上20μm以下、望ましくは3μm以上10μm以下である。この連続層の厚さが1μm未満であると拡散障壁として機能が不十分であり、20μmを超えると、外層1300との密着性が劣り、外層1300が剥離しやすくなる。金属炭化物は、例えば、好適には、チタン炭化物、ニオブ炭化物、タングステン炭化物およびアルミニウム炭化物からなる群より選ばれた少なくとも一種であるが、そのほか、鉄炭化物、クロム炭化物、タンタル炭化物、モリブデン炭化物、ケイ素炭化物等であってもよい。内層1200に含まれる金属炭化物は、金属基材100の構成元素の外層1300への拡散および外層1300の構成元素の金属基材100への拡散を抑制する機能を有し、外層1300の長寿命化に寄与する。例えば、熱電対保護管の使用中に仮に、酸化物層1400がその保護性を喪失すると、外層1300は溶融金属と反応して合金相に変化し、内層1200がなければ、続いて金属基材100との合金化に移行する。しかしながら、このとき、炭化物を含有する内層1200は、この溶融金属の原子の拡散を阻止する機能を有する。この場合、内層1200に含まれる金属炭化物が連続的であることが、より効果的である。したがって、内層1200は合金層の成長による金属基材100の減肉を抑制するのに効果的である。具体例を挙げると、溶融金属が溶融アルミニウムである場合、チタンは溶融アルミニウムに対して優れた耐性を有するため、好適には、金属炭化物としてチタン炭化物が用いられる。加えて、チタンは溶融アルミニウムに対して優れた耐性を有するチタン酸化物を形成し、チタン酸化物は良好な耐酸化性を有する。
外層1300は、溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含むものであり、これらの金属またはその化合物は、例えば、チタン、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステンおよびそれらの炭化物からなる群より選ばれた少なくとも一種である。外層1300は、自身の構成元素の溶融金属への溶出を抑制することができる結果、溶融金属と接触したとき、金属基材100の構成元素の溶出を防止することができる。例えば、溶融金属が溶融アルミニウムである場合には、外層1300に含まれる金属またはその化合物は、望ましくは、チタン、ニオブ、タンタルおよびそれらの炭化物であり、さらに望ましくは、チタンおよびチタン炭化物である。これらの金属および炭化物は溶融アルミニウムへの溶解度が1原子%以下と小さく、外層1300の溶融アルミニウムへの溶出を効果的に抑制することができ、金属基材100の構成元素による溶融アルミニウムの汚染を軽減できる。溶融金属が溶融亜鉛である場合には、外層1300に含まれる金属またはその化合物は、望ましくは、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステンおよびそれらの炭化物であり、さらに望ましくは、非特許文献2によると、モリブデンおよびモリブデン炭化物である。モリブデンは溶融亜鉛への溶解度が1原子%以下と小さく、外層1300の溶融亜鉛への溶出を軽減し、それによって溶融亜鉛の汚染を防止することができる。また、例えば、溶融金属が溶融アルミニウムである場合において、酸化処理により外層1300の表面に酸化物層1400を形成する場合には、外層1300は、チタンおよびアルミニウムを含有していることが望ましい。特に、雰囲気での高温酸化に曝される部位の金属基材100上の酸化物層1400にはチタンに加えてアルミニウムを含有することが望ましい。チタンおよびアルミニウムの酸化により形成されるチタン酸化物およびアルミニウム酸化物は、耐湯溶浸食に対して優れた特性を有し、アルミニウム酸化物皮膜は雰囲気での高温酸化に対する保護膜として作用する。酸化物層1400中のチタンおよびアルミニウムの総和は望ましくは50原子%以上95原子%以下、より望ましくは、60原子%以上90原子%以下である。チタンおよびアルミニウムの総和が50原子%未満の場合には多孔質なチタン・アルミニウム合金になり、溶融アルミニウムが混入し、95原子%を超えるとチタン・アルミニウム合金が脆弱となり、剥離しやすくなる。また、溶融金属が溶融亜鉛である場合において、酸化処理により外層1300の表面に酸化物層1400を形成する場合には、外層1300は、モリブデンを含有していることが望ましい。モリブデンは、耐亜鉛湯溶浸食に対して優れた特性を有する。モリブデンの濃度は、60原子%以上で、望ましくは、60原子%以上90原子%以下である。濃度が60原子%未満の場合、多孔質なモリブデン含有合金になり、溶融亜鉛が混入するため、耐湯溶浸食性に劣り、濃度が90原子%を超えると、スラリーの加熱処理において、緻密なモリブデン合金が形成されにくく、脆弱であり、剥離しやすくなる。
酸化物層1400は、溶融金属の溶融温度での耐酸化性(高温酸化に対する保護性と言い換えることもできる)および溶融金属に対する耐性を有するものであり、先に例示したものの中から必要に応じて選択されるが、望ましくは、チタン酸化物(TiO2 )またはアルミニウム酸化物(Al2 O3 )である。アルミニウム酸化物は高温雰囲気での耐酸化性および溶融アルミニウムに対する優れた安定性を有し、チタン酸化物は溶融アルミニウムに対して安定であるという特性を有する。酸化物層1400は、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガン、ニオブ、タンタル、タングステン、ホウ素およびケイ素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素の酸化物を含むことがある。これらの酸化物を構成する元素は外層1300の組織を緻密化するために添加されることがあるものであり、外層1300の表面に酸化処理により酸化物層1400を形成する工程で外層1300から酸化物層1400に混入するものである。酸化物層1400は、溶融アルミニウム浴では、Alと反応し、金属に還元されて、酸化物としての機能を喪失する。溶融亜鉛に対しても、アルミニウム酸化物およびチタン酸化物は優れた効果を発揮する
[熱電対保護管の製造方法]
まず、円筒状の金属基材100を用意する。
次に、金属基材100の外周面のうちの保護層を形成しようとする部位に、素地金属中に、金属炭化物が分散し、または、金属炭化物からなる連続層を含む内層1200を形成する。例えば、金属基材100の表面に金属炭化物を含むスラリー状粉末を塗布した後、第1の温度で加熱溶融することにより、内層1200を形成する。具体的には、例えば、原料粉末を秤量し、乳鉢で混練した後、スラリー液に投入し、スラリー状混合粉末を作製する。スラリーの粘性は、例えば、エタノール添加により調整する。このスラリー状混合粉末を金属基材100の表面に塗布する。例えば、金属基材100の全体をスラリー状混合粉末中に浸漬した後、引き上げることにより金属基材100の表面全体にスラリー状混合粉末を塗布することができる。次に、こうしてスラリー状混合粉末を塗布した金属基材100を例えば60〜80℃に加熱した電熱オーブンに入れて乾燥した後、加熱する。加熱方法は特に制限はないが、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) および不活性ガス雰囲気の電気炉による加熱、ならびに、燃焼ガスフレームによるいわゆるフュージョン処理が望ましい。後述の参考実施例では、減圧雰囲気および不活性ガス(Ar)雰囲気で、電気炉による加熱方法を採用した。加熱温度は例えば1050℃以上1270℃以下、望ましくは1100℃以上1250℃以下、加熱時間は例えば1分以上10時間以下、望ましくは5分以上4時間以下である。加熱温度が1050℃未満、加熱時間が1分未満の場合はスラリーの溶融・焼結が不十分であり、多孔質となり密着性に劣り、加熱温度が1270℃を超え、加熱時間が10時間を超えると、金属基材100も過大に溶融されてしまうおそれがある。この加熱処理の結果、金属炭化物が分散状態または連続層となることによって、内層1200が形成される。
金属基材100が炭素含有量0.1重量%未満の低炭素含有基材の場合には、上記の工程の前処理として、炭素および高融点金属を含む中間層を形成する。この中間層を形成する方法および条件は上記の工程に準じる。炭素源としては金属炭化物が挙げられるが、望ましくはタングステン炭化物、ニオブ炭化物、タンタル炭化物であり、さらに望ましくはタングステン炭化物である。
金属基材100が炭素含有量0.1重量%以上の高炭素含有基材の場合には、金属炭化物の代わりに金属を含むスラリー状混合粉末を金属基材100の表面に塗布し、こうしてスラリー状混合粉末を塗布した金属基材100を上記と同様にして乾燥し、加熱することにより内層1200を形成するようにしてもよい。こうすることで、金属炭化物が分散状態または連続層として形成され、内層1200が形成される。
次に、内層1200上に、処理しようとする溶融金属への溶解度が1原子%以下の金属またはその化合物を含む外層1300を形成する。例えば、内層1200上にチタン、ニオブ、タンタルおよびモリブデンからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むスラリー状粉末を塗布した後、第1の温度より低い第2の温度で加熱溶融することにより、外層1300を形成する。具体的には、原料粉末を秤量し、乳鉢で混練した後、スラリー液に投入し、スラリー状混合粉末を作製する。スラリーの粘性は、例えば、エタノール添加により調整する。このスラリー状混合粉末を内層1200の表面に塗布する。例えば、金属基材100の全体をスラリー状混合粉末中に浸漬した後、引き上げることにより内層1200の表面全体にスラリー状混合粉末を塗布することができる。次に、こうして内層1200上にスラリー状混合粉末を塗布した金属基材100を例えば60〜80℃に加熱した電熱オーブンに入れて乾燥した後、加熱する。加熱方法は特に制限はないが、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) および不活性ガス雰囲気の電気炉による加熱、ならびに、燃焼ガスフレームによるいわゆるフュージョン処理が望ましい。後述の実施例では、減圧雰囲気および不活性ガス(Ar)雰囲気で、電気炉による加熱方法を採用したが、アルミナ粉末に埋没させて加熱してもよい。加熱温度は例えば950℃以上1170℃以下、望ましくは1000℃以上1150℃以下、加熱時間は例えば10分以上4時間以下、望ましくは30分以上2時間以下である。加熱温度が950℃未満、加熱時間が10分未満の場合はスラリーの溶融・焼結が不十分であり、多孔質となり密着性に劣り、加熱温度が1170℃を超え、加熱時間が4時間を超えると、内層1200も過大に溶融されてしまうおそれがある。アルミナ粉末に埋没させて加熱すると、外層1300の表面にはアルミナを混合したサーメットを形成することができ、後述の酸化物層1400の一部を形成する。
酸化物層1400は、外層1300を形成した後、その表面を第1の温度および第2の温度以下の第3の温度で酸化処理したり、その表面にCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法等により形成したりすることにより形成してもよいし、外層1300の形成時に同時に形成してもよい。外層1300を形成した後、その表面を第1の温度および第2の温度以下の第3の温度で酸化処理する場合、第3の温度、すなわち加熱温度は、例えば800℃以上1170℃以下、望ましくは900℃以下1150℃以下、加熱時間は例えば10分以上4時間以下、望ましくは30分以上2時間以下である。酸化物層1400は、外層1300を形成した後、引き続き高温に加熱した状態で、減圧雰囲気または不活性ガス雰囲気に空気を導入して、外層1300に含まれている元素の高温酸化反応を利用して外層1300の表面に形成することもできる。また、外層1300をフュージョン処理により形成する場合、フュージョン処理は大気中で行われることが一般的であるから、外層1300の表面に酸化物層1400が同時に形成される。減圧雰囲気に導入する空気および/または酸素の圧力を調整することによって、酸化時の酸素活量を制御することができる。空気導入量が少量の時は、いわゆる低酸素雰囲気での酸化となり、緻密な酸化物層1400をゆっくりと成長させることができる。空気導入量が多量の時は、酸化物層1400を厚く成長させることができる。外層1300を酸化処理することにより酸化物層1400を形成する場合、外層1300にチタン、チタン炭化物、アルミニウム等が含まれると、これらが酸化されて、チタン酸化物およびアルミニウム酸化物が形成されるが、これらの酸化物と外層1300との界面は凹凸状であり、酸化物層1400が外層1300に強固に密着しているので望ましい。
この後、酸化物層1400上に第1の実施の形態と同様にして中間層200およびセラミックス体300を形成する。
以上により、内層1200、外層1300、酸化物層1400、中間層200およびセラミックス体300からなる保護層が形成され、図19に示す目的とする熱電対保護管が製造される。
この第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な効果をより確実に得ることができる。
以下、実施例に基づいて、より詳細に説明する。
〈コーティング皮膜の組織観察と元素分析について〉
(1)蛍光X線装置(日本電子株式会社製エレメントアナライザー)を用いて、皮膜表面の元素分析を行った。なお、本測定では、酸素、窒素、炭素、ホウ素等の軽元素の分析は行っていない。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型元素分析装置(EDAX)を用いて、金属基材100とコーティング皮膜との断面組織を観察し、各元素の濃度分布を測定した。なお、本測定手法では、炭素とホウ素の存在は確認できるが、定量的にそれらの濃度を測定することは困難であった。したがって、ここでは、炭素とホウ素が検出された相を炭化物とホウ化物と表記している。
〈溶融アルミニウム合金への浸漬試験について〉
実施例に使用した金属基材の材料は、鉄(Fe)、ステンレス鋼(SUS304、SUS310)である。比較のため、コーティングなしの金属基材についても浸漬試験を実施した。アルミナ坩堝に溶解したAl−Si系合金(ADC12)浴中に試験片を挿入し、種々の時間経過後に取り出して観察に供した。温度800℃では最長72時間の浸漬試験を行った。
湯溶浸食の程度は、浸漬試験後の金属基材を面に垂直に切断して、金属基材の厚さをデジタル光学顕微鏡で測定し、減肉量として評価した。
〈実施例1〉
実施例1は第1の実施の形態に対応するものであるが、ここでは、円筒状の金属基材100に相当するものとして、直径10mmの炭素鋼(炭素含有量が0.45重量%) の丸棒を用い、セラミックス体300として内径11mm、外径14mmのアルミナ管を用いた。
図3AおよびBに示す方法と同様に工程1〜4により丸棒の表面に保護皮膜を形成した。
(工程1)
アルミナ管を用意した。
(工程2)
丸棒をアルミナ管内に設置した。
(工程3)
丸棒とアルミナ管との間の隙間を埋めるように、エタノール中にTi粉末とNi粉末との混合粉末(Ti粉末とNi粉末との重量比は9:1)を含むスラリーを流し込み、乾燥した。こうして、Ti粉末とNi粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成した。
(工程4)
真空中で二段階の加熱を行った。第1段の加熱は1200℃で1時間、第2段の加熱は1250℃で2時間である。こうして、中間層形成用粉末層により中間層を形成し、この中間層とアルミナ管とにより保護層を形成した。
上記のようにして丸棒の表面に保護層を形成した試験片をアルミナ坩堝に溶解したAl−Si合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で15時間の浸漬試験を行った後、試験片をAl−Si合金浴から取り出した。図18および図19はそれぞれ、こうして取り出した試験片の断面組織を撮影した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図18に示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表3は図19に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
図20および図21はそれぞれ、上記の試験片の断面組織の一部を拡大した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図20に示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表4は図21に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
ここで、図18および図21中、アルミナ管と中間層との間に見られる隙間は、試験片の切断・研磨中に形成されたものである。図18および図21より、アルミナ管と丸棒とは中間層を介して接合しており、アルミナ管の表面には接合層(Al2 O3 +TiO2 )が観察される。アルミナ管の厚さは、溶融Al浸漬前後でそれぞれ減肉は認められなかった。
〈実施例2〉
実施例2は第2の実施の形態に対応するものであるが、ここでは、実施例1と同様に、円筒状の金属基材100に相当するものとして、直径10mmの炭素鋼(炭素含有量が0.45重量%) の丸棒を用い、セラミックス体300として内径11mm、外径14mmのアルミナ管を用い、栓部材600として厚さ0.5mmの円形のTi板を用いた。
図7A〜Cに示す方法と同様に工程1〜5により丸棒の表面に保護層を形成した。
(工程1)
アルミナ管の開口端に栓部材600として円形のTi板を嵌め込んだ。
(工程2)
丸棒をアルミナ管内に設置した。
(工程3)
丸棒とアルミナ管との間の隙間を埋めるように、実施例1と同様なTi粉末とNi粉末との混合粉末を含むスラリーを流し込み、乾燥した。こうして、Ti粉末とNi粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成した。
(工程4)
真空中で二段階の加熱を行った。第1段の加熱は1200℃で1時間、第2段の加熱は1250℃で2時間である。こうして、中間層形成用粉末層により中間層を形成し、この中間層とアルミナ管とにより保護層を形成した。
上記のようにして丸棒の表面に保護層を形成し、この丸棒をアルミナ坩堝に溶解したAl−Si合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で15時間の浸漬試験を行った後、丸棒をAl−Si合金浴から取り出した。図22および図23はそれぞれ、こうして取り出した丸棒の断面組織を撮影した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図22に示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表5は図23に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
図24および図25はそれぞれ、上記の試験片の断面組織の一部を拡大した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図24に示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表6は図25に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
ここで、図22および図24中、アルミナ管と中間層との間に見られる隙間、アルミナ管のクラック等は、試験片の切断・研磨中に形成されたものである。図22および図24より、アルミナ管と丸棒とは中間層を介して接合しており、アルミナ管の表面には接合層(Al2 O3 +TiO2 )が観察される。アルミナ管の厚さは、溶融Al浸漬前後でそれぞれ減肉は認められなかった。一方、栓部材600としてのTi板では、厚さ約100μm程度のAl、Ni、Feを含む化合物層が形成されているが、内部はTiである。
〈実施例3〉
実施例3は第3の実施の形態に対応するものであるが、ここでは、円筒状の金属基材100に相当するものとして、直径10mmのステンレス鋼(SUS304) の丸棒を用い、セラミックス体300として内径11mm、外径14mmのアルミナ管を用い、第1栓部材600aとして厚さ3mmの円形のW板を用い、第2栓部材600bとして厚さ0.5mmの円形のTi板を用いた。
図12A〜Dに示す方法と同様に工程1〜4により丸棒の表面に保護層を形成した。
(工程1)
アルミナ管の開口端に第1栓部材600aとしてW板を嵌め込んだ後、このW板上に第2栓部材600bとしてTi板を載せた。
(工程2)
丸棒をアルミナ管内に設置した。
(工程3)
丸棒とアルミナ管との間の隙間を埋めるように、実施例1と同様なTi粉末とNi粉末との混合粉末を含むスラリーを流し込み、乾燥した。こうして、Ti粉末とNi粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成した。
(工程4)
真空中で二段階の加熱を行った。第1段の加熱は1200℃で1時間、第2段の加熱は1250℃で2時間である。こうして、中間層形成用粉末層により中間層を形成し、この中間層とアルミナ管とにより保護層を形成した。
上記のようにして丸棒の表面に保護層を形成し、この丸棒をアルミナ坩堝に溶解したAl−Si合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で48時間の浸漬試験を行った後、丸棒をAl−Si合金浴から取り出した。図26および図27はそれぞれ、こうして取り出した丸棒の断面組織を撮影した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図26に示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表7は図26に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
ここで、図26中、セラミックスとセラミックスとの間に見られる隙間、セラミックス中のクラック、等は、試験片の切断・研磨中に形成されたものである。図26および図27より、中間層200、第1栓部材600aおよび第2栓部材600bはAl−Si融体と合金化していることが分かる。しかし、金属基材100としてのステンレス鋼のAl−Si融体との合金化は認められなかった。
〈実施例4〉
実施例4は第4の実施の形態に対応するものであるが、ここでは、円筒状の金属基材100に相当するものとして、直径10mmの炭素鋼(炭素含有量が0.45重量%) の丸棒を用い、セラミックス体300として内径11mm、外径14mmのアルミナ管を用い、キャップ状栓部材800として厚さ0.5mmのTi管と厚さ0.5mmのTi板とを張り合わせたものを用いた。
図12A〜Dに示す方法と同様に工程1〜4により丸棒の表面に保護層を形成した。
(工程1)
丸棒の先端にキャップ状栓部材800として、Ti管とTi板とを張り合わせて作製した栓部材を被せた。
(工程2)
丸棒と栓部材との間の隙間および栓部材の一端面に、Ti粉末とNi粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥した。こうして、Ti粉末とNi粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成した。
(工程3)
アルミナ管の内部に丸棒を栓部材が当たるまで挿入した。
(工程4)
真空中で二段階の加熱を行った。第1段の加熱は1200℃で1時間、第2段の加熱は1250℃で2時間である。こうして、中間層形成用粉末層により中間層を形成し、この中間層とアルミナ管とにより保護層を形成した。
上記のようにして丸棒の表面に保護皮膜を形成し、この丸棒をアルミナ坩堝に溶解したAl−Si合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で70時間の浸漬試験を行った後、丸棒をAl−Si合金浴から取り出した。図28および図29はそれぞれ、こうして取り出した丸棒の断面組織を撮影した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図28に示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表8は図29に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
図28に示すように、キャップ状栓部材800のTiと中間層200とはAl−Si溶湯と反応し、キャップ状栓部材800のTiの表面の一部はAl(Si)−Ti合金に変化しているが、その厚さは約0.2mmであり、さらに金属基材100としての炭素鋼の丸棒との合金化は認められず、Tiからなるキャップ状栓部材800は優れた耐湯溶浸食性を有することが確認された。
〈実施例5〉
実施例5は第5の実施の形態に対応するものである。実施例5では、金属基材100として厚さ2mmの軟鋼(炭素含有量が0.1重量%以下) の平板を用い、セラミックス板921として厚さ1mmのアルミナ板を用い、目地部材922として直径1mmのTi線を用いた。
図15AおよびBに示す方法と同様に工程1〜3により軟鋼平板の表面に保護層を形成した。
(工程1)
軟鋼平板の片面およびアルミナ板の片面に、Ti粉末とNi粉末との混合粉末(Ti粉末とNi粉末との重量比は9:1)と高融点金属粉末(W粉末およびMo粉末)とAl2 O3 粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥した。こうして、軟鋼平板の片面およびアルミナ板の片面にTi粉末とNi粉末との混合粉末と高融点金属粉末(W粉末およびMo粉末)とAl2 O3 粉末との混合粉末からなる中間層形成用粉末層を形成した。また、Ti線の表面にTi粉末とNi粉末との混合粉末(Ti粉末とNi粉末との重量比は9:1)を含むスラリーを塗布し、乾燥した。こうして、Ti線の表面にTi粉末とNi粉末との混合粉末からなる接合層形成用粉末層を形成した。
(工程2)
工程1で軟鋼平板の片面に上記のようにして中間層形成用粉末層を形成したものに、同じく片面に中間層形成用粉末層を形成したアルミナ板を複数敷き詰め、アルミナ板とアルミナ板との間の隙間を埋めるように、工程1で接合層形成用粉末層を表面に形成したTi線を設置し、固定した。
(工程3)
真空中で二段階の加熱を行った。第1段の加熱は1200℃で1時間、第2段の加熱は1250℃で2時間である。こうして、中間層形成用粉末層により中間層を形成し、この中間層とアルミナ板とにより保護層を形成した。また、接合層形成用粉末層により接合層を形成した。
上記のようにして軟鋼平板の表面に保護層を形成したものをアルミナ坩堝に溶解したAl−Si合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で15時間の浸漬試験を行った後、軟鋼平板をAl−Si合金浴から取り出した。図30および図31はそれぞれ、こうして取り出した軟鋼平板の断面組織を撮影した走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図30に示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表9は図31に示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
ここで、図30中、セラミックスとAl溶湯との間に見られる隙間、セラミックス中のクラック、等は、試験片の切断・研磨中に形成されたものである。図30および図31より、セラミックス板921としてのアルミナ板と目地部材922としてのTi線とは接合層を介して接合しており、アルミナ板の表面には接合層(Al2 O3 +TiO2 )が観察される。アルミナ板の厚さは、溶融Al浸漬前後でそれぞれ減肉は認められなかった。
〈各種金属の湯溶浸食に対するコーティングの効果〉
金属基材として鉄およびステンレス鋼(SUS304)からなる試験片をAl−Si系合金(ADC12)浴中に挿入し、温度800℃で減肉量を測定した。その結果、800℃、1時間の浸漬で厚さ1mmの板材は全て溶解・消失した。これに対し、金属基材に中間層およびアルミナ管あるいはアルミナ板からなる保護層を設け、あるいはさらにTiからなる栓部材、目地部材等を形成した実施例1〜5のいずれにおいても、セラミック体あるいはセラミック板の減肉は観察されなかった。さらに、栓部材、目地部材等として用いられたTi板、Ti線等は、800℃、70時間の浸漬後において、Al、Siを含有する合金層が0.2mm程度の厚さ形成されたが、内部はTiで組成変化等は観察されなかった。
〈浸漬試験のまとめ〉
(1)鉄およびステンレス鋼(SUS304)の減肉量は800℃、1時間の浸漬で約1mmである。
(2)Al2 O3 セラミックスを被覆した鉄およびステンレス鋼(SUS304)では、800℃、70時間の浸漬でもセラミックスの溶損とセラミックスの亀裂とによる金属基材の湯溶浸食による減肉は観察されなかった。
(3)Ti−Ni合金はセラミックスと金属基材との接合に寄与し、Tiは良好な耐湯溶浸食性を有することが確認された。
(4)中間層と第1栓部材および第2栓部材とを用いることにより、セラミックスと金属基材との接合時に発生する接合応力および熱応力を軽減することができることが確認された。
〈参考実施例1〉
参考実施例1は、第6の実施の形態において、金属基材100上に形成する内層1200、外層1300および酸化物層1400の実施例である。中間層200およびセラミック体300は形成しないので、参考実施例とする(以下同様)。参考実施例1では、含有炭素量が高い (炭素含有量が0.1重量%以上) 金属基材として鋳鋼(SCH−2)からなる金属基材を用いた。
工程(1)
上記の金属基材の表面に、チタンおよびニッケルを含有するスラリー状混合粉末(85重量%Ti+15重量%Ni)を塗布・乾燥した後、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) で加熱し、内層を形成した。加熱温度および時間は1200℃、1時間である。
図32AおよびBに金属基材および内層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図32Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表10は図32Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表であり、図32Aの写真中に示す分析線上に示した括弧で囲んだ数字は、分析表の分析点に対応している(以下同様)。
図32AおよびBならびに表10より、金属基材の表面にTiCが連続層として形成されていることが分かる。TiC層の外側には、65原子%Tiを含有する合金層が形成されている。なお、このTiCは鋳鋼(SCH−2)からなる金属基材に含まれている炭素(C)が表面側に拡散して、スラリ−のチタンと反応して形成されたものである。このように、金属基材の炭素を利用して、TiCを形成することができることが特徴である。なお、図32AおよびBならびに表10では、炭素濃度は除いて表示してあるため、TiCはTiが100%と表示されている(以下同様)。
工程(2)
工程(1)でTiCの内層を形成した後、工程(2)では、チタン含有スラリーを内層上に塗布し乾燥し、さらにアルミニウム含有スラリーを重ね塗りした後、乾燥して加熱処理を行い、外層を形成した。
図33AおよびBに金属基材、内層および外層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図33Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表11は図33Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図33AおよびBならびに表11より、工程(1)で形成したTiCの連続層の外側にTi−Al合金層が形成されており、その表面側にはTiCの析出物が見られることが分かる。これらの結果から、内層(TiC)/外層(Ti−Al合金+TiC)のコーティングが形成されることが実証された。外層のAlの濃度(50〜60原子%)は内層のTiC層で急減し、金属基材側への侵入は僅少であることが分かる。すなわち、内層のTiCはAlの金属基材側への拡散の障壁として機能していることが実証された。
工程(3)
工程(2)に引き続き、減圧雰囲気に空気を導入し、1100℃、10時間の条件で酸化処理を行い、外層の表面に酸化物層を形成した。
図34AおよびBに金属基材、内層、外層および酸化物層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図34Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表12は図34Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図34AおよびBならびに表12より、TiCの内層とTi−Al系の外層と酸化物層との三層構造のコーティングが形成されていることが分かる。酸化物層はTiO
2 とAl
2 O
3 との混合相であり、外層のAlの濃度は内層のTiC層で急減し、金属基材側への侵入は僅少である。すなわち、内層のTiCはAlの金属基材側への拡散の障壁として機能していることが実証された。
〈参考実施例2〉
参考実施例2では、含有炭素量が高い (炭素含有量が0.1重量%以上) 金属基材として炭素鋼(S45C)からなる金属基材を用いた。
工程(1)
実施例1と同様に工程(1)を実行し、内層を形成した。
図37AおよびBに金属基材および内層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図37Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表13は図37Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。
図37AおよびBならびに表13より、工程(1)の実行後は、金属基材の表面に、TiCの連続層が形成され、その外側には50原子%以上のTiを含有する素地金属とTiCの分散した組織となっていることが分かる。
工程(2)
工程(1)に引き続き、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) に空気を導入し、1100℃、1時間の条件で酸化を行った。
図38AおよびBに金属基材、内層および酸化物層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図38Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表14は図38Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図38AおよびBならびに表14より、TiCの内層とTi−Al系の外層と酸化物層との三層構造のコーティングが形成されていることが分かる。なお、酸化物層は、短時間の酸化処理で、その厚さは数μm以下であるが、酸化物として、TiO
2 とAl
2 O
3 とが確認された。外層のAlの濃度は徐々に低下し、内層TiC層で一定になっているが、数原子%Alの金属基材側への侵入が認められる。これは、内層の厚さが数μm以下であることから、Alの金属基材側への拡散侵入がみられたものと考えられる。一方、金属基材の構成元素の鉄(Fe)の外層中への侵入が完全に阻止されている。内層のTiCの厚さとしては、数μm以上(例えば3μm以上) であることが望ましい。
〈参考実施例3〉
参考実施例3では、含有炭素量が低い (炭素含有量が0.1重量%未満) 金属基材としてステンレス鋼(SUS310)からなる金属基材を用いた。この金属基材では、この金属基材の炭素を利用して、TiCを形成することができない。
工程(1)
タングステンおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+40重量%W+20重量%WC)を金属基材の表面に塗布・乾燥した後、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) で、加熱した。加熱温度および時間は1250℃、2時間である。
図39AおよびBに金属基材および中間層(内層の一部を構成)の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図39Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表15は図39Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図39AおよびBならびに表15より、金属基材の表面には、タングステンを含有する中間層(W−Cr−Fe−Co合金)が形成されていることが分かる。この組織からは、炭化物の存在は確認されなかった。したがって、炭素は中間層に固溶しているものと理解される。
工程(2)
工程(1)で中間層(内層の一部を構成)を形成した後、タングステン、クロムおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+10重量%Cr+20重量%WC)にチタンを含有させたものを金属基材の表面に塗布・乾燥し、その上にさらにタングステン、クロムおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+10重量%Cr+20重量%WC)にアルミニウムを含有させたものを重ね塗りして乾燥し、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) で、加熱処理した。加熱温度および時間は1150℃、1時間である。
図40AおよびBに金属基材、内層および外層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図40Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表16は図40Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図40AおよびBならびに表16より、金属基材の表面に、Cr−W−Fe−Co系合金相とFe−Co−Cr系合金相との混合相からなる内層およびAl濃度が40原子%以上の外層が形成され、外層にチタン・アルミニウム化合物が析出していることが分かる。
〈参考実施例4〉
参考実施例4では、参考実施例3と同様に、ステンレス鋼(SUS310)からなる金属基材を用いた。
まず、参考実施例3の工程(1)と同様の工程を実行し、金属基材の表面に中間層(内層の一部を構成)を形成した後、タングステン、タンタルおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+10重量%Ta+20重量%WC)にチタンを含有させたものを金属基材の表面に塗布・乾燥し、その上にさらにタングステン、タンタルおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+10重量%Ta+20重量%WC)にアルミニウムを含有させたものを重ね塗りして乾燥し、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) で、加熱処理した。加熱温度および時間は1150℃、1時間である。
図41AおよびBに金属基材、内層および外層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図41Aに示す写真の分析線LG3に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表17は図41Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図41AおよびBならびに表17より、金属基材の表面に、Alを約40原子%含有するFe−Cr−Co系合金相とCr−W−Ta−Co系合金相との混合相からなる内層およびTiCの析出物とTiとTaとAlとを含有する合金相からなる外層が形成されていることが分かる。さらに、外層の最表面には、酸化物層が薄く形成されていることも分かる。このように、工程(2)の段階でも、減圧雰囲気ではTiおよびAlの酸化は可能であり、不可避的にμm程度の厚さの酸化物層は形成される。
〈参考実施例5〉
参考実施例5では、参考実施例3と同様に、ステンレス鋼(SUS310)からなる金属基材を用いた。
まず、参考実施例3の工程(1)と同様の工程を実行し、金属基材の表面に中間層(内層)を形成した後、タングステン、ニオブ、モリブデンおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+5重量%Nb+5重量%Ta+20重量%WC)にチタンを含有させたものを金属基材の表面に塗布・乾燥し、その上にさらにタングステン、ニオブ、モリブデンおよびタングステン炭化物を含有するスラリー状混合粉末(40重量%Co基自溶合金+30重量%W+5重量%Nb+5重量%Ta+20重量%WC)にアルミニウムを含有させたものを重ね塗りして乾燥し、減圧雰囲気(油回転ポンプによる排気) で、加熱処理した。加熱温度および時間は1150℃、1時間である。
図42AおよびBに金属基材、内層および外層の断面の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図42Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表18は図42Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図42AおよびBならびに表18より、金属基材の表面に、W、Cr、Fe、NbおよびMoを含有する合金層からなる内層および約50原子%のAlを含有する外層が形成されていることが分かる。内層のAl濃度は無視できる程度である。また、外層の表面側にチタンが存在している。さらに、外層の最表面には、酸化物層が薄く形成されていることも分かる。このように、工程(2)の段階でも、減圧雰囲気ではTiおよびAlの酸化は可能であり、不可避的にμm程度の厚さの酸化物層は形成される。
次に、溶融金属処理部材の試験片のアルミニウム合金溶湯への浸漬試験を行った結果について説明する。
〈浸漬試験〉
対象金属:鉄、SKD−11、SCH430、SUS304、SUS413、SUS310、チタン、タンタル
上記の各種金属を長方形板(長さ50mm、幅7mm、厚さ1mm)に切断した後、表面研磨と脱脂洗浄したAl−Si合金(ADC12)をアルミナ坩堝に溶解し、浸漬は80℃、大気中で行った。浸漬時間は15分である。
図43は各種金属の金属基材の減肉量および金属基材の表面に残存しているAl合金層の厚さを示す。図43に示す結果から、減肉量はFe、SKD11(15分で試験片厚さが消失) からステンレス(SCH430、SUS304、SUS413、SUS310)の順に低下し、チタンとタンタルが最も減肉量が少ないことが分かる。さらに、減肉量は残存するAl合金層の厚さに比較して、桁違いに大きいことが分かる。すなわち、Al合金層は金属基材側に成長するが、Al溶湯への溶出が非常に速いため、Al合金層は薄く観察されている。したがって、湯溶浸食の程度は、Al合金層の成長速度ではなく、Al合金層が溶湯中に溶出する速度に支配されることが分かる。チタンとタンタルはAl溶湯への溶出が少ないことを予想したが、図43の結果によりそれが実証された。
〈各種金属の湯溶浸食に対するコーティングの効果〉
普通鋼(SS400)、炭素鋼(S45C)またはステンレス鋼(SUS310)からなる試験片にコーティング皮膜を形成し、溶融Al−Si合金(ADC12)に浸漬し、減肉量を測定した。図44は浸漬試験温度700℃、図45は浸漬試験温度800℃での結果を示す。図44および図45には、金属基材、内層と外層との二層コーティング、さらに、内層と外層と酸化物層との三層構造のコーティングについて、それぞれ測定した結果を示す。
図44に示す結果から、コーティングなしの金属基材の減肉速度は、金属の種類(□:SS400、○:S45C、◇:SUS310)による差異は小さく、4時間の浸漬で減肉量は約0.4mmである。一方、三層構造のコーティングを形成した試料(斜線を施した△)では、100時間までの浸漬で減肉量は50μm程度であり、コーティング(平均150μmの厚さ)が残存しており、金属基材の浸食は観察されない。なお、二層コーティング(酸化物層がない場合:△) では、局部的にコーティング皮膜が破壊され、金属基材が浸食されているのが観察された。これより、二層コーティング皮膜は顕著に湯溶浸食を抑制し、さらに、酸化物層を形成した三層コーティング皮膜とすることによって、より効果的に機能していることが明らかとなった。
図45に示す結果から、コーティングなしの金属基材の減肉速度は、金属の種類(□:SS400、○:S45C、◇:SUS310)による差異は小さく、1時間の浸漬で減肉量は約0.5mmである。一方、三層構造のコーティングを形成した試料(斜線を施した△)では、12時間までの浸漬で減肉量は100μm程度であり、コーティング(平均150μmの厚さ)が残存しており、金属基材の浸食は観察されない。しかし、浸漬時間22時間では、コーティング層が喪失し、基材の浸食が生じていた。なお、内層と外層との複層コーティング皮膜(△)では、浸漬時間4時間ですでに、局部的にコーティング皮膜が破壊され、金属基材が浸食されているのが観察された。これより、コーティング皮膜は顕著に湯溶浸食を抑制し、酸化物皮膜はより効果的に機能していることが明らかとなった。
また、以上のことから、同じ減肉量で比較すると、コーティング皮膜の寿命は金属基材の寿命の約10倍であり、700℃では50倍以上になると考えられる。
〈浸漬試験後の断面組織と各元素の濃度分布〉
図46AおよびBは、SS400からなる金属基材の表面に内層、外層および酸化物層を形成した試験片の溶融Alへの浸漬試験後の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図46Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。浸漬は大気中、800℃、4時間45分の条件で行った。表19は図46Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図46AおよびBならびに表19より、内層のチタン炭化物は連続層として残存しており、酸化物層はチタン酸化物(TiO
2 )として存在している。基本的には、浸漬試験前後で、コーティング構造には変化はない。このことから、チタンの酸化により形成されるTiO
2 は溶融Alに対して安定であることが実証された。
図47AおよびBは、S45Cからなる金属基材の表面に内層、外層および酸化物層を形成した試験片の溶融Alへの浸漬試験後の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図47Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。浸漬は大気中、800℃、4時間の条件で行った。表20は図47Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図47AおよびBならびに表20より、内層のチタン炭化物は連続層として残存しており、酸化物層はチタン酸化物(TiO
2 )として存在している。基本的には、浸漬試験前後で、コーティング構造には変化はない。また、チタン酸化物層に、Al溶湯からのAlの侵入は見られない。このことから、TiO
2 は溶融Alに対して安定であることが実証された。
図48AおよびBは、SUS310からなる金属基材の表面に内層、外層および酸化物層を形成した試験片の溶融Alへの浸漬試験後の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図48Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。浸漬は大気中、800℃、12時間の条件で行った。表21は図48Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図48AおよびBならびに表21より、外層の表面は(Fe,Ni)Al合金に変化していたが、Alの侵入は内層のW−Ta−Nb−Ti系合金層で阻止されており、金属基材への侵入は認められない。
図49AおよびBは、SUS310からなる金属基材の表面に内層、外層および酸化物層を形成した試験片の溶融Alへの浸漬試験後の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図49Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。浸漬は大気中、700℃、25時間の条件で行った。表22は図49Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図49AおよびBならびに表22より、Al
2 O
3 系酸化物層が残存し、コーティング皮膜の構造にも変化は認められない。Alの侵入は内層のW−Ta−Nb−Ti系合金層で阻止されており、金属基材への侵入は認められない。
図50AおよびBは、SS400からなる金属基材の表面に内層、外層および酸化物層を形成した試験片の溶融Alへの浸漬試験後の走査型電子顕微鏡写真およびEDAXを用いて測定した各元素の濃度分布(図50Aに示す写真の分析線LG3に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。浸漬は大気中、700℃、25時間の条件で行った。表23は図50Bに示した各元素の濃度をまとめた分析表である。図50AおよびBならびに表23より、Al
2 O
3 系酸化物層が残存し、コーティング皮膜の構造にも変化は認められない。Alの侵入は内層のNb−Ti−W系合金層で阻止されており、金属基材への侵入は認められない。
図51は、SUS310からなる金属基材の表面に外層形成用のスラリー状原料粉末を塗布したものをアルミナ粉末に埋没して加熱した際に形成された試料のSEM−EDAXによる表面組織の観察結果を示す。また、表24は図51に示す各点における元素分析の結果を示す。SUS310からなる金属基材の表面に外層形成用のスラリー状原料粉末を塗布したものをアルミナ粉末に埋没して加熱すると、コーティングの表層はアルミナ粒子とチタニア粒子とを含んだサーメットが形成されることを見出した。図51および表24より、Al
2 O
3 粒子とチタン含有の酸化物とが表面を被覆していることが確認された。以上のことから、アルミナ粉末に埋没させて加熱処理することによって、外層の表層に合金と酸化物の混合相、いわゆるサ−メット層を形成することができることが分かった。その理由は、スラリーに含まれているチタンによって、アルミナが部分分解されるものと推定される。このサーメット層は高温酸化と湯溶浸食の抑制に効果的である。
〈浸漬試験のまとめ〉
(1)金属・合金の減肉速度は鋼種に依存せず、ほぼ類似の時間依存性を示し、1mmの肉厚の減少に要する浸漬時間は700℃では2.6時間、800℃では1時間である。
(2)コーティングした金属・合金の減肉速度は、内層と外層と酸化物層との三層構造のコーティングは、鋼種に依存せず、ほぼ類似の時間依存性を示し、700℃では100時間浸漬後も、コーティング層が残存しており、金属基材の湯溶浸食には至っていない。800℃では約22時間後に、コーティング層が溶出分解される。コーティングの効果は、金属基材に比較して、700℃では50倍以上、800℃では10倍以上である。内層と外層から構成される複層コーティング(酸化物層がない場合) では、鋼種に依存せず、ほぼ類似の時間依存性を示し、良好な耐湯溶浸食性を示しているが、局部的に浸食が進行するのが観察される。
(3)チタンを含有する外層は良好な湯溶浸食性を有することが確認された。酸化物層として、チタン酸化物は溶融Al−Si合金に対して安定であり、チタン酸化物はアルミニウムが外層から内層へ拡散侵入するのを効果的に阻止することが明らかとなった。
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
なお、この発明の保護皮膜は、溶融金属に接触する金属基材の表面に形成するだけでなく、雰囲気での高温酸化に晒される各種の金属基材に適用することが可能である。例えば、航空機のジェットエンジンの大幅な軽量化に有効とされるチタン−アルミニウム合金からなる金属基材により構成されるタービン翼にこの発明の保護皮膜を適用することが可能であり、これによりタービン翼、ひいてはジェットエンジンの長寿命化を図ることができる。