以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態による通信システム1の構成図である。同図では、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道運動量)波の送受信アレイアンテナの方向調整に関わる構成を抽出して示している。同図に示す通信システム1は、通信装置10及び通信装置20を備える。以下では、OAM波の送信を行う通信装置10又は通信装置20を「送信側」、OAM波の受信を行う通信装置10又は通信装置20を「受信側」とも記載する。以下では、送信側が通信装置10であり、受信側が通信装置20である場合を例に説明する。また、以下では、送信側からの電波の放射方向をY軸、Y軸に直交する水平方向をX軸、垂直方向をZ軸とする。
通信装置10は、信号発生部11、位相調整部12、アレイアンテナ13、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17を備える。例えば、通信装置10は、信号発生部11、位相調整部12及びアレイアンテナ13を備える既存の通信装置に、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17を追加することにより実現することができる。一方、通信装置20は、アレイアンテナ21、位相調整部23、信号復調部24、位相測定部25、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28を備える。例えば、通信装置20は、アレイアンテナ21、位相調整部23及び信号復調部24を備える既存の通信装置に、位相測定部25、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28を追加して実現することができる。
各装置が送受信において共用する機能部は、通信装置10では位相調整部12、アレイアンテナ13、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17であり、通信装置20ではアレイアンテナ21、位相調整部23、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28である。つまり、通信装置10が受信側である場合には、位相調整部12、アレイアンテナ13、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17のそれぞれが、受信側の通信装置20の位相調整部23、アレイアンテナ21、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28と同様の動作を行う。通信装置20が送信側である場合には、位相調整部23、アレイアンテナ21、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28のそれぞれが、送信側の通信装置10の位相調整部12、アレイアンテナ13、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17と同様の動作を行う。なお、同図においては、通信装置10には、受信で必要な信号復調部24及び位相測定部25の記載を省略しており、通信装置20には、送信に必要な信号発生部11の記載を省略している。以下に、通信側の通信装置10及び受信側の通信装置20それぞれの構成を述べる。
<送信側の構成>
信号発生部11は、無線通信に用いる送信信号を発生する機能を持ち、必要があれば送信信号の変調も行う。位相調整部12は、信号発生部11が発生させた送信信号に対して、アレイアンテナ13の各アンテナ素子14に応じて異なる所定の位相を加える。アレイアンテナ13は、送信用のアレイアンテナであり、複数のアンテナ素子14を有する。同図では、アレイアンテナ13が、8素子のアレイアンテナであり、8個のアンテナ素子14を備える例を示している。この各アンテナ素子14への入力信号それぞれは、位相調整部12により位相調整される。アレイアンテナ13は、これら位相調整された送信信号をOAM波として送出する。
軸ズレ推定・制御部15は、受信側から通知された軸ズレに関する情報に基づいて、アレイアンテナ13の送信方向を変更するよう可動部16を制御する。軸ズレとは、送信軸と受信軸のズレ(差分)である。送信軸は送信側が信号を送信する方向であり、受信軸は受信側が信号を受信する方向である。また、軸ズレ推定・制御部15は、自装置が受信側であるときに、受信信号から得た位相などの情報を基にして、送信側のアレイアンテナの回転による軸ズレを推定する。軸ズレ推定・制御部15は、受信側で推定された軸ズレに関する情報を送信側のアレイアンテナを回転させるよう指示するため、制御無線部17へ関連情報通信の指示をする。
可動部16は、送信用のアレイアンテナ13の送信方向を2軸回転により変えるための機構を有する。可動部16は、この時、アレイアンテナ13に対しZ軸回転とX軸回転の2軸回転によりを行い、アンテナの送信方向を変更する。
制御無線部17は、制御無線により通信装置10と通信装置20との間の通信を行う。制御無線は、OAM波の通信とは別の無線である。制御無線部17は、この制御無線により、通信装置20との間で制御通信を行う。制御無線部17は、受信側の通信装置20が得た軸ズレの調整に関する情報を送受信する。この制御無線を用いて、送信側回転の調整開始・完了、送信側回転軸と回転の調整量を送受信間で通知・確認する。また、実施形態に応じた必要な通信として、例えば送受信の入替え調整、受信信号の電界強度による粗調整とOAM波の位相による微調整の開始・完了なども制御無線により送受信間で通知・確認する。
なお、図1では無線通信により制御通信を行う場合を示しているが、通信装置10と通信装置20が関係情報をやり取りできれば有線通信を行ってもよい。この場合には、通信装置10は、制御無線部17に代えて、通信装置20と有線により通信する「制御通信部」を備える。
<受信側の構成>
アレイアンテナ21は、受信用のアレイアンテナであり、複数のアンテナ素子22を備える。アレイアンテナ21は、送信用のアレイアンテナ13から送信されたOAM波を受信する。同図では、アレイアンテナ21が、送信用のアレイアンテナ13と同じ8素子のアレイアンテナである例を示している。ただし、必ずしも受信用のアレイアンテナ21の素子数を、送信用のアレイアンテナ13の素子数と同じにする必要はない。アレイアンテナ21が無線により受信した受信信号は位相調整部23に渡される。
位相調整部23は、送信側に対応して、各アンテナ素子22それぞれが受信した信号に位相を加える調整を行う。位相調整部23は、位相調整後の受信信号を信号復調部24へ受け渡す。位相調整部23は、送信側のアレイアンテナ13の素子数と受信側のアレイアンテナ21の素子数とが異なる場合、送信側のアレイアンテナ13のアンテナ素子14と位相調整に対応して、受信側のアレイアンテナ21が備えるアンテナ素子22の素子数や配置を考慮し、受信信号の位相調整を行う。信号復調部24は、位相調整された受信信号を受け、送信側で施された変調に応じた復調を行い、通信情報を出力する。
位相測定部25は、受信用のアレイアンテナ21の全てのアンテナ素子22それぞれにおいて受信した信号を受け、これら信号の位相を測定する。位相測定部25は、測定された位相の情報を、軸ズレ推定・制御部26へ渡す。
軸ズレ推定・制御部26は、位相測定部25から渡された位相情報に基づいて送信用のアレイアンテナ13の回転による軸ズレを推定する。軸ズレ推定・制御部26は、この推定した軸ズレの情報について制御無線を介して送信側と通信し、可動部16を制御するよう指示する。
可動部27は、軸ズレ推定・制御部26からの指示に従ってアレイアンテナ21を2軸回転させ、軸ズレを補正する機構を有する。
制御無線部28は、軸ズレ推定・制御部26が推定した軸ズレに基づいて送信用のアレイアンテナ13を2軸回転させるための指示などの関係情報を、送信側の通信装置10との間で制御無線により通信する。この制御無線を用いて、送信側回転の調整開始・完了、送信側回転軸と回転の調整量を送受信間で通知・確認する。また、実施形態に応じ、送受信の入替え調整、受信信号の電界強度による粗調整とOAM波による微調整の開始・完了なども、制御無線により送受信間で通知・確認する。
なお、通信装置20は必ずしも無線でなくても有線により送受信間の制御通信を行ってもよい。この場合、通信装置20は、制御無線部28に代えて有線で通信装置10と通信する制御通信部を備える。
図2〜図4は、OAM波の特徴と生成を示す図である。OAM波は、位相が螺旋状に変化する電波である。図2〜図4では、送信側の通信装置10が、送信用のアレイアンテナ13を用いてOAM波を送信し、受信側の通信装置20が、その送信されたOAM波を、送信用のアレイアンテナ13と同様の受信用のアレイアンテナ21を用いて受信する。アレイアンテナ13の各アンテナ素子14への入力信号には位相がそれぞれ設定される。位相の設定により、OAM波のモードLを変更できる。
図2は、モードL1のOAM波の特徴と生成を示す。モードL1では、アレイアンテナ13の全アンテナ素子14を1周して位相が2π(つまり360[°])となるように各アンテナ素子14に対する位相が設定される。例えば、同図に示すように1周が8素子の場合、隣り合うアンテナ素子14間の位相の変化をπ/4(45[°])とする。
図3は、モードL2のOAM波の特徴と生成を示す。モードL2では、アレイアンテナ13の全アンテナ素子14を1周して、位相が4π(つまり720[°])となるように各アンテナ素子14に対する位相が設定される。1周が8素子の場合には、隣接するアンテナ素子14間では位相がπ/2(90[°])となる。モードL2では、モードL1の螺旋に比べて2倍の回転となる。
図4は、モードL−1のOAM波の特徴と生成を示す。モードL−1では、アレイアンテナ13の全アンテナ素子14を1周して、位相が−2π(−360[°])になるように各アンテナ素子14に対する位相が設定される。1周が8素子の場合、隣接するアンテナ素子14間では位相が−π/4(−45[°])となる。このモードL−1は、モードL1での螺旋の回転に対して逆転の螺旋となる。
さらに、モードL3、L4、L5、…の場合、アレイアンテナ13の全アンテナ素子14による1周で設定される位相が6π、8π、10π、…(1080[°]、1440[°]、1800[°]、…)である。上記と同様に1周が8素子の場合には、モードL3、L4、L5、…のとき、隣接するアンテナ素子14間の位相は、3π/4、π、5π/4、…(135[°]、180[°]、225[°]、…)となる。また、モードL−2、L−3、L−4、…の場合、アレイアンテナ13の全アンテナ素子14による1周で設定される位相は、−4π、−6π、−8π、…(−720[°]、−1080[°]、−1440[°]、…)である。上記と同様に1周が8素子の場合には、モードL−2、L−3、L−4、…のとき、隣接するアンテナ素子14間の位相は、−π/2、−3π/4、−π、…(−90[°]、−135[°]、−180[°]、…)となる。
受信側のアレイアンテナ21のアンテナ素子22が受信した信号は、位相調整部23により、上述したOAMモードに応じた位相、つまり送信側のアンテナ素子14に対応した位相調整が施される。
図2〜図4に示すように、送信側のアレイアンテナ13および受信側のアレイアンテナ21が8素子の場合、モードL1のとき、受信側の調整位相は、送信側の調整位相0[°]、45[°]、90[°]、…、315[°]に対応して、315[°]、270[°]、225[°]、…、0[°]となる。また、モードL2の場合、受信側の調整位相は、送信側の調整位相0[°]、90[°]、180[°]、…、630[°]に対応して、630[°]、540[°]、450[°]、…、0[°]となる。さらに、モードL−1のとき、受信側の調整位相は、送信側の調整位相0[°]、315[°](−45[°])、270[°](−90[°])、…、45[°](−315[°])に対応して、45[°](−315[°])、90[°](−270[°])、135[°](−225[°])、…、0[°]となる。
ここで、図5及び図6を用いて軸回転の軸ズレの影響を説明する。
図5は、送信側がZ軸回転した状態を示す図である。図6は、図5に示すZ軸回転による軸ズレの影響を示す図である。図5からは、次の様な点が分かる。
(1)送信側が軸回転した場合、受信側のアレイアンテナ21があるX−Z平面に平行な垂直平面(以下、受信側の平面と記載する)において、送信側のアレイアンテナ13の送信軸(Y軸方向)が到達する位置の点Pは、受信側のアレイアンテナ21の中心位置から平行移動している。
(2)送信側のアレイアンテナ13の送信軸(Y軸方向)と受信側のアレイアンテナ21の受信軸は方向が違うため、これら送受信の両軸が不一致の状態にある。
なお、送信側のアレイアンテナ13の回転に対する軸ズレの影響による厳密な考察による受信側で得られる位相の計算は、第2の実施形態(図19〜図21、図23)で後述する。送信側のアレイアンテナ13が回転することにより、受信側において軸の平行移動、送受信間の距離の伸張、受信方向の変化がある。送受信間の距離Dがアレイアンテナの開口径(半径ro)に比べ十分に長く(D≫ro)、かつ、送信側のアレイアンテナ13の回転の角度αが数度以内の範囲(α<5°)である場合、受信側においては平行移動が主に位相を変化させる要因となる。この第1の実施形態では送信側の回転が受信側の位相を変化させる事を大まかに捉え検討する。
図6を参照して、図5に示すように受信側が平行移動した状態の場合に、平行移動した軸ズレの影響を説明する。なお、アレイアンテナ21が備える8個のアンテナ素子22をそれぞれ、アンテナ素子a、b、c、d、e、f、g、hとしている。図6では、受信側の平面において、各アンテナ素子a〜hの位置と平行移動する位置にある送信軸が垂直面と交差する点Pを中心として、OAMモードL1の時に想定される各位相の配置を示す。また、同図の下側に示す表には、図6の上側の図のような軸ズレがあるときの受信側の各アンテナ素子a〜hおよびOAMモードL1の位相配置から得られる各アンテナ素子a〜hの位相をまとめた。この図6の下側に示す表には、OAMモードL1において、軸ズレのない場合の本来の各アンテナ素子a〜hそれぞれの位相値を、各アンテナ素子a〜hの欄のカッコ内に示している。
同図の表の位相欄に示すように、送信側が回転する軸ズレの影響で、各アンテナ素子a〜hの位相は、軸ズレがないときの本来の位相値とは異なることが分かる。しかも同図の表を詳細に見ると、OAMモードL1で受信側のX軸のプラス方向を位相0[°]と仮定した時でも、アンテナ素子aの位相は6[°]、アンテナ素子bの位相は18[°]、…、アンテナ素子hの位相は354[°]である。つまり、図5に示す軸ズレの状態で全てのアンテナ素子の位相は0〜30[°]、330〜360[°]の範囲に偏っている。従って、OAMモードL1による送信における(当然、他のOAMモードL−1、L2、…などの送信においても)受信が上手くできない。
また、図7及び図8を用いて、OAMの送信モードL1とL2が誤認される場合について説明する。
図7は、モードL1がモードL2に誤認される場合の軸ズレの状態を示す図である。同図では、受信側の各アンテナ素子の位置と、送信軸が受信側の平面と交差した点Pを中心としたOAMモードL1の位相配置を示す。先の図6に示した例と比較すると、図7では送信アンテナがZ軸回転する軸ズレによって、受信側の平面上で受信側のアレイアンテナ21が平行移動する移動量が少ない。
先の図6と同様に、図7の下側の表は、図7の上側に示す軸ズレが生じたときに、各アンテナ素子a〜hで得られる位相を示す。アンテナ素子aの位相は55[°]、アンテナ素子bの位相は107[°]、…、アンテナ素子hの位相は305[°]である。
またこの表には、各アンテナ素子との軸ズレがない場合にOAMモードL1の送信により受信側で得られると想定される位相値を、アンテナ素子の欄の括弧内に示す。軸ズレがない時に、アンテナ素子aの位相は22.5[°]、アンテナ素子bの位相は67.5[°]、…、アンテナ素子hの位相は337.5[°]である。
さらにこの表には、各アンテナ素子との軸ズレがない場合にOAMモードL2の送信により受信側で得られると想定される位相値を、(L2)の欄に示す。OAMモードL2では、アンテナ素子aの位相は45[°]、アンテナ素子bの位相は135[°]、…、アンテナ素子hの位相は315[°]である。
この図7の表において、破線で囲まれている半数のアンテナ素子22においては、軸ズレがある場合の位相の値が、OAMモードL1で送信した時に想定される位相値よりも、OAMモードL2で送信した時に想定される位相値に近い。従って、それらアンテナ素子から得られる受信信号からはOAMモードを誤認する恐れがある。つまり、図7の一部素子でモードL1がモードL2に誤認される。
図8は、送信側のアレイアンテナ13のZ軸回転による軸ズレを受信側の平面上での平行移動に近似したときの位相変化を示す図である。この図8は、図6や図7で説明した8素子の例以外について、OAMモードを誤認するような影響について説明する。図8は、任意の数のアンテナ素子22に対して、横軸を図7に示す点Pを中心とした素子位置の方向(0〜360[°])とし、縦軸を送信側の軸回転による軸ズレにより影響を受けて変化した位相[°]とするグラフを示す。図8のグラフの横軸の値は、OAMモードL1の場合に軸ズレがない本来の位相に等しくなる。
符号G1は、軸回転による軸ズレにより影響を受けて変化した位相[°]を示す。また参考に、符号G2は、軸ズレがない時のOAMモードL1の位相変化を示し、符号G3は、軸ズレがない時のOAMモードL2の位相変化を示す。符号G1、G2、G3のそれぞれの線上において実線でプロットされた点は、各アンテナ素子22で得られる位相値を示す。プロットされた点の数から分かるように、この例におけるアンテナ素子の数は10個である。同図によれば、符号G4、G5に示す範囲内にあるこの10個のアンテナ素子の半数以上の6素子において、軸ズレのために位相値が、本来のOAMモードL1の位相値よりもOAMモードL2の位相値に近い値になっていることが分かる。また、符号G1、G2、G3のそれぞれの線上において点線でプロットされた点は、8素子の場合の位相を示す。
上記では、Z軸回転の軸ズレについて示したが、X軸回転の軸ズレについても同様の問題が生じる。以下では、このようにOAM波を使用する無線通信において課題となる送信側でのZ軸回転およびX軸回転による軸ズレを調整するために必要な機構及び調整法を説明する。
図9は、位置ズレ・方向ズレを調整する可動部16の構成例を示す図である。同図に示す構成例の可動部16は、2軸(X軸、Z軸)を中心としてアレイアンテナ13を回転させる機能がある。Z軸は垂直軸、Y軸は電波の放射方向、X軸はZ軸及びY軸に垂直な水平軸である。同図では、8素子のアンテナ素子14を円状に配置したアレイアンテナ13を例に挙げている。アレイアンテナ13の板31は、複数の背面支持部32により、背面板及び外枠33に接続される。同図は、各背面支持部32の設置位置は、四角のアレイアンテナ13を支える板31の左右上下の4辺それぞれの中央から中心に移動した位置である。
同図に示す可動部16の軸回転は、左側の吹き出し内に示すように、複数ある背面支持部32を伸縮させることにより実現される。この吹き出しに示した左右の2つの背面支持部32のうち、片方が伸張し、他方が収縮することで、Z軸を中心とする回転(垂直軸回転)が実現される。吹き出し内の下側は上面図であり、アレイアンテナ13を取り付ける板31をZ軸で回転させている(垂直軸回転の)様子が分かる。このZ軸の回転に伴い、電波の放射方向がY軸から左右に方向を変えている。以上のような垂直軸回転に加えて、X軸を中心とする回転(水平軸回転)には、上下に位置する2つの背面支持部32の伸縮を利用する。上下の背面支持部32の伸縮により、上述した左右の背面支持部でZ軸回転させたのと同様に、X軸を中心とする回転(水平軸回転)が実現される。
なお、背面支持部32の位置は、四角のアレイアンテナ13を支える板31の左右上下の4辺それぞれの中央付近とは限らない。例えば、四角の4隅を背面支持部32の位置としてもよい。この場合は、X軸回転とZ軸回転のための背面支持部32の伸縮は、上述したように背面支持部32の設置位置を、四角の板31の四辺の中央から中心に寄った位置とした場合とは多少異なる。例えば、Z軸回転では、右側の辺の上下の隅にある2組の背面支持部32に同時に同じ伸縮をさせ、左側の辺の上下の隅にある2組の背面支持部32に同時に逆の伸縮をさせる。
図10は、方向ズレを調整する可動部16の他の構成例を示す図である。同図に示す構成の可動部16は、先の図9と同様に、2軸で回転する機能がある。この図でも8素子のアンテナ素子14を円状に配置したアレイアンテナ13を、取付け板40に取り付けている。同図においても図9と同様に、Z軸は垂直軸、Y軸は電波の放射方向、X軸はZ軸及びY軸に垂直な水平軸である。X軸を中心とする回転(水平軸回転)を行うために、アレイアンテナ13の取付け板40を支持している左右のアーム44それぞれに、X軸回転する回転部45、46が備えられている。回転部45、46は、曲線矢印に示すように、前後に同じ方向に回転することによりX軸回転が実現される。
また、Z軸を中心とする回転(垂直軸回転)は、底面板41の上に立てられた支柱42を含めて、底面板41よりも上部の全ての部分がZ軸で回転できる回転部47により実現される。回転部47は、曲線矢印に示すようにZ軸回転する。その支柱42には、アレイアンテナ13の取付け板40を支持し、左右に伸びるアーム44が取り付けられる。従って、アーム44とアレイアンテナ13の取付け板40もZ軸で回転するので、上述したX軸の回転と併せ、2軸でアレイアンテナを回転できる。
さらに、図10に示す構成の可動部16は、Y軸で回転させる機構も追加して実現できる。左右に伸びるアーム44は、破線の矢印で示すようにアレイアンテナ13をY軸中心に回転させる回転部48により支柱42に接続される。この回転部48がY軸回転することにより、アンテナ素子14の位置を変えて、後述する第2の実施形態の図26に示すアレイアンテナの方向調整に役立てることができる。
図11は、三次元アレイからのサブアレイ選択によるアレイアンテナ13の2軸回転を説明する図である。同図では、多数のアンテナ素子132が並べられた三次元アレイ131から方向に応じたサブアレイを選択する。図11(a)は、三次元アレイ131を示す図である。三次元アレイ131には、多数のアンテナ素子132が直方体の領域に三次元配置された大規模アレイである。図11(b)は、図11(a)と同じアンテナ素子132の配置の三次元アレイ131を、上から見た図である。
図11(a)及び図11(b)では、三次元アレイ131の直方体の領域内で、2つの平面のサブアレイSA1、SA2を選択している。サブアレイSA1、SA2は、サブアレイ範囲として選択された2つの平面のサブアレイを示す。同図では、これらサブアレイSA1、SA2において利用されるアンテナ素子132を、サブアレイ範囲内に円状に配置される8素子である場合としている。サブアレイSA1、SA2において利用されるアンテナ素子132を、網掛けにより示している。
図11(b)に示す、これら2つの選択されたサブアレイSA1、SA2を上から見た図面によれば、各サブアレイSA1、SA2の送信軸は異なっている。回転前のサブアレイSA1の送信軸をB1とすると、回転実施形態のサブアレイSA2の送信軸はB2となる。図11に示すように、三次元アレイ131内に三次元に配置される多数のアンテナ素子132から複数個のアンテナ素子を適切に選択したサブアレイにより、またこのサブアレイからアンテナ素子132を選び直して別のサブアレイとすることにより、送信軸を回転させる操作が実現できる。
なお、この図11のようなサブアレイの選択を採用する場合は、図1に示す通信装置10は、可動部16に代えて、三次元アレイ131からサブアレイを選択する「サブアレイ選択機能部」を備える。この三次元アレイ131からのサブアレイの選択では、電波を放射する方向の前後に、選択されないアンテナ素子132が幾つも配置される状況が考えられる。これらのアンテナ素子との間でカップリングの効果がどのように影響するかについて説明を補足する。
図12〜図15を用いて、三次元アレイから異なるアレイを選択したときのアンテナ素子間隔を比較する。図12〜図15では、それぞれ三次元アレイから選択されたアレイが異なっている。図12はアンテナ素子間隔小で正面方向の選択を、図13はアンテナ素子間隔小で斜め方向の選択を、図14はアンテナ素子間隔大で正面方向の選択を、図15はアンテナ素子間隔大で斜め方向の選択を示す。
図12(a)、図13(a)、図14(a)、図15(a)は、三次元アレイから選択されたアレイの位置を示す。これらの図に示す三次元アレイは、二次元の平面上に8素子のアンテナ素子を円周上に配置し、この二次元平面アレイを4層重ねた構成である。この三次元アレイを構成するアンテナ素子は、アンテナ長λ/4(λは波長)のダイポールアンテナである。4層の各二次元平面アレイにおいてアンテナ素子が配置された円周の直径を4λとし、層間の素子間隔を図12及び図13では小さく(波長より短く(素子間隔<λ))、図14及び図15では間隔を大きく(波長とほぼ同程度(素子間隔≒λ))する。なお、アンテナ素子141は、選択されたアレイに含まれないアンテナ素子であり、アンテナ素子142は、選択されたアレイに含まれるアンテナ素子である。そして、図12(b)、図13(b)、図14(b)、図15(b)はそれぞれ、選択されたアレイが図12(a)、図13(a)、図14(a)、図15(a)のアレイ位置であるときのそのアレイの放射パターンを示す。
図12(a)及び図14(a)では、三次元アレイから、二次元平面アレイで1層にある8個のアンテナ素子、具体的には、4層の二次元平面アレイにおける3層目の二次元平面にある8素子を全て選択している。この場合、図12(b)及び図14(b)に示すように、正面方向(Y軸方向)の電界強度が高いメインローブが得られる。ただし、矢印で示すように、OAM波は放射方向へ2つに分かれる。
これに対し、図13(a)及び図15(a)では、複数の層の二次元平面アレイからアンテナ素子を選択し、電波放射を斜め方向とする。この場合、図13(b)では、矢印で示すように、所望の方向にメインローブが傾く。また、図15(b)でも、メインローブを矢印D1の所望の方向に変更できる。しかし、矢印D2で示す別方向にも強いサイドローブが生じる。
図12〜図15においては、アンテナ素子間隔を変化させたシミュレーションを示したが、この他に例えばアンテナ素子の位置つまり放射方向の前後にあるアンテナ素子の位置を少し変え、前後方向でアンテナ素子を重複させない、すなわち位置を一致させないようにすることも考えられる。このようなシミュレーション解析から、例えば、図13のようにアンテナ素子の間隔や配置を工夫することで、三次元アレイからのアンテナ素子選択によって送信軸を回転させる操作が実現できる。
なお、図9〜図11では、軸ズレを調整するための可動部16の機構の例を示したが、受信側における軸ズレを調整するための可動部27の機構も、図9〜図11と同様である。図11に示すサブアレイの選択を採用する場合、図1に示す通信装置20は、可動部27に代えて、三次元アレイ131からサブアレイを選択するサブアレイ選択機能部を備える。
ここまで第1の実施形態では、OAM波を送受信するアレイアンテナの方向調整に関して、方向調整の可動機構(図9、図10)またはサブアレイの選択による方向調整の実現(図11)を示した。この後、第2の実施形態以降では、方向調整の処理について説明する。
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、送信側が水平回転と垂直回転を順に行うことにより受信方向を調整する方法について述べる。
図16及び図17を用いて、送信側における、垂直・水平軸回転によるアンテナ方向の調整を説明する。図16及び図17においては、送信側と受信側の双方とも、8素子を円状に配置したアレイアンテナを備える場合を例に挙げる。この図16及び図17では、垂直方向をZ軸、水平の左右方向をX軸、送受信方向をY軸とする。
図16は、送信側におけるZ軸回転を示す図である。Z軸を中心軸にして送信側のアレイアンテナ13を回転(垂直軸回転)させると、受信側では送信軸が受信側のアレイアンテナ21を含む平面と交差する点が左右に(X軸に平行な方向に)移動する。例えば、上方から下方へ(Z軸のプラス側からマイナス側へ)見て時計回りに数度、Z軸を中心に送信側のアレイアンテナ13を回転させる(矢印E1の方向への回転)。この回転により、送信側のアレイアンテナ13の向きが受信側における元の位置(符号F0の三重円)から右側(符号F1の三重円)へ移動する。逆に上方から見て反時計回りでZ軸中心に送信側のアレイアンテナ13を回転させる(矢印E2の方向への回転)。送信側のアレイアンテナ13の向きは、受信側における元の位置(符号F0の三重円)から左側(符号F2の三重円)へ移動する。
図17は、送信側におけるX軸回転を示す図である。X軸を中心軸にして送信側のアレイアンテナ13を回転(水平軸回転)させると、受信側では送信軸が受信側のアレイアンテナ21を含む平面と交差する点が上下に(Z軸に平行な方向に)移動する。例えば、左側から右側へ(X軸のマイナスからプラス側へ)見て反時計回りへ数度のX軸回転(矢印E3の方向への回転)により、送信側のアレイアンテナ13の向きが、受信側における元位置(符号F0の三重円)から下方(符号F3の三重円)へ変わる。逆に、送信側のアレイアンテナ13を左から見て時計回り(矢印E4の方向への回転)にX軸回転すると、送信側のアレイアンテナ13の向きは、受信側における元の位置(符号F0の三重円)から上方(符号F4の三重円)へ変わる。
これらZ軸(垂直軸)及びX軸(水平軸)回転を順に調整することにより、送信側のアレイアンテナ13の方向を、受信側のX−Z平面の原点に合せる、つまり、Y軸に一致させることができる。
図18は、通信システム1における、軸回転による方向調整の動作フローを示す図である。この動作フローでは、送信側において送信側のアレイアンテナ13の垂直と水平の軸(Z軸とX軸)を回転させて送受信方向を調整する。また、この動作フローでは、Z軸とX軸の回転で段階的に調整を行う。この調整において、本来の方向に送信軸が合っているか否かの確認については、後で詳細を示す位相変化の特徴を用いて判定する。
同図に示す動作フローは、大きく4つの段階からなる。この4つの段階には、「調整の必要確認」、「Z軸回転の調整」、「X軸回転の調整」、「調整完了の確認」がある。
「調整の必要確認」段階では、まず、送受側と受信側が制御無線により、「送信側のZ軸回転の調整開始」の通知と確認を行う。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送信側のZ軸回転の調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送信側のZ軸回転の調整開始」を認識する。なお、通信装置10から通信装置20へ通知を行ってもよい。
同図に示す動作フローにおいては、「調整の必要確認」段階で、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、「Z軸回転の軸調整」段階に移行するために、Z軸回転による調整が不要か否か(又は調整が終了したか否か)を判定する(ステップS105)。軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転の調整が必要と判定した場合(ステップS105:NO)、次のステップS110へ移行する。受信側の軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転の全範囲内で確認したか否かを判定する(ステップS110)。
受信側の軸ズレ推定・制御部26が、まだZ軸回転の確認は全範囲分に達していないと判定した場合(ステップS110:NO)、次に通信システム1は、第2段階である「Z軸回転の調整」段階に進み、Z軸回転での調整を行う(ステップS115)。ステップS115のZ軸回転での調整処理においては、送信側の通信装置10のZ軸回転角を変更する。具体的には、ステップS115のZ軸回転の調整処理において、まず、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、アレイアンテナ21が有する複数のアンテナ素子22のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相に基づいて、送信側に指示するZ軸回転の調整量を算出する。受信側の通信装置20は、制御無線を用いて送信側の通信装置10へ「送信側Z軸回転の調整量」を通知指示する。送信側の軸ズレ推定・制御部15は、受信側から受信した「送信側Z軸回転の調整量」に基づいて、可動部16を制御し、アレイアンテナ13のZ軸回転角を変更する。ステップS115のZ軸回転での調整処理の後、通信システム1は、最初のステップS105に戻り、判定とZ軸回転での調整(ステップS105〜ステップS115)を繰り返す。
受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、ステップS105においてZ軸回転による調整が不要(又は終了)と判定した場合(ステップS105:YES)、Z軸回転の調整(ステップS105〜ステップS115)が終了していると判断する。通信システム1は、第3段階の「X軸回転の調整」段階、及び、最後の段階の「調整完了の確認」を合せた動作段階に移行する。ただし、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、ステップS110においてZ軸回転を全範囲内で確認したと判定した場合(ステップS110:YES)、回転調整の未完了を表示し(ステップS140)、図18の動作フロー処理を終了する。
「X軸回転の調整」段階に移行するときに、送受側と受信側が制御無線により、「送信側のX軸回転調整開始」の通知と確認を行う。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送信側のX軸回転の調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送信側のX軸回転の調整開始」を認識する。なお、通信装置10から通信装置20へ通知を行ってもよい。受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、X軸回転による調整が不要(又は終了)か否かを判定する(ステップS120)。軸ズレ推定・制御部26は、X軸回転による調整が必要と判定した場合(ステップS120:NO)、続いて、X軸回転を全範囲内で確認したか否かを判定する(ステップS125)。
受信側の軸ズレ推定・制御部26は、まだX軸回転の確認は全範囲分に達していないと判定した場合(ステップS125:NO)、X軸回転での調整を行う(ステップS130)。ステップS130におけるX軸回転での調整処理では、送信側の通信装置10のX軸回転角を変更する。このX軸回転の調整処理では、まず、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、アレイアンテナ21が有する複数のアンテナ素子22のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相に基づいて、送信側に指示するX軸回転の調整量を算出する。受信側の通信装置20は、制御無線を使用して送信側の通信装置10へ「送信側X軸回転の調整量」を通知指示する。送信側の軸ズレ推定・制御部15は、受信側から受信した「送信側X軸回転の調整量」に基づいて、可動部16を制御し、アレイアンテナ13のX軸回転角を変更する。ステップS130のX軸回転での調整処理の後、通信システム1はステップS120に戻り、再度X軸回転での調整が不要か/否かの判定と、X軸回転での調整を繰り返す(ステップS120〜ステップS130)。
受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26が、ステップS120においてZ軸回転による調整は不要(又は終了)と判定した場合(ステップS120:YES)、通信システム1は回転調整を完了する(ステップS135)。ステップS135では、制御無線を用いて、送受側と受信側が制御無線により、「送信側回転の調整完了」の通知と確認を行う。例えば、制御無線を用いて、受信側の通信装置20から送信側の通信装置10へ「送信側回転の調整完了」を通知する。送信側の通信装置10は、この制御無線を受信し、「送信側回転の調整完了」を認識する。
なお、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、X軸回転の調整途中で、全ての範囲のX軸回転を確認したと判定した場合(ステップS125:YES)、回転調整の未完了を表示し(ステップS140)、図18の動作フローを終了する。ステップS140の処理においては、制御無線を用いて受信側から送信側へ「送信側の回転調整未完了」を通知する。
ここまでは、Z軸とX軸の回転により段階的に送信側のアレイアンテナ13の方向を調整する方法を挙げた。それぞれの回転による調整が不要か否かの判定は、軸の回転による位相変化の特徴に基づいて行われる。以下に、調整が必要かの判定に用いられる、軸回転による位相変化の特徴の幾つかの例と、その特徴を用いた調整の詳細な処理を説明する。
<詳細な処理の例1>
図19は、送信回転ズレがある場合の各アンテナ位置における位相を示す図である。ここで、同図におけるパラメータ条件を定義する。送受信間(通信装置10と通信装置20の間)の距離をD[m]とする。また、円周上に受信側の全てのアンテナ素子22が配置されている円をC1とする。円C1の中心を点Roとし、送信側の全てのアンテナ素子14が配置されている円の中心を点0とすると、距離Dは、点0と点Roの間の距離である。受信側のあるアンテナ素子22の位置は、円C1における中心角θoと円C1の円周上に配置されるアンテナ素子22の送信側からの広がりの角度β[°]により決まる。つまり、受信側のアンテナ素子22が配置される円C1の半径はD・tanβにより求められる。
同図に示す受信側のアレイアンテナ21の例では、円状に8素子のアンテナ素子22を配置している。中心角θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°]のアンテナ素子22をそれぞれ、アンテナ素子a、b、c、…、hとする。そして、ズレ回転角(軸ズレ回転角ともいう)α[°]だけ、送信側のアレイアンテナ13がZ軸回転している。この回転ズレによる位相の値(位相変化)をθ1[°]とする。OAMモードL1の場合、回転ズレのない(本来の)位相を、ここでは簡単に検討できるよう仮に中心角θoと同じとして検討する。この仮定を同様に適用して、回転ズレの位相も軸ズレのある軸を中心として受信側のアンテナ素子22の位置を見る中心角をθ1とする。これにより軸ズレに伴う位相変化量Δθ(=θ1−θo)となる。
なお、この図19では円状に配置した素子数は8個であるが、例えば素子数が10個である場合、10個のアンテナ素子22の中心角θoはそれぞれ、18[°]、54[°]、90[°]、…、342[°]となる。また例えば、素子数が6個である場合、6個のアンテナ素子22それぞれの中心角θoは、30[°]、90[°]、150[°]、…、330[°]となる。
また、ここではOAMモードL1の場合を前提にして簡単な検討にしているが、仮にOAMモードL2の場合なら、回転ズレのない(本来の)位相が中心角θoに対し2倍と考える必要がある。さらに別の仮定でOAMモードL3の場合なら中心角θoに対し3倍と考え、或いは別の仮定でOAMモードL−1の場合なら中心角θoに対し−1倍、つまりプラスマイナス(±)符号が反転すると考える。
図20および図23は、送信回転ズレがある場合の各受信アンテナ位置における位相変化の特徴を示す位相特性グラフである。以下では、図20に示す位相特性グラフを位相特性グラフ(A)と記載し、図23に示す位相特性グラフを位相特性グラフ(B)と記載する。図20と図23では、先の図19に示した条件において、一例としてズレ回転角αを−6〜6[°]まで変化させた場合の位相変化を示している。図20に示す位相特性グラフ(A)においてプロットされた点は、回転角α=−6、−4、−2、…、6[°]のときの位相変化を表す。また、受信アンテナの位置については、角度β=8[°]のときの8個のアンテナ素子a、b、c、…、hそれぞれの位置(中心角θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°])を例としている。
図20の位相特性グラフ(A)に示すように、ズレ回転角αの変化に伴い、円周上にアンテナ素子22を配置した円C1の中心角θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°](各アンテナ素子a、b、c、…、hそれぞれの位置に相当)に対して、位相変化θ1が違っていることが分かる。さらに、ズレ回転角αが変化すると、図20の位相特性グラフ(A)に示すように、各アンテナ素子における位相θ1が変化し、図23の位相特性グラフ(B)に示すように、位相変化量Δθ(=θ1−θo)はアンテナ素子a、b、c、…、hそれぞれの位置(θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°])に依存している。これらの変化の特徴から、各アンテナ素子22の位相が分かるとズレ回転角αを特定できる。
この図20に示した、送信回転の軸ズレがあるときの各受信アンテナ位置における位相変化の特徴は、図21に示す系から求められる。
図21は、位相変化の特徴を求めるための系を示す図である。図21(a)は、受信側のX−Z平面を正面とした図であり、図21(b)は、図21(a)の一部を拡大した図である。図21において、受信側のあるアンテナ素子22の位置を点Rxとする。受信側の平面(X−Z平面)において、アンテナ素子22を配置する円C1(受信素子配置の円)の円周上に点Rxがある。送信側が回転角αでZ軸回転した場合、送受信方向が変わる。その送受信方向に垂直な平面に、位相を求めるための円C2(位相計算の補助円)を想定する。この位相計算の補助円C2の円周上にも点Rxがある。位相計算の補助円C2の中心をP1とする。
ここで、点Rxの垂直(Z軸)成分の長さZoについて、位相計算の補助円C2から考えると、Zo=r1・sinθ1となる。他方で、同じ長さZoを、受信素子配置の円C1から見れば、Zo=ro・sinθoとなる。よって、次の式(1)が成り立つ。
点RxをX軸上に投影した点をTとする。点P1と点Tの距離は、位相計算の補助円C2(送信軸と垂直な面における三角形T(P1)(Rx))から考えればr1・cosθ1となる。また、点P1と点Tの距離は、水平面(X−Y平面)における三角形T(P1)(R1)から見ると、Δx1・cosαである。これら点P1と点Tの距離から、次の式(2)となる。
受信素子配置の円C1の中心は点Roである。アンテナ素子14が配置されている円の中心である点0からY軸に対して回転角αだけX軸方向にずれた直線(受信側が回転角αだけZ軸回転したときの送信軸)が受信側のX−Z平面と交わるX軸上の点をR1とする。このとき、点Roと点R1との距離Δxは、送信面と受信面(点0と点Ro)の距離Dと回転角αから、Δx=D・tanαである。また、距離ΔxについてはΔx=Xo−Δx1の関係もある。ここでの点Xoは、点Rxの水平(X軸)成分であり、ro・cosθoに当たる。これらの関係から次の式(3)となる。
そして、この式(3)を上記の式(2)へ代入すると、次の式(4)となる。
先の式(1)と式(4)それぞれ両辺を2乗して、それらの辺々の和を取る。ここで、左辺がr1 2・(sin2θ1+cos2θ1)=r1 2のようにまとまるので、次の式(5)となる。
また、式(4)の両辺をr1で除算し、その後で右辺の分母r1に式(5)の平方根を代入すると、次の式(6)となる。
従って、位相θ1は、次の式(7)で与えられる。
上記の式(7)によって、送信側が回転角αでZ軸回転する場合に図20の位相特性グラフ(A)に示す位相特性が計算される。
図22は、図20の位相特性グラフ(A)が示す位相変化の特徴を用いた、通信システム1の動作サブフローを示す図である。この図22に示す動作サブフローは、図18に示す方向調整の動作フローの一部分(ステップS105〜ステップS115)における、ステップS105のZ軸回転による調整が不要か否か(調整が終了したか否か)の判定処理と、ステップS115におけるZ軸回転での調整(Z軸回転角の変更)処理の詳細を示す。
まず、ステップS105における調整が不要(又は終了)か否かの判定処理の詳細な処理を説明する。ステップS105において、通信装置20は、次の4段階で処理と判定を実施する。
1段階目として、まず、通信装置20の位相測定部25は、各アンテナ素子22から位相を取得する(ステップS205)。図20(或いは、後述する図23)において仮定している受信側のアレイアンテナ21は8素子の形態であるので、位相測定部25は、これらの各アンテナ素子22により受信した無線信号の位相値を得る。
2段階目では、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、全アンテナ素子22の相対的な位相を算出する(ステップS210)。この後のステップS215において比較に用いる位相特性グラフ(A)では、受信側のアレイアンテナ21におけるアンテナ素子22の位置における位相θoを基にして、OAM波による受信の位相値を想定している。つまりθo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°]とは、アンテナ素子22の位置は、X−Z座標の平面上でX軸方向を0[°]として反時計回りに22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°]の場所である。従って、軸ズレ推定・制御部26は、各アンテナ素子22について取得された位相に(8素子であれば8つの位相の全てに)適切な位相差を加える。このような位相差としては、例えば、各アンテナ素子22について、取得された位相に対し一定の位相差を加えた値と、当該アンテナ素子22に対応する位相θoとの差分を求め、これら差分の二乗和が最小となるような位相差を求めればよい。具体的には、位相θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°]の位置の各アンテナ素子22について、位相値−38.6(321.4)[°]、5.8[°]、51.9[°]、…、278.2[°]が得られた場合、軸ズレ推定・制御部26は、位相差60[°]を加算する。この加算によりθo=21.4[°]、65.8[°]、111.9[°]、…、338.2[°]となり、アンテナ素子位置θoに近い値とできる。この説明では、OAMモードL1の場合を述べているが、OAMモードL2、L3、…である場合には、アンテナ素子位置θoに対して2倍、3倍、…となる位相2θo、3θo、…を想定して加算する位相差を求める。OAMモードL−1の場合には、アンテナ位置θoの符号のプラスマイナスを反転させた位相−θoを想定して加算する位相差を求める。
3段階目では、軸ズレ推定・制御部26は、前段階のステップS210において算出した位相を図20に示す位相特性グラフ(A)と比較する(ステップS215)。軸ズレ推定・制御部26は、ステップS210において算出された全アンテナ素子22の相対的な位相を、位相特性グラフ(A)と照合する。位相特性グラフ(A)においては、ズレ回転角αが−6〜6[°]と異なる条件について位相変化を示している。しかし、このステップS210の比較処理において、軸ズレ推定・制御部26は、ステップS210において算出された位相が、ズレがない時(α=0[°])の位相特性にどの程度一致するか、或いはズレが最も少ない時(図20ではα=±2[°])の特性に近いかを見る。
4段階目では、軸ズレ推定・制御部26は、ステップS215において一致すると判断した位相特性が、ズレが無い時の直線グラフと一致する(Z軸回転調整不要)か否かを判定する(ステップS220)。つまり、軸ズレ推定・制御部26は、ステップS215における位相特性グラフ(A)との比較において、ステップS210において算出された全アンテナ素子22の位相は、ズレがない時(α=0[°])の直線グラフに一致していてZ軸回転の調整が不要なのか、又は、ズレがあるときの他の曲線グラフ(α≠0[°])の方に似ていてZ軸回転の調整が必要なのかを確認する。
或いは、軸ズレ推定・制御部26は、ここでの確認として全ての位相を位相特性グラフ(A)と比較する際に、ズレのない時(α=0[°])の直線グラフよりも、ズレが最小時のグラフ(図20での回転角α=±2[°])の方に類似しておりZ軸回転の調整が必要であるか、ズレのない時(α=0[°])の直線グラフの方に類似しておりZ軸回転の調整が必要ないかを判断するようにしてもよい。図20に示す位相特性グラフ(A)ではα=±2[°]を最小時ズレの角度としたが、さらに詳細な回転角α=±1[°]としたり、必要に応じてα=±0.1[°]のグラフを計算で求め用意して、その回転調整の必要性判断の基準値に設定したりしても構わない。
次に、ステップS115における軸回転での調整処理の詳細について説明する。ステップS115においては、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、以下の2つの処理を行う。
1つ目の処理では、軸ズレ推定・制御部26は、各アンテナ素子22の相対的な位相が、図20に示す位相特性グラフ(A)におけるどの曲線に近いかを求める(ステップS305)。軸ズレ推定・制御部26は、このステップS305の処理よりも前に、Z軸回転の調整が不要か否かを判断(ステップS105)した際に、受信側のアレイアンテナ21の全アンテナ素子22について位相測定部25が得た位相を相対的な値とした後(ステップS210)、位相特性グラフ(A)におけるズレのない(α=0[°])直線グラフと比較した(ステップS215)。ステップS305において、軸ズレ推定・制御部26は、それら各アンテナ素子22の相対的な位相を、位相特性グラフ(A)における他の(図20で、軸ズレがあるα=±2[°]時の)曲線と比較する。そして、軸ズレ推定・制御部26は、8個のアンテナ素子22の位相に対して最も近い曲線を特定する。
2つ目の処理では、軸ズレ推定・制御部26は、求められた最も近い曲線のパラメータであるズレ回転角αに対して反対方向へ、送信側のアレイアンテナ13をZ軸回転させる(ステップS310)。このZ軸回転の操作は、受信側のアレイアンテナ21について得られた位相から求められるズレ回転角α分だけ送信側のアレイアンテナ13を逆方向に回転させ、軸ズレのない状態にする。つまり、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、ステップS305において算出したズレ回転角αと逆方向の回転角(−α)だけZ軸方向にアレイアンテナ13を回転するよう指示する制御信号を生成し、制御無線部28は、生成された制御信号を通信装置10に無線送信する。通信装置10の制御無線部17は、制御信号を受信し、軸ズレ推定・制御部15は、受信した制御信号に基づき、Z軸方向に回転角(−α)だけアレイアンテナ13を回転するよう可動部16を制御する。
なお、この図22(ステップS105〜ステップS115、ステップS205〜ステップS220、ステップS305〜ステップS310)には、Z軸回転での調整処理についてのみ説明した。これに加え、図18に示す動作フローにおける2段階目の処理(ステップS120〜ステップS130)にあたるX軸回転において、通信システム1は、ステップS105〜ステップS115におけるX軸をZ軸に、Z軸をX軸に置き換えて、図22と同様の動作サブフローにより処理を行う。
<詳細な処理の例2>
図23に示す位相特性グラフ(B)は、送信回転の軸ズレがある場合の各受信アンテナ位置における位相変化の特徴を表す。位相特性グラフ(B)は、図20と同じ条件から得られている。すなわち、送信側でZ軸回転した時のズレ回転角α=−6〜6[°]としている。受信側のアンテナ素子22は8素子であり、各アンテナ素子22の位置は図21に示す円C1の円周上に配置される。それらアンテナ素子22の送信側からの広がりの角度β=8[°]であり、各アンテナ素子22の位置は、円C1の円周上における中心角θo=22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°]の位置としている。
他方、図23に示す位相特性グラフ(B)は、図20に示す位相特性グラフ(A)とは異なり、横軸にはズレ回転角αを、縦軸に位相変化量Δθ(=θ1−θo)[°]を取る。この位相特性グラフ(B)では、送信側のアレイアンテナ13を回転角α[°]で回転させた時に、受信側のアレイアンテナ21での各アンテナ素子22において得られる位相がどの程度変化をするかを表している。この図23に示す位相特性グラフ(B)では、どのアンテナ素子22についても、軸ズレがない(グラフでの中央となるα=0[°])時の位相を基準にしている。
図24は、図23の位相特性グラフ(B)が示す位相変化の特徴を用いた、通信システム1の動作サブフローを示す図である。この図24に示す動作サブフローは、図18に示す方向調整の動作フローの一部分(ステップS105〜ステップS115)における、ステップS105のZ軸回転による調整が不要か否か(調整が終了したか否か)の判定処理と、ステップS115におけるZ軸回転での調整(Z軸回転角の変更)処理の詳細を示す。この図18からの抜粋部分は、図22と同じ処理の部分であるが、この図24に示す動作サブフローでは、具体的な処理の内容が異なる。
まず、ステップS105における調整が不要(又は終了)か否かの判定処理の詳細な処理を説明する。ステップS105において、通信装置20は、受信アンテナの位相取得(ステップS405)、位相変化量の把握(ステップS410)、位相特性グラフ(B)との比較(ステップS415)、ズレ有無の判定(ステップS420)を順に行う。
受信アンテナの位相取得処理(ステップS405)において、通信装置20は、送信側のアレイアンテナ13をZ軸回転させ、ズレ回転角αが異なる時に、受信側のアレイアンテナ21の全アンテナ素子22のそれぞれから位相値を2つずつ取得する。ここでは受信側のアレイアンテナ21の素子数が8であるとする。通信装置20の位相測定部25は、送信側のアレイアンテナ13が回転角α1の時と、その回転角α1から所定の角度差(Δα=±1〜3[°]程度)だけZ軸回転した時(回転角α2=α1+Δαの時)の各アンテナ素子22における位相の値を取得する。すなわち、受信側の全アンテナ素子22で得られる位相の値を2つずつ合計16個(8素子×2回:回転角α1とα2の時に)取得する。
具体的には、通信装置20の位相測定部25は、各アンテナ素子22が通信装置10から送信されるOAM波を受信したときの位相を取得する。続いて、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、回転角ΔαだけZ軸回転するよう指示する制御無線を通信装置10に送信する。通信装置10の軸ズレ推定・制御部15は、その制御無線に基づいて回転角Δαだけ送信側のアレイアンテナ13がZ軸回転するように可動部16を制御する。なお、回転角Δαが送信側と受信側で既知である場合、制御無線に回転角Δαを設定しなくてもよい。また、制御無線を用いずに、送信側が予め決められたタイミングで回転角Δαだけ送信側のアレイアンテナ13をZ軸回転させてもよい。通信装置20の位相測定部25は、送信側のアレイアンテナ13がZ軸回転した後に、各アンテナ素子22が通信装置10から受信したOAM波の位相を取得する。
位相変化量の把握処理(ステップS410)において、受信側の軸ズレ推定・制御部26は、直前のステップS405の処理において送信側のアレイアンテナ13をZ軸回転させることにより異なる回転角αについて取得した受信側のアンテナ素子22毎の2つの位相値の差を計算し、各アンテナ素子22の位相変化量を把握する。それぞれのアンテナ素子22の位相変化量を得ることにより、先の図22において必要だった、適切に相対的な位相を算出する処理(ステップS210)を、単純な差分計算(単に2つの位相の測定値の差を取るだけの処理)に代えることができる。
位相特性グラフ(B)との比較処理(ステップS415)において、受信側の軸ズレ推定・制御部26は、全ての受信側のアンテナ素子22について計算した位相変化量を、先の図23に示す位相特性グラフ(B)と比較する。位相特性グラフ(B)との比較においては、2つの位相を取得する時に回転した角度Δα(=α1−α2)を考える。例えば、Δα=2[°]であった時、アンテナ素子22(円C1円周上の位置θo:22.5[°]、67.5[°]、112.5[°]、…、337.5[°])について算出された位相変化がそれぞれ−12.3[°]、−15.6[°]、−9.1[°]、…、12.2[°]であったとする。これらの位相変化が求められた場合、図23の位相特性グラフ(B)においては、ズレ回転角がα=−4[°]から−2[°]へと変化した時に近い。
ズレ有無の判定処理(ステップS420)においては、受信側の軸ズレ推定・制御部26は、直前のステップS415における位相特性グラフ(B)との比較の結果に基づいて、現在の回転角が、回転角α=0[°]と一致するか否か(Z軸回転の調整が不要か否か)を判断する。つまり、例えば、Z軸回転Δα=−3[°]の時にアンテナ素子22の位相変化が−7.2[°]、−17.7[°]、−22.9[°]、…、6.1[°]になった場合は、α1=3[°]からα2=0[°]へZ軸回転させたことになる。従って、このような(α2=0[°]の)場合には、回転角α=0[°](=α2)となり、回転調整が不要と判定できる。なお、図23に示した位相特性グラフ(B)から分かるが、必ずしもα=0[°]と厳密にアンテナ方向を一致させるだけでなく、無線通信での通信品質など必要性に対応し許容できる値α=±1[°]やα=±0.1[°]としても構わない。
一方、Z軸回転での調整処理(ステップS115)において、通信システム1は、位相変化量と位相特性グラフ(B)との比較で回転角αを確認し(ステップS505)、確認された回転角αと反対へ送信側アレイをZ軸回転させる(ステップS510)。
通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、位相変化量と位相特性グラフ(B)とを比較し、先の異なる回転角α1と回転角α2で2つの位相差(位相変化量)と、位相特性グラフ(B)とを比較し、近い回転角αを確認する(ステップS505)。具体的には、上述した例では、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、Δα=2[°]の場合に、受信側の全アンテナ素子22で得られた位相を、図23に示す位相特性グラフ(B)と比較する。軸ズレ推定・制御部26は、位相特性グラフ(B)と比較して各アンテナ素子22について得られた位相差が最も近いグラフを特定し、回転角をα1=−4[°]からα2=−2[°]へZ軸回転して位相が取得されたことを確認する。
通信装置20は、ステップS505において確認された回転角αと反対方向に、送信側アレイをZ軸回転させる(ステップS510)。つまり、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、上記のように回転角α1=−4[°]から回転角α2=−2[°]へ回転させた位相を取得したとする。この場合、軸ズレ推定・制御部26は、現在の回転角α2=−2[°]から回転角2[°]、すなわち回転角α2=−2[°]の反対方向へZ軸回転させるように、送信側のアレイアンテナ13をさらに回転させる。つまり、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、回転角α2と反対方向にZ軸回転するよう指示する制御無線を送信する。通信装置10の軸ズレ推定・制御部15は、その制御無線に基づいて回転角α2と反対方向にアレイアンテナ13をZ軸回転させるように可動部16を制御する。この回転によって回転角α=0[°]となり、Z軸回転の軸ズレがなくなることが期待できる。
これまで、図22および図24の動作サブフローでは、図18の動作フローにおけるZ軸回転とX軸回転の調整を順に行うことを説明した。しかし、図22および図24の動作サブフローの説明にそれぞれ用いた位相特性グラフ(A)(図20)および位相特性グラフ(B)(図23)はZ軸回転のみの計算解析によるものであるため、ここではZ軸回転およびX軸回転の双方の軸ズレがある場合について触れておく。位相特性グラフ(A)および位相特性グラフ(B)を詳細に検討すると、数度以下(≦6[°])の軸回転の軸ズレによって、個々のアンテナ素子22の位相は、最大で数十度程度(≒50[°])変化する。しかし、全てのアンテナ素子22について、それらの位相の変化量を平均すると、相互に変化量が相殺され、その平均の変化量は僅かとなる。この性質を利用し、OAM波を用いて受信側のアンテナ素子22で得られる位相変化に基づいて行う軸ズレの回転調整を、後で述べる第5の実施形態のように、送受信側のアレイアンテナの方向が概ね対向した状態から開始するようにする。この状態でZ軸回転の調整を行えば、受信側の各アンテナ素子22の位相特性は、Z軸回転の軸ズレに加えてX軸回転の軸ズレの影響も受けたものとなるが、全てのアンテナ素子22について位相特性を平均して扱うことで対処が可能となる。具体的には、各アンテナ素子22の位相特性に全て一律に一定量(例えば約十数度)だけ数値に幅を持たせて対処すればよい。すなわち、Z軸回転の調整を行う時に、後でX軸回転の調整を行う分の位相量が追加された状態であるとみなして調整を行えばよい。
なお、この図24(ステップS105〜ステップS115、ステップS405〜ステップS420、ステップS505〜ステップS510)には、Z軸回転での調整処理についてのみ説明した。これに加え、図18に示す動作フローにおける2段階目の処理(ステップS120〜ステップS130)にあたるX軸回転において、通信システム1は、ステップS105〜ステップS115におけるX軸をZ軸に、Z軸をX軸に置き換えて、図24と同様の動作サブフローにより処理を行う。
<軸回転による方向調整の他の処理の例>
図25は、通信システム1における、軸回転による方向調整の他の動作フローを示す図である。この図25の動作フローでは、送信側で垂直と水平の軸(Z軸とX軸)の回転により送受信方向を調整する別の方法を示す。この調整において受信側は、軸回転の調整の方向が合っているかを、別軸の回転による位相変化の有無で判定する。つまり、受信側は、Z軸調整においてはX軸回転の位相変化を判定に利用し、X軸調整においてはZ軸回転の位相変化を判定に利用する。
この図25に示す動作フローは、先の図18に示す動作フローと同様に、大きく4つの段階からなる。この4つの段階は、「調整の必要確認」、「Z軸回転の調整」、「X軸回転の調整」、「調整完了の確認」がある。
「調整の必要確認」段階では、まず、送信側と受信側が制御無線により、「送信側のZ軸回転の調整開始」の通知と確認を行う。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送信側のZ軸回転の調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送信側のZ軸回転の調整開始」を認識する。なお、通信装置10から通信装置20へ通知を行ってもよい。
同図に示す動作フローにおいては、「調整の必要確認」段階で、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、「Z軸回転の軸調整」段階に移行するために、X軸回転による位相変化があるか否かを判定する(ステップS605)。軸ズレ推定・制御部26は、X軸回転の位相変化があると判定した場合(ステップS605:YES)、次のステップS610へ移行する。受信側の軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転の全範囲内で確認したか否かを判定する(ステップS610)。
受信側の軸ズレ推定・制御部26が、まだZ軸回転の確認は全範囲分に達していないと判定した場合(ステップS610:NO)、次に通信システム1は、第2段階である「Z軸回転の調整」段階に進み、Z軸回転での調整を行う(ステップS615)。ステップS615のZ軸回転での調整処理においては、送信側の通信装置10のZ軸回転角を変更する。具体的には、ステップS615のZ軸回転の調整において、まず、制御無線を用いて受信側の通信装置20から送信側の通信装置10へ「送信側Z軸回転の調整量」を通知指示する。送信側の軸ズレ推定・制御部15は、受信側から受信した「送信側Z軸回転の調整量」に基づいて、可動部16を制御し、アレイアンテナ13のZ軸回転角を変更する。ステップS615のZ軸回転での調整(Z軸回転角変更)処理の後、通信システム1は、最初のステップS605に戻り、判定とZ軸回転での調整(ステップS605〜ステップS615)を繰り返す。
通信システム1は、第2段階の終了後、第3段階の「X軸回転の調整」および最後の段階の「調整完了の確認」を合せた動作段階に移行する。受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、ステップS605においてX軸回転の位相変化はないと判定した場合(ステップS605:NO)、Z軸回転の調整が終了していると判断し、その後の「X軸回転の調整」段階へ移行する。なお、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転の調整途中で、Z軸回転の全範囲内で確認したと判定した場合(ステップS610:YES)、回転調整の未完了を表示して終了する(ステップS640)。
移行した「X軸回転の調整」段階では、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転で位相変化があるか否かを判定する(ステップS620)。この「X軸回転の調整」段階では、この判定に先立ち、制御無線を用いて送受信間で「送信側のX軸回転調整開始」の通知と確認を行う。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送信側のX軸回転の調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送信側のX軸回転の調整開始」を認識する。なお、通信装置10から通信装置20へ通知を行ってもよい。受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、Z軸回転で位相変化があると判定した場合(ステップS620:YES)、続いてX軸回転の全範囲内で確認したか否かを判定する(ステップS625)。
受信側の軸ズレ推定・制御部26は、まだX軸回転の確認は全範囲分に達していないと判定した場合(ステップS625:NO)、X軸回転での調整を行う(ステップS630)。ステップS630におけるX軸回転での調整処理では、送信側の通信装置10のX軸回転角を変更する。このX軸回転の調整処理では、まず、制御無線を用いて受信側の通信装置20から送信側の通信装置10へ「送信側X軸回転の調整量」を通知指示する。送信側の軸ズレ推定・制御部15は、受信側から受信した「送信側X軸回転の調整量」に基づいて、可動部16を制御し、アレイアンテナ13のX軸回転角を変更する。ステップS630のX軸回転での調整処理の後、通信システム1はステップS620に戻り、再度Z軸回転の位相変化があるか否かの判定と、X軸回転での調整を繰り返す(ステップS620〜ステップS630)。
受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26が、ステップS620においてZ軸回転で位相変化がないと判定した場合(ステップS620:NO)、通信システム1は回転調整を完了する(ステップS635)。ステップS635では、制御無線を用いて、送受側と受信側が制御無線により、「送信側回転の調整完了」の通知と確認を行う。例えば、制御無線を用いて、受信側の通信装置20から送信側の通信装置10へ「送信側回転の調整完了」を通知する。送信側の通信装置10は、この制御無線を受信し、「送信側回転の調整完了」を認識する。
なお、受信側の通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、X軸回転の調整途中で、全ての範囲のX軸回転を確認したと判定した場合(ステップS625:YES)、回転調整の未完了を表示し(ステップS640)、図25の動作フローを終了する。ステップS640の処理においては、制御無線を用いて受信側から送信側へ「送信側の回転調整未完了」を通知する。
図26及び図27は、回転調整で用いる位相変化の特徴を示す図である。
図26は、受信側の受信位置を示す。同図では、受信側のアンテナ素子22を含むX−Z平面における4つの受信位置をPA、PB、PC、PDとする。位置PA、PB、PC、PDは、受信側のアンテナ素子22が配置されている円周上の位置であり、各位置の中心角θoは、90[°]、67.5[°]、22.5[°]、0[°]である。
また、図27は、送信側がZ軸回転したときの受信側の位相変化のグラフを示す図である。図27に示すグラフの横軸は送信側におけるZ軸回転の角度であり、縦軸は受信側の位相変化量である。符号LPAは位置PAについて、符号LPBは位置PBについて、符号LPCは位置PCについて、符号LPDは位置PDについての、送信側Z軸回転の角度と位相変化量の関係を示す。
図27に示すグラフは、先の図23における横軸の「ズレ回転角α[°]」を、「送信側Z軸回転の角度[°]」に置き換えることにより求められる。つまり、受信側のアンテナ素子22の位置に相当する角度θに対する位相θ1を、先の図21において説明した式(7)により計算し、さらに図23と同様に、基準とする位相θoとの差から位相変化量Δθ[°]を求めることができる。
送信側がZ軸回転した場合、X軸上以外の位置、例えば、位置PA、PB、PCにおける受信は、位相が変化する。また、X軸から位置PA、PB、PC、PD(アンテナ素子22の位置)までの距離の垂直成分(Z軸成分)により、位相の変化量が異なる。また、X軸からの距離が長いほど(位置PAとX軸の距離>位置PBとX軸の距離>位置PCとX軸の距離)、位相変化は大きくなる。逆に、送信側がX軸回転した場合、Z軸上の位置(位置PD)における位相は変化せず、Z軸からの距離が長いほど、位相変化は大きくなる。
図25の動作フローでは、図27に示すグラフが位相変化の特徴を、ステップS605及びステップS620の判定処理に活用している。すなわち、ステップS605では、X軸上にないアンテナ素子22(例えば、位置PA、PB、PCのアンテナ素子22)において位相変化があり、かつ、X軸上のアンテナ素子22(例えば、位置PDのアンテナ素子22)において位相変化がないかを判定する。また、ステップS620では、Z軸上にあるアンテナ素子22(例えば、位置PB、PC、PDのアンテナ素子22)において位相変化があり、かつ、Z軸上にあるアンテナ素子22(例えば、位置PAのアンテナ素子22)において位相変化がないかを判定する。
なお、X軸上にアンテナ素子22を設けるなど、受信側のアレイアンテナ21におけるアンテナ素子22の位置を工夫してもよい。また、図10に示したY軸回転を使用してアンテナ素子の位置をX軸上へ移動させることができる。図28は、Y軸回転を使用したX軸上への受信側のアンテナ素子22の位置の移動を示す図である。同図では、Y軸回転を使用して位置PEにあったアンテナ素子22をX軸上の位置PD’に移動させており、これよって、例えば、位置PBにあったアンテナ素子22はZ軸上の位置PA’に移動する。Y軸回転を使用してアンテナ素子22の位置をX軸上へ移動させた場合、アンテナ素子22が傾き、偏波の向きが多少ずれる。例えば、V偏波に少しH偏波の成分が混ざるが、アレイアンテナ21のZ軸回転に対する位相の変化が無くなり、図27のLPDのような特性となる。或いは、単純な位相変化の有無で判定するのではなく、位相の変化量の違いを活用して軸ズレを調整するともできる。この位相の変化量の違いを活用すれば、アンテナ素子22が配置される円周上の中心角θo=90[°]、0[°]の位置PA、位置PDにアンテナ素子22を配置しなくても、別の位置、例えば、中心各θo=67.5[°]、22.5[°]の位置PB、PCに配置されたアンテナ素子22の位相変化に基づいて判定を行ってもよい。
以上説明した第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、OAM波を用いた無線通信を行う通信システムは、送信側の電波放射の方向を調整する。この送信側の電波放射の方向調整のため、以下のように順に処理する。すなわち、受信側は、受信アレイアンテナの全アンテナ素子から得られる受信信号の位相に対し、送信側の電波放射の軸回転から想定される受信信号の位相変化の特徴から、方向調整が必要か否かを判定する。受信側が判定したこの位相変化の特徴から方向調整が必要な場合、通信システムは、次の順に送信アレイアンテナの方向調整を行う。まず、通信システムは、送信側のアレイアンテナをZ軸(垂直方向)回転させる調整を実行する。次に、通信システムは、送信側のアレイアンテナをX軸(送信方向と直交する水平方向)回転させる調整を実行する。
なお、上述した送信側の電波放射の方向の調整において、方向調整が必要か否かを判定するために、送信側の電波放射の軸回転により想定される、受信アレイアンテナの全アンテナ素子における受信信号の位相変化の特性(特徴)を利用してもよい。
また、上述した送信側の電波放射の方向の調整において、方向調整が必要かを判定するために、送信側の電波放射を調整する回転軸とは異なる軸を中心として回転させたときの受信アレイアンテナにおける受信信号の位相変化の特性(特徴)を利用してもよい。
なお、送信側は、X軸(送信方向と直交する水平方向)及びZ軸(垂直方向)の2軸でアレイアンテナを回転する可動機構を有する。
あるいは、送信側は、多数のアンテナ素子を三次元に配置した三次元アレイアンテナと、三次元アレイアンテナからサブアレイを選択する選択部とを設ける。選択部は、三次元アレイアンテナから、部分的な領域にあるアンテナ素子を選択し、送信アレイアンテナとして用いるサブアレイを構成する。選択部は、現在選択されているサブアレイから、軸回転に合う別のサブアレイを選択することにより、送信アレイアンテナの軸回転の調整を行う。
[第3の実施形態]
第2の実施形態までは受信側のアンテナ素子22について得られた位相により送信側の回転による軸ズレを調整する方法を述べた。この第3の実施形態では送受信のアレイアンテナを順に調整する。
図29は、送信側と受信側において順に方向ズレを調整する状況を示す図である。
図29(a)は、送信側と受信側の両方の方向ズレ状態を示す図である。送信側のアレイアンテナ13aは、X−Z平面上の送信側のアレイアンテナ13がZ軸回転した状態であり、受信側のアレイアンテナ21aは、X−Z平面上の受信側のアレイアンテナ21がZ軸回転した状態である。アレイアンテナ13とアレイアンテナ13aの中心は一致し、アレイアンテナ21とアレイアンテナ21aの中心は一致する。送信側のアレイアンテナ13aの方向DS1も、受信側のアレイアンテナ21aの方向DR1も、それぞれが対向する受信側のアレイアンテナ21aの中心、送信側のアレイアンテナ13aの中心には一致しない。この状態では、まだ送信側と受信側の両方とも、全く軸調整が実施されていない。
図29(b)は、送信側の方向ズレのみ調整済みの状態を示す図である。送信側のアレイアンテナ13の方向DS2は、対向の受信側のアレイアンテナ21aの中心に一致している。一方、受信側のアレイアンテナ21aの方向DR2は、対向する送信側のアレイアンテナ13の中心には一致しない。図29(a)の状態から図29(b)の状態とするための送信側の調整には、先の第2の実施形態で説明した調整法を使用する。
図29(c)は、送信側と受信側の両方の方向ズレ調整済み状態を示す図である。送信側のアレイアンテナ13の方向DS3も、受信側のアレイアンテナ21の方向DR3も、それぞれが対向する受信側のアレイアンテナ21の中心、送信側のアレイアンテナ13の中心と一致している。図29(a)又は図29(b)の状態から図29(c)の状態とするために、通信システム1は、後述する調整動作を実施する。この状態は、送受信双方向で軸ズレの影響がなく、問題無くOAM波を使用した無線通信ができる。
図30は、通信システム1における、送受信両方の方向ズレ調整の動作フローを示す図である。
同図に示す動作フローの動作開始には、まず送信側の通信装置10の調整を実施する(ステップS705)。このステップS705の処理に当たり、制御無線を用い、送信側と受信側との間で、「送信側の回転の調整開始」を通知・確認する。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送信側の回転の調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送信側の回転の調整開始」を認識する。あるいは、送信側の通信装置10が受信側の通信装置20に制御無線により「送信側の回転の調整開始」を通知し、通信装置20は、その制御無線を受信して「送信側の回転の調整開始」を認識する。ステップS705の送信側の調整処理では、図29(a)に示す状態にある送信側のアレイアンテナ13の2軸回転を調整する。また、この調整法については第2の実施形態で説明した軸ズレの調整方法により実施する。
通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、方向ズレでの位相が許容範囲内か否かを判定する(ステップS710)。軸ズレ推定・制御部26は、方向ズレの位相が許容範囲内であると判定した場合(ステップS710:YES)、調整完了を表示して(ステップS715)、処理を終了する。このステップS715の調整完了の表示処理では、制御無線により、通信装置20から通信装置10に「送信側の回転の調整完了」を通知する。
一方、通信装置20の軸ズレ推定・制御部26は、方向ズレでの位相が許容範囲を超えていると判定した場合(ステップS710:NO)、送受信を入替えて、新たに送信側になった通信装置20の調整を実施する(ステップS720)。このステップS720の処理へ移行するため、制御無線により送信側と受信側との間で「送受信を入替た調整開始」を通知・確認する。例えば、受信側の通信装置20が送信側の通信装置10に制御無線により「送受信を入替た調整開始」を通知し、通信装置10は、その制御無線を受信して「送受信を入替た調整開始」を認識する。あるいは、送信側の通信装置10が受信側の通信装置20に制御無線により「送受信を入替た調整開始」を通知し、通信装置20は、その制御無線を受信して「送受信を入替た調整開始」を認識する。そして、ステップS705の送信側の調整処理における通信装置20の処理を通信装置10が行い、通信装置10の処理を通信装置20が行う。
ステップS720の送受信を入替えた調整処理においては、図29(b)に示す状態では受信側であり、入替えにより送信側となったアレイアンテナ21の2軸回転を調整する。通信装置10の軸ズレ推定・制御部15は、方向ズレ(本来の位相との差異)が許容範囲内か否かを判定する(ステップS725)。軸ズレ推定・制御部15が、方向ズレは許容範囲内であると判定した場合(ステップS725:YES)、通信システム1は送受信を入替えた調整を完了し(ステップS730)、処理を終了する。調整の完了により、通信システム1は、図29(c)の状態となる。このステップS730の調整の完了においては、送受信の入替えにより受信側となった通信装置10から、送受信の入替えにより送信側となった通信装置20へ、制御無線を用いて「送受を入替えた調整の完了」を通知する。
なお、ステップS725の判定には、通信に利用する複数のOAMモードが問題無く識別できる位相の範囲とすることができる。例えばOAMモードL1〜L3を多重して使用する無線通信なら、位相は±10[°]程度を許容範囲とできる。通信装置10の軸ズレ推定・制御部15は、方向ズレが許容範囲を超えると判定した場合(ステップS725:NO)、送受合せた調整量オーバーを表示し(ステップS735)、動作を終了する。この動作終了前のステップS735の処理においては、制御無線を用い受信側の通信装置10から送信側の通信装置20へ「送受合せた調整量を超えた」旨を通知する。
[第4の実施形態]
本実施形態では、上述した実施形態とは異なる方法により生成されたOAM波の方向調整法を示す。
第1の実施形態から第3の実施形態までは、円状に配置されたアンテナ素子14により構成されるアレイアンテナ13がOAM波を送信し、同様のアレイアンテナ21が各アンテナ素子22でOAM波を受信する形態に基づいていた。しかし、OAM波の位相変化を活用した軸ズレの調整は、必ずしもアレイアンテナを用いて送信されるOAM波に限定されるものではない。そこで、アレイアンテナ以外にOAM波を送信する形態として図31及び図32に示す2つの例を挙げた。
図31及び図32は、上述した実施形態とは異なる方法により生成されるOAM波を用いる通信システムの構成図である。図31では、OAM波の生成に切り込みパラボラアンテナを用いた通信システム1aの構成例を示し、図32は、OAM波の生成に段差のある誘電体の透過を用いた通信システム1bの構成例を示す。
図31に示す通信システム1aは、通信装置51と通信装置55とを備える。同図において、図に示す第1の実施形態による通信システム1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。通信装置51が、図1に示す通信装置10と異なる点は、アレイアンテナ13に代えて、切り込みパラボラアンテナ52を備える点、及び、位相調整部12を備えない点である。また、通信装置55が、図1に示す通信装置20と異なる点は、アレイアンテナ21に代えて切り込みパラボラアンテナ56を備える点、切り込みパラボラアンテナ56の周囲に複数のアレイアンテナ57を備える点、及び、位相調整部23を備えない点である。
切り込みパラボラアンテナ52を用いることにより、OAM波の送信において、送信側の各アンテナ素子14に入力する信号に対する位相設定の機能が不要でなる。一方、受信側では、軸ズレの調整において、軸ズレ調整が必要か(軸ズレがあるか否か)の検出と、調整量(ズレ量)の検出のため、受信側の切り込みパラボラアンテナ56の周囲に円周上にアレイアンテナ57を配置している。これらのアレイアンテナ57の全アンテナ素子からの信号に基づき位相測定部25が位相を測定する。軸ズレ推定・制御部26はこの位相測定結果を用いて軸ズレを推定し、その推定に基づき切り込みパラボラアンテナ56の軸ズレを調整することができる。なお、OAM波の生成に用いた切り込みパラボラアンテナ52の切り込み箇所では、位相が360[°]変化する。切り込みパラボラアンテナ52におけるこの切り込みの数により、OAMモードが決まる。つまり、切り込みパラボラアンテナ52に1か所、2か所、3か所…の切り込みがあると、それぞれOAMモードL1、L2、L3、…になる。
また、図32には、段差のある誘電体に電波を透過させ、OAM波として通信する形態を挙げた。図32に示す通信システム1bは、通信装置61と通信装置65とを備える。同図において、図1に示す第1の実施形態による通信システム1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。通信装置61が、図1に示す通信装置10と異なる点は、アレイアンテナ13に代えて、指向性アンテナ62と指向性アンテナ62が送信した電波を透過させる段差のある誘電体63とを備える点、及び、位相調整部12を備えない点である。また、通信装置65が、図1に示す通信装置20と異なる点は、アレイアンテナ21に代えて、指向性アンテナ66と指向性アンテナ66が送信した電波を透過させる段差のある誘電体67とを備える点、誘電体67の周囲に複数のアレイアンテナ68を備える点、及び、位相調整部23を備えない点である。
この構成例においても、図31と同様に、位相設定が不要であり、受信側の誘電体67の周囲にアレイアンテナ68を配置している。OAM波の生成に用いる誘電体63には、放射状に8つの段差がある。そして、OAMモードをL1とする場合は、誘電体63を通過する経路差が最大となる段差を1か所とし、その段差の場所で経路差の位相を360[°]変えている。
これら図31の通信システム1a、図32の通信システム1bの両方とも、受信側のパラボラアンテナ56または誘電体67の周囲に配置されたアレイアンテナ57、68の全アンテナ素子からの信号に基づき位相を測定する。通信装置55、65の軸ズレ推定・制御部26は、この測定された全アンテナ素子の位相から軸ズレを推定して、その推定により切り込みパラボラアンテナ56を、または、指向性アンテナ66および誘電体67を平行移動させ軸ズレを調整する。
[第5の実施形態]
本実施形態では、OAM波以外の他の無線通信の方向調整を、OAM波を用いて行う。第1〜第4の実施形態は、アンテナ方向の調整を行う対象の無線通信はOAM波を用いることが前提であった。しかし、一般的にアンテナ方向調整のために、無線通信と違う専用の試験信号を使用することがある。これと同様にアンテナ方向調整用にOAM波を試験信号に用いて、この方向調整されたアンテナで他の無線通信をすることができる。
図33は、通信に用いる電波の種類、軸調整(粗調整・微調整)に用いる方法、及び、共有する構成部分の組合せの表を示す図である。これらの組み合わせにより、様々な機構の通信システムが考えられる。
図33に示す表から、通信、軸調整法、共有する構成部分それぞれから下線で示す候補を選択した機構を持つ通信システム1cの構成例を図34に示す。すなわち、図33に示す表から、通信には「OAM波ではない他の無線通信」を、軸調整法では粗調整に「受信する電波強度による調整」、微調整に「OAM波を用い位相特性による方向調整」を、共有する構成部分では「送受信アレイアンテナ」を、それぞれに選んでいる。
図34は、本実施形態の通信システム1cの構成図である。通信システム1cの構成は、図1に示す第1の実施形態の通信システム1の構成と類似している。通信システム1cは、通信装置70と通信装置80を有する。以下では、送信側が通信装置70であり、受信側が通信装置80である場合を例に説明する。同図において、図1に示す第1の実施形態による通信システム1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。同図において、点線で示す部分が、他の無線通信の構成部分であり、他の無線通信の構成部分に対する本実施形態の追加部分は、図1に示す第1に実施形態の通信システム1と同様である。第1の実施形態と共通の部分が軸ズレの調整(特に、図35で後述する微調整)に使用される。
通信装置70は、試験信号発生部72、位相調整部73、通信信号発生部74、調整部75、アレイアンテナ13、軸ズレ推定・制御部15、可動部16及び制御無線部17を備える。送信側の通信装置70において、他の無線通信の構成部分(図1にけるOAMによる通信を行う構成部分に相当)には、通信信号発生部74、調整部75、アレイアンテナ13がある。アレイアンテナ13は、他の無線通信と軸調整で共有されている。
通信信号発生部74は、図1の信号発生部11と同じである。調整部75は、アンテナ素子14毎に給電される送信信号の振幅や位相の調整を行い、図1の位相調整部12にあたる。しかし、これらはOAM波ではない他の無線通信に用いられる。そのため、通信信号発生部74は、送信信号の生成機能に加えて、無線通信に合わせた変調も行う。また、調整部75は、OAMと異なる他の無線通信において、複数のアンテナ素子14に同じ位相調整を行なったり、アンテナ素子14毎に信号振幅を変えたりすることもある。
続いて、本実施形態において送信側で追加された構成を説明する。軸ズレ推定・制御部15、可動部16、制御無線部17は、全て図1に示す第1の実施形態と同じである。通信装置70が有し、図1の通信装置10にはない機能は、試験信号発生部72と位相調整部73により実現される。この試験信号発生部72は、無線でOAM波となるアンテナへの入力信号を発生させる。また位相調整部73は、アンテナ素子14毎に異なる位相を調整する。この図34の試験用OAM信号に対する位相調整部73は、利用目的が違うものの、図1のOAMを使う無線通信における位相調整部12と同じ機能である。
ここまでが送信側の通信装置70の構成で、ここから受信側の通信装置80について述べる。通信装置80は、アレイアンテナ21、調整部83、通信信号復調部84、位相測定部25、軸ズレ推定・制御部26、可動部27及び制御無線部28を備える。通信装置80の調整部83、通信信号復調部84は、図1に示す第1の実施形態の位相調整部12、信号復調部24に相当する。調整部83は、アンテナ素子22毎に受信信号の振幅や位相の調整を行う。ただし、図34ではOAM波ではない他の無線通信を行うため、調整部83は、送信側の通信装置70と同様に、受信側のアンテナ素子毎の調整を行う際、OAMと異なる他の無線通信においては、複数のアンテナ素子22で同じ位相調整を行なったり、アンテナ素子22毎に信号振幅を変更したりする。通信信号復調部84は、調整部83からの受信信号を受け、通信装置70で施された変調に応じた復調も行う。
また、通信装置80の位相測定部25、軸ズレ推定・制御部26、可動部27、制御無線部28は、図1に示す第1の実施形態と同じである。ただし図1ではアレイアンテナ21の軸ズレ調整と無線通信の両方でOAM波を用いるが、図34の通信装置80は、OAM波ではない他の無線通信を行い、OAM波はアレイアンテナの軸ズレ調整のみに使う。特に、OAM波は、この後の図35で説明する軸ズレの微調整に用いられる。
以上の通信装置70と通信装置80の構成により、通信システム1cは、他の無線通信の方向調整においてもOAM波を試験信号に利用する構成となっている。通信システム1cにおける他の無線通信とOAM波を試験信号に利用した軸調整との切替え動作について説明する。そこで、他の無線通信の方向調整においてOAM波を試験信号に利用する例を挙げる。
図35は、他の無線信号とOAM試験信号の切替えにおける通信システム1cの動作フローを示す。この動作フローでは、OAM波ではない他の無線信号を用いた通信を行う前のアンテナ方向調整に関する。
図35では、最初に、電波強度による受信側のアレイアンテナの方向粗調整を行う(ステップS805)。この方向粗調整にあたり、制御無線を用いて送受信間相互で「受信信号の電波強度による粗調整の開始」を通知・確認する。この方向粗調整では、電波強度以外の方法としてスコープのような照準器を用いたり、送受信アンテナの緯度経度に関する情報から計算で求まる方位にアンテナ方向を合わせたりする方法でもよい。これ以降、通信システム1cは、以下の順に処理を進める。
受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26は、アレイアンテナの方向粗調整を終えたか否かを判定する(ステップS810)。軸ズレ推定・制御部26は、粗調整を終えていないと判定した場合(ステップS810:NO)、通信システム1cは、再びステップS805の方向粗調整を実施する。通信装置80の軸ズレ推定・制御部26が、粗調整を終えたと判定した場合(ステップS810:YES)、通信装置70は、試験信号にOAM波の発生を設定する(ステップS815)。
このOAM波を試験信号に用いた調整へ移る際に、制御無線を用いて、通信装置80から通信装置70に「粗調整の終了」を通知し、通信装置70と通信装置80の間でOAM波による微調整の開始を相互に通知・確認する。通信装置80は、OAM波を受信し、方向ズレ微調整処理を実施する(ステップS820)。通信装置80は、この方向ズレ微調整処理により、OAM波によるアレイアンテナの方向の微調整を行う。
このステップS820におけるアレイアンテナの方向の微調整の処理は、第1の実施形態〜第3の実施形態と同様の処理である。つまり、図18のステップS105〜ステップS130と同様の処理、図25におけるステップS605〜ステップS630と同様の処理、又は、図30におけるステップS705〜ステップS720と同様の処理により、通信装置80、又は、通信装置80及び通信装置70は、OAM波の位相特性を活用した軸ズレ調整を行う。
受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15は、OAM波の試験信号による方向微調整を終えたか否かを判定する(ステップS825)。ここで、受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15が、微調整を終えていないと判定した場合(ステップS825:NO)、通信システム1cは再びステップS820の方向微調整を実施する。受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15は、微調整を終えたと判定した場合(ステップS825:YES)、ステップS830の処理を行う。すなわち、受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15は、軸ズレが許容範囲内か否かを判定する(ステップS830)。受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15が、軸ズレは許容範囲内であると判定した場合(ステップS830:YES)、通信装置70及び通信装置80は、他の無線通信の通信信号に切替え、通信を開始する(ステップS835)。
このステップS835で通信を開始する際には、制御無線により受信側の通信装置80又は通信装置70から送信側の通信装置70又は通信装置80に「OAM波による軸調整で許容範囲内になった」旨を通知し、受信側から送信側へ(又は送信側から受信側へ)「通常の通信を開始する」旨を通知することにより、送受間で相互に確認する。
一方、受信側の通信装置80の軸ズレ推定・制御部26又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15は、軸ズレが許容範囲内ではないと判定した場合(ステップS830:NO)、方向微調整(移動調整)が不調である旨を表示する(ステップS840)。受信側の通信装置80又は通信装置70の軸ズレ推定・制御部15は、制御無線により、送信側の通信装置70又は通信装置80へ「OAM波による軸調整で許容範囲に収まらず、調整が不調」を通知する。
ここで粗調整・微調整に関連して、例えば他の無線通信においては送受信間距離が400m、粗調整により送信アンテナ方向に対し受信アンテナの位置で角度≦0.1[°]が許容範囲と仮定する。加えて、アンテナ方向調整の最初の段階では、角度≦0.3[°]の粗調整しかできないとして考える。当然、これらの仮定において粗調整だけの実施では許容範囲の角度を超えるため、通信システム1cは、本実施形態のOAM波を用いた微調整を行う。この場合には、理想的に軸ズレがない状態との差、つまり図23に示す軸ズレの回転角α=0[°]に対し、軸ズレによる位相変化量Δθの識別精度値には0.5[°]程度が必要なる。この精度の値は、図23において、軸ズレの回転角αがプラス範囲ではθo=112.5[°]、回転角αがマイナスではθo=67.5[°]のアンテナ素子を利用するときに、α=±6[°]ならΔθ=±44.5[°]であり、α=0〜±6[°]の範囲でほぼ比例(直線的に)変化することから、0.74[°](≒0.1×44.5/6)と計算できる。従って、軸ズレによる位相変化量Δθの識別精度0.5[°]は、図23に示す位相変化特徴から算出される0.74[°]よりも高い精度となり、許容範囲の角度≦0.1[°]を十分に調整できる。
またあるいは、先の第1の実施形態〜第4の実施形態のような別の形態として、仮にOAM波を使用する通信では送受信間距離を100mとし、送信アンテナ方向に対し許容範囲が角度≦0.03[°]であるとする。また粗調整では角度≦0.05[°]にしかできない場合を検討してみる。これら仮定から、OAM波を用いた微調整でズレ位相変化量Δθの識別精度値には0.1[°]とできれば、十分に許容範囲の条件を満たせる。上記の微調整と許容範囲の関連する説明と同様に、図23から、位相変化量Δθが0.22(≒0.03×44.5/6)以内となり、許容範囲の角度≦0.03[°]に対し2倍強の精度の識別能力にあたる。
以上説明した実施形態によれば、通信システムは、第一通信装置(例えば、通信装置10、51、61、70)と第二通信装置(例えば、通信装置20、55、65、80)とを有する。第一通信装置の第一アンテナ(例えば、アレイアンテナ13、パラボラアンテナ52、誘電体63)は、OAM波を送信する。第二通信装置の第二アンテナ(例えば、アレイアンテナ21、57、68)は、第一アンテナから送信されたOAM波を受信する。第二通信装置の制御部(例えば、軸ズレ推定・制御部26)は、第二アンテナが有する複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相に基づいて、第一アンテナからの電波放射方向のズレの角度を求め、求められた角度に基づいて第一アンテナの垂直方向の向きの調整と第一アンテナの水平方向の向きの調整とを個別に行う。
なお、第二通信装置の制御部は、第二アンテナが有する複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相と、第一アンテナからの電波放射方向にズレがあるときに第一アンテナから送信された信号を第二アンテナが有する複数のアンテナ素子のそれぞれが受信したときの位相変化の特性とに基づいて、第一アンテナからの電波放射方向の垂直方向又は水平方向のズレの角度を求めてもよい。
また、第二通信装置の制御部は、第二アンテナが有する複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相に基づいて、水平方向又は垂直方向の調整が必要か否かを判断する。そして、第二通信装置の制御部は、垂直方向の調整が必要と判断した場合に第一アンテナの垂直方向の回転の調整を行い、水平方向の調整が必要と判断した場合に第一アンテナの水平方向の回転の調整を行う。
あるいは、第二通信装置の制御部は、第二アンテナが有する複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて受信したOAM波の位相に基づいて、第一アンテナの水平方向又は垂直方向の一方を回転させた前後において、他方の方向の位相の変化があるか否かを判断する。そして、第二通信装置の制御部は、水平方向の位相変化があると判断した場合に第一アンテナの垂直方向の回転の調整を行い、垂直方向の位相変化があると判断した場合に第一アンテナの水平方向の回転の調整を行う。
また、第一通信装置は、第二通信装置の制御部による調整に基づいて、第一アンテナの向きを水平方向及び垂直方向に回転させる機構の可動部を備える。
あるいは、第一通信装置は、複数のアンテナ素子が三次元に配された三次元アレイを有しており、この三次元アレイが有するアンテナ素子から選択されたアンテナ素子により第一アンテナを構成する。第一通信装置の選択部は、制御部による調整に基づいて、三次元アレイが有するアンテナ素子から第一アンテナとして用いるアンテナ素子を選択する。
上述した実施形態によれば、送受信の軸を的確に調整して、OAM波を用いた無線通信を実現できる。また、他の無線通信においても、OAM波を試験信号に用いることにより、高精度に送受信の軸を調整できる。
上述した実施形態における通信装置10、51、61、70の軸ズレ推定・制御部15、及び、通信装置20、55、65、80の軸ズレ推定・制御部26など一部の機能をコンピュータで実現するようにしてもよく、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現してもよい。通信装置10、51、61、70の軸ズレ推定・制御部15、及び、通信装置20、55、65、80の軸ズレ推定・制御部26など一部の機能をコンピュータで実現する場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。