JP2017224809A - プリント基板及び電子装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】プリフラックスを用いることなく、ランドの酸化を抑制できるプリント基板及び電子装置を提供すること。【解決手段】プリント基板31は、はんだ付けされるランド35を有している。ランド35は、銅箔部35aと、銅箔部35a上に形成され、ランド35の表面をなすめっき膜35bを有している。めっき膜35bは、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性分子37を含んでいる。π受容性分子37の含有量は、C原子換算でめっき膜35bの主成分の金属の0.1重量%以上とされている。π受容性分子37は、めっき膜35b中において、主成分の金属に対して分散されている。π受容性分子37は、めっき膜35bを構成する金属との間に、逆供与π結合を形成する。これにより、プリフラックスを用いなくとも、ランド35の酸化を抑制することができる。【選択図】図2

Description

この明細書における開示は、はんだ付けされるランドを備えたプリント基板及び電子装置に関する。
従来、特許文献1に開示されるように、プリント基板のランド表面にプリフラックスを塗布することで、ランドの酸化を抑制する技術が知られている。
特開2007−59451号公報
プリフラックスには、寿命が短いという問題がある。プリフラックスが塗布されたプリント基板を空気中で保管すると、プリフラックスが短期間で劣化し、プリント基板をはんだ付けして電子装置を形成する際に、はんだ付け不良が生じる虞がある。
本開示はこのような課題に鑑みてなされたものであり、プリフラックスを用いることなく、ランドの酸化を抑制できるプリント基板及び電子装置を提供することを目的とする。
本開示は、上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、技術的範囲を限定するものではない。
本開示のひとつは、はんだ付けされるランド(35,36)を備えたプリント基板であって、
ランドが、該ランドの表面をなすめっき膜(35b,36b)を有し、
めっき膜が、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性分子(37)を含み、
めっき膜におけるπ受容性分子の含有量が、C原子換算でめっき膜の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされ、
π受容性分子が、めっき膜中において、主成分の金属に対して分散されている。
以下において、ランド表面の金属における電子の局在化を、ダングリングボンドと示す。本開示によれば、π受容性分子が、ダングリングボンドを有する金属との間に逆供与π結合を形成する。これにより、ランド表面のダングリングボンドの数を従来よりも低減若しくは無くすことができる。したがって、ランドの酸化を抑制することができる。
また、プリフラックスを用いることなく、ランドの酸化を抑制することができる。たとえば空気中で保管しても、長期にわたってランドの酸化を抑制することができる。
本開示の他のひとつである電子装置は、
電気部品(32,40)と、
はんだ(33)を介して電気部品と電気的に接続されるランド(35,36)を有するプリント基板(31)と、
を備え、
ランドが、ランドの表面をなすめっき膜(35b,36b)を有し、
めっき膜が、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性分子(37)を含み、
めっき膜におけるπ受容性分子の含有量が、C原子換算でめっき膜の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされ、
π受容性分子が、めっき膜中において、主成分の金属に対して分散されている。
これによれば、上記したプリント基板と同等の効果を奏することができる。
第1実施形態に係るプリント基板及び電子装置の概略構成を示す断面図である。 プリント基板のうち、電子部品が表面実装されるランド周辺を示す断面図である。 プリント基板のうち、スルーホール壁面に形成されたランド周辺を示す断面図である。 π受容性分子の分子構造を示す図である。 π受容性分子の分子構造を示す図である。 参考例を示す図である。 第1実施形態の効果を示す図である。 実施例についてのXPSの測定結果を示す図である。 比較例についてのXPSの測定結果を示す図である。 第2実施形態に係るプリント基板のうち、電子部品が表面実装されるランド周辺を示す断面図であり、図2に対応している。
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分には同一の参照符号を付与する。以下において、プリント基板の板厚方向をZ方向、Z方向に直交する一方向であって筐体の開口部に対する奥行方向をX方向と示す。また、Z方向及びX方向の両方向に直交する方向をY方向と示す。特に断りのない限り、XY平面に沿う形状を平面形状とする。
(第1実施形態)
先ず、図1に基づき、本実施形態に係るプリント基板及び該プリント基板を備える電子装置の概略構成について説明する。
図1に示す電子装置10は、たとえば車両に搭載される。電子装置10は、車両を制御する電子制御装置として構成されている。電子装置10は、たとえば車両に搭載されたエンジンを制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)として構成されている。電子装置10は、筐体20と、回路基板30と、コネクタ40を備えている。
筐体20は、回路基板30を内部に収容し、回路基板30を保護する。たとえば回路基板30の生じた熱に対する放熱性を向上するために、筐体20は、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成される。たとえば電子装置10の軽量化を図るために、筐体20は、樹脂材料を用いて形成される。
本実施形態において、筐体20は、Z方向に分割された2つの部材、具体的には、ケース21と、カバー22を有している。ケース21及びカバー22は、いずれもアルミニウム系材料を用いて形成されている。筐体20は、Z方向においてケース21とカバー22を組み付けることで形成される。ケース21とカバー22の組み付け方法は特に限定されない。ねじ締結など周知の組み付け方法を採用することができる。
ケース21は、一面が開口する箱状をなしている。平面略矩形状をなす回路基板30に対応して、ケース21の底面部も略矩形状となっている。ケース21において、4つの側面部のひとつが開口しており、側面の開口は、上記した一面の開口につながっている。
カバー22は、ケース21とともに筐体20の内部空間を形成する。ケース21とカバー22を組み付けることで、カバー22によりケース21における一面の開口が閉塞され、開口部20aが形成される。開口部20aは、カバー22により一面の開口が閉塞されることで、側面の開口が区画されてなる。
回路基板30は、プリント基板31と、プリント基板31に実装された電子部品32を有している。電子部品32は、プリント基板31に、はんだ33を介して電気的に接続されている。回路基板30は、筐体20の内部空間に収容されている。プリント基板31は、一面31a及び該一面31aに対してZ方向に反対の面である裏面31bを有している。プリント基板31の板厚方向がZ方向と一致している。プリント基板31は、平面略矩形状をなしている。プリント基板31(回路基板30)は、ねじ締結、接着など周知の固定方法により、筐体20に固定されている。本実施形態では、カバー22が深さの浅い箱状をなしており、カバー22の底部内面22aに、プリント基板31に向けて突出する支持部22bが形成されている。裏面31bが支持部22bにより支持された状態で、プリント基板31が筐体20(カバー22)に固定されている。
プリント基板31は、樹脂などの電気絶縁材料を用いて形成された絶縁基材34に、配線が配置されてなる。そして、配線と電子部品32とにより、回路が形成されている。図1では、プリント基板31の配線のうち、外部接続用の電極部分であるランド35,36のみを図示している。すなわち、ランド35,36は、配線のうち、はんだ付けされる部分である。
ランド35は、プリント基板31の一面31a及び裏面31bの少なくとも一方に形成されている。ランド35には、はんだ33を介して、電子部品32やコネクタ40が電気的に接続される。
本実施形態では、図1に示すように、一面31aにランド35が形成されている。そして、ランド35に、はんだ33を介して、表面実装型の電子部品32が電気的に接続されている。電子部品32のひとつは、一面31a上に配置された本体部32aと、本体部32aの表面に形成された電極32bを有している。そして、電極32bが、はんだ33を介して対応するランド35に接続されている。電子部品32の他のひとつは、一面31a上に配置され、モールド樹脂によって封止された本体部32cと、本体部32cのモールド樹脂から外部に突出するリード32dを有している。そして、リード32dが、はんだ33を介して対応するランド35に接続されている。
プリント基板31は、一面31a及び裏面31bにわたって形成されたスルーホール31cを有している。ランド36は、スルーホール31cの壁面に形成されている。ランド36は、スルーホールランドとも称される。本実施形態では、ランド36が、スルーホール31cの壁面と、一面31a及び裏面31bにおけるスルーホール31cの開口周囲に、一体的に形成されている。そして、コネクタ40の後述する端子42が、はんだ33を介してランド36に接続されている。電子部品32及びコネクタ40が、電気部品に相当する。
コネクタ40は、プリント基板31に対して、X方向の一端側に配置されている。コネクタ40は、プリント基板31に挿入実装されている。コネクタ40の一部は筐体20の開口部20aを介して外部に露出され、残りの部分は筐体20の内部空間に収容されている。コネクタ40は、ハウジング41と、複数の端子42を有している。
ハウジング41は、樹脂材料を用いて形成されている。ハウジング41は、筒部41aと、閉塞部41bを有している。筒部41aは、筒状に成形されている。筒部41aは、X方向に沿う軸を有している。閉塞部41bは、筒部41aに連なり、筒部41aを閉塞している。閉塞部41bには、複数の端子42が保持されている。本実施形態では、閉塞部41bが、筒部41aの一端を閉塞している。これにより、ハウジング41は有底筒状をなしている。
端子42は、導電性材料を用いて形成されており、回路基板30に構成された回路と外部機器とを電気的に中継する。端子42は、たとえば圧入固定やインサート成形により、閉塞部41bに保持されている。図示を省略するが、複数の端子42は、ハウジング41の幅方向であるY方向に沿って配列されている。本実施形態では、端子数が多いため、端子42がZ方向に多段に配置されている。各端子42は、略L字状をなしている。各端子42は、スルーホール31cを挿通している。そして、この挿通状態で、対応するランド36に接続されている。
このように構成される電子装置10は、防水構造及び非防水構造のいずれにも適用することができる。
次に、図2及び図3に基づき、ランド35,36の詳細構造について説明する。図2及び図3では、後述するπ受容性分子37の分散状態を模式化して示している。また、図3では、便宜上、ランド36のうち、一面31a及び裏面31bにおける開口周辺に配置された銅箔部を省略している。
図2に示すように、ランド35は、基材である銅箔部35aと、めっき膜35bを有している。めっき膜35bが、後述するπ受容性分子37を含むめっき膜に相当する。
銅箔部35aは、銅を構成材料として形成されている。銅箔部35aは、絶縁基材34の表面に貼着された銅箔を、パターニングすることで形成されている。
めっき膜35bは、銅箔部35aの表面に形成されている。めっき膜35bは、銅箔部35aを被覆している。めっき膜35bは、ランド35の表面、具体的には、はんだ付けされる表面をなしている。めっき膜35bは、π受容性分子37との間に逆供与π結合を形成でき、且つ、銅箔部35a上に成膜できる金属材料を主成分として形成されている。めっき膜35bは、たとえばNi、Cu、Ag、Coのいずれかを主成分として構成されている。Ni、Cu、Ag、Coは、遷移元素である。はんだ33との濡れ性などを考慮すると、Cuが好ましい。本実施形態では、Cuを構成材料としてめっき膜35bが形成されている。めっき膜35bの厚みは、0.1μm〜100μmの範囲内にある。
めっき膜35bは、主成分の金属に加えて、π受容性分子37を含んでいる。めっき膜35bにおけるπ受容性分子37の含有量は、C(炭素)原子換算でめっき膜35bの主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。π受容性分子37の含有量とは、主成分の金属の重量%とπ受容性分子37の重量%との比率のまま、これら重量%の和を100重量%に換算したときの、π受容性分子37の値である。
また、めっき膜35bにおけるπ受容性分子37の含有量は、めっき膜35bの主成分の金属とπ受容性分子37の体積比率で50%以下、好ましくはC原子換算でめっき膜35bの主成分の金属に対して15重量%以下とされている。体積比率でπ受容性分子37が50%を超えると、めっき膜35bの金属同士の繋がりを阻害され、導通経路が遮断されることとなり絶縁性の高いめっき膜35bとなるためである。一例として、めっき膜35bの主成分の金属を銅、π受容性分子37を1,10−フェナントロリンとした場合、C原子換算でめっき膜35bの主成分の金属に対して15重量%を超えると、めっき膜35bの自立が阻害され、剥離等の現象が起こりやすくなるため、15重量%以下が好ましい。
π受容性分子37は、めっき膜35b中において、主成分の金属原子に対して分散している。このようなめっき膜35bは、めっき浴中にπ受容性分子37を投入し、π受容性分子37がめっき浴中において溶解した状態で、銅箔部35a上にめっきを施すことで形成することができる。なお、図2中の符号31dは、ソルダレジストを示している。
図3に示すように、ランド36は、基材であるめっき膜36aと、めっき膜36bを有している。めっき膜36bが、π受容性分子37を含むめっき膜に相当する。
めっき膜36aは、銅を構成材料として形成されている。めっき膜36aは、スルーホール31cの壁面に形成されている。めっき膜36aは、スルーホール31cの開口周囲にも形成されている。めっき膜36aは、無電解銅めっきにより形成することができる。
めっき膜36bは、下地のめっき膜36aの表面に形成されている。めっき膜36bは、めっき膜36aを被覆している。めっき膜36bは、ランド36の表面、具体的には、はんだ付けされる表面をなしている。めっき膜36bは、π受容性分子37との間に逆供与π結合を形成でき、且つ、めっき膜36a上に成膜できる金属材料を主成分として形成されている。したがって、めっき膜36bも、たとえばNi、Cu、Ag、Coのいずれかを主成分として構成されている。本実施形態では、Cuを構成材料としている。
めっき膜36bも、主成分の金属に加えて、π受容性分子37を含んでいる。めっき膜36bにおけるπ受容性分子37の含有量は、C(炭素)原子換算でめっき膜36bの主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。π受容性分子37は、めっき膜36b中において分散されている。このようなめっき膜36bは、めっき浴中にπ受容性分子37を投入し、π受容性分子37がめっき浴中において溶解した状態で、めっき膜36a上に電解めっきを施すことで形成することができる。
π受容性分子37は、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上の分子である。π受容性分子37は、π受容性が高い分子である。π受容性は、π酸性とも称される。配位子場分裂の大きさとは、d軌道分裂のエネルギー差である。π受容性分子37は、空のπ軌道に電子密度を受け入れて、金属との間に逆供与π結合を形成することができる分子である。このため、π受容性分子37は、π受容性配位子とも称され、金属に配位して錯体を形成する。π受容性は、配位子場分裂の大きさに比例する。以下に、周知の分光化学系列を示す。例示において、配位子場分裂が最も大きい分子はCOである。
<Br<Cl<OH<HO<py<NH<en<bpy<phen<NO <PPh<CN<CO
なお、pyはピリジン、enはエチレンジアミン、bpyは2,2’−ビピリジル、phenは1,10−フェナントロリン、PPhはトリフェニルフォスフィンである。以下において、2,2’−ビピリジルをbpy、1,10−フェナントロリンをphenと示す。
π受容性分子37としては、たとえばbpy、bpy類縁体、phen、phen類縁体を用いることができる。π受容性分子37として、bpy及びbpy類縁体の少なくともひとつを含む構成を採用することができる。たとえば、めっき膜35b,36bが、2種類のbpy類縁体を含んでもよいし、bpyとbpy類縁体を含んでもよい。bpyのみを含んでもよい。また、π受容性分子37として、phen及びphen類縁体の少なくともひとつを含む構成を採用することができる。たとえば、めっき膜35b,36bが、2種類のphen類縁体を含んでもよいし、phenとphen類縁体を含んでもよい。phenのみを含んでもよい。
bpy、bpy類縁体、phen、及びphen類縁体はいずれも、孤立電子対を有する窒素を有している。bpy、bpy類縁体、phen、及びphen類縁体はいずれも、孤立電子対を有する窒素を2つ有した多座配位子である。bpy、bpy類縁体、phen、及びphen類縁体はいずれも、π共役系分子である。bpy、bpy類縁体、phen、及びphen類縁体はいずれも、複素環化合物である。bpy、bpy類縁体、phen、及びphen類縁体はいずれも、複素環を複数有する多環式の複素環化合物である。これら例示したπ受容性分子37については、後述する実施例に示すように、本発明者によって、金属表面の酸化の抑制が確認されている。
なお、図4にphenの分子構造を示し、図5にbpyの分子構造を示す。図4及び図5では、位置番号を示している。phenの場合、2〜9位の炭素に水素が結合している。phen類縁体は、phenに構造が類似するもの、たとえば2〜9位の少なくとも1つの炭素に、水素の代わりに他の官能基が結合したものが含まれる。すなわち、phenの水素が他の官能基に置換されたものである。bpyの場合、3,3’,4,4’,5,5’,6,6’位の炭素に水素が結合している。bpy類縁体は、bpyに構造が類似するもの、たとえばbpyの4,4’,5,5’,6,6’位の炭素に、水素の代わりに他の官能基が結合したものが含まれる。
次に、図6及び図7に基づき、本実施形態に係るプリント基板31及び電子装置10の効果について説明する。図6は参考例を示している。図6では、本実施形態の要素と共通乃至関連する要素に対し、本実施形態の要素の符号に100を加算した符号を付与している。図6及び図7では、金属原子、ダングリングボンド、酸素分子、不対電子を模式化して示している。金属の結晶構造は特に限定されるものではない。図7では、ランド35を一例として示す。図6の構成は、図7に対応している。
図6に示す参考例では、ランド135が、銅箔部135aとともにめっき膜135bを有している。この構成では、めっき膜135bの表面が、ランド135における金属表面となっている。したがって、めっき膜135bの表面に、半導体表面のダングリングボンド(未結合手)のように、電子が局在化している。以下においては、金属表面における電子の局在化を、金属表面のダングリングボンドと示す。図6に示すように、めっき膜135bの表面に位置する金属原子138は、ダングリングボンド139を有している。
一方、酸素分子100は、図6に示すように不対電子100aを2つ有している。このため、酸素分子100とダングリングボンド139を有する金属とが互いに電子を共有し、酸素分子100が金属表面に吸着して酸化に至るものと推測される。換言すれば、電子の局在化により金属表面に表面準位が形成されるため、不対電子100aを有する酸素分子100が表面準位にトラップされて酸化に至るものと推測される。このように、従来構成を示す参考例の場合、ランド135の表面において酸化が進行する。
本実施形態では、図7に示すように、ランド35が、銅箔部35aとともにめっき膜35bを有している。このため、参考例で示したように、めっき膜35bの表面が、ランド35における金属表面となっている。また、上記したように、めっき膜35b中に、π受容性分子37が分散されている。図7に示す例では、π受容性分子37としてphenが分散されている。
上記したように、π受容性分子37は、空のπ軌道に電子密度を受け入れて、金属との間に逆供与π結合を形成することができる。π受容性分子37は、分光化学系列において配位子場分裂の大きさがbpy以上の分子であり、π受容性が高い。このため、π受容性分子37の空のπ軌道のエネルギーが、金属の占有されたd軌道のエネルギーと近接しており、π軌道がd軌道と相互作用して、金属からπ受容性分子37に向けて電子の非局在化が生じる。すなわち、π受容性分子37は、めっき膜35bを構成する金属原子38(銅原子)と間に、逆供与π結合を形成する。なお、π受容性分子37の配位原子は孤立電子対を有しており、配位原子のσ軌道が金属の空の軌道(たとえばd軌道)と相互作用して、σ結合を形成する。
このように、本実施形態では、π受容性分子37が、ダングリングボンドを有する金属原子38との間に逆供与π結合を形成する。また、めっき膜35bにおけるπ受容性分子37の含有量が、C原子換算でめっき膜35bの主成分の金属に対して0.1重量%以上とされており、分散状態で、金属表面付近にπ受容性分子37が十分に存在する。これにより、はんだ付けされるランド35において、金属表面のダングリングボンドの数を従来よりも低減する、若しくは、無くすことができる。したがって、プリフラックスを用いなくとも、ランド35の酸化を抑制することができる。
ところで、プリフラックスの場合、寿命が短いという問題がある。ランド表面にプリフラックスが塗布されたプリント基板を空気中で保管すると、プリフラックスが短期間で劣化し、はんだ付けして電子装置を形成する際に、はんだ付け不良が生じる虞がある。これに対し、π受容性分子37は、ダングリングボンドを有する金属原子38に結合することで、金属表面の酸化を抑制する。結合状態が維持される限り、酸化を抑制することができる。上記したように、π受容性分子37は、σ結合に加えて逆供与π結合により、金属原子38に配位している。したがって、本実施形態によれば、長期にわたってランド35の酸化を抑制することができる。たとえば空気中で保管しても、長期にわたってランド35の酸化を抑制することができる。
また、金を用いないため、安価に金属表面の酸化を抑制することができる。
ランド36は、π受容性分子37を含むめっき膜36bを有している。したがって、ランド36も、ランド35と同等の効果を奏することができる。
なお、π受容性分子37として、phenの2〜9位のうちの少なくともひとつの位置に電子吸引性基が結合されたphen類縁体を用いるとよい。水素の代わりに電子吸引性基を導入すると、電子吸引性によってπ受容性が高くなる。換言すれば金属のダングリングボンドをphen側に引きやすくなる。これにより、結合強度を向上することができる。したがって、耐熱性を向上し、広い温度範囲での使用が可能となる。なお、電子吸引性基として、ニトロ基、アルデヒド基、カルボキシ基、シアノ基などを用いることができる。耐熱性向上については、bpyについても同様である。具体的には、π受容性分子37として、bpyの3〜6位及び3’〜6’位のうち、少なくともひとつの位置に電子吸引性基が導入されたbpy類縁体を用いるとよい。これにより、π受容性が高まり、耐熱性を向上することができる。
次に、本発明者によって確認された具体的な実施例について説明する。
(実施例)
本発明者は、π受容性分子37の有無と金属表面の酸化との関係について確認した。具体的には、先ず、リン青銅を構成材料とする平板状の基材を準備した。基材の大きさは、20mm×20mmとした。そして、銅を主成分とするめっき浴中に、π受容性分子37であるphenと、添加剤とを加えて撹拌し、基材の表面にめっき膜を成膜して試験片を作成した。なお、めっき膜におけるπ受容性分子37の含有量が、C原子換算で銅に対して0.1重量%以上(たとえば0.5〜9重量%)となるようにした。この試験片を、室温(25℃)でXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析した。また、ホットプレートにより試験片を加熱して、試験片の温度を90℃で3時間維持し、3時間加熱後の試験片をXPSにより分析した。その分析結果を、図8に示す。図8において、破線が室温、実線が90℃を示している。なお、試験は空気中で行った。
また、比較例として、めっき膜中にπ受容性分子37(phen)を含まない試験片を作成し、これについても、室温と80℃とでXPSにより分析した。その分析結果を、図9に示す。図9において、破線が室温、実線が80℃を示している。
ここで、酸化第二銅(CuO)のピークは529.5eVに現れ、酸化第一銅(CuO)のピークは530.5eVに現れる。実施例の場合、図8に示すように、室温と90℃とで、529.5eVにおける強度にほとんど変化は見られなかった。また、530.5eVにおける強度にもほとんど変化は見られなかった。このことから、実施例では、金属表面の酸化が抑制されたことがわかる。
一方、比較例の場合、加熱温度を実施例よりも低い80℃としながらも、図9に示すように、室温に対して、529.5eVをピークとする帯域の面積の増加が確認できた。また、80℃において、530.5eVにショルダーが確認できた。このことから、めっき膜中にπ受容性分子37を含まない比較例では、金属表面の酸化が進行したことがわかる。なお、bpyについても、同様の結果が得られた。
以上の結果からも、π受容性分子37を所定量含むことで、ランド35の酸化を抑制できることが明らかとなった。特に、π受容性分子37として、phen及びphen類縁体の少なくともひとつを含むと良いことが明らかとなった。
(第2実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示したプリント基板31及び電子装置10と共通する部分についての説明は省略する。
図10に示すように、本実施形態のランド35は、基材である銅箔部35a上に配置された多層めっきを有している。多層めっきは、上記しためっき膜35bとともに、めっき膜35cを有している。めっき膜35cは、π受容性分子37を含まないめっき膜であり、銅箔部35a上に形成されている。本実施形態では、めっき膜35cが、銅を主成分としている。めっき膜35bは、めっき膜35c上に形成されている。めっき膜35bは、上記したようにπ受容性分子37を含んでおり、ランド35の表面をなしている。また、めっき膜35bにおけるπ受容性分子37の含有量が、C原子換算でめっき膜35bの主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。
このように、本実施形態では、多層めっきのうち、ランド35の表面をなす最外層のめっき膜35bが、π受容性分子37を含んでいる。したがって、めっき膜35bにより、ランド35の酸化を抑制することができる。また、基材である銅箔部35a上に配置されためっき膜35b,35cのうち、下層のめっき膜35cは、π受容性分子37を含んでいない。このため、めっき膜35cの導電率は、π受容性分子37を含むめっき膜35bの導電率よりも高い。したがって、銅箔部35a上にめっき膜35bのみを有する構成に較べて、ランド35の酸化を抑制しつつ、ランド35の導電性の低下を抑制することができる。
たとえばπ受容性分子37としてphenを用いる場合、めっき膜35b中におけるphenのC(炭素)の原子百分率(atm%)を2〜3%とすると、めっき膜35bの導電率は、純銅の導電率5.9×10S/mの1/10程度となる。
多層めっきの構造は、上記例に限定されない、3層以上としてもよい。最外層のめっき膜35bのみが、π受容性分子37を含めばよい。
上記構成は、ランド35に限らず、ランド36にも適用できる。ランド36の場合、基材としてのめっき膜36a上に配置される多層めっきのうち、最外層のめっき膜36bのみが、π受容性分子37を含むようにすればよい。
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
ランド35の基材として、銅箔部35aの例を示したがこれに限定されない。銅箔以外を採用することもできる。また、ランド35,36の記載として、銅以外の金属を採用することもできる。
ランド35,36は、少なくともランド35,36の表面をなすめっき膜35b、36bを有せばよい。
ランド35の接続対象は電子部品32に限定されない。たとえば表面実装構造のコネクタ40にも適用できる。ランド36の接続対象は、コネクタ40の端子42に限定されない。たとえば挿入実装構造の電子部品32にも適用できる。
電子装置10は、上記例に限定されない。電気部品と、はんだを介して電気部品と電気的に接続されるランドを有するプリント基板を備える構成の電子装置であれば、はんだ付けされるランドに上記した構成を適用することができる。
プリント基板31が、ランド35,36を有する例を示したが、一方のみを有する構成を採用することもできる。
10…電子装置、20…筐体、20a…開口部、21…ケース、22…カバー、22a…底部内面、22b…支持部、30…回路基板、31…プリント基板、31a…一面、31b…裏面、31c…スルーホール、31d…ソルダレジスト、32…電子部品、32a,32c…本体部、32b…電極、32d…リード、33…はんだ、34…絶縁基材、35,36…ランド、35a…銅箔部、35b…めっき膜、35c…めっき膜、36a…めっき膜、36b…めっき膜、37…π受容性分子、38…金属原子、40…コネクタ、41…ハウジング、41a…筒部、41b…閉塞部、42…端子、100…酸素分子、100a…不対電子、135…ランド、135a…銅箔、135b…めっき膜、138…金属原子、139…ダングリングボンド

Claims (5)

  1. はんだ付けされるランド(35,36)を備えたプリント基板であって、
    前記ランドが、前記ランドの表面をなすめっき膜(35b,36b)を有し、
    前記めっき膜が、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性分子(37)を含み、
    前記めっき膜における前記π受容性分子の含有量が、C原子換算で前記めっき膜の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされ、
    前記π受容性分子が、前記めっき膜中において、前記主成分の金属に対して分散されているプリント基板。
  2. 前記π受容性分子として、1,10−フェナントロリン及び1,10−フェナントロリン類縁体の少なくともひとつを含む請求項1に記載のプリント基板。
  3. 前記π受容性分子として、2,2’−ビピリジル及び2,2’−ビピリジル類縁体の少なくともひとつを含む請求項1に記載のプリント基板。
  4. 前記ランドは、前記めっき膜を含む多層めっきを有し、
    前記めっき膜が、前記多層めっきの最外層をなしている請求項1〜3いずれか1項に記載のプリント基板。
  5. 電気部品(32,40)と、
    はんだ(33)を介して前記電気部品と電気的に接続されるランド(35,36)を有するプリント基板(31)と、
    を備え、
    前記ランドが、前記ランドの表面をなすめっき膜(35b,36b)を有し、
    前記めっき膜が、π受容性を有し、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性分子(37)を含み、
    前記めっき膜における前記π受容性分子の含有量が、C原子換算で前記めっき膜の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされ、
    前記π受容性分子が、前記めっき膜中において、前記主成分の金属に対して分散されている電子装置。
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