JP2017223164A - 内燃機関用ピストン - Google Patents

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Abstract

【課題】スカート部の摩擦抵抗が低減された内燃機関用のピストンを提供する。【解決手段】スカート部12に,二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を含有する樹脂から成る固体潤滑剤樹脂層15を所定のパターンで形成し,固体潤滑剤樹脂層15の非形成部に潤滑油の案内溝20を形成する。この案内溝20として,側圧が加わった状態におけるスカート部(12a又は12b)の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺21aを,スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって移動方向前方側に向けて傾斜させた第1案内溝21と,同様の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺22aを水平,又は前記スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって前記移動方向後方側に向けて傾斜させた第2案内溝22を同時に設ける。【選択図】図1

Description

本発明は,内燃機関用ピストンに関し,より詳細には,シリンダ内壁との摩擦抵抗を軽減可能なスカート部を備えた内燃機関用ピストンに関する。
図11を参照して,既知の一般的な内燃機関用ピストン10の構成について簡単に説明する。なお,本明細書では,エンジンのヘッド側(燃焼室側)を「上」,これとは反対側(クランクケース側)を「下」として説明し,エンジンにおける上下とは必ずしも一致しない。
内燃機関に使用される一般的なピストン10は,図11(A)に示すように,クラウン部11と呼ばれる上部部分と,このクラウン部11の下方に設けられたスカート部12を備えており,クラウン部11の頂部において燃焼ガスのガス圧を受けてシリンダ50内を下降し,ピストンピン13及びコネクティングロッド51を介して連結されたクランクシャフト(図示せず)を回転させると共に,4サイクルエンジンではクランクシャフトの回転に伴いシリンダ50内を昇降して,排気,吸入,圧縮の各行程が行われる。
このピストン10は,シリンダ50の内径に対し僅かに小径に形成されていることから,上昇,下降の行程において首振りを起こすが,クラウン部11の下方に設けられている前述したスカート部12がシリンダ50の内壁と摺接することでピストンの首振りが抑制され,ピストン10はシリンダ内を円滑に上下運動することができるようになっている。
このように,ピストン10は,スカート部12をシリンダ50の内壁と摺接させた状態でシリンダ50内を上下動することから,スカート部12とシリンダ内壁間の摩擦抵抗は,燃焼によって生じた燃焼ガス圧を,機械的な運動に変換する際にエネルギー損失を生じさせる。
そのため,ピストン10のスカート部12とシリンダ50の内壁間の摩擦抵抗を低減させることは,エンジンの燃費向上や出力増加につながることから,このような摩擦抵抗を低減するための各種の提案が従来より行われている。
このような摩擦抵抗を低減させるための方法の一つとして,スカート部の表面に潤滑性を有するコーティング層を所定のパターンで形成し,コーティング層の形成に伴う摩擦抵抗の低減と,コーティング層の非形成部に生じた凹部を,潤滑油を保持する油溜まりとして機能させることによって潤滑性の向上を図ったピストンが提案されている(特許文献1)。
また,ピストンは,熱膨張を考慮してピストンピンの軸線方向を短径とする楕円形状に形成されており,低回転速度や低負荷でのエンジンの作動時等,ピストンの熱膨張が不十分な状態では,スカート部の幅方向両端側に厚い油膜が形成されることによってせん断抵抗が増大すること,また,高回転速度や高負荷での運転時のようにピストンの熱膨張が進行すると,スカート部の中央側とシリンダ内壁間の間隔が狭くなり油膜が薄くなって摩耗や焼き付きが生じるおそれがあることに鑑み,ピストン110のスカート部112に所定のパターンで固体潤滑剤樹脂層115を形成すると共に,この固体潤滑剤樹脂層115の非形成部分に,撥油性樹脂の溝底を有する案内溝120を形成することで,この案内溝120によってスカート部112の幅方向両端側にある潤滑油を,中央側に導入するピストンも提案されている(特許文献2)。
特開2005−320934号公報 特開2009− 30521号公報
潤滑の状態には,「境界潤滑」,「混合潤滑」,及び「流体潤滑」があり,このうちの「境界潤滑」は,摩擦面に若干の潤滑油が存在するものの,油膜が薄く摺動面の凸部同士の接触(固体接触)が生じている状態で,この潤滑状態は,乾燥接触(潤滑剤の無い状態での接触)に比較すれば摩擦係数は低下しているものの,依然として摩擦係数が高い状態にある。
また,「混合潤滑」は,前述の「境界潤滑」に比較して摩擦面に存在する油膜厚さが増大した状態で,摺動面の凸部同士が接触(固体接触)し難くなることで摩擦抵抗は低減するものの,未だ,摺動面の凸部同士の接触(固体接触)が局部的に生じている潤滑状態である。
これに対し,摩擦面の潤滑油の量が更に増大し,摺動面間が油膜によって完全に離れて固体接触が生じなくなると,流体のせん断抵抗のみが摩擦抵抗として加わる「流体潤滑」の状態となる。
以上の各潤滑状態における摩擦係数と,「摺接速度×粘度/面圧」との関係を表したストライベック線図を,各潤滑状態の模式図と共に示せば,図12に示す通りである。
ここで,内燃機関用のピストン10の外径は,シリンダ50の内径に対し僅かに小さく形成されていることは前述した通りであり,また,ピストン10は図11(A)に示したように,ピストンピン13及びコネクティングロッド51を介してクランクシャフトと連結されていることから,コネクティングロッド51の傾きによって,ピストンピン13の軸線13cに対する直交方向の両端側にあるピストンの側面〔図11(A),(B)中,紙面左右側〕のうち,いずれかの側がシリンダ50の内壁に押し付けられた状態(側圧を受けた状態)となるかが順次変化する。
そして,上死点直後にこのような側圧を受ける側は「スラスト側」,これとは反対側は「反スラスト側」と呼ばれ,ピストン10は,その下降時にはスラスト側が,上昇時には反スラスト側が,シリンダ50の内壁に押し付けられた,側圧を受けた状態でシリンダ50内を移動することから,ピストン10の下降時にはスラスト側スカート部12a,上昇時には反スラスト側スカート部12bの摩擦抵抗の低減が,ピストン10の摩擦抵抗を低減する上で効果的となる。
ここで,前述した特許文献2に記載の発明は,スカート部112の幅方向両端側にある潤滑油を,スカート部112の中央側に導入することで,ピストン110の摩擦抵抗を低減しようというものである。
そして,特許文献2の実施例に記載の構成では,図13に示すようにスカート部112の幅方向両側から,中央側に向かって,スカート部の裾側に向けて傾斜(下向きに傾斜)するパターンで案内溝120を形成し,この案内溝120の形成により,ピストン110の下降時,オイルリング(図示せず)がシリンダ内壁より掻き落とした潤滑油を,潤滑油の自重やブローダウンガス(ブローバイガス)によって案内溝120に流入させてスカート部112の中央側に導入するものとしている(特許文献2[0057],[0058]欄)。
しかし,このような特許文献2に記載の構成によって得られる摩擦抵抗の低減効果は限定的であると考えられる。
すなわち,一般的な4サイクルエンジンでは,吸入,圧縮,燃焼,及び排気の各行程において,ピストンは,吸入時に下降,圧縮時に上昇,燃焼時に下降,排気時に上昇の各動作を繰り返す。
しかし,前述した特許文献2に記載の潤滑原理によれば,オイルリングがシリンダの壁面より潤滑油を掻き落とすピストン110の下降時,特にブローダウンガスが発生する燃焼行程における下降時において,潤滑油をスカート部112の中心側に誘導するものとなり,圧縮行程や排気行程時におけるピストン110の上昇時や,ピストン110の下降時であってもブローダウンガスが発生していない吸入行程には,潤滑性の大幅な向上は期待できない。
しかも,燃焼行程におけるピストンの下降時,スラスト側のスカート部12aはシリンダ50の内壁に押し付けられて,シリンダ50内壁との面圧が高まっているため,この部分にあった潤滑油は,図11(B)中の拡大図に矢印で示したように,スカート部の幅方向両端側に向かって押し出される。
また,特許文献2に実施例として記載されているように,スカート部112の幅方向両端側から中央側に向かって下向きに傾斜させたパターンの案内溝120を形成した場合,ピストン110が下降すると,案内溝120内の潤滑油は,図13中に案内溝120内の矢印で示すようにスカート部112の中央側から幅方向両端側に向かって流れる。
そのため,特許文献2に記載のパターンで形成された案内溝120では,ピストンの下降時,シリンダの内壁に押し付けられた状態にあるスラスト側スカート部の中央側へ十分な潤滑油を導入することは困難であると考えられる。
以上の点から,本発明の発明者らは,ブローダウンガスの発生の有無に拘わらず,下降,上昇いずれの方向にピストンが移動する場合であっても,側圧によってシリンダの内壁に摺接されている側のスカート部,特に燃焼行程における下降時のスカート部の中央側に潤滑油を導入(給油)することで摩擦抵抗を低減させることができる構成を検討した。
そして,このようなスカート部の中央側に対する給油を,比較的簡単な構成によって達成することができないかを検討し,幾多の思考錯誤と案内溝のパターンを変更した摺動実験を繰り返した。
その結果,側圧によりシリンダ内壁と接触しているスカート部の中央側に潤滑油を給油し得るパターンの案内溝を形成することは,摩擦抵抗の低減に有効であることが確認されたが,このような案内溝のパターンよりも更にピストンのスカート部の摩擦抵抗を低減させることができる案内溝のパターンの存在を開発するに至った。
本発明は,本発明の発明者らによる上記実験の結果得られたものであり,ピストンのスカート部に形成する案内溝のパターンにより,ピストンのスカート部の摩擦抵抗を大幅に低減することができ,従って,ピストンを交換するだけで,その他の構造について変更することなくエンジンの低燃費化や出力上昇を図ることができる内燃機関用のピストンを提供することを目的とする。
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と,発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
上記目的を達成するために,本発明の内燃機関用ピストン10は,
スカート部12に,二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を含有する樹脂から成る固体潤滑剤樹脂層15を所定のパターンで形成することにより,前記固体潤滑剤樹脂層15の非形成部に潤滑油の案内溝20を形成した内燃機関用ピストン10において,
前記固体潤滑剤樹脂層15と前記案内溝20を,少なくともスラスト側スカート部12aに形成すると共に,
前記案内溝20が,
側圧が加わった状態における前記スカート部12(12a又は12b)の移動方向(スラスト側スカート部12aでは下降方向,反スラスト側スカート部12bでは上昇方向)に対し少なくとも後方側にある長辺21a(スラスト側では上側の長辺,反スラスト側では下側の長辺)を,前記スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって前記移動方向前方側に向けて傾斜させた第1案内溝21と,
側圧が加わった状態における前記スカート部12(12a又は12b)の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺22aを,水平,又は前記スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって前記移動方向後方側に向けて傾斜させた第2案内溝22を備えることを特徴とする(請求項1)。
上記構成の内燃機関用ピストン10において,前記案内溝20は,側圧が加わった状態における前記スカート部12(12a,12b)の移動方向前方側(スラスト側スカート部12aでは下側,反スラスト側スカート部12bでは上側)に前記第1案内溝21を,前記移動方向後方側(スラスト側スカート部12aでは上側,反スラスト側スカート部12bでは下側)に,前記第2案内溝22を設けることが好ましい(請求項2)。
但し,これとは逆に,側圧が加わった状態における前記スカート部12(12a,12b)の移動方向前方側(スラスト側スカート部12aでは下側,反スラスト側スカート部12bでは上側)に前記第2案内溝22を,前記移動方向後方側(スラスト側スカート部12aでは上側,反スラスト側スカート部12bでは下側)に,前記第1案内溝21を設ける構成としても良い〔請求項7,図3(A),(B)参照〕。
このように第1案内溝21と第2案内溝22を移動方向前方・後方に分けて設ける場合,ピストンピン13の軸線13cを境として,換言すれば線対称〔図1(A),(B),図2(A),(B)〕又は略線対称〔図8,図9〕として前方側,後方側にそれぞれ設けるものとしても良い(請求項8)。
なお,好ましくは,前記スカート部12(12a,12b)の中央部から幅方向における所定範囲を,前記案内溝20が形成されていない案内溝非形成域15aとする(請求項3)。
更に,前記スカート部12(12a,12b)の幅方向端部側における前記案内溝20の端部を,いずれも開放端20eとして形成することが好ましい(請求項4)。
この場合,前記スカート部12(12a,12b)の幅方向両端における所定幅に固体潤滑剤樹脂層15の非形成部を設け,該部分を潤滑油の導入溝23と成すと共に,前記案内溝20の前記開放端20eを,前記導入溝23に連通させる構成とすることが好ましい(請求項5)。
また,案内溝非形成域15aは,ピストンピン13の軸線13cと直交する,前記ピストン10の直径方向に延びる基準線Lbを想定し,該基準線Lbを0°として,前記ピストンピン13の軸線13cと前記基準線Lbとの交点を中心に,該基準線Lbに対し±5°〜±45°の範囲に設けるものとすることができる(請求項6)。
以上で説明した本発明の構成により,本発明の内燃機関用ピストン10によれば,固体潤滑剤樹脂層15を所定のパターンで形成すると共に固体潤滑剤樹脂層15の非形成部に所望のパターンで形成された案内溝20を設けるという比較的簡単な構成により,ピストン10の摩擦抵抗を大幅に低減させることができ,その結果,エンジンの他の構成を変更することなく,ピストン10のみの変更によって,エンジンの燃費向上と,出力上昇を達成することができた。
本発明の内燃機関用ピストンのスラスト側の側面図であり(A)〜(C)はそれぞれスラスト側スカート部に形成する案内溝のパターン例を示す。 本発明の内燃機関用ピストンの反スラスト側の側面図であり(A)〜(C)はそれぞれ反スラスト側スカート部に形成する案内溝のパターン例を示す。 本発明の内燃機関用ピストンの案内溝形成パターンの変形例を示す説明図であり(A)はスラスト側,(B)は反スラスト側の説明図。 案内溝非形成域15aの形成範囲を変更した本発明の内燃機関用ピストンの構成例であり,(A)はスラスト側,(B)は反スラスト側の側面図。 リングオンディスク試験の試験方法の説明図。 リングオンディスク試験に使用したテストピースの平面図であり,(A)はテストピース1(案内溝なし),(B)はテストピース2(遠心型),(C)はテストピース3(逆遠心型),(D)はテストピース4(折中型)を示す。 リングオンディスク試験結果(試験速度に対する摩擦係数の変化)を示したグラフ。 モータリングフリクション試験に使用した実施例のピストンであり,(A)はスラスト側,(B)は反スラスト側の側面図。 案内溝非形成域の形成範囲の説明図。 フリクションの測定試験結果を示したグラフであり,(A)はモータリングフリクション測定試験,(B)はファイアリングフリクション測定試験の結果をそれぞれ示す。 既知のピストンの概略説明図であり,(A)は正面図,(B)は平面図。 潤滑の状態を説明した説明図(ストライベック線図)。 従来のピストン(特許文献2の図6に対応)の説明図。
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。なお,従来技術の説明で登場した部材及び部分と対応する部材及び部分については同一の部材名及び符号を使用して説明する。
〔対象(内燃機関用ピストン)〕
本発明で対象とする内燃機関用ピストン10は,内燃機関用のものであれば特に限定されず,ガソリンエンジン用,ディーゼルエンジン用のいずれのものであっても対象とすることができる。
また,内燃機関用ピストンの材質は,アルミ−珪素系合金等が一般的に使用されているが,本発明で対象とする内燃機関用ピストンは,その材質についても特に限定されるものではなく,内燃機関用ピストンの材質として既知の各種の材質のものを対象とすることができる。
〔固体潤滑剤樹脂〕
前述した内燃機関用ピストン10のスカート部12には,固体潤滑剤樹脂層15を所定のパターンで形成し,固体潤滑剤樹脂層15の非形成部に,後述する潤滑油の案内溝20を形成する。
この固体潤滑剤樹脂層15と案内溝20の形成は,ピストン10のスカート部12(12a,12b)のうち,少なくともスラスト側スカート部12aに対して行い,好ましくは,スラスト側スカート部12aのみならず,反スラスト側スカート部12bに対しても固体潤滑剤樹脂層15と案内溝20を形成する。
ここで,使用する固体潤滑剤樹脂とは,二硫化モリブデン,黒鉛(グラファイト),フッ素樹脂〔四フッ化エチレン(PTFE)等〕,二硫化タングステン,金属酸化物などの固体潤滑剤の一種類または数種類を,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリアミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂等の樹脂のうちの一種又は複数種からなる樹脂製のバインダに分散させたもので,この固体潤滑剤樹脂を既知の方法でピストンのスカート部に所定パターンで塗工した後,乾燥・硬化させることにより,固体潤滑剤樹脂層15が形成される。
本発明で使用する固体潤滑剤樹脂は,その構成を特に限定するものではなく,内燃機関のピストンに対し使用することができる耐熱性を備えたものであれば,市販されている各種の固体潤滑剤樹脂を使用することが可能であり,本実施形態にあっては,一例として固体潤滑剤として平均粒径0.1〜10.0μmの二硫化モリブデンをポリアミドイミド樹脂のバインダ中に分散させた,50〜70質量%の二硫化モリブデンを含む固体潤滑剤樹脂を使用した。
固体潤滑剤樹脂層15の形成は,脱脂や化成処理,サンドブラスト,乾燥等の必要な下処理を行ったピストン10のスカート部12の表面に対し,浸漬やスプレー塗布,その他,既知の各種の印刷あるいは塗工技術を使用して前述した固体潤滑剤樹脂を,後述する案内溝20が所定のパターンで形成されるようにコーティングし,その後,焼付乾燥等によってコーティングされた固体潤滑剤樹脂を定着させることにより形成する。
形成する固体潤滑剤樹脂層15の膜厚は各種の条件に応じて適宜調整可能であるが,一例として3〜25μm程度である。
〔案内溝〕
前述した,固体潤滑剤樹脂層15を所定のパターンで形成することにより,スカート部12には,固体潤滑剤樹脂層15の非形成部に,後掲の[実施例]欄において詳述するリングオンディスク試験の結果に基づいて開発した最適なパターンで案内溝20を形成する。
本発明の内燃機関用ピストン10では,この案内溝20として,各スカート部12(12a,12b)にそれぞれ第1案内溝21と第2案内溝22を共に設けている。
このうちの第1案内溝21は,側圧が加わった状態でシリンダ内壁に摺接されて移動する状態にあるスカート部の幅方向端部側から中央側に向かって潤滑油が導入されるようにすることを意図して設けた溝であり,この第1案内溝21は,前記スカート部12(12a,12b)の中央側から幅方向の両端側に向かって延び,側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺21aを前記中央側から前記両端側に向かって前記移動方向前方側に向けて傾斜させた構成を有している。
従って,ピストン10の下降時に側圧が加わった状態でシリンダの内壁面と摺接されるスラスト側スカート部12aにおいて,第1案内溝21は,図1(A)〜(C)に示すように,移動方向後方側の長辺21aである上側の長辺が,中央側から前記両端側に向かって,移動方向前方側である下向きに傾斜した形状に形成される。
これとは逆に,ピストン10の上昇時に側圧が加わった状態でシリンダの内壁面と摺接される反スラスト側スカート部12bでは,前述の第1案内溝21は,図2(A)〜(C)に示すように,移動方向後方側の長辺21aである下側の長辺が,中央側から両端側に向かって,移動方向前方側である上向きに傾斜した形状に形成されている。
この第1案内溝21は,図1(A),(C)及び図2(A),(C)に示すように,両辺21a,21bが平行を成す溝として形成し,その全体を前述した向きに傾斜させるものとしても良く,あるいは,図1(B)及び図2(B)に示すように,進行方向後方側の長辺21a〔図1(B)では上側の長辺,図2(B)では下側の長辺〕のみを前述した傾斜方向に形成し,他方の長辺(進行方向前方側の長辺21b)を水平方向に設ける等して,くさび型の溝として形成するものとしても良い。
また,前述した第2案内溝22は,前述した第1案内溝21とは異なり,各スカート部(12a,12b)が前述したように側圧を受けてシリンダ内壁に摺接された状態で移動する際(スラスト側スカート部12aでは下降時,反スラスト側スカート部12bでは上昇時)に,スカート部(12a,12b)の幅方向両端側から中央部側へ潤滑油を供給する機能を発揮しない溝であり,前記スカート部12の中央側から幅方向の両端部側に向かって形成されている点では,前述した第1案内溝21と同様の構成であるが,側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向に対し少なくとも後方側の長辺22aを水平,又は前記中央側から両端側に向かって前記移動方向後方側に向けて傾斜させた構成を有する。
従って,ピストン10の下降時に側圧が加わった状態でシリンダの内壁面と摺接されるスラスト側スカート部12aでは,第2案内溝22は,図1(A)〜(C)に示すように,移動方向後方側の長辺22aである上側の長辺を水平方向〔図1(B),(C)参照〕,又は,スラスト側スカート部12aの幅方向における両端側に向かって上向きに傾斜させた形状〔図1(A)参照〕に形成されている。
これとは逆に,ピストン10の上昇時に側圧が加わった状態でシリンダの内壁面と摺接される反スラスト側スカート部12bにおいて,第2案内溝22は,図2(A)〜(C)に示すように,移動方向後方側の長辺22aである下側の長辺を水平方向,〔図2(B),(C)参照〕又は,反スラスト側スカート部12bの幅方向における両端側に向かって下向きに傾斜した形状〔図2(A)参照〕に形成されている。
この第2案内溝22についても,図1(A),(C)及び図2(A),(C)に示すように,2つの長辺22a,22bが平行を成す溝として形成し,その全体を前述した向きに傾斜させるものとしても良く,あるいは,図1(B)及び図2(B)に示すように,進行方向後方側の長辺22a〔図1(B)では上側の長辺,図2(B)では下側の長辺〕のみを水平方向に形成し,進行方向前方側の長辺22b〔図1(B)では下側の長辺,図2(B)では上側の長辺〕を移動方向後方側に向けて傾斜させたくさび形の溝として形成するものとしても良い。
なお,側圧が加わった状態でシリンダ内壁に摺接された状態で移動するスカート部の移動方向(スラスト側スカート部12aでは下降方向,反スラスト側スカート部12bでは上昇方向)に対し,進行方向後方側の長辺22aを前述した方向に傾斜させた第2案内溝22にあっては,側圧が加わっていない状態での移動方向(スラスト側スカート部12aでは上昇方向,反スラスト側スカート部12bでは下降方向)への移動時に,潤滑油をスカート部12の幅方向中央に給油する機能を発揮することで,その後に行われる側圧が加わった状態での移動を,潤沢に潤滑油が存在する状態で開始することができる点でも摩擦抵抗の低減に寄与することから,これを水平に設ける場合に比較して,前述したように傾斜して設ける構成とした方がより好ましい。
図示の例では,第1案内溝21と第2案内溝22は,いずれも中央側から紙面右側に向かって形成された溝と,中央側から紙面左側に向かって形成された溝が対を成し,第1案内溝21と第2案内溝22のいずれともに,それぞれ二対ずつ設けるものとしたが,第1案内溝21と第2案内溝22は,それぞれ1対ずつ設けるものとしても良く,あるいは3対以上ずつ設けるものとしても良い。
また,第1案内溝21の形成数と,第2案内溝22の形成数は,必ずしも同数である必要はなく,両者の数を異なるものとしても良い〔図4(A),(B)参照〕。
更に,図示の例では,第1案内溝21と第2案内溝22の各対は,スカート部12(12a,12b)の中心に対し左右対称となるように,同一の高さで配置されているが,左右で異なる高さに配置されている溝で対を成すようにしても良い。
この第1案内溝21と第2案内溝22は,スカート部12(12a,12b)に対し,例えば上下方向に交互に設けるものとしても良いが,好ましくは,図1(A)〜(C),及び図2(A)〜(C)に示すように,側圧を受けた状態における進行方向前方側(スラスト側スカート部12aでは下側,反スラスト側スカート部12bでは上側)に第1案内溝21を,前記進行方向に対し後方側(スラスト側スカート部12aでは上側,反スラスト側スカート部12bでは下側)に,第2案内溝22を設けることが好ましい。
なお,図1及び図2に示した例とは逆に,側圧が加わった状態における前記スカート部12(12a,12b)の移動方向前方側(スラスト側スカート部12aでは下側,反スラスト側スカート部12bでは上側)に前記第2案内溝22を,前記移動方向後方側(スラスト側スカート部12aでは上側,反スラスト側スカート部12bでは下側)に,前記第1案内溝21を設ける構成としても良い(図3参照)。
このように第1案内溝21と第2案内溝22を移動方向前方・後方に分けて設ける場合,ピストンピン13の軸線13cを境として前方側,後方側にそれぞれ設けるものとしても良い。
なお,従来技術として紹介した特許文献2に記載されているピストン110では,スカート部112の幅方向両端側における案内溝の端部は,図13に示したように固体潤滑剤層115によって閉塞された形状に形成されているが,本発明の案内溝20は,図1及び図2に示したように,第1案内溝21及び第2案内溝22のいずれ共に,スカート部12(12a,12b)の幅方向の両端側における案内溝20の端部を開放端20eとして形成し,この開放端20eにおいて案内溝20に対する潤滑油の導入や排出が行われ易くなるように構成している。
なお,スラスト側スカート部12a及び反スラスト側スカート部12bのいずれにおいても,案内溝20(第1案内溝21,第2案内溝22)の開放端20eに対する潤滑油の導入や排出を行い易くするために,本発明のピストン10では,更に,各スカート部12(12a,12b)の幅方向両端に,所定幅で固体潤滑剤樹脂層15の非形成部を設け,該部分を潤滑油の導入溝23と成すと共に,該導入溝23に,前記案内溝20の開放端20eを連通させた構成を採用している。
なお,スカート部12(12a,12b)のうち,少なくともシリンダの内壁と接触する中央側の部分には,前述した案内溝20を設けない,固体潤滑剤樹脂層15のみからなる案内溝非形成域15aを形成する。
この案内溝非形成域15aは,図9に示すようにピストン10の平面視において,ピストンピン13の軸線13cと直交し,かつ,ピストン10の直径方向に延びる基準線Lbを想定し,該基準線Lbを0°として,前記ピストンピンの軸線13cと前記基準線Lbとの交点Xを中心として,基準線Lbの+θ側と,−θ側にそれぞれ5°〜45°(計10°〜90°)の範囲,好ましくはそれぞれ10°〜40°(計20°〜80°)の範囲,本実施形態ではそれぞれ20°の計40°の範囲に形成し,この部分を平滑な面と成すと共に,前記案内溝非形成域15aの幅方向両端側からスカート部12a,12bの幅方向両端側向かって案内溝20を形成し,この案内溝20を固体潤滑剤樹脂層15の周縁部まで延在させて,案内溝20の端部を開放端20eとする構成を採用した。
図1及び図2に示す実施形態では,この案内溝非形成域15aを,高さ方向に一定幅を有する帯状の部分として設けているが,この案内溝非形成域15aの形状は,少なくとも前述したシリンダ内壁と接触する部分に設けられていれば良く,図1及び図2に示す形状に限定されず,一例として,図4(A),(B)に示すように,上下で異なる幅に形成するものとしても良い。
この場合,シリンダ内壁と摺接する範囲は,ピストン10の首振りによってスラスト側スカート部12aでは図4(A)中に破線で示したようにスカート部12aの下側で摺接幅が広くなる傾向にあると共に,反スラスト側のスカート部12bでは,図4(B)中に破線で示したように,スカート部12bの上側で摺接幅が広くなる傾向にあることから,スラスト側と反スラスト側で,上下逆転したパターンで案内溝非形成域15aを形成するものとしても良く,更には,スラスト側スカート部12aと反スラスト側スカート部12bのいずれか一方に,図1及び図2を参照して説明した一定幅の案内溝非形成域15aを設け,他方に図4に示したように上下で幅の異なる案内溝非形成域15aを形成するものとしても良い。
次に,本発明の内燃機関用ピストン10において,スカート部12(12a,12b)に形成する最適な案内溝20のパターンを求めるために行ったリングオンディスク試験と,このリングオンディスク試験の結果に基づいて得られた案内溝のパターンに従い,スカート部12(12a,12b)に案内溝20を形成したピストン10を使用して行った効果確認試験(モータリングフリクション測定試験,ファイアリングフリクション測定試験)について,以下に記載する。
〔リングオンディスク試験〕
(1)試験の目的
摩擦係数を低下させる効果の高い案内溝のパターンを開発する。
(2)試験方法
所定のパターンで固体潤滑剤樹脂層を形成して固体潤滑剤樹脂層の非形成部を案内溝としたリング状ディスクから成るテストピースを複数種類準備すると共に,同様にリング状ディスクである接触の相手材と,潤滑油を介して回転接触させた際の摩擦係数を測定した。
摩擦係数の測定は,図5に示すように,潤滑油(0W−20:80℃)中で回転するテストピースの案内溝形成面に対し,相手材を面圧0.3MPaで接触させると共に,試験速度(摺動速度)を0.05m/sec,0.1m/sec,0.2m/sec,0.5m/sec,1.0m/sec,2.0m/sec,5.0m/secと変化させ,相手材に伝わる回転トルクの変化に基づいて摩擦係数の変化を測定した。
使用したテストピースは,いずれも内径20mm,外径50mmのアルミニウム(A4032-T6)製のリング状ディスクで,前述した固体潤滑剤樹脂として,二硫化モリブデンとポリイミドアミド樹脂からなる固体潤滑剤樹脂を使用した。
また,相手材は,内径20mm,外径50mmの鋳鉄製のリング状ディスクであり,相手材には,固体潤滑剤樹脂層を形成していない。
(3)テストピース
パターンが異なる案内溝が形成された以下の4種類のテストピースを用意した。
なお,テストピース1〜4の摺接面を表した図6において,グレーで表示されている部分が固体潤滑剤樹脂層の形成部分であり,白抜きの部分がディスクの母材が露出した部分,すなわち案内溝のパターンを示している。
(3-1)テストピース1(案内溝なし)〔図6(A)〕
テストピース1は,摺接面の全面に固体潤滑剤樹脂層が形成されており,案内溝は設けられていない。
(3-2)テストピース2(遠心型)〔図6(B)〕
テストピース2は,案内溝を,中心側から外周側に向かうに従い回転方向後方側を向くように形成したもので,テストピースの回転に伴って発生する遠心力によって,ディスクの中央側から外周側に向かって潤滑油の流れが生じるように案内溝を形成したものである。
(3-3)テストピース3(逆遠心型)〔図6(C)〕
テストピース3は,前掲のテストピース2とは逆に,案内溝を,中心側から外周側に向かうに従い回転方向前方側を向くように形成したもので,この構成では,ディスクを回転させても,案内溝内の潤滑油は外向きの流れを生じない。
(3-4)テストピース4(折中型)〔図1,図2,図6(D)及び図8〕
テストピース4は,1枚のリング状ディスクに,テストピース2(遠心型)に設けた案内溝と,テストピース3(逆遠心型)に設けた案内溝の双方に対応する案内溝を設けたもので,ディスクの半分に,中心側から外周側に向かうに従い回転方向後方側を向く案内溝を形成すると共に,残りの半分に,中心側から外周側に向かうに従い回転方向前方側を向く案内溝を形成している。
(4)実験結果の想定と実験結果
(4-1) 想定
摺動部の摩擦抵抗は,境界潤滑,混合潤滑,及び流体潤滑と,摺動面に存在する潤滑油量(油膜厚さ)が増加して,固体同士の接触量が少なくなる程減少し,さらに摺動面が潤滑油によって完全に分離されて固体同士の接触がなくなると,潤滑油のせん断抵抗のみが摩擦抵抗となる。
ここで,摺動面に案内溝を形成した構成では,案内溝内に潤滑油が溜まると共に,案内溝内に溜まっている潤滑油は,その粘性によってディスクの回転に伴い摺動面に引き込まれることで,摺動面に形成される油膜厚さを増大させ,摩擦抵抗の低減に寄与するものと考えられる。
従って,案内溝を形成していないテストピース1(案内溝なし)の摩擦係数に対し,案内溝が形成されているテストピース2〜4は,いずれも,摩擦係数の低減が得られるものと想定した。
特に,テストピースの回転に伴い発生する遠心力によって,案内溝内に潤滑油を導入することができるように構成されているテストピース2(遠心型)では,摺動面に対して潤滑油が積極的に供給されることから,最も摩擦係数を低下させる効果が期待でき,遠心力による潤滑油の導入作用が無いテストピース3(逆遠心型)は,テストピース2(遠心型)よりも摩擦係数の低減効果が低く,両者の折中型であるテストピース4は,テストピース2(遠心型)とテストピース3(逆遠心型)の中間の結果となるものと想定した。
(4-2) 結果
実際の試験結果は,図7のグラフに示した通りであった。
この図7に示した試験結果から明らかなように,案内溝を設けたテストピース2〜4が,案内溝を設けていないテストピース1に比較して,いずれも低い摩擦係数を示した点では上記で想定した通りの結果となった。
しかし,案内溝が設けられているテストピース2〜4間では,上記の想定に反し,試験速度が0〜1.0m/secの範囲では,テストピース2(遠心型)とテストピース4(折中型)の摩擦係数に殆ど違いが見られないという想定とは異なる結果となった。
特に,試験速度が1.0m/secを超えたあたりから,テストピース4(折中型)の方が,テストピース2(遠心型)よりも低い摩擦係数を示す結果となっており,この点では想定した結果とは逆の結果となっている。
更に,テストピース2(遠心型)とテストピース3(逆遠心型)の比較では,試験速度が2m/secの時点ではテストピース2(遠心型)の方が低い摩擦係数を示している点では想定した通りの結果となったが,試験速度5m/secの時点では両者の摩擦係数が逆転して,テストピース3(逆遠心型)の方が低い摩擦係数を示すという,結果となった。
なお,試験速度0.05〜5.0m/secの範囲におけるテストピース1(案内溝なし)の摩擦係数の積分値を100(%)としたときの,テストピース4(折中型)の摩擦係数の積分値は36(%)であり,テストピース1(案内溝なし)に対しテストピース4(折中型)では,摩擦係数の積分値が64%と大幅に低下していることが確認された。
(5)考察
上記リングオンディスク試験の結果から,案内溝を形成すること,及びこの案内溝に対して潤滑油を導入する流れを生じさせることが摩擦係数(摩擦抵抗)を低減する上で有効であることが確認されたものの,潤滑油の供給効果が最も高いと考えられるパターンで溝を形成したテストピース2(遠心型)では,試験速度が比較的低い範囲では低い摩擦係数を示すものの,試験速度が高くなると,テストピース4(折中型)のみならず,テストピース3(逆遠心型)よりも摩擦係数が高くなることが確認された。
このテストピース2(遠心型)が示したように,摺接速度の上昇に伴って一旦低下した摩擦抵抗が再度,上昇を開始する現象は,図12のストライベック線図に示したように,接触状態が流体潤滑に移行した後に表れる特徴である。
これに対し,テストピース3(逆遠心型),テストピース4(折中型)では,回転速度の上昇に伴って摩擦係数がある一定値まで低下した後,試験速度(摺接速度)が上昇しても摩擦係数が僅かしか上昇せず,略横這いの状態となり,摺動速度の上昇に伴う摩擦係数の増大が殆ど見られない。
ここで,テストピース4(折中型)に設けた案内溝のうち,リング状ディスクの中心側から外周側に向かって回転方向後方側に延びるように形成された案内溝では,テストピース2(遠心型)と同様,摺動部に潤滑油を導入するように作用すると共に,この案内溝は,回転速度の上昇,従って,発生する遠心力の増大に伴い導入する潤滑油量を増大させて,油膜厚さを増大させるように作用する。
そして,摩擦係数と試験速度の相関関係を示した図7のグラフにおいて,テストピース4(折中型)をテストピース2(遠心型)と比較すると,試験速度が0〜1.0m/secの範囲では,両者のグラフは略一致しているのであるから,試験速度が0〜1.0m/secの範囲において,テストピース2(遠心型)とテストピース4(折中型)では,摺動部に形成された油膜厚さが同様の変化(成長)を示したものと予想される。
そうすると,その後,更に試験速度を上昇させた際の測定結果の相違は,テストピース2(遠心型)では,その後も試験速度の上昇に伴って,更に油膜厚さが増大し,流体潤滑状態に移行した結果,試験速度の上昇と共に摩擦係数が上昇したが,テストピース4(折中型)では,テストピース2(遠心型)には設けられていない逆遠心型の溝の存在が,例えば増えすぎた潤滑油を排出する等して,摩擦係数の抑制に寄与したものと考えられる。
このように,案内溝内に潤滑油の流れを生じさせる機能を持った遠心型の溝と,このような機能を持たない逆遠心型の溝とを混在して設けたテストピース4(折中型)では,摺接速度が低い状態から摺接速度を上昇させた状態のいずれの状態においても低摩擦係数を実現することができることが確認された。
(6)リングオンディスク試験結果のピストンへの応用
以上で説明したリングオンディスク試験の結果を,ピストンのスカート部に応用した場合,ピストンの下降又は上昇時に,シリンダ内壁に摺接されるスカート部の中央側に対し潤滑油を導入する作用を有する,前述の遠心型案内溝に対応する案内溝(第1案内溝)と,スカート部の中央側に対する潤滑油の導入作用を持たない,逆遠心型の案内溝に対応する案内溝(第2案内溝)をスカート部に同時に設けることとなる。
具体的には,ピストン10の下降時に側圧を受けた状態でシリンダ内壁に摺接されるスラスト側スカート部12aでは,図1(A)〜(C)に示したように,第1案内溝21として,スカート部の中央側から幅方向の両端側に向かって延び,少なくとも上側の長辺21aを中央側から両端側に向かって下向きに傾斜させた形状の溝を形成し,ピストン10の上昇時に側圧を受けた状態でシリンダ内壁と摺接される反スラスト側スカート部12bでは,スラスト側スカート部12aとは逆に,図2(A)〜(C)に示したように,第1案内溝21として,スカート部12bの中央側から幅方向の両端側に向かって延び,少なくとも下側の長辺21aを前記中央側から両端側に向かって上向きに傾斜させた形状の溝を形成する。
このように第1案内溝21を形成することで,ピストン10の移動に伴い第1案内溝21内では,スカート部の両端側から中央側に向かって潤滑油の流れが生じ,前述したテストピース4に形成した溝のうち,遠心型の溝に対応する機能を発揮するものと考えられる。
これに対し,第2案内溝22として,スラスト側スカート部12aでは中央側から幅方向の両端側に向かって延び,少なくとも上側の長辺22aが水平,又は中央部から両端側に上向きに傾斜した形状の溝を形成すると共に,反スラスト側スカート部12bでは,スカート部12bの中央側から幅方向の両端側に向かって延び,少なくとも下側の長辺22aが水平,又は中央側から両端側に向かって下向きに傾斜させた形状の溝を形成することで,この第2案内溝22は,ピストン10の移動によっても前述した第1案内溝21のようにスカート部12(12a,12b)の中央側に向かう潤滑油の流れを生じさせず,前述したテストピース4に形成した溝のうち,逆遠心型の溝に対応する機能を発揮するものと考えられる。
〔効果確認試験〕
(1)試験の目的
リングオンディスク試験で最も摩擦抵抗の低下が確認された案内溝のパターン〔テストピース4(折中型)〕に基づいて,スカート部に前述した第1案内溝21と第2案内溝22を共に形成したピストンによって,摺動性の向上が得られることを確認する。
(2)試験方法
(2-1) モータリングフリクション測定試験
自動車用のエンジン(直列4気筒 2.5リッター ガソリンエンジン)を使用し,スカート部に本発明のパターンで案内溝を形成したピストン(実施例)を装着した上記エンジンと,スカート部に案内溝を設けていない固体潤滑剤樹脂層のみを形成したピストン(比較例)を装着した上記エンジンを,それぞれ外部モータで稼働させた際の外部モータの出力トルクを測定し,測定されたトルクの差を摩擦抵抗の差として評価する,モータリングフリクション測定を行った。
(2-2) ファイアリングフリクション測定試験
浮動ライナ式フリクション測定用エンジンに,本発明のパターンで案内溝を形成したピストン(実施例)を装着した場合と,スカート部に案内溝を設けていない固体潤滑剤樹脂層のみを形成したピストン(比較例)を装着した場合のそれぞれについてファイアリング時の摩擦平均有効圧(Friction Mean Effective Pressure:FMEP)を測定することにより摩擦損失を評価した。
(3)実施例及び比較例
(3-1) 実施例
図8に,上記の試験に使用した本発明のピストン(実施例)の案内溝のパターンを示す。これは,リングオンディスク試験におけるテストピース4(折中型)〔図6(D)参照〕に対応する案内溝のパターンである。
なお,図8(A)はスラスト側のスカート部に形成した案内溝のパターンを,図8(B)は反スラスト側に形成した案内溝のパターンをそれぞれ示している。
(3-2) 比較例
比較例は,スラスト側,反スラスト側のいずれのスカート部共に,案内溝を設けていないピストン(図示は省略)であり,スカート部の全面に固体潤滑剤樹脂層を形成したもので,前述したリングオンディスク試験におけるテストピース1(案内溝なし)〔図6(A)参照〕に対応する。
(4)試験結果
以上で説明した実施例及び比較例の各ピストンを使用して行ったモータリングフリクション測定試験によって測定された,エンジンの回転速度の変化に対する外部モータの出力トルクの変化の様子を図10(A)に,ファイアリングフリクション測定試験によって測定された,エンジンの回転速度の変化に対する摩擦平均有効圧の変化を図10(B)にそれぞれ示す。
図10(A)及び図10(B)のグラフより,モータリングフリクション測定試験,及びファイアリングフリクション測定試験のいずれにおいても,回転速度の全範囲において,比較例に比較して実施例のピストンを装着した場合の方が低トルク,低摩擦損失でピストンを動かすことができていることが確認された。
このトルク差は平均3%で,最大では4%を越えており,摩擦平均有効圧の差は平均16%で、最大で20%であった。
ここで,ピストン系の摩擦抵抗の多くをピストンリングの摩擦抵抗が占めることを考えれば,スカート部の構造変更により,ピストン全体で上記数値の摩擦抵抗の低下が確認されたことは,良好な結果であり,本発明のパターンで案内溝を形成したことによるスカート部の摩擦抵抗の低減効果が極めて大きなものであることが確認された。
(5)考察
以上のモータリングフリクション測定試験及びファイアリングフリクション測定試験の結果,リングオンディスク試験の結果と同様,二種類の案内溝を混在させた実施例のパターンで案内溝を形成したピストンにおいて摩擦抵抗が大幅に低下することが確認されており,本発明のパターンで案内溝を形成したピストンがエンジンの燃費向上や,出力の向上を図ることのできるピストンであることが確認できた。
なお,リングオンディスク試験では,摩擦係数が積分値において64%の減少を示したのに対し,モータリングフリクション測定試験では,トルク差は3%の減少に止まっているが,その原因は,試験方法の相違による。
すなわち,リングオンディスク試験では,ディスクの摺動面の摩擦係数のみを測定するものであるのに対し,エンジンに実装した状態で測定するモータリングフリクション試験では,ピストンの摩擦抵抗以外にも,クランクシャフトと軸受の摩擦抵抗,クランクシャフトとコネクティングロッド間,コネクティングロッドとピストンピン間の摩擦抵抗等が加わっており,しかも,ピストンの摩擦抵抗のみに着目しても,スカート部とシリンダ内壁との摩擦抵抗以外に,ピストンリングとシリンダ内壁間の摩擦抵抗も加わること,更には,ピストンのスカート部のみに着目しても,案内溝の形成による摩擦抵抗の低減は,スカート部の一部分において得られるものであると考えられるから,ピストンのスカート部(特にそのうちの摺動部)の摩擦抵抗の低減が,これら全ての摩擦抵抗の合計として得られる測定結果全体に及ぼす影響が小さくなるためである。
以上の点を考慮すれば,ピストンのスカート部に形成する案内溝のパターンを工夫するのみで,モータリングフリクション試験における摩擦抵抗の3%の改善は画期的な効果であり,本発明のピストンにおいて,スカート部の摩擦抵抗が大幅に低減できていることは明らかである。
10 (内燃機関用)ピストン
11 クラウン部
12 スカート部
12a スラスト側スカート部
12b 反スラスト側スカート部
13 ピストンピン
13c 軸線(ピストンピンの)
15 固体潤滑剤樹脂層
15a 案内溝非形成域
20 案内溝
20e 開放端(案内溝の)
21 第1案内溝
21a 移動方向後方側の長辺
21b 移動方法前方側の長辺
22 第2案内溝
22a 移動方向後方側の長辺
22b 移動方向前方側の長辺
23 導入溝
50 シリンダ
51 コネクティングロッド
110 (内燃機関用)ピストン
112 スカート部
115 固体潤滑剤樹脂層
120 案内溝

Claims (8)

  1. スカート部に,固体潤滑剤を含有する樹脂から成る固体潤滑剤樹脂層を所定のパターンで形成することにより,前記固体潤滑剤樹脂層の非形成部に潤滑油の案内溝を形成した内燃機関用ピストンにおいて,
    前記固体潤滑剤樹脂層と前記案内溝を,少なくともスラスト側スカート部に形成すると共に,
    前記案内溝が,
    側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺を,前記スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって前記移動方向前方側に向けて傾斜させた第1案内溝と,
    側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向に対し少なくとも後方側にある長辺を,水平,又は前記スカート部の中央側から幅方向の端部側に向かって前記移動方向後方側に向けて傾斜させた第2案内溝を備えることを特徴とする内燃機関用ピストン。
  2. 側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向前方側に前記第1案内溝を,前記移動方向後方側に,前記第2案内溝を設けることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストン。
  3. 前記スカート部の中央部から幅方向における所定範囲を,前記案内溝が形成されていない案内溝非形成域としたことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関用ピストン。
  4. 前記スカート部の幅方向端部側における前記案内溝の端部を,いずれも開放端として形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の内燃機関用ピストン。
  5. 前記スカート部の幅方向両端における所定幅に固体潤滑剤樹脂層の非形成部を設け,該部分を潤滑油の導入溝と成すと共に,前記案内溝の前記開放端を,前記導入溝に連通させたことを特徴とする請求項4記載の内燃機関用ピストン。
  6. ピストンピンの軸線と直交する,前記ピストンの直径方向に延びる基準線を想定し,該基準線を0°として,前記ピストンピンの軸線と前記基準線との交点を中心に,該基準線に対し±5°〜±45°の範囲に案内溝非形成域を設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の内燃機関用ピストン。
  7. 側圧が加わった状態における前記スカート部の移動方向前方側に前記第2案内溝を,前記移動方向後方側に,前記第1案内溝を設けることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストン。
  8. ピストンピンの軸線を線対称又は略線対称として,前記移動方向前方側と前記移動方向後方側を画成したことを特徴とする請求項2又は7記載の内燃機関用ピストン。
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