JP2017217600A - 中空糸炭素膜の製造方法、中空糸炭素膜およびそのモジュール - Google Patents

中空糸炭素膜の製造方法、中空糸炭素膜およびそのモジュール Download PDF

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Abstract

【課題】混合物の分離膜として使用する際に、高透過性と高選択性を両立した炭素膜を安定して提供する製造方法を提供する。【解決手段】本発明の中空糸炭素膜の製造方法は、各工程の少なくとも1つの工程にて、硫黄含有化合物をポリフェニレンオキサイドに添加する工程と、硫黄含有化合物を付与したポリフェニレンオキサイドを用いた中空糸炭素膜前駆体を炭素化する工程と、を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、炭素膜の製造方法等に関する。
近年の環境問題や省エネルギー化の観点から、各種のガスなどの混合物からの特定成分の分離、有機溶剤の脱水・精製プロセスなどにおいて膜分離法が注目を集めている。用いられる分離膜には、ポリイミド膜、ポリスルホン膜などの高分子膜が提案されているが、このような高分子膜は耐熱性および耐溶剤性に問題がある。また、高分子膜と比較して耐熱性に優れるゼオライト膜を分離膜に用いることも知られているが、ゼオライト膜では耐酸性に乏しいという問題があった。
そこで、近年、耐熱性、耐溶剤性、耐酸性に優れた分離膜として、炭素膜が開発されている。炭素膜は、支持体(多孔質基材)の表面に形成された支持体型炭素膜と、支持体を用いない自立型炭素膜との2種類に大きく分類される。自立型炭素膜は、その代表的なものに平膜型、中空糸型があり、中でも、単位容積あたりの膜面積を大きくできることから中空糸型(以下、「中空糸炭素膜」と言うことがある)が好適であると考えられている。
ガス分離性能に優れた自立型の中空糸炭素膜について、例えば特許文献1には、ポリフェニレンオキサイド(PPO)を含む前駆体高分子膜を不融化処理した後に炭化することによって得られたPPO中空糸炭素膜が開示されている。
また例えば特許文献2には、スルホン化ポリフェニレンオキサイド(SPPO)を含む製膜原液を二重管環状構造の中空糸紡糸ノズルの外管から水凝固浴中に押し出して前駆体高分子膜を作製し、この前駆体高分子膜を不融化処理した後に炭化することによって得られたSPPO中空糸炭素膜が開示されている。
特開2006−231095号公報 特開2009−34614号公報 特開平3−65227号公報
G. Chowdhury, B. Kruczek, T. Matsuura, Polyphenylene Oxide and Modified Polyphenylene Oxide Membranes Gas, Vapor and Liquid Separation, 2001, Springer
しかしながら、特許文献1に開示されたPPO中空糸炭素膜は、PPOは比較的安価なポリマーであるため経済的である一方で、膜としての分離性能が低いという問題がある。
また、特許文献2に開示されたSPPO中空糸炭素膜では、スルホン化度の高い(例えば、特許文献2に実施例として記載されたスルホン化度45%)SPPOは、ポリマーの親水性が高いために、紡糸工程中で水分を多量に含む結果、膜の強度が弱くなる。その上、乾燥工程において中空糸膜同士が接着しやすいなど、大量生産工程における取扱い性に困難を生じる。
また、特許文献2にはSPPOポリマーの作製方法(例えば、特許文献2の実施例1と実施例7)が開示されており、PPOをクロロ硫酸でスルホン化反応を行い、SPPOを調製する。ところが、SPPOはPPOの溶媒であるクロロホルムへの溶解性が悪いため、析出しながら反応が進行するため再現性が悪く、安定したポリマーの調製が困難であることがわかった。更に、劇物であるクロロホルムおよびクロロ硫酸を用いるため、環境面、安全面においても工業的ではない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、透過・分離性能の高い中空糸炭素膜の再現性の高い製造方法等を提供することである。
本発明者等は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
1.中空糸炭素膜の製造方法であって、ポリフェニレンオキサイドを非プロトン性溶媒に溶解させる工程と、前記溶解したポリフェニレンオキサイドを温度誘起相分離点以上の温度で紡糸ノズルより吐出して中空糸状にする工程と、前記中空糸状のポリフェニレンオキサイドを水あるいは水と有機溶媒との混合溶液により凝固させる工程と、前記凝固した中空糸状物のポリフェニレンオキサイドを、溶媒置換処理を行うことなく、水を含んだ状態から乾燥させて中空糸炭素膜前駆体を得る工程と、を含み、前記各工程の少なくとも1つの工程において、硫黄含有化合物をポリフェニレンオキサイドに添加する工程、を含み、さらに、前記硫黄含有化合物が付与された中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程を含む、ことを特徴とする中空糸炭素膜の製造方法。
2.前記硫黄含有化合物が付与された中空糸炭素膜前駆体において、中空糸炭素膜前駆体の質量に対する硫黄元素の添加率が0.5%以上であることを特徴とする前記1記載の中空糸炭素膜の製造方法。
3.前記硫黄含有化合物の沸点、または、分解温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする前記1または2記載の中空糸炭素膜の製造方法。
4.前記硫黄含有化合物がスルホ基を有することを特徴とする前記1から3のいずれか1つに記載の中空糸炭素膜の製造方法。
5.前記1から4のいずれか1つに記載の中空糸炭素膜の製造方法により製造された中空製炭素膜。
6.前記5に記載の中空糸炭素膜を用いて形成された分離膜モジュール。
本発明の中空糸炭素膜の製造方法によると、ガス分離性能に優れ、かつ柔軟性にも優れた中空糸炭素膜を、再現性の高く製造することができる。また、本発明の中空糸炭素膜は、ガス分離性能に優れ、かつ柔軟性にも優れており、破損しにくく、モジュール化が容易であり、実用性に優れたものである。
分離性能の評価装置の構成を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
本発明の中空糸炭素膜の製造方法は、(1)ポリフェニレンオキサイド(PPO)を非プロトン性溶媒に溶解させる工程(溶解工程)と、(2)溶解したPPOを温度誘起相分離点以上の温度で紡糸ノズルより吐出して中空糸状にする工程(吐出工程)と、(3)中空糸状のPPOを水あるいは水と有機溶媒との混合溶液により凝固させる工程(凝固工程)と、(4)凝固した中空糸状のPPOを、溶媒置換処理を行うことなく水洗し、水を含んだ状態から乾燥させて中空糸炭素膜前駆体を得る工程(乾燥工程)と、(5)(1)〜(4)工程の少なくとも1つの工程にて硫黄含有化合物をPPOに付与する工程(化合物付与工程)と、(6)硫黄含有化合物が付与された中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程(炭素化処理工程)とを含む。
本発明の中空糸炭素膜は、上述の中空糸炭素膜の製造方法によって製造されたものである。また、本発明の中空糸炭素膜を用いたモジュールも本発明の範囲に含まれる。
〔1〕溶解工程
本発明の中空糸炭素膜の製造方法では、まず、PPOを非プロトン性溶媒に溶解させる。PPOの溶媒は、例えば非特許文献1にまとめられているように、ベンゼン、トルエン、クロロホルムなど環境負荷が大きく、人体に有害なものが多い。一方、例えば特許文献3には、およそ100℃以上の温度では、比較的環境負荷の小さい非プロトン性の溶媒にPPOが溶解されることが開示されている。
本発明の中空糸炭素膜の製造方法で用いる非プロトン性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、中でもPPOの溶解性が特に優れることから、非プロトン性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
非プロトン性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる場合、N−メチル−2−ピロリドンはおよそ100℃以上の温度でPPOを均一に溶解することができる。またN−メチル−2−ピロリドンに所望の貧溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)をポリマーの溶解性が確保される範囲で添加して、膜の細孔径や細孔径分布を変更することもできる。
〔2〕吐出工程
続く吐出工程では、上述のようにしてPPOを非プロトン性溶媒に溶解させた溶液(PPO紡糸原液)を、紡糸ノズルより吐出させて中空糸状にする。本発明の中空糸炭素膜の製造方法における紡糸の形式は特に制限されるものではなく、従来公知の紡糸法を適用することができる。ただし、PPO中空糸膜の構造制御を精密に行う観点および、作製の容易さの観点からは、乾湿式紡糸法を適用することが好ましい。
本発明の中空糸炭素膜の製造方法において、PPO紡糸原液は、温度誘起相分離点以上の温度で吐出させる。ここで、「温度誘起相分離点」とは、温度により誘起された相分離により固化しない温度を指し、例えばPPOをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたPPO紡糸原液の温度誘起相分離点は、紡糸原液濃度や溶媒組成により変動するが、概ね80℃(50〜120℃)である。従って、当該吐出工程では、80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で、均一な液体状を保った状態で、二重円筒管ノズルより内液とともに紡糸する。なお、吐出工程における温度は、溶媒の沸点以下に設定することはいうまでもなく、かつ紡糸原液の粘度を低くしすぎて紡糸安定性を損なわないという観点から、200℃以下とすることが好ましく、180℃以下とすることがより好ましい。
上述のように内液とともに吐出された中空糸状のPPO紡糸原液は、内液との非溶媒誘起相分離により凝固される。内液は、中空糸状に吐出されたPPO紡糸原液の内側に吐出され、非溶媒誘起相分離により、PPO紡糸原液を凝固させうるものが好適に用いられる。このような内液としては、紡糸原液を上述のように100℃以上で吐出させる場合には、水よりも沸点の高い溶媒が好適に用いられる。このような内液としては、例えばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。中でも、内液として後の水洗処理が容易となる理由から、エチレングリコールを用いることが好ましい。
〔3〕凝固工程
上述した吐出工程で吐出された紡糸原液は、続く凝固工程において、貧溶媒で満たされた凝固浴に浸漬される。なお、中空糸状物の表面のポリマー濃度を高くして、表面を緻密にするなどの膜構造制御の観点から、吐出工程の後、中空糸状に形成されたPPO紡糸原液は、溶媒を部分的に乾燥処理した後に、当該凝固工程に供するようにすることが好ましい。凝固工程では、中空糸状に形成されたPPO紡糸原液は、非溶媒誘起相分離により、中空糸状物に凝固する。
当該凝固工程に用いられる貧溶媒としては、紡糸原液中のPPOポリマーを速やかに凝固させることが可能で、かつ使用が容易であるという理由から、水あるいは水と有機溶媒との混合溶液が挙げられる。有機溶媒を混合する場合、当該有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、中でもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
PPO紡糸原液を浸漬する際の貧溶媒の温度は特に制限されないが、0〜50℃の範囲内であることが好ましく、0〜20℃の範囲内であることがより好ましい。貧溶媒の温度が0℃未満である場合には、凝固浴の液体が凍る、あるいは粘度が低下しすぎるため紡糸安定性が悪くなるという傾向があるためである。他方、貧溶媒の温度が50℃を超えると、凝固浴の粘度が低くなりすぎ、膜構造が不安定になったり、紡糸安定性が悪くなったりするという傾向があるためである。また、PPO吐出原液を貧溶媒に浸漬する時間についても特に制限されないが、十分凝固を進行させて、中空糸状の形状を保ち、かつ工程を無駄に長くしないという観点から、0.1〜100秒の範囲内であることが好ましく、1〜50秒の範囲内であることがより好ましい。
〔4〕乾燥工程
上述した凝固工程の後、凝固した中空糸状のPPO(中空糸状物)を、溶媒置換処理を行うことなく、水を含んだ状態から乾燥させて中空糸炭素膜前駆体を得る。なお、凝固工程で相分離を終えた中空糸状物は、十分に水洗して残存する溶媒を除去した後に、当該乾燥工程に供することが好ましい。
本発明における乾燥工程で行わない「溶媒置換処理」とは、例えば水を含む中空糸状物を、アルコールなど表面張力が水よりも小さく、かつ水と混和する溶媒に、徐々に溶媒濃度を高くしながら、最終的に完全に前記溶媒に置換する手法である。またアルコールに置換した中空糸状物は、シクロヘキサン、n−ヘキサンなど、さらに表面張力の小さい溶媒に置換される場合もある。表面張力の低い溶媒を含んだ状態から乾燥された中空糸状物は、初期の細孔構造が維持されやすいとされる。また、溶媒置換と類似の方法として、前記吐出工程における凝固浴の貧溶媒をあらかじめ、表面張力の小さい、例えばアルコールなどにする場合も同様の効果が得られる。
しかしながら、本発明の中空糸炭素膜の製造方法では、このような溶媒置換処理は不要である。本発明者らの知見によれば、このような溶媒置換処理を行ったとしても、PPO吐出原液から形成した中空糸状物は、後述する耐炎化処理工程と炭素化処理工程において、その多孔構造は溶融し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に、一見すると全体が緻密で一様な、いわゆる均質膜構造となってしまうためである。溶媒置換処理を行って作製されたPPO中空糸炭素膜は、このような均質膜構造であるにも関わらず、脆くなり、柔軟性が低くなってしまう。よって、本発明の中空糸炭素膜の製造方法では、このような溶媒置換処理を行わないことで、不具合を防ぐことができる。
〔4〕化合物付与工程
硫黄含有化合物を付与する化合物付与工程は、後述する炭素化処理工程の前であれば、どこの工程で行っても構わない。付与は、必要に応じて複数の工程で行ってもかまわない。付与する方法は特には限定されないが、〔1〕溶解工程であれば、非プロトン溶媒に硫黄含有化合物を添加すればよい。〔2〕吐出工程であれば、内液に添加すればよい。〔3〕凝固工程であれば、凝固工程に用いられる貧溶媒に添加すればよい。〔4〕乾燥工程であれば、凝固した中空糸状物を残存した溶媒を除去する水洗する場合にはその水に添加してもよいし、乾燥を行った後に乾燥した中空糸状物に付与してもよい。中でも、[4]乾燥工程にて付与するのが好ましく、乾燥を行った後に乾燥した中空糸状物に付与するのが特に好ましい。
硫黄含有化合物の添加量は、中空糸炭素膜前駆体の質量に対する硫黄元素の添加量が0.5%以上であることが好ましい。硫黄元素量が少なくい場合、効果が小さい。添加量の上限について特に制限はなく、中空糸炭素膜前駆体の物性、炭素化処理条件により適宜調整すればよい。中空糸炭素膜の分離性能を向上し、中空糸炭素膜の柔軟性を維持できるような量、すなわち、炭素化して中空糸状を維持できる量であることが好ましい。
本発明の中空糸炭素膜の製造方法において添加する硫黄含有化合物は、沸点または分解温度が100℃以上300℃以下のものであることが好ましく、より好ましくは150℃以上300℃以下、更に好ましくは200℃以上300℃以下のものである。100℃未満であると、溶解工程や吐出工程で硫黄含有化合物のPPOに対する残存率が少なくなるため好ましくない。また300℃より高温であると、炭素化処理工程における炭素化反応や、炭素化処理の前処理としての耐炎化処理における熱架橋反応において、硫黄含有化合物の揮発または熱分解による効果が得られにくいため好ましくない。
硫黄含有化合物としては、スルホ基を有するものが好ましい。スルホ基を有することで、炭素化処理工程の際に硫黄含有化合物が分解し、二酸化硫黄や三酸化硫黄など酸化性物質が発生し、炭素化処理工程における炭素化反応や炭素化処理の前処理として、耐炎化処理における熱架橋反応が進行しやすいためである。
硫黄含有化合物としては、取扱が容易であり、かつ、スルホン酸含有率が高い低分子化合物が好ましい。例えば、硫酸、スルファミン酸(アミド硫酸)、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、スルファミン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。硫黄含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、複数の工程で添加する場合、同じ種類を用いても異なる種類を用いてもよい。
〔5〕炭素化処理工程
最後に、乾燥工程で得られた中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する。好ましくは、炭素化処理の前処理として、耐炎化処理を施す。耐炎化処理では、空気雰囲気下で200〜350℃、より好ましくは250〜300℃で、5分間から3時間程度、中空糸炭素膜前駆体を加熱する。このような耐炎化処理を施すことによって、ポリマーの熱架橋反応が促進され、炭素化後の膜構造が強固なものとなり、分離性能の向上に有利である。
上述のように好ましくは耐炎化処理を施した中空糸炭素膜前駆体を、公知の方法で炭素化処理し、中空糸炭素膜を得る。炭素化処理は、例えば、中空糸炭素膜前駆体を高温炉内に収容し、減圧下、またはヘリウム、アルゴンガス、窒素ガスなどで置換した不活性ガス雰囲気下で減圧することなく加熱処理することによって行う。また、中空糸炭素膜前駆体を連続搬送しながら、不活性ガス雰囲気の下、高温処理する連続炭素化炉で炭素化処理を行なう方法がとられてもよい。
炭素化処理における加熱条件は、前駆体を構成するポリマーの種類などにより、最適なものが選択されるが、好ましくは、減圧下または不活性ガス雰囲気中で、400〜1000℃で10分間から4時間である。より好ましくは、500〜850℃で30分から2時間である。500℃未満であると、十分な炭素化が起こらないため、得られる中空糸炭素膜は柔軟であるが、十分なガス分離性が得られず、また耐薬品性、耐熱性も劣ったものとなってしまうので好ましくない。一方、1000℃を超える温度で炭素化処理を行なうと、炭素化後の膜が脆くなってしまうので好ましくない。
<中空糸炭素膜および分離膜モジュール>
上記の本発明の中空糸炭素膜の製造方法を用いて製造した中空糸炭素膜、また、当該中空糸炭素膜を用いた分離膜モジュールも本発明の範疇に含まれる。そこで、上述した本発明の中空糸炭素膜の製造方法を用いて製造した本発明の中空糸炭素膜を用いた本発明の分離膜モジュールについて説明する。
分離膜モジュール自体は公知であり、本発明の分離膜モジュールも、本発明の中空糸炭素膜を用いること以外は、従来公知の適宜の材質、構造を組み合わせて実現することができる。例えば典型的な構造の分離膜モジュールとして、所定の長さに切断された複数本の本発明の中空糸炭素膜が束ねられた状態で、その両端をそれぞれ接着剤で固めた分離膜モジュールが挙げられる。この分離膜モジュールは、束ねられた状態の中空糸炭素膜の一方の端部は開口しており、接着剤で固められており、開口を有するキャップが取付けられた構造である。他方、束ねられた状態の中空糸炭素膜の他方の端部は閉口しており、接着剤で固められており、開口を有さないキャップが取付けられた構造である。なお、これはあくまで一例に過ぎず、束ねられた状態の中空糸炭素膜の一方の端部が開口し、他方の端部が閉口している構造であればよい。
本発明の分離膜モジュールの作製方法は、公知の方法を適宜採用することができ、特に制限されるものではない。例えば、複数本の本発明の中空糸炭素膜を作製し、それをそれぞれ所定の長さに切断した状態で束ね、束ねられた複数本の中空糸炭素膜の一端を接着剤で接着するとともに、他端を接着剤で接着する。その後、束ねられた状態の中空糸炭素膜の一方側の端部を接着剤とともに切断することによって開口させる。その後、それぞれの端部に上述のようなキャップを取付けることによって、上述した分離膜モジュールが作製できる。
本発明の中空糸炭素膜およびこれを用いた分離膜モジュールは、特にガス分離用炭素膜として有用である。水素製造、二酸化炭素分離回収、排気ガス分離回収、天然ガス分離、ガスの除湿、空気からの酸素の製造などの分野において特に好適に用いることができる。
本発明の中空糸炭素膜は、水を含有する揮発性有機化合物から前記水を分離するために好適に用いられる。さらに、揮発性有機化合物を含む空気から前記揮発性有機化合物を分離するためにも好適に用いられるものである。
以下に本発明の実施例の詳細を示すが、本発明を制限するものではない。
<実施例1>
ポリフェニレンオキサイド(PPO)(Poly(2,6−dimethyl−1,4−phenylene oxide 製品番号181781、アルドリッチ社製)13.75gに対して、N−メチル−2−ピロリドン36.25gを加え、混練して均一な懸濁液を作製した後、100〜150℃の範囲の温度で混練しながら加熱することで均一な紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を150℃に保温した状態で、同じく130℃に加熱保温した紡糸原液押出し機に充填し、二重円筒管ノズルのスリット部より、紡糸原液を定量押出しした。二重円筒管ノズルの内孔からは、内液として、エチレングリコールを定量吐出させ、中空状に押出された紡糸原液の内層部分に相分離を誘起させつつ、50mmのエアギャップで、紡糸原液表層部の乾燥処理を行い、その後、10℃に保温したN−メチル−2−ピロリドン30%水溶液で満たした凝固浴中で、完全に相分離を進行させた。固化した中空糸膜を十分水洗した後、水を含んだ状態のまま、80℃の乾燥炉にて乾燥処理した。
得られた中空糸状物を50cmの長さにカットし、硫黄含有化合物の付与として、5質量wt%スルファミン酸水溶液に15時間浸漬させた。過剰分の水溶液を除去した後に風乾を行い、硫黄含有化合物付与PPO中空糸膜(中空糸炭素膜前駆体)を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は4.0質量%であった。
得られた硫黄含有化合物付与PPO中空糸膜を、マッフル炉にて空気雰囲気の下、10℃/minの速度で昇温させ、285℃に達してから、同温度にて90分加熱し、その後放冷した。
空気酸化処理を行った中空糸膜を、高温焼成炉にて窒素雰囲気の下、10℃/minの速度で昇温させ、800℃に達してから、同温度にて1時間加熱し、その後放冷し、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。
<実施例2>
硫黄含有化合物の付与として、スルファミン酸水溶液の濃度を10質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は9.4質量%であった。
<実施例3>
硫黄含有化合物の付与として、5質量%のp−トルエンスルホン酸水溶液に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は4.5質量%であった。
<実施例4>
硫黄含有化合物の付与として、5質量%の硫酸アンモニウム水溶液に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は3.6質量%であった。
<実施例5>
硫黄含有化合物の付与として、5質量%の硫酸水素アンモニウム水溶液に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は3.6質量%であった。
<比較例1>
硫黄含有化合物の付与を行わないこと以外は実施例1と同様にして、PPO中空糸炭素膜を得た。
<参考例1>
硫黄含有化合物の付与として、2質量%のスルファミン酸水溶液に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硫黄含有化合物与付与PPO中空糸炭素膜を得た。添着前後の中空糸膜の重量変化より、添着量は1.0質量%であった。
<比較例2>
ポリフェニレンオキサイド(PPO)(Poly(2,6−dimethyl−1,4−phenylene oxide 製品番号181781、アルドリッチ社製)をクロロホルムに溶解させた状態で、室温下、クロロ硫酸とクロロホルムとの混合溶液を滴下してスルホン化反応を所定時間進行させた後、再沈させ、水洗した反応物を乾燥処理し、スルホン化度DS=25%のスルホン化ポリフェニレンオキサイド(SPPO)を得た。
メタノールとジメチルアセトアミドとの質量比50/50の混合溶媒に対して、DS=25%のSPPOを、ポリマー濃度30質量%となるように加えて、溶解させたものを紡糸原液とした。これを二重円筒管ノズルの中空糸紡糸ノズルの外管から凝固浴相に押し出し、中空糸紡糸ノズルの内管からは5質量%の硝酸アンモニウム水溶液を同時に押し出して紡糸し、この中空糸状物をイオン交換水で水洗することで不要な混合溶媒と硝安アンモニウムを除去し、これを乾燥させることで中空糸高分子膜を得た。
実施例1と同様の方法でSPPO中空糸膜の空気酸化処理を行い、SPPO空気酸化処理中空糸膜を得た。その後、実施例1と同様の方法で、SPPO空気酸化処理中空糸膜の炭素化処理を行い、SPPO中空糸炭素膜を得た。
実施例1〜5、参照例1、および比較例1、2で得られたサンプル(硫黄含有物付与PPO中空糸炭素膜、PPO中空糸炭素膜、SPPO中空糸炭素膜)について、以下に記載の評価方法にて評価を行った。
(中空糸炭素膜のガス分離性能の評価)
試験ガス(He,CO,N)を用いて、中空糸炭素膜のガス分離性能を測定する方法を以下に示す。中空糸用気体透過率測定装置に装着した中空糸モジュールの内面に一定圧力で試験ガスを供給し、透過する気体流量を流量計で測定した。この際に、下記式で求められる気体透過速度Qにより気体分離性能を評価した。また、Qの比からガスの理想分離係数αを求めた。
Q={ガス透過流量(cm・STP)}÷{膜面積(cm)×時間(秒)×圧力差(
cmHg)}
(水−酢酸エチル分離性能の評価)
図1に示す評価装置100にて、実施例、参考例および比較例で得られた中空糸炭素膜の浸透気化分離法による水の分離性能および透過性能の評価を行った。
供給液組成:酢酸エチル/水=97/3wt%、供給液温度:70℃、透過側圧力100Paで行った。中空糸炭素膜1の中空部を真空ポンプ14で真空引きし、評価を開始してから1時間毎に、液体窒素8で冷却された冷却トラップ7でトラップされた透過液の質量から下記式1により透過流束(kg・m-2・h-1)を求めた。中空糸炭素膜1の分離性能が安定した、7時間後の透過流速を表に示した。
透過流束(kg・m-2・h-1)=(透過液の質量(kg))÷{中空糸炭素膜の面積(m2)×時間(h)} (式1)
また、冷却トラップ7でトラップされた透過液をFID(Flame Ionizer Detector)ガスクロマトグラフにより分析し、透過液中の酢酸エチル濃度を求めるとともに下記式2により分離係数SFを算出した。
分離係数SF(水/酢酸エチル)={透過液の水濃度(質量%)/透過液の酢酸エチル濃度(質量%)}÷{供給液の水濃度(質量%)/供給液の酢酸エチル濃度(質量%)} (式2)
(中空糸炭素膜の再現性の評価)
実施例および比較例において記載の方法を各々10回繰り返し行い、水−酢酸エチル分離性能の再現性を評価した。10回分の7時間後の透過流速の値全てを母集団とし、平均値μと標準偏差σを算出した。
表1に、中空糸炭素膜前駆体への硫黄含有化合物の添着量と中空糸炭素膜のガス透過特性を、表2に水−酢酸エチル分離性能の再現性評価の結果を示す。
表1では、硫黄含有化合物のモル質量(A)、硫黄含有化合物中の硫黄元素の原子量(B)、および、中空糸炭素膜前駆体への硫黄含有化合物の添加率(C)が記されており、この値から、中空糸炭素膜前駆体の質量に対する硫黄元素の添加率(B/A×C)が算出できる。このような硫黄元素の添加率の中空糸炭素膜前駆体を用いた炭素膜のガス分離性の結果から分かるように、中空糸炭素膜前駆体の質量に対する硫黄元素の添加率(B/A×C)が0.5%以上であれば、HeとCOとの分離係数αは高い値を示している。
また、表2から分かるように、水−酢酸エチルにて高い透過流速と分離係数の両立を達成した。透過流速の標準偏差も小さく、再現性がよいことが確認され、本発明である硫黄含有化合物の付与の効果が明確となった。一方、比較例2のSPPO炭素膜はHeとCOとの分離係数αは高い値を示すが、表2にあるように、水−酢酸エチルの透過流速の再現性が非常に悪いことが確認された。上述したように、SPPOの合成の不安定さに起因するためである。
以上で説明した実施の形態および各実施例は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明により、安定した性能を有する中空糸炭素膜を製造することができ、産業界へ大きく寄与することができる。
1 中空糸炭素膜、2 供給液、3 容器、4 恒温槽、5 攪拌子、6 スターラー、7 冷却トラップ、8 液体窒素、9 温度計、10 ステンレスパイプ、11 保温テープ、12 ストップバルブ、13 真空度計、14 真空ポンプ

Claims (6)

  1. 中空糸炭素膜の製造方法であって、
    ポリフェニレンオキサイドを非プロトン性溶媒に溶解させる工程と、
    前記溶解したポリフェニレンオキサイドを、温度誘起相分離点以上の温度で紡糸ノズルより吐出して中空糸状にする工程と、
    前記中空糸状のポリフェニレンオキサイドを、水あるいは水と有機溶媒との混合溶液により凝固させる工程と、
    前記凝固した中空糸状のポリフェニレンオキサイドを、溶媒置換処理を行うことなく、水を含んだ状態から乾燥させて中空糸炭素膜前駆体を得る工程と、を含み、
    前記各工程の少なくとも1つの工程にて、硫黄含有化合物をポリフェニレンオキサイドに添加する工程、を含み、
    さらに、前記硫黄含有化合物が付与された中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程を含む、ことを特徴とする中空糸炭素膜の製造方法。
  2. 前記硫黄含有化合物が付与された中空糸炭素膜前駆体において、中空糸炭素膜前駆体の質量に対する硫黄元素の添加率が0.5%以上であることを特徴とする請求項1記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  3. 前記硫黄含有化合物の沸点、または、分解温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  4. 前記硫黄含有化合物がスルホ基を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の中空糸炭素膜の製造方法により製造された中空製炭素膜。
  6. 請求項5に記載の中空糸炭素膜を用いて形成された分離膜モジュール。
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