JP2017214264A - 窒化物焼結体の製造方法 - Google Patents

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基 永沢
秀行 大国
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秀行 大国
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Hideaki Awata
英章 粟田
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Abstract

【課題】窒化物結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結体を提供すること。【解決手段】窒化物焼結体の製造方法は、窒化物結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、該第1粉末を加熱することにより、酸素を含有する第2粉末を調製すること、磁場中で、該第2粉末を成形することにより、成形体を形成すること、および還元雰囲気中で、該成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、窒化物焼結体の製造方法に関する。
非特許文献1(鈴木達ら著、「強磁場を用いた反磁性セラミックスの配向制御」)は、12Tの強磁場中で、セラミック微粒子を含むスラリーを成形体に成形することを開示している。
鈴木達ら、「強磁場を用いた反磁性セラミックスの配向制御」、まてりあ、第48巻、第6号、2012年10月5日、p.321−326 横浜国立大学、神奈川科学技術アカデミー、「世界初!市販マグネットでセラミックスの特性を驚異的に向上〜低磁場でも配向構造のセラミックスが作製できる技術を開発〜」、2015年8月10日、インターネット<URL:https://www.newkast.or.jp/press/pdf/press−H270810.pdf>
窒化物焼結体において、窒化物結晶粒子が所定方向に配向していることにより、様々な効果(たとえば、熱伝導率の向上)が期待できる。しかし、窒化物結晶粒子は、強磁性体ではないため、磁化率が低い。そのため、窒化物結晶粒子の磁場配向には、たとえば10Tを超える強磁場が必要である(非特許文献1を参照のこと)。
非特許文献2は、グラフェンで窒化物結晶粒子を被覆している。非特許文献2は、グラフェンが窒化物結晶粒子の磁場配向を助力するため、弱磁場でも窒化物結晶粒子が配向するとしている。
しかしながら、グラフェンは製造コストが高い。またグラフェン修飾のための新規工程の追加も必要である。
しかも、グラフェンが磁場配向を助力できるためには、窒化物結晶粒子の表面において、グラフェンが特定方向に配向している必要がある。しかし特定方向に配向するように、グラフェンを微粒子に付着させることは、大変困難である。
本開示の目的は、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結体を提供することである。
本発明の一態様に係る窒化物焼結体の製造方法は、窒化物結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、該第1粉末を加熱することにより、酸素を含有する第2粉末を調製すること、磁場中で、該第2粉末を成形することにより、成形体を形成すること、および還元雰囲気中で、該成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、を含む。
上記によれば、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結体が提供される。
本発明の実施形態に係る窒化物焼結体の製造方法の概略を示すフローチャートである。 窒化物結晶を説明するための図である。 磁場中での成形の一例を示す概略図である。 本発明の実施形態に係る窒化物焼結体を示す概略図である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様が列記されて説明される。
〔1〕本発明の一態様に係る窒化物焼結体の製造方法は、
(a)窒化物結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、
(b)酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、第1粉末を加熱することにより、酸素を含有する第2粉末を調製すること、
(c)磁場中で、第2粉末を成形することにより、成形体を形成すること、および
(d)還元雰囲気中で、成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、を含む。
酸化された窒化物結晶粒子は、磁化率が向上しており、弱磁場にも応答することが見出された。それゆえ、上記の製造方法では、低酸素分圧の雰囲気中で、第1粉末が加熱される。
加熱時の酸素分圧が1×10-5Pa未満であると、窒化物結晶粒子が十分酸化されない可能性がある。その結果、窒化物結晶粒子の磁場応答が鈍く、所望の配向性が実現されない可能性がある。
加熱時の酸素分圧が1×10-1Paを超えると、窒化物結晶粒子が過度に酸化される可能性がある。そのため、後に還元雰囲気で焼成が実施されても、窒化物焼結体に酸素が残留する可能性がある。窒化物焼結体中の残留酸素は、たとえば、熱伝導を阻害する可能性がある。また窒化物結晶粒子が過度に酸化されることによって、窒化物結晶粒子の磁場応答が却って鈍くなる可能性もある。
〔2〕第2粉末は、酸素を0.1atom%以上5atom%以下含有するように調製されてもよい。
酸素含有量が0.1atоm%以上であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。酸素含有量が5atоm%以下であることにより、焼成後の残留酸素の抑制が期待される。
本明細書の「酸素含有量」は、ICP発光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy,ICP−AES)により測定される。1つの粉末サンプルにつき、測定は少なくとも5回実施される。少なくとも5回の測定結果の算術平均値が、酸素含有量として採用される。
〔3〕磁場は、磁束密度が0.1T以上3T以下であってもよい。
磁束密度が0.1T以上であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。磁束密度が3T以下であることにより、大型の強磁場発生装置が不要である。そのため、製造コストの低減および生産性の向上が期待される。
本明細書の「磁束密度」は、磁束密度計により測定される。磁束密度計としては、たとえば、日本電磁測器社製のテスラメータ「TGX−1000」等、またはこれと同等品が用いられる。
〔4〕窒化物焼結体の製造方法は、第2粉末を粉砕することをさらに含んでもよい。
窒化物結晶粒子が微粒子となることにより、磁場応答が鋭敏になることが期待される。
〔5〕窒化物焼結体の製造方法は、第2粉末および溶媒を含むスラリーを調製すること、をさらに含んでもよい。成形することは、磁場中でスラリーを固化させることを含んでもよい。
粉末状態では、窒化物結晶粒子が回転し難く、磁場応答が鈍い傾向がある。窒化物結晶粒子が凝集しやすいためと考えられる。一方、スラリーにおいては、窒化物結晶粒子が溶媒中に分散している。そのため、窒化物結晶粒子が回転しやすい。すなわち、磁場応答が鋭敏になることが期待される。
〔6〕窒化物結晶粒子は、窒化珪素結晶粒子を含んでもよい。
窒化珪素(Si34)結晶は、熱伝導率に異方性を有する。すなわち、窒化珪素結晶は、c軸方向に極めて高い熱伝導率を示す。上記のように酸化された窒化珪素結晶粒子は、弱磁場中でも、c軸方向に配向し得る。すなわち、窒化珪素結晶粒子が原料であることにより、所定方向の熱伝導率に優れる窒化物焼結体が提供され得る。
〔7〕窒化物焼結体の製造方法は、
(a)窒化珪素結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、
(b)酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、第1粉末を加熱することにより、酸素を0.1atоm%以上5atоm%以下含有する第2粉末を調製すること、
(c)第2粉末を粉砕すること、
(d)粉砕された第2粉末および溶媒を含むスラリーを調製すること、
(e)磁束密度が0.1T以上3T以下である磁場中で、スラリーを固化させることにより、成形体を形成すること、および
(f)還元雰囲気中で、成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、を含む。
上記によれば、窒化珪素結晶粒子が所定方向に配向している、窒化物焼結体が提供される。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし、以下の実施形態は、本発明を限定するものではない。
<窒化物焼結体の製造方法>
図1は、本実施形態に係る窒化物焼結体の製造方法の概略を示すフローチャートである。窒化物焼結体の製造方法は、粉末の準備(101)、低酸素分圧中での加熱(102)、磁場中での成形(105)、および焼成(107)を含む。
窒化物焼結体の製造方法は、低酸素分圧中での加熱(102)の後に、粉砕(103)を含んでもよい。窒化物焼結体の製造方法は、磁場中での成形(105)の前に、スラリーの調製(104)を含んでもよい。窒化物焼結体の製造方法は、焼成(107)の前に、脱脂(106)を含んでもよい。
以下、窒化物焼結体の製造方法が順を追って説明される。
《粉末の準備(101)》
窒化物焼結体の製造方法は、窒化物結晶粒子を含む第1粉末を準備することを含む。
(窒化物結晶粒子)
窒化物結晶粒子は、窒化物結晶の粒子である。粒子は、単結晶粒子であってもよいし、多結晶粒子であってもよい。粒子は、たとえば、柱状粒子であってもよい。本実施形態の窒化物結晶は、結晶磁気異方性を有する。窒化物結晶は、たとえば、六方晶系、三方晶系、正方晶系、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系等であり得る。
窒化物としては、たとえば、窒化珪素(Si34)、窒化硼素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)およびサイアロン(SiAlON)等が挙げられる。第1粉末は、2種以上の窒化物結晶粒子を含んでいてもよい。窒化物結晶粒子は、Si34結晶粒子、BN結晶粒子、AlN結晶粒子、GaN結晶粒子およびSiAlON結晶粒子からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
窒化物結晶粒子は、Si34結晶粒子を含んでもよい。Si34結晶は、α−Si34結晶(三方晶系)であってもよいし、β−Si34結晶(六方晶系)であってもよい。原料としてのSi34結晶は、典型的には、α−Si34結晶である。焼成時にα−Si34結晶がβ−Si34結晶に変換されることにより、緻密な焼結体が形成されやすい傾向がある。そしてβ−Si34結晶は、c軸方向に高い熱伝導率を示す。
図2は、窒化物結晶を説明するための図である。図2では、六方晶が示されているが、前述されたように、本実施形態の窒化物結晶は、六方晶に限定されるべきではない。六方晶において、c軸(主軸)は、六角形状の底面の中心を通り、六角柱の高さ方向に伸びる。後述されるように、本実施形態においては、酸化によって窒化物結晶粒子の磁化率が高まる。これにより、窒化物結晶粒子は、弱磁場中でも、c軸方向に配向することができる。特に、窒化物結晶粒子がSi34結晶粒子である場合、所定方向に高い熱伝導率を示す窒化物焼結体が製造されることになる。
第1粉末の平均粒径は、特に限定されるべきではない。第1粉末の平均粒径は、たとえば10nm以上10μm以下であってもよいし、100nm以上5μm以下であってもよいし、100nm以上2μm以下であってもよい。平均粒径が適度に小さいことにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になる可能性がある。
本明細書の「平均粒径」は、体積基準の粒度分布において微粒側から累計50%の粒径を示す。平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって測定される。1つの粉末サンプルにつき、測定は少なくとも5回実施される。5回の測定結果の算術平均値が、平均粒径として採用される。
《低酸素分圧中での加熱(102)》
窒化物焼結体の製造方法は、酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、第1粉末を加熱することにより、酸素を含有する第2粉末を調製することを含む。
これにより、窒化物結晶粒子の磁化率が向上し、弱磁場でも窒化物結晶粒子が配向する。したがって、本実施形態の製造方法では、たとえば、グラフェンが利用される方法に比べて、製造コストの低減が期待される。
低酸素分圧の雰囲気は、たとえば、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス等の不活性ガスの酸素分圧が、酸素分圧制御装置によって調整されることにより、形成され得る。
本実施形態では、酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である。これにより、窒化物結晶粒子が適度に酸化され得る。酸素分圧が1×10-5Pa未満であると、窒化物結晶粒子が十分酸化されない可能性がある。その結果、窒化物結晶粒子の磁場応答が鈍く、所望の配向性が実現されない可能性がある。酸素分圧が1×10-1Paを超えると、窒化物結晶粒子が過度に酸化される可能性がある。そのため、後に還元雰囲気で焼成が実施されても、窒化物焼結体に酸素が残留する可能性がある。また窒化物結晶粒子が過度に酸化されることによって、窒化物結晶粒子の磁場応答が却って鈍くなる可能性もある。
酸素分圧は、1×10-4Pa以上1×10-1Pa以下であってもよいし、1×10-3Pa以上1×10-1Pa以下であってもよいし、1×10-2Pa以上1×10-1Pa以下であってもよい。酸素分圧がこれらの範囲内であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。
加熱は、たとえば、低酸素分圧のガスが流されているカーボン炉内で実施され得る。加熱温度は、たとえば、500℃以上1500℃以下であってよいし、800℃以上1200℃以下であってもよいし、900℃以上1100℃以下であってもよい。加熱時間は、たとえば、1時間以上10時間以下であってもよいし、2時間以上8時間以下であってもよいし、5時間以上7時間以下であってもよい。
(酸素含有量)
第2粉末は、酸素を0.1atom%以上5atom%以下含有するように調製されてもよい。酸素含有量が0.1atоm%以上であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。酸素含有量が5atоm%以下であることにより、焼成後の残留酸素の抑制が期待される。
酸素含有量は、0.5atom%以上5atom%以下であってもよいし、1atom%以上5atom%以下であってもよいし、1atom%以上3atom%以下であってもよい。第2粉末が、これらの範囲内で酸素を含有することにより、磁場応答が鋭敏になること、および残留酸素の抑制が期待される。
《粉砕(103)》
窒化物焼結体の製造方法は、第2粉末を粉砕することをさらに含んでもよい。
加熱後の第2粉末は凝集していることもある。そのため第2粉末は、低酸素分圧中での加熱(102)後に、粉砕されてもよい。粉砕方法は、特に限定されるべきではない。たとえば、ボールミル、ジェットミル、アトライタ、ビーズミル等により、第2粉末が粉砕され得る。
第2粉末は、たとえば、平均粒径が10nm以上10μm以下となるように粉砕されてもよい。粉砕後の平均粒径は、100nm以上5μm以下であってもよいし、100nm以上2μm以下であってもよい。前述されたように、平均粒径が適度に小さいことにより、磁場応答が鋭敏になる可能性もある。
《スラリーの調製(104)》
窒化物焼結体の製造方法は、第2粉末および溶媒を含むスラリーを調製することを含んでもよい。
第2粉末が溶媒中に分散していることにより、窒化物結晶粒子が回転し易くなる。すなわち、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。
たとえば、第2粉末、焼結助剤、バインダおよび溶媒が混合される。これにより、スラリーが調製される。混合には、たとえば、ボールミル、アトライタ等が用いられる。
焼結助剤は、窒化物結晶粒子の種類等に応じて適宜選択される。焼結助剤としては、たとえば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化イットリウム(Y23)、酸化イッテルビウム(Yb23)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化珪素(SiO2)、および酸化ネオジム(Nd23)等が挙げられる。
焼結助剤は、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。たとえば、窒化物結晶粒子がSi34結晶粒子である場合、Y23およびMgOが焼結助剤として好適である。これらが焼結助剤として用いられることにより、適度に粒成長が促進され、熱伝導率が向上する可能性がある。
バインダは、特に限定されるべきではない。バインダとしては、たとえば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
溶媒も特に限定されるべきではない。溶媒は、たとえば、アルコール、エーテル、ケトン等であってもよい。アルコールは、たとえば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等であってもよい。
スラリーの固形分配合は、たとえば、次のとおりである。
第2粉末:50〜98質量%(53〜77質量%であってもよい)
焼結助剤:1〜10質量%(3〜7質量%であってもよい)
バインダ:1〜40質量%(20〜40質量%であってもよい)
スラリーの固形分濃度は、後述の鋳込成形(以下「スリップキャスティング(slip casting)」とも記される)が実施される場合は、たとえば、20質量%以上80質量%以下であってもよい。固形分濃度が80質量%以下であることにより、窒化物結晶粒子が回転しやすい傾向がある。固形分濃度が20質量%以上であることにより、窒化物結晶粒子の分散安定性が高い傾向がある。
《磁場中での成形(105)》
窒化物焼結体の製造方法は、磁場中で第2粉末を成形することにより、成形体を形成することを含む。
本実施形態では、第2粉末が酸素を含有するため、窒化物結晶粒子が磁場に鋭敏に応答する。その結果、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している成形体が形成され得る。
(磁束密度)
本実施形態では、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏であるため、弱磁場が使用され得る。磁場は、たとえば、磁束密度が0.1T以上3T以下であってもよい。磁束密度が0.1T以上であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。磁束密度が3T以下であることにより、大型の強磁場発生装置が不要である。そのため、製造コストの低減および生産性の向上が期待される。
磁束密度は、0.5T以上3T以下であってもよいし、1T以上3T以下であってもよい。磁束密度がこれらの範囲内であることにより、窒化物結晶粒子の磁場応答が鋭敏になることが期待される。
(成形方法)
成形方法は、特に限定されるべきではない。たとえば、所定の成形型内で第2粉末が加圧されることにより、成形体(圧粉体)が形成され得る。
前述されたように、予めスラリーが調製されている場合は、たとえば、スリップキャスティング、テープキャスティング、押出成形、射出成形、遠心成形、電気泳動成形等により、成形体が形成され得る。以下、一例としてスリップキャスティングが説明される。
図3は、磁場中での成形の一例を示す概略図である。先ず、成形型200が準備される。成形型200は、多孔質である。成形型200は、透液性、吸湿性を有する。成形型200は、たとえば、石膏等で構成される。
スラリー300が、成形型200に流し込まれる。スラリー300は、窒化物結晶粒子301および溶媒302を含む。成形型200およびスラリー300は、磁場400中に配置される。溶媒302は、成形型200に浸透する。吸引、加圧等により、溶媒302の浸透が促進されてもよい。溶媒302の減少に伴い、スラリー300が、乾燥、固化する。これにより、着肉層として成形体が形成される。
すなわち、本実施形態において、成形することは、磁場400中でスラリー300を固化させることを含んでもよい。着肉層が脱型された後、さらに着肉層が加圧されることにより、成形体が形成されてもよい。
スラリー300の固化は、磁場400中で進行する。その過程で、窒化物結晶粒子301は、磁場400に応答し、所定方向に配向する。これにより、窒化物結晶粒子301が所定方向に配向している成形体が形成されることになる。
たとえば、α−Si34結晶粒子、AlN結晶粒子、および六方晶窒化硼素(h−BN)結晶粒子等は、c軸が磁場に対して垂直になるように、配向する。
α−Si34は、c軸方向に高い熱伝導率を示す。したがって、たとえば、窒化物結晶粒子301がα−Si34結晶粒子である場合、磁場400は、高い熱伝導率が示されるべき方向と垂直に印加される。
h−BNは、a軸方向に高い熱伝導率を示す。したがって、たとえば、窒化物結晶粒子301がh−BN結晶粒子である場合、磁場400は、高い熱伝導率が示されるべき方向と平行に印加される。
ここで本明細書の「平行」または「垂直」は、幾何学的に「完全な平行」または「完全な垂直」のみを示すものではない。本明細書の「平行」または「垂直」には、「実質的に平行」または「実質的に垂直」とみなされる場合も含まれる。たとえば、2つの直線(または直線と平面)のなす角が±5°以内である場合、実質的に平行であるとみなされる。たとえば、2つの直線(または直線と平面)のなす角が85°以上95°以下である場合、実質的に垂直であるとみなされる。
《脱脂(106)》
後述される焼成(107)に先立ち、成形体の脱脂(106)が実施されてもよい。たとえば、窒素雰囲気中で成形体が加熱されることにより、成形体に含有される有機成分(バインダ等)が低減され得る。加熱温度は、たとえば、500℃以上1000℃以下であってもよいし、700℃以上900℃以下であってもよい。加熱時間は、たとえば、1時間以上10時間以下であってもよいし、3時間以上7時間以下であってもよい。
《焼成(107)》
窒化物焼結体の製造方法は、還元雰囲気中で、成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成することを含む。
これにより、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している窒化物焼結体が製造される。焼成は、加圧を伴ってもよい。
還元雰囲気は、酸化された窒化物結晶粒子(酸素を含有する第2粉末)において、酸素が低減され得る雰囲気であればよい。還元雰囲気は、たとえば、還元性ガスが流されている炉内で形成され得る。還元性ガスは、たとえば、窒素ガス、アンモニア(NH3)ガス、水素(H2)ガス等でよい。1種の還元性ガスにより、還元雰囲気が形成されてもよい。2種以上の還元性ガスにより、還元雰囲気が形成されてもよい。
還元雰囲気で加熱が実施されることにより、窒化物焼結体中の酸素が低減される。前述されたように、本実施形態では、窒化物結晶粒子が酸化される際、酸素分圧が1×10-1Pa以下である。そのため焼成時に、酸素によって窒化物焼結体の熱伝導率が実質的に劣化しない程度まで、酸素が低減され得る。
焼成は、たとえば、窒素ガスが流されているカーボン炉内(すなわち窒素雰囲気中)で実施され得る。加熱温度および加熱時間は、窒化物結晶粒子の種類等に応じて適宜調整される。加熱温度は、たとえば、1000℃以上2000℃以下であってもよいし、1500℃以上2000℃以下であってもよいし、1800℃以上1900℃以下であってもよい。加熱時間は、たとえば、1時間以上20時間以下であってもよいし、5時間以上15時間以下であってもよい。
以上より、窒化物結晶粒子が所定方向に配向している窒化物焼結体が製造される。焼成後の窒化物焼結体には、切削、研削、研磨等の機械加工が施されてもよい。
<窒化物焼結体>
以下、本実施形態に係る窒化物焼結体が説明される。図4は、本実施形態に係る窒化物焼結体を示す概略図である。
窒化物焼結体1000は、たとえば、基板である。窒化物焼結体1000は、複数の窒化物結晶粒子301を含む。図4において、窒化物結晶粒子301は、柱状粒子である。ただし、窒化物結晶粒子301は、柱状粒子に限定されるべきではない。
窒化物焼結体1000は、窒化物結晶粒子301の他に、たとえば、焼結助剤に由来する成分(たとえば、Y2Si334、MgO等)、バインダ等に由来する成分(たとえば、炭素等)を含んでいてもよい。
窒化物結晶粒子301は、所定方向に配向している。図4では、窒化物結晶粒子301は、c軸が基板の厚さ方向に配向している。この場合、窒化物焼結体1000は、たとえば、基板の厚さ方向に高い熱伝導率を示す。あるいは、窒化物結晶粒子301は、c軸が基板の面内方向に配向していてもよい。面内方向とは、厚さ方向と直交する任意の方向を示す。
本明細書において「窒化物結晶粒子が所定方向に配向している」とは、窒化物焼結体に含まれる、全ての窒化物結晶粒子が所定方向に配向していることのみを示すものではない。すなわち、窒化物焼結体において、一部の窒化物結晶粒子が、所定方向に配向していなくてもよい。
窒化物焼結体1000は、所定方向に高い熱伝導率を示すため、たとえば、絶縁放熱基板として有用である。窒化物焼結体1000が絶縁放熱基板である場合、厚さは、たとえば、200μm以上10mm以下であってもよいし、400μm以上5mm以下であってもよい。
絶縁放熱基板の平面形状が矩形である場合、一辺の長さは、たとえば、5mm以上300mm以下であってもよいし、10mm以上200mm以下であってもよい。絶縁放熱基板の平面形状が円形である場合、直径は、たとえば25mm以上300mm以下であってもよいし、50mm以上200mm以下であってもよい。
絶縁放熱基板は、所定方向(たとえば厚さ方向)に、たとえば、100W・m-1・K-1を超える熱伝導率を示し得る。熱伝導率は、100W・m-1・K-1より高く200W・m-1・K-1以下であってもよいし、122W・m-1・K-1以上180W・m-1・K-1以下であってもよいし、143W・m-1・K-1以上170W・m-1・K-1以下であってもよいし、159W・m-1・K-1以上170W・m-1・K-1以下であってもよいし、165W・m-1・K-1以上170W・m-1・K-1以下であってもよい。
本明細書の「熱伝導率」は、レーザフラッシュ法により測定される。測定には、たとえば、アドバンス理工社製の熱拡散率測定装置「TC−1200RH」等、またはこれと同等品が用いられる。1つの窒化物焼結体につき、測定は少なくとも5回実施される。少なくとも5回の測定の算術平均値が、熱伝導率として採用される。
以下、実施例が説明される。ただし、以下の例は、本発明を限定するものではない。
<窒化物焼結体の製造>
以下のように、No.1〜8の窒化物焼結体(縦10mm×横10mm×厚さ2mmの板状試料)がそれぞれ製造された。
《No.1》
1.粉末の準備(101)
窒化物結晶粒子を含む第1粉末として、Si34結晶粒子の粉末が準備された。
2.低酸素分圧中での加熱(102)
酸素分圧が1×10-2Paである雰囲気中で、第1粉末が加熱された。これにより、酸素を含有する第2粉末が調製された。加熱温度は1000℃とされ、加熱時間は5時間とされた。
3.粉砕(103)
加熱後、第2粉末が粉砕された。粉砕には、ボールミルが用いられた。粉砕時間は12時間であった。
粉砕後、第2粉末の酸素含有量が測定された。測定には、ICP発光分析装置が用いられた。測定結果は、下記表1に示されている。
4.スラリーの調製(104)
以下の材料が準備された。
焼結助剤:Y23およびMgO
バインダ:PVA
溶媒:エタノール
粉砕後の第2粉末、焼結助剤、バインダおよび溶媒が混合された。混合には、ボールミルが用いられた。これにより、スラリーが調製された。スラリーの固形分配合は、質量比で、第2粉末:Y23:MgO:PVA=65:3.5:1.5:30とされた。スラリーの固形分濃度は、50質量%とされた。
5.磁場中での成形(105)
磁場中でのスリップキャスティングにより、成形体が形成された。すなわち、磁場中でスラリーが固化することにより、成形体が形成された。磁場の磁束密度は、1Tとされた。
6.脱脂(106)
窒素雰囲気中、800℃で成形体が加熱された。これにより、成形体からバインダが実質的に除去された。
7.焼成(107)
窒素雰囲気中、1850℃で成形体が加熱された。加熱時間は、10時間とされた。これにより、窒化物焼結体が形成された。
《No.2、3、6および7》
下記表1に示されるように、低酸素分圧中での加熱(102)において、酸素分圧および加熱時間が変更されることを除いては、No.1と同じ手順により、窒化物焼結体がそれぞれ製造された。
《No.4、5および8》
下記表1に示されるように、磁場中での成形(105)において、磁束密度が変更されることを除いては、No.1と同じ手順により、窒化物焼結体がそれぞれ製造された。なおNo.8では、磁場が印加されていない環境下で、成形体が形成された。
Figure 2017214264
<評価>
以下のようにして窒化物焼結体が評価された。
アルキメデス法により、窒化物焼結体の相対密度が測定された。各窒化物焼結体の相対密度は、いずれも99.5%であった。
XRD(X−Ray Diffraction)分析により、Si34結晶粒子の配向性が評価された。XRD分析は、成形時、磁場に垂直であった面に対して実施された。分析結果は、上記表1に示されている。
No.1等では、Si34結晶粒子が、主に(10−11)面および(0002)面に配向していることが確認された。Si34結晶粒子が、主に(10−11)面および(0002)面に配向していることは、Si34結晶粒子が、実質的にc軸方向のみに配向していることを示している。一方、No.7および8では、このような配向性は観測されなかった。
なお通常のミラー指数においては、指数が負の値を取ることは、指数の上に”−”(バー)が付されることにより表現される。しかし本明細書では、便宜上、指数の前に負の符号が付されることにより、指数が負の値を取ることが表現されている。
XRDプロファイルから、窒化物焼結体に含まれる結晶相が同定された。同定結果は、上記表1に示されている。
窒化物焼結体の熱伝導率が測定された。具体的には、成形時、磁場に垂直であった方向の熱伝導率が測定された。測定には、アドバンス理工社製の熱拡散率測定装置「TC−1200RH」が用いられた。測定結果は、上記表1に示されている。
<結果と考察>
No.1〜5は、熱伝導率が高い。窒化物焼結体において、Si34結晶粒子(窒化物結晶粒子)が実質的にc軸方向のみに配向しているためと考えられる。No.1〜5において、加熱時の酸素分圧は、1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下であった。
No.6は、熱伝導率が低い。加熱時の酸素分圧が1×10-1Paを超えていたため、窒化物焼結体に酸素が残留したと考えられる。XRD分析で同定されたSiO2結晶相およびSi2ON2結晶相は、残留酸素に由来すると考えられる。
No.7も、熱伝導率が低い。No.7において、加熱時の酸素分圧は1×10-5Pa未満であった。そして加熱後の粉末は、酸素を実質的に含有していなかった。そのため成形時、Si34結晶粒子の磁気応答が鈍かったと考えられる。
No.8も、熱伝導率が低い。磁場中で成形が実施されていないため、Si34結晶粒子が所定方向に配向していないと考えられる。
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
101 粉末の準備
102 低酸素分圧中での加熱
103 粉砕
104 スラリーの調製
105 磁場中での成形
106 脱脂
107 焼成
200 成形型
300 スラリー
301 窒化物結晶粒子
302 溶媒
400 磁場
1000 窒化物焼結体

Claims (7)

  1. 窒化物結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、
    酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、前記第1粉末を加熱することにより、酸素を含有する第2粉末を調製すること、
    磁場中で、前記第2粉末を成形することにより、成形体を形成すること、および
    還元雰囲気中で、前記成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、
    を含む、窒化物焼結体の製造方法。
  2. 前記第2粉末は、前記酸素を0.1atom%以上5atom%以下含有するように調製される、
    請求項1に記載の窒化物焼結体の製造方法。
  3. 前記磁場は、磁束密度が0.1T以上3T以下である、
    請求項1または請求項2に記載の窒化物焼結体の製造方法。
  4. 前記第2粉末を粉砕すること、をさらに含む、
    請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の窒化物焼結体の製造方法。
  5. 前記第2粉末および溶媒を含むスラリーを調製すること、をさらに含み、
    前記成形することは、前記磁場中で前記スラリーを固化させること、を含む、
    請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の窒化物焼結体の製造方法。
  6. 前記窒化物結晶粒子は、窒化珪素結晶粒子を含む、
    請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の窒化物焼結体の製造方法。
  7. 窒化珪素結晶粒子を含む第1粉末を準備すること、
    酸素分圧が1×10-5Pa以上1×10-1Pa以下である雰囲気中で、前記第1粉末を加熱することにより、酸素を0.1atоm%以上5atоm%以下含有する第2粉末を調製すること、
    前記第2粉末を粉砕すること、
    粉砕された前記第2粉末および溶媒を含むスラリーを調製すること、
    磁束密度が0.1T以上3T以下である磁場中で、前記スラリーを固化させることにより、成形体を形成すること、および
    還元雰囲気中で、前記成形体を加熱することにより、窒化物焼結体を形成すること、
    を含む、窒化物焼結体の製造方法。
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