JP2017212423A - 液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】製造後の初期における駆動時に十分な変形量が得られるとともに、連続駆動時における変形量の経時的な低下を抑制する。【解決手段】液体吐出ヘッドの電気機械変換膜24は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とに帰属する2つの分離回折ピークの面積Sa,Scのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が加圧液室80の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1Yと、前記長尺方向に対して直交する短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1Xとが異なる。【選択図】図12

Description

本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置に関するものである。
従来、ノズルから加圧液室内の液体を吐出するための吐出駆動手段として、加圧液室の壁の一部を構成する振動板上に第1の電極、電気機械変換膜、第2の電極とを備えた電気機械変換素子を用いる液体吐出ヘッドが知られている。
特許文献1には、主成分がPb(Zr,Ti)Oである電気機械変換膜を挟むように設けられた下部電極と上部電極との間に電圧を印加することにより電気機械変換膜の圧電効果で振動板を変形させる液体吐出ヘッドが開示されている。この電気機械変換膜には、エピタキシャル単結晶膜あるいは一軸配向膜であり、正方晶のcドメインの体積割合がaドメインの体積割合とcドメインの体積割合の合計に対して20%以上60%以下であるものが用いられている。
前記特許文献1に記載の電気機械変換素子では、製造後の初期の段階では所定の駆動電圧を印加したときの変形量を十分に得ることができるが、連続駆動時においては変形量が経時的に低下するおそれがある。
上述した課題を解決するために、本発明は、液体を吐出するノズルが形成されたノズル板と、前記ノズル板と接合されて前記ノズルに連通する加圧液室となる長尺な貫通孔部が形成された基板と、前記基板に対して前記ノズル板とは反対側に接合されて前記加圧液室の壁部を構成する振動板と、前記振動板上に形成された電気機械変換素子を連続的に変位させて該振動板を振動させることにより前記加圧液室内の液体を前記ノズルから吐出させる吐出駆動手段とを備え、前記電気機械変換素子が、前記振動板上に直接又は間接的に形成された第1の電極と、前記第1の電極上に直接又は間接的に形成された電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に直接又は間接的に形成された第2の電極とを備えている液体吐出ヘッドにおいて、前記電気機械変換膜は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとしたときの比率Sc/(Sa+Sc)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記加圧液室の長尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である長尺方向比率と、X線の入射面が前記長尺方向に対して直交する短尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である短尺方向比率とが異なることを特徴とする。
本発明によれば、製造後の初期における駆動時に十分な変形量が得られるとともに、連続駆動時における変形量の経時的な低下を抑制することができるという優れた効果が奏される。
実施形態に係る液体吐出ヘッドの電気機械変換素子の一例を概略的に示す断面図である。 実施形態に係る液体吐出ヘッドの電気機械変換素子の他の例を概略的に示す断面図である。 (a)は、実施形態に係る液体吐出ヘッドの電気機械変換素子の概略構成例を示す断面図である。(b)は、その電気機械変換素子の上面図である。 実施形態に係る電気機械変換素子の製造工程において電気機械変換膜の分極処理に用いられる分極処理装置の概略構成例を示す斜視図である。 分極処理装置における分極処理の説明図である。 (a)は、分極処理を行う前の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図である。(b)は、分極処理後の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図である。 X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(200)面に対する回析ピーク位置を示すグラフである。 X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(400)面に由来する回折ピークに着目してピーク分離を行った結果を示すグラフである。 実施形態に係る液体吐出ヘッドの振動板上に形成された電気機械変換素子を示す平面図である。 同振動板及び同電気機械変換素子が形成された基板に加圧液室となる貫通孔部が形成された状態を示す説明図である。 X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(400)面に由来する回折強度分布について、長尺方向(Y方向)についての測定した結果と短尺方向(X方向)について測定した結果とを重ねて示したグラフである。 実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける1つの加圧液室を拡大した断面図である。 「Ly/Lx」と圧電定数との関係を示したグラフである。 「Ly/Lx」と変位特性劣化量との関係を示したグラフである。 「Ly/Lx」と「S1−S1」との関係を示したグラフである。 (a)は、実施形態に係る電気機械変換膜の焼成界面の一例を示す断面図である。(b)は、焼成界面のZrの変動比率の一例を示すグラフである。 (111)優先配向の電気機械変換膜において、互いに異なる2種類の(111)配向度について電界強度と変形量(表面変位量)との関係について行った実験の結果の一例を示すグラフである。 電気機械変換膜内のドメイン及びその電圧印加時に変化の様子の一例を説明するための説明図である。 実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部を示す断面図である。 実施形態におけるインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。 図20のインクジェット記録装置の機構部の一例を示す側面図である。 液体吐出ユニットの一例を示す要部平面説明図である。 液体吐出ユニットの他の例を示す要部平面説明図である。 液体吐出ユニットの更に他の例を示す正面説明図である。
以下、本発明を、液体を吐出する装置であるインクジェット記録装置に使用される液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に例示する実施形態によって限定されるものではない。
インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能であり、更には画像形成用の液体であるインクの自由度があり、安価な普通紙を使用できるなど多くの利点がある。そのために、インクジェット記録装置は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として広く展開されている。
インクジェット記録装置において使用する液体吐出ヘッドは、画像形成用の液体(インク)を吐出するノズルと、ノズルに連通する加圧液室と、加圧液室内のインクを吐出するための圧力を発生する圧力発生手段とを備えている。本実施形態における圧力発生手段は、加圧液室の壁面の一部を構成する振動板と、その振動板を変形させる圧電体からなる薄膜の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子と、を備えたピエゾ方式の圧力発生手段である。この電気機械変換素子は、所定の電圧が印加されることにより自らが変形し、加圧液室に対して振動板の表面を変位させることで加圧液室内の液体に圧力を発生させる。この圧力により、加圧液室に連通したノズルから液体(インク滴)を吐出させることができる。
前記電気機械変換膜を構成する圧電体は、電圧の印加によって変形する圧電特性を有する材料である。この圧電体として、本実施形態では、ペロブスカイト結晶構造を有する三元系金属酸化物であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti1−x)O)を用いている。このPZTからなる電気機械変換膜を有する電気機械変換素子に駆動電圧を印加したときの振動モードとしては、前述のように複数種類の振動モードがある。例えば、圧電定数d33による膜厚方向の変形を伴う縦振動モード(プッシュモード)や、圧電定数d31によるたわみ変形を伴う横振動モード(ベンドモード)がある。更には、膜の剪断変形を利用したシェアモード等もある。
前記電気機械変換膜を有する電気機械変換素子は、後述のように、半導体プロセスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用し、Si基板に加圧液室及び電気機械変換素子を直接作り込むことができる。これにより、電気機械変換素子を、加圧液室内に圧力を発生させる薄膜の圧電アクチュエータとして形成することができる。
図1及び図2は、それぞれ、実施形態における電気機械変換素子を有する圧電アクチュエータの概略構成の一例を示す断面図である。
図1の構成例において、圧電アクチュエータ20は、基板21と振動板22と電気機械変換素子200とが積層されている。電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成された第1の電極としての下部電極23と、下部電極23上に形成された電気機械変換膜24と、電気機械変換膜24上に形成された第2の電極としての上部電極25とを有している。
下部電極23は、電気機械変換膜24の第1の表面としての下面に直接又は下地層などの中間層を介して設けられた金属層などからなる電極層である。また、上部電極25は、電気機械変換膜24の第2の表面としての上面に直接又は中間層を介して設けられた金属層などからなる電極層である。下部電極23と上部電極25との間に電圧を印加することにより、電気機械変換膜24の膜厚方向に電界を形成することができる。
ここで、下部電極23及び上部電極25はそれぞれ、電気的な抵抗が十分小さい金属層と、導電性を有する酸化物電極層とを組み合わせたものであってもよい。例えば図2の構成例において、下部電極23は、振動板22側の金属層231と、電気機械変換膜24側の酸化物電極層232とを積層したものである。また、上部電極25は、電気機械変換膜24側の酸化物電極層251と、金属層252とを積層したものである。酸化物電極層232,251を設けることは、圧電アクチュエータとして機能させた際、連続的に駆動させ続けたときの電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)の低下を抑制する上で効果的である。酸化物電極層232,251は、例えば、チタン酸鉛(PT)からなるシード層であってもよく、この場合は、電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)の低下をより確実に抑制することができる。
図3は、本実施形態の電気機械変換素子200を有する圧電アクチュエータ20を例えば液体吐出ヘッドなどに用いる際の具体的構成の一例を示す図であり、図3(a)は、実施形態に係る液体吐出ヘッドに設けた電気機械変換素子の概略構成例を示す断面図であり、図3(b)は、その電気機械変換素子の上面図である。
なお、図3(b)については、電気機械変換素子200の構成が分かり易いように、第1、第2の絶縁保護膜(層間絶縁膜)31,38については記載を省略している。また、図3(a)は、図3(b)のI−I’の断面図である。
図3(a)に示すように、圧電アクチュエータ20は、下部電極23と電気機械変換膜24と上部電極25とを備えた電気機械変換素子200を有している。また、図3(b)に示すように、かかる構成の複数の電気機械変換素子200が、基板21の面に沿った所定の方向に配列するように設けられている。この複数の電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成されている。
下部電極23及び上部電極25のうちのいずれか一方の電極については、複数の電気機械変換素子200について共有に用いられるように1つの共通電極として構成することができる。この場合、下部電極23及び上部電極25のうちの他方の電極はそれぞれの電気機械変換素子200に対応した互いに独立した個別電極として別個に構成されることとなる。なお、図3の構成例では、下部電極23を共通電極として構成し、上部電極25を電気機械変換素子200毎に独立した別個の個別電極として構成した例を示している。
上部電極25及び下部電極23の上の所定エリアには層間絶縁膜としての第1の絶縁保護膜31が設けられている。第1の絶縁保護膜31は後述するように無機化合物により構成してもよい。また、第1の絶縁保護膜31の所定位置には、上部電極25および下部電極23が他の電極と電気的に接続できるようにコンタクトホール32が形成されている。
図3において、個別電極である上部電極25はそれぞれ、外部回路に接続するための個別電極パッド34に接続されている。上部電極(個別電極)25と個別電極パッド34との間は例えば接続部材35により電気的に接続することができる。
また、図3において、共通電極である下部電極23は、外部回路に接続するための共通電極パッド36に接続されている。と接続された構成とすることができ、下部電極(共通電極)23と共通電極パッド36との間は例えばパッド間接続部材37により電気的に接続することができる。
共通電極パッド36及び個別電極パッド34の上には、第2の絶縁保護膜38が設けられている。第2の絶縁保護膜38は後述のように例えば無機化合物により構成してもよい。また、第2の絶縁保護膜38には、共通電極パッド36及び個別電極パッド34それぞれの一部を露出させる開口部が設けられている。
次に、前記構成の電気機械変換素子200の製造工程において電気機械変換膜24に分極処理を施す方法について説明する。
図4は、実施形態に係る電気機械変換素子の製造工程において電気機械変換膜の分極処理に用いられる分極処理装置40の概略構成例を示す斜視図である。
図4において、分極処理装置40は、コロナ電極41と、グリッド電極42と、対向電極を有するステージ43とを備えている。コロナ電極41及びグリッド電極42はそれぞれコロナ電極用電源411及びグリッド電極用電源421に接続されている。コロナ電極41は例えばワイヤー形状を有するものであってもよい。グリッド電極42については、メッシュ加工を施し、コロナ電極41に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率良く下のサンプルステージに降り注ぐように構成してもよい。また、放電処理対象である試料(電気機械変換素子)に対して電荷が流れやすくするように、試料を設置するステージ43にはアース線44が接続された構成にしてもよい。また、ステージ43には、電気機械変換素子を加熱できるように温調機能を設けてもよい。この際の加熱温度は特に限定されるものではないが、最大350[℃]まで加熱できるように構成してもよい。
コロナ電極41及びグリッド電極42それぞれに印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではない。例えば、試料に対して十分に分極処理を施すことができるように、コロナ電極41及びグリッド電極42それぞれに印加する電圧の大きさや試料と各電極間の距離は試料に応じて調整し、コロナ放電の強弱をつけるようにしてもよい。
図5は、分極処理装置40における分極処理の説明図である。
図5に示すように、コロナ電極41(例えば、コロナワイヤー)を用いてコロナ放電させる場合、分極処理は、大気中の分子401をイオン化させることで陽イオンを発生する。発生した陽イオンは、電気機械変換素子200の例えば共通電極パッドや個別電極パッドを介して電気機械変換膜に流れ込み、電気機械変換素子200に電荷が蓄積した状態となる。そして、上部電極と下部電極との電荷差によって内部電位差が生じて、分極処理が行われる。
前記分極処理に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、例えば電気機械変換素子200に1.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されるようにしてもよい。また、電気機械変換素子200に4.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されるようにしてもよい。このような範囲の電荷量を電気機械変換素子200に蓄積させることにより、より確実に後述の分極率となるように分極処理を行うことができる。蓄積される電荷量が、1.0×10−8[C]に満たない場合、電気機械変換素子の連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られない場合がある。
電気機械変換素子200の分極処理の状態については、電気機械変換素子200のP−Eヒステリシスループから判断することができる。
図6は、電気機械変換素子200の分極処理の状態を判断することができるP−Eヒステリシスループの例を示している。図6(a)は、分極処理を行う前の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図であり、図6(b)は、分極処理後の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図である。
図6(a)及び(b)に示すように、電気機械変換素子に電圧を印加して±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電気機械変換素子に電圧を印加する前の0[kV/cm]時の分極をPiniとする。また、電気機械変換素子に+150[kV/cm]の電圧印加後に0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとする。このとき、Pr−Piniの値を「分極率」として定義し、この分極率により、分極の状態が適切であるか否かを判断することができる。具体的には、図6(b)に示すように、分極処理を行った後の電気機械変換素子について測定した分極率Pr−Piniの値が所定値以下になった場合に、分極の状態が適切であると判断することができる。例えば、分極率Pr−Piniの値が10[μC/cm]以下になった場合に分極の状態が適切であると判断してよい。また、分極率Pr−Piniの値が5[μC/cm]以下となった場合に、分極の状態が適切であると判断してよい。Pr−Piniの値が十分に小さくなっていない場合は、分極が十分になされておらず、電気機械変換素子の所定駆動電圧に対する変形量(表面変位量)が安定しない状態となる。また、電気機械変換素子の連続駆動後の変形量(表面変位量)の劣化を抑制できない場合がある。
次に、本実施形態における電気機械変換素子の各部材の具体例について説明する。
上述したように、本実施形態の電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成することができる。基板21の材料としては特に限定されるものではないが、加工の容易性や、入手しやすさ等を鑑みると、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。シリコン単結晶基板としては、面方位が(100)、(110)、(111)の3種あるが、特に限定されるものではなく、加工の内容等に応じて適切な基板を選択することができる。
例えば、基板21に対してエッチング加工を要する場合には、エッチング加工の内容にあわせて所定の面方位を有する基板を選択することができる。後述する液体吐出ヘッドを形成する場合を例に説明すると、通常エッチングにより基板に加圧液室を作製するが、この際のエッチング方法としては一般的に異方性エッチングが用いられている。ここで、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものであり、例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54[°]の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができ、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。このため、例えば液体吐出ヘッドを構成する基板の場合には(110)の面方位を持ったシリコン単結晶基板を好ましく用いることができる。
基板21の厚さは用途等により選択することができ、特に限定されるものではないが、例えば、100〜600[μm]の厚みを持つものであってもよい。
振動板22としては、後述する液体吐出ヘッドを形成する場合、電気機械変換素子200によって発生した力を受けて、下地膜である振動板22が変形(表面変位)して、圧力室のインク滴を吐出させる機能を有する。そのため、下地膜としては所定の強度を有するものでもよい。振動板22の材料としては、Si、SiO、SiをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製したものが挙げられる。さらに、前述の図1に示すような下部電極23及び電気機械変換膜24の線膨張係数に近い線膨張係数を有する材料を選択してもよい。特に、電気機械変換膜24の材料としては、一般的にPZTが使用されることから、PZTの線膨張係数8×10−6[1/K]に近い5×10−6〜10×10−6[1/K]の線膨張係数を有する材料で振動板22を形成してもよい。さらには、7×10−6〜9×10−6[1/K]の線膨張係数を有する材料で振動板22を形成してもよい。振動板22の具体的な材料は、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等である。これらの材料を用い、スパッタ法により、又はゾルゲル(Sol−gel)法を用いてスピンコーターにより、振動板22を作製することができる。振動板22の膜厚は0.1〜10[μm]の範囲でもよいし、さらには0.5〜3[μm]の範囲でもよい。この範囲より小さいと前述の圧力室の加工が難しくなり、この範囲より大きいと下地膜として変形(表面変位)しにくくなり、液体吐出装置に用いた場合に液体(インク滴)の吐出が不安定になる。
また振動板22の膜応力によって、その上に作製される電気機械変換膜24の膜物性(結晶性)に影響を与える。振動板22の応力については、Si等からなる基板21上に単層膜を成膜し、成膜前後の反り量を評価することで算出することができる。振動板22では、基板21上に振動板22を構成する全ての単層膜を積層した直後の基板21の反り量を見たときに、上に凸となるように応力設計することが好ましい。すなわち、振動板22では、振動板22全体として圧縮応力を有するように、各単層膜の材料を選択することが好ましい。
これは、電気機械変換膜24や下部電極23として用いる材料の多くが引張応力を有しているためである。例えば、電気機械変換膜24としてPZT膜を用いる場合や下部電極23としてPt(白金)膜を用いる場合には、PZT膜やPt膜が引張応力を有している。このため、これらの引っ張り応力を打ち消すように、振動板22の膜の内部応力としては全体的に圧縮応力を有する膜構成で構成されるとアクチュエータの特性として良好な品質をえることが出来る。
振動板22は、圧縮応力を有する単層膜を少なくとも1層含む積層膜から形成する。すなわち、振動板22は、圧縮応力を有する単層膜及び引張応力を有する単層膜の両方を有する構成、若しくは、全て圧縮応力のみの構成とする。
下部電極23及び上部電極25については、特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、下部電極23及び上部電極25は、金属膜や酸化物電極膜により構成することができ、特に金属膜と酸化物電極膜の積層体で構成してもよい。また、前述の図2に示したように、下部電極23及び上部電極25はそれぞれ、電気的な抵抗が十分小さい金属層231、252を有してもよい。金属層231、252の金属材料としては、高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いることができる。但し、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあるため、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜を金属層231、252に使用してもよい。また、白金を使用する場合には下地(特にSiO)との密着性が悪いために、中間層としてTi、TiO、Ta、Ta、Ta等を先に積層することが好ましい。作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着法等を用いることができる。膜厚は、0.05〜1[μm]の範囲に設定してもよいし、0.1〜0.5[μm]の範囲に設定してもよい。
また、前述の図2に示したように、下部電極23及び上部電極25は、電気機械変換膜24との界面に導電性を有した酸化物電極層232、251を有してもよい。酸化物電極層232、251の材料としては、例えばSrRuOやLaNiOを用いることができる。酸化物電極膜232、251の成膜方法についても特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法により成膜することができる。
下部電極23を構成する酸化物電極層232は、その上に作製する電気機械変換膜24の配向制御にも影響してくるため、配向優先させたい方位によっても選択される材料は異なってくる。本実施形態においては、電気機械変換膜を(100)面に優先配向させたいため、酸化物電極層232としては、LaNiO、TiO又はPbTiOからなるシード層を金属層231上に作製し、その後電気機械変換膜を形成してもよい。
上部電極25を構成する酸化物電極層251としてはSROを用いることができる。酸化物電極層251の膜厚は20[nm]〜80[nm]の範囲でもよいし、また30[nm]〜50[nm]の範囲でもよい。この膜厚範囲よりも薄いと初期の変形量(表面変位量)や経時おける変形量(表面変位量)劣化特性については十分な特性が得られない。また、この膜厚範囲を超えると、その後に成膜した電気機械変換膜の絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなるおそれがある。
電気機械変換膜24の材料としては、Pbを含んだ酸化物(例えば、PZT)で形成することができる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般的にはPZT(53/47)とも示される。
電気機械変換膜24の材料としては、前記PZT以外の複合酸化物としてチタン酸バリウムなども挙げられる。この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
本実施形態では、電気機械変換膜24としてPZTを使用し、PZTの(100)面を優先配向とする場合について例示している。この場合、Zr/Tiの組成比率:Ti/(Zr+Ti)は、0.45(45%)以上0.55(55%)以下の範囲に設定してもよいし、更には0.48(48%)以上0.52(52%)以下の範囲に設定してもよい。
電気機械変換膜24の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法により、又は、ゾルゲル(Sol−gel)法を用いてスピンコーターにより作製することができる。いずれの場合でも、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
電気機械変換膜24をゾルゲル(Sol−gel)法により作製する場合は、例えば次の手順で作製する。まず、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールにこれらの出発材料を溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
下部電極等が形成された下地基板全面に電気機械変換膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体溶液の濃度を調整することが好ましい。
また、インクジェット工法により作製していく場合については、酸化物電極層232と同様の作製フローにてパターニングされた膜を得ることができる。表面改質材については、下地の金属層231の材料によっても異なるが、酸化物を下地とする場合は、主にシラン化合物を選定し、金属を下地とする場合は主にアルカンチオールを選定することができる。
電気機械変換膜24の膜厚としては特に限定されるものではなく、要求される変形量(表面変位量)等により任意に選択することができる。例えば、その膜厚は0.5〜5[μm]の範囲でもよいし、さらには1〜2[μm]の範囲でもよい。このような範囲の膜厚とすることにより十分な変形量(表面変位量)を発生させることができる。また、前記範囲の膜厚であれば、積層して形成する工程数も必要以上に多くはならないため、生産性良く製造することができる。
第1の絶縁保護膜31、第2の絶縁保護膜38及び接続部材35,37は、例えば次のように作製することができる。
第1の絶縁保護膜31は、成膜及びエッチングの工程による電気機械変換素子200へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を用いてもよい。このため、例えば緻密な無機材料(無機化合物)を用いてもよい。また、第1の絶縁保護膜31は、薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、炭化膜を用いてもよい。また、第1の絶縁保護膜31と接触する下地の材料(上部電極25及び下部電極23及び電気機械変換膜24の材料や基板21上面の材料)と密着性が高い材料であってもよい。このような材料としては、例えば、Al、ZrO、Y、Ta、TiOなどのセラミクス材料に用いられる酸化膜が挙げられる。
第1の絶縁保護膜31の成膜方法は特に限定されるものではないが、電気機械変換素子200を損傷しない成膜方法を選択してもよい。例えば、蒸着法又はALD法を用いることができ、中でも適用できる材料の選択肢が多いALD法により成膜してもよい。特にALD法によれば、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中での電気機械変換素子へのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜31の膜厚は特に限定されるものではないが、電気機械変換素子の保護性能を確保できる十分な厚さであり、かつ、電気機械変換素子の変位を阻害しないように可能な限り薄くしてもよい。例えば、第1の絶縁保護膜31の膜厚は20[nm]以上、100[nm]以下の範囲であってもよい。100[nm]より厚い場合は、電気機械変換素子200の変位を阻害する場合がある。一方、20[nm]より薄い場合は電気機械変換素子200の保護層としての機能が十分ではなく、電気機械変換素子200の性能が低下する場合がある。
また、第1の絶縁保護膜31を複数層からなる構成としてもよい。例えば2層から構成する場合、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、電気機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないように上部電極付近において2層目の絶縁保護膜に開口部を形成する構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができる。例えば半導体デバイスで一般的に用いられるSiOを用いてもよい。成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法等により成膜することができる。特に電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いてもよい。2層目の絶縁保護膜の膜厚についても特に限定されるものではなく、各電極に印加される電圧を考慮し、絶縁破壊されない膜厚を選択することができる。例えば、絶縁保護膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する。さらに、絶縁保護膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200[nm]以上にしてもよく、更には500[nm]以上にしてもよい。
接続部材35,37の材料は特に限定されるものではなく、各種導電性材料を用いることができる。例えば、接続部材35,37は、Cu、Al、Au、Pt、Ir、Ag合金、Al合金から選択されるいずれかの金属電極材料で構成することができる。
また、接続部材35,37の作製方法についても特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。例えば、接続部材35,37は、スパッタ法又はスピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ることができる。
また、接続部材35,37の膜厚についても特に限定されるものではなく、例えば0.1[μm]以上20[μm]以下の範囲でもよく、さらには、0.2[μm]以上10[μm]以下の範囲でもよい。この範囲よりも膜厚が薄いと、抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができない場合がある。また、前記範囲よりも膜厚が厚いと製造プロセスに時間を要するため生産性が低下する場合がある。
また、第1の絶縁保護膜31を設ける場合、接続部材35,37はそれぞれ、第1の絶縁保護膜31にコンタクトホール部を設け、このコンタクトホール部において共通電極及び個別電極と接続することができる。コンタクトホール部のサイズは特に限定されるものではないが、例えば10[μm]×10[μm]の大きさとすることができる。また、コンタクトホール部における接触抵抗として、共通電極については10[Ω]以下、個別電極については1[Ω]以下となるように構成してもよい。このような範囲とすることにより、各電極に十分な電流を安定して供給できる。特に、共通電極については5[Ω]以下、個別電極については0.5[Ω]以下としてもよい。この範囲より大きいと、電気機械変換素子200を後述する液体吐出ヘッド(図12参照)に用いたときに、十分な電流を供給することができなくなり、液体を吐出する際に不具合が発生する場合がある。
第2の絶縁保護膜38は、接続部材35,37を保護する機能を有するパッシベーション層である。第2の絶縁保護膜38は、個別電極パッド34及び共通電極パッド36の部分を除き、接続部材35,37上を被覆する。これにより、これらの接続部材35,37に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いた場合でも、電気機械変換素子200の信頼性を高めることができる。また、これらの接続部材35,37に安価な材料を用いることができるため、電気機械変換素子200のコストを低減することができる。
第2の絶縁保護膜38の材料としては、特に限定されるものではなく、任意の無機材料、有機材料を使用することができ、例えば透湿性の低い材料を使用してもよい。無機材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができる。また、有機材料としては、例えば、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。但し、有機材料の場合、絶縁保護膜として機能させるためには、その膜厚が厚くなり、パターニングを行うことが困難な場合がある。このため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を用いてもよい。特に、接続部材35,37としてAl配線を用いた場合には、第2の絶縁保護膜としては半導体デバイスで実績のあるSiを用いてもよい。
第2の絶縁保護膜38の膜厚は200[nm]以上としてもよく、さらには500[nm]以上としてもよい。この範囲よりも膜厚が薄い場合は、十分なパッシベーション機能を発揮できないため、接続部材の腐食による断線が発生する等して信頼性を低下させてしまう場合がある。
また、第2の絶縁保護膜38は、電気機械変換素子200上に開口部をもつ構造であってもよい。また、後述する液体吐出ヘッドに適用する場合、第2の絶縁保護膜38はさらに振動板の部分にも開口部を有する構造としてもよい。これにより、より高効率かつ高信頼性の電気機械変換素子とすることができる。
また、第2の絶縁保護膜38は、共通電極パッド36及び個別電極パッド34を露出するための開口部を形成してもよい。この開口部の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。
また、共通電極パッド36及び個別電極パッド34の面積については特に限定されるものではない。但し、共通電極パッド36及び個別電極パッド34と第2の絶縁保護膜38とを形成した後に分極処理を行う場合、各パッド部36、34から電荷が供給されるため、分極処理が十分に行えるように面積を設定してもよい。例えば、各パッド部の大きさは50×50[μm]以上に設定してもよく、さらには100×300[μm]以上に設定してもよい。共通電極パッド36及び個別電極パッド34の面積が、前記範囲よりも小さいと、十分な分極処理を行うことができず、連続駆動後の経時における変形量(表面変位量)の劣化が大きくなる場合がある。
次に、本実施形態におけるPZTからなる電気機械変換膜24の結晶配向性と電気機械変換素子200としての特性との関係について説明する。
なお、本明細書において、電気機械変換膜における厚さ方向と直交するように配向したある特定の結晶面の「配向率」は、次のような測定によって定義された値である。すなわち、電気機械変換膜についてX線回折(XRD:X‐Ray Diffraction)法のθ−2θスキャン測定を行う。そして、得られた2θスペクトル曲線上で観測される前記特定の結晶面に対応するピークの面積と、2θスペクトル曲線上で観測されるすべてのピーク又は主要なピークそれぞれの面積とを求める。この特定の結晶面に対応するピークの面積を前記すべてのピーク又は主要なピークそれぞれの面積の和で割った値を百分率で表したものが、前記特定の結晶面の「配向率」である。
また、本明細書において、電気機械変換膜の(hkl)面の配向度ρ(hkl)は、ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl)の式で定義される。ここで、I(hkl)は、電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる任意の(hkl)面に由来する回折ピークのピーク強度である。また、ΣI(hkl)は、電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる複数の回折ピークのピーク強度の総和である。
図7は、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(200)面における回析ピーク位置を示すグラフである。図7の横軸は、X線回折法のθ−2θ測定における2θの値であり、縦軸は各2θで測定された回折強度である。
本発明者らの実験及び検討により、前述のPZTのZr/Tiの組成比率を変化させると、図7に示すように電気機械変換膜の(200)面(以下「PZT(200)面」という。)に対応する2θピーク位置(回析ピーク位置)やそのピークの非対称性が異なってくることがわかった。この結果から、高角度側となるPZT(200)面の2θピーク位置やピークの非対称性が良好になるように製造工程の各種パラメータを制御することにより、液体吐出ヘッドに適用した場合の液体吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)が確保できる。
具体的なPZT(200)面の回析ピーク位置(2θ)は、下地の基板の拘束がある状態においては、2θ=44.50°以上44.80°以下の範囲であり、さらには2θ=44.65°以上44.75°以下の範囲であってもよい。
また、後述する液体吐出ヘッドを形成する場合(図12参照)、液室が加工されて電気機械変換膜が下地の基板の拘束が無い状態で実施される。この場合においては、基板の面に垂直方向に結晶格子が伸びるため、PZT(200)面の回折ピーク位置(2θ)は小さくなる。具体的には、下地の基板の拘束が無い状態においては、PZT(200)面の回折ピークの位置は2θ=44.45°以上44.75°以下の範囲であり、さらには、2θ=44.55°以上44.70°以下の範囲であってもよい。
PZTのZr/Tiの組成比率が前述の所定範囲より小さい、又は、PZT(200)面の2θ位置(回析ピーク位置)が前述の所定範囲より小さくなると、後述の回転歪をともなう変形量(表面変位量)が小さくなる。そのため、電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)を十分に確保できない。また、逆にPZTのZr/Tiの組成比率が前述の所定範囲より大きい、又はPZT(200)面の2θ位置(回析ピーク位置)が前述の所定範囲より大きいと、後述の圧電歪による変形量(表面変位量)が小さくなる。そのため、やはり電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)を十分に確保できない。
図8は、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(400)面に由来する回折ピークに着目してピーク分離を行った結果を示すグラフである。図8の横軸は、X線回折法のθ−2θ測定における2θの値であり、縦軸は各2θで測定された回折強度である。
前述のZr/Tiの組成比率により前記所定の範囲の2θ位置(回析ピーク位置)に制御された電気機械変換膜に対して(400)面に由来する回折ピークに着目してピーク分離を行い、結晶構造の帰属状態を同定する。
図8に示す回析ピークの非対称性が大きい場合には、3つの結晶構造に帰属されている。具体的には、正方晶のaドメイン構造X1と、cドメイン構造Y1と、菱面体晶、斜方晶及び疑立方晶のうちのいずれか1つからなる混合構造Z1との3つの結晶構造に帰属されている。
ここで、「aドメイン」とは、電気機械変換膜のペロブスカイト型結晶(PZT結晶)に含まれている複数種類のドメインのうち、そのペロブスカイト型結晶(PZT結晶)のa軸が膜厚方向と平行になっているドメインである。また、「cドメイン」とは、そのペロブスカイト型結晶(PZT結晶)のc軸(自発分極軸)が膜厚方向と平行になっているドメインである。また、aドメイン構造X1はaドメインの結晶構造であり、cドメイン構造Y1はcドメインの結晶構造である。
前記結晶構造のうち、正方晶のaドメイン構造X1及びcドメイン構造Y1の比率において、分離した複数の分離回析ピークの各面積のうち、aドメイン構造X1に帰属する分離回析ピーク面積をSaとし、cドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積をScとする。本実施形態では、aドメイン構造X1に帰属する分離回析ピーク面積Saとcドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積Scとの和に対する回析ピーク面積Scの比率S1=(Sc/(Sa+Sc))をドメイン比率と呼ぶ。
なお、混合構造Z1に帰属する分離回析ピーク面積をSbとした場合、前記ドメイン比率S1に代えて、aドメイン構造X1に帰属する分離回析ピーク面積Saとcドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積Scとbドメイン構造Z1に帰属する分離回析ピーク面積Sbとの和に対する回析ピーク面積Scの比率S2=Sc/(Sa+Sc+Sb)をドメイン比率としてもよい。
加圧液室の加工前における状態(電気機械変換膜24が基板21に拘束されている状態)と、加圧液室の加工後における状態(電気機械変換膜24が基板21に拘束されていない状態)とでは、前述したとおり、PZT(200)面のピーク位置が変わるが、ドメイン比率S1,S2も変わってくる。
図9は、振動板22上に形成された電気機械変換素子200を示す平面図である。
図10は、振動板22及び電気機械変換素子200が形成された基板21に加圧液室80となる貫通孔部が形成された状態(電気機械変換膜24が基板21に拘束されていない状態)を示す説明図である。
本実施形態の加圧液室80は、振動板22及び電気機械変換素子200が形成された基板21に対し、図10に示すように、X方向(短尺方向)の長さがLxで、Y方向(長尺方向)の長さがLyである長尺な形状の貫通孔部を基板21に形成することで作製される。貫通孔部(加圧液室80)が基板21に形成されていない状態の電気機械変換素子200のドメイン比率S1’を見ると、いずれの方向のθ−2θ測定でも、そのθ−2θ測定で得られるPZT(200)面の回折ピークについてのドメイン比率は同程度であり、電気機械変換素子200のドメイン比率S1’については等方性を有する。
これに対し、貫通孔部(加圧液室80)が基板21に形成された状態の電気機械変換素子200のドメイン比率S1については、異方性を有する。特に、θ−2θ測定のX線入射面が加圧液室80の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)と、θ−2θ測定のX線入射面が加圧液室80の短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)とは顕著に異なる。
図11は、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(400)面に由来する回折強度分布について、長尺方向(Y方向)についての測定した結果と短尺方向(X方向)について測定した結果とを重ねて示したグラフである。なお、図11において、長尺方向(Y方向)についての測定した結果は実線で示し、短尺方向(X方向)についての測定した結果は破線で示している。
図11に示すように、長尺方向(Y方向)と短尺方向(X方向)との測定結果を比較すると、正方晶のaドメイン構造X1に帰属する回折ピーク強度については長尺方向(Y方向)の方が高いが、正方晶のcドメイン構造Y1に帰属する回折ピーク強度については短尺方向(X方向)の方が高い。したがって、長尺方向(Y方向)についてのドメイン比率S1と短尺方向(X方向)についてのドメイン比率S1とを比較した場合には、顕著な違いが表れる。具体的には、S1<S1の関係となる。そして、長尺方向(Y方向)についてのドメイン比率S1と短尺方向(X方向)についてのドメイン比率S1との違いが存在することで、吐出性能に影響する圧電定数が向上する。加圧液室80の短尺方向(X方向)の長さLxに対する長尺方向(Y方向)の長さLyの比率が大きくなるほど、S1とS1との差が大きくなり、吐出性能に影響する圧電定数も変化してくる。
これは、次のように考えられる。
貫通孔部(加圧液室80)が基板21に形成されることで、電気機械変換素子200の下地になっている振動板22及び電気機械変換素子200が、基板21による拘束を受けなくなり、図12に示すように、撓んだ状態になる。このとき、短尺方向(X方向)の方が長尺方向(Y方向)よりも大きく撓み、電気機械変換膜24におけるX方向の基本内部応力がY方向よりも大きくなり、電気機械変換膜24の基本内部応力の分布状態が偏った状態になる。この偏った基本内部応力の分布状態が、電気機械変換膜24を挟む下部電極23と上部電極25との間に所定の駆動電圧を印加したときの電気機械変換膜24の変位量の増大に寄与しているものと考えられる。
また、電気機械変換膜24は、基板21による拘束を受けなくなることで、長尺方向(Y方向)よりも短尺方向(X方向)の方が収縮し易くなり、cドメインのような縦長に伸びた長方形の結晶構造の存在が多くなったと考えられる。これにより、「S1<S1」の関係となったと考えられる。
このため圧電歪による変位量が大きくなるとともに、回転歪による変位寄与が少なくなるため、連続駆動時の経時における変形量(表面変位量)の劣化は小さくなる。
図13は、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さLxと長尺方向(Y方向)長さLyとの比率「Ly/Lx」と圧電定数との関係を示したグラフである。また、図14は、「Ly/Lx」と変位特性劣化量との関係を示したグラフである。変位特性劣化量とは、連続駆動時の経時における変形量(表面変位量)の初期状態(連続駆動前の状態)に対して劣化した割合を示す。
図13及び図14中の黒丸は、電気機械変換素子200にSiOの一層で形成した振動板22を用いた場合を示し、図13及び図14中の白丸は、電気機械変換素子200にSiOの層とSiの層との複数層で形成した振動板22を用いた場合を示す。複数層で形成した振動板22の作成条件は後述する実施例に記載する。
図13及び図14に示すように、「Ly/Lx」の値が「1」の場合(加圧液室80の形状が円形や正方形のようにX方向とY方向とで長さが同じ場合)は、圧電定数は小さく、変位特性劣化量は大きい。
図13及び図14の白丸で示す結果を得た振動板22は、複数層とすることで、振動板22の膜応力が全体的に圧縮となるような膜構成で調整した構成である。
図13及び図14で示すように、複数層の振動板22を用いた構成は、単層の振動板22を用いた構成よりも圧電定数は大きくなり、変位特性劣化量は小さくなる。しかし、「Ly/Lx」の値が「1」に近づくにつれて圧電定数が小さくなり、変位特性劣化量が大きくなる傾向は単層の振動板22を用いた構成と同様である。
図15は、「Ly/Lx」と「S1−S1」との関係を示したグラフである。
図15より、振動板22がSiOの単層の場合と、圧縮構成となる複数層の場合との両方の場合で、「Ly/Lx」の値が「1」に近づくほど「S1−S1」の値が「0」に近づくことが分かる。
図13、図14及び図15から考えると、「S1−S1」の値が大きいほど、すなわち、長尺方向(Y方向)に比べて短尺方向(X方向)においてのcドメイン比率が多くなるほど、圧電定数は大きくなり、変位特性劣化量は小さくなる傾向にあることが分かった。
本実施形態において、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さLxは、50μm以上70μm以下であるのが好ましく、さらに好ましくは55μm以上65μm以下である。この範囲よりも大きいと、残留振動が大きくなり、高周波での吐出性能確保が難しくなる。また、この範囲よりも小さいと、変位量が低下し、十分な吐出電圧が確保できなくなる。また、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さLxと長尺方向(Y方向)長さLyとの比率Ly/Lxは、10以上あるのが好ましく、さらに好ましくは15以上である。この値よりも小さくなると、圧電定数が若干小さくなる。
また、本実施形態において、ドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは18%以下である。また、ドメイン比率S2=Sc/(Sa+Sc+Sb)であれば、18%以下が好ましく、さらに好ましくは15%以下である。これらの範囲よりも大きいと、上述した分極処理工程でクラックが発生しやすくなるため強い電界条件で分極処理ができなくなり、連続駆動時の経時における変形量(表面変位量)の劣化が大きくなる。
図16は本実施形態に係る電気機械変換膜の焼成界面(以下、「積層界面」ともいう。)のZrの変動比率を説明するための図である。図16(a)は電気機械変換膜の焼成界面の一例を示す断面図であり、図16(b)は焼成界面のZrの変動比率を示すグラフである。
正方晶のaドメイン、cドメイン構造比率においては、前述のZr/Tiの組成比率にも影響してくるとともに、図16に示すような電気機械変換膜の焼成界面で発生するZrの偏析量によっても影響してくる。本実施形態では、溶液プロセスから電気機械変換膜を成膜していく際に、PZT前駆体膜を作成する前駆体膜作成工程と結晶化をおこなう焼成工程とを繰り返すことで所定の膜厚を得ている。このときに結晶化を行った焼成界面付近の組成分布を見てみると、Zrが偏析するような傾向が見られており、この偏析量によっても、正方晶のaドメイン、cドメイン構造比率が若干変わってくる。
Zrの偏析量の定義として、所定の厚さに形成された電気機械変換膜中に含まれる平均的なZrの原子量比であるZr/(Zr+Ti)をZr(ave)とする。また、電気機械変換膜を構成する前記複数の薄膜の積層界面でのZrの原子量比であるZr/(Zr+Ti)をZr(界面)とする。積層界面のZrの変動比率をΔZrとすると、ΔZr=Zr(界面)−Zr(ave)は20%以下であってもよく、さらには10%以下であってもよい。変動比率ΔZrが、前記範囲より大きいと、分極処理工程にて、クラックが発生しやすくなるため強い電界条件で処理ができなくなり、連続駆動時の経時における変形量(表面変位量)の劣化が大きくなる。
次に、本実施形態に係る電気機械変換膜24の優先配向と、その配向度(配向率)について説明する。
ここで、電気機械変換膜の(100)面が他の面よりも優先的に配向していることを「(100)優先配向」といい、(111)面が他の面よりも優先的に配向していることを「(111)優先配向」という。
図17は、(111)優先配向の電気機械変換膜において、互いに異なる2種類の(111)配向度について電界強度と変位量との関係について行った実験の結果の一例を示すグラフである。
図18は、電気機械変換膜内のドメイン及びその電圧印加時に変化の様子の一例を説明するための説明図である。
図17の(111)配向度が99%のグラフに示すように、(111)配向度が極端に高くなると(例えば95%以上)、電気機械変換膜の電界強度に対する変位量が途中飽和する。そのため、高い電界強度下において十分な変形量(表面変位量)が得られないことがわかった。この実験結果は次のようなメカニズムによるものと考えられる。電気機械変換膜の変形(表面変位)は、図18に示すように、電圧を印加すると、(1)圧電歪で変位が大きくなること、(2)ドメイン回転により歪が大きくなることと、により得られるものである。このとき、PZTの(111)面が完全に配向してしまう場合、変位に寄与する項としては、(1)圧電歪で大きくなることのみになってしまい、(2)ドメイン回転による影響はほとんどないため、変形量(表面変位量)が途中飽和してしまうものと考えられる。
ここで、「圧電歪」とは、PZT等の圧電体におけるd31等の圧電定数によって表される圧電効果によって発生する歪である。また、前記歪に影響を与える「ドメイン回転」とは、PZT等の圧電体に電圧を印加したときに圧電体中のドメインがあたかも回転したようにドメインの結晶構造が変化することである。例えば、PZT等の圧電体中のcドメインがaドメインに変化したりaドメインがcドメインに変化したりするように、ドメインがあたかも90度回転したようにドメインの結晶構造が変化することをいう。
以上の結果から、本実施形態においては、電気機械変換膜を(100)面が優先的に配向させている。(hkl)面の配向度ρ(hkl)は、前述のように次式(1)によって表わすことができる。
ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl)・・・(1)
ただし、ρ(hkl)は(hkl)面方位の配向度、I(hkl)は任意の配向のピーク強度、ΣI(hkl)は各ピーク強度の総和である。
前記式(1)において、X線回折法のθ−2θ測定で得られる各ピーク強度の総和を1とする。本実施形態の電気機械変換膜は、各々の配向のピーク強度の比率に基づいて算出される(110)配向の配向度ρ(110)と(111)配向の配向度ρ(111)との和が所定の範囲内にある多結晶膜になっている。より具体的には、本実施形態の電気機械変換膜の配向度ρ(110)と(111)配向の配向度ρ(111)との和が0.0002以上0.25以下の範囲にある。さらに、(110)配向の配向度と(111)配向の配向度との和については、0.001以上0.10以下であってもよい。この範囲より小さく例えばエピタキシャル単結晶膜あるいは一軸配向膜で(110)配向の配向度と(111)配向の配向度との和がほぼ0のものは、分極処理工程にてクラックが発生しやすくなるため強い電界条件で分極処理ができなくなる。このため、連続駆動時の経時における変形量(表面変位量)の劣化が大きくなる。一方、(110)配向の配向度と(111)配向の配向度との和が前記範囲より大きくなると、圧電歪が十分得られず、変形量(表面変位量)を十分確保できなくなる。
以上、本実施形態の電気機械変換素子200は、上述のように、電気機械変換膜24として用いる電気機械変換膜の結晶配向が、(110)配向の配向度と(111)配向の配向度とが僅かに混在するような(100)優先配向の多結晶膜である。しかも、電気機械変換膜24に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造X1とcドメイン構造Y1とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとしたときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときの前記比率である長尺方向比率S1と、X線の入射面が前記短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときの前記比率である短尺方向比率S1とが異なる。
このような構成により、本実施形態の電気機械変換素子200は、後述のインクジェット記録装置(画像形成装置)などの液体を吐出する装置に適用した際、液体の吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)を十分確保できるとともに、液体を連続吐出しても変形量(表面変位量)の劣化が十分抑制されることで安定した液体吐出特性を発揮できる。
また、前述の分極処理工程においては、例えば前述の図4に示す放電による分極処理装置40を用いても電気機械変換膜24にクラックが発生することがない。そのため、例えば液体吐出ヘッドに設けられた複数の電気機械変換素子200についてクラックを発生させることなく確実に分極処理を行うことができ、歩留まりを向上させることができる。
図19は、本実施形態における液体吐出ヘッドの概略構成を示す断面図である。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するノズル81と、ノズルが連通する加圧液室80と、加圧液室80内の液体を昇圧させる吐出駆動手段と、を備えている。そして、前記吐出駆動手段が、加圧液室80の壁の一部を構成する振動板22と、振動板22に配置された前述の電気機械変換素子200と、を有する。
また、本実施形態の液体吐出ヘッドは、基板21の部分に加圧液室80が形成され、加圧液室80の下端部分には、液体を吐出するノズル81が設けられたノズル板82が配置されている。そして、電気機械変換素子200に電圧が印加され、電気機械変換膜24が変位すると、振動板22が変形(表面変位)して加圧液室80の液体をノズル81から吐出するように構成されている。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、図19に示すように、電気機械変換素子を複数個配列した構成である。また、液体吐出ヘッドには、加圧液室80にインクなどの液体を供給する液体供給手段、液体が流れる流路を備えてもよい。流路を備える場合は、液体の流体抵抗を考慮してもよい。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、前述の電気機械変換素子200を備えている。このため、電気機械変換素子200は液体の吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)を十分確保すると共に、連続吐出しても変形量(表面変位量)の劣化が十分抑制されるので、液体吐出ヘッドは安定した液体吐出を行うことが可能になる。
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッドのより具体的な実施例を、比較例とともに説明する。但し、液体吐出ヘッドの実施例は、以下に例示したものに限定されるものではない。
〔実施例1〕
6インチシリコンウェハに振動板となる熱酸化膜(SiO、膜厚1[μm])を形成し、これを基板21及び振動板22として用いた。次いで、この基板21上に作成された振動板22となる部分の上に下部電極23を形成した。下部電極23は、密着層と金属電極膜とが積層された構造を有している。密着層は、チタン膜(膜厚20[nm])を成膜温度350[℃]でスパッタ装置にて成膜した後、急速加熱アニーリング(RTA:Rapid Thermal Annealing)処理を用いて750[℃]で熱酸化することにより形成した。そして、引き続き、金属電極膜として、白金膜(膜厚160[nm])を成膜温度400[℃]でスパッタ装置にて成膜した。
次に、下地層となるPbTiO層(以下「PT層」という。)として物質量比がPb:Ti=1:1に調整された溶液(以下「PT溶液」という。)と、電気機械変換膜として物質量比がPb:Zr:Ti=115:49:51に調整されたPZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学量論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。この際PZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5[mol/L]にした。PT溶液に関しても、PZT前駆体溶液と同様に作製した。
次に、最初にPT溶液を用いてPT層をスピンコートにより成膜し、成膜後、120[℃]乾燥を実施した。その後、PZT前駆体溶液をスピンコートにより成膜し、成膜後、120[℃]乾燥、400[℃]熱分解を行った。そして、成膜、乾燥、熱分解の工程を繰り返し行い、積層膜を形成した。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度730[℃])をRTA処理(急速熱処理)にて行った。このとき、PZTの膜厚は240[nm]であった。この工程を計8回すなわち、合計で24層積層し、膜厚が約2[μm]の電気機械変換膜24を得た。
次に、上部電極25を形成した。まず酸化物電極膜として、SrRuO膜(膜厚40[nm])を形成し、さらに、金属電極膜として白金(Pt)膜(膜厚125[nm])をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図3に示すようなパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜31として、ALD(原子層堆積)工法を用いてAl膜を膜厚が50[nm]になるように成膜した。このとき、原材料としてAlについては、TMA(トリメチルアルミニウム:シグマアルドリッチ社製)を、Oについてはオゾンジェネレーターによって発生させたOを交互に供給、積層させることで、成膜を進めた。
次に、図3に示すように、エッチングによりコンタクトホール32を形成した。そして、個別電極−個別電極パッド間の接続部材35、共通電極−共通電極パッド間の接続部材37、個別電極パッド34及び共通電極パッド36として、Alをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
次に、第2の絶縁保護膜38としてSiをプラズマCVD法により膜厚が500[nm]になるように成膜し、その後、個別電極パッド34及び共通電極パッド36の位置に開口部を形成し、電気機械変換素子200を作製した。
この後、図4に示す分極処理装置40を用いて、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理に用いるコロナ電極としては、φ50[μm]のタングステンのワイヤーを用いている。分極処理条件としては、処理温度80[℃]、コロナ電圧9[kV]、グリッド電圧1.5[kV]、処理時間30[s]、コロナ電極−グリッド電極間距離4[mm]、グリッド電極−ステージ間距離4[mm]にて行った。
そして、基板21の裏面に対し、図10に示すような加圧液室80となる貫通孔部を形成した後、ノズル81が形成されたノズル板82を基板21の裏面に接合し、図12に示すような液体吐出ヘッドを作製した。本実施例1の液体吐出ヘッドにおいて、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さは60[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さは1000[μm]とした。
〔実施例2〕
本実施例2の液体吐出ヘッドは、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを70[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さを700[μm]とした以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例3〕
本実施例3の液体吐出ヘッドは、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを50[μm]とした以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例4〕
本実施例4の液体吐出ヘッドは、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを100[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さを500[μm]とした以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例5〕
本実施例5の液体吐出ヘッドは、6インチシリコンウェハ上に、SiO(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO(膜厚730[nm])、Si(200[nm])、SiO(膜厚600[nm])の順に形成して振動板22となる部分を作成した以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例6〕
本実施例6の液体吐出ヘッドは、6インチシリコンウェハ上に、SiO(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO(膜厚730[nm])、Si(200[nm])、SiO(膜厚600[nm])の順に形成して振動板22となる部分を作成した。さらに、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを70[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さを700[μm]とした。これらの点以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例7〕
本実施例7の液体吐出ヘッドは、6インチシリコンウェハ上に、SiO(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO(膜厚730[nm])、Si(200[nm])、SiO(膜厚600[nm])の順に形成して振動板22となる部分を作成した。さらに、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを50[μm]とした。これらの点以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔実施例8〕
本実施例8の液体吐出ヘッドは、6インチシリコンウェハ上に、SiO(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO(膜厚730[nm])、Si(200[nm])、SiO(膜厚600[nm])の順に形成して振動板22となる部分を作成した。さらに、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを100[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さを500[μm]とした。これらの点以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔比較例1〕
本比較例1の液体吐出ヘッドは、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを200[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さも200[μm]とした以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
〔比較例2〕
本比較例2の液体吐出ヘッドは、6インチシリコンウェハ上に、SiO(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO(膜厚730[nm])、Si(200[nm])、SiO(膜厚600[nm])の順に形成して振動板22となる部分を作成した。さらに、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さを200[μm]とし、長尺方向(Y方向)長さも200[μm]とした。これらの点以外は、実施例1と同様の液体吐出ヘッドを作製した。
上述した実施例1〜8及び比較例1〜2のそれぞれにおいて作製した液体吐出ヘッドに対し、その電気機械変換膜24についてX線回折(XRD)法を用いたθ−2θ測定により結晶性の評価を行った。すなわち、この評価は、図12に示すように、基板21に対して加圧液室80の加工を施した後の状態(基板21に拘束されていない状態)の電気機械変換膜24についての結晶性の評価である。この測定に用いたX線回折(XRD)装置は、Philips社製の「X’Pert MRD」であり、X線源はCuKα、X線の波長は1.541[Å](0.1541[nm])、Slit1/4、Mask15を用いた。
また、上述した実施例1〜8及び比較例1〜2それぞれにおいて作製した液体吐出ヘッドに対し、電気特性及び変形(表面変位)特性(圧電定数)の評価も行った。変形(表面変位)特性の評価については、基板21に対して加圧液室80の加工を施した後の状態で、振動評価を実施した。具体的には、電気機械変換素子に150[kV/cm]の電界を形成する所定のパルス波形(1[kHz]の三角波)の駆動電圧を印加したときの振動板22の下面の表面変形量を、レーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから、圧電定数d31の値を算出した。初期特性を評価した後に、耐久性特性(1×1010回繰り返し前記所定のパルス波形の駆動電圧を加えた直後の特性)の評価を実施した。
これらの実施例1〜8及び比較例1〜2の詳細な評価結果を、加圧液室80の短尺方向(X方向)長さLxと長尺方向(Y方向)長さLyとの比率Ly/Lx、Y方向についてのドメイン比率S1,S2、X方向についてのドメイン比率S1,S2と併せて、下記の表1に示す。
電気機械変換素子の連続駆動後の変形量(表面変位量)の劣化の程度を評価するために、「圧電定数の低下率」=(「初期のd31」−「耐久後のd31」)/「初期のd31」の値を算出した。
実施例1について「圧電定数の低下率」を算出すると、(142−139)/142=0.021となる。同様に算出すると、実施例2は0.02、実施例3は0.027、実施例4は0.038、実施例5は0.006、実施例6は0.006、実施例7は0.013、実施例8は0.044、比較例1は0.056、比較例2は0.070となる。
表1の吐出評価の評価基準を以下に示す。
「◎」:耐久後の圧電定数が−145[pm/V]以上、且つ、圧電定数の低下率が0.02未満。
「○」:耐久後の圧電定数が−130[pm/V]以上、且つ、圧電定数の低下率が0.03未満で、上記「◎」の評価基準を満たさないもの。
「△」:耐久後の圧電定数が−120[pm/V]以上、且つ、圧電定数の低下率が0.05未満で、上記「◎」及び「○」の何れの評価基準も満たさないもの。
「×」:耐久後の圧電定数が−120[pm/V]未満、または、圧電定数の低下率が0.05以上。
実施例1〜8については、初期及び耐久性試験後の変形(表面変位)特性の結果について、一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。圧電定数d31の値に換算すると、初期から耐久性試験後まで、−120〜−160[pm/V]の範囲の特性が維持された。一方、比較例1〜2については、初期の特性及び耐久性試験後の特性のいずれも、上述した実施例1〜8に比べて劣っており、耐久性試験後の特性については、−120[pm/V]を下回る結果となった。
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッドを備えた液体を吐出する装置であるインクジェット記録装置の一例について説明する。
図20は、実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す斜視図であり、図21は、図20のインクジェット記録装置の機構部の一例を示す側面図である。
本実施形態のインクジェット記録装置は、記録装置本体91の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した液体吐出ヘッドである記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部92等を収納している。
記録装置本体91の下方部には前方側から多数枚の用紙93を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)94を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙93を手差しで給紙するための手差しトレイ95を開倒することができる。そして、給紙カセット94或いは手差しトレイ95から給送される用紙93を取り込み、印字機構部92によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ96に排紙する。
印字機構部92は、左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド101と従ガイドロッド102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ103にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッドとしての記録ヘッド104を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列している。そして、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ103には記録ヘッド104に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ105を交換可能に装着している。
インクカートリッジ105は、上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド104へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。そして、多孔質体の毛管力により記録ヘッド104へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液体吐出ヘッドとしてここでは各色の記録ヘッド104を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の記録ヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ103は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド101に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド102に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ103を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター107で回転駆動される駆動プーリ108と従動プーリ109との間にタイミングベルト110を張装している。このタイミングベルト110をキャリッジ103に固定しており、主走査モーター107の正逆回転によりキャリッジ103が往復駆動される。
次に、給紙カセット94にセットした用紙93を記録ヘッド104の下方側に搬送する機構について説明する。まず、給紙カセット94から用紙93を分離給装する給紙ローラ111及びフリクションパッド112と、用紙93を案内するガイド部材113と、給紙された用紙93を反転させて搬送する搬送ローラ114を有している。そして、この搬送ローラ114の周面に押し付けられる搬送コロ115及び搬送ローラ114からの用紙93の送り出し角度を規定する先端コロ116と、を設けている。搬送ローラ114は、副走査モーター117によってギヤ列を介して回転駆動される。
キャリッジ103の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ114から送り出された用紙93を記録ヘッド104の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、用紙93を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ121、拍車122を設けている。さらに用紙93を排紙トレイ96に送り出す排紙ローラ123及び拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
記録時には、キャリッジ103を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド104を駆動することにより、停止している用紙93にインクを吐出して1行分を記録し、用紙93を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙93の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙93を排紙する。
また、キャリッジ103の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド104の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127は、キャップング手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。キャリッジ103は印字待機中には、この回復装置127側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド104をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド104の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本実施形態のインクジェット記録装置においては、前述の液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド104を備えている。このため、記録ヘッド104の電気機械変換素子はインク吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)を十分確保すると共に、連続吐出しても変形量(表面変位量)の劣化が十分抑制され、本インクジェット記録装置は安定したインク吐出を行うことが可能になる。
本実施形態のインクジェット記録装置においては、実施例1〜8で作製した液体吐出ヘッドを搭載している。このインクジェット記録装置を用いて液体の吐出評価を行った。具体的には、粘度を5[cp]に調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30[V]の印加電圧を加えたときの吐出状況を確認した。その結果、すべてのノズル孔からも吐出できていることを確認した。
一方、比較例1〜2で作製した液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置についても同様の吐出評価を行ったところ、すべてのノズル孔から吐出させるのに必要な印加電圧が実施例1〜8よりも高く設定する必要があったうえ、吐出状態も不安定であった。
本明細書において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
前記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
前記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
また、「液体」は、液体吐出ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。具体的には、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
例えば、液体吐出ユニットとして、図22に示すように、液体吐出ヘッド104とヘッドタンク441が一体化されている液体吐出ユニット440がある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッド104とヘッドタンク441が一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンク441と液体吐出ヘッド104との間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、図23で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッド104とキャリッジ103と主走査移動機構107〜109が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、図24で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品444が取り付けられた液体吐出ヘッド104にチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
インク等の液体を吐出するノズル81が形成されたノズル板82と、前記ノズル板と接合されて前記ノズルに連通する加圧液室80となる長尺な貫通孔部が形成された基板21と、前記基板に対して前記ノズル板とは反対側に接合されて前記加圧液室の壁部を構成する振動板22と、前記振動板上に形成された電気機械変換素子200を連続的に変位させて該振動板を振動させることにより前記加圧液室内の液体を前記ノズルから吐出させる圧電アクチュエータ20等の吐出駆動手段とを備え、前記電気機械変換素子200が、前記振動板22上に直接又は間接的に形成された下部電極23等の第1の電極と、前記第1の電極上に直接又は間接的に形成された電気機械変換膜24と、前記電気機械変換膜上に直接又は間接的に形成された上部電極25等の第2の電極とを備えている液体吐出ヘッド104において、前記電気機械変換膜24は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとしたときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記加圧液室80の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときの前記ドメイン比率である長尺方向比率S1と、X線の入射面が前記長尺方向に対して直交する短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときの前記ドメイン比率である短尺方向比率S1とが異なることを特徴とする。
本態様によれば、電気機械変換膜24が、(100)優先配向の多結晶膜であり、θ−2θ測定でX線の入射面が加圧液室の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)が、X線の入射面が加圧液室の短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S1=Sc/(Sa+Sc)とは異なっている。これにより、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量(圧電定数d31の絶対値に換算して120[pm/V]〜160[pm/V])が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる。
(態様B)
前記態様Aにおいて、前記長尺方向比率S1が前記短尺方向比率S1よりも小さいことを特徴とする。
これによれば、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量(圧電定数d31の絶対値に換算して120[pm/V]〜160[pm/V])が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる。
(態様C)
インク等の液体を吐出するノズル81が形成されたノズル板82と、前記ノズル板と接合されて前記ノズルに連通する加圧液室80となる長尺な貫通孔部が形成された基板21と、前記基板に対して前記ノズル板とは反対側に接合されて前記加圧液室の壁部を構成する振動板22と、前記振動板上に形成された電気機械変換素子200を連続的に変位させて該振動板を振動させることにより前記加圧液室内の液体を前記ノズルから吐出させる圧電アクチュエータ20等の吐出駆動手段とを備え、前記電気機械変換素子200が、前記振動板22上に直接又は間接的に形成された下部電極23等の第1の電極と、前記第1の電極上に直接又は間接的に形成された電気機械変換膜24と、前記電気機械変換膜上に直接又は間接的に形成された上部電極25等の第2の電極とを備えている液体吐出ヘッド104において、前記電気機械変換膜24は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとし、菱面体晶、斜方晶及び疑立法晶のいずれかの構造に帰属する分離回折ピークの面積をSbとしたときのドメイン比率S2=Sc/(Sa+Sc+Sb)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記加圧液室80の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときの前記ドメイン比率である長尺方向比率S2と、X線の入射面が前記長尺方向に対して直交する短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときの前記ドメイン比率である短尺方向比率S2とが異なることを特徴とする。
本態様によれば、電気機械変換膜24が、(100)優先配向の多結晶膜であり、θ−2θ測定でX線の入射面が加圧液室の長尺方向(Y方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S2=Sc/(Sa+Sc+Sb)が、X線の入射面が加圧液室の短尺方向(X方向)に平行となるように測定したときのドメイン比率S2=Sc/(Sa+Sc+Sb)とは異なっている。これにより、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量(圧電定数d31の絶対値に換算して120[pm/V]〜160[pm/V])が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる。
(態様D)
前記態様Cにおいて、前記長尺方向比率S2が前記短尺方向比率S2よりも小さいことを特徴とする。
これによれば、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量(圧電定数d31の絶対値に換算して120[pm/V]〜160[pm/V])が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる。
(態様E)
前記態様A〜Dのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜24は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)により形成されており、該電気機械変換膜におけるZrおよびTiの膜中の組成比率Ti/(Zr+Ti)が、45%以上55%以下であることを特徴とする。
これによれば、所定の駆動電圧を印加する駆動を繰り返し行う連続駆動時における変形量の経時的な低下を抑制することができる。
(態様F)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜24は、前記振動板22上に形成されている状態で、該電気機械変換膜の(200)面に由来する回折ピークの位置(2θ)が44.50°以上44.80°以下であり、かつ(200)面又は(400)面に由来する回折ピークの形状が非対称であることを特徴とする。
これによれば、電気機械変換膜24の回転歪及び圧電歪による変位量を十分に確保することができる。
(態様G)
前記態様A〜Fのいずれかの態様において、前記加圧液室80の短尺方向長さLxが50μm以上70μm以下であり、前記加圧液室80の長尺方向長さLyと前記短尺方向長さLxとの比率Ly/Lxが10以上であることを特徴とする。
これによれば、所定の駆動電圧を印加する駆動を繰り返し行う連続駆動時における変形量の経時的な低下を抑制することができる。
(態様H)
前記態様A〜Gのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜と前記第1の電極との間にチタン酸鉛(PT)からなるシード層を有することを特徴とする。
これによれば、連続駆動時の変形量の低下をより確実に抑制することができる。
(態様I)
前記態様A〜Hのいずれかの態様において、振動板22が複数の層からなり、内部応力が圧縮応力となる圧縮膜である。
これによれば、電気機械変換素子200の動作特性の品質の向上を図ることができる。
(態様J)
前記態様Iにおいて、圧縮膜が複数の層として、SiO層とSi層とを備える。
これによれば、上述した実施例5〜8に示すように、単層の実施例1〜4に比べて圧電定数の向上を図ることができる。
(態様K)
前記態様Jにおいて、圧縮膜が複数の層として、SiO層とSi層とを複数交互に積層された構成である。
これによれば、上述した実施例5〜8に示すように、単層の実施例1〜4に比べて圧電定数の向上を図ることができる。
(態様L)
駆動信号に基づいてノズル81等の吐出孔からインク等の液体を吐出させる液体吐出ヘッド104と、少なくとも1つの外部部品とを一体化した液体吐出ユニット440において、前記液体吐出ヘッドとして、前記態様A〜Kのいずれかの態様に係る液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする。
これによれば、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる液体吐出ユニットを実現できる。
(態様M)
前記態様Lにおいて、前期外部部品は、前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク441、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ103、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを移動させる移動機構の少なくとも1つであることを特徴とする。
これによれば、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる多様な液体吐出ユニットを実現できる。
(態様N)
駆動信号に基づいてノズル等の吐出孔からインク等の液体を吐出させる液体吐出ヘッド104を備えたインクジェット記録装置等の液体を吐出する装置において、前記液体吐出ヘッドとして、前記態様A〜Kのいずれかの態様に係る液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする。
これによれば、上述した実施例1〜8で説明したように、製造後の初期において所定のパルス波形の駆動電圧を印加して駆動する駆動時に十分な変形量が得られるだけでなく、所定のパルス波形の駆動電圧を1010回繰り返し印加して駆動した連続駆動時にも初期と同程度の十分な変形量が維持され、経時的な変形量低下を抑制することができる液体を吐出する装置を実現できる。
21 基板
22 振動板
23 下部電極
24 電気機械変換膜
25 上部電極
31 絶縁保護膜
32 コンタクトホール
34 個別電極パッド
35,37 接続部材
36 共通電極パッド
40 分極処理装置
80 加圧液室
81 ノズル
82 ノズル板
92 印字機構部
103 キャリッジ
104 液体吐出ヘッド
105 インクカートリッジ
200 電気機械変換素子
特許第5164052号公報

Claims (14)

  1. 液体を吐出するノズルが形成されたノズル板と、
    前記ノズル板と接合されて前記ノズルに連通する加圧液室となる長尺な貫通孔部が形成された基板と、
    前記基板に対して前記ノズル板とは反対側に接合されて前記加圧液室の壁部を構成する振動板と、
    前記振動板上に形成された電気機械変換素子を連続的に変位させて該振動板を振動させることにより前記加圧液室内の液体を前記ノズルから吐出させる吐出駆動手段とを備え、
    前記電気機械変換素子が、前記振動板上に直接又は間接的に形成された第1の電極と、前記第1の電極上に直接又は間接的に形成された電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に直接又は間接的に形成された第2の電極とを備えている液体吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換膜は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとしたときの比率Sc/(Sa+Sc)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記加圧液室の長尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である長尺方向比率と、X線の入射面が前記長尺方向に対して直交する短尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である短尺方向比率とが異なることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記長尺方向比率が前記短尺方向比率よりも小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  3. 液体を吐出するノズルが形成されたノズル板と、
    前記ノズル板と接合されて前記ノズルに連通する加圧液室となる長尺な貫通孔部が形成された基板と、
    前記基板に対して前記ノズル板とは反対側に接合されて前記加圧液室の壁部を構成する振動板と、
    前記振動板上に形成された電気機械変換素子を連続的に変位させて該振動板を振動させることにより前記加圧液室内の液体を前記ノズルから吐出させる吐出駆動手段とを備え、
    前記電気機械変換素子が、前記振動板上に直接又は間接的に形成された第1の電極と、前記第1の電極上に直接又は間接的に形成された電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に直接又は間接的に形成された第2の電極とを備えている液体吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換膜は、(100)面が優先的に配向した多結晶膜であり、かつ、前記電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面又は(400)面に由来する回折ピークをピーク分離して得られる複数の分離回折ピークのうち、正方晶のaドメイン構造とcドメイン構造とにそれぞれ帰属する2つの分離回折ピークの面積をSa及びScとし、菱面体晶、斜方晶及び疑立法晶のいずれかの構造に帰属する分離回折ピークの面積をSbとしたときの比率Sc/(Sa+Sc+Sb)について、前記θ−2θ測定でX線の入射面が前記加圧液室の長尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である長尺方向比率と、X線の入射面が前記長尺方向に対して直交する短尺方向に平行となるように測定したときの前記比率である短尺方向比率とが異なることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  4. 請求項3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記長尺方向比率が前記短尺方向比率よりも小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換膜は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)により形成されており、該電気機械変換膜におけるZrおよびTiの膜中の組成比率Ti/(Zr+Ti)が、45%以上55%以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換膜は、前記振動板上に形成されている状態で、該電気機械変換膜の(200)面に由来する回折ピークの位置(2θ)が44.50°以上44.80°以下であり、かつ(200)面又は(400)面に由来する回折ピークの形状が非対称であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  7. 請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記加圧液室の短尺方向長さLxが50μm以上70μm以下であり、
    前記加圧液室の長尺方向長さLyと前記短尺方向長さLxとの比率Ly/Lxが10以上であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  8. 請求項1乃至7のいずれかの1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換膜と前記第1の電極との間にチタン酸鉛(PT)からなるシード層を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  9. 請求項1乃至8のいずれかの1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記振動板が複数の層からなり、内部応力が圧縮応力となる圧縮膜であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  10. 請求項9に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記圧縮膜が前記複数の層として、SiO層とSi層とを備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  11. 請求項10に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記圧縮膜が前記複数の層として、SiO層とSi層とを複数交互に積層された構成であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  12. 駆動信号に基づいて吐出孔から液体を吐出させる液体吐出ヘッドと、少なくとも1つの外部部品とを一体化した液体吐出ユニットにおいて、
    前記液体吐出ヘッドとして、請求項1乃至11のいずれかの1項に記載の液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする液体吐出ユニット。
  13. 請求項12に記載の液体吐出ユニットにおいて、
    前期外部部品は、前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを移動させる移動機構の少なくとも1つであることを特徴とする液体吐出ユニット。
  14. 駆動信号に基づいて吐出孔から液体を吐出させる液体吐出ヘッドを備えた液体を吐出する装置において、
    前記液体吐出ヘッドとして、請求項1乃至11のいずれかの1項に記載の液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする液体を吐出する装置。
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