JP2017210661A - アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents

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啓史 長谷川
Hiroshi Hasegawa
啓史 長谷川
田中 宏樹
Hiroki Tanaka
宏樹 田中
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Abstract

【課題】絞り成形性に優れ、高い強度及び延性を有し、表面性状が良好なアルミニウム合金板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板は、Si:0.60〜1.8%、Mg:0.20〜1.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。算術平均粗さRaは0.30μm以下である。下記式により算出されるr値の平均値raveが0.70以上、r値の異方性Δrの絶対値が0.10未満、引張強さの平均値σaveが230MPa以上、伸びの平均値δaveが25%以上である。
ave=(r0+r90+r45×2)/4
Δr=(r0+r90−r45×2)/2
σave=(σ0+σ90+σ45×2)/4
δave=(δ0+δ90+δ45×2)/4
但し、上記式において、r、σ、δはそれぞれr値、引張強さ及び伸びを示し、各記号の添え字は圧延方向に対する角度を表す。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金板及びその製造方法に関する。
板材の絞り成形は、例えば、自動車のボディにおけるインナーパネルや、底の深い形状を有する容器などを製造する際に行われている。従来、これらの用途には、冷延鋼板やアルミニウム合金板が用いられている。近年では、これらの部品を軽量化する要求が強くなっているため、これらの部品をアルミニウム合金板から製造することが多くなっている。
インナーパネルは、一般的には、溶接等を行って複数の部品を接合することにより製造されている。絞り成形性に優れたアルミニウム合金板を素材としてインナーパネルを作製することにより、部品点数や部品の接合に要する工数を削減するという効果を得ることができる。
また、インナーパネルの外側には、アウターパネルが取り付けられている。アウターパネルとしては、曲げ加工性に優れ、高い強度及び延性を有するとともに、塗装焼き付け処理の際に強度が向上する、いわゆるベークハード性を有するAl−Mg−Si(アルミニウム−マグネシウム−シリコン)系アルミニウム合金板が多用されている。そのため、リサイクル性の観点から、インナーパネルを、アウターパネルと類似する化学成分を備えたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板から作製することが好ましい。
しかし、従来のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板は、絞り成形性が低いのが実情であり、インナーパネルや底の深い容器の素材として用いるためには、絞り成形性を向上させる必要があった。
Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の絞り成形性を向上させる技術としては、異周速圧延、即ち、一対の圧延ロールにおける、一方の圧延ロールの周速を他方の圧延ロールの周速とは異なる値に設定して冷間圧延を行う技術が知られている(例えば、特許文献1)。異周速圧延においては、アルミニウム合金板内部に強度のせん断変形を加えることにより、集合組織の制御を行うことができる。例えば、特許文献1の技術においては、異周速圧延を行うことにより、絞り成形性に悪影響を及ぼす{100}集合組織の密度を低減するとともに、絞り成形性の向上に有効な{111}集合組織の密度の増加を図っている。
特開2014−156625号公報
しかし、異周速圧延において板内部に強度のせん断変形を加えるためには、無潤滑状態でアルミニウム合金板の圧延を行う必要がある。そのため、異周速圧延が施されたアルミニウム合金板は、等速圧延、即ち、一方の圧延ロールの周速を他方の圧延ロールの周速と略同一の値に設定して行う圧延が施されたアルミニウム合金板に比べて表面性状が悪化する。
表面性状の尺度として算術平均粗さRaを採用する場合、異周速圧延が施されたアルミニウム合金板の算術平均粗さRaは、通常、等速圧延が施されたアルミニウム合金板の算術平均粗さRaよりも大きくなる。また、場合によっては、異周速圧延が施されたアルミニウム合金板の算術平均粗さRaの値は5.0μmを超えることもある。そして、算術平均粗さRaの値が過度に大きくなる等、表面性状が悪化した場合には、塗装後の鮮映性の低下等の問題を招くおそれがある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、絞り成形性に優れ、高い強度及び延性を有し、表面性状が良好なアルミニウム合金板及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、Si(シリコン):0.60〜1.8%(質量%、以下同じ)以下、Mg(マグネシウム):0.20〜1.0%を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
算術平均粗さRaが0.30μm以下であり、
圧延方向のr値(ランクフォード値)をr0、圧延直角方向のr値をr90、圧延方向に対して45°方向のr値をr45としたときに、r値の平均値rave(但し、rave=(r0+r90+r45×2)/4)が0.70以上であり、
r値の異方性Δrの絶対値(但し、Δr=(r0+r90−r45×2)/2)が0.10未満であり、
圧延方向の引張強さをσ0、圧延直角方向の引張強さをσ90、圧延方向に対して45°方向の引張強さをσ45としたときに、引張強さの平均値σave(但し、σave=(σ0+σ90+σ45×2)/4)が230MPa以上であり、
圧延方向の伸びをδ0、圧延直角方向の伸びをδ90、圧延方向に対して45°方向の伸びをδ45としたときに、伸びの平均値δave(但し、δave=(δ0+δ90+δ45×2)/4)が25%以上である、アルミニウム合金板にある。
本発明の他の態様は、Si:0.60〜1.8%(質量%、以下同じ)、Mg:0.20〜1.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する鋳塊を準備し、
上記鋳塊に熱間圧延を行って圧延板を作製し、
上記圧延板を120〜320℃で0.5〜12時間加熱して中間熱処理を行い、
上記圧延板に等速圧延条件にて冷間圧延を行い、
上記圧延板に溶体化処理を行う、アルミニウム合金板の製造方法にある。
上記アルミニウム合金板は、少なくとも、上記特定の範囲の化学成分を有していることにより、上記特定の範囲の引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveを容易に実現することができる。そして、上記アルミニウム合金板は、上記特定の範囲の算術平均粗さRaにより表される表面性状と、上記特定の範囲の引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveにより表される機械特性と、上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrにより表される絞り成形性とを有している。
これらの特性を全て備えた上記アルミニウム合金板は、絞り成形性に優れ、高い強度及び延性を有し、表面性状が良好である。上記アルミニウム合金板は、例えば、自動車のボディにおけるインナーパネルや、底の深い容器の素材として好適である。
また、上記の態様の製造方法においては、上記特定の化学成分を有する圧延板に、上記特定の条件により中間熱処理を実施する。従来の製造方法においては、絞り成形性の悪化を招く{100}集合組織が圧延板中に集積することを抑制するために、圧延板の冷間圧延を、無潤滑状態での異周速圧延により行う必要があった。これに対し、上記の製造方法においては、上記特定の条件で中間熱処理を行うことにより、上記圧延板の集合組織をランダム化し、{100}集合組織の集積を抑制することができる。そして、上記中間熱処理において上記圧延板の集合組織をランダム化することにより、上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrを容易に実現することができる。
また、上記製造方法によれば、従来の製造方法のように、冷間圧延を、無潤滑状態での異周速圧延により行う必要がない。それ故、上記中間熱処理の後に等速圧延条件にて冷間圧延を行い、上記特定の範囲の算術平均粗さRaを容易に実現することができる。
以上のように上記製造方法によれば、絞り成形性に優れ、高い強度及び延性を有し、表面性状が良好な上記アルミニウム合金板を容易に作製することができる。
中間熱処理後に析出した針状析出物の一例を示すTEM像である。
上記アルミニウム合金板の化学成分及びその限定理由について、以下に説明する。
・Si(シリコン):0.60〜1.8%
Siは、固溶硬化によりアルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。また、SiとMgとが共存することによりMg2Siなどの析出物が生じる。これらの析出物は、析出硬化によりアルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。Siの含有量を上記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金板の強度を適度な範囲に制御することができる。その結果、強度及び延性の両方に優れたアルミニウム合金板を容易に得ることができる。
Siの含有量が0.60%未満の場合には、アルミニウム合金板の強度が不足するとともに、延性が低下し、プレス成形性が悪化するおそれがある。一方、Siの含有量が1.8%を超える場合には、Siの増加に伴う強度の向上効果が小さくなるため、それ以上Si量を多くしても、アルミニウム合金板の強度を向上させることが難しい。
・Mg(マグネシウム):0.20〜1.0%
Mgは、Siと同様に、固溶硬化や析出硬化によりアルミニウム合金板の強度を向上させる作用を有する。Mgの含有量を上記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金板の強度を適度な範囲に制御することができる。その結果、強度及び延性の両方に優れたアルミニウム合金板を容易に得ることができる。
Mgの含有量が0.20%未満の場合には、アルミニウム合金板の強度が不足するとともに、延性が低下し、プレス成形性が悪化するおそれがある。一方、Mgの含有量が1.0%を超える場合には、鋳造時に形成されるMg含有化合物が粗大化しやすくなる。そして、粗大なMg含有化合物は、溶体化処理時に固溶しにくいため、析出硬化性の悪化を招くおそれがある。
・Ti(チタン):0.20%以下
上記アルミニウム合金板は、必須成分としてのSi及びMgの他に、例えば、鋳造時の結晶粒を微細化する作用を有する元素を含有していてもよい。この種の元素としては、例えば、Tiなどがある。結晶粒を微細化する効果を十分に得る観点から、Tiの含有量は、例えば0.20%以下とすることができる。
・Fe(鉄):0.50%以下、Cu(銅):0.20%以下、Mn(マンガン):0.50%以下、Cr(クロム):0.10%以下、Zn(亜鉛):0.50%以下
上記アルミニウム合金板は、不可避的不純物として、Fe、Cu、Mn、Cr及びZnなどの元素を含有している。不可避的不純物としてのこれらの元素の含有量は、通常、Fe:0.50%以下、Cu:0.20%以下、Mn:0.50%以下、Cr:0.10%以下、Zn:0.50%以下である。
・算術平均粗さRa:0.30μm以下
上記アルミニウム合金板の表面性状の指標として、JIS B0601:1994に規定される算術平均粗さRaの値を利用することができる。上記特定の範囲の算術平均粗さRaを有するアルミニウム合金板は、優れた表面性状を有しているため、例えば塗装後に鮮映性が悪化し、外観品質の不良を招くなどの、表面性状の悪化に由来するトラブルの発生を抑制することができる。
・r値(ランクフォード値)の平均値rave:0.70以上、r値の異方性Δrの絶対値:0.10未満
上記アルミニウム合金板の絞り成形性の指標として、r値の平均値rave及び異方性Δrの絶対値を利用することができる。ここで、rave及びΔrは、それぞれ、下記式(1)及び(2)により算出される値である。
ave=(r0+r90+r45×2)/4 ・・・(1)
Δr=(r0+r90−r45×2)/2 ・・・(2)
なお、上記式(1)及び式(2)において、r0は圧延方向のr値、r90は圧延直角方向のr値、r45は圧延方向に対して45°方向のr値である。
r値の平均値raveは、その値が大きいほど絞り成形性に優れていることを示す。また、r値の異方性Δrの絶対値は、その値が小さいほど絞り成形性に優れていることを示す。上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値を有するアルミニウム合金板は、優れた絞り成形性を有しているため、絞り成形が施される用途に好適である。なお、一般的なアルミニウム合金板におけるr値の平均値raveは0.5〜0.6程度であり、r値の異方性Δrの絶対値は0.1〜0.2程度である。
・引張強さの平均値σave:230MPa以上
上記アルミニウム合金板における、下記式(3)により表される引張強さの平均値σaveは230MPa以上である。
σave=(σ0+σ90+σ45×2)/4 ・・・(3)
なお、上記式(3)において、σ0は圧延方向の引張強さ、σ90は圧延直角方向の引張強さ、σ45は圧延方向に対して45°方向の引張強さである。
上記特定の範囲の引張強さの平均値σaveを有する上記アルミニウム合金板は、優れた強度を有しているため、例えば、自動車のインナーパネルや底の深い容器などの用途に好適である。
・伸びの平均値δave:25%以上
上記アルミニウム合金板における、下記式(4)により表される伸びの平均値δaveは25%以上である。
δave=(δ0+δ90+δ45×2)/4 ・・・(4)
なお、上記式(4)において、δ0は圧延方向の伸び、δ90は圧延直角方向の伸び、δ45は圧延方向に対して45°方向の伸びである。
上記特定の範囲の引張強さの平均値σaveを有する上記アルミニウム合金板は、優れた延性を有しているため、例えば、絞り成形や曲げ加工等の種々の加工における加工性に優れている。
上記アルミニウム合金板は、結晶方位分布関数解析により得られる方位密度の最大値が、ランダム方位試料の7.0倍未満である集合組織を有していることが好ましい。即ち、上記アルミニウム合金板の集合組織中に存在する全ての結晶方位の方位密度がランダム方位試料の7.0倍未満であることが好ましい。ここで、ランダム方位試料とは、試料中の結晶方位が特定の方向に配向していない試料をいう。
アルミニウム合金板のr値は、集合組織の態様に強く影響を受けることが知られている。方位密度の最大値がランダム方位試料の7.0倍未満である集合組織においては、特定の結晶方位を有する集合組織の集積が抑制されているため、比較的ランダムな集合組織が実現されている。また、この場合には、一般的な冷間圧延板の板面に平行な面に集積し易い{100}集合組織を低減することができる。
そして、アルミニウム合金板の集合組織をランダム化することにより、r値の平均値raveをより大きくするとともに、r値の異方性Δrの絶対値をより小さくすることができる。その結果、上記アルミニウム合金板の絞り成形性をより向上させることができる。
上記アルミニウム合金板は、上記特定の化学成分を有する圧延板を準備した後、中間熱処理、冷間圧延及び溶体化処理を順次行うことにより、作製することができる。
圧延板としては、例えば、上記特定の化学成分を有する鋳塊を鋳造した後、該鋳塊に熱間圧延を施すことにより作製された熱間圧延板を用いることができる。熱間圧延の条件は、公知の条件から適宜設定すればよい。具体的には、熱間圧延の条件は、温度300〜500℃、圧下率50〜99.9%の範囲から適宜設定することができる。
熱間圧延の後、得られた圧延板をそのまま中間熱処理に供してもよいが、中間熱処理を行う前に、必要に応じて等速圧延条件による冷間圧延を追加することもできる。
次に、圧延板を120〜320℃で0.5〜12時間加熱して中間熱処理を行う。中間熱処理における加熱温度及び保持時間を上記特定の範囲とすることにより、圧延板中に長さが50〜1000nmの針状析出物を高密度に析出させることができる。そして、この針状析出物が母相中に高密度に分散した状態で冷間圧延を行うことにより、上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値を有するアルミニウム合金板を容易に得ることができる。
中間熱処理における加熱温度が120℃未満の場合には、上述した針状析出物の析出速度が遅いため、中間熱処理の保持時間を長くする必要がある。そのため、生産性の悪化を招くおそれがある。一方、加熱温度が320℃を超える場合には、針状析出物が析出しないため、上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値を有するアルミニウム合金板を得ることが難しい。従って、針状析出物を十分に析出させる観点から、中間熱処理における加熱温度は、120〜320℃とする。同様の観点から、中間熱処理における加熱温度は、120〜280℃であることが好ましい。
中間熱処理における保持時間が0.5時間未満の場合には、針状析出物の析出量が不十分となりやすい。そのため、上記特定の範囲のr値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値を有するアルミニウム合金板を得ることが難しくなるおそれがある。一方、中間熱処理における保持時間が12時間を超える場合には、生産性が悪く、製造コストの増大などを招くおそれがある。
中間熱処理の後、圧延板に等速圧延条件による冷間圧延を行うことにより、r値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値を上記特定の範囲にすることができる。冷間圧延における条件は、公知の冷間圧延の条件から適宜設定すればよい。具体的には、冷間圧延における条件は、温度室温〜120℃、圧下率50〜99%の範囲から適宜設定することができる。
また、冷間圧延の際、潤滑剤を使用することもできる。この場合には、圧延板と圧延ロールとの摩擦をより低減することができる。その結果、アルミニウム合金板の算術平均粗さRaの値をより小さくすることができる。
その後、圧延板に溶体化処理を施す。より具体的には、圧延板を溶体化処理温度以上に加熱した後、急冷する。これにより、上記アルミニウム合金板の引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveを上記特定の範囲にすることができる。溶体化処理温度及び急冷の条件は、公知の条件から適宜設定すればよい。また、圧延板を急冷する方法としては、空冷や水冷を採用することができる。冷却速度を大きくする観点からは、水冷により圧延板を急冷することが好ましい。以上により、上記アルミニウム合金板を作製することができる。
上記アルミニウム合金板及びその製造方法の例を説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金板及びその製造方法は、以下に示す態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
<試験材の製造方法>
表1に示す化学成分(合金記号A〜G)を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳塊を、DC鋳造によって造塊した。なお、表1中の記号「Bal.」は、残余成分(Balance)であることを示す。
得られた鋳塊を560℃の温度に12時間保持して均質化処理を行い、次いで面削加工を行った。その後、鋳塊に熱間圧延を施して圧延板を作製した。
熱間圧延の後、表2に示す加熱温度及び保持時間にて中間熱処理を施した。その後、圧延板に表2に示す条件により冷間圧延を行い、板厚を1.0mmにした。冷間圧延の後、圧延板をソルトバスに浸漬して550℃の温度に30秒間保持し、次いで水冷する溶体化処理を行った。以上により、表2に示すアルミニウム合金板(試験材1〜13)を得た。
<集合組織の評価>
各試験材について反射法によるX線回折測定を行い、圧延直角断面(LT−ST面)における{100}面、{110}面、{111}面の極点図を取得した。得られた極点図の数値データに基づいて結晶方位分布関数(ODF)の解析を行い、試験材中に存在する各結晶方位の方位密度を算出した。なお、ODFはBungeの提唱した級数展開法により偶数項の展開次数を22次、奇数項の展開次数を19次として計算した。
表2に、最も方位密度が大きかった結晶方位の方位密度を、別途算出したランダム方位試料の方位密度に対する倍率に換算した値を示した。なお、上記結晶方位としては、CR方位、Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Copper方位、RW方位、PP方位等がある。本評価においては、これらの方位から±10度以内の方位のずれは同一の方位であるとして方位密度を算出した。ただし、Copper方位及びS方位に関しては、±9度以内の方位のずれは同一の方位であるとして方位密度を算出した。また、ランダム方位試料としては、集合組織を持たないアルミニウム粉末を使用した。
<機械特性及び絞り成形性の評価>
各試験体から、長手方向が圧延方向に対して0°(圧延平行方向)、45°、90°(圧延直角方向)となるように採取した3種のJIS5号引張試験片を準備した。JIS Z2241:2011の規定に従ってこれらの試験片の引張試験を行い、各方向における引張強さσ、伸びδ及びr値を測定した。なお、引張試験は、引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)AG−50kND」)を用いて行った。試験条件は、ゲージ長さ50mm、クロスヘッド速度2mm/分とした。
引張試験の結果及び下記式(1)〜式(4)に基づいて、r値の平均値rave、r値の異方性Δr、引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveを算出した。表2に、raveの値、Δrの絶対値、σaveの値及びδaveの値を示した。
ave=(r0+r90+r45×2)/4 ・・・(1)
Δr=(r0+r90−r45×2)/2 ・・・(2)
σave=(σ0+σ90+σ45×2)/4 ・・・(3)
δave=(δ0+δ90+δ45×2)/4 ・・・(4)
なお、上記式(1)及び式(2)において、r0は圧延方向のr値、r90は圧延直角方向のr値、r45は圧延方向に対して45°方向のr値である。また、上記式(3)において、σ0は圧延方向の引張強さ、σ90は圧延直角方向の引張強さ、σ45は圧延方向に対して45°方向の引張強さである。また、上記式(4)において、δ0は圧延方向の伸び、δ90は圧延直角方向の伸び、δ45は圧延方向に対して45°方向の伸びである。
<表面性状の評価>
JIS B0601:1994に準拠した方法により、試験材の板面における算術平均粗さRaを測定した。具体的には、走査型共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製;製品名OLYMPUS−OLS3000)を用い、圧延直角方向における算術平均粗さRaを測定した。
表2から理解できるように、試験材1〜5は、上記特定の化学成分を有する圧延板に上記特定の条件で中間熱処理を施し、次いで等速圧延条件による冷間圧延及び溶体化処理を施すことにより作製されている。そのため、これらの試験材は、算術平均粗さRa、r値の平均値rave、r値の異方性Δrの絶対値、引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveが全て上記特定の範囲内となった。
試験材1〜5は、上述した値により表される表面性状、絞り成形性及び機械特性を具備しているため、絞り成形性に優れ、高い強度及び延性を有し、表面性状が良好である。それ故、これらの試験材は、例えば自動車のボディにおけるインナーパネルや、底の深い容器などの素材として好適である。
図1に、上記特定の条件で中間熱処理を行った圧延板のTEM(透過型電子顕微鏡)像の一例を示す。図1に示すように、上記特定の条件で中間熱処理を行った圧延板には、長さ50〜1000nmの針状析出物Pが析出した。なお、図には示さないが、中間熱処理を行わなかった場合には、図1に示すような針状析出物Pの析出は起こらなかった。
試験材6は、中間熱処理における保持時間が短かったため、r値の平均値raveが上記特定の範囲よりも小さくなるとともに、方位密度の最大値が上記特定の範囲を超えた。これらの結果から、試験材6は、試験材1〜5に比べて絞り成形性が劣っていることが推定される。
試験材7は、中間熱処理における加熱温度が高かったため、r値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値が上記特定の範囲外になるとともに、方位密度の最大値が上記特定の範囲を超えた。これらの結果から、試験材7は、試験材1〜5に比べて絞り成形性が劣っていることが推定される。
試験材8及び9は、化学成分が上記特定の範囲から外れていたため、引張強さの平均値σave及び伸びの平均値δaveが上記特定の範囲よりも低くなった。これらの結果から、試験材8及び9は、強度及び延性が不十分であることが理解できる。また、これらの試験材は、r値の異方性Δrの絶対値が上記特定の範囲よりも大きくなるとともに、方位密度の最大値が上記特定の範囲を超えた。そのため、試験材8及び9は、試験材1〜5に比べて絞り成形性が劣っていることが推定される。
試験材10及び11は、中間熱処理の後に異周速圧延条件により冷間圧延を行ったため、算術平均粗さRaが上記特定の範囲を超えた。これらの結果から、試験材10及び11は、試験材1〜5に比べて表面性状が悪化したことが理解できる。なお、これらの試験材は、異周速圧延により{111}集合組織が集積したため、方位密度の最大値が上記特定の範囲を超えた。
試験材12及び13は、冷間圧延の圧下率が低かったため、引張強さの平均値σaveが上記特定の範囲よりも低くなった。これらの結果から、試験材12及び13は、強度が不十分であることが理解できる。また、これらの試験材は、r値の平均値rave及びr値の異方性Δrの絶対値が上記特定の範囲外になるとともに、方位密度の最大値が上記特定の範囲を超えた。そのため、試験材12及び13は、試験材1〜5に比べて絞り成形性が劣っていることが推定される。
P 針状析出物

Claims (5)

  1. Si:0.60〜1.8%(質量%、以下同じ)、Mg:0.20〜1.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
    算術平均粗さRaが0.30μm以下であり、
    圧延方向のr値(ランクフォード値)をr0、圧延直角方向のr値をr90、圧延方向に対して45°方向のr値をr45としたときに、r値の平均値rave(但し、rave=(r0+r90+r45×2)/4)が0.70以上であり、
    r値の異方性Δrの絶対値(但し、Δr=(r0+r90−r45×2)/2)が0.10未満であり、
    圧延方向の引張強さをσ0、圧延直角方向の引張強さをσ90、圧延方向に対して45°方向の引張強さをσ45としたときに、引張強さの平均値σave(但し、σave=(σ0+σ90+σ45×2)/4)が230MPa以上であり、
    圧延方向の伸びをδ0、圧延直角方向の伸びをδ90、圧延方向に対して45°方向の伸びをδ45としたときに、伸びの平均値δave(但し、δave=(δ0+δ90+δ45×2)/4)が25%以上である、アルミニウム合金板。
  2. 結晶方位分布関数解析により得られる方位密度の最大値が、ランダム方位試料の7.0倍未満である集合組織を有する、請求項1に記載のアルミニウム合金板。
  3. Si:0.60〜1.8%(質量%、以下同じ)以下、Mg:0.20〜1.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する鋳塊を準備し、
    上記鋳塊に熱間圧延を行って圧延板を作製し、
    上記圧延板を120〜320℃で0.5〜12時間加熱して中間熱処理を行い、
    上記圧延板に等速圧延条件にて冷間圧延を行い、
    上記圧延板に溶体化処理を行う、アルミニウム合金板の製造方法。
  4. 上記冷間圧延における圧下率が50〜99%である、請求項3に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
  5. 上記鋳塊に熱間圧延を行った後、上記中間熱処理の前に、更に上記圧延板に等速圧延条件にて冷間圧延を行う、請求項3または4に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
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