JP2014156625A - 成形性に優れるアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】自動車のボディシートをはじめとする各種車両部品、あるいは電子・電気機器のパネル等の各種電子・電気機器部品等に用いられる、表裏面性状が均一であり、異周速圧延された、成形性に優れるアルミニウム合金板,異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板は、0.3質量%以上2.0質量%以下のMgと、0.3質量%以上2.5質量%以下のSiと、を含み、平均ランクフォード値が0.9以上であり、アルミニウム合金板の一方の面のRaと、アルミニウム合金板のもう一方の面のRaとの差の絶対値が0.1μm以下である。
【選択図】なし
【解決手段】アルミニウム合金板は、0.3質量%以上2.0質量%以下のMgと、0.3質量%以上2.5質量%以下のSiと、を含み、平均ランクフォード値が0.9以上であり、アルミニウム合金板の一方の面のRaと、アルミニウム合金板のもう一方の面のRaとの差の絶対値が0.1μm以下である。
【選択図】なし
Description
本発明は、自動車のボディシート、その他各種車両用部品や、電子・電気機器のシャーシやパネルなどの各種電子・電気機器部品等に使用される成形加工用のアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法に関し、特に、表裏面の表面性状が均一であり、成形性に優れるアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法に関する。
自動車用ボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では地球温暖化抑制やエネルギーコスト低減などのために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が強まっている。そのため、従来の冷延鋼板に代えて、冷延鋼板とほぼ同等の強度で比重が約1/3であるアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また自動車以外の電子・電気機器等のパネル、シャーシのような成形加工部品についても、最近ではアルミニウム合金板を用いることが多くなってきている。
各種アルミニウム合金のうちでも、Al−Mg−Si系合金は、軽量であるばかりでなく、成形後の塗装焼付け処理時(ベーク時)に強度が向上するという焼付け硬化性、すなわちベークハード性(以下、BH性と記す)を有するところから、自動車のボディシートなどのプレス成形部品素材として、その有用性が増大しつつある。自動車のボディシート向けのAl−Mg−Si系合金としては、AA6016合金、AA6022合金、あるいはAA6111合金のT4処理材が多用されるようになってきている。
このようなAl−Mg−Si系アルミニウム合金からなる成形加工用素材の製造方法としては、一般には、DC鋳造法によって鋳造して均質化処理を施し、続いて熱間圧延してから、さらに冷間圧延を行ない、その後に溶体化処理を行なう方法が用いられている。しかしながら、上述のような従来の一般的な方法により製造されたAl−Mg−Si系の成形加工用アルミニウム合金板は、強度は冷延鋼板とほぼ同等ではあるものの、成形加工性、とりわけ深絞り性が冷延鋼板と比較して劣っていることがあった。
ところで、成形加工性、とりわけ深絞り性の指標としてランクフォード値(r値)が従来から広く使用されており、このランクフォード値が高く、特に平均ランクフォード値(平均r値)が高いほど、深絞り性が優れると判断される。ここで平均r値とは、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向で測定したr値(それぞれr0、r45、r90とする。)の平均値であり、平均r値=(r0+2×r45+r90)/4で表わされる値である。
一方、一般に成形加工用素材では、深絞り性が集合組織によって大きな影響を受けることが良く知られている。そして体心立方格子構造を有する冷延鋼板では、圧延集合組織の板面に平行な主方位面が{111}面となり、その{111}面の方位集積密度を高めることによって、平均r値が上がり、深絞り性が向上することが知られている。そして冷延鋼板では、冷間圧延および再結晶熱処理によって得られる結晶方位が前述のように{111}面であることから、{111}面の方位集積密度を高めて深絞り性を向上させることが容易であり、そのための方法も既に十分に確立している。
これに対して、面心立方格子構造を有するアルミニウム合金の場合は、従来の一般的な方法によって製造すれば、成形性向上に有効な{111}面が形成されないばかりでなく、むしろ成形性を阻害する{100}面の方位密度が主方位となってしまって、平均r値を十分に上げることができず、成形性、特に深絞り性を向上させることが困難であった。
これを解決するため、アルミニウム合金に剪断変形を与えることによって{111}集合組織を形成させて、平均r値および深絞り性を向上させる技術が、たとえば非特許文献1において述べられている。非特許文献1には、{111}集合組織の材料でr値が高くなるとの理論解析が述べられており、さらに{111}集合組織を形成するための具体的手法として、熱間圧延と冷間圧延の中間的な温度で圧延する温間圧延を用いて圧延時における表裏面の圧延ロールの周速を異ならしめる異周速圧延を適用して、剪断変形を導入する方法が述べられている。
このようにして製造されたアルミニウム合金板は、高速ワークロール面側と低速ワークロール面側において摩擦状態が大きく異なる。この原因として、アルミニウム合金板の速度は高速ロールとほぼ同一であるために、ワークロール間の周速の比を上げる毎に低速ワークロール面側の摩擦状態が悪くなることが挙げられる。この結果、周速率を上げる毎に板材の表裏面において粗度が大きく異なり、成形性、特に曲げ加工性が制限されてしまっていた。
一方、特許文献1には、異周速圧延時に入射角度を10°傾けることによって表裏面の表面性状を均一にできることが述べられているが、入射角度に関する条件、表裏面の粗度差が明確ではない。特許文献4には、高周速ワークロール側の噛み込み角度を大きくして圧延する方法が述べられているが、これはチャタリングと呼ばれる圧延機の振動を抑制することを目的としている。特許文献5に記載された金属板の製造方法は、鋼材を圧延中に発生するシーム疵を抑制することを目的としている。また、特許文献2および特許文献3において、潤滑剤の油膜厚みを均一にすることが述べられているが、表裏面の粗度差が明確ではない。
軽金属学会第50回シンポジウムテキスト、「再結晶・集合組織の解析と制御」(1996)、P18
上述のように、従来の異周速圧延により剪断変形を与えることがアルミニウム合金における成形性向上のための集合組織制御に有効であることが示されているが、異周速圧延を用いた従来の製造方法においては、剪断変形を与えることにより強い摩擦力を発生させるために表裏面性状が異なり、低速ワークロール側の面の性状が悪くなり、成形性、特に曲げ加工性を制限してしまうことがあった。
アルミニウム合金板に対する異周速圧延は高い周速率の下で行われ、アルミニウム合金板の表裏面における面性状が大きく異なるため、周速比1.3以下で異周速圧延が行なわれている特許文献1〜5の技術は、工業的な量産規模での製造に関しては、安定的に健全な圧延板材を得るための技術として十分ではなく、量産規模において表裏面の粗度差が少ないアルミニウム合金板を得ることは困難であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、自動車のボディシートをはじめとする各種車両部品、あるいは電子・電気機器のパネル等の各種電子・電気機器部品等に用いられる、表裏面性状が均一であり、異周速圧延された、成形性に優れるアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第1の観点に係るアルミニウム合金板は、
アルミニウム合金板であって、
0.3質量%以上2.0質量%以下のMgと、
0.3質量%以上2.5質量%以下のSiと、
を含み、
平均ランクフォード値が0.9以上であり、
前記アルミニウム合金板の一方の面のRaと、前記アルミニウム合金板のもう一方の面のRaとの差の絶対値が0.1μm以下である、
ことを特徴とする。
アルミニウム合金板であって、
0.3質量%以上2.0質量%以下のMgと、
0.3質量%以上2.5質量%以下のSiと、
を含み、
平均ランクフォード値が0.9以上であり、
前記アルミニウム合金板の一方の面のRaと、前記アルミニウム合金板のもう一方の面のRaとの差の絶対値が0.1μm以下である、
ことを特徴とする。
溶体化処理後の{111}面の方位集積密度が1.0以上であってもよい。
本発明の第2の観点に係る異周速圧延方法は、
アルミニウム合金板の異周速圧延方法であって、
前記アルミニウム合金板の入射角θを調整することによって、低速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第1の噛み込み角度を、高速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第2の噛み込み角度よりも小さくする、
ことを特徴とする。
アルミニウム合金板の異周速圧延方法であって、
前記アルミニウム合金板の入射角θを調整することによって、低速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第1の噛み込み角度を、高速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第2の噛み込み角度よりも小さくする、
ことを特徴とする。
前記入射角θと、周速比xとが、
4.7≦θ/(x−1)≦5.3
の関係を満たしてもよい。
4.7≦θ/(x−1)≦5.3
の関係を満たしてもよい。
前記周速比xを1.5以上2.5以下としてもよい。
前記入射角θを1°以上5°以下としてもよい。
本発明の第3の観点に係るアルミニウム合金板の製造方法は、
上記の異周速圧延方法を用いる、
ことを特徴とする。
上記の異周速圧延方法を用いる、
ことを特徴とする。
本発明によれば、自動車のボディシートをはじめとする各種車両部品、あるいは電子・電気機器のパネル等の各種電子・電気機器部品等に用いられる、表裏面性状が均一であり、異周速圧延された、成形性に優れるアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板およびその製造方法、アルミニウム合金板の製造方法の工程の一部である異周速圧延方法、アルミニウム合金板を用いた自動車用のボディシートについて説明する。
以下、本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系合金板を構成するアルミニウム合金の合金成分およびその含有率について説明する。
(マグネシウム)
Mgは、Siとともにアルミニウム合金の析出硬化性、BH性(ベークハード性)および強度、延性、成形性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のMgの含有率が0.3質量%未満では、アルミニウム合金のBH性および強度が不十分となり、また延性や成形性も劣ることになる。一方、アルミニウム合金中のMgの含有率が2.0質量%を越えれば、アルミニウム合金の強度が高くなり過ぎて、アルミニウム合金の成形性が低下する。そのため、本発明の実施形態においては、アルミニウム合金中のMgの含有率は、0.3質量%以上2.0質量%以下の範囲内とする。
Mgは、Siとともにアルミニウム合金の析出硬化性、BH性(ベークハード性)および強度、延性、成形性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のMgの含有率が0.3質量%未満では、アルミニウム合金のBH性および強度が不十分となり、また延性や成形性も劣ることになる。一方、アルミニウム合金中のMgの含有率が2.0質量%を越えれば、アルミニウム合金の強度が高くなり過ぎて、アルミニウム合金の成形性が低下する。そのため、本発明の実施形態においては、アルミニウム合金中のMgの含有率は、0.3質量%以上2.0質量%以下の範囲内とする。
(シリコン)
Siは、Mgとともにアルミニウム合金の強度やBH性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のSiの含有率が0.3質量%未満では、アルミニウム合金のBH性および強度が不十分となる。一方、アルミニウム合金中のSiの含有率が2.5質量%を超過すると、アルミニウム合金の強度が高くなり過ぎて、アルミニウム合金の成形性および延性が低下する。そのため、本発明の実施形態においては、アルミニウム合金中のSiの含有率は、0.3質量%以上2.5質量%以下の範囲内とする。
Siは、Mgとともにアルミニウム合金の強度やBH性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のSiの含有率が0.3質量%未満では、アルミニウム合金のBH性および強度が不十分となる。一方、アルミニウム合金中のSiの含有率が2.5質量%を超過すると、アルミニウム合金の強度が高くなり過ぎて、アルミニウム合金の成形性および延性が低下する。そのため、本発明の実施形態においては、アルミニウム合金中のSiの含有率は、0.3質量%以上2.5質量%以下の範囲内とする。
本発明の実施形態においては、Al−Mg−Si系合金として、上述したMgおよびSiのほか、さらに、好ましくは0.05質量%以上1.5質量%以下のCu、好ましくは0.01質量%以上0.8質量%以下のMn、好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下のCr、好ましくは0.01質量%以上0.2質量%以下のZr、および、好ましくは0.01質量%以上0.2質量%以下のVからなる群から選択された1または2以上の元素を選択的に含有するアルミニウム合金を用いることもできる。以下、これらの選択元素を説明する。
(銅)
Cuは、アルミニウム合金の強度およびBH性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のCuの含有率が0.05質量%以上であることによって、強度向上の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCuの含有率が1.5質量%以下であることによって、アルミニウム合金の成形性や耐食性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のCuの含有率は、好ましくは0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲である。
Cuは、アルミニウム合金の強度およびBH性の向上に寄与する。アルミニウム合金中のCuの含有率が0.05質量%以上であることによって、強度向上の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCuの含有率が1.5質量%以下であることによって、アルミニウム合金の成形性や耐食性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のCuの含有率は、好ましくは0.05質量%以上1.5質量%以下の範囲である。
(マンガン)
Mnは、アルミニウム合金の強度向上に効果があり、また、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のMnの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金の強度向上と再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMnの含有率が0.8質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のMnの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.8質量%以下の範囲内である。
Mnは、アルミニウム合金の強度向上に効果があり、また、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のMnの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金の強度向上と再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMnの含有率が0.8質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のMnの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.8質量%以下の範囲内である。
(クロム)
Crは、Mn同様、アルミニウム合金の強度向上と、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のCrの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金の強度向上と再結晶粒の微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCrの含有率が0.3質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のCrの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.3質量%の範囲内である。
Crは、Mn同様、アルミニウム合金の強度向上と、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のCrの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金の強度向上と再結晶粒の微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCrの含有率が0.3質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のCrの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.3質量%の範囲内である。
(ジルコニウム)
Zrは、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のZrの含有率が0.01質量%以上であることによって、再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のZrの含有率が0.2質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のZrの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲内である。
Zrは、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のZrの含有率が0.01質量%以上であることによって、再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のZrの含有率が0.2質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のZrの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲内である。
(バナジウム)
Vは、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のVの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金中の再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、Vの含有率が0.2質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のVの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲である。
Vは、アルミニウム合金の熱処理時の再結晶粒微細化に効果がある。アルミニウム合金中のVの含有率が0.01質量%以上であることによって、アルミニウム合金中の再結晶粒微細化の効果を一層得ることができる。また、Vの含有率が0.2質量%以下であることによって、アルミニウム合金の組織中における粗大な金属間化合物の形成が抑制され、アルミニウム合金の成形性を、より高く維持することができる。そのため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金中のVの含有率は、好ましくは、0.01質量%以上0.2質量%以下の範囲である。
(その他の元素)
なお、一般的なアルミニウム合金の鋳造時には、結晶粒微細化剤としてTiが添加されることが多く、またTiはアルミニウム合金の強度の向上にも寄与する。そのため、本発明の実施形態においても、アルミニウム合金中に、好ましくは0.15質量%以下のTiが添加されてもよい。また、鋳塊結晶粒微細化の目的でTiを添加する場合、アルミニウム合金中に、好ましくは500ppm以下のB(ホウ素)またはC(炭素)を、Tiと合わせて添加してもよい。さらに、Mgを含有するアルミニウム合金においては、鋳造時の溶湯酸化防止のためにBe(ベリリウム)を添加することも一般的であり、本発明の実施形態においても、アルミニウム合金中に、好ましくは500ppm以下のBeが添加されてもよい。
なお、一般的なアルミニウム合金の鋳造時には、結晶粒微細化剤としてTiが添加されることが多く、またTiはアルミニウム合金の強度の向上にも寄与する。そのため、本発明の実施形態においても、アルミニウム合金中に、好ましくは0.15質量%以下のTiが添加されてもよい。また、鋳塊結晶粒微細化の目的でTiを添加する場合、アルミニウム合金中に、好ましくは500ppm以下のB(ホウ素)またはC(炭素)を、Tiと合わせて添加してもよい。さらに、Mgを含有するアルミニウム合金においては、鋳造時の溶湯酸化防止のためにBe(ベリリウム)を添加することも一般的であり、本発明の実施形態においても、アルミニウム合金中に、好ましくは500ppm以下のBeが添加されてもよい。
また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金は、不可避的不純物としてFeを含み、Feの含有率が好適な範囲であることによってアルミニウム合金の延性や成形性をより一層維持することができるので、アルミニウム合金中の不可避不純物としてのFeの含有率は、0.14質量%以上0.20質量%以下であることが望ましい。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと、Fe等の不可避不純物とからなる。
(アルミニウム合金板の特性)
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板1の特性について説明する。
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板1の特性について説明する。
本発明の実施形態においては、アルミニウム合金板1の一方の面(アルミニウム合金板1の面のうち、高速ワークロール3によって圧延される側の面)を表面と呼び、アルミニウム合金板1のもう一方の面(アルミニウム合金板1の面のうち、低速ワークロール2によって圧延される側の面)を裏面と呼ぶ。
アルミニウム合金板1においては、表面の粗度Raと裏面の粗度Raとの差の絶対値が0μm超過0.1μm以下である。そのため、アルミニウム合金1においては、表面と裏面との間の粗度の差が小さく、アルミニウム合金1は、優れた成形性、特に、優れた曲げ加工性を有する。本発明の実施形態において、表面の粗度Raおよび裏面の粗度Raの測定は、たとえば、表面粗さ測定機を用いて行われる。
アルミニウム合金板1の表面の粗度Raと裏面の粗度Raとの差が0μm超過0.1μm以下であることによって、アルミニウム合金板1は良好な曲げ加工性を有する。本発明の実施形態において、曲げ加工性は、たとえば、以下のように評価される。
まず、アルミニウム合金板1の圧延方向に対して0°、45°、90°方向に曲げ試験片を採取し、1mmt(曲げ半径0.5mmt)の中板を挟んで、表面と裏面とが曲げの山側となるように、それぞれ180°曲げ試験を行う。次に、それぞれの試験片を曲げ評点見本と照らし合わせて、各方向の曲げ評点を評価し、それらを平均することで平均曲げ評点を算出する。なお、曲げ評点が高いほど曲げ加工性が良好であることを表す。
まず、アルミニウム合金板1の圧延方向に対して0°、45°、90°方向に曲げ試験片を採取し、1mmt(曲げ半径0.5mmt)の中板を挟んで、表面と裏面とが曲げの山側となるように、それぞれ180°曲げ試験を行う。次に、それぞれの試験片を曲げ評点見本と照らし合わせて、各方向の曲げ評点を評価し、それらを平均することで平均曲げ評点を算出する。なお、曲げ評点が高いほど曲げ加工性が良好であることを表す。
また、アルミニウム合金板1の{111}面の方位集積密度は好ましくは1.0以上であり、優れた成形性、特に、優れた深絞り性を有する。本発明の実施形態において、{111}面の方位集積密度は、たとえば、アルミニウム合金板1の表面および裏面の位置に加え、板厚方向に全板厚の1/8毎の各位置でX線回折により純アルミニウム粉末(ランダム方位試料)に対する圧延板の極点図を測定し、3次元方位分布密度(ODF:Orientation Distribution Function)解析を行なうことによって求められる。なお、本発明の実施形態において、各面の方位密度は、たとえば、以下に示すBunge法における角度範囲から10°の角度内にある最大方位密度とする。
{111}面(φ1=0〜90°、Φ=55°、φ2=45°)
また、深絞り性は、たとえば、円筒ポンチ等を用いて限界絞り比(LDR:Limiting Drawing Ratio)を測定することによって評価することもできる。アルミニウム合金板1のLDRの好ましい範囲は、2.0以上2.5以下である。
{111}面(φ1=0〜90°、Φ=55°、φ2=45°)
また、深絞り性は、たとえば、円筒ポンチ等を用いて限界絞り比(LDR:Limiting Drawing Ratio)を測定することによって評価することもできる。アルミニウム合金板1のLDRの好ましい範囲は、2.0以上2.5以下である。
さらに、深絞り性はアルミニウム合金板1の平均ランクフォード値を測定することによって評価することができる。アルミニウム合金板1の平均r値(平均ランクフォード値)は0.9以上である。本発明の実施形態において、平均ランクフォード値の測定は、たとえば、引張試験機を用いて行われ、たとえば、15%歪みでの各方向(圧延方向に対して0°、45°、90°)のランクフォード値(r0、r45、r90)をそれぞれ測定して、その平均値を以下の式に基づいて算出することで求められる。
平均r値(平均ランクフォード値)=(r0+2×r45+r90)/4
平均r値(平均ランクフォード値)=(r0+2×r45+r90)/4
アルミニウム合金板1は、良好な引張強さ(TS:Tensile Strength)、耐力(YS:Yield Strength)および伸び(EL:Elongation)を有する。本発明の実施形態において、引張強さ、耐力および伸びは、たとえば、引張試験機等を用いて測定される。本発明の実施形態において、引張強さの好ましい範囲は200N/mm2以上、耐力の好ましい範囲は100N/mm以上、伸びの好ましい範囲は引張試験前のアルミニウム合金板1の長さを基準として25%以上である。
アルミニウム合金板1は良好な圧延板の健全性を有する。本発明の実施形態において、アルミニウム合金板1の健全性は、たとえば、外観および断面における割れ、形状不良、膨れの程度を目視によって観察することによって評価される。
すなわち、アルミニウム合金板1は、後述の異周速圧延を用いて剪断変形を与えることにより得られたアルミニウム合金における成形性向上のための集合組織制御(すなわち、{111}面の形成)によって、良好な特性(引張強さ、耐力、伸び、深絞り性、圧延板の健全性)を有しつつ、表面の粗度と裏面の粗度の差の絶対値がRaで0μm超過0.1μm以下という良好な表裏面の粗度差を実現し、それによってアルミニウム合金板1は良好な曲げ加工性を有することができる。
アルミニウム合金板1は、上述の特性を活かして、自動車用のボディシート、その他各種車両用部品や、電子・電気機器のシャーシやパネルなどの各種電子・電気機器部品等に用いられる。アルミニウム合金板1が上述の特性を有するための方法および条件は、以下に説明するアルミニウム合金の製造方法において詳述される。
(アルミニウム合金の製造方法)
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法における各工程およびプロセス条件について説明する。
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法における各工程およびプロセス条件について説明する。
(鋳造工程)
はじめに、上述の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって溶製し、続いて鋳造する。この鋳造手段は特に限定されるものではないが、例えばDC鋳造法(半連続鋳造法)などの通常の鋳造法によりスラブ状鋳塊に鋳造したり、あるいは連続鋳造圧延法により帯板状の連続鋳造板に鋳造したりしても良い。
はじめに、上述の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって溶製し、続いて鋳造する。この鋳造手段は特に限定されるものではないが、例えばDC鋳造法(半連続鋳造法)などの通常の鋳造法によりスラブ状鋳塊に鋳造したり、あるいは連続鋳造圧延法により帯板状の連続鋳造板に鋳造したりしても良い。
DC鋳造法などによりスラブ状鋳塊に鋳造する場合、その鋳造時においては、スラブ状鋳塊の凝固後、600℃から400℃までのスラブ状鋳塊の表面温度の降下速度が30℃/分以上、600℃から400℃までのスラブ状鋳塊の厚み方向中央部(スラブ厚さの中央部)の温度の降下速度が5℃/分以上に維持されるように鋳造することが好ましい。上記の凝固後の条件を用いることにより、鋳造したスラブのままの状態でMg、Si等の元素を十分に固溶させることができ、その結果、従来の一般的な製造方法で適用されている鋳塊均質化処理を行わなくても、最終製品であるアルミニウム合金板の段階で十分なBH性を確保することが可能となる。
上述のような凝固時の冷却速度制御を行なわなかった場合には、鋳造により得られた鋳塊に対して均質化処理を行なってもよい。均質化処理は、鋳塊組織を均一化し、最終製品であるアルミニウム合金板の成形性を向上させるとともに、最終焼鈍時における再結晶粒の安定化を図るための工程である。この場合の均質化処理の条件は特に限定されないが、処理温度が450℃以上であることによって十分な均質化の効果を得ることができ、また、570℃以下であることによって共晶融解の発生を抑制することができる。また、処理時間が0.5時間以上であることによって十分な効果を得ることができ、24時間以下であることによって、十分な効果を得つつ、経済性と両立することができる。したがって、均質化処理は450℃以上570℃以下において、0.5時間以上24時間以下の条件とすることが望ましい。均質化処理後の冷却は400℃までのスラブの表面温度の降下速度が30℃/分以上、400℃までのスラブの厚み方向中央部(スラブ厚さの中央部)の温度の降下速度が5℃/分以上に維持されるように冷却することが望ましい。これによって、最終製品であるアルミニウム合金板の段階で十分なBH性を確保することが可能となる。なお、均質化処理を行わない場合においても、r値に特段の影響は与えずに、Al−Mg−Si合金板において安定した高い平均r値を有するアルミニウム合金材を得ることが可能である。
(粗圧延工程)
上述のようにして得られた鋳塊(スラブ状鋳塊もしくは連続鋳造板)に対して、150℃以上で、しかも非再結晶温度域内となる温度で、90%を越える圧下率で粗圧延が行なわれる。ここで、非再結晶温度域とは、Al−Mg−Si系合金が再結晶しない温度域のことであり、通常は350℃以下の温度域を意味する。したがって150℃以上350℃以下の範囲内の温度で粗圧延が行なわれることが望ましい。粗圧延時の温度を150℃以上とすることによって、材料の変形抵抗の増大が抑制され、高圧下での圧延を行なう際の割れの発生を抑制することができ、高い生産性を維持することができる。また、粗圧延時の温度が非再結晶温度域以下であることによって、たとえば350℃以下であることによって、圧延中の再結晶発生を防止することができ、次工程である温間異周速圧延において、目的とする集合組織制御が可能となる。
上述のようにして得られた鋳塊(スラブ状鋳塊もしくは連続鋳造板)に対して、150℃以上で、しかも非再結晶温度域内となる温度で、90%を越える圧下率で粗圧延が行なわれる。ここで、非再結晶温度域とは、Al−Mg−Si系合金が再結晶しない温度域のことであり、通常は350℃以下の温度域を意味する。したがって150℃以上350℃以下の範囲内の温度で粗圧延が行なわれることが望ましい。粗圧延時の温度を150℃以上とすることによって、材料の変形抵抗の増大が抑制され、高圧下での圧延を行なう際の割れの発生を抑制することができ、高い生産性を維持することができる。また、粗圧延時の温度が非再結晶温度域以下であることによって、たとえば350℃以下であることによって、圧延中の再結晶発生を防止することができ、次工程である温間異周速圧延において、目的とする集合組織制御が可能となる。
また、本発明の実施形態において、粗圧延における全体の圧下率は、90%以上とすることが好ましい。粗圧延における全体の圧下率を90%以上とすることによって、半連続鋳造、または連続鋳造圧延で生じた鋳造組織の残留を防止することができ、次工程の異周速圧延で目的とする集合組織制御を行なうことが可能となる。粗圧延においては、その後の異周速圧延とは異なり、材料を挟む一対の圧延ロールの周速比を1とする、通常の等周速圧延によって圧延が行なわれる。
(異周速圧延工程)
上述のような粗圧延が終了した後に、好ましくは、150℃以上で、かつ非再結晶温度域内の温度において、50%を越える圧下率で異周速圧延が行なわれる。ここで、異周速圧延とは、材料(アルミニウム合金板)を挟んで回転する一対の圧延ロールにおける材料に接する面(ロール外周面)の周速が異なるように圧延する方式を意味し、一対の圧延ロールの外径(ロール径)自体を同じ径として、一対のロールをそれぞれ異なる回転数で回転させる場合と、一対の圧延ロールの径をそれぞれ異なる径として、これらを等しい回転数で回転させる場合とがあり、いずれの方法を用いてもよい。本発明の実施形態においては、同じ径の低速ワークロール2および高速ワークロール3を用いて、それぞれ異なる回転数で回転させる。低速ワークロール2はA1の方向に回転し、高速ワークロール3はA2の方向に回転する(図1)。高速ワークロール3の回転数は低速ワークロール2の回転数よりも大きい。高速ワークロール3の回転数および低速ワークロール2の回転数は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択される。本発明の実施形態において、周速比xは、x=高速ワークロール3の周速/低速ワークロールの周速で表される。
上述のような粗圧延が終了した後に、好ましくは、150℃以上で、かつ非再結晶温度域内の温度において、50%を越える圧下率で異周速圧延が行なわれる。ここで、異周速圧延とは、材料(アルミニウム合金板)を挟んで回転する一対の圧延ロールにおける材料に接する面(ロール外周面)の周速が異なるように圧延する方式を意味し、一対の圧延ロールの外径(ロール径)自体を同じ径として、一対のロールをそれぞれ異なる回転数で回転させる場合と、一対の圧延ロールの径をそれぞれ異なる径として、これらを等しい回転数で回転させる場合とがあり、いずれの方法を用いてもよい。本発明の実施形態においては、同じ径の低速ワークロール2および高速ワークロール3を用いて、それぞれ異なる回転数で回転させる。低速ワークロール2はA1の方向に回転し、高速ワークロール3はA2の方向に回転する(図1)。高速ワークロール3の回転数は低速ワークロール2の回転数よりも大きい。高速ワークロール3の回転数および低速ワークロール2の回転数は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択される。本発明の実施形態において、周速比xは、x=高速ワークロール3の周速/低速ワークロールの周速で表される。
異周速圧延時の材料温度を150℃以上とすることによって、材料内に均質に剪断変形を導入することが容易となる。また、異周速圧延時の温度を350℃以下とすることによって、圧延中の再結晶発生が防止され、剪断変形を十分に導入することが可能となる。そのため、目的とする集合組織制御が可能となる。異周速圧延の圧下率を50%以上とすることによって、ロールと材料との間のスリップが著しく生じ難くなり、また、異周速圧延による剪断変形を導入することが可能となり、目的とする集合組織制御を行ないやすくなる。なお、65%を越える圧下率で異周速圧延することが、より好ましい。ここで、異周速圧延における圧下率の上限は特に限定されるものではないが、割れの無い健全なアルミニウム合金の板材を得るために、80%以下とすることが特に好ましい。
異周速圧延を行う際に圧延油の油膜厚みを調整することによって、アルミニウム合金板1の表面と裏面の摩擦状態を略均一にする。ここで、「略均一」とは、アルミニウム合金板1の表面と裏面の摩擦状態が均一な状態だけでなく、アルミニウム合金板1の表面と裏面の摩擦状態の差がわずかであり、表面と裏面の摩擦状態の差が異周速圧延に影響を及ぼさない程度の状態をも含むものとする。
圧延油の油膜厚みは式1で表され、ワークロールの周速(UR)と噛み込み角度(α)とを調整することによって、調整することができる。式1において、「∝」は、左辺(td)は右辺に比例することを意味する。
(式1)
td ∝ η×(UR+US)/αP (1)
td:圧延油の油膜厚さ
η:圧延油の粘度
UR:ワークロールの周速
US:アルミニウム合金板の速度
α:噛み込み角度
P:アルミニウム合金板の変形抵抗
td ∝ η×(UR+US)/αP (1)
td:圧延油の油膜厚さ
η:圧延油の粘度
UR:ワークロールの周速
US:アルミニウム合金板の速度
α:噛み込み角度
P:アルミニウム合金板の変形抵抗
異周速圧延においては、一対のワークロールの周速が異なる状態で圧延されるため、低速ワークロール2側の噛み込み角度α1(第1の噛み込み角度)と高速ワークロール3側の噛み込み角度α2(第2の噛み込み角度)とが等しい場合には、低速ワークロール2側の油膜厚みが小さくなってしまう。そのため、低速ワークロール2側の噛み込み角度α1を、高速ワークロール3側の噛み込み角度α2よりも小さくすることで、低速ワークロール2側の油膜厚さと高速ワークロール3側の油膜厚さとを略等しくする。ここで、油膜厚さが「略等しい」とは、油膜厚さが等しい状態だけでなく、異周速圧延後の表面と裏面の表面性状に差が生じない程度に油膜厚さの差が小さい状態をも含むものとする。
具体的には図1に示すように、低速ワークロール2側にアルミニウム合金板1を傾けて、低速ワークロール2と高速ワークロール3との間にアルミニウム合金板1を挿入することによって(すなわち、アルミニウム合金板1の入射角θを正の値とする)、第1の噛み込み角度α1を第2の噛み込み角度α2よりも小さくし、低速ワークロール2側の圧延油の油膜厚さと高速ワークロール3側の圧延油の油膜厚さが略均一になるように調整する。ここで、パスライン(図1における水平方向の点線PL)とアルミニウム合金板1との間の入射角θを、好ましくは1°以上10°以下、より好ましくは1°以上5°以下とすることによって、高速ワークロール3とアルミニウム合金板1との間の噛み込み角度α2が大きくなり過ぎることを一層抑制することができる。こうすることによって、高速ワークロール3側の油膜厚さ(td)が薄くなり過ぎることを防ぎ、高速ワークロール3側の摩擦状態をより高く維持し、アルミニウム合金板1の表面性状と裏面性状とを、より均一にすることができる。
ここで、周速比xと入射角θとが以下の式2に示す関係を満足する範囲において、アルミニウム合金板1の表面と裏面との粗度の差の絶対値がRa:0.1μm以下であり、優れた成形性を有し、平均r値が0.9以上である高成形性のアルミニウム合金板1(Al−Mg−Si系合金板)を得ることができる。尚、式2の関係は後述する実施例の実験結果より導出できる。
(式2)
4.7≦θ/(x−1)≦5.3 (2)
θ:パスラインPLとアルミニウム合金板1との間の角度(アルミニウム合金板1の入射角)
x:高速ワークロール3の周速/低速ワークロール2の周速
4.7≦θ/(x−1)≦5.3 (2)
θ:パスラインPLとアルミニウム合金板1との間の角度(アルミニウム合金板1の入射角)
x:高速ワークロール3の周速/低速ワークロール2の周速
式2中のθ/(x−1)が4.7より小さい場合、周速比xに対して入射角θが小さく、低速ワークロール2と接する側の面の粗度が大きくなりすぎてしまう。一方、式2中のθ/(x−1)が5.3より大きい場合、逆に高速ワークロール3と接する側の面の粗度が大きくなりすぎてしまう。そのため、θ/(x−1)が4.3未満である場合、5.3超過である場合ともに、アルミニウム合金1の表面と裏面との間の所望の粗度差を得ることが困難である。
上述のように、本発明の実施形態に係る成形加工用のアルミニウム合金板1の製造方法においては、圧延加工により得られた圧延集合組織を温間異周速圧延によってさらに好ましい集合組織へと変化させ、パスラインPLとアルミニウム合金板1との間の角度θを調整することによって、第1の噛み込み角度α1を第2の噛み込み角度α2よりも小さくする。本発明の実施形態においては、入射角θと周速比xとが上述の式2の関係を満たし、さらに後述の溶体化処理後のアルミニウム合金板1の表面と裏面との粗度の差の絶対値(アルミニウム合金板1の表面粗度と裏面粗度との差の絶対値)がRa:0μm超過0.1μm以下である。
通常、周速比が小さい場合には表裏面粗度差が生じ難いが、平均r値が0.9以上を達成することは難しい。また、周速比が大きい場合には平均r値が0.9以上を達成できるが、表裏面粗度差が大きくなる。
一方、本発明の実施形態においては、パスラインPLとアルミニウム合金板1とがなす角度θを大きくすることにより、低速ワークロール2と接する側の面における第1の噛み込み角度α1を、高速ワークロール3と接する側の面における第2の噛み込み角度α2よりも小さくすることができるので、低速ワークロール2側の圧延油の油膜厚みtdを増すことができ、異周速圧延時の低速ワークロール2側の潤滑状態が向上するので、アルミニウム合金板1の低速ワークロール2側の面粗度が改善される。その際に、高速ワークロール3と接する側の面における第2の噛み込み角度α2を大きくすることで高速ワークロール3側の圧延油の油膜厚みtdは減少するが、高速ワークロール3の周速が大きいため、上述の式2の範囲内において、低速ワークロール2側の面(裏面)と高速ワークロール3側の面(表面)の圧延時の潤滑状態をより均一にすることができる。
一方、本発明の実施形態においては、パスラインPLとアルミニウム合金板1とがなす角度θを大きくすることにより、低速ワークロール2と接する側の面における第1の噛み込み角度α1を、高速ワークロール3と接する側の面における第2の噛み込み角度α2よりも小さくすることができるので、低速ワークロール2側の圧延油の油膜厚みtdを増すことができ、異周速圧延時の低速ワークロール2側の潤滑状態が向上するので、アルミニウム合金板1の低速ワークロール2側の面粗度が改善される。その際に、高速ワークロール3と接する側の面における第2の噛み込み角度α2を大きくすることで高速ワークロール3側の圧延油の油膜厚みtdは減少するが、高速ワークロール3の周速が大きいため、上述の式2の範囲内において、低速ワークロール2側の面(裏面)と高速ワークロール3側の面(表面)の圧延時の潤滑状態をより均一にすることができる。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法においては、異周速圧延におけるロール周速比、すなわち一対の圧延ロールの周速比x(周速が小さい側のロールの周速に対する周速が大きい側の周速の比。つまり、図1における高速ワークロール3の周速/低速ワークロール2の周速)は、好ましくは、1.5以上2.5以下の範囲である。周速比が1.5以上であることによって、十分な剪断変形を付与することが可能となる。また、周速比が2.5以下であることによって、ワークロールとアルミニウム合金材料との間のスリップの発生が抑制され、また、アルミニウム合金材料の局部的な変形の発生が抑制され、正常なアルミニウム合金板を得ることができる。以上のことから、ワークロールと材料との間のスリップの発生が抑制され、より確実に剪断変形を付与するために、周速比を1.5以上2.5以下の範囲内とすることが好ましい。
また、アルミニウム合金板の最終板厚(異周速圧延上がり板厚)は特に限定されるものではないが、成形用としては、たとえば、0.3mm以上2mm以下が好適に選択される。
異周速圧延で使用する圧延機として、一対の圧延ロールの外径(ロール径)がそれぞれ等しいものを用いる場合、一対の圧延ロールを異なる周速度で駆動させ得る機構を備えた圧延機が用いられる。圧延機の具体的な駆動方式は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されないが、たとえば、一対のロールが速度可変モーターにより別駆動される方式、あるいはギアなどの機械的機構で周速の比を変化させ得る方式が好適に用いられ得る。また、異周速圧延を安定的に行なうためには、ロールの加熱機構を有する圧延機を使用することが特に望ましい。この場合、ロール内にヒーターが内蔵された圧延機を用いてもよいし、あるいはロール加熱用のヒーターがロールに近接した外部に設置された圧延機を用いてもよい。
(溶体化処理工程)
以上のように異周速圧延を行なって所定の板厚としたAl−Mg−Si系合金板に対して、次に、溶体化処理を施す。すなわち、Al−Mg−Si系合金板に溶体化処理を施すことによって、析出硬化に寄与するMg、Siなどを十分に固溶させて、Al−Mg−Si系合金に良好なBH性をもたらすことができる。塗装焼付け処理を行なって使用する成形加工用のAl−Mg−Si系合金板の製造において溶体化処理は一般的に適用されているが、溶体化処理時に再結晶を生起させることもできる。このようにして、溶体化処理時に再結晶を生起させることによって、より高いr値と、より良好な深絞り性を示す集合組織状態を有するアルミニウム合金板を得ることが可能となる。
以上のように異周速圧延を行なって所定の板厚としたAl−Mg−Si系合金板に対して、次に、溶体化処理を施す。すなわち、Al−Mg−Si系合金板に溶体化処理を施すことによって、析出硬化に寄与するMg、Siなどを十分に固溶させて、Al−Mg−Si系合金に良好なBH性をもたらすことができる。塗装焼付け処理を行なって使用する成形加工用のAl−Mg−Si系合金板の製造において溶体化処理は一般的に適用されているが、溶体化処理時に再結晶を生起させることもできる。このようにして、溶体化処理時に再結晶を生起させることによって、より高いr値と、より良好な深絞り性を示す集合組織状態を有するアルミニウム合金板を得ることが可能となる。
上述のように、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板(Al−Mg−Si系合金板)の製造方法においては、溶体化処理により、析出硬化に寄与するMg、Siなどを十分に固溶させて良好なBH性を実現できると同時に、溶体化処理時に再結晶を生起させることも可能なため、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法においては、異周速圧延の後に、再結晶処理と兼ねて溶体化処理が行なわれることが好ましい。なお、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法における溶体化処理の加熱温度は、460℃以上580℃以下が特に望ましく、また、本発明の実施形態に係る溶体化処理は、連続焼鈍装置(CAL:Continuous Annealing Line)を用いて行われ得る。CALを用いる場合、保持時間を好ましくは0分(すなわち目標とする加熱温度到達後直ちに冷却)以上5分以下とし、5℃/秒以上の昇温速度・降温速度で急速加熱および急速冷却で溶体化処理を実施することが好ましい。また、通常のバッチ炉を用いて溶体化処理することも可能であり、バッチ炉を用いる場合には、JIS W1103(1985)に従った条件、すなわち、保持温度は516℃以上580℃以下で、保持時間は0.5時間以上の条件で溶体化処理を実施することが望ましい。
(時効処理工程)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金)は、室温時効性が高く、そのため溶体化処理・急冷の後、加工までの室温保持期間が長いほど材料強度が上がって、成形性が低下してしまうことがある。このような室温時効による特性変化を緩和するために、予備時効処理として、溶体化処理からの急冷後、150℃以上300℃以下の温度で、5分間以下の連続焼鈍を行う、または、60℃以上150℃以下の温度で、0.5時間以上24時間以下のバッチ焼鈍を行なうことが特に好ましい。この予備時効処理は、室温時効の要因となる空孔濃度を減少させるのが主目的であり、その加熱温度が連続焼鈍においては150℃以上、バッチ焼鈍においては60℃以上で処理することによって、空孔量を十分に低減することができる。一方、連続焼鈍による予備時効処理においては300℃以下、バッチ焼鈍による予備時効処理においては150℃以下で処理することによって、強度に寄与しない安定相析出物の形成が抑制され、BH性を高く維持することができる。また、バッチ焼鈍による予備時効処理の保持時間を0.5時間以上とすることによって、室温時効緩和の効果を十分に得ることができる。一方、連続焼鈍による予備時効処理においては5分間以下、バッチ焼鈍による予備時効処理においては24時間以下の処理時間とすることによって、コストの増加を抑えつつ効果的な予備時効処理を行うことが可能となる。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金(Al−Mg−Si系合金)は、室温時効性が高く、そのため溶体化処理・急冷の後、加工までの室温保持期間が長いほど材料強度が上がって、成形性が低下してしまうことがある。このような室温時効による特性変化を緩和するために、予備時効処理として、溶体化処理からの急冷後、150℃以上300℃以下の温度で、5分間以下の連続焼鈍を行う、または、60℃以上150℃以下の温度で、0.5時間以上24時間以下のバッチ焼鈍を行なうことが特に好ましい。この予備時効処理は、室温時効の要因となる空孔濃度を減少させるのが主目的であり、その加熱温度が連続焼鈍においては150℃以上、バッチ焼鈍においては60℃以上で処理することによって、空孔量を十分に低減することができる。一方、連続焼鈍による予備時効処理においては300℃以下、バッチ焼鈍による予備時効処理においては150℃以下で処理することによって、強度に寄与しない安定相析出物の形成が抑制され、BH性を高く維持することができる。また、バッチ焼鈍による予備時効処理の保持時間を0.5時間以上とすることによって、室温時効緩和の効果を十分に得ることができる。一方、連続焼鈍による予備時効処理においては5分間以下、バッチ焼鈍による予備時効処理においては24時間以下の処理時間とすることによって、コストの増加を抑えつつ効果的な予備時効処理を行うことが可能となる。
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成形加工用のアルミニウム合金板は、表面性状と裏面性状が均一で、かつ平均r値が高くて成形性に優れた健全なAl−Mg−Si系合金板である。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法によって、工業的に量産的規模で確実かつ安定してアルミニウム合金を製造することができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。たとえば、本発明の実施形態においては、図1に示すように低速ワークロール2を上側のワークロールとし、高速ワークロール3を下側のワークロールとしたが、上側のワークロールを高速ワークロールとし、下側のワークロールを低速ワークロールとして、下側のワークロール側にアルミニウム合金板を傾けて入射させてもよい。
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
表1に示す成分組成の各合金を常法に従って溶解し、実験室規模のDC鋳造により、厚さ80mm、幅200mm、長さ1500mmの鋳塊に鋳造した。得られた鋳塊を530℃で8時間にわたって均質化処理した後、表2および表3に示すそれぞれの圧延開始時板厚まで常法に従って温間圧延を施した。温間圧延は上下のワークロールをそれぞれ独立したモーターで駆動させた温間圧延機を用いて行われた。上下のワークロールの径は共にφ450mmであり、上下のワークロールの回転速度は共に3m/分で一定であった。
その後、後述の条件で温間異周速圧延を行い、表2および表3に示す最終板厚(1.0mm)とした後、再結晶処理を兼ねて溶体化処理を行なった。この溶体化処理はソルトバスを用いて、530℃に加熱して30秒保持した後、強制空冷する条件で実施した。なお、表2および表3に示す圧延前(熱間圧延後)には、アルミニウム合金からなるそれぞれの元材をそれぞれ表2および表3に示す所定の圧延温度で2時間保持する予備加熱を行なった。ついで、最終焼鈍(再結晶熱処理)を施して、アルミニウム合金板を得た。
温間異周速圧延は、上下のワークロールをそれぞれ独立したモーターで駆動させた温間異周速圧延機を用いて行われた。上のワークロールが低速ワークロール、下のワークロールが高速ワークロールであった。高速ワークロールの回転速度を3m/分で一定とし、低速ワークロールの回転速度を表2および表3に示す周速率および周速比に応じて変化させた。径が共にφ450mmである高速ワークロールおよび低速ワークロールを備える温間異周速圧延機によって、温間異周速圧延を施した。それぞれの実験(実施例1〜4、比較例1〜22)に対する異周速圧延の条件(総圧下率、周速率、周速比x、角度θ、θ/x−1)を表2および表3に示す。
アルミニウム合金板の材料評価を行う際、高速ロール側と接した面を表面と定義し、低速ロール側と接した面を裏面と定義し、表面と裏面とを明確に区別して実験を行った。
以上のように得られた溶体化処理後のそれぞれのアルミニウム合金板について、その健全性を目視によって調べるとともに、圧延方向(0°、45°、90°)にJIS5号試験片を切り出し、それぞれの試験片に対して引張試験を行い、引張強さ(TS)、耐力(YS)および伸び(EL)、r値を求めた。TS、YS、ELおよび平均r値(平均ランクフォード値)を表4および表5に示す。表4および表5に示されるTS、YS、ELの数値は、圧延方向に対して0°、45°、90°に切り出された試験片のTS、YS、ELの測定値の平均値である。平均r値は、15%歪みでの各方向(圧延方向に対して0°、45°、90°)のr値をそれぞれ測定して(それぞれ、r0、r45、r90とする)、その平均値を以下の式を用いて計算することによって算出した。平均r値=(r0+2×r45+r90)/4で表わされる値である。また、TS、YS、ELも、平均r値と同様に、15%歪みでの各方向(圧延方向に対して0°、45°、90°)のTS、YS、ELをそれぞれ測定して(それぞれ、TS0、TS45、TS90、YS0、YS45、YS90、EL0、EL45、EL90とする)、その平均値を以下の式を用いて計算することによって算出した。平均TS=(TS0+2×TS45+TS90)/4で表わされる値であり、平均YS=(YS0+2×YS45+YS90)/4で表わされる値であり、平均EL=(EL0+2×EL45+EL90)/4で表わされる値であった。引張試験には、島津製作所社製100kN型式AG−100−KNISの引張試験機を用いた。表5の比較例10の「−」は、アルミニウム合金板の圧延健全性がなかったために表面の粗度測定および性能評価を実施できず、比較例10のアルミニウム合金板に関しては表面粗度および性能評価の実験データを得られなかったことを示す。
表面の粗度および裏面の粗度は、表面粗さ測定機(東京精密社製)を用いて測定された。表面、裏面それぞれの粗度がRa(μm)を基準として測定され、実験に用いたそれぞれのアルミニウム合金の表面の粗度、裏面の粗度、および、表面粗度と裏面粗度との差の絶対値が表4および表5に示される。
圧延板の健全性は、外観および断面の目視観察によって評価された。圧延あるいはその後の熱処理で、割れや形状不良、膨れなどを生じて、その後の特性評価が不可能な場合は「×」と評価した。また材料の圧延方向に平行な100mm長さの断面を5箇所観察して、深さ30μm以上(板厚に対して3%以上)の表面割れ欠陥が生じていた場合には「△」と評価し、表面割れ欠陥が認められない場合には良好と判断して、「○」と評価した。ここで、○および△を合格とし、×を不合格とした。
深絞り性は、ポンチ径32mmの円筒ポンチを用いて、押し圧力を100kg/mm2として、限界絞り比(LDR)を測定することによって評価された。
曲げ加工性は以下のようにして評価された。まず、圧延方向に対して0°、45°、90°方向に曲げ試験片を採取し、1mmt(曲げ半径0.5mmt)の中板を挟んで、表面と裏面とが曲げの山側となるように(表4および表5に示す平均曲げ評点中の表面と裏面に対応)、それぞれ180°曲げ試験を行った。次に、それぞれの試験片を、図2に示す曲げ評点見本と照らし合わせて、各方向の曲げ評点を評価し、それらを平均することによって平均曲げ評点を算出した。これらの結果を表4および表5に示す。なお、曲げ評点は、高いほど曲げ加工性が良好であることを表す。
曲げ加工性は以下のようにして評価された。まず、圧延方向に対して0°、45°、90°方向に曲げ試験片を採取し、1mmt(曲げ半径0.5mmt)の中板を挟んで、表面と裏面とが曲げの山側となるように(表4および表5に示す平均曲げ評点中の表面と裏面に対応)、それぞれ180°曲げ試験を行った。次に、それぞれの試験片を、図2に示す曲げ評点見本と照らし合わせて、各方向の曲げ評点を評価し、それらを平均することによって平均曲げ評点を算出した。これらの結果を表4および表5に示す。なお、曲げ評点は、高いほど曲げ加工性が良好であることを表す。
{111}面方位密度は、アルミニウム合金板の表側の表面と裏側の表面の位置に加え、板厚方向に全板厚の1/8毎の各位置でX線回折により純アルミニウム粉末(ランダム方位試料)に対する圧延板の極点図を測定し、3次元方位分布密度(ODF)解析を行なうことによって求められた。本実施例において、各面の方位密度は以下に示すBunge法における角度範囲から10°の角度内にある最大方位密度とした。
{111}面:(φ1=0〜90°、Φ=55°、φ2=45°)
{111}面:(φ1=0〜90°、Φ=55°、φ2=45°)
図3は、表2に示す実施例1〜4および表3に示す比較例11〜22の周速比xと角度θとの関係を示す図である。図3中、実線のラインで挟まれた領域が、上述の式2の条件を満たす範囲である。
表5に示すように、比較例2〜9、11〜22のアルミニウム合金板は、0.9以上の平均r値を有していたが、表裏面の粗度差Raの絶対値が0.1μmを超えていた。すなわち、表裏面性状の均一な板材の作製に至っておらず、表裏面における平均曲げ評点で表させる曲げ加工性がアルミニウム合金板の裏面で優れなかった。
比較例1(周速率140%)においては、アルミニウム合金板に十分なせん断変形を与えることができず、平均r値が0.9未満であった。また、比較例10(周速率260%)においては、圧延中にスリップしてしまい、健全な板材の作製ができなかった。
これに対して、表4に示すように、式2を満たす実施例1〜4のアルミニウム合金板は、いずれも表面粗度と裏面粗度との差の絶対値がRa:0.1μm以下を示すとともに、0.9以上の平均r値を有し、LDRで表される深絞り性、表裏面における平均曲げ評点で表される曲げ加工性も良好であった。
1 アルミニウム合金板
2 低速ワークロール
3 高速ワークロール
PL パスライン
2 低速ワークロール
3 高速ワークロール
PL パスライン
Claims (7)
- アルミニウム合金板であって、
0.3質量%以上2.0質量%以下のMgと、
0.3質量%以上2.5質量%以下のSiと、
を含み、
平均ランクフォード値が0.9以上であり、
前記アルミニウム合金板の一方の面のRaと、前記アルミニウム合金板のもう一方の面のRaとの差の絶対値が0.1μm以下である、
ことを特徴とするアルミニウム合金板。 - 溶体化処理後の{111}面の方位集積密度が1.0以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金板。 - アルミニウム合金板の異周速圧延方法であって、
前記アルミニウム合金板の入射角θを調整することによって、低速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第1の噛み込み角度を、高速ワークロールと前記アルミニウム合金板との間の第2の噛み込み角度よりも小さくする、
ことを特徴とする異周速圧延方法。 - 前記異周速圧延方法において、
前記入射角θと、周速比xとが、
4.7≦θ/(x−1)≦5.3
の関係を満たす、
ことを特徴とする請求項3に記載の異周速圧延方法。 - 前記周速比xを1.5以上2.5以下とする、
ことを特徴とする請求項4に記載の異周速圧延方法。 - 前記入射角θを1°以上5°以下とする、
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の異周速圧延方法。 - 請求項3乃至6のいずれか1項に記載の異周速圧延方法を用いる、
ことを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2013027293A JP2014156625A (ja) | 2013-02-15 | 2013-02-15 | 成形性に優れるアルミニウム合金板、異周速圧延方法およびアルミニウム合金板の製造方法 |
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Publications (1)
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JP2014156625A true JP2014156625A (ja) | 2014-08-28 |
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ID=51577687
Family Applications (1)
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Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2014156625A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2016079475A (ja) * | 2014-10-20 | 2016-05-16 | 昭和電工株式会社 | 熱伝導性・導電性部材の製造方法 |
CN114411007A (zh) * | 2022-01-25 | 2022-04-29 | 湘潭大学 | 一种粉末轧制法制备高模6061铝合金板材的方法 |
-
2013
- 2013-02-15 JP JP2013027293A patent/JP2014156625A/ja active Pending
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CN114411007A (zh) * | 2022-01-25 | 2022-04-29 | 湘潭大学 | 一种粉末轧制法制备高模6061铝合金板材的方法 |
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