駆動源としては、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンや電動モータなどが好適に用いられる。電気式無段変速部は、例えば遊星歯車装置等の差動機構を有して構成されるが、インナロータおよびアウタロータを有する対ロータ電動機を用いることも可能で、それ等のロータの何れか一方に駆動源が連結され、他方に中間伝達部材が連結される。対ロータ電動機は、モータジェネレータと同様に力行トルクおよび回生トルクを選択的に出力できるもので、差動用回転機としても機能する。駆動源や中間伝達部材は、必要に応じてクラッチや変速歯車等を介して上記差動機構等に連結される。中間伝達部材には、必要に応じて走行駆動用回転機が直接または変速歯車等を介して連結される。
電気式無段変速部の差動機構としては、シングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置が好適に用いられる。この遊星歯車装置はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を1本の直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転速度が中間の回転要素(シングルピニオン型遊星歯車装置のキャリア、ダブルピニオン型遊星歯車装置のリングギヤ)に駆動源が連結され、両端の回転要素に差動用回転機および中間伝達部材が連結されるが、中間の回転要素に中間伝達部材を連結するようにしても良い。この3つの回転要素は、常に差動回転可能であっても良いが、任意の2つをクラッチにより一体的に連結できるようにして、運転状態に応じて一体回転させるようにしたり、差動用回転機が連結される回転要素をブレーキにより回転停止できるようにしたりして、差動回転を制限することも可能である。複数の遊星歯車装置を組み合わせた差動機構を採用することもできる。
回転機は回転電気機械のことで、具体的には電動モータ、発電機、或いはその両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータである。差動用回転機として発電機を採用し、走行駆動用回転機として電動モータを採用することもできるが、種々の運転状態を想定した場合、差動用回転機、走行駆動用回転機の何れもモータジェネレータを用いることが望ましい。
機械式有段変速部としては、遊星歯車式や平行軸式の変速機が広く用いられており、例えば複数の油圧式摩擦係合装置が油圧制御で係合、解放されることによって複数のギヤ段(メカギヤ段)が成立させられるように構成される。複数のメカギヤ段は前進ギヤ段が適当であるが、後進ギヤ段であっても良い。
複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比を維持できるように出力回転速度に応じて駆動源回転速度を制御することによって成立させられるが、各変速比は必ずしも機械式有段変速部のメカギヤ段のように一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。本発明は、複数の模擬ギヤ段を運転者の変速要求に従って変速する手動変速モードを有することが前提であるが、予め定められた模擬ギヤ段変速条件に従って自動的に変速する自動変速モードを備えることもできる。手動変速モードは、シフトレバーやアップダウンスイッチ等による運転者の変速要求に従って1段ずつアップダウンするシーケンシャル変速制御が適当であるが、何れかの模擬ギヤ段へ直接変速するものでも良い。また、この手動変速モードは、変速要求に従って何れかの模擬ギヤ段に切り換えて保持するギヤ段ホールドでも、変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる複数の変速レンジを変速要求に従って切り換えるレンジホールドでも良い。各変速レンジでは、その変速レンジ毎に定められた模擬ギヤ段の範囲内で自動変速モードと同様にして自動的に変速が行なわれる。自動変速モードの模擬ギヤ段変速条件は、例えば出力回転速度およびアクセル操作量等の車両の運転状態をパラメータとして予め定められたアップシフト線やダウンシフト線等の変速マップが適当であるが、その他の自動変速条件を定めることもできる。本発明は、アップシフトおよびダウンシフトの両方に適用することが望ましいが、アップシフトおよびダウンシフトの何れか一方に適用するだけでも良い。
複数の模擬ギヤ段の段数は複数のメカギヤ段の段数以上が望ましく、例えば各メカギヤ段に対してそれぞれ1または複数の模擬ギヤ段を成立させるように割り当てられるとともに、複数のメカギヤ段の変速条件は、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングで変速が行なわれるように定められることが望ましい。このようにすれば、駆動源の回転速度変化を伴って機械式有段変速部の変速が行なわれるため、その機械式有段変速部の変速時に変速ショックがあっても運転者に違和感を与え難くなる。模擬ギヤ段の段数はメカギヤ段の段数の2倍以上が適当である。メカギヤ段の変速は、中間伝達部材やその中間伝達部材に連結される走行駆動用回転機の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうもので、模擬ギヤ段の変速は、駆動源回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それ等の段数は適宜定められるが、一般的な車両の場合、メカギヤ段の段数は例えば2速〜6速程度の範囲内が適当で、模擬ギヤ段の段数は例えば5速〜12速程度の範囲内が適当である。
模擬ギヤ段の変速制御がメカギヤ段の変速制御と重なる同時変速は、共通の変速条件(変速マップや変速要求など)に従って同時に変速判断が行なわれる場合の他、模擬ギヤ段の変速判断が為された時に既にメカギヤ段の変速制御が実行中の場合であっても良い。模擬ギヤ段の変速およびメカギヤ段の変速が同期して行なわれるようにする同期変速制御は、両者の変速時のイナーシャ相(変速比の変化に応じて入力側部材の回転速度が変化する時間帯)の少なくとも一部が重複(オーバーラップ)するように、模擬ギヤ段の変速指令出力を遅延させる制御である。変速指令出力の遅延を解除するタイミング、すなわち変速指令を出力するタイミングは、例えばメカギヤ段の変速指令出力後の経過時間が、両者の変速応答時間の差に応じて予め実験やシミュレーション等により定められた同期用遅延時間に達したか否かによって判断できるが、メカギヤ段の変速時の中間伝達部材の回転速度変化からイナーシャ相開始を検出したり、変速を実行する摩擦係合装置の油圧すなわち係合トルク等から変速の進行度合を検出したりして判断しても良い。
単独変速遅延制御部は、少なくとも運転者による変速要求に従って変速する手動変速モードにおける単独変速時に模擬ギヤ段の変速指令出力を遅延させるもので、自動変速モードにおける単独変速時には必ずしも変速指令出力を遅延させる必要はない。すなわち、自動変速モードでは、自動的に変速が行なわれるため、変速マップ等による変速判断から実際に変速が行なわれるまでの応答時間がばらついても、運転者に違和感を生じさせる恐れはない。但し、自動変速モードでも、手動変速モードと同様に単独変速時の変速指令の出力を遅延させても良い。同期変速制御部による同期変速は、模擬ギヤ段の変速とメカギヤ段の変速を同期させて行なうものであるため、自動変速モードか手動変速モードかに拘らず実施することが望ましい。単独変速遅延制御部による遅延時間(単独変速用遅延時間)は、変速要求からイナーシャ相開始までの変速所要時間が同時変速時における変速所要時間、すなわち機械式有段変速部の変速指令出力からイナーシャ相開始までの変速応答時間、と同程度となるように、予め実験やシミュレーション等によって定められる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図で、変速制御に関する制御系統の要部を併せて示した図である。車両用駆動装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設されたエンジン14と、このエンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部16と、その電気式無段変速部16の出力側に連結された機械式有段変速部20と、その機械式有段変速部20の出力側に連結された出力軸22とを直列に備えている。そして、この出力軸22から、差動歯車装置(終減速機)32および一対の車軸等を介して一対の駆動輪34に駆動力が伝達される。この車両用駆動装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。エンジン14は走行用の駆動源で、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、本実施例ではトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく電気式無段変速部16に連結されている。
電気式無段変速部16は、差動用の第1モータジェネレータMG1と、エンジン14の出力を第1モータジェネレータMG1および中間伝達部材18に機械的に分割する差動機構24と、中間伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている走行駆動用の第2モータジェネレータMG2と、を備えている。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、何れも電動モータおよび発電機として択一的に用いることができるもので、第1モータジェネレータMG1は差動用回転機に相当し、第2モータジェネレータMG2は走行駆動用回転機に相当する。本実施例の車両用駆動装置10は、走行用駆動源としてエンジン14および第2モータジェネレータMG2を備えているハイブリッド車両に関するものである。
上記差動機構24は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0を備えている。キャリアCA0は連結軸36を介してエンジン14に連結されている第1回転要素で、サンギヤS0は第1モータジェネレータMG1に連結されている第2回転要素で、リングギヤR0は中間伝達部材18および第2モータジェネレータMG2に連結されている第3回転要素である。言い換えれば、図9の左側に示す電気式無段変速部16の共線図において、中間に位置する中間の回転速度となるキャリアCA0にエンジン(E/G)14が連結され、両端に位置するサンギヤS0およびリングギヤR0にそれぞれ差動用の第1モータジェネレータMG1、走行駆動用の第2モータジェネレータMG2が連結されている。これ等のサンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0は互いに相対回転可能で、エンジン14の出力が第1モータジェネレータMG1と中間伝達部材18に分割され、第1モータジェネレータMG1が回生制御(発電制御ともいう)されることによって得られた電気エネルギーで第2モータジェネレータMG2が回転駆動され、或いはインバータ38を介して蓄電装置(バッテリー)40が充電される。第1モータジェネレータMG1の回生制御や力行制御で、その第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)NgすなわちサンギヤS0の回転速度を制御することにより、差動機構24の差動状態を適宜変更することが可能で、連結軸36の回転速度すなわちエンジン回転速度Neと中間伝達部材18の回転速度(中間伝達部材回転速度)Nmとの変速比γ1(=Ne/Nm)を無段階(連続的)で変化させることができる。中間伝達部材回転速度Nmは、第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)と同じであるため、両者を同じ記号Nmで表記する。
機械式有段変速部20は、エンジン14と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成しており、何れもシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26および第2遊星歯車装置28を有する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26はサンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1を備えており、第2遊星歯車装置28はサンギヤS2、キャリアCA2、およびリングギヤR2を備えている。そして、サンギヤS1は、第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結される。サンギヤS2は、第1クラッチC1を介して中間伝達部材18に選択的に連結される。キャリアCA1およびリングギヤR2は、互いに一体的に連結されており、第2クラッチC2を介して中間伝達部材18に選択的に連結されるとともに、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結される。これ等のキャリアCA1およびリングギヤR2はまた、一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結され、エンジン14と同方向の回転が許容される一方、逆方向の回転が阻止されるようになっている。リングギヤR1およびキャリアCA2は、互いに一体的に連結されて出力軸22に一体的に連結されている。
そして、このような機械式有段変速部20は、上記クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)が選択的に係合させられることにより、中間伝達部材回転速度Nmと出力軸22の回転速度(出力回転速度)Nout との変速比γ2(=Nm/Nout )が異なる複数の前進ギヤ段が成立させられる。この複数の前進ギヤ段は、機械的に成立させられるメカギヤ段に相当する。図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が最も大きいメカ1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合によりメカ1速ギヤ段よりも変速比γ2が小さいメカ2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ2=1のメカ3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が1より小さいメカ4速ギヤ段が成立させられる。なお、第2ブレーキB2と並列に一方向クラッチF1が設けられているため、第2ブレーキB2は被駆動時にメカ1速ギヤ段でエンジンブレーキを効かせる場合に係合させれば良く、発進時等の駆動時には解放状態のままで良い。
上記クラッチCおよびブレーキBは、油圧によって摩擦係合させられる多板式或いは単板式の油圧式摩擦係合装置である。図3は、これ等のクラッチCおよびブレーキBを係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL4を含む油圧制御回路42の要部を示す回路図で、油圧供給装置44からマニュアルバルブ46を経てDレンジ圧(前進レンジ圧)PDが供給されるようになっている。油圧供給装置44は、エンジン14によって回転駆動される機械式オイルポンプや、エンジン非作動時に電動モータによって駆動される電動式オイルポンプ等を油圧源として備えており、ライン圧コントロールバルブ等により調圧して所定の油圧(ライン圧)を出力する。マニュアルバルブ46は、前進走行用のDポジションや後進走行用のRポジション、或いは動力伝達を遮断するNポジション等へ選択的に移動操作できるシフトレバー48の操作に応じて機械的に或いは電気的に油路を切り換えるもので、Dポジションへ操作された場合にDレンジ圧PDが出力される。
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)50、52、54、56には、それぞれ油圧制御装置であるリニアソレノイドバルブSL1〜SL4が配設されている。リニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、電子制御装置60によって独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ50、52、54、56の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2が個別に係合解放制御されることにより、前記メカ1速ギヤ段〜メカ4速ギヤ段が成立させられる。また、機械式有段変速部20の変速制御においては、変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツークラッチ変速が実行される。例えば、メカ3速ギヤ段からメカ2速ギヤ段への3→2ダウンシフトでは、図2の係合作動表に示すように第2クラッチC2が解放されると共に第1ブレーキB1が係合させられるが、変速ショックを抑制するために第2クラッチC2の解放過渡油圧や第2ブレーキB1の係合過渡油圧が予め定められた変化パターンなどに従って調圧制御される。このように、機械式有段変速部20の複数の係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧すなわち係合トルクは、リニアソレノイドバルブSL1〜SL4によって各々独立に且つ連続的に制御することができる。
このような車両用駆動装置10は、エンジン14の出力制御を行なったり電気式無段変速部16および機械式有段変速部20の変速制御を行なったりするコントローラとして電子制御装置60を備えている。この電子制御装置60は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェースなどを有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うもので、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて複数の電子制御装置を用いて構成される。電子制御装置60には、アクセル操作量センサ62、出力回転速度センサ64、エンジン回転速度センサ66、MG1回転速度センサ68、MG2回転速度センサ70、レバーポジションセンサ72、アップシフトスイッチ74、ダウンシフトスイッチ76等から、アクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Acc、出力回転速度Nout、エンジン回転速度Ne、MG1回転速度Ng、MG2回転速度Nm、シフトレバー48の操作ポジションPsh、アップシフト要求信号Rup、ダウンシフト要求信号Rdnなど、制御に必要な種々の情報が供給される。出力回転速度Noutは車速Vに対応する。
シフトレバー48は運転席の近傍に配設され、例えば図4に示すように5つの操作ポジション「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、および「S(シーケンシャル)」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは、動力伝達を遮断するとともにメカニカルパーキング機構等によって出力軸22の回転を機械的に阻止する駐車位置で、「R」ポジションは後進走行を行うための後進走行位置で、「N」ポジションは動力伝達を遮断するニュートラル位置である。また、「D」ポジションは、前記電気式無段変速部16および機械式有段変速部20を運転状態に応じて自動的に変速する自動変速モードで前進走行するための自動変速前進走行位置で、「S」ポジションは、電気式無段変速部16および機械式有段変速部20を手動操作で変速する手動変速モードで前進走行する手動変速前進走行位置である。この「S」ポジションには、シフトレバー48の操作毎にギヤ段をアップ側(高速側)にシフトさせるためのアップシフト位置「+」、シフトレバー48の操作毎にギヤ段をダウン側(低速側)にシフトさせるためのダウンシフト位置「−」が備えられており、それ等のアップダウン操作すなわち変速要求が前記アップシフトスイッチ74、ダウンシフトスイッチ76によって検出される。本実施例の手動変速モードは、シフトレバー48の操作に従ってギヤ段をアップダウンさせるギヤ段ホールドのシーケンシャル変速制御を行なうものである。シフトレバー48の代わりに、ステアリングホイール等に配置されたアップダウンスイッチ(押釦など)やレバー等を操作してギヤ段をアップダウンできるようにしても良い。
電子制御装置60は、機能的にメカ有段変速制御部80、ハイブリッド制御部82、および模擬有段変速制御部84を備えている。メカ有段変速制御部80は機械式有段変速部20の変速制御を行なう部分で、シフトレバー48が「S」ポジションへ操作された手動変速モードでは、シフトレバー48によるアップダウン操作に従ってメカギヤ段をアップダウンさせる。シフトレバー48が「D」ポジションへ操作された自動変速モードでは、出力回転速度Noutおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め定められたメカギヤ段変速マップに従って変速判断を行い、必要に応じて前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL4により前記クラッチCおよびブレーキBの係合解放状態を切り換えることにより、機械式有段変速部20のメカギヤ段を自動的に切り換える。図5は、メカギヤ段変速マップの一例で、実線はアップシフト線、破線はダウンシフト線であり、中間伝達部材18や第2モータジェネレータMG2の回転速度であるMG2回転速度Nmが所定の回転速度範囲内に保持されるように定められる。このメカギヤ段変速マップは、メカギヤ段変速条件に相当する。図5のメカギヤ段変速マップは、予めデータ記憶部90に記憶されている。
ハイブリッド制御部82は、例えばエンジン14を燃費効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン14と第2モータジェネレータMG2との駆動力の配分や第1モータジェネレータMG1の発電による反力を制御して電気式無段変速部16の変速比γ1を無段階に変化させる無段変速制御を実行する。例えば、その時の走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出するとともに、その車両の目標出力と充電要求値とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように、機械式有段変速部20のメカギヤ段の変速比γ2等に応じて、その機械式有段変速部20の必要入力トルクTinを求め、更に第2モータジェネレータMG2のアシストトルク等を考慮して、その必要入力トルクTinが得られる目標エンジン出力(要求エンジン出力)を算出する。そして、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御するとともに第1モータジェネレータMG1の発電量(回生トルク)をフィードバック制御する。エンジン14の出力制御は、例えば吸入空気量を制御する電子スロットル弁や燃料噴射量を制御する燃料噴射装置、点火時期の進遅角制御が可能な点火装置等を含むエンジン制御装置58を介して行なわれる。また、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の力行制御および回生制御は、インバータ38を介して蓄電装置40の充放電制御を行いつつ実行される。
模擬有段変速制御部84は、前記機械式有段変速部20の出力回転速度Noutに対するエンジン回転速度Neの変速比γ0(=Ne/Nout)が異なる複数の模擬ギヤ段を成立させるように電気式無段変速部16を制御する。この模擬有段変速制御部84を機能的に備えている電子制御装置60は変速制御装置に相当する。変速比γ0は、電気式無段変速部16の変速比γ1と機械式有段変速部20の変速比γ2とを掛け算した値(γ0=γ1×γ2)となる。複数の模擬ギヤ段は、例えば図6に示すように、それぞれの変速比γ0を維持できるように、出力回転速度Noutに応じて第1モータジェネレータMG1のトルク制御でエンジン回転速度Neを変化させることによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γ0は、必ずしも一定値(図6において原点0を通る直線)である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。図6は、複数の模擬ギヤ段として模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段を有する10段変速が可能な場合である。図6から明らかなように、模擬1速ギヤ段から模擬10速ギヤ段へ向かうに従って変速比γ0、すなわち出力回転速度Noutに対するエンジン回転速度Neの勾配(Ne/Nout)は小さくなる。複数の模擬ギヤ段は、出力回転速度Noutに応じてエンジン回転速度Neを変化させるだけで良く、機械式有段変速部20のメカギヤ段の種類とは関係無く所定の模擬ギヤ段を成立させることができる。
シフトレバー48が「S」ポジションへ操作された手動変速モードでは、シフトレバー48によるアップダウン操作に従って上記複数の模擬ギヤ段をアップダウンさせる。シフトレバー48が「D」ポジションへ操作された自動変速モードでは、予め定められた模擬ギヤ段変速マップに従って変速制御する。模擬ギヤ段変速マップは、前記メカギヤ段変速マップと同様に出力回転速度Noutおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め定められている。図7は、模擬ギヤ段変速マップの一例で、実線はアップシフト線、破線はダウンシフト線であり、エンジン回転速度Neが所定の回転速度範囲内に保持されるように定められる。すなわち、図5と同様にアクセル操作量Accが大きい程、或いは出力回転速度Noutが低くなる程、数字が小さい低速側のギヤ段に切り換えられ、アクセル操作量Accが小さい程、或いは出力回転速度Noutが高くなる程、数字が大きい高速側のギヤ段に切り換えられるように定められている。模擬ギヤ段変速マップは模擬ギヤ段変速条件に相当し、この模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り換えられるとエンジン回転速度Neが段階的に変化させられるため、機械式有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。この自動変速モードでの模擬有段変速は、本実施例では一定の実行制限時を除いて、前記ハイブリッド制御部82によって実行される無段変速制御に優先して実行されるが、手動変速モードの時だけ模擬有段変速を実行し、自動変速モードでは無段変速制御が行なわれるようにしても良い。図7の模擬ギヤ段変速マップおよび図6の各模擬ギヤ段のエンジン回転速度マップは、予めデータ記憶部90に記憶されている。
ここで、上記模擬有段変速制御部84による模擬有段変速制御と、前記メカ有段変速制御部80によるメカ有段変速制御とは、協調して制御される。すなわち、複数の模擬ギヤ段の段数は10で、複数のメカギヤ段の段数4よりも多く、各メカギヤ段に対してそれぞれ1または複数の模擬ギヤ段を成立させるように割り当てられている。図8は、ギヤ段割当テーブルの一例で、メカ1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段〜模擬3速ギヤ段が成立させられ、メカ2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤ段が成立させられ、メカ3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段〜模擬9速ギヤ段が成立させられ、メカ4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように定められている。図9は、電気式無段変速部16および機械式有段変速部20の各部の回転速度を直線で結ぶことができる共線図の一例で、機械式有段変速部20のメカギヤ段が2速(メカ2速)の場合に、模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したもので、出力回転速度Noutに対して所定の変速比γ0になるようにエンジン回転速度Neが制御されることによって、各模擬ギヤ段が成立させられる。
このように複数のメカギヤ段に対して複数の模擬ギヤ段が割り当てられることにより、手動変速モードおよび自動変速モードの何れの場合も、メカギヤ段の1⇔2変速時には模擬ギヤ段の3⇔4変速が行なわれ、メカギヤ段の2⇔3変速時には模擬ギヤ段の6⇔7変速が行なわれ、メカギヤ段の3⇔4変速時には模擬ギヤ段の9⇔10変速が行なわれる。前記図5、図7の変速マップに従って変速を行なう自動変速モードでは、メカギヤ段の変速タイミングと同じタイミングで模擬ギヤ段の変速が行なわれるように、模擬ギヤ段変速マップおよびメカギヤ段変速マップとして共通の変速マップが定められている。具体的には、図7の模擬ギヤ段変速マップにおける「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、図5のメカギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致するように定められ、図7の模擬ギヤ段変速マップにおける「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、図5のメカギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致するように定められている。これ等の変速に関しては、模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、メカギヤ段の変速指令を前記メカ有段変速制御部80に対して出力するようにし、図5に示すメカギヤ段変速マップを省略することもできる。このようにメカギヤ段の変速タイミングと同じタイミングで模擬ギヤ段の変速が行なわれると、エンジン回転速度Neの変化を伴って機械式有段変速部20の変速が行なわれるため、その機械式有段変速部20の変速時に変速ショックがあっても運転者に違和感を与え難くなる。機械式有段変速部20の変速は、油圧式のクラッチCやブレーキBの係合解放制御によって実行されるため、トルク変動等の変速ショックが生じ易い。
模擬有段変速制御部84はまた、模擬ギヤ段の変速制御に関して同期変速制御部86および単独変速遅延制御部88を機能的に備えており、図10のフローチャートのステップS1〜S6(以下、単にS1〜S6という)に従って信号処理を行なう。S2およびS3は同期変速制御部86に相当し、S5およびS6は単独変速遅延制御部88に相当する。図10のフローチャートは、自動変速モードか手動変速モードかに拘らず、シフトレバー48が「D」ポジションまたは「S」ポジションへ操作された前進走行時に実行されるが、単独変速遅延制御部88に相当するS5およびS6については、シフトレバー48が「S」ポジションへ操作された手動変速モードの時だけ実行され、自動変速モードでは直ちにS4を実行して変速指令が出力されるようにしても良い。
図10のS1では、前記模擬ギヤ段変速マップ或いはシフトレバー48によるアップダウン操作に従って模擬ギヤ段を変速すべき変速判断が為されたか否かを判断し、変速判断が為されたらS2以下を実行する。S2では、メカギヤ段と同時変速か否か、すなわち模擬ギヤ段の変速の種類が3⇔4変速、6⇔7変速、および9⇔10変速の何れかか否かを判断し、その何れかの変速の時にはS3を実行する。S3では、模擬ギヤ段の変速判断と同時に変速判断が為されたメカギヤ段の変速制御が前記メカ有段変速制御部80によって実行されることにより、機械式有段変速部20の変速がイナーシャ相付近まで進行したか否かを判断する。このイナーシャ相の判断は、両者の変速のイナーシャ相の少なくとも一部が重複するように同期制御するためのもので、厳密にイナーシャ相が開始したことを検出する必要はなく、イナーシャ相の開始直前か否かを判断しても良い。本実施例ではメカギヤ段の変速指令出力からの経過時間が予め定められた同期用遅延時間DEL1に達したか否かを判断する。同期用遅延時間DEL1は、変速の種類等に拘らず一定値であっても良いが、本実施例ではメカギヤ段の変速の種類、すなわちアップシフトかダウンシフトか、或いは何速ギヤ段から何速ギヤ段への変速かに応じて、予め実験やシミュレーション等によって定められる。具体的には、メカギヤ段の変速の種類に応じて定められた変速応答時間REmから模擬ギヤ段の変速応答時間REiを引き算することによって同期用遅延時間DEL1が定められる。変速応答時間REm、REiは、何れも変速指令出力からイナーシャ相が開始するまでの時間である。模擬ギヤ段の変速応答時間REiは一定値でも良いが、変速の種類毎に決めることもできる。また、変速の種類だけでなく駆動−被駆動別、或いは手動変速−自動変速別に同期用遅延時間DEL1を定めることもできるし、油圧制御回路42の作動油温度などを考慮して定めることもできるなど、種々の態様が可能である。この同期用遅延時間DEL1は、前記データ記憶部90に記憶されている。なお、模擬ギヤ段の変速応答時間REiが短い場合には、機械式有段変速部20の入力側回転速度であるMG2回転速度Nmの変化からイナーシャ相を判断しても良い。
メカギヤ段の変速指令出力からの経過時間が、同期用遅延時間DEL1に達してS3の判断がYESになったら、言い換えれば模擬ギヤ段の変速指令出力の遅延が解除されたら、S4を実行し、その時の最新変速先模擬ギヤ段への変速指令を出力する。最新変速先模擬ギヤ段は、自動変速モード時には遅延解除時における運転状態から模擬ギヤ段変速マップに従って判断でき、手動変速モード時には、変速指令出力の遅延中のシフトレバー48によるアップダウン操作の操作回数によって判断できる。なお、最新の変速先模擬ギヤ段ではなく、S1で変速判断が行なわれた当初の変速先模擬ギヤ段へ変速するようにしても良い。
図11は、上記S2〜S4の実行で同期変速制御が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を示すタイムチャートの一例で、模擬ギヤ段の6→7アップシフトとメカギヤ段の2→3アップシフトが同時に行なわれた場合である。図12は、共線図上において、アップシフト前のメカ2速ギヤ段で且つ模擬6速ギヤ段の状態を実線で示し、アップシフト後のメカ3速ギヤ段で且つ模擬7速ギヤ段の状態を一点鎖線で示した図で、中間伝達部材18の回転速度であるMG2回転速度Nmおよびエンジン回転速度Neがそれぞれ白抜き矢印で示すように低下させられる。
図11の時間t1は、模擬ギヤ段の6→7アップシフト判断、およびメカギヤ段の2→3アップシフト判断が行なわれた時間で、手動変速モードではシフトレバー48のアップシフト操作による変速要求時間と略一致する。そして、メカギヤ段についてはメカ有段変速制御部80により直ちに2→3アップシフトの変速指令が出力され、そのための油圧制御が開始される。具体的には、第1ブレーキB1を開放するとともに第2クラッチC2を係合させるクラッチツークラッチ変速が実行される。模擬ギヤ段の変速制御については、前記S3の実行により、メカギヤ段の変速指令出力から同期用遅延時間DEL1(3)が経過した後の時間t2に達したら、S4で最新変速先模擬ギヤ段として模擬7速ギヤ段への変速指令が出力される。すなわち、図11のタイムチャートは、当初の変速先模擬ギヤ段および最新の変速先模擬ギヤ段が何れも模擬7速ギヤ段で、変速指令出力の遅延中に変速先模擬ギヤ段が変化しなかった場合である。そして、このように模擬ギヤ段の変速指令出力が同期用遅延時間DEL1(3)だけ遅延させられることにより、その模擬ギヤ段の変速によるイナーシャ相(エンジン回転速度Neの変化時間帯)、およびメカギヤ段の変速によるイナーシャ相(MG2回転速度Nmの変化時間帯)が、時間t3で略同時に開始するようになる。REm(3)は、メカ2速ギヤ段からメカ3速ギヤ段へアップシフトする際の変速応答時間で、REi(7)は模擬6速ギヤ段から模擬7速ギヤ段へアップシフトする際の変速応答時間であり、それ等の応答時間REm(3)およびREi(7)に基づいて同期用遅延時間DEL1(3)が定められる。時間t4は、エンジン回転速度Neが変速後模擬ギヤ段(模擬7速ギヤ段)の同期回転速度に達して模擬ギヤ段の変速が終了するとともに、MG2回転速度Nmが変速後メカギヤ段(メカ3速ギヤ段)の同期回転速度に達してメカギヤ段の変速が終了した時間であり、図11はそれ等の変速が略同時に終了した場合である。図11では、両変速のイナーシャ相の開始時間(t3)および終了時間(t4)が何れも略同じであるが、少なくともイナーシャ相の一部が重複していれば良く、開始時間や終了時間がずれても良い。
このように模擬ギヤ段の変速制御がメカギヤ段の変速制御と重なる同時変速時に、両者の変速が同期して行なわれるように模擬ギヤ段の変速指令出力が遅延させられるため、変速応答時間REi、REmの相違に拘らず両者の変速が同期して行なわれるようになり、変速ショック等により運転者に与える違和感が抑制される。図11のエンジン回転速度Neの欄に示した一点鎖線は、模擬ギヤ段の変速指令出力の遅延処理(同期変速制御)を行なわない場合で、模擬ギヤ段の変速に伴ってエンジン回転速度Neが変化するイナーシャ相が早くなり、メカギヤ段の変速の際のイナーシャ相(MG2回転速度の変化時間帯)によるトルク変動とずれるため、エンジン音の変化とトルク変動とが一致しないなど、運転者に違和感を与える可能性がある。
図13のタイムチャートは、図11と同様に模擬ギヤ段の6→7アップシフト判断、およびメカギヤ段の2→3アップシフト判断が同時に行なわれた場合であるが、当初の変速先模擬ギヤ段への変速指令出力の遅延中に、時間t2で変速先ギヤ段が模擬8速ギヤ段へ変化し、S4の最新変速先模擬ギヤ段が模擬8速ギヤ段になった場合である。これにより、模擬ギヤ段は模擬7速ギヤ段を飛び越えて模擬8速ギヤ段へ直ちに変速されるようになる。すなわち、遅延解除時点において模擬ギヤ段変速マップに従って求められる最適な模擬ギヤ段、或いは運転者が要求する模擬ギヤ段へ、直ちに変速されるため、優れたドラビリ性能が得られる。模擬8速ギヤ段への変速応答時間REi(8)は、模擬7速ギヤ段への変速応答時間REi(7)と異なる可能性があるが、制御精度等を考慮するとその差は微差であり、図11と同様に両変速のイナーシャ相は略同時に開始する。なお、図13における時間t1、t3〜t5は、それぞれ図11における時間t1、t2〜t4に対応する。
図10に戻って、前記S2の判断がNO(否定)の場合、すなわち模擬ギヤ段の変速の種類が3⇔4変速、6⇔7変速、および9⇔10変速の何れでもない場合は、同時変速でなく模擬ギヤ段の単独変速であるため、S5を実行し、模擬ギヤ段の単独変速用遅延時間DEL2を設定する。単独変速用遅延時間DEL2は、単独変速の際の変速判断からイナーシャ相が開始するまでの変速所要時間NESsが、同時変速の際の変速判断からイナーシャ相が開始するまでの変速所要時間NESw(図11、図13参照)と略同じ時間になるようにするためのもので、予め一定時間が定められても良いが、同時変速の際の変速所要時間NESwはメカギヤ段の変速応答時間REmに依存し、その変速応答時間REmは変速の種類や、車両が駆動状態か被駆動状態か、或いは油圧制御回路42の作動油温度等によって相違するため、それ等をパラメータとして定めることもできる。その場合には、同時変速時の変速所要時間NESwから、模擬ギヤ段の変速応答時間REiを引き算することによって単独変速用遅延時間DEL2が求められ、例えば前記同期用遅延時間DEL1と同程度の時間が定められる。同期用遅延時間DEL1をそのまま利用することも可能である。模擬ギヤ段の変速応答時間REiは一定値でも良いが、変速の種類毎に決めることもできる。また、手動変速−自動変速別に単独変速用遅延時間DEL2を定めることもできるなど、種々の態様が可能である。この単独変速用遅延時間DEL2は、例えば数百m秒程度の時間で、前記データ記憶部90に記憶されている。なお、手動変速モードにおける変速要求から変速判断までの時間は極めて短いため、手動変速モードの変速判断からイナーシャ相開始までの変速所要時間NESs、NESwは、実質的に変速要求からイナーシャ相開始までの変速所要時間と同じである。
次のS6では、S1における模擬ギヤ段の変速判断からの経過時間、すなわち手動変速モードの場合は変速要求からの経過時間が、S5で設定された単独変速用遅延時間DEL2に達したか否かを判断する。そして、単独変速用遅延時間DEL2に達したら、前記S4を実行して、その時の最新変速先模擬ギヤ段への変速指令を出力する。この場合も、最新の変速先模擬ギヤ段でなく、S1で変速判断が行なわれた当初の変速先模擬ギヤ段へ変速しても良い。
図14は、S2に続いてS5、S6、S4が実行され、模擬ギヤ段の単独変速が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を示すタイムチャートの一例で、模擬ギヤ段の4→5アップシフトが行なわれた場合である。図14の時間t1は、模擬ギヤ段の4→5アップシフト判断が行なわれた時間で、手動変速モードではシフトレバー48のアップシフト操作による変速要求時間と略一致する。そして、前記S5およびS6の実行により、模擬ギヤ段の4→5アップシフトの単独変速用遅延時間DEL2(5)が経過した後の時間t2に達したら、S4で最新変速先模擬ギヤ段として模擬5速ギヤ段への変速指令が出力される。すなわち、S1で判断された当初変速先模擬ギヤ段(模擬5速ギヤ段)から変化しなかった場合である。そして、このように模擬ギヤ段の変速指令出力が単独変速用遅延時間DEL2(5)だけ遅延させられることにより、その模擬ギヤ段の変速によるイナーシャ相(エンジン回転速度Neの変化時間帯)の開始(時間t3)までの変速所要時間NESsが、同時変速時の変速所要時間NESwと略同じになる。REi(5)は、模擬4速ギヤ段から模擬5速ギヤ段へアップシフトする際の変速応答時間であり、変速所要時間NESsから変速応答時間REi(5)を引き算した時間が単独変速用遅延時間DEL2(5)である。時間t4は、エンジン回転速度Neが変速後模擬ギヤ段(模擬5速ギヤ段)の同期回転速度に達して模擬ギヤ段の変速が終了した時間である。
上記模擬ギヤ段の単独変速時における変速所要時間NESsが、同時変速時の変速所要時間NESwと略同じになると、手動変速モードの時にそれ等の変速所要時間NESs、NESwの相違によって運転者に違和感を与えることが抑制される。すなわち、模擬ギヤ段を単独で変速する時には、メカギヤ段の変速と同期させる必要がないため直ちに変速指令を出力することができるが、運転者の変速要求に従って変速する場合に同時変速時と単独変速時とで、エンジン回転速度Neが変化し始めるイナーシャ相開始までの変速所要時間NESs、NESwが異なると、運転者には同時変速か単独変速か区別できないため、その変速所要時間NESs、NESwの相違によって運転者に違和感を生じさせる可能性がある。特に、シトフレバー48の操作で模擬ギヤ段を1段ずつ連続的に切り換える場合に、その変速所要時間NESs、NESwの相違が顕著となり、数百m秒程度の違いであっても運転者に違和感を生じさせる可能性が高くなる。図14におけるエンジン回転速度Neの欄に示した一点鎖線は、変速要求に従って直ちに変速指令が出力された場合で、イナーシャ相の開始時間が早くなり、括弧書きで示した変速所要時間NESsが短くなる。
このように、本実施例の車両用駆動装置10においては、機械式有段変速部20の出力回転速度Noutに対するエンジン回転速度Neの変速比γ0が異なる複数の模擬ギヤ段が電気式無段変速部16によって成立させられるため、その模擬ギヤ段の変速時にエンジン回転速度Neが段階的に変化させられるようになり、機械式有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。
また、模擬ギヤ段の変速制御がメカギヤ段の変速制御と重なる同時変速時に、両者の変速が同期して行なわれるように模擬ギヤ段の変速指令出力が遅延させられるため、変速応答時間REi、REmの相違に拘らず両者の変速が同期して行なわれるようになり、変速ショック等により運転者に与える違和感が抑制される。すなわち、第1モータジェネレータMG1のトルク制御で変速する電気式無段変速部16の変速応答時間REiは、油圧制御で変速する機械式有段変速部20の変速応答時間REmよりも短いため、両者の変速指令が同時に出力されると、図11のエンジン回転速度の欄に一点鎖線で示すように、電気式無段変速部16の変速に伴うエンジン回転速度Neの変化(イナーシャ相)が、機械式有段変速部20の変速に伴うMG2回転速度Nmの変化(イナーシャ相)によるトルク変動よりも早くなり、運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
また、このように模擬ギヤ段の変速とメカギヤ段の変速が同期して行なわれると、エンジン回転速度Neの変化を伴って機械式有段変速部20の変速が行なわれるため、その機械式有段変速部20の変速時に変速ショックがあっても運転者に違和感を与え難くなる。
一方、模擬ギヤ段を単独で変速する場合には、単独変速用遅延時間DEL2を経過した後に変速指令を出力するため、その変速所要時間NESsが上記同時変速の場合の変速所要時間NESwと略同じ時間になる。これにより、手動変速モードの際に、運転者の変速要求からエンジン回転速度Neが変化し始めるイナーシャ相開始までの変速所要時間NESs、NESwが、単独変速か同時変速かに拘らず略同じになり、その変速所要時間NESs、NESwの相違によって運転者に違和感を与えることが抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。