(用語の使い方)
切削工具に関する用語には、慣習的に多義的なものがある。以下の実施形態の説明においては、そのような用語を基本的に以下のように用いるものとする。
刃部は、すくい面、逃げ面及び切刃からなる比較的小さい部分(例えばインサートの一部)を指す用語として用いられる場合と、切削工具の先端側の比較的広い部分(例えばインサート及びその周辺部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。
切刃は、すくい面と逃げ面との稜線を指す用語として用いられる場合と、すくい面と逃げ面とがなす角部(面積乃至は体積を有する部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。ただし、実際の切刃は、切刃の丸みという用語があるように、微視的には線ではなく、その限りで、切刃は、面積乃至は体積を有している。
すくい面及び逃げ面は、主として、切刃に最も近いすくい面及び逃げ面を指すものとする。例えば、すくい面を広く解釈すると、切削工具用チップの主面の中央側(取付面)もすくい面であるが、そのような解釈はしないものとする。なお、逃げ面は、いわゆるマージンを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
<第1実施形態>
(切削工具の構成)
図1は、第1実施形態に係るインサート式の切削工具1を示す斜視図である。
切削工具1は、概略軸状の部材であり、工作機械に取り付けられるホルダ3(シャンク)と、ホルダ3の先端側(紙面左側)の部分に着脱され、被削物に当接して実際に被削物を切削する1以上(図1の例では3つ)のチップ5とを有している。図示の例では、切削工具1はエンドミルであり、軸回りに回転されることによって、先端面及び先端の外周面において被削物を切削可能である。
チップ5のホルダ3に対する装着は、例えば、チップ5に挿通されたねじ7がホルダ3に形成された雌ねじ部(チップ5に隠れて不図示)に螺合することによってなされる。ホルダ3には、例えば、チップ5の複数の面(例えば1主面及び2側面)が当接する複数の面からなる窪み3rが形成されている。チップ5は、この窪み3rの面に当接することによって位置決めされている。
(チップの構成)
図2は、チップ5を示す斜視図である。図3は、図2のIII−III線における断面図である。
図2及び図3等においては、チップ5に対して固定して定義した直交座標系xyzを付している。以下の説明では、この座標系を参照して方向を説明することがある。チップ5は、いずれの方向が鉛直方向乃至は水平方向とされてもよく、また、z軸方向の寸法が比較的大きくされてもよいが、z軸方向を上下方向又は厚さ方向ということがある。また、チップ5について単に平面視という場合、z軸方向に見ることを指すものとする。
チップ5は、例えば、概略直方体状に形成されており、第1主面9A及び第2主面9B(以下、単に「主面9」といい、両者を区別しないことがある。)と、当該1対の主面9をつなぐ4つの側面11とを有している。なお、全ての側面11全体を外周側面12ということがある。チップ5の寸法は適宜に設定されてよい。一例を示すと、平面視における長辺の長さは10mm以上16mm以下、平面視における短辺の長さは6mm以上10mm以下、厚さは4mm以上6mm以下である。
平面視における長辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね外側に膨らんでいる。一方、平面視における短辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね、厚さ方向の中央側が最も低くなるように凹んでいる。なお、これらの形状は、強度確保や逃げ面の確保等の種々の観点から適宜に設定されてよい。
(刃部の構成)
チップ5は、例えば、被削材の切削に直接にあずかる長辺刃部13L及び短辺刃部13S(以下、単に「刃部13」といい、両者を区別しないことがある。)を有している。これら刃部13は、主面9と側面11との角部(すなわち、交差稜線部)に位置している。具体的には、長辺刃部13Lは、平面視の長辺に沿って設けられており、短辺刃部13Sは平面視の短辺に沿って設けられている。長辺刃部13L及び短辺刃部13Sは、平面視における長辺と短辺との角部をコーナ21(ノーズ)としてつながっている。
長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、例えば、1対の主面9それぞれに設けられるとともに、各主面9において、一の対角線上に位置する2つの角部に設けられている。すなわち、長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、合計で4つ設けられている。平面視において、一方の主面9側の刃部13が設けられた対角線と、他方の主面9側の刃部13が設けられた対角線とは交差している。
従って、チップ5は、z軸回りに180°回転させ、及び/又はx軸回りに180°回転させることによって、4組の刃部13を使用できる(4回使用できる)ようになっている。
複数組の長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、例えば、互いに同一の形状とされている。すなわち、チップ5は、z軸回りに180°回転対称の形状であり、また、x軸回りに180°回転対称の形状である。
各刃部13は、切削を営む主体となるすくい面15と、切削仕上げ面との不必要な接触をさけるために逃がした逃げ面17と、すくい面15が逃げ面17につながる部分である切刃19とを有している。
刃部13は、例えば、主面9(その中央側領域)に対して厚さ方向(z軸方向)に突出するように形成されている。具体的には、例えば、すくい面15は、主面9に連続しており、主面9から厚さ方向に立ち上がるように形成されている。また、例えば、逃げ面17は、側面11に連続しており、主面9を厚さ方向に超えて延びている。また、例えば、切刃19は、コーナ21側ほど主面9からの高さが高くなっている。
図3のような縦断面において、すくい面15及び逃げ面17の、厚さ方向(z軸方向)に対する傾斜の有無、傾斜方向及び傾斜角は適宜に設定されてよい。図示の例では、すくい面15は、切刃19側ほどxy平面の外側に位置するように厚さ方向に対して傾斜し、逃げ面17は、切刃19側ほどxy平面の内側に位置するように厚さ方向に対して傾斜している。なお、この厚さ方向に対する傾斜角は、すくい角及び逃げ角とは別のものである。
上記のように、本実施形態においては、刃部13は、主面9から突出しているから、チップ5は、主面9及び側面11を有する基部23と、基部23から突出する刃部13とを有していると捉えられてもよい。
(取付孔の構成)
チップ5は、貫通孔を有している。貫通孔は、例えばねじ7が挿通される取付孔25である。図3に示すように、取付孔25は、ねじ7のねじ頭7bを収容するとともにねじ頭7bが係合する第1受け部27A及び第2受け部27B(以下、単に「受け部27」といい、両者を区別しないことがある。)と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部29とを有している。受け部27は、両主面側に設けられており、挿入部29は、その間に設けられている。すなわち、チップ5は、x軸回りに180°回転させて使用可能に、1対の主面9のいずれからでもねじ7を挿入可能となっている。
挿入部29は、横断面(xy断面)の形状及び面積が貫通方向(z軸方向)において一定である。挿入部29は、貫通方向に沿った断面においては、貫通方向に直交する方向の幅が一定である。受け部27は、挿入部29から取付孔25の外部側へ、横断面(xy断面)の面積を大きくしつつ延びている。受け部27は、貫通方向に沿った断面においては、挿入部29から貫通孔の外部側へ、貫通方向に直交する方向の幅が大きくなっている。特に図示しないが、挿入部29及び受け部27の横断面の形状は、例えば、z軸方向のいずれの位置においても円形である。受け部27の最大径は、ねじ頭7bの径以上である。また、挿入部29の径(受け部27の最小径)は、ねじ頭7bの径よりも小さく、かつ雄ねじ部7aの径よりも大きい。
従って、ねじ7を取付孔25に挿入してホルダ3の不図示の雌ねじ部に螺合させていくと、ねじ頭7bは、受け部27の傾斜した内面にねじ頭7bの径に応じた位置で係合する。また、雄ねじ部7aは、所定の余裕(遊び)を介して挿入部29へ挿通された状態となる。
受け部27の内面は、縦断面(z軸に平行な断面)を見たときに直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、図3に例示するように、その一部に貫通方向に平行な部分を有していてもよい。受け部27の深さは、ねじ頭7bの全体を収容可能な深さであることが好ましいが、そのような深さでなくてもよい。挿入部29の内面は、例えば、縦断面を見たときに概ね貫通方向に平行な直線状である。ただし、挿入部29の内面は、若干の起伏があってもよい。
(チップの貼り合せ構造)
図4は、チップ5の構成を模式的に示す分解斜視図である。
図3及び図4に示すように、チップ5は、第1部材31Aと第2部材31Bとが貼り合わされて構成されている。
なお、以下では、第1部材31Aに係る構成要素については、「第1」及び「A」を付し、第2部材31Bに係る構成要素については、「第2」及び「B」を付し、また、「第1」及び「A」並びに「第2」及び「B」を省略して、両者を区別しないことがある。
第1部材31A及び第2部材31Bは、チップ5を取付孔25の貫通方向に分割するように構成されている。すなわち、第1部材31Aは、第1主面9Aとなる第1外側面(以下、第1外側面9Aということがある。)と、その背面の第1内側面33Aと、第1外側面9Aから第1内側面33Aへ貫通し、取付孔25を構成する第1孔35Aとを有している。また、第2部材31Bは、第2主面9Bとなる第2外側面(以下、第2外側面9Bということがある。)と、その背面の第2内側面33Bと、第2外側面9Bから第2内側面33Bへ貫通し、取付孔25を構成する第2孔35Bとを有している。そして、第1孔35Aと第2孔35Bとがつながって1つの貫通孔(取付孔25)が構成されるように第1内側面33Aと第2内側面33Bとが互いに対向して接合されている。
また、第1部材31Aは、第1外側面9Aと第1内側面33Aとをつなぐ4つの第1分割側面37A(これら全体を第1分割外周面38Aという)を有している。第2部材31Bは、第2外側面9Bと第2内側面33Bとをつなぐ4つの第2分割側面37B(これら全体を第2分割外周面38Bという)を有している。そして、第1分割側面37Aと第2分割側面37Bとによって側面11が構成されている(第1分割外周面38Aと第2分割外周面38Bとによって外周側面12が構成されている。)。
第1内側面33Aと第2内側面33Bとの貼り合わせは、両者の間に介在する接着剤(接着層)によってなされていてもよいし、両者が直接的に当接して接着されていてもよい。また、後述する本実施形態に係る製造方法が実施されているか否かの判定に際しては、完成したチップ5において、第1部材31Aと第2部材31Bとの境界(内側面33)は、明瞭でなくてもよい。すなわち、完成したチップ5は、一体的に形成されているように見えてもよい。
(貼り合せのための位置決め構造)
第1部材31A及び第2部材31Bは、互いに貼り合わされるときに、貼り合わせ方向(取付孔25の貫通方向、z軸方向)に交差(具体的には直交)する方向(xy方向)において互いに位置決めされるように、以下のような構成を有している。
第1部材31Aは、第1内側面33Aにおいて、凸部及び凹部の少なくとも一方(図示の例では1つの凸部)からなる第1嵌合部39Aを有している。第2部材31Bは、第2内側面33Bにおいて、凸部及び凹部の少なくとも他方(図示の例では1つの凹部)からなる第2嵌合部39Bを有している。そして、第1部材31A及び第2部材31Bの貼り合わせの際には、第1嵌合部39Aと第2嵌合部39Bとが嵌合される。これにより、第1部材31A及び第2部材31Bは、xy方向において互いに位置決めされる。
内側面33において、嵌合部39が形成されている領域以外の領域(外周側の領域)は、例えば、取付孔25の貫通方向に直交する平面状である。以下では、特に符号を付さないが、この平面状の領域を内側面33の基準面ということがある。
第1部材31A及び第2部材31Bの、貼り合わせ方向における位置決めは、1対の内側面33の基準面が直接的又は接着剤を介して間接的に当接することによってなされる。ただし、嵌合部39も貼り合わせ方向における位置決めに寄与してよい。
2つの嵌合部39の形状は、両嵌合部39がxy平面における少なくとも一方向において互いに移動不可能であればよい。図示の例では、両者の形状は、凹か凸かが互いに逆であることを除いて互いに概ね同一の形状である。ただし、例えば、平面視三角形の凹部に嵌合した平面視円形の凸部が平面方向に移動不可能であることから明らかなように、必ずしも両者は同一の形状でなくてもよい。
嵌合部39は、平面視において、孔35の周囲に環状に位置している。すなわち、嵌合部39は、孔35を開口とする枠状である。本実施形態では、凸部は、第1孔35Aを開口とする枠状である。また、凹部は、第2孔35Bを開口とする枠状である。平面視において、嵌合部39の内縁の形状は、孔35の形状と同一であり、本実施形態では、円形である。また、平面視において、嵌合部39の外縁の形状は、適宜に設定されてよいが、例えば、孔35と中心(図形重心)を一致させた相似形であり、本実施形態では、孔35の同心円である。
嵌合部39の内縁から外縁までの幅は、適宜に設定されてよい。例えば、嵌合部39の幅は、凸状の第1嵌合部39Aにおいて、位置合わせに必要最小限の強度が確保される程度まで、又は加工限界まで小さくされてもよい。逆に、嵌合部39の幅は、嵌合部39の外縁の一部又は全部が内側面33の外縁に一致するまで広くされてもよい。なお、上記のように内縁と外縁とが相似形の場合においては、幅は嵌合部39の全周に亘って一定である。
図示の例では、嵌合部39の外縁は、内側面33の外縁よりも小さく、嵌合部39の外側には、嵌合部39を囲む環状に内側面33の基準面が形成されている。また、図示の例では、嵌合部39の外縁は、受け部27の外側面9における外縁(最大径の外縁)よりも大きい(図3)。もちろん、嵌合部39の外縁は、受け部27の外側面9における外縁よりも小さくても構わない。
第1嵌合部39Aの立体形状は、例えば、第1孔35Aの中心軸と中心軸を一致させた錐台(図示の例では円錐台)とされている。すなわち、第1嵌合部39Aは、錐台の側面(錐体面)である第1傾斜面41Aと、第1孔35Aを囲む頂面とを有している。本実施形態における頂面は、錐台の上面であって取付孔25の貫通方向(中心軸)に直交している第1直交面43Aである。第1傾斜面41Aは、第1外側面9Aから離れるにしたがって幅が狭くなっている。
一方、第2嵌合部39Bは、例えば、錐台に一致する形状の凹状に形成されている。すなわち、第2嵌合部39Bは、その凹部の傾斜した内周面である第2傾斜面41Bと、第2孔35Bを囲む底面とを有している。本実施形態における底面は、取付孔25の貫通方向(中心軸)に直交している第2直交面43Bである。第2傾斜面41Bは、第2外側面9Bに近付くにしたがって幅が狭くなっている。
傾斜面41は、取付孔25の貫通方向(z軸方向)に対して傾斜する面である。上述のように、傾斜面41は、錐体面又はこれに対応する凹部の内周面であるから、凸状の第1嵌合部39Aが先端側ほど細くなるように、又は凹状の第2嵌合部39Bが奥側ほど細くなるように傾斜している。別の観点では、傾斜面41は、取付孔25を中心とする放射方向外側ほど、取付孔25の貫通方向の一方側(本実施形態ではz軸方向正側)に位置する。
傾斜面41の貫通方向に対する傾斜角度は、適宜に設定されてよいが、例えば、20°以上70°以下である。なお、図3から理解されるように、凸状の第1嵌合部39Aを根元側において厚くして第1嵌合部39Aの強度を確保する観点からは、傾斜面41の貫通方向に対する傾斜角度は、第1受け部27Aの貫通方向に対する傾斜角度以上であることが好ましい。傾斜角度は、例えば、傾斜面41の全周に亘って一定である。傾斜面41は、z軸方向に平行な断面において直線状であってもよいし(図示の例)、曲線状であってもよい。
傾斜面41の外縁は、嵌合部39の外縁であり、上記のように本実施形態では取付孔25の同心円である。傾斜面41の内縁(直交面43の外縁)は、例えば、内縁と中心(図形重心)を一致させた相似形であり、本実施形態では、円形である。従って、本実施形態では、傾斜面41は、平面視において円形の環状であり、その幅は全周に亘って一定である。傾斜面41の幅の具体的な値は、適宜に設定されてよい。
直交面43は、取付孔25の貫通方向に直交する平面である。その内縁の形状は、孔35の、内側面33への開口形状と同一であり、本実施形態では円形である。また、直交面43の外縁の形状は、上述した傾斜面41の内縁の形状であり、本実施形態では、直交面43の内縁の同心円である。従って、本実施形態では、直交面43は、円形の環状であり、その幅は全周に亘って一定である。直交面43の幅の具体的な値は、適宜に設定されてよい。
第1傾斜面41Aと第2傾斜面41Bとは、例えば、概ね全面に亘ってその形状が一致し、概ね全面に亘って互いに貼り合わされる。第1直交面43Aと第2直交面43Bとは、例えば、概ね全面に亘ってその形状が一致し、概ね全面に亘って貼り合わされる。本実施形態のチップ5は、上記の第1傾斜面41A及び第2傾斜面41Bを有している。そのため、チップ5の形成時における貼り合わせが貫通孔の精度に及ぼす影響を低減することができる。すなわち、貼り合わせられ形成されたチップ5において貫通孔の精度が高められる。
(チップの分割位置)
図3に示すように、2つの内側面33(より具体的には2つの直交面43)の、取付孔25に露出する合せ目(すなわち2つの直交面43の内縁)は、取付孔25のうち挿入部29に位置している。なお、当該合せ目は、挿入部29のうちのいずれの位置にあってもよい。例えば、合せ目は、挿入部29の貫通方向中央に位置していてもよいし、当該中央に対して、第1部材31A側(凸部側)に位置していてもよいし、第2部材31B側(凹部側)に位置していてもよい(図示の例)。なお、凸状の第1嵌合部39Aの厚み(強度)を確保する観点からは、合せ目は、第2部材31B側に位置していることが好ましい。
また、合せ目は、挿入部29と受け部27との境界に位置していてもよい。なお、本実施形態の説明においては、この境界は、挿入部29の一部であるものとみなすものとする。すなわち、合せ目が挿入部29に位置するという場合、合せ目が挿入部29と受け部27との境界に位置する態様が含まれるものとする。
2つの内側面33(より具体的には外周側の基準面)の、外周側面12に露出する合せ目は、厚さ方向の適宜な位置にあってよい。別の観点では、内側面33の外周側の基準面と外側面9(中央側の平面領域)とのz軸方向の距離によって第1部材31A及び第2部材31Bの厚さを規定したとき、第1部材31A及び第2部材31Bの厚さは、同等であってもよいし、互いに異なっていてもよい。本実施形態のように、第1嵌合部39Aが凸部のみからなり、第2嵌合部39Bが凹部のみからなる場合においては、好適には、第2部材31Bは第1部材31Aよりも厚い。この場合、例えば、嵌合部39を含めて厚みを考慮したときに、第1部材31A及び第2部材31Bの双方において厚みを確保しやすく、ひいては、双方の強度を確保しやすい。
(外周面の切欠き)
第1部材31A及び第2部材31Bの少なくとも一方(本実施形態では双方)においては、内側面33と分割外周面38との角部に面取り形状45(第1面取り形状45A及び第2面取り形状45B)が設けられている。
なお、この面取り形状45は、説明の便宜上、面取りの語を用いているが、その形成方法は角部を削るものに限定されない。例えば、金型によって成形された時点でこの面取り形状45が形成されていてもよい。別の観点では、面取り形状の語は、製造プロセスを示す語ではない。
面取り形状45は、例えば、内側面33の外縁全体に亘って設けられている。面取り形状45は、平面(例えばC面)であってもよいし、曲面(例えばR面)であってもよい。面取り形状45の幅、傾斜角及び/又は曲率等は適宜に設定されてよい。
内側面33の外縁に面取り形状45が設けられていることによって、図3に示すように、チップ5の外周側面12には、切欠き47が構成されている。切欠き47は、面取り形状45によって構成されるものであるから、外側ほど広くなる形状である。また、面取り形状45の説明から理解されるように、切欠き47は、例えば、チップ5の全周に亘っており、また、その大きさ、傾斜角及び/又は曲率等は適宜に設定されてよい。
(チップの製造方法)
図5は、チップ5の製造方法の手順を示すフローチャートである。図6(a)〜図6(f)は、チップ5の製造方法の各ステップの概要を説明するための模式図である。製造方法は、図6(a)から図6(f)へ順に進行する。なお、以下では、製造工程の進行に伴って部材の形状若しくは材質等が変化しても、便宜上、同一の符号を用いることがある。
まず、図5のステップST1では、第1部材31Aとなる第1成形体55A(図6(c)を成形する。具体的には、例えば、図6(a)及び図6(b)に示すように、原料51を第1分割型53A〜第4分割型53D(以下、単に「分割型53」といい、これらを区別しないことがある。)によってプレスする。
複数の分割型53の数、配置、分割位置及び役割(移動)等は適宜に設定されてよい。図示の例では、第1部材31Aの第1外側面9Aを形成する第1分割型53Aと、第1部材31Aの第1内側面33Aを形成する第2分割型53Bとが、第1部材31Aの外周側面12の半分を形成する第3分割型53Cと、外周側面12の残り半分を形成する第4分割型53Dとの間で近接することによって原料51がプレスされる。図示の例とは異なり、第1分割型53A及び第2分割型53Bの一方のみを移動させてもよい。
第1孔35Aの内周面は、例えば、互いに近接する第1分割型53A及び第2分割型53Bの少なくとも一方の内面(図示の例では第1分割型53Aの内面)によって形成される。なお、図示の例とは異なり、第1孔35Aは、その一部又は全部が、第1分割型53A及び第2分割型53Bの少なくとも一方の分割型を貫通して当該一方の分割型を案内するガイド軸(これも分割型の一種と捉えられてもよい。)によって形成されてもよい。また、第1孔35Aは、成形時に形成されるのではなく、成形後に、打ち抜き、切断及び/又は切削によって形成されてもよい。
また、特に図示しないが、成形は、プレスではなく、型締めされた金型内に原料51を注入する射出成形によってなされてもよい。この場合の金型は、金型内に原料51を注入するための流路(例えばスプルー、ランナー及びゲート)が適宜な位置に形成されることを除いては、上述した複数の分割型53と同様でよい。第1孔35Aの形成方法についても同様である。
原料51は、例えば、主成分となる比較的硬質の原料粉末、この硬質の原料粉末の結合相成分となる原料粉末、及びバインダ等の有機物の混合などを行うことによって得られる。なお、プレス用の原料51は、混合後、乾燥されてから成形されてよい。射出成形用の原料51は、バインダ等の有機物として、原料51に適宜な流動性を付与するとともに成形体に保形性を付与できるものが選択され、乾燥されずに射出されてよい。
チップ5が超硬合金からなる場合を例にとると、原料粉末は、主成分としての炭化タングステンと、結合相成分としてのコバルトと、炭化タンタル及び炭化チタンとを含んでいる。バインダ又はバインダに類似する役割を果たすものとしては、例えば、パラフィン又は適宜な種類の樹脂を挙げることができる。なお、チップ5は、超硬合金に限定されず、例えば、ダイヤモンド焼結体、CBN(Cubic Boron Nitride)焼結体、狭義のセラミック、サーメット、又は、粉末冶金で形成される高速度工具鋼(粉末ハイス)であってもよい。
図5のステップST2では、第1成形体55Aのバリを取る。具体的には、例えば、図6(c)に示すように、サンドブラストによって行われる。ただし、サンドブラストに限らず、例えば、固定砥粒又は遊離砥粒を用いてバリが取られてよい。
バリは、複数の分割型53の合せ目において生じる。図示の例では、第1外側面9Aと第1分割外周面38Aとの角部(刃部13)、及び第1内側面33Aと第1分割外周面38Aとの角部において生じる。
図6(c)では、第1内側面33Aと第1分割外周面38Aとの角部のバリ取りをしている様子が模式的に示されている。このバリ取りにおいて、例えば、作業時間を十分に長く設定することによって、バリを取るだけに留まらず、第1面取り形状45Aが形成される。
第1外側面9Aと第1分割外周面38Aとの角部は、刃部13を構成するから、後述するように、ホーニングが行われる。刃部13のバリは、このホーニングの際に除去することが可能である。従って、ここでは、刃部13のバリ取りは省略されてもよい。
図5のステップST3及びST4では、ステップST1及びST2に並行して、第1部材31Aについて行った作業を第2部材31Bについて行う。この作業は、具体的な形状を除いては、第1部材31Aの成形と同様である。上記のステップST1及びST2についての説明は、第1部材31Aに係る構成要素について「第1」及び「A」を「第2」及び「B」に読み替えて、ステップST3及びST4に適用可能である。なお、図6(d)では、第2部材31Bとなる第2成形体55Bにおいて、第2内側面33Bと第2分割外周面38Bとの角部の面取りを行っている様子が模式的に示されている。
図5のステップST5では、図6(e)に示すように、第1成形体55Aと第2成形体55Bとを貼り合わせる。例えば、第1成形体55Aと第2成形体55Bとを直接的に(接着剤を間に配さずに)当接させる。成形体55は、まだ焼結前の状態であるので、このように直接的に貼り合わせることが可能である。
なお、2つの成形体55は、その間に介在する接着剤によって接着されてもよい。この場合、接着剤は、例えば、第1内側面33A及び第2内側面33Bの一方に対して、その全面(嵌合部39を含む)に塗布される。塗布は、例えば、スクリーン印刷によってなされてよい。接着剤の材料は、適宜なものとされてよいが、本実施形態では、後に焼成が行われることから、セラミック接着剤等の無機接着剤が好ましい。
接着の際には、第1嵌合部39Aと第2嵌合部39Bとが嵌合することによって、第1成形体55Aと第2成形体55Bとが位置合わせされる。
具体的には、例えば、凸状の第1嵌合部39Aを凹状の第2嵌合部39Bに挿入していくと、第1傾斜面41Aの一部と第2傾斜面41Bの一部とが当接し、摺動する。この摺動の際、2つの傾斜面41間においてxy方向に作用する力によって、2つの嵌合部39は、xy方向において位置合わせされていく。すなわち、第1孔35Aの中心軸が第2孔35Bの中心軸に近づいていく。やがて2つの傾斜面41はその全周(さらには全面)に亘って互いに当接し、2つの嵌合部39(孔35)はxy方向において互いに位置決めされる。なお、全周に亘って当接するといっても、加工の誤差に起因する微小な隙間があってもよいことは当然である。
2つの傾斜面41が全周に亘って互いに当接し、これにより第1嵌合部39Aの第2嵌合部39Bへの挿入が規制されるとき、2つの直交面43が互いに当接することが好ましく、また、2つの内側面33の外周側の基準面も互いに当接することが好ましい。ただし、2つの直交面43間及び2つの基準面間の少なくとも一方には、微小な隙間が生じてもよい。また、上述した作用とは異なり、2つの傾斜面41が全周に亘って互いに当接する前に、2つの直交面43同士及び2つの基準面同士の少なくとも一方が当接し、2つの傾斜面41間の一部に微小な隙間が生じてもよい。
第1孔35A及び第2孔35Bに挿通されるピン57(図6(e)において点線で示す)によって2つの成形体55をxy方向において位置決めしてもよい。この場合、2つの傾斜面41は、例えば、上述した互いの当接による位置決め作用によって、ピン57よりも高精度の位置決めに寄与してよい。逆に言えば、ピン57と孔35との遊びは大きくされてよい。
図5のステップST6では、図6(f)に示すように、貼り合わされた2つの成形体55を焼成する(熱処理工程を行う。)。これにより、チップ5となる焼結体が形成される。この際、成形体55がバインダを含んでいる場合においては、バインダは蒸発乃至は燃焼し、焼結体から除去される。
その後、特に図示しないが、焼結体の切刃の研削乃至は研磨(ホーニング)を行って、切刃の丸み等を調整する。これにより、チップ5が得られる。ホーニングは、例えば、サンドブラストによって行われる。ただし、サンドブラストに限らず、例えば、固定砥粒又は遊離砥粒を用いてホーニングが行われてもよい。
なお、上述の手順の説明は、あくまで一例の概略についてのものであり、適宜に変形されてよい。例えば、成形体55がバインダを含む場合においては、焼成前の適宜な時期に、成形体からバインダの一部を除去するための処理(仮焼など)を行ってもよい。また、例えば、ホーニングの後、硬質皮膜を形成してもよい。
(製造方法の変形例)
図7は、変形例に係る製造方法の手順を示すフローチャートである。
図5に示したフローチャートでは、2つの成形体55を貼りあわせた後に焼成を行った。これに対して、図7に示すフローチャートでは、2つの成形体55を焼成した後に、その焼結体を互いに貼り合わせる。具体的には、以下のとおりである。
図7において、ステップST1〜ST4は、図5のステップST1〜ST4と同様である。
ステップST11では、第1成形体55Aを焼成し、ステップST12では、第2成形体55Bを焼成する。なお、2つの成形体55が貼り合わされていないことを除いては、これらのステップは図5のステップST6と同様である。なお、第1成形体55Aの焼成と、第2成形体55Bの焼成とは、別個に行われてもよいし、共に行われてもよい。
ステップST13では、第1部材31Aとなる焼結体と第2部材31Bとなる焼結体とを貼り合わせる。なお、この貼り合わせは、図5のステップST5とは異なり、第1内側面33Aと第2内側面33Bとの間に接着剤を介在させる必要がある。接着剤の塗布方法等は、図5のステップST5の説明で述べたとおりである。ただし、図5のステップST5とは異なり、ステップST13の後に焼成は行われないから、接着剤は、有機接着剤であってもよい。
ステップST2及びST4のバリ取りは、貼り合せ前に行われればよいから、焼成(ステップST11及びST12)の後に行われてもよい。また、最終的に刃部13を調整するホーニングは、焼成後に行われればよいから、貼り合わせ前に行われてもよい。
その他、焼成前の適宜な時期に、成形体からバインダを除去するための処理(仮焼など)を行ってもよいこと等は、図5と同様である。
以上のとおり、本実施形態では、チップ5は、第1部材31Aと第2部材31Bとを有している。第1部材31A及び第2部材31Bそれぞれは、外側面9、その背面の内側面33、及び外側面9から内側面へ貫通する孔35を有している。第1内側面33Aと第2内側面33Bとは、第1孔35A及び第2孔35Bが1つの貫通孔(取付孔25)を構成するように貼り合わされている(互いに対向して接合されている)。
そして、本実施形態では、第1内側面33A及び第2内側面33Bそれぞれは、凸部及び凹部の少なくとも一方又は他方を含む、孔35を開口とする枠状の嵌合部39を有しており、第1嵌合部39Aと第2嵌合部39Bとが嵌合している。
従って、例えば、孔35の最も近くにおいて、かつ孔35の全周に亘って、2つの嵌合部39によって第1部材31Aと第2部材31Bとの位置合わせがなされることになる。その結果、第1孔35Aと第2孔35Bとの位置合わせが高精度になされ、ひいては、この2つの孔35によって構成される取付孔25の精度が向上する。すなわち、貼り合わせが取付孔25の精度に及ぼす影響が低減される。そして、取付孔25の精度が向上することによって、チップ5のホルダ3に対する位置決め精度が向上し、ひいては、切削工具1による切削精度が向上する。
さらに、本実施形態では、取付孔25は、その貫通方向に直交する断面形状が貫通方向において一定となっている挿入部29と、挿入部29から取付孔25の外部側へ、貫通方向に直交する断面形状を大きくしつつ延びている受け部27と、を有しており、2つの内側面33(2つの嵌合部39)の、取付孔25に露出する合せ目は、挿入部29に位置している。
従って、例えば、位置合わせを安定して行うことができる。また、例えば、2つの内側面33が受け部27の内面に露出しないことから、合せ目が受け部27の内面の精度に影響を及ぼすおそれが極めて低い。例えば、合わせ目の微小な段差が受け部27の内面に生じるおそれがない。その結果、ねじ頭7bの受け部27の内面に対する当接についての精度が向上し、ねじ7によるチップ5のホルダ3に対する位置決め精度が向上する。ひいては、切削工具1による切削精度が向上する。
また、本実施形態では、第1嵌合部39Aは、凸部において、取付孔25の貫通方向に直交する断面形状(xy断面の形状)が先端側ほど小さくなるように第1傾斜面41Aを有している。第2嵌合部39Bは、凹部において、取付孔25の貫通方向に直交する断面形状が奥側ほど小さくなるように第2傾斜面41Bを有している。そして、第1傾斜面41Aと第2傾斜面41Bとが互いに貼り合わされている(互いに対向して接合されている。)。
従って、第1部材31Aと第2部材31Bとを高精度に位置決めすることができる。例えば、本実施形態とは異なり、凸部の外周面(第1傾斜面41A)と凹部の内周面(第2傾斜面41B)とが取付孔25の貫通方向に対して平行であると仮定した場合、凸部を凹部に嵌合させるためには、凸部の外周面と凹部の内周面との間に隙間(いわゆる遊び)が必要である。その結果、その遊びの分だけ、位置決めの精度が低下する。しかし、本実施形態では、そのような遊びが無くても凸部を凹部に挿入可能であることから、位置決めの精度が向上する。
また、本実施形態では、2つの嵌合部39それぞれは、取付孔25の貫通方向に直交している直交面43を有している。そして、2つの直交面43が互いに貼り合わされている(互いに対向して接合されている)。
従って、例えば、位置決め精度が向上する。具体的には、例えば、傾斜面41においては、第1部材31Aと第2部材31Bとを近接させるときに生じる取付孔25の貫通方向の力は、傾斜面41に直交する方向の分力と傾斜面41に沿う方向の分力として傾斜面41に作用することになるが、直交面43においては、取付孔25の貫通方向の力は、そのまま直交面43に直交する方向の力として直交面43に作用する。すなわち、互いに対向する2つの直交面43においては、互いに確実に反力を及ぼし合う。その結果、取付孔25の貫通方向の位置決めを安定して行うことができる。
また、本実施形態では、第1内側面33Aと第1分割外周面38Aとの交差稜部、及び第2内側面33Bと第2分割外周面38Bとの交差稜部の少なくとも一方(本実施形態では双方)に面取り形状45が位置することによって、チップ5の外周側面12に切欠き部47が構成されている。
従って、例えば、第1内側面33Aと第2内側面33Bとの間に接着剤が介在する態様において、余剰の接着剤が外周側面12側へ溢れたときに、接着剤によって外周側面12に突起が形成されるおそれが低減される。また、接着剤が介在しない場合においても、例えば、合せ目が突起状になるおそれが低減される。その結果、例えば、突起によって外周側面12のホルダ3の窪み3rに対する位置決め精度が低下するおそれが低減される。ひいては、切削工具1による切削精度の低下のおそれが低減される。
<第2実施形態>
第2実施形態以降において、既に説明した構成と同一又は類似する構成については、既に説明した構成と同一の符号を付すことがあり、また、説明を省略することがある。既に説明した構成と対応する(類似する)構成に、既に説明した構成に付した符号とは異なる符号が付されている場合であっても、特に言及のない事項は、既に説明した構成と同様である。
図8は、第2実施形態に係る切削工具用のチップ205の構成を模式的に示す、図4に相当する分解斜視図である。
チップ205は、第1実施形態のチップ5と同様に、第1部材231Aの第1内側面233Aと第2部材231Bの第2内側面233Bとが貼り合わされて構成されるものである。ただし、第1嵌合部239A及び第2嵌合部239Bの形状が、第1実施形態の第1嵌合部39A及び第2嵌合部39Bの形状と異なっている。その他は、第1実施形態と同様である。
第1嵌合部239Aは、例えば、第1実施形態の第1嵌合部39Aと同様に、錐台状となっている。ただし、その錐台の底面(裾野側の面)の形状は、第1実施形態と異なり、非円形であり、例えば、楕円形である。なお、錐台の上面は、第1実施形態と同様に、円形である。従って、第1嵌合部239A(凸部)の外周面は、上面との境界を除いて、いずれのxy断面においても楕円である。また、別の観点では、第1嵌合部239Aの外周面(第1傾斜面241A)は、第1孔35A(取付孔25)の中心軸からの距離(例えばL1、L2)が互いに異なる第1領域242A−1及び第2領域242A−2(複数の領域)を周方向の互いに異なる位置に有している。
第2嵌合部239Bは、例えば、第1実施形態の第2嵌合部39Bと同様に、錐台に対応する凹状となっている。ただし、その開口面(入口側の面)の形状は、第1実施形態と異なり、非円形であり、例えば、楕円形である。なお、凹部の底面は、第1実施形態と同様に、円形である。従って、第2嵌合部239B(凹部)の内周面は、底面との境界を除いて、いずれのxy断面においても楕円である。また、別の観点では、第2嵌合部239Bの内周面(第2傾斜面241B)は、第2孔35B(取付孔25)の中心軸からの距離(例えばL1、L2)が互いに異なる複数の第3領域242B−1及び第4領域242B−2を周方向の互いに異なる位置に有している。
そして、第1領域242A−1及び第3領域242B−1は、その内縁から外縁に亘って貼り合わされている。同様に、第2領域242A−2及び第4領域242B−2は、その内縁から外縁に亘って貼り合わされている。従って、第1嵌合部239Aと第2嵌合部239Bとは、取付孔25の中心軸回りに互いに相対回転不可能に位置決めされている。
なお、本実施形態の説明において、楕円という場合、数学的に正確な楕円であることを要しない。例えば、楕円は、外郭の線の向きの変化が全体として連続しており(すなわち、多角形の角部のようなものを有さない。あるいは、直線同士が交差したり、直線と曲線とが交差したりする部分を有さない。)、外郭の線が全体として外側に膨らむか平坦であり(すなわち内側に凹む部分を有さない。)、直交する2つの対称軸それぞれに対して線対称であり、一方の対称軸に沿う長さが他方の対称軸に沿う長さに対して長いものを指す。従って、例えば、楕円は、2つの半円の両端同士を直線で結んだもの(長円と呼ばれることがあるもの)を含んでもよいし、一見、数学的な楕円に見えるが、厳密にはその曲率の変化が数学的な楕円とは異なっているものを含んでもよい。
また、距離L1及びL2は、取付孔25の中心軸からの距離であるから、中心軸に対して直交している(xy平面に対して傾斜していない。)。第1嵌合部239A(凸部)の外周面及び第2嵌合部239B(凹部)の内周面は、本実施形態では傾斜しており、z軸方向の位置によって取付孔25の中心軸からの距離が異なる。中心軸からの距離が異なるという場合、この互いに比較される距離L1及びL2は、z軸方向の同一位置におけるものとする。
また、中心軸回りの相対回転を規制する観点からは、z軸方向のいずれかの位置において、上記のような非円形同士が嵌合する構成が実現されればよい。従って、第1領域242A−1及び第2領域242A−2(又は第3領域242B−1及び第4領域242B−2)は、取付孔25の中心軸からの距離がその全面に亘って互いに異なる領域(本実施形態でいうと、傾斜面241のうち直交面43との境界を含まない領域)として定義されてもよいし、取付孔25の中心軸からの距離が互いに異なる部分を一部に含む領域として捉えられてもよい。本実施形態の説明では、基本的に前者であるものとする。
嵌合部239は、第1実施形態の嵌合部39と同様に、取付孔25の貫通方向に直交する直交面43を有している。直交面43の外縁(傾斜面241の内縁)の形状は、例えば、第1実施形態と同様に円形である。一方、傾斜面241の外縁は非円形である。従って、第1領域242A−1と第2領域242A−2とでは、取付孔25の貫通方向に対する傾斜角度が互いに異なっている。第3領域242B−1及び第4領域242B−2も同様である。
具体的には、取付孔25の中心軸からの距離(L1)が相対的に長い第1領域242A−1及び第3領域242B−1は、取付孔25の中心軸からの距離(L2)が相対的に短い第2領域242A−2及び第4領域242B−2よりも、取付孔25の貫通方向に対する傾斜角度が大きい。
なお、傾斜面241は、縦断面(z軸に平行な断面)において直線状であっても曲線状であってもよい。本実施形態では、傾斜面241は、縦断面において直線状であり、傾斜角度は、z軸方向の位置によらず、一定である。従って、上記の傾斜角度の大小関係は、第1領域242A−1及び第2領域242A−2(又は第3領域242B−1及び第4領域242B−2)の全面において成立している。
傾斜角度がz軸方向の位置によって一定でない場合は、z軸方向の同一の位置において傾斜角度を比較すればよい。また、この場合、上記の傾斜角度の大小関係は、第1領域242A−1及び第2領域242A−2(又は第3領域242B−1及び第4領域242B−2)の一部においてのみ成立してもよいし、全面において成立してもよく、好ましくは後者である。
チップ5の平面視における外縁(外周側面12)は、第1側面(本実施形態では矩形の短辺)と、第1側面よりも取付孔25の中心軸からの距離が短い第2側面(本実施形態では矩形の長辺)とを有している。そして、第1領域242A−1及び第3領域242B−1は、取付孔25と第1側面との間に位置し、第2領域242B−1及び第4領域242B−2は、取付孔25と第2側面との間に位置している。
なお、既に述べたように、外周側面12は、側面視において、凹状又は凸状に形成されてよい。すなわち、チップ5の平面視における外縁の形状は、z軸方向の位置によって異なる。第1側面及び第2側面は、そのようなz軸方向の位置に応じた変動量よりも大きな差で、取付孔25の中心軸からの距離が互いに異なる部位として定義されてよい。別の観点では、z軸方向のいずれの位置においても第1側面が第2側面よりも取付孔25の中心軸からの距離が長くなるように、第1側面及び第2側面の平面視における範囲が定義されてよい。
以上のとおり、本実施形態は、第1実施形態と同様に、嵌合部39が孔35を開口とする枠状であること、互いに貼り合わされる内側面233の、取付孔25に露出する合せ目が挿入部29(図3)に位置していること、嵌合部239が傾斜面241を有していることなどの特徴を有している。従って、第1実施形態と同様の効果が奏される。例えば、貼り合わせが取付孔25に及ぼす影響を低減できる。
また、本実施形態では、第1嵌合部239Aの凸部は、平面視において、第1孔35Aを開口とする枠状であり、凸部の外周面は、取付孔25の中心軸からの距離が互いに異なる第1領域242A−1及び第2領域242A−2を周方向の互いに異なる位置に有している。第2嵌合部239Bの凹部は、平面視において、第2孔35Bを開口とする枠状であり、取付孔25の中心軸からの距離が互いに異なる第3領域242B−1及び第4領域242B−2を周方向の互いに異なる位置に有している。そして、第1領域242A−1と第3領域242B−1とが互いに対向して接合しており、第2領域242A−2と第4領域242B−2とが互いに対向して当接している。
従って、例えば、既に述べたように、第1嵌合部239A及び第2嵌合部239Bは、取付孔25の軸回りに相対回転不可能であり、第1部材231A及び第2部材231Bの位置決めが高精度になされる。
また、本実施形態では、第1領域242A−1及び第2領域242A−2は、第1傾斜面241Aを構成している。第3領域242B−1及び第4領域242B−2は、第2傾斜面241Bを構成している。第1領域242A−1及び第3領域242B−1は、取付孔25の貫通方向に対する傾斜角度が、第2領域242A−2及び第4領域242B−2よりも大きい。
従って、例えば、本実施形態のように、第1嵌合部239Aを第2嵌合部239Bへ挿入させていくときに、中心軸からの距離が長い方向ほど傾斜面241の摺動によるxy方向の移動量を大きくして、好適に位置決めを行うことができる。また、傾斜角度の変化が周方向において連続的になされていれば、第1嵌合部239Aを第2嵌合部239Bへ挿入させていくときに、傾斜面241の回転方向の摺動によって、両者の回転方向の位置決めが行われることも期待される。
また、本実施形態では、第1嵌合部239Aの凸部及び第2嵌合部239Bの凹部は、取付孔25の貫通方向に直交する、第1領域242A−1〜第4領域242B−2を横断する断面(xy断面)の形状が楕円状である。
従って、例えば、嵌合部239の外縁の形状が多角形である態様(この態様も本発明に含まれる)に比較して、微小な角部の形状を形成する必要がなく、加工が容易である。また、そのような角部において応力集中によって変形が生じ、当該変形によって位置決め精度が低下するというような不都合のおそれも低い。さらに、上述したように、傾斜面241の傾斜角度の、周方向における変化が連続的になるから、傾斜面241の摺動によって回転方向の位置ずれを解消しやすい。
また、本実施形態では、平面視におけるチップ外縁は、第1側面(短辺)と、第1側面よりも取付孔25の中心軸からの距離が短い第2側面(長辺)とを有している。取付孔25の中心軸からの距離(L1)が相対的に長い第1領域242A−1及び第3領域242B−1は、取付孔25と第1側面(短辺)との間に位置しており、取付孔25の中心軸からの距離(L2)が相対的に短い第2領域242A−2及び第4領域242B−2は、取付孔25と第2側面(長辺)との間に位置している。
従って、例えば、上記とは逆に、嵌合部239の長手方向をチップ5の短手方向にした態様(この態様も本願発明に含まれる)に比較して、嵌合部239の長手方向の長さを長くしやすい。嵌合部239の長手方向の長さ(rとする)が長くなると、取付孔25回りの第1嵌合部239Aと第2嵌合部239Bとの相対回転の角度(θ(rad)とする)に対する、2つの嵌合部239の外縁同士の移動量(r×θ)が相対的に大きくなる。その結果、2つの嵌合部239の外縁側における位置決めによって、回転方向の位置決めの精度が向上する。
また、例えば、嵌合部239の長手方向をチップ5の短手方向にした態様に比較して、第1部材231A及び第2部材231Bの強度確保に有利である。具体的には、例えば、第1部材231Aにおいては、撓み変形が生じやすい長手方向に関して、凸状の第1嵌合部239Aは断面2次モーメントを増加させるリブとして機能する。一方、第2部材231Bにおいては、例えば、凹状の第1嵌合部239Aが第2部材231Bの幅全体(y方向全体)に亘ってz軸方向に深い凹部を構成する蓋然性が低減される。その結果、撓み変形が生じやすい長手方向(x方向)の一部に、断面2次モーメントが極端に小さいyz断面が形成されてしまうおそれが低減される。
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態に係る切削工具用のチップ305の構成を模式的に示す、図4に相当する分解斜視図である。
チップ305は、第1実施形態のチップ5と同様に、第1部材331Aの第1内側面333Aと第2部材331Bの第2内側面233Bとが貼り合わされて構成されるものである。ただし、第1嵌合部339A及び第2嵌合部339Bの形状が、第1実施形態の第1嵌合部39A及び第2嵌合部39Bの形状と異なっている。その他は、第1実施形態と基本的に同様である。
嵌合部339は、第1実施形態の嵌合部39と同様に、少なくとも凸部又は凹部を含み、孔35を開口とする枠状に形成されている。また、第2実施形態の嵌合部239と同様に、平面視において非円形とされ、長手方向をチップ305の長手方向に概ね一致させるように設けられている。ただし、嵌合部339は、多角形であり、また、外縁の一部がチップ305の一部に一致している。具体的には、以下のとおりである。
第1嵌合部339Aは、凸部からなり、平面視において長方形とされている。平面視において、第1嵌合部339Aの長辺は、例えば、チップ5の長辺(第1内側面333Aの外縁の長辺)と平行である。また、第1嵌合部339Aは、長手方向において第1内側面333Aの外縁まで到達しており、第1嵌合部339Aの短辺は、第1内側面333Aの短辺の一部である。すなわち、第1嵌合部339Aは、短手方向においては第1内側面333Aよりも小さく、長手方向においては第1内側面333Aに亘って延びている。
第2嵌合部339Bは、凹部からなり、平面視において長方形とされている。平面視において、第2嵌合部339Bの長辺は、例えば、チップ5の長辺(第2内側面333Bの外縁の長辺)と平行である。また、第2嵌合部339Bは、長手方向において第2内側面333Bの外縁まで到達しており、第2嵌合部339Bの短辺は、第2内側面333Bの短辺の一部である。すなわち、第2嵌合部339Bは、短手方向においては第2内側面333Bよりも小さく、長手方向においては第2内側面333Bに亘って延びている。
そして、第1嵌合部339A及び第2嵌合部339Bが嵌合して、第1部材331A及び第2部材331Bは互いに位置決めされる。具体的には、嵌合部339による位置決めは、その短手方向(y方向)及び回転方向においてなされる。長手方向(x方向)における位置決めは、例えば、図6(e)に示したピン57によってなされてよい。
嵌合部339は、平面視において非円形であるから、第2実施形態のように、その外周面又は内周面に、取付孔25の中心軸からの距離が互いに異なる複数の領域を有していると捉えることができる。例えば、第1嵌合部339A(凸部)の外周面は、取付孔25の中心軸からの距離(例えばL11、L12)が互いに異なる第1領域342A−1及び第2領域342A−2を有している。第2嵌合部339B(凹部)の内周面は、取付孔25の中心軸からの距離(例えばL11、L12)が互いに異なる第3領域442B−1及び第4領域442B−2を有している。そして、第1領域342A−1と第3領域342B−1とが貼り合わされており、第2領域342A−2と第4領域342B−2とが貼り合わされている。
なお、第1嵌合部339Aは、他の実施形態と同様に、第1傾斜面341A及び第1直交面343Aを有している。同様に、第2嵌合部339Bは、他の実施形態と同様に、第2傾斜面341B及び第2直交面343Bを有している。そして、第1傾斜面341Aと第2傾斜面341Bとが貼り合わされ、第1直交面343Aと第2直交面343Bとが貼り合わされる。また、図9では図示していないが、他の実施形態と同様に、内側面333と分割外側面(符号省略)との角部に面取り形状が位置してよい。
以上のとおり、本実施形態は、第1実施形態と同様に、嵌合部339が孔35を開口とする枠状であること、互いに貼り合わされる内側面333の、取付孔25に露出する合せ目が挿入部29(図3)に位置していること、嵌合部339が傾斜面341を有していることなどの特徴を有している。従って、第1実施形態と同様の効果が奏される。例えば、貼り合わせが取付孔25に及ぼす影響を低減できる。また、本実施形態は、第2実施形態と同様に、第1嵌合部339A(凸部)及び第2嵌合部339B(凹部)は非円形であることから、回転方向の位置決めも高精度になされる。
また、本実施形態では、内側面333は、長手方向(x方向)の長さが長手方向に直交する短手方向(y方向)の長さよりも長い形状(本実施形態では長方形)である。第1嵌合部339A(凸部)は、短手方向においては第1内側面333Aよりも小さく、長手方向においては第1内側面333Aに亘って延びている。第2嵌合部339Bは、短手方向においては第2内側面333Bよりも小さく、長手方向においては第2内側面333Bに亘って延びている。
従って、例えば、嵌合部339をその長手方向に極力長くすることができる。その結果、第2実施形態において説明した、相対回転の角度(θ)に対する移動量(r×θ)を相対的に大きくする効果が増大し、ひいては、回転方向の位置決め精度が向上する。
なお、以上の第1〜第3実施形態において、取付孔25は貫通孔の一例であり、第1孔35Aは孔部分の一例であり、第2孔35Bは孔部分の一例であり、第1嵌合部39A、239A及び339Aはそれぞれ凸部の一例であり、第2嵌合部39B、239B及び339Bはそれぞれ凹部の一例であり、チップ5の短辺を構成する側面11は第1側面の一例であり、チップ5の長辺を構成する側面11は第2側面の一例である。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
チップのホルダへの着脱方法はねじによるもの限定されず、クランプによるものであってもよいし、ねじとクランプとの組み合わせによるものであってもよい。また、チップは、ねじを挿通可能な貫通孔が形成されつつも、ろうづけによってホルダに固定されるなど、貫通孔が利用されずにホルダに固定されてもよい。
チップは、エンドミル用のものに限定されない。例えば、チップは、バイト用又はドリル用のものであってもよいし、エンドミル以外のフライス用のものであってもよい。チップの平面視における形状は、矩形に限定されず、円形、三角形、菱形、正方形、5角形、6角形、8角形など、適宜なものとされてよい。また、チップは、外側面(主面)と外周面(側面)との角部に刃部を有するものに限定されず、外周面に刃部を有するものであってもよい。チップブレーカの有無及びその形状も適宜に設定されてよい。右勝手、左勝手及び両勝手のいずれであってもよい。実施形態でも言及したように、チップの材料も任意である。
貫通孔は、挿入部の両側に受け部を有するものに限定されず、挿入部の一方側にのみ受け部を有するものであってもよい。
第1嵌合部は、1つの凸部からなるものに限定されず、同様に、第2嵌合部は、1つの凹部からなるものに限定されない。例えば、第1嵌合部及び第2嵌合部それぞれは、貫通孔の周方向において、1以上の凸部と1以上の凹部とを交互に有するものであってもよいし、貫通孔を中心とする同心状に1以上の凸部と1以上の凹部とを交互に有するものであってもよい。また、枠状の一部(例えば中心角で30°未満の範囲)に途切れがあってもよい。
嵌合部の形状は、円形、楕円形及び長方形に限定されない。例えば、長方形以外の多角形であってもよいし、曲線と直線とを適宜に組み合わせた形状であってもよい。また、例えば、第3実施形態において、嵌合部339の長辺を互いに平行でなくし、嵌合部339の平面形状を台形又は6角形等としてもよい。この場合、嵌合部339が内側面333の長手方向全体に亘っていても(嵌合部339の縁部の一部が内側面333の縁部の一部と一致しても)、x方向の位置決めを行うことができる。また、例えば、第1実施形態の円形又は第2実施形態の楕円形の径を大きくして、嵌合部の外縁の一部を内側面の外縁の一部としてもよい。また、嵌合部は、直交面を有さずに、傾斜面のみから構成されていてもよい。例えば、錐体状の凸部と、これに対応する形状の凹部とによって、第1及び第2嵌合部が構成されてもよい。