(用語の使い方)
本発明に係る実施形態の説明においては、以下のように切削工具等に関する用語を用いるものとする。
刃部は、慣習的に、すくい面、逃げ面及び切刃からなる比較的小さい部分(例えばインサートの一部)を指す用語として用いられる場合と、切削工具の先端側の比較的広い部分(例えばインサート及びその周辺部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。
切刃部は、切削の際に同時に利用される1以上の刃部を指すものとする。従って、例えば、切刃部は、1つの刃部からなる場合、及びコーナ(ノーズ)を介して隣接する2つの刃部からなる場合等がある。
切刃は、慣習的に、すくい面と逃げ面との稜線を指す用語として用いられる場合と、すくい面と逃げ面とがなす角部(面積乃至は体積を有する部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。ただし、実際の切刃は、切刃の丸みという用語があるように、微視的には線ではなく、その限りで、切刃は、面積乃至は体積を有している。
すくい面及び逃げ面は、主として、切刃に最も近いすくい面及び逃げ面を指すものとする。例えば、すくい面を広く解釈すると、切削工具用チップの主面の中央側(取付面)もすくい面であるが、そのような解釈はしないものとする。なお、逃げ面は、いわゆるマージンを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
穴部は、貫通孔及び凹部のいずれであってもよいものとする。また、穴部について開口部というときは、穴部のうち穴部が設けられている面における部分(穴部の入口)を指すものとする。
<第1実施形態>
(切削工具の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るインサート式の切削工具1を示す斜視図である。
切削工具1は、概略軸状の部材であり、工作機械に取り付けられるホルダ3(シャンク)と、ホルダ3の先端側(紙面左側)の部分に着脱され、被削物に当接して実際に被削物を切削する1以上(図1の例では3つ)のチップ5とを有している。図示の例では、切削工具1はエンドミルであり、軸回りに回転されることによって、先端面及び先端の外周面において被削物を切削可能である。
チップ5のホルダ3に対する装着は、例えば、チップ5に挿通されたねじ7がホルダ3に形成された雌ねじ部(チップ5に隠れて不図示)に螺合することによってなされる。ホルダ3には、例えば、チップ5の複数の面(例えば1主面及び2側面)が当接する複数の面からなる凹部3rが形成されている。チップ5は、この凹部3rの面に当接することによって位置決めされている。
(チップの構成)
図2は、チップ5を示す斜視図である。図3(a)は、図2のIIIa−IIIa線における断面図である。
図2及び図3(a)等においては、チップ5に対して固定して定義した直交座標系xyzを付している。以下の説明では、この座標系を参照して方向を説明することがある。チップ5は、いずれの方向が鉛直方向乃至は水平方向とされてもよく、また、z軸方向の寸法が比較的大きくされてもよいが、z軸方向を上下方向又は厚さ方向ということがある。また、チップ5について単に平面視という場合、z軸方向に見ることを指すものとする。
チップ5は、一体成形され、チップ5の形状を構成している母材6を含んでいる。そして、例えば、チップ5は、母材6のみからなり、又は母材6と母材6を覆うコーティング層(不図示)とからなる。なお、コーティング層が設けられる場合、コーティング層は、母材6の全面を覆っていてもよいし、母材6の一部のみを覆っていてもよい。コーティング層は、比較的薄く、巨視的にはチップ5の形状に殆ど影響を及ぼさない。
これらの材料には、例えば、公知の種々のものが適用されてよい。例えば、母材6の材料は、超硬合金、ダイヤモンド焼結体、CBN(Cubic Boron Nitride)焼結体、狭義のセラミック、サーメット、又は粉末冶金で形成される高速度工具鋼(粉末ハイス)である。また、コーティング層の材料は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン、窒化チタン、窒化チタンカーバイト、窒化チタンアルミニウム、炭化チタン、窒化クロム、又は酸化アルミニウムである。
チップ5は、例えば、概略直方体状に形成されており、1対の主面9(上面及び下面)と、当該1対の主面9をつなぐ4つの側面11とを有している。なお、全ての側面11全体を外周面12ということがある。チップ5の寸法は適宜に設定されてよい。一例を示すと、平面視における長辺の長さは10mm以上16mm以下、平面視における短辺の長さは6mm以上10mm以下、厚さは4mm以上6mm以下である。なお、コーティング層が設けられる場合、コーティング層の厚さは、例えば、3μm以上5μm以下である。
平面視における長辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね外側に膨らんでいる。一方、平面視における短辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね、厚さ方向の中央側が最も低くなるように凹んでいる。なお、これらの形状は、強度確保や逃げ面の確保等の種々の観点から適宜に設定されてよい。
(切刃部の構成)
チップ5は、例えば、主面9の外周縁においてチップ5の厚さ方向(z軸方向)に突出している複数の切刃部14を有している。
切刃部14は、例えば、1対の主面9それぞれに設けられるとともに、各主面9において、一の対角線上に位置する2つの角部に設けられている。すなわち、切刃部14は、合計で4つ設けられている。平面視において、一方の主面9側の切刃部14が設けられた対角線と、他方の主面9側の切刃部14が設けられた対角線とは交差している。従って、チップ5は、z軸回りに180°回転させ、及び/又は、x軸回りに180°回転させることによって、4回使用できるようになっている。
複数の切刃部14は、例えば、互いに同一の形状とされている。すなわち、チップ5は、z軸回りに180°回転対称の形状であり、また、x軸回りに180°回転対称の形状である。
各切刃部14は、例えば、被削材の切削に直接にあずかる長辺刃部13L及び短辺刃部13S(以下、単に「刃部13」といい、両者を区別しないことがある。)を有している。
これら刃部13は、主面9と側面11との角部(すなわち、交差稜線部)に位置している。具体的には、長辺刃部13Lは、平面視の長辺に沿って設けられており、短辺刃部13Sは平面視の短辺に沿って設けられている。長辺刃部13L及び短辺刃部13Sは、平面視における長辺と短辺との角部をコーナ21(ノーズ)としてつながっている。
各刃部13は、切削によって生じた切屑が流れるすくい面15と、切削仕上げ面との不必要な接触をさけるために逃がした逃げ面17と、すくい面15が逃げ面17につながる部分である切刃19とを有している。
刃部13は、例えば、主面9の中央側に対して厚さ方向(z軸方向)に突出するように形成されている。具体的には、例えば、すくい面15は、中央側の主面9から厚さ方向に立ち上がるように形成されている。また、例えば、逃げ面17は、側面11に連続しており、中央側の主面9を厚さ方向に超えて延びている。また、例えば、切刃19は、コーナ21側ほど主面9からの高さが高くなっている。
図3(a)のような縦断面において、すくい面15及び逃げ面17の、厚さ方向(z軸方向)に対する傾斜の有無、傾斜方向及び傾斜角は適宜に設定されてよい。図示の例では、すくい面15は、切刃19側ほど主面9の外周縁側に位置するように厚さ方向に対して傾斜し、逃げ面17は、切刃19側ほど主面9の中央側に位置するように厚さ方向に対して傾斜している。なお、この厚さ方向に対する傾斜角は、すくい角及び逃げ角とは別のものである。図示の例とは異なり、例えば、逃げ面17は、厚さ方向に平行であったり、切刃19側ほど主面9の外周縁側に位置するように厚さ方向に傾斜したりしてもよい。
上記のように、本実施形態においては、刃部13は、主面9から突出しているから、チップ5は、主面9及び側面11を有する基部23と、基部23から突出する刃部13とを有していると捉えられてもよい。
(取付孔の構成)
チップ5は、穴部を有している。穴部は、例えば、貫通孔からなり、ねじ7などの固定部材が挿通される取付孔25である。図3(a)に示すように、取付孔25は、開口部26側(主面9側)に位置する受け部27と、その奥に位置する挿入部29とを有している。受け部27は、ねじ7のねじ頭7bを収容するとともにねじ頭7bが当接する部分であり、挿入部29は、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される部分である。受け部27は、取付孔25の貫通方向両側に設けられている。すなわち、チップ5は、x軸回りに180°回転させて使用可能に、1対の主面9のいずれからでもねじ7を挿入可能となっている。
なお、本実施形態においては、取付孔25が一対の主面9の一方から他方にかけて設けられた貫通孔であり、開口部26が主面9に位置しているが、取付孔25の構成としてはこのような構成に限定されるものではない。例えば、穴部は、側面11に開口部26が位置する構成であってもよい。具体的には、取付孔25は、互いに反対側に位置する側面11の一方から他方にかけて設けられた貫通孔からなる構成であってもよい。
受け部27は、例えば、主面9側から挿入部29側へ縮径しつつ延びている。そして、挿入部29は、取付孔25において最も径が小さい部分となっている。受け部27の最大径は、ねじ頭7bの径以上である。また、挿入部29の径(受け部27の最小径)は、ねじ頭7bの径よりも小さく、かつ雄ねじ部7aの径よりも大きい。特に図示しないが、取付孔25の横断面(xy断面)の形状は、例えば、厚さ方向のいずれの位置においても概ね円形である。
従って、ねじ7を取付孔25に挿入してホルダ3の不図示の雌ねじ部に螺合させていくと、ねじ頭7bは、受け部27の傾斜した内面にねじ頭7bの径に応じた位置で係合する。また、雄ねじ部7aは、所定の余裕(遊び)を介して挿入部29へ挿通された状態となる。
受け部27の内面は、縦断面(z軸に平行な断面)を見たときに直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、図3(a)に例示するように、その一部に厚さ方向に平行な部分を有していてもよい。受け部27の深さは、ねじ頭7bの全体を収容可能な深さであることが好ましいが、そのような深さでなくてもよい。挿入部29の内面は、例えば、縦断面を見たときに、後述するゲート跡(ゲート痕ともいう)を無視すると、厚さ方向に平行な直線状である。
(ゲート跡)
図3(b)は、図3(a)の領域IIIbの拡大図である。図3(c)は、取付孔25を示す平面図である。
チップ5においては、発明が解決しようとする課題の欄で述べたゲート跡30は、母材における一対の主面9の間の高さであって、外周面12に囲まれた部位に位置している。本実施形態においては、ゲート跡30は取付孔25内に位置している。すなわち、後に詳述するように、チップ5の母材6は、成形型内に原料を射出する射出成形によって形成され、成形型のうちの母材6を形成するキャビティへは、取付孔25に位置するゲートから原料が注入される。
具体的には、ゲート跡30は、取付孔25のうち、挿入部29の内面に位置している。挿入部29の内面とねじ7の雄ねじ部7aとの間には、上述のように所定の余裕(隙間)が介在している。従って、ねじ7は、ゲート跡30に対して非接触の状態で、チップ5をホルダ3に対して固定することになる。また、ねじ7(ねじ頭7b)は、ゲート跡30よりも外方で、母材6と直接又はコーティング層を介して間接に、ねじ7の軸方向及び/又は径方向に係合することになる。
ゲート跡30の大きさは適宜に設定されてよい。例えば、図3(b)に示すように、ゲート跡30は、取付孔25の軸を含む断面(縦断面)において、挿入部29の貫通長さ(z軸方向)全体に亘って形成されている。ただし、ゲート跡30は、挿入部29の貫通長さの一部においてのみ形成されていてもよい。挿入部29の貫通長さの一部においてのみ形成されている場合には、ねじ頭7bがゲート跡30に当接する可能性を小さくできる。そのため、ねじ頭7bを安定して受け部27に当接させることができる。
また、例えば、図3(c)に示すように、ゲート跡30は、挿入部29の全周に亘って形成されており、平面視において環状である。ただし、ゲート跡30は、挿入部29の周方向の一部においてのみ形成されていてもよい。また、例えば、特に図示しないが、ゲート跡30のz軸方向の位置及び/又は大きさは、挿入部29の全周に亘って一定である。ただし、ゲート跡30のz軸方向の位置及び/又は大きさは、挿入部29の周方向の位置によって異なっていてもよい。
本実施形態では、切刃部14は、図3(a)のような縦断面において、チップ5の厚さ方向(z軸方向)の端に位置している。従って、ゲート跡30を基準に考えると、切刃部14は、ゲート跡30から取付孔25の軸方向(別の観点ではz軸方向)に最も離れた位置に設けられている。
また、縦断面において、1対の受け部27が傾斜していることから、挿入部29の内面は、切刃部14の切刃19が突出する方向(概ねz軸方向)に対して交差(例えば直交)する方向(y軸方向)に突出している。ひいては、挿入部29の内面に形成されているゲート跡30は、切刃部14の切刃19が突出する方向に対して交差する方向に突出している。
なお、切刃部14の切刃19が突出する方向は、例えば、逃げ面15とすくい面17との中間の線(曲線の場合は近似直線でよい)が延びる方向によって規定されてよい。同様に、ゲート跡30(挿入部29の内面)が突出する方向も、1対の受け部27の中間の線が延びる方向によって規定されてよい。
ゲート跡30は、一般に目視可能である。これは、例えば、ランナー等に形成された不要部分の除去方法にもよるが、除去時に加えられた力によって、不要部分が除去された面がその周囲の面よりも若干いびつに盛り上がることからである。及び/又は、例えば、不要部分が除去された面(例えば切断面)は、その周囲であって隣接する領域の、成形型の内面が転写された面と比べて表面粗さが異なり(一般には切断面の表面粗さの方が大きい)、ひいては、光の反射の仕方が異なることからである。
図3(b)及び図3(c)では、ゲート跡30における表面粗さが他の面(成形型の内面が転写された面)の表面粗さに比較して大きいことを模式的に(多少誇張して)示している。なお、ゲート跡30及び他の面の表面粗さの差は、当該差に起因する表面の見え方(例えば光沢)に現れやすい。従って、例えば、両者の表面粗さが異なるか否かを判断するときに、算術平均粗さ等を測定してまで両者の表面粗さを比較することは、多くの場合必要ない。
チップ5が母材6のみからなる場合、ゲート跡30は取付孔25内に露出する。母材6の表面が不図示のコーティング層によって覆われる場合、ゲート跡30は、コーティング層に覆われていてもよいし、覆われずに取付孔25内に露出していてもよい。ゲート跡30がコーティング層に覆われている場合、コーティング層の厚さは、ゲート跡30を目視できない厚さとされてもよいし、依然としてゲート跡30を目視できる厚さとされてもよい。
(チップの製造方法)
図4は、チップ5の製造方法を示すフローチャートである。図5(a)〜図5(e)は、チップ5の製造方法の手順の概要を説明するための模式図である。製造方法は、図5(a)から図5(e)へ順に進行する。
まず、図4において符号S301で示すとともに、図5(a)に示すように、チップ5の原料31を準備する。具体的には、例えば、主成分となる比較的硬質の原料粉末、この硬質の原料粉末の結合相成分となる原料粉末、これらの原料粉末に流動性を付与するとともに成形後の保形性を付与するためのバインダ等の有機物の混合などを行う。
チップ5が超硬合金からなる場合を例にとると、原料粉末は、主成分としての炭化タングステンと、結合相成分としてのコバルトと、炭化タンタル及び炭化チタンとを含んでいる。バインダ又はバインダに類似する役割を果たすものとしては、例えば、パラフィン又は適宜な種類の樹脂を挙げることができる。なお、チップ5が超硬合金に限定されないことは、既に述べたとおりである。
次に、図4において符号S302で示すとともに、図5(b)に示すように、成形型33内にチップ5の原料31を射出して充填する。すなわち、図4において符号S302で示す工程は、切削工具用チップとなる成形体を形成する成形工程である。成形型33内の形状は、チップ5となる成形体と概略同じの形状となっている。従って、射出された原料31が成形型33内で固化することによって、チップ5と概略同様の形状の成形体35(図5(c))が形成される。
次に、図4において符号S303で示すとともに、図5(c)に示すように、成形型33から取り出された成形体35のうち、チップ5として不要な部分を除去する。当該不要な部分は、例えば、いわゆるスプルー及びランナー(後述)にて固化した部分である。除去は、適宜な方法によってなされてよいが、例えば、カッター37による切断によってなされる。
次に、図4において符号S304で示すとともに、図5(d)に示すように、成形体35を焼成する(熱処理工程を行う。)。これにより、チップ5となる焼結体39(図5(e))が形成される。この際、原料31に流動性を付与するために加えられていたバインダは蒸発乃至は燃焼し、焼結体39から除去される。
その後、図4において符号S305で示すとともに、図5(e)に示すように、焼結体39の切刃の研削乃至は研磨(ホーニング)を行って、切刃の丸み等を調整する。これにより、チップ5が得られる。ホーニングは、例えば、図5(e)で例示しているように、サンドブラストによって行われる。ただし、サンドブラストに限らず、例えば、固定砥粒又は遊離砥粒を用いてホーニングが行われてもよい。
なお、上述の手順は、あくまで手順の一例の概略であり、適宜に変形されてよい。例えば、不要部分の除去(図5(c))は、焼成(図5(d))の後であってもよい。また、例えば、射出成形(図5(b))後かつ焼成(図5(d))前に、成形体からバインダを除去するための処理(仮焼または溶媒抽出など)を行ってもよい。また、例えば、ホーニング(図5(e))の後、硬質皮膜(コーティング層)を形成してもよい。
また、例えば、射出成形後からホーニングまでの適宜な時期(焼成前及び焼成後のいずれでもよい)に、射出成形において生じる、いわゆるバリを除去するための切削、研削又は研磨が行われてもよい。ただし、後述の説明から理解されるように、本実施形態においては、バリは切刃に生じるから、ホーニングにおいてバリを除去可能である。従って、バリを除去するための処理は省略可能である。
(射出成形)
図6は、図4において符号S302で示した射出による成形工程を示すフローチャートである。図7(a)〜図7(d)は、図5(b)の射出成形の手順を説明するための模式図である。射出成形は、図7(a)から図7(d)へ順に進行する。
まず、図6において符号S401で示すとともに、図7(a)に示すように、複数の分割型(41:41A〜41C)からなる成形型33の型閉じを行う。なお、ここでいう分割型は、例えば、固定型及び移動型の他、中子乃至はスライドコアを含む。複数の分割型41は不図示の型締装置に保持されており、型締装置は、電動機又は油圧機器によって分割型41を移動させる。
型閉じにより、図7(b)に示すように、複数の分割型41によって囲まれた空間が構成される。型閉じされた複数の分割型41は、後に原料31が成形型33内に射出されたときに原料31の圧力によって分割型41間に隙間が生じないように、不図示の型締装置によって比較的強い力で型締めされる。なお、このとき、成形型33内には、適宜な気体(例えば空気)が存在している。
型締め後、図6において符号S402で示すとともに、図7(c)に示すように、(狭義の)射出装置によって射出が行われる。具体的には、成形型33内に通じるスリーブ43(シリンダ)内の原料31が、スリーブ43内のプランジャ45によって成形型33内に押し出される。なお、プランジャ45は、ピストン状のものであってもよいし、スクリューであってもよい。射出速度は、適宜に設定されてよく、適宜な変速制御がなされてもよい。
原料31が成形型33内に射出されていく過程において、成形型33内の気体は適宜に成形型33の外部へ排出される。例えば、分割型41の合わせ面のうちの適宜な位置には、成形型33の内外を連通する不図示のベントが設けられており、成形型33内の気体はベントから排出される。なお、ベント深さは、例えば、2μm以上20μm以下である。成形体35を分割型41から押し出す不図示のピンと分割型41との隙間を介して成形型33内の気体が排出されてもよい。
図7(c)では、不図示のベントによって気体が排出される様子を矢印y1によって模式的に示している。なお、図7(c)では、全ての合わせ目から気体が排出されている。ただし、全ての合わせ目から気体が排出される必要はなく、ベントはいずれか1つの合わせ目に設けられるだけであってもよい。
図6において符号S403で示すとともに、図7(d)に示すように、原料31が成形型33内に略充填されると、射出成形は、(狭義の)射出工程から昇圧(増圧)工程に移行する。すなわち、成形型33内の原料31の圧力は、プランジャ45によって付与される圧力によって所定の圧力(終圧)まで昇圧される。その後、その終圧が維持される(保圧工程)。成形型33内に充填された原料31は、プランジャ45から圧力を受けつつ、成形型33に熱を奪われて凝固する。
その後、不図示の型締装置によって成形型33の型開きが行われる。成形体35は、複数の分割型41のいずれかに残り、当該分割型41からは不図示のピンによって押し出される。そして、成形型33の洗浄、成形型33への離型剤の塗布などを経て、次の成形サイクルが開始される。
(成形型の構成)
図8は、成形型33を示す断面図である。図8においては、ハッチングを施した、いわゆる断面だけでなく、この断面より奥に位置する分割型41の合わせ面等も示している。図9は、成形型33の平面図である。これらは、いずれも成形型33を型閉状態で示している。
成形型33は、例えば、金型によって構成されている。図8に示すように、型閉じされた成形型33に構成される空間は、チップ5となる部分を形成するキャビティ47と、キャビティ47へ成形型33の外部から原料31を流れ込ませるためのランナー49及びスプルー51とを含む。また、成形型33は、ランナー49とキャビティ47とを接続する開口であるゲート(ゲート部)53を有している。
キャビティ47の形状及び寸法は、基本的に、チップ5となる成形体35と概略同じ形状及び寸法とされている。すなわち、成形型33は、チップ5の一対の主面9、側面11、刃部13等に対応する面を有している。本実施形態では、刃部13は、主面9から突出していることから、成形型33は、主面9に対応する面から後退する凹部47rを有している。なお、後に行われる焼成及びホーニング等の影響を考慮して、キャビティ47の形状及び寸法は、チップ5の形状及び寸法(設計値)と若干異なっていてもよい。
ゲート53は、上述したゲート跡30の説明から理解されるように、成形型33の、上面及び下面の間の高さに位置し、外周面に囲まれた部位に存在している。具体的には、ゲート53は、成形型33の、取付孔25の内面に対応する取付孔形成面33aにて開口している。より具体的には、ゲート53は、取付孔形成面33aのうち、取付孔25の挿入部29に対応する位置にて開口している。別の観点では、成形型33は、取付孔形成面33aの上方の一部又は下方の一部を表面とする突部41pを有しており、当該突部41pは、受け部27の形状に対応して、成形型33の主面9に対応する面から径を小さくしつつ突出しており、ゲート53は、その突部41pの先端側に位置している。また、ゲート53は、例えば、いわゆるリングゲートとして構成されており、z軸回りの360°に亘って開口している。
従って、ランナー49に供給された原料31は、ゲート53を介して注入される。具体的には原料31は、キャビティ47の中央側から外周側へ流れていくことになる。換言すれば、取付孔25から複数の切刃19へ流れていくことになる。
ランナー49は、例えば、上記のようにゲート53がリングゲートであることに対応して、円盤状の流路となっている。なお、ランナー49の厚さ方向(z軸方向)の大きさは、ゲート53と異なっていてもよいし、同一であってもよい。
スプルー51は、ランナー49に通じるとともに、成形型33の外表面にて開口している。スプルー51は、例えば、厚さ方向(z軸方向)に延びており、成形型33の外部側が縮径するようにテーパ状に形成されている。
成形型33は、例えば、キャビティ47に対して上下左右に分割されて、合計4つの分割型41を有している。すなわち、成形型33は、チップ5の一方の主面9側を構成する第1主面分割型41Aと、チップ5の他方の主面9側を構成する第2主面分割型41Bと、チップ5の外周側を構成する2つの側面分割型41Cとを含んでいる。上述したスプルー51は、例えば、第1主面分割型41Aに設けられている。ランナー49は、例えば、第1主面分割型41Aと第2主面分割型41Bとの間に構成される。
第1主面分割型41A及び第2主面分割型41Bは、例えば、キャビティ47の厚さ方向の中央で互いに分割されている。なお、本実施形態では、第1主面分割型41A及び第2主面分割型41Bの間にはランナー49が位置しており、キャビティ47の側面は側面分割型41Cによって構成されるから、第1主面分割型41A及び第2主面分割型41B同士が当接する合わせ面は不要である。
第1主面分割型41Aと側面分割型41Cとは、例えば、キャビティ47における切刃19に対応する稜線47aに沿って分割されており、両者の境界(境界部)である合わせ面47bは、稜線47aにつながっている。同様に、第2主面分割型41Bと側面分割型41Cとは、キャビティ47における切刃19に対応する稜線47aに沿って分割されており、両者の境界である合わせ面47bは、稜線47aにつながっている。
第1主面分割型41A又は第2主面分割型41Bと側面分割型41Cとの合わせ面47bは、例えば、すくい面15に対応する面と逃げ面17に対応する面とをこれらが交差する側(切刃19に対応する稜線47a側)に延長した2つの仮想面VSを考えたときに、2つの仮想面VSの間(仮想面VSに一致する位置は除く)に位置している。なお、図示の例では、合わせ面47bは、厚さ方向(z軸方向)に平行である。
2つの側面分割型41Cは、例えば、平面視における短辺の中央にて分割されており、両者の合わせ面は、短辺中央につながっている。なお、2つの側面分割型41Cは、それ以外の位置(例えば長辺の中央または短辺と長辺の間の角)で分割されてもよい。また、2つの側面分割型41Cの合わせ面は、上下でy軸方向の位置が異なるなど、適宜に傾斜したり、屈曲したりしていてもよい。
複数の分割型41の不図示の型締装置における役割は、適宜に設定されてよい。例えば、第1主面分割型41Aは固定型であり、第2主面分割型41Bは移動型であり、側面分割型41Cはスライドコアである。スライドコアは、傾斜ピン等が用いられることによって移動型とともに駆動されてもよいし、移動型とは別個の駆動手段によって駆動されてもよい。スライドコアは、型締めされた固定型と移動型との間に挟まれてもよい。成形型33は、いずれの方向が上下方向又は水平方向とされてもよい。
以上のとおり、本実施形態に係る切削工具用チップ5は、1対の主面9(上面及び下面)と、当該1対の主面9の間に位置して1対の主面9をつなぐ4つの側面11とを有する母材を備えており、母材における一対の主面9の間の高さであって、外周面12に囲まれた部位にゲート跡30が位置している。具体的には、本実施形態に係る切削工具用チップ5は、母材6に切刃部14と穴部(取付孔25)とを有しており、取付孔25内にゲート跡30が位置している。
従って、例えば、ゲート跡30が側面11に位置する場合のように、ゲート跡30が被削材に干渉するおそれがない。すなわち、ゲート跡30が切削性能に悪影響を及ぼすおそれが低減される。また、ゲート跡30が切削性能に悪影響を及ぼすおそれが低い領域(取付孔25内)にあることから、当該領域内で設計上の制約が少ない。その結果、例えば、原料31の流れを考慮して適宜な位置にゲート53を設けることができる。
さらに、チップ5をホルダ3に取り付ける際に一対の主面9の一方がホルダ3に当接する場合においては、ゲート跡30がホルダ3に当接する面から離れる。そのため、チップ5におけるホルダ3に当接する面の平滑性がゲート跡30によって低下することが避けられる。従って、チップ5を安定してホルダ3に取り付けることができる。
また、本実施形態では、固定用の穴部である取付孔25は、この取付孔25の第1開口部(一方の開口部26)側に位置している第1部位(一方の受け部27)と、該第1部位よりも幅が狭く、第1部位よりも奥に位置している第2部位(挿入部29)とを有しており、該第2部位にゲート跡30が設けられている。
従って、例えば、取付孔25に挿入されたねじ7によるチップ5の固定において、チップ5に当接させなければならないねじ頭7bをゲート跡30の非配置領域(受け部27)に当接させ、チップ5に当接させる必要が必ずしもない雄ねじ部7aをゲート跡30の配置領域(挿入部29)に位置させることができる。その結果、ねじ7とゲート跡30とが非接触の状態となるので、ゲート跡30がチップ5の固定に悪影響を及ぼすおそれを低減し、高精度にチップ5をホルダ3に対して位置決めすることができる。
また、本実施形態において、取付孔25は貫通孔である。そして、取付孔25は第1開口部(一方の開口部26)とは反対側の第2開口部(他方の開口部26)側に位置している第3部位(他方の受け部27)を有しており、第2部位(挿入部29)は第1部位(一方の受け部27)と第3部位との間に位置している。
従って、例えば、ゲート跡30は、チップ5の表面(両主面9)から離れた位置に設けられていることになるから、ゲート跡30が切削性能に悪影響を及ぼすおそれがより低減される。また、上述した雄ねじ部7aをゲート跡30から離す効果が、チップ5を上下のいずれの向きでホルダ3に対して固定した場合においても奏される。
また、本実施形態では、ゲート跡30(挿入部29)の表面粗さが、ゲート跡30に隣接する領域(例えば第1部分:受け部27)よりも大きい。
従って、例えば、挿入部29は、受け部27に比較して、占有面積乃至は投影面積に対して表面積の比が大きくなり、放熱性が向上する。その結果、例えば、切削に伴って母材6の内部に蓄積される熱を好適に放散させることができる。この効果は、ゲート跡30(母材6)が露出しているときはもちろん、ゲート跡30がコーティング層によって覆われている場合にも奏される。例えば、ゲート跡30の表面粗さの影響でコーティング層の表面が粗ければ、コーティング層の表面積が大きくなり、放熱性が向上する。また、コーティング層の表面が粗くなくても、ゲート跡30の表面が粗いことによってゲート跡30とコーティング層との接触面積が大きくなるから、母材6からコーティング層へ熱を伝え易くなり、ひいては、母材6の熱を放散させやすくなる。
また、本実施形態では、切刃部14が、ゲート跡30に対して取付孔25の軸方向に最も離れている位置に設けられている。
従って、ゲート跡30が切削性能に悪影響を及ぼすおそれを更に低減することができる。また、製造工程に着目すると、切刃部14の成形精度が向上する。具体的には、例えば、以下のとおりである。射出成形においては、図7(d)を参照して説明したように、原料31に比較的高い圧力を付与しつつ原料31を凝固させる。その結果、原料31が凝固してその体積が縮小し、原料31と成形型33の内面との間に隙間が生じると、原料31はさらに押しこまれることになる。このとき、凝固した原料31の成形型33に対するずれ量は、ゲート53に近いほど大きく、ひいては、成形体35の成形精度は低下する。しかし、本実施形態では、ゲート53から離れた位置に切刃部14が位置していることから、そのようなずれによって切刃部14の成形精度が低下するおそれが低減される。
また、本実施形態では、取付孔25の軸方向(z軸方向)に沿った方向から見た場合に、ゲート跡30は取付孔25の軸を囲む環状である。
従って、例えば、上述した放熱性向上の効果が取付孔25の全周に亘って奏される。また、例えば、製造工程に着目すると、リングゲートとして設けられたゲート53から全方位に向かって原料31が流れるから、原料31が合流することによって生じるウェルドラインの発生が抑制される。
また、本実施形態では、取付孔25の軸を含む断面(縦断面)において、ゲート跡30が突出している方向(y軸方向)は、切刃部14における切刃19が突出している方向(z軸方向)に対して傾斜している。
従って、例えば、切刃19とゲート跡30との間で突出方向の応力が伝わりにくくなる。その結果、例えば、ゲート跡30がねじ7等に押し付けられるようなチップ5の変形が生じたり、ゲート跡30から意図しない応力が切刃19に伝達されたりするおそれが低減される。
また、本実施形態では、切削工具1は、上記のようなチップ5と、チップ5が固定されているホルダ3とを備えている。さらに、チップ5が取付孔25に挿入されているねじ7によってホルダ3に固定されている。
従って、ゲート跡30が設けられた穴部(取付孔25)を、チップ5の取り付けに用いることができる。別の観点では、チップ5の取り付けのための取付孔25を、ゲート跡30を配置するための穴部として利用でき、ゲート跡30を隠すための穴部をわざわざ設ける必要はない。その結果、例えば、チップ5の簡素化が図られる。
また、本実施形態では、ねじ7とゲート跡30とが非接触の状態である。別の観点では、ねじ7がゲート跡30よりも外方で母材6と係合している。ここで外方とは、取付孔25における開口部26に近づく方向を意味している。
従って、既に述べたように、ゲート跡30がチップ5の取り付けに悪影響を及ぼすおそれが低減される。また、ゲート跡30によってねじ7の雄ねじ部7aが損傷するおそれが低減される。その結果、例えば、雄ねじ部7aを再利用できなくなるおそれが低減される。
<他の実施形態>
第1実施形態では、概ね直方体状であり、エンドミルを構成するチップ5を例に挙げた。ただし、第1実施形態のゲート跡30の好適な位置は、他の種々の切削工具用チップに対して適用可能である。以下では、そのいくつかを例示する。
<第2実施形態>
図10(a)は、本発明の第2実施形態に係る切削工具用チップ205を示す斜視図である。
チップ205は、平面視において概略三角形のチップであり、例えば、バイトのチップとして用いられるものである。チップ205は、1対の主面209と、3つの側面211とを有しており、1対の主面209の一方と、3つの側面211との角部に3つの刃部213(本実施形態では切刃部と同じ。)が構成されている。なお、他方の主面209と3つの側面211との角部にも3つの刃部213が構成されていてもよい。
刃部213は、例えば、主面209の中央側の部分に平行なランドからなるすくい面215と、側面211により構成された逃げ面217と、これらの交差部である切刃219とから構成されている。このように、刃部213は、主面又は側面に対して突出せずに、主面若しくは側面又はこれらに平行な面の角部によって構成されていてもよい。
チップ205は、取付孔225を有している。特に図示しないが、取付孔225は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有している。ただし、刃部213が1対の主面209のうち一方のみに設けられていることに対応して、受け部は、刃部213が設けられている主面209側においてのみ設けられている(図10(b)の成形型233を参照)。
図10(b)は、チップ205となる成形体を形成するための成形型233の断面図であり、図10(a)のXb−Xb線に対応している。図10(c)は、成形型233の一部(側面分割型241C)を示す平面図である。
成形型233の内部には、チップ205に対応するキャビティ247と、キャビティ247に通じるランナー249とが形成されている。キャビティ247とランナー249とをつなぐゲート253は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔225の内面を形成する取付孔形成面233aの、挿入部(貫通方向において径が一定の部分)に対応する領域に、リング状に設けられている。
従って、特に図示しないが、本実施形態においても、ゲート跡は、取付孔225の挿入部に環状に形成される。また、ゲート跡は、チップ205の厚さ方向の中央又は中央よりも下方に位置し、刃部213(切刃部)は、ゲート跡から取付孔225の軸方向に最も離れた位置に設けられる。また、図示の例とは異なるが、取付孔225の両端に受け部が設けられれば、縦断面において、ゲート跡が突出する方向は、刃部213の切刃219が突出する方向(斜め45°上方)に対して傾斜する。
なお、本実施形態では、取付孔225の挿入部は、刃部213が形成されていない主面209まで延びており、ゲート253は、そのうちの適宜な位置に設けられてよい。例えば、図示のように、キャビティ247に対して厚さ方向の中央側に設けられてもよいし、図示の例とは異なり、刃部213が設けられていない主面209に対応する面に近い位置に設けられていてもよい。
このとき、ゲート253は、刃部213が設けられていない主面209から離れていることが好ましい。第1の実施形態において説明したように、チップ5におけるホルダ3に当接する面の平滑性がゲート跡によって低下することが避けられるからである。
成形型233は適宜に分割されてよい。例えば、成形型233は、第1実施形態と同様に、切刃219に対応する稜線247a(図10(b))に沿って分割され、第1主面分割型241A、第2主面分割型241B及び3つの側面分割型241Cを有している。3つの側面分割型241C同士は、例えば、図示のように、チップ205のコーナ221に対応する位置にて分割されていてもよいし、図示とは異なり、チップ205の各辺の中央に対応する位置にて分割されていてもよい。
<第3実施形態>
図11(a)は、本発明の第3実施形態に係る切削工具用チップ305を示す斜視図である。
チップ305は、平面視において概略6角形のチップであり、例えば、正面フライスのチップとして用いられるものである。チップ305は、1対の主面309と、6つの側面311とを有しており、1対の主面309と6個の側面311との角部に12個の刃部313が構成されている。
6角形は、120°回転対称の形状とされており、また、120°回転対称の位置にある3つの角が他の3つの角よりも小さくされている。その相対的に小さい角に位置するコーナ321によってつながる2つの切刃319が同時に使用される切刃であり、切刃部314を構成している。すなわち、チップ305は、使用する切刃部314を交換して6回使用可能である。
刃部313は、例えば、第1実施形態と同様に、主面309の中央側より厚さ方向(図11(a)の紙面上下方向)に突出するように形成されている。すなわち、すくい面315は、主面309の中央側から連続するとともに主面309の外周縁で立ち上がるように延びており、逃げ面317は、側面311の厚み方向の中央領域から連続するとともに主面309の中央側を超えて延びており、切刃319は、主面309の中央側よりも高い位置にある。
チップ305は、取付孔325を有している。特に図示しないが、取付孔325は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有し、受け部は、挿入部に対して両主面309側に設けられている。
図11(b)は、チップ305となる成形体を形成するための成形型333の断面図であり、図11(a)のXIb−XIb線に対応している。図11(c)は、成形型333の一部(側面分割型341C)を示す平面図である。
成形型333の内部には、チップ305に対応するキャビティ347と、キャビティ347に通じるランナー349とが形成されている。キャビティ347とランナー349とをつなぐゲート353は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔325の内面を形成する取付孔形成面333aの、挿入部に対応する領域に、リング状に設けられている。
従って、特に図示しないが、本実施形態においても、ゲート跡は、取付孔325の挿入部に環状に形成される。また、ゲート跡は、チップ305の厚さ方向の中央に位置し、刃部313(切刃部314)は、ゲート跡から取付孔325の軸方向に最も離れた位置に設けられる。また、縦断面において、ゲート跡が突出する方向は、刃部313の切刃319が突出する方向(斜め上下方向)に対して傾斜する。
成形型333は適宜に分割されてよい。例えば、成形型333は、第1実施形態と同様に、切刃319に対応する稜線347a(図11(b))に沿って分割され、第1主面分割型341A、第2主面分割型341B及び3つの側面分割型341Cを有している。3つの側面分割型341C同士は、例えば、図示のように、チップ305のコーナ321に対応する位置にて分割されていてもよいし、図示とは異なり、チップ305の各辺の中央に対応する位置にて分割されていてもよい。
<第4実施形態>
図12(a)は、本発明の第4実施形態に係る切削工具用チップ405を示す斜視図である。
上述した第1〜第3実施形態は、主面と外周面との角部に切刃が位置していたのに対して、チップ405では、外周面に切刃が位置している。このような態様においても、既述のゲート跡の好適な位置が適用されてよい。具体的には、以下のとおりである。
チップ405は、平面視において概略3角形のチップであり、例えば、溝切り(突切り)バイトのチップとして用いられるものである。チップ405は、概略、1対の主面409と、3つの側面411(外周面412)とを有しており、3つの側面411同士の角部に3つの刃部413(本実施形態では切刃部と同じ。)を有している。
刃部413は、例えば、一の側面411の角部側に位置する凹状のすくい面415と、このすくい面415に連続する他の側面411を面取りして形成した部分である逃げ面417と、すくい面415と逃げ面417との交差部に位置する切刃419とを有している。切刃419は、チップ405の厚さ方向に延びている。このように、刃部413は、主面409と外周面412との角部ではなく、外周面412(側面411同士の角部)に位置している。
チップ405は、取付孔425を有している。特に図示しないが、取付孔425は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有している。ただし、受け部は、例えば、第2実施形態と同様に、挿入部に対して一方の主面409側(例えば図12(a)の紙面手前側)にのみ設けられている。
図12(b)は、チップ405となる成形体を形成するための成形型433の断面図であり、図12(a)のXIIb−XIIb線に対応している。図12(c)は、成形型433の一部(側面分割型441C)を示す平面図である。
成形型433の内部には、チップ405に対応するキャビティ447と、キャビティ447に通じるランナー449とが形成されている。キャビティ447とランナー449とをつなぐゲート453は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔425の内面を形成する取付孔形成面433aの、挿入部に対応する領域に、リング状に設けられている。
従って、特に図示しないが、本実施形態においても、ゲート跡は、取付孔425の挿入部に環状に形成される。ただし、他の実施形態と異なり、刃部413(切刃部)は、ゲート跡から取付孔425の軸方向に最も離れた位置に設けられてはいない。また、縦断面において、ゲート跡が突出する方向は、刃部413の切刃419が突出する方向(本実施形態では左右方向)に対して傾斜していない。
なお、第2実施形態と同様に、ゲート453は、受け部から受け部とは反対側の主面まで延びている挿入部のうち、適宜な位置に設けられてよい。図示の例では、第2実施形態と同様に、キャビティ447に対して厚さ方向の中央側に設けられている。
成形型433は適宜に分割されてよい。例えば、成形型433は、他の実施形態と同様に、切刃419に対応する稜線447a(図12(c))に沿って分割され、第1主面分割型441A、第2主面分割型441B及び3つの側面分割型441Cを有している。ただし、他の実施形態とは異なり、稜線447aを構成する面は、主面409に沿った断面図に現れる。
<第5実施形態>
図13(a)は、第5実施形態に係るインサート式の切削工具501の先端の一部を示す断面図である。
切削工具501は、いわゆるクランプによってチップ505をホルダ503に取り付ける点が第1実施形態の切削工具1と相違する。具体的には、以下のとおりである。
切削工具501は、例えば、ホルダ503及びチップ505に加えて、チップ505をクランプするためのクランプ部材504と、クランプ部材504をホルダ503に締結するためのねじ507とを有している。なお、ホルダ503(ホルダ本体)、クランプ部材504及びねじ507によってホルダが構成されていると捉えられてもよい。また、特に図示しないが、上記の他、切削工具501は、ねじ507の周囲に配置されるスプリング、及びチップ505とホルダ503との間に介在する部材等を有していてもよい。
クランプ部材504は、例えば、先端がチップ505の取付凹部525(穴部)に挿入される当接部504aを有している。当接部504aは、取付凹部525の内周面に当接してチップ505を紙面左右方向において位置決め可能であるとともに、チップ505の上面に当接してチップ505を位置決め可能である。
また、クランプ部材504は、ホルダ503に形成された傾斜面503aに対して摺動可能な摺動部504bを有している。傾斜面503aは、ホルダ503に形成された雌ねじ部503bを挟んでチップ505とは反対側に位置するとともにチップ505とは反対側に面しており、また、下方側ほどチップ505から離れるように傾斜している。
チップ505のホルダ503への固定の際には、ねじ507が上方からクランプ部材504に挿入され、ねじ507の雄ねじ部507aがホルダ503の雌ねじ部503bに螺合される。そして、クランプ部材504は、ねじ507のねじ頭507bから下方への力を受ける。これにより、矢印y5で示すように、当接部504aによってチップ505の上面に対して下方への力が加えられる。また、傾斜面503aを摺動部504bが摺動することにより、クランプ部材504は、矢印y6で示す方向へ移動しようとする。これにより、当接部504aによって取付凹部525の内周面に対してチップ505をクランプ部材504側へ引き寄せる力が加えられる。その結果、チップ505は、ホルダ503の凹部503rの底面及び内周面に押し付けられ、位置決めされる。
このようなチップ505の固定方法においては、チップ505の固定用の穴部(取付凹部525)は、貫通孔である必要はなく、本実施形態でも穴部は凹部とされている。ただし、このような固定方法においても、チップ505の穴部は、貫通孔とされてよい。
図13(b)は、チップ505となる成形体を形成するための成形型533の断面図である。
成形型533の内部には、チップ505に対応するキャビティ547と、キャビティ547に通じるスプルー551とが形成されている。なお、本実施形態では、ランナーが設けられないダイレクトゲートとされているが、ランナーが設けられてもよい。
キャビティ447とスプルー551とをつなぐゲート553は、例えば、他の実施形態と同様に、取付凹部525の内面を形成する取付凹部形成面533aに設けられている。ただし、取付凹部形成面533aは、取付凹部525が凹部であることに対応して、取付凹部525の底面を形成する面を含んでおり、ゲート553は、当該底面を形成する面に開口している。
なお、成形型533は適宜に分割されてよい。図13(b)では、上下方向の中央で2分割され、分割面がチップ505の側面に位置している場合を例示している。ただし、他の実施形態と同様に、切刃を構成する稜線に沿って分割が行われてもよい。
図13(c)は、図13(b)の成形型533によって形成された成形体535を示す断面図である。成形体535は、他の実施形態と同様に、チップ505となる部分と、不要部分とを有している。ただし、成形体535では、不要部分は、取付凹部525となる凹部の底面から突出している。そして、成形体535における不要部分の除去及び成形体535の焼成等が行われて、チップ505が形成される。なお、不要部分の除去は、例えば、切削等の適宜な方法によって行われてよい。
図13(d)は、不要部分が除去されて形成されたチップ505の断面図である。
上記の説明から理解されるように、チップ505では、取付凹部525の底面の一部(例えば中央)にゲート跡530が形成される。なお、チップ505は、例えば、第2実施形態(図10(a))と同様に、上面(主面509)と、側面511との稜線によって刃部513(切刃部)が構成されてよい。
以上の実施形態において、取付孔25、225、325及び425並びに取付凹部525は穴部の一例である。1対の受け部27は第1部位及び第3部位の一例である。挿入部29は第2部位の一例である。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
例えば、切削工具は、インサート式のものに限定されず、チップがろう付けされるものであってもよい。換言すれば、穴部を有するチップは、その穴部が必ずしも固定に利用されなくてもよい。ろう付けされたチップにおいても、ゲート跡が穴部に位置していれば、ゲート跡が切削性能に悪影響を及ぼすおそれが低減される。また、切削工具がインサート式のものである場合において、チップの着脱方法は、ねじとクランプとの組み合わせによるものであってもよい。
チップの形状は、実施形態に例示したもの以外にも、円形、菱形、正方形、5角形、8角形など、適宜なものとされてよい。チップブレーカの有無及びその形状も適宜に設定されてよい。右勝手、左勝手及び両勝手のいずれであってもよい。実施形態でも言及したように、チップの材料も任意である。
チップの穴部は、第5実施形態でも例示したように、テーパ部(ねじ受け部)を有さないものであってもよい。これは、ねじによって固定が行われる場合(別の観点では貫通孔の場合)も同様である。
ゲート跡は、穴部に挿入されたねじ又はクランプ部材等に当接してもよい。この場合であっても、例えば、ゲート跡が被削材に干渉するおそれは低減される。