(用語の使い方)
切削工具に関する用語には、慣習的に多義的なものがある。本発明に係る実施形態の説明においては、そのような用語を基本的に以下のように用いるものとする。
刃部は、すくい面、逃げ面及び切刃からなる比較的小さい部分(例えばインサートの一部)を指す用語として用いられる場合と、切削工具の先端側の比較的広い部分(例えばインサート及びその周辺部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。
切刃は、すくい面と逃げ面との稜線を指す用語として用いられる場合と、すくい面と逃げ面とがなす角部(面積乃至は体積を有する部分)を指す用語として用いられる場合とがあるが、本実施形態の説明では、前者によるものとする。ただし、実際の切刃は、切刃の丸みという用語があるように、微視的には線ではなく、その限りで、切刃は、面積乃至は体積を有している。
すくい面及び逃げ面は、主として、切刃に最も近いすくい面及び逃げ面を指すものとする。例えば、すくい面を広く解釈すると、切削工具用チップの主面の中央側(取付面)もすくい面であるが、そのような解釈はしないものとする。なお、逃げ面は、いわゆるマージンを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
<第1実施形態>
(切削工具の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るインサート式の切削工具1を示す斜視図である。
切削工具1は、概略軸状の部材であり、工作機械に取り付けられるホルダ3(シャンク)と、ホルダ3の先端側(紙面左側)の部分に着脱され、被削物に当接して実際に被削物を切削する1以上(図1の例では3つ)のチップ5とを有している。図示の例では、切削工具1はエンドミルであり、軸回りに回転されることによって、先端面及び先端の外周面において被削物を切削可能である。
チップ5のホルダ3に対する装着は、例えば、チップ5に挿通されたねじ7がホルダ3に形成された雌ねじ部(チップ5に隠れて不図示)に螺合することによってなされる。ホルダ3には、例えば、チップ5の複数の面(例えば1主面及び2側面)が当接する複数の面からなる凹部3rが形成されている。チップ5は、この凹部3rの面に当接することによって位置決めされている。
(チップの構成)
図2は、チップ5を示す斜視図である。図3は、図2のIII−III線における断面図である。
図2及び図3等においては、チップ5に対して固定して定義した直交座標系xyzを付している。以下の説明では、この座標系を参照して方向を説明することがある。チップ5は、いずれの方向が鉛直方向乃至は水平方向とされてもよく、また、z軸方向の寸法が比較的大きくされてもよいが、z軸方向を上下方向又は厚さ方向ということがある。また、チップ5について単に平面視という場合、z軸方向に見ることを指すものとする。
チップ5は、例えば、概略直方体状に形成されており、1対の主面9(上下面)と、当該1対の主面9をつなぐ4つの側面11とを有している。なお、全ての側面11全体を外周面12ということがある。チップ5の寸法は適宜に設定されてよい。一例を示すと、平面視における長辺の長さは10mm以上16mm以下、平面視における短辺の長さは6mm以上10mm以下、厚さは4mm以上6mm以下である。
平面視における長辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね外側に膨らんでいる。一方、平面視における短辺に位置する側面11は、例えば、全体として概ね、厚さ方向の中央側が最も低くなるように凹んでいる。なお、これらの形状は、強度確保や逃げ面の確保等の種々の観点から適宜に設定されてよい。
(刃部の構成)
チップ5は、例えば、被削材の切削に直接にあずかる長辺刃部13L及び短辺刃部13S(以下、単に「刃部13」といい、両者を区別しないことがある。)を有している。これら刃部13は、主面9と側面11との角部(すなわち、交差稜線部)に位置している。具体的には、長辺刃部13Lは、平面視の長辺に沿って設けられており、短辺刃部13Sは平面視の短辺に沿って設けられている。長辺刃部13L及び短辺刃部13Sは、平面視における長辺と短辺との角部をコーナ21(ノーズ)としてつながっている。
長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、例えば、1対の主面9それぞれに設けられるとともに、各主面9において、一の対角線上に位置する2つの角部に設けられている。すなわち、長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、合計で4つ設けられている。平面視において、一方の主面9側の刃部13が設けられた対角線と、他方の主面9側の刃部13が設けられた対角線とは交差している。
従って、チップ5は、z軸回りに180°回転させ、及び/又は、x軸回りに180°回転させることによって、4組の刃部13を使用できる(4回使用できる)ようになっている。
複数組の長辺刃部13L及び短辺刃部13Sの組み合わせは、例えば、互いに同一の形状とされている。すなわち、チップ5は、z軸回りに180°回転対称の形状であり、また、x軸回りに180°回転対称の形状である。
各刃部13は、切削を営む主体となるすくい面15と、切削仕上げ面との不必要な接触をさけるために逃がした逃げ面17と、すくい面15が逃げ面17につながる部分である切刃19とを有している。
刃部13は、例えば、主面9の中央側に対して厚さ方向(z軸方向)に突出するように形成されている。具体的には、例えば、すくい面15は、中央側の主面9から厚さ方向に立ち上がるように形成されている。また、例えば、逃げ面17は、側面11に連続しており、中央側の主面9を厚さ方向に超えて延びている。また、例えば、切刃19は、コーナ21側ほど主面9からの高さが高くなっている。
図3のような縦断面において、すくい面15及び逃げ面17の、厚さ方向(z軸方向)に対する傾斜の有無、傾斜方向及び傾斜角は適宜に設定されてよい。図示の例では、すくい面15は、切刃19側ほど中央側の主面9の外側に位置するように厚さ方向に対して傾斜し、逃げ面17は、切刃19側ほど中央側の主面9の内側に位置するように厚さ方向に対して傾斜している。なお、この厚さ方向に対する傾斜角は、すくい角及び逃げ角とは別のものである。
上記のように、本実施形態においては、刃部13は、主面9から突出しているから、チップ5は、主面9及び側面11を有する基部23と、基部23から突出する刃部13とを有していると捉えられてもよい。
(取付孔の構成)
チップ5は、貫通孔を有している。貫通孔は、例えばねじ7が挿通される取付孔25である。図3に示すように、取付孔25は、ねじ7のねじ頭7bを収容するとともにねじ頭7bが係合する受け部27と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部29とを有している。受け部27は、両主面側に設けられており、挿入部29は、その間に設けられている。すなわち、チップ5は、x軸回りに180°回転させて使用可能に、1対の主面9のいずれからでもねじ7を挿入可能となっている。
受け部27は、主面9側から挿入部29側へ縮径しつつ延びている。そして、挿入部29は、取付孔25において最も径が小さい部分となっている。受け部27の最大径は、ねじ頭7bの径以上である。また、挿入部29の径(受け部27の最小径)は、ねじ頭7bの径よりも小さく、かつ雄ねじ部7aの径よりも大きい。特に図示しないが、取付孔25の横断面(xy断面)の形状は、例えば、厚さ方向のいずれの位置においても円形である。
従って、ねじ7を取付孔25に挿入してホルダ3の不図示の雌ねじ部に螺合させていくと、ねじ頭7bは、受け部27の傾斜した内面にねじ頭7bの径に応じた位置で係合する。また、雄ねじ部7aは、所定の余裕(遊び)を介して挿入部29へ挿通された状態となる。
受け部27の内面は、縦断面を見たときに直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、図3に例示するように、その一部に厚さ方向に平行な部分を有していてもよい。受け部27の深さは、ねじ頭7bの全体を収容可能な深さであることが好ましいが、そのような深さでなくてもよい。挿入部29の内面は、例えば、縦断面を見たときに概ね厚さ方向に平行な直線状である。ただし、挿入部29の内面は、若干の起伏があってもよい。
(チップの製造方法)
図4は、チップ5の製造方法を示すフローチャートである。図5(a)〜図5(e)は、チップ5の製造方法の手順の概要を説明するための模式図である。製造方法は、図5(a)から図5(e)へ順に進行する。
まず、図4において符号S301で示すとともに、図5(a)に示すように、チップ5の原料31を準備する。具体的には、例えば、主成分となる比較的硬質の原料粉末、この硬質の原料粉末の結合相成分となる原料粉末、これらの原料粉末に流動性を付与し成形体35に保形性を付与するためのバインダ等の有機物の混合などを行う。
チップ5が超硬合金からなる場合を例にとると、原料粉末は、主成分としての炭化タングステンと、結合相成分としてのコバルトと、炭化タンタル及び炭化チタンとを含んでいる。バインダ又はバインダに類似する役割を果たすものとしては、例えば、パラフィン又は適宜な種類の樹脂を挙げることができる。なお、チップ5は、超硬合金に限定されず、例えば、ダイヤモンド焼結体、CBN(Cubic Boron Nitride)焼結体、狭義のセラミック、サーメット、又は、粉末冶金で形成される高速度工具鋼(粉末ハイス)であってもよい。
次に、図4において符号S302で示すとともに、図5(b)に示すように、成形型33内にチップ5の原料31を射出して充填する。すなわち、図4において符号S302で示す工程は、切削工具チップとなる成形体を形成する成形工程である。成形型33内の形状は、チップ5と概略同様の形状となっている。従って、射出された原料31が成形型33内で固化することによって、チップ5と概略同様の形状の成形体35(図5(c))が形成される。
次に、図4において符号S303で示すとともに、図5(c)に示すように、成形型33から取り出された成形体35のうち、チップ5として不要な部分を除去する。当該不要な部分は、例えば、いわゆるスプルー及びランナー(後述)にて固化した部分である。除去は、適宜な方法によってなされてよいが、例えば、カッター37による切断によってなされる。
次に、図4において符号S304で示すとともに、図5(d)に示すように、成形体35を焼成する(熱処理工程を行う。)。これにより、チップ5となる焼結体39(図5(e))が形成される。この際、原料31に流動性を付与するために加えられていたバインダは蒸発乃至は燃焼し、焼結体39から除去される。
その後、図4において符号S305で示すとともに、図5(e)に示すように、焼結体39の切刃の研削乃至は研磨(ホーニング)を行って、切刃の丸み等を調整する。これにより、チップ5が得られる。ホーニングは、例えば、図5(e)で例示しているように、サンドブラストによって行われる。ただし、サンドブラストに限らず、例えば、固定砥粒又は遊離砥粒を用いてホーニングが行われてもよい。
なお、上述の手順は、あくまで手順の一例の概略であり、適宜に変形されてよい。例えば、不要部分の除去(図5(c))は、焼成(図5(d))の後であってもよい。また、例えば、射出成形(図5(b))後かつ焼成(図5(d))前に、成形体からバインダを除去するための処理(仮焼または溶媒抽出など)を行ってもよい。また、例えば、ホーニング(図5(e))の後、硬質皮膜を形成してもよい。
また、例えば、射出成形後からホーニングまでの適宜な時期(焼成前及び焼成後のいずれでもよい)に、射出成形において生じる、いわゆるバリを除去するための切削、研削又は研磨が行われてもよい。ただし、後述の説明から理解されるように、本実施形態においては、バリは切刃に生じるから、ホーニングにおいてバリを除去可能である。従って、バリを除去するための処理は省略可能である。
(射出成形)
図6は、図4において符号S302で示した射出による成形工程を示すフローチャートである。図7(a)〜図7(d)は、図5(b)の射出成形の手順を説明するための模式図である。射出成形は、図7(a)から図7(d)へ順に進行する。
まず、図6において符号S401で示すとともに、図7(a)に示すように、複数の分割型(41:41A〜41C)からなる成形型33の型閉じを行う。なお、ここでいう分割型は、例えば、固定型及び移動型の他、中子乃至はスライドコアを含む。複数の分割型41は不図示の型締装置に保持されており、型締装置は、電動機又は油圧機器によって分割型41を移動させる。
型閉じにより、図7(b)に示すように、複数の分割型41によって囲まれた空間が構成される。型閉じされた複数の分割型41は、後に原料31が成形型33内に射出されたときに原料31の圧力によって分割型41間に隙間が生じないように、不図示の型締装置によって比較的強い力で型締めされる。なお、このとき、成形型33内には、適宜な気体(例えば空気)が存在している。
型締め後、図6において符号S402で示すとともに、図7(c)に示すように、(狭義の)射出装置によって射出が行われる。具体的には、成形型33内に通じるスリーブ43(シリンダ)内の原料31が、スリーブ43内のプランジャ45によって成形型33内に押し出される。なお、プランジャ45は、ピストン状のものであってもよいし、スクリューであってもよい。射出速度は、適宜に設定されてよく、適宜な変速制御がなされてもよい。
原料31が成形型33内に射出されていく過程において、成形型33内の気体は適宜に成形型33の外部へ排出される。例えば、分割型41の合わせ面のうちの適宜な位置には、成形型33の内外を連通する不図示のベントが設けられており、成形型33内の気体はベントから排出される。なお、ベント深さは、例えば、2μm以上20μm以下である。成形体35を分割型41から押し出す不図示のピンと分割型41との隙間を介して成形型33内の気体が排出されてもよい。本実施形態においては、チップ5の外周面12に対応する成形型33の壁面の内側に位置するゲート53から原料31を注入し、原料31が内側から外側へ広がっていくことによって、成形型33内の気体が排出されやすい。
図7(c)では、不図示のベントによって気体が排出される様子を矢印y1によって模式的に示している。なお、図7(c)では、全ての合わせ目から気体が排出されている。ただし、全ての合わせ目から排出される必要はなく、ベントはいずれか1つの合わせ目に設けられるだけであってもよい。
図6において符号S403で示すとともに、図7(d)に示すように、原料31が成形型33内に略充填されると、射出成形は、(狭義の)射出工程から昇圧(増圧)工程に移行する。すなわち、成形型33内の原料31の圧力は、プランジャ45によって付与される圧力によって所定の圧力(終圧)まで昇圧される。その後、その終圧が維持される(保圧工程)。成形型33内に充填された原料31は、プランジャ45から圧力を受けつつ、成形型33に熱を奪われて凝固する。
その後、不図示の型締装置によって成形型33の型開きが行われる。成形体35は、複数の分割型41のいずれかに残り、当該分割型41からは不図示のピンによって押し出される。そして、成形型33の洗浄、成形型33への離型剤の塗布などを経て、次の成形サイクルが開始される。
(成形型の構成)
図8は、成形型33を示す断面図である。図9は、成形型33の平面図である。これらは、いずれも成形型33を型閉状態で示している。
成形型33は、例えば、金型によって構成されている。図8に示すように、型閉じされた成形型33に構成される空間は、チップ5となる部分を形成するキャビティ47と、キャビティ47へ成形型33の外部から原料31を流れ込ませるためのランナー49及びスプルー51とを含む。また、成形型33は、ランナー49とキャビティ47とを接続する開口であるゲート53を有している。
キャビティ47の形状及び寸法は、基本的に、チップ5と同一の形状及び寸法とされている。(但し、焼成による収縮は考慮されている。)すなわち、成形型33は、チップ5の主面9、側面11、刃部13等に対応する面を有している。本実施形態において、チップ5の主面9に対応する成形型33の面を底面といい、側面11(または外周面12)に対応する面を壁面ともいう。本実施形態では、刃部13は、主面9から突出していることから、成形型33は、主面9に対応する面から後退する凹部47rを有している。なお、後に行われる焼成及びホーニング等の影響を考慮して、キャビティ47の形状及び寸法は、チップ5の形状及び寸法(設計値)と若干異なっていてもよい。
ゲート53は、例えば、成形型33の、チップ5の主面9と外周面12(側面11)との交差稜線部に対応する部分によって囲まれた領域に位置している。複数の切刃19が交差稜線部に設けられる場合には、ゲート53は、例えば、成形型33の、複数の切刃19に対応する位置に囲まれた領域に位置している。より具体的には、例えば、ゲート53は、成形型33の、取付孔25の内面に対応する取付孔形成面(または貫通孔形成面)33aにて開口している。また、ゲート53は、例えば、いわゆるリングゲートとして構成されており、z軸回りの360°に亘って開口している。
従って、ランナー49に供給された原料31は、ゲート53を介して、キャビティ47の中央側から外周側へ流れていくことになる。換言すれば、取付孔25から複数の切刃19へ流れていくことになる。
さらに具体的には、ゲート53は、例えば、取付孔形成面33aのうち、取付孔25の挿入部29に対応する位置にて開口している。別の観点では、成形型33は、取付孔形成面33aの上方の一部又は下方の一部を表面とする突部41pを有しており、当該突部41pは、受け部27の形状に対応して、成形型33の主面9に対応する面から径を小さくしつつ突出しており、ゲート53は、その突部41pの先端側に位置している。
ゲート53の、チップ5の厚さ方向(z軸方向)の幅は、適宜に設定されてよい。図示の例では、ゲート53の厚さ方向の幅は、挿入部29の厚さ方向の大きさと同等とされている。また、ゲート53の厚さ方向の幅は、例えば、周方向に亘って(360°に亘って)一定である。別の観点では、本実施形態では、ゲート53は、挿入部29の内面全体に対応している。なお、もちろん、ゲート53は、挿入部29の内面の一部(例えば厚さ方向の中央側の一部)に対応するものであってもよい。
ランナー49は、例えば、上記のようにゲート53がリングゲートであることに対応して、円盤状の流路となっている。なお、ランナー49の厚さ方向(z軸方向)の大きさは、ゲート53と異なっていてもよいし、同一であってもよい。
スプルー51は、ランナー49に通じるとともに、成形型33の外表面にて開口している。スプルー51は、例えば、厚さ方向(z軸方向)に延びており、成形型33の外部側が縮径するようにテーパ状に形成されている。
成形型33は、例えば、キャビティ47に対して上下左右に分割されて、合計4つの分割型41を有している。すなわち、成形型33は、チップ5の一方の主面9側を構成する第1主面分割型41Aと、チップ5の他方の主面9側を構成する第2主面分割型41Bと、チップ5の外周側を構成する2つの側面分割型41Cとを含んでいる。上述したスプルー51は、例えば、第1主面分割型41Aに設けられている。ランナー49は、例えば、第1主面分割型41Aと第2主面分割型41Bとの間に構成される。
第1主面分割型41A及び第2主面分割型41Bは、例えば、キャビティ47の厚さ方向の中央で互いに分割されている。なお、本実施形態では、第1主面分割型41A及び第2主面分割型41Bの間にはランナー49が位置しており、キャビティ47の側面は側面分割型41Cによって構成されるから、第1主面分割型41A及び第2主面分割型41B同士が当接する合わせ面は不要である。
第1主面分割型41Aと側面分割型41Cとは、例えば、キャビティ47における切刃19に対応する稜線47aに沿って分割されており、両者の境界(境界部)である合わせ面47bは、稜線47aにつながっている。同様に、第2主面分割型41Bと側面分割型41Cとは、キャビティ47における切刃19に対応する稜線47aに沿って分割されており、両者の境界である合わせ面47bは、稜線47aにつながっている。本実施形態では、刃部13は、主面9から突出していることから、刃部13を形成するための凹部47rは、合わせ面47b(境界部)に向かって後退している。
第1主面分割型41A又は第2主面分割型41Bと側面分割型41Cとの合わせ面47bは、例えば、すくい面15に対応する面と逃げ面17に対応する面とをこれらが交差する側(切刃19に対応する稜線47a側)に延長した2つの仮想面VS(図8)を考えたときに、2つの仮想面VSの間(仮想面VSに一致する位置は除く)に位置している。なお、図示の例では、合わせ面47bは、厚さ方向(z軸方向)に平行である。
より好適には、合わせ面47bは、2つの仮想面VSの中央に位置する、2つの仮想面VSがなす角度の半分の角度の範囲に収まっている。さらに好適には、合わせ面47bは、2つの仮想面VSの中央に位置している。
2つの側面分割型41Cは、例えば、平面視における短辺の中央にて分割されており、両者のキャビティ47外の合わせ面は、短辺中央につながっている。なお、2つの側面分割型41Cは、それ以外の位置(例えば長辺の中央または短辺と長辺の間の角)で分割されてもよい。
合わせ面(47a等)は、基本的には、分割型41同士が当接する面であり、理想的には、両分割型41の合わせ面間に隙間はない。ただし、摩耗によってキャビティ47側に比較的微小な隙間が生じていてもよい。また、種々の目的で、比較的微小な隙間が意図的に形成されていてもよい。
複数の分割型41の不図示の型締装置における役割は、適宜に設定されてよい。例えば、第1主面分割型41Aは固定型であり、第2主面分割型41Bは移動型であり、側面分割型41Cはスライドコアである。スライドコアは、傾斜ピン等が用いられることによって移動型とともに駆動されてもよいし、移動型とは別個の駆動手段によって駆動されてもよい。スライドコアは、型締めされた固定型と移動型との間に挟まれてもよい。成形型33は、いずれの方向が上下方向又は水平方向とされてもよい。
以上のとおり、第1の観点では、本実施形態に係る切削工具用チップ5の製造方法は、成形型33内に原料31を注入することによってチップ5となる成形体35を形成する成形工程(図5(b))を有している。成形工程では、チップ5の主面9と外周面12(側面11)との交差稜線部に対応する部分(稜線47a)によって囲まれた領域に位置するゲート53から成形型33内に原料31を注入する。すなわち、成形工程では、チップ5の外周面12に対応する成形型33の壁面によって囲まれた領域に位置するゲート53から成形型33内に原料31を注入する。
従って、例えば、射出成形における交差稜線部の成形精度が向上する。具体的には、例えば、以下のとおりである。射出成形においては、図7(d)を参照して説明したように、原料31に比較的高い圧力を付与しつつ原料31を凝固させる。その結果、原料31が凝固してその体積が縮小し、原料31と成形型33の内面との間に隙間が生じると、原料31はさらに押しこまれることになる。このとき、凝固した原料31の成形型33に対するずれ量は、ゲート53に近いほど大きく、ひいては、成形体35の成形精度は低下する。しかし、本実施形態のように、ゲート53を交差稜線部に囲まれた領域に位置させると、ゲート53から比較的遠い位置に交差稜線部が位置することになるから、上記のような交差稜線部の成形精度の低下のおそれが低減される。
また、本実施形態に係る切削工具用チップ5の製造方法は、厚み方向(z軸方向)に見て外周側に複数の切刃19を有するチップ5の製造方法であって、成形型33内に原料31を注入することによってチップ5となる成形体35を形成する成形工程(図5(b))を有している。成形工程では、厚み方向に対応する方向に成形型33を見て、複数の切刃19に対応する部分(稜線47a)によって囲まれた領域に位置するゲート53から成形型33内に原料31を注入する。
従って、例えば、射出成形における複数の切刃19の成形精度が向上する。具体的には、例えば、以下のとおりである。射出成形においては、図7(d)を参照して説明したように、原料31に比較的高い圧力を付与しつつ原料31を凝固させる。その結果、原料31が凝固してその体積が縮小し、原料31と成形型33の内面との間に隙間が生じると、原料31はさらに押しこまれることになる。このとき、凝固した原料31の成形型33に対するずれ量は、ゲート53に近いほど大きく、ひいては、成形体35の成形精度は低下する。しかし、本実施形態のように、ゲート53を複数の切刃19に囲まれた領域に位置させると、ゲート53から比較的遠い位置に複数の切刃19が位置することになるから、上記のような切刃19の成形精度の低下のおそれが低減される。
また、本実施形態では、ゲート53は、成形型33の、チップ5の貫通孔(取付孔25)の内面に対応する貫通孔形成面(取付孔形成面33a)に位置している。
従って、例えば、一般的に平面視におけるチップ5の中心(図形重心)に位置する取付孔25にゲート53が位置することになり、上述した切刃19の成形精度の向上の効果が増大する。また、例えば、成形体35のチップ5となる部分から不要部分(ランナー49にて形成された部分)を除去した跡が残ったとしても、当該跡は取付孔25内に位置することから、当該跡がチップ5の機能に及ぼす影響が低減される。例えば、除去の跡が主面9又は側面11に位置すると、除去の跡の起伏によって、チップ5が高精度にホルダ3に位置決めされないおそれがあるが、そのようなおそれが低減される。
また、本実施形態では、ゲート53は、取付孔形成面33aの周方向に連続して一周設けられている。原料31は、ゲート53から成形型33の壁面の一周全体に向けて注入される。
従って、例えば、原料31は360°に亘って広がっていくことになり、原料31が合流することによって形成されるウェルドラインが生じるおそれが低減される。すなわち、チップ5の品質が向上する。
また、第2の観点では、本実施形態に係る切削工具用チップ5の製造方法は、1対の主面9に対して外周側に位置する切刃19と、1対の主面9を貫通する取付孔25とを有するチップ5の製造方法であって、成形型33内に原料31を注入することによってチップ5となる成形体35を形成する成形工程(図5(b))を有している。成形工程では、成形型33の、チップ5の取付孔25の内面に対応する取付孔形成面33aにて開口するゲート53から成形型33内に原料31を注入する。
従って、例えば、取付孔25は、一般に外周面12(切刃19)から最も離れた位置にあるから、ゲート53は、切刃19から離れることになり、射出成形における切刃19の成形精度が向上する。また、例えば、成形体35から不要部分を除去した跡がゲート53の位置に残っても、チップ5の機能に及ぼす影響は小さい。
また、本実施形態では、成形型33において、取付孔形成面33aの少なくとも一部を表面とする突部41pが1対の主面9のうちの一方の主面9に対応する面からゲート53側へ径を小さくしつつ突出している。
すなわち、ゲート53は、取付孔形成面33aのうち、挿入部29に対応する位置にて開口している。ここで、図3を参照して示したように、ねじ7のねじ頭7bが取付孔25の受け部27に当接するのに対して、ねじ7の雄ねじ部7aは、挿入部29に当接しない。従って、例えば、成形体35から不要部分を除去した跡がゲート53の位置に残っても、当該跡がねじ7によるチップ5の固定に及ぼす影響が低減される。
また、本実施形態では、成形型33は、主面9に対応する面と外周面12に対応する面との角部に切刃19を形成する部分を有している。
従って、例えば、挿入部29に対応する位置に設けられているゲート53は、平面方向(x軸方向及びy軸方向)だけでなく、厚さ方向(z軸方向)においても切刃19から離れることになる。その結果、ゲート53から切刃19が離れることによる切刃19の成形精度の向上の効果が増大する。
また、本実施形態では、成形型33は、チップ5の両主面9について、主面9と外周面12との角部に位置する切刃19を形成する部分を有している。また、成形型33は、チップ5の両主面9について、主面9に対応する面からゲート53側へ径を小さくしつつ突出する突部41pを有している。
従って、例えば、ゲート53は、両主面9側に設けられた切刃19に対して距離が離れることになり、両主面9側の切刃19の精度が向上する。また、例えば、縮径する突部41pが上下に形成されると、キャビティ47の、ゲート53から外周側への形状は、図8のような縦断面において、上下(z軸方向)に徐々に広がる逆テーパ状となる。すなわち、原料31の流れ方向に見ると、流路断面の面積の変化は緩やかなものとなる。その結果、原料31の流れが円滑なものとなり、成形精度が向上する。
なお、本実施形態では、平面視における長辺に位置する側面11が全体として外側に膨らんでいる。これは、厚さ方向の中央側に位置するゲート53から側面11までの距離を厚さ方向において均等にすることに寄与している。
(第1変形例)
図10は、第1変形例に係るゲート53を示す模式的な斜視図である。なお、第1変形例53は、基本的にゲート53の形状のみが実施形態と相違する。ただし、ゲート53の形状の相違に合わせて、ランナー49の形状も相違してよい。
この変形例においても、上記の実施形態と同様に、ゲート53は、取付孔25の内面を形成する取付孔形成面33aのうち、挿入部29に対応する位置に開口している。ただし、ゲート53は、厚さ方向(z軸方向)の幅が周方向に一定ではなく、周方向の位置によって変化している。
ゲート53の幅の周方向に対する変化は、適宜に設定されてよい。例えば、ゲート53の幅は、平面視におけるチップ5の辺への距離が相対的に長い位置において広くされている。別の観点では、ゲート53は、周方向の位置が互いに異なる第1部分53a及び第2部分53bを有し、第2部分53bは、第1部分53aよりも成形型33のチップ5の外周面に対応する面までの距離L(例えば最短距離)が長く、かつ第1部分53aよりも厚み方向に対応する方向の幅が大きい。
ゲート53の幅の変化は、連続的なものであってもよいし、段階的なものであってもよい。変化が段階的なものである場合は、幅は、2種類であってもよいし、3種類以上であってもよい。図示の例では、ゲート53の幅の種類は、2種類とされており、ゲート53は、平面視における長辺側に位置している第1部分53aと、平面視における短辺側に位置している第2部分53bとを有している。
このように、取付孔形成面33aにリングゲートとして設けられたゲート53は、周方向の位置によって厚み方向に対応する方向の幅が異なる。従って、例えば、チップ5の形状、及び切刃19の位置等に応じて適宜にゲート53の幅を調整して、原料31の流れ等を好適化することができる。
例えば、平面視における辺に対する距離が相対的に長い部分(第2部分53b)の幅を相対的に大きくすることによって、原料31がゲート53から遠い辺に到達する時期と、近い辺に到達する時期との時間差を小さくすることができる。その結果、例えば、チップ5の外周部にウェルドラインが生じるおそれを低減できる。ひいては、チップ5の外周側に設けられる切刃19にウェルドラインが生じるおそれを低減できる。
(第2変形例)
図11は、第2変形例に係るゲート53を示す模式的な斜視図である。なお、第2変形例53は、基本的にゲート53の形状のみが実施形態と相違する。ただし、ゲート53の形状の相違に合わせて、ランナー49の形状も相違してよい。
この変形例においても、上記の実施形態と同様に、ゲート53は、取付孔25の内面を形成する取付孔形成面33aのうち、挿入部29に対応する位置に開口している。ただし、ゲート53は、周方向に連続して1周設けられるのではなく、周方向の複数位置に分散して設けられている。すなわち、ゲート53は、周方向に配列された複数の開口53cを有している。原料31は、ゲート53から成形型33の壁面の一周全体に対して部分的に注入される。
複数の開口53cの周方向の位置(範囲)は、適宜に設定されてよい。例えば、複数の開口53cは、取付孔形成面33aのうち、平面視におけるチップ5の辺への距離が相対的に長い位置において設けられている。すなわち、複数の開口53cは、複数の開口53c間の領域よりも成形型33のチップ5の外周面に対応する面までの距離Lが長い。
複数の開口53cは、その幅が互いに異なっていてもよいし、同一であってもよい。各開口53cにおいて、幅は一定であってもよいし、一定でなくてもよい(第1変形例が組み合わされてもよい。)。複数の開口53cの数も適宜に設定されてよい。
このように、取付孔形成面33aに設けられたゲート53は、周方向に配置された複数の開口53cを有している。従って、例えば、チップ5の形状、及び切刃19の位置等に応じて適宜に複数の開口53cの位置及び数を設定し、原料31の流れ等を好適化することができる。
例えば、平面視における辺に対する距離が相対的に長い位置に開口53cが設けられることによって、原料31がゲート53から遠い辺に到達する時期と、近い辺に到達する時期との時間差を小さくすることができる。その結果、例えば、チップ5の外周部にウェルドラインが生じるおそれを低減できる。ひいては、チップ5の外周に設けられる切刃19にウェルドラインが生じるおそれを低減できる。
(第2変形例に係るランナーの形状例)
図15(a)は、上述した第2変形例に係るゲート53に原料31を供給するランナー50の第1形状例を示す平面図である。図15(b)は、図15(a)のランナー50を示す斜視図である。
この第1形状例において、スプルー51は、例えば、実施形態に示したスプルー51と同様のものである。すなわち、スプルー51は、厚さ方向(z軸方向)に延びており、また、成形型33の外部側が縮径するようにテーパ状に形成されている。なお、実施形態の説明では、挿入部29よりも上方側の流路(円盤状のランナー49よりも上方側の流路)をスプルー51として捉えた。この第1形状例の説明においては、スプルー51は、厚さ方向において挿入部29の内側まで延びている部分であるものとする。スプルー51は、挿入部29内においてテーパ状となっていなくてもよい。
ランナー50は、ゲート53の開口53cの数と同数(図示の例では2つ)設けられている。また、ランナー50は、例えば、スプルー51から開口53cへ、概ね一定の断面積(yz断面における面積)で直線状に延びている。図示の例では、スプルー51が取付孔形成面33aの内側中央に位置し、2つのランナー50は、キャビティ47の中央側から短辺(すなわち距離Lが相対的に長い側)に向かって、かつ互いに逆側へ延びている。ランナー50は、例えば、側面視において同一の高さで(xy平面に平行に)延びている。また、開口53cが挿入部29に対応する厚さ方向の位置において開口している。そのため、ランナー50は、挿入部29に対応する厚さ方向の範囲内において延びている。
ランナー50の横断面(yz断面)の形状及び寸法は、適宜に設定されてよい。例えば、ランナー50の横断面の形状は、図示の例では矩形である。ランナー50の厚さは、例えば、挿入部29の厚さ以下である。ランナー50の幅(y軸方向)は、例えば、挿入部29の直径未満、又はスプルー51の、ランナー50と接続される高さにおける直径(y軸方向)以下である。
図15(c)は、第2変形例に係るゲート53に原料31を供給するランナー54の第2形状例を示す平面図である。なお、この第2形状例では、スプルー52を平面視において矩形としている。
この図に示すように、開口53cに原料31を供給するランナー54は、扇型であってもよい。ただし、後に図16(d)等を参照して説明する好ましい作用から、図15(a)のようにランナー50が一定の幅の直線状であることが望ましい。
(第2変形例に係るランナーの第1形状例による作用)
図16(a)〜図16(i)は、第1形状例に係るランナー50の作用を説明するための模式図である。
図16(a)〜図16(c)は、実施形態のようにゲート53をリングゲートとした場合における原料31の流れを説明するための模式的な平面図である。
図16(a)は、まだ原料31がゲート53からキャビティ47へ流れ込む前の状態を示している。図16(b)に示すように、原料31がゲート53からキャビティ47へ流れ込み始めると、ゲート53はリングゲートであることから、原料31は、概ね均等に全方向へ広がって行く。そして、図16(c)に示すように、原料31は、ゲート53との距離Lが近いキャビティ47の長辺に到達する。その後、特に図示しないが、原料31は、キャビティ47の短辺まで到達し、さらには、キャビティ47に充填される。
以上のような原料31の流れによって、例えば、既に述べたように、原料31が合流することによるウェルドラインの形成が抑制される。
例えば、平面視におけるチップ5の形状が正方形である場合のように、平面視におけるゲート53からキャビティ47の各壁面までの距離が等しい場合には、ゲート53がリングゲートであることが特に有効である。
一方、例えば、平面視におけるチップ5の形状が長方形である場合のように、平面視におけるゲート53からキャビティ47の各壁面までの距離が等しくない場合には、図15(a)に示したように、短辺に向かって延びるランナー50及び短辺に向かって開口する開口53c(ゲート53)を設けた構成が有効となる。その理由としては、以下のものが挙げられる。
図15(a)に示したランナー50を設けた場合における原料31の流れは、図16(d)〜図16(g)の平面図に示すようなものになる。
図16(d)は、まだ原料31がゲート53の開口53cからキャビティ47へ流れ込む前の状態を示している。図16(e)に示すように、原料31がゲート53からキャビティ47へ流れ込み始めると、ランナー50が直線状であることから、原料31は、概ね直線状に流れ、キャビティ47の短辺に到達する。次に、図16(f)に示すように、原料31は長辺に向かって広がっていく。次に、図16(g)に示すように、原料31は、短辺及び長辺の短辺側に到達して、キャビティ47の長手方向両側に概ね充填される。その後、特に図示しないが、長手方向両側に概ね充填された原料31が長手方向中央側で合流し、キャビティ47全体に原料31が充填される。
従って、原料31は先にキャビティ47の短辺に到達する。その結果、原料31が長辺に先に到達することによる原料31の成形時及び/又は焼成時の収縮量の偏りが小さくなる。
なお、図16(g)から理解されるように、このような流れの場合においては、図16(h)の斜視図に示すように、チップ5の長手方向中央側にウェルドラインWLが生じることがある。図16(i)の、チップ5の側面11の一部拡大平面図に示すように、ウェルドラインWLは、若干の高さ(例えば40μm程度)の突起を生じる。
ウェルドラインWLによるチップ5の取り付け及び切削性能等への影響を抑える必要がある場合には、例えば、既に述べたバリを除去するための研磨において、ウェルドラインWLによって生じた突起を、バリと併せて除去してもよい。
図17(a)は、図16(h)のチップ5の変形例を示す斜視図である。また、図17(b)は、図16(i)のチップ5の変形例を示す一部拡大平面図である。
ウェルドラインWLによるチップ5の取り付け及び切削性能等への影響を安定して抑えるためには、例えば図17(a)及び図17(b)に示すように、チップ5における側面11が、ウェルドラインWLが生じる領域に溝部11aを有する構成であってもよい。
側面11が上記の溝部11aを有している場合には、上記の突起を研磨によって除去しなくても、この突起によるチップ5の取り付け及び切削性能等への影響を安定して抑えることが可能である。
溝部11aは、1対の主面9(上下面)に対して開口していてもよく、また、1対の主面9(上下面)から離れていてもよい。また、ウェルドラインWLによるチップ5の取り付け及び切削性能等への影響をより確実に抑えるためには、溝部11aの深さは、ウェルドラインWL(突起)の高さよりも深いことが好ましい。
(第3変形例)
図18は、第3変形例に係るゲート53を示す模式的な断面図である。なお、以下では、実施形態のゲート53の形状を例にとって説明するが、第1又は第2変形例のゲート53の形状に対して第3変形例が適用されてもよい。
この図では、チップ5の断面を示すとともに、成形型33の断面形状を点線で示している。この図に示されているように、成形型33のゲート53の厚さ方向(z軸方向)の幅は、挿入部29の厚さよりも厚くなっている。例えば、図示の例では、ゲート53は、挿入部29の位置を厚さ方向の中心としており、また、その厚さ方向の縁部は、受け部27の中途の高さに位置している。すなわち、ゲート53の厚さ方向の幅は、挿入部29の厚さよりも大きく、取付孔25の厚さ未満である。なお、ゲート53の幅を取付孔25の厚さと同等とすることも可能である。
このようなゲート53を設けると、例えば、ゲート53の幅が挿入部29の厚さ以下である場合に比較して、迅速に原料31をキャビティ47に注入することができる。
一方、このようなゲート53を設けると、ゲート53が受け部27(傾斜面)にも重なっているから、受け部27の一部は、成形型33の内面によって形成されなくなる。従って、図5(c)を参照して説明した場合と異なり、不要部分の除去の際又は除去後に、受け部27の一部(傾斜面)を形成する必要がある。
図19(a)〜図19(d)は、受け部27の形成方法の一例を示す模式的な断面図である。
まず、図19(a)に示すように、幅が挿入部29よりも大きくされたゲート53を介してキャビティ47へ原料31が注入される。これにより、受け部27の挿入部29(図19(a)では未形成)側の一部が不要部分に埋もれた成形体35(図19(b))が形成される。
次に、図19(b)及び図19(c)に示すように、段付きドリル38によって、成形体35の厚さ方向のいずれか一方側(図示の例ではスプルー51に対応する部分とは反対側。スプルー51に対応する部分側からであってもよい。)から、成形体35に貫通孔を形成し、ひいては、不要部分を除去する。
段付きドリル38は、例えば、小径部38aと、小径部38aよりも径が大きい大径部38bとを有している。大径部38bの先端部38cは、所定の角度で傾斜した面を形成可能である。
従って、図19(c)及び図19(d)に示すように、小径部38aと同等の径を有する貫通孔(挿入部29となる孔)が形成されるとともに、厚さ方向の一方側の受け部27のうち、挿入部29側の傾斜面の一部が先端部38cによって形成される。
次に、図19(d)に示すように、上記とは反対側から、段付きドリル38によって成形体35を切削する。これにより、厚さ方向の他方側の受け部27のうち、挿入部29側の傾斜面の一部が先端部38cによって形成される。
なお、先端部38cによって形成される受け部27の傾斜面は、成形型33の内面によって形成される受け部27の傾斜面と同等の傾斜角であることが好ましい。図示の例では、受け部27の一部のみを段付きドリル38で形成したが、図19(c)から理解されるように、大径部38bの径を大きくすれば、受け部27の全体を段付きドリル38で形成可能である。図示の例では、成形体35を厚さ方向の一方側から切削したときに小径部38aが成形体35を貫通しているが、切削によって凹部を形成し、両側に形成された凹部が通じて初めて貫通孔が形成されてもよい。一方側から切削を行う段付きドリル38と、他方側から切削を行う段付きドリル38とは別個のものとされてもよい。
また、既に述べたように、不要部分の除去は、焼成の後であってもよく、このことは、段付きドリル38を用いる場合も同様である。
<他の実施形態>
第1実施形態では、平面視において長方形であり、エンドミルを構成するチップ5を例に挙げた。ただし、第1実施形態の効果的なゲートの位置及び分割面の位置等は、他の種々の切削工具用チップに対して適用可能である。以下では、そのいくつかを例示する。
<第2実施形態>
図12(a)は、本発明の第2実施形態に係る切削工具用チップ205を示す斜視図である。
チップ205は、平面視において概略三角形のチップであり、例えば、バイトのチップとして用いられるものである。チップ205は、1対の主面209と、3つの側面211とを有しており、1対の主面209の一方と、3つの側面211との角部に3つの刃部213が構成されている。なお、他方の主面209と3つの側面211との角部にも3つの刃部213が構成されていてもよい。
刃部213は、例えば、主面209に平行なランドからなるすくい面215と、側面211により構成された逃げ面217と、これらの交差部である切刃219とから構成されている。このように、刃部213は、主面又は側面に対して突出せずに、主面若しくは側面又はこれらに平行な面の角部によって構成されていてもよい。
チップ205は、取付孔225を有している。特に図示しないが、取付孔225は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有している。ただし、刃部213が1対の主面209のうち一方のみに設けられていることに対応して、受け部は、刃部213が設けられている主面209側においてのみ設けられている(図12(b)の成形型233を参照)。
図12(b)は、チップ205となる成形体を形成するための成形型233の断面図であり、図12(a)のXIIb−XIIb線に対応している。図12(c)は、成形型233の一部(側面分割型241C)を示す平面図である。
成形型233の内部には、チップ205に対応するキャビティ247と、キャビティ247に通じるランナー249とが形成されている。キャビティ247とランナー249とをつなぐゲート253は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔225の内面を形成する取付孔形成面233aの、挿入部に対応する領域に、リング状に設けられている。
なお、本実施形態では、取付孔225の挿入部(貫通方向において径が一定の部分)は、刃部213が形成されていない主面209まで延びており、ゲート253は、そのうちの適宜な位置に設けられてよい。例えば、図示のように、キャビティ247に対して厚さ方向の中央側に設けられてもよいし、図示の例とは異なり、刃部213が設けられていない主面209に対応する面に近い位置に設けられていてもよい。
また、成形型233は、例えば、第1実施形態と同様に、切刃219に対応する稜線247aに沿って分割され、第1主面分割型241A、第2主面分割型241B及び3つの側面分割型241Cを有している。第1主面分割型241Aと側面分割型241Cとの合わせ面247bは、例えば、第1実施形態と同様に、すくい面215に対応する面と逃げ面217に対応する面とをこれらの交差部側に延長した2つの仮想面(不図示)の間に位置している。具体的には、本実施形態では、2つの仮想面は、厚さ方向に平行な面及び厚さ方向に直交する面であり、合わせ面247bは、これらに傾斜した方向に延びている。
3つの側面分割型241C同士は、例えば、図示のように、チップ205のコーナ221に対応する位置にて分割されていてもよいし、図示とは異なり、チップ205の各辺の中央に対応する位置にて分割されていてもよい。
<第3実施形態>
図13(a)は、本発明の第3実施形態に係る切削工具用チップ305を示す斜視図である。
チップ305は、平面視において概略6角形のチップであり、例えば、正面フライスのチップとして用いられるものである。チップ305は、1対の主面309と、6つの側面311とを有しており、1対の主面309と6個の側面311との角部に12個の刃部313が構成されている。
6角形は、120°回転対称の形状とされており、また、120°回転対称の位置にある3つの角が他の3つの角よりも小さくされている。その相対的に小さい角に位置するコーナ321によってつながる2つの切刃319が同時に使用される切刃である。すなわち、チップ305は、使用する切刃319を交換して6回使用可能である。
刃部313は、例えば、第1実施形態と同様に、主面309から厚さ方向(図13(a)の紙面上下方向)に突出するように形成されている。すなわち、すくい面315は、主面309から連続するとともに主面309から立ち上がるように延びており、逃げ面317は、側面311から連続するとともに主面309を超えて延びており、切刃319は、主面309よりも高い位置にある。
チップ305は、取付孔325を有している。特に図示しないが、取付孔325は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有し、受け部は、挿入部に対して両主面309側に設けられている。
図13(b)は、チップ305となる成形体を形成するための成形型333の断面図であり、図13(a)のXIIIb−XIIIb線に対応している。図13(c)は、成形型333の一部(側面分割型341C)を示す平面図である。
成形型333の内部には、チップ305に対応するキャビティ347と、キャビティ347に通じるランナー349とが形成されている。キャビティ347とランナー349とをつなぐゲート353は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔325の内面を形成する取付孔形成面333aの、挿入部に対応する領域に、リング状に設けられている。
また、成形型333は、例えば、第1実施形態と同様に、切刃319に対応する稜線347aに沿って分割され、第1主面分割型341A、第2主面分割型341B及び3つの側面分割型341Cを有している。第1主面分割型341Aと側面分割型341Cとの合わせ面347bは、例えば、第1実施形態と同様に、すくい面315に対応する面と逃げ面317に対応する面とをこれらの交差部側に延長した2つの仮想面(不図示)の間に位置している。なお、図示の例では、2つの仮想面は、すくい面315に対応する面を延長した、厚さ方向に傾斜した面、及び逃げ面317に対応する面を延長した厚さ方向に平行な面であり、合わせ面347bは、すくい面315に対応する面よりも厚さ方向に対する傾斜が小さい傾斜面である。
3つの側面分割型341C同士は、例えば、図示のように、チップ305のコーナ321に対応する位置にて分割されていてもよいし、図示とは異なり、チップ305の各辺の中央に対応する位置にて分割されていてもよい。
<第4実施形態>
図14(a)は、本発明の第4実施形態に係る切削工具用チップ405を示す斜視図である。
上述した第1〜第3実施形態は、主面と外周面との角部に切刃が位置していたのに対して、チップ405では、外周面に切刃が位置している。このような態様においても、既述のゲート又は分割面を適用可能である。具体的には、以下のとおりである。
チップ405は、平面視において概略3角形のチップであり、例えば、溝切り(突切り)バイトのチップとして用いられるものである。チップ405は、概略、1対の主面409と、3つの側面411(外周面412)とを有しており、3つの側面411同士の角部に3つの刃部413を有している。
刃部413は、例えば、一の側面411の角部側に形成された凹状のすくい面415と、このすくい面415に連続する他の側面411を面取りして形成した逃げ面417と、すくい面415と逃げ面417との交差部に位置する切刃419とを有している。切刃419は、チップ405の厚さ方向に延びている。このように、刃部413は、主面409と外周面412との角部ではなく、外周面412(側面411同士の角部)に位置している。
チップ405は、取付孔425を有している。特に図示しないが、取付孔425は、第1実施形態と同様に、ねじ7のねじ頭7bが係合する受け部と、ねじ7の雄ねじ部7aが挿通される挿入部とを有している。ただし、受け部は、例えば、第2実施形態と同様に、挿入部に対して一方の主面409側(例えば図14(a)の紙面手前側)にのみ設けられている。
図14(b)は、チップ405となる成形体を形成するための成形型433の断面図であり、図14(a)のXIVb−XIVb線に対応している。図14(c)は、成形型433の一部(側面分割型441C)を示す平面図である。
成形型433の内部には、チップ405に対応するキャビティ447と、キャビティ447に通じるランナー449とが形成されている。キャビティ447とランナー449とをつなぐゲート453は、例えば、第1実施形態と同様に、取付孔425の内面を形成する取付孔形成面433aの、挿入部に対応する領域に、リング状に設けられている。なお、第2実施形態と同様に、ゲート453は、受け部から受け部とは反対側の主面まで延びている挿入部のうち、適宜な位置に設けられてよい。図示の例では、キャビティ447に対して厚さ方向の中央側に設けられている。
成形型433は、他の実施形態と同様に、切刃419に対応する稜線447a(図14(c))に沿って分割され、第1主面分割型441A、第2主面分割型441B及び3つの側面分割型441Cを有している。ただし、他の実施形態とは異なり、図14(c)に示すように、主面409に沿った断面図(若しくは平面図)において、側面分割型441C同士の合わせ面447bが、すくい面415に対応する面と逃げ面417に対応する面とをこれらの交差部側に延長した2つの仮想面(不図示)の間に位置している。
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
例えば、チップは、インサート(スローアウェイチップ)に限定されず、シャンクにろう付けされるものであってもよい。また、チップがインサートである場合において、ホルダへの着脱方法はねじによるもの限定されず、クランプによるものであってもよいし、ねじとクランプとの組み合わせによるものであってもよい。チップは、取付孔を有さないものであってもよい。取付孔は、テーパ部(ねじ受け部)を有さないものであってもよい。
チップの形状は、実施形態に例示したもの以外にも、円形、菱形、正方形、5角形、8角形など、適宜なものとされてよい。チップブレーカの有無及びその形状も適宜に設定されてよい。右勝手、左勝手及び両勝手のいずれであってもよい。実施形態でも言及したように、チップの材料も任意である。
ゲートは、取付孔の内面(当該内面に対応する成形型の面)に位置していなくてもよい。例えば、ゲートは、チップの主面のうち複数の切刃に囲まれた領域に位置してもよい。
第1変形例〜第3変形例は、チップの構成が第1実施形態のものである場合を例にとって説明したが、他の実施形態に適用されてもよい。例えば、チップが平面視で三角形の場合においては、角部側においてゲートの幅が大きくなったり、角部側へのみゲートが開口したりしてもよい。なお、取付孔の受け部の傾斜面が厚さ方向の一方側にのみ設けられる場合においては、第3変形例の段付きドリルによる切削は片側からのみ行われればよい。