JP2017195779A - 運動性精子の分離方法及び分離装置並びに授精用精子液 - Google Patents

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健一 山下
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Abstract

【課題】運動性精子を効率良く分離することのできる運動性精子の分離方法を提供する。
【解決手段】選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通することにより、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離方法において、精子遡上路の連通基端近傍に高密度精子群の集合エリアを形成してレオタキシス現象が生起する前の準備環境を整えるようにした。また、高密度精子群の集合エリアを形成するために、緩衝液流路を基端から二叉状に分岐させたことや、緩衝液流路の二叉分岐流路の先端部はそれぞれ漸次狭窄状に形成したことにも特徴を有する。
【選択図】図5

Description

本発明は、運動能力を欠いたり、死んだ精子や奇形の精子などが混在する精液等から運動性が良好な精子を分離する運動性精子の分離方法、及び、運動性精子の分離装置、並びに、前記分離方法や前記分離装置により得られた授精用精子液に関する。
従来、畜産分野において、家畜を生産するために、人工授精が頻繁に行われている。また、ヒトの不妊治療などにおいても、人工授精が行われる場合がある。
このような人工授精では、オスの個体から得られた精液を、メスの子宮内に注入して受胎させるため、できるだけ受胎効率の良い精液が望まれる。
例えば畜産牛の分野において、人工授精に供される精液は、オスのウシから得た後に液体窒素で凍結されたものであることが多い。
ところが、凍結後に解凍した精液は、その精液中に含まれる精子の多くが既に死んでいたり運動性が失われており、その割合は約5割〜7割にも達する場合が多く、また、奇形の精子も一部含まれていることから、受胎効率の向上を妨げる原因の一つとなっている。
また、精液中の死んだ精子は、他の精子の運動を阻害したり、捕捉したり、または受精に至る過程で必要に応じて用いられるはずの化学種を無秩序に放出する。
すると、この化学種により良好な運動性を有する精子までが影響を受け、精液の質が更に低下することとなり好ましくない。
従って、人工授精に用いられる精液は、運動性が良好な精子の割合が高く、死んだ精子などが除かれたものであるのが望ましい。
そこで以前より、畜産の分野やヒトの不妊治療の分野では、良好な運動性を有する精子(以下、運動性精子とも称する。)を回収する方法が種々提案されている。
中でも、生きている精子が有する運動能力を利用して分離する方法は、精子に対する負荷も比較的小さいため、運動性を失った精子から運動性精子を分離し回収する手段として有用な方法であると言える。
例えば、スライドガラス大の基板に刻設された微細な流路(マイクロ流路)に緩衝液などの所定の液を流し、運動性精子がこの緩衝液の流れに逆らって遡上する性質を利用して、回収する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、同様にマイクロ流路を用いた運動性精子の回収装置として、ポリシクロオレフィンのプレートに4つのチャンバーを設置し、選別流体ストリーム層流、媒体流体ストリーム層流と呼ばれる2つの層流を形成させ、媒体流体ストリームに流れる精子のうち運動性精子のみが層流界面を渡って、選別流体ストリームに集められることで、運動性精子を回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このような方法によれば、遠心分離に供する方法などに比して、精子に対する物理的ダメージやDNA損傷を軽減することができ、比較的良質な精子を回収することができる。
特表2005−518794号公報
Microfluidics and Nanofluidics, 2007, Vol.3, 561-570
しかしながら、上記非特許文献1に記載されている従来の精子の分離装置は、緩衝液を流下させつつ精子を遡上させる緩衝液流路が、精子を貯留しておく貯留部へ一定の断面形状を維持したまま壁面に直接連結されている。
それゆえ、貯留部内においてそれぞれランダムに動いている精子集団の中に急流が流れ込んでいるような状態となっており、精子に対してレオタキシス(rheotaxis)を惹起可能な領域が極めて狭く、寧ろ緩衝液流路への精子の接近を妨げるような状態となっていた。
また、緩衝液流路は精子が遡上する遡上路としての役割を有する部位でもあるが、この遡上路としての機能の側面から鑑みても、一定の断面形状を維持したまま貯留部の壁面に直接連結されていると言える。
従って、精子が遡上路に進入するための間口が狭く、精子を集合させて濃縮して遡上路に誘導するという効果が得られるものではなかった。
それゆえ、従来の精子の分離装置や分離方法では、1分間あたり約10個程度の精子しか回収することができなかった。
また、上記従来の特許文献1に記載の方法では、媒体流体ストリームの層流界面を越えるほど運動性の高い精子しか選抜流体ストリームに移動できないため、これも同様に結果として少量の精子しか回収できないという問題を有している。しかも、2つの層流をコントロールして揺らぎのない界面を形成するためには、極めて高度な手技が必要となり、事実上、容易に作業を行えるとは言い難いものであった。
これら従来の方法によっても、相当に優れた運動性精子を極少数選抜することは可能ではある。例えば体外受精(顕微授精)を行う場合にあっては、従来程度の効率で精子が得られれば問題はない。しかしながら、人工授精、すなわち子宮腔内精子注入法(intra uterine insemination:IUI)等を行う場合には、精子の分離に要する時間などを踏まえると、現実的には回収効率を著しく(例えば、1万〜10万倍)向上させる必要がある。
勿論、従来の精子分離装置や分離方法を複数同時に実行したり、繰り返し実行することにより更に多くの精子を回収することは可能であるものの、人工授精に必要な程度の回収効率を得るのは現実的ではなく、また、作業が繁雑であるが故に時間を要し、精子が経時劣化してしまうこととなる。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、運動性精子を効率良く分離することのできる運動性精子の分離方法を提供する。また、本発明では、運動性精子の分離装置や、同運動性精子の分離装置及び前記運動性精子の分離方法によって選抜された精子群を含有する授精用精子液についても提供する。
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る運動性精子の分離方法では、選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通することにより、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離方法において、精子遡上路の連通基端近傍に高密度精子群の集合エリアを形成してレオタキシス現象が生起する前の準備環境を整えるようにした。
また、高密度精子群の集合エリアを形成するために、緩衝液流路を基端から二叉状に分岐させたことにも特徴を有する。
また、緩衝液流路の二叉分岐流路の先端部はそれぞれ漸次狭窄状に形成したことにも特徴を有する。
また、緩衝液流路からの直進流により二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起することにも特徴を有する。
また、緩衝液流路の基端に略三日月形状(roughly crescent)の精子誘導構造部を形成することにより、二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起することにも特徴を有する。
また、緩衝液流路からの直進流と、二叉分岐流路からの逆流との交わるエリアに、各流の流速が停滞する流速減殺エリアを形成したことにも特徴を有する。
また、本発明に係る運動性精子の分離装置では、選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通し、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離装置において、精子遡上路の連通基端近傍に、レオタキシス現象が生起する前の精子群を高密度に集合させて準備環境を整える集合エリアを形成した。
また、本発明に係る授精用精子液では、前述の運動性精子の分離方法によって選抜された運動性精子群や、前述の運動性精子の分離装置を用いて選抜された運動性精子群を含有することとした。
本発明によれば、運動性精子を効率良く分離することのできる分離方法を提供することができる。また、本発明によれば、運動性精子を効率良く分離可能な分離装置を提供することができる。さらに、本発明によれば、運動性精子を多く含有する授精用精子液を提供することができる。
本実施形態に係る運動性精子の分離装置を示した説明図である。 本実施形態に係る運動性精子の分離装置の構成を示した分解斜視図である。 本実施形態に係る運動性精子の分離装置の構成を示した断面図である。 マイクロ流路の構成を示した説明図である。 精子誘導構造部を示した説明図である。 変形例に係る運動性精子の分離装置の構成を示した説明図である。 変形例に係る運動性精子の分離装置の構成を示した説明図である。 授精用精子液の調製試験に用いたチップ体の構成を示した説明図である。 授精用精子液の調製試験の結果を示した説明図である。 数値流体力学計算に用いた精子誘導構造部の形状データの説明図である。 数値流体力学計算での解析対象とした形状を示す説明図である。 数値流体力学計算により得られた結果を示すベクトル図である。 数値流体力学計算により得られた結果を示すベクトル図である。 数値流体力学計算により得られた流速分布を示す説明図である。 解析結果の考察を示した説明図である。 他の精子誘導構造部形状を示した説明図である。明図である。
本発明の一つの実施形態としては、選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通することにより、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離方法において、精子遡上路の連通基端近傍に高密度精子群の集合エリアを形成してレオタキシス現象が生起する前の準備環境を整えるようにしたことを特徴とする運動性精子の分離方法が挙げられる。
ここで、選抜前精子液とは、オスの動物個体より得られたままの精液や、凍結後解凍された精液を用いることができるのは勿論のこと、精漿や緩衝液を添加して精子濃度や精漿を構成する成分を調整した成分調整精液や、精子を所定の緩衝液に分散させて調製した精子含有液も用いることができる。すなわち、本明細書において貯留部に添加する選抜前精子液は、オスの動物個体より得られたままの精液としての意味合いを含むのは勿論のこと、解凍精液、成分調整精液、精子含有液を総称する言葉として解するべきである。
そして、本実施形態に係る運動性精子の分離方法によれば、高密度精子群の集合エリアを設けることにより、遡上路に進入する精子の数を飛躍的に向上させることができ、人工授精に実用可能な濃度で運動性精子を含有する授精用精子液を回収可能とすることができる。
高密度精子群の集合エリアは、選抜前精子液の精子濃度よりも高い濃度で精子が集合する領域であり、このような集合エリアを形成可能であれば、その手段や方法、構成等は特に限定されるものではない。このような集合エリアの一例を挙げるならば、例えば、緩衝液流路を基端から二叉状に分岐させることで形成することも可能である。
また、緩衝液流路の二叉分岐流路の先端部はそれぞれ漸次狭窄状に形成しても良い。このような構成とすることにより、集合エリアへの集合効率をさらに向上させることができる。
また、緩衝液流路から吐出させる緩衝液の直進流により二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生じさせるようにしても良い。このような構成によれば、逆流により選抜前精子液中の精子を集合エリアに効率的に集合させることができ、集合エリアにおける精子濃度をさらに向上させることができる。
特に、このような作用を生じせしめるより具体的な構成として、例えば、緩衝液流路の基端に精子誘導構造部を形成することにより、二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起するようにしても良い。
また精子誘導構造部は、狭隘遡上路に比して幅広に形成しながらも、レイノルズ数の低い(例えば、1500以下)流れを生起可能な形状としているため、精子が乱流に巻き込まれてしまうことがなく、効率的に狭隘遡上路へ精子を誘導することができる。
さらに精子誘導構造部は、略三日月形状(roughly crescent)として二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起するようにしても良い。
このような略三日月形状の精子誘導部構造を備えることにより、精子を効率良く集合させつつ、遡上路に精子を大量に誘導することができる。
また、この精子誘導部構造には、緩衝液流路からの直進流と、二叉分岐流路からの逆流との交わるエリアに、各流の流速が停滞する流速減殺エリアを形成しても良い。
付言すれば、この流速減殺エリアは、直進流と逆流との合流によって流れが滞留し流動が緩慢となる領域であり、精子誘導部構造外と連結するような領域である。
そして、このような流速減殺エリアを設けることにより、集合エリアからの精子の流失(散逸)を抑制して集合エリアにおける精子濃度の高濃度化を助長することができる。すなわち、流速減殺エリアと集合エリアとは、少なくとも一部が重畳して設けられることとなる。
なお、前述の非特許文献1に記載されているMobile Sperm sorting Microfluidic System (MSMS)は、後に詳述する本実施形態に係る運動性精子の分離装置におけるマイクロ流路12の構造と一見類似の装置構成を有しているが、このMSMSは精子誘導構造部の如き高密度精子群の集合エリアを備えていない点で大きく異なっている。
しかも、本実施形態に係る運動性精子の分離方法や装置では、この集合エリアと、緩衝液流路より流入する緩衝液流によって精子にレオタキシスを惹起させるレオタキシス惹起領域とを近接または重畳して設けることにより、精子の高濃度化や精子の遡上路への誘導を極めて効率良く行うことができる。
付言すれば、本発明は、低運動性精子及び/又は非運動性精子からの運動性精子の分離方法において、運動性精子と低運動性精子或いは非運動性精子の少なくとも1つとを含有する選別前精子液中に層状空間部を配置して、同層状空間部内に緩衝液流を流入させて前記運動性精子にレオタキシスを惹起させる層流のレオタキシス惹起流を形成すると共に、このレオタキシス惹起流の流動に伴って、同レオタキシス惹起流と合流する方向に流動する層流の集合流を前記層状空間部内で生起させ、前記レオタキシス惹起流と前記集合流との合流部近傍を前記層状空間部外から集合流に乗って精子が集合させられる集合エリアとし、前記レオタキシス惹起流で前記運動性精子に対してレオタキシスを惹起できるレオタキシス惹起可能領域を前記集合エリアに近接又は重畳して設け、集合させた精子に対して前記レオタキシス惹起流によりレオタキシスを惹起させて前記緩衝液流に誘導し、誘導した精子を緩衝液流中で所定距離だけ遡上させて、遡上できた精子を運動性精子として分離する運動性精子の分離方法を提供するものであるとも言える。
また更に付言するならば、本発明は、動物より採取された精子を含有する選抜前精子液から運動性精子を分離する方法であって、選抜前精子液を貯留する貯留部と、貯留部に連通し貯留部方向へ緩衝液が層流として流れる緩衝液流路と、貯留部から緩衝液流路中を精子が遡上するように貯留部に連通した遡上路と、よりなる精子の選抜部構造を形成すると共に、前記遡上路の下流部には、前記緩衝液の層流状態を維持しつつ緩流とし、かつ2つ以上の向きの異なる層流を誘起させる広幅の層状経路を形成し、前期貯留部から運動性精子を遡上させて前記選抜部に流入させることを特徴とする運動性精子の分離方法を提供するものであるとも言える。
以下、本実施形態に係る運動性精子の分離方法、及び、運動性精子の分離装置について、図面を参照しつつ分離装置の構成に言及しながら説明する。なお以下の説明では、授精用精子液の一具体例として人工授精用(子宮腔内精子注入法用)の精子液について言及するが、これに限定されるものではなく、試験管内授精や顕微授精用の精子液としても使用可能であることは勿論である。
図1は、本実施形態に係る運動性精子の分離装置(以下、分離装置Dという。)の構成を示した説明図である。図1に示すように、分離装置Dは、底部形成板1とチップ体2とを重畳して形成した本体部3上に、3つの筒体4を載置して構成している。また、各筒体4の内部を、それぞれ緩衝液収容部5、選抜前精子液貯留部6、回収部7としている。
そして、緩衝液収容部5に緩衝液を所定量注入し、選抜前精子液貯留部6に選抜前精子液を所定量注入し、回収部7にも緩衝液を所定量注入しておくことで、マイクロ流体の働きによって、選抜前精子液貯留部6に収容した選抜前精子液中に含まれる精子の中から運動性精子を選抜し、回収部7にて緩衝液と共に回収可能としている。すなわち、運動性精子群を含有する授精用精子液を調製可能としている。
本体部3を構成する底部形成板1は、図2の分解斜視図、及び図3の断面図に示すように、チップ体2を載置するための基板であり、緩衝液収容部5や選抜前精子液貯留部6、回収部7の底部を形成したり、チップ体2の裏面に形成した後述の流路パターン12aの底部を形成する部材としての役割を果たすものである。なお、底部形成板1は、例えばガラスや樹脂(アクリルやPDMS)により形成することができる。
本体部3を構成するチップ体2は、樹脂にて形成された板状の部材であり、本実施形態ではポリジメチルシロキサン(PDMS)にて形成している。
また、チップ体2には、3つの孔を穿設している。これら3つの孔は、それぞれ前述の緩衝液収容部5の一部を構成する緩衝液用孔部8と、選抜前精子液貯留部6の一部を構成する貯留部用孔部9と、回収部7の一部を構成する回収部用孔部10である。
また、チップ体2の裏面には、微細加工によって流路パターン12aが形成されている。この流路パターン12aは、底部形成板1とチップ体2とを重ね合わせることでマイクロ流路12を形成するためのものである。流路パターン12aは、緩衝液用孔部8や、貯留部用孔部9、回収部用孔部10を連通させる複数の溝部11や、前述の精子誘導構造部を形成するための精子誘導構造部形成用凹部13を刻設することで形成している。
各筒体4は、緩衝液用孔部8や、貯留部用孔部9、回収部用孔部10の周縁に配置して、緩衝液収容部5や選抜前精子液貯留部6、回収部7における収容可能量を大きくするための壁体として機能するものである。各筒体4は、それぞれの孔部の直径よりも大きな外径を有しており、各孔部の周縁に水密状に配置固定される。
次に、底部形成板1とチップ体2を重ね合わせることで形成されるマイクロ流路12の構成について、図4を参照しながら説明する。
図4(a)に示すように、分離装置Dが備えるマイクロ流路12は、選抜前精子液貯留部6の壁面の一部を構成する貯留部用孔部9と回収部用孔部10とを結ぶ貯留部−回収部連通流路20と、緩衝液用孔部8から貯留部−回収部連通流路20の中途部に連結させた2本の緩衝液供給路21とで構成している。また、貯留部−回収部連通流路20と、緩衝液供給路21とが交わる部分を合流部22としている。
貯留部−回収部連通流路20は、合流部22から選抜前精子液貯留部6側に向けて形成した遡上路23と、合流部22から回収部7側に向けて形成した回収路24とで構成している。
また、緩衝液供給路21は、緩衝液収容部5内に収容した緩衝液を合流部22に送給するための流路である。すなわち、緩衝液収容部5及び緩衝液供給路21は、緩衝液供給手段として機能する。
緩衝液供給路21により合流部22に供給された緩衝液は、一部が遡上路23へ流れ、残部が回収路24に流れるように構成している。なお、以下の説明において、遡上路23に流れ込み流下する緩衝液流を遡上流ともいい、回収路24に流れ込み流下する緩衝液流を回収流という。
遡上路23は、選抜前精子液貯留部6内に貯留されている選抜前精子液から精子を誘導し、運動性精子を選抜するための流路であり、狭隘遡上路25と精子誘導構造部26とで構成している。
狭隘遡上路25は、合流部22にて分流した緩衝液により生ずる遡上流中で精子を流れに逆行させながら合流部62方向へ遡上させることにより、運動性精子を合流部22へ向けて遡上させつつ、奇形の精子や人工授精を行うに際し好ましくない程度に運動性に劣る精子など、所謂低運動性精子及び/又は非運動性精子を遡上流に乗せて脱落させ合流部22に至らないようにするための流路である。
また、精子誘導構造部26は、選抜前精子液貯留部6内の精子を効率良く狭隘遡上路25へ導くための誘引手段として機能する部位であり、図4において網掛けで示す部位である。なお、精子誘導構造部26の下流側端部(遡上路23の下流側端部)に示す破線は、選抜前精子液貯留部6の側壁部に開口させたスリット状開口部27である。
このように、マイクロ流路12では、狭隘遡上路25、精子誘導構造部26、スリット状開口部27により、精子の選抜部構造を構成している。
回収路24は、狭隘遡上路25を遡上流に逆らって遡上し合流部22に至った精子を回収するための流路であり、合流部22に至った精子を回収流に乗せて回収部7へ流し込むための部位である。
そして、このような構成を有するマイクロ流路12によれば、選抜前精子液貯留部6に選抜前精子液を添加する精子添加工程を行い、同選抜前精子液貯留部6に収容された選抜前精子液から、スリット状開口部27、精子誘導構造部26、狭隘遡上路25により良好な運動性を有する精子が多数の母集団から効率良く選抜され、回収流と共に回収部7に回収されることとなる。
特に、本実施形態に係る分離装置Dのマイクロ流路12では、遡上流が、運動性を有するが回収を望まない精子が遡上できる限界の流速を上回り、良好な運動性を有する精子が遡上できる限界の流速以下で、且つ、遡上路23(狭隘遡上路25及び精子誘導構造部26)にて緩衝液流が層流となる流速となるように、緩衝液供給路21が形成されている。
また、本実施形態に係る分離装置Dのマイクロ流路12では、回収流が、合流部22に至った(遡上できた)精子の運動能力を上回る流速となるように緩衝液供給路21が形成されている。
すなわち、緩衝液供給路21は、2つの緩衝液供給路21によって、合流部22に対し、上記条件を満たす遡上流と回収流を生成できる流量を供給可能な流路断面積を有するように形成している。
そして、本実施形態に係る運動性精子の分離装置Dに特徴的な点としては、図4(b)に示す従来のマイクロ流路50の構造と比較して分かるように、選抜前精子貯留槽としての選抜前精子液貯留部6に、狭隘な緩衝液流路や精子遡上路として機能する遡上路を連通し、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子の遡上路として機能する狭隘遡上路25を介して選抜する運動性精子の分離装置において、精子遡上路(狭隘遡上路25)の連通基端近傍に、レオタキシス現象が生起する前の精子群を高密度に集合させて準備環境を整える集合エリアを形成した点を挙げることができる。
図5は、精子誘導構造部26近傍の構成を示した説明図である。図5に示すように精子誘導構造部26は平面視略三日月形状を有する部位であり、狭隘遡上路25との接続領域近傍である中央部30Cと、図中左下方へ向かって幅が漸次狭窄して尖鋭状に伸延する左又部30Lと、図中右下方へ向かって幅が漸次狭窄して尖鋭状に伸延する右又部30Rとで二叉状に構成している。付言すれば、精子誘導構造部26は、左又部30L及び右又部30Rから中央部30C、狭隘遡上路25へと漸次狭窄状に形成している。
また図5に示すように、狭隘遡上路25を流下する遡上流は、層状の空間形状を有する精子誘導構造部26に至ると、同精子誘導構造部26に存在する精子にレオタキシスを惹起する層流状の流れとなる。ここでは、この層流状の流れをレオタキシス惹起流31と称し、同レオタキシス惹起流31によって精子に対し狭隘遡上路25へ向かう方向へのレオタキシスを惹起可能な領域(図5中、狭隘遡上路25と精子誘導構造部26の境界近傍にて破線で示す扇状領域)をレオタキシス惹起領域36と称する。
狭隘遡上路25より遡上流としての緩衝液流が流入してレオタキシス惹起流31が生じると、同レオタキシス惹起流31の流動に伴って相対負圧による引込みが生じ、左又部30L及び右又部30Rには、レオタキシス惹起流31に対して逆行しつつ交わるように、中央部30Cに向かって集合流32が生じる。
左又部30L及び右又部30Rにて生じた集合流32は、左又部30L及び右又部30Rの尖鋭先端部分近傍にて、精子誘導構造部26の層状空間部外となる選抜前精子液貯留部6から精子を引き込む吸引流33を生じさせ、集合流32に精子を次々と供給する。集合流32に乗った精子は、徐々に中央部30Cへ集められることとなる。
中央部30Cでは、レオタキシス惹起流31と左又部30L及び右又部30Rにて生起した集合流32との合流により互いの流れが減殺される流速減殺エリア34が形成される。この流速減殺エリア34では、流れが停滞するか又は極僅かとなっている。
従って、集合流32によって中央部30Cの流速減殺エリア34内やその近傍に集められた精子は滞留し徐々に蓄積されることとなるため、図5中の中央部30Cにて網掛けで示すように、精子が高濃度(高密度)で存在する集合エリア35が形成される。
このように形成された集合エリア35は、レオタキシス現象を生起させる前の準備環境と捉えることができ、狭隘遡上路25に効率良く精子を誘導するためのスタンバイ領域として機能することとなる。
しかも、分離装置Dでは、この集合エリア35をレオタキシス惹起領域36と近接又は重畳(図5では一部重畳)して設けている。
従って、精子の高濃度集合領域に存在する運動性精子にレオタキシスを惹起させることができ、極めて効率良く運動性精子を狭隘遡上路25へ誘導することができる。
〔変形例に係る運動性精子の分離装置〕
次に、変形例に係る運動性精子の分離装置について説明する。なお、以下の説明において、前述の分離装置Dと同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
図6は、変形例に係る運動性精子の分離装置(以下、分離装置Eという。)の構成を示した説明図である。この分離装置Eは、前述の分離装置Dと同じ本体部3を備える点で一致しているが、緩衝液収容部5や選抜前精子液貯留部6、回収部7を形成するために、本体部3上にシリコン等の軟質樹脂にて形成したブロック体40を載置している点で構成を異にしている。
具体的には、前述の分離装置Dは、3つの孔部が形成されたチップ体2を備える本体部3上に、それぞれの孔部の直径よりも大きな外径を有する筒体4を各孔部の周縁に水密状に配置固定することで、緩衝液収容部5や選抜前精子液貯留部6、回収部7を形成したが、本変形例に係る分離装置Eは、図7に示すように、本体部3の3つの孔に対応する位置にブロック体40を水密状に配置固定し、同ブロック体40に筒状の緩衝液収容部5や選抜前精子液貯留部6、回収部7を形成している。なお、図7中一点鎖線は、分離装置Dや分離装置Eに特徴的な構造の一つである精子誘導構造部26を囲う線であり、同精子誘導構造部26は実線で示し、その他の部分は破線で示している。また、B−B断面及びC−C断面は、精子誘導構造部26の厚みの半分の位置で切断した状態を示している。
ブロック体40に穿設された1つ目の筒状孔は緩衝液収容孔41であり、緩衝液収容部5の収容空間を形成するための孔である。また、2つ目の筒状孔は選抜前精子液貯留孔42であり、選抜前精子液貯留部6の収容空間を形成するための孔である。また、3つ目の筒状孔は回収孔43であり、回収部7の収容空間を形成するための孔である。
そして、このような構成を備えた分離装置Eによれば、運動性精子を効率良く分離したり、運動性精子を多く含有する授精用精子液を調製できるのは勿論のこと、分離装置Dに比して装置全体として突出する部分がないため、突出部分に由来する構造的な脆弱性を解消することができる。
〔授精用精子液の調製試験〕
次に、本実施形態に係る運動性精子の分離方法、及び運動性精子の分離装置を用いた授精用精子液の調製について説明する。本試験はすなわち、授精用精子液の調製試験、より具体的には人工授精用精子液の調製試験でもある。
本試験では、分離装置Dのチップ体2に該当する部分を、図8に示すチップ体として試験し、回収できた精子の数や、運動性を有する精子の割合、直線速度、曲線速度、直進性を求めた。
図8において示すチップ体は、平面視において前述のマイクロ流路12と略同じ構成を有するものである。aで示す緩衝液収容部の内径は10mm、bで示す選抜前精子液貯留部の内径は7mm、cで示す回収部の内径は8mm、Aで示す緩衝液供給路の長さは20.58mm、幅300μm、深さ100μm、Bで示す狭隘遡上路の長さは2.5mm、幅200μm、深さ100μm、Cで示す回収路24の長さは2.5mm、幅200μm、深さ100μmであり、網掛けで示す略三日月状の精子誘導構造部の深さは100μmで、平面視における面積は12.14mm2である。
このチップ体を用いて運動性精子の分離装置を構成し、緩衝液と選抜前精子液としての凍結解凍精液を添加して、授精用精子液の調製試験を行った。
試験で使用した凍結解凍精液は、総精子濃度が69±4.5百万/ml、動いている精子の割合が21±5.8%、直線速度は67±14μm/sec、曲線速度は144±11μm/sec、直進性は0.44±0.06であった。また、スクリーニング時間は、30分間とした。本試験結果を図9に示す。
図9からも分かるように、前述のチップ体を用いることにより、非特許文献1に記載されている数10個/分と比較すると、30分あたり9.7±0.98百万/mlという約3万倍以上の濃度で効率良く精子を分離することができた。すなわち、人工授精に適した精子液の調製を行うことができた。
また、動いている(生きている)精子の割合に着目すると、使用した凍結解凍精液(未処理)では21±5.8%であったのに対し、本実施形態に係る運動性精子の分離方法、及び運動性精子の分離装置を用いて回収された授精用精子液中の精子の生きている割合は、92±6.4%にまで高められているのが分かる。
また、直進性についても向上しており、従って、奇形の精子も極めて効率良く除去されていることが示された。
このように、本実施形態に係る運動性精子の分離方法、及び運動性精子の分離装置によれば、従来の緩衝液流路を遡上路として精子を遡上させる精子の分離に比べて、極めて効率良く良好な運動性精子を回収できることが示された。
付言すれば、本実施形態に係る授精用精子液は、運動性精子を極めて高濃度で含有する、人工授精に適した精子液であることが示された。
〔数値流体力学計算に基づく精子誘導構造部での流速分布の検証〕
次に、分離装置Dが上述の精子誘導構造部26を備えることにより、どのような仕組みで運動性精子の高効率の回収が実現し得るのかについて検討すべく、数値流体力学計算(Computational Fluid Dynamics:CFD)を行うことにより検証を行った。
まず、図10に示す精子誘導構造部の形状データをコンピュータに入力し、図11に示すようなメッシュモデルの作成を行った。
次いで、作成したメッシュデータを汎用熱流体解析ソフトウェアであるアンシス・ジャパン株式会社製Fluent6.3に取り込んで、数値流体力学計算を行った。計算条件としては、遡上路から流入させる緩衝液流の流速を20μm/secとし、選抜前精子液貯留部に連通するスリット状開口部は圧力開放とし、それ以外の部分は壁とし、no-slip境界条件とし、20μm立方体メッシュでの解析とした。その結果を図12〜図14に示す。
図12は、左又部30L先端から中央部70C方向を立体的に見た状態を示したベクトル図である。図12に示すように、数値流体力学計算の結果から、左又部30Lの尖鋭状先端部分には、他の矢印に比して大きな矢印で示された中央部70C方向へ向かう強い流れが生じていることが示された。
また、このような中央部30Cへ向かう強い流れは右又部30Rでも確認された。すなわち、精子誘導構造部26では、遡上流の流入によって生じるレオタキシス惹起流31により、左又部30L及び右又部30Rにおいて、レオタキシス惹起流31とは逆向きの交わる方向(合流する方向)で中央部30Cへ向かう層流の集合流32がそれぞれ生じていることが示された。
図13は、狭隘遡上路25側から右又部70R方向を立体的に見た状態を示したベクトル図である。狭隘遡上路25を流れる層流の遡上流は、精子誘導構造部26との接続部近傍において流速が加速し、精子誘導構造部26内に進入すると緩流となってレオタキシス惹起流31を形成することが示された。さらに、レオタキシス惹起流31もまた、層流であることが示された。
図14は、平面視における狭隘遡上路25及び精子誘導構造部26での流速分布を等高線状に示した説明図である。なお、図14中の四角枠で囲んだ画像は、破線で示す狭隘遡上路25部分のコントラストを替えた画像である。
図14及び前述の図12にも示されるように、中央部30Cには、レオタキシス惹起流31と2つの集合流32との合流によって形成された、流速が極めて緩慢な流速減殺エリア34が形成されていることが示された。
また、前述したように、四角枠で示した画像より、狭隘遡上路25では、精子誘導構造部26との接続部近傍において流速が高まることが分かる。
これらの結果から、本実施形態に係る運動性精子の分離方法や運動性精子の分離装置では、以下のような作用により高効率の運動性精子の回収が実現していることが示された。
すなわち、図15にも示すように、まず精子誘導構造部26に遡上流が流入する直前に流速の上昇が起こり、広範囲に亘ってレオタキシス惹起流31が及ぶことととなり、広範囲にレオタキシス惹起領域36が形成されて、広範囲の運動性精子に対して狭隘遡上路25へのレオタキシスを惹起する。
また、レオタキシス惹起流31が生じると、左又部30L及び右又部30Rにて集合流32が生じ、中央部30Cに精子が集合させられることとなる。
集合流32の発生により、左又部30L及び右又部30Rの先端部近傍にて吸引流33が生じ、選抜前精子液貯留部6から集合流32に精子を次々と供給する。
中央部30Cでは、レオタキシス惹起流31と集合流32との合流によって流速減殺エリア34が形成されており、これに伴い集合流32によって運ばれた精子は大量に滞留することとなり、集合エリア35が形成される。
この集合エリア35に近接又は重畳してレオタキシス惹起領域36が存在することで、大量の精子に対してレオタキシスが惹起され、次々と狭隘遡上路25へ泳いでゆくこととなる。
狭隘遡上路25の入り口近傍では流速が高まっているため、この高流速部位が篩の役割を果たし、運動性精子が選別される。しかも、この「篩」に挑む精子の数が膨大であるため、十分な精子濃度が確保できる。
高流速部位を越えた精子は、比較的容易に狭隘遡上路25を遡上し、合流部22を経て回収される。
本実施形態に係る運動性精子の分離方法や運動性精子の分離装置では、上述のような作用が相俟って、運動性精子の回収効率を飛躍的に高めていることが示された。
〔精子誘導構造部の形状変化に伴う回収効率の検討〕
前述の分離装置Dにおける精子誘導構造部26は平面視略三日月状に形成したものであったが、次に、精子誘導構造部に相当する広幅状の流路部位(以下、変形流路部という。)の形状を違えた場合の回収効率について試験結果を交えつつ説明する。
ここでは、前述の分離装置Dのチップ体2に該当する部分を、図16の(a)〜(c)に示す変形流路部を備えた種々のチップ体に差し替えて試験し、回収できた精子の数を求めた。なお、図16中において変形流路部は網掛けで示している。また、図示した各変形流路部は、試験に供した構造の理解を容易とするために示すものであり、大きさの比率などは必ずしも正確ではなく、例えば、貯留部に対する変形流路部や狭隘遡上路の厚みや幅などは誇張して示しているが、実際の試験では前述の精子誘導構造部26に準じた寸法としている。
図16(a)に示す変形流路部Pは、平面視円形に形成した選抜前精子液貯留部6の外方全周に亘り層状空間部を形成したものであり、狭隘遡上路25より二叉状に分岐しているものの、右又部や左又部に相当する部分が選抜前精子液貯留部6の内壁に尖鋭状に収束する形状となっていない点で特徴的である。また、この(a)に示す構造は、選抜前精子液貯留部6に開口するスリット状開口部の開口面積が大きいため、精子の変形流路部への流入効率が向上する、すなわち、精子誘導構造部として機能するかもしれないとの予想がなされた。
図16(b)に示す変形流路部Qは、選抜前精子液貯留部6の半周に亘り層状空間部を形成したものであり、狭隘遡上路25より二叉状に分岐すると共に、右又部や左又部に相当する部分が選抜前精子液貯留部の内壁に尖鋭状に収束する形状となっている点で前述の精子誘導構造部26と同様である。ただし、変形流路部Qの外壁部分は、左右又部に相当する部分から狭隘遡上路25へ向かって漸次狭窄する形状とはなっていない点で前述の精子誘導構造部26と構造を異にしている。
図16(c)に示す変形流路部Rは、選抜前精子液貯留部6の略1/8周に亘り層状空間部を形成したものであり、狭隘遡上路25より二叉状に分岐すると共に、右又部や左又部に相当する部分が選抜前精子液貯留部の内壁に尖鋭状に収束する形状としており、更に、変形流路部の外壁部分が左右又部に相当する部分から狭隘遡上路25へ向かって漸次狭窄する形状としている。ただし、変形流路部Rの外壁部分は、前述の精子誘導構造部26の如く同精子誘導構造部の外方へ膨出湾曲した滑らかな曲線状ではなく、直線状である点で構造を異にしている。
このように、選抜前精子液貯留部6に精子集合部を付加形成するという基本的な構造としては、変形流路部Pや、変形流路部Q、変形流路部Rなどが考えられる。そこで、これらの変形流路部についてどの程度の精子回収効率が期待できるかについて試験し検討を行った。その結果、まず変形流路部Pについては、選抜前精子液貯留部6の外周を環状に形成したものの、この環状部分において選抜前精子液貯留部6の精子濃度以上の顕著な集合は観察されなかった。
また変形流路部Qは、選抜前精子液貯留部6と狭隘遡上路25との間に選抜前精子液貯留部6の円弧に合わせた一辺方形状の変形流路部を介設したが、方形部分の角部に偏って選別前精子が滞留して狭隘遡上路25へ運動性精子が遡上できないという欠点があった。
また変形流路部Rは、選抜前精子液貯留部6と狭隘遡上路25との間に略三角形状の変形流路部を介設したが、略三角形状の拡幅が小さいため、中央部30Cに精子を集合させるための集合流が生起しにくく、運動性精子の遡上効率が低下した。
これらの結果から、変形流路部Pや変形流路部Q、変形流路部Rは、高密度精子群の集合エリアを形成することはできず、レオタキシス現象が生起する前の準備環境となり得ないことが示された。
一方本実施形態に係る分離装置Dや分離装置Eでは、選抜前精子液貯留部6と狭隘遡上路25との間に三日月状の精子誘導構造部26を介設したために、精子誘導構造部Pや精子誘導構造部Q、精子誘導構造部Rの精子集合体の形状と比較し、三日月形状の両端の漸次狭窄部分から逆流を生起して狭隘遡上路に一気呵成に流入していくこととなる。
上述してきたように、本実施形態に係る運動性精子の分離方法によれば、選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通することにより、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離方法において、精子遡上路の連通基端近傍に高密度精子群の集合エリアを形成してレオタキシス現象が生起する前の準備環境を整えるようにしたため、運動性精子を効率良く分離することのできる運動性精子の分離方法を提供することができる。
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
5 緩衝液収容部
6 選抜前精子液貯留部
7 回収部
12 マイクロ流路
21 緩衝液供給路
23 遡上路
25 狭隘遡上路
26 精子誘導構造部
27 スリット状開口部
30C 中央部
30L 左又部
30R 右又部
31 レオタキシス惹起流
32 集合流
33 吸引流
34 流速減殺エリア
35 集合エリア
36 レオタキシス惹起領域
D 分離装置
P 精子誘導構造部
Q 精子誘導構造部
R 精子誘導構造部

Claims (9)

  1. 選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通することにより、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離方法において、
    精子遡上路の連通基端近傍に高密度精子群の集合エリアを形成してレオタキシス現象が生起する前の準備環境を整えるようにしたことを特徴とする運動性精子の分離方法。
  2. 高密度精子群の集合エリアを形成するために、緩衝液流路を基端から二叉状に分岐させたことを特徴とする請求項1に記載の運動性精子の分離方法。
  3. 緩衝液流路の二叉分岐流路の先端部はそれぞれ漸次狭窄状に形成したことを特徴とする請求項2に記載の運動性精子の分離方法。
  4. 緩衝液流路からの直進流により二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起することを特徴とする請求項3に記載の運動性精子の分離方法。
  5. 緩衝液流路の基端に略三日月形状の精子誘導構造部を形成することにより、二叉分岐流路から中央に向かって逆流を生起することを特徴とする請求項4に記載の運動性精子の分離方法。
  6. 緩衝液流路からの直進流と、二叉分岐流路からの逆流との交わるエリアに、各流の流速が停滞する流速減殺エリアを形成したことを特徴とする請求項5に記載の運動性精子の分離方法。
  7. 選抜前精子貯留槽に狭隘な緩衝液流路と精子遡上路とを連通し、運動性の高い精子をレオタキシス現象により精子遡上路を介して選抜する運動性精子の分離装置において、
    精子遡上路の連通基端近傍に、レオタキシス現象が生起する前の精子群を高密度に集合させて準備環境を整える集合エリアを形成したことを特徴とする運動性精子の分離装置。
  8. 請求項1〜6いずれか1項に記載の運動性精子の分離方法によって選抜された運動性精子群を含有する授精用精子液。
  9. 請求項7に記載の運動性精子の分離装置を用いて選抜された運動性精子群を含有する授精用精子液。
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