JP2017186586A - 積鉄心とその歪取り焼鈍方法および製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明において、「積鉄心」は、剪断や打ち抜きなどで整形された電磁鋼板を、板面と垂直な方向に積層して鉄心を形成するものをいう。代表的な積鉄心の例を特許文献7および8に示す。本発明の「積鉄心」には、同一形状に整形された鋼板を積層して使用される積鉄心、必要な形状に整形した鋼板を積層して製造された積鉄心をさらに組み合わせて一つの鉄心とする積鉄心が含まれる。本発明においては、一つの鉄心製造するために組み合わせる部品としての積鉄心も、単に「積鉄心」とし、本発明の対象に含む。このような部品としての積鉄心を組み合わせて一つの積鉄心を形成する例としては、モータコアにおける分割コアや、変圧器鉄心における三相変圧器用鉄心などが挙げられる。
本発明の積鉄心の歪取り焼鈍方法およびこれを用いる積鉄心の製造方法における「電磁鋼板」には、歪や化学的エッチングによる磁区制御加工が施された電磁鋼板のほか、磁区制御をしていない電磁鋼板も含まれる。これに対し、本発明の積鉄心における「電磁鋼板」は、歪や化学的エッチングによる磁区制御加工が施された電磁鋼板をいう。
本発明における「積鉄心(への)加工」とは、素材となる電磁鋼板から積鉄心が完成するまでに実施される全ての加工をいう。本発明に関連する具体的な加工としては、スリット、剪断、打ち抜き、積層、穴空け、かしめなどを含む。
本発明における「切断加工」とは、電磁鋼板を所定の大きさに整えるための加工をいう。本発明に関連する具体的な加工としては、スリット、剪断、打ち抜きなどの他、穴空け、研磨などがあり、切断加工により新たに生じる鋼板表面が、後述の「切断面」である。
本発明における「(鋼板の)板面」とは、鋼板の表面のうち、板厚方向に垂直な面をいう。なお「板面」に溝が形成される場合、溝に相当する領域の鋼板表面は板厚方向に垂直な面とはならないが、このような溝に関しては、「板面に形成された溝」、「溝が板面に形成される」、「板面に磁区制御加工を施す」などと記述する。
本発明における「切断面」とは、鋼板の表面のうち、上記切断加工により新たに生成した面であり、板厚方向に実質的に平行な面をいう。
本発明において、「加工面」とは、積鉄心の表面のうち、上記切断面で形成される面をいう。切断面は、一般的には剪断、金型による打ち抜き、スリットなどで形成され、積鉄心は切断面を有する鋼板が、切断面をほぼ面一として積層された構造であるため、「加工面」は、積鉄心表面のうち、鋼板の厚さ方向に亘る切断面が積層して形成される面となる。
切断面と対比する積鉄心表面で、素材鋼板の板面で形成される積鉄心表面が「鋼板面」である。
また、「局所的に加熱する」とは、積鉄心を加熱する際に、積鉄心全体が均一に加熱されず、積鉄心の表面のうち、加工面のみが相対的に高温になるように加熱することをいう。
また、「鉄心内部」とは、積鉄心の表面から内部に向かって一定距離以上離れた、積鉄心の内部領域であり、本発明では特に、表面からの深さが積層した素材鋼板の板厚以上である内部領域を「鉄心内部」と呼ぶ。
ここで、「加熱手段」とは、電気炉やガス炉など高温雰囲気との接触による伝熱により加熱するものや、赤外線やフラッシュランプなど直線的な光線により加熱するものなど、積鉄心の少なくとも一部の温度を上昇させる手段をいう。前者は積鉄心が雰囲気と接触するすべての表面から比較的均一に加熱される傾向があり、後者は光源に対向する特定の面のみを優先的に加熱するのに有利である。また、高温塩や加熱金型など、積鉄心と接触する高温物質を液体や固体にすることで、気体である雰囲気との接触よりも局所的な加熱は容易になる。この他に金属材料の加熱手段としては、誘導加熱や通電加熱などが適用されることもある。本発明において加熱方法は特に限定されるものではないが、誘導加熱や通電加熱は加熱部材が部材表面および内部を含めて均一に加熱される傾向が他の手段より強いため、本発明においてはこれらの方法は好ましいものではない。また、「防熱部材」とは、金属や酸化物など、本発明で想定する最高到達温度である700℃以上まで形状を保ちうる物質で形成される部材であり、高温雰囲気や光源などの熱源と、鉄心との間に設置されることで、熱源による積鉄心の加熱を妨げる部材をいう。
図1は、積鉄心1の「加工面1a」および「鋼板面1b」を説明する図である。図1に示したように、加工面1aは、素材鋼板の切断面が積層されて形成される面であり、鋼板面1bは、加工面以外の素材鋼板の表面である。
また、図2A乃至図2Dは、積鉄心1の「鉄心内部1c」および「鉄心内部において積鉄心を形成する電磁鋼板の板面1d」を説明する図である。図2B乃至図2Dは、それぞれ、図2Aに示した積鉄心1を、IIB乃至IIDの側から見た図であり、透過させて示した鉄心内部1cに相当する箇所に、模様が付されている。特に図2B乃至図2Dに示したように、「鉄心内部1c」とは、積鉄心の表面から内部に向かって、素材鋼板の厚さt以上離れた、鉄心の内部領域をいい、「鉄心内部において積鉄心を形成する電磁鋼板の板面1d」とは、この鉄心内部1cにおける電磁鋼板の板面をいう。
また、図3Aおよび図3Bは、本発明の積鉄心の歪取り焼鈍方法(以下において、「本発明の焼鈍方法」と称することがある。)で使用可能な加熱手段と、この加熱手段によって加熱される積鉄心とを説明する図である。図3Aは加熱手段3a(赤外線加熱装置3a)によって積鉄心1の加工面1aのみを優先的に加熱する様子を説明する図である。また、図3Bは加熱手段3b(電気炉3b)によって積鉄心1の全面を加熱する様子を説明する図であり、積鉄心1の鋼板面1bと加熱手段3bとの間に防熱部材4が配置された様子を示している。以下、図1A乃至図3Bを適宜参照しつつ、本発明の歪取り焼鈍方法(以下において、「本発明の焼鈍方法」と称することがある。)について、以下に説明する。
本発明の焼鈍方法は、積鉄心製造過程の剪断加工により電磁鋼板に蓄積された少なくとも加工面を含めた一部の領域の歪を解放させるために行う焼鈍方法である。
本発明の焼鈍方法は、積鉄心1の加工面1aの温度を700℃以上、且つ、鉄心内部の温度を500℃未満とする、積鉄心の歪取り焼鈍方法である。以下において、積鉄心1を単に「鉄心」と称することがある。
また、鉄心内部の少なくとも一部の領域の温度を500℃未満とする。500℃未満である領域は、磁区制御に有効な歪の解放を抑制することができ、特性の優れた積鉄心を得ることができる。また、磁区制御のための歪が存在しない場合でも、鉄損特性の悪影響が大きい加工面の歪は解放しているため、全体を加熱した場合と同等の特性を持つ鉄心を低エネルギーコストで得ることが可能となる。
本発明の焼鈍方法では、一般的な電磁鋼板を通常の剪断または打ち抜きで部材形状に整形し積層して得られる一般的な積鉄心を想定して、以下のような条件を特徴的な熱処理条件として規定する。
本発明の焼鈍方法において、加工面の温度は、局所的な加熱により700℃以上にすれば良い。一方、高温による形状悪化が懸念されるため、加熱された後の加工面の温度の上限値は、例えば、900℃以下にすることができる。すなわち、局所的な加熱により、加工面の温度を、700℃〜900℃にすることが好ましい。
一方で、鉄心内部の温度は500℃未満とする。これはエネルギーコスト低減の効果を大きくするとともに、磁区制御を目的として鋼板の板面に意図的に導入した歪の解放を回避できる温度だからである。これ以上になるとエネルギーコスト低減のメリットが小さくなるだけでなく、磁区制御を目的とした歪が解放されてしまう。好ましくは、400℃未満、さらに好ましくは300℃未満である。
また、加工面を加熱する時間を100秒間以下にする。これは、上述の通り、積鉄心内外の歪解放の制御および無駄な加熱の回避を実現するためである。加熱時間を100秒以下にすることにより、本来熱処理が必要でない積鉄心内部の加熱を回避することが可能になる。これは磁区制御のために機械加工やレーザー照射により歪が導入された鋼板が積層されている場合に、精緻に導入された歪の開放を回避するものである。また磁区制御において歪が導入されない化学エッチングや放電による磁区制御鋼板や、磁区制御がなされていない鋼板においても、単純に無駄な熱エネルギー消費を回避するメリットをもたらすものである。
加熱時間は合計で100秒間以下であれば良く、加熱の回数が一回以上であってもよい。加熱時間の下限値は、加工面の温度を700℃以上にするための所要時間、および、加工面の温度が700℃以上である状態を維持する時間から決定される。この時間は加熱方法、特に熱源の温度や付与するエネルギーにもよるので一概に決定はできないが、例えば、800℃程度の雰囲気への暴露であれば20秒程度、高エネルギーのフラッシュランプや大熱量の高温金型との接触であれば1秒程度で素材板厚程度の深さまでの領域の温度を700℃以上にすることが可能である。また、局所的に加熱するのは、板面に施された歪による磁区細分化効果を消失させないためである。このような加熱は、例えば、電気加熱、赤外線加熱、誘導加熱、フラッシュランプアニーリングにより、当該熱処理を1回または数回、剪断後の鋼板断面または積鉄心の加工面に向けて実施することにより実施することができる。
これは、上述の通り加工面の歪を解放するために加工面を700℃以上に加熱することを考慮すると、鉄心内部の温度を200℃以下にすることに相当する。これはすなわち鉄心内部に磁区制御のために導入された歪の解放を回避できる温度であり、また無駄な加熱を回避することにもなっている。つまり鉄心内部は全く加熱される必要がない、言い換えれば加熱を避けるべき領域であるため、加工面と鉄心内部との温度差は室温をTr℃とすれば、(700−Tr)℃以上であることが好ましい。
また、電磁鋼板の板面に、歪を伴う磁区制御加工が施されている場合、磁区制御加工がレーザー照射による磁区制御加工であることが好ましい。レーザー照射時の熱によって導入された歪は、熱耐性が強く、その後の熱処理において消失しにくくなると考えられるので、レーザー照射による磁区制御加工が施されている積鉄心に本発明を適用することにより、積鉄心の製造過程で剪断加工により電磁鋼板に導入された歪のみを優先的に開放させやすくなる。
本発明は積鉄心の表面と内部に温度差を生じるように加熱することが特徴であるため、このような冷却に伴う熱歪が生じる懸念があり、これを前記のような予熱で回避することは重要である。または冷却速度を制御することでも同様の効果を得ることが可能である。鉄心は複雑な形状となる場合もあり、これら条件を一律に規定することはできないが、本発明の適用条件および適用鉄心のサイズや形状などが決まれば、計算や数度の試行により適切な回避条件を設定することは当業者であれば困難なことではない。
なお、方法については上記の通り、積鉄心を構成する電磁鋼板の板面に歪を伴う磁区制御加工が施されているかどうかに関わらず対象とするが、積鉄心については、積鉄心を構成する電磁鋼板の板面に歪を伴う磁区制御加工が施されている鉄心であることを特徴とする。この理由は、本発明の熱処理方法を、積鉄心を構成する電磁鋼板の板面に歪を伴う磁区制御加工が施されていない鉄心に施した場合、従来の熱処理技術に基づき、鉄心全体が均一に加熱された鉄心との差異が見いだせない可能性が高いためである。
本発明の製造方法は、一般的な公知の電磁鋼板製造工程と、積鉄心加工工程と、歪取り焼鈍工程とを有している。以下にその製造方法を説明するが、本発明で規定する条件以外はあくまでも一例であり、公知の範囲で適宜変更が可能なものである。何らかの公知の効果を得るために、下記条件を修正したとしても、本発明で規定する条件が本発明の範囲内であれば、本発明効果が失われるものではない。
また以下の鋼板製造工程はいわゆる「方向性電磁鋼板」の製造条件で説明するが、本発明で使用する電磁鋼板はいわゆる「無方向性電磁鋼板」であっても良い。一般的には変圧器用途の積鉄心では方向性電磁鋼板が用いられ、モータや発電機等の回転電機用途の積鉄心では無方向性電磁鋼板が用いられる。
熱間圧延工程は、質量%で、C:0.10%以下、Si:1.0〜7.0%、Al:400ppm以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる珪素鋼素材(スラブ)を熱間圧延する工程である。以下、珪素鋼素材の成分の限定理由について説明する。
Cは、一次再結晶組織の制御に有効な元素であるが、磁気特性に悪影響を及ぼす。このため、仕上げ焼鈍前に脱炭焼鈍を行う。Cの含有量が0.10質量%を超えると、脱炭焼鈍時間が長くなり、工業生産における生産性が損なわれてしまう。それゆえ、本発明では、Cの含有量が0.10質量%以下である珪素鋼素材を対象にする。Cの含有量は、0.070質量%以下であることが好ましい。下限値としては、特に限定されないが、0.020質量%以上にすることが好ましく、より好ましくは0.050質量%以上である。
Siは、電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。しかし、Si含有量が7.0質量%を超えていると、冷間圧延が極めて困難となり、冷間圧延時に割れが生じやすくなる。このため、Si含有量は7.0質量%以下とし、好ましくは4.5質量%以下であり、より好ましくは4.0質量%以下である。一方、Si含有量が1.0質量%未満であると、仕上げ焼鈍時に変態が生じ、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。このため、Si含有量は1.0質量%以上とし、好ましくは2.0質量%以上であり、より好ましくは2.5質量%以上である。
酸可溶性Alは、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。二次再結晶を安定化させるために、酸可溶性Alは0.04質量%以下とし、好ましくは0.030質量%以下である。また、酸可溶性Alの含有量は0.020質量%以上であることが好ましく、0.025質量%以上であることが更に好ましい。
Nは、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量が0.0075質量%を超えていると、冷間圧延時に鋼板中にブリスターとよばれる空孔が生じる。このため、N含有量は0.0075質量%以下とすることが好ましい。
Mn、SおよびSeは、MnSおよびMnSeを生成し、複合析出物がインヒビターとして機能する。Mn含有量が0.02質量%〜0.20質量%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。このため、Mn含有量は、0.02質量%〜0.20質量%とすることが好ましい。また、Mn含有量は、0.08質量%以上であることが好ましく、0.09質量%以上であることが更に好ましい。また、Mn含有量は0.50質量%以下であることが好ましい。
SおよびSeの含有量は、S+0.406×Seで求められるSeqが、0.003質量%〜0.05質量%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。このため、Seqの含有量は0.003質量%〜0.05質量%とすることが好ましい。なお、S又はSeのいずれかのみが珪素鋼素材に含有されていてもよく、SおよびSeの双方が含有されていてもよい。
その他、珪素鋼素材は、上記成分に加えて、必要に応じて、質量%で、Cr≦0.30%、P≦0.50%、Sn≦0.30%、Sb≦0.30%、Ni≦1.0%、Mo≦0.10%、Ti≦0.015%、およびBi≦0.01%からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
残部はFeおよび不純物元素である。不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。さらにFeに代えて、公知効果を有する添加元素を公知の範囲で含有しても、本発明効果が失われるものではない。
焼鈍工程は、熱間圧延工程で得られた熱延鋼板に対して、所定の条件(例えば750〜1200℃で30秒間〜10分間に亘って加熱する条件)の下で焼鈍する工程である。
冷間圧延工程は、焼鈍工程の後に、一回の冷間圧延もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施すことにより、最終板厚の鋼板を得る工程である。これにより、例えば、0.15〜0.35mmの厚さを有する冷延鋼板が得られる。
脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得られた最終板厚の鋼板を脱炭焼鈍することにより、最表面に酸化膜を有する脱炭板を得る工程である。より具体的には、脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に対して、所定の条件(例えば700〜900℃で1〜3分間に亘って加熱する条件)の下で熱処理を行う工程である。このような脱炭焼鈍処理を実施することにより、冷延鋼板の炭素含有量が所定値以下に低減され、一次再結晶組織が形成される。
焼鈍分離剤塗布工程は、マグネシア(MgO)を主成分として含有する焼鈍分離剤を、冷延鋼板の表面(酸化膜の表面)に塗布する工程である。
仕上焼鈍工程は、焼鈍分離剤が塗布された冷延鋼板に対して、所定の条件(例えば1100〜1300℃で20〜24時間に亘って加熱する条件)の下で熱処理(仕上焼鈍処理)を行う工程である。このような仕上焼鈍処理を行うことにより、冷延鋼板に二次再結晶が生じるとともに、冷延鋼板が鈍化される。
また、上記のような仕上焼鈍処理を実施することにより、シリカを主成分として含有する酸化物層が、マグネシアを主成分として含有する焼鈍分離剤と反応して、鋼板の表面にフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス皮膜が形成される。仕上焼鈍工程では、鋼板がコイル状に巻かれた状態で仕上焼鈍処理が実施される。仕上焼鈍処理中に鋼板の表面にグラス皮膜が形成されることにより、コイル状に巻かれた鋼板に焼き付きが発生することを防止することができる。
絶縁被膜形成工程は、仕上焼鈍工程の後に行われる工程であり、仕上焼鈍された鋼板の表面に、絶縁被膜を形成する工程である。具体的には、例えば、コロイダルシリカおよびリン酸塩を含有する絶縁コーティング液が、グラス皮膜の上から塗布される。その後、所定の温度条件(例えば840〜920℃)の下で熱処理が行われる。これにより、最終的に、方向性電磁鋼板が得られる。
上記絶縁被膜形成工程までの工程は、鉄鋼メーカーにて実施されることが多く、後述するこれ以降の工程は、部材加工メーカーやトランス製造メーカーで実施されることが多い。
加工工程は、絶縁被膜形成工程で絶縁被膜が形成された鋼板から、積鉄心を製造する工程である。より具体的には、積鉄心や積鉄心の部材形状へと整形する切断加工工程と、整形された鋼板を積層して積鉄心とし、さらにはその積鉄心をさらに組み合わせる工程を含む。この中で、切断加工において電磁鋼板に不可避的な歪が付与される。切断加工工程は、より具体的には、剪断、打ち抜き、スリット、穴空けなどを行う工程である。
歪取り焼鈍工程は、切断加工工程の後に行われる工程であり、積鉄心に蓄積された歪の少なくとも一部を開放するための焼鈍を行う工程である。より具体的には、歪取り焼鈍工程は、上記本発明の焼鈍方法によって、積鉄心に蓄積された歪の少なくとも一部を開放するための焼鈍を行う工程である。
図1は、本発明の積鉄心を説明する図である。
例えば図1および図2A乃至図2Dに示した本発明の積鉄心1の場合、積鉄心の加工面1aを形成する電磁鋼板断面の歪量が、IQ値で1000以上であることを必須の条件とする。これに加えて、鉄心内部において積鉄心を形成する電磁鋼板の特定の部位の歪量を、IQ値で1000未満とすることにより、発明の効果を得る。
特定部位の一形態は、鋼板の板面1dに磁区制御を目的としてレーザー照射等により形成された高歪領域であり、この領域の歪量を、IQ値で1000未満とする。このような磁区制御を目的とした高歪領域は公知のものであり、必要により表面の被膜を剥離した電磁鋼板の板面をEBSDにより観察し、IQ値の低い線状の領域として存在を確認することができる。
特定部位の他の一形態は、鋼板の板面に磁区制御を目的としてレーザー照射等により形成された溝であり、この溝の底部の歪量を、IQ値で1000未満とする。このような磁区制御を目的とした溝は公知のものであり、必要により表面の被膜を剥離すれば、目視でも確認できる。なお、この溝は電磁鋼板の表面に形成されているように記述しているが、実用的な耐食性などを考慮して、溝形成後に電磁鋼板を再塗装して溝を埋めるように表面を被膜で覆う技術が知られている。この場合は電磁鋼板の表面には認められなくなるが、被膜を除いた母鋼板の表面には明確な溝が形成されている。本発明ではこのように母鋼板の表面に溝が認められる場合も、電磁鋼板の表面に溝が形成されているものとして扱うものとし、これを特に区別せず、単に「電磁鋼板の表面の溝」として記述している。
また、熱処理方法欄の「赤外線加熱」は、光源から赤外線を放射し、吸収されたエネルギーで分子運動の摩擦により熱を発生させる熱処理方法であることを意味し、「高温炉保持」は、一般的な歪取り条件で実施する熱処理方法であることを意味する。また、「なし」は歪取り焼鈍相当の熱処理を実施しないことを意味する。
また、「加工面温度」は、熱処理における加工面表面(図1における加工面1a)の最高到達温度を意味し、「鉄心内部の温度」は、熱処理における鉄心の加工面から5mm離れた鉄心内部の最高到達温度を意味する。鉄心の加工面の温度は加工面の概略中央に設置した熱電対で測定する。また鉄心内部の温度は、鋼板の熱伝導シミュレーションにより、加工面の概略中央で加工面から5mmの深さの温度で評価する。
「鋼板面防熱」は、熱処理の熱源と鉄心の鋼板面の間に、鋼板面の加熱を妨げる防熱材を配置することを示し、「鋼板面冷却」は、鉄心の鋼板面に熱容量の大きな物質を接触させて、熱処理中に鋼板面を冷却することを示す。また、「予熱」は、「熱処理方法」および「加熱時間」に従う加熱の前に、予め鉄心を所定の温度に予熱することを示す。
また、「加工面の歪量」は、鉄心の加工面を形成する電磁鋼板断面の歪量を意味し、「板面の歪量」は、鉄心内部において鉄心を形成する電磁鋼板の板面に施された磁区制御を有する高歪領域の歪量を意味する。これらの歪量は、EBSDのIQ値である。
加工面の歪は加工面の概略中央部でのIQ値を用いる。板面の歪は、鉄心の鋼板面から3枚目の鋼板について加工面から5mm離れた位置の板面のIQ値を用いる。鋼板の板面に溝が見られる場合は溝の底部で、見られない場合はEBSDにより高歪領域で測定するため、5mmよりも多少離れた位置となることもある。ここで5mmとしたのは、鉄心内部の境界である加工面および鋼板面から板厚(本実施例の場合は0.23mm)よりも十分に離れた鉄心内部の領域として設定したものである。
また、「熱処理前効率」は、予熱等焼鈍前の鉄心のビルディングファクターであり、「熱処理後効率」は、焼鈍後の鉄心のビルディングファクターである。ここで、ビルディングファクターは、電磁部材で測定した鉄損を、素材である電磁鋼板の鉄損で割った値であり、電磁部材の磁気効率の指標として用いられるものである。部材の鉄損が素材の鉄損を上回る(鉄損が増加する)と1を超す。これは素材を部材に加工する過程で鉄損を増加させる何らかの現象が生じていることを示しており、本実施例においては加工時の切断による歪がビルディングファクター上昇の主な要因であると考えられる。
また、「熱処理コスト」は、焼鈍に必要となる時間や熱量を意味する。熱処理コストは、用途や生産量などにも依存するため単純に定量的な評価を行うことは困難であるが、熱処理コスト欄に記載された「○」は、相対的に安価な手段で工業的に好ましい方法であることを意味し、「×」は相対的に高価な手段で工業的には好ましくない方法であることを意味する。基本的には加熱時間が短い熱処理条件であれば好ましいものとなる。
本発明の熱処理方法により積鉄心の特定部位のみを優先的に歪解放させることにより、有利な熱処理コストで、従来材と同等以上の特性を有する積鉄心が得られる。なお、本実施例においては、「鋼板面防熱」、「鋼板面冷却」、「予熱」は実施しない。この結果を表1に示す。
No.1、10、13は素材鋼板の磁区制御が異なるが、熱処理をしない条件での積鉄心である。加工面のIQ値が低く、鉄心特性にとって有害な歪が蓄積していることがわかる。このうちNo.1と10は、内部鋼板の板面について、鉄心特性にとって有効な磁区制御歪が付与されているものの、鉄心特性は劣位にある。
No.2〜9、11、12、14〜20は、積層後に熱処理を施した積鉄心である。熱源温度に多少の違いはあるが、加熱により鉄心の表面である加工面の温度が比較的短時間で上昇するとともに、加熱時間とともに鉄心内部の温度が加工面より遅れて上昇していく。これに伴い、加工面の歪は比較的短時間で解放されて鉄心特性に好ましい影響を及ぼす状況となる。また鉄心内部の温度の上昇に伴い、内部鋼板の板面の歪解放が進行する。ただし、これらの解放の程度は熱処理条件により微妙な差異があり、結果として適度な熱処理条件において鉄心特性は最適な値を示す。例えば、素材磁区制御がレーザーの場合はNo.4が、素材磁区制御がプレスの場合はNo.8が、素材磁区制御が高出力レーザーの場合はNo.11の条件で最適な鉄心特性となる。それぞれの素材磁区制御において、これらを超える熱処理を施したNo.5、9などは内部鋼板の板面の歪解放が進み過ぎて、鉄心特性にとってはむしろ悪影響となる。さらにこれまで一般的に行われている均一加熱条件であるNo.6、12、18、20では、鉄心全体の歪が解放され、鉄心特性としては良好なものとはなるものの、長時間の熱処理によりコストをかけている割には、No.6、12では、磁区制御効果を適度に残存させた本発明鋼の最適な形態の鉄心の特性よりはむしろ悪くなってしまう。また、No.14〜17、19のように磁区制御歪を付与していない鋼板を素材とした場合でも、本発明の熱処理により加工面さえ十分に歪を解放すれば鉄心特性は均一加熱としたものと同等の値となるため、熱処理コスト削減のメリットが大きくなる。
熱処理中に鋼板面の加熱を積極的に妨げる場合の効果を示す。本実施例は、熱処理方法は高温炉保持で実施した。というのは、例えば赤外線加熱では、加熱方法自体に指向性があり、特定の加熱面のみ、本発明の場合は鉄心の加工面のみを優先的に加熱することが容易であり、本実施例で検討する鋼板面の加熱を妨げる効果を確認しにくいためである。これはもちろん、赤外線加熱では鋼板面の防熱や冷却の効果が全く見られないということではない。しかし、鉄心を全方位から比較的均一に加熱する「高温炉保持」の場合に、鋼板面の防熱や冷却の効果が現れやすいことは自明でもあり、本実施例ではこれらの効果が顕著に現れる高温保持において効果を確認する。
防熱部材としては、熱処理の熱源と鉄心の鋼板面の間に、鋼板面から10mm離して、鋼板面と同じ形で厚さ10mmの石膏ボードを設置した状態で、鉄心と防熱部材を高温炉に挿入する。鋼板面の冷却は、鉄心の鋼板面に、鋼板面と同じ形で、金型内に水冷配管を通した厚さ10mmのステンレス製金型を接触させた状態で、鉄心と防熱部材を高温炉に挿入する。
結果を表2に示す。
防熱または冷却を実施したNo.22、23、25、26、28、29は、これらを実施していないNo.21、24、27よりも、鉄心内部の温度のみが低下し、鉄心板面に磁区制御のために付与した歪の消失を抑制し、その結果、鉄心特性が向上することがわかる。No.21のように本発明内であるが、それほど好ましくない熱処理条件において、鉄心の歪をより好ましい状態にする効果が確認できるとともに、No.24やNo.27のように、防熱や冷却をしなければ、鉄心内部の温度が非常に高くなってしまい発明効果が失われてしまう熱処理条件で、鉄心内部の温度上昇を抑えて発明範囲内の歪状態を維持させることも可能である。特に後者の場合は、加工面は十分に加熱し歪を完全に解放するとともに、板面の歪はほとんど解放させないような、単一の鉄鋼材料の熱伝導だけでは実現できないような大きな温度差を作り出すことが可能となり、鉄心の特性としても非常に好ましい状態を実現できる。
また、防熱よりも冷却の方が、鉄心内部の温度上昇を抑えて鉄心板面の歪を保持するのに有利であることがわかる。これは、本実施例の場合は、防熱部材は高温炉の炉壁からの照射による加熱を妨げることはできるものの、炉内で対流移動する雰囲気の接触による加熱は防ぐことができないためであり、また、今回配置した冷却金型は鋼板面を冷却するだけでなく防熱材としての効果も有していることから、自明な結果とも言える。
熱処理前の予熱は、特に熱処理による鉄心の表層と内部の温度差が大きくなる場合、冷却過程での熱歪を回避するために有効であることは前述の通りである。本実施例では予熱の効果を確認するため、特に鉄心の表層と内部の温度差が大きくなる条件における条件を選定している。ひとつは鋼板面を冷却する場合であり、もう一つは赤外線加熱により加工面のみを短時間急速に加熱する場合である。予熱は、各予熱温度に設定した電気炉中で30分保持して鉄心全体を均一に加熱し、電気炉から取り出し、直ちに歪取りのための熱処理を実施する。この場合、予熱を含めた熱処理全体の処理時間は長くなるが、予熱の温度は低く消費エネルギー的にも小さいので、熱処理コストの評価において予熱の寄与については無視している。
結果を表3に示す。
No.30やNo.35のように鉄心の表層(加工面)と内部(鉄心内部)の温度差が大きい場合は、表2のNo.22と23の比較もそうであるが、鉄心効率は非常に良好ではあるものの、効果に飽和感がある。これに対し、No.31〜33、36〜38のように適切な温度範囲で予熱を行うと、板面の歪量だけを見ると多少解放が進むにも関わらず、鉄心効率はさらに良好となる。この理由は明確ではないが、前述のように熱歪の影響が現れているものと考えている。すなわち、No.30や35の材料は板面の歪量としては解放が抑制されてはいるが、この歪量には熱歪で入った、鉄心特性にとっては好ましくない歪量も含まれてしまっているものと考えられる。この意味では、熱歪までを考慮すると、鉄心において本発明で測定している板面の歪量と鉄心特性の相関にずれを生じることとなっており、鉄心内部まで含めた鋼板の歪分布を測定することで、この相関の精度は高くなると考えられる。とは言え、熱処理による鉄心の表層と内部の温度差が大きくなる場合の予歪の効果としては本実施例で明確に示されているものである。
なお、表3に示されている鉄心内部の温度は、鉄心内部が到達した最高温度を記述しており、予熱を実施したものにおいては予熱中の温度に一致する温度となっている。
1a…加工面
1b…鋼板面
1c…鉄心内部
1d…鉄心内部において鉄心を形成する電磁鋼板の板面
3a、3b…加熱手段
4…防熱部材
Claims (11)
- 電磁鋼板から積鉄心を製造する際に前記電磁鋼板に蓄積された歪の少なくとも一部を開放させるために行う焼鈍方法であって、
加工面の温度を700℃以上、且つ、鉄心内部の温度を500℃未満とすることを特徴とする、積鉄心の歪取り焼鈍方法。 - 前記加工面を、100秒間以下に亘って加熱することを特徴とする、請求項1に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 前記加工面と前記鉄心内部との温度差を500℃以上にすることを特徴とする、請求項1または2に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 前記電磁鋼板の板面に歪を伴う磁区制御加工が施されていることを特徴する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 前記磁区制御加工がレーザー照射による磁区制御加工であることを特徴とする、請求項4に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 前記積鉄心を加熱する加熱手段と、前記積鉄心の鋼板面との間に、防熱部材が設置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 前記積鉄心を加熱する際に、前記積鉄心の鋼板面の少なくとも一部を冷却することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- さらに、前記局所的な加熱の前に、前記積鉄心の全体を予め500℃未満に加熱する予熱工程を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法。
- 質量%で、C:0.10%以下、Si:1.0〜7.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる珪素鋼素材を熱間圧延し、一回の冷間圧延もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、続いて仕上焼鈍を施す一連の工程を経て積鉄心を製造する方法において、
前記仕上焼鈍を施した後に、電磁鋼板から積鉄心を製造する加工工程と、
前記加工工程の後に、前記積鉄心に蓄積された歪の少なくとも一部を開放する歪取り焼鈍工程と、を有し、
前記歪取り焼鈍工程が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積鉄心の歪取り焼鈍方法によって、前記歪の少なくとも一部を開放する工程であることを特徴とする、積鉄心の製造方法。 - 積鉄心の加工面を形成する電磁鋼板の切断面の歪量が、IQ値で1000以上であり、且つ、
鉄心内部において積鉄心を形成する前記電磁鋼板は、鋼板の板面に線状の高歪領域が形成されており、該領域の歪量が、IQ値で1000未満であることを特徴とする、積鉄心。 - 積鉄心の加工面を形成する電磁鋼板の切断面の歪量が、IQ値で1000以上であり、且つ、
鉄心内部において積鉄心を形成する前記電磁鋼板は、鋼板の板面に溝が形成されており、該溝の底部の歪量が、IQ値で1000未満であることを特徴とする、積鉄心。
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