JP2017185526A - 多層盛り突合せ溶接継手の製造方法、多層盛り突合せ溶接継手 - Google Patents

多層盛り突合せ溶接継手の製造方法、多層盛り突合せ溶接継手 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼板の種類によらず、より簡易に開先の肩側及び背側のHAZの靱性を向上させることができる、溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】レ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれかによる多層盛り突合せ溶接継手(10)の製造方法であって、最後に盛る層は、開先肩側から開先背側に向けて順にビードを形成して積層するとともに、開先背側の最終のビード(14a)の高さを被溶接材料(11)の最終のビード側表面から、板厚が15mm未満の場合は高さを2mm以上5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は高さを2mm以上6mm以下、板厚が25mm以上の場合は高さを2mm以上、開先幅の6/25倍以下とするように溶接する。【選択図】図3

Description

本発明は、建築や土木の分野に用いられる構造部材に適用される溶接継手を製造する方法、及び溶接継手に関し、特に多層盛り突合せ溶接継手の製造方法、及び多層盛り突合せ溶接継手に関する。
建築や土木の分野において鋼骨組構造が用いられる際には、鋼材同士を溶接により接合する。一方、このような鋼骨組構造には所定以上の強度が必要とされるが、鋼骨組構造が、例えば地震等により力を受けて変形したときには、最大応力は多くの場合に溶接接合部の近傍で発生し、溶接止端部が破壊の起点になることが多い。そのため、溶接金属が破壊の起点になることを抑制するために、熱影響部(HAZ)の靱性を高めることが重要である。
特許文献1には、開先肩位置を基準に、2つのビード積層位置を寸法で規定し、これにより開先肩側の溶接熱影響部(HAZ)の靭性を改善する技術が開示されている。
特許文献2には、開先周辺に冷間で予歪を付与した後に溶接することで、溶接熱影響で生成するγ粒を微細化しHAZの靭性を改善する技術が開示されている。
特許文献3には、熱加工制御鋼板のHAZの軟化を防止する溶接法が開示されている。
特開2002−172462号公報 特開2015−93289号公報 特開2012−210653号公報
引用文献1に記載の技術では、開先肩側のHAZの靱性を向上させることができるが、開先背側についてはHAZの靱性を向上させていない。例えば梁端溶接接合部では開先の肩側だけでなく背側も破壊の起点になり得ることから、両方についてHAZの靱性向上をさせる必要がある。
引用文献2に記載の技術では、開先周辺に冷間で予歪を与えておく必要があり、このような工程を付加することは回避することが望まれる。
引用文献3に記載の技術では、熱加工制御鋼板を用いること、及び、化粧盛を行うことが必須であり、汎用性を高める必要がある。
そこで本発明は、鋼板の種類によらず、より簡易に開先の肩側及び背側のHAZの靱性を向上させることができる、多層盛り突合せ溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。また、そのための構造を有する多層盛り突合せ溶接継手を提供する。
以下、本発明について説明する。分かり易さのためここでは図面の参照符号を括弧書きで付記するが本発明はこれに限定されることはない。
請求項1に記載の発明は、レ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれかによる多層盛り突合せ溶接継手(10)の製造方法であって、最後に盛る層は、開先肩側から開先背側に向けて順にビードを形成して積層するとともに、開先背側の最終のビード(14a)の高さを被溶接材料(11)の最終のビード側表面から、板厚が15mm未満の場合は高さを2mm以上5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は高さを2mm以上6mm以下、板厚が25mm以上の場合は高さを2mm以上、開先幅の6/25倍以下とするように溶接する、多層盛り突合せ溶接継手の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の多層盛り突合せ溶接継手(10)の製造方法において、被溶接材料(11、12)の引張強さが490N/mm以上670N/mm以下の鋼材である。
請求項3に記載の発明は、レ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれかによる多層盛り突合せ溶接継手(10)であって、最終層が開先肩側から開先背側へ向けて順に多層盛りされた形態とされ、開先背側の最終のビード(14a)の高さが被溶接材料(11)の最終のビード側表面から、板厚が15mm未満の場合は高さを2mm以上5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は高さを2mm以上6mm以下、板厚が25mm以上の場合は高さを2mm以上、開先幅の6/25倍以下とし、最終のビードの板厚方向下端部が被溶接材料の表面から0.3mm以上6mm以下の範囲にある、多層盛り突合せ溶接継手である。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の多層盛り突合せ溶接継手(10)において、被溶接材料(11、12)の引張強さが490N/mm以上670N/mm以下の鋼材である。
本発明によれば、鋼板の種類によらず、より簡易に開先の肩側及び背側のHAZの靱性を向上させることができる。
多層盛り突合せ溶接継手の溶接金属に注目した断面図である。 図2(a)、図2(b)は、多層盛り突合せ溶接継手の製造方法を説明する図である。 多層盛り突合せ溶接継手の製造方法を説明する図である。 図4(a)、図4(b)はシャルピー衝撃試験の試験片の採取について説明する図である。 硬さ測定について説明する図である。 図6(a)、図6(b)は硬さ測定の結果を表すグラフである。 図7(a)、図7(b)は硬さ測定の結果を表すグラフである。
以下本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
図1は、1つの形態例を説明する図で、多層盛り突合せ溶接継手10(以下単に「溶接継手10」と記載することがある。)のうち溶接金属14に注目して断面で表した図である。図1からわかるように、溶接継手10は、開先背側母材11、開先肩側母材12、裏当て金13、及び溶接金属14を有して構成されている。ここで溶接継手10を有する具体的な構造物は特に限定されることはなく、例えば建物の柱及び梁による構造物を挙げることができる。そのときには例えば当該溶接継手10は梁端部と通しダイヤフラム端面との接合に用いられている。以下、各構成について説明する。ただし裏当て金13は周知の構成のとおりであるから説明を省略する。
開先背側母材11は、開先背側を構成する鋼材であり、鋼の種類は特に限定されることはないが、構造用鋼として用いられる引張強さが490N/mm以上、670N/mm以下の鋼材を用いることができる。
開先背側母材11としては例えば通しダイヤフラム等を挙げることができる。
開先肩側母材12は、開先肩側を構成する鋼材であり、開先角度で傾斜した端面を有している。開先角度は例えば30度〜45度程度であるが、開先角度は任意に設定できる。この傾斜した端面(開先面)が上記した開先背側母材11に対向するように配置され、この部位における開先背側母材11と開先肩側母材12との間隙(開先)に溶接金属14が多層盛りで形成される。鋼の種類は特に限定されることはないが、構造用鋼として用いられる引張強さが490N/mm以上、670N/mm以下の鋼材を用いることができる。
開先肩側母材12としては例えば梁等を挙げることができる。
本発明の多層盛り突合せ溶接継手10は、開先背側母材11と開先肩側母材12とが対向して配置された開先に多層盛りで溶接金属14が形成されて両者を連結する溶接継手であるが、さらに次のような特徴を有して構成されている。
本発明の溶接金属14は、多層盛り溶接により形成され、これにより層状構造となる。
さらに溶接金属14は、最も外側に配置される層(最終層)の開先背側のビードである、最終ビード14aについて、その外側(下層に接する側とは反対側)における面の厚さ方向に最も突出した部位と開先背側母材11の表面との母材厚さ方向の大きさtは、2mm以上で、板厚が15mm未満の場合はtは5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合はtは6mm以下、板厚が25mm以上の場合は、tは開先幅w(mm)の6/25倍以下、とされている。すなわち、
2(mm)≦t≦5(mm) (母材板厚が15mm未満)
2(mm)≦t≦6(mm) (母材板厚が15mm以上25mm未満)
2(mm)≦t≦w・(6/25)(mm) (母材板厚が25mm以上)
である。
また、開先背側の最終ビード14aの内側(下層に接する側)の面の母材厚さ方向に最も深い部位と開先背側母材11の表面との母材厚さ方向大きさsは、0.3mm以上、6mm以下とされている。すなわち、
0.3(mm)≦s≦6(mm)
である。
これにより、開先背側及び開先肩側のHAZにおける靱性を向上させることができ、破壊に対して性能を高めることが可能となる。なおtを、板厚が15mm未満の場合は5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は6mm以下、板厚が25mm以上の場合は開先幅w(mm)の6/25倍以下とすることにより、ビード止端への応力、歪集中を緩和し、破壊に対して性能を高めることができる(日本建築学会、建築工事標準仕様書、JASS6 鉄骨工事 付表3 溶接 (3)完全溶け込み溶接突合せ継手の余盛の高さ 参照)。
本発明に用いられる溶接材料は、母材と同等強度以上のソリッドワイヤまたはフラックスコアードワイヤを用いることが好ましい。また、溶接方法はガスシールドアーク溶接またはセルフシールドアーク溶接が用いられることが好ましい。
次に、上記した溶接継手の製造方法について説明する。図2(a)、図2(b)及び図3に説明のための図を示した。これらの図はいずれも図1と同じ視点による図である。
図2(a)は、最終ビード14a(図1参照)の1つ下に配置される層で、最も開先背側に配置されるビード20が盛られた場面である。このビード20は開先背側母材11に接し、その1つ前に盛られたビード21はビード20よりも開先肩側に配置されている。すなわち、図2(a)に直線矢印で示したように、このビード20はその前までのビードの形成において、開先肩側から開先背側に向けて盛られてきて開先背側母材11に接するビードとして形成されたものである。そしてビード20によって、開先背側母材11の表層付近にHAZ22が形成される。
ビード20の次に、開先肩側母材12に接し、溶接金属14の外表面を形成する最終層を構成するビード23を得る。ビード23によって、開先肩側母材12の表層付近にHAZ24が形成される。なお、ビード23の止端部と開先肩部との距離は、溶接欠陥のアンダーカットを避けるため0mmより大きくするが、溶接継手強度上からは5mm以上に大きくしても変化しないため5mm未満の長さに設定することが好ましい。この場合、溶接金属に隣接する開先肩側母材12の熱影響部は、表面部で母材側に膨出することなくほぼ開先面に沿って形成される。
次に、図3に示したようにビード23よりも開先背側にビード25を盛る。ビード25によって、HAZ24に対する再熱を得る。すなわち、ビード25は開先を充填する溶接金属14を形成するために必要なビードであると同時に、開先肩側母材12のHAZ24に対するテンパービードとして作用する。そして、同様にして開先背側にビードを配置し、最終的に開先背側母材11に接し、溶接金属14の外表面を形成する最終ビード14aを得る。従って、図3に直線矢印で示したように、このビード14aは、ビード23から開先背側に向けて順に盛られてきて開先背側母材11に接するビードとして形成された最終のビードである。最終ビード14aは開先を充填するために必要なビードであると同時に、開先背側母材11のHAZ22に対するテンパービードとして作用する。
そして、これにより上記した溶接金属14を形成する。
ここで、さらに上記溶接の際には、溶接時の入熱を14kJ/cm以上41kJ/cm以下でおこない、次パス溶接の直前の溶接金属温度であるパス間温度は350℃以下とされる。溶接時の入熱が14kJ/cmより低いと、溶け込み不良による欠陥が出やすくなる。また、溶接時の入熱が大きいほど、溶接1パスあたりの充填量が大きくなり、ビード14aの高さを、板厚が15mm未満の場合は5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は6mm以下、板厚25mm以上の場合は6/25×w以内に抑えるためには、ビード20の上面の高さを抑える必要が生じる。これにより、入熱が41kJ/cmを超えると、ビード20により生成されるHAZ22は開先背側の表層まで形成されず、ビード14aによる再熱は開先背側の表層では得られなくなってしまう。
以上のように多層盛り突合せ溶接継手を製造することにより開先背側及び開先肩側の両方においてHAZの靱性を向上させることができ、破壊に対して性能を高めることが可能となる。これは、ビードが形成される位置、および溶接時の熱が母材に与える影響により、特に開先開口部の縁における母材が加熱(再熱)されるためだと推測される。
なお、ここではレ形開先の溶接金属について説明したが、開先形状はJIS Z 3001で定義されるレ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれであってもよい。このような開先形状に形成された開先肩側母材12の開先と開先背側母材11とが、JIS Z 3001で定義される突合せ継手、T継手、または角継手となるように配置され、この部位における開先背側母材11と開先肩側母材12との間隙(開先)に多層盛り溶接によって溶接金属14が形成される。
実施例では各種溶接条件を設定し、衝撃試験でHAZの靱性に関する評価をし、硬さ試験でHAZの硬化に関する評価を行った。
表1に各試験の条件を表した。
なお、パス間温度は、いずれの試験でも各層の溶接において、最大温度で350℃以下となるように管理して溶接を行った。また、入熱についても各層の溶接を14J/cm〜41J/cmで行っている。
また、開先は、ルートギャップを7mm、開先角度を35度、及び開先幅を35mmとしている。
No.1〜No.4についてシャルピー衝撃試験をおこなった。図4(a)、図4(b)に試験片の採取位置を説明する図を表した。図4(a)は開先肩側、図4(b)は開先背側である。試験片の形態及び試験はJIS Z 2242に準じている。
ここではノッチ最深部のうち試験片厚さ方向(図4(a)、図4(b)の上下方向)の中央(図4(a)、図4(b)のA)がフュージョンライン(FL)上にある試験片、同様に当該中央がフュージョンラインから母材側に0.5mm移動した位置にある試験片(FL+0.5mm)、及び、当該中央がフュージョンラインから母材側に1.0mm移動した位置にある試験片(FL+1.0mm)をそれぞれ作製して試験をした。
表2に結果を示す。この結果は、1つの条件につき3片の試験片に対して測定を行い、その平均値で示してある。
表2からわかるように、特にFL+0.5mmにおいて、開先肩側及び開先背側の両方において吸収エネルギーが増加し、靱性に関する改善が見られた。
No.1、No.2について、ビッカース硬さ測定を行った。図5に測定位置を表した。すなわち、母材の面から厚さ方向1mm、及び母材の厚さの四分の一である10mmの位置で、開先背側母材から開先肩側母材に向けて溶接金属を横切る線(図5のVa、Vb)に沿って所定の間隔で硬さを測定した。
結果を図6、図7に示した。図6(a)はNo.1において線Vaに沿った硬さ測定結果、図6(b)はNo.2において線Vaに沿った硬さ測定結果、図7(a)はNo.1において線Vbに沿った硬さ測定結果、図7(b)はNo.2において線Vbに沿った硬さ測定結果である。
図中、横軸の「位置」は背側のフュージョンラインを0とし、開先肩側母材に向かう方向を正、その逆を負としている。縦軸は硬さである。また記号○は母材、□はFL、△はHAZ、◇は溶接金属をそれぞれ表している。
図6(b)に対して図6(a)、図7(b)に対して図7(a)を見るとわかるように、HAZにおいて母材との硬さの差に注目すると、図6(b)、図7(b)では、図6(a)、図7(a)に対して小さくなっていることがわかる。
本例では母材として550N/mm級の鋼材を用いた例を挙げたが、母材が他の等級である490N/mm〜670N/mmであっても同様の効果を奏する。
10 溶接継手
11 開先背側母材
12 開先肩側母材
13 裏当て金
14 溶接金属

Claims (4)

  1. レ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれかによる多層盛り突合せ溶接継手の製造方法であって、
    最後に盛る層は、開先肩側から開先背側に向けて順にビードを形成して積層するとともに、開先背側の最終のビードの高さを被溶接材料の前記最終のビード側表面から、板厚が15mm未満の場合は前記高さを2mm以上5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は前記高さを2mm以上6mm以下、板厚が25mm以上の場合は前記高さを2mm以上、開先幅の6/25倍以下とするように溶接する、多層盛り突合せ溶接継手の製造方法。
  2. 前記被溶接材料の引張強さが490N/mm以上670N/mm以下の鋼材である請求項1に記載の多層盛り突合せ溶接継手の製造方法。
  3. レ形開先、K形開先、J形開先及び両面J形開先のいずれかによる多層盛り突合せ溶接継手であって、
    最終層が開先肩側から開先背側に向けて順に多層盛りされた形態とされ、開先背側の最終のビードの高さが被溶接材料の前記最終のビード側表面から、板厚が15mm未満の場合は前記高さを2mm以上5mm以下、板厚が15mm以上25mm未満の場合は前記高さを2mm以上6mm以下、板厚が25mm以上の場合は前記高さを2mm以上、開先幅の6/25倍以下とし、前記最終のビードの板厚方向下端部が前記被溶接材料の表面から0.3mm以上6mm以下の範囲にある、多層盛り突合せ溶接継手。
  4. 前記被溶接材料の引張強さが490N/mm以上670N/mm以下の鋼材である、請求項3に記載の多層盛り突合せ溶接継手。
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