以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、それらの構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも1つを得ることが可能である。
図1は、本実施形態に係る遊星歯車装置を含む動力伝達装置10の概略構成図である。図1に示される動力伝達装置10は、後輪駆動車両の前部に縦置きに搭載される駆動源としての図示しないエンジン(内燃機関)のクランクシャフトおよび/または電気モータのロータに接続されるとともにエンジン等からの動力(トルク)を図示しない左右の後輪(駆動輪)に伝達可能なものである。動力伝達装置10は、エンジン等から入力軸12i(入力部材)に伝達された動力を変速して出力軸12oに伝達する自動変速機14に加えて、ケース16(トランスミッションケース、静止部材)や、発進装置18(流体伝動装置)、オイルポンプ20等を含む。
発進装置18は、上述のような駆動源に連結される入力側のポンプインペラ22pや自動変速機14の入力軸12iに連結される出力側のタービンランナ22t、ステータ22sおよびワンウェイクラッチ22o等を有するトルクコンバータを含む。ステータ22sは、ポンプインペラ22pおよびタービンランナ22tの内側に配置されてタービンランナ22tからポンプインペラ22pへの作動油の流れを整流する。また、ワンウェイクラッチ22oは、図示しないステータシャフトより支持されるとともにステータ22sの回転方向を一方向に制限する。さらに、発進装置18は、エンジンのクランクシャフト等に連結されたフロントカバーと自動変速機14の入力軸12iとを互いに接続するとともに両者の接続を解除するロックアップクラッチ24と、フロントカバーと自動変速機14の入力軸12iとの間で振動を減衰するダンパ機構26とを有する。なお、発進装置18は、ステータ22sを有さない流体継手を含むものであってもよい。
オイルポンプ20は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアセンブリ、チェーンまたはギヤ列を介して発進装置18のポンプインペラ22pに連結された外歯ギヤ(インナーロータ)、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ(アウターロータ)等を有するギヤポンプとして構成される。オイルポンプ20は、エンジン等からの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して油圧制御装置(不図示)へと圧送する。
図1の自動変速機14は、例えば、10段変速式の変速機として構成されている。自動変速機14は、図1に示すように、入力軸12iに加えて、図示しないデファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して左右の後輪に連結される出力軸(出力部材)12oや自動変速機14(入力軸12iや出力軸12o)の軸方向に並べて配設されるシングルピニオン式の第1遊星歯車28(第1遊星歯車装置)および第2遊星歯車30(第2遊星歯車装置)を含む。また、自動変速機14は、ダブルピニオン式遊星歯車とシングルピニオン式遊星歯車とを組み合わせて構成される複合遊星歯車機構としてのラビニヨ式遊星歯車機構32(ラビニヨ式遊星歯車装置)を含む。さらに、自動変速機14は、入力軸12iから出力軸12oまでの動力伝達経路を変更するための係合要素としてのクラッチC1(第1クラッチ)、クラッチC2(第2クラッチ)、クラッチC3(第3クラッチ)、クラッチC4(第4クラッチ)、ブレーキB1(第1ブレーキ)およびブレーキB2(第2ブレーキ)を含む。
本実施形態において、第1遊星歯車28および第2遊星歯車30並びにラビニヨ式遊星歯車機構32は、発進装置18すなわちエンジン側(図1における左側)から、ラビニヨ式遊星歯車機構32、第2遊星歯車30、第1遊星歯車28、という順番で並ぶようにケース16内に配置される。すなわち、発進装置18側からラビニヨ式遊星歯車機構32を構成するシングルピニオン式遊星歯車、ラビニヨ式遊星歯車機構32を構成するダブルピニオン式遊星歯車、第2遊星歯車30、第1遊星歯車28という順番で並ぶ。これにより、ラビニヨ式遊星歯車機構32は、発進装置18に近接するように車両の前部側に配置される。また、第1遊星歯車28は、出力軸12oに近接するように車両の後部側に配置され、第2遊星歯車30は、ラビニヨ式遊星歯車機構32と第1遊星歯車28との間に配置される。
第1遊星歯車28は、第1サンギヤ28s、第1リングギヤ28r、複数の第1ピニオンギヤ28p、第1キャリヤ28cを有する。第1サンギヤ28sは、外歯歯車である。第1リングギヤ28rは、第1サンギヤ28sと同心円上に配置される内歯歯車である。第1ピニオンギヤ28pは、第1サンギヤ28sおよび第1リングギヤ28rに噛合する。第1キャリヤ28cは、複数の第1ピニオンギヤ28pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する。
第1遊星歯車28の第1キャリヤ28cは、図1に示すように、入力軸12iに連結された自動変速機14の中間軸12m(インターミディエイトシャフト)に常時連結(固定)される。これにより、エンジン等から入力軸12iに動力が伝達されている際、第1キャリヤ28cには、エンジン等からの動力が入力軸12iおよび中間軸12mを介して常時伝達されることになる。第1キャリヤ28cは、クラッチC4の係合時に第1遊星歯車28の入力要素(自動変速機14の第1入力要素)として機能し、クラッチC4の解放時には空転する。また、第1リングギヤ28rは、クラッチC4の係合時に当該第1遊星歯車28の出力要素(自動変速機14の第1出力要素)として機能する。
第2遊星歯車30は、第2サンギヤ30s、第2リングギヤ30r、複数の第2ピニオンギヤ30p、第2キャリヤ30cを有する。第2サンギヤ30sは、外歯歯車である。第2リングギヤ30rは、第2サンギヤ30sと同心円上に配置される内歯歯車である。第2ピニオンギヤ30pは、第2サンギヤ30sおよび第2リングギヤ30rに噛合する。第2キャリヤ30cは、複数の第2ピニオンギヤ30pを自転(回転)自在かつ公転自在に保持する。
第2遊星歯車30の第2サンギヤ30sは、図1に示すように、第1遊星歯車28の第1サンギヤ28sと一体化(常時連結)されており、第1サンギヤ28sと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。ただし、第1サンギヤ28sと第2サンギヤ30sとは、別体に構成されるとともに図示しない連結部材(第1連結部材)を介して常時連結されてもよい。また、第2遊星歯車30の第2キャリヤ30cは、出力軸12oに常時連結されており、出力軸12oと常時一体(かつ同軸)に回転または停止する。これにより、第2キャリヤ30cは、第2遊星歯車30の出力要素(自動変速機14の第2出力要素)として機能する。さらに、第2遊星歯車30の第2リングギヤ30rは、第2遊星歯車30の固定可能要素(自動変速機14の第1固定可能要素)として機能する。
ラビニヨ式遊星歯車機構32は、第3サンギヤ34s、第4サンギヤ36s、第3リングギヤ34r、複数の第3ピニオンギヤ34p、複数の第4ピニオンギヤ36p、第3キャリヤ34cを有する。第3サンギヤ34sおよび第4サンギヤ36sは、外歯歯車である。第3リングギヤ34rは、第3サンギヤ34sと同心円上に配置される内歯歯車である。第3ピニオンギヤ34pは、第3サンギヤ34sに噛合する。第4ピニオンギヤ36pは、第4サンギヤ36sおよび複数の第3ピニオンギヤ34pに噛合するとともに第3リングギヤ34rに噛合する。第3キャリヤ34cは、複数の第3ピニオンギヤ34pを自転可能かつ第3サンギヤ34sの周りを公転可能に支持する。また、第3キャリヤ34cは、第4ピニオンギヤ36pを自転可能かつ第4サンギヤ36sの周りを公転可能に支持する。
このようなラビニヨ式遊星歯車機構32は、ダブルピニオン式遊星歯車とシングルピニオン式遊星歯車とを組み合わせて構成される複合遊星歯車機構である。すなわち、ラビニヨ式遊星歯車機構32の第3サンギヤ34s、第3キャリヤ34c、第3ピニオンギヤ34pおよび第4ピニオンギヤ36p、並びに第3リングギヤ34rは、ダブルピニオン式の第3遊星歯車(第3遊星歯車装置)を構成する。また、ラビニヨ式遊星歯車機構32の第4サンギヤ36s、第3キャリヤ34c、第4ピニオンギヤ36p、および第3リングギヤ34rは、シングルピニオン式の第4遊星歯車(第4遊星歯車装置)を構成する。
また、ラビニヨ式遊星歯車機構32を構成する回転要素のうち、第4サンギヤ36sは、ラビニヨ式遊星歯車機構32の固定可能要素(自動変速機14の第2固定可能要素)として機能する。さらに、第3キャリヤ34cは、入力軸12iに常時連結(固定)されるとともに、連結部材(第2連結部材)としての中間軸12mを介して第1遊星歯車28の第1キャリヤ28cに常時連結される。これにより、エンジン等から入力軸12iに動力が伝達されている際、第3キャリヤ34cには、エンジン等からの動力が入力軸12iを介して常時伝達されることになる。従って、第3キャリヤ34cは、ラビニヨ式遊星歯車機構32の入力要素(自動変速機14の第2入力要素)として機能する。また、第3リングギヤ34rは、ラビニヨ式遊星歯車機構32の第1出力要素として機能し、第3サンギヤ34sは、ラビニヨ式遊星歯車機構32の第2出力要素として機能する。
クラッチC1は、常時連結された第1遊星歯車28の第1サンギヤ28sおよび第2遊星歯車30の第2サンギヤ30sとラビニヨ式遊星歯車機構32の第1出力要素である第3リングギヤ34rとを互いに接続するとともに両者の接続を解除するものである。クラッチC2は、常時連結された第1遊星歯車28の第1サンギヤ28sおよび第2遊星歯車30の第2サンギヤ30sとラビニヨ式遊星歯車機構32の第2出力要素である第3サンギヤ34sとを互いに接続するとともに両者の接続を解除するものである。クラッチC3は、第2遊星歯車30の第2リングギヤ30rとラビニヨ式遊星歯車機構32の第1出力要素である第3リングギヤ34rとを互いに接続するとともに両者の接続を解除するものである。クラッチC4は、第1遊星歯車28の出力要素である第1リングギヤ28rと出力軸12oとを互いに接続するとともに両者の接続を解除するものである。
ブレーキB1は、ラビニヨ式遊星歯車機構32の固定可能要素である第4サンギヤ36sを静止部材としてのケース16に対して回転不能に固定(接続)するとともに第4サンギヤ36sをケース16に対して回転自在に解放するものである。ブレーキB2は、第2遊星歯車30の固定可能要素である第2リングギヤ30rをケース16に対して回転不能に固定(接続)するとともに当該第2リングギヤ30rを静止部材としてのケース16に対して回転自在に解放するものである。
本実施形態では、クラッチC1〜C4として、ピストン、複数の摩擦係合要素、それぞれ作動油が供給される油室(係合油室)および遠心油圧キャンセル室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)が採用される。摩擦係合要素は、例えば環状部材の両面に摩擦材を貼着することにより構成された摩擦プレートおよび両面が平滑に形成された環状部材であるセパレータプレートとすることができる。また、ブレーキB1およびB2としては、ピストン、複数の摩擦係合要素(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される油室(係合油室)等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキが採用される。そして、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、図示を省略した油圧制御装置の作動油の供給または排出により動作する。
図2は、自動変速機14の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の作動状態との関係を示す作動表である。
自動変速機14では、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2に示すように係合または解放させて接続関係を変更することで、入力軸12iから出力軸12oまでの間に前進回転方向に10通りおよび後進回転方向に1通りの動力伝達経路、すなわち第1速段から第10速段の前進段と後進段とを設定することができる。なお、図2において、「○」は係合、「−」は解放を意味する。
例えば、前進第1速段は、クラッチC1,C2およびブレーキB2を係合させるとともに、残余のクラッチC3,C4およびブレーキB1を解放させることにより形成される。
前進第2速段は、クラッチC1、ブレーキB1およびB2を係合させるとともに、残余のクラッチC2,C3およびC4を解放させることにより形成される。
前進第3速段は、クラッチC2、ブレーキB1およびB2を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C3およびC4を解放させることにより形成される。
前進第4速段は、クラッチC4、ブレーキB1およびB2を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C2およびC3を解放させることにより形成される。
前進第5速段は、クラッチC2,C4およびブレーキB1を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C3およびブレーキB2を解放させることにより形成される。
前進第6速段は、クラッチC1,C4およびブレーキB1を係合させるとともに、残余のクラッチC2,C3およびブレーキB2を解放させることにより形成される。
前進第7速段は、クラッチC1,C3およびC4を係合させるとともに、残余のクラッチC2,ブレーキB1およびB2を解放させることにより形成される。
前進第8速段は、クラッチC3,C4およびブレーキB1を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C2およびブレーキB2を解放させることにより形成される。
前進第9速段は、クラッチC1,C3およびブレーキB1を係合させるとともに、残余のクラッチC2,C4およびブレーキB2を解放させることにより形成される。
前進第10速段は、クラッチC2,C3およびブレーキB1を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C4およびブレーキB2を解放させることにより形成される。
後進段は、クラッチC2,C3およびブレーキB2を係合させるとともに、残余のクラッチC1,C4およびブレーキB1を解放させることにより形成される。
上述のように、自動変速機14によれば、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の係脱により第1速段から第10速段までの前進段と後進段とを提供することが可能となる。この結果、自動変速機14では、スプレッドをより大きくして、特に高車速時の車両の燃費や各変速段での加速性能を向上させるとともに、ステップ比を適正化(より大きくなるのを防止)して変速フィーリングを向上させることができる。従って、自動変速機14によれば、車両の燃費とドライバビリティーとの双方を良好に向上させることができる。
また、自動変速機14では、6つの係合要素、すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2のうち、何れか3つを係合させるとともに残余の3つを解放させることにより前進第1速段から前進第10速段および後進段が形成される。これにより、例えば6つのクラッチやブレーキのうちの2つを係合させるとともに残余の4つを解放させることにより複数の変速段を形成する変速機に比べて、変速段の形成に伴って解放される係合要素の数を減らすことが可能となる。この結果、変速段の形成に伴って解放された係合要素における部材間の僅かな接触に起因した引き摺り損失を低減させて、自動変速機14における動力の伝達効率をより一層向上させることができる。
さらに、自動変速機14では、ラビニヨ式遊星歯車機構32の第3キャリヤ34c(入力要素)と同様に、第1遊星歯車28の第1キャリヤ28c(第2回転要素)が中間軸12mを介して入力軸12iに常時連結され、前進第4速段から前進第8速段の形成時に、第1遊星歯車28の第1リングギヤ28r(第3回転要素)がクラッチC4により出力軸12o(第2遊星歯車30の第2キャリヤ30c)に接続される。これにより、例えば第1遊星歯車の第1リングギヤ(第3回転要素)が第2遊星歯車の第2キャリヤ(第5回転要素)と共に出力軸に常時連結され、かつ第1遊星歯車の第1キャリヤ(第2回転要素)が入力軸に選択的に接続される変速機において第1キャリヤ(第2回転要素)と入力軸とを選択的に接続させるクラッチに比べて、クラッチC4のトルク分担を低減させることができる。
すなわち、第1遊星歯車28の第1キャリヤ28cを入力軸12iに常時連結される第2回転要素とすると共に、第1遊星歯車28の第1リングギヤ28rをクラッチC4により出力軸12oに選択的に接続される第3回転要素とすることで、例えば第1遊星歯車の第1リングギヤが第2遊星歯車22の第2キャリヤと共に出力軸に常時連結されると共に第1遊星歯車の第1キャリヤが入力軸に選択的に接続される変速機において第1キャリヤと入力軸とを選択的に接続させるクラッチに比べて、係合したクラッチC4を介して伝達されるトルクを低下させることができる。従って、本実施形態の自動変速機14では、クラッチC4のトルク分担を良好に低減させることが可能となる。この結果、自動変速機14では、クラッチC4を軸方向および径方向の少なくとも何れか一方においてコンパクト化することができる。従って、自動変速機14によれば、動力の伝達効率とドライバビリティーとの双方を向上させると共に、装置全体の大型化を防止または低減することが可能となる。
また、第1遊星歯車28および第2遊星歯車30をシングルピニオン式の遊星歯車とすることで、両者を例えばダブルピニオン式の遊星歯車とする場合に比べて、第1遊星歯車28および第2遊星歯車30における回転要素間の噛み合い損失を低減させることができる。その結果、自動変速機14における動力の伝達効率をより向上させると共に、部品点数を削減して装置全体の重量増を防止または低減しつつ組立性を向上させることが可能となる。さらに、本実施形態の自動変速機14のように、ダブルピニオン式の第3遊星歯車とシングルピニオン式の第4遊星歯車とを組み合わせて構成される複合遊星歯車列であるラビニヨ式遊星歯車機構32を採用することで、部品点数を削減して装置全体の重量増を防止または低減しつつ組立性を向上させることが可能となる。
次に、キャリヤが回転するときに発生する遠心力の影響を受けにくいピニオンシャフトとキャリヤとの固定構造をラビニヨ式遊星歯車機構32を用いて説明する。図3は、ラビニヨ式遊星歯車機構32において、主として、第3ピニオンギヤ34p、第4ピニオンギヤ36p、第3キャリヤ34cの関係を示す部分断面図である。なお、入力軸12i、第3リングギヤ34r、第3サンギヤ34s、第4サンギヤ36sは、二点鎖線で示している。図4は、ラビニヨ式遊星歯車機構32を構成する第3キャリヤ34cを発進装置18側(図1参照)から見た斜視図であり、図5は、第3キャリヤ34cを第2遊星歯車30側(図1参照)から見た斜視図である。
上述したように、ラビニヨ式遊星歯車機構32は、第3サンギヤ34sおよび第4サンギヤ36sと、第3リングギヤ34rと、第3ピニオンギヤ34p(第二のピニオンギヤ)、第4ピニオンギヤ36p(第一のピニオンギヤ)、第3キャリヤ34cを有する。第3ピニオンギヤ34pは、第3サンギヤ34sと第4ピニオンギヤ36pとの間に等間隔で複数個配置され(例えば4個)、それぞれの第3ピニオンギヤ34pが第3サンギヤ34sと噛合する。また、第4ピニオンギヤ36pは、第4サンギヤ36sおよび複数の第3ピニオンギヤ34pと噛合するとともに第3リングギヤ34rと噛合する。この場合、第4ピニオンギヤ36pは、第3ピニオンギヤ34pより外側に位置する(第一のピニオンギヤより第二のピニオンギヤが内側に位置する)。第4ピニオンギヤ36pは、第3ピニオンギヤ34pと同数の4個が等間隔で配置されている。なお、第4ピニオンギヤ36pの長さ、つまり、第4サンギヤ36sの軸方向に沿った第一の長さは、第3ピニオンギヤ34pの軸方向の第二の長さよりも長い。したがって、本実施形態において、第4ピニオンギヤ36pを「ロングピニオンギヤ」と称し、第3ピニオンギヤ34pを「ショートピニオンギヤ」と称する場合がある。
第3キャリヤ34cは、図3〜図5に示すように、例えば、アルミ鋳造などによって略円筒形状に形成されている。大型部品である第3キャリヤ34cをアルミ製とすることでラビニヨ式遊星歯車機構32の軽量化に寄与できる。第3キャリヤ34cは、主として本体支持部340と、第1シャフト支持部341(第一のシャフト支持部)と、第2シャフト支持部342と、第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)とで構成されている。本体支持部340は、図4、図5に示すように、内周側にセレーション340aが形成され、入力軸12iが圧入されることにより常時連結(固定)されている。図3に示すように、第1シャフト支持部341は、第4ピニオンギヤ36p(ロングピニオンギヤ)を回転可能に支持するロングピニオンシャフト36ps(第一のピニオンシャフト)の一端側を支持する。第2シャフト支持部342は、第3ピニオンギヤ34p(ショートピニオンギヤ)を回転可能に支持するショートピニオンシャフト34psの一端側を支持する。第3シャフト支持部343は、ロングピニオンシャフト36psの他端側およびショートピニオンシャフト34psの他端側を支持する。本実施形態の場合、第3キャリヤ34cは、4本のショートピニオンシャフト34psと、4本のロングピニオンシャフト36psとを支持する。
前述したように、第3ピニオンギヤ34pを回転可能に支持するショートピニオンシャフト34psおよび第4ピニオンギヤ36pを回転可能に支持するロングピニオンシャフト36psは、第3キャリヤ34cに固定用のピンを用いて固定される。
まず、第4ピニオンギヤ36p、すなわちロングピニオンシャフト36psの組み付け構造について説明する。第3キャリヤ34cは、図4に示すように、第1シャフト支持部341に挿入穴38aが四つ設けられ、図5に示すように、第3シャフト支持部343に挿入穴38bが設けられている。図3に示すように、挿入穴38a(第1シャフト支持部341、第一のシャフト支持部)は、ロングピニオンシャフト36psの一端側を支持し、挿入穴38b(第3シャフト支持部343、第二のシャフト支持部)はロングピニオンシャフト36psの他端側を支持する。
本実施形態の場合、図3に示すように、ロングピニオンシャフト36psにおいて、例えば挿入穴38aに挿入される部分には、ロングピニオンシャフト36psの径方向の中心に向かって延びる有底の第一の固定孔40が設けられている。一方、第1シャフト支持部341には、挿入穴38aと当該挿入穴38aよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の内側に位置された開口部341aとの間で貫通した第二の固定孔42が形成されている。つまり、第1シャフト支持部341には、ロングピニオンシャフト36ps(第一のピニオンシャフト)より内径側に第二の固定孔42が設けられている。ロングピニオンシャフト36psを挿入穴38aの中で回転させて位置合わせすることにより、第一の固定孔40と第二の固定孔42とを連通させることができる。そして、連通させた第一の固定孔40と第二の固定孔42とを跨ぐようにピン44を挿入して、当該ピン44を第二の固定孔42(第3キャリヤ34c)に対してかしめることにより、第3キャリヤ34c(第1シャフト支持部341)に対して、ロングピニオンシャフト36psの軸方向の抜け防止や軸周りの回転防止を行うように固定できる。なお、ロングピニオンシャフト36psの他端側は、挿入穴38bに例えば圧入することで支持される。
ところで、第3キャリヤ34cのロングピニオンシャフト36psの支持部分(挿入穴38a,38b)には、当該の第3キャリヤ34cの回転(第4ピニオンギヤ36pの公転)により遠心力が作用する。この場合、ロングピニオンシャフト36psの支持部分には、第4ピニオンギヤ36pおよびロングピニオンシャフト36psとの質量の和と、第4ピニオンギヤ36pの回転中心(ロングピニオンシャフト36psの回転中心)と第3キャリヤ34cの回転中心(第4サンギヤ36sの回転中心)との間の距離と、第3キャリヤ34cの角速度の二乗と、の積で定まる遠心力が働く。この遠心力は、ロングピニオンシャフト36psを第3キャリヤ34cの外周方向に飛び出させようとする。つまり、遠心力は、挿入穴38aよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の外側に作用する。一方、本実施形態の場合、第二の固定孔42は、ロングピニオンシャフト36psが挿入される挿入穴38aよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の内側に位置する。すなわち、第二の固定孔42が設けられたことで他の部分より剛性が低くなりがちな部分に遠心力が作用しにくくすることができる。つまり、第二の固定孔40が設けられた部分に遠心力に起因する応力集中が生じることを低減できる。その結果、第二の固定孔42を設けた部分の補強(肉厚化)や第3キャリヤ34cの材質の見直し(より硬い材質の使用)の要求が軽減される。そして、第3キャリヤ34cの大型化や重量増加の防止または低減、設計の自由度の向上に寄与できる。
また、本実施形態の第二の固定孔42に挿入されたピン44に第3キャリヤ34cの回転(第4ピニオンギヤ36pの公転)による遠心力が作用した場合、ピン44は、第二の固定孔42および第一の固定孔40に進入する方向の力を受ける。つまり、ピン44が第二の固定孔42および第一の固定孔40から抜けるような方向の力が作用しないので、ピン44による第3キャリヤ34cとロングピニオンシャフト36psとの固定品質や信頼性の向上に寄与できる。
ところで、第4ピニオンギヤ36pは、回転時の潤滑性を維持向上するため、潤滑油を歯面に供給されることが望ましい。本実施形態の場合、ロングピニオンシャフト36psにおいて、例えば挿入穴38bに挿入される部分には、ロングピニオンシャフト36psの径方向の中心に向かって延びる有底の第一の潤滑油路46(第一の油路)が設けられている。一方、第3シャフト支持部343には、図3、図5に示すように、第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)には、挿入穴38bと当該挿入穴38bよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の内側に位置された開口部343aとの間で貫通した第二の潤滑油路48(第二の油路)が形成されている。この第一の潤滑油路46と第二の潤滑油路48とは、第一の固定孔40と第二の固定孔42とが連通した状態のときに連通するように設けられている。つまり、第3キャリヤ34cの第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)には、第一の潤滑油路46と連通した第二の潤滑油路48が、径方向の内側に延びて(開口して)設けられている。また、第一の潤滑油路46は、ロングピニオンシャフト36psの内部で軸方向に延びる第三の潤滑油路50と連通している。第三の潤滑油路50には、ロングピニオンシャフト36psの径方向外側に向かって延びて外周面に開口する第四の潤滑油路52が接続されている。第四の潤滑油路52は、ロングピニオンシャフト36psがピン44によって第3キャリヤ34cに固定されたときに、開口が第3キャリヤ34cの外周側に向くように設定されている。つまり、第3キャリヤ34cが回転したときに、遠心力により潤滑油が押し出されるようになっている。なお、ロングピニオンシャフト36psにおいて、第三の潤滑油路50の他端側(第一の固定孔40の形成側)には、プラグ54が装着され、第三の潤滑油路50を一方端で閉塞している。
第二の潤滑油路48には、図示を省略した潤滑油供給装置から潤滑油が供給されている。第二の潤滑油路48に供給された潤滑油は、第3キャリヤ34cの回転により発生する遠心力によって、第一の潤滑油路46に送り込まれ、さらに第三の潤滑油路50に移動させられる。続いて、潤滑油は、遠心力により第三の潤滑油路50から第四の潤滑油路52を介して第4ピニオンギヤ36pの歯面に供給され、第3リングギヤ34rや第4サンギヤ36sとの噛合部分の潤滑性の向上や摩擦の軽減等に利用される。
図3に示すように、第二の潤滑油路48は、第4ピニオンギヤ36pを介して第二の固定孔42の反対側に位置されている。つまり、第二の固定孔42は、第二の潤滑油路48と干渉しない位置に設けられている。その結果、設計の自由度が向上するとともに、第二の固定孔42や第二の潤滑油路48の加工容易性が向上する。また、第二の潤滑油路48は第二の固定孔42と同様に、第3キャリヤ34cの挿入穴38bより第3キャリヤ34cの回転中心の径方向内側の位置に設けられている。その結果、第二の潤滑油路48が設けられたことで他の部分より剛性が低くなりがちな部分に遠心力が作用しにくくすることができる。つまり、第二の潤滑油路48が設けられた部分に遠心力に起因する応力集中が生じることを低減できる。その結果、第二の潤滑油路48を設けた部分の補強(肉厚化)や第3キャリヤ34cの材質の見直し(より硬い材質の使用)の要求が軽減される。そして、第3キャリヤ34c大型化や重量増加の防止または低減、設計の自由度の向上に寄与できる。
なお、図3の場合、第1シャフト支持部341に第二の固定孔42を設け、第3シャフト支持部343に第二の潤滑油路48を設けた例を示した。別の実施形態では、第二の潤滑油路48が第1シャフト支持部341に設けられ、第二の固定孔42が第3シャフト支持部343に設けられてもよい。この場合、第一の固定孔40と第一の潤滑油路46の形成位置も逆になる。つまり、第二の固定孔42と第二の潤滑油路48とは離れた位置に設けられればよく、第二の固定孔42と第二の潤滑油路48の形成位置は、他の部品との位置関係に応じて適宜選択することが可能で、第3キャリヤ34cの回転時の遠心力の影響の軽減と潤滑性の向上を両立させることができる。
次に、第3ピニオンギヤ34p、すなわちショートピニオンシャフト34psの組み付け構造について説明する。第3キャリヤ34cは、図4に示すように、第2シャフト支持部342に挿入穴56aが四つ(一つのみ図示)設けられ、第3シャフト支持部343に挿入穴56bが設けられている。図3に示すように、挿入穴56aは、ショートピニオンシャフト34psの一端側を支持し、挿入穴56bはショートピニオンシャフト34psの他端側を支持する。
ところで、第3キャリヤ34cの回転(第3ピニオンギヤ34pの公転)によりショートピニオンシャフト34psを支持する部分(挿入穴56a,56b)にも遠心力が作用する。この場合、ショートピニオンシャフト34psの支持部分には、第3ピニオンギヤ34pおよびショートピニオンシャフト34psとの質量の和と、第3キャリヤ34cの回転中心(第3サンギヤ34sの回転中心)と第3ピニオンギヤ34p(ショートピニオンシャフト34ps)の回転中心との間の距離と、第3キャリヤ34cの角速度の二乗と、の積で定まる遠心力が働く。この遠心力は、ショートピニオンシャフト34psを第3キャリヤ34cの外周方向に飛び出させようとする。つまり、遠心力は、挿入穴56bよりも第3サンギヤ34sの回転中心の径方向の外側に作用する。
前述したように、第4ピニオンギヤ36p(第一のピニオンギヤ)の第3キャリヤ34c(第4サンギヤ36s)の回転中心の軸方向の第一の長さは、第3ピニオンギヤ34p(第二のピニオンギヤ)の第3サンギヤ34s(第4サンギヤ36sと第3サンギヤ34sとは同軸配置)の軸方向の第二の長さよりも長い。この場合、図3に示されるように、ロングピニオンシャフト36psに支持される第4ピニオンギヤ36pは、ショートピニオンシャフト34psに支持される第3ピニオンギヤ34pより体積が大きくなり、材質が同じ場合は質量も大きくなる。また、第4ピニオンギヤ36pは、第3ピニオンギヤ34pより回転中心(第3キャリヤ34c、第4サンギヤ36s、第3サンギヤ34sの回転中心)から遠い外側に配置されるので、回転中心からの距離は、第4ピニオンギヤ36pの方が長い。また、第3キャリヤ34cが回転する場合、第3ピニオンギヤ34pとショートピニオンシャフト34psにおける角速度と、第4ピニオンギヤ36pとロングピニオンシャフト36psにおける角速度とは同じである。その結果、第4ピニオンギヤ36p(第一のピニオンギヤ)およびロングピニオンシャフト36ps(第一のピニオンシャフト)の質量の和と、第4ピニオンギヤ36pの回転中心と第3キャリヤ34cの回転中心との間の距離との第一の積は、第3ピニオンギヤ34p(第二のピニオンギヤ)およびショートピニオンシャフト34ps(第二のピニオンシャフト)の質量の和と、第3ピニオンギヤ34pの回転中心と第3キャリヤ34cの回転中心との間の距離との第二の積よりも大きくなる。したがって、第3キャリヤ34cの回転時に遠心力によって生じる力を、ロングピニオンシャフト36psの支持部分とショートピニオンシャフト34psの支持部分とで比較した場合、ショートピニオンシャフト34psの支持部分の方が小さくなる。つまり、第3キャリヤ34cにおいて、ショートピニオンシャフト34psの支持部分に求められる剛性は、ロングピニオンシャフト36psの支持部分に求められる剛性より小さくなる。
そこで、本実施形態の場合、ショートピニオンシャフト34psにおいて、例えば挿入穴38bに挿入される部分には、当該ショートピニオンシャフト34psの径方向の中心に向かって延びる有底の第三の固定孔58が設けられている。一方、第3シャフト支持部343には、挿入穴56bと第3シャフト支持部343の外面(第3キャリヤ34cの外面)との間で貫通した第四の固定孔60が形成されている。そして、ショートピニオンシャフト34psを挿入穴56bの中で回転させて位置合わせすることにより、第三の固定孔58と第四の固定孔60とを連通させる。そして、連通させた第三の固定孔58と第四の固定孔60とを跨ぐようにピン62を挿入して、当該ピン62を第四の固定孔60(第3キャリヤ34c)に対してかしめることにより、第3キャリヤ34c(第3シャフト支持部343)に対して、ショートピニオンシャフト34psの軸方向の抜け防止や軸周りの回転防止を行うように固定できる。なお、ショートピニオンシャフト34psの他端側は、挿入穴56aに例えば圧入することで支持される。
なお、第3ピニオンギヤ34pも第4ピニオンギヤ36pと同様に、回転時の潤滑性を維持向上するため、潤滑油を歯面に供給されることが望ましい。本実施形態の場合、ショートピニオンシャフト34psにおいて、例えば挿入穴56bに挿入される部分には、ショートピニオンシャフト34psの径方向の中心に向かって延びる有底の第五の潤滑油路64(第三の油路)が設けられている。一方、第3シャフト支持部343には、挿入穴58bと開口部343aとの間で貫通した第六の潤滑油路66(第四の油路)が形成されている。この第五の潤滑油路64と第六の潤滑油路66とは、第三の固定孔58と第四の固定孔60とが連通した状態のときに連通するように設けられている。つまり、第3キャリヤ34cの第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)には、第五の潤滑油路64と連通した第六の潤滑油路66が、径方向の内側に延びて(開口して)設けられている。また、第五の潤滑油路64は、ショートピニオンシャフト34psの内部で軸方向に延びる第七の潤滑油路68と連通している。第七の潤滑油路68には、ショートピニオンシャフト34psの径方向外側に向かって延びて外周面に開口する第八の潤滑油路70が接続されている。第八の潤滑油路70は、ショートピニオンシャフト34psがピン62によって第3キャリヤ34cに固定されたときに、開口が第3キャリヤ34cの外周側に向くように設定されている。つまり、第3キャリヤ34cが回転したときに、遠心力により潤滑油が押し出されるようになっている。なお、ショートピニオンシャフト34psにおいて、第七の潤滑油路68の他端側(第三の固定孔58の形成側とは逆側)には、プラグ72が装着され、第七の潤滑油路68を一方端で閉塞している。
第六の潤滑油路66には、図示を省略した潤滑油供給装置から潤滑油が供給されている。第六の潤滑油路66に供給された潤滑油は、第3キャリヤ34cの回転により発生する遠心力によって、第五の潤滑油路64に送り込まれ、さらに第七の潤滑油路68に移動させられる。続いて、潤滑油は、遠心力により第七の潤滑油路68から第八の潤滑油路70を介して第3ピニオンギヤ34pの歯面に供給され、第3サンギヤ34sや第4ピニオンギヤ36pとの噛合部分の潤滑性の向上や摩擦の軽減等に利用される。
図3に示すように、第六の潤滑油路66は、ショートピニオンシャフト34psに対して、第三の固定孔58と同じ側に形成することができる。そこで、例えば、ショートピニオンシャフト34psに対して、第七の潤滑油路68と連通するような径方向に延びる貫通孔を設ける。そして、この貫通孔の一方の開口と第四の固定孔60とを連通させて、ピン62を挿入する。この場合、ピン62がショートピニオンシャフト34psを第3キャリヤ34c(第3シャフト支持部343)に固定する部材となるととともに、貫通孔の一方の開口を塞ぐプラグとして機能し、油路の一部(壁面の一部)を構成する部材となる。この場合、ショートピニオンシャフト34psに対して、第三の固定孔58と第五の潤滑油路64とを別々に設ける場合に比べて、加工工数を低減することができる。
上述のように、第四の固定孔60は、ショートピニオンシャフト34psが挿入される挿入穴56bよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の外側、つまり、第3シャフト支持部343の外面側に位置する。この場合、第三の固定孔58と第四の固定孔60との位置合わせ作業やピン62の挿入作業、かしめ作業を行うとき、作業位置を目視し易くなり、作業効率を向上させた設計とすることができる。
このように、第3キャリヤ34cが支持するピニオンギヤの特徴(質量や支持位置等)に応じて、ピン44やピン62の打ち込み位置を決定することにより、遠心力対策重視の設計にするか作業性(加工性や組立性等)を重視した設計にするかを選択可能となり、設計の自由度向上に寄与できる。
なお、本実施形態では、ロングピニオンシャフト36psを第3キャリヤ34cに固定するための第二の固定孔42を、挿入穴38aとこの挿入穴38aよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の内側に位置された開口部341aとの間で貫通し第一の固定孔40と連なるように形成した。別の実施形態において、同様な構成を第3ピニオンギヤ34pのショートピニオンシャフト34psに対して適用してもよく、遠心力による影響を受けにくいショートピニオンシャフト34psと第3キャリヤ34cとの固定構造を得ることができる。
また、上述した説明では、ピニオンシャフトの固定構造を適用する遊星歯車装置の一例としてラビニヨ式遊星歯車機構32を例示したが、例えば、第1遊星歯車28や第2遊星歯車30のようなシングルピニオン式の遊星歯車装置に適用してもよい。この場合も、キャリヤの回転時に発生する遠心力による影響を受けにくいピニオンシャフトとキャリヤとの固定構造を得ることができる。また、サンギヤとリングギヤの間にピニオンギヤが2段で入るダブルピニオン式の遊星歯車装置に適用してもよい。この場合は、ラビニヨ式遊星歯車機構32の例と同様に、ピニオンギヤとピニオンシャフトの質量の和と、回転中心までの距離との積が大きい方のピニオンシャフトに本実施形態の固定構造を適用してもよいし、両方のピニオンシャフトに適用してもよい。
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の遊星歯車装置は、第4サンギヤ36s(サンギヤ)と、当該第4サンギヤ36sの径方向の外側に設けられた第3リングギヤ34rと、第4サンギヤ36sと第3リングギヤ34rとの間に設けられ、第4サンギヤ36sと第3リングギヤ34rとの間で回転を伝達する第4ピニオンギヤ36p(第一のピニオンギヤ)と、第4ピニオンギヤ36pに挿通されるロングピニオンシャフト36ps(第一のピニオンシャフト)の一端を支持する第1シャフト支持部341(第一のシャフト支持部)と、ロングピニオンシャフト36psの他端を支持する第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)からなる第3キャリヤ34c(キャリヤ)と、を備え、ロングピニオンシャフト36psには、第一の固定孔40が設けられ、第1シャフト支持部341には、ロングピニオンシャフト36psより内径側に第二の固定孔42が設けられ、第一の固定孔40および第二の固定孔42に挿入された状態で、ロングピニオンシャフト36psと第3キャリヤ34cとを固定したピン44を備える。
この構成によれば、ロングピニオンシャフト36psに設けられた第一の固定孔40と連なる第3キャリヤ34cに設けられた第二の固定孔42は、ロングピニオンシャフト36psが挿入される挿入穴38aよりも第3キャリヤ34cの回転中心の径方向の内側に位置する。この場合、第3キャリヤ34cが回転することで発生する遠心力が作用する部分、つまり第1シャフト支持部341と第3シャフト支持部343のロングピニオンシャフト36psより外径側の部分と、ロングピニオンシャフト36psを固定するために設けた第二の固定孔42の位置とが異なるので、第1シャフト支持部341と第3シャフト支持部343のロングピニオンシャフト36psより外径側の部分に応力が集中することを防止または低減できる。その結果、第3キャリヤ34cの剛性を増加させるような対策の必要性が低減される。
また、第3サンギヤ34sと第3リングギヤ34rとの間に設けられ、第3サンギヤ34sと第3リングギヤ34rとの間で回転を伝達し、第4ピニオンギヤ36pと噛み合う第3ピニオンギヤ34p(第二のピニオンギヤ)と、第3ピニオンギヤ34pを回転可能に支持し、第3キャリヤ34cに支持されたショートピニオンシャフト34psと、を備え、第4ピニオンギヤ36pおよびロングピニオンシャフト36psの質量の和と、第4ピニオンギヤ36pの回転中心とキャリヤの回転中心との間の距離との第一の積は、第3ピニオンギヤ34pおよびショートピニオンシャフト34psの質量の和と、第3ピニオンギヤ34pの回転中心と第3キャリヤ34cの回転中心との間の距離との第二の積よりも大きくてもよい。この構成によれば、第3キャリヤ34cの回転によって生じる遠心力がより強く作用する構成部材に対して本実施形態の固定構造を適用できる。その結果、遠心力の影響を考慮した適切な設計が容易にできるとともに設計の自由度を向上させることができる。
また、第4ピニオンギヤ36p(第一のピニオンギヤ)の径方向の内側に設けられ、第4サンギヤ36sと第4ピニオンギヤ36pとの間で回転を伝達する第3ピニオンギヤ34p(第二のピニオンギヤ)と、第3ピニオンギヤ34pを回転可能に支持し、第3キャリヤ34cに支持されたショートピニオンシャフト34ps(第二のピニオンシャフト)と、を備え、第4ピニオンギヤ36pの軸方向の第一の長さは、第3ピニオンギヤ34pの軸方向の第二の長さよりも長くしてもよい。この構成によれば、長さの異なる複数種類のピニオンギヤが存在する場合に、どのピニオンシャフトに本実施形態の固定構造の適用を適用してよいか容易に決定可能となり、遠心力の影響を考慮した適切な設計が容易にできるとともに設計の自由度を向上させることができる。
また、ロングピニオンシャフト36psには、第一の潤滑油路46(第一の油路)が設けられ、第3シャフト支持部343(第二のシャフト支持部)には、第一の潤滑油路46と連通した第二の潤滑油路48(第二の油路)が径方向の内側に延びて設けられてもよい。この構成によれば、第二の固定孔42は、第二の潤滑油路48と干渉しない位置に設けられている。その結果、設計の自由度が向上するとともに、第二の固定孔42や第二の潤滑油路48の加工容易性が向上する。
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各例の構成や形状は、部分的に入れ替えて実施することも可能である。また、各構成や形状等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、高さ、数、配置、位置等)は、適宜に変更して実施することができる。