JP2017180738A - 内燃機関のバランサ装置 - Google Patents

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洋介 江口
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Abstract

【課題】内燃機関の振動低減の性能向上を図る。
【解決手段】内燃機関のバランサ装置は、クランク軸16と同方向に回転する駆動歯車39と、駆動歯車39の回転動力を伝達する動力伝達機構48と、動力伝達機構48から動力を受けてクランク軸16とは逆方向に回転する被動歯車50と、被動歯車50に設けられるバランサウェイト54とを備え、動力伝達機構48は、外周に設けられた歯車部67を介して内燃機関の始動モータ60との間で動力伝達を行うキャリア部材40と、キャリア部材40によって回転可能に軸支され、駆動歯車39及び被動歯車50と噛み合うかさ歯車45とを備え、キャリア部材40は突起部70を有し、突起部70を検出する第1のセンサ71、第2のセンサ及び第3のセンサを備え、これらのセンサによる検出に基づいて始動モータ60によってキャリア部材40を任意の位置に回転させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、内燃機関のバランサ装置に関する。
一般に、エンジンなどの内燃機関においては、ピストンの往復運動により振動が発生することが知られている。このような内燃機関において、振動を低減させるために、バランサ装置を搭載したものが多く用いられている。
このようなバランサ装置として、内燃機関の運転時に、クランク軸の回転方向と逆方向に回転するバランサウェイトをクランク軸と同軸上に配置したものがある。
このような従来の技術として、例えば、クランク軸の回転をドライブギアとドリブンギアで逆転させた後、チェーン駆動機構を介してクランク軸上のバランサ歯車に回転方向を変えずに動力を伝達するものが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、その他の技術として、例えば、クランク軸の回転をドライブギアとドリブンギアとで逆転させた後、アイドルギアを介してクランク軸上のバランサ歯車に動力を伝達するものが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
実公昭50−032641号公報 特開2006−214551号公報
しかしながら、従来の構成では、いずれの技術においても、バランサウェイトの回転方向がクランク軸の回転方向に対して逆方向になるように動力伝達機構を設ける必要があるため、部品点数の増加や軸部材の追加による内燃機関の大型化を招くとともに、レイアウトの自由度が制限されてしまうという問題を有している。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、内燃機関の小型化やレイアウトの自由度を確保するとともに、内燃機関の振動低減の性能向上を図ることのできる内燃機関のバランサ装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、クランク軸(16)のクランクピン(16c)及びカウンタウェイト(16d)を収容するクランク室(13c)を有するクランクケース(11)と、前記クランク軸(16)の回転方向とは逆方向に回転するバランサウェイト(54)とを備えた内燃機関のバランサ装置において、前記バランサ装置は、前記クランク軸(16)と連結されて当該クランク軸(16)と同方向に回転する駆動歯車(39)と、前記駆動歯車(39)の回転動力を伝達する動力伝達機構(48)と、前記動力伝達機構(48)から動力を受けて前記クランク軸(16)とは逆方向に回転する被動歯車(50)と、前記被動歯車(50)に設けられるバランサウェイト(54)とを備え、前記動力伝達機構(48)は、外周に設けられた歯車部(67)を介して前記内燃機関の始動モータ(60)との間で動力伝達を行うキャリア部材(40)と、当該キャリア部材(40)によって回転可能に軸支され、前記駆動歯車(39)及び前記被動歯車(50)と噛み合うかさ歯車(45)と、前記キャリア部材(40)と前記駆動歯車(39)との間に介装される一方向クラッチ(68)とを備え、前記キャリア部材(40)は突起部(70)を有し、前記突起部(70)を検出するセンサ(71,72,73)を複数備え、前記センサ(71,72,73)による検出に基づいて前記始動モータ(60)によって前記キャリア部材(40)を任意の位置に回転させることを特徴とする。
本発明によれば、内燃機関のバランサ装置は、駆動歯車の回転動力をかさ歯車によって被動歯車に伝達する動力伝達機構を備え、かさ歯車を支持するキャリア部材は突起部を有し、突起部を検出するセンサを複数備え、センサによる検出に基づいて始動モータによってキャリア部材を任意の位置に回転させる。これにより、キャリア部材によって回転可能に軸支されるかさ歯車によって駆動歯車の回転を被動歯車に伝達し、被動歯車のバランサウェイトをクランク軸に対して逆回転させることができるため、コンパクトな構造で振動を低減できる。このため、内燃機関の小型化やレイアウトの自由度を確保することができる。また、キャリア部材の突起部を検出する複数のセンサによる検出に基づいて始動モータによってキャリア部材を任意の位置に回転させるため、始動モータによってキャリア部材を回転させることで、バランサウェイトの位相を任意の位相に調節できる。このため、効果的に振動を低減できる。
また、本発明は、前記被動歯車(50)の回転速度は、前記クランク軸(16)の回転速度と同速度であることを特徴とする。
本発明によれば、被動歯車の回転速度は、クランク軸の回転速度と同速度であるため、バランサウェイトを被動歯車に設けてクランク軸の振動を低減することができる。
また、本発明は、複数の前記センサ(71,72,73)は、前記キャリア部材(40)の90°までの位相の変化を検知できるように配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、複数のセンサは、キャリア部材の90°までの位相の変化を検知できるように配置されているため、バランサウェイトの位相を180°までの範囲で変更できる。このため、振動を調節可能な範囲を大きくできる。
さらに、本発明は、複数の前記センサ(71,72,73)は、前記クランクケース(11)に設けられ、側面視において、前記クランク軸(16)の軸線(16e)よりも下方に配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、複数のセンサは、クランクケースに設けられ、側面視において、クランク軸の軸線よりも下方に配置されているため、雨水等が複数のセンサに影響することを抑制できる。
また、本発明は、前記始動モータ(60)の出力歯車(62)と前記キャリア部材(40)の前記歯車部(67)との間に減速歯車(65)を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、始動モータの出力歯車とキャリア部材の歯車部との間に減速歯車を備えたため、始動モータのトルクを減速歯車で増幅してキャリア部材に伝達し、キャリア部材を介して内燃機関を始動させることができる。また、キャリア部材から減速歯車を介して始動モータに回転を伝達する場合には、増速歯車として機能するため、キャリア部材から始動モータに伝達されるトルクを小さくできる。このため、始動モータが停止している状態では、始動モータの回転抵抗によってキャリア部材を固定しておくことができ、キャリア部材が支持するかさ歯車によって、被動歯車を逆回転させることができる。
また、本発明は、前記キャリア部材(40)は、両側面を貫通する窓部(43)を備え、前記かさ歯車(45)は、その歯部を前記窓部(43)に臨ませて配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、かさ歯車は、その歯部を窓部に臨ませて配置されているため、窓部を通るかさ歯車を介して駆動歯車と被動歯車とを噛み合わせることができる。
また、本発明は、前記駆動歯車(39)は、前記クランク軸(16)に連結されたフライホイール(33)の側面に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、駆動歯車は、クランク軸に連結されたフライホイールの側面に形成されているため、部品点数を削減でき、小型化を図ることができる。
さらに、本発明は、前記キャリア部材(40)は、半径方向内側に前記クランク軸(16)を収容する筒状部(41)を有し、前記筒状部(41)の半径方向外側に前記被動歯車(50)が配置され、前記筒状部(41)の端部にサークリップ(52)が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、キャリア部材の筒状部の半径方向外側に被動歯車が配置され、筒状部の端部にサークリップが設けられている。これにより、キャリア部材の筒状部の半径方向外側に配置される被動歯車をサークリップで固定でき、キャリア部材と被動歯車とを一つの組体として構成できる。このため、小型化及び組立性の向上を図ることができる。
また、本発明は、複数の前記センサ(71,72,73)は、前記バランサウェイト(54)によって最も振動を低減できる前記キャリア部材(40)の位相を検知する第1のセンサ(71)を備え、複数の前記センサ(71,72,73)の内の他のセンサ(73)が、前記第1のセンサ(71)を基準に90°離れた位相で配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、複数のセンサは、バランサウェイトによって最も振動を低減できるキャリア部材の位相を検知する第1のセンサを備え、複数のセンサの内の他のセンサが、第1のセンサを基準に90°離れた位相で配置されている。これにより、第1のセンサを基準に90°離れた位相に配置される他のセンサでは、バランサウェイトによって最も振動を大きくできるキャリア部材の位相を検知できる。
本発明に係る内燃機関のバランサ装置では、内燃機関の小型化やレイアウトの自由度を確保することができるとともに、バランサウェイトの位相を任意の位相に調節して効果的に振動を低減できる。
また、クランク軸の回転速度と同速度で回転する被動歯車にバランサウェイトを設けて振動を低減できる。
また、振動を調節可能な範囲を大きくできる。
さらに、雨水等が複数のセンサに影響することを抑制できる。
また、減速歯車を介して備えたため、始動モータで内燃機関を容易に始動させることができる。また、始動モータの回転抵抗によってキャリア部材を固定しておくことができる。
また、キャリア部材の窓部を通るかさ歯車を介して駆動歯車と被動歯車とを簡単な構造で噛み合わせることができる。
また、部品点数を削減でき、バランサ装置の小型化を図ることができる。
さらに、サークリップによってキャリア部材と被動歯車とを一つの組体として構成でき、組立性が良い。
また、センサによって、バランサウェイトによって最も振動を大きくできるキャリア部材の位相を検知できる。
本発明に係るバランサ装置を適用した内燃機関の概略断面図である。 駆動歯車側からキャリア部材を見た側面図である。 エンジンの始動時の動力伝達機構等の状態を示す断面図である。 エンジンの運転中おける動力伝達機構等の状態を示す断面図である。 エンジンの一次振動のバランス状態を示す図である。 キャリア部材が第2の任意の位相に位置する状態におけるエンジンの一次振動のバランス状態を示す図である。 キャリア部材が第3の任意の位相に位置する状態におけるエンジンの一次振動のバランス状態を示す図である。 バランサウェイトの位相と慣性力楕円との関係を示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係るバランサ装置を適用した内燃機関の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態における内燃機関であるエンジン10は、単気筒の4サイクル空冷エンジンである。エンジン10は、始動モータ60によって始動される。エンジン10は、例えば、自動二輪車等の鞍乗り型車両に搭載される。
エンジン10は、クランクケース11と、クランクケース11の上面から上方に延びるシリンダ部12(図2)とを備える。
クランクケース11は、内部にクランク軸16を収容するクランクケース本体13と、クランクケース本体13の側面に取り付けられるクランクケースカバー14とを備える。
クランクケース本体13は、クランク軸16の軸方向(車両の左右方向)に分割された一側クランクケース13aと他側クランクケース13bとを備え、左右2分割構造で形成されている。
クランクケース本体13の内部には、クランク室13cが形成されている。
クランクケース本体13は、一側クランクケース13a及び他側クランクケース13bに支持された左右一対の軸受15,15を備える。クランク軸16は、軸受15,15によって支持され、その軸心を車両進行方向と直交させて横向きに配置されている。
クランク軸16は、軸受15,15に支持されて回転中心となるクランクジャーナル16aと、クランクジャーナル16aよりも大径に形成されるクランクウェブ16bと、クランクウェブ16bを介して支持されるクランクピン16cとを備える。クランクウェブ16bは、クランクジャーナル16aを跨いでクランクピン16cの反対側の位置に、回転バランスをとるためのカウンタウェイト16dを備える。
クランクピン16c、クランクウェブ16b及びカウンタウェイト16dは、クランク室13c内に収容されており、左右の軸受15,15の間に配置されている。クランクジャーナル16aは、クランク室13cの外側に延出している。
シリンダ部12は、クランクケース11側から順に、シリンダブロック20(図2)、シリンダヘッド(不図示)、及び、シリンダヘッドカバー(不図示)を備える。上記シリンダヘッドの内部には、燃焼室(不図示)が形成されている。
シリンダブロック20の内部には、ピストン21(図5)が摺動自在に収容されている。ピストン21は、コンロッド22(図5)によってクランク軸16のクランクピン16cに連結されている。クランク軸16は、上記燃焼室における燃焼によるピストン21の往復運動がコンロッド22を介して伝達されることで回転駆動される。
また、クランク軸16には、スプロケット23が取り付けられており、このスプロケット23と上記ヘッドカバーの内部のカム軸に設けられたカム軸スプロケット(図示せず)との間には、カムチェーン24が掛け渡されている。カム軸は、カムチェーン24を介してクランク軸16によって駆動され、これにより、上記シリンダヘッドに設けられた吸排気バルブ(不図示)を動作させる動弁機構が駆動される。
クランクケースカバー14が一側クランクケース13aの側面に取り付けられることで、クランクケースカバー14とクランクケース本体13との間には、発電機室26が形成されている。
発電機室26には、クランク軸16の回転により発電する発電機30と、クランク軸16のフライホイール33とが収容されている。
フライホイール33は、キー32を介してクランク軸16の軸端部に固定されている。フライホイール33は、クランク軸16に嵌合して固定されるフランジ部37と、フランジ部37から径方向外側に延出する円板状の回転部38とを備える。フライホイール33は、クランク軸16と一体に回転する。
また、フライホイール33の回転部38における内側面、すなわちクランク室13c側の面には、環状に形成された駆動歯車39がフライホイール33と一体に設けられている。駆動歯車39は、クランク軸16の周囲を一周するように環状に配列された駆動側歯部39aを備える。駆動側歯部39aは、クランクケース本体13側に突出している。
発電機30は、フライホイール33の回転部38の外側面に固定された円筒状のロータ34と、ロータ34の内側に配置され、クランクケースカバー14に固定されたステータ36とを備える。
クランク軸16上においてフライホイール33とクランクケース本体13との間には、クランク軸16に対して相対回転可能な被動歯車50と、フライホイール33の駆動歯車39の回転動力を被動歯車50に伝達する動力伝達機構48とが配置されている。
動力伝達機構48は、クランク軸16に対して相対回転可能に設けられる円板状のキャリア部材40と、キャリア部材40によって支持される複数のかさ歯車45,45…と、キャリア部材40と駆動歯車39との間に介装される一方向クラッチ68とを備えて構成される。
図2は、駆動歯車39側からキャリア部材40を見た側面図である。図2では、駆動歯車39、フライホイール33及びクランクケースカバー14は不図示である。
図1及び図2を参照し、キャリア部材40は、クランク軸16の外周部に嵌合する筒状部41と、筒状部41から径方向外側に延出する円板部42とを一体に備える。
キャリア部材40の筒状部41は、一方向クラッチ68を介して駆動歯車39に接続されるクラッチ接続部41aと、被動歯車50を支持する被動歯車支持部41bとを備える。軸方向において、クラッチ接続部41aは、円板部42を挟んでフライホイール33側に設けられ、被動歯車支持部41bは、円板部42を挟んでクランクケース本体13側に設けられる。
また、筒状部41は、内周部に設けられるベアリング66を介してクランク軸16の外周部に支持されている。このため、キャリア部材40は、クランク軸16に対して相対回転自在である。
すなわち、キャリア部材40は、筒状部41の半径方向内側にクランク軸16を収容し、筒状部41の半径方向外側に被動歯車50を支持する。
キャリア部材40の円板部42には、円板部42の両側面を貫通する窓部43,43…が複数形成されている。窓部43,43…は、円板部42の外周部寄りに形成されているとともに、周方向に所定の間隔をあけて複数(本実施の形態では4カ所)形成されている。
また、円板部42において窓部43,43…の径方向外側の位置には、駆動歯車39側へ延びる支持部44,44…が形成されている。各支持部44の先端部には、クランク軸16に直交する姿勢でクランク軸16側へ延びる軸支部材44aが設けられている。
各かさ歯車45は、中心部を軸支部材44aに軸支され、軸支部材44aを中心に回転する。
キャリア部材40の円板部42の外周面には、始動モータ60側の動力が入力される歯車部67が全周に形成されている。
キャリア部材40は、円板部42の側面からフライホイール33側に突出する柱状の突起部70を1つ備える。突起部70は、クランク軸16と平行に延びている。突起部70は、円板部42の外周面の近傍に設けられており、クランク軸16の軸方向視では、径方向で歯車部67に略重なる位置に設けられている。突起部70はキャリア部材40と一体に回転する。
エンジン10は、突起部70を検知するセンサとして、第1のセンサ71と、第2のセンサ72と、第3のセンサ73とを備える。第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、キャリア部材40の外周面よりも径方向の外側においてクランクケースカバー14に固定されている。
第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、接触式のセンサであり、クランクケースカバー14に挿通される円柱状の本体部71a,72a,73aと、本体部71a,72a,73aの先端に設けられて突起部70に接触する検出部71b,72b,73bと、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73をエンジン10の制御部75に接続する配線部71c,72c,73cとをそれぞれ備える。
第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、検出部71b,72b,73bが突起部70の回転軌跡上に位置するように配置されている。
図2では、紙面の上方向がエンジン10の上方向であり、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、クランク軸16の軸線16eよりも下方に配置され、クランクケースカバー14の下面部14aに下方から差し込まれている。これにより、クランクケースカバー14の上部で雨を遮ることができるとともに、クランクケースカバー14の下面には雨水が溜まり難いため、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73の取り付け部に雨水等が入ることを抑制できる。
第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、図2のようにクランク軸16の軸方向視では、クランク軸16の回転中心を中心として放射状に配置されており、互いに周方向に所定の間隔をあけて配置されている。
詳細には、第2のセンサ72は、第1のセンサ71に対して45°の間隔をあけて設けられ、第3のセンサ73は、第2のセンサ72に対して45°の間隔をあけて設けられている。すなわち、第1のセンサ71と第3のセンサ73とは、クランク軸16の周方向に90°の間隔をあけて設けられている。
制御部75は、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73の検出結果に基づいて、キャリア部材40の回転の位相を検知する。
被動歯車50は、円板状に形成されており、中心部に設けられるベアリング51を介してキャリア部材40の被動歯車支持部41bの外周部に支持される。被動歯車50は、キャリア部材40に対して相対回転自在である。
被動歯車50は、キャリア部材40側の側面に、環状に配列された被動側歯部50aを備える。被動側歯部50aは、駆動歯車39の駆動側歯部39aに対向して設けられる。また、被動側歯部50aの歯数と駆動側歯部39aの歯数とは同一である。
被動歯車50のクランクケース本体13側の面の一部には、バランサウェイト54が一体に設けられている。
被動歯車50は、被動歯車支持部41bにおけるクランクケース本体13側の軸端に係合されるサークリップ52によって軸方向に位置決めされ、キャリア部材40に一体に組み付けられている。このように、キャリア部材40に被動歯車50を嵌合させてサークリップ52で被動歯車50を固定するため、キャリア部材40と被動歯車50とを1つのユニットとして組み付けておくことができる。このため、コンパクト化及び組立性の向上を図ることができる。
被動歯車50は、クランク軸16の軸方向に配列される駆動歯車39、キャリア部材40及び被動歯車50の内、最もクランクケース本体13側の位置に配置されている。
各かさ歯車45は、各窓部43に臨むように配置されており、駆動歯車39の駆動側歯部39aは、フライホイール33側から各かさ歯車45に噛み合う。また、各かさ歯車45は、各窓部43を通ってクランクケース本体13側に露出し、被動歯車50の被動側歯部50aに噛み合う。
クランク軸16の回転に伴って駆動歯車39が回転すると、駆動歯車39の回転は各かさ歯車45を介して被動歯車50に伝達され、被動歯車50は駆動歯車39の回転方向に対して逆向きに回転する。ここで、被動側歯部50aの歯数と駆動側歯部39aの歯数とは同一であるため、被動歯車50は、クランク軸16の回転に対して逆方向且つクランク軸16の回転速度と同速度で回転する。すなわち、クランク軸16の回転数と被動歯車50の回転数とは同一となる。
図1に示すように、エンジン10は、クランクケース11の近傍に配置される始動モータ60と、始動モータ60の回転を減速してキャリア部材40に伝達する減速部材63とを備える。
始動モータ60の出力軸61は、クランク軸16と平行に延び、出力軸61には、減速部材63に噛み合う出力歯車部62(出力歯車部)が設けられている。
減速部材63は、出力歯車部62に噛み合う入力歯車部64と、キャリア部材40の外周の歯車部67に噛み合う減速歯車部65(減速歯車)とを一体に備える。減速部材63を介して始動モータ60の回転を減速してキャリア部材40に伝達するため、クランク軸16に伝達されるトルクを大きくでき、エンジン10を容易に始動できる。
一方向クラッチ68は、キャリア部材40の筒状部41のクラッチ接続部41aと駆動歯車39の内周部の歯車側クラッチ接続部39bとの間に介装されるリング状に形成されている。
一方向クラッチ68は、キャリア部材40と駆動歯車39(フライホイール33)との間の回転(トルク)の伝達方向を一方向に制限するクラッチ機構である。
詳細には、一方向クラッチ68は、始動モータ60によってクランク軸16を回転させてエンジン10を始動する際に、始動モータ60の動力をキャリア部材40から駆動歯車39に伝達する回転方向では、クラッチが噛み合って回転(トルク)の伝達を可能とする。
また、一方向クラッチ68は、エンジン10の始動後に始動モータ60が停止する等の理由によりクランク軸16の回転速度がキャリア部材40の回転速度より速くなると、すなわち回転の伝達方向が上記のエンジン10の始動時とは反対になると、クラッチが滑り、回転(トルク)の伝達を切断する。このため、エンジン10の運転によって始動モータ60が回転させられることが防止される。
エンジン10の運転中に始動モータ60が停止した状態では、キャリア部材40は、減速部材63を介してキャリア部材40に伝達される始動モータ60の抵抗によって固定されており、回転しない。すなわち、エンジン10の運転中に始動モータ60が停止した状態では、キャリア部材40は固定されて回転せず、駆動歯車39はキャリア部材40に対して空回りする。
本実施の形態では、キャリア部材40から減速部材63を介して始動モータ60に回転を伝達する場合には、増速方向となり、キャリア部材40のトルクは減速部材63によって減ぜられて始動モータ60に伝わる。このため、停止した始動モータ60によってキャリア部材40を固定しておくことができる。
次に、エンジン10の始動時及び運転時における動力伝達機構48等の動作を説明する。
図3は、エンジン10の始動時の動力伝達機構48等の状態を示す断面図である。図3では、始動モータ60の回転によるトルクの伝達方向が矢印で図示されている。
図3を参照し、エンジン10を始動する際には、制御部75によって燃料の噴射量や点火時期が制御されるとともに、始動モータ60が駆動される。始動モータ60の回転は、減速部材63を介してキャリア部材40に伝達され、キャリア部材40から一方向クラッチ68を介して駆動歯車39(フライホイール33)に伝達され、クランク軸16が回転させられる。この状態では、一方向クラッチ68が噛み合ってキャリア部材40とフライホイール33とが一体に回転するため、かさ歯車45は回転しない。このため、エンジン10を始動する際には、通常、キャリア部材40、フライホイール33及び被動歯車50は一体に回転する。
図4は、エンジン10の運転中おける動力伝達機構48等の状態を示す断面図である。図4では、クランク軸16から被動歯車50へのトルクの伝達方向が矢印で図示されている。
図4を参照し、エンジン10が運転中で始動モータ60の駆動が停止されている状態では、キャリア部材40は、始動モータ60の回転抵抗によって回転を規制されており、回転しない。また、一方向クラッチ68が切断されるため、駆動歯車39からキャリア部材40には回転が伝達されず、駆動歯車39は、固定されたキャリア部材40に対して相対回転するだけである。
この状態では、クランク軸16の回転は、駆動歯車39及び各かさ歯車45を介して被動歯車50に伝達され、被動歯車50は、駆動歯車39及びクランク軸16に対して逆方向に回転する。すなわち、エンジン10の運転中には、被動歯車50は、クランク軸16と逆方向に且つクランク軸16の回転速度と同速度(同一回転数)で回転し続ける。
本実施の形態では、バランサウェイト54を備えた被動歯車50をクランク軸16上にクランク軸16と同軸に設け、フライホイール33の駆動歯車39の回転を、クランク軸16上に設けられるキャリア部材40に支持される各かさ歯車45を介して被動歯車50に伝達する。これにより、被動歯車50を支持するための専用の軸部材が必要ないため、バランサウェイト54によって振動を低減可能なエンジン10をコンパクトに構成できる。
また、被動歯車50は、クランク軸16の軸方向に配列される駆動歯車39、キャリア部材40及び被動歯車50の内、最もクランクケース本体13側の位置に配置されている。このため、クランク軸16の軸方向におけるバランサウェイト54とカウンタウェイト16dとの間の距離を小さくでき、カップリング振動を低減できる。
また、各かさ歯車45によって駆動歯車39の回転を被動歯車50に伝達するため、簡単な構造で被動歯車50をクランク軸16に対して逆方向に回転させることができる。このため、被動歯車50にバランサウェイト54を設けてバランサとして効果的に機能させることができる。
図5は、エンジン10の一次振動のバランス状態を示す図である。
図5では、カウンタウェイト16dを含むクランク軸16の各位相に対応して、紙面の上部から順に、バランサウェイト54の位相、ピストン21及びコンロッド22の慣性力を合成したピストン側合成慣性力F1、バランサウェイト54の慣性力F2、及び、ピストン側合成慣性力F1とバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した合成慣性力F3が図示されている。また、図5では、ピストン21が上死点から下死点を経て上死点に戻るまでのサイクル(クランク軸16の1回転に相当)が、紙面の左側から順に45°毎に示されている。
エンジン10では、ピストン21及びコンロッド22により構成される往復運動部の仮想質量55を100%とした場合に、カウンタウェイト16dの質量は50%に設定され、バランサウェイト54の質量は50%に設定されている。
ピストン21が上死点の状態では、カウンタウェイト16dは、クランクウェブ16b上においてクランク軸16の回転中心を挟んでクランクピン16cの反対側の位置、すなわちクランクピン16cとは180°だけ回転の位相が異なる位置に配置されている。
ピストン21が上死点の状態では、クランク軸16の回転により振動を発生させる仮想質量55は、カウンタウェイト16dに対して位相が180°異なる位置に位置する。
ピストン21が上死点の状態では、バランサウェイト54の位相は、カウンタウェイト16dの位相と同一であり、クランクピン16cとは180°だけ位相が異なる。
クランク軸16は、矢印で示す回転方向Aに回転する。仮想質量55は、クランク軸16とは逆方向に回転する。すなわち、仮想質量55は、回転方向Aとは逆の逆回転方向Bに、クランク軸16と同速度で回転する。
クランク軸16と一体に回転するカウンタウェイト16dは、回転方向Aにクランク軸16と同速度で回転する。
バランサウェイト54は、クランク軸16と逆回転する被動歯車50に設けられているため、逆回転方向Bにクランク軸16と同速度で回転する。
バランサウェイト54と仮想質量55とは、互いに180°異なる位相で逆回転方向Bに同速度で回転する。
カウンタウェイト16dの質量が仮想質量55の50%であるため、仮想質量55の慣性力はカウンタウェイト16dによっては完全に打ち消されずに50%が残る。このため、ピストン側合成慣性力F1は、クランク軸16の回転中心から仮想質量55が位置する方向に指向する。例えば、上死点の状態では、ピストン側合成慣性力F1は、ピストン21が位置する上方側に指向している。ピストン側合成慣性力F1は、仮想質量55と同様に逆回転方向Bにクランク軸16と同速度で回転する。
バランサウェイト54の慣性力F2は、クランク軸16の回転中心からバランサウェイト54が位置する方向に指向する。例えば、上死点の状態では、ピストン側合成慣性力F1は、ピストン21が位置する側とは反対の下方側に指向している。バランサウェイト54の慣性力F2は、バランサウェイト54と同様に逆回転方向Bにクランク軸16と同速度で回転する。
図5の状態では、ピストン側合成慣性力F1とバランサウェイト54の慣性力F2とが互いに180°異なる位相で逆回転方向Bに同速度で回転するとともに、ピストン側合成慣性力F1の大きさとバランサウェイト54の慣性力F2の大きさとが等しい。これにより、ピストン側合成慣性力F1とバランサウェイト54の慣性力F2とが全ての位相に亘って互いに打ち消し合うため、合成慣性力F3は全ての位相において0となる。このため、エンジン10の一次振動を効果的に低減できる。例えば、上死点の状態からクランク軸16が180°だけ回転方向Aに回転した下死点の状態では、ピストン側合成慣性力F1はピストン21側とは反対の下方に指向するが、バランサウェイト54の慣性力F2はピストン側合成慣性力F1とは反対方向を指向する。これにより、ピストン21が往復運動する方向の振動を打ち消すことができる。
また、上死点の状態からクランク軸16が90°だけ回転方向Aに回転した状態では、ピストン側合成慣性力F1はピストン21が往復運動する方向に直交する方向に指向するが、バランサウェイト54の慣性力F2はピストン側合成慣性力F1とは反対方向を指向する。これにより、ピストン21が往復運動する方向に直交する方向の振動を打ち消すことができる。
本実施の形態では、バランサウェイト54が仮想質量55に対して180°異なる位相にある位置状態をバランサウェイト54の「初期位置」と呼ぶ。バランサウェイト54が「初期位置」の状態で、ピストン21が上死点の状態にある場合、バランサウェイト54の位相はカウンタウェイト16dの位相と同一である。バランサウェイト54を「初期位置」に位置させることで、クランク軸16の360°の回転の内の全ての位相において合成慣性力F3を0にでき、エンジン10の振動を低減できる。
本実施の形態では、かさ歯車45を支持するキャリア部材40が回転可能であるため、キャリア部材40の回転の位相が変化すると、かさ歯車45を介して被動歯車50が回転され、駆動歯車39(クランク軸16の側)に対する被動歯車50の位相が変化する。被動歯車50の位相が変化することで、クランク軸16側に対するバランサウェイト54の位相が変化する。すなわち、キャリア部材40の位相とバランサウェイト54の位相は直接に対応しており、キャリア部材40の位相を調節することでバランサウェイト54の位相を調節できる。
このように、キャリア部材40が回転可能であるため、キャリア部材40の位相を任意の位相に変更することで、クランク軸16に対するバランサウェイト54の位相を変化させることができ、バランサ装置による振動を低減する性能を変化させることができる。
制御部75は、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73の検出に基づいてキャリア部材40の位相を検知し、始動モータ60によってキャリア部材40を任意の位相に回転させ、バランサウェイト54を任意の位相に位置させるウェイト位相調節処理を行う。ここで、キャリア部材40は、エンジン10の運転中及び停止中のいずれの状態であっても、始動モータ60によって駆動されることで、回転の位相を変更されることができる。
キャリア部材40の突起部70及び第1のセンサ71は、図2に示すように、第1のセンサ71によって突起部70が検出される位相にキャリア部材40を位置させると、バランサウェイト54が図5に示される「初期位置」に位置するように配置されている。すなわち、第1のセンサ71によって突起部70が検出される位相は、キャリア部材40の第1の任意の位相であり、キャリア部材40が第1の任意の位相に位置すると、バランサウェイト54が「初期位置」に位置し、一次振動が0になる。
第1のセンサ71は、バランサウェイト54によって最も振動を低減できるキャリア部材40の位相(第1の任意の位相)を検知するセンサである。
図2の状態からキャリア部材40が45°回転されて、第2のセンサ72によって突起部70が検出される位相は、キャリア部材40の第2の任意の位相である。
図6は、キャリア部材40が第2の任意の位相に位置する状態におけるエンジン10の一次振動のバランス状態を示す図である。
図2、図5及び図6を参照し、キャリア部材40が45°回転すると、図5の上死点の状態でカウンタウェイト16dと同一の位相にあったバランサウェイト54は、図6の上死点の状態では、90°だけ位相がずれる。すなわち、バランサウェイト54の位相は、キャリア部材40の回転角度の2倍変化する。キャリア部材40が第2の任意の位相に位置する状態では、バランサウェイト54の位相は、「初期位置」に対して90°ずれている。
図2の状態からキャリア部材40が90°回転されて、第3のセンサ73によって突起部70が検出される位相は、キャリア部材40の第3の任意の位相である。
図7は、キャリア部材40が第3の任意の位相に位置する状態におけるエンジン10の一次振動のバランス状態を示す図である。
図2、図5及び図7を参照し、キャリア部材40が90°回転すると、図5の上死点の状態でカウンタウェイト16dと同一の位相にあったバランサウェイト54は、図7の上死点の状態では、180°だけ位相がずれる。すなわち、バランサウェイト54の位相は、キャリア部材40の回転角度の2倍変化する。キャリア部材40が第3の任意の位相に位置する状態では、バランサウェイト54の位相は、「初期位置」に対して180°ずれている。
制御部75は、バランサウェイト54の位相を変更するとの指示を受けると、ウェイト位相調節処理を開始する。この指示は、例えば、ユーザーが操作する操作ボタン等の操作部の操作による指示である。
ウェイト位相調節処理において、制御部75は、バランサウェイト54の位相を「初期位置」にするとの指示を受けると、鞍乗り型車両の主電源がオンでエンジン10が始動される前等のエンジン10が停止している状態で、始動モータ60を駆動し、第1のセンサ71によってキャリア部材40の突起部70が検知されるまで始動モータ60を駆動する。制御部75は、第1のセンサ71によってキャリア部材40の突起部70が検知されると始動モータ60を停止する。これにより、キャリア部材40を第1の任意の位相に位置させることができ、バランサウェイト54の位相を「初期位置」にセットできる。なお、ウェイト位相調節処理では、始動モータ60は、エンジン10を始動させる方向とは逆方向、すなわち、一方向クラッチ68が切断される方向に駆動される。
また、制御部75は、バランサウェイト54の位相を「初期位置」に対して90°ずれた位相にするとの指示を受けると、エンジン10が停止している状態で、始動モータ60を駆動し、第2のセンサ72によってキャリア部材40の突起部70が検知されるまで始動モータ60を駆動する。制御部75は、第2のセンサ72によってキャリア部材40の突起部70が検知されると始動モータ60を停止する。これにより、キャリア部材40を第2の任意の位相に位置させることができ、バランサウェイト54の位相を「初期位置」に対して90°ずれた位相にセットできる。
また、制御部75は、バランサウェイト54の位相を「初期位置」に対して180°ずれた位相にするとの指示を受けると、エンジン10が停止している状態で、始動モータ60を駆動し、第3のセンサ73によってキャリア部材40の突起部70が検知されるまで始動モータ60を駆動する。制御部75は、第3のセンサ73によってキャリア部材40の突起部70が検知されると始動モータ60を停止する。これにより、キャリア部材40を第3の任意の位相に位置させることができ、バランサウェイト54の位相を「初期位置」に対して180°ずれた位相にセットできる。
図6に示すように、バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して90°ずれた状態では、ピストン側合成慣性力F1の大きさ及び位相は「初期位置」の状態と同一であるが、バランサウェイト54の慣性力F2の位相が「初期位置」の状態から90°変化している。
このため、ピストン側合成慣性力F1とバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した合成慣性力F3は、0にはならない。この状態の合成慣性力F3は、ピストン側合成慣性力F1と、ピストン側合成慣性力F1に直交する向きのバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した大きさとなり、ピストン側合成慣性力F1よりも大きくなる。
バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して90°ずれた状態の合成慣性力F3のベクトルは、クランク軸16の360°の回転中において同一であり、このベクトルの先端の軌跡を結んで得られる慣性力楕円E2は、真円である。
図7に示すように、バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して180°ずれた状態では、ピストン側合成慣性力F1の大きさ及び位相は「初期位置」の状態と同一であるが、バランサウェイト54の慣性力F2の位相が「初期位置」の状態から180°変化している。
このため、ピストン側合成慣性力F1とバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した合成慣性力F3は、0にはならない。この状態の合成慣性力F3は、ピストン側合成慣性力F1と、ピストン側合成慣性力F1と同一の向きのバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した大きさとなり、バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して90°ずれた状態の合成慣性力F3(図6)よりも大きくなる。
バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して180°ずれた状態の合成慣性力F3のベクトルは、クランク軸16の360°の回転中において同一であり、このベクトルの先端の軌跡を結んで得られる慣性力楕円E3は、真円である。慣性力楕円E3は、慣性力楕円E2(図6)よりも大きい。
詳細には、慣性力楕円E3は、ピストン側合成慣性力F1と、ピストン側合成慣性力F1と同一の向きのバランサウェイト54の慣性力F2とを合成した大きさとなるため、バランサウェイト54の位相をずらすことで得られる慣性力楕円において最も大きいものとなる。
図8は、バランサウェイト54の位相と慣性力楕円との関係を示す図である。
図5及び図8を参照し、バランサウェイト54の位相が「初期位置」にある場合、合成慣性力F3が0であるため、慣性力楕円の大きさも0である。このため、図8では、バランサウェイト54の位相が「初期位置」にある場合の慣性力楕円E1は、クランク軸16の回転中心に点で示されている。「初期位置」の状態では、バランサウェイト54等によって振動のつり合いが取れているため、エンジン10の一次振動が0になり、エンジン10の振動を小さくできる。
図6及び図8を参照し、バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して90°ずれた状態では、慣性力楕円E2が慣性力楕円E1よりも大きくなり、一次振動に起因する振動が発生する。
図7及び図8を参照し、バランサウェイト54の位相が「初期位置」に対して180°ずれた状態では、慣性力楕円E3が慣性力楕円E2よりも大きくなり、一次振動に起因する振動が最も大きくなる。
このように、キャリア部材40を回転させてバランサウェイト54の位相を変化させることで、エンジン10に発生する振動の大きさを任意に調節でき、バランサ装置による振動低減の性能を向上できる。
エンジン10が搭載された鞍乗り型車両の車速に応じてバランサウェイト54の位相を変化させ、振動の大きさを変更することで、鞍乗り型車両の走行性能を変更できる。例えば、鞍乗り型車両が低速走行している場合、振動を大きくするようにバランサウェイト54の位相を変化させることで、タイヤを介した路面に対するグリップ力を変動させることができ、良好なトラクション性能を得ることができる。また、高速走行の場合、振動を小さくすることで、ユーザーの快適性を向上できる。
さらに、雨天時等、路面が滑りやすくタイヤのグリップ力が失われ易い状態では、振動を小さくすることで、車体の上下動を減らし、グリップ力を向上させることができる。また、不整地を走行する鞍乗り型車両において、泥路を走行する場合は、振動を大きくして車体の上下動を増加させることで、良好なトラクション性能を得ることができる。
また、本実施の形態では、バランサウェイト54が最も振動を低減できる「初期位置」に位置することになるキャリア部材40の第1の任意の位相を検知するする第1のセンサ71を基準に、第3のセンサ73が90°離れた位相で配置されている。第3のセンサ73では、ピストン側合成慣性力F1と、ピストン側合成慣性力F1と同一の向きのバランサウェイト54の慣性力F2とが合わさることで最も大きな振動が発生することとなるキャリア部材40の第3の任意の位相を検出できる。このため、突起部70を検知するセンサの数及びセンサの配置範囲を最小限としながら、一次振動が0になる状態から最大となる状態まで調整できる。
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、エンジン10のバランサ装置は、クランク軸16のクランクピン16c及びカウンタウェイト16dを収容するクランク室13cを有するクランクケース11と、クランク軸16の回転方向とは逆方向に回転するバランサウェイト54とを備え、クランク軸16と連結されてクランク軸16と同方向に回転する駆動歯車39と、駆動歯車39の回転動力を伝達する動力伝達機構48と、動力伝達機構48から動力を受けてクランク軸16とは逆方向に回転する被動歯車50と、被動歯車50に設けられるバランサウェイト54とを備え、動力伝達機構48は、外周に設けられた歯車部67を介してエンジン10の始動モータ60との間で動力伝達を行うキャリア部材40と、キャリア部材40によって回転可能に軸支され、駆動歯車39及び被動歯車50と噛み合うかさ歯車45,45…と、キャリア部材40と駆動歯車39との間に介装される一方向クラッチ68とを備え、キャリア部材40は突起部70を有し、突起部70を検出する複数の第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73を備え、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73による検出に基づいてキャリア部材40の位相を検知し、始動モータ60によってキャリア部材40を任意の位置に回転させる。これにより、キャリア部材40によって回転可能に軸支されるかさ歯車45,45…によって駆動歯車39の回転を被動歯車50に伝達し、被動歯車50のバランサウェイト54をクランク軸16に対して逆回転させることができるため、コンパクトな構造で振動を低減できる。このため、エンジン10の小型化やレイアウトの自由度を確保することができる。また、キャリア部材40の突起部70を検出する第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73による検出に基づいて始動モータ60によってキャリア部材40を任意の位置に回転させるため、始動モータ60によってキャリア部材40を回転させることで、バランサウェイト54の位相を任意の位相に調節できる。このため、エンジン10の振動を効果的に低減できる。
また、被動歯車50の回転速度は、クランク軸16の回転速度と同速度であるため、バランサウェイト54を被動歯車50に設けてクランク軸16の振動を低減することができる。
また、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、キャリア部材40の90°までの位相の変化を検知できるように配置されているため、バランサウェイト54の位相を180°までの範囲で変更できる。このため、エンジン10の振動を調節可能な範囲を大きくできる。
さらに、第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73は、クランクケース11に設けられ、側面視において、クランク軸16の軸線16eよりも下方に配置されているため、雨水等が第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73に影響することを抑制できる。
また、始動モータ60の出力歯車部62とキャリア部材40の歯車部67との間に減速歯車部65を備えたため、始動モータ60のトルクを減速歯車部65で増幅してキャリア部材40に伝達し、キャリア部材40を介してエンジン10を容易に始動させることができる。また、キャリア部材40から減速歯車部65を介して始動モータ60に回転を伝達する場合には、減速歯車部65が増速歯車として機能するため、キャリア部材40から始動モータ60に伝達されるトルクを小さくできる。このため、始動モータ60が停止している状態では、始動モータ60の回転抵抗によってキャリア部材40を固定しておくことができ、キャリア部材40が支持するかさ歯車45,45…によって、被動歯車50を逆回転させることができる。
また、キャリア部材40は、両側面を貫通する窓部43を備え、かさ歯車45,45…は、その歯部を窓部43に臨ませて配置されているため、窓部43を通るかさ歯車45,45…を介して駆動歯車39と被動歯車50とを噛み合わせることができる。
また、駆動歯車39は、クランク軸16に連結されたフライホイール33の側面に形成されているため、部品点数を削減でき、小型化を図ることができる。
さらに、キャリア部材40は、半径方向内側にクランク軸16を収容する筒状部41を有し、筒状部41の半径方向外側に被動歯車50が配置され、筒状部41の端部にサークリップ52が設けられている。これにより、キャリア部材40の筒状部41の半径方向外側に配置される被動歯車50をサークリップ52で固定でき、キャリア部材40と被動歯車50とを一つの組立体として構成できる。このため、小型化及び組立性の向上を図ることができる。
また、バランサ装置は、バランサウェイト54によって最も振動を低減できるキャリア部材40の第1の任意の位相を検知する第1のセンサを備え、第3のセンサ73が、第1のセンサを基準に90°離れた位相で配置されている。これにより、第3のセンサ73では、バランサウェイト54によって最も振動を大きくできるキャリア部材40の第3の任意の位相を検知できる。
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
上記実施の形態では、制御部75はユーザーの指示に基づいてバランサウェイト54の位相を変更するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、制御部75は、車速やエンジン10の回転数をセンサで検出し、この検出結果に基づいて制御用のマップから目標のキャリア部材40の位相を取得し、バランサウェイト54の位相を変更しても良い。
また、本実施の形態では、複数のセンサとして第1のセンサ71、第2のセンサ72及び第3のセンサ73を45°間隔で設ける構成を例に挙げて説明したが、これに限らず、センサを設ける間隔及びセンサの数は、増減させても良い。センサを小さな間隔で設けた場合、バランサウェイト54の位相をより細かく調節できる。
また、上記実施の形態では、エンジン10が停止している状態で始動モータ60を駆動してキャリア部材40の位相を変更するものとして説明したが、これに限らず、エンジン10が運転している状態で始動モータ60を駆動してキャリア部材40位相を変更しても良い。
10 エンジン(内燃機関)
11 クランクケース
13c クランク室
16 クランク軸
16c クランクピン
16d カウンタウェイト
16e 軸線
33 フライホイール
39 駆動歯車
40 キャリア部材
41 筒状部
43 窓部
45 かさ歯車
48 動力伝達機構
50 被動歯車
52 サークリップ
54 バランサウェイト
60 始動モータ
62 出力歯車部(出力歯車)
65 減速歯車部(減速歯車)
67 歯車部
68 一方向クラッチ
70 突起部
71 第1のセンサ(センサ)
72 第2のセンサ(センサ)
73 第3のセンサ(センサ、他のセンサ)

Claims (9)

  1. クランク軸(16)のクランクピン(16c)及びカウンタウェイト(16d)を収容するクランク室(13c)を有するクランクケース(11)と、前記クランク軸(16)の回転方向とは逆方向に回転するバランサウェイト(54)とを備えた内燃機関のバランサ装置において、
    前記バランサ装置は、前記クランク軸(16)と連結されて当該クランク軸(16)と同方向に回転する駆動歯車(39)と、前記駆動歯車(39)の回転動力を伝達する動力伝達機構(48)と、前記動力伝達機構(48)から動力を受けて前記クランク軸(16)とは逆方向に回転する被動歯車(50)と、前記被動歯車(50)に設けられるバランサウェイト(54)とを備え、
    前記動力伝達機構(48)は、外周に設けられた歯車部(67)を介して前記内燃機関の始動モータ(60)との間で動力伝達を行うキャリア部材(40)と、当該キャリア部材(40)によって回転可能に軸支され、前記駆動歯車(39)及び前記被動歯車(50)と噛み合うかさ歯車(45)と、前記キャリア部材(40)と前記駆動歯車(39)との間に介装される一方向クラッチ(68)とを備え、
    前記キャリア部材(40)は突起部(70)を有し、
    前記突起部(70)を検出するセンサ(71,72,73)を複数備え、
    前記センサ(71,72,73)による検出に基づいて前記始動モータ(60)によって前記キャリア部材(40)を任意の位置に回転させることを特徴とする内燃機関のバランサ装置。
  2. 前記被動歯車(50)の回転速度は、前記クランク軸(16)の回転速度と同速度であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のバランサ装置。
  3. 複数の前記センサ(71,72,73)は、前記キャリア部材(40)の90°までの位相の変化を検知できるように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関のバランサ装置。
  4. 複数の前記センサ(71,72,73)は、前記クランクケース(11)に設けられ、側面視において、前記クランク軸(16)の軸線(16e)よりも下方に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関のバランサ装置。
  5. 前記始動モータ(60)の出力歯車(62)と前記キャリア部材(40)の前記歯車部(67)との間に減速歯車(65)を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の内燃機関のバランサ装置。
  6. 前記キャリア部材(40)は、両側面を貫通する窓部(43)を備え、前記かさ歯車(45)は、その歯部を前記窓部(43)に臨ませて配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関のバランサ装置。
  7. 前記駆動歯車(39)は、前記クランク軸(16)に連結されたフライホイール(33)の側面に形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の内燃機関のバランサ装置。
  8. 前記キャリア部材(40)は、半径方向内側に前記クランク軸(16)を収容する筒状部(41)を有し、前記筒状部(41)の半径方向外側に前記被動歯車(50)が配置され、前記筒状部(41)の端部にサークリップ(52)が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の内燃機関のバランサ装置。
  9. 複数の前記センサ(71,72,73)は、前記バランサウェイト(54)によって最も振動を低減できる前記キャリア部材(40)の位相を検知する第1のセンサ(71)を備え、複数の前記センサ(71,72,73)の内の他のセンサ(73)が、前記第1のセンサ(71)を基準に90°離れた位相で配置されていることを特徴とする請求項3記載の内燃機関のバランサ装置。
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