JP2017179525A - チタン銅合金線材およびチタン銅合金線材の製造方法 - Google Patents

チタン銅合金線材およびチタン銅合金線材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来のチタン銅合金は、チタン合金としては比較的高いレベルで強度と導電率がバランスしているものもある。しかし、導電率や強度もまた十分なものであるとはいえない。
【解決手段】1乃至15重量%のチタンと、残りが銅および不可避的不純物からなるチタン銅合金線材であって、
チタンの含有率が仕込み量よりも低い銅母相の第一相と、
チタンの含有量が仕込み量より高いCu−Ti系析出物相であって、
立方晶あるいは正方晶となる第二相と
斜方晶となる第三相とからなり、
前記Cu−Ti系析出物相のうち前記第三相の割合は50%以上100%以下であり、
前記第三相の形状は、ラメラー状組織が消失していることを特徴とするチタン銅合金線材。
【選択図】図1

Description

本発明は導電率が高いチタン銅合金線材およびチタン銅合金線材の製造方法に関するものである。
銅合金は電子機器のコネクタや配線材料として多くの分野で利用されている。これを用途別で分類すると、電力用途と信号用途が考えられる。
電力用途は、モータや大電流部分のコネクタといった部分に用いられる場合である。電力用途では、銅合金には高い導電率が求められる。一方、信号用途は、メモリのコネクタや、ワイヤーハーネス等に用いられる場合である。信号用途では、銅合金は、流す電流自体は微弱なので、高い導電率の要求は低いが、配線を行うための変形や外的から受ける応力に対する強度が求められる。
銅合金に強度を付与するには、添加元素の種類と量を調節することが行われている。傾向として、銅合金の導電率を高くすると強度は低下し、強度を高めると導電率は低下する。したがって、トレードオフの関係にある高導電率と高強度を同時に達成できる銅合金は、強く要望されている。
銅合金において、強度を付与した上で、導電率も高いとされているのは、銅ベリリウム合金である。銅ベリリウム合金は、組成の条件によって、導電率は20〜70%IACS、引張強さは700〜1500MPaの特性を示す。しかし、ベリリウムは希少であると同時に、毒性を有するとされているため、ベリリウムを用いない組成の銅合金が検討されている。
チタンは、銅合金の強度を効果的に向上できる元素として知られている。また、チタンが1.0〜5.0重量%の合金では、溶体化処理、時効処理という工程を経ると、合金中に大きさ数10nm以下と微細で、結晶構造が立方晶および正方晶をとるCu−Ti系析出物相(これを銅リッチな銅母相(第一相)に対して第二相と呼ぶ)が結晶粒内に均一に生成することも知られている。更に時効処理時間が長くなると、第二相の生成と競合して、大きさが数μm以上で、形状が粗大なラメラー状(層状)であり、結晶構造が斜方晶であるCu−Ti系析出物相(これを第三相と呼ぶ)が結晶粒界から生成、成長することも知られている。
微細な第二相は、材料の強度を著しく向上させるため好ましい析出物相と認められている。一方で、粗大な第三相の生成は、第二相を侵食するため材料強度の低下を招くだけでなく、疲労特性や耐衝撃性も低下させることも知られている。
特許文献1には、チタンが2.5〜4.5重量%で残りは銅と不可避不純物のチタン銅合金が紹介されている。このチタン銅合金は、0.2%耐力が850MPa以上で導電率が18%IACSの特性とされている。これは、銅母相(第一相)中に第二相(立方晶あるいは正方晶)が均質に微細分散した組織を有する。
また、特許文献1では、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、時効後冷間圧延という処理を経る工程のうち、溶体化処理の温度を高くすることで、結晶粒径を大きくし、結晶粒界に析出する第三相(斜方晶)の割合を少なくすることをポイントとしている。
特願2011−195881号公報 特開平06−192801号公報
特許文献1のチタン銅合金は、チタン銅合金としては比較的高いレベルで強度と導電率がバランスしているといえる。しかし、導電率や強度もまた十分なものであるとはいえない。
本発明は、上記の課題に鑑みて鋭意検討の結果、材料強度の低下を招くだけとされていた第三相は高加工率を施されることで、第二相が発揮する強度(硬さ)より高い特性を発現することを見出し完成されたものである。本発明に係るチタン銅合金線材は、高いバランスレベルでは、引張強さが1300MPaで導電率が30%IACS、また引張強さが1600MPaで導電率が18%IACS程の特性を有する。
より具体的に本発明に係るチタン銅合金線材は、
1乃至15重量%のチタンと、残りが銅および不可避的不純物からなるチタン銅合金線材であって、
チタンの含有率が仕込み量よりも低い銅母相の第一相と、
チタンの含有量が仕込み量より高いCu−Ti系析出物相であって、
立方晶あるいは正方晶となる第二相と
斜方晶となる第三相とからなり、
前記Cu−Ti系析出物相のうち前記第三相の割合は50%以上100%以下であり、
前記第三相の形状は、ラメラー状組織が消失していることを特徴とする。
本発明に係るチタン銅合金線材は、銅母相(第一相)中に分散するCu−Ti系析出物相のうち50重量%以上、好ましくは70重量%以上が斜方晶を有する第三相で構成され、一定以上の伸線加工を施したので、高強度状態においても、高い導電率を保持することができる。
従来のチタン銅合金線材は、銅母相(第一相)中に結晶構造が立方晶あるいは正方晶の第二相を重量比率で数%程度(同時に第三相(斜方晶)も生成されるが、第二相の重量比の方が第三相よりも多い)で微細分散させ、高強度化を達成していた。しかし、本発明に係るチタン銅合金線材は、結晶構造が斜方晶の第三相を比較的多量(第二相の割合よりも多量)であって、その形状がファイバー状あるいは針状に微細分散させるので、高い導電率を示すと同時に高強度とすることができる。
Cu−3.2重量%Ti合金を450℃で時効した時の硬化曲線、および時効中に生成される析出物の体積分率を表すグラフである。 過時効線材とピーク時効線材の硬さと導電率の比較を示すグラフである。 本発明に係る過時効線材中のCu−Ti系析出物相のXRDの測定チャートである。 ピーク時効処理母材と過時効処理母材の円柱棒材の横断面を見たSEM写真である。 直径が1.28mmになるまで伸線加工した過時効線材の横断面SEM写真である。 直径が0.58mmと0.40mmになるまで伸線加工した過時効線材の横断面SEM写真である。 直径が0.3mmまで加工した過時効線材の横断面SEM写真である。 0.3mmまで伸線加工した過時効線材の縦断面(長さ方向の断面)の40,000倍のSEM写真である。 過時効処理母材と直径が3.0mmと1.28mmの過時効線材のCu−Ti系析出物相(第三相:結晶構造は斜方晶)を抽出分離したSEM写真である。 直径が0.58mmと0.30mmの過時効線材のCu−Ti系析出物相(第三相:結晶構造は斜方晶)を抽出分離したSEM写真である。 直径が0.30mmと0.10mmの過時効線材のCu−Ti系析出物相(第三相:結晶構造は斜方晶)を抽出分離したSEM写真である。 体積分率の算出方法を示す図である。
以下に本発明に係るチタン銅合金線材について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
本発明に係るチタン銅合金線材は以下のようにして作製される。まず、所定量の銅とチタンを混合し溶融する。溶解した溶湯から鋳物を得る。チタンの量は、1〜15重量%、好ましくは1〜6重量%、さらに好ましくは2〜5重量%である。チタンは多すぎると加工性が低下する。また少なすぎると、チタン銅合金線材としての強度が発揮されない。なお、残りは銅および不可避的不純物である。
鋳物は成形処理を行う。最終加工のために必要な形状を得るためである。例えば最終的に伸線加工を行う場合であれば、鋳物を直径数mm程度の棒材に加工を行う。これは鋳物が高温の状態で行う。この工程は熱間圧延工程といえる。
次に加工された棒材を溶体化処理する。この溶体化処理工程で、チタンを含む銅固溶体を得る。溶体化処理は、800℃から1200℃の温度で1乃至3時間保持し、その後急冷することで行う。溶体化処理によって、成形された鋳物は、チタンを過飽和に含む銅固溶体の単相(状態)となる。これを過飽和固溶体と呼ぶ。なお、溶体化処理は、複数回行ってもよい。例えば得られた棒材をさらに冷間圧延して形状を変え、その都度溶体化処理をやり直すといった場合などである。
この過飽和固溶体に時効処理を施す。通常硬度が最も高くなる時効条件をピーク時効条件と呼ぶ。これは温度によって時間が異なる。通常300℃から700℃の間の温度が採用される。温度が低いほど処理時間は長く必要である。しかし、温度が低いほど得られる強度は高くできる傾向がある。
ピーク時効条件では、銅母相(第一相)中にCu−Ti系析出物相が生成する。ピーク時効条件では、Cu−Ti系析出物相のうち結晶構造が立方晶あるいは正方晶となる微細な第二相(数10nm)が大半を占め、これが均質分散するために硬さが向上する。結晶構造が斜方晶である第三相も第二相と共にも生成されるが、ピーク時効条件では体積分率はまだ低く(第二相と同等以下)、しかも、大きさは数μm以上で形状はラメラー状(層状)となる。
この形状をもつ第三相は材料強化にほとんど寄与しないばかりか、第三相が発達すると第二相の体積分率が相対的に減るため強度が低下することが知られている。なお、第二相および第三相ともに組成はCuTiである。正方晶のものはαCuTiとも呼ばれ、斜方晶のものはβCuTiとも呼ばれる。
本発明に係るチタン銅合金線材では、この時効処理が通常のピーク時効条件ではなく、ピーク時効条件以上の時間で時効し、硬さが低下する状態まで時効処理を行う。これを過時効条件と呼ぶ。より具体的に過時効条件の1例としては、温度450℃で400時間といった条件が挙げられる。
ただし、以下に述べるように、時効処理によって生じるCu−Ti系析出物相の半数以上が第三相(斜方晶)であることを確認できれば、他の時効条件であってもよい。つまり、Cu−Ti系析出物相(第二相+第三相)のうち、第三相の割合が50重量%以上、好ましくは70重量%以上であることを確認できれば、他の時効条件であってもよい。
なお、第二相と第三相の比率(単位は「%」)は後述するようにXRDの結果より算出する方法が取られる。しかし、第二相と第三相は結晶構造こそ違うものの、組成は同じなので、XRDの結果より算出された割合を直接「重量%」としてもよい。また、Cu−Ti系析出物相の重量比がわかれば、既知の比重値より、これを体積分率(%)に換算することもできる。
この過時効条件による時効処理によって、銅母相(第一相)中にチタンリッチなCu−Ti系析出物相の割合が増加する。また、Cu−Ti系析出物相の中で微細な第二相(立方晶もしくは正方晶)の割合は減少し、その代わりにラメラー状(層状)組織をもつ第三相(斜方晶)が優占される。通常チタン銅合金線材においては、ピーク時効条件で生成するCu−Ti系析出物相は第二相(立方晶若しくは正方晶)を優先的に生成させることにより強化を図るところ、本発明に係るチタン銅合金線材では過時効条件で生成する第三相(斜方晶)を利用する。従来では第三相の生成は強度を低下させる因子として好ましいとされていなかった。過飽和固溶体にこの過時効条件による時効処理を施した材料が伸線加工の母材となる。以後、この母材を「過時効処理母材」と呼ぶ。
銅母相(第一相)中の第三相(斜方晶)は、伸線加工によって、ラメラー状であったのがファイバー状、針状と変化する。換言すると、ラメラー状(層状)の組織が消失する。ピーク時効条件による時効処理を経た母材(以後これを「ピーク時効処理母材」と呼ぶ。)の場合は、減面率を高めると強度の増加が飽和してくる。
一方、本発明に係るチタン銅合金線材では、減面率の向上に伴う強度の増加は、ピーク時効処理母材の強度の増加が飽和する減面率以上に加工してもなお、強度は増加し続ける。したがって、ある減面率以上では、ピーク時効処理母材による線材(以後「ピーク時効線材」と呼ぶ。)の強度よりも過時効処理母材による線材(以後「過時効線材(本発明に係るチタン銅合金線材)」と呼ぶ。)の強度が高くなる。この特性の作用機序については、明確ではないが、結晶構造が斜方晶となる第三相が材料中に比較的体積分率が高い状態で分散すること、および形状が粗大なラメラー状でなくアスペクト比が大きいファイバー状、針状であることが大きな原因であると考えられる。
また、導電率については、過時効線材は銅母相(第一相)の銅濃度が十分高い(チタン濃度が低い)ので、ピーク時効線材より導電率は高い。そして、減面率が高くなり、導電率が低下してもピーク時効線材よりも高い状態を維持することができる。
なお、伸線加工は、ダイスやロール等を使って、母材の直径を細くし、長さを伸ばす加工である。本発明に係るチタン銅合金線材は、母材からの加工率(減面率)が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%、以上にするのがよい。なお、減面率の定義より、減面率100%はありえない。しかし、加工できる最小直径に実現可能な上限界値があっても、母材の太さを太くすれば、理論上減面率は100%に近づく。したがって、減面率の上限は100%未満といってよい。また、伸線後の断面が丸線である線材を、さらに圧延や異形ダイスを使用した伸線加工することにより、丸以外の断面形状である平線や異形線とすることもできる。
このようにして作製された過時効線材では、第三相は、結晶構造が斜方晶のままであるが、形状はファイバー状あるいは針状である。チタン銅合金線材の総量に対するCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の割合は母材合金組成によって異なるものの、重量分率で1重量%以上、30重量%以下、より好ましくは、5重量%以上30重量%以下、もっとも好ましくは10重量%以上30重量%以下がよい。ただし、本発明に係る過時効線材の場合は、Cu−Ti系析出物相はほとんどが第三相であるので、上記の範囲は、実質的に第三相の範囲とも言える。
なお、ピーク時効線材では、Cu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の重量分率は2重量%以下である。つまり、ピーク時効線材の第三相(斜方晶)の重量分率は1重量%を超えることはない。また、過時効線材での斜方晶構造を有する第三相の体積分率を算出すると1%以上35%以下であった(第三相の堆積分率の算出方法は後述する。)。また、第三相のチタン含有量は10質量%以上100質量%以下であり、第一相のチタン含有量は0質量%以上、1質量%以下である。
以上のように、本発明に係るチタン銅合金線材は、銅材およびチタン材からチタン銅合金の固溶体を作製し、この固溶体を過時効処理し、斜方晶の構造を持つ第三相を積極的に析出させた複相組織を得る。この複相組織を持つ材料が母材(過時効処理母材)となる。そして、さらに母材に加工を加えて本発明に係るチタン銅合金線材を得る。
以下に実施例を示す。
<鋳物>
純度99.99%の無酸素銅と純度99.99%の純チタンを高周波溶解し、熱間鍛造を行い直径25mm、長さ255mmの鋳物を得た。この時の組成は、チタンが4.2mol%(3.2重量%)含まれるチタン銅合金であった。
この鋳物を大気中900℃で1時間保持した。その後水中に入れ冷却した。この処理は均質化処理である。なお、この処理は省略することもできる。
均質化した鋳物の表皮を切除した。表面の不純物を除去し、以下の溶体化処理および時効処理において不純物が混入しないようにするためである。この処理で鋳物を、直径23mmで長さ255mmの棒材に成形した。
次にこの棒材にタップ鍛造を施した。タップ鍛造とは、断面が半円球状の溝が形成された一対のタップ金敷で鋳物を叩きながら、棒材を加工された溝に沿った形状に加工することである。この処理によって、棒材を直径が15mmで長さが700mmの形状に加工した。
次にこの棒材に溶体化処理を施した。溶体化処理は、マッフル炉を用い、900℃で1時間の条件でおこなった。熱処理後は室温まで急冷した。熱処理および急冷で溶体化処理は完成する。なお、後述する熱処理と区別するために、この処理を第1の溶体化処理と呼んでも良い。
溶体化処理を行った棒材にさらに溝ロール加工を施した。この溝ロール加工処理によって、直径を3mmの線材に加工した。この線材には、アルゴンガス雰囲気で900℃、10分の熱処理を行い、その後、窒素ガス流雰囲気に置換することによる間接急冷で室温まで戻した。この処理は、第2の溶体化処理と呼んでも良い。
次にこれらの線材に時効処理を施した。図1にCu−3.2重量%Ti合金(Tiが3.2重量%で残りは、銅と不回避的不純物)を450℃で時効した時の硬化曲線(図1(a))、および時効中に生成される析出物の体積分率(図1(b))を示す。
図1(a)は横軸が時効時間(h)であり、縦軸がビッカース硬さ(HV)である。図1(b)は、横軸が時効時間(h)であり、縦軸が析出物の体積分率(%)である。図1(b)は棒グラフであり、各時効時間毎に立方晶(白長棒)、正方晶(黒長棒)、斜方晶(網掛け棒)および析出物の総量(バツ四角)で示した。なお、立方晶(白長棒)は、存在割合が少なく時効時間が10時間を越えるとグラフ上ではほとんど見えない。
図1(a)の時効硬化曲線より、ピーク時効条件は450℃、12時間とし、過時効条件は450℃、408時間とした。これらのサンプルは伸線加工の母材となる。すでに説明したが、ピーク時効条件を施した母材は「ピーク時効処理母材」と呼び、過時効条件を施した母材を「過時効処理母材」と呼ぶ。また、これらの母材から伸線加工によって得られるチタン銅合金線材を「ピーク時効線材」、「過時効線材」と呼ぶ。
図1(b)に示される合金中の第二相(立方晶もしくは正方晶)、第三相(斜方晶)の体積分率の推移をみれば、ピーク時効線材(12時間時効材)ではCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の体積分率は1.8%、そのうち第三相の体積分率は0.7%程度であった。これに対して、過時効線材(408時間時効材)では、Cu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の体積分率は18%、そのうち第三相の体積分率は17.5%以上であった。
伸線加工は、それぞれの母材を順に直径が小さくなるようにダイス加工で行った。また、ピーク時効線材および過時効線材ともに、減面率を変えながらサンプルを作製し、以下の評価装置で評価項目を測定した。
ビッカース硬さは、ビッカース硬度計を用いて行った。測定は、伸線加工を行った線材の断面に対して行った。測定装置は、MITUTOYO HM−101を用いた。測定条件は、荷重を200gfとし、負荷時間は10秒とした。ビッカース硬さは、1サンプルにつき、12点以上測定し、最大値、最小値を除外して平均をビッカース硬さとした。したがって、単位は(HV0.2)である。
引張強さは、引張試験器を用い、標点間距離を100mmとし、引張速度は5mm/分の速度で引っ張った。そして、最大荷重点を引張強さ(MPa)とした。
導電率の測定は、Agilent technologies製のNano Volt/ Micro Ohm Meter 34420Aを用い、20〜30cmに切り取った線材の抵抗を測定した。測定値は、IACS(International Annealed Copper Standard:インターナショナル アニールド カッパー スタンダード)による標準焼きなまし銅線の導電率に対する百分率(%IACS)に換算した。
組成の評価には、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)と、FESEM(Cold Field Emission Scanning Electron Microscope:冷陰極電界放射型走査電子顕微鏡)および、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)を用いて形状観察を行った。
なお、第三相の体積割合は、SEMによる横断面観察の画像処理によって求めた。過時効線材は長さ方向に長いファイバー状若しくは針状をしているので、断面積において第三相の比率を体積比として読むことができる。なお、過時効線材の場合、第二相は微量であり、そもそも第二相は微小でもあるので、断面積から求める体積比の算出では、第二相は無視した。
また、XRD(X‐ray diffraction:X線回折)およびICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)を用いて、組成分析を行った。XRDではCu管球(X線波長:0.1542nm)を用いた。
特に、Cu−Ti系析出物相において、第二相と第三相の割合(%)を算出する場合には、XRDを用いた。なお、Cu−Ti系析出物相の総量に対する割合は後述する抽出分離法を用い、重量%で求めた。第二相および第三相の密度は既知の値なので、これから体積分率を求めることもできる。なお、第三相についての体積分率は、画像から求める上記の方法と、XRDから求める方法がある。
図2に結果を示す。図2(a)は、硬さと真歪の関係を表し、図2(b)は導電率と真歪の関係を表すグラフである。それぞれのグラフは横軸が真歪(単位なし)であり、縦軸が図2(a)はビッカース硬度(HV0.2:なお、本明細書および請求の範囲を含め「HV」と略する。)であり、図2(b)は導電率(%IACS)である。なお、真歪(e)は、A0を線引き加工前の線材の断面積で、Aを線引き加工後の線材の断面積としたときにe=ln(A0/A)で求められる(「ln」は自然対数)。
なお、それぞれのグラフの上辺には、真歪に対応する直径を記載した。つまり、真歪は、伸線加工によって到達した直径に対応する値として記載されている。なお、伸線加工を行っていない母材の直径は3mmである。したがって、以下に述べる伸線加工を行った後の直径に対して、減面率(加工前の断面積と加工によって減少した断面積の割合)は一意に求めることができる。
それぞれのグラフで、四角印は過時効線材であり、菱形印はピーク時効線材である。なお、図2(a)では、時効処理を行う前の溶体化処理を行っただけの過溶化固溶体を伸線加工した線材の硬さについても丸印で示した。
図2(a)を参照して、過時効処理母材(直径3.0mm)ではビッカース硬度は200HV以下であった。しかし、直径を2.0mm(減面率66%)にすると、ビッカース硬度は200HV以上(240HV)に急激に向上した。
また、減面率が低い(加工後直径が大きい)間は、ピーク時効線材の方が、過時効線材より硬度が高い。一方、過時効線材は、減面率が上昇する(加工後直径が小さくなる)に従い、硬度は高くなり、直径が0.175mm(減面率99.66%)を超えた点でピーク時効線材より高くなった(330HV以上)。
また、ピーク時効線材では、加工後直径が0.3mm程度より細くしても、硬度の向上はほとんどなくなった。一方、過時効線材では、加工後直径が0.3mm(減面率99.00%、295HV)以上になっても減面率の向上にしたがって硬度は上昇した。
溶体化処理後の材料(丸印)の硬度と真歪(加工後直径)の関係は、ピーク時効線材の場合と傾向がよく似ている。しかし、過時効線材の場合は大きく異なる傾向を有している。すなわち、過時効処理によって母材の性状が、時効処理を行う前の性状から大きく変化したと言える。
図2(b)を参照して、過時効線材の導電率は、ピーク時効線材と比較して、加工する前から倍ほど高い。そして、減面率が高くなり(伸線加工後の直径が小さくなり)、導電率はゆるやかに低下するものの、ピーク時効処理母材を用いた場合よりも高い導電率を維持することができた。
具体的には、過時効処理母材の状態で29%IACSであったものが、直径を2.0mmにした時点では変化なかった。その後直径が1.28mm(減面率81.8%)あたり(図2(b)の符号Aの矢印)ではすでに増加傾向となり、直径が0.66mm(減面率95.2%)の付近で最大値である34%IACSであった。この時ビッカース硬度は263HVであった。
それより減面率が高い領域(直径が小さい領域)では、導電率とビッカース硬度は逆の傾向を示した。すなわち、ビッカース硬度は上昇を続け、導電率は低下した。直径を0.3mm(減面率99%)にしたときに導電率は30%IACSで、過時効処理母材程度に戻った。この時のビッカース硬度は、295HVであった。また直径を0.175mm(減面率99.66%)にした場合では導電率は21%IACS、直径を0.1mm(減面率99.89%)にした場合では導電率は17%IACSであった。ビッカース硬度はそれぞれ330HVと、343HVであった。直径を0.1mmにした時の導電率は、ピーク時効線材の導電率の最大値である16%IACSより高かった。
なお、過時効線材については、いくつかのサンプルで引張強さも測定した。伸線加工において直径が0.3mm(減面率99%:真歪4.6:295HV)の場合の引張強さは1390MPaであり、導電率は30%IACSであった。また直径が0.1mm(減面率99.89%:真歪6.8:343HV)の場合の引張強さは1640MPaであり、導電率は17%IACSであった。いずれも、従来のチタン銅合金では報告されたことのないほどの高い値である。なお、引張強さと硬度はほぼ比例すると考えられる。したがって、図2(a)は縦軸を引張強さと読み替えても、ピーク時効線材と過時効線材の傾向は変わらない。
図3には、図2において過時効処理母材を伸線加工後の直径が0.3mmの場合のサンプルについて、硝酸で銅がリッチな銅母相(第一相)を溶解させ、ろ過してCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)だけを分離(以下、この方法を「抽出分離法」と呼ぶ。また、抽出分離法を用いることを「抽出分離する」ともいう。)したもののXRDの測定結果を示す。縦軸は強度(任意単位)であり、横軸は2θ(°)である。XRDによれば、2θが41.52°に斜方晶構造を有するCuTiの最大回折ピーク([020]面のピーク)が検出された。これはCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)のうちのほとんどが第三相(斜方晶)から構成され、第二相(立方晶もしくは正方晶)の分率は僅かであることを示している。
通常のピーク時効線材では、Cu−Ti系析出物相の大半は第二相が正方晶であるため、2θが42.3°に[121]面の最大ピークが観測される。したがって、斜方晶の第三相とは区別できる。表1には、正方晶CuTiのミラー指数の2θと強度(相対値)の関係を示し、表2には斜方晶CuTiのミラー指数の2θと強度(相対値)の関係を示す。
なお、通常正方晶の微細な第二相と斜方晶の層状の第三相は競合的に析出する。したがって、図3にように、第三相の[020]面のピークが明確に確認できるか、リートベルト法で第三相(斜方晶)の分率を算出した際に50重量%以上、好ましくは70重量%以上であれば、本発明に係るチタン銅合金線材であると判断してよい。
以上のように、本発明に係るチタン銅合金線材では、過時効処理によってCu−Ti系析出物相の大半が斜方晶となり、真歪(減面率)に対して向上する硬さが、飽和せずに上昇し続ける特性を得たと考えられる。また、図3に示すように、硝酸によって銅母相(第一相)を除去し、Cu−Ti系析出物相だけをサンプリングしてからXRDを測定するという方法(抽出分離法)で、容易に第三相(斜方晶)が50重量%以上、好ましくは70重量%以上生成されたか否かを判別できる。
また、この第三相のチタンの含有率は、伸線加工前では約20重量%であった。また直径0.3mmまで伸線加工したものでは、約27重量%であった。これは、チタン銅合金の仕込み時のチタン含有量(3.2重量%)より明らかに多い。つまり第三相はチタン銅合金としてのチタン仕込み量よりも多くのチタンを含有し、少なくとも10重量%以上、好ましくは15重量%以上、最も好ましくは20重量%以上のチタンを含んでいる。なお、第三相でのチタンの含有量が多くなっても強度と導電性を両立させるのを妨げるものとは考えられないので、第三相のチタンの含有率の上限は100重量%であってもよい。
また、伸線加工する前の母材の状態で銅母相(第一相)中のチタンの含有量は0.58重量%であった。これを直径0.1mmまで伸線加工を行った場合のチタン含有量は、0.92重量%であった。伸線加工によって、チタン含有量は少し増えていたが、明らかに第一相中のチタン含有量は仕込み量よりも少なく、多くとも1.0重量%以下である。また、第一相中のチタンの含有量が少なくなっても強度と導電性を両立させるのを妨げるものとは考えられないので、第一相中のチタン含有量の下限は0重量%であってもよい。なお、第一相中のチタンの含有量は、抽出分離法によって第一相を溶解した溶液中のチタンをICP分析によって測定することで求めた。
図4は、ピーク時効処理母材と過時効処理母材の円柱棒材の横断面を見たSEM写真を示す。図4(a)は、ピーク時効処理母材の50,000倍の写真であり、図4(b)は過時効処理母材の600倍の写真である。写真中の白太線(同じ長さの黒太線を写真の下に記した。)はそれぞれ100nmと10μmである。なお、伸線加工した線材の長さ方向に対して直角な断面を横断面とよび、線材の長さ方向の断面を縦断面と呼ぶ。
ピーク時効処理母材(図4(a))は、600倍の倍率では、滑らかな断面(図示していない。)しか見えないが、倍率を50,000倍まで上げると、数十nmの大きさの析出物が一様に分散しているのが観察された。一方、過時効処理母材(図4(b))は、束ねた紙の断面のように、積み重なったラメラー状(層状)組織と銅母相から構成されるセル状組織が、600倍程度の倍率でも観察された。
なお、このセル状組織は、600倍の視野で見て、視野全体の90%を占めていた。この測定には、点算法を用いた。点算法は600倍の視野にて任意に選んだ400点数(20x20のグリッド上の格子点)の内、セル状組織に該当する点数の割合を用いた。
本合金中のCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の重量分率は抽出分離法によって測定できる。すなわち、硝酸に溶解する前の試料重量と、抽出分離法により回収したCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の重量の比がCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)の重量分率となる。また、第二相および第三相の重量分率は抽出分離法により回収した析出物相をXRD測定し、リートベルト解析することにより算出することができる。
本実施例における過時効線材の場合、伸線加工前ではCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)は試料全体に対して17重量%であり、第三相は16.5重量%以上(Cu−Ti系析出物相の内の97%は第三相)を占める。直系3.0mmから0.1mmまで伸線加工するとCu−Ti系析出物相(第二相+第三相)は試料全体に対して1.6重量%であり、第二相は検出されなかった。(つまり、第三相が1.6重量%を占める。このように、本発明に係るチタン銅合金線材においては、過時効処理母材の組成および減面率で第三相の重量分率は変わるものの、重量分率は1重量%〜30重量%までを確認している。
図5は、過時効処理母材を直径1.28mm(減面率81.79%:34%IACS)まで伸線加工した場合の横断面のSEM写真である。倍率は10,000倍である。ラメラー状の組織は、平たく伸ばされて分断されている。また、掲載していないが縦断面をみると第三相は、長さ方向に配向され、5μm以上に引き伸ばされていた。つまり、第三相は短冊状のように変形され、短冊状の第三相を束ねて、その切断断面を見ているのが図5である。そして、この状態が図2(b)の矢印Aで示した導電率が増加傾向になっている状態である。
この状態の過時効線材は、硬さはピーク時効線材より低いものの、導電率は倍以上になり、従来にない有用な材料となり得る。すなわち、本発明に係る過時効線材は、短冊状の第三相が観測されれば、導電率は上昇を始めると言える。この具体的な観測方法は、図5に示すように、横断面を10,000倍の倍率で見たSEM写真において、長さ数μmの白い線が視野全体に渡って観測されればラメラー状が分断されていると判断してよい。
図6(a)は、過時効処理母材を直径0.58mmm(減面率96%:真歪3.36:263HV)の場合の横断面のSEM写真である。倍率は10,000倍である。ラメラー状の組織はさらに分断され、長さ1μm程度の白く細かい組織(第三相)が数個から十数個単位で並んでいる単位に分かれているのが観察できた。また、この倍率でのSEM写真で白い部分で3μmを越える組織はなかった。つまり、3μm以下の長さであった。ラメラー状の組織は長さ方向に伸ばされて、さらに長細くなっていると推測された。
図6(b)は過時効母材を直径0.40mm(減面率98%:真歪4.03:275HV)の場合のSEM写真である。倍率は35,000倍である。白い組織(第三相)は、長さが数百nm(1μm以下)にまで分断されていた。
図7は、過時効処理母材を直径0.3mmまで加工した(減面率99%、真歪4.6:295HV)過時効線材の横断面のSEM写真である。図7(a)は5,000倍であり、図7(b)は35,000倍である。図4(b)で示した加工前の大きなラメラー状組織は変形して湾曲し、分断されファイバー状となっていると考えられた。図7(b)では、断面の幅が100nm程度の細かい組織が白く観察される。この部分が第三相である。
図8は、図7の過時効線材の長さ方向の縦断面の40,000倍のSEM写真(HAADF(High−Angle Annular Dark Field)像)である。長さ方向の黒い筋が第二相である。写真の左側に組織の方向を示す矢印(長さ1μmに相当)を記した。また、組織の方向は過時効線材の長さ方向に走っている。
写真中の黒い筋(第三相)は、長さ方向に少なくとも1μm程度の長さがあるのが確認できる。図6(b)の写真を考慮すると、過時効線材の第三相は、断面は幅が100nm程度の長方形で、長さが1μm程度(若しくはそれ以上の長さ)の針状に形成されていると考えられる。なお、針状とは、縦断面で見た長さが横断面の最も長い長さの5倍以上の形状をいうものとする。また、比率が針状と呼べるものでも、長さが2μmより大きなものをファイバー状組織と呼んでも良い。
次に図9から抽出分離法によって得られた第三相の状態を示す。図9(a)は過時効処理部材(直径3mm)の6,000倍の写真であり、図9(b)は直径1.28mm(減面率81.8%)の5,000倍の写真である。なお、横断面は図4(b)と図5に相当する。
図9(a)には、ラメラー状組織であった第三相が層状の組織として残っているのが観察される。つまり、ラメラー状組織は、抽出分離法で第三相を取り出して観察すると、積み重なっている層状の組織として観察できる。一方、図9(b)のように減面率80%以上に伸線加工をすると大きな層状の組織は観察されなくなった。
このように過時効処理母材の第二相と伸線加工を行った過時効線材の第三相を比較すると、減面率80%以上に伸線加工をすると、大きな層状の第三相の組織が消失する。そして、減面率80%以上になると、少なくとも3μm×3μmの大きさを有するラメラー状組織は消失した。
図10(a)には、直径0.58mm(減面率96.3%)の8,000倍の写真であり、図10(b)は直径0.30mm(減面率99%)の8,000倍の写真である。横断面は図6(a)と図7に対応する。減面率が90%を超えても、小さいながら層状の組織は観測された。具体的には2μm×2μm以上の面積を持つような大きさの層状の組織は観測されなかった。しかし、減面率が99%を超えると、層状の組織自体が観察されなくなり、視野中全てが針状の組織になった。
図11(a)は、直径0.30mm(減面率99%)の20,000倍の写真であり、図11(b)は直径0.10mm(減面率99.9%)の20,000倍の写真である。減面率が99%を超えると、長さが2μm以下の針状組織も散見されるようになり、減面率が99.9%では、ほぼ全ての組織が2μm以下の針状組織となった。以上のように、層状組織であった過時効処理母材の第三相は、伸線加工によって、引き伸ばされ、針状組織となり、さらに引き伸ばされて長さ2μm以下の組織に千切れていく。
比率としては針状組織であっても、長さが2μm以下の組織を粒状と呼ぶと、層状組織が針状組織となり、そして微細粒状組織に変形されていったといえる。
以上のように、本発明に係るチタン銅合金線材は、抽出分離法で第三相を抽出し、SEMで観察すると、3μm×3μm四方より大きな層状組織が5,000倍の倍率の観察で消失している(減面率80%以上)。また、8,000倍の倍率で観察した際に、視野全面が針状組織(減面率99%以上)になっていればより硬度は高くなり2μm×2μm四方より大きな層状組織は消失している。さらに、20,000倍の倍率で観察した際に視野全面がほぼ粒状組織(減面率99.9%以上)になっていれば硬度は非常に高くなる。
以上のように本発明に係るチタン銅合金線材は、減面率99%程度(295HV)まで伸線加工を施すと、第三相は針状組織となっている。このような場合には、断面写真から第三相の体積分率を求めることができる。長さ方向にはほぼ針状の組織なので、横断面の写真における第三相(SEM写真で白く見える部分)の面積比がそのまま体積比と言えるからである。
体積分率の求め方をより具体的に説明する。図12には、図7(b)の写真から第三相の体積比(写真内での面積比)を求める方法を示す。なお、試料は過時効線材であり、銅母相(第一相)中に生成される析出物相の95%以上は第三相(斜方晶)で占有されることは抽出分離法で確認済である。また、第三相(斜方晶)が伸線加工によって異なる結晶構造に変化することはない。
図12を参照して、まず、SEMで最もコントラストが見やすい状態の写真を撮影した(図12(a))。次にこれを既存の画像処理ソフトに読み込んだ。画像処理ソフトは特に限定するものではないが、読み込んだ画像を2値化でき、白の部分のヒストグラムを求めることができる機能を有するものが望ましい。ここでは「Adobe Photo Shop CS(アドビシステム株式会社製)」を用いた。
次に、イメージ/モードで「グレースケール」を選択した。次にイメージ/色調調整で「レベル補正」を選択し、入力レベルをヒストグラム波形の最大、最小値にあわせた(図12(b))。
イメージ/モードで「モノクロ2階調」を選択し、「種類」を「50%を基準に2階調に分ける」を選択した(図12(c))。
さらにイメージ/モードで「グレースケール」を選択して、サイズ比:1とする。そして、ヒストグラムにて白のピクセル数と全ピクセル数を読み取れば、その割合が体積分率として求まる。ここでは、全ピクセルの値が「223256」であり、ピクセル数が「44037」であったので、図7(b)のSEM写真では白色の部分の面積比率は視野全体に対して19.7%と算出された。
上記に説明したように、この面積比率は体積分率と読み直してもよい。したがって、減面率99%(直径3.0mmから直径0.3mm)まで伸線加工した実施例のサンプルでは第三相の体積分率は19.7%であっといえる。
なお、過時効処理母材から減面率を66%(240HV)に伸線加工したサンプルにおいてはこの体積分率は35%以上であった。また、チタン含有率の異なる他のサンプルでは、直径0.1mmまで伸線加工したものの体積分率は1.2%であった。もちろんこれらのサンプルの第三相は斜方晶であった。
したがって、本発明に係るチタン銅合金線材においては、横断面から求めた第三相の体積分率は1%以上35%以下であるといってよい。なお、第三相の重量分率は抽出分離法を用いており、体積分率は横断面のSEM写真撮影で得た画像から求めた値であるので、密度から換算した両者の範囲が一致していなくてもよい。
以上のように、本発明に係るチタン銅合金線材は、溶体化処理の後、過時効処理を加えることで、第三相が斜方晶を形成し、強度は低くなるものの高導電性を付与する。その母材に高い減面率が与えられることで、高い硬度(強度)を付与でき、高導電性を維持することができる。
本発明に係るチタン銅合金線材は、主として信号用のコネクタ材料に好適に使用することができる。

Claims (9)

  1. 1乃至15重量%のチタンと、残りが銅および不可避的不純物からなるチタン銅合金線材であって、
    チタンの含有率が仕込み量よりも低い銅母相の第一相と、
    チタンの含有量が仕込み量より高いCu−Ti系析出物相であって、
    立方晶あるいは正方晶となる第二相と
    斜方晶となる第三相とからなり、
    前記Cu−Ti系析出物相のうち前記第三相の割合は50%以上100%以下であり、
    前記第三相の形状は、ラメラー状組織が消失していることを特徴とするチタン銅合金線材。
  2. 前記ラメラー状組織は3μm×3μmより大きな組織であることを特徴とする請求項1に記載されたチタン銅合金線材。
  3. 前記Cu−Ti系析出物相の重量分率は、前記チタン銅合金線材の総量に対して1重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかの請求項に記載されたチタン銅合金線材。
  4. 前記Cu−Ti系析出物相のチタンの含有量は10重量%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載されたチタン銅合金線材。
  5. 前記第一相のチタンの含有量は1.0重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の請求項に記載されたチタン銅合金線材。
  6. 前記第三相のビッカース硬度が200HV以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の請求項に記載されたチタン銅合金線材。
  7. 1乃至15重量%のチタンと銅を混合して鋳物を得る工程と、
    前記鋳物を高温下で成形し棒材を得る熱間圧延工程と、
    前記棒材を高温から急冷し過飽和固溶体を得る溶体化処理工程と、
    前記過飽和固溶体の析出相に、結晶構造が斜方晶となる第三相が前記析出相のうち50%以上析出する過時効処理を行い過時効処理母材を得る工程と、
    前記過時効処理母材を伸線加工し、チタン銅合金線材を得る工程を有することを特徴とするチタン銅合金線材の製造方法。
  8. 前記伸線加工する工程では、前記チタン銅合金線材の減面率が80%以上100%未満であることを特徴とする請求項7に記載されたチタン銅合金線材の製造方法。
  9. 前記伸線加工する工程では、前記チタン銅合金線材の直径が0.3mm以下であることを特徴とする請求項7または8のいずれかの請求項に記載されたチタン銅合金線材の製造方法。
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