本開示のラクトン環含有重合体(A)は、主鎖にラクトン環構造を有する重合体であって、Tgが130℃以上であり、Mwが10万以上であり、MFRが7[g/10分]以上である。このようなラクトン環含有重合体(A)は、従来、存在しない。より具体的には、次のとおりである。
Tgについて、ラクトン環含有重合体(A)は、主鎖に位置するラクトン環構造によって130℃以上の高い値を示す。ラクトン環含有重合体(A)の前駆重合体(B)が有しうるメタクリル酸メチル(MMA)単位から構成されるアクリル重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)のTgは101℃である。PMMAのTgはアクリル重合体のなかでは最も高いTgに分類されるが、ラクトン環含有重合体(A)は、少なくともこれよりも30℃近く高いTgを示す。
このように、主鎖に位置するラクトン環構造により重合体のTgは上昇し、当該環構造の含有率が大きくなるほどTgが上昇する程度が大きくなる一方で、当該環構造の含有率が大きくなるほど重合体のMFRが低下する。また、重合体のMwが大きくなることによっても、重合体のMFRは低下する。いわば、重合体のTgおよびMwは、重合体のMFRとトレードオフの関係にある。従来のラクトン環含有重合体では、この関係の強い支配により、130℃以上の高いTgを有するとともに10万以上のMwを有しながらも、7[g/10分]以上のMFRを維持することができなかった。これは、ラクトン環含有重合体の従来の製造方法に起因する点が大きい。
この点について本発明者らが見出した事項は、次のとおりである。
ラクトン環含有重合体の代表的な従来の製造方法として、特許文献1には、ヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位Xと、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位Yとを構成単位として有する前駆重合体に対して環化反応を進行させてラクトン環含有重合体を形成することが記載されている。ここで、環化反応は互いに隣接する単位Xと単位Yとの間で進行するが、この前駆重合体は純然たるランダム重合体であり、その分子鎖には、ヒドロキシ基を含有する単位Xが3以上連続する部分が必ず存在する。すると、この部分において、当該部分の両端に位置する単位X以外の単位Xは、環化反応時および環化反応後もそのまま残留することになる。残留する単位Xは、前駆重合体における単位Xの含有率が大きいほど多い。一方、ラクトン環含有重合体におけるラクトン環構造の含有率を増やすためには、単位Yとの環化反応による当該環構造の形成のために、前駆重合体における単位Xの含有率を大きくしなければならない。
すなわち、Tgが高い従来のラクトン環含有重合体では、ヒドロキシ基を含有する単位Xの含有率(前駆重合体からの残留量)が高く、このようなラクトン環含有重合体では、残留したヒドロキシ基に起因して当該重合体の分子鎖内および分子鎖間に水素結合が強く働くことにより、MFRが大きく低下する傾向にある。また、残留したヒドロキシ基は、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時におけるゲル化の発生の原因ともなり、このことも重合体のMFRが大きく低下する傾向を強くする。残留ヒドロキシ基によって、重合体の分子鎖間の架橋、典型的にはアルコールが脱離する分子鎖間の架橋、が誘起されるためである。なお、脱離したアルコールは、ラクトン環含有重合体の形成時および成形加工時における発泡の発生の原因ともなる。
一方、本開示のラクトン環含有重合体(A)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位Pと、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位Qとを構成単位として有する前駆重合体(B)である共重合体に対して、保護基の脱離反応と、単位PおよびQ間の環化反応(ラクトン環を形成する反応)とを進行させることで得られる。共重合体(B)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む単量体群の重合により形成されるが、このとき、保護基の存在によって前者の単量体の単独重合性が低下するために、前駆重合体(B)において単位Pが連続する数および頻度が、上記従来の前駆重合体における単位Xが連続する数および頻度に比べて低下する。このため、前駆重合体(B)に環化反応を進行させる際に残留するヒドロキシ基の数、および当該反応を経て得たラクトン環含有重合体(A)に残留するヒドロキシ基の数が、従来の前駆重合体に環化反応を進行させる際に残留するヒドロキシ基の数、および従来のラクトン環含有重合体に残留するヒドロキシ基の数よりも減少する。このヒドロキシ基の残留量の減少は、単位Pの含有率が高い前駆重合体(B)からのラクトン環含有重合体の形成を、例えばゲル化および発泡を抑制しながら、安定して行えること、すなわち、得られたラクトン環含有重合体においてラクトン環構造の含有率についてとりうる値の範囲、特に高い含有率の範囲、が拡大し、Tgの制御の自由度の向上、特にTgのさらなる上昇、を実現できることを意味するとともに、ラクトン環含有重合体におけるラクトン環構造の含有率が大きく、高いTgが達成された場合においても当該重合体のMFRの低下が抑制されること、すなわち上記トレードオフの関係が緩和された、高いTgおよび十分なMwを示しながらもMFRを所定の値以上に保持できるラクトン環含有重合体が実現できることを意味する。本開示のラクトン環含有重合体(A)は、例えば、本発明者らが見出したこのような知見に基づいて達成される重合体であり、130℃以上の高いTgを有するとともに10万以上のMwを有しながらも、7[g/10分]以上のMFRを維持できるラクトン環含有重合体である。
10万以上のMwは、ラクトン環含有重合体を成形する際、なかでも成形法でいえば溶融成形する際、および成形体の形状でいえばフィルムに成形する際、に特に有利である。10万以上のMwによって、より安定した成形が実現する。7[g/10分]以上のMFRは、同じく、ラクトン環含有重合体を成形する際、なかでも成形法でいえば溶融成形する際、および成形体の形状でいえばフィルムに成形する際、に特に有利である。7[g/10分]以上のMFRによって、より安定した成形が実現する。130℃以上のTgは、耐熱性が要求される用途、例えば、液晶表示装置(LCD)のような画像表示装置内に収容され、当該装置の設計上、光源、回路基板、電源といった発熱体の近傍への配置が余儀なくされる光学フィルム、より具体的な例は位相差フィルムおよび偏光子保護フィルム、などの光学部材の用途、へのラクトン環含有重合体の適用性を拡大させる。
ラクトン環含有重合体(A)では、その具体的な構成によっては、上記ヒドロキシ基の残留量の減少により、当該重合体が示すその他の特性の制御の自由度の向上についても、Tg、MwおよびMFRとは独立して達成可能である。特性の制御の自由度が向上する例は、ゲルおよび発泡のような欠点、特にラクトン環含有重合体(A)を光学用途に使用する場合に光学的な欠陥となるような欠点、の発生を少なくできること;残留したヒドロキシ基により誘発される構造的な欠陥が抑制されることによる強度および/または硬度といった機械的特性をより高い領域にまで制御できること;ならびに上記構造的な欠陥が抑制されることによる光学的特性、例えば位相差発現性、をより高い領域にまで制御できること、である。130℃以上の高いTgを有するとともに10万以上のMwを有しながらも、7[g/10分]以上のMFRを維持できるという有利な特性はもちろんのこと、それ以外の特性の制御の自由度の向上によっても、光学用途など、従来の用途におけるさらなる要請に対して応えることができるとともに、例えば、さらなる耐熱性が求められる用途へのラクトン環含有重合体の適用拡大などが期待される。なお、位相差発現性は、例えば、応力光学係数Crにより評価できる。
ラクトン環含有重合体(A)のTgは130℃以上である。当該重合体の構成、より具体的に、重合体(A)の構成単位の種類およびその含有率ならびにラクトン環構造の分子構造およびその含有率、とりわけラクトン環構造の含有率、によっては、135℃以上、140℃以上、145℃以上、さらには150℃以上の値をとりうる。ラクトン環含有重合体(A)は、このような高いTgを示すとともに、10万以上のMwを有しながらも、7[g/10分]以上のMFRを維持できる。
ラクトン環含有重合体(A)のMFRは7[g/10分]以上であり、当該重合体の構成、より具体的に、重合体(A)の構成単位の種類およびその含有率ならびにラクトン環構造の分子構造およびその含有率によっては、9[g/10分]以上、10g[g/10分]以上、11[g/10分]以上、さらには12g[g/10分]以上の値をとりうる。
ラクトン環含有重合体(A)のMwは10万以上であり、15万以上、さらには20万以上でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)は、Tg、MFRおよびMwについて、これらの範囲を任意の組み合わせで有しうる。
ラクトン環含有重合体(A)では、従来のラクトン環含有重合体が強く支配下におかれていたTgおよびMwとMFRとのトレードオフの関係、特にTgとMFRとのトレードオフの関係、が緩和されている。このことは、例えば、ラクトン環含有重合体(A)が、従来のラクトン環含有重合体に比べて、Tgの増加に対するMFRの減少の程度が小さい重合体であることを意味している。
また、上記トレードオフの関係が緩和されていることは、例えば、ラクトン環含有重合体(A)において、ラクトン環構造を主鎖に含んでいない状態からのTgの増加に対するMFRの減少の程度が、従来のラクトン環含有重合体に比べて小さい重合体であることを意味している。なお、「ラクトン環構造を主鎖に含んでいない状態」とは、前駆重合体(B)の状態;あるいは具体的な例としてアクリル重合体である前駆重合体(B)およびラクトン環含有重合体(A)である場合には、前駆重合体(B)を構成する少なくとも1つの(メタ)アクリル酸エステル単位から構成される重合体である状態;を意味する。一例として、前駆重合体(B)がメタクリル酸メチル(MMA)単位を構成単位として有する場合、PMMAが「ラクトン環構造を主鎖に含んでいない状態」でありうる。
Tgの増加に対するMFRの減少の程度は、Tgに対するMFRの傾き(Tgの増加量に対するMFRの増加量の比率)により表現できる。ラクトン環含有重合体(A)では、Tgに対するMFRの傾き(単位は[g/(10分・℃)];PMMA基準)が、例えば−0.38以上であり、当該重合体(A)の構成によっては、−0.35以上、−0.30以上、−0.25以上、−0.20以上、さらには−0.15以上でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)のTgが130℃以上であることを考慮すると、重合体(A)では、Tgが130℃以上の領域におけるTgに対するMFRの上記傾きが、例えば−0.38以上であり、当該重合体(A)の構成によっては、−0.35以上、−0.30以上、−0.25以上、−0.20以上、さらには−0.15以上でありうる。同様にラクトン環含有重合体(A)では、当該重合体(A)がとりうる上述したTgの各領域におけるTgに対するMFRの上記傾きが、例えば−0.38以上であり、当該重合体(A)の構成によっては、−0.35以上、−0.30以上、−0.25以上、−0.20以上、さらには−0.15以上でありうる。
より具体的に、ラクトン環含有重合体(A)は、例えば、TgとMFRとが式(MFR)≧−0.38×(Tg−101)+22に示される関係を満たしうる。ここで、「101」はPMMAのTg(℃)であり、「22」はPMMAのMFR[g/10分]である。この関係式の傾きの値(単位は[g/(10分・℃)])は、上述した、ラクトン環含有重合体(A)がとりうるTgに対するMFRの傾きの値でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)は、その形成時に残留したヒドロキシ基により誘発される構造的な欠陥が抑制されることによって、高い機械的特性、例えば硬度および/または強度、を有しうる。このことは、ラクトン環含有重合体(A)によって、高い機械的特性、例えば硬度および/または強度、を示す樹脂成形体(例えばフィルム)を形成できることを意味する。
より具体的に、例えば、ラクトン環含有重合体(A)は、フィルムとしたときのマルテンス硬さが200N/mm2以上、重合体(A)の構成によっては210N/mm2以上、さらには220N/mm2以上でありうる。すなわち、ラクトン環含有重合体(A)によって、200N/mm2以上、重合体(A)の構成によっては210N/mm2以上、さらには220N/mm2以上のマルテンス硬さを有するフィルムを形成できる。マルテンス硬さは硬度の一種である。マルテンス硬さを測定するフィルムは、通常、未延伸フィルムであり、測定時にフィルムの厚さ方向に力を加えることから、測定するフィルムの厚さは10μm以上であることが好ましい。
また、ラクトン環含有重合体(A)は、強度として高い破壊強度を有しうる。ラクトン環含有重合体は、一般に、ラクトン環構造の含有率が大きくなる、すなわちTgが高くなるに従って硬く脆くなり、その破壊強度が低下する傾向を示すが、本開示のラクトン環含有重合体(A)では、Tgの増加に対する破壊強度の低下の程度を抑制できる。Tgの増加に対する破壊強度の低下の程度は、Tgの増加に対するMFRの低下の程度と同様に、Tgに対する破壊強度の傾き(Tgの増加量に対する破壊強度の増加量の比率)により表現できる。そして、ラクトン環含有重合体(A)は、ラクトン環構造を主鎖に含んでいない状態からのTgの増加に対するフィルムとしたときの破壊強度の減少の程度が、従来のラクトン環含有重合体に比べて小さい重合体でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)では、Tgに対するフィルムとしたときの破壊強度の傾き(単位はmJ/℃;PMMA基準)が、例えば−0.51以上であり、当該重合体の構成によっては、−0.40以上、−0.35以上、さらには−0.30以上でありうる。破壊強度を測定するフィルムは、通常、未延伸フィルムであり、測定時にフィルムの厚さ方向に力を加えることから、測定するフィルムの厚さは50μm以上であることが好ましい。
ラクトン環含有重合体(A)のTgが130℃以上であることを考慮すると、重合体(A)では、Tgが130℃以上の領域における、Tgに対するフィルムとしたときの破壊強度の上記傾きが、例えば−0.51以上であり、当該重合体(A)の構成によっては、−0.40以上、−0.35以上、さらには−0.30以上でありうる。同様にラクトン環含有重合体(A)では、当該重合体(A)がとりうる上述したTgの各領域における、Tgに対するフィルムとしたときの破壊強度の上記傾きが、例えば−0.51以上であり、当該重合体(A)の構成によっては、−0.40以上、−0.35以上、さらには−0.30以上でありうる。
より具体的に、ラクトン環含有重合体(A)は、例えば、Tgと、フィルムとしたときの破壊強度とが、式(破壊強度)≧−0.51×(Tg−101)+25に示される関係を満たしうる。ここで、「101」はPMMAのTg(℃)であり、「25」はPMMAをフィルムとしたときの破壊強度(mJ)である。この関係式の傾きの値(単位はmJ/℃)は、上述した、ラクトン環含有重合体(A)がとりうる、Tgに対するフィルムとしたときの破壊強度の傾きの値でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)は、フィルムとしたときの破壊強度が4mJ以上、重合体(A)の構成によっては5mJ以上、10mJ以上、さらには14mJ以上でありうる。すなわち、ラクトン環含有重合体(A)によって、4mJ以上、重合体(A)の構成によっては5mJ以上、10mJ以上、さらには14mJ以上の破壊強度を有するフィルムを形成できる。
ラクトン環含有重合体(A)は、その形成時に残留したヒドロキシ基により誘発される構造的な欠陥が抑制されることによって、高い光学的特性、例えば複屈折特性、を有しうる。このことは、ラクトン環含有重合体(A)によって、高い光学的特性、例えば複屈折特性、を示す樹脂成形体(例えばフィルム)を形成できることを意味する。
より具体的に、複屈折特性は、例えば位相差発現性であり、位相差発現性は応力光学係数Crにより評価できる。ラクトン環含有重合体(A)は、例えば、50×10-11Pa-1以上のCr、重合体(A)の構成によっては、80×10-11Pa-1以上、100×10-11Pa-1以上、さらには120×10-11Pa-1以上のCrを示しうる。すなわち、ラクトン環含有重合体(A)によって、50×10-11Pa-1以上のCr、重合体(A)の構成によっては、80×10-11Pa-1以上、100×10-11Pa-1以上、さらには120×10-11Pa-1以上のCrを示すフィルムを形成できる。
なお、重合体の主鎖に位置するラクトン環構造は、その具体的な分子構造によるが、典型的には当該重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する。重合体自身が示す固有複屈折の正負は、ラクトン環構造の当該作用の強さと、重合体が有する他の構成単位が当該重合体に正負いずれの固有複屈折を与える作用を有するか、およびその作用の強さとの兼ね合いにより定められる。ラクトン環含有重合体(A)は、典型的には、正の固有複屈折を有する重合体であり、重合体(A)の使用により、例えば、正の位相差フィルムを形成できる。
ラクトン環含有重合体(A)は、上記その他の特性を任意の組み合わせで有しうる。
ラクトン環含有重合体(A)が示しうる特性は、これまでに説明した特性に限定されない。
ラクトン環含有重合体(A)は、ラクトン環構造をその主鎖に有する。ラクトン環構造の具体的な構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)に示す環構造である。式(1)のR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
有機残基は、、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、メチル基、エチル基などの炭素数1〜4のアルキル基でありうるし、水素原子またはメチル基でありうる。
R1およびR3は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であってもよく、その組み合わせの一例は、R1が水素原子、R3が水素原子またはメチル基である。
ラクトン環含有重合体(A)では、ラクトン環構造の含有率についてとりうる値の範囲、特に高い含有率の範囲、が従来のラクトン環含有重合体よりも拡大できる。具体的に、重合体(A)におけるラクトン環構造の含有率は、例えば、10〜100質量%とすることができる。
ラクトン環含有重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有しうる。ラクトン環含有重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が50質量%以上のとき、重合体(A)はアクリル重合体である。このとき、重合体(A)は、アクリル重合体であるが故の特性、例えば、高い透明性、高い表面光沢および耐候性、ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度の高いバランスを有しうる。
後述の製造方法によりラクトン環含有重合体(A)を形成した場合、前駆重合体(B)が有するアクリル酸エステル単位Pおよび(メタ)アクリル酸エステル単位Qであって、保護基の脱離反応および環化反応時に未反応のまま残留した単位P、単位Pからヒドロキシ基の保護基が脱離した単位(アクリル酸エステル単位)および単位Qを、重合体(A)が構成単位として有しうる。なお、単位Pが残留した場合、保護基を含有するラクトン環含有重合体(A)となりうる。すなわち、ラクトン環含有重合体(A)は、主鎖にラクトン環構造を有するとともに、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位Pを構成単位として有する重合体でありうる。
保護基を含有するラクトン環含有重合体では、保護基の含有量にもよるが、当該保護基の存在を反映した特性および/または機能、例えば保護基自体が有する特性および/または機能を反映した特性および/または機能、をさらに得ることも可能となる。一例として、保護基がケイ素系基である場合、Si含有重合体としての特性および/または機能をラクトン環含有重合体(A)が示すことが期待される。その具体例は、屈折率、表面硬度、濡れ性などの特性の変化、および他の樹脂との相溶性の変化である。
主鎖に位置するラクトン環構造が(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体、より具体的な例は(メタ)アクリル酸エステル単位の環化反応により形成された誘導体、としての分子構造を有するときには、重合体(A)における当該ラクトン環構造の含有率と(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率との合計が50質量%以上であれば、重合体(A)はアクリル重合体である。例えば後述の製造方法により形成したラクトン環構造は、明らかに、(メタ)アクリル酸エステル単位の環化反応により形成された誘導体である分子構造を有する。
主鎖に位置するラクトン環構造が(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体としての分子構造を有する場合、ラクトン環含有重合体(A)における当該ラクトン環構造の含有率と(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率との合計は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)が構成単位として有しうる(メタ)アクリル酸エステル単位は限定されない。ラクトン環含有重合体(A)は、後述する、前駆重合体(B)が有しうる(メタ)アクリル酸エステル単位(保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位を含む)を構成単位として有しうる。
ラクトン環含有重合体(A)が、前駆重合体(B)が有しうる(メタ)アクリル酸エステル単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する場合、重合体(A)における当該単位の含有率は0〜10質量%が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。このようなラクトン環含有重合体(A)では、残留するヒドロキシ基の量をより確実に低減でき、上述した各効果をより確実に達成できる。
ラクトン環含有重合体(A)は、主鎖のラクトン環構造および(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有しうる。当該単位は、例えば、不飽和カルボン酸の重合により形成される単位、および以下の式(2)に示す単量体の重合により形成される単位である。式(2)のR4は、水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−C(=O)R5基、または−C−O−R6基である。Acはアセチル基、R5およびR6は、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
不飽和カルボン酸は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸である。なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
式(2)に示される単量体は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルである。なかでも、スチレンおよびアクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。スチレンは、例えば、ラクトン環含有重合体(A)を用いて形成した光学フィルムが示す複屈折特性(位相差特性)の調整に利用できる。
ラクトン環含有重合体(A)が主鎖のラクトン環構造および(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有する場合、重合体(A)における当該単位の含有率は、0〜10質量%が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。このようなラクトン環含有重合体(A)では、残留するヒドロキシ基の量をより確実に低減でき、上述した各効果をより確実に達成できる。ラクトン環含有重合体(A)が前駆重合体(B)が有しうる(メタ)アクリル酸エステル単位以外の(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有するとともに、主鎖のラクトン環構造および(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有する場合、重合体(A)におけるこれらの単位の含有率の合計が、これらの好ましい範囲でありうる。
重合体におけるラクトン環構造の含有率および重合体を構成する各構成単位の含有率は、公知の方法、例えば、1H−核磁気共鳴(NMR)法および/または赤外分光分析(IR)法により評価できる。
ラクトン環含有重合体(A)は、典型的には熱可塑性重合体である。重合体(A)は、例えば、非晶性重合体でありうる。
ラクトン環含有重合体(A)は、例えば上述のように、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位Pと、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位Qとを構成単位として有する前駆重合体(B)である共重合体に対して、保護基の脱離反応と、単位PおよびQ間の環化反応(ラクトン環を形成する反応)とを進行させることで形成できる。もっとも、ラクトン環含有重合体(A)は、Tgが130℃以上であり、Mwが10万以上であり、MFRが7[g/10分]以上である限り、この製造方法により形成した重合体に限定されない。
単位Pは、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単位である限り限定されない。単位(A)は、例えば、以下の式(3)に示す単位である。
式(3)のR1およびR2は、とりうる具体的な基の例示を含め、式(1)のR1およびR2と同じである。R7は、保護基である。
式(3)に示す構成単位は、以下の式(4)に示す単量体の重合により形成された構成単位である。式(4)のR1,R2およびR7は、式(3)のR1,R2およびR7と同じである。
式(4)に示す単量体は、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのヒドロキシ基が保護基R7により保護されるとともに、当該ヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合していた一つの水素原子がR1基により置換された、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体である。すなわち、式(3)に示す構成単位は、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体単位と表現することもできる。
ヒドロキシ基が保護基R7により保護される前の状態における当該誘導体は、例えば、2−ヒドロキシメチルアクリル酸、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸(以上、R2が水素原子)、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸メチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸エチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸n−プロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸n−プロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸イソプロピル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸イソプロピル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸t−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−オクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸イソオクチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸ステアリル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸シクロペンチル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸シクロペンチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシエチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシブチル)アクリル酸フェニル、2−(1−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル)アクリル酸フェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メトキシフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−ニトロフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸o−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−メチルフェニル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸p−t−ブチルフェニルである。これらの単量体のうち、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸n−ブチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシメチルアクリル酸2−ヒドロキシプロピルが、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体(重合により単位Qとなる単量体)との共重合性、および前駆重合体(B)としての環化反応の安定性の観点から好ましく、さらに、形成したラクトン環含有重合体(A)において、ラクトン環構造の含有率が同じ場合にTgがより向上することから、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(RHMA)が好ましい。
保護基R7は、例えば、ケイ素系基、アセタール系基、ベンジル基およびその誘導体、アセチル基、ならびにベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種である。これらの基は、前駆重合体(B)を形成する際に、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有する単量体(例えば2−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル誘導体)の単独重合性を低下させる作用が高いとともに、前駆重合体(B)からラクトン環含有重合体を形成する際に当該単量体から脱離しやすく、前駆重合体(B)の環化を阻害しにくい。
保護基であるケイ素系基は限定されず、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、およびトリイソプロピルシリル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるアセタール系基は限定されず、例えば、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、およびメトキシエトキシメチル基から選ばれる少なくとも1種である。保護基であるベンジル基およびその誘導体は、例えば、ベンジル基、p−メチルフェニルベンジル基およびp−メトキシフェニルベンジル基から選ばれる少なくとも1種である。
保護基は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、メチルチオメチル基、ベンゾイロキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、ベンジル基、アセチル基、およびベンゾイル基から選ばれる少なくとも1種でありうる。
上記単独重合性を低下させる作用が特に高いとともに、前駆重合体(B)からラクトン環含有重合体を形成する際に脱離がより確実である観点から、保護基は、ケイ素系基およびアセタール系基が好ましい。
保護基の種類によっては、当該基により保護されたアクリル酸エステル単量体の単独重合性が失われる。このとき、前駆重合体(B)における単位Pの連続が最も抑制される。すなわち、ラクトン環含有重合体(A)により達成される上記効果が最も顕著となる
単位Qは、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単位である限り限定されない。(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステルの各単量体の重合により形成される単位である。なかでも、単位Pとの環化反応性に優れるとともに、環化反応を経て形成されたラクトン環含有重合体のTgをより高くでき、さらに光学的透明性などの優れた光学特性を実現できることから、単位QはMMA単位が好ましい。この観点からは、前駆重合体(B)が単位QとしてMMA単位と他の(メタ)アクリル酸エステル単位とを構成単位として有する場合、前駆重合体(B)における他の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。なお、MMA単量体と、重合により単位Pとなる単量体であってMMAよりも重合速度が遅い単量体とを組み合わせて前駆重合体(B)を形成する際に、さらに(メタ)アクリル酸エステル単量体を少量共重合させることにより、重合率を向上できることがある。この方法を選択した場合、前駆重合体(B)が単位QとしてMMA単位以外に当該(メタ)アクリル酸エステル単位を、上記好ましい含有率の範囲でさらに有しうる。
前駆重合体(B)は、2種以上の単位Pおよび/または2種以上の単位Qを構成単位として有していてもよい。
前駆重合体(B)における単位Pの含有率(前駆重合体(B)の全構成単位に占める単位Pの割合)は、例えば、1〜60モル%である。なお、上述のように、前駆重合体(B)では単位Pの連続する数およびその頻度を低くでき、これにより、前駆重合体(B)からのラクトン環含有重合体の形成時におけるヒドロキシ基の残留が抑制される。これは、ラクトン環含有重合体の形成および成形加工を、例えばゲル化および/または発泡の発生を抑制しながら、より安定かつ確実に行えることを意味する。このため、前駆重合体(B)における単位Pの含有率として、従来の前駆重合体におけるヒドロキシ基を含有する単位の含有率に比べて、より大きな範囲をとることができる。前駆重合体(B)における単位Pの含有率についての上記範囲は、これを反映した値である。
前駆重合体(B)は、単位Pおよび単位Q以外の構成単位を有していてもよい。この場合、前駆重合体(B)から形成されたラクトン環含有重合体(A)は、当該構成単位を有しうる。
当該構成単位は、例えば、保護基によってヒドロキシ基が保護されていない、ヒドロキシ基含有アクリル酸エステル単位である。このような構成単位の一例を、以下の式(5)に示す。式(5)のR1およびR2は、式(3)のR1およびR2と同様である。なお、保護基によってヒドロキシ基が保護されていないヒドロキシ基含有アクリル酸エステル単位は、前駆重合体(B)が当該単位を構成単位として有していない場合においても、脱離反応により単位Pから保護基が脱離するとともに、脱離後の当該単位に対して環化反応が進行しなかったときに、ラクトン環含有重合体(A)に含まれうる。
また、前駆重合体(B)が有しうる単位Pおよび単位Q以外の構成単位は、例えば、不飽和カルボン酸の重合により形成される単位、および以下の式(2)に示す単量体の重合により形成される単位である。式(2)のR4は上述したとおりである。
不飽和カルボン酸および式(2)に示す単量体の具体例および好ましい例は、ラクトン環含有重合体(A)の説明において上述したとおりである。
前駆重合体(B)における単位Pおよび単位Q以外の構成単位の含有率は、0〜10質量%が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。このような前駆重合体(B)からは、環化反応後に残留するヒドロキシ基の量をより確実に低減でき、形成したラクトン環含有重合体(A)について、上述した各効果をより確実に達成できる。
前駆重合体(B)から、以下の式(1)に示すラクトン環構造を主鎖に有するラクトン環含有重合体(A)を形成する場合、式(1)におけるR3は水素原子(単位Qがアクリル酸エステル単位のとき)またはメチル基(単位Qがメタクリル酸エステル単位のとき)である。
前駆重合体(B)の形成方法は限定されない。
前駆重合体(B)は、例えば、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む単量体群の共重合により形成できる。前者および後者の単量体の例は、上記説明したとおりである。
単量体群の共重合方法は限定されない。当該単量体群が、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体と、ヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含むこと以外は、例えば、特開2007-70607号公報に開示されている重合工程と同様にして単量体群の共重合を実施できる。
より具体的に、共重合は、例えば溶液重合により行う。溶液重合により共重合体(B)を形成した場合、重合生成物には、前駆重合体(B)以外に重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して前駆重合体(B)を固体として取り出さなくてもよい。前駆重合体(B)の種類によっては、溶媒を含んだ状態のまま重合生成物を、前駆重合体(B)からラクトン環含有重合体を形成するための脱離反応および環化反応に供することもできる。もちろん、前駆重合体(B)を固体として取り出した後、改めて脱離反応および/または環化反応に適した状態にしてこれらの反応を進行させてもよい。
溶液重合により前駆重合体(B)を形成する場合、用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。なかでも芳香族炭化水素、ケトン類が好ましく、特にトルエン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
前駆重合体(B)の重合時には、必要に応じて重合開始剤を使用できる。重合開始剤は限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物である。2種以上の重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定でき、限定されない。
単位Pおよび単位Q以外の構成単位を有する前駆重合体(B)を形成するために、単量体群は、重合により当該構成単位が形成される単量体をさらに含みうる。
共重合に供する単量体群は、保護基により保護されたヒドロキシ基を含有するアクリル酸エステル単量体を2種以上、および/またはヒドロキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体を2種以上含みうる。
このような前駆重合体(B)に対して、保護基R7の脱離反応と、単位Pおよび単位Q間の環化反応とを進行させて、ラクトン環含有重合体(A)を形成する。
脱離反応では、前駆重合体(B)の単位Pから保護基R7を脱離させる。保護基を脱離できる限り、脱離反応を進行させる具体的な手段は限定されない。脱離反応は、例えば、前駆重合体(B)への熱の印加、前駆重合体(B)の環境の変化、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種により実施できる。環境の変化は、例えば、酸性雰囲気または塩基性雰囲気への変化、還元性雰囲気への変化であり、それぞれ、酸または塩基の使用、還元剤の使用により実施できる。脱離剤は、例えば、フッ素系化合物である。これらの手段を任意に組み合わせてもよい。組み合わせる各手段は、同時に実施しても段階的に実施してもよい。脱離反応を進行させる具体的な手段は、前駆重合体(B)の構成および保護基の種類により選択できる。
保護基と具体的な手段との組み合わせの例は、ケイ素系の保護基について、熱の印加、酸性雰囲気への変化(例えば酸の使用)、および脱離剤の使用から選ばれる少なくとも1種である。アセタール系の保護基について、熱の印加および/または酸性雰囲気への変化である。ベンジル基およびその誘導体である保護基について、還元性雰囲気への変化である。アセチル基およびベンゾイル基である保護基について、塩基性雰囲気への変化および/または還元性雰囲気への変化である。
脱離反応では、少なくとも一部の保護基を単位Pから脱離できればよいし、もちろん、全ての保護基を単位Pから脱離してもよい。一部の保護基を単位Pから脱離させることによって、環化反応後に、保護基が残留したラクトン環含有重合体(A)を得ることができる。すなわち、脱離反応を、当該反応後に保護基の一部が残留するように進行させて、保護基を有するラクトン環含有重合体(A)を形成してもよい。保護基を単位Pから(前駆重合体(B)から)脱離させる程度は、例えば、脱離反応の時間、脱離反応を進行させる温度、酸または塩基の添加量および添加濃度、還元剤の添加量および添加濃度、脱離剤の添加量および添加濃度、溶液系において脱離反応を進行させる場合には当該溶液系の組成、などにより制御できる。
熱を印加して脱離反応を進行させる場合、その温度は保護基の種類によっても異なるが、例えば、ケイ素系およびアセタール系保護基の場合、100〜300℃程度である。
酸性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、有機酸、例えばメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。酸性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
塩基性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。塩基性物質とともに、水、および/またはメタノール、エタノールなどのアルコールを添加してもよい。
還元性雰囲気への変化により脱離反応を進行させる場合、例えば、前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に還元性物質を添加すればよい。還元性物質は限定されず、例えば、金属水素化物である。金属と水素とを添加することにより、上記雰囲気において金属水素化物を生じさせてもよい。
脱離剤の使用により脱離反応を進行させる場合、例えば、前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に脱離剤を添加すればよい。脱離剤であるフッ素系化合物は、例えば、フッ化水素、フッ化テトラブチルアンモニウムなどのフッ化水素の塩、フッ化セシウムなどの金属フッ化物である。
環化反応では、脱離反応により保護基R7が外れることで露出した単位Pのヒドロキシ基と、単位Qのエステル基との間に環化縮合反応が進行することにより、ラクトン環構造が重合体の主鎖に形成される。環化反応は、前駆重合体(B)の分子鎖内で進行するエステル交換反応の一種であり、アルコールが副生する反応である。前駆重合体(B)から保護基が脱離した共重合体は、環化反応によりラクトン環含有重合体となる前駆重合体と捉えることもできる。
環化反応を進行させる具体的な手段は限定されない。環化反応は、例えば、保護基R7が脱離した前駆重合体(B)への熱の印加、および/または当該前駆重合体(B)の環境を変化させることにより実施できる。環境の変化は、例えば、脱離反応の説明において例示した変化であり、具体的な例は、保護基R7が脱離した前駆重合体(B)がおかれている雰囲気の酸性または塩基性への変化である。環化反応を制御する、典型的には環化反応を促進させる環化触媒を併用することもできる。環化触媒には公知の触媒を使用できる。
熱を印加して環化反応を進行させる場合、その温度は、例えば、100〜300℃であり、150〜250℃が好ましい。
酸性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R7が脱離した前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に酸性物質を添加すればよい。酸性物質は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物などの無機酸およびその化合物、有機酸、例えばメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸である。
塩基性雰囲気への変化により環化反応を進行させる場合、例えば、保護基R7が脱離した前駆重合体(B)がおかれている雰囲気に塩基性物質を添加すればよい。塩基性物質は限定されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの塩、水酸化物である。
環化反応は、脱アルコール縮合反応である。このため、環化反応の雰囲気を減圧することによって副生成物であるアルコールを積極的に除去し、これにより環化反応を促進させてもよい。
環化反応では、少なくとも単位Pと単位Qとの間の環化反応を進行させる。このとき、単位Pまたは単位Qと、前駆重合体(B)を構成する他の構成単位との間でさらなる環化反応が進行してもよい。
脱離反応と環化反応とは個別に進行させてもよいし、両反応の条件さえ整えば、同時に進行させてもよい。また、脱離反応、または脱離反応および環化反応の双方の反応は、これら反応の条件と前駆重合体(B)の重合条件とが整えば、前駆重合体(B)の形成から連続的に実施してもよい。
前駆重合体(B)と、保護基に対して0.001モル%〜50モル%の酸とを混合することにより、脱離反応および環化反応を進行させる手法を採用することもできる。このとき保護基は、例えばケイ素系基またはアセタール系基である。ケイ素系基およびアセタール系基は、ヒドロキシ基の保護基として用いた場合、酸により脱離する保護基である。
この手法(低容量酸法)では、脱離対象である保護基のモル数(保護基を脱離させるヒドロキシ基のモル数)の50モル%以下のモル数の酸を使用する。これは、平均的な一つの酸分子を想定したときに、当該酸分子が少なくとも2回以上保護基の脱離に関わることを意味し、この意味において、低容量酸法では保護基の脱離に触媒量の酸を使用している。
保護基を脱離させるためのこのような酸の使用では、例えば保護基脱離後の前駆重合体および環化反応後に得られるラクトン環含有重合体(A)に残留する酸の量を低減できる。このことは、これら前駆重合体およびラクトン環含有重合体(A)を工業的に生産する際に多大なメリットをもたらす。
メリットの一つは、残留した酸を除去する処理を簡略化または不要にできることである。後述のように、重合体に残留した酸は当該重合体に悪影響を与える可能性があるため、残留した酸を除去することが好ましい。この処理を簡略化または不要にできることは、ラクトン環含有重合体(A)の製造コストを低減させる。
メリットの別の一つは、重合体に残留した酸を除去することが事実上困難なケースが多いことによる。低分子化合物では、残留した酸を除去する種々の手法、例えば再沈殿、分液、中和、クロマトグラフなどを状況に応じて選択可能である。しかし、重合体では、とりわけ重合体が溶解する溶媒が限られる点から、選択できる手法が限られる。あるいは選択できる手法があったとしても残留した酸を十分に除去できないことが多い。低容量酸法によれば、このような問題を回避できる。
メリットのまた別の一つは、重合体に残留した酸は、後に酸が除去できるとしても当該重合体に悪影響を与える可能性があるが、低容量酸法ではこのようなリスクを回避できることにある。悪影響は、例えば、酸による重合体分子鎖の切断に基づく分子量の低下、着色の発生、特性の低下である。特性の低下は、例えば、酸により生じた分解物により誘因される。特性の例は、Tgなどの熱的特性、透明性および複屈折発現性などの光学的特性である。このメリットは、例えば、光学部材に使用するラクトン環含有重合体(A)を製造する際に、特に顕著となる。
より具体的に、ラクトン環含有重合体(A)は光学フィルムなどの光学部材に使用可能であるが、低容量酸法では、得られたラクトン環含有重合体(A)の光学的特性の低下が抑制される。熱的特性の低下、例えばTgの低下、の抑制も、得られたラクトン環含有重合体(A)を光学部材に使用する場合に有利に働く。Tgが高いラクトン環含有重合体(A)により構成される光学部材は耐熱性が高く、例えば、LCDなどの画像表示装置における電源、回路基板、光源などの発熱部の近傍への配置が可能であることから、画像表示装置の設計およびデザインの自由度が向上する。
もっとも、脱離反応への低容量酸法の採用は必須ではない。
低容量酸法によって脱離反応を進行させる具体的な手法は、前駆重合体(B)と、前駆重合体(B)が含有する保護基に対して0.001モル%〜50モル%の酸とを混合して保護基を前駆重合体(B)から脱離できる(前駆重合体(B)を脱保護できる)限り限定されない。保護基の脱離、すなわち脱離反応の進行は、前駆重合体(B)、上記酸、および保護基脱離後の共重合体を溶解する溶液系にて行うことが好ましい。
このような溶液系を構成する溶媒は、前駆重合体(B)、酸および保護基脱離後の共重合体の種類に応じて選択できる。溶媒は、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロメタン類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドである。酸および溶媒の組み合わせの一例は、酸が、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機スルホン酸;塩酸;およびリン酸、リン酸エステルなどのリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種であり、溶媒が、芳香族炭化水素、ケトン類およびエーテル類から選ばれる少なくとも1種である組み合わせである。
上記溶液系において脱離反応を進行させる場合、溶液系における前駆重合体(B)の濃度は、例えば10〜80質量%であり、好ましくは25〜60質量%である。
前駆重合体(B)と混合する酸の量は、前駆重合体(B)が含有する保護基に対して0.001モル%〜50モル%であり、好ましくは0.05モル%〜20モル%であり、より好ましくは0.5モル%〜10モル%である。前駆重合体(B)と混合する酸の量が0.001モル%未満になると、脱離反応を十分に進行させることができないか、仮に進行させることができたとしても脱離反応に必要な時間が非常に長くなる。前駆重合体(B)と混合する酸の量が50モル%を超えると、低容量酸法を採用するメリットが小さくなる。
低容量酸法に使用する酸は、例えば、塩酸、硫酸、リン酸化合物(リン酸、亜リン酸、リン酸エステル)などの無機酸およびその化合物、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、金属カルボン酸塩である。
酸として有機酸を選択しうる。酸が有機酸である場合、溶液系において脱離反応を進行させる際に非水溶性の溶媒を使いやすくなるため、溶媒として有機溶媒の選択の自由度が増す。有機酸は、例えば、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機スルホン酸、リン酸エステル、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、金属カルボン酸塩であり、有機スルホン酸が好ましく、有機スルホン酸のなかではパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。
低容量酸法の脱離反応は、極性溶媒の存在下で行ってもよく、このとき脱離反応をより効率よく進行させることができる。これは、低容量酸法の系において極性溶媒と保護基とが直接結合することで、保護基の脱離が促進されるためと考えられる。保護基の脱離を極性溶媒の存在下で行うには、例えば、極性溶媒をさらに加えた上記溶液系にて脱離反応を進行させればよい。
極性溶媒は限定されず、例えば、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種である。アルコールは、例えば、炭素数1〜10のアルコールであり、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールである。
低容量酸法の脱離反応を極性溶媒の存在下で行う場合、極性溶媒の量は、前駆重合体(B)の保護基に対して、例えば0.1モル%〜10000モル%であり、1モル%〜1000モル%が好ましく、5モル%〜500モル%がより好ましい。例えば、これらの範囲の量の極性溶媒をさらに加えた上記溶液系にて脱離反応を進行させることができる。極性溶媒の量がこれらの範囲にある場合、低容量酸法における脱離反応をさらに効率よく進行させることができる。なお、上記溶液系における過剰な極性溶媒の存在は、溶液系への前駆重合体(B)の溶解性を低下させる可能性がある。
低容量酸法の脱離反応は、熱を加えながら進行させてもよい。熱の印加、例えば上記溶液系への熱の印加により、脱離反応をより効率よく進行させることができる。熱を印加する場合、その具体的な温度は保護基の種類によっても異なるが、例えば、30〜300℃程度である。
前駆重合体(B)に存在する保護基の一部を脱離させる場合においても、脱離反応に用いる酸の量は上述の範囲、より具体的には前駆重合体(B)に存在する保護基の0.001モル%〜50モル%、である。
低容量酸法では、保護基の脱離反応とともに、保護基の脱離によって形成された共重合体への環化反応を併せて進行させうる。より具体的には、前駆重合体(B)の組成および/または後述の環化触媒によっては、脱離反応に用いた触媒量の酸の雰囲気下で環化反応を進行させることができ、このとき、脱離反応と環化反応とをともに進行させうる。環化反応を制御する触媒、典型的には環化反応を促進させる環化触媒を併用することもできる。環化触媒には公知の触媒を使用できる。
ラクトン環含有重合体(A)は、上述した各特性に基づき、種々の用途に使用できる。用途は、例えば、光学部材である。ラクトン環含有重合体(A)において実現する上述した熱的特性(TgおよびMFRを含む)および光学的特性を始めとする各特性は、光学部材の有利な特徴になりうる。また、ラクトン環含有重合体(A)がアクリル重合体である場合にさらに得られる各特性も、光学部材の有利な特徴になりうる。光学部材は、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクである。
光学部材の形状は特に限定されず、例えばフィルム(光学フィルム)である。光学フィルムの具体的な用途は特に限定されず、例えば、LCD、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの画像表示装置に用いられる複屈折フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、画素部(発光部)保護フィルム、偏光子保護フィルム、紫外線吸収フィルムである。ラクトン環含有重合体(A)が典型的には正の固有複屈折を示すことを利用して、正の位相差フィルムを形成することもできる。
ラクトン環含有重合体(A)のその他の用途は、例えば、看板・ディスプレイ、弱電・工業部品、感光性電子材料、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、ミラー、繊維、文具、テーブルウェアなどの雑貨類、化粧品、食品などである。
ラクトン環含有重合体(A)は、用途に応じて様々な形状に成形できる。成形可能な形状は、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コードおよびファイバーである。ラクトン環含有重合体(A)を、これらの形状に成形する方法は、公知の方法に従えばよい。
ラクトン環含有重合体(A)は単独で使用しても、ラクトン環含有重合体(A)と、他の重合体および/または添加剤とを含む樹脂組成物(C)として使用してもよい。
他の重合体は限定されないが、光学部材といった透明性が要求される用途に樹脂組成物(C)を使用する場合は、ラクトン環含有重合体(A)と他の重合体とが互いに相溶する必要があることに留意する。他の重合体は、例えば、熱可塑性重合体である。他の重合体の具体例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系ポリマー;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体である。ゴム質重合体は、ブロック共重合体またはブロック共重合体が配合された重合体であってもよく、ブロック共重合体の具体的な構造は、例えば、a−b型ジブロック共重合体、a−b−a型トリブロック共重合体、b−a−b型トリブロック共重合体、a−b−c型トリブロック共重合体、a−b−a−b型テトラブロック共重合体およびb−a−b−a型テトラブロック共重合体に代表される線状マルチブロック共重合体、(b−a)n、(a−b)nなどで表される星型(ラジアルスター型)ブロック共重合体、a−g−bなどで表されるグラフト共重合体(gはグラフト鎖)である。
添加剤は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、耐電防止剤、可塑剤、流動化剤、着色剤、染料、難燃剤、フィラーである。
樹脂組成物(C)は、2種以上のラクトン環含有重合体(A)を含んでいてもよいし、2種以上の他の重合体および/または2種以上の添加剤を含んでいてもよい。
樹脂組成物(C)におけるラクトン環含有重合体(A)の含有率は、樹脂組成物(C)として求められる特性に応じて自由に設定できる。ラクトン環含有重合体(A)は、樹脂組成物(C)の主成分であってもよい。主成分とは、樹脂組成物中で最も含有率が大きい成分をいう。主成分の含有率は、例えば、50質量%以上であり、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。
樹脂組成物(C)における他の重合体の含有率は、樹脂組成物(C)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(C)における他の重合体の含有率の合計は、例えば50質量%以下であり、40質量%以下でありうる。樹脂組成物(C)における添加剤の含有率も、樹脂組成物(C)として求められる特性に応じて自由に設定できる。樹脂組成物(C)における添加剤の含有率の合計は、ラクトン環含有重合体(A)100質量部に対して、例えば5質量部以下である。
樹脂組成物に含まれる各重合体の含有率は、公知の手法、例えば1H−NMR法および/またはIR法により評価できる。
樹脂組成物(C)の形成方法は限定されない。例えば、ラクトン環含有重合体(A)と、上記他の重合体および/または添加剤とを公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、公知の混練機を使用できる。
樹脂組成物(C)は、ラクトン環含有重合体(A)をはじめ、当該組成物(C)が含む重合体および添加剤の種類および含有率に基づく特性を有する。また、樹脂組成物(C)について、ラクトン環含有重合体(A)により達成される上述した効果と同様の効果、および/または当該上述した効果に起因する効果の実現が期待される。
樹脂組成物(C)は、ラクトン環含有重合体(A)と同様の用途に使用できる。なお、樹脂組成物(C)が、典型的には正の固有複屈折を示すラクトン環含有重合体(A)とともに、負の固有複屈折を示す重合体を含むことにより、例えば、ゼロ付近の位相差(面内位相差および厚さ方向の位相差)を示す光学フィルムを形成することも可能である。
ラクトン環含有重合体(A)または樹脂組成物(C)を成形加工して、ラクトン環含有重合体(A)を含む樹脂成形体(D)を形成できる。樹脂成形体(D)は、ラクトン環含有重合体(A)または樹脂組成物(C)により構成される。
樹脂成形体(D)の形状は限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、またはファイバーである。
樹脂成形体(D)は、当該成形体を構成するラクトン環含有重合体(A)または樹脂組成物(C)の特性に基づく特性を有する。また、樹脂成形体(D)について、ラクトン環含有重合体(A)により達成される上述した効果と同様の効果、および/または当該上述した効果に起因する効果の実現が期待される。
樹脂成形体(D)の用途は、ラクトン環含有重合体(A)および樹脂組成物(C)の用途と同様である。
樹脂成形体(D)の形成方法は限定されない。溶融押出法、キャスト法、プレス成形法などの公知の成形手法によりラクトン環含有重合体(A)または樹脂組成物(C)を成形して、樹脂成形体(D)を形成することができる。
実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した重合体(前駆重合体を含む)の評価方法を示す。
[前駆重合体における構成単位の含有率]
前駆重合体における構成単位の含有率は、当該重合体に対して1H−NMR測定を行って得られた1H−NMRプロファイルの面積比から求めた。1H−NMR測定には、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用い、測定溶媒には重クロロホルム(和光純薬製)を用いた。前駆重合体が重クロロホルムに不溶である場合は、代わりに重ジメチルホルムアミド(和光純薬製)を測定溶媒に用いた。
[ガラス転移温度(Tg)]
作製したラクトン環含有重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。
[重量平均分子量(Mw)]
作製したラクトン環含有重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算にて、以下の測定条件により求めた。
測定システム:東ソー社製「GPCシステムHLC−8220」
展開溶媒:N,N-ジメチルホルアミド(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:1mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製「PS−オリゴマーキット」)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製「TSK guardcolumn ALPHA」)、分離カラム(東ソー社製「TSK Gel ALPHA−5000」、「TSK Gel ALPHA−2500」)、2本直列接続
[メルトフローレート(MFR)]
作製したラクトン環含有重合体のMFRは、JIS K7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重10kgfで評価した。
[マルテンス硬さ]
作製したラクトン環含有重合体のマルテンス硬さは、当該重合体を熱プレス成形して得た未延伸フィルム(厚さ10μm以上)に対して、超微小硬度計(フィッシャーインストルメンツ社製、フィッシャースコープHM−2000)を用い、ISO−14577−1に準拠した方法により評価した。評価は、未延伸フィルムをガラス基板に固定した状態で実施した。測定条件は、四角錐型のビッカース圧子(対面角a=136°)を使用;最大試験荷重1mN;荷重付加時のアプリケーション時間20秒;クリープ時間5秒;荷重減少時のアプリケーション時間20秒;測定温度室温;とした。
[破壊強度(破壊エネルギー)]
作製したラクトン環含有重合体の破壊強度は、落球試験により、以下のようにして求めた。最初に、ラクトン環含有重合体を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)を形成した。次に、形成したフィルムの上に、高さを変えて質量0.0054kg、直径10mmの球を落とす試験を実施し、フィルムが破壊されたときの高さ(破壊高さ)の平均値(15回の平均値)から、次式に従って破壊強度(破壊エネルギー)を求めた。フィルムが破壊されたか否かは、フィルムへの落球後、当該フィルムの表面に変形が見られたか否かを目視により確認して判断した。変形が確認された場合、フィルムが破壊されたと判断した。
破壊エネルギー(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/秒2)
[応力光学係数(Cr)]
作製したラクトン環含有重合体の応力光学係数Crは、測定波長を590nmとし、以下のようにして求めた。
最初に、作製したラクトン環含有重合体を熱プレス成形して、当該重合体の未延伸フィルム(厚さ150μm)を得た。次に、作製した未延伸フィルムをサイズ20mm×60mmで切り出して、Cr評価用の試験片を得た。次に、試験片の一方の短辺に、延伸の際、当該試験片に1N/mm2以下の応力が加わる重量の錘を選択して取り付けた後、評価対象である重合体のTg+3℃に保持した定温乾燥機(アズワン製、DOV−450A)に収容し、1時間放置した。試験片を定温乾燥機に収容する際には、試験片の他方の短辺をチャックにより固定し、錘により試験片に加わった応力によって試験片がその長辺方向(鉛直方向)に自由端一軸延伸されるようにした。また、収容する際、試験片におけるチャック−錘間の距離を40mmとした。
1時間の加熱延伸後、乾燥機のヒーターを切り、そのまま試験片を乾燥機内で自然に冷却した。オーブン内の温度が重合体のTg−40℃に達した時点で試験片(一軸延伸フィルム)を取り出し、取り出した試験片の厚さおよび波長590nmの光に対する面内位相差Reを測定して、当該試験片の面内複屈折Δnを算出した。これとは別に、錘の荷重によって延伸された後の試験片の断面積を求め、当該断面積と錘の荷重とから、フィルムに印加された応力σ(Pa)を計算した。錘の重量を変化させながら、それぞれの荷重についてΔnおよびσを求め、得られたσに対するΔnの傾きを最小二乗法により求めて、これを応力光学係数Cr(Pa-1)とした。面内位相差Reを測定する際の配向角が延伸方向(荷重印加方向)に対して0°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は正となる。この場合、評価対象である重合体の固有複屈折は正である。一方、配向角が延伸方向に対して90°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は負となる。この場合、評価対象である重合体の固有複屈折は負である。Crの絶対値が大きいほど、延伸による複屈折の発現性(位相差の発現性)が高い重合体である。
試験片の面内位相差Re(nm)は、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて求めた。面内位相差Reは、試験片(フィルム)面内の遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率nx、同面内の進相軸方向(遅相軸方向と直交する方向)の屈折率ny、およびフィルムの厚さd(nm)を用いて、式(nx−ny)×dにより示される値である。nx−nyの値が面内複屈折Δnに相当する。
(製造例1)
製造例1では、重合により単位Pとなる、保護基であるトリメチルシリル(TMS)基によりヒドロキシ基が保護された2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル誘導体(RHMA−TMS)を作製した。
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、2−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(RHMA)単量体35質量部、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)72質量部、および溶媒としてトルエン130質量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、内温を50℃まで加熱して7時間撹拌を行った。その後、トルエンを留去したのち、単蒸留により精製して、RHMA−TMS単量体を収率65%で得た。図1に、作製したRHMA−TMS単量体の1H−NMRプロファイルを示す。
(実施例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、製造例1で作製したRHMA−TMS単量体5.8質量部、メタクリル酸メチル(MMA)単量体6.8質量部、および重合溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)9質量部を仕込み、これに窒素を通じつつ80℃まで昇温した。次いで、反応装置内の混合物に、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.023質量部を一括で加えるとともに、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.012質量部およびMEK3質量部からなる溶液と、6.7質量部のMMA単量体とを、それぞれ7.5時間かけて滴下した。滴下終了後、78−90℃の温度を保持しながら2.5時間重合反応を進行させた後、7質量部のトルエンで全体を希釈した。
このようにして得られた重合溶液を1H−NMRの評価に必要な量だけ反応装置からサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。より具体的には、まず、サンプリングした重合溶液を大量のヘキサン中に撹拌しながらゆっくり添加した。次に、その際に沈殿した白色の固体を取り出し、圧力2.6KPa、温度80℃の雰囲気で約1時間乾燥して溶媒を除去し、重合体を得た。次に、得られた重合体の組成を1H−NMRにより評価したところ、RHMA−TMSとMMAとの共重合体であることが確認された。また、当該重合体におけるRHMA−TMS単位の含有率は18モル%であった。図2に、作製したRHMA−TMS/MMA共重合体の1H−NMRプロファイルを示す。
次に、反応装置内の重合溶液に0.04質量部のパラトルエンスルホン酸(PTS)および1質量部のメタノールを添加して、前駆重合体であるRHMA−TMS/MMA共重合体が有するRHMA−TMS単位からのTMS基の脱離反応(脱保護反応)、ならびにRHMA−TMS単位およびMMA単位間の環化反応を1時間進行させた。
次に、このようにして得られた重合溶液をオートクレーブに移し、窒素置換をした後、250℃のオイルバスに2時間漬けることで熟成させた。その後、オートクレーブの内容物をアルミカップに移し、圧力2.6kPa、温度240℃の雰囲気で1時間乾燥して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(A−1)を得た。得られた重合体(A−1)のTgは132℃、Mwは20.2万、MFRは13.2[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(A−1)が主鎖に有するラクトン環構造が、上述した式(1)に示す環構造であって、R1が水素原子、R2およびR3がメチル基である環構造であることが、1H−NMRの評価により確認された。図3に、作製したラクトン環含有重合体(A−1)の1H−NMRプロファイルを示す。
(実施例2)
反応装置に仕込んだRHMA−TMS単量体の量を8.7質量部、MEKの量を10質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.027質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.013質量部とした以外は、実施例1と同様にして、RHMA−TMS単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。その後、12質量部のトルエンで全体を希釈した。
実施例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMA−TMSとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA−TMS単位の含有率は25モル%であった。
次に、メタノールの添加量を1.5質量部とした以外は実施例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA−TMS/MMA共重合体が有するRHMA−TMS単位からのTMS基の脱離反応、ならびにRHMA−TMS単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、実施例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(A−2)を得た。得られた重合体(A−2)のTgは140℃、Mwは15.5万、MFRは13.3[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(A−2)が主鎖に有するラクトン環構造が、上述した式(1)に示す環構造であって、R1が水素原子、R2およびR3がメチル基である環構造であることが、1H−NMRの評価により確認された。
(実施例3)
反応装置に仕込んだRHMA−TMS単量体の量を13質量部、MEKの量を12質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.032質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.016質量部とした以外は、実施例1と同様にして、RHMA−TMS単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。その後、10質量部のトルエンで全体を希釈した。
実施例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMA−TMSとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA−TMS単位の含有率は33モル%であった。
次に、PTSの添加量を0.07質量部とし、メタノールの添加量を2.2質量部とした以外は実施例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA−TMS/MMA共重合体が有するRHMA−TMS単位からのTMS基の脱離反応、ならびにRHMA−TMS単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、実施例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(A−3)を得た。得られた重合体(A−3)のTgは150℃、Mwは14.9万、MFRは12.1[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(A−3)が主鎖に有するラクトン環構造が、上述した式(1)に示す環構造であって、R1が水素原子、R2およびR3がメチル基である環構造であることが、1H−NMRの評価により確認された。
(実施例4)
反応装置に仕込んだRHMA−TMS単量体の量を20質量部、MEKの量を15質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.04質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.02質量部とした以外は、実施例1と同様にして、RHMA−TMS単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。その後、15質量部のトルエンで全体を希釈した。
実施例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMA−TMSとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA−TMS単位の含有率は44モル%であった。図4に、作製したRHMA−TMS/MMA共重合体の1H−NMRプロファイルを示す。
次に、PTSの添加量を0.07質量部とし、メタノールの添加量を2.2質量部とした以外は実施例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA−TMS/MMA共重合体が有するRHMA−TMS単位からのTMS基の脱離反応、ならびにRHMA−TMS単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、実施例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(A−4)を得た。得られた重合体(A−4)のTgは168℃、Mwは11.8万、MFRは9[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(A−4)が主鎖に有するラクトン環構造が、上述した式(1)に示す環構造であって、R1が水素原子、R2およびR3がメチル基である環構造であることが、1H−NMRの評価により確認された。図5に、作製したラクトン環含有重合体(A−4)の1H−NMRプロファイルを示す。
(比較例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、RHMA単量体20質量部、MMA単量体80質量部、および重合溶媒としてMEK80質量部を仕込み、これに窒素を通じつつ80℃まで昇温した。次いで、反応装置内の混合物に、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.2質量部を一括で加えるとともに、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.1質量部およびMEK3質量部からなる溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、78−90℃の温度を保持しながら4時間重合反応を進行させた。
このようにして得られた重合溶液を1H−NMRの評価に必要な量だけ反応装置からサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。より具体的には、まず、サンプリングした重合溶液を大量のヘキサン中に撹拌しながらゆっくり添加した。次に、その際に沈殿した白色の固体を取り出し、圧力2.6KPa、温度80℃の雰囲気で約1時間乾燥して溶媒を除去し、重合体を得た。次に、得られた重合体の組成を1H−NMRにより評価したところ、RHMAとMMAとの共重合体であることが確認された。また、当該重合体におけるRHMA単位の含有率は17.7モル%であった。
次に、反応装置内の重合溶液に0.15質量部のPTSを添加して、前駆重合体であるRHMA/MMA共重合体が有するRHMA単位およびMMA単位間の環化反応を1時間進行させた。
次に、このようにして得られた重合溶液をオートクレーブに移し、窒素置換をした後、250℃のオイルバスに2時間漬けることで熟成させた。その後、オートクレーブの内容物をアルミカップに移し、圧力2.6kPa、温度240℃の雰囲気で1時間乾燥して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(F−1)を得た。得られた重合体(F−1)のTgは127℃、Mwは14.5万、MFRは11.1[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(F−1)が主鎖に有するラクトン環構造が、実施例1〜4で作製したラクトン環含有重合体が主鎖に有するラクトン環構造と同じであることが、1H−NMRの評価により確認された。
(比較例2)
反応装置に仕込んだRHMA単量体の量を25質量部、MEKの量を75質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.18質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.09質量部とした以外は、比較例1と同様にして、RHMA単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。
比較例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMAとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA単位の含有率は22.3モル%であった。
次に、比較例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA/MMA共重合体が有するRHMA単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、比較例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(F−2)を得た。得られた重合体(F−2)のTgは134℃、Mwは15.9万、MFRは6.7[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(F−2)が主鎖に有するラクトン環構造が、実施例1〜4で作製したラクトン環含有重合体が主鎖に有するラクトン環構造と同じであることが、1H−NMRの評価により確認された。
(比較例3)
反応装置に仕込んだRHMA単量体の量を30質量部、MMA単量体の量を70質量部、MEKの量を75質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.18質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.09質量部とした以外は、比較例1と同様にして、RHMA単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。
比較例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMAとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA単位の含有率は27モル%であった。
次に、比較例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA/MMA共重合体が有するRHMA単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、比較例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(F−3)を得た。得られた重合体(F−3)のTgは140℃、Mwは14.6万、MFRは5.9[g/10分]、その他の特性は表1に示す通りであった。なお、重合体(F−3)が主鎖に有するラクトン環構造が、実施例1〜4で作製したラクトン環含有重合体が主鎖に有するラクトン環構造と同じであることが、1H−NMRの評価により確認された。
(比較例4)
反応装置に仕込んだRHMA単量体の量を40質量部、MMAの量を60質量部、MEKの量を75質量部とし、一括で加えたt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.18質量部、滴下したt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの量を0.09質量部とした以外は、比較例1と同様にして、RHMA単量体とMMA単量体との重合反応を進行させた。
比較例1と同様に、このようにして得られた重合溶液をサンプリングして、当該溶液に含まれる、重合により生成した重合体の組成を確認した。1H−NMRの評価によれば、得られた重合体はRHMAとMMAとの共重合体であり、当該重合体におけるRHMA単位の含有率は36.5モル%であった。
次に、比較例1と同様にして、前駆重合体であるRHMA/MMA共重合体が有するRHMA単位およびMMA単位間の環化反応を進行させた。
次に、比較例1と同様にして熟成およびその後の乾燥を実施して、主鎖にラクトン環構造を有するラクトン環含有重合体(F−4)を得た。しかし、得られた重合体(F−4)はゲル化が進行しており、クロロホルムに溶解しないことから、そのMwを確認できなかった。また、このゲル化の進行により、MFRをはじめとする各特性の評価は困難であった。
(参考例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、MMA単量体10質量部、および重合溶媒としてMEK15質量部を仕込み、これに窒素を通じつつ80℃まで昇温した。次に、反応装置内の混合物に、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.02質量部を一括で加えるとともに、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)575)0.01質量部およびMEK1質量部からなる溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、78−90℃の温度を保持しながら4時間重合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液をアルミカップに移し、圧力2.6kPa、温度240℃の雰囲気で1時間乾燥してPMMAを得た。得られたPMMAのTgは101℃、Mwは16.5万、MFRは22[g/10分]であった。
(参考例2)
市販のPMMA(住友化学社製、スミペックスEX)のTg、Mwおよび破壊強度を評価したところ、それぞれ101℃、18万、25mJであった。
表1に示すように、実施例1〜4では、次の点が達成されていることが確認された。
・比較例では、Tgが130℃以上、Mwが10万以上、およびMFRが7[g/10分]以上を同時に満たすラクトン環含有重合体が得られなかった。一方、前駆重合体におけるRHMA単位のヒドロキシ基を保護基により保護した実施例では、Tgが130℃以上、Mwが10万以上、およびMFRが7[g/10分]以上を同時に満たすラクトン環含有重合体が得られた。
・比較例では、同程度のTgの場合に、実施例に比べて大きくMFRが低下した。例えば、Tgが140℃である比較例3のMFRは5.9[g/10分]であり、Tgが同じ140℃である実施例2のMFR13.3[g/10分]の半分にも満たなかった。
・同様のことがMFR以外の他の特性についても成り立ち、比較例では、同程度のTgの場合に、実施例に比べてマルテンス硬さ、破壊強度およびCrが低下した。とりわけ、破壊強度の低下が激しく、比較例3の破壊強度の値は、Tgが同じである実施例2の値の1/4であった。
・実施例では、比較例に比べて、前駆重合体におけるRHMA単位(実施例ではRHMA−TMS単位)の含有率が高い場合においてもゲル化の発生を抑制しながらラクトン環含有重合体を形成でき、比較例に比べて大幅に高いTgおよび/またはCrを示すラクトン環含有重合体が得られた。例えば、Crについて、比較例においてゲル化の発生を防ぎながら最もラクトン環を導入できた比較例3のCrが77×10-11Pa-1であったのに比べて、そのおよそ2倍のCrを示すラクトン環含有重合体が得られた(実施例4)。また、そのTgは168℃と非常に高かった。
次に、実施例および比較例におけるTgとMFRとの関係について、より詳細な検討を行った。
図6に、実施例1〜4および比較例1〜3について、Tgに対するMFRの変化を示す。図6には、実施例および比較例で作製した各ラクトン環含有重合体におけるTgに対するMFRの変化について、近似直線とその傾きを併せて示す。
図6に示すように、実施例では比較例に比べて、Tgの上昇の程度に対するMFRの低下の程度が小さく、Tgに対するMFRの傾きは、比較例では−0.406であったのに対して実施例では−0.124であった。
次に、図7に、主鎖にラクトン環構造を有さないPMMA(参考例)からのラクトン環構造の導入を考慮した、実施例および比較例で作製した各ラクトン環含有重合体におけるTgに対するMFRの変化について、近似直線とその傾きを併せて示す。なお、実施例および比較例ともに、おそらくラクトン環構造を導入する初期(TgがPMMAの101℃から上昇する初期)においてMFRの低下の程度が一時的に大きくなるために、PMMAのTgおよびMFRの値をそのまま近似直線を求める際に用いると、Tgに対するMFRの傾きが、これら値を用いない場合(図6の場合)に比べて大きくなった(比較例について、図7に示す−0.429)。このため、対比の基準となる比較例について、PMMAからのラクトン環構造の導入によるTgおよびMFRの変化が図6に示す傾き(−0.406)を保った場合にMFRがゼロとなるTgの値を求め、これを点B(155℃)として、PMMAのTgおよびMFRに対応する点との間で直線Aを引き、これを比較例の値に基づく基準線とした。直線Aは、式(MFR)≧−0.406×(Tg−101)+22により与えられる。図7に示すように、比較例は全てこの直線Aよりも下に位置していた。一方、実施例は、Tgの上昇の程度に対するMFRの低下の程度が小さく、全てこの直線Aよりも上に位置していた。
次に、図8に、実施例1〜4および比較例1〜3について、Tgに対する破壊強度の変化を示す。図8には、実施例および比較例で作製した各ラクトン環含有重合体におけるTgに対する破壊強度の変化について、近似直線とその傾きを併せて示す。
図8に示すように、実施例では比較例に比べて、Tgの上昇の程度に対する破壊強度の低下の程度が小さく、Tgに対する破壊強度の傾きは、比較例では−0.543であったのに対して実施例では−0.280であった。
次に、図9に、主鎖にラクトン環構造を有さないPMMA(参考例)からのラクトン環構造の導入を考慮した、実施例および比較例で作製した各ラクトン環含有重合体におけるTgに対する破壊強度の変化について、近似直線とその傾きを併せて示す。なお、実施例および比較例ともに、おそらくラクトン環構造を導入する初期(TgがPMMAの101℃から上昇する初期)において破壊強度の低下の程度が一時的に大きくなるために、PMMAのTgおよびMFRの値をそのまま近似直線を求める際に用いると、Tgに対する破壊強度の傾きが、これら値を用いない場合(図8の場合)に比べて大きくなった(比較例について、図9に示す−0.578)。このため、対比の基準となる比較例について、PMMAからのラクトン環構造の導入によるTgおよび破壊強度の変化が図8に示す傾き(−0.543)を保った場合に破壊強度がゼロとなるTgの値を求め、これを点B(147℃)として、PMMAのTgおよび破壊強度に対応する点との間で直線Aを引き、これを比較例の値に基づく基準線とした。直線Aは、式(破壊強度)≧−0.543×(Tg−101)+25により与えられる。図9に示すように、比較例は全てこの直線Aよりも下に位置していた。一方、実施例は、Tgの上昇の程度に対する破壊強度の低下の程度が小さく、全てこの直線Aよりも上に位置していた。