JP2017178964A - カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法 - Google Patents

カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】新規の電解質の製造方法の提供。
【解決手段】(A)カルボン酸リチウム塩、及び液状の(B)三フッ化ホウ素錯体を反応させる工程を有する、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法であって、前記反応させる工程後、反応液を固液分離して、固体である前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を液状物から分離する工程と、分離した前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を、ジエチルエーテル、又はジエチルエーテル及びn−ヘキサンの混合溶媒で洗浄し、不純物を除去する工程と、を有し、前記(A)カルボン酸リチウム塩がシュウ酸リチウムであることを特徴とするカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法に関する。
リチウムイオン二次電池では、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF、LiTFSI)等のリチウム塩が、これまで主に使用されてきている。そして、通常は、これら電解質が各種有機溶媒に溶解されてなる電解液が、リチウムイオン二次電池で使用されている(例えば、特許文献1参照)。
特許第3157209号公報
しかし、例えば、LiPFは水と反応してフッ化水素(HF)を生成したり、60℃程度の温度で徐々に分解してしまうという問題点があった。また、LiBFは、LiPFよりもイオン伝導度が低く、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が劣るという問題点があった。また、LiFSIやLiTFSIは、正極集電体を腐食したり、コストが高いという問題点があった。このように、従来の電解質には、その種類に応じて種々の問題点があった。
そこで、リチウムイオン二次電池の分野では、LiPF等に代わる新規の電解質の開発が望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規の電解質の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、
本発明は、(A)カルボン酸リチウム塩、及び液状の(B)三フッ化ホウ素錯体を反応させる工程を有する、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法であって、
前記反応させる工程後、反応液を固液分離して、固体である前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を液状物から分離する工程と、分離した前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を、ジエチルエーテル、又はジエチルエーテル及びn−ヘキサンの混合溶媒で洗浄し、不純物を除去する工程と、を有し、前記(A)カルボン酸リチウム塩がシュウ酸リチウムであることを特徴とするカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法を提供する。
本発明のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法においては、
前記(B)三フッ化ホウ素錯体が、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体及び三フッ化ホウ素フェノール錯体からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明によれば、新規の電解質の製造方法が提供される。
実施例1におけるH−NMRデータであり、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体のH−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体のH−NMRデータである。 実施例1における19F−NMRデータであり、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の19F−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の19F−NMRデータである。
本発明者らは、シュウ酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、コハク酸リチウム等のカルボン酸リチウム塩と、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体とから得られた、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が、リチウムイオン二次電池の電解質として使用できること、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、LiPF等よりも高温において安定で、安価に製造でき、優れたサイクル特性をリチウムイオン二次電池に付与するという利点を有することを見出している。前記三フッ化ホウ素錯体としては、三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体及び三フッ化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を電解質とする電解液は、カルボン酸リチウム塩と、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体と、有機溶媒とを配合し、撹拌して均一な溶液とすることで得られる。このとき、均一な溶液となるのは、カルボン酸リチウム塩のカルボニルオキシ基に、三フッ化ホウ素が配位結合することで、これらの配位結合体(すなわち、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体)が有機溶媒に溶解するからであると考えられる。
一方、前記電解液は、均一な溶液とするために約12時間以上に渡って撹拌が必要であり、製造に長時間を要する。また、カルボン酸リチウム塩中のカルボニルオキシ基のモル数と、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体のモル数との比(モル比)が1:1からある程度ずれると、均一な溶液が得られない。さらに、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体の配合量が多すぎる場合には、過剰な三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素錯体や、三フッ化ホウ素錯体で三フッ化ホウ素に配位結合して錯体を形成していた配位結合成分が、不純物として電解質(電解液)中に残存してしまう。これら不純物のうち、三フッ化ホウ素及び三フッ化ホウ素錯体は、蒸発による除去(以下、「留去」と略記することがある)が可能であるが、いずれもリチウムイオン二次電池のサイクル特性を悪化させてしまう。
以下、電解質として好適なカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を、不純物量を低減して、簡便に製造できる製造方法について説明する。
<カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法>
本発明のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法は、(A)カルボン酸リチウム塩、及び液状の(B)三フッ化ホウ素錯体(以下、単に「(B)三フッ化ホウ素錯体」と略記することがある)を反応させる工程(以下、「反応工程」と略記することがある)を有することを特徴とする。
かかる製造方法によれば、液状の(B)三フッ化ホウ素錯体を用いることで、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体以外に、溶媒(反応溶媒)を用いることなく、反応を行うことができる。したがって、低コストで効率的にカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を製造できる。
本発明の適用に好適なカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体としては、下記一般式(1)で表される、炭素数が6以下のもの(以下、「錯体(1)」と略記することがある)が例示できるが、これらに限定されない。
(YO−(O=)C)−X−(C(=O)−OY)m−1・(BF ・・・・(1)
(式中、mは1〜4の整数であり;mが1である場合、Xは水素原子又は1価の炭化水素基であり、mが2である場合、Xは単結合又は2価の炭化水素基であり、mが3又は4である場合、Xはm価の炭化水素基であり、前記1〜4価の炭化水素基は1個以上の水素原子が水酸基で置換されていてもよく;Yは水素原子又はリチウム原子であり、mが2〜4である場合、複数個のYは互いに同一でも異なっていてもよく、ただし、m個のYのうち少なくとも1個はリチウム原子である。)
錯体(1)は、一般式「(YO−(O=)C)−X−(C(=O)−OY)m−1」で表されるカルボン酸リチウム塩のカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)に、三フッ化ホウ素(BF)が配位結合したものである。そして、錯体(1)において、X中の炭素原子と、式「COOY」中のカルボニル基を構成するm個の炭素原子との総数は、1〜6である。
式中、mは1〜4の整数である。
そして、mが1である場合、Xは水素原子又は1価の炭化水素基である。また、mが2である場合、Xは単結合又は2価の炭化水素基である。ここで、Xが単結合である場合、2個の一般式「−C(=O)−OY」で表される基は、炭素原子同士が直接結合したものとなる。また、mが3又は4である場合、Xはm価(3価又は4価)の炭化水素基である。
Xにおける前記炭化水素基(1〜4価の炭化水素基)は、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれでもよい。
飽和炭化水素基である前記炭化水素基において、炭素数は1〜5である。
不飽和炭化水素基である前記炭化水素基において、炭素数は2〜5であり、不飽和結合の数及び位置は特に限定されないが、不飽和結合の数は1〜2であることが好ましく、1であることがより好ましい。そして、不飽和炭化水素基である前記炭化水素基は、アルケニレン基又はアルキリデン基であることが好ましい。
Xにおける前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
Xにおける前記炭化水素基は、mが1〜4のいずれであっても、1個以上の水素原子が水酸基で置換されていてもよく、このときの水酸基の数及び位置は特に限定されず、すべての水素原子が水酸基で置換されていてもよい。ただし、水酸基の数は、1〜3であることが好ましい。
錯体(1)において、mは1〜3であることが好ましい。
Xが炭化水素基である場合、錯体(1)において、一般式「−C(=O)−OY」で表される基の、Xにおける結合位置は特に限定されない。例えば、mが2〜4である場合、一般式「−C(=O)−OY」で表される基は、すべてがX中の同一の炭素原子に結合していてもよいし、すべてがX中の異なる炭素原子に結合していてもよく、一部のみがX中の同一の炭素原子に結合していてもよい。
式中、Yは水素原子又はリチウム原子である。ただし、m個のYのうち少なくとも1個はリチウム原子である。すなわち、錯体(1)は水素原子がリチウム原子で置換されたカルボキシ基(−C(=O)−OLi)を必ず1個有する。
また、mが2〜4である場合、複数個のYは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべてのYが同一(すべてのYがリチウム原子)でもよいし、すべてのYが互いに異なって(mが2で、2個のYのうち1個が水素原子であり、残りの1個がリチウム原子である)いてもよく、一部のYのみが同一(mが3〜4であり、Yとして水素原子とリチウム原子とが共存する)であってもよい。
本発明で用いる(A)カルボン酸リチウム塩は、カルボキシ基がリチウム塩(−C(=O)−OLi)を構成しているものであればよく、リチウム塩を構成するカルボキシ基の数は、特に限定されない。例えば、カルボキシ基の数が2以上である場合には、すべてのカルボキシ基がリチウム塩を構成していてもよいし、一部のカルボキシ基のみがリチウム塩を構成していてもよい。
好ましい(A)カルボン酸リチウム塩としては、前記錯体(1)における、一般式「(YO−(O=)C)−X−(C(=O)−OY)m−1」で表されるカルボン酸リチウム塩が例示できる。
一般式「(YO−(O=)C)−X−(C(=O)−OY)m−1」で表される好ましいカルボン酸リチウム塩としては、ギ酸リチウム(HCOOLi)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、プロピオン酸リチウム(CHCHCOOLi)、酪酸リチウム(CH(CHCOOLi)、イソ酪酸リチウム((CHCHCOOLi)、吉草酸リチウム(CH(CHCOOLi)、イソ吉草酸リチウム((CHCHCHCOOLi)、カプロン酸リチウム(CH(CHCOOLi)等の1価カルボン酸のリチウム塩;シュウ酸リチウム((COOLi))、マロン酸リチウム(LiOOCCHCOOLi)、コハク酸リチウム((CHCOOLi))、グルタル酸リチウム(LiOOC(CHCOOLi)、アジピン酸リチウム((CHCHCOOLi))等の2価カルボン酸のリチウム塩;乳酸リチウム(CHCH(OH)COOH)等の水酸基を有する1価カルボン酸のリチウム塩;酒石酸リチウム((CH(OH)COOLi))、リンゴ酸リチウム(LiOOCCHCH(OH)COOLi)等の水酸基を有する2価カルボン酸のリチウム塩;マレイン酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、cis体)、フマル酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、trans体)等の不飽和1価カルボン酸のリチウム塩;クエン酸リチウム(LiOOCCHC(COOLi)(OH)CHCOOLi)等の3価カルボン酸のリチウム塩(水酸基を有する3価カルボン酸のリチウム塩)が例示でき、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、コハク酸リチウムがより好ましい。
(A)カルボン酸リチウム塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
(B)三フッ化ホウ素錯体は、共存している(A)カルボン酸リチウム塩と反応可能な状態において、液状のものである。すなわち、(A)カルボン酸リチウム塩と反応する条件下で、液状であればよい。
また、(B)三フッ化ホウ素錯体は、(A)カルボン酸リチウム塩と錯形成反応を行うものであり、三フッ化ホウ素(BF)が別の成分に配位結合したものである。
好ましい前記三フッ化ホウ素錯体としては、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BF・O(CH)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BF・O(C)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BF・O((CHC))、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BF・O((CHC)(CH))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BF・OC)等の三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BF・HOCH)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BF・HOC)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BF・HOC)等の三フッ化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
(B)三フッ化ホウ素錯体としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記反応工程においては、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体を配合して、溶媒を用いることなく、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体を反応させることができる。ここで、「溶媒を用いない」とは、溶媒を全く用いないか、又は溶媒を実質的に用いないことを意味し、「溶媒を実質的に用いない」とは、用いたことによる効果が確認できる程度の量の溶媒を用いないことを意味する。
この反応は錯形成反応であり、(B)三フッ化ホウ素錯体中の三フッ化ホウ素が、(A)カルボン酸リチウム塩のカルボニルオキシ基に配位結合して、錯体を形成すると共に、反応前に元々三フッ化ホウ素に配位結合していた成分(以下、「(b)配位結合成分」と略記することがある)(例えば、三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体中のアルキルエーテル、三フッ化ホウ素アルコール錯体中のアルコール等)が脱離して、目的物であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が生成する。
反応工程においては、本発明の効果を損なわない範囲内において、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素錯体及び溶媒のいずれにも該当しない、その他の成分を配合してもよいが、通常は、前記その他の成分は不要である。
反応工程においては、「配合された(A)カルボン酸リチウム塩中のカルボニルオキシ基のモル数」に対して「配合された(B)三フッ化ホウ素錯体の総モル数」が同等以上であることが好ましく、[配合された(A)カルボン酸リチウム塩中のカルボニルオキシ基のモル数]:[配合された(B)三フッ化ホウ素錯体の総モル数]が100:100〜100:150であることがより好ましく、100:100〜100:120であることが特に好ましい。このような配合量とすることで、(B)三フッ化ホウ素錯体が不足することがなく、容易にすべての(A)カルボン酸リチウム塩を反応させることができる。また、例えば、後述する除去工程においては、過剰に用いて残存した(A)カルボン酸リチウム塩の除去は困難であるが、過剰に用いて残存した(B)三フッ化ホウ素錯体は容易に除去できるため、目的物であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の純度を向上させることができる。
反応工程において、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体の配合の順序は、特に限定されず、適宜調節すればよい。
また、これら原料を配合中の液状物、及びこれら原料を配合して得られた液状物(反応液)は、撹拌子、撹拌翼等を用いる公知の手法により、十分に撹拌することが好ましい。
前記反応工程での反応温度は、(B)三フッ化ホウ素錯体の融点よりも高く、且つ沸点よりも低ければよいが、10〜40℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
また、反応時間は、反応終了に必要な時間以上とすればよく、特に限定されないが、1〜48時間であることが好ましく、2〜36時間であることがより好ましい。
通常は、(A)カルボン酸リチウム塩が有機溶媒には溶解しないため、反応の終了は、反応液を少量サンプリングし、これに有機溶媒を加えたときに、透明な溶液が得られることによって確認できる。また、反応液をサンプリングし、各種クロマトグラフィー等の公知の手法で分析することによっても、確認できる。
本発明においては、前記反応工程後、反応液から不純物を除去する(以下、この工程を「除去工程」と略記することがある)ことにより、反応物として、目的物であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が得られる。本発明によれば、前記不純物の除去により、極めて高純度のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を取り出すことができる。
前記不純物としては、(B)三フッ化ホウ素錯体に由来するものが例示でき、より具体的には、(A)カルボン酸リチウム塩と反応せずに残存した、過剰量の(B)三フッ化ホウ素錯体や、(B)三フッ化ホウ素錯体から生じた副生物等が例示でき、前記副生物としては、前記(b)配位結合成分等が例示できる。これら不純物は、留去が可能なものである。
除去工程は、例えば、反応液をろ過等により固液分離して、目的物である固体を液状物から分離することで行うことできる。
また、除去工程は、反応液を常圧下又は減圧下において、加熱せずに又は加熱して、液状物を蒸発させ(すなわち、留去し)、目的物である固体を分離することで行うことができる。この場合の留去は、例えば、ロータリーエバポレーター;撹拌手段及び減圧手段を備えた反応器等、公知の装置を使用して行えばよく、このときの減圧度及び温度は、不純物の種類に応じて適宜調節すればよい。
また、除去工程は、反応液に抽出液を添加して撹拌し、反応液中の液状物を抽出液中に抽出し、得られた抽出済み液を除去して、目的物である固体を分離することで行うことができる。この場合、抽出液の添加及び抽出済み液の除去は、二回以上繰り返して行ってもよい。
抽出液としては、有機溶媒等が例示でき、目的物であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の溶解度が低いか、又はこれを全く溶解させず、且つ不純物(液状物)を抽出可能なものを用いることが好ましい。
抽出液は、一種のみからなるものでもよいし、二種以上からなるものでもよい。二種以上からなる場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
抽出液である前記有機溶媒としては、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、又はジエチルエーテル及びn−ヘキサンの混合溶媒等が例示できる。
なお、いずれの方法においても、分離した目的物は、さらに必要に応じて、洗浄液で洗浄してもよい。洗浄は、例えば、ろ過等により固液分離した後の目的物に対して引き続き洗浄液をかけ流すことで行うことができ、また、分離した目的物を洗浄液と共に攪拌した後、ろ過等により固液分離することで行うことができ、これら二種以上の操作を組み合わせて行ってもよい。
洗浄液としては、目的物であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の溶解度が低いか、又はこれを全く溶解させず、且つ不純物の溶解度が高いか、又は不純物を完全に溶解させるものを用いることが好ましく、有機溶媒がより好ましく、ジエチルエーテル、又はジエチルエーテル及びn−ヘキサンの混合溶媒等が例示できる。
洗浄液は、一種のみからなるものでもよいし、二種以上からなるものでもよい。二種以上からなる場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
さらに、分離した目的物は、上記の洗浄の有無によらず、さらに乾燥させることで、不純物をより高度に除去できる。前記乾燥は、送風、加熱及び減圧から選択される一種又は二種以上の操作を併用して行うことが好ましい。これらの中でも、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下で加熱しながら、減圧下又は常圧下で乾燥させることが好ましい。
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内において、前記反応工程及び除去工程以外に、その他の工程を行ってもよい。
前記その他の工程として、例えば、得られた目的物を精製する精製工程を行い、さらに目的物の純度を向上させてもよい。この場合の精製工程においては、公知の精製方法を任意に適用できる。
本発明の製造方法で得られたカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、後述するリチウムイオン二次電池の電解質として好適なものである。カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、後述する電解液中において、三フッ化ホウ素によりリチウムイオンの解離が促進されるものと推測される。
本発明の製造方法では、除去工程によって、上記の不純物が除去され、極めて高純度のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が得られる。
加えて、本発明の製造方法では、反応工程において、液状の(B)三フッ化ホウ素錯体を用いることで、(A)カルボン酸リチウム塩及び(B)三フッ化ホウ素錯体以外に、溶媒(反応溶媒)を用いる必要がない。したがって、原料の使用量を大幅に増量できる。また、反応溶媒の使用に伴うコストを削減できる。また、反応溶媒の除去操作を省略でき、工程を簡略化できる。そして、工程の簡略化に伴い、エネルギー使用量も低減できる。このように、本発明によれば、低コストで効率的にカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を製造できる。
<電解液>
本発明の製造方法で得られた、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、電解質として好適である。具体的には、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、有機溶媒、及び必要に応じてその他の成分を配合することで、電解液を製造できる。
前記電解液は、リチウムイオン二次電池への適用に好適なものである。
電解液の製造時に配合する前記有機溶媒(電解液中の有機溶媒)で好ましいものとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等の炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物が例示できる。
電解液中の前記有機溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
電解液において、前記有機溶媒の配合量は特に限定されず、例えば、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の種類に応じて、適宜調節すればよい。通常は、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節することが好ましい。
電解液における前記その他の成分は、必須成分ではなく、本発明の効果を損なわない限り、その種類は特に限定されない。
電解液の製造において、各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。
各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分を均一に溶解又は分散させることができればよい。
各成分の混合方法は特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。
混合温度、混合時間等の混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよいが、通常は、混合時の温度は15〜35℃であることが好ましい。混合時間は、混合時の温度にもよるが、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下等の短時間とすることが可能である。
(A)カルボン酸リチウム塩と、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体と、有機溶媒とを配合し、撹拌して均一な溶液とする電解液の製造方法では、均一な溶液とするのに約12時間以上を必要とするため、製造工程が長時間に及ぶ。また、均一な溶液とするために、(A)カルボン酸リチウム塩のカルボニルオキシ基のモル数と、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体のモル数との比(モル比)を、1:1からずれないように、厳密に規定する必要があり、さらにこれら原料の配合比にずれが生じると、電解液中に不純物が残存する。このときの不純物としては、過剰な原料((A)カルボン酸リチウム塩、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体)が例示できる。三フッ化ホウ素は、留去が可能であるが、三フッ化ホウ素及び三フッ化ホウ素錯体は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を悪化させてしまう。また、前記不純物としては、三フッ化ホウ素錯体から脱離した(b)配位結合成分も例示できるが、これは必ずしも除去が可能ではなく、アルキルエーテルなど、可燃性のものがある。
これに対して、上記のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を用いた電解液は、予め調製済みのカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を用いて製造するので、その製造工程においては、(A)カルボン酸リチウム塩と、三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体との配合が不要であり、長時間の撹拌や、これら原料の配合比(モル比)の厳密な規定も不要であり、短時間で簡便に電解液を製造できる。具体的には、例えば、10分以内等の極めて短時間で電解液を製造することも可能である。そして、用いるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、上記のように、(B)三フッ化ホウ素錯体や(b)配位結合成分等が除去されており、極めて高純度であるので、不純物量が少なく、これを用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れたものとなる。
電解質であるカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、溶解性が良好で、長期間に渡ってその析出が抑制されるので、これを用いたリチウムイオン二次電池は、十分な充放電特性を有する。
<ゲル電解質>
本発明の製造方法で得られた、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、ゲル電解質の製造への適用にも好適である。具体的には、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、マトリクスポリマー、有機溶媒、及び必要に応じてその他の成分を配合することで、ゲル電解質を製造でき、前記電解液に、さらにマトリクスポリマーを配合することでも、ゲル電解質を製造できる。
いずれの方法においても、前記有機溶媒及びその他の成分は、前記電解液の場合と同様のものである。
前記ゲル電解質は、リチウムイオン二次電池への適用に好適なものである。
ゲル電解質は、型を用いて所望の形状に成型してもよい。
ゲル電解質では、マトリクスポリマー以外の成分(電解液)が、マトリクスポリマー中に保持される。
上記のいずれの方法においても、配合した有機溶媒の一部は、乾燥等によって除去してもよく、この場合の除去する有機溶媒としては、ゲル電解質中に主として残存する有機溶媒とは異なるもの(希釈用有機溶媒)を用いてもよい。
前記マトリクスポリマーは、特に限定されず、固体電解質分野で公知のものが適宜使用できる。
好ましいマトリクスポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー(ポリエーテル骨格を有するポリマー);ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー(フッ素原子を有するポリマー);ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、エチレンオキシドユニットを含むポリアクリレート等のポリアクリル系ポリマー((メタ)アクリル酸エステル又はアクリルアミドから誘導される構成単位を有するポリマー);ポリアクリロニトリル;ポリホスファゼン;ポリシロキサンが例示できる。
マトリクスポリマーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
マトリクスポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
ゲル電解質において、マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に占めるマトリクスポリマーの配合量は、2〜50質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、ゲル電解質の強度が一層向上し、上限値以下とすることで、リチウムイオン二次電池は一層優れた電池性能を示す。
前記希釈用有機溶媒は、配合成分のいずれかを十分に溶解又は分散させることができるものが好ましく、具体的には、アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル化合物:ジメチルホルムアミド等のアミド化合物が例示できる。
希釈用有機溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
ゲル電解質における前記その他の成分は、必須成分ではなく、本発明の効果を損なわない限り、その種類は特に限定されない。
ゲル電解質は、リチウムイオン二次電池が通常使用される40℃以下の環境において、流動性を示さないものが好ましい。
ゲル電解質製造時における各成分の配合方法は、前記電解液の場合と同様でよい。
希釈用有機溶媒を除去するときの乾燥方法は、特に限定されず、例えば、ドライボックス、真空デシケータ、減圧乾燥機等を使用する公知の方法を適用すればよい。
<固体電解質>
本発明の製造方法で得られた、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、固体電解質の製造への適用にも好適である。具体的には、前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、マトリクスポリマー、希釈用有機溶媒、及び必要に応じてその他の成分を配合して組成物を調製し、この組成物から、乾燥により前記希釈用有機溶媒を除去することで、固体電解質を製造できる。
ここで、前記マトリクスポリマー、希釈用有機溶媒及びその他の成分は、前記ゲル電解質の場合と同様のものである。
前記固体電解質は、リチウムイオン二次電池への適用に好適なものである。
固体電解質は、型を用いて所望の形状に成型してもよい。
固体電解質において、マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に占めるマトリクスポリマーの配合量は、2〜65質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、固体電解質(電解質膜)の強度が一層向上し、上限値以下とすることで、リチウムイオン二次電池は一層優れた電池性能を示す。
固体電解質における前記その他の成分は、必須成分ではなく、本発明の効果を損なわない限り、その種類は特に限定されない。
固体電解質製造時における各成分の配合方法は、前記電解液の場合と同様でよい。
また、希釈用有機溶媒を除去するときの乾燥方法は、前記ゲル電解質の場合と同様でよい。
<リチウムイオン二次電池>
前記電解液、ゲル電解質又は固体電解質を用いることで、良好な充放電特性及びサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池が得られる。かかるリチウムイオン二次電池は、前記電解液、ゲル電解質又は固体電解質を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、負極、正極、及び前記電解液、ゲル電解質又は固体電解質を備えて構成される。さらに必要に応じて、負極と正極との間に、セパレータが設けられていてもよい。
前記負極の材質は特に限定されないが、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
前記正極の材質は特に限定されないが、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
前記セパレータの材質は特に限定されないが、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
前記リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
前記リチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液、ゲル電解質又は固体電解質、及び電極を使用して製造すればよい。
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
・(A)カルボン酸リチウム塩
シュウ酸リチウム(アルドリッチ社製)
・(B)三フッ化ホウ素錯体
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO・(C)(アルドリッチ社製)
三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BF・OC)(アルドリッチ社製)
・その他
ジエチルエーテル(アルドリッチ社製)
n−ヘキサン(アルドリッチ社製)
エチレンカーボネート(以下、「EC」と略記する)(キシダ化学社製)
ジメチルカーボネート(以下、「DMC」と略記する)(キシダ化学社製)
[実施例1(参考例)]
(シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造(1))
シュウ酸リチウム(45.45g、446.1mmol)を丸底フラスコに量り取り、これに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(129.15g、909.9mmol)を23℃で加えた後、室温(23℃)で24時間撹拌した。次いで、得られた白色の懸濁液をろ別し、得られた白色の固体を50℃にて真空乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体((COOLi)・(BF)を得た(収率96.3%)。
得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体について、NMRにより、その構造を確認した。得られたデータを図1〜2に示す。図1中、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO・(C)のH−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体((COOLi)・(BF)のH−NMRデータである。また、図2中、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の19F−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の19F−NMRデータである。
図1(a)において観測された、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO・(C)のジエチルエーテルに由来するメチル水素(−CH)及びメチレン水素(−O−CH−)のピークが、図1(b)では観測されておらず、これは、得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ジエチルエーテル等の不純物が混入していないことを支持していた。
また、図2(a)及び(b)において観測されたフッ素のケミカルシフトに違いがみられることから、三フッ化ホウ素(BF)の配位環境が互いに異なることが確認され、これは、目的物であるシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が得られたことを支持していた。さらに、図2(b)において不純物ピークが観測されなかったことや、三フッ化ホウ素の単体(BF)の沸点が−100℃であることから、得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が混入していないと考えられた。
ろ過直後のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が残存していたと考えられるが、これは真空乾燥によって除去されたと推測される。
以上から、目的物であるシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が得られ、これには、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ジエチルエーテル等の不純物が混入していないことを確認できた。
[実施例2]
(シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造(2))
シュウ酸リチウム(45.45g、446.1mmol)を丸底フラスコに量り取り、これに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(129.15g、909.9mmol)を23℃で加えた後、室温(23℃)で24時間撹拌した。次いで、得られた白色の懸濁液をろ別し、ジエチルエーテル50mLをかけ流す操作を2回繰り返すことで、分離した固体を洗浄した。ジエチルエーテルは、シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を溶解させることがなく、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体をよく溶解させるので、洗浄液として好適である。そして、得られた白色の固体を50℃にて真空乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を得た(収率96.3%)。
[実施例3(参考例)]
(シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造(3))
シュウ酸リチウム(45.64g、447.9mmol)を丸底フラスコに量り取り、これに三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(133.50g、940.6mmol)を23℃で加えた後、室温(23℃)で24時間撹拌した。次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、反応液から不純物を留去することで固体を得た後、ジエチルエーテル50mLをかけ流す操作を2回繰り返すことで、得られた固体を洗浄した。その後、得られた白色の固体を50℃にて真空乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を得た(収率94.7%)。
[実施例4(参考例)]
(シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造(4))
シュウ酸リチウム(45.64g、447.9mmol)を丸底フラスコに量り取り、これに三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(133.50g、940.6mmol)を23℃で加えた後、室温(23℃)で24時間撹拌した。得られた白色の懸濁液にn−ヘキサン(50mL)を添加して撹拌した後、上澄みをデカンテーションにより除去した。このn−ヘキサンの添加、及び上澄みの除去の操作をさらに1回(合計で2回)行うことで、固体を得た。次いで、ジエチルエーテル50mLをかけ流す操作を2回繰り返すことで、得られた固体を洗浄した。得られた白色の固体を50℃にて真空乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を得た(収率93.7%)。
<電解液及びリチウムイオン二次電池の製造>
[製造例1]
有機溶媒としてEC及びDMCの混合溶媒(EC:DMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、ここに電解質として、実施例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(1.82g)を加えて、シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体中のリチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるようにし、23℃で混合することにより、電解液(1)を製造した。シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が有機溶媒に溶解し、透明で均一な溶液が得られるまでの時間を測定したところ、5分以内であった。
負極(ENAX社製)及び正極(ENAX社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーからなるものを用い、これを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極を、この順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液(1)を、セパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることにより、コイン型セル(1)を製造した。
[製造例2]
実施例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に代えて、実施例2で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、電解液(2)を製造した。
さらに、電解液(1)に代えて、電解液(2)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、コイン型セル(2)を製造した。
[製造例3]
実施例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に代えて、実施例3で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、電解液(3)を製造した。
さらに、電解液(1)に代えて、電解液(3)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、コイン型セル(3)を製造した。
[製造例4]
実施例1で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に代えて、実施例4で得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、電解液(4)を製造した。
さらに、電解液(1)に代えて、電解液(4)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、コイン型セル(4)を製造した。
[製造例5]
シュウ酸リチウム(0.114g、1.12mmol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.317g、2.24mmol)、有機溶媒としてEC及びDMCの混合溶媒(EC:DMC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、シュウ酸リチウム中のリチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるようにし、23℃で混合することにより、電解液(R1)を得た。シュウ酸リチウムと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体との反応に、時間を要したため、シュウ酸リチウムが有機溶媒に溶解し、透明で均一な溶液が得られるまでの時間を測定したところ、24時間であった。また、得られた電解液(R1)には、除去操作を行っていないジエチルエーテルが混入していた。
次いで、電解液(1)に代えて、電解液(R1)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、コイン型セル(R1)を製造した。
[製造例6]
負極(ENAX社製)及び正極(ENAX社製)を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーからなるものを用い、これを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。得られた正極、セパレータ及び負極を、この順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、電解液として六フッ化リン酸リチウム(EC/DMC(3/7(体積比))溶液(キシダ化学社製、電解液(R2))を、セパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることにより、コイン型セル(R2)を製造した。
<リチウムイオン二次電池の充放電特性の評価>
得られたコイン型セル(1)〜(4)、(R1)〜(R2)について、25℃において0.2Cの定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を2.7Vまで行った。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを数回〜数十回程度繰り返し行い電池の状態を安定化させた。その後、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを繰り返し行い、100サイクルでの容量維持率((100サイクル目の放電容量(mAh)/1サイクル目の放電容量(mAh))×100)(%)を算出した。結果を表1に示す。
Figure 2017178964
上記結果から明らかなように、実施例1〜4の電解質を原料とする電解液(1)〜(4)を用いたコイン型セル(1)〜(4)は、従来の電解液を用いたコイン型セル(R2)に対して同等以上の容量維持率を示し、電解質成分が同じである電解液(R1)を用いたコイン型セル(R1)と同等の容量維持率を示した。
このように、本発明の製造方法により得られた電解質を用いた電解液は、不純物量が低減され、短時間で簡便に製造できるものであり、これを用いることで、充放電特性、サイクル特性等の電池性能に優れたリチウムイオン二次電池が得られた。
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。

Claims (2)

  1. (A)カルボン酸リチウム塩、及び液状の(B)三フッ化ホウ素錯体を反応させる工程を有する、カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法であって、
    前記反応させる工程後、反応液を固液分離して、固体である前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を液状物から分離する工程と、
    分離した前記カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を、ジエチルエーテル、又はジエチルエーテル及びn−ヘキサンの混合溶媒で洗浄し、不純物を除去する工程と、
    を有し、
    前記(A)カルボン酸リチウム塩がシュウ酸リチウムであることを特徴とするカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法。
  2. 前記(B)三フッ化ホウ素錯体が、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体及び三フッ化ホウ素フェノール錯体からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載のカルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造方法。
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