以下、インバータ制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。インバータ制御装置20は、図1に示すように、インバータ10を介して回転電機80を駆動制御する。本実施形態では、インバータ10と後述する直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)とを備えて、回転電機駆動装置1が構成されており、インバータ制御装置20は、回転電機駆動装置1を介して回転電機80を駆動制御するということもできる。駆動対象の回転電機80は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の車両の駆動力源となる回転電機である。車両の駆動力源としての回転電機80は、複数相の交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
車両には、回転電機80を駆動するための電力源としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの直流電源が搭載されている。本実施形態では、回転電機80に電力を供給するための大電圧大容量の直流電源として、例えば電源電圧が200〜400[V]の高圧バッテリ11(直流電源)が備えられている。回転電機80は、交流の回転電機であるから、高圧バッテリ11と回転電機80との間には、直流と交流(ここでは3相交流)との間で電力を変換するインバータ10が備えられている。インバータ10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧は、以下“直流リンク電圧Vdc”と称する。高圧バッテリ11は、インバータ10を介して回転電機80に電力を供給可能であると共に、回転電機80が発電して得られた電力を蓄電可能である。
インバータ10と高圧バッテリ11との間には、インバータ10の直流側の正負両極間電圧(直流リンク電圧Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。直流リンクコンデンサ4と高圧バッテリ11との間には、直流リンクコンデンサ4から回転電機80までの回路と、高圧バッテリ11との電気的な接続を切り離すことが可能なコンタクタ9が備えられている。本実施形態において、このコンタクタ9は、車両の最も上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)90からの指令に基づいて開閉するメカニカルリレーであり、例えばシステムメインリレー(SMR:System Main Relay)と称される。コンタクタ9は、車両のイグニッションスイッチ(IGスイッチ)やメインスイッチがオン状態(有効状態)の際にSMRの接点が閉じて導通状態(接続状態)となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際にSMRの接点が開いて非導通状態(開放状態)となる。インバータ10は、高圧バッテリ11と回転電機80との間にコンタクタ9を介して介在され、コンタクタ9が接続状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)とが電気的に接続され、コンタクタ9が開放状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)との電気的接続が遮断される。
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。図1に示すように、本実施形態では、スイッチング素子3としてIGBTが用いられる。
インバータ10は、よく知られているように複数相(ここでは3相)のそれぞれに対応する数のアーム3Aを有するブリッジ回路により構成される。つまり、図1に示すように、インバータ10の直流正極側(直流電源の正極側の正極電源ラインP)と直流負極側(直流電源の負極側の負極電源ラインN)との間に2つのスイッチング素子3が直列に接続されて1つのアーム3Aが構成される。3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム3A)が3回線(3相)並列接続される。つまり、回転電機80のU相、V相、W相に対応するステータコイル8のそれぞれに一組の直列回路(アーム3A)が対応したブリッジ回路が構成される。
各相のスイッチング素子3による直列回路(アーム3A)の中間点、つまり、正極電源ラインPの側のスイッチング素子3(上段側スイッチング素子3H(31,33,35):図6等参照)と負極電源ラインN側のスイッチング素子3(下段側スイッチング素子3L(32,34,36):図6等参照)との接続点は、回転電機80のステータコイル8(8u,8v,8w:図6等参照)にそれぞれ接続される。尚、各スイッチング素子3には、負極“N”から正極“P”へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード5が備えられている。スイッチング素子3と同様に、上段側と下段側とで区別する場合には、上段側フリーホイールダイオード5H((51,53,55):図6等参照)、下段側フリーホイールダイオード5L((52,54,56):図6等参照)と称する。
図1に示すように、インバータ10は、インバータ制御装置20により制御される。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置20は、車両ECU90等の他の制御装置等から提供される回転電機80の目標トルクTMに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ12により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。また、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ13により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。インバータ制御装置20は、電流センサ12及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置20は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
車両には、高圧バッテリ11の他に、高圧バッテリ11とは絶縁され、高圧バッテリ11よりも低電圧の電源である低圧バッテリ(不図示)も搭載されている。低圧バッテリの電源電圧は、例えば12〜24[V]である。低圧バッテリは、インバータ制御装置20や車両ECU90に、例えば電圧を調整するレギュレータ回路等を介して電力を供給する。車両ECU90やインバータ制御装置20などの電源電圧は、例えば5[V]や3.3[V]である。
ところで、インバータ10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(IGBTの場合はゲート端子)は、ドライバ回路30を介してインバータ制御装置20に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。回転電機80を駆動するための高圧系回路と、マイクロコンピュータなどを中核とするインバータ制御装置20などの低圧系回路とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。このため、各スイッチング素子3に対する駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継するドライバ回路30(制御信号駆動回路)が備えられている。低圧系回路のインバータ制御装置20により生成されたスイッチング制御信号は、ドライバ回路30を介して高圧回路系の駆動信号としてインバータ10に供給される。ドライバ回路30は、例えばフォトカプラやトランスなどの絶縁素子やドライバICを利用して構成される。
インバータ制御装置20は、インバータ10を構成するスイッチング素子3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、少なくともパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と矩形波制御(1パルス制御)との2つの制御形態を有している。また、インバータ制御装置20は、ステータの界磁制御の形態として、モータ電流に対して最大トルクを出力する最大トルク制御や、モータ電流に対して最大効率でモータを駆動する最大効率制御などの通常界磁制御、及び、トルクに寄与しない界磁電流(d軸電流Id)を流して界磁磁束を弱める弱め界磁制御や、逆に界磁磁束を強める強め界磁制御などの界磁調整制御を有している。
上述したように、本実施形態では、回転電機80の回転に同期して回転する2軸の直交ベクトル空間(直交座標系)における電流ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を実行して回転電機80を制御する。電流ベクトル制御法では、例えば、永久磁石による界磁磁束の方向に沿ったd軸(界磁電流軸、界磁軸)と、このd軸に対して電気的にπ/2進んだq軸(駆動電流軸、駆動軸)との2軸の直交ベクトル空間(d−q軸ベクトル空間)において電流フィードバック制御を行う。インバータ制御装置20は、制御対象となる回転電機80の目標トルクTMに基づいてトルク指令T*を決定し、d軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*を決定する。
そして、インバータ制御装置20は、これらの電流指令(Id*,Iq*)と回転電機80のU相、V相、W相の各相のコイルを流れる実電流(Iu,Iv,Iw)との偏差を求めて比例積分制御演算(PI制御演算)や比例積分微分制御演算(PID制御演算)を行い、最終的に3相の電圧指令を決定する。この電圧指令に基づいて、スイッチング制御信号が生成される。回転電機80の実際の3相空間と2軸の直交ベクトル空間との間の相互の座標変換は、回転センサ13により検出された磁極位置θに基づいて行われる。また、回転電機80の回転速度ω(角速度)や回転数NR[rpm]は、回転センサ13の検出結果より導出される。
ところで、上述したように、本実施形態では、インバータ10のスイッチング形態には、PWM制御モードと矩形波制御モードとがある。PWM制御は、U相、V相、W相の各相のインバータ10の出力電圧波形であるPWM波形が、上段側スイッチング素子3Hがオン状態となるハイレベル期間と、下段側スイッチング素子3Lがオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で正弦波状となるように、各パルスのデューティーが設定される制御である。公知の正弦波PWM(SPWM : Sinusoidal PWM)や、空間ベクトルPWM(SVPWM : Space Vector PWM)、過変調PWM制御などが含まれる。本実施形態においては、PWM制御では、直交ベクトル空間の各軸に沿った界磁電流(d軸電流Id)と駆動電流(q軸電流Iq)との合成ベクトルである電機子電流を制御してインバータ10を駆動制御する。つまり、インバータ制御装置20は、d−q軸ベクトル空間における電機子電流の電流位相角(q軸電流ベクトルと電機子電流ベクトルとの為す角)を制御してインバータ10を駆動制御する。従って、PWM制御は、電流位相制御とも称される。
これに対して、矩形波制御(1パルス制御)は、3相交流電力の電圧位相を制御してインバータ10を制御する方式である。3相交流電力の電圧位相とは、3相の電圧指令値の位相に相当する。本実施形態では、矩形波制御は、インバータ10の各スイッチング素子3のオン及びオフが回転電機80の電気角1周期に付き1回ずつ行われ、各相について電気角1周期に付き1パルスが出力される回転同期制御である。本実施形態においては、矩形波制御は、3相電圧の電圧位相を制御することによってインバータ10を駆動するので、電圧位相制御と称される。
また、上述したように、本実施形態では界磁制御の形態として、通常界磁制御と、界磁調整制御(弱め界磁制御、強め界磁制御)とを有している。最大トルク制御や最大効率制御などの通常界磁制御は、回転電機80の目標トルクTMに基づいて設定される基本的な電流指令値(d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*)を用いた制御形態である。これに対して、弱め界磁制御とは、ステータからの界磁磁束を弱めるために、この基本的な電流指令値の内のd軸電流指令Id*を調整する制御形態である。また、強め界磁制御とは、ステータからの界磁磁束を強めるために、この基本的な電流指令値の内のd軸電流指令Id*を調整する制御形態である。弱め界磁制御や強め界磁制御などの際には、このようにd軸電流Idが調整されるが、ここでは、この調整値を界磁調整電流と称する。
上述したように、回転電機80は、目標トルクTMに応じてPWM制御や矩形波制御により駆動制御される。ところで、回転電機80が駆動中に車両のIGスイッチ(メインスイッチ)がオフ状態となったり、車両の安全を確保する必要が生じたりした場合には、SMRの接点が開放されて(コンタクタ9が開放されて)、高圧バッテリ11とインバータ10との電気的接続が遮断される。
このため、コンタクタ9が開放状態となった場合には、インバータ10を構成するスイッチング素子3の全てをオフ状態とするシャットダウン制御(SD制御)が実施される場合がある。シャットダウン制御が実施された場合、ステータコイル8に蓄積された電力が、フリーホイールダイオード5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。このため、直流リンクコンデンサ4の端子間電圧(直流リンク電圧Vdc)が短時間で急激に上昇するおそれがある。直流リンク電圧Vdcの上昇に備えて直流リンクコンデンサ4を大容量化、高耐圧化すると、コンデンサの体格の増大につながる。また、スイッチング素子3の高耐圧化も必要となる。これは、回転電機駆動装置1の小型化の妨げとなり、部品コスト、製造コスト、製品コストにも影響する。
本実施形態のインバータ制御装置20は、後述するようにシャットダウン制御、アクティブショートサーキット制御、ゼロトルク制御などを行うことによって、回生電力を抑制しつつ、回転電機80に流れる電流を適切にゼロ状態にする制御を実行する点に特徴を有する。ここで、「ゼロ状態」とはゼロを含む±数[A]の範囲を含む状態をいう。また、例えば、トルクに対して「ゼロ状態」と称する場合には、ゼロを含む±数[Nm]の範囲を含む状態をいう。その他の物理量についても特に明記しない限り同様である。本実施形態では、回転電機80が回生運転中であり、その回生電力がインバータ10を介して高圧バッテリ11の方向へ回生されている状態で、放電要求があった場合を例として説明する。また、ここでは、回生運転中の回転電機80が、PWM制御で制御されている場合を例として説明する。
以下、図2〜図5も参照して、ゼロトルク制御及びアクティブショートサーキット制御について説明する。図2のタイミングチャート、図3のフローチャート、図5の波形図は、それぞれ制御モードの遷移例を示している。また、図4は、制御モードの遷移例を電流の電流ベクトル空間(直交座標系)において模式的に示している。図4において、符号“100”(101〜103)は、それぞれ回転電機80が、あるトルクを出力する電機子電流のベクトル軌跡を示す等トルク線である。等トルク線101よりも等トルク線102の方が低トルクであり、さらに等トルク線102よりも等トルク線103の方が低トルクである。
曲線“300”は電圧速度楕円(電圧制限楕円)を示している。電圧速度楕円は、回転電機80の回転速度ω及びインバータ10の直流電圧(直流リンク電圧Vdc)の値に応じて設定可能な電流指令の範囲を示すベクトル軌跡である。電圧速度楕円300の大きさは、直流リンク電圧Vdcと回転電機80の回転速度ω(又は回転数NR)とに基づいて定まる。具体的には、電圧速度楕円300の径は直流リンク電圧Vdcに比例し、回転電機80の回転速度ωに反比例する。電流指令(Id*,Iq*)は、このような電流ベクトル空間において電圧速度楕円300内に存在する等トルク線100の線上の動作点における値として設定される。後述する電流指令マップは、このような電流ベクトル空間に基づいて規定されたマップである。
図2及び図3に示すように、インバータ制御装置20は、通常動作として回転電機80をトルクモード(目標トルクTMに応じた例えばPWM制御)で制御している(#10)。この時の、電流ベクトル空間における回転電機80の動作点は、図4に示す第1動作点P1である。換言すれば、回転電機80は、等トルク線101上の第1動作点P1において、通常動作としてのトルクモードで回生動作している(図3及び図2の#10)。
ここで、図3のステップ#20に例示すように、コンタクタ9を開放する必要が生じ、当該開放に備えて直流リンクコンデンサ4に蓄えられたエネルギーを放電させる放電要求が生じているとインバータ制御装置20が判定した場合、インバータ制御装置20は、下記に示すような制御を実施する。上述したように、コンタクタ9の開閉制御は、車両ECU90が行っている。従って、1つの態様として、車両ECU90がコンタクタ9を開放する制御の実行に先立って、インバータ制御装置20に対して、開放を行うことを通知したり、上記放電要求を通知したりすると好適である。
また、別の形態として、放電要求は、車両ECU90とは別の制御装置から通知されても良い。例えば、車両ECU90とは別の制御装置が、車両ECU90に対してコンタクタ9の開放要求を通知すると共に、インバータ制御装置20に放電要求を通知してもよい。また、インバータ制御装置20に各種の警告信号等が入力される場合には、インバータ制御装置20が放電要求を生成して、コンタクタ9の開閉を制御する車両ECU90に通知しても良い。図3に示すステップ#20は、インバータ制御装置20が認識可能な「放電要求」が存在するか否かの判定であり、システム全体として有効な「放電要求」が生じているか否かの判定と同義である。
図2に示すように時刻t1にて放電要求が通知されると、インバータ制御装置20は、回転電機80のトルクがゼロとなるようにトルク指令T*を設定してq軸電流Iq(駆動電流)をゼロ状態まで減少させると共に、当該トルク指令T*に基づくトルクを維持した状態で電機子電流が増加するようにd軸電流Id(界磁電流)を増加させるゼロトルク制御を開始する(#30)。ゼロトルク制御の開始は、放電モードの開始と等価である。図4に示すように、インバータ制御装置20は、動作点を、第1動作点P1から第2動作点P2へと移動させるような制御を実行する。ゼロトルク制御の開始時には、図5に示すように、3相電流波形の振幅(波高値I1)が大きくなる場合がある。しかし、後述するように、通常動作からゼロトルク制御へ円滑に遷移するように制御されるため、発明者らによる実験やシミュレーションによれば、許容値の範囲内に収まっていることが確認された。
ここで、直流リンクコンデンサ4への回生電力を抑制する上では、トルクに寄与しないd軸電流Idについては、電流量を減らすことなく、より多く流し続けて損失を増大させることが好ましい。具体的には、第1動作点P1からq軸電流Iqを減少させてトルクをゼロに近づけていきながら、d軸電流Idを増加させる。つまり、図4に示すように、第1動作点P1から、q軸電流Iqがゼロ状態でd軸電流Idの絶対値が第1動作点P1よりも大きい第2動作点P2まで遷移させる。この第2動作点P2は、好ましくは電圧速度楕円の中心であるが、q軸電流Iqの減少を優先して、第1動作点P1の座標とq軸電流Iqの減少速度とd軸電流Idの増加速度とに基づいて設定される座標とすると好適である。
インバータ制御装置20は、q軸電流Iqがゼロ状態に達したと判定した場合(動作点が第2動作点P2に達したと判定した場合)に、上述したゼロトルク制御を継続した状態で、SMRの接点の開放(コンタクタ9の開放)を許可する(図3:#40)。この許可は、車両ECU90に通知され、車両ECU90は、コンタクタ9が開放状態となるように制御する(図2:時刻t2)。コンタクタ9が開放される際には、直流リンク電圧Vdcが上昇する場合があるが、ゼロトルク制御を実行していることにより、エネルギーが消費されるので、そのような電圧上昇は抑制される。尚、ゼロトルク制御の開始(時刻t1)から、コンタクタ9の開放(時刻t2)までの間、放電モード中ではあるがコンタクタ9を介して高圧バッテリ11にも接続されているため、直流リンク電圧Vdcはほぼ一定で推移する。
第2動作点P2では、q軸電流Iqはゼロ状態であるが、d軸電流Idはゼロ状態ではない。従って、コンタクタ9が開放されると、d軸電流Idを流すための電力が直流リンクコンデンサ4から供給され、直流リンク電圧Vdcが低下する。つまり、放電モード(ゼロトルク制御)の継続によって、直流リンク電圧Vdcが低下していく。インバータ制御装置20は、第2動作点P2からさらに第3動作点P3の方向へ、d軸電流Idを増加させると好適である。後述するように、コンタクタ9が開放された後には、アクティブショートサーキット制御が開始されるが、アクティブショートサーキット制御への移行時には電流が振動する場合がある。従って、q軸電流Iqがゼロ状態に達した後も、d軸電流Idを増加させることによって、直流リンクコンデンサ4に蓄積されたエネルギーを効率的に消費させておくと、アクティブショートサーキット制御への移行時に振動する電流の振幅(例えば図5の時刻t3における波高値I3)を抑制することができる。
尚、図5では、コンタクタ9が開放される時刻t2よりも前にd軸電流Idが最大値を示し、動作点が移動していない形態が例示されている。このように、第1動作点P1から第3動作点P3へ遷移した後に、コンタクタ9が開放されてもよい。この際、第1動作点P1から直接第3動作点P3へ遷移してコンタクタ9が開放されても良いし、第1動作点P1から第2動作点P2を経由して第3動作点P3に遷移してコンタクタ9が開放されても良い。つまり、第1動作点P1から第3動作点P3に至る中間の動作点である第2動作点P2は、比較的任意に設定することができる。上述したように、第2動作点P2は、q軸電流Iqの減少を優先して、第1動作点P1の座標とq軸電流Iqの減少速度とd軸電流Idの増加速度とに基づいて設定される座標とすることができる。このことから明らかなように、コンタクタ9を開放するタイミングは、q軸電流Iqがゼロ状態であれば、比較的寛容に設定することができるので、放電モード(ゼロトルク制御)の開始から予め規定された時間(例えば“T1”)の経過後に設定されていてもよい。
インバータ制御装置20は、直流リンク電圧Vdcを電圧センサ14から取得する。インバータ制御装置20は、q軸電流Iq(駆動電流)がゼロ状態に達し、上記ゼロトルク制御を継続した状態で、コンタクタ9が開放された後、直流リンク電圧Vdcが予め規定されたしきい値電圧Th以下になったと判定した場合(#50)に、ゼロトルク制御に代えて、アクティブショートサーキット制御を開始する(#60)。アクティブショートサーキット制御とは、複数相のアーム3Aの上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの何れか一方のスイッチング素子3の全てをオン状態に制御し、他方のスイッチング素子3の全てをオフ状態に制御する制御方式である。電流は、回転電機80とインバータ10との間(ステータコイル8とスイッチング素子3との間)で還流する。つまり、アクティブショートサーキット制御の開始よって、動作モードは、放電モードから、電流を還流させる動作モードへ移行する。
還流モードでは、エネルギーがステータコイル8及びスイッチング素子3における熱となって消費される。このため、長時間に亘ってこの還流電流が流れ続けると、ステータコイル8やスイッチング素子3の寿命に影響を与える場合がある。従って、できる限り早期に、回転電機80に流れる電流をゼロとすることが好ましい。そこで、本実施形態では、アクティブショートサーキット制御を開始した後、後述するようなパーシャルシャットダウン制御(PSD制御)及びフルシャットダウン制御(FSD制御)を行って、回転電機80に流れる電流をゼロ状態とする。
インバータ制御装置20は、アクティブショートサーキット制御の開始後に、以下に例示するような、予め規定されたパーシャルシャットダウン制御開始条件を満たした場合(#65)に、パーシャルシャットダウン制御(PSD制御)を開始する(図3:#70)。本実施形態では、インバータ10は、直流と3相の交流との間で電力を変換している。この場合、インバータ制御装置20は、アクティブショートサーキット制御の開始後に、何れか1相のアーム3Aである対象アームの電流がゼロ状態となる際に、或いは、アクティブショートサーキット制御の開始後に、回転電機80の回転速度が上限回転速度以下であり、何れか1相のアーム3Aである対象アームの電流がゼロ状態となる際に、少なくともその対象アームにおいてオン状態に制御されているスイッチング素子3をオフ状態とするように制御するパーシャルシャットダウン制御(PSD制御)を開始する。
アーム3Aに電流が流れている状態で当該アーム3Aのスイッチング素子3をオフ状態に制御すると、その電流がフリーホイールダイオード5を介して直流リンクコンデンサ4に流入し、直流リンク電圧Vdcを上昇させる。しかし、アクティブショートサーキット制御からパーシャルシャットダウン制御への移行時には、オン状態からオフ状態へと制御されるスイッチング素子3を流れる電流がゼロ状態であるから、直流リンクコンデンサ4には電流が流れ込まず、直流リンク電圧Vdcの上昇が抑制される。
さらに、インバータ制御装置20は、パーシャルシャットダウン制御の開始後、以下に例示するような、予め規定されたフルシャットダウン制御開始条件を満たした場合(#75)に、フルシャットダウン制御(FSD制御)を開始する(#80)。本実施形態では、インバータ10は、対象アームとは別の2相のアーム3Aの電流が共にゼロ状態となる際に、残りの全てのアーム3Aにおいてオン状態に制御されているスイッチング素子3をオフ状態とするように制御するフルシャットダウン制御(FSD制御)を開始する。このフルシャットダウン制御は、インバータ10の全てのスイッチング素子3をオフ状態に制御することと等価となるから、単純にシャットダウン制御(SD制御)と称することもできる。
3相の内、1相には電流が流れないように制御されているので、残りの2相を流れる交流の電流は平衡する。従って、当該2相を流れる交流の電流は同時にゼロ状態となる。アクティブショートサーキット制御からパーシャルシャットダウン制御への移行時と同様に、パーシャルシャットダウン制御からフルシャットダウン制御への移行時も、オン状態からオフ状態へと制御されるスイッチング素子3を流れる電流はゼロ状態である。従って、パーシャルシャットダウン制御からフルシャットダウン制御への移行時にも、直流リンクコンデンサ4には電流が流れ込まず、直流リンク電圧Vdcの上昇が抑制される。
以上、放電要求が生じてからインバータ10がシャットダウンされるまでの制御について説明した。以下、ゼロトルク制御、アクティブショートサーキット制御、パーシャルシャットダウン制御、フルシャットダウン制御の具体的な制御方法について詳述する。
図3に示すように、放電要求がない場合には、回転電機80は通常動作として、トルクモードで制御されている(#10,#20)。通常動作(トルクモード)では、上述したPWM制御や矩形波制御が実行されている。単位時間当たりのトルクの変化率は、制限値LT[N/s]によって制限されており、急激なトルクの変動が抑制されている。制限値LT[N/s]は、目標トルクTMに応じて制御のために設定されるトルク指令T*の単位時間当たりに許容される最大の変化率に相当する。通常動作時(トルクモードの実行時)には、制限値LT[N/s]の値として、通常トルク変化率制限値LT1[N/s]が設定される。また、目標トルクTMに応じて設定される最終目標トルクT**は、目標トルクTMに設定される。
通常動作(トルクモード)が、電流位相制御(PWM制御)により実行される場合には、d軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*は、トルク特性に基づいて予め生成された電流指令マップから取得される。つまり、d軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*は、現在のトルクから最終目標トルクT**に向かってトルク変化率の制限値LTの範囲内で設定されたトルク指令T*に応じて、電流指令マップから取得される。尚、最終的なd軸電流指令Id*は、界磁制御による調整量を反映して決定されるので、電流指令マップから取得されたd軸電流指令Id*は、後述する変数Id_tmpとして利用される。
ステップ#20において放電要求があると判定された場合には、ゼロトルク制御が開始される(#30)。ゼロトルク制御(#30)では、回転電機80の回生トルクを0[Nm]とする制御が実行される。ゼロトルク制御の実行に際しては、まず、トルク変化率ΔT[N/s]が演算される。このトルク変化率ΔTは、回転電機80が制御可能な範囲での回生電力の変化率の最大値である電力変化率ΔW[kW/s]と、現在の回転電機80の回転数NR[rmp](回転速度ω)とに基づいて演算される。
次に、このトルク変化率ΔTが、通常トルク変化率制限値LT1を越えているか否かが判定される。トルク変化率ΔTが通常トルク変化率制限値LT1を越えている場合には、トルク変化率ΔTとして、上記で演算されたトルク変化率ΔTが採用される。一方、トルク変化率ΔTが通常トルク変化率制限値LT1以下の場合には、トルク変化率ΔTとして、通常トルク変化率制限値LT1が設定される。つまり、ゼロトルク制御では、できるだけ速くトルクを下げてゼロトルク制御を実現することが好ましいので、可能な限り大きいトルク変化率ΔTが用いられる。
トルク変化率ΔTは、回転電機80が制御可能な範囲での回生電力の変化率の最大値である電力変化率ΔW[kW/s]と、現在の回転電機80の回転数NR[rmp](回転速度ω)とに基づいて演算される。従って、実用的な範囲内での所定の回転数NRと電力変化率ΔWとに基づくトルク変化率ΔTが、トルク変化率の制限値LTとなる。実質的には、電力変化率ΔWがトルク変化率の制限値LTを規定することになる。つまり、電力変化率ΔWと回転数NRとに基づいて演算されるトルク変化率ΔTの最大値は、実質的に電力変化率ΔWによって制限されることになる。本実施形態では、概ね、通常トルク変化率制限値LT1の5〜6倍程度の制限値となる。
また、トルク変化率ΔTは、回転電機80の回転速度に応じて異なる値を採り得るが、通常の制御においては定数値が用いられることが多い。しかし、速やかに回生電力を低下させる上では、制御が追従可能な範囲内で大きいトルク変化率ΔTで回転電機80の回生トルクがゼロとなるようにインバータ10を制御することが好適である。このため、上述したように、回転電機80の回生トルクをゼロに低下させていく際のトルク変化率ΔTが、回転電機80の回転数NR(回転速度ω)に応じて可変設定されると好適である。上述したように、トルク変化率ΔTは、回転電機80が制御可能な範囲での回生電力の変化率の最大値である電力変化率ΔW[kW/s]と、現在の回転電機80の回転数NR[rmp](回転速度ω)とに基づいて演算される。つまり、トルク変化率ΔTは、回転数NR(回転速度(ω)に反比例し、回転数NRが小さくなるに従って大きくなるように設定される。
ところで、通常動作(トルクモード)が、電圧位相制御である矩形波制御モードで制御されている場合には、電流位相を制御することによってd軸電流Idの絶対値を増加させることができない。従って、制御方式(変調方式)をPWM制御モードに変更しておくことが好ましい。尚、変調方式は、変調率(=3相の相間電圧の実効値/直流リンク電圧)によって切り換えられているため、変調方式が矩形波変調方式の場合には、PWM制御の理論的な最大変調率(≒0.707)を超えている。従って、変調率の指令値についても当該最大変調率以下に設定されると好適である。
本実施形態におけるゼロトルク制御では、単純に回転電機80のトルクを0[Nm]とする制御に加え、トルクに寄与しないd軸電流Idを増加させて回生エネルギーを消費させる高損失制御(高損失処理)も並行して実施される。従って、本実施形態のゼロトルク制御においては、変数として高損失d軸電流指令Id_lossが設定される。この高損失d軸電流指令Id_lossには、まず、上述したId_tmp(現在のd軸電流指令Id*)が代入される。次に、トルク指令T*と、回転数NRとの関係から、回転電機80が回生運転中であるか否か、トルクがゼロ状態に達しているか否かが判定される。
トルクがゼロ状態に達していないと判定された場合には、d軸電流指令Id*の単位時間当たりの変化量ΔIdが演算される。ゼロトルク制御を開始する直前の最終目標トルクT**(=T**−0)を上述したトルク変化率ΔTで除することによって、現時点での最終目標トルクT**からトルクをゼロにするまで、トルク変化率ΔTでトルクをゼロまで変化させる場合に要する遷移時間t[s]を演算することができる。従って、目標となる動作点(例えば第2動作点P2)でのd軸電流の値Id_oと、現在のd軸電流指令の値であるId_lossとの差分を、上述した遷移時間t[s]で除することにより、単位時間当たりのd軸電流の変化量ΔIdを演算する。別の態様として、例えば、電圧速度楕円300の中心(第4動作点P4)でのd軸電流の値Id_oと、現在のd軸電流指令の値であるId_lossとの差分を、上述した遷移時間t[s]で除することにより、単位時間当たりのd軸電流の変化量ΔIdを演算してもよい。つまり、トルク変化率ΔTでトルクをゼロに変化させるまでに要する遷移時間t[s]に応じて変化させることが可能な単位時間当たりのd軸電流の変化量ΔIdが算出される。
尚、演算されたd軸電流の変化量ΔIdが大きすぎて制御が実施できない場合には、制御可能な範囲で最大の変化量ΔIdが設定されると好適である。この場合には、ゼロトルク制御において目標となる動作点が、d軸電流の変化量ΔIdによって決定される。
続いて、インバータ制御装置20は、最終目標トルクT**をゼロに設定し、現在のトルク指令T*から最終目標トルクT**(=0)に向かう方向にトルク変化率ΔTを減じて、トルク指令T*を更新する。インバータ制御装置20は、更新されたトルク指令T*に基づいて、電流指令マップを参照し、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*の値を取得する。但し、このd軸電流指令Id*は、最大トルク制御や最大効率制御の場合の電流指令であるから損失は大きくない(d軸電流Idの絶対値が大きくない)。従って、損失を増大させて回生電力を消費させる高損失制御を実現するために、弱め界磁制御や強め界磁制御など同様に、d軸電流指令Id*が、界磁調整電流によって調整される。
界磁調整に際して、インバータ制御装置20は、まず、現時点のd軸電流指令Id*の値である高損失d軸電流指令Id_lossに、d軸電流指令Id*の変化量ΔIdを加えて、高損失d軸電流指令Id_lossの値を更新する。次に、インバータ制御装置20は、更新された高損失d軸電流指令Id_lossと、電流指令マップを参照して得られたd軸電流指令Id*との差分を演算し、d軸電流の界磁調整値Id_AFRとする。この界磁調整値Id_AFRの値は、弱め界磁制御や強め界磁制御の際に利用される調整値と同様に扱うことができる。従って、高損失制御に際して界磁調整を行う場合に、新たな演算機能を付加することなく、弱め界磁制御や強め界磁制御のために用意された機能部を共用することができる。
d軸電流指令Id*の値を調整することにより、等トルク線上の動作点が移動することになる。このため、q軸電流指令Iq*の値にも変動が生じる。そこで、インバータ制御装置20は、トルク指令T*とd軸電流の界磁調整値Id_AFRとに基づいて、再度、電流指令マップを参照し、高損失q軸電流指令Iq_lossを取得する。そして、高損失d軸電流指令Id_loss及び高損失q軸電流指令Iq_lossが、それぞれd軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*として設定される。このような処理が、回転電機80のトルクがゼロ状態となるまで繰り返される。
動作点が第2動作点P2に達すると、q軸電流Iqがゼロ状態となる(図4、図5参照)。q軸電流Iqがゼロ状態となった後も、インバータ制御装置20はd軸電流Idを増加させる。移動する動作点の目標は、後述するしきい値電圧Thを直流リンク電圧Vdcとした場合の電圧速度楕円300と、d軸との交点に位置する第3動作点P3である。d軸電流Idの制御については、上述した通りであるので詳細な説明は省略する。また、上述したように、q軸電流Iqがゼロ状態となった後、インバータ制御装置20は、コンタクタ9の開放許可を出す(図3:#40)。
コンタクタ9が開放されると、d軸電流Idが流れ続けることによって、直流リンクコンデンサ4に蓄積されたエネルギーが消費され、直流リンク電圧Vdcが低下していく(図2、図5参照)。インバータ制御装置20は、直流リンク電圧Vdcがしきい値電圧Th以下となると(動作点が第3動作点P3に達すると)、ゼロトルク制御(高損失制御を含む)を終了し、アクティブショートサーキット制御(ASC制御)を開始する(図3:#50,#60)。
以下、アクティブショートサーキット制御について説明する。図1及び図6等に示すように、インバータ10は、交流1相分のアーム3Aが、相補的にスイッチング制御される上段側スイッチング素子3H(31,33,35)と下段側スイッチング素子3L(32,34,36)との直列回路により構成される。インバータ制御装置20は、3相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H(31,33,35)をオン状態とし、3相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3L(32,34,36)をオフ状態とする上段側アクティブショートサーキット制御、及び、3相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3L(32,34,36)をオン状態とし、3相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H(31,33,35)をオフ状態とする下段側アクティブショートサーキット制御の何れかのアクティブショート制御を実行する。
ここでは、図6に示すように、下段側アクティブショートサーキット制御が実行される例を示している。図6において、破線で示すスイッチング素子3は、オフ状態にスイッチング制御されていることを示し、実線で示すスイッチング素子3はオン状態に制御されていることを示す。また、破線で示すフリーホイールダイオード5は非導通状態であることを示し、実線で示すフリーホイールダイオード5は導通状態であることを示す。図6に示すように、上段側スイッチング素子3H(31,33,35)はオフ状態に、下段側スイッチング素子3L(32,34,36)はオン状態に制御される。U相電流Iuは、U相下段側スイッチング素子32を流れる。V相電流Ivは、V相下段側スイッチング素子34を流れると共に、V相下段側スイッチング素子34に逆並列に接続されたV相下段側フリーホイールダイオード54も流れる。同様に、W相電流Iwは、W相下段側スイッチング素子36を流れると共に、W相下段側スイッチング素子36に逆並列に接続されたW相下段側フリーホイールダイオード56も流れる。
アクティブショートサーキット制御では、このように回転電機80とインバータ10との間に還流電流が流れ、回転電機80の逆起電力を打ち消すための電流に相当するd軸電流Idが流れる。このため、動作点は、変調率がゼロとなる動作点に相当する第4動作点P4へ移動する(図5)。尚、上記においては、アクティブショートサーキット制御として下段側アクティブショートサーキット制御を行う形態を例示したが、当然ながらアクティブショートサーキット制御として上段側アクティブショートサーキット制御を行ってもよい。
図3のフローチャートでは、判定処理を省略しているが、アクティブショートサーキット制御の実行中に、何れか1相のアーム3A(対象アーム)を流れる電流(相電流)がゼロ状態となる際に、パーシャルシャットダウン制御(PSD制御)が開始される。パーシャルシャットダウン制御は、何れか1相のアーム3A(対象アーム)の電流(相電流)がゼロの時点(時刻)で開始されると好適であるが、厳密ではなく、その時刻の前後において実行されればよい。電流がゼロとなったことを検出した後では、パーシャルシャットダウン制御の実行開始が遅れるため、例えば、パーシャルシャットダウン制御は、相電流がゼロの時を予想して実行されると好適である。上述したように、ゼロ状態とはゼロを含む±数[A]の範囲を含む。
図7は、図6に示すようにアクティブショートサーキット制御が行われている状態から、パーシャルシャットダウン制御が開始された状態を示している。ここでは、対象アームがV相アームであり、V相アームにおいてオン状態に制御されているV相下段側スイッチング素子34がオフ状態に制御される。これにより、V相はシャットダウンされた状態となり、インバータ10は部分的にシャットダウンされた状態となる。一般的に、何れかの相がシャットダウンされた場合には、ステータコイル8に蓄積された電力が、フリーホイールダイオード5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。しかし、シャットダウンされる相(この場合V相)の相電流(Iv)がゼロ状態の時にシャットダウンを行っているため、直流リンクコンデンサ4は充電されず、直流リンク電圧Vdcは上昇しない。
アクティブショートサーキット制御からパーシャルシャットダウン制御への移行時と同様に、図3のフローチャートでは、判定処理を省略しているが、パーシャルシャットダウン制御の開始後、対象アーム(ここではV相)とは別の2相(ここではU相及びW相)のアーム3Aの電流が共にゼロ状態となる際に、残りの全てのアーム3Aにおいてオン状態に制御されているスイッチング素子3をオフ状態とするように制御するフルシャットダウン制御(FSD制御)が開始される。フルシャットダウン制御は、対象アーム(ここではV相)とは別の2相(ここではU相及びW相)のアーム3Aの電流が共にゼロ状態となる時点(時刻)で開始されると好適であるが、パーシャルシャットダウン制御と同様に、その時刻は厳密ではなく、その時刻の前後において実行されればよい。電流がゼロとなったことを検出した後では、フルシャットダウン制御の実行開始が遅れるため、例えば、フルシャットダウン制御は、相電流がゼロの時を予想して実行されると好適である。上述したように、ゼロ状態とはゼロを含む±数[A]の範囲を含む。
図7に示すように、U相電流Iuは、U相下段側スイッチング素子32を流れ、W相電流Iwは、W相下段側スイッチング素子36を流れると共に、W相下段側スイッチング素子36に逆並列に接続されたW相下段側フリーホイールダイオード56も流れる。V相がシャットダウンされているため、U相電流IuとW相電流Iwとは平衡する。従って、U相電流IuとW相電流Iwとは同じ時刻においてゼロ状態となる。インバータ制御装置20は、対象アーム(ここではV相)とは別の2相のアーム3A(ここではU相、W相)の電流が共にゼロ状態となる際に残りの全てのアーム3Aにおいてオン状態に制御されているスイッチング素子3(ここでは“32,36”)をオフ状態とするように制御するフルシャットダウン制御を実行する。シャットダウンが実施された場合には、ステータコイル8に蓄積された電力が、フリーホイールダイオード5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。しかし、フルシャットダウン制御では、相電流(Iu,Iw)がゼロ状態の時にシャットダウンを行っているため、直流リンクコンデンサ4は充電されず、直流リンク電圧Vdcは上昇しない。
以上説明したように、本実施形態によれば、直流電源(高圧バッテリ11)に接続されると共に交流の回転電機80に接続されるインバータ10の動作中に、インバータ10と当該直流電源との電気的接続が遮断される場合に、直流リンク電圧Vdcの急上昇やインバータ10に流れる電流の大幅な上昇などを抑制できるように、インバータ10を適切に制御することができる。また、インバータ10と当該直流電源との電気的接続が遮断された後、適切に回転電機80に流れる電流をゼロ状態にすることができる。
尚、上述した実施形態の説明において開示された種々の構成は、矛盾が生じない限り、組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明したインバータ制御装置(20)の概要について簡単に説明する。
1つの態様として、上記に鑑みたインバータ制御装置(20)は、
直流電源(11)にコンタクタ(9)を介して接続されると共に交流の回転電機(80)に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換するインバータ(10)であって、交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成された当該インバータ(10)を制御対象とし、
前記回転電機(80)の回転に同期して回転する2軸の直交座標系において、当該直交座標系の各軸に沿った界磁電流(Id)と駆動電流(Iq)との合成ベクトルである電機子電流を制御して前記インバータ(10)を構成するスイッチング素子(3)をスイッチング制御するインバータ制御装置(20)であって、
前記インバータ(10)の直流側の電圧である直流リンク電圧(Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ(4)に蓄えられたエネルギーを放電させる放電要求が生じた場合に、
前記回転電機(80)のトルクがゼロとなるようにトルク指令を設定して前記駆動電流(Iq)をゼロ状態まで減少させると共に、当該トルク指令に基づくトルクを維持した状態で前記電機子電流が増加するように前記界磁電流(Id)を増加させるゼロトルク制御を開始し、
前記駆動電流(Iq)が前記ゼロ状態に達し、前記ゼロトルク制御を継続した状態で、前記コンタクタ(9)が開放された後、前記直流リンク電圧(Vdc)が予め規定されたしきい値電圧(Th)以下になったと判定した場合に、前記ゼロトルク制御に代えて、複数相の前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)及び前記下段側スイッチング素子(3L)の何れか一方の前記スイッチング素子(3)の全てをオン状態に制御し、他方の前記スイッチング素子(3)の全てをオフ状態に制御するアクティブショートサーキット制御を開始する。ここで、ゼロ状態とはゼロを含む±数[A]の範囲を含む状態をいう。
この構成によれば、コンタクタ(9)が開放される際には、駆動電流(Iq)がゼロ状態に達しているから、回転電機(80)から平滑コンデンサ(4)や直流電源(11)に電流が回生されない。従って、コンタクタ(9)が開放されて、直流電源(11)には電流を回生することができなくなっても、平滑コンデンサ(4)が充電されてその端子間電圧が急激に上昇することはない。また、コンタクタ(9)が開放された後も、回転電機のトルクには寄与しない界磁電流(Id)を流すゼロトルク制御は継続されている。その電力源は平滑コンデンサ(4)に蓄積された電力であるから、平滑コンデンサ(4)に蓄えられたエネルギーを消費させることができる。さらに、アクティブショートサーキット制御は、平滑コンデンサ(4)に蓄えられたエネルギーがある程度放電されてから(直流リンク電圧(Vdc)がしきい値電圧(Th)以下となってから)、開始される。制御方式が切り換わる際には、電流に過渡的な振動が生じることがあるが、予め電力源となる平滑コンデンサ(4)のエネルギーを減少させておくことにより、そのような振動の振幅を低減することができる。その結果、制御方式が切り換わる際の過電流の発生を抑制することができる。このように、本構成によれば、直流電源(11)に接続されると共に交流の回転電機(80)に接続されるインバータ(10)の動作中に、インバータ(10)と直流電源(11)との電気的接続が遮断される場合に、インバータ(10)の直流側の電圧(Vdc)の急上昇やインバータ(10)に流れる電流の大幅な上昇などを抑制できるように、インバータ(10)を適切に制御することができる。
ここで、インバータ制御装置(20)は、少なくとも前記スイッチング素子(3)をスイッチング制御する変調方式として、電気角の一周期においてデューティーの異なる複数のパルスが出力される制御方式であるパルス幅変調制御を行うことが可能であり、前記ゼロトルク制御では、前記パルス幅変調制御を行うことができる動作領域内で前記電機子電流を変化させると好適である。
代表的なインバータ(10)の制御方式には、複数相の交流電圧の電圧位相を制御する方式と、パルス幅変調制御のように、直交座標系において界磁電流と駆動電流との合成ベクトルに相当する電機子電流の電流位相角を制御する方式とがある。電圧位相を制御する方式では、上述したように界磁電流と駆動電流とを制御することができない。従って、ゼロトルク制御は、界磁電流と駆動電流とを制御することができるパルス幅変調制御によって行われると好適である。また、一般的に、電圧位相を制御する方式は、電流位相角を制御する方式に比べて、変調率(直流リンク電圧に対する複数相の交流電圧の相間電圧の実効値の割合)を高くすることができる。換言すれば、パルス幅変調制御は、電圧位相を制御する方式に比べて、その動作領域が低変調率側である。しかし、ゼロトルク制御は、界磁電流と駆動電流とを制御するために、パルス幅変調制御を行うことができる動作領域内で実行されると好適である。
また、インバータ制御装置(20)は、前記ゼロトルク制御において、前記駆動電流(Iq)が前記ゼロ状態に達したと判定した場合に、さらに前記界磁電流(Id)を増加させると好適である。
上述したように、ゼロトルク制御の後には、コンタクタ(9)を開放し、その後、さらにアクティブショートサーキット制御が行われる。コンタクタ(9)の開放時には、直流リンク電圧(Vdc)が上昇する場合があり、アクティブショートサーキット制御への移行時には電流が振動する場合がある。従って、駆動電流(Iq)がゼロ状態に達した後も、界磁電流(Id)を増加させることによって、平滑コンデンサ(4)に蓄積されたエネルギーを効率的に消費させ、直流リンク電圧(Vdc)の上昇や振動する電流の振幅を抑制すると好適である。
インバータ制御装置(20)は、前記ゼロトルク制御において、前記駆動電流(Iq)が前記ゼロ状態に達したと判定し、さらに前記界磁電流(Id)を増加させる場合に、界磁電流軸及び駆動電流軸の2軸を有する前記直交座標系において、前記直流リンク電圧(Vdc)に比例し、前記回転電機(80)の回転速度(ω,NR)に反比例する径を有する楕円である電圧速度楕円(300)と、前記界磁電流軸との交点(P3)を目標として、前記界磁電流(Id)を増加させると好適である。
電圧速度楕円(300)の中心は、変調率がゼロの点である。そして、中心から離れるほど、その変調率は大きくなり、パルス幅変調制御における電圧速度楕円(300)の線上の変調率は、パルス幅変調制御における理論上の最大値(例えば約0.707)となる。例えば、直流リンク電圧(Vdc)が、上記しきい値電圧(Th)であるような電圧速度楕円(300)と界磁電流軸との交点(P3)を目標として、界磁電流(Id)を増加させると、平滑コンデンサ(4)に蓄積されたエネルギーを効率的に消費させ、直流リンク電圧(Vdc)の上昇や振動する電流の振幅を抑制することができる。従って、界磁電流(Id)が当該交点(P3)に達したときに円滑にアクティブショートサーキット制御に制御方式を移行させることができる。
ここで、前記インバータ(10)が、直流と3相の交流との間で電力変換を行うものである場合、インバータ制御装置(20)は、前記アクティブショートサーキット制御の開始後に、何れか1相の前記アーム(3A)である対象アームの電流が前記ゼロ状態となる際に、少なくとも前記対象アームにおいてオン状態に制御されている前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするように制御するパーシャルシャットダウン制御を開始すると好適である。
一般的に、アクティブショートサーキット制御では、回転電機(80)のステータコイルとインバータ(10)のスイッチング素子(3)との間で電流が還流し、そのエネルギーは、ステータコイルやスイッチング素子(3)において熱として消費される。従って、アクティブショートサーキット制御の長時間の継続には、回転電機(80)やスイッチング素子(3)の発熱に考慮する必要がある。一方、インバータ(10)を構成する全てのスイッチング素子(3)をオフ状態に制御するシャットダウン制御では、行先を遮断された電流が平滑コンデンサ(4)を充電し、直流リンク電圧(Vdc)を上昇させるため、平滑コンデンサ(4)やスイッチング素子(3)の耐圧に考慮する必要がある。アクティブショートサーキット制御からパーシャルシャットダウン制御への移行時には、オン状態からオフ状態へと制御されるスイッチング素子(3)を流れる電流がゼロ状態であるから、平滑コンデンサ(4)には電流が流れ込まず、直流リンク電圧(Vdc)の上昇は抑制される。
さらに、前記インバータ制御装置(20)は、前記パーシャルシャットダウン制御の開始後、前記対象アームとは別の2相の前記アーム(3A)の電流が共に前記ゼロ状態となる際に、残りの全ての前記アーム(3A)においてオン状態に制御されている前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするように制御するフルシャットダウン制御を開始すると好適である。
パーシャルシャットダウン制御中には、3相の内、1相には電流が流れないように制御されているので、残りの2相を流れる交流の電流は平衡する。従って、当該2相を流れる交流の電流は同時にゼロ状態となる。アクティブショートサーキット制御からパーシャルシャットダウン制御への移行時と同様に、パーシャルシャットダウン制御からフルシャットダウン制御への移行時も、オン状態からオフ状態へと制御されるスイッチング素子(3)を流れる電流はゼロ状態である。従って、パーシャルシャットダウン制御からフルシャットダウン制御への移行時にも、平滑コンデンサ(4)には電流が流れ込まず、直流リンク電圧(Vdc)の上昇は抑制される。本構成によれば、インバータ(10)と直流電源(11)とを接続するコンタクタ(9)が開放状態となった際に、直流リンク電圧(Vdc)の上昇や、還流電流の総量を抑制しつつ、回転電機(80)に流れる電流をゼロ状態にすることができる。