以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1〜図3は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置を、これを適用した構造物BUの一部とともに概略的に示している。この構造物BUは、基礎梁Fに立設された鉄骨造の高層の建物であり、図1〜図3に示すように、x方向及びy方向にそれぞれ延びる梁Bx及び梁Byと、z方向すなわち上下方向に延びる複数の柱Pとを互いに接合したラーメン構造を有している。x方向は、例えば、構造物BUの左右方向であり、y方向は、構造物BUの左右方向に直交する方向、例えば構造物BUの前後方向である。
第1実施形態による振動抑制装置は、第1付加振動系及び第2付加振動系を1組とする複数組(例えば4組)の付加振動系で構成されており、構造物BUの1階部分に配置されている。第1付加振動系は、支持部材1及び第1マスダンパ2を備えており、第2付加振動系は、支持部材1及び第2マスダンパ3を備えている。このように、支持部材1は、第1及び第2マスダンパ2、3について共用されている。
なお、図1では、梁Bx及び梁Byを簡略化して示しており、図2では便宜上、柱Pの図示を省略するとともに、図2及び図3では便宜上、梁By及び梁Bxのハッチングをそれぞれ省略している。また、図1〜図3では、第1及び第2マスダンパ2、3の後述する構成要素の符号を省略している。
支持部材1は、例えば、断面が一定のロ型鋼で構成され、上下方向に延びており、その下端部が基礎梁Fに連結されている。また、支持部材1のx方向の幅及びy方向の幅は、互いに同じ大きさに設定されているが、互いに異なっていてもよい。このことは、後述する第2実施形態についても同様に当てはまる。さらに、支持部材1の上端部は、構造物BUの2階部分の梁Bx(又はBy)に、間隔を存した状態で対向している。支持部材1の剛性の設定については、後述する。
支持部材1及び第1マスダンパ2から成る第1付加振動系は、構造物BUの2階部分の梁Bxと基礎梁Fとの間のx方向の相対変位を抑制することによって、構造物BUのx方向の振動を抑制するためのものである。第1マスダンパ2は、本出願人による特許第5399540号に開示されたものと同じであるので、以下、その構成について簡単に説明する。
図4に示すように、第1マスダンパ2は、内筒11、ボールねじ12、回転マス13、及び制限機構(図示せず)を有している。内筒11は、円筒状の鋼材で構成され、ボールねじ12及び回転マス13と同心状に配置されている。また、内筒11は、そのボールねじ12側の一端部が開口しており、内筒11の他端部には、第1ボールジョイント14が設けられている。なお、図4は、図1の最も右側の支持部材1、第1及び第2マスダンパ2、3を示している。また、図4及び後述する図5では便宜上、支持部材1の断面を示すハッチングを省略している。
上記のボールねじ12は、ねじ軸12aと、ねじ軸12aに多数のボールを介して螺合するナット(いずれも図示せず)を有している。ねじ軸12aの一端部は、上述した内筒11の開口に収容されており、ねじ軸12aの他端部には、第2ボールジョイント15が設けられている。また、ボールねじ12のナットは、軸受け(図示せず)を介して内筒11に回転自在に支持されるとともに、前記制限機構を介して回転マス13に連結されている。
回転マス13は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。回転マス13の質量の設定については後述する。また、回転マス13は、内筒11及びボールねじ12を覆っており、軸受け(図示せず)を介して、内筒11に回転自在に支持されている。回転マス13と内筒11の間には、一対のリング状のシール材(図示せず)が設けられている。これらのシール材、回転マス13及び内筒11によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体(図示せず)が充填されている。
以上のように構成された第1マスダンパ2では、内筒11とねじ軸12aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ12で回転運動に変換された状態で、制限機構を介して回転マス13に伝達されることによって、回転マス13が回転する。以下、このように内筒11とねじ軸12aの間の相対変位を回転マス13の回転運動に変換する第1マスダンパ2の動作を、「第1マスダンパ2の回転変換動作」という。制限機構は、この第1マスダンパ2の回転変換動作を制限することによって、第1マスダンパ2の軸線方向に作用する荷重(軸荷重)を所定の制限荷重に制限するためのものである。その詳細については、特許第5399540号を参照されたい。
前記第1ボールジョイント14は、凹部が設けられたボール受部14aと、ボール受部14aの凹部に回転自在に嵌合するボール14bを有している。ボール受部14aは、第1連結部材EN1を介して、梁Bxの下面に取り付けられている(図2参照)。第1連結部材EN1は、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。ボール14bは、第1マスダンパ2の内筒11の他端部に同心状に取り付けられている。ボール受部14aとボール14bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
前記第2ボールジョイント15は、第1ボールジョイント14と同様に構成されており、凹部が設けられたボール受部15aと、ボール受部15aの凹部に回転自在に嵌合するボール15bを有している。ボール受部15aは、連結具を介して、支持部材1の上端部のx方向に直交する面(例えば左面又は右面)に取り付けられている(図2及び図4参照)。この連結具は、第1連結部材EN1と同様、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。ボール15bは、第1マスダンパ2のねじ軸12aの他端部に同心状に取り付けられている。ボール受部15aとボール15bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
以上のように、第1マスダンパ2の内筒11は、第1ボールジョイント14及び第1連結部材EN1を介して、梁Bxに連結されており、第1マスダンパ2のボールねじ12は、第2ボールジョイント15及び連結具を介して、支持部材1の上端部に連結されている。また、構造物BUが静止しているときには、第1マスダンパ2はx方向にまっすぐに延びている。なお、第1マスダンパ2は、x方向に若干、斜めに延びていてもよい。
支持部材1及び前記第2マスダンパ3から成る第2付加振動系は、構造物BUの2階部分の梁Byと基礎梁Fとの間のy方向の相対変位を抑制することによって、構造物BUのy方向の振動を抑制するためのものである。第2マスダンパ3は、第1マスダンパ2と同じ構成を有しており、内筒21、ボールねじ22、回転マス23、及び制限機構などで構成されている。これらの内筒21、ボールねじ22、回転マス23、及び制限機構の構成は、第1マスダンパ2の内筒11、ボールねじ12、回転マス13、及び制限機構とそれぞれまったく同じに構成されているので、その説明については省略する。また、回転マス23の質量の設定については後述する。
第2マスダンパ3では、第1マスダンパ2と同様、内筒21とボールねじ22のねじ軸22aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ22で回転運動に変換された状態で、制限機構を介して回転マス23に伝達されることによって、回転マス23が回転する。
また、内筒21におけるねじ軸22aと反対側の端部には、第1ボールジョイント24が設けられており、ねじ軸22aにおける内筒21と反対側の端部には、第2ボールジョイント25が設けられている。これらの第1及び第2ボールジョイント24、25は、第1マスダンパ2の第1及び第2ボールジョイント14、15とそれぞれ同様に構成されている。第1ボールジョイント24のボール受部24aは、第2連結部材EN2を介して、梁Byの下面に取り付けられている(図3参照)。第2連結部材EN2は、第1連結部材EN1と同様、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。第1ボールジョイント24のボール24bは、第2マスダンパ3の内筒21におけるねじ軸22aと反対側の端部に、同心状に取り付けられている。ボール受部24aとボール24bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
また、第2ボールジョイント25のボール受部25aは、連結具を介して、支持部材1の上端部のy方向に直交する面(例えば前面)に取り付けられている(図3及び図4参照)。この連結具は、第2連結部材EN2と同様、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。第2ボールジョイント25のボール25bは、第2マスダンパ3のねじ軸22aにおける内筒21と反対側の端部に、同心状に取り付けられている。ボール受部25aとボール25bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
以上のように、第2マスダンパ3の内筒21は、第1ボールジョイント24及び第2連結部材EN2を介して、梁Byに連結されており、第2マスダンパ3のボールねじ22は、第2ボールジョイント25及び連結具を介して、支持部材1の上端部に連結されている。また、構造物BUが静止しているときには、第2マスダンパ3はy方向にまっすぐに延びている。なお、第2マスダンパ3は、y方向に若干、斜めに延びていてもよい。
次に、図5を参照しながら、地震などにより構造物BUがx方向及びy方向に斜めに振動した場合における振動抑制装置の動作について説明する。構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bx及びByの間に相対変位が発生すると、この相対変位は、支持部材1を介して第1及び第2マスダンパ2、3に伝達される。この場合、基礎梁Fと梁Bx及びByとの間の相対変位のうち、x方向の相対変位が第1マスダンパ2に主に伝達され、y方向の相対変位が第2マスダンパ3に主に伝達される。
具体的には、図5に示すように、基礎梁Fと一体の支持部材1が、梁Bxと一体の第1連結部材EN1側に移動すると、第1マスダンパ2のねじ軸12aが内筒11側に移動する結果、回転マス13が回転する。また、支持部材1が、梁Byと一体の第2連結部材EN2と反対側に移動すると、第2マスダンパ3のねじ軸22aが内筒21と反対側に移動する結果、回転マス23が回転する。上記とは逆に、支持部材1が第1連結部材EN1と反対側に移動すると、第1マスダンパ2のねじ軸12aが内筒11と反対側に移動する結果、回転マス13が回転する。また、支持部材1が第2連結部材EN2側に移動すると、第2マスダンパ3のねじ軸22aが内筒21側に移動する結果、回転マス23が回転する。
第1付加振動系(支持部材1及び第1マスダンパ2)の諸元は、構造物BUの振動中、第1付加振動系の固有振動数が構造物BUの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、第1付加振動系の固有振動数は、支持部材1のx方向の剛性θTx及び回転マス13の質量m1によって定まる(=sqrt(θTx/m1)/2π)。また、第1付加振動系の諸元には、支持部材1のx方向の剛性θTxや、回転マス13の質量m1、前記粘性体の粘性係数などが含まれる。
また、第2付加振動系(支持部材1及び第2マスダンパ3)の諸元は、構造物BUの振動中、第2付加振動系の固有振動数が構造物BUの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、第2付加振動系の固有振動数は、支持部材1のy方向の剛性θTy及び回転マス23の質量m2によって定まる(=sqrt(θTy/m2)/2π)。また、第2付加振動系の諸元には、第1付加振動系のそれと同様、支持部材1のy方向の剛性θTyや、回転マス23の質量m2、前記粘性体の粘性係数などが含まれる。
第1実施形態では、支持部材1のx方向及びy方向の剛性θTx、θTyは互いに同じ値に設定されており、第1及び第2マスダンパ2、3の回転マス13、23の質量m1、m2は、互いに同じ値に設定されている。支持部材1のx方向及びy方向の剛性θTx、θTyはそれぞれ、支持部材1自体の剛性に加え、支持部材1に対する第1及び第2マスダンパ2、3の取付位置に応じて定まり、支持部材1に対する第1及び第2マスダンパ2、3の取付位置が基礎梁F側であるほど、より高くなる。また、支持部材1のx方向及びy方向の剛性θTx、θTyは、基礎梁F及び梁Bx、Byの間の構造物BUのx方向及びy方向の層剛性よりもそれぞれ低く設定されており、また、第1及び第2マスダンパ2、3の反力の最大値に対して短期許容応力度を満足するように設定されている。
なお、これに限らず、支持部材のx方向及びy方向の剛性をそれぞれ、第1及び第2マスダンパ2、3の反力の最大値に対し、支持部材において完全な塑性ヒンジが形成されないように、設定してもよい。このように、第1及び第2付加振動系では、その制振効果を発揮させる上で、一般的な粘性ダンパの場合と異なり、支持部材1の剛性を非常に高くする必要がなく、それにより、支持部材1の断面積を小さくすることができる。また、第1及び第2マスダンパ2、3にそれぞれ直列に連結されたゴムユニットなどを用いて、第1及び第2付加振動系の固有振動数を調整してもよい。
さらに、第1及び第2ボールジョイント14、15のボール受部14a、15aとボール14b、15bとの間の摩擦トルクは、第1マスダンパ2の軸荷重が前記制限荷重であるとき、すなわち、第1マスダンパ2の反力が最大であるときの回転マス13の反力トルクよりも大きな値に、設定されており、また、x方向以外(例えばy方向)の相対変位が第1マスダンパ2に伝達されたときに、ボール14b及び15bがボール受部14a及び15aに対してそれぞれ回転するような大きさに、設定されている。
また、第1及び第2ボールジョイント24、25のボール受部24a、25aとボール24b、25bとの間の摩擦トルクは、第2マスダンパ3の軸荷重が制限荷重であるとき、すなわち、第2マスダンパ3の反力が最大であるときの回転マス23の反力トルクよりも大きな値に、設定されており、また、y方向以外(例えばx方向)の相対変位が第2マスダンパ3に伝達されたときに、ボール24b及び25bがボール受部24a及び25aに対してそれぞれ回転するような大きさに、設定されている。
以上のように、第1実施形態によれば、剛性を有する1つの支持部材1が、上下方向(z方向)に延びており、その下端部が基礎梁Fに連結されている。また、第1及び第2マスダンパ2、3が、回転マス13、23をそれぞれ有しており、支持部材1の上端部に連結されるとともに、梁Bx及びByにそれぞれ連結されている。さらに、これらの支持部材1、第1及び第2マスダンパ2、3によって、第1及び第2付加振動系が構成されている。また、第1及び第2マスダンパ2、3は、構造物BUの互いに異なる複数の振動方向のうちの対応する振動方向に、すなわち、構造物BUの左右方向(x方向)及び前後方向(y方向)にそれぞれ延びている。第1及び第2マスダンパ2、3ではそれぞれ、構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bx、Byの間で発生した相対変位のうち、対応する振動方向の相対変位が、すなわち、左右方向及び前後方向の相対変位が支持部材1を介して伝達されることによって、回転マス13及び23が回転する。
また、前述したように、第1及び第2付加振動系の固有振動数が構造物BUの固有振動数に同調(共振)するように、第1及び第2付加振動系の諸元が設定されているので、構造物の左右方向及び前後方向の振動を抑制することができる。さらに、構造物BUの左右方向及び前後方向の振動を抑制するにあたって、前述した従来の振動抑制装置と異なり、構造物BUの複数の振動方向にそれぞれ対応する複数の支持部材を設けずに、1つの支持部材1だけを設けるので、それにより、振動抑制装置の小型化、製造コストの削減及び設置作業の簡潔化を図ることができる。
また、第1及び第2マスダンパ2、3は、ボールねじ式のマスダンパであり、その一端部側に設けられるとともに、左右方向及び前後方向にそれぞれ延びるボールねじ12、22をそれぞれ有している。第1及び第2マスダンパ2、3ではそれぞれ、支持部材1を介して伝達された、対応する振動方向の相対変位がボールねじ12、22で回転運動に変換された状態で回転マス13、23に伝達されることによって、回転マス13、23が回転する。また、第1及び第2マスダンパ2、3の内筒11、21は、第1ボールジョイント14、24を介して、梁Bx、Byにそれぞれ連結されており、第1及び第2マスダンパ2、3のボールねじ12、22は、第2ボールジョイント15、25をそれぞれ介して、支持部材1に連結されている。
第1及び第2ボールジョイント14、24、15、25は、ボール受け部14a、24a、15a、25aと、ボール受け部14a、24a、15a、25aに対して回転自在のボール14b、24b、15b、25bを有している。ボール受部14a、24a、15a、25aとボール14b、24b、15b、25bとの間の摩擦トルクはそれぞれ、第1及び第2マスダンパ2、3の反力が最大であるときの回転マス13、23の反力トルクよりも大きな値に設定されている。また、この摩擦トルクは、構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bx、Byの間で発生した相対変位のうち、対応する振動方向と異なる方向の相対変位が支持部材1を介して対応するマスダンパ(2、3)に伝達されたときに、ボール14b、24b、15b、25bがボール受部14a、24a、15a、25aに対して回転するような大きさに設定されている。以上の構成により、第1及び第2マスダンパ2、3の回転マス13、23に、対応する振動方向の相対変位を回転運動に変換した状態で適切に伝達でき、ひいては、構造物BUの左右方向及び前後方向の振動をより適切に抑制することができる。
なお、第1実施形態に関し、2つの流体ダンパを支持部材1及び梁Bx、Byに設けるとともに、平面で見て、支持部材1からz方向(上下方向)に延びる直線を中心として、2つの流体ダンパの一方を第1マスダンパ2と、2つの流体ダンパの他方を第2マスダンパ3と、それぞれ対称に配置してもよい。このことは、後述する第2及び第3実施形態についても同様に当てはまる。
次に、図6及び図7を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、第3付加振動系をさらに備える点が主に異なっている。図6及び図7において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第3付加振動系は、支持部材1及び第3マスダンパ31で構成されており、構造物BUの2階部分の梁Bxと基礎梁F(図1〜図3参照)との間のz方向(上下方向)の相対変位を抑制することによって、構造物BUのz方向の振動を抑制するためのものである。第3マスダンパ31は、第1及び第2マスダンパ2、3と同様、内筒32、ボールねじ33、回転マス34、及び制限機構(図示せず)を有している。これらの内筒32、ボールねじ33、回転マス34、及び制限機構は、第1マスダンパ2の内筒11、ボールねじ12、回転マス13、及び制限機構とそれぞれまったく同じに構成されているので、その説明については省略する。また、回転マス34の質量の設定については後述する。
第3マスダンパ31では、第1マスダンパ2と同様、内筒32とボールねじ33のねじ軸33aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ33で回転運動に変換された状態で、制限機構を介して回転マス34に伝達されることによって、回転マス34が回転する。
また、第1及び第2マスダンパ2、3と同様、内筒32におけるねじ軸33aと反対側の端部には、第1ボールジョイント35が設けられており、ねじ軸33aにおける内筒32と反対側の端部には、第2ボールジョイント36が設けられている。第1ボールジョイント35のボール受部35aは、第3連結部材EN3を介して、梁Bxの下面に取り付けられている。第3連結部材EN3は、第1連結部材EN1と同様、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。第1ボールジョイント35のボール35bは、第3マスダンパ31の内筒32におけるねじ軸33aと反対側の端部に同心状に取り付けられている。ボール受部35aとボール35bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
また、第2ボールジョイント36のボール受部36aは、連結具を介して、支持部材1の上面に取り付けられている。この連結具は、第3連結部材EN3と同様、鋼材で構成されており、非常に高い剛性を有している。第2ボールジョイント36のボール36bは、第3マスダンパ31のねじ軸33aにおける内筒32と反対側の端部に同心状に取り付けられている。ボール受部36aとボール36bの間の摩擦トルクの設定については後述する。
以上のように、第3マスダンパ31の内筒32は、第1ボールジョイント35及び第3連結部材EN3を介して、梁Bxに連結されており、第3マスダンパ31のボールねじ33は、第2ボールジョイント36及び連結具を介して、支持部材1の上端部に連結されている。また、構造物BUが静止しているときには、第3マスダンパ31はz方向にまっすぐに延びている。なお、第3マスダンパ31は、z方向に若干、斜めに延びていてもよい。
なお、第3マスダンパ31の回転マス34の軸線方向の長さは、第1及び第2マスダンパ2、3のそれと比較して、短く設定されている。これは、第3マスダンパ31を含む第3付加振動系は、構造物BUのz方向の振動を抑制するためのものであるところ、z方向(上下方向)の振動は、x方向(左右方向)の振動及びy方向(前後方向)の振動よりも小さいためである。
以上の構成の第2実施形態による振動抑制装置では、構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bx及びByとの間に相対変位が発生すると、この相対変位は、支持部材1を介して第1〜第3マスダンパ2、3、31に伝達される。この場合、基礎梁Fと梁Bx及びByとの間の相対変位のうち、第1実施形態と同様にx方向及びy方向の相対変位が、第1及び第2マスダンパ2、3にそれぞれ主に伝達され、z方向の相対変位が第3マスダンパ31に主に伝達される。
具体的には、図示しないものの、基礎梁Fと一体の支持部材1が、梁Bxと一体の第3連結部材EN3側に移動すると、第3マスダンパ31のねじ軸33aが内筒32側に移動する結果、回転マス34が回転する。これとは逆に、支持部材1が第3連結部材EN3と反対側に移動すると、ねじ軸33aが内筒32と反対側に移動する結果、回転マス34が回転する。
第3付加振動系(支持部材1及び第3マスダンパ31)の諸元は、構造物BUの振動中、第3付加振動系の固有振動数が構造物BUの固有振動数(例えば第3マスダンパ31の設置方向である上下方向が卓越するようなモードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、第1及び第2付加振動系と同様、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、第3付加振動系の固有振動数は、支持部材1のz方向の剛性θTz及び回転マス34の質量m3によって定まる(=sqrt(θTz/m3)/2π)。また、第3付加振動系の諸元には、支持部材1のz方向の剛性θTzや、回転マス34の質量m3、粘性体の粘性係数などが含まれる。また、支持部材1のz方向の剛性θTzは、基礎梁F及び梁Bx、Byの間の構造物BUのz方向の層剛性よりも低く設定されている。なお、第1及び第2マスダンパ2、3と同様、第3マスダンパ31に直列に連結されたゴムユニットなどを用いて、第3付加振動系の固有振動数を調整してもよい。
また、第1及び第2ボールジョイント35、36のボール受部35a、36aとボール35b、36bとの間の摩擦トルクは、第3マスダンパ31の軸荷重が制限荷重であるとき、すなわち、第3マスダンパ31の反力が最大であるときの回転マス34の反力トルクよりも大きな値に、設定されており、また、z方向以外(例えばx方向やy方向)の相対変位が第3マスダンパ31に伝達されたときに、ボール35b、36bがボール受部35a及び36aに対してそれぞれ回転するような大きさに、設定されている。
以上のように、第2実施形態によれば、振動抑制装置が、前述した第1及び第2付加振動系に加え、第3付加振動系を備えている。第3付加振動系の第3マスダンパ31は、支持部材1の上端部に連結されるとともに、構造物BUの上下方向(z方向)に延びており、構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bxの間で発生した相対変位のうち、上下方向の相対変位が支持部材1を介して伝達されることによって、第3マスダンパ31の回転マス34が回転する。また、前述したように、第1〜第3付加振動系の固有振動数が構造物BUの固有振動数に同調(共振)するように、第1〜第3付加振動系の諸元が設定されているので、構造物BUの左右方向、前後方向及び上下方向の振動を抑制することができる。さらに、構造物BUの左右方向、前後方向及び上下方向の振動を抑制するにあたって、第1実施形態と同様、1つの支持部材1だけを設けるので、それにより、振動抑制装置の小型化、製造コストの削減及び設置作業の簡潔化を図ることができる。
さらに、第3マスダンパ31は、第1及び第2マスダンパ2、3と同様に、ボールねじ式のマスダンパであり、その一端部側に設けられるとともに、上下方向に延びるボールねじ33を有している。第3マスダンパ31では、支持部材1を介して伝達された、上下方向の相対変位がボールねじ33で回転運動に変換された状態で回転マス34に伝達されることによって、回転マス34が回転する。また、第3マスダンパ31の内筒32は、第1ボールジョイント35を介して、梁Bxに連結されており、第3マスダンパ31のボールねじ33は、第2ボールジョイント36を介して、支持部材1に連結されている。
第1及び第2ボールジョイント35、36は、ボール受け部35a、36aと、ボール受け部35a、36aに対して回転自在のボール35b、36bを有している。ボール受部35a、36aとボール35b、36bとの間の摩擦トルクはそれぞれ、第3マスダンパ31の反力が最大であるときの回転マス34の反力トルクよりも大きな値に設定されている。また、この摩擦トルクは、構造物BUの振動に伴って基礎梁Fと梁Bxの間で発生した相対変位のうち、上下方向と異なる方向の相対変位が支持部材1を介して第3マスダンパ31に伝達されたときに、ボール36b、36bがボール受部35a、35aに対して回転するような大きさに設定されている。以上の構成により、第3マスダンパ31の回転マス34に、上下方向の相対変位を回転運動に変換した状態で適切に伝達でき、ひいては、構造物BUの上下方向の振動をより適切に抑制することができる。
次に、図8及び図9を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第2実施形態と比較して、支持部材41の構成と、第1及び第2マスダンパ2、3の支持部材41への取付位置が互いに異なっていることが、主に異なっている。図8及び図9において、第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。また、図8では、第2マスダンパ3の第2ボールジョイント25のボール受部25aの位置を2点鎖線で示しており、図9では、第1マスダンパ2の第2ボールジョイント15のボール受部15aの位置を2点鎖線で示している。以下、第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
図8及び図9に示すように、支持部材41のx方向の幅はy方向の幅よりも大きく設定されており、それにより、支持部材41自体のy方向の剛性は、支持部材41自体のx方向の剛性よりも低く設定されている。なお、支持部材41は、第1実施形態と同様、ロ型鋼で構成されている。また、第1実施形態と同様、第1及び第2付加振動系の諸元はそれぞれ、それらの固有振動数が構造物BUの固有振動数に同調するように、設定されている。さらに、第1及び第2マスダンパ2、3の回転マス13、23の質量m1、m2は、互いに同じ値に設定されている。
また、支持部材41への第2マスダンパ3の取付位置は、当該取付位置に応じて定まる第2付加振動系における支持部材41のy方向の剛性が、支持部材41への第1マスダンパ2の取付位置に応じて定まる第1付加振動系における支持部材41のx方向の剛性と同じになるように、設定されている。この場合、上述したように、支持部材41自体のy方向の剛性が支持部材41自体のx方向の剛性よりも低いので、それに応じて、支持部材41への第2マスダンパ3のボール受部25aの取付位置は、第1マスダンパ2のそれよりも基礎梁F側に設定されている(図8及び図9参照)。
以上のように、第3実施形態によれば、支持部材41自体のy方向の剛性が、支持部材41自体のx方向の剛性よりも低く設定されている。また、第1及び第2マスダンパ2、3の取付位置を、x方向及びy方向における支持部材41自体の剛性に応じて設定することにより、x方向及びy方向にそれぞれ対応する第1及び第2付加振動系の各々の固有振動数が構造物BUの固有振動数に同調するように、第1及び第2付加振動系の支持部材41の実質的な剛性をそれぞれ調整するので、第1及び第2付加振動系の固有振動数の調整を容易に行うことができる。
なお、第3実施形態に関し、支持部材41への第1及び第2マスダンパ2、3の取付位置の設定により、第1及び第2付加振動系における支持部材41の実質的な剛性を、第1及び第2付加振動系の固有振動数が互いに異なる構造物BUの2つの固有振動数にそれぞれ同調するように、調整してもよい。これにより、構造物BUのx方向及びy方向の振動に関し、互いに異なる振動モード(例えば1次モードや2次モード)の振動を抑制することができる。
なお、本発明は、説明した第1〜第3実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、内筒11、21、32を梁Bx、Byに、ねじ軸12、22、33を支持部材1、41に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、内筒11、21、32を支持部材1、41に、ねじ軸12、22、33を梁Bx、Byに、それぞれ連結してもよい。また、実施形態では、支持部材1、41を基礎梁Fに連結するとともに、第1〜第3マスダンパ2、3、31を梁Bx、Byに連結しているが、これとは逆に、第1〜第3マスダンパ2、3、31を基礎梁Fに連結するとともに、支持部材1、41を梁Bx、Byに連結してもよい。さらに、実施形態では、第1〜第3マスダンパ2、3、31を、梁Bx、Byの下側に設けているが、梁Bx、Byと同じ平面上(梁内)に、すなわち構造物BUの天井内に設けてもよい。
また、実施形態では、支持部材1、41として、断面一定のロ型鋼で構成されたものを採用しているが、他の適当な構成を採用してもよいことは、もちろんである。図10〜図12は、支持部材の変形例を示している。図10に示す支持部材51は、z方向に延びる2つのH型鋼をそれぞれ、x方向及びy方向に互いに直交させ、一体化したものである。また、図11に示す支持部材52は、z方向に延びるロ型鋼の一端部側の部分に、補強用の4つのリブ52aを設けたものである。さらに、図12に示す支持部材53は、z方向に延びるロ型鋼を、その一端部側に向かうほど、断面が漸増するように構成したものである。あるいは、断面円形の鋼材や、鋼管(コンクリートを充填しても良い)、RC材、SRC材などで構成してもよい。また、実施形態では、第1〜第3マスダンパ2、3、31として、ボールねじ式のマスダンパを用いているが、伝達された相対変位を、ラックとピニオンを用いて回転運動に変換した状態で回転マスに伝達するタイプのマスダンパを用いてもよい。さらに、実施形態では、第1及び第2ボールジョイント14、24、35、15、25、36を用いているが、他の適当な自在継ぎ手、例えばカルダン軸継ぎ手などを用いてもよい。
また、第2及び第3実施形態では、振動抑制装置は、第1〜第3付加振動系を備えているが、これらのいずれか1つを省略してもよい。さらに、第2及び第3実施形態では、構造物BUのx方向、y方向及びz方向の振動を抑制するために、第1〜第3マスダンパ2、3、31を、x方向、y方向及びz方向にそれぞれ延びるように設けているが、構造物の他の適当な振動方向の振動を抑制するために、他の適当な振動方向にそれぞれ延びるように設けてもよい。例えば、図13に示すように、第1及び第2マスダンパMD1、MD2を、第1及び第2所定方向にそれぞれ延びるように設けるとともに、第3マスダンパMD3をy方向に延びるように設けてもよい。この第1所定方向は、平面で見て、x方向及びy方向に斜めに交差する方向であり、第2所定方向は、平面で見て、x方向及びy方向に斜めに交差するとともに、支持部材54からy方向に延びる直線を中心として、第1所定方向と対称に位置する方向である。
また、この場合、図13に示すように、支持部材54は、鋼管で構成してもよく、あるいは、断面円形の鋼材などで構成してもよい。さらに、この場合にも、構造物の上下方向の振動を抑制するためのマスダンパをさらに設けてもよい。あるいは、互いに異なる複数の振動方向に、支持部材から放射状に延びる複数のマスダンパを設けてもよい。以上のようにして複数のマスダンパを設ける場合にも、複数の流体ダンパの各々を、平面で見て、支持部材からz方向に延びる直線を中心として、対応するマスダンパと対称に配置してもよい。以上のようにして複数のマスダンパを設ける場合にも、第3実施形態の場合と同様、複数のマスダンパの支持部材への取付位置を、上下方向に互いに異なる位置に設定してもよい。
また、第3実施形態では、y方向の剛性がx方向の剛性よりも低い(y方向の幅がx方向の幅よりも小さい)支持部材41を用いているが、これとは逆に、x方向の剛性がy方向の剛性よりも低い支持部材を用いてもよい。さらに、第2及び第3実施形態では、本発明における制振ダンパとして、第3マスダンパ31を用いているが、他の適当な制振ダンパ、例えばオイルダンパや、粘性ダンパ、粘弾性ダンパなどを用いてもよい。この場合、支持部材及び制振ダンパによって、必ずしも付加振動系を構成しなくてもよい。その場合には、支持部材は、上下方向に延びるとともに、その一端部が第1及び第2部位の一方に連結されるとともに、他端部に制振ダンパが連結される構成上、その上下方向の剛性を左右方向や前後方向の剛性よりも容易に高く設定することができるため、それにより、制振ダンパの減衰力を、支持部材を介して適切に伝達することができる。
また、実施形態では、本発明における第1及び第2部位として、基礎梁F及び梁Bx、Byをそれぞれ採用し、2層間の層間変位を抑制しているが、他の適当な部位を採用してもよい。例えば、互いの間に1つ以上の梁が設けられた上下の梁をそれぞれ採用し、3層以上の間の層間変位を抑制してもよい。また、第1及び第2部位の位置を、基礎梁F及び梁Bx、Byでなく、下層部の梁Bx、By及び上層部の梁Bx、Byとしてもよいことはもちろんである。さらに、パルス型の入力による応答性状の向上や、マスダンパなどの設計諸元変動に伴うロバスト性に関する制振効果の向上を図るために、定点理論に基づいて付加振動系の固有振動数を大きい方向に調整するように、付加振動系の剛性を、質量比や剛性比に応じて高めに設定してもよい。
さらに、実施形態では、構造物BUは、基礎梁Fに立設されているが、他の適当な支持体、例えば地下構造体などに立設されていてもよい。また、実施形態では、構造物BUは、鉄骨造の高層の建物であるが、他の適当な建物、例えば、RC造やSRC造の建物や、鉄塔、橋梁などでもよい。以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。