以下に、添付図面を参照して、本発明に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法に適用される打抜き加工装置の一構成例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態1における打抜き加工装置1は、n枚(nは2以上の整数、以下同じ)の鋼板11−1〜11−n(以下、「複数の鋼板11」と適宜略す)を重ね合わせるピンチロール2と、重ね合わせた複数の鋼板11を打ち抜き加工するプレス機3とを備える。また、打抜き加工装置1は、特に図1には図示しないが、複数の鋼板コイルから鋼板11−1〜11−nを各々払い出す複数の払出機、払い出された鋼板11−1〜11−nを各々搬送経路に沿って送る複数の送りロール等、複数の鋼板11の供給、搬送、重ね合わせ、および打抜き加工に必要な各種設備を備えている。
本発明において、複数の鋼板11の各々は、積層鉄心の製造に用いる母材の一例であり、例えば、高い透磁率を有する薄板状の電磁鋼板(無方向性電磁鋼板等)である。また、ここでいう「鋼板」には、板形状の鋼材は勿論、帯形状の鋼材(鋼帯)も含まれる。
ピンチロール2は、図1に示すように、複数の鋼板11の厚さ方向D2に対向する一対の回転ロール等を用いて構成され、プレス機3の前段に配置される。ピンチロール2は、母材として搬送されてきた複数の鋼板11をその厚さ方向D2に押圧して重ね合わせながら、プレス機3内へ重ね合わせ母材12を順次送給する。重ね合わせ母材12は、複数の母材をその母材の厚さ方向D2に重ね合わせたものであり、本実施の形態1では、母材としてのn枚の鋼板11−1〜11−nをその厚さ方向D2に重ね合わせた構造体である。
プレス機3は、積層鉄心の製造に用いる複数の鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工等を行う設備である。図1に示すように、プレス機3は、重ね合わせ母材12に対する複数段階の打抜き加工を行う順送金型4と、順送金型4内で搬送される際の重ね合わせ母材12を持ち上げるリフトアップ部7とを備える。
順送金型4は、同一金型内に複数の打抜き加工工程を有するプレス加工用金型である。本実施の形態1において、順送金型4は、図1に示すように、目的とする鉄心形状の鉄心片15を3段階の打抜き加工工程によって得るためのパンチ5a,5b,5cと、ダイ孔6a,6b,6cが設けられたダイ6とを有する。パンチ5a,5b,5cは、順送金型4内での重ね合わせ母材12の搬送方向に向かってこの順(図1に示すパンチ5a→パンチ5b→パンチ5cの順)に並ぶように、順送金型4の上金型4aに設けられる。上金型4aは、プレス機3の駆動部(図示せず)の作用によって昇降可能に構成される。パンチ5a,5b,5cは、上金型4aの昇降に伴って同時に昇降する。ダイ6は、順送金型4の固定配置された下金型(図示せず)に設けられる。すなわち、ダイ6におけるダイ孔6a,6b,6cの各位置は、順送金型4内において固定される。順送金型4内には、重ね合わせ母材12の搬送方向に沿って3段階に分けられる各打抜き加工工程の実行位置(工程位置)が、所定の間隔で設定されている。パンチ5a,5b,5cは、ダイ孔6a,6b,6cと各々対をなして、工程位置毎に重ね合わせ母材12を打抜き加工する。
図2は、本発明の実施の形態1におけるプレス機の順送金型によって段階的に打抜き加工された重ね合わせ母材の状態を例示する図である。第1段階の工程位置において、パンチ5aは、ダイ孔6aに対して出入りする1ストロークの昇降動作により、図2に示すように、所定の間隔で環状に並ぶ複数のティース形成孔13を重ね合わせ母材12にあける第1段階の打抜き加工を行う。第2段階の工程位置において、パンチ5bは、ダイ孔6bに対して出入りする1ストロークの昇降動作により、図2に示すように、環状に並ぶ複数のティース部15aを形成するための中心孔14を重ね合わせ母材12にあける第2段階の打抜き加工を行う。第3段階の工程位置において、パンチ5cは、ダイ孔6cに対して出入りする1ストロークの昇降動作により、図2に示すように、目的とする鉄心形状の鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く第3段階の打抜き加工を行う。この第3段階の打抜き加工によって重ね合わせ母材12から打抜かれた鉄心片15は、図1に示すように、ダイ孔6c内に順次収容されて堆積する。
リフトアップ部7は、図1に示すように、順送金型4の下金型(例えばダイ6の上部)に複数設けられる。複数のリフトアップ部7は、ダイ6に対して上下方向(重ね合わせ母材12の厚さ方向D2)に同時に突没するように構成される。複数のリフトアップ部7は、順送金型4内で重ね合わせ母材12が搬送される際、ダイ6の上方に突出して重ね合わせ母材12を持ち上げる(リフトアップする)。これにより、複数のリフトアップ部7は、搬送中の重ね合わせ母材12の下面(特に鉄心片15となる下面)がダイ6の上面と擦れて損傷することを防止する。一方、複数のリフトアップ部7は、順送金型4によって重ね合わせ母材12が打抜き加工される際、ダイ6の上面以下に没して重ね合わせ母材12をダイ6の上面に載置させる。これにより、複数のリフトアップ部7は、パンチ5a,5b,5cが工程位置毎に重ね合わせ母材12を適正に打抜き加工できるようにする。
一方、本実施の形態1におけるプレス機3は、上述したように段階的な打抜き加工工程によって重ね合わせ母材12から順次打抜いた複数の鉄心片15を、順送金型4の内部で積層し一体化して積層鉄心を製造する。図3は、本発明の実施の形態1における鉄心片の一構成例を示す図である。順送金型4によって重ね合わせ母材12から打抜かれた鉄心片15は、例えば図3に示すように、外径(鉄心径)rのリング形状をなし、複数のティース部15aと、環状のバックヨーク部15bとを有する。複数のティース部15aは、積層鉄心において巻線を巻き付ける部分であり、図3に示すように、バックヨーク部15bの内径部から鉄心片15の中心に向けて延在する。バックヨーク部15bは、所定の間隔をあけて環状に並ぶ複数のティース部15aの各基端部に連続して、これら複数のティース部15aを保持している。プレス機3は、このような構成を有する鉄心片15をその厚さ方向D2(図3の紙面に垂直な方向)に複数積層し一体化することにより、目的とする鉄心形状の積層鉄心を製造することができる。
なお、本実施の形態1において、幅方向D1は、母材としての複数の鋼板11の各々(鋼板11−1〜11−n)における板幅の方向である。すなわち、幅方向D1は、これら複数の鋼板11を重ね合わせた重ね合わせ母材12の幅方向と同じである。厚さ方向D2は、これら複数の鋼板11の各々における板厚の方向である。この厚さ方向D2は、重ね合わせ母材12の重ね合わせ方向と同じであり、積層鉄心を構成する複数の鉄心片15の積層方向と同じである。長手方向D3は、これら複数の鋼板11の各々における長手の方向、すなわち、鋼板11−1〜11−nの圧延方向である。プレス機3の順送金型4内における重ね合わせ母材12の搬送方向は、この長手方向D3の後側(母材の尾端側)から前側(母材の先端側)へ向かう方向である。これらの幅方向D1、厚さ方向D2、および長手方向D3は、互いに垂直である。また、厚さ方向D2は、本発明の説明の便宜上、上下方向と定義する。すなわち、厚さ方向D2の上側は、重ね合わせ母材12の重ね合わせ方向の上側であり、厚さ方向D2の下側は、重ね合わせ母材12の重ね合わせ方向の下側である。
つぎに、本発明の実施の形態1における打抜き加工対象の重ね合わせ母材12の構成について説明する。図4は、本発明の実施の形態1において打抜き加工される重ね合わせ母材の一構成例を示す図である。
母材としての複数の鋼板11は、上述したようにピンチロール2によって厚さ方向D2に重ね合わせられ、重ね合わせ母材12の状態でプレス機3の順送金型4(図1参照)によって段階的に打抜き加工される。すなわち、打抜き加工対象の重ね合わせ母材12は、図4に示すように、n枚の鋼板11−1〜11−nをその厚さ方向D2に重ね合わせて構成される。この際、重ね合わせ母材12の幅方向D1両側の縁部は、各鋼板11−1〜11−n同士で揃っていることが好ましい。
本発明において、図4に示すようにn枚の鋼板11−1〜11−nを重ね合わせて構成される重ね合わせ母材12のうち、厚さ方向D2の最も外側に位置する最外部の母材は、鋼板11−1および鋼板11−nである。詳細には、図4に示すように、鋼板11−1は、重ね合わせ母材12のうち厚さ方向D2の最も上側に位置する最上部の母材である。鋼板11−nは、重ね合わせ母材12のうち厚さ方向D2の最も下側に位置する最下部の母材である。
また、図4に示す鋼板11−mは、重ね合わせ母材12のうち最下部の母材(具体的には鋼板11−n)と厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合うもの、すなわち、重ね合わせ母材12のうち下から2つ目の母材である。例えば、重ね合わせ母材12が2枚(n=2)の鋼板11−1,11−2の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−mは、最下部の鋼板11−2と厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合うものであって重ね合わせ母材12のうち下から2つ目の母材である鋼板11−1になる。重ね合わせ母材12が3枚(n=3)の鋼板11−1,11−2,11−3の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−mは、最下部の鋼板11−3と厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合うものであって重ね合わせ母材12のうち下から2つ目の母材である鋼板11−2になる。なお、鋼板11−mの符号「11−m」に含まれる整数mは、整数nから「1」を減じたもの(m=n−1)である。
ここで、図1に示したプレス機3の順送金型4によって段階的に打抜き加工されている打抜き加工途中の重ね合わせ母材12には、幅狭な形状のティース部15a(図2参照)等、他の母材部分に比べて剛性が比較的低い部分(以下、「低剛性部分」という)が形成される。打抜き加工途中の重ね合わせ母材12のうち低剛性部分は、剛性が不足して自重や上方からの荷重に耐えきれず、垂れ下がり易い。このように剛性不足に起因して低剛性部分が垂れ下がる現象、すなわち、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12の母材垂れは、順送金型4による重ね合わせ母材12の打抜き加工工程における打抜き加工トラブルの発生原因となる。
図5は、打抜き加工途中の重ね合わせ母材の剛性不足による母材垂れに起因して発生する打抜き加工トラブルを説明するための図である。なお、図5では、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12のうち母材垂れが発生している部分(以下、「母材垂れ部分」という)の一例として、ティース部15aが挙げられている。
打抜き加工途中の重ね合わせ母材12には、図2に示したように第2段階の打抜き加工工程によってティース部15aが複数形成される。重ね合わせ母材12のうち第2段階の打抜き加工工程が完了した部分、すなわち、ティース部15aが形成された部分は、順送金型4内においてダイ6の上面から持ち上げられた状態で所定の搬送方向(長手方向D3前側に向かう方向)に順次搬送される。このように打抜き加工途中の重ね合わせ母材12が搬送される際、重ね合わせ母材12のティース部15aは、剛性が不足した状態のまま何の対策も施されなければ、図5に示すように重ね合わせ母材12から垂れ下がった状態となり、母材垂れを発生させてしまう。
図5に示すように、垂れ下がった状態のティース部15a、すなわち、母材垂れ部分は、順送金型4内において打抜き加工途中の重ね合わせ母材12が順次搬送される際、ダイ6の上面、第2段階の工程位置以降のダイ孔6b,6cの縁部と接触してしまう。あるいは、母材垂れ部分であるティース部15aは、パンチ5cによって重ね合わせ母材12から打抜かれてダイ孔6c内で厚さ方向D2に堆積した状態の鉄心片15の上面と接触してしまう。このような事態により、順送金型4内での重ね合わせ母材12の正常な搬送が阻害され、この結果、重ね合わせ母材12の搬送ミスやミスパンチ等の打抜き加工トラブルが発生する。
これに対し、本実施の形態1では、重ね合わせ母材12のうち下側の鋼板11−m,11−n同士の板厚の関係を工夫することにより、重ね合わせ母材12の母材垂れを引き起こす剛性不足を解消している。
すなわち、図4に示すようにn枚の鋼板11−1〜11−nを厚さ方向D2に重ね合わせて構成される重ね合わせ母材12のうち、最下部の鋼板11−nの母材厚tnは、下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmの1.05倍以上にする。これにより、最下部の鋼板11−nの剛性(特に鋼板11−nに形成されるティース部15aの剛性)を強化することができる。この剛性を強化した鋼板11−n(特にティース部15a等が形成された打抜き加工部分)により、その上の比較的薄い鋼板11−mの低剛性部分(例えばティース部15a等)を下支えすることができる。この結果、最上部の鋼板11−1から鋼板11−mまでの(重ね合わせ母材12の重ね合わせ枚数が2枚の場合は最上部の鋼板11−1(m=1)の)低剛性部分の剛性を補強することができる。これにより、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12の剛性不足を解消して、母材垂れ(特にティース部15aの垂れ下がり)を可能な限り抑制できることから、母材垂れに起因する打抜き加工トラブルを防止することができる。
また、本実施の形態1における最下部の鋼板11−nの母材厚tnは、より確実に上側の鋼板11−mの剛性を補強して打抜き加工トラブルにつながる重ね合わせ母材12の母材垂れを防止するという観点から、鋼板11−mの母材厚tmの1.10倍以上であることが望ましい。
上述したような下側の鋼板11−m,11−n同士の板厚関係の設定による重ね合わせ母材12の剛性不足解消(すなわち母材垂れ抑制)の手法は、鉄心径rが大きい鉄心片15(図3参照)を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工工程を行う際に、顕著に効果を発揮する。これは、以下の理由による。鉄心径rが小さい場合、重ね合わせ母材12に形成されるティース部15aの長さが短くなるため、ティース部15aの剛性は低下し難い。それ故、重ね合わせ母材12の剛性不足によるティース部15a等の母材垂れの程度が小さくなり、この結果、母材垂れに起因する打抜き加工トラブルの問題は顕在化しない。一方、鉄心径rが120[mm]以上である場合、ティース部15aは鉄心径rの増加に伴い長くなるため、ティース部15aの剛性は低下し易くなる。それ故、重ね合わせ母材12の剛性不足によるティース部15a等の母材垂れの程度が増大し、この結果、母材垂れに起因する打抜き加工トラブルが発生し易くなる。このことから、本実施の形態1における重ね合わせ母材12の剛性不足解消の手法は、鉄心径rが120[mm]以上の鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工工程を行う際に適用することが望ましく、これにより、顕著に効果を発揮する。
また、上述した重ね合わせ母材12の剛性不足による母材垂れは、重ね合わせ母材12を構成するn枚の鋼板11−1〜11−nの各板厚(母材厚)が薄くなるに伴い、発生し易く且つ程度が増大する。したがって、重ね合わせ母材12の剛性不足解消(母材垂れ抑制)の観点から、鋼板11−1〜11−nの各板厚は、0.10[mm]以上であることが望ましい。さらに、鉄心片15を用いて製造される積層鉄心の鉄損抑制の観点から、鋼板11−1〜11−nの各板厚は、0.30[mm]以下であることが望ましい。
つぎに、本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法について説明する。図6は、本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法の一例を示すフローチャートである。図7は、本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法による重ね合わせ母材の段階的な打抜き加工工程を説明するための図である。
本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法は、複数の母材をその厚さ方向D2に重ね合わせた重ね合わせ母材12を、複数の打抜き加工工程を有する順送金型4内へ順次送給しながら、この順送金型4を用い重ね合わせ母材12を打抜き加工して、積層鉄心の製造に用いる複数の鉄心片15を得るものである。すなわち、本実施の形態1に係る打抜き加工方法は、上述した打抜き加工装置1を用い、図6に示すステップS101〜S104の各処理(工程)を適宜繰り返し行うことによって達成される。また、本発明の実施の形態1に係る積層鉄心の製造方法は、この打抜き加工方法によって得た複数の鉄心片15を積層し一体化して、目的とする鉄心形状の積層鉄心を製造するものである。すなわち、本実施の形態1に係る積層鉄心の製造方法は、図6に示す打抜き加工方法のステップS101〜S104を含むステップS101〜S105の各処理(工程)を行うことによって達成される。
すなわち、本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法において、打抜き加工装置1は、図6に示すように、異なる搬送経路に沿って各々搬送される複数の母材を重ね合わせる(ステップS101)。
ステップS101において、ピンチロール2は、異なる搬送経路に沿って各々搬送される母材としての複数の鋼板11を受け、これら複数の鋼板11の各鋼板11−1〜11−nを厚さ方向D2に押圧して重ね合わせる。この際、ピンチロール2は、図4に示すように厚さ方向D2の上側から下側に向かって鋼板11−1,・・・,11−m,11−nがこの順に並ぶように、これら複数(n枚)の鋼板11の重ね合わせ母材12を形成する。本実施の形態1において、このピンチロール2による重ね合わせ母材12のうち、最下部の鋼板11−nの板厚(母材厚tn)は、最下部の鋼板11−nと厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合う母材、すなわち、下から2つ目の鋼板11−mの板厚(母材厚tm)の1.05倍以上である。
上述したステップS101を実行後、打抜き加工装置1は、ステップS101によって形成した重ね合わせ母材12をプレス機3内へ送給する(ステップS102)。ステップS102において、ピンチロール2は、上述した鋼板11−1〜11−nの重ね合わせ母材12をプレス機3の順送金型4内へ順次送給する。この際、順送金型4内において、重ね合わせ母材12は、リフトアップ部7(図1参照)によって持ち上げられながら、ピンチロール2の作用により、順送金型4の1ストロークの打抜き加工動作(昇降動作)毎に所定の搬送方向に順次搬送される。
詳細には、この重ね合わせ母材12のうち、第1段階の打抜き加工前の母材部分は、パンチ5aおよびダイ孔6aに対応する第1段階の工程位置へ順次搬送され、第1段階の打抜き加工後の母材部分は、パンチ5bおよびダイ孔6bに対応する第2段階の工程位置へ順次搬送される。また、この重ね合わせ母材12のうち、第2段階の打抜き加工後の母材部分は、パンチ5cおよびダイ孔6cに対応する第3段階の工程位置へ順次搬送され、第3段階の打抜き加工後の母材部分は、順送金型4の出側からプレス機3の外部へ順次搬送(排出)される。
上述したステップS102を実行後、打抜き加工装置1は、ステップS102によってプレス機3内へ送給した重ね合わせ母材12を、順送金型4を用いて段階的に打抜き加工する(ステップS103)。ステップS103において、プレス機3は、順送金型4の1ストロークの打抜き加工動作毎に、各段階の工程位置に到達している重ね合わせ母材12の各母材部分を打抜き加工する。
本実施の形態1では、図7に示すように、順送金型4は、重ね合わせ母材12のうち、第1段階の工程位置に到達している母材部分からティース形成孔13(図2参照)に対応する打抜き片16を複数打抜く第1段階の打抜き加工と、第2段階の工程位置に到達している母材部分から中心孔14(図2参照)に対応する打抜き片17を打抜く第2段階の打抜き加工と、第3段階の工程位置に到達している母材部分から複数のティース部15aおよびバックヨーク部15bを有する鉄心片15を打抜く第3段階の打抜き加工とを行う。順送金型4は、このように重ね合わせ母材12から打抜いた鉄心片15を、図1に示すようにダイ孔6c内へ順次収容し堆積させる。
ここで、上述したようにステップS103によって段階的に打抜き加工される重ね合わせ母材12は、ピンチロール2の作用によってn枚の鋼板11−1〜11−nを厚さ方向D2に重ね合わせた構造体である(図4参照)。すなわち、ステップS103の打抜き加工工程の際、この重ね合わせ母材12のうち、最下部の鋼板11−nの母材厚tnは、最下部の鋼板11−nと厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合う、下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmの1.05倍以上である。
一方、第3段階の打抜き加工によって鉄心片15が打抜かれた後の重ね合わせ母材12は、図7に示すように、鉄心片15の外形に対応する円形の打抜き孔18と、鉄心材料としては用いられないスクラップ部分19とが残った状態となる。この状態の重ね合わせ母材12(具体的にはスクラップ部分19)は、ステップS102によってプレス機3から排出される。
上述したステップS103を実行後、打抜き加工装置1は、重ね合わせ母材12から必要数の鉄心片15を打抜いていない場合、または、重ね合わせ母材12の長手方向D3の全域に亘って鉄心片15の打抜き加工が終わっていない場合、重ね合わせ母材12に対する打抜き加工が完了していないとして(ステップS104,No)、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の各処理を順次繰り返す。一方、打抜き加工装置1は、重ね合わせ母材12から必要数の鉄心片15を打抜きし終わった場合、または、重ね合わせ母材12の長手方向D3の全域に亘って鉄心片15の打抜き加工が終了した場合、重ね合わせ母材12に対する打抜き加工が完了したとして(ステップS104,Yes)、ステップS105に進む。このようにして、打抜き加工装置1は、目的とする積層鉄心の製造に用いる複数の鉄心片15を得る。
上述したように打抜き加工が完了した後、打抜き加工装置1は、ステップS101〜S104によって得られた複数の鉄心片15を積層し一体化して、目的とする積層鉄心を製造し(ステップS105)、本処理を終了する。ステップS105において、プレス機3は、順送金型4を用い、得られた複数の鉄心片15を、母材としての鋼板11−1〜11−nの圧延方向が互いに同じ方向に揃うよう厚さ方向D2に積層し、これら積層した複数の鉄心片15同士をカシメ等によって一体化する。この結果、プレス機3は、目的とする鉄心形状の積層鉄心を製造する。
なお、このステップS105において、複数の鉄心片15同士の一体化は、プレス機3が順送金型4によってカシメ用のダボを複数の鉄心片15に形成し、形成したダボを所定の装置によって押圧して複数の鉄心片15同士のカシメを行うことにより、実現してもよい。また、複数の鉄心片15同士の一体化は、プレス機3の順送金型4の外部で複数の鉄心片15同士を溶接することにより、あるいは、ボルトや接着剤等の固定手段を用いて複数の鉄心片15同士を固定することにより、実現してもよい。
本発明の実施の形態1に係る積層鉄心の製造方法において、上述したステップS101〜S105の各処理は、母材としての鋼板11−1〜11−nの重ね合わせ母材12から打抜いて得た複数の鉄心片15を用いて積層鉄心を製造する都度、繰り返し実行される。
以上、説明したように、本発明の実施の形態1では、母材としての複数の鋼板をその厚さ方向に重ね合わせた重ね合わせ母材をプレス機の順送金型内へ順次送給しながら、この順送金型を用いて重ね合わせ母材から複数の鉄心片を打抜く際、この重ね合わせ母材のうち、最外部の母材の一例である最下部の鋼板の厚さは、この最下部の鋼板と厚さ方向に隣接して重なり合う、下から2つ目の鋼板の厚さの1.05倍以上にしている。このため、順送金型による重ね合わせ母材の打抜き加工の際、この重ね合わせ母材の下側の剛性を強化することができる。これにより、打抜き加工途中の重ね合わせ母材に形成されるティース部等の低剛性部分の剛性を補強することができる。この結果、たとえカシメ等によって母材としての鋼板同士を接合しなくても、打抜き加工途中の重ね合わせ母材の剛性不足を解消して母材垂れを可能な限り抑制することができ、故に、重ね合わせ母材から鉄心片を得る打抜き加工の際の打抜き加工トラブル、特に母材垂れに起因する打抜き加工トラブルを回避することができる。
本発明の実施の形態1に係る打抜き加工方法を積層鉄心の製造方法に適用することにより、上述した打抜き加工トラブルを回避するとともに、積層鉄心の構成に必要な複数の鉄心片を安定して連続的に得ることができ、これら複数の鉄心片を積層し一体化して、積層鉄心を効率よく製造することができる。この結果、積層鉄心の生産性を向上できるとともに、エネルギー損失の低い、優れた積層鉄心を安定して提供することができる。
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、重ね合わせ母材12の下側の剛性を強化して打抜き加工トラブルを回避していたが、本実施の形態2では、重ね合わせ母材12の上側の剛性を強化して打抜き加工トラブルを回避している。
図8は、本発明の実施の形態2において打抜き加工される重ね合わせ母材の一構成例を示す図である。本実施の形態2は、上述した実施の形態1のように重ね合わせ母材12のうち最下部の鋼板11−nの母材厚tnをその上に重なり合う鋼板11−mの母材厚tmの1.05倍以上に設定する代わりに、重ね合わせ母材12のうち最上部の鋼板11−1の母材厚t1をその下に重なり合う鋼板11−2の母材厚t2の1.05倍以上に設定する場合を例示するものである。この重ね合わせ母材12の母材厚に関する構成以外、本実施の形態2に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法、並びに、これらに用いる打抜き加工装置1(図1参照)の各構成は、上述した実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
本実施の形態2において、プレス機3の順送金型4(図1参照)によって段階的に打抜き加工される打抜き加工対象の重ね合わせ母材12は、図8に示すように、n枚の鋼板11−1〜11−nをその厚さ方向D2に重ね合わせて構成される。この重ね合わせ母材12における最外部の母材のうち、最上部の母材は鋼板11−1であり、最下部の母材は鋼板11−nである。
また、図8に示す鋼板11−2は、重ね合わせ母材12のうち最上部の母材(具体的には鋼板11−1)と厚さ方向D2の下側に隣接して重なり合うもの、すなわち、重ね合わせ母材12のうち上から2つ目の母材である。例えば、重ね合わせ母材12が2枚(n=2)の鋼板11−1,11−2の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−2は、上から2つ目の母材であると同時に、最下部の鋼板11−n(n=2)と同一である。重ね合わせ母材12が3枚(n=3)の鋼板11−1,11−2,11−3の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−2は、最上部の鋼板11−1と厚さ方向D2の下側に隣接して重なり合うとともに、最下部の鋼板11−3と厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合うものになる。すなわち、この場合の鋼板11−2は、重ね合わせ母材12のうち、上から2つ目の母材であると同時に下から2つ目の母材でもある。
ここで、図1に示したように、プレス機3の順送金型4によって重ね合わせ母材12から打抜かれた複数の鉄心片15は、パンチ5cの下降動作によってダイ孔6c内に順次収容されて堆積していく。このダイ孔6c内に堆積した状態にある複数の鉄心片15のうち最上部の鉄心片15は、その厚さが薄い故に剛性が低い場合、ダイ孔6cから浮き上がる虞がある。この打抜き加工後の鉄心片15の剛性不足に起因する浮き上がり現象(以下、単に「鉄心片15の浮き上がり現象」と適宜略記する)は、順送金型4による重ね合わせ母材12の打抜き加工工程における打抜き加工トラブルの発生原因となる。
図9は、打抜き加工後の鉄心片の剛性不足による浮き上がり現象に起因して発生する打抜き加工トラブルを説明するための図である。重ね合わせ母材12から同時に打抜かれた複数の鉄心片15のうち、厚さ方向D2の最上部の鉄心片15は、剛性が不足した状態のまま何の対策も施されなければ、図9に示すように、ダイ孔6cから上昇動作するパンチ5cに引っ張られる形でダイ孔6c内から浮き上がる場合が多い。このように浮き上がった状態の鉄心片15は、図9に示すように、パンチ5cとダイ6との間で搬送中の重ね合わせ母材12(特に、垂れ下がり易いティース部15a)と接触してしまう。このような事態により、順送金型4内での重ね合わせ母材12の正常な搬送が阻害され、この結果、重ね合わせ母材12の搬送ミスやミスパンチ等の打抜き加工トラブルが発生する。
これに対し、本実施の形態2では、重ね合わせ母材12のうち上側の鋼板11−1,11−2同士の板厚の関係を工夫することにより、打抜き加工後の鉄心片15の浮き上がり現象を引き起こす剛性不足を解消している。
すなわち、図8に示すようにn枚の鋼板11−1〜11−nを厚さ方向D2に重ね合わせて構成される重ね合わせ母材12のうち、最上部の鋼板11−1の母材厚t1は、上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.05倍以上にする。これにより、最上部の鋼板11−1の剛性、すなわち、重ね合わせ母材12から同時に打抜かれた複数の鉄心片15のうち最上部の鉄心片15の剛性を強化することができる。この結果、ダイ孔6c内に収容されて堆積する複数の鉄心片15のうち、最上部の鉄心片15は、常に剛性を強化したものになる。故に、ダイ孔6c内における最上部の鉄心片15の剛性不足を解消して、打抜き加工後の鉄心片15の浮き上がり現象を可能な限り抑制できることから、この鉄心片15の浮き上がり現象に起因する打抜き加工トラブルを防止することができる。
また、本実施の形態2における最上部の鋼板11−1の母材厚t1は、打抜き加工トラブルにつながる鉄心片15の浮き上がり現象をより確実に防止するという観点から、鋼板11−2の母材厚t2の1.10倍以上であることが望ましい。
上述したような上側の鋼板11−1,11−2同士の板厚関係の設定による鉄心片15の剛性不足解消(すなわち鉄心片15の浮き上がり現象抑制)の手法は、上述した実施の形態1の場合と同様に、鉄心径r(図3参照)が大きい鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工工程を行う際に、顕著に効果を発揮する。したがって、本実施の形態2における鉄心片15の剛性不足解消の手法は、鉄心径rが120[mm]以上の鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工工程を行う際に適用することが望ましく、これにより、顕著に効果を発揮する。
また、上述した鉄心片15の剛性不足による浮き上がり現象は、重ね合わせ母材12を構成するn枚の鋼板11−1〜11−nの各板厚(母材厚)が薄くなるに伴い、発生し易く且つ程度が増大する。したがって、鉄心片15の剛性不足解消(浮き上がり現象抑制)の観点から、鋼板11−1〜11−nの各板厚は、0.10[mm]以上であることが望ましい。さらに、鉄心片15を用いて製造される積層鉄心の鉄損抑制の観点から、鋼板11−1〜11−nの各板厚は、上述した実施の形態1の場合と同様に0.30[mm]以下であることが望ましい。
一方、本発明の実施の形態2に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法は、上述したような重ね合わせ母材12における上側の鋼板11−1,11−2の相対的な母材厚の設定以外、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、本実施の形態2では、図6に示すステップS101〜S105のうち、ステップS101において、図8に示すように厚さ方向D2の上側から下側に向かって鋼板11−1,11−2,・・・,11−nがこの順に並ぶように、複数(n枚)の鋼板11の重ね合わせ母材12が形成され、ステップS103において、この重ね合わせ母材12が段階的に打抜き加工される。本実施の形態2において、この重ね合わせ母材12のうち、最上部の鋼板11−1の板厚(母材厚t1)は、最上部の鋼板11−1と厚さ方向D2の下側に隣接して重なり合う、上から2つ目の鋼板11−2の板厚(母材厚t2)の1.05倍以上である。
以上、説明したように、本発明の実施の形態2では、母材としての複数の鋼板をその厚さ方向に重ね合わせた重ね合わせ母材をプレス機の順送金型内へ順次送給しながら、この順送金型を用いて重ね合わせ母材から複数の鉄心片を打抜く際、この重ね合わせ母材のうち、最外部の母材の一例である最上部の鋼板の厚さは、この最上部の鋼板と厚さ方向に隣接して重なり合う、上から2つ目の鋼板の厚さの1.05倍以上にしている。このため、順送金型による重ね合わせ母材の打抜き加工の際、この重ね合わせ母材から同時に打抜かれる複数の鉄心片のうち最上部の鉄心片の剛性を強化することができる。これにより、ダイ孔内に収容されて堆積する複数の鉄心片のうち最上部の鉄心片を、常に剛性を強化したものにすることができる。この結果、たとえカシメ等によって母材としての鋼板同士を接合しなくても、打抜き加工後の鉄心片の剛性不足を解消してダイ孔内の鉄心片の浮き上がり現象を可能な限り抑制することができ、故に、重ね合わせ母材から鉄心片を得る打抜き加工の際の打抜き加工トラブル、特に鉄心片の浮き上がり現象に起因する打抜き加工トラブルを回避することができる。
本発明の実施の形態2に係る打抜き加工方法を積層鉄心の製造方法に適用することにより、上述した打抜き加工トラブルを回避するとともに、積層鉄心の構成に必要な複数の鉄心片を安定して連続的に得ることができ、これら複数の鉄心片を積層し一体化して、積層鉄心を効率よく製造することができる。この結果、積層鉄心の生産性を向上できるとともに、エネルギー損失の低い、優れた積層鉄心を安定して提供することができる。
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3について説明する。上述した実施の形態1では重ね合わせ母材12の下側の剛性を強化して打抜き加工トラブルを回避し、上述した実施の形態2では重ね合わせ母材12の上側の剛性を強化して打抜き加工トラブルを回避していたが、本実施の形態3では、3枚以上の重ね合わせ母材12の上側および下側の双方の剛性を強化して打抜き加工トラブルを回避している。
図10は、本発明の実施の形態3において打抜き加工される重ね合わせ母材の一構成例を示す図である。本実施の形態3は、重ね合わせ母材12を構成する鋼板11−1〜11−nの枚数を3枚以上(n≧3)にし、この3枚以上の重ね合わせ母材12について、実施の形態1における下側の鋼板11−m,11−nの相対的な母材厚の設定と、実施の形態2における上側の鋼板11−1,11−2の相対的な母材厚の設定とを組み合わせて適用した場合を例示するものである。この重ね合わせ母材12の枚数および母材厚に関する構成以外、本実施の形態3に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法、並びに、これらに用いる打抜き加工装置1(図1参照)の各構成は、上述した実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
本実施の形態3において、プレス機3の順送金型4(図1参照)によって段階的に打抜き加工される打抜き加工対象の重ね合わせ母材12は、図10に示すように、n枚(n≧3)の鋼板11−1〜11−nをその厚さ方向D2に重ね合わせて構成される。この重ね合わせ母材12における最外部の母材のうち、最上部の母材は鋼板11−1であり、最下部の母材は鋼板11−nである。
また、図10に示す鋼板11−mは、上述した実施の形態1と同様に、重ね合わせ母材12のうち下から2つ目の母材である。図10に示す鋼板11−2は、上述した実施の形態2と同様に、重ね合わせ母材12のうち上から2つ目の母材である。例えば、重ね合わせ母材12が3枚(n=3)の鋼板11−1,11−2,11−3の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−2は、上から2つ目の母材であると同時に、下から2つ目の母材としての鋼板11−mと同一である。重ね合わせ母材12が4枚(n=4)の鋼板11−1,11−2,11−3,11−4の重ね合わせによって構成される場合、鋼板11−2は、上述の通り、上から2つ目の母材であり、鋼板11−3は、上述の鋼板11−mと同一のもの、すなわち、下から2つ目の母材である。
ここで、3枚以上の重ね合わせ母材12に対し、実施の形態1,2に示すような剛性不足に対する対策を全く施さなければ、この重ね合わせ母材12の打抜き加工の際、母材垂れに起因する打抜き加工トラブル(図5参照)、鉄心片15の浮き上がり現象に起因する打抜き加工トラブル(図9参照)、あるいは、母材垂れおよび鉄心片15の浮き上がり現象の双方に起因する打抜き加工トラブルが発生する可能性が高い。これに対し、本実施の形態3では、重ね合わせ母材12における上側の鋼板11−1,11−2同士の板厚の関係と、下側の鋼板11−m,11−n同士の板厚の関係との双方を工夫することにより、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12の母材垂れを引き起こす剛性不足と、打抜き加工後の鉄心片15の浮き上がり現象を引き起こす剛性不足とをともに解消している。
詳細には、図10に示すように3枚以上の鋼板11−1〜11−nを厚さ方向D2に重ね合わせて構成される重ね合わせ母材12のうち、最下部の鋼板11−nの母材厚tnは、実施の形態1と同様に、下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmの1.05倍以上である。且つ、最上部の鋼板11−1の母材厚t1は、実施の形態2と同様に、上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.05倍以上である。これらにより、実施の形態1と同様に重ね合わせ母材12の下側の剛性強化による母材垂れ抑制の作用効果を享受するとともに、実施の形態2と同様に重ね合わせ母材12の上側の剛性強化による鉄心片15の浮き上がり現象抑制の作用効果を享受することができる。この結果、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12の母材垂れに起因する打抜き加工トラブルと、打抜き加工後の鉄心片15の浮き上がり現象に起因する打抜き加工トラブルとの双方を防止することができる。
本実施の形態3において、最下部の鋼板11−nの母材厚tnは、実施の形態1と同様に、鋼板11−mの母材厚tmの1.10倍以上であることが望ましい。最上部の鋼板11−1の母材厚t1は、実施の形態2と同様に、鋼板11−2の母材厚t2の1.10倍以上であることが望ましい。
また、本実施の形態3における重ね合わせ母材12および鉄心片15の剛性不足解消の手法は、実施の形態1,2と同様に、鉄心径rが120[mm]以上の鉄心片15を重ね合わせ母材12から打抜く打抜き加工工程を行う際に適用することが望ましく、これにより、顕著に効果を発揮する。さらに、本実施の形態3において3枚以上の重ね合わせ母材12を構成する鋼板11−1〜11−nの各板厚の上下限値は、打抜き加工トラブルの防止および積層鉄心の鉄損抑制の観点から、実施の形態1,2と同様に設定することが望ましい。
一方、本発明の実施の形態3に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法は、上述したような重ね合わせ母材12の枚数および母材厚の設定以外、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、本実施の形態3では、図6に示すステップS101〜S105のうち、ステップS101において、図10に示すように厚さ方向D2の上側から下側に向かって鋼板11−1〜11−nがこの順に並ぶように、複数(3枚以上)の鋼板11の重ね合わせ母材12が形成され、ステップS103において、この重ね合わせ母材12が段階的に打抜き加工される。本実施の形態3において、この重ね合わせ母材12のうち、最下部の鋼板11−nの板厚(母材厚tn)は、最下部の鋼板11−nと厚さ方向D2の上側に隣接して重なり合う、下から2つ目の鋼板11−mの板厚(母材厚tm)の1.05倍以上である。且つ、最上部の鋼板11−1の板厚(母材厚t1)は、最上部の鋼板11−1と厚さ方向D2の下側に隣接して重なり合う、上から2つ目の鋼板11−2の板厚(母材厚t2)の1.05倍以上である。
以上、説明したように、本発明の実施の形態3では、母材としての鋼板をその厚さ方向に3枚以上重ね合わせて打抜き加工対象の重ね合わせ母材を構成し、この重ね合わせ母材のうち、一方の最外部の母材である最下部の鋼板の厚さは、実施の形態1と同様に、この最下部の鋼板と厚さ方向に隣接して重なり合う、下から2つ目の鋼板の厚さの1.05倍以上にし、且つ、他方の最外部の母材である最上部の鋼板の厚さは、実施の形態2と同様に、この最上部の鋼板と厚さ方向に隣接して重なり合う、上から2つ目の鋼板の厚さの1.05倍以上にしている。このため、上述した実施の形態1の作用効果と実施の形態2の作用効果とをともに享受することができ、これにより、たとえカシメ等によって母材としての鋼板同士を接合しなくても、打抜き加工途中の重ね合わせ母材の母材垂れとダイ孔内の鉄心片の浮き上がり現象との双方を可能な限り抑制することができる。この結果、重ね合わせ母材から鉄心片を得る打抜き加工の際の打抜き加工トラブルを一層確実に回避することができる。
本発明の実施の形態3に係る打抜き加工方法を積層鉄心の製造方法に適用することにより、たとえ3枚以上の重ね合わせ母材の打抜き加工を行う場合であっても、上述した打抜き加工トラブルを一層確実に回避するとともに、積層鉄心の構成に必要な複数の鉄心片を安定して連続的に得ることができ、これら複数の鉄心片を積層し一体化して、積層鉄心を効率よく製造することができる。この結果、積層鉄心の生産性を一層向上できるとともに、エネルギー損失の低い、優れた積層鉄心をより安定して提供することができる。
(実施例1)
つぎに、本発明の実施例1について説明する。実施例1では、図1に示した打抜き加工装置1を用い、上述した実施の形態1の場合と同様に、母材としての複数の鋼板11をその厚さ方向D2に重ね合わせて同時に打抜く打抜き加工が、本発明例1〜7として行われた。詳細には、本発明例1〜7において、打抜き加工装置1は、複数の鋼板コイルから母材としてのn枚の鋼板11−1〜11−nを払い出した後、ピンチロール2により、これらn枚の鋼板11−1〜11−nをその厚さ方向D2に重ね合わせて重ね合わせ母材12を形成した。さらに、打抜き加工装置1は、形成した重ね合わせ母材12をピンチロール2によってプレス機3の順送金型4内へ順次送給しながら、この重ね合わせ母材12を順送金型4によって同時に打抜いて重ね合わせ母材12から複数の鉄心片15を得る打抜き加工を連続的に行った。
実施例1の条件として、重ね合わせ母材12の重ね合わせ枚数は、本発明例1〜4において2枚とし、本発明例5〜7において3枚とした。すなわち、本発明例1〜4の条件として、重ね合わせ母材12は、2枚の鋼板11−1,11−2をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。本発明例5〜7の条件として、重ね合わせ母材12は、3枚の鋼板11−1,11−2,11−3をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。
また、本発明例1〜7の条件として、各鋼板11−1〜11−nの板厚(母材厚)は、重ね合わせ母材12の下側の母材厚比Raが1.05以上となるように設定した。ここで、母材厚比Raは、重ね合わせ母材12における最下部の鋼板11−nの母材厚tnと下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmとの比(tn/tm)である。具体的には、本発明例1〜4における重ね合わせ母材12おいて、母材厚比Raは、最下部の鋼板11−2の母材厚t2と下から2つ目の鋼板11−1の母材厚t1との比(t2/t1)である。本発明例5〜7における重ね合わせ母材12おいて、母材厚比Raは、最下部の鋼板11−3の母材厚t3と下から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2との比(t3/t2)である。
さらに、本発明例1〜7の条件として、複数の鋼板11を払い出す複数の鋼板コイルの各幅、すなわち、各鋼板11−1〜11−nの板幅(母材幅)は、210[mm]とした。また、複数の鉄心片15を積層し一体化して製造される積層鉄心は、コア外径が200[mm]であり、バックヨーク幅が20[mm]であり、ティース長さが25[mm]であるステータコアとした。すなわち、複数の鉄心片15の各々において、鉄心径rは200[mm]であり、バックヨーク部15bの幅は20[mm]であり、ティース部15aの長さは25[mm]である(図3参照)。
一方、実施例1では、上述した本発明例1〜7に対する比較対象として、比較例1,2が行われた。比較例1,2の条件として、重ね合わせ母材12は、2枚の鋼板11−1,11−2をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。また、各鋼板11−1,11−2の母材厚t1,t2は、重ね合わせ母材12の下側の母材厚比Raが1.05未満となるように設定した。なお、比較例1,2の条件は、母材厚比Raが1.05未満となるように各鋼板11−1,11−2の母材厚t1,t2が設定されたこと以外、本発明例1〜4と同様にした。
実施例1では、本発明例1〜7および比較例1,2の各々について、順送金型4を用いた重ね合わせ母材12の連続的な打抜き加工が打抜き加工トラブルの発生に起因して不可能となるまでのプレス回数(以下、「連続プレス回数)という)を測定した。この際、プレス機3が順送金型4を動作させて重ね合わせ母材12から複数の鉄心片15を打抜く打抜き加工の速度(打抜き速度)は、150[SPM(ストローク/分)]とし、連続プレス回数の上限は、5000回とした。また、打抜き加工によって得られた複数の鉄心片15の各々に対し、バックヨーク部15bをリング状試料と見立ててバックヨーク部15bの磁気測定を行った。これらの測定結果は表1に示される。
表1には、本発明例1〜7および比較例1,2の各々における母材厚t1,t2,t3および母材厚比Raが、測定結果に対応付けて示されている。また、表1において、鉄損値(W10/400)は、上述した鉄心片15のバックヨーク部15bの磁気測定結果である。鉄損の評価結果は、上記の鉄損値に基づいて判断される鉄心片15の鉄損抑制効果の評価結果である。これらの評価結果において、×印は「不良」を意味し、○印は「良好」を意味し、◎印は「より良好」を意味する。このことは、以下、同様である。
表1に示すように、比較例1では、母材厚比Raが1.00であり、すなわち、最下部の鋼板11−2の母材厚t2(=0.20[mm])が下から2つ目の鋼板11−1の母材厚t1(=0.20[mm])の1.00倍である。このように母材厚比Raが1.05未満である比較例1では、打抜き加工途中の重ね合わせ母材12が順送金型4における第3段階の工程位置に移動する際、この重ね合わせ母材12の母材垂れ部分(具体的には垂れ下がった状態のティース部15a)が、第3段階の工程位置に対応するダイ孔6cの縁部と接触してしまう。これに起因して、比較例1では、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルが起こり易くなり、この結果、表1に示すように1000回にも満たない連続プレス回数で重ね合わせ母材12の打抜き加工が停止するという不良な事態が生じた。この不良な事態は、母材厚比Raが1.05未満である比較例2においても同様に発生した。
これに対し、本発明例1〜7では、いずれの場合も、母材厚比Raが1.05以上(最下部の鋼板11−nの母材厚tnが下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmの1.05倍以上)である。この条件を満足する本発明例1〜7では、連続プレス回数が2000回以上であり、すなわち、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が起こりにくくなっている。特に、母材厚比Raが1.10以上(最下部の鋼板11−nの母材厚tnが下から2つ目の鋼板11−mの母材厚tmの1.10倍以上)である本発明例2〜5および本発明例7では、さらに連続プレス回数が向上(4000回以上に向上)し、打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が、より起こりにくくなっている。以上に加え、本発明例1〜7の条件に沿って得られた鉄心片15の鉄損特性は、表1を参照して分かるように、良好であった。
(実施例2)
つぎに、本発明の実施例2について説明する。実施例2では、図1に示した打抜き加工装置1を用い、上述した実施例1とほぼ同様の工程に沿って、母材としての複数の鋼板11をその厚さ方向D2に重ね合わせた重ね合わせ母材12の打抜き加工が、本発明例8〜13として行われた。実施例2の条件として、重ね合わせ母材12の重ね合わせ枚数は、本発明例8〜10において2枚とし、本発明例11〜13において3枚とした。すなわち、本発明例8〜10の条件として、重ね合わせ母材12は、2枚の鋼板11−1,11−2をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。本発明例11〜13の条件として、重ね合わせ母材12は、3枚の鋼板11−1,11−2,11−3をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。
また、本発明例8〜13の条件として、各鋼板11−1〜11−nの板厚(母材厚)は、重ね合わせ母材12の上側の母材厚比Rbが1.05以上となるように設定した。ここで、母材厚比Rbは、重ね合わせ母材12における最上部の鋼板11−1の母材厚t1と上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2との比(t1/t2)である。
さらに、本発明例8〜13の条件として、複数の鋼板11を払い出す複数の鋼板コイルの各幅、すなわち、各鋼板11−1〜11−nの板幅(母材幅)は、205[mm]とした。また、複数の鉄心片15を積層し一体化して製造される積層鉄心は、コア外径が180[mm]であり、バックヨーク幅が15[mm]であり、ティース長さが20[mm]であるステータコアとした。すなわち、複数の鉄心片15の各々において、鉄心径rは180[mm]であり、バックヨーク部15bの幅は15[mm]であり、ティース部15aの長さは20[mm]である(図3参照)。
一方、実施例2では、上述した本発明例8〜13に対する比較対象として、比較例3〜5が行われた。比較例3,4の条件として、重ね合わせ母材12は、2枚の鋼板11−1,11−2をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。また、各鋼板11−1,11−2の母材厚t1,t2は、重ね合わせ母材12の上側の母材厚比Rbが1.05未満となるように設定した。一方、比較例5の条件として、重ね合わせ母材12は、3枚の鋼板11−1,11−2,11−3をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。また、各鋼板11−1,11−2,11−3の母材厚t1,t2,t3は、重ね合わせ母材12の上側の母材厚比Rbが1.05未満となるように設定した。なお、比較例3〜5の条件は、母材厚比Rbが1.05未満となるように各鋼板11−1,11−2の母材厚t1,t2または各鋼板11−1,11−2,11−3の母材厚t1,t2,t3が設定されたこと以外、本発明例8〜13と同様にした。
実施例2では、本発明例8〜13および比較例3〜5の各々について、順送金型4を用いた重ね合わせ母材12の連続的な打抜き加工の連続プレス回数を測定した。この際、プレス機3の打抜き速度は、170[SPM]とし、連続プレス回数の上限は、5000回とした。また、打抜き加工によって得られた複数の鉄心片15の各々に対し、上述した実施例1の場合と同様にバックヨーク部15bの磁気測定を行った。これらの測定結果は表2に示される。また、表2には、本発明例8〜13および比較例3〜5の各々における母材厚t1,t2,t3および母材厚比Rbが、測定結果に対応付けて示されている。
表2に示すように、比較例3では、母材厚比Rbが1.00であり、すなわち、最上部の鋼板11−1の母材厚t1(=0.130[mm])が上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2(=0.130[mm])の1.00倍である。このように母材厚比Rbが1.05未満である比較例3では、第3段階の工程位置でパンチ5c(図1参照)によって重ね合わせ母材12から打抜かれた複数の鉄心片15は、図9に示したように、ダイ孔6c内に保持されにくく、パンチ5cの上昇動作とともに浮き上がり易い。このようにダイ孔6c内から浮き上がった状態にある最上部の鉄心片15は、第3段階の工程位置へ順次送られてくる打抜き加工途中の重ね合わせ母材12と接触してしまう(図9参照)。これに起因して、比較例3では、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルが起こり易くなり、この結果、表2に示すように1000回にも満たない連続プレス回数で重ね合わせ母材12の打抜き加工が停止するという不良な事態が生じた。この不良な事態は、母材厚比Rbが1.05未満である比較例4,5においても同様に発生した。
これに対し、本発明例8〜13では、いずれの場合も、母材厚比Rbが1.05以上(最上部の鋼板11−1の母材厚t1が上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.05倍以上)である。この条件を満足する本発明例8〜13は、連続プレス回数を2000回以上(実際には3000回以上)に確保できており、すなわち、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が起こりにくくなっている。特に、母材厚比Rbが1.10以上(最上部の鋼板11−1の母材厚t1が上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.10倍以上)である本発明例9〜11および本発明例12,13では、さらに連続プレス回数が向上(5000回超過に向上)し、打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が、より起こりにくくなっている。以上に加え、本発明例8〜13の条件に沿って得られた鉄心片15の鉄損特性は、表2を参照して分かるように、良好であった。
(実施例3)
つぎに、本発明の実施例3について説明する。実施例3では、図1に示した打抜き加工装置1を用い、上述した実施例1とほぼ同様の工程に沿って、母材としての複数の鋼板11をその厚さ方向D2に重ね合わせた重ね合わせ母材12の打抜き加工が、本発明例14〜19として行われた。実施例3の条件として、重ね合わせ母材12の重ね合わせ枚数は、3枚以上とし、詳細には、本発明例14〜16において3枚とし、本発明例17〜19において4枚とした。すなわち、本発明例14〜16の条件として、重ね合わせ母材12は、3枚の鋼板11−1,11−2,11−3をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。本発明例17〜19の条件として、重ね合わせ母材12は、4枚の鋼板11−1,11−2,11−3,11−4をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。
また、本発明例14〜19の条件として、各鋼板11−1〜11−nの板厚(母材厚)は、重ね合わせ母材12の上側の母材厚比Rbおよび下側の母材厚比Raの少なくとも一方が1.05以上となるように設定した。具体的には、本発明例15,18における各鋼板11−1〜11−nの母材厚は、母材厚比Rbが1.05以上となるように設定し、本発明例14,17における各鋼板11−1〜11−nの母材厚は、母材厚比Raが1.05以上となるように設定した。本発明例16,19における各鋼板11−1〜11−nの母材厚は、母材厚比Rb,Raの双方が1.05以上となるように設定した。
さらに、本発明例14〜19の条件として、複数の鋼板11を払い出す複数の鋼板コイルの各幅、すなわち、各鋼板11−1〜11−nの板幅(母材幅)は、205[mm]とした。また、複数の鉄心片15を積層し一体化して製造される積層鉄心は、コア外径が190[mm]であり、バックヨーク幅が18[mm]であり、ティース長さが30[mm]であるステータコアとした。すなわち、複数の鉄心片15の各々において、鉄心径rは190[mm]であり、バックヨーク部15bの幅は18[mm]であり、ティース部15aの長さは30[mm]である(図3参照)。
一方、実施例3では、上述した本発明例14〜19に対する比較対象として、比較例6,7が行われた。比較例6の条件として、重ね合わせ母材12は、3枚の鋼板11−1,11−2,11−3をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。また、各鋼板11−1,11−2,11−3の母材厚t1,t2,t3は、重ね合わせ母材12の母材厚比Rb,Raの双方とも1.05未満となるように設定した。一方、比較例7の条件として、重ね合わせ母材12は、4枚の鋼板11−1,11−2,11−3,11−4をその厚さ方向D2に重ね合わせたものとした。また、各鋼板11−1,11−2,11−3,11−4の母材厚t1,t2,t3,t4は、重ね合わせ母材12の母材厚比Rb,Raの双方とも1.05未満となるように設定した。なお、比較例6,7の条件は、母材厚比Rb,Raの双方が1.05未満となるように各鋼板11−1,11−2,11−3の母材厚t1,t2,t3または各鋼板11−1,11−2,11−3,11−4の母材厚t1,t2,t3,t4が設定されたこと以外、本発明例14〜19と同様にした。
実施例3では、本発明例14〜19および比較例6,7の各々について、順送金型4を用いた重ね合わせ母材12の連続的な打抜き加工の連続プレス回数を測定した。この際、プレス機3の打抜き速度は、140[SPM]とし、連続プレス回数の上限は、5000回とした。また、打抜き加工によって得られた複数の鉄心片15の各々に対し、上述した実施例1の場合と同様にバックヨーク部15bの磁気測定を行った。これらの測定結果は表3に示される。また、表3には、本発明例14〜19および比較例6,7の各々における母材厚t1,t2,t3,t4および母材厚比Rb,Raが、測定結果に対応付けて示されている。
表3に示すように、比較例6,7では、母材厚比Rb,Raの双方とも1.05未満(実際には1.00)である。すなわち、最上部の鋼板11−1の母材厚t1が上から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.00倍であり、且つ、最下部の鋼板11−3の母材厚t3が下から2つ目の鋼板11−2の母材厚t2の1.00倍、あるいは、最下部の鋼板11−4の母材厚t4が下から2つ目の鋼板11−3の母材厚t3の1.00倍である。このように母材厚比Rb,Raの双方が1.05未満である比較例6,7では、上述した比較例1,2と同様に打抜き加工途中の重ね合わせ母材12に母材垂れ(例えばティース部15aの垂れ下がり)が発生し易く、さらには、上述した比較例3〜5と同様にダイ孔6c内からの鉄心片15の浮き上がり現象が発生し易い。この重ね合わせ母材12の母材垂れ部分(例えば垂れ下がった状態のティース部15a)は、順送金型4内で重ね合わせ母材12が搬送された際、ダイ孔6c内から浮き上がった状態にある最上部の鉄心片15と接触してしまう。これに起因して、比較例6,7では、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルがより一層起こり易くなり、この結果、表3に示すように1000回にも満たない連続プレス回数で重ね合わせ母材12の打抜き加工が停止するという不良な事態が比較的発生し易い。
これに対し、本発明例14〜19では、いずれの場合も、母材厚比Rb,Raの少なくとも一方が1.05以上である。この条件を満足する本発明例14〜19は、連続プレス回数を2000回以上(実際には3000回以上)に確保できており、すなわち、ミスパンチ等の打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が起こりにくくなっている。特に、母材厚比Rb,Raの双方とも1.05以上(実際には1.10以上)である本発明例16,19では、さらに連続プレス回数が向上(5000回超過に向上)し、打抜き加工トラブルによる重ね合わせ母材12の打抜き加工の意図せぬ停止が、より起こりにくくなっている。以上に加え、本発明例14〜19の条件に沿って得られた鉄心片15の鉄損特性は、表3を参照して分かるように、良好であった。
なお、上述した実施の形態1〜3では、母材として重ね合わせて打抜く鋼板の枚数を複数(2枚以上)としていたが、積層鉄心の生産効率を高めるという観点から、重ね合わせて打抜く鋼板の枚数は、より多い(例えば3枚以上にする)ことが好ましい。一方、重ね合わせる鋼板の枚数が増えるほど、打抜き加工後の鉄心片の形状外れ量や打抜き加工面のダレ量が大きくなることから、重ね合わせる鋼板の枚数は2枚以上、4枚以下とすることが好ましい。
また、上述した実施の形態1〜3では、母材として電磁鋼板を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明に係る打抜き加工方法および積層鉄心の製造方法に母材として用いられる鋼板は、電磁鋼板に限らず、電磁鋼板以外の鋼板であってもよいし、鋼板以外の鉄合金板であってもよい。
さらに、上述した実施の形態1〜3では、ピンチロール2によって複数の鋼板11をその厚さ方向D2に重ね合わせて形成した重ね合わせ母材12を、プレス機3の順送金型4内に順次送給して打抜き加工を行っていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明では、打抜き加工前の重ね合わせ母材12の各鋼板同士を、カシメ加工や部分的接着によって固定し、各鋼板同士を固定後の重ね合わせ母材12に対して、複数の鉄心片15を打抜く打抜き加工を段階的かつ連続的に行ってもよい。上記のような各鋼板同士の固定により、重ね合わせ母材12に対して打抜き加工時に必要な剛性を付与してもよい。
また、上述した実施の形態1〜3では、第1段階から第3段階までの打抜き加工工程を重ね合わせ母材12に対して順次行っていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、重ね合わせ母材12から複数の鉄心片15を打抜く打抜き加工工程は、複数段階(2段階以上)のものであってもよい。
さらに、上述した実施の形態1〜3では、プレス機3に用いる打抜き加工用の金型として、複数の打抜き加工工程を有する順送金型4を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、プレス機3に用いる打抜き加工用の金型は、打抜き加工対象の重ね合わせ母材12の搬送方向に並んで配置される複数の単発金型の集合体であってもよい。
また、上述した実施の形態1〜3および実施例1〜3により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。本発明において製造される積層鉄心の形状や用途も特に問われない。その他、上述した実施の形態1〜3および実施例1〜3に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。