以下、遊星歯車装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、遊星歯車装置1のスケルトン図である。本実施形態においては、遊星歯車装置1は、回転中心軸X上に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されている。遊星歯車装置1は、サンギヤ3と、リングギヤ5と、複数のピニオンギヤ6と、ピニオンギヤ6のそれぞれの回転軸であるピニオン軸8を支持するキャリア7とを有する。一般的に、遊星歯車機構は、3つの回転要素(サンギヤ、リングギヤ、キャリア)の内の2つを入出力(一方を入力部材、他方を出力部材)とすることができる。本実施形態の遊星歯車装置1は、サンギヤ3に固定された第1入出力部材11、リングギヤ5に固定された第2入出力部材12、キャリア7に固定された第3入出力部材13を有している。このような遊星歯車装置1は、内燃機関を車輪の駆動力源とする自動車の変速装置(好ましくは自動変速機)や、内燃機関及び回転電機を車輪の駆動力源とするハイブリッド自動車の変速機や動力分割機構などの、駆動力伝達装置に利用することができる。
尚、以下の説明においては、図1等に示すように、回転中心軸Xに沿う方向を軸方向L、3つの回転要素(サンギヤ3、リングギヤ5、キャリア7)の径に沿う方向を径方向Rと称する。そして、径方向Rにおいて外周の側を径方向外側R1と称し、径方向Rにおいて中心の側を径方向内側R2と称する。また、図4等に示すように、3つの回転要素(サンギヤ3、リングギヤ5、キャリア7)の周(回転方向)に沿う方向を周方向Cと称する。
図2は、遊星歯車装置1の部分的な断面図であり、ここでは、キャリア7、ピニオンギヤ6、後述するオイルレシーバ2の構造を中心に示している。また、図3は、遊星歯車装置1の部分的な斜視図を示している。図2に示すように、キャリア7は、キャリアカバー74と、キャリアケース77とを有している。キャリアカバー74は、径方向Rに沿って延びる板状の部分(板状部78)を、径方向外側R1に有する部材である。キャリアカバー74は、この板状部78においてピニオン軸8を支持することによってピニオンギヤ6を支持する。キャリアケース77も、キャリアカバー74と同様に、径方向Rに沿って延びる板状の部分(底部76)を有し、底部76においてピニオン軸8を支持することによってピニオンギヤ6を支持する。つまり、ピニオン軸8は、軸方向Lに沿って平行して離間するキャリアカバー74の板状部78と、キャリアケース77の底部76とによって軸の両端を支持される。ピニオンギヤ6は、キャリア7に固定されたピニオン軸8に、ベアリング81を介して回転可能に支持されている。
キャリアカバー74の板状部78とキャリアケース77の底部76とは、ブリッジ部75によって連結されている。図2及び図3等に示すように、ピニオンギヤ6の一部は、キャリアカバー74の板状部78及びキャリアケース77の底部76よりも、径方向外側R1に突出するため、ブリッジ部75は、キャリアカバー74(板状部78)や、キャリアケース77の底部76の全周に亘って設けることができない。このため、図3に示すように、ブリッジ部75は、ピニオンギヤ6を除けて形成されている。つまり、キャリアケース77は、径方向Rに沿って延びる板状の底部76と、底部76の径方向外側R1の端部から軸方向Lに沿って延びる複数個のブリッジ部75とを有して形成されている。
ブリッジ部75の軸方向Lの端部(軸方向Lにおいて底部76とは反対側)と、キャリアカバー74とは、例えば溶接によって接合される。つまり、キャリアカバー74とキャリアケース77とは、複数本のピニオン軸8と、各ピニオン軸8に支持された複数個のピニオンギヤ6とを、キャリアカバー74と底部76との間に挟んで、キャリアカバー74とブリッジ部75とを溶接することによって構成されている。
ところで、遊星歯車装置1が有するギヤ同士の潤滑や冷却、ギヤと回転軸との潤滑や冷却を行うために、遊星歯車装置1には潤滑油が供給される。図2は、ピニオンギヤ6、ピニオン軸8、ベアリング81への潤滑油の供給経路(79,4,89)も一例として示している。潤滑油は、回転中心軸X(軸方向L)に沿った方向に設けられた不図示の主油路から供給される。主油路には、径方向Rに沿って設けられる油路であって、キャリア7の軸方向Lの一方側の端面(キャリア端面71)の側に開口するキャリア内油路79が接続されている。キャリア内油路79から供給された潤滑油は、この開口からキャリア端面71側の空間(後述する滞留空間4)に吐出される。ピニオン軸8には、軸方向Lの一方側の端部(キャリア端面71の側の端部)が開口したピニオン軸内油路89が形成されている。この開口は、キャリア内油路79から供給された潤滑油が吐出される空間(滞留空間4)に連通している。
ピニオン軸内油路89は、開口したキャリア端面71の側から軸方向Lに沿って延びる軸方向油路89aと、当該軸方向油路89aに接続されて径方向Rに延びる径方向油路89bとを有している。径方向油路89bは、ベアリング81を支持するピニオン軸8の外周面に開口している。主油路から供給される潤滑油は、キャリア内油路79、キャリア内油路79から供給された潤滑油が吐出される空間(滞留空間4)、ピニオン軸内油路89を経由して、ピニオンギヤ6、ピニオン軸8、及びベアリング81に提供される。
キャリア内油路79から供給された潤滑油が、適切にピニオン軸内油路89に導かれるように、ピニオン軸内油路89に連通すると共にキャリア端面71に接する空間が部分的に閉鎖されて、潤滑油が滞留する滞留空間4として形成されている。具体的には、図2及び図3に示すように、キャリア端面71には、キャリア内油路79を通って径方向内側R2から供給される潤滑油をピニオンギヤ6に導くためのオイルレシーバ2が取り付けられている。図3に示すように、オイルレシーバ2は、キャリア7に取り付けた状態において最も径方向外側R1に位置する円環状の当接部2aと、最も径方向内側R2に位置する円環状の庇部2cと、当接部2aと庇部2cとを接続する接続部2d(壁部)とを有している。
図2及び図3に示すように、当接部2aは、円環状の部分が、径方向Rに平面的に延びるキャリア端面71に平行であり、キャリア端面71に当接している。つまり、当接部2aの軸方向Lにおける位置は、ほぼキャリア端面71と同じ位置である。庇部2cも、円環状の部分は、キャリア端面71に対してほぼ平行しているが、キャリア端面71には当接せず、軸方向Lにおいてキャリア端面71から離間する位置に配置されている。当接部2aの円環状部分の径方向内側R2の端部と、庇部2cの円環状部分の径方向外側R1の端部とは、接続部2dによって接続されている。接続部2dは、当接部2aの側から庇部2cの側に向かって、つまり径方向外側R1から径方向内側R2に向うに従って、軸方向Lに沿ってキャリア端面71から離間するように傾斜して、オイルレシーバ2の壁を形成する。
キャリア内油路79から吐出された潤滑油は、遠心力等による径方向外側R1への移動を壁状の接続部2dによって規制される。また、吐出された潤滑油がキャリア端面71や接続部2dに当たって跳ねた場合に、潤滑油が飛び散ることは庇部2cによって規制される。従って、キャリア内油路79から吐出された潤滑油は、適切に滞留空間4に留まり、良好にピニオン軸内油路89に導かれる。
図3に示すように、当接部2aには、当接部2aからさらに径方向外側R1に突出した爪部2bが形成されている。爪部2bは、当接部2aから径方向外側R1に延びる径方向延伸部27と、キャリア端面71の径方向外側R1の端部(キャリア端面71の角部)でキャリアケース77の方向へ屈折して軸方向Lに沿って延びる軸方向延伸部28とを有している。軸方向延伸部28には、キャリア7にオイルレシーバ2を取付ける際の取付部21が形成される。そして、軸方向延伸部28は、キャリア7(キャリアカバー74)の径方向外側R1を向くキャリア外周面72に接している。換言すれば、キャリア外周面72の少なくとも一部に、オイルレシーバ2の取付部21が接している。また、キャリア外周面72において取付部21に対応する位置には、オイルレシーバ2が少なくとも軸方向Lへ移動することを規制する係止部73が設けられている。
尚、上述したように、キャリア7は、径方向外側R1に径方向Rに沿って平面的に延びる板状部78を有するキャリアカバー74と、径方向Rに沿って平面的に延びる板状の底部76を有すると共に底部76の外周側(径方向外側R1の端部)の複数箇所から軸方向Lに沿ってキャリアカバー74の側へ延びる複数個のブリッジ部75を有するキャリアケース77とを有している。キャリア7がこのように構成されており、板状部78がキャリア7の軸方向Lにおける一方側の端面であるキャリア端面71をカバー表面74aに有している場合、爪部2bは以下のように構成されていると好適である。即ち、当接部2aからさらに径方向外側R1に突出し、キャリア端面71の径方向外側R1の端部(キャリア端面71の角部)でカバー表面47aからカバー裏面74bの方向へ屈折してキャリア外周面72に沿って軸方向Lに延びる爪部2b(軸方向延伸部28)の先端は、軸方向Lに沿った方向においてカバー裏面74bよりも突出しないと好適である。換言すれば、取付部21を有する爪部2bは、キャリア外周面72において、オイルレシーバ2が取り付けられるキャリア端面71を有する板状の部材の裏面側まで軸方向Lに突出しないと好適である。このような構成例は、下記において、第1例〜第4例として図面を参照して説明する(図示は省略しているが第5例及び第6例も当該構成例に該当する。)。
以下、図4〜図17も参照して、取付部21及び係止部73の詳細な構成について説明する。図4は、キャリア7へのオイルレシーバ2の取付け形態を示す軸方向視の平面図である。図5、図7、図9、図10は、図4におけるV−V断面図であり、番号順に第1例、第2例、第3例、第4例を示している。図6、図8は、図4における断面指示線に沿って径方向内側R2に向かって取付部21及び係止部73を見た平面図である。図6は、図5の断面図に対応する第1例の平面図、図8は、図7の断面図に対応する第2例の平面図である。図11及び図12は、図4の平面図において例示した取付部21の配置形態とは異なる配置例を軸方向視の平面図により示している。図11は第5例を示し、第12は第6例を示している。図13及び図14は、第1例〜第4例とは異なる取付部21及び係止部73の形態である第7例を例示している。図13は図5等と同様の断面図により、図14は図6等と同様の平面図により第7例を例示している。図15は、特に第1例〜第4例とは異なる取付部21及び係止部73の形態である第8例を図5等と同様の平面図によって例示している。図16及び図17は、特に図4〜図10を参照して例示した形態(第1例〜第4例)の好適さを示す比較例を、図4と同様の平面図及び図5と同様の断面図により示している。
まず、図4の軸方向視の平面図を参照して、周方向Cにおけるオイルレシーバ2と、ピニオンギヤ6と、ブリッジ部75との関係について説明する。図4において、符号“C6”は、径方向Rに沿った方向に見て、ピニオンギヤ6と重複する周方向Cの領域(重複領域C6)を示している。符号“d”は、ブリッジ部75の周方向Cの端部と、オイルレシーバ2の爪部2bとの間の距離(周方向離間距離d)を示している。
上述したように、キャリア外周面72において取付部21に対応する位置には、オイルレシーバ2が少なくとも軸方向Lへ移動することを規制する係止部73が設けられている。但し、第1例から第7例では、オイルレシーバ2が周方向Cへ移動することも規制する係止部73の形態を例示する。図5の断面図に示すように、係止部73には、径方向内側R2に向かって凹んだ凹部73Aが形成されている。凹部73Aは、図6に示すように、径方向Rに沿った方向に見て取付部21と重複する範囲内に形成されている。図5及び図6に示すように、キャリア外周面72に当接する軸方向延伸部28の一部は、凹部73Aの中に陥没しており、取付部21はこの陥没した部分を有して構成されている。つまり、取付部21の少なくとも一部分は、キャリア外周面72よりも径方向内側R2に位置している。取付部21が凹部73Aと嵌合することにより、オイルレシーバ2が軸方向L及び周方向Cに移動することが規制される。
尚、取付部21は、オイルレシーバ2をキャリア7に取付ける際に、尖塔型の工具(治具)等を用いて、軸方向延伸部28が凹部73Aに嵌入されることで形成されると好適である。オイルレシーバ2は、例えば金属のプレス加工等によって形成されるが、加工精度には公差が設定されている。また、キャリア7も例えば金属の鋳造等によって形成されるが、その際にも当然公差が設定されている。取付部21は、オイルレシーバ2が例えば金属のプレス加工等によって形成される際に同時に形成されていてもよいが、プレス加工時の公差と、キャリア7の鋳造時の公差とにより、凹部73Aと取付部21との嵌合力が低下する場合がある。しかし、取付部21が形成されていない状態の爪部2b(軸方向延伸部28)を工具や治具を用いて凹部73Aに打ち込む(押圧する)と、強い嵌合力を得ることができる。当然ながら、公差や嵌合強度が許容されるのであれば、プレス加工の際に、取付部21を予め形成してこくことを妨げるものではない。
このように、取付部21が形成されていない状態の爪部2b(軸方向延伸部28)を工具や治具を用いて凹部73Aに押圧して取付部21を形成する場合、爪部2b(軸方向延伸部28)において取付部21となる場所に対応する箇所に、貫通孔23が形成されていると好適である。つまり、図7及び図8に示すように、取付部21は、径方向Rに沿った方向に見て、凹部73Aと重複する範囲内に貫通孔23を有すると好適である。このような貫通孔23を設けておくことにより、工具や治具を用いて凹部73Aに爪部2b(軸方向延伸部28)を押圧して取付部21を形成する際に、爪部2b(軸方向延伸部28)が適切に変形する。また、貫通孔23に工具や治具の先端部を当接させて位置決めを行うことも容易となり、高い加工精度を得ることもできる。
尚、凹部73Aは、図8に示すように、径方向Rに沿った方向に見て円形に形成されていると好適である。鋳造や鋳造後の加工によって、凹部73Aが形成される場合に、凹部73Aを精度良く、容易に形成することができる。また、凹部73Aが円形であることによって、軸方向L及び周方向Cを含めて、係止部73においてキャリア外周面72に接する面に概ね沿う全ての方向に対して、取付部21を安定的に保持することができる。
図5〜図8を参照して上述した第1例及び第2例では、係止部73として、径方向内側R2に向かって凹んだ凹部73Aが形成されている形態を例示した。しかし、係止部73は、図9及び図10に示すように、径方向外側R1に向かって膨らんだ凸部73Bであってもよい。つまり、係止部73は、径方向Rに沿った方向に見て取付部21と重複する範囲内に形成され、径方向内側R2に向かって凹んだ凹部73A、又は、径方向外側R1に向かって膨らんだ凸部73Bを有する形態とすることができる。
図9に示す形態は、図5及び図6に例示した凹部73Aを有する第1例に対応して、凸部73Bを有する第3例である。上記においては、凹部73Aに対して爪部2bを陥没させて取付部21を形成する場合に、尖塔型の工具や治具を用いることを例示した。凸部73Bを爪部2b(軸方向延伸部28)に押入して取付部21を形成する場合には、中央が窪んだボウル(bowl)型の工具や治具を用いると好適である。
尚、この場合にも、図7及び図8を参照して上述した第2例と同様に、爪部2b(軸方向延伸部28)において取付部21となる部分に、貫通孔23が形成されていると好適である。つまり、図10に示す第4例のように、取付部21は、径方向Rに沿った方向に見て、凸部73Bと重複する範囲内に貫通孔23を有すると好適である。第2例と同様に、貫通孔23を設けておくことにより、工具や治具を用いて取付部21を形成する際に、爪部2b(軸方向延伸部28)が適切に変形する。また、貫通孔23に凸部73Bの先端を当接させて位置決めを行うことも容易となり、高い加工精度も得られる。
また、図示は省略するが、第1例及び第2例における凹部73Aと同様に、第3例及び第4例における凸部73Bも、径方向Rに沿った方向に見て円形に形成されていると好適である。凸部73Bが鋳造等によって形成される場合に、精度良く、容易に形成される。また、凹部73Aと同様に、凸部73Bが円形であることによって、軸方向L及び周方向Cを含めて、係止部73においてキャリア外周面72に接する面に概ね沿う全ての方向に対して、取付部21を安定的に保持することができる。
ここで、図16及び図17を参照して、工具や治具を利用して取付部21を形成する形態の比較例と、上述した第1例〜第4例とを比較する。尚、図16及び図17に示す比較例では、爪部2bの形態も第1例〜第4例(及び後述する第8例)とは異なる。図17に示すように、比較例においては、爪部2bは、軸方向延伸部28よりもさらに延伸し、キャリアカバー74の板状部78においてキャリア端面71の裏面側(板状部78の裏面:カバー裏面74b)に折り返している。つまり、比較例の場合には、爪部2b(軸方向延伸部28)の軸方向Lにおける先端は、軸方向Lに沿った方向においてカバー裏面74bよりも突出している。尚、上述したように、キャリア端面71は、板状部78の表面(カバー表面74a)と称することもできる。
爪部2bの内、カバー裏面74bの側に折り返した部分を折り返し部29と称する。このような折り返し部29は、図16及び図17に示すように、カバー裏面74bに沿って治具90(工具や治具)を径方向内側R2に向けて挿入し、爪部2bを径方向内側R2に向かって曲げることで形成される。安定してこのような曲げ加工を行うためには、図16に示すように、治具90の周方向Cの幅を爪部2bの周方向Cの幅よりも広くしておくことが望ましい。また、治具90の先端は、爪部2bの先端(折り返し部29の先端)よりも径方向内側R2に達することが望ましい。
治具90の周方向Cの幅を広くする必要があることにより、ブリッジ部75と爪部2bとの間の周方向離間距離dは、治具90の幅を考慮した値“d7”に設定する必要がある。この値“d7”は、第1例〜第4例における周方向離間距離dに比べて当然ながら大きくなる(詳細については後述する)。また、治具90の先端が、爪部2bの先端(折り返し部29の先端)よりも径方向内側R2に達する必要があるので、治具90とピニオンギヤ6との干渉にも考慮する必要がある。つまり、図16に示すように、ピニオンギヤ6との干渉を考慮して幅“d6”だけピニオンギヤ6から離間した位置にしか爪部2bを配置することができない。このように、比較例においては、第1例〜第4例と比較して、爪部2bを配置する位置の制約が多い。
一方、第1例〜第4例では、ブリッジ部75と爪部2bとの間の周方向離間距離dを、比較例と比べて短くすることができる。例えば、図4において、“d1=d7”とした場合に、周方向離間距離dを、“d1”から“d2”へと短くすることができる。つまり、ブリッジ部75の周方向幅を広くすることができる。ブリッジ部75は、周方向Cに亘って、キャリアカバー74と溶接されて、キャリアカバー74とキャリアケース77の底部76とを連結する。ブリッジ部75の周方向幅が広いと溶接される長さが長くなり、キャリア7の強度を高くすることができる。第1例〜第4例では、比較例と比べてブリッジ部75の周方向Cの幅を広くすることができ、キャリア7の強度を高くすることができる。
また、第1例〜第4例では、図4に示す重複領域C6を含めて、ピニオンギヤ6の位置を理由として爪部2bの配置が制限されることがない。例えば、図11に示す第5例や、図12に示す第6例のように、重複領域C6の領域内に爪部2bが配置されていてもよい。周方向Cにおいてピニオンギヤ6(ピニオン軸内油路89)に近い場所、つまり、潤滑油の漏洩を抑制する上で、オイルレシーバ2をキャリア端面71に、より密着させたい場所に爪部2b(取付部21)を配置することが可能となる。
特に、図11に示す第5例では、軸方向Lに沿った方向に見てピニオンギヤ6と重複する位置において、オイルレシーバ2が径方向外側R1に膨らんだ部位(膨出部2e)のさらに径方向外側R1に爪部2b(取付部21)が形成されている。図2に示すピニオン軸内油路89は、径方向Rに沿った方向に見てこの爪部2b(取付部21)と重複することになるので、潤滑油の漏洩の抑制が最も望まれる場所に爪部2b(取付部21)を配置することができる。
また、図12に示す第6例では、爪部2b(取付部21)が複数設けられている。このように、爪部2b(取付部21)の数を増加させることも容易となり、オイルレシーバ2をキャリア端面71に、より密着させて潤滑油の漏洩を抑制することができる。
ところで、図16及び図17に例示した比較例では、折り返し部29によって、オイルレシーバ2が少なくとも軸方向Lへ移動することは規制されている。しかし、オイルレシーバ2が周方向Cに移動することは積極的には規制されていない。図示は省略するが、比較例においても、オイルレシーバ2が軸方向L及び周方向Cへ移動することを規制できるように、係止部73は、例えば、キャリアカバー74の径方向外側R1の端部における軸方向Lの全域に亘り、径方向内側R2に向かって窪んだ形状(軸方向Lに沿った溝状)に形成されていてもよい。係止部73がそのような溝状に構成されていると、当該溝状の係止部73の周方向Cの壁(溝壁)によって、爪部2bの軸方向延伸部28が周方向Cに移動することを周方向Cの両側から規制することができる。
但し、比較例の係止部73を、このよう溝状に構成する場合には、当然ながら爪部2bの周方向Cの幅よりも広い範囲で窪みを設ける必要がある。また、オイルレシーバ2の軸方向Lへの移動を規制するために、治具90を利用して折り返し部29を折り曲げる必要はあるから、爪部2bを配置する位置の自由度は、第1例〜第6例に比べて低くなることに変わりはない。
尚、図13及び図14に示す第7例のように、比較例と同じように折り返し部29を設けながら、第1例〜第4例と同様の係止部73や取付部21を設けることもできる。この場合、折り返し部29を形成する必要があるので、上述したような治具90に関する課題は解消されない。従って、第1例〜第4例とは異なり、第5例や第6例に示したようにブリッジ部75に近い位置に爪部2bを配置したり、重複領域C6に爪部2bを配置したりすることはできない。しかし、第1例〜第4例と同様の係止部73や取付部21を設けることで、係止部73を、上述したような軸方向Lに沿った溝状に形成しなくても、周方向Cへの移動を規制することができる。従って、第7例のような形態を採用することも妨げるものではない。
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。
(1)上述したように、キャリア外周面72において取付部21に対応する位置には、オイルレシーバ2が少なくとも軸方向Lへ移動することを規制する係止部73が設けられている。但し、上記においては、軸方向Lへの移動に加えて、オイルレシーバ2が周方向Cへ移動することも規制する形態を提示した(特に第1例〜第4例)。しかし、係止部73は、オイルレシーバ2が周方向Cへ移動することを積極的には規制しない形態とすることも可能である。
例えば、図15に示す第8例のように、係止部73を周方向に直線的に窪んだ形状のトレンチ型凹部73Cとすると、周方向Cへの規制力は第1例〜第4例と比べて小さくなる。しかし、オイルレシーバ2とキャリアカバー74との摩擦力によって周方向Cへの移動が抑制できるような場合には、図15に例示するような形態も採用することができる。図示は省略するが、当然ながら係止部73は、トレンチ型凹部73Cではなく、径方向外側R1に突出した山脈型凸部とすることも可能である。この形態については、第1例及び第2例に対する第3例及び第4例から自明であるから、詳細な説明は省略する。第8例の例示により明らかなように、係止部73は、オイルレシーバ2が軸方向L及び周方向Cへ移動することを規制する形態に限らず、オイルレシーバ2が少なくとも軸方向Lへ移動することを規制する形態であってもよい。
(2)また、上記においては、凹部73A及び凸部73Bが、径方向Rに沿った方向に見て円形に形成されている形態を例示したが、凹部73A及び凸部73Bは、長円や楕円などによって形成されていてもよい。凹部73A及び凸部73Bが楕円で形成されている場合には、周方向C及び軸方向Lに、長軸及び短軸が対応するように凹部73A及び凸部73Bが形成されると好適である。長軸が周方向Cに直交する場合には、軸方向Lに比べて周方向Cへの移動を規制する力が強くなる傾向があり、長軸が軸方向Lに直交する場合には、周方向Cに比べて軸方向Lへの移動を規制する力が強くなる傾向がある。従って、凹部73A及び凸部73Bが楕円で形成される場合には、オイルレシーバ2の移動をより規制したい側の規制力が強くなるように、長軸及び短軸の方向が設定されていると好適である。
(3)尚、上述した各例で開示された構成は、矛盾が生じない限り、組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した遊星歯車装置(1)の概要について簡単に説明する。
1つの態様として、サンギヤ(3)と、リングギヤ(5)と、複数のピニオンギヤ(6)と、前記ピニオンギヤ(6)のそれぞれの回転軸であるピニオン軸(8)を支持するキャリア(7)とを有する遊星歯車装置(1)は、
前記キャリア(7)が、径方向に延びるキャリア端面(71)と、径方向外側(R1)を向くキャリア外周面(72)とを有し、
前記キャリア端面(71)には、径方向内側(R2)から供給される潤滑油を前記ピニオンギヤ(6)に導くオイルレシーバ(2)が取り付けられ、
前記キャリア外周面(72)には、当該キャリア外周面(72)の少なくとも一部に前記オイルレシーバ(2)の取付部(21)が接すると共に、前記オイルレシーバ(2)が少なくとも軸方向(L)へ移動することを規制する係止部(73)が設けられている。
この構成によれば、オイルレシーバ(2)の取付部(21)が接するキャリア外周面(72)に、オイルレシーバ(2)が軸方向(L)へ移動することを規制する係止部(73)があるので、オイルレシーバ(2)の一部を径方向内側(R2)に向かって折り曲げる工程を伴わなくても、キャリア端面(71)にオイルレシーバ(2)を取り付けることができる。従って、折り曲げ治具や折り曲げ工具と、ピニオンギヤ(6)などのキャリア(7)を構成する部材との干渉を考慮すること無く、取付部(21)や係止部(73)が配置される固定位置を設定することができる。即ち、本構成によれば、遊星歯車装置(1)内において潤滑油を供給するためにキャリア(7)に設置されるオイルレシーバ(2)を、高い自由度で適切にキャリア(7)に固定することができる。
ここで、前記係止部(73)は、前記オイルレシーバ(2)が周方向(C)へ移動することも規制すると好適である。
この構成によれば、キャリア外周面(71)に特許文献1の爪取付用穴(504E)のような部位を設けて、径方向内側(R2)に向かって折り曲げられたオイルレシーバ(2)の先端部分を当該部位に挿入するような工程を伴うこと無く、オイルレシーバ(2)の周方向(C)への移動も規制することができる。つまり、折り曲げ治具や折り曲げ工具と、ピニオンギヤ(6)などのキャリア(7)を構成する部材との干渉を考慮すること無く、高い自由度で取付部(21)や係止部(73)が配置される固定位置を設定し、適切にオイルレシーバ(2)をキャリア端面(71)に固定することができる。
また、上述した態様の遊星歯車装置(1)では、前記取付部(21)は、径方向(R)に沿った方向に見て少なくとも前記取付部(21)の一部が前記ピニオンギヤ(6)と重複する周方向(C)の領域である重複領域(C6)内に配置されていると好適である。
上述したように、本構成では、キャリア端面(71)にオイルレシーバ(2)を取付ける際に、オイルレシーバ(2)の一部を径方向内側(R2)に向かって折り曲げる工程を伴わなくても、キャリア端面(71)にオイルレシーバ(2)を適切に取付けることができる。従って、ピニオンギヤ(6)の位置を理由として、取付部(21)や係止部(73)を配置する位置が制限されることがない。例えば、ピニオンギヤ(6)に対して潤滑油を供給するという観点からは、周方向(C)においてピニオンギヤ(6)やピニオン軸(8)に近い位置では、他の位置に比べて、オイルレシーバ(2)からの潤滑油の漏洩を抑制する必要性が高い。重複領域(C6)内は、ピニオンギヤ(6)やピニオン軸(8)に近い位置であるから、オイルレシーバ2をキャリア端面71により密着させたい位置に、取付部(21)の一部が配置されていると好適である。
また、前記係止部(73)は、径方向(R)に沿った方向に見て前記取付部(21)と重複する範囲内に形成され、径方向内側(R2)に向かって凹んだ凹部(73A)、又は、径方向外側(R1)に向かって膨らんだ凸部(73B)、を有すると好適である。
例えば、係止部(73)が径方向内側(R2)に向かって凹んだ凹部(73A)の場合に、取付部(21)も径方向内側(R2)に向かって凹んだ形状とすることで、係止部(73)と取付部(21)とを適切に嵌合することができる。また、係止部(73)が径方向内側(R2)に向かって膨らんだ凸部(73B)の場合に、取付部(21)も径方向内側(R2)に向かって膨らんだ形状とすることで、係止部(73)と取付部(21)とを適切に嵌合することができる。そのような適切な嵌合によって、オイルレシーバ(2)が少なくとも軸方向(L)に移動することを規制することができ、また、好ましくはオイルレシーバ(2)が軸方向(L)及び周方向(C)に移動することを規制することができる。
ここで、前記係止部(73)が、前記凹部(73A)又は前記凸部(73B)を有する場合、前記取付部(21)は、径方向(R)に沿った方向に見て、前記凹部(73A)又は前記凸部(73B)と重複する範囲内に貫通孔(23)を有すると好適である。
取付部(21)は、例えば、工具や治具を用いて、径方向内側(R2)に向かってオイルレシーバ(2)の一部分を押圧することによって形成することができる。この際、上記のように貫通孔(23)を設けておくことにより、工具や治具を用いて取付部(21)を形成する際に、オイルレシーバ(2)の当該一部分が適切に変形する。また、貫通孔(23)に工具や治具を当接させて、取付部(21)を形成する場所の位置決めを行うことも容易となり、加工精度も向上する。特に、係止部(73)が凹部(73A)を有する場合には、貫通孔(23)に工具や治具の先端部を当接させて位置決めを行うことも容易となる。また、また、係止部(73)が凸部(73B)の場合には、当該凸部(73B)に貫通孔(23)を当接させることで、取付部(21)を形成する場所の位置決めを行うことができる。
また、前記係止部(73)が、前記凹部(73A)又は前記凸部(73B)を有する場合、前記凹部(73A)及び前記凸部(73B)は、径方向(R)に沿った方向に見て円形に形成されていると好適である。
凹部(73A)又は凸部(73B)が円形であると、凹部(73A)又は凸部(73B)を容易に且つ精度良くキャリア外周面(72)に形成することできる。また、凹部(73A)又は凸部(73B)が円形であることによって、軸方向(L)及び周方向(C)を含めて、係止部(73)においてキャリア外周面(72)に接する面に概ね沿う全ての方向に対して、取付部(21)を安定的に保持することができる。